特開2017-228348(P2017-228348A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-228348(P2017-228348A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】高速誘導溶解炉の溶解制御方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/06 20060101AFI20171201BHJP
   H05B 6/18 20060101ALI20171201BHJP
   F27D 11/06 20060101ALI20171201BHJP
   F27B 14/20 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
   H05B6/06 381
   H05B6/06 383
   H05B6/18
   F27D11/06 A
   F27B14/20
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-121488(P2016-121488)
(22)【出願日】2016年6月20日
(11)【特許番号】特許第6059389号(P6059389)
(45)【特許公報発行日】2017年1月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000242127
【氏名又は名称】北芝電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306017014
【氏名又は名称】地方独立行政法人 岩手県工業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 吉幾
(72)【発明者】
【氏名】岩清水 康二
(72)【発明者】
【氏名】池 浩之
【テーマコード(参考)】
3K059
4K046
4K063
【Fターム(参考)】
3K059AA02
3K059AB16
3K059AC03
3K059AC07
3K059AC12
3K059AD05
3K059CD03
4K046AA01
4K046BA02
4K046CD02
4K046CD20
4K046EA01
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA03
4K063CA03
4K063FA34
4K063FA36
4K063FA38
4K063FA43
4K063FA48
(57)【要約】
【課題】被加熱材を短時間に高速溶解させた際にも合金の品質低下を抑制することができる高速誘導溶解炉の溶解制御方法を提供する。
【解決手段】高速誘導溶解炉の溶解制御方法は、加熱コイル61に印加される印加電力Pおよび周波数fを、(1)前記被加熱材の溶湯撹拌力Fを、溶湯表面の被膜が溶湯中に巻き込まれない第1条件と、(2)前記周波数fを、前記被加熱材の溶湯表面の飛散を抑制する第2条件と、(3)前記周波数fを、前記炉壁の自己加熱を抑制する第3条件と
を満たすように、(4)溶湯撹拌力Fを少なくとも前記印加電力Pと前記周波数fとを含む関係式として規定した第4条件を用いて算出するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して高周波電力を供給することにより炉内に収納された被加熱材を短時間に高速溶解させる高速誘導溶解炉の溶解制御方法であって、
前記加熱コイルに印加される印加電力Pおよび周波数fを、
(1)前記被加熱材の溶湯撹拌力Fを、溶湯表面の被膜が溶湯中に巻き込まれない第1条件と、
(2)前記周波数fを、前記被加熱材の溶湯表面の飛散を抑制する第2条件と、
(3)前記周波数fを、前記炉壁の自己加熱を抑制する第3条件と
を満たすように、
(4)溶湯撹拌力Fを少なくとも前記印加電力Pと前記周波数fとを含む関係式として規定した第4条件を用いて算出することを特徴とする高速誘導溶解炉の溶解制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の高速誘導溶解炉の溶解制御方法において、
(1)前記第1条件は、溶湯撹拌力Fが上限撹拌力F1より小さいものであり、
(2)前記第2条件は、周波数fが下限周波数f2より大きいものであり、
(3)前記第3条件は、周波数fが上限周波数f3より小さいものであり、
(4)前記第4条件は、下式で
【数1】
で表わされることを特徴とする高速誘導溶解炉の溶解制御方法。
【請求項3】
請求項2記載の高速誘導溶解炉の溶解制御方法において、
前記第1および第4条件により、下式を満たし
【数2】
かつ、前記第2および第3条件により
f2<f<f3
を満たすことを特徴とする高速誘導溶解炉の溶解制御方法。
【請求項4】
請求項3記載の高速誘導溶解炉の溶解制御方法において、
前記加熱コイルに印加される印加電力Pおよび周波数fを、さらに
(5)印加電力Pが下限印加電力P5以上という第5条件をも満たすように、
前記第1〜第5条件を充足する周波数fと印加電力Pとの領域をマップ上に表わし、該領域内の周波数fと印加電力Pとを任意に選択可能とすることを特徴とする高速誘導溶解炉の溶解制御方法。
【請求項5】
請求項4記載の高速誘導溶解炉の溶解制御方法において、
前記第1条件の上限撹拌力F1を、前記被加熱材の溶湯表面の飛散を抑制する上限撹拌力F2を考慮しながら段階的に規定し、前記領域内の周波数fと印加電力Pとを段階的に任意に選択可能とすることを特徴とする高速誘導溶解炉の溶解制御方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか1項記載の高速誘導溶解炉の溶解制御方法において、
前記被加熱材の質量および比熱から、該被加熱材を所望温度に加熱する際の積算電力量を算出することを特徴とする高速誘導溶解炉の溶解制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して高周波電力を供給することにより炉内に収納された被加熱材を高速溶解させる高速誘導溶解炉の溶解制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導溶解炉としては、本願出願人および本願発明者らによる下記特許文献1に示すように、炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して電力を供給することにより炉内に収納された被溶解材を溶解させる誘導溶解炉が知られている。
【0003】
本願出願人および発明者は、誘導溶解炉の研究・開発のパイオニアとして、下記特許文献1では、溶解した被溶解材に成分調整材を添加する第2段階において、溶湯内に生じる撹拌力を制御し、成分調整材を被溶解材に溶け込ませるのに適した周波数の制御信号を生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5656532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、アルミニウムやマグネシウムなどを短時間に高速で溶解してダイカストマシンに供給する場合には、溶湯の撹拌力により表面の酸化膜を巻き込む等することにより、アルミ合金やマグネシウム合金の品質悪化を招き、ダイカストマシンに供給する方法としては適さないというのがダイカスト業界の常識であった。
【0006】
誘導溶解炉の研究・開発のパイオニアである本願出願人および発明者は、鋭意の試験・研究を繰り返す中で、溶湯の撹拌力により表面の酸化膜を巻き込む等することによる合金の品質悪化を招く要因として、介在物数K値に着目することで、ダイカストに適した撹拌力を生じさせることができるとの知見に至った。
【0007】
本発明は、かかる知見に基づくものであり、被加熱材を短時間に高速溶解させた際にも合金の品質低下を抑制することができる高速誘導溶解炉の溶解制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法は、炉壁の外周に設けられた加熱コイルに電力供給手段を介して高周波電力を供給することにより炉内に収納された被加熱材を短時間に高速溶解させる高速誘導溶解炉の溶解制御方法であって、
前記加熱コイルに印加される印加電力Pおよび周波数fを、
(1)前記被加熱材の溶湯撹拌力Fを、溶湯表面の被膜が溶湯中に巻き込まれない第1条件と、
(2)前記周波数fを、前記被加熱材の溶湯表面の飛散を抑制する第2条件と、
(3)前記周波数fを、前記炉壁の自己加熱を抑制する第3条件と
を満たすように、
(4)溶湯撹拌力Fを少なくとも前記印加電力Pと前記周波数fとを含む関係式として規定した第4条件を用いて算出することを特徴とする。
【0009】
第1発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法によれば、誘導溶解炉の研究・開発のパイオニアである本願出願人および発明者は、合金の品質評価値である介在物数K値に着目することで、介在物数K値と撹拌力とが比例関係にあり、介在物数K値が品質水準値となる撹拌力を生じさせる必要があるとの知見に至った。
【0010】
かかる知見に基づいて、加熱コイルに印加される印加電力Pおよび周波数fを、(1)被加熱材の溶湯撹拌力Fを、溶湯表面の被膜が溶湯中に巻き込まれない第1条件とすることで、合金の品質を担保することができる。
【0011】
さらに、この溶湯撹拌力の条件を、(4)溶湯撹拌力Fを少なくとも印加電力Pと周波数fとを含む関係式として規定した第4条件を用いて印加電力Pと周波数fとの関係式として算出することができる。
【0012】
また、(2)周波数fを、前記被加熱材の溶湯表面の飛散を抑制する第2条件と、(3)周波数fを、前記炉壁の自己加熱を抑制する第3条件とを満たすようにすることで、誘導溶解炉による具体的な操業を可能とすることができる。
【0013】
このようにして求められた印加電圧Pおよび周波数fにより、被加熱材を短時間に高速溶解させた際にも合金の品質低下を抑制することができる。
【0014】
第2発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法は、第1発明において、
(1)前記第1条件は、溶湯撹拌力Fが上限撹拌力F1より小さいものであり、
(2)前記第2条件は、周波数fが下限周波数f2より大きいものであり、
(3)前記第3条件は、周波数fが上限周波数f3より小さいものであり、
(4)前記第4条件は、下式で
【0015】
【数1】
で表わされることを特徴とする。
【0016】
第2発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法によれば、第1〜第4条件を具体的に設定することができる。このようにして求められた印加電圧Pおよび周波数fにより、被加熱材を短時間に高速溶解させた際にも合金の品質低下を具体的に抑制することができる。
【0017】
第3発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法は、第2発明において、
前記第1および第4条件により、下式を満たし
【0018】
【数2】
かつ、前記第2および第3条件により
f2<f<f3
を満たすことを特徴とする。
【0019】
第3発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法によれば、第1および第4条件により具体的に充足すべき印加電圧Pと周波数fとの関係式を設定することができる。さらに、第2および第3条件から具体的に充足すべき周波数fの条件式を設定することができる。このようにして求められた印加電圧Pおよび周波数fにより、被加熱材を短時間に高速溶解させた際にも合金の品質低下を具体的に抑制することができる。
【0020】
第4発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法は、第3発明において、
前記加熱コイルに印加される印加電力Pおよび周波数fを、さらに
(5)印加電力Pが下限印加電力P5以上という第5条件をも満たすように、
前記第1〜第5条件を充足する周波数fと印加電力Pとの領域をマップ上に表わし、該領域内の周波数fと印加電力Pとを任意に選択可能とすることを特徴とする。
【0021】
第4発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法によれば、第1〜第4条件を満たす印加電圧Pと周波数fとは、これらを軸とする平面マップ上に展開することできるところ、第5条件の下限印加電力P5を設定することで、第1〜第5条件を満たす印加電力Pと周波数fとのマップ上の領域を設定することができる。
【0022】
このようにしてマップ上の閉じられた領域として求められた印加電圧Pおよび周波数fにより、被加熱材を短時間に高速溶解させた際にも合金の品質低下を具体的に抑制することができる。
【0023】
第5発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法は、第4発明において、
前記第1条件の上限撹拌力F1を、前記被加熱材の溶湯表面の飛散を抑制する上限撹拌力F2を考慮しながら段階的に規定し、前記領域内の周波数fと印加電力Pとを段階的に任意に選択可能とすることを特徴とする。
【0024】
第5発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法によれば、第1〜第5条件を充足するマップ上の閉じられた領域は、第1条件〜第5条件を段階的に設定することができるところ、第1条件の上限撹拌力F1を被加熱材の溶湯表面の飛散を抑制する上限撹拌力F2を考慮しながら段階的に規定することで、領域内の周波数fと印加電力Pとを段階的に任意に選択可能とすることができる。
【0025】
このようにしてマップ上の閉じられた領域として段階的に求められた印加電圧Pおよび周波数fにより、被加熱材を短時間に高速溶解させた際にも合金の品質低下を具体的に抑制することができる。
【0026】
第6発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法は、第1〜第5発明のいずれかにおいて、
前記被加熱材の質量および比熱から、該被加熱材を所望温度に加熱する際の積算電力量を算出することを特徴とする。
【0027】
第6発明の高速誘導溶解炉の溶解制御方法によれば、加熱コイルに印加される印加電力Pおよび周波数fを決定することで、被加熱材の質量および比熱から、該被加熱材を所望温度に加熱する際の積算電力量を併せて算出することができる。これにより、積算電力量が印加されたか否かを判定することにより、溶解終了判定をすることができ、被加熱材を短時間に高速溶解させた際にも合金の品質低下を抑制しつつ、確実に被加熱材を溶解させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】誘導溶解炉の構成を示す全体構成図。
図2】制御回路の処理内容を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1を参照して、本実施形態の高速誘導溶解炉の一例について説明する。なお、高速誘導溶解炉は、これに限定されるものではなく、高周波電源設備であれば、他の構成であってもよい。
【0030】
高速誘導溶解炉は、溶解炉内に収納された被加熱材Xを溶解させるものであり、具体的には、電源1と、高圧受電盤2と、変換装置用変圧器3と、電力変換装置4と、高周波整合装置5と、誘導加熱装置6と、コントローラ100とを備える。
【0031】
電源1は、交流電源であって、高圧受電盤2に接続されている。
【0032】
高圧受電盤2は、誘導加熱装置6への電源通電・停止と故障発生時の電源遮断を行う装置であって、パワーヒューズ2aと遮断器2bとを備える。パワーヒューズ2aは、短絡事故時に電流遮断する手段であって、遮断器2bは、電源の通電と停止に伴う開閉動作を行う。
【0033】
変換装置用変圧器3は、高圧受電盤2に接続され、電力変換装置4への入力電圧が所定の値となるように調整する。
【0034】
電力変換装置4は、変換装置用変圧器3に接続され、50Hzまたは60Hzの商用電源から任意の高周波電流を生成するための装置であって、制御回路10と、交流/直流変換器である順変換器41a,41bと、直流/交流変換器である逆変換器42a,42bとを備え、制御回路10からの出力制御信号により制御される。
【0035】
具体的に、電力変換装置4は、入力側にダイオード式順変換器41a,41bを備え、出力側にIGBT式逆変換器42a,42bを備え、順変換器41a,41bに直列に平滑用リアクトル43aが接続されると共に、順変換器41a,41bに並列に平滑用コンデンサ44が接続される。
【0036】
さらに、電力変換装置4は、順変換器41a,41bの出力側の直流電圧を検出して直流電圧信号(a)を出力する直流電圧検出器45を備え、直流電圧検出器45の出力値は、制御回路10に出力される。
【0037】
なお、制御回路10による電力変換装置4の制御内容については詳細を後述する。
【0038】
高周波整合装置5は、電力変換装置4と誘導加熱装置6との間に設けられて、誘導加熱装置6が低力率であるため負荷力率を改善する。
【0039】
具体的に、高周波整合装置5は、共振用コンデンサ51a,51bと、高周波整合装置5の出力電流を検出して出力電流信号(d)を出力する電流検出器52および出力電圧を検出して出力電圧信号(e)を出力する電圧検出器53等から構成される。
【0040】
誘導加熱装置6は、電力変換装置4と高周波整合装置5とから供給される高周波電流を加熱コイル61に通電させることにより、溶解炉本体内に収納された被加熱材Xにうず電流を発生させ、うず電流により発生するジュール熱で被加熱材Xを加熱溶解させる。
【0041】
コントローラ100は、制御誘導溶解炉の運転・停止を始めとする誘導溶解炉の運転の全般を制御する。
【0042】
次に、説明を後回しにした制御回路10について説明する。
【0043】
制御回路10は、主に、出力調整等の制御を行うと共に、誘導溶解炉の制御装置として、IGBT式逆変換器42a,42bの制御を行う制御信号生成部としての機能を備え、加熱コイル61に高周波電力を供給することにより炉内に収納された被加熱材Xを短時間に高速溶解させる溶解制御方法を実行する。
【0044】
具体的に、制御回路10は、被加熱材Xに応じて加熱コイル61に印加される印加電力Pおよび周波数fを、
(1)前記被加熱材の溶湯撹拌力Fを、溶湯表面の被膜が溶湯中に巻き込まれない第1条件と、
(2)前記周波数fを、前記被加熱材の溶湯表面の飛散を抑制する第2条件と、
(3)前記周波数fを、前記炉壁の自己加熱を抑制する第3条件と
を満たすように、
(4)溶湯撹拌力Fを少なくとも印加電力Pと周波数fとを含む関係式として規定した第4条件を用いて算出する。
【0045】
より具体的には、
(1)前記第1条件は、溶湯撹拌力Fが上限撹拌力F1より小さいものである。例えば、被加熱材Xがアルミ合金である場合には、アルミ合金の品質を決定する介在物数K値が、例えば、0.9未満となるように、介在物数K値と比例関係にある溶湯撹拌力Fの上限撹拌力F1が決定される。例えば、この場合、F1=43.1[kg/cm2]である。
(2)前記第2条件は、周波数fが下限周波数f2より大きいものである。例えば、被加熱材Xがアルミ合金である場合には、f2=8000[Hz]であり、これ以下の場合には、溶湯撹拌力Fが過剰に大きくなり、溶湯が飛散し得る。
(3)前記第3条件は、周波数fが上限周波数f3より小さいものである。例えば、被加熱材Xがアルミ合金である場合には、f3=10000[Hz]であり、これ以上の場合には、炉自体(るつぼ自体)が加熱されてしまい、熱ショックによりるつぼが割れる可能性がある。
(4)第4条件は、下式で
【0046】
【数3】
で表わされる。
【0047】
さらに、第1および第4条件により、下式を満たし
【0048】
【数4】
すなわち、上記アルミ合金の場合には、
【0049】
【数5】
となる。
【0050】
一方、第2および第3条件により
f2<f<f3
すなわち、前記アルミ合金の場合には、
8000[Hz]<f<10000[Hz]
となり、これら2つを満たす印加電力Pおよび周波数fとして算出される。
【0051】
さらに、以上の第1〜第4条件に加えて、(5)印加電力Pが下限印加電力P5以上という第5条件を考慮すると、第1〜第5条件を充足する周波数fと印加電力Pとの領域をマップ上に表わすことができる。
【0052】
例えば、上記アルミ合金の場合には、P5=20kWであり、この場合の第5条件は、P≧20kWとなる。
【0053】
具体的には、図2に示すように、第1〜第5条件を充足する周波数fと印加電力Pとの領域(図中領域(I))をマップ上に表わすことができ、制御回路10は、領域(I)内の周波数fと印加電力Pとを任意に選択することができる。
【0054】
さらに、マップ上では、上記第1条件の上限撹拌力F1を、被加熱材Xの溶湯表面の飛散を抑制する上限撹拌力F2を考慮しながら段階的に規定することもできる。
【0055】
かかる上限撹拌力F2および第4条件により、下式を満たし
【0056】
【数6】
すなわち、上記アルミ合金の場合には、F2=54.5[kg/cm2]であり、
【0057】
【数7】
となり、図2の領域(II)では、被加熱材Xの溶湯表面の飛散を抑制することができる領域(品質は介在物数K値は0.9以下とはならない)として、領域(I)の予備領域として、領域(I)に対して段階的に周波数fと印加電力Pを設定可能とすることもできる。
【0058】
ここで、領域(I)内から周波数fおよび印加電力Pは、次のようにして決定される。
【0059】
まず、周波数fは、周波数fが大きいほど、合金表面に集中する電力が多くなり、被加熱材Xの固有抵抗によるジュール熱も大きくなる。そのため、被加熱材Xのバルクの大きさが小さいほど、表面積が大きく加熱効率が高まる。一方で、被加熱材Xのバルクの大きさが大きい場合には、表面にのみ電流が集中して材料内部まで加熱が進行せず、溶解能力が低下することなる。
【0060】
そこで、周波数fは、被加熱材Xのバルクの大きさが大きいほど、周波数fを小さく(f2側を)選択すると共に、被加熱材Xのバルクの大きさが小さいほど、周波数fを大きく(f3側を)選択する。
【0061】
さらに、印加電力Pは、例えば、何分以内に被加熱材Xを溶解完了させる必要があるか等の生産タクトタイムに合わせて、より短時間に溶解させる必要がある場合には、領域(I)の範囲内で(領域(II)に近い)高電力側を選択し、時間に余裕がある場合には、領域(I)の範囲内で(P=P5に近い)低電力側を選択する。
【0062】
以上のようにして、領域(I)内から周波数fおよび印加電力Pが決定される。
【0063】
なお、制御回路10は、上記周波数fと印加電力Pの決定のほか、被加熱材Xの質量および比熱から、該被加熱材を所望温度に加熱する際の積算電力量を算出する。
【0064】
ここで、前記アルミ合金を、f=10000[Hz]で、溶解終了温度である680℃まで上昇させるための実験結果式として、比熱の代わりに
【0065】
【数8】
として求めた。これを溶湯温度領域(560℃〜700℃)での補正を行い、
【0066】
【数9】
とした。
【0067】
これにより、かかる計算式から、制御回路10は、積算電力量が印加されたか否かを判定することにより、溶解終了判定をすることができ、過度な溶解を抑制しながら確実に被加熱材を溶解させることができる。
【0068】
以上、詳しく説明したように、本実施形態の加熱コイル61に、上記条件を充足する周波数fと印加電力Pからなる高周波電力を供給することにより、被加熱材Xを短時間に高速溶解させた際にも合金の品質低下を抑制することができる。
【0069】
なお、本実施形態では、アルミ合金を例に説明したが被加熱材Xは、短時間に高速で溶解してダイカストマシンに供給するものであれば、例えば、銅、鉛、錫、亜鉛、マグネシウムなどの非鉄金属およびその合金であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…電源、2…高圧受電盤、3…変換装置用変圧器、4…電力変換装置、5…高周波整合装置、6…誘導加熱装置、10…制御回路(制御信号生成部)、41a,41b…ダイオード式順変換器、42a,42b…IGBT式逆変換器、61…加熱コイル、100…コントローラ、X…被加熱材。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2016年10月4日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
請求項2記載の高速誘導溶解炉の溶解制御方法において、
前記第1および第4条件により、下式を満たし
【数2】
かつ、前記第2および第3条件により
f2<f<f3
を満たすことを特徴とする高速誘導溶解炉の溶解制御方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
【数2】
かつ、前記第2および第3条件により
f2<f<f3
を満たすことを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
【数4】
すなわち、上記アルミ合金の場合には、
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
【数5】
となる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
【数6】
すなわち、上記アルミ合金の場合には、F2=54.5[kg/cm2]であり、
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
【数7】
となり、図2の領域(II)では、被加熱材Xの溶湯表面の飛散を抑制することができる領域(品質は介在物数K値は0.9以下とはならない)として、領域(I)の予備領域として、領域(I)に対して段階的に周波数fと印加電力Pを設定可能とすることもできる。
【手続補正書】
【提出日】2016年11月8日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
請求項1記載の高速誘導溶解炉の溶解制御方法において、
(1)前記第1条件は、溶湯撹拌力Fが上限撹拌力F1より小さいものであり、
(2)前記第2条件は、周波数fが下限周波数f2より大きいものであり、
(3)前記第3条件は、周波数fが上限周波数f3より小さいものであり、
(4)前記第4条件は、下式で
【数1】
で表わされることを特徴とする高速誘導溶解炉の溶解制御方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項3
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項3】
請求項2記載の高速誘導溶解炉の溶解制御方法において、
前記第1および第4条件により、下式を満たし
【数2】
かつ、前記第2および第3条件により
f2<f<f3
を満たすことを特徴とする高速誘導溶解炉の溶解制御方法。