【解決手段】本発明に係るレーダ装置は、予測部と、ペアリング部とを備える。予測部は、ビート信号におけるアップビート区間及びダウンビート区間のそれぞれで過去の期間において物標に対応したピーク信号の履歴から、最新の期間において物標に対応するピーク信号である予測ピーク信号を予測する。ペアリング部は、履歴につき、予測ピーク信号を基準とする所定範囲において、アップビート区間及びダウンビート区間のそれぞれで物標に対応するピーク信号を抽出し、組み合わせる。また、ペアリング部は、物標までの距離が所定値以下である場合に、予測ピーク信号を基準とする所定の角度範囲である第1範囲、または、予測ピーク信号を基準とする所定の横位置範囲である第2範囲において、物標に対応するピーク信号を抽出する。
ビート信号におけるアップビート区間及びダウンビート区間のそれぞれで過去の期間において物標に対応したピーク信号の履歴から、最新の期間において前記物標に対応する前記ピーク信号である予測ピーク信号を予測する予測部と、
前記履歴につき、前記予測ピーク信号を基準とする所定範囲において、前記アップビート区間及び前記ダウンビート区間のそれぞれで前記物標に対応する前記ピーク信号を抽出し、組み合わせるペアリング部と
を備え、
前記ペアリング部は、
前記物標までの距離が所定値以下である場合に、前記予測ピーク信号を基準とする所定の角度範囲である第1範囲、または、前記予測ピーク信号を基準とする所定の横位置範囲である第2範囲において、前記物標に対応する前記ピーク信号を抽出すること
を特徴とするレーダ装置。
前記判定部が前記ペアリング結果について妥当でないと判定した場合に、当該ペアリング結果の前記ピーク信号の中から前記予測ピーク信号に近い前記ピーク信号を選択する選択部と、
前記選択部によって選択された前記ピーク信号と、前記アップビート区間及び前記ダウンビート区間のうち、前記選択部によって前記ピーク信号が選択されなかった側の区間の前記予測ピーク信号とをペアリングする再ペアリング部と、を備え、
前記選択部は、
前記ペアリング結果の前記ピーク信号の角度に対応する信号強度の差が所定値以上である場合に、前記予測ピーク信号の角度に近い前記ピーク信号を選択し、当該信号強度の差が所定値以下である場合に、前記予測ピーク信号の周波数に近い前記ピーク信号を選択すること
を特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。
ビート信号におけるアップビート区間及びダウンビート区間のそれぞれで過去の期間において物標に対応したピーク信号の履歴から、最新の期間において前記物標に対応する前記ピーク信号である予測ピーク信号を予測する予測工程と、
前記履歴につき、前記予測ピーク信号を基準とする所定範囲において、前記アップビート区間及び前記ダウンビート区間のそれぞれで前記物標に対応する前記ピーク信号を抽出し、組み合わせるペアリング工程と
を含み、
前記ペアリング工程は、
前記物標までの距離が所定値以下である場合に、前記予測ピーク信号を基準とする所定の角度範囲である第1範囲、または、前記予測ピーク信号を基準とする所定の横位置範囲である第2範囲において、前記物標に対応する前記ピーク信号を抽出すること
を特徴とする信号処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置及び信号処理方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
まず、
図1を用いて本実施形態に係る信号処理方法について説明する。
図1は、本実施形態に係る信号処理方法の概要を説明する模式図である。なお、かかる信号処理方法は、レーダ装置によって実行される。また、かかるレーダ装置は、車両Cに搭載され、車両Cの前方に位置する物標Tを検出する。
【0011】
また、かかるレーダ装置は、いわゆるFM−CW(Frequency Modulated−Continuous Wave)方式のレーダ装置である。
【0012】
ここで、FM−CW方式のレーダ装置による信号処理方法の概要について説明する。まず、レーダ装置では、所定周期で周波数変調される送信波を送信アンテナから送信し、物標Tによって当該送信波が反射した反射波を受信アンテナで受信する。
図1に示す例では、例えば、送信波が車両Cの前方の照射範囲Lに向けて送信される。
【0013】
続いて、レーダ装置は、送信波に対応する送信信号と、反射波に対応する受信信号とをミキシングしてビート信号を生成する。そして、レーダ装置は、ビート信号におけるアップビート区間(以下、「UP区間と記載する」)と、ダウンビート区間(以下、「DOWN区間」と記載する)とのそれぞれに対してFFT(Fast Fourier Transform)処理して周波数スペクトルを生成する。そして、当該周波数スペクトルからピーク強度が所定値以上のピーク周波数を抽出する。なお、以下では、周波数スペクトルのピーク強度について「FFTパワー」と記載する。
【0014】
続いて、レーダ装置は、UP区間及びDOWN区間で抽出したピーク周波数のそれぞれについて、かかるピーク周波数に対応する反射波の到来してきた角度を算出する。また、レーダ装置は、UP区間及びDOWN区間で算出した角度とピーク周波数とを対応付けたピーク信号を導出する。
【0015】
そして、レーダ装置は、所定条件に基づきUP区間及びDOWN区間のピーク信号をペアリングし、ペアデータを導出する。なお、以下では、UP区間のピーク信号を「UPピーク信号」、DOWN区間のピーク信号を「DNピーク信号」と記載する場合がある。
【0016】
また、レーダ装置は、UP区間及びDOWN区間のそれぞれで過去の期間において物標Tに対応したピーク信号の履歴から、最新の期間において物標Tに対応するピーク信号である予測ピーク信号EPを予測する。かかる予測ピーク信号EPは、予測周波数Ef、予測角度Ea及び予測横位置等の各種パラメータを含む。
【0017】
ここで、横位置とは、車両Cの進行方向に略直交する向きについての位置を示し、ピーク信号の周波数と、角度との三角関数によって導出される。なお、
図1には、UP区間(またはDOWN区間)の物標Tに対応するピーク信号のピーク位置を示す模式図を示しており、横位置は、
図1に示すX軸座標に相当する。また、同図のY軸座標は、ピーク信号の周波数に対応し、波長が短いほどY軸座標が減少する。
【0018】
そして、レーダ装置は、予測ピーク信号EPに基づき今回の物標Tに対応するUPピーク信号及びDNピーク信号をペアリングする。これにより、レーダ装置は、今回の物標Tに対応するペアデータを導出する。
【0019】
ここで、従来のレーダ装置では、例えば、予測ピーク信号EPを基準とする所定の角度範囲である第1範囲R1に含まれるUPピーク信号及びDNピーク信号を今回の物標Tに対応するペアデータとしてペアリングしていた。
【0020】
具体的には、かかる第1範囲R1は、例えば、予測ピーク信号EPの予測角度Eaから略4度以内であり、予測周波数Efから略3BIN以内(低周波側及び高周波側に略3BINずつ計略6BIN)となる例えば
図1に台形で示した範囲となる。なお、1BINは、約468Hzである。
【0021】
ここで、車両Cと物標Tとの距離が近い場合に、物標Tに対応するピーク信号のピーク位置が第1範囲R1から外れる場合がある。これは、車両Cと物標Tとの距離が近い場合、かかる距離が遠い場合に比べ、第1範囲R1の横位置の範囲が狭くなるためである。
【0022】
このため、従来のレーダ装置では、物標Tに対応するピーク信号を見失ってしまうおそれがあった。そして、物標Tに対応するピーク信号を見失うと、レーダ装置は、予測ピーク信号EPを今回の物標Tに対応するピーク信号と仮定して物標Tのピーク信号の連続性を確保する処理(以下、「外挿処理」と記載する)を行う。このような外挿処理が行われると物標Tの実際の位置とは異なる位置が導出されることがあり、物標Tを見失う可能性があった。
【0023】
そこで、本実施形態に係る信号処理方法では、物標Tとの距離が所定値以下である場合に、第1範囲R1、または、予測ピーク信号EPを基準とする所定の横位置範囲である第2範囲R2において、物標Tに対応するピーク信号を抽出することとした。
【0024】
例えば、第2範囲R2は、
図1に示すように、第1範囲R1よりも横位置の範囲が広い範囲となるように設定される、また、第2範囲R2は、例えば、第1範囲R1と同じ周波数の範囲である。そして、かかる横位置の範囲は、例えば、予測ピーク信号EPからX軸の正負方向にそれぞれ0.9メートルである。すなわち、予測ピーク信号EPを中心として1.8メートルとしている。
【0025】
これは、横位置の範囲は、物標Tとなる車両の幅を想定しており、かかる物標Tの反射点にバラつきが生じる場合であっても、第2範囲R2で物標Tに対応するピーク信号を含むようにするためである。なお、物標Tまでの距離が所定値以下とは、例えば、第1範囲R1の横位置の幅が、第2範囲R2の横位置の幅と略同一になるまでの距離である。
【0026】
ここで、従来のレーダ装置では、今回の物標Tに対応するピーク信号が、例えば
図1に示すピーク信号がピーク位置Qである場合、かかるピーク信号を抽出することができず外挿処理が行われていた。一方、本実施形態にかかるレーダ装置では、ピーク位置Qにあるピーク信号を抽出することが可能となる。
【0027】
つまり、物標Tである先行車両に対応するピーク信号が第1範囲R1から外れる場合であっても、第2範囲R2でピーク信号を抽出することができる。最新の期間における物標Tに対応するピークを見失いにくくすることができる。
【0028】
これにより、本実施形態に係る信号処理方法によれば、上記した外挿処理を低減させることができるため、物標Tの検出精度を向上させることが可能となる。
【0029】
以下、本実施形態に係る信号処理方法を実施するレーダ装置についてさらに説明を加える。なお、以下の説明では、物標Tが車両Cの前方を走行する先行車両である場合について説明する。
【0030】
図2は、本発明の実施形態に係るレーダ装置1を示す図である。レーダ装置1は、信号処理装置10と、送信部20と、受信部30とを備える。また、レーダ装置1には、車両制御装置300が接続される。
【0031】
かかる車両制御装置300は、レーダ装置1から入力される物標Tの物標データに基づいて車両Cのブレーキやスロットル等を制御することで、車両Cの挙動を制御する。すなわち、車両制御装置300は、かかる物標データに基づいて車両Cと物標Tとが接触する可能性が高い場合に、車両Cの挙動を制御する。なお、物標データは、車両Cと物標Tの相対位置(距離、角度、横位置)や、相対速度などを含むデータである。
【0032】
送信部20は、信号生成部21と、発振器22と、送信アンテナTxとを備える。信号生成部21は、三角波状に波形が変化する変調信号を生成し、発振器22へ供給する。
【0033】
発振器22は、信号生成部21で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調した送信信号を生成し、送信アンテナTxに出力する。送信アンテナTxは、発振器22から入力された送信信号を送信波として、例えば車両Cの進行方向に向けて送信する。
【0034】
受信部30は、例えば4本の受信アンテナRx1〜Rx4(以下、まとめて受信アンテナRxとも記載する)と、各受信アンテナRxに接続された個別受信部31〜34とを備える。受信アンテナRxは、送信波が物標Tに反射した反射波を受信信号として受信する。
【0035】
個別受信部31〜34は、それぞれミキサ41〜44と、A/D変換部51〜54とを備え、受信アンテナRxを介して受信した受信信号に対して各種処理を行う。ミキサ41〜44は、受信信号と発振器22から入力される送信信号とをミキシングすることで、両信号の差分周波数を示すビート信号を生成する。A/D変換部51〜54は、ミキサ41〜44が生成したビート信号をデジタル信号に変換し、信号処理装置10に出力する。
【0036】
なお、ここでは個別受信部31〜34がミキサ41〜44と、A/D変換部51〜54とを備える場合について説明したがこれに限定されない。例えば個別受信部31〜34が図示しない増幅器やフィルタを備えていてもよい。
【0037】
信号処理装置10は、CPU(Central Processing Unit)及び記憶部100などを備えたマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。
【0038】
また、信号処理装置10は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部15と、FFT処理部10aと、抽出部10bと、角度算出部10cと、ペアリング部10dと、判定部10eと、選択部10fと、再ペアリング部10gと、データ導出部10hと、連続性判定部10iと、予測部10jと、結合処理部10kと、出力判定部10lとを備える。
【0039】
送信制御部15は、送信部20の信号生成部21が変調信号を生成するタイミング等を制御する。FFT処理部10aは、個別受信部31〜34から出力されるビート信号に対してFFT処理を施すことで、ビート信号を周波数スペクトルに変換する。FFT処理部10aは、変換した周波数スペクトルを抽出部10bに出力する。
【0040】
抽出部10bは、周波数スペクトルからUP区間のピーク周波数及びDOWN区間のピーク周波数を抽出する。具体的には、抽出部10bは、例えば周波数スペクトルのうちFFTパワーが所定値を超えるピーク周波数を抽出する。また、抽出部10bは抽出したピーク周波数を角度算出部10cに出力する。
【0041】
角度算出部10cは、抽出部10bによって抽出されたピーク周波数に対応する反射波の到来してきた角度を算出し、ピーク信号を導出する。具体的には、角度算出部10c は、例えばESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)法を用いた演算を行うことで抽出部10bによって抽出されたピーク周波数の角度スペクトルを算出する。
【0042】
そして、角度算出部10cは、算出した角度スペクトルのうちピーク強度(以下、「角度パワーと記載する」)が所定値を超えるピーク角度を抽出する。続いて、角度算出部10cは、かかるピーク角度に対してピーク周波数を対応付けたピーク信号を導出する。かかるピーク信号は、ピーク周波数の周波数と、FFTパワーと、角度と、角度パワーとの情報を含む。そして、角度算出部10cは、ピーク信号をペアリング部10dに出力する。
【0043】
ペアリング部10dは、UPピーク信号とDNピーク信号とをペアリングしてペアデータを導出する。そして、ペアリング部10dは、ペアデータを判定部10eに出力する。なお、ペアリング部10dは、第1範囲R1内のピーク信号と第1範囲R1外のピーク信号とで異なるペアリング処理を行うものとする。
【0044】
また、以下では、予測ピーク信号に基づくペアリング処理を履歴ペアリング処理と記載し、それ以外のペアリング処理について単にペアリング処理と記載する。また、履歴ペアリング処理によって導出されたペアデータについて履歴ペアデータ、ペアリング処理によって導出されたペアデータを単にペアデータと記載する。
【0045】
まず、ペアリング部10dによるペアリング処理について説明する。ペアリング部10dは、UPピーク信号とDNピーク信号とのペアリングをマハラノビス距離を用いた演算を用いて行う。かかるマハラノビス距離の値が、小さい値であるほどUPピーク信号とDNピーク信号との組み合わせの妥当性が高いことになる。
【0046】
また、マハラノビス距離は、ペアデータのUPピーク信号と、DNピーク信号との「FFTパワー差」、「角度差」、「角度パワー差」などの値から導出される。
【0047】
そして、ペアリング部10dは、マハラノビス距離が最少となるUPピーク信号とDNピーク信号との組み合わせとなるようにペアリングし、ペアデータを導出する。
【0048】
また、ペアリング部10dは、マハラノビス距離が所定の閾値以下となる場合にペアデータを成立させる。かかるペアデータは、判定部10eに出力される。換言すると、ペアリング部10dは、マハラノビス距離が所定の閾値以上となる組み合わせについてペアリングを成立させない。
【0049】
続いて、ペアリング部10dによる履歴ペアリング処理について説明する。履歴ペアリング処理では、ペアリング部10dは、予測部10jから入力される予測ピーク信号EP及び第1範囲R1に基づき、今回の物標Tに対応する履歴ペアデータを導出する。
【0050】
具体的には、まず、ペアリング部10dは、UP区間及びDOWN区間のそれぞれで第1範囲R1にあるUPピーク信号及びDNピーク信号を抽出する。ここで、ペアリング部10dは、第1範囲R1のUPピーク信号及びDNピーク信号が一つずつである場合、かかるUPピーク信号及びDNピーク信号を組み合わせてペアリングし、履歴ペアデータを導出する。
【0051】
ここで、第1範囲R1においてUPピーク信号もしくはDNピーク信号が複数存在する場合、ペアリング部10dは、UP区間及びDOWN区間のそれぞれで第1範囲R1にある予測ピーク信号EPに最も近いUPピーク信号とDNピーク信号との組み合わせでペアリングし、履歴ペアデータを導出する。
【0052】
また、ペアリング部10dは、車両Cから物標Tまでの距離が所定値以下である場合に、第1範囲R1、または、第2範囲R2において、UP区間及びDOWN区間のそれぞれでピーク信号を抽出し、ペアリングする。
【0053】
これは、上述したように、物標Tの検出精度を向上させるためである。なお、かかる第2範囲R2の情報は、予測部10jから入力される。また、ペアリング部10dは、導出した履歴ペアデータを判定部10eに出力する。
【0054】
また、ペアリング部10dは、第1範囲R1や第2範囲R2にUP区間及びDOWN区間のうち一方の区間にピーク信号がない場合、当該区間の予測ピーク信号EPを用いてペアリングする。具体的には、例えば、第1範囲R1や第2範囲R2にUP区間のUPピーク信号がない場合、UP区間の予測ピーク信号EPと、DOWN区間のDNピーク信号とをペアリングする。
【0055】
そして、ペアリング部10dは、かかるペアリング結果を片側ペアデータとして判定部10eに出力する。なお、以下では、ペアリングの組み合わせの一方に予測ピーク信号EPを用いたペアリング処理について、「片側ペアリング」と記載し、片側ペアリングに用いられるピーク信号について「片側ピーク」と記載する。なお、かかる片側ピークは、再ペアリング部10gに出力される。
【0056】
判定部10eは、履歴ペアデータの妥当性を判定する。具体的には、判定部10eは、例えば上記したマハラノビス距離を用いた演算によって履歴ペアデータの妥当性を判定する。
【0057】
判定部10eは、演算したマハラノビス距離が所定の閾値以下である場合、かかる履歴ペアデータを正常履歴ペアデータとしてデータ導出部10hに出力する。一方、マハラノビス距離の値が所定の閾値以上である場合、判定部10eは、ペアリング部10dに再ペアリング要求信号を出力する。また、判定部10eは、ペアリング部10dから入力されるペアデータをデータ導出部10hに受け渡す処理を行う。
【0058】
ここで、ペアリング部10dは、再ペアリング要求信号が入力されると、物標Tである先行車両の近傍に位置し、先行車両と並走する隣接車などに対応するピーク信号(以下、「隣接車ピーク信号PZ」と記載する)がある場合と、隣接車ピーク信号PZがない場合とで異なる再ペアリング処理を行う。
【0059】
ここで、
図3A及び
図3Bを用いてペアリング部10dによる再ペアリング処理について説明する。
図3A及び
図3Bは、ペアリング部10dによる再ペアリング処理を説明する図である。
【0060】
まず、
図3Aを用いて隣接車ピーク信号PZがない場合の再ペアリング処理について説明する。
図3Aに示すように、UP区間の第1範囲R1uには、UPピーク信号Pu1と、UPピーク信号Pu2がある。また、DOWN区間の第1範囲R1dには、DNピーク信号Pd1がある。
【0061】
また、ペアリング部10dは、UPピーク信号Pu2と、DNピーク信号Pd1との履歴ペアデータを判定部10eに出力した後に、かかる履歴ペアデータについて再ペアリング要求信号が入力されたものとする。
図3Aに示すように、UP区間及びDOWN区間のそれぞれには、隣接車ピーク信号PZに対応する隣接車ピーク信号PuZ及びPdZは存在しない。
【0062】
このため、ペアリング部10dは、ミスペアリングと判定されたピーク信号と略同一周波数のピーク信号を用いた再ペアリング処理を行う。換言すると、同一周波数で角度の異なるピーク信号を再ペアリング処理に用いる。
図3Bに示す例では、UPピーク信号Pu2と同一周波数であるUPピーク信号Pu1と、DNピーク信号Pd1とを再ペアリングする。
【0063】
続いて、
図3Bを用いて隣接車ピーク信号PZがある場合の再ペアリング処理について説明する。
図3Bに示すように、UP区間の第1範囲R1uには、UPピーク信号Pu3と、UPピーク信号Pu5とがある。また、DOWN区間の第1範囲R1dには、DNピーク信号Pd5がある。
【0064】
また、ペアリング部10dは、UPピーク信号Pu3と、DNピーク信号Pd5との履歴ペアデータを判定部10eに出力した後に、判定部10eからかかる履歴ペアデータについて再ペアリング要求信号が入力されたとする。
【0065】
ここで、
図3Bには、UP区間及びDOWN区間のそれぞれに隣接車ピーク信号PuZ及びPdZがあるため、ペアリング部10dは、UPピーク信号Pu3とは異なる周波数のUPピーク信号を用いて再ペアリング処理を行う。
【0066】
したがって、ペアリング部10dは、UPピーク信号Pu3とは異なる周波数であるUPピーク信号Pu5と、DNピーク信号Pd5との再ペアリング処理を行う。なお、ペアリング部10dは、UP区間及びDOWN区間のうちどちらか一方の区間のみに隣接車ピーク信号PZが存在する場合に、かかる再ペアリング処理を行うことにしてもよい。
【0067】
ここで、
図3C及び
図3Dを用いて隣接車ピーク信号PZの有無によって再ペアリング処理を変更する理由について説明する。
図3Cは、隣接車ピーク信号PZがある場合の周波数スペクトルを示す図である。
図3Dは、隣接車ピーク信号PZがある場合の角度スペクトルを示す図である。なお、以下では、
図3Bに示すUPピーク信号Pu5と、DNピーク信号Pd5とが正常履歴ペアデータであるものとする。
【0068】
図3Cに示すように、周波数スペクトルの各頂点であるUPピーク信号Pu5にピーク周波数Fu5と、隣接車ピーク信号PuZに対応するピーク周波数FuZとが、それぞれ第1範囲R1内に位置している。
【0069】
ここで、抽出部10bは、周波数スペクトルの各頂点を凸検出することでピーク周波数を抽出する処理を行う。したがって、抽出部10bによって、ピーク周波数FuZの頂点と、ピーク周波数Fu5の頂点とが検出される。また、隣接車ピーク信号PuZがない場合は、ピーク周波数Fu5の頂点のみが抽出されることになる。
【0070】
続いて、角度算出部10cは、ピーク周波数FuZの頂点、すなわち、「x」KHzの周波数で角度スペクトルを算出する。このとき、ピーク周波数FuZと同一の周波数であり、ピーク周波数Fu5の裾(同図に破線で示す部分)に位置するUPピーク信号Pu3に対応するピーク周波数Fu3についても角度スペクトルが算出される。換言すると、ピーク周波数Fu3は、周波数スペクトルにおいて頂点でないにも拘わらず、角度スペクトルが算出されることになる。
【0071】
そして、
図3Dに示すように、「x」KHzの周波数における角度スペクトルでは、UPピーク信号Pu3に対応する角度ピークAu3の角度パワーが閾値THを超えているため、角度算出部10cによって角度ピークAu3が抽出される。
【0072】
これにより、UPピーク信号Pu3は、
図3Bに示すピーク位置となる。なお、角度ピークAu3が閾値THを超えない場合、角度算出部10cによって角度ピークAu3が抽出されないため、UPピーク信号Pu3は、レーダ装置1によって検出されないことになる。
【0073】
この場合に、UPピーク信号Pu5に対応する角度パワー(不図示)は、角度ピークAu3の角度パワーよりも大きくなる。また、DOWN区間のDNピーク信号Pd5に対応する角度パワーは、UPピーク信号Pu5に対応する角度パワーと近似することから、UPピーク信号Pu3と、DNピーク信号Pd5との角度パワー差が大きくなり、ミスペアリングと判定される。
【0074】
つまり、ミスペアリング時に、隣接車ピーク信号PZがある場合、隣接車ピーク信号PZによって、本来ならば算出されない周波数で角度スペクトルが算出される。このとき、不要なピーク信号に対応する角度パワーが閾値THを超えた場合に、不要なピーク信号がペアリングされる場合がある。そして、かかる場合に、ペアリング結果の角度パワー差や、角度差が大きくなる。
【0075】
したがって、隣接車ピーク信号PZがある場合は、ミスペアリングとなった履歴ペアデータのピーク信号と異なる周波数帯にピーク信号が存在する可能性が高い。このため、ペアリング部10dは、隣接車ピーク信号PZがある場合に、ミスペアリングとなったピーク信号と異なる周波数帯のピーク信号を用いて再ペアリング処理を行うようにしている。
【0076】
このように、ペアリング部10dは、再ペアリング要求信号が入力された場合に、隣接車ピーク信号PZの有無によって異なる再ペアリング処理を行う。これにより、再ペアリング処理の精度を向上させることができ、物標Tの検出精度を向上させることができる。
【0077】
なお、ペアリング部10dによって再ペアリング処理された履歴ペアデータは、再度、判定部10eに出力され、上記したマハラノビス距離の値が算出される。そして、判定部10eは、マハラノビス距離が所定の閾値以下である場合に正常履歴ペアデータとしてデータ導出部10hに出力する。
【0078】
一方、かかるマハラノビス距離が所定の閾値以上である場合、かかる履歴ペアデータはミスペアリングとして判定され、選択部10fに出力される。なお、この場合に、判定部10eは、かかる履歴ペアデータについて再ペアリング要求信号をペアリング部10dに再度出力することにしてもよい。
【0079】
図2に戻って選択部10fについて説明する。選択部10fは、判定部10eによってミスペアリングと判定された履歴ペアデータのUPピーク信号及びDNピーク信号から片側ピーク信号を選択する。
【0080】
すなわち、選択部10fは、UPピーク信号及びDNピーク信号の中から信頼度の高いピーク信号を選択する。ここで、
図4を用いて選択部10fの処理について説明する。
図4は、選択部10fの選択処理について説明する図である。
【0081】
選択部10fは、判定部10eからミスペアデータが入力されると、かかるミスペアデータのUPピーク信号とDNピーク信号との角度パワー差によってピーク信号の選択基準を変更する。
【0082】
具体的には、かかる角度パワー差が所定値以下である場合、UPピーク信号及びDNピーク信号のうち、予測ピーク信号EPの予測角度Eaに近い方のピーク信号を選択する。かかる場合に、
図4に示す例では、DOWN区間のDNピーク信号PdからDOWN区間の予測角度Eadまでの距離は、UP区間のUPピーク信号PuからUP区間の予測角度Eauまでの距離に比べて短い。すなわち、DNピーク信号Pdは、UPピーク信号Puよりも予測角度Eaに近い。したがって、選択部10fは、DNピーク信号Pdを選択する。
【0083】
一方、角度パワー差が所定値以上である場合に、UPピーク信号及びDNピーク信号のうち、予測ピーク信号EPの周波数に近い方のピークを選択する。
図4に示す例では、UP区間のUPピーク信号PuからUP区間の予測周波数Efuとの距離は、DOWN区間のDNピーク信号PdからDOWN区間の予測角度Eadまでの距離に比べて短い。すなわち、UPピーク信号Puの方がよりも予測角度Eaに近い。したがって、選択部10fは、UPピーク信号Puを選択する。
【0084】
このように、選択部10fは、角度パワー差によって異なるピーク信号を選択する。これは、角度パワー差が生じる場合、正しく角度が算出されていない可能性が高く、角度の信頼性が担保されていないためである。なお、選択部10fによって選択された片側ピーク信号は、後述する再ペアリング部10gによって、予測ピーク信号とペアリングされ片側ペアデータとしてデータ導出部10hに入力される。
【0085】
したがって、選択部10fは、信頼性の高い片側ピーク信号を選択することで、片側ペアデータの信頼性を向上させることができる。これにより、物標Tの検出精度を向上させることができる。
【0086】
図2に戻って再ペアリング部10gについて説明する。再ペアリング部10gは、ペアリング部10d及び選択部10fから入力される片側ピーク信号について再度ペアリング処理を行う。
【0087】
ここで、
図5を用いて再ペアリング部10gのペアリング部10dから入力される片側ピーク信号に対する処理の詳細について説明する。
図5は、第3範囲R3について説明する図である。なお、
図5では、不図示のDOWN区間のDNピーク信号が片側ピーク信号である場合について説明する。
【0088】
また、
図5では、UP区間の第1範囲R1内にあるUPピーク信号Puが、他のピーク信号に埋もれて検出されない場合について示している。このとき、UPピーク信号Puが、検出されない状態のまま、すなわち、片側ペアリング処理などの外挿処理の状態のまま、UPピーク信号Puに対応する物標Tとの相対速度が変化する場合がある。
【0089】
例えば、UPピーク信号Puが
図5に示す破線の矢印の軌跡に沿って移動する場合、UPピーク信号Puは、第1範囲R1から外れてしまう。このとき、ペアリング部10dが、移動後のUPピーク信号Puを検出したとしても、履歴ペアリング処理の対象から外れてしまうことになる。
【0090】
そこで、再ペアリング部10gは、片側ピーク信号が入力された場合に、第1範囲R1よりも拡張された第3範囲R3にあるピーク信号を履歴ペアリングの対象とすることにしている。
【0091】
なお、かかる第3範囲R3は、
図5に示すように、例えば第1範囲R1と略同等の横位置範囲であり、第1範囲R1よりも周波数領域が拡張された範囲である。そして、例えば、第3範囲R3は、予測ピーク信号EPの予測周波数Efから、10BIN(低周波側及び高周波側にそれぞれ5BINずつ)の範囲である。
【0092】
そして、再ペアリング部10gは、片側ピーク信号であるDNピーク信号と、第1範囲R1よりも周波数領域を拡張させた第3範囲R3にある全てのピーク信号をペアリング処理し、全ての履歴ペアデータを判定部10eに出力する。
【0093】
判定部10eは、かかる全ての履歴ペアデータが入力されると、かかる履歴ペアデータの全てに対してマハラノビス距離を導出し、マハラノビス距離が所定の閾値以下の履歴ペアデータがある場合に、当該履歴ペアデータを正常履歴ペアデータと判定する。
【0094】
一方、マハラノビス距離が所定の閾値以下の履歴ペアデータがない場合、判定部10eは、ペアリング部10dから入力された片側ペアデータをデータ導出部10hに出力する。
【0095】
また、この場合に、再ペアリング部10gは、選択部10fから入力された片側ピーク信号を、予測ピーク信号とペアリングし、導出した片側ペアデータについて判定部10eを経由してデータ導出部10hに入力する。
【0096】
このように、再ペアリング部10gは、片側ピーク信号と、第1範囲R1よりも拡張された第3範囲R3にある全てのUPピーク信号とについて履歴ペアリング処理を行う。したがって、片側ペアリング時などの外挿処理中に物標Tとの相対速度が変化し、UPピーク信号Puが第1範囲R1から外れる場合であっても、物標Tのピーク信号を履歴ペアリング処理の対象とすることが可能となる。これにより、片側ペアリング時の物標Tに対する追従性能を向上させることができる。
【0097】
なお、上記した例では、DNピーク信号が片側ピークである場合について例示したが、UPピーク信号が片側ピークである場合もDOWN区間において同様の処理を行うものとする。
【0098】
図2に戻ってデータ導出部10hについて説明する。データ導出部10hは、判定部10eから入力されるペアデータ、履歴ペアデータ(片側ペアデータを含む)に基づいて物標Tの位置や速度などの物標データを導出する。
【0099】
データ導出部10hは、ペアデータ、履歴ペアデータのそれぞれでUPピーク信号とDNピーク信号との周波数の和から物標Tまでの距離を算出する。また、データ導出部10hは、UPピーク信号とDNピーク信号との周波数の差から物標Tとの相対速度を算出する。
【0100】
そして、データ導出部10hは、導出した物標データを対応するペアデータ、履歴ペアデータに関連付けて連続性判定部10iに出力する。なお、ここで、データ導出部10hは、履歴ペアデータとして片側ペアデータが含まれる場合、当該箇所に片側ペアフラグをONにして連続性判定部10iに出力する。
【0101】
連続性判定部10iは、今回入力されたペアデータと前回入力されたペアデータとの間に時間的に連続する関係が存在するか否かを判定する。具体的には、連続性判定部10iは、今回入力されたペアデータと前回入力されたペアデータとの縦距離、横距離、及び、相対速度における差の値を比較し、かかる差の値が所定値以内の場合、前回ペアデータと今回ペアデータとは連続性があると判定する。
【0102】
これにより、今回処理により導出された物標Tと、過去処理により導出された物標Tとが同一物標であると判定される。なお、連続性がないと判定されたペアデータは、今回処理において初めて導出された新規ペアデータとなる。なお、かかる前回処理のペアデータは、記憶部100に記憶されるものとする。
【0103】
なお、連続性判定部10iは、上記した処理を履歴ペアデータに対しても行う。連続性判定部10iは、例えば、連続性がないと判定した履歴ペアデータを新規ペアデータとする。
【0104】
そして、連続性判定部10iは、連続性があると判定した履歴ペアデータを予測部10jに出力する。また、連続性判定部10iは、履歴ペアデータ及びペアデータを結合処理部10kに出力する。
【0105】
予測部10jは、UP区間及びDOWN区間のそれぞれで過去の期間において物標Tに対応したピーク信号の履歴から、最新の期間において物標Tに対応する予測ピーク信号を予測する。
【0106】
具体的には、まず、予測部10jは、ピーク信号をペアリングしてペアデータを導出する処理と逆の処理を行い、前回ペアデータの各ピーク信号を導出する。
【0107】
そして、予測部10jは、前回のピーク信号から、今回のピーク信号を予測した予測ピーク信号EPを導出する。すなわち、予測部10jは、前回ペアデータから、前回のUPピーク信号及びDNピーク信号を導出する。
【0108】
そして、前回のUPピーク信号から、今回のUPピーク信号を予測した予測UPピーク信号を導出し、前回のDNピーク信号から、今回のDNピーク信号を予測した予測DNピーク信号を導出する。
【0109】
また、予測部10jは、予測した予測ピーク信号EPに基づいてUP区間及びDOWN区間のそれぞれの第1範囲R1及び第2範囲R2を算出し、算出した第1範囲R1 、第2範囲R2の情報をペアリング部10dに出力する。
【0110】
結合処理部10kは、物標Tに対応する複数の履歴ペアデータを一つにまとめる処理を行う。具体的には、結合処理部10kは、複数の履歴ペアデータの各相対速度が略同一で、各履歴ペアデータの縦距離及び横距離が所定範囲内であれば、複数の物標情報を同一の物標Tにおける履歴ペアデータとみなす。
【0111】
そして、当該複数の履歴ペアデータを一つの物標に対応する履歴ペアデータにまとめる結合処理を行う。また、結合処理部10kは、結合処理した履歴ペアデータを出力判定部10lに出力する。
【0112】
出力判定部10lは、ペアデータに基づく物標データを車両制御装置300に出力するか否かを判定する。具体的には、片側ペアデータの信頼性を判定し、信頼性が高いと判定した場合に、片側ペアデータを含む履歴ペアデータを車両制御装置300に出力する。出力判定部10lは、履歴ペアデータの片側ペアフラグがONの箇所について信頼性を判定する。
【0113】
出力判定部10lは、例えば、異なる二つ判定方法によって片側ペアデータの信頼性を判定する。かかる二つの判定方法は、片側ペアデータの片側ピーク信号に対する判定方法と、片側ペアデータと他のペアデータに基づく判定方法である。また、かかる二つの判定方法は、出力判定部10lによって片側ペアデータが入力される度に毎回行われるものとする。
【0114】
ここで、
図6を用いて出力判定部10lによる片側ペアデータのピーク信号に対する判定について説明する。
図6及び
図7は、出力判定部10lによる判定処理について説明する図である。
【0115】
片側ペアデータの片側ピーク信号が
図6に示すDOWN区間のDNピーク信号Pdである場合について説明する。ここで、出力判定部10lは、DNピーク信号Pdと、UP区間の全てのUPピーク信号とについて履歴ペアデータを導出する。続いて、出力判定部10lは、導出した全ての履歴ペアデータに対してマハラノビス距離を導出する。
【0116】
ここで、仮に、
図6に示すDNピーク信号PdとUPピーク信号Puとのペアデータのマハラノビス距離の値が所定の閾値以下となる場合、DNピーク信号Pdは、第1範囲R1の外に位置するUPピーク信号Puとペアデータが成立している可能性が高いため、片側ペアデータとしての信頼度を低下させる。
【0117】
一方、導出したマハラノビス距離の値が所定の閾値以上となる場合、DNピーク信号Pdは、他のUPピーク信号とペアリングが成立しない。したがって、DNピーク信号Pdと正常履歴ペアデータとなるUPピーク信号は、他のUPピーク信号に埋没している可能性が高くなる。そこで、この場合に、出力判定部10lは、片側ペアデータの信頼度を上げる。
【0118】
続いて、
図7を用いて出力判定部10lの片側ペアデータと他のペアデータに基づく判定処理について説明する。
図7に示すように、片側ペアデータTDが導出されたものとする。そして、片側ペアデータTDは、車両Cとの相対速度が減少する方向、すなわち、車両Cに接近している場合について示している。
【0119】
ここで、
図7に示す、範囲H内に片側ペアデータTDと異なる相対速度を有するペアデータZDがあった場合、出力判定部10lは、片側ペアデータTDの信頼度を低下させる。
【0120】
ここで、範囲Hは、例えば、片側ペアデータTDを中心として、横幅wが1.8メートルであり、縦幅dが10メートルの範囲である。なお、横幅wを車幅と略同じに設定している。このため、物標Tを先行車両の片側ペアデータTDと仮定すると、かかる先行車両が存在する範囲内に異なる相対速度を有する他の物標が存在することになる。
【0121】
したがって、この場合に、出力判定部10lは、片側ペアデータTDの信頼度を低下させる。一方、範囲H内に他の相対速度を有するペアデータがない場合は、片側ペアデータTDの信頼度を向上させる。なお、範囲H内に片側ペアデータTDと略同じ相対速度を有するペアデータがある場合に片側ペアデータTDの信頼度を向上させることにしてもよい。
【0122】
そして、出力判定部10lは、判定した信頼度を累積値として記憶しておき、同一の片側ペアデータTDの信頼度が一定値以上になる場合に、車両制御装置300に出力し、同一の片側ペアデータTDの信頼度が一定値以下の場合、車両制御装置300に出力しないようにする。
【0123】
このように、出力判定部10lは、片側ペアデータTDの信頼度を判定し、高い信頼度の片側ペアデータTDに基づく物標データについては、車両制御装置300に出力するようにする。これにより、片側ペアデータTDの信頼性が高い場合、外挿時間を長くすることができる。
【0124】
また、出力判定部10lは、信頼度の低い片側ペアデータTDに基づく物標データを車両制御装置300に出力しない。このため、信頼度の低い片側ペアデータTDに基づく物標データによる車両制御装置300の誤制御を防ぐこともできる。
【0125】
記憶部100は、信号処理装置10の各部の処理で用いる情報を記憶するとともに、各部の処理結果を記憶する。記憶部100は、例えばEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリ等である。
【0126】
続いて、
図8を用いて本実施形態に係るレーダ装置1による処理手順について説明する。
図8は、本実施形態に係るレーダ装置1の処理手順を示すフローチャートである。なお、かかる処理は、レーダ装置1の信号処理装置10によって繰り返し実行される。
【0127】
図8に示すように、FFT処理部10aは、受信信号に対してFFT処理を行う(ステップS101)。続いて、抽出部10bは、FFT処理された周波数スペクトルからピーク周波数を抽出する(ステップS102)。
【0128】
続いて、角度算出部10cは、抽出部10bによって抽出されたピーク周波数について角度を算出する(ステップS103)。続いて、ペアリング部10dは、UPピーク信号と、DNピーク信号とのペアリング処理を行う(ステップS104)。
【0129】
また、ペアリング部10dは、予測ピーク信号EPに基づいて、UPピーク信号と、DNピーク信号との履歴ペアリング処理を行う(ステップS105)。なお、ペアリング部10dは、ステップS104の処理と、ステップS105の処理とを並列して行ってもよいし、あるいは、ステップS105の処理の後に、ステップS104の処理を行うようにしてもよい。
【0130】
続いて、データ導出部10hは、ペアデータ及び履歴ペアデータに基づいて物標データを導出する(ステップS106)。続いて、連続性判定部10iは、今回入力されたペアデータと前回入力されたペアデータとの連続性判定処理を行う(ステップS107)。
【0131】
続いて、結合処理部10kは、同一の物標Tに対応するペアデータを一つにまとめる結合処理を行う(ステップS108)。そして、出力判定部10lは、片側ペアデータの信頼度を判定し、かかる片側ペアデータを出力するか否かの判定処理を行って(ステップS109)、処理を終了する。
【0132】
続いて、ステップS105の履歴ペアリング処理手順について
図9を用いて説明する。
図9は、履歴ペアリング処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、かかる履歴ペアリング処理は、ペアリング部10d、判定部10e、選択部10f及び再ペアリング部10gによって行われる。
【0133】
図9に示すように、まず、ペアリング部10dは、UP区間及びDOWN区間について、第1範囲R1または第2範囲R2のピーク信号を検索する(ステップS201)。
【0134】
続いて、ペアリング部10dは、第1範囲R1または第2範囲R2のUPピーク信号と、DNピーク信号との履歴ペアリングデータを導出する(ステップS202)。続いて、判定部10eは、かかる履歴ペアリングによって導出された履歴ペアデータについて、正常履歴ペアデータか否かを判定する(ステップS203)。
【0135】
ステップS203の判定において、正常履歴ペアデータと判定された場合(ステップS203,Yes)、正常履歴ペアデータをデータ導出部10hに出力して(ステップS204)、履歴ペアリング処理を終了する。
【0136】
一方、ステップS203の判定において、正常履歴ペアデータとして判定されなかった場合(ステップS203,No)、判定部10eは、再ペアリング要求信号を出力し、ペアリング部10dは、再ペアリング処理を行う(ステップS205)。
【0137】
続いて、判定部10eは、再ペアリング処理によって導出された履歴ペアデータが正常履歴ペアデータか否かを判定する(ステップS206)。ステップS206の判定において、正常履歴ペアデータと判定された場合(ステップS206,Yes)、ステップS204以降の処理を行う。
【0138】
また、ステップS206の判定において、正常履歴ペアデータと判定されなかった場合(ステップS206,No)、選択部10fは、履歴ペアデータから片側ピーク信号を選択する(ステップS207)。続いて、再ペアリング部10gは、片側ピーク信号の他方の区間において第3範囲R3でピーク信号を検索する(ステップS208)。
【0139】
続いて、再ペアリング部10gは、第3範囲R3のピーク信号と片側ピーク信号とをペアリングし、履歴ペアデータを導出する(ステップS209)。続いて、判定部10eは、ステップS209によって導出された履歴ペアデータが正常履歴ペアデータであるか否かを判定する(ステップS210)。
【0140】
ステップS210の判定において、正常履歴ペアデータと判定された場合(ステップS210,Yes)、ステップS204以降の処理を行う。一方、ステップS210の判定において、正常履歴ペアデータと判定されなかった場合(ステップS210,No)、判定部10eは、データ導出部10hに片側ペアデータを出力して(ステップS211)、履歴ペアリング処理を終了する。
【0141】
上述してきたように、本実施形態にかかるレーダ装置1は、予測部10jと、ペアリング部10dとを備える。予測部10jは、ビート信号におけるアップビート区間及びダウンビート区間のそれぞれで過去の期間において物標Tに対応したピーク信号の履歴から、最新の期間において物標Tに対応するピーク信号である予測ピーク信号EPを予測する。ペアリング部10dは、履歴につき、予測ピーク信号EPを基準とする所定範囲において、アップビート区間及びダウンビート区間のそれぞれで物標Tに対応するピーク信号を抽出し、組み合わせる。また、ペアリング部10dは、物標Tまでの距離が所定値以下である場合に、予測ピーク信号EPを基準とする所定の角度範囲である第1範囲R1、または、予測ピーク信号EPを基準とする所定の横位置範囲である第2範囲R2において、物標Tに対応するピーク信号を抽出する。
【0142】
したがって、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、物標Tの検出精度を向上させることができる。
【0143】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細及び代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。