【解決手段】積層セラミックコンデンサ10は、セラミック誘電体層11と内部電極層12とが交互に積層される。セラミック誘電体層は、Tiよりも価数の大きいドナー元素およびTiよりも価数が小さくTiおよびドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶するチタン酸バリウムを主成分とする。チタン酸バリウムに対するドナー元素の固溶量は、チタン酸バリウムを100molとした場合にドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下であり、チタン酸バリウムに対するアクセプタ元素の固溶量は、チタン酸バリウムを100molとした場合にアクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下である。
Tiよりも価数の大きいドナー元素、およびTiよりも価数が小さくTiおよび前記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶するチタン酸バリウムを主成分とするセラミック粉末であって、
前記チタン酸バリウムに対する前記ドナー元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記ドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下であり、
前記チタン酸バリウムに対する前記アクセプタ元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記アクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下であり、
比表面積をxとし、軸比c/aをyとした場合に、y≧―0.0003x+1.0106、y≦―0.0002x+1.0114、4≦x≦25、y≦1.0099を満たすことを特徴とするセラミック粉末。
チタン酸バリウムにTiよりも価数の大きいドナー元素、およびTiよりも価数が小さくTiおよび前記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶させてチタン酸バリウム粉末を合成し、当該粉末を用いてグリーンシートを作成する工程と、
前記グリーンシートと、内部電極形成用導電ペーストと、を交互に積層することで積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含み、
前記チタン酸バリウムに対する前記ドナー元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記ドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下であり、
前記チタン酸バリウムに対する前記アクセプタ元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記アクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下であることを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。
前記チタン酸バリウム粉末の比表面積をxとし、軸比c/aをyとした場合に、y≧―0.0003x+1.0106、y≦―0.0002x+1.0114、4≦x≦25、y≦1.0099を満たすことを特徴とする請求項7記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
前記ドナー元素および前記アクセプタ元素を添加して炭酸バリウムと二酸化チタンとを固相合成させることで、前記チタン酸バリウム粉末を合成することを特徴とする請求項7または8記載の積層セラミックコンデンサの製造方法。
チタン酸バリウムにTiよりも価数の大きいドナー元素、およびTiよりも価数が小さくTiおよび前記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶させてチタン酸バリウム粉末を合成する工程を含み、
前記チタン酸バリウムに対する前記ドナー元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記ドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下であり、
前記チタン酸バリウムに対する前記アクセプタ元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記アクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下であり、
前記チタン酸バリウム粉末の比表面積をxとし、軸比c/aをyとした場合に、y≧―0.0003x+1.0106、y≦―0.0002x+1.0114、4≦x≦25、y≦1.0099を満たすことを特徴とするセラミック粉末の製造方法。
前記ドナー元素および前記アクセプタ元素を添加して炭酸バリウムと二酸化チタンとを固相合成させることで、前記チタン酸バリウム粉末を合成することを特徴とする請求項12記載のセラミック粉末の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、セラミック粒子中において添加元素の分布の高低があると、濃度の低い部分で酸素欠陥が多くなり、寿命特性が低下するおそれがある。そこで、Mo,Ta,NbおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を固溶し、濃度ばらつきの小さいチタン酸バリウムを誘電体層として用いることが考えられる。しかしながら、これらの元素はドナー元素として機能するため、リーク電流が高くなるおそれがある。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、誘電体層の寿命特性を向上させつつリーク電流を抑制することができる積層セラミックコンデンサ、セラミック粉末およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、セラミック誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体を備える積層セラミックコンデンサであって、前記セラミック誘電体層は、Tiよりも価数の大きいドナー元素、およびTiよりも価数が小さくTiおよび前記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶するチタン酸バリウムを主成分とし、前記チタン酸バリウムに対する前記ドナー元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記ドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下であり、前記チタン酸バリウムに対する前記アクセプタ元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記アクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下であることを特徴とする。
【0012】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記ドナー元素をMoおよびWの少なくともいずれか一方としてもよい。
【0013】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記アクセプタ元素をMnとしてもよい。
【0014】
本発明に係るセラミック粉末は、Tiよりも価数の大きいドナー元素、およびTiよりも価数が小さくTiおよび前記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶するチタン酸バリウムを主成分とするセラミック粉末であって、前記チタン酸バリウムに対する前記ドナー元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記ドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下であり、前記チタン酸バリウムに対する前記アクセプタ元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記アクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下であり、比表面積をxとし、軸比c/aをyとした場合に、y≧―0.0003x+1.0106、y≦―0.0002x+1.0114、4≦x≦25、y≦1.0099を満たすことを特徴とする。
【0015】
上記セラミック粉末において、前記ドナー元素をMoおよびWの少なくともいずれか一方としてもよい。
【0016】
上記セラミック粉末において、前記アクセプタ元素をMnとしてもよい。
【0017】
本発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法は、チタン酸バリウムにTiよりも価数の大きいドナー元素、およびTiよりも価数が小さくTiおよび前記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶させてチタン酸バリウム粉末を合成し、当該粉末を用いてグリーンシートを作成する工程と、前記グリーンシートと、内部電極形成用導電ペーストと、を交互に積層することで積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、前記チタン酸バリウムに対する前記ドナー元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記ドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下であり、前記チタン酸バリウムに対する前記アクセプタ元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記アクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下であることを特徴とする。
【0018】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記チタン酸バリウム粉末の比表面積をxとし、軸比c/aをyとした場合に、y≧―0.0003x+1.0106、y≦―0.0002x+1.0114、4≦x≦25、y≦1.0099を満たしてもよい。
【0019】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記ドナー元素および前記アクセプタ元素を添加して炭酸バリウムと二酸化チタンとを固相合成させることで、前記チタン酸バリウム粉末を合成してもよい。
【0020】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記ドナー元素をMoおよびWの少なくともいずれか一方としてもよい。
【0021】
上記積層セラミックコンデンサの製造方法において、前記アクセプタ元素をMnとしてもよい。
【0022】
本発明に係るセラミック粉末の製造方法は、チタン酸バリウムにTiよりも価数の大きいドナー元素、およびTiよりも価数が小さくTiおよび前記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶させてチタン酸バリウム粉末を合成する工程を含み、前記チタン酸バリウムに対する前記ドナー元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記ドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下であり、前記チタン酸バリウムに対する前記アクセプタ元素の固溶量は、前記チタン酸バリウムを100molとした場合に前記アクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下であり、前記チタン酸バリウム粉末の比表面積をxとし、軸比c/aをyとした場合に、y≧―0.0003x+1.0106、y≦―0.0002x+1.0114、4≦x≦25、y≦1.0099を満たすことを特徴とする。
【0023】
上記セラミック粉末の製造方法において、前記ドナー元素および前記アクセプタ元素を添加して炭酸バリウムと二酸化チタンとを固相合成させることで、前記チタン酸バリウム粉末を合成してもよい。
【0024】
上記セラミック粉末の製造方法において、前記ドナー元素をMoおよびWの少なくともいずれか一方としてもよい。
【0025】
上記セラミック粉末の製造方法において、前記アクセプタ元素をMnとしてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、誘電体層の寿命特性を向上させつつリーク電流を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0029】
(実施形態)
まず、積層セラミックコンデンサについて説明する。
図1は、積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する両端面に設けられた外部電極20,30とを備える。
【0030】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20が設けられた端面と、外部電極30が設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20と外部電極30とに、交互に導通している。それにより、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、積層チップ10において、誘電体層11と内部電極層12との積層方向(以下、積層方向と称する。)の両端面は、カバー層13によって覆われている。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11と同じである。
【0031】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.2mm、幅0.1mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0032】
外部電極20,30および内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。外部電極20,30および内部電極層12として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。誘電体層11は、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有するチタン酸バリウム(BaTiO
3)を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO
3−αを含む。
【0033】
誘電体層11は、例えば、チタン酸バリウムを主成分とする原材料粉末を焼成することによって得られる。焼成の際に原材料粉末が還元雰囲気にさらされるため、チタン酸バリウムに酸素欠陥が生じる。そこで、本実施形態においては、誘電体層11のチタン酸バリウムは、Tiよりも価数の大きいドナー元素を固溶する。それにより、チタン酸バリウムの酸素欠陥の生成が抑制される。その結果、誘電体層11の寿命特性が向上して信頼性が向上し、高い誘電率が得られ、良好なバイアス特性が得られる。Tiよりも価数の大きいドナー元素として、Mo(モリブデン)およびW(タングステン)の少なくともいずれか一方を固溶することが好ましい。チタン酸バリウム中のTiの価数(4価)よりも大きい価数を有するMoおよびW(例えば、Mo
6+,W
6+)は、チタン酸バリウムにおいて、Tiサイトに置換されてドナー元素として機能する。
【0034】
ドナー元素の合計固溶量が少ないと、酸素欠陥を十分に抑制できないおそれがある。そこで、本実施形態においては、ドナー元素の合計固溶量に下限を設ける。一方、ドナー元素の合計固溶量が多いと、リーク電流が過大となるおそれがある。そこで、本実施形態においては、ドナー元素の合計固溶量に上限を設ける。具体的には、本実施形態においては、チタン酸バリウムに対するドナー元素の合計固溶量は、チタン酸バリウムを100molとした場合にドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下とし、0.1mol以上0.25mol以下とすることが好ましく、0.1mol以上0.2mol以下とすることがさらに好ましい。
【0035】
一方で、誘電体層11のチタン酸バリウムにドナー元素が固溶していると、リーク電流が高くなるおそれがある。そこで、チタン酸バリウムは、Ti(4価)よりも価数が小さくTiおよびドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶する。アクセプタ元素は、Tiサイトに置換される。それにより、チタン酸バリウムの電気的中性が保たれるため、リーク電流を抑制することができる。このアクセプタ元素として、Mn(マンガン),Ni,Cu,Fe(鉄),Cr(クロム),Co(コバルト),Zn(亜鉛),希土類元素(Y(イットリウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム))の少なくとも1種を用いることが好ましく、Mn(例えば、Mn
2+)を用いることが特に好ましい。また、Mo,Wのイオン半径はTiのイオン半径よりも小さく、アクセプタ元素のイオン半径はTiのイオン半径よりも大きい。Mo,Wの少なくともいずれか一方と同時にアクセプタ元素を固溶することで、格子歪が解消され、チタン酸バリウムのc/a値(軸比)が上がり、チタン酸バリウムのc/a値の理論値である1.0099に近い値が得られる。その結果、チタン酸バリウムの結晶性が向上し、誘電体層11の誘電率が向上する。
【0036】
なお、イオン半径は、以下のとおりである。6配位Ti(+4価):0.605Å、Mn(+2価):0.67Å、Mo(+6価):0.59Å、W(+6価):0.6Å、Ni(+2価):0.69Å、Cu(+2価):0.73Å、Fe(+2価):0.61Å、Cr(+3価):0.615Å、Co(+2価):0.65Å、Zn(+2価):0.74Å、Y(+3価):0.9Å、Dy(+3価):0.912Å、Ho(+3価):0.901Å、Er(+3価):0.89Å。これらは、文献「R.D.Shannon,Acta Crystallogr.,A32,751(1976)」に基づく値である。
【0037】
アクセプタ元素の合計固溶量が少ないと、チタン酸バリウムの電気的中性を十分に保つことができないおそれがある。そこで、本実施形態においては、アクセプタ元素の合計固溶量に下限を設ける。一方で、アクセプタ元素の合計固溶量が多いと、チタン酸バリウムの誘電率が低くなるおそれがある。そこで、本実施形態においては、アクセプタ元素の合計固溶量に上限を設ける。具体的には、本実施形態においては、チタン酸バリウムに対するアクセプタ元素の合計固溶量は、チタン酸バリウムを100molとした場合にアクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下とし、0.03mol以上0.15mol以下とすることが好ましく、0.04mol以上0.15mol以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
ドナー元素およびアクセプタ元素を固溶するチタン酸バリウムのc/a値が低いと、結晶性が低下し、高い誘電率が得られないおそれがある。そこで、本実施形態においては、チタン酸バリウムのc/a値に下限を設けることが好ましい。例えば、本実施形態においては、チタン酸バリウムのc/a値を1.003以上1.0099以下とすることが好ましい。
【0039】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造工程について説明する。まず、誘電体層11を形成するための原料粉末を用意する。誘電体層11は、BaおよびTiを含んでいる。これらは、通常、チタン酸バリウムの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。
【0040】
チタン酸バリウムはペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このチタン酸バリウムは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得られる。チタン酸バリウムの合成方法としては従来種々の方法を用いることができる。例えば、固相法、ゾルゲル法、水熱法等を用いることができる。
【0041】
本実施形態においては、誘電体層11のチタン酸バリウムにおいて、ドナー元素およびアクセプタ元素を均一に分散させるため、一つの方法として、チタン原料とバリウム原料に添加元素を含む化合物(例えば酸化物)を混合してチタン酸バリウムの合成反応を実施して、予めドナー元素およびアクセプタ元素が略均一に固溶したチタン酸バリウム粒子とする。あるいは、十分に微細な粒子径(高い比表面積)を持つチタン酸バリウムを固相法やゾルゲル法、水熱法などによりあらかじめ合成しておき、ドナー元素およびアクセプタ元素を混合し、所望の粒子径まで粒成長させる(比表面積を低下させる)ことでも、予めドナー元素およびアクセプタ元素が略均一に固溶したチタン酸バリウム粒子となる。
【0042】
図2は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。以下、具体的な製造方法について説明する。
【0043】
(混合・分散処理)
混合・分散処理においては、ドナー元素の化合物と、アクセプタ元素の化合物と、Ba化合物と、Ti化合物とを水溶液中で混合し、分散させる。ドナー元素としてMoを用いる場合には、例えば、モリブデン酸アンモニウム{(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O}、酸化モリブデン(MoO
3)などを用いることができる。ドナー元素としてWを用いる場合には、酸化タングステン(WO
3)などを用いることができる。アクセプタ元素としてMnを用いる場合には、炭酸マンガン(MnCO
3)、酸化マンガン(Mn
3O
4)やクエン酸マンガン(C
12H
10Mn
3O
14)などを用いることができる。Ba化合物として、炭酸バリウム(BaCO
3)などを用いることができる。Ti化合物として、二酸化チタン(TiO
2)などを用いることができる。
【0044】
例えば、モリブデン酸アンモニウムおよび酸化タングステンを水に分散させ、分散剤としてカルボン酸アンモニウム塩を添加した水溶液に、Ba/Tiモル比1.001〜1.010の範囲で炭酸バリウム(比表面積15m
2/g以上)、二酸化チタン(比表面積20m
2/g以上)、炭酸マンガンを加えてスラリーとし、混合・分散処理を行う。
【0045】
チタン酸バリウムに対するドナー元素の合計の添加量は、チタン酸バリウム=100mol%とした場合にドナー元素の酸化物で換算して0.05mol〜0.3molである。チタン酸バリウムに対するアクセプタ元素の合計の添加量は、チタン酸バリウム=100mol%とした場合にアクセプタ元素の酸化物で換算して0.02mol〜0.2molとする。スラリーは混合・分散処理する。この混合・分散工程では、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、湿式ジェットミルなどを用いる事ができる。いずれの混合方法においても原料混合粉末の熱分析測定にて、所定の温度以下で、熱分解が終了する程度まで行うことが好ましい。原料混合粉末の熱分解の終了温度が低いほど、二酸化チタンと炭酸バリウムがより均一に混合していると判断でき、所望の範囲の比表面積とc/aのチタン酸バリウムが合成できる。
【0046】
(仮焼処理)
混合・分散処理を終えたスラリーを100℃〜300℃で乾燥し、水を除去する。乾燥粉末を800℃〜1000℃で、0.5〜5時間仮焼する。仮焼雰囲気は、特に限定されないが、窒素流通下、露点を−65℃以下に制御したAIRガスやN
2,Heなど不活性ガス流通下、あるいは10〜1000Paの低圧雰囲気で行うと、固相反応によって発生する炭酸ガスを効率的に除去でき、反応が均一化するため好ましい。仮焼によって、チタン酸バリウム中にドナー元素およびアクセプタ元素が固溶する。また、誘電率制御の観点から、粉末X線回折測定から求めたc/a値(軸比)は1.003以上が好ましい。
【0047】
チタン酸バリウム中にドナー元素およびアクセプタ元素が固溶しているかどうかは、粉体のDSC測定(差走査熱量測定)により判断できる。ドナー元素およびアクセプタ元素が固溶していないものに比べ120℃付近の正方晶と立方晶相との間の転移ピーク温度が1℃以上低温にシフトしていれば、チタン酸バリウム中にドナー元素およびアクセプタ元素が固溶していると判断することができる。
【0048】
得られたチタン酸バリウム粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加してもよい。添加化合物としては、MgO、MnCO
3、希土類元素(Y,Dy,Tm(ツリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロビウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルピウム),Ho及びEr)の酸化物、並びにCr,V(バナジウム),Co,Ni,Li(リチウム),B,Na(ナトリウム)、K(カリウム)及びSi(ケイ素)の酸化物が挙げられる。
【0049】
上記のようにして得られたチタン酸バリウム粉末について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節したり、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。
【0050】
チタン酸バリウム粉末の比表面積が小さいと、粒子が粗くなり、グリーンシートの粗さが悪化するおそれがある。そこで、チタン酸バリウム粉末の比表面積に下限を設けることが好ましい。一方で、チタン酸バリウム粉末の比表面積が大きいと、焼成挙動が不安定となり、焼結時に異常粒成長するおそれがある。そこで、チタン酸バリウム粉末の比表面積に上限を設けることが好ましい。具体的には、本実施形態においては、チタン酸バリウム粉末の比表面積を4m
2/g以上25m
2/gとすることが好ましい。
【0051】
なお、チタン酸バリウム粉末の比表面積が小さい場合には、c/a値が高くないと高い誘電率が得られないおそれがある。一方、比表面積が大きい場合には、c/a値が十分高くならず、必要な誘電率が得られないおそれがある。酸素欠陥を抑制するためにドナー元素を添加すると、さらにc/aが低下してしまう。本発明者らは、鋭意研究の結果、比表面積とc/a値との間に最適範囲があることを突き止めた。具体的には、チタン酸バリウムの比表面積をxとし、c/a値(軸比)をyとした場合に、y≧―0.0003x+1.0106、y≦―0.0002x+1.0114、4≦x≦25、y≦1.0099を満たすような結晶構造をチタン酸バリウム粉末に持たせた場合に、高い誘電率が得られることがわかった。上記の比表面積とc/a値との間の関係は、Tiのイオン半径よりも大きいイオン半径のアクセプタ元素をチタン酸バリウム粉末に固溶させることで実現することができる。なお、上記範囲について、
図3で例示する。
【0052】
そして、得られたチタン酸バリウム粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダ、エタノール及びトルエン等の有機溶剤並びにフタル酸ジオクチル(DOP)等の可塑剤を加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に厚み1.2μm以下の帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。そして、誘電体グリーンシートの表面に、有機バインダを含む金属導電ペーストをスクリーン印刷やグラビア印刷により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極層のパターンを配置する。前記金属としては、コストの観点からニッケルが広く採用されている。なお、前記金属導電ペーストには共材として、平均粒子径が50nm以下のチタン酸バリウムを均一に分散させてもよい。
【0053】
(積層処理)
その後、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた前記誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20,30に交互に引き出されるように、所定層数(例えば100〜500層)だけ積層する。積層した誘電体グリーンシートの上下にカバー層13となるカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットし、その後に外部電極20,30となるNi導電ペーストを、カットした積層体の両側面に塗布して乾燥させる。これにより、積層セラミックコンデンサ100の成型体が得られる。
【0054】
(焼成処理)
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの成型体を、250〜500℃のN
2雰囲気中で脱バインダ処理した後に、還元雰囲気中で1100〜1300℃で10分〜2時間焼成することで、前記誘電体グリーンシートを構成する各化合物が焼結して粒成長する。このようにして、内部に焼結体からなる誘電体層11と内部電極層12とが交互に積層されてなる積層体と、積層方向上下の最外層として形成されるカバー層13とを有する積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0055】
なお、本実施形態においてはさらに、600〜1000℃で再酸化処理を実施してもよい。
【0056】
また、積層セラミックコンデンサの製造方法に関する他の実施形態としては、外部電極20,30と誘電体層11とを別の工程で焼成させてもよい。例えば誘電体層11を積層した積層体を焼成した後に、その両端部に導電ペーストを焼き付けて外部電極20,30を形成してもよい。あるいは、スパッタリング法によって、積層体の両端面に外部電極を厚膜形成してもよい。
【0057】
ここで、本実施形態の効果について整理する。本実施形態においては、誘電体層11のチタン酸バリウムは、Tiよりも価数の大きいドナー元素を固溶し、チタン酸バリウムに対するドナー元素の合計の固溶量は、チタン酸バリウムを100molとした場合にドナー元素を酸化物で換算して0.05mol以上0.3mol以下である。この場合、チタン酸バリウムの酸素欠陥の生成が抑制される。それにより、誘電体層11の寿命特性が向上して信頼性が向上し、高い誘電率が得られ、良好なバイアス特性が得られる。また、誘電体層11のチタン酸バリウムは、Tiよりも価数が小さくTiおよび上記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を固溶し、チタン酸バリウムに対するアクセプタ元素の合計の固溶量は、チタン酸バリウムを100molとした場合にアクセプタ元素を酸化物で換算して0.02mol以上0.2mol以下である。この場合、チタン酸バリウムの電気的中性が保たれるため、リーク電流を抑制することができる。
【0058】
また、上記ドナー元素および上記アクセプタ元素を予め固溶するチタン酸バリウム粉末を含むグリーンシートを焼成することで、得られる誘電体層11におけるチタン酸バリウムにおける当該添加元素のばらつきが抑制される。それにより、上記効果を十分に得ることができる。チタン酸バリウム粉末の比表面積をxとし、c/a値(軸比)をyとした場合に、y≧―0.0003x+1.0106、y≦―0.0002x+1.0114、4≦x≦25、y≦1.0099を満たすような結晶構造をチタン酸バリウム粉末に持たせることが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0060】
(実施例1)
七モリブデン酸六アンモニウム四水和物{(NH
4)
6Mo
7O
24・4H
2O}をイオン交換水に溶解させ、分散剤を添加した水溶液に、炭酸バリウム(30m
2/g)および二酸化チタン(50m
2/g)をBa/Tiモル比=1となるよう加えてスラリーとし、炭酸マンガンを加え、ビーズミルを使用して混合・分散した。なお、当該スラリーにおいて、チタン酸バリウム100molとしたとき、Mo添加量はMoO
3換算で0.05mol、Mn添加量はMnO
2換算で0.02molとした。得られたスラリーを乾燥して水を除去し、900℃で仮焼を行い、解砕処理を施し、比表面積が10m
2/gのMoMn固溶チタン酸バリウムを作製した。
【0061】
なお、BET比表面積は、粉体を200℃で窒素ガスを流通し20分以上乾燥した後、マックソーブ(HM−model 1210)にて測定を行ったところ、10m
2/gであった。
【0062】
MoMn固溶チタン酸バリウムの粉末XRD測定を、リガクTTRIIIを用いて行い、RIETAN2000を用いてリートベルト解析を行ってプロファイルフィッティングを行い、c軸とa軸の長さの比から、c/a値を求めた。c/a値=1.0094であった。粉体30mgを、アルミパン中に密閉し、DSC(示差走査熱量計リガク製thermo plus DSC8230)にて100℃から150℃まで10℃/minにて昇降温して測定し、降温時のピーク位置を算出したところ、121℃であった。後述する比較例1で作製したMoとMnが固溶していないチタン酸バリウムが123.5℃であったので、1℃以上ピーク温度は低温化していた。すなわち、チタン酸バリウム粉末にMoおよびMnが固溶していることが確認された。
【0063】
XRD測定条件については、表1に示す。
【表1】
【0064】
次に、MoMn固溶チタン酸バリウム100molに対し、Ho
2O
3=0.5mol、MnCO
3は、あらかじめ含まれているMn量と合わせて=0.2mol、V
2O
5=0.1mol、SiO
2=1.0molの比率で添加材を添加し、また炭酸バリウムを添加してBa/Tiモル比(MoMn固溶チタン酸バリウム及び添加される炭酸バリウムや二酸化チタン合計におけるBaとTiのモル比)が1.000となるようにし、溶剤を加えてスラリーとした。そのスラリーにPVBバインダを加え、PETフィルム上に1.2μmの厚みでグリーンシートを塗工した。
【0065】
続いて、内部電極としてNi導電ペーストをグリーンシート上に印刷し、これを用いて長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmの400層の積層セラミックコンデンサを作製した。脱バインダ処理を行った後、焼成については、1200℃還元雰囲気で焼成、N
2雰囲気800℃で再酸化処理を行った。焼成後の誘電体の層厚は0.8μm、内部電極の厚みは0.9μmであった。
【0066】
誘電体層に含まれるMoおよびMnの量は、ICPにて測定した。チタン酸バリウム100molとしたとき、MoO
3換算で0.05mol、MnO
2換算で0.02molである事を確認した。
【0067】
(実施例2,7,8)
実施例2,7,8は、チタン酸バリウム粉末にあらかじめ固溶させるMo,Mn量を変化させた。実施例7では、チタン酸バリウム粉末にMnを後添加した。その他は、実施例1と同様の条件とした。実施例2,7,8で作製したMo,Mnをあらかじめ固溶したチタン酸バリウム粉末のDSCピーク温度は、比較例1のチタン酸バリウムに比べ、1℃以上低温シフトしている事を確認した。
【0068】
(実施例3〜5)
実施例3〜5は、チタン酸バリウム粉末にあらかじめ固溶させるMo,Mn量を、チタン酸バリウム100molとしたときMoO
3換算で0.2mol、MnO
2換算で0.04molとした。実施例3においては、合成温度を950℃とした。実施例4においては、合成温度を1000℃として粉砕を強めBET値を4とした。実施例5においては、TiO
2比表面積が300m
2/gのものを用い、合成温度を800℃とした。実施例3〜5においては、チタン酸バリウム粉末にMnを後添加した。その他は、実施例1と同様の条件とした。実施例3〜5で作製したMo,Mnをあらかじめ固溶したチタン酸バリウム粉末のDSCピーク温度は、比較例1のチタン酸バリウムに比べ、1℃以上低温シフトしている事を確認した。
【0069】
(実施例6)
実施例6においては、Mo原料の代わりに、WO
3粉末を用いて、あらかじめ固溶させるWとMn量を、チタン酸バリウム100molとしたとき、WO
3換算で0.2mol、MnO
2換算で0.04molとした。また、チタン酸バリウム粉末にMnを後添加した。その他は、実施例1と同様の条件とした。
【0070】
(実施例9〜11)
実施例9〜11は、あらかじめ固溶させるMoとMn量を、チタン酸バリウム100molとしたとき、MoO
3換算で0.2mol、MnO
2換算で0.04molとした。実施例9においては、合成温度を1020℃とした。実施例10においては、TiO
2の比表面積が7m
2/g原材料を用いて合成し、合成温度を920℃とした。実施例11においては、BaCO
3とTiO
2ではなく水熱合成にて作製した50m
2/gのチタン酸バリウムを原材料として用いて、800℃で熱処理して、MoとMnが固溶した20m
2/gのチタン酸バリウムを作製した。実施例9〜11において、チタン酸バリウム粉末にMnを後添加した。その他は、実施例1と同様の条件とした。
【0071】
(分析)
図4は、測定結果の一覧(チタン酸バリウムに予め固溶させたMo,W,Mn量、後から添加したMo,Mn量、比表面積、c/a値、比誘電率ε、高温加速寿命試験寿命値、リーク電流値)を示す図である。比誘電率εは、作製した積層セラミックコンデンサの25℃、1kHz、0.55Vrms/μmの時の容量を求めることで算出した。寿命については、高温加速寿命(125℃、10V/μm直流電界下にて絶縁抵抗率(ρ)が1×10
10Ωcmになるまでの時間)を測定した。リーク電流については、高温加速寿命の測定開始から5秒後のリーク電流値を測定した。
【0072】
図4に示すように、いずれの実施例においても、高い比誘電率εが得られ、寿命が長くなった。これは、誘電体層11のチタン酸バリウムが、チタン酸バリウム100molとしたとき、上記ドナー元素の酸化物で換算して0.05mol以上固溶し、上記アクセプタ元素の酸化物で換算して0.2mol以下固溶したからであると考えられる。また、いずれの実施例においても、リーク電流が抑制された。これは、誘電体層11のチタン酸バリウムが、Tiよりも価数が小さくTiおよび上記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素を、チタン酸バリウム100molとしたとき、上記アクセプタ元素の酸化物で換算して0.02mol以上固溶し、Tiよりも価数の大きいドナー元素を、チタン酸バリウム100molとしたとき、上記ドナー元素の酸化物で換算して0.3mol以下固溶したからであると考えられる。
【0073】
なお、チタン酸バリウム粉末の比表面積が同じである実施例1と実施例2とを比較した場合、Mnの合計の添加量は同じ(0.2mol)であるが、実施例2の方がよりリーク電流が抑制された。また、チタン酸バリウム粉末の比表面積が同じである実施例7と実施例8とを比較した場合においても、Mnの合計の添加量は同じ(0.2mol)であるが、実施例8の方がよりリーク電流が抑制された。これは、チタン酸バリウム中に添加元素を予め固溶させることで、チタン酸バリウム中の添加元素が均一に拡散したからであると考えられる。
【0074】
実施例9と比較して、他の実施例では寿命が2万分以上とさらに長くなった。これは、チタン酸バリウム粉末の比表面積を4m
2/g以上としたことで、グリーンシートの粗さの悪化が抑制されたからであると考えられる。
【0075】
実施例10,11と比較して、実施例9以外の他の実施例では寿命がさらに長くなり、比誘電率が2500〜5000のより好ましい範囲に入った。これは、c/a値と比表面積との関係が
図3の範囲に入って高い結晶性が得られたからであると考えられる。
【0076】
(比較例1,2)
比較例1,2においては、Tiよりも価数の大きいドナー元素と、Tiよりも価数が小さくTiおよび上記ドナー元素よりもイオン半径が大きいアクセプタ元素とを固溶しないチタン酸バリウム粉末を用いた。比較例1においては、MoとMnを後から添加した。比較例2においては、Mnのみ後から添加した。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例1,2においては、十分な寿命が得られなかった。これは、Moを後から添加してもチタン酸バリウム中にMoが十分に固溶しなかったからであると考えられる。
【0077】
(比較例3)
比較例3においては、Moのみ含むチタン酸バリウムを作製し、Mnを後から添加した。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例3では、リーク電流を十分に抑制できなかった。これは、チタン酸バリウム中にMoが固溶する一方で、Mnを後から添加してもチタン酸バリウム中にMnが十分に固溶しなかったからであると考えられる。
【0078】
(比較例4)
比較例4においては、あらかじめ固溶させるMoとMn量を、チタン酸バリウム100molとしたとき、MoO
3換算で0.3mol、MnO
2換算で0.25molとした。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例4においては、高い比誘電率εが得られなかった。これは、チタン酸バリウム中のMnの固溶量が多かったからであると考えられる。
【0079】
(比較例5)
比較例5においては、あらかじめ固溶させるMoとMn量を、チタン酸バリウム100molとしたとき、MoO
3換算で0.05mol、MnO
2換算で0.01molとした。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例5においては、リーク電流を十分に抑制できなかった。これは、チタン酸バリウム中のMnの固溶量が少なかったからであると考えられる。
【0080】
(比較例6)
比較例6においては、あらかじめ固溶させるMoとMn量を、チタン酸バリウム100molとしたとき、MoO
3換算で0.04mol、MnO
2換算で0.04molとし、さらにMnを後から添加した。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例6においては、長い寿命が得られなかった。これは、Mnを後から添加してもチタン酸バリウム中にMnが十分に固溶しなかったからであると考えられる。
【0081】
(比較例7)
比較例7においては、あらかじめ固溶させるMoとMn量を、チタン酸バリウム100molとしたとき、MoO
3換算で0.35mol、MnO
2換算で0.04molとし、さらにMnを後から添加した。その他の条件は、実施例1と同様とした。比較例7においては、リーク電流を十分に抑制できなかった。これは、チタン酸バリウム中のMoの固溶量が多かったからであると考えられる。
【0082】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。