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特開2017-228620太陽電池用対極形成用分散液、太陽電池用対極及び太陽電池
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  • 特開2017228620-太陽電池用対極形成用分散液、太陽電池用対極及び太陽電池 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-228620(P2017-228620A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】太陽電池用対極形成用分散液、太陽電池用対極及び太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20171201BHJP
【FI】
   H01G9/20 115A
   H01G9/20 113B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-122972(P2016-122972)
(22)【出願日】2016年6月21日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載アドレス http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs10800−015−0910−4 掲載日 平成27年12月28日 〔刊行物等〕 掲載アドレス http://www.hindawi.com/journals/ijp/2016/5186762/ 掲載日 平成28年2月22日
(71)【出願人】
【識別番号】306009053
【氏名又は名称】株式会社シオン
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】モジュガン コウフナバード
(72)【発明者】
【氏名】池田 章一郎
(72)【発明者】
【氏名】ノルアシキン アーマド ルディン
(57)【要約】
【課題】白金を使用しないことによって対極を安価に製造することができ、太陽電池に使用した際には、優れた耐久性を発揮し、光電エネルギー変換効率に優れる太陽電池用対極形成用分散液及び太陽電池用対極を提供すること。
【解決手段】太陽電池用対極形成用分散液は、親水性カーボンと酸化チタンコロイドとを含む。この太陽電池用対極形成用分散液によれば、親水性カーボンが電解質30との親和性に優れ光電エネルギー変換効率に優れたカーボンであり、酸化チタンコロイドが対極基材11への密着性に優れたものであるため、本発明の太陽電池用対極形成用分散液から形成された対極13は、光電エネルギー変換効率に優れ、対極基材11との密着性に優れ耐久性が優れたものとなる。また、白金を使用していないため、製造コストを抑えたものとすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性カーボンと酸化チタンコロイドとを含むことを特徴とする太陽電池用対極形成用分散液。
【請求項2】
前記親水性カーボンは、カーボン粒子が親水基で修飾されたものであり、該親水基が、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基又はこれらの誘導体から選択される1種類以上を含むものであり、
該カーボン粒子と該親水基の比率は、該カーボン粒子1質量部に対して、該親水基が0.5〜5質量部であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用対極形成用分散液。
【請求項3】
前記親水性カーボンの平均粒子径が、200〜600nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池用対極形成用分散液。
【請求項4】
前記酸化チタンコロイドは、多孔質酸化チタンから形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池用対極形成用分散液。
【請求項5】
親水性カーボンと酸化チタンコロイドとを含むことを特徴とする太陽電池用対極。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池用対極形成用分散液が、焼成されて形成されたことを特徴とする太陽電池用対極。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の太陽電池用対極を備えることを特徴とする太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池、量子ドット増感太陽電池、有機太陽電池などの太陽電池に使用される、太陽電池用対極形成用分散液、太陽電池用対極及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
製造コストの高いシリコン系太陽電池に代わって、色素増感太陽電池、量子ドット増感太陽電池、有機太陽電池などの太陽電池の開発が進められている。これらは、有機色素、半導体、有機半導体などを利用して光起電力を得るものである。
【0003】
色素増感太陽電池では、作用電極(−極)側の有機色素(例えば、ルテニウム錯体)が光を吸収して電子(電流)を供与することによって、外部回路に電流を流す。外部回路からの電子(電流)は、対極(+極)に流れ、対極から電解質(ヨウ化物/三ヨウ化物イオン(I-/I3-))を介して作用電極に流れる構成となっている。
【0004】
対極は、導電性ガラスやアルミニウム合金などの基材の表面に形成され、電子の受け渡しである酸化還元反応が行われるため、対極には耐久性が求められる。下記特許文献1では、色素増感太陽電池の対極として、基材にアルミニウム合金を使用し、耐久性を有する白金(Pt)を基材に蒸着させて対極として使用したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−012362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
太陽電池が広く普及されるためには、太陽電池には製造コストを抑えることが要求される。しかしながら、従来の太陽電池用対極を使用した太陽電池は、基材のアルミニウム合金に高価な白金を蒸着しているため、製造コストが増大しやすいという課題があった。
【0007】
白金に代わる耐久性を有する材料も検討され、上記特許文献1の実施例4にはアセチレンブラックを使用した対極が記載されている。しかしながら、アセチレンブラックを使用した対極を用いた太陽電池は、光電エネルギー変換効率についてまで検討されたものではなかった。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、白金を使用しないことによって対極を安価に製造することができ、太陽電池に使用した際には、優れた耐久性を発揮し、光電エネルギー変換効率に優れる太陽電池用対極形成用分散液及び太陽電池用対極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の太陽電池用対極形成用分散液は、親水性カーボンと酸化チタンコロイドとを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の太陽電池用対極形成用分散液によれば、親水性カーボンが電解質との親和性に優れ光電エネルギー変換効率に優れたカーボンであり、酸化チタンコロイドが基材への密着性に優れたものであるため、本発明の太陽電池用対極形成用分散液から形成された対極は、光電エネルギー変換効率に優れ、基材との密着性に優れ耐久性が優れたものとなる。また、白金を使用していないため、製造コストを抑えたものとすることができる。さらに、親水性カーボンと酸化チタンコロイドが水への分散性に優れたものであるため、太陽電池用対極形成用分散液は、親水性カーボンと酸化チタンコロイドが沈降・凝集することなく、貯蔵安定性に優れたものとなる。
【0011】
ここで、上記太陽電池用対極形成用分散液において、前記親水性カーボンは、カーボン粒子が親水基で修飾されたものであり、該親水基が、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基又はこれらの誘導体から選択される1種類以上を含むものであり、該カーボン粒子と該親水基の比率は、該カーボン粒子1質量部に対して、該親水基が0.5〜5質量部であるものとすることができる。これによれば、親水性カーボンがカーボン粒子1質量部に対して親水基が0.5〜5質量部であることによって、カーボン粒子に対する親水基の量が十分であるため太陽電池用対極形成用分散液の安定性に優れたものとすることができ、カーボン粒子に対して親水基が被覆されることなく導電性が劣ることがなくエネルギー変換効率が優れたものとなる。
【0012】
また、前記親水性カーボンの平均粒子径が、200〜600nmであるものとすることができる。これによれば、太陽電池用対極形成用分散液から形成された対極は、親水性カーボンの平均粒子径が、細かすぎないため基材との密着性に優れ、粗すぎないため親水性カーボンの表面積が高く、耐久性とエネルギー変換効率に優れたものとなる。
【0013】
本発明の太陽電池用対極は、親水性カーボンと酸化チタンコロイドとを含むものである。また、本発明の太陽電池用対極は、上記の太陽電池用対極形成用分散液が焼成されて形成されたものとすることができる。本発明の太陽電池用対極によれば、親水性カーボンは、電解質との親和性に優れ、光電エネルギー変換効率に優れたカーボンであり、酸化チタンコロイドが密着性に優れたものであるため、太陽電池用対極は、光電エネルギー変換効率に優れ、太陽電池用対極の耐久性に優れたものとすることができる。また、白金を使用していないため、製造コストを抑えたものとすることができる。
【0014】
また、本発明の太陽電池は、上記の太陽電池用対極を備えるものとすることができる。これによれば、太陽電池は、光電エネルギー変換効率に優れ、太陽電池用対極の耐久性に優れたものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の太陽電池用対極形成用分散液及び太陽電池用対極によれば、白金を使用しないことによって対極を安価に製造することができ、太陽電池に使用した際には、優れた耐久性を発揮し、光電エネルギー変換効率に優れる太陽電池用対極形成用分散液及び太陽電池用対極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る太陽電池用対極を備える色素増感太陽電池の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、本明細書において、本発明の太陽電池用対極は、色素増感太陽電池に使用されたものを例に採り説明するが、もちろん、量子ドット増感太陽電池、有機太陽電池などの太陽電池にも使用可能なものである。
【0018】
本発明の太陽電池用対極は、親水性カーボンと酸化チタンコロイドとからなるものである。親水性カーボンと酸化チタンコロイドは分散液(以下、HC/TiO2分散液とする。)とし、HC/TiO2分散液を後に述べる対極基材11に塗布して、HC/TiO2分散液を焼成することによって、対極基材11に対極13(+極)が形成される。
【0019】
親水性カーボンとは、疎水性でないカーボンのことであり、水に添加した際に、水になじみやすいカーボンのことである。カーボンはSP2混成軌道を有していることにより導電性を有するものであり、対極13におけるカーボンは、対極13から電解質30(ヨウ化物/三ヨウ化物イオン(I-/I3-))に電子(電流)を流すものである。カーボンは、カーボン表面を親水基や分極基などで覆うことによって親水性のカーボンとなり、電解質30との親和性に優れたものとなる。電解質30との親和性に優れるため、親水性カーボンは、電解質30との間の電気抵抗が小さくなり、太陽電池の対極13として使用される際には、光電エネルギー変換効率に優れたものとなる。また、HC/TiO2分散液の状態で、親水性カーボンは、水に分散しやすく、一定の濃度までは、親水基の電気的反発により、親水性カーボンが沈降・凝集することを抑制することができる。
【0020】
親水性カーボンとして、親水基で覆われたカーボン粒子が、HC/TiO2分散液の状態で安定性に優れるため、好んで使用することができる。カーボン粒子を覆う親水基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、メルカプタン基、スルフォ基、これらの誘導体などが挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基とカルボキシル基誘導体とが親水性カーボンとして安定してHC/TiO2分散液中に分散させることができるため、より好んで使用することができる。
【0021】
親水基で覆われたカーボン粒子である、カルボキシル基とカルボキシル基誘導体とで覆われたカーボン粒子は、より安定した親水性を有するためには、カーボン粒子により多くのカルボキシル基とカルボキシル基誘導体とで覆われていることが好ましく、換言すれば、メリト酸(mellitic acid,benzene hexacarboxylic acid)状のカーボン粒子が形成されることが好ましい。しかし、カーボン粒子の表面積の大半が親水基で覆われると、カーボンの導電性が阻害されることとなり、太陽電池として、高い光電エネルギー変換効率を得られないこととなる。
【0022】
カーボン粒子の親水基に覆われる割合として、カーボン粒子の質量に対する親水基の質量で表すと、カーボン粒子1質量部に対して、親水基0.5〜5質量部であることが好ましい。導電性が阻害されることなく高い親水性を有するカーボンとなるためである。0.5質量部未満だと親水性が劣るおそれがあり、HC/TiO2分散液の状態で、沈降・凝集などが生じるおそれがある。一方、5質量部を超えるとカーボン粒子の導電性が阻害され高い光電エネルギー変換効率が得られないおそれがある。より好ましくは、1〜4質量部であり、さらに好ましくは、2〜3質量部である。
【0023】
親水基で覆われたカーボン粒子の粒子径は、200〜600nmであることが好ましい。太陽電池の対極13の高い耐久性と高い光電エネルギー変換効率を得られるためである。200nm未満だと粒子径が細かく、結合した電極材の強度が劣り対極13の耐久性が劣るおそれがある。一方、600nmを超えると電極材の比表面積が小さくなり光電エネルギー変換効率が劣るものとなるおそれがある。より好ましくは、300〜400nmである。なお、粒子径の測定には、分光光度計を使用し、粒子径が既知のサンプルから求めた検量線を使用して平均粒子径を求めた。
【0024】
親水基で覆われたカーボン粒子としては、市販されているものを使用することもできる。市販品としては、株式会社シオンが販売する「ナノカロイド」(カーボン粒子1質量部に対して親水基が4質量部で、粒子径が300〜400nmである、カルボキシル基とカルボキシル基誘導体とで覆われたカーボン粒子)がある。
【0025】
酸化チタンコロイドとは、粒子径が10-9〜10-7m程度の大きさの酸化チタンを主とする粒子である。本発明の太陽電池用対極13に酸化チタンコロイドが使用されることによって、太陽電池用対極13は比表面積の大きいものとすることができ、光電エネルギー変換効率を高めるとともに、対極基材11への密着性を確保することができる。
【0026】
酸化チタンコロイドは、例えば、チタンテトライソプロポキシドを酸性下で加熱することによって、イソプロピルが脱離して、Ti−O−Ti−O−の結合が成長することによって形成される。Ti−O−Ti−O−の結合が成長することによって酸化チタンコロイドは、表面積の大きい多孔質体粒子となるため、陽電池用対極13は比表面積の大きいものとすることができ、光電エネルギー変換効率を高めることができるものとなる。粒子径は、加熱温度及び加熱時間によって調整することができる。加熱温度が高いと、酸化チタンコロイドは大きい粒子となり、加熱時間が長いと、酸化チタンコロイドは大きい粒子となる。酸化チタンコロイドは、後述する焼成によって、酸化チタンの融点よりも低い温度で融着することができるため、対極基材11への密着性に優れる材料である。
【0027】
親水性カーボンと酸化チタンコロイドは、HC/TiO2分散液に分散させることによって、対極基材11に均一に塗布することができるため、焼成後の対極13も対極基材11に均一に形成することができるものとなる。分散液は、親水性カーボンと酸化チタンコロイドと脱イオン水とから形成される。分散液は必要に応じて、界面活性剤を加えることができる。
【0028】
界面活性剤は、親水性カーボンの水への分散性を補助するために加えるもので、HC/TiO2分散液に加えることによって、HC/TiO2分散液の安定性をより向上することができる。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤の汎用品を使用することができる。なお、界面活性剤は、分散液の焼成時に大半が揮発するが、一部が揮発することなく対極13中に残存する。このため、太陽電池として使用した際に、電解質30(ヨウ化物/三ヨウ化物イオン(I-/I3-))と反応するおそれのあるプラスイオンを含まない、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、を好んで使用することができる。さらには、電荷的により中性な、ノニオン界面活性剤をより好んで使用することができる。
【0029】
対極基材11とは、対極13の支持体となるものである。対極基材11は、太陽電池として電流を流す必要があるため、少なくともその片面表層は導電性を有する導電層12が必要である。対極基材11として、ステンレス鋼などの金属、導電性ガラス、導電性プラスチックなどを使用することができ、これらの中でも、導電性ガラス、導電性プラスチックが、光透過性を有するためより好んで使用することができる。さらに、導電性ガラスは、それ自体が撓むことが殆んどなく、後述する、分散液の対極基材11への塗布の際に、均一な厚みを形成することができるため、より好んで使用することができる。
【0030】
導電性ガラスと導電性プラスチックは、ガラス又はプラスチックに導電性材料を蒸着させることによって形成することができ、蒸着材料として、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ITO(インジウムドープ酸化スズ)などを使用することができる。
【0031】
分散液の対極基材11への塗布方法は、エアースプレー、アプリケーター、バーコード、刷毛などを用いて塗布することができるが、膜厚調整が容易なアプリケーター、バーコードがより好ましい。これらの中でも、アプリケーターの一種であるドクターブレード法が、塗布した分散液を平滑に形成することができるため、より好んで使用することができる。
【0032】
対極基材11に塗布された分散液は、揮発分を揮発させるため常温から80℃程度で1日以上養生した後に焼成を行う。
【0033】
焼成温度は、400〜500℃が好ましい。親水性カーボンが消失することなく対極13の導電率が優れたものとなるためである。400℃未満だと焼成が不十分で対極13の導電率が劣るおそれがある。一方、500℃を超えると親水性カーボンが燃焼して消失してしまうおそれがある。より好ましくは、430〜470℃である。
【0034】
焼成時間は、10〜60分が好ましい。対極13にひび割れや剥離が生じることなく対極13の導電率が優れたものとなるためである。10分未満だと焼成が不十分で対極13の導電率が劣るおそれがある。一方、60分を超えると対極13にひび割れや剥離が生じるおそれがある。より好ましくは20〜45分である。
【0035】
焼成後の対極13の厚みは、0.1〜10μmが好ましい。光電エネルギー変換効率に優れたものとなるためである。0.1μm未満だと対極13の比表面積が小さく光電エネルギー変換効率が劣るおそれがある。一方、10μmを超えると対極13の電気抵抗が増大して光電エネルギー変換効率が劣るおそれがある。より好ましくは、0.5〜2μmである。なお、揮発分の揮発及び焼成によって、焼成後の対極13の厚みは、対極基材11に塗布された分散液の厚みと異なるため、予め、分散液の厚みに対する焼成後の対極13の厚みの検量線を作成して、厚みを管理する必要がある。また、対極13の形成は複数回(複数層)に分けて形成することもできる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。試験例1,4,6〜8が実施例であり、試験例2,3,5が比較例である。
【0037】
対極13を形成する分散液に使用する親水性カーボンは、表1に記載のものを使用した。表1に記載の親水性カーボンAには、ナノカロイド(株式会社シオン製)を使用した。その他親水性カーボン及びカーボンは、ナノカロイドの製造条件を変更することによって得たものを使用した。なお、親水性カーボンBの修飾基に使用しているアミノシランカップリング剤には、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(KBM−575(信越化学工業株式会社製))を使用した。
【0038】
【表1】
【0039】
対極13を形成する分散液(以下、HC/TiO2分散液とする。)は、表2及び表3に記載のものを使用した。Pt分散液は、Dyesol社製のPtペーストを使用した。界面活性剤は、ノニオン界面活性剤であるアルキルフェノールポリエチレングリコールエーテル系界面活性剤(Triton X−100(フィッシャーケミカル社製))を使用した。
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
酸化チタンコロイドは、チタンテトライソプロポキシド(東京化成製)11質量部と、2−プロパノール1質量部と、脱イオン水70質量部とを、撹拌しながら混合し、硝酸(65%)を1質量部添加し、80℃8時間保持することによって得られたものを使用した。
【0043】
このようにして得られたHC/TiO2分散液の安定性として、50℃での貯蔵安定性を評価した。そして、50℃4週間後に沈降・分離がないものを◎、50℃4週間後に沈降・分離が発生しているものの、再撹拌することにより常温下で1日以上沈降・分離がないものを○、50℃4週間後に沈降・分離が発生し、再撹拌することにより常温下で1時間以上沈降・分離がないものを△、50℃4週間後に沈降・分離が発生し、再撹拌できないもの、再撹拌してもすぐに沈降・分離が発生するものを×として評価した。
【0044】
対極基材11には、表面抵抗が8Ω/SqのFTO蒸着ガラスの市販品を使用した。HC/TiO2分散液の塗布方法は、焼成後の対極13の厚みが1μmとなるように対極基材11の両側端にスコッチテープ(3M)を2枚重ねてドクターブレード法により対極基材11に塗布した。HC/TiO2分散液は、室温(25℃)で10分乾燥させた後、450℃で30分間焼成した。
【0045】
このようにして得られた対極13について、対極耐久性を評価した。そして、対極の耐久性に問題がないものを◎、対極基材11への密着性に問題があるものを△、対極基材11への密着性に問題があり太陽電池を形成することができなかったものを×として評価した。
【0046】
色素増感太陽電池1の作用電極(−極)は、陰極基材21に導電層22として表面抵抗が8Ω/SqのFTOが蒸着されたガラスを使用し、チタニアペースト第1層、チタニアペースト第2層により、酸化チタン膜23を形成した後、ルテニウム系色素24を付着させ、酸化チタン光陰極とした。
【0047】
チタニアペースト第1層には、90−T(Dyesol社製)を使用し、FTO蒸着ガラス上に汎用の塗装方法で塗布し、500℃で30分焼成することによって形成した。チタニアペースト第2層には、WER−40(Dyesol社製)を使用し、チタニアペースト第1層が形成されたFTO蒸着ガラス上に汎用の塗装方法で塗布し、500℃で30分焼成することによって形成した。
【0048】
酸化チタン膜23は、チタニアペースト第1層と第2層とが形成されたFTO蒸着ガラスを、70℃に調整された四塩化チタンのテトラヒドロフラン錯体の40mM水溶液に30分浸漬し、浸漬後に、脱イオン水で洗浄し、更にエタノールで洗浄し、500℃で30分焼成することによって形成した。
【0049】
ルテニウム系色素24の付着は、ルテニウム系色素24とtert−ブチルアルコールとの1:1溶液(0.3mM)中に、作用電極(酸化チタン光陰極)を24時間浸漬し、イソプロパノールですすいだ後、窒素気流下で乾燥させることによって付着させた。ルテニウム系色素24には、シス−ビス(イソチオシアナト)ビス(2,2’−ビピリジル−4,4’−ジカルボン酸)ルテニウム(II)ビス(テトラブチルアンモニウム)色素(N719(Solaronix社製))のアセトニトリル溶液を使用した。
【0050】
以上のように形成したHC/TiO2対極13と作用電極との間に電解質30を密閉することによって、色素増感太陽電池1を形成した。
【0051】
HC/TiO2対極13と作用電極との間は、その外周に25μm厚のsurlynスペーサー(Solaronix社製)を挟持させて、電解質密閉空間を形成した。電解質30は、ヨウ素(0.06M、アセトニトリル溶液)(Sigma Aldrich社製)と、4−tert−ブチルピリジン(0.5M)(Sigma Aldrich社製)と、1−ブチル−9,10−ジフルオロ−3−メチルイミダゾリウムヨウ化物(0.5)(io−li−tec社製)とを混合したものを使用した。電解質30は、HC/TiO2対極13に形成した穴から注入し、注入後に穴をスライドガラスで密閉した。
【0052】
このようにして得られた色素増感太陽電池1について、光電エネルギ−変換効率の比較として電流密度を測定した。そして、0.6mA/cm2以上であるものを◎、0.5mA/cm2以上、0.6mA/cm2未満であるものを○、0.2mA/cm2以上、0.4mA/cm2未満であるものを△、0.2mA/cm2未満であるものを×として評価した。なお、対極にプラチナ電極を用いたものの電流密度は、0.75mA/cm2であった。
【0053】
(試験例1〜3)
試験例1〜3のHC/TiO2分散液の配合は、表2に記載したものである。 試験例1は、ベストモードとなる実施例であり、親水性カーボンにナノカロイド(株式会社シオン製)(親水性カーボンA)を使用したものである。試験例1のHC/TiO2分散液から形成された対極13と得られた色素増感太陽電池は、酸化チタンコロイドによって、対極基材11への密着性に優れ、親水性カーボンによって、電解質30との親和性に優れ、光電エネルギー変換効率に優れたものとなった。また、試験例1のHC/TiO2分散液は、分散液安定性にも優れていた。
【0054】
試験例2は、親水性カーボンを添加しなかったHC/TiO2分散液である。試験例1のHC/TiO2分散液から形成された対極13と得られた色素増感太陽電池と比較して、電解質30との親和性に劣り、光電エネルギー変換効率が劣るものとなった。
【0055】
試験例3は、酸化チタンコロイドを添加しなかったHC/TiO2分散液である。試験例1のHC/TiO2分散液から形成された対極13と得られた色素増感太陽電池と比較して、対極基材11への密着力が劣り、対極耐久性が劣るものとなった。なお、対極13が対極基材11から早期に剥離したため、エネルギー変換効率を測定することはできなかった。
【0056】
(試験例4〜9)
試験例4〜9のHC/TiO2分散液の配合は、表3に記載したものである。試験例4は、親水性カーボンに、アミノシランカップリング剤を使用した親水性カーボンBを使用した。試験例1のHC/TiO2分散液と比較して、分散液安定性がやや劣るものとなった。
【0057】
試験例5は、親水性カーボンの代わりに、修飾基で修飾されていないカーボンCを使用した。試験例1のHC/TiO2分散液と比較して、カーボンCは分散液に分散することができなく、分散液安定性が劣るものとなった。分散が不十分であるため、試験例5のHC/TiO2分散液は対極13を形成することができず、対極耐久性とエネルギー変換効率は測定することができなかった。
【0058】
試験例6は、親水性カーボンに、カーボン粒子と親水基の比率が1:0.3であるカーボンDを使用した。親水基が少ないために、試験例1のHC/TiO2分散液と比較して、分散液安定性がやや劣るものとなった。
【0059】
試験例7は、親水性カーボンに、カーボン粒子と親水基の比率が1:6であるカーボンEを使用した。親水基が多いために、カーボン粒子自体の電解質30との接触面積が小さくなり、試験例1のHC/TiO2分散液から形成された対極13と得られた色素増感太陽電池と比較して、光電エネルギー変換効率がやや劣るものとなった。
【0060】
試験例8は、親水性カーボンに、カーボン粒子の平均粒子径が150nmであるカーボンFを使用した。粒子径が小さいために、試験例1のHC/TiO2分散液から形成された対極13と得られた色素増感太陽電池と比較して、対極13の密着強度が劣り、対極耐久性がやや劣るものとなった。
【0061】
試験例9は、親水性カーボンに、カーボン粒子の平均粒子径が700nmであるカーボンGを使用した。粒子径が大きいために、試験例1のHC/TiO2分散液から形成された対極13と得られた色素増感太陽電池と比較して、表面積が小さくなり、光電エネルギー変換効率がやや劣るものとなった。
【符号の説明】
【0062】
1…色素増感太陽電池、11…対極基材、12…導電層、13…対極、21…陰極基材、22…導電層、23…酸化チタン膜、24…ルテニウム系色素、30…電解質。
図1