【解決手段】同等の写真効果が得られる撮影の条件、検査目的部位200の動き及び位置、並びに、X線検出器系50の種類に基づく複数の撮影条件を準備するステップと、複数の撮影条件のそれぞれを、X線管焦点のMTFを表す近似関数と、X線検出器系50のMTFを表す近似関数と、検査目的部位200の動きのMTFを表す近似関数と、を乗じた総合MTFを表す近似関数に代入して、複数の撮影条件ごとに総合MTFシミュレーションデータを作成するステップと、作成するステップで作成した複数の撮影条件のそれぞれの総合MTFシミュレーションデータを比較することで、複数の撮影条件のうちの最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定するステップと、を含む。
前記作成するステップでは、前記複数の撮影条件をそれぞれ代入した前記近似関数SMTF(u)に、前記空間周波数uとして0.25×n(n=1〜6の整数)で示される値をn=1における値から順次代入して、当該近似関数SMTF(u)のそれぞれが絶対値化される前の値がn=i(i=2〜6の整数)のときに初めて負になる場合は、当該近似関数SMTF(u)のそれぞれに、当該空間周波数uとして0.25×(i−1)で示される値を代入して当該複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータを作成し、
前記決定するステップでは、前記複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最も数値の大きい総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を決定する
請求項2〜11のいずれか1項に記載のX線撮影条件決定方法。
前記作成するステップでは、前記複数の撮影条件をそれぞれ代入した前記近似関数SMTF(u)をグラフ化することで、当該複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータを作成し、
前記決定するステップでは、
1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で前記複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータに偽解像が生じていない場合、1.0〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、当該複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を決定し、
1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で前記複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータに偽解像が生じている場合、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で偽解像が生じない空間周波数において、当該複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を決定する
請求項2〜11のいずれか1項に記載のX線撮影条件決定方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(本発明の一態様を得るに至った経緯)
像を形成する諸因子(撮影条件)とフィルムに写真濃度を与える写真効果との実験的関係式が次式1のように知られている。
【0024】
ここで、Eをフィルムに与えられた写真効果、Kを定数、Vを管電圧(kV)、iを管電流(mA)、tを撮影時間(sec)、sを増感率(係数)、fをフィルム感度、Zを焦点構成物質の原子番号、udを被検体の減弱係数と厚さ、rを焦点フィルム間距離(cm)、Bをグリッドの露出倍数、Gを照射野の大きさに関する因子、nを実験的に求められる管電圧に特有のべき乗とする。
【0025】
また、同じX線システムで、同じ被検体を撮影し、同じ写真効果が得られるとする場合、2つの撮影条件における写真効果には、次式2が成り立つ。
【0027】
ここで、V1、i1、t1、r1、n1は、1つの撮影条件における管電圧、管電流、撮影時間、焦点フィルム間距離、管電圧特有のべき乗である。また、V2、i2、t2、r2、n2は、他の撮影条件における管電圧、管電流、撮影時間、焦点フィルム間距離、管電圧特有のべき乗である。
【0028】
また、式2をまとめると次式3のように表される。
【0030】
式3では、例えば、焦点フィルム間距離を同じとし、他の撮影条件のパラメーターを変更するとき、管電圧を上げると、管電流もしくは撮影時間を下げる、又は、管電流及び撮影時間の両方を下げることで、同等の写真効果を得ることができることが示されている。焦点フィルム間距離を同じとしても数多くの撮影条件が存在するが、焦点フィルム間距離も可動する場合、無限に近い数の撮影条件が存在する。
【0031】
また、同等の写真効果を得る式3が、デジタル検出器系にも成り立つと仮定すると、デジタル検出器系の照射量因子の表示単位であるEI値にも式3を適用できる。これにより、EI値同等撮影条件も同様に、無限に近い数が存在することになる。しかし、実際には、例えば、ルーチン検査では、X線管焦点とX線検出器系との距離(焦点フィルム間距離)が一定の状態で、パラメーターの組み合わせが考えられることが多いので、パラメーターの組み合わせ数を限定することができる。
【0032】
しかし、例えばX線管焦点とX線検出器系との距離等のパラメーターの限定をしても、その他のパラメーターの組み合わせは数多く存在し、撮影条件を決定する際に撮影者を悩ませる。
【0033】
そこで、撮影条件の違いによる解像度特性の違いをコンピューターシミュレーションすることで、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定する。
【0034】
以下では、本発明の実施の形態に係るX線撮影条件決定方法、プログラム、及び、X線システムについて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。従って、以下の実施の形態で示される数値、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0035】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0036】
(実施の形態1)
[X線システム]
図1は、実施の形態1に係るX線システム1の全体構成を示す図である。
【0037】
X線システム1は、被検体の検査目的部位のX線画像を取得するためのシステムであって、コンピュータ10、操作パネル20、高電圧発生装置30、X線管40、X線検出器系50及び表示装置60を備える。また、
図1には、被検体100及び被検体100の一部である検査目的部位200が示されている。
【0038】
コンピュータ10は、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定するためのプログラム(以下プログラムと呼ぶ)を実行する。コンピュータ10については、後述する
図2及び
図3で詳細に説明する。
【0039】
操作パネル20は、撮影者の操作を受け付けるパネルであり、例えば、検査目的部位200の選択の操作を受け付ける。検査目的部位200の選択とは、検査目的部位200が胸部であるか腹部であるか等の選択のことである。また、操作パネル20は、例えば、X線管40の焦点(以下、X線管焦点と呼ぶ)と検査目的部位200との距離a、X線管焦点とX線検出器系50との距離b、及び、被検体100の動きcを受け付ける。なお、操作パネル20は、操作パネル20が受け付けた情報を表示する表示部を備えてもよい。また、操作パネル20は、コンピュータ10に備えられてもよく、操作パネル20が受け付けた情報をコンピュータ10が備える表示部が表示してもよい。
【0040】
高電圧発生装置30は、X線管40へ高電圧の直流電流を供給するための装置である。高電圧発生装置30は、例えば、コンピュータ10が決定した撮影条件に応じた管電圧及び管電流をX線管40に供給する。
【0041】
X線管40は、高電圧発生装置30から供給される管電圧及び管電流に応じたX線を発する装置であって、例えば、小焦点(公称焦点サイズ0.6mm)及び大焦点(公称焦点サイズ1.2mm)の2つの焦点を搭載する。小焦点及び大焦点は用途により切り替えられ、例えば、大きな管電流(例えば、約100〜400mA)が供給されるときには大焦点が使用され、小さな管電流(例えば、約50mA〜125mA)が供給されるときには小焦点が使用される。
【0042】
X線検出器系50は、被検体100(検査目的部位200)を透過したX線を検出する。X線検出器系50は、アナログX線検出器系の場合、例えば、フィルム及び増感紙の組み合わせである。また、X線検出器系50は、デジタルX線検出器系の場合、例えば、フラットパネルディテクターである。
【0043】
表示装置60は、X線検出器系50が検出したX線のX線画像を表示する表示装置である。なお、コンピュータ10が備える表示部が、X線検出器系50が検出したX線のX線画像を表示してもよい。
【0044】
また、距離aは、X線管焦点と検査目的部位200面との距離(SOD:Source−Object Distance)である。距離bは、X線管焦点とX線検出器系50面との距離(SID:Source−Image Distance)である。距離cは、X線の入射方向に対して垂直面の被検体100の動き量である。
【0045】
[コンピュータ]
次に、コンピュータ10の詳細について
図2及び
図3を用いて説明する。
【0046】
図2は、実施の形態1に係るコンピュータ10の機能の一例を示すブロック図である。
【0047】
図3は、実施の形態1に係るコンピュータ10の動作の一例を示すフローチャートである。
【0048】
コンピュータ10は、記憶部11、準備部12、作成部13及び決定部14を有する。
【0049】
記憶部11は、コンピュータ10に実行させるためのプログラムを記憶する。コンピュータ10は、記憶部11に記憶されたプログラムに基づいて動作する。コンピュータ10の具体的な動作は、例えば、準備部12、作成部13及び決定部14が行う。
【0050】
準備部12は、動きを有する被検体の検査目的部位のX線画像において、同等の写真効果が得られる撮影の条件、検査目的部位200の動き及び位置、並びに、X線検出器系50の種類に基づく複数の撮影条件を準備する(ステップS11)。具体的には、準備部12は、複数の撮影条件として、X線管焦点の公称焦点サイズと管電圧及び管電流とに基づく値f、撮影時間中の検査目的部位200の動き量d、X線検出器系50に基づく値S、及び、X線管焦点とX線検出器系50面との距離をX線管焦点と検査目的部位200面との距離で割った拡大率Mを準備する。ステップS11における動作(準備部12の動作)については、後述する
図4〜
図7で詳細に説明する。
【0051】
次に、作成部13は、準備部12が準備した複数の撮影条件のそれぞれを、検査目的部位200面でのX線管焦点のMTF(Modulation Transfer Function)を表す近似関数と、検査目的部位200面でのX線検出器系50のMTFを表す近似関数と、検査目的部位200の動きのMTFを表す近似関数と、を乗じた総合MTFを表す近似関数に代入して、複数の撮影条件ごとに総合MTFシミュレーションデータを作成する。
【0052】
ここで、検査目的部位200面でのX線管焦点のMTFを表す近似関数と、検査目的部位200面でのX線検出器系50のMTFを表す近似関数と、検査目的部位200の動きのMTFを表す近似関数と、これらを乗じた総合MTFを表す近似関数と、について説明する。
【0053】
X線管焦点、検査目的部位200の動き、及び、X線検出器系50は、X線画像にボケを与える3大要素となる。そして、X線管焦点によるMTFの近似関数をG(u1)、検査目的部位200の動きによるMTFの近似関数をT(u)、X線検出器系50のMTFの近似関数をE(u2)とすると、検査目的部位200面での総合MTFの近似関数SMTF(u)は、次式4のように表される。
【0055】
uは、検査目的部位200面での空間周波数(cycles/mm)である。u1は、X線管焦点面での空間周波数である。u2は、X線検出器系50面での空間周波数である。一般に、それぞれの近似式は、正規化されている。
【0056】
なお、合成すべき要素のMTFが増えたときは、フーリエ積分のコンボリューションの定理によって、次式5のように単純に乗じてもよい。
【0058】
X線画像にボケを与える3大要素を除く他の要素のMTF群がある場合、式5における×・・・は、他の要素のMTF群を表す。ただし、X線画像にボケを与える3大要素を除く他の要素によるMTFを考慮しないときには、式5における×・・・は1とおける(つまり、式5は、式4となる)。
【0059】
X線管焦点面におけるX線管焦点のMTFを表す近似関数G(u1)は、X線管焦点のX線強度分布の近似関数から、フーリエコサイン変換がなされ、さらに、正規化された数式として、次式6のように表される。
【0061】
fは、X線管焦点の公称焦点サイズと管電圧及び管電流とに基づく値であるが、詳細は後述する。
【0062】
X線の入射方向に対して垂直面の検査目的部位200の動きのMTFを表す近似関数T(u)は、検査目的部位200の動きのX線強度分布の近似関数から、フーリエコサイン変換がなされ、さらに、正規化された数式として、次式7のように表される。
【0064】
uは、検査目的部位200面(X線の入射方向に対して検査目的部位200を含む垂直面)における空間周波数である。dは、撮影時間中の検査目的部位の動き量(mm)であるが、詳細は後述する。
【0065】
X線検出器系50(例えば増感紙)のX線強度分布の近似式をe(x)とすると、近似式e(x)は、次式8のように表される。
【0067】
xは、X線強度分布の原点からの距離(mm)である。
【0068】
Sは、X線検出器系50に基づく値であるが、詳細は後述する。
【0069】
そして、式8を、フーリエコサイン変換し、さらに、正規化したX線検出器系50(増感紙)面のMTFを表す近似関数E(u2)は、次式9のように表される。
【0071】
ただし、式6に示されるX線管焦点のMTFは、X線管焦点面でのMTFであり、式9に示されるX線検出器系50(増感紙)のMTFは、X線検出器系50面でのMTFであるので、各MTFを合成できるようにする必要がある。そこで、X線管焦点面でのX線管焦点のMTF、及び、X線検出器系50面でのX線検出器系50のMTFを、拡大率Mを用いて検査目的部位200面でのMTFに変換する。
【0072】
検査目的部位200面でのX線管焦点のMTFを表す近似関数G(u)は、次式10のように表される。
【0074】
検査目的部位200面でのX線検出器系50(増感紙)のMTFを表す近似関数E(u)は、次式11のように表される。
【0076】
また、拡大率Mは、次式12のように表される。
【0078】
a及びbは、上述した
図1に示される距離a及びbのことである。
【0079】
これにより、総合MTFを表す近似関数SMTF(u)は、次式13のように表される。
【0081】
作成部13は、このようにして表される総合MTFを表す近似関数SMTF(u)に、準備部12が準備した複数の撮影条件をそれぞれ代入して、複数の撮影条件ごとに総合MTFシミュレーションデータを作成する。
【0082】
次に、決定部14は、作成部13が作成した複数の撮影条件のそれぞれの総合MTFシミュレーションデータを比較することで、複数の撮影条件のうちの最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定する(ステップS13)。ステップS13における動作(決定部14の動作)については、後述する
図8で詳細に説明する。
【0083】
[撮影条件の準備]
次に、準備部12に動作の詳細について
図4〜
図7を用いて説明する。
【0084】
図4は、実施の形態1に係る準備部12の動作の一例を示すフローチャートである。
図4には、同等の写真効果が得られる撮影の条件(EI値同等撮影条件)、検査目的部位200の動き及び位置、並びに、X線検出器系50の種類に基づく複数の撮影条件を準備するための準備部12の動作の一例が示される。
【0085】
まず、準備部12は、検査目的部位200に応じて管電圧を設定する(ステップS21)。具体的には、管電圧は、被検体100(検査目的部位200)のX線画像のコントラストに影響し、撮影する検査目的部位200によって、好ましい管電圧がある。よって、例えば、記憶部11は、X線画像のコントラストが高くなる、検査目的部位200と使用する管電圧の幅とが対応付けられたデータを予め記憶しておく。そして、例えば、操作パネル20が操作され、撮影される検査目的部位200が選択されることで、準備部12は、選択された検査目的部位200に対応する管電圧の幅を呼び出す。このようにして、同等の写真効果が得られる撮影の条件(EI値同等撮影条件)をすべて準備するのではなく、検査目的部位200に応じて、X線画像における検査目的部位200のコントラストが高くなるような管電圧の幅を設定する。これにより、準備部12は、X線システム1における撮影条件の組み合わせ数を限定する。言い換えると、準備部12は、検査目的部位200に基づいた管電圧に応じて、複数の撮影条件を準備する。
【0086】
次に、準備部12は、X線写真モトル(X線画像モトル)に基づいたmAs値(管電流と撮影時間との積)に応じて管電流及び撮影時間を設定する(ステップS22)。具体的には、X線写真モトルの観点から、例えば、mAs値が小さい場合、発生する光子の量が少ないために、X線画像に粒状性の問題が生じる。そのために、撮影する検査目的部位200又は被検体100の厚みによって、X線システム1の性能に合った、最低限度のmAs値が決まる。よって、例えば、記憶部11は、X線システム1の性能に合った最低限度のmAs値を予め記憶しておく。そして、準備部12は準備する撮影条件のうち極端に小さなmAs値の組み合わせの撮影条件を除外する。このようにして、EI値同等撮影条件をすべて準備するのではなく、X線写真モトルの観点から、X線システム1の性能に合った最低限度のmAs値として、例えば、「厚み20cmでブッキー使用時は、mAs値は10以上必要」等の制約が設けられ、準備部12は、X線システム1における撮影条件の組み合わせ数を限定する。言い換えると、準備部12は、X線写真モトルに基づいた管電流と撮影時間との積で示される値に応じて、複数の撮影条件を準備する。
【0087】
このように、準備部12は、管電圧、管電流及び撮影時間の組み合わせを限定して、EI値が同等の複数の撮影条件を準備する。
【0088】
図5は、実施の形態1に係る準備部12が準備したEI値が同等の複数の撮影条件の一例を示す図である。例えば、検査目的部位200に対応する管電圧が60kV以下、mAs値が2.0以上となっている。
【0089】
図5に示されるように、管電圧、管電流及び撮影時間の組み合わせが限定されることで、準備部12は、EI値が同等の複数の撮影条件として、例えば、条件1及び条件2を準備する。なお、条件1の場合、管電流が小さいため、X線管40は小焦点(公称焦点サイズ0.6mm)を使用している。条件2の場合、管電流が大きいためX線管40は大焦点(公称焦点サイズ1.2mm)を使用している。
【0090】
次に、ボケを与える要素の近似関数(式7、10、11)に入力すべき値M、f、S及びdの決定方法について引き続き
図4を用いて説明する。
【0091】
準備部12は、SOD(距離a)及びSID(距離b)に応じて拡大率Mを決定する(ステップS23)。例えば、操作パネル20が、撮影者が測定した距離a及びbを受け付けることで、準備部12は、距離bを距離aで割った拡大率Mを決定する。なお、例えば、X線システム1は、測距装置を備えてもよく、測距装置が測定した距離a及びbに応じて、準備部12は、拡大率Mを決定してもよい。また、X線管焦点、検査目的部位200及びX線検出器系50の位置は固定として、予め拡大率Mを決定しておいてもよい。ただし、拡大率Mが大きい場合、X線画像のボケの度合いが大きくなるため、本実施の形態では、拡大率Mは1より大きく1.2より小さい値とする。つまり、X線管焦点、検査目的部位200及びX線検出器系50の位置を拡大率Mが1より大きく1.2より小さい値となるようにする。本実施の形態では、拡大率Mを、例えば、1.064とする。
【0092】
次に、準備部12は、ステップS21及びS22で設定した管電圧、管電流及びX線管40の公称焦点サイズに応じて値fを決定する(ステップS24)。例えば、式10を構成する値fには、公称焦点サイズが代入される。しかし、X線管40の公称焦点サイズは、管電圧又は管電流が変化することで、変化してしまう。よって、例えば、値fには、公称焦点サイズ又は実効焦点サイズが代入されてもよい。さらに、値fには、X線の入射方向の中心から逸れた位置に、検査目的部位200が存在する場合には、画角特性が生じるので、有効焦点サイズが代入されてもよい。また、近似関数G(u)におけるf/3は、ガウシアン分布の半値幅より、ガウシアン関数の標準偏差の項に入れたものである。
【0093】
しかしながら、X線管焦点面における実測されたX線管焦点のMTFと、公称焦点サイズ、実効焦点サイズ又は有効焦点サイズが代入された近似関数G(u)にズレが生じる場合がある。
【0094】
そこで、値fを、X線管焦点面における空間周波数u1が0.25cycles/mmよりも低空間周波数領域において、実測されたX線管焦点のMTFに近似関数G(u)が関数近似するように調整された値とする。ここで、人の眼というシステムは、1〜2cycles/mmの空間周波数領域で高いMTFを有し、特に約1.5cycles/mmで最も高いMTFを有することが、知られている。したがって、実測のMTFと近似関数との比較基準の空間周波数を、1.5cycles/mmとしている。また、拡大率Mは、上述したように1より大きく1.2より小さい値としている。式6及び10より、X線管焦点面における空間周波数u1は、検査目的部位200面での空間周波数uと拡大率Mとを用いて次式14のように表される。
【0096】
これにより、拡大率Mが1より大きく1.2より小さいときに、検査目的部位200面での空間周波数uを1.5cycles/mmとすると、X線管焦点面における空間周波数u1は、0より大きく0.25より小さくなる。したがって、値fは、X線管焦点面における空間周波数u1が0.25cycles/mmよりも低空間周波数領域において、実測されたX線管焦点のMTFに近似関数G(u)が関数近似するように調整された値がよい。
【0097】
このようにして、X線管焦点面における空間周波数u1が0.25cycles/mmよりも低空間周波数領域において実測されたX線管焦点のMTFに、近似関数G(u)が関数近似するように、公称焦点サイズ、管電圧及び管電流の組み合わせ毎に値fが決まる。例えば、記憶部11は、公称焦点サイズ、管電圧及び管電流の組み合わせと値fとが対応付けられたデータを予め記憶している。
【0098】
図6は、実施の形態1に係る記憶部11が記憶している公称焦点サイズ、管電圧及び管電流の組み合わせと値fとが対応付けられたデータの一例を示す図である。
図6の(a)には、公称焦点サイズが0.6mmのときの管電圧及び管電流の組み合わせと値fとが対応付けられたデータの一例が示される。
図6の(b)には、公称焦点サイズが1.2mmのときの管電圧及び管電流の組み合わせと値fとが対応付けられたデータの一例が示される。
【0099】
例えば、EI値同等撮影条件のうち
図5に示される条件1では、
図6に(a)に示されるハッチングの欄のように値fは1.3となる。また、例えば、EI値同等撮影条件のうち
図5に示される条件2では、
図6に(b)に示されるハッチングの欄のように値fは1.54となる。
【0100】
このように、準備部12は、ステップ21及び22で設定した管電圧、管電流及びX線管40の公称焦点サイズに応じて値fを決定する。
【0101】
なお、X線管焦点の実測されたMTFを有さない場合、かつ、実効焦点サイズ又は有効焦点サイズがわからない場合、値fを公称焦点サイズとしてもよい。X線システム1は、例えば、大小の2つの焦点サイズ、もしくは1つの焦点サイズを搭載している。このとき、検査目的部位200面において、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で画像評価を行う場合に、値fに差が生じたとしても、X線システム1においてルーチン検査を行う場合、複数のEI値同等撮影条件それぞれの違いによる総合MTFの違いは誤差として許容できる。したがって、値fを例えば公称焦点サイズとしてもよい。
【0102】
次に、準備部12は、使用するX線検出器系50の種類に応じて値Sを決定する(ステップS25)。X線検出器系50に基づく値Sは、X線検出器系50面における空間周波数u2が1.25〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、実測されたX線検出器系50のMTFに、近似関数E(u)が関数近似するように調整された値である。上述したように、人の眼というシステムは、1.5cycles/mmで最も高いMTFを有することが知られている。また、拡大率Mは、上述したように1より大きく1.2より小さい値としている。式9及び11より、X線検出器系50面における空間周波数u2は、検査目的部位200面での空間周波数uと拡大率Mとを用いて次式15のように表される。
【0104】
これにより、拡大率Mが1より大きく1.2より小さいときに、検査目的部位200面での空間周波数uを1.5cycles/mmとすると、X線検出器系50面における空間周波数u2は、1.25より大きく1.5より小さくなる。したがって、値Sは、X線検出器系50面における空間周波数u2が1.25〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、実測されたX線検出器系50のMTFに近似関数E(u)が関数近似するように調整された値がよい。例えば、記憶部11は、このようにして決定された値Sを予め記憶している。
【0105】
なお、実測されたX線検出器系のMTFを有さない場合(X線検出器系50に基づく値Sがわからない場合)には、値Sを0.085と決定してもよい。値Sが分からないために、近似関数E(u)を1とする、つまり、X線管焦点のMTFと検査目的部位の動きのMTFとの合成だけで、画像評価をすることは、大きな誤差を生じてしまう。したがって、値Sが分からない場合でも、適当な値を仮定して、代入したほうがよい。
【0106】
X線検出器系50に基づく値Sが分からない場合に、値Sを0.085と仮定する根拠は、以下の通りである。
【0107】
X線検出器系50がアナログX線検出器系の場合、近似関数E(u)における値Sに0.085を代入すると、一般的に使用される中感度の増感紙LT−IIのMTFに近似する。また、値Sに0.085を代入すると、一般的に使用される中感度の増感紙BMのMTFに近似する。これにより、X線検出器系50に基づく値Sがわからない場合には、値Sを0.085と決定する。
【0108】
式9及び11では、X線検出器系50として増感紙のMTFを表す近似関数が示されている。X線検出器系50がアナログX線検出器系の場合、X線検出器系50は、例えば、フィルム及び増感紙の組み合わせである。しかし、診療に用いられるフィルムのMTFは、ほぼ1なので、ここでは、増感紙系のMTFを、アナログX線検出器系のMTFとしている。
【0109】
X線検出器系50がデジタルX線検出器系の場合には、近似関数E(u)における値Sに、0.1を代入すると、ある間接変換方式フラットパネルディテクターのプリサンプルドMTFに関数近似し、0.04を代入すると、ある直接変換方式フラットパネルディテクターのプリサンプルドMTFに関数近似する。ただし、X線検出器系50がデジタルX線検出器系の場合には、アナログX線検出器系と違って、画像表示のMTFや空間周波数処理等のソフトウェアの影響を考慮する必要がある。しかし、デジタルX線検出器系は、アナログX線検出器系と同等かそれ以上の性能を有するように開発がされているため、X線検出器系50がデジタルX線検出器系の場合でも、値Sを0.085としてもよい。このように、実測されたX線検出器系のMTFを有さない場合には、準備部12は、値Sを、0.04以上0.1以下の値として、複数の撮影条件を準備してもよい。また、値Sを、0.085に近い値としてもよい。なお、X線検出器系50の感度の違いは、撮影時間に関与するので、検査目的部位200の動きのMTFで補正してもよい。
【0110】
次に、準備部12は、撮影時間中の検査目的部位200の動き量dを決定する(ステップS26)。撮影時間中の検査目的部位200の動き量dは、検査目的部位200面における動きの最大の動き量と検査目的部位200が最大の動き量となるまでの時間と、撮影時間とから決定する。このとき、検査目的部位200が高速に動いても、撮影時間中の最大の動き量が微小であれば、X線画像への影響も微小になるため、動き量dは運動速度と撮影時間との積にはならない。
【0111】
動き量dは、検査目的部位200の動き量が最大の動き量となるまでの時間が撮影時間よりも長い場合、1秒当たりの検査目的部位200の動き量と撮影時間との積で示される動き量となる。
【0112】
また、動き量dは、検査目的部位200の動き量が最大の動き量となるまでの時間が撮影時間よりも短い場合、検査目的部位200の最大の動き量となる。
【0113】
例えば、
図5に示される条件1の場合に、検査目的部位200の最大の動き量が0.1mm、検査目的部位200の動き量が0.1mmになるまでの時間が0.01sのとき、検査目的部位200の動き量が0.1mmになるまでの時間0.01sが撮影時間0.08sよりも短いため、動き量dは0.1mmとなる。例えば、
図5に示される条件2の場合に、検査目的部位200の最大の動き量が0.1mm、検査目的部位200の動き量が0.1mmになるまでの時間が0.01sのとき、検査目的部位200の動き量が0.1mmになるまでの時間0.01sが撮影時間0.005sよりも長いため、動き量dは、1秒当たりの検査目的部位200の動き量10mmと撮影時間0.005sとの積より、0.05mmとなる。
【0114】
なお、例えば、X線システム1は、動き検出センサーを備えてもよく、動き検出センサーが検出した検査目的部位200の動き量に応じて、準備部12は、動き量dを決定してもよい。
【0115】
なお、検査目的部位200が胸部の場合、検査目的部位200の動き量dには、撮影時間中の被検体100の外見上の動き量c(
図1参照)と、撮影時間中の心臓の動きの影響による動き量とが含まれてもよい。また、検査目的部位200が腹部の場合、検査目的部位200の動き量dには、撮影時間中の被検体100の動き量cと、撮影時間中の胃腸の蠕動の動きの影響による動き量とが含まれてもよい。
【0116】
これにより、動き量dは、次式16のように表される。
【0118】
cは、撮影時間中の被検体100の検査目的部位200を含む面の外見上の動き量とする(
図1に示される距離c)。
【0119】
d2は、撮影時間中の被検体100内の内臓器による動きの影響による動き量とする。
【0120】
上肢下肢又は骨を撮影するときには、被検体100内での内臓器による動きを考慮しなくてもよく、d2を0としてもよい。一方、例えば胸部を撮影するときには、被検体100内での動きを考慮する必要があり、例えば、被検体100の外見上の動きがなくても、心臓の動きの影響がある。同様に、例えば腹部を撮影するときには、被検体100の外見上の動きがなくても、胃や腸の蠕動の動きの影響がある。
【0121】
胸部を撮影するときの心臓の動きの影響について、具体的に説明する。心臓の左縁周辺は、X線の入射方向の垂直面において、1心拍当たり、10mm動くことが知られている。また、左肺門部では、1心拍当たり3mm動くことが知られている。つまり、左肺門部は、1心拍の間に元の位置から3mm動き、また元の位置へ戻っている。また、平均的な1分間当たりの心拍数は60〜75回である。心拍数を75回とすると、左肺門部が、元の位置から3mm動くまでの時間は約400msとなる。これにより、左肺門部が3mm動くまでの時間400msが撮影時間よりも短い場合、撮影時間中の左肺門部の動き量d2は、3mmとなる。一方、左肺門部が3mm動くまでの時間400msが撮影時間よりも長い場合、撮影時間中の左肺門部の動き量d2は、1秒当たりの左肺門部の動き量7.5mmと撮影時間との積になる。これにより撮影時間中の検査目的部位200の動き量dは、撮影時間中の被検体100の外見上の動き量cに動き量d2を加算した動き量となる。
【0122】
次に、腹部を撮影するときの胃や腸の蠕動の動きの影響について、具体的に説明する。胃の蠕動は、X線の入射方向の垂直面において、胃透視検査実施時には、1秒当たり平均6.6mmとなることが知られている。一般的に、撮影時間は、胃の蠕動運動において6.6mm動くまでの時間よりも短い。したがって、撮影時間中の胃の動きによる影響の動き量d2は、1秒当たりの胃の蠕動6.6mm撮影時間との積になる。これにより撮影時間中の検査目的部位200の動き量dは、撮影時間中の被検体100の外見上の動き量cに動き量d2を加算した動き量となる。なお、ブスコパン等の蠕動運動を低下させる薬品を用いる場合には、胃の蠕動は、1秒当たり2.0mmとするとよい。
【0123】
上述したステップS21〜S26に示されるように、準備部12は、同等の写真効果が得られる撮影の条件(EI値同等撮影条件)、検査目的部位200の動き及び位置、並びに、X線検出器系50の種類に基づく複数の撮影条件を準備する。具体的には、準備部12は、複数の撮影条件として、X線管焦点の公称焦点サイズと管電圧及び管電流とに基づく値f、撮影時間中の検査目的部位200の動き量d、X線検出器系50に基づく値S、及び、X線管焦点とX線検出器系50面との距離をX線管焦点と検査目的部位200面との距離で割った拡大率Mを準備する。より具体的には、準備部12は、検査目的部位200に応じて管電圧を設定し、X線写真モトルに基づいたmAs値に応じて管電流及び撮影時間を設定することで、撮影条件の数を限定する。準備部12は、SOD(距離a)及びSID(距離b)に応じて拡大率Mを決定する。準備部12は、公称焦点サイズ、管電圧及び管電流からEI値が同等な複数の撮影条件それぞれの値fを決定する。また、準備部12は、使用するX線検出器系50に応じて値Sを決定する。また、準備部12は、撮影時間中の検査目的部位200の動き量dを、検査目的部位200面における検査目的部位200の動きの最大の動き量と検査目的部位200が最大の動き量となるまでの時間と、撮影時間とから決定する。なお、準備部12は、ステップS24〜S26の順番で動作を行わなくてもよく、異なる順番で行ってもよい。このようにして決定された拡大率M、値f、値S及び動き量dが
図7に示される。
【0124】
図7は、実施の形態1に係る準備部12が準備した複数の撮影条件として拡大率M、値f、値S及び動き量dの一例を示す図である。条件1a及び2aは、条件1及び2における動き量dが例えば100倍大きく動いたときの条件である。条件1及び2と条件1a及び2aとは、動き量dが異なり、他の条件は同じである。
【0125】
[総合MTFシミュレーションデータの作成と撮影条件の決定]
次に、作成部13は、総合MTFを表す近似関数SMTF(u)に、準備部12が準備した複数の撮影条件のそれぞれの拡大率M、値f、値S及び動き量dを代入して、複数の撮影条件ごとに総合MTFシミュレーションデータを作成する。総合MTFシミュレーションデータは、例えば、グラフ又は数値等のデータである。
【0126】
まず、総合MTFシミュレーションデータがグラフの場合について説明する。
【0127】
作成部13は、複数の撮影条件をそれぞれ代入した近似関数SMTF(u)をグラフ化することで、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータ(総合MTFシミュレーショングラフデータ)を作成する。
【0128】
図8は、実施の形態1に係る作成部13が作成した総合MTFシミュレーショングラフデータの一例を示す図である。
図8には、
図7に示される条件がそれぞれ代入された近似関数SMTF(u)がそれぞれ示されている。
【0129】
決定部14は、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータ(総合MTFシミュレーショングラフデータ)に偽解像が生じていない場合、1.0〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件と決定する。これにより、決定部14は、撮影時間中の検査目的部位200の動き量dが小さい場合(条件1及び条件2の場合)、条件1を最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件と決定する。また、決定部14は、撮影時間中の検査目的部位200の動き量dが大きい場合(条件1a及び条件2aの場合)、条件2aを最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件と決定する。これにより、検査目的部位200の動きがほとんどない場合(条件1及び2)、小焦点を使用する方がよく、検査目的部位200に微小な動きがある場合(条件1a及び2a)、大焦点を使用する方がよいことがわかる。このように、被検体100の動き方が異なる場合に最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件は変わってくるが、事前にシミュレーションすることで最適な撮影条件を決定することができる。
【0130】
また、決定部14は、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータ(総合MTFシミュレーショングラフデータ)に偽解像が生じている場合、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で偽解像が生じない空間周波数において、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件と決定する。例えば、1.0cycles/mmよりも高空間周波数領域で複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーショングラフデータに偽解像が生じている場合、1.0cycles/mmよりも低空間周波数領域で偽解像が生じない空間周波数において、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーショングラフデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーショングラフデータに対応する撮影条件を、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件と決定する。
【0131】
このように、複数のEI値同等撮影条件による総合MTFシミュレーションデータを、視覚的に比較し、診療用X線画像を評価することができる。
【0132】
次に、総合MTFシミュレーションデータが数値の場合について説明する。
【0133】
一般に、MTFを数値化するときには、絶対値化して位相を考慮するため式4(式13)を用いる。しかし、診断領域では偽解像を判断材料に用いることはないので、近似関数SMTF(u)を絶対値化せずに、近似関数SMTF(u)が1から低下して、最初に0になる地点までしか考慮しないようにする。例えば、作成部13は、複数の撮影条件をそれぞれ代入した近似関数SMTF(u)に、空間周波数uとして0.25×n(n=1〜6の整数)で示される値をn=1における値から順次代入する。そして、近似関数SMTF(u)のそれぞれが絶対値化される前の値がn=i(i=2〜6の整数)のときに初めて負になる場合は、近似関数SMTF(u)のそれぞれに、空間周波数uとして0.25×(i−1)で示される値を代入して複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータ(総合MTFシミュレーション数値データ)を作成する。例えば、空間周波数が1.25cycles/mm(i=5)までの複数の撮影条件ごとの近似関数SMTF(u)の値がすべて正であり、空間周波数が1.5cycles/mm(i=6)のときに複数の撮影条件ごとの近似関数SMTF(u)の値に負のものがある場合、近似関数SMTF(u)のそれぞれに、空間周波数uに1.25を代入して複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーション数値データを作成する。
【0134】
そして、決定部14は、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータ(総合MTFシミュレーション数値データ)のうち最も数値の大きい総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件と決定する。
【0135】
このように、複数のEI値同等撮影条件による総合MTFシミュレーションデータを数値的に比較し、診療用X線画像を評価することができる。
【0136】
最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件は、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で、決定される。これは、上述したように、人の眼のMTFが、1〜2cycles/mmで優れていることによる。
【0137】
[効果]
従来、総合MTFの近似関数をシミュレーションして最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定することが難しかった。
【0138】
そこで、本実施の形態に係るX線撮影条件決定方法は、X線管40が発するX線を用いて最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定するX線撮影条件決定方法である。X線撮影条件決定方法は、動きを有する被検体100の検査目的部位200のX線画像において、同等の写真効果が得られる撮影の条件、検査目的部位200の動き及び位置、並びに、X線検出器系50の種類に基づく複数の撮影条件を準備するステップを含む。また、X線撮影条件決定方法は、準備するステップで準備した複数の撮影条件のそれぞれを、検査目的部位200面でのX線管焦点のMTFを表す近似関数と、検査目的部位200面でのX線検出器系50のMTFを表す近似関数と、検査目的部位200の動きのMTFを表す近似関数と、を乗じた総合MTFを表す近似関数に代入して、複数の撮影条件ごとに総合MTFシミュレーションデータを作成するステップを含む。また、X線撮影条件決定方法は、作成するステップで作成した複数の撮影条件のそれぞれの総合MTFシミュレーションデータを比較することで、複数の撮影条件のうちの最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定するステップを含む。
【0139】
また、本実施の形態に係るプログラムは、上記のX線撮影条件決定方法をコンピュータ10に実行させるためのプログラムである。
【0140】
また、本実施の形態に係るX線システム1は、上記のプログラムを実行するコンピュータ10と、コンピュータ10が決定した撮影条件に応じた管電圧及び管電流を発生する高電圧発生装置30と、高電圧発生装置30から供給される管電圧及び管電流によってX線を発するX線管40と、X線管40が発したX線を検出するX線検出器系50と、を備える。
【0141】
これにより、X線画像にボケを与える多数の要素のうち、検査目的部位200面でのX線管焦点のMTFを表す近似関数と、検査目的部位200面でのX線検出器系50のMTFを表す近似関数と、検査目的部位200の動きのMTFを表す近似関数と、を乗じた総合MTFを、予め準備された複数の撮影条件が代入される近似関数で表すことができる。そして、予め準備された複数の撮影条件が代入されて、複数の撮影条件ごとに総合MTFシミュレーションデータが作成される。つまり、同等の写真効果が得られる撮影の条件が複数存在するときにおける動きを有する被検体の撮影において、X線画像の解像度特性を撮影前に予測することは困難であるが、総合MTFシミュレーションデータによって事前に予測することができ、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定することができる。
【0142】
また、準備するステップでは、複数の撮影条件として、X線管焦点の公称焦点サイズと管電圧及び管電流とに基づく値f、撮影時間中の検査目的部位200の動き量d、X線検出器系50に基づく値S、及び、X線管焦点とX線検出器系50面との距離をX線管焦点と検査目的部位200面との距離で割った拡大率Mを準備する。作成するステップでは、複数の撮影条件のそれぞれを、検査目的部位200面における空間周波数uを変数として、X線管焦点面でのX線管焦点のMTFを表す近似関数から拡大率Mを用いて変換された検査目的部位200面でのX線管焦点のMTFを表す近似関数G(u)(式10)と、検査目的部位200の動きのMTFを表す近似関数T(u)(式7)と、X線検出器系50面でのX線検出器系50のMTFを表す近似関数から拡大率Mを用いて変換された検査目的部位200面でのX線検出器系50のMTFを表す近似関数E(u)(式11)と、を乗じた総合MTFを表す近似関数SMTF(u)(式13)に代入する。
【0143】
これにより、値f、動き量d、値S、及び、拡大率Mを予め準備しておき、これらの値が代入された総合MTFを表す近似関数SMTF(u)から作成された総合MTFシミュレーションデータによって、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定することができる。具体的には、予め、管電流又は管電圧を変化させたときの実測のX線管焦点のMTFに関数近似した近似関数を構成する値f、実測のX線検出器系50のMTFに関数近似した近似関数を構成する値Sを準備しておく。また、検査目的部位200の位置及び動き、並びに、撮影時間から拡大率M及び動き量dを準備しておく。そして、値f、動き量d、値S、及び、拡大率Mが近似関数SMTF(u)に代入されることで、総合MTFを正確に近似することができる。
【0144】
また、準備するステップでは、拡大率Mを、1より大きく1.2より小さい値とし、値fを、X線管焦点面における空間周波数が0.25cycles/mmよりも低空間周波数領域において、実測されたX線管焦点のMTFに近似関数G(u)が関数近似するように調整された値とする。また、動き量dを、検査目的部位200の動き量が最大の動き量となるまでの時間が撮影時間よりも長い場合、1秒当たりの検査目的部位200の動き量と撮影時間との積で示される動き量とする。また、動き量dを、検査目的部位200の動き量が最大の動き量となるまでの時間が撮影時間よりも短い場合、最大の動き量とする。また、値Sを、X線検出器系50面における空間周波数が1.25〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、実測されたX線検出器系50のMTFに近似関数E(u)が関数近似するように調整された値として、複数の撮影条件を準備する。
【0145】
また、準備するステップでは、実測されたX線管焦点のMTFと実測されたX線検出器系50のMTFとを有さないとき、拡大率Mを、1より大きく1.2より小さい値とし、値fを、公称焦点サイズとし、値Sを、0.04以上0.1以下の値として、複数の撮影条件を準備する。
【0146】
また、値Sを、0.085に近い値とする。
【0147】
これにより、ボケを与える各要素のMTFを関数近似するための近似関数に用いられる拡大率M、値f、動き量d及び値Sを容易に決めることができる。
【0148】
また、検査目的部位200が胸部の場合、動き量dには、撮影時間中の被検体100の外見上の動き量と、撮影時間中の心臓の動きの影響による動き量とが含まれる。
【0149】
また、検査目的部位200が腹部の場合、動き量dには、撮影時間中の被検体100の動き量と、撮影時間中の胃腸の蠕動の動きの影響による動き量とが含まれる。
【0150】
これにより、より正確に動き量dを決めることができる。
【0151】
また、準備するステップでは、X線写真モトルに基づいた管電流と撮影時間との積で示される値に応じて、複数の撮影条件を準備する。
【0152】
また、準備するステップでは、検査目的部位200に基づいた管電圧に応じて、複数の撮影条件を準備する。
【0153】
これにより、複数の撮影条件を限定することができ、効率的に最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定することができる。
【0154】
また、作成するステップでは、複数の撮影条件をそれぞれ代入した近似関数SMTF(u)に、空間周波数uとして0.25×n(n=1〜6の整数)で示される値をn=1における値から順次代入して、近似関数SMTF(u)のそれぞれが絶対値化される前の値がn=i(i=2〜6の整数)のときに初めて負になる場合は、近似関数SMTF(u)のそれぞれに、空間周波数uとして0.25×(i−1)で示される値を代入して複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータを作成する。決定するステップでは、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最も数値の大きい総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を決定する。
【0155】
これにより、総合MTFシミュレーションデータを数値的に比較することで、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定することができる。
【0156】
また、作成するステップでは、複数の撮影条件をそれぞれ代入した近似関数SMTF(u)をグラフ化することで、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータを作成する。決定するステップでは、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータに偽解像が生じていない場合、1.0〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を決定する。また、決定するステップでは、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータに偽解像が生じている場合、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で偽解像が生じない空間周波数において、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を決定する。
【0157】
これにより、総合MTFシミュレーションデータを視覚的に比較することで、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定することができる。
【0158】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係るX線撮影条件決定方法、プログラム及びX線システムについて、説明する。本実施の形態では、コンピュータ10に実行されるプログラムが実施の形態1におけるプログラムと異なる。具体的には、式6及び10の代わりに後述する式17及び19、式9及び11の代わりに後述する式18及び20が用いられる。その他の構成は実施の形態1におけるものと同じであるため、説明を省略する。
【0159】
実施の形態1では、値f、動き量d、値S、そして、拡大率Mによって、式4(式13)は撮影内容に限定が生じるが、画像評価を行うための精度を有する数式となる。また、値fには公称焦点サイズ、値Sには、0.085を中心に、0.04以上0.1以下の値を代入した総合MTFの近似関数を、拡大率Mが1より大きく1.2より小さい撮影手技において使用してもよい。
【0160】
しかしながら、総合MTFの近似関数の精度が低ければ、検査目的部位200面の空間周波数において、各要素の実測されたMTFを乗じて総合MTFを算出した方が、近似関数を用いるよりも、早くて正確な比較ができることになることもある。また、一般的な診療用のX線システムにおいて、日常的に行われる撮影手技では、拡大率Mが約1から1.4の範囲で撮影が行われる。ここで、例えば、式6に示されるX線管焦点のMTFを表す近似関数G(u1)及び式9に示されるX線検出器系50のMTFを表す近似関数E(u2)をベースにした、後述する式17及び18で表される近似関数を使用することで、拡大率Mが1から1.4の範囲において、精度の高い関数近似を行うことができる。
【0161】
以下では、コンピュータ10の実施の形態1における動作と異なる点について説明する。
【0162】
準備部12は、複数の撮影条件として、X線管焦点の公称焦点サイズと管電圧及び管電流とに基づく値f1及f2、撮影中の検査目的部位200の動き量d、X線検出器系50に基づく値S1及びS2、並びに、X線管焦点とX線検出器系50面との距離をX線管焦点面と検査目的部位200面との距離で割った拡大率Mを準備する。
【0163】
X線管焦点面におけるX線管焦点のMTFを表す近似関数G(u1)は、次式17のように表される。
【0165】
f1及び、f2は、X線管焦点の公称焦点サイズと管電圧及び管電流とに基づく値であるが、詳細は後述する。
【0166】
検査目的部位200の動きのMTFの近似関数T(u)は、式7と同じである。
【0167】
X線検出器系50面におけるX線検出器系50のMTFを表す近似関数E(u2)は、次式18のように表される。
【0169】
S1及び、S2は、X線検出器系50に基づく値であるが、詳細は後述する。
【0170】
ただし、式17に示されるX線管焦点のMTFは、X線管焦点面でのMTFであり、式18に示されるX線検出器系50のMTFは、X線検出器系50面でのMTFであるので、各MTFを合成できるようにする必要がある。そこで、X線管焦点面でのX線管焦点のMTF、及び、X線検出器系50面でのX線検出器系50のMTFを、拡大率Mを用いて検査目的部位200面でのMTFに変換する。
【0171】
検査目的部位200面でのX線管焦点のMTFを表す近似関数G(u)は、次式19のように表される。
【0173】
検査目的部位200面でのX線検出器系50のMTFを表す近似関数E(u)は、次式20のように表される。
【0175】
準備部12は、実施の形態1と同様に、検査目的部位200に応じて管電圧を設定し、X線写真モトル(X線画像モトル)に基づいたmAs値(管電流と撮影時間との積)に応じて管電流及び撮影時間を設定する。
【0176】
図9は、実施の形態2に係る準備部12が準備したEI値が同等の複数の撮影条件の一例を示す図である。例えば、検査目的部位200に対応する管電圧が120kV以下、mAs値が4.0以上となっている。
【0177】
図9に示されるように、管電圧、管電流及び撮影時間の組み合わせが限定されることで、準備部12は、EI値が同等の複数の撮影条件として、例えば、条件1〜5を準備する。なお、条件5の場合、管電流が小さいため、X線管40は小焦点(公称焦点サイズ0.6mm)を使用する。条件1〜4の場合、管電流が大きいためX線管40は大焦点(公称焦点サイズ1.2mm)を使用する。条件2は、条件1と管電圧及びmAs値が同じであるが、管電流が2倍で撮影時間が半分になっている。条件3は、条件2より管電圧が大きく、撮影時間が半分になっている。条件4は、条件3より管電圧が小さく、撮影時間が4倍になっている。条件5は、小焦点(公称焦点サイズ0.6mm)における最大の管電流でmAs値が4.0になる撮影時間でEI値が条件1〜4と同じになる管電圧となっている。
【0178】
次に、ボケを与える要素の近似関数(式7、19、20)に入力すべき値M、f1、f2、S1、S2、及び、dの決定方法について説明する。動き量dの詳細については、実施の形態1におけるものと同じであるため説明は省略する。
【0179】
準備部12は、SOD(距離a)及びSID(距離b)に応じて拡大率Mを決定する。ただし、日常的に行われる撮影手技では、拡大率Mが約1から1.4の範囲で撮影が行われるため、拡大率Mは1より大きく1.4より小さい値とする。つまり、X線管焦点、検査目的部位200及びX線検出器系50の位置を拡大率が1より大きく1.4より小さい値となるようにする。本実施の形態では、拡大率Mを、例えば、1.18とする。
【0180】
次に、準備部12は、設定した管電圧、管電流及びX線管40の公称焦点サイズに応じて値f1及びf2を決定する。X線管40の公称焦点サイズは、管電圧又は管電流が変化することで、変化してしまう。そこで、値f1及びf2を、X線管焦点面における空間周波数u1が0.43cycles/mmよりも低空間周波数領域において、実測されたX線管焦点のMTFに近似関数G(u)が関数近似するように調整された値とする。
【0181】
X線管焦点面における空間周波数u1は、検査目的部位200面での空間周波数uと拡大率Mとを用いて式13のように表されるため、拡大率Mが1より大きく1.4より小さいときに、検査目的部位200面での空間周波数uを1.5cycles/mmとすると、X線管焦点面における空間周波数u1は、0より大きく0.43より小さくなる。したがって、値f1及びf2は、X線管焦点面における空間周波数u1が0.43cycles/mmよりも低空間周波数領域において、実測されたX線管焦点のMTFに近似関数G(u)が関数近似するように調整された値がよい。
【0182】
このようにして、X線管焦点面における空間周波数u1が0.43cycles/mmよりも低空間周波数領域において実測されたX線管焦点のMTFに、近似関数G(u)が関数近似するように、公称焦点サイズ、管電圧及び管電流の組み合わせごとに値f1及びf2が決まる。例えば、記憶部11は、公称焦点サイズ、管電圧及び管電流の組み合わせと値f1及びf2とが対応付けられたデータを予め記憶している。
【0183】
図10は、実施の形態2に係る記憶部11が記憶している公称焦点サイズ、管電圧及び管電流の組み合わせと値f1及びf2とが対応付けられたデータの一例を示す図である。
図10の(a)には、公称焦点サイズが0.6mmのときの管電圧及び管電流の組み合わせと値f1及びf2とが対応付けられたデータの一例が示される。
図10の(b)には、公称焦点サイズが1.2mmのときの管電圧及び管電流の組み合わせと値f1及びf2とが対応付けられたデータの一例が示される。
【0184】
例えば、EI値同等撮影条件が
図9に示される条件1の場合、
図10の(b)に示される上から3つ目のハッチングの欄のように値f1は1.95、値f2は2.3となる。条件2の場合、
図10の(b)に示される上から7つ目のハッチングの欄のように値f1は2.1、値f2は2.3となる。条件3の場合、
図10の(b)に示される上から7つ目のハッチングの欄のように値f1は2.1、値f2は2.3となる。条件4の場合、
図10の(b)に示される上から6つ目のハッチングの欄のように値f1は1.9、値f2は2.3となる。条件5の場合、
図10の(a)に示される上から7つ目のハッチングの欄のように値f1は1.25、値f2は2.3となる。
【0185】
このように、準備部12は、設定した管電圧、管電流及びX線管40の公称焦点サイズに応じて値f1及びf2を決定する。
【0186】
次に、準備部12は、使用するX線検出器系50に応じて値S1及びS2を決定する。X線検出器系50に基づく値S1及びS2は、X線検出器系50面における空間周波数u2が1.07〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、実測されたX線検出器系50のMTFに、近似関数E(u)が関数近似するように調整された値である。
【0187】
X線検出器系50面における空間周波数u2は、検査目的部位200面での空間周波数uと拡大率Mとを用いて式15のように表されるため、拡大率Mが1より大きく1.4より小さいときに、検査目的部位200面での空間周波数uを1.5cycles/mmとすると、X線検出器系50面における空間周波数u2は、1.07より大きく1.5より小さくなる。したがって、値S1及びS2は、X線検出器系50面における空間周波数u2が1.07〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、実測されたX線検出器系50のMTFに近似関数E(u)が関数近似するように調整された値がよい。例えば、記憶部11は、このようにして決定された値S1及びS2を予め記憶している。
【0188】
このようにして決定された拡大率M、値f1及びf2、値S1及びS2、並びに、動き量dが
図11に示される。
【0189】
図11は、実施の形態2に係る準備部12が準備した複数の撮影条件として拡大率M、値f1及びf2、値S1及びS2、並びに、動き量dの一例を示す図である。
【0190】
次に、作成部13は、総合MTFを表す近似関数SMTF(u)に、準備部12が準備した複数の撮影条件のそれぞれの拡大率M、値f1及びf2、値S1及びS2、並びに、動き量dを代入して、複数の撮影条件ごとに総合MTFシミュレーションデータを作成する。総合MTFシミュレーションデータは、例えば、グラフ又は数値等のデータである。
【0191】
例えば、総合MTFシミュレーションデータがグラフの場合について説明する。
【0192】
作成部13は、複数の撮影条件をそれぞれ代入した近似関数SMTF(u)をグラフ化することで、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータ(総合MTFシミュレーショングラフデータ)を作成する。
【0193】
図12は、実施の形態2に係る作成部13が作成した総合MTFシミュレーショングラフデータの一例を示す図である。
図12には、
図11に示される条件がそれぞれ代入された近似関数SMTF(u)がそれぞれ示されている。
【0194】
決定部14は、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーショングラフデータに偽解像が生じていない場合、1.0〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーショングラフデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーショングラフデータに対応する撮影条件を、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件と決定する。これにより、決定部14は、条件3を最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件と決定する。
【0195】
[効果]
準備するステップでは、複数の撮影条件として、X線管焦点の公称焦点サイズと管電圧及び管電流とに基づく値f1及びf2、撮影時間中の検査目的部位200の動き量d、X線検出器系50に基づく値S1及びS2、並びに、X線管焦点とX線検出器系50面との距離をX線管焦点面と検査目的部位200面との距離で割った拡大率Mを準備する。作成するステップでは、複数の撮影条件のそれぞれを、検査目的部位200面における空間周波数uを変数として、X線管焦点面でのX線管焦点のMTFを表す近似関数から拡大率Mを用いて変換された検査目的部位200面でのX線管焦点のMTFを表す近似関数G(u)(式19)と、検査目的部位200の動きのMTFを表す近似関数T(u)(式7)と、X線検出器系50面でのX線検出器系50のMTFを表す近似関数から拡大率Mを用いて変換された検査目的部位200面でのX線検出器系50のMTFを表す近似関数E(u)(式20)と、を乗じた総合MTFを表す近似関数SMTF(u)(式13)に代入する。
【0196】
これにより、値f1及びf2、動き量d、値S1及びS2、並びに、拡大率Mを予め準備しておき、これらの値が代入された総合MTFを表す近似関数SMTF(u)から作成された総合MTFシミュレーションデータによって、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定することができる。具体的には、予め、管電流又は管電圧を変化させたときの実測のX線管焦点のMTFに関数近似した近似関数を構成する値f1及びf2、実測のX線検出器系50のMTFに関数近似した近似関数を構成する値S1及びS2を準備しておく。また、検査目的部位200の位置及び動きから拡大率M及び動き量dを準備しておく。そして、値f1及びf2、動き量d、値S1及びS2、並びに、拡大率Mが近似関数SMTF(u)に代入されることで、総合MTFを正確に近似することができる。
【0197】
準備するステップでは、拡大率Mを、1より大きく1.4より小さい値とし、値f1及びf2を、X線管焦点面における空間周波数が0.43cycles/mmよりも低空間周波数領域において、実測されたX線管焦点のMTFに近似関数G(u)が関数近似するように調整された値とする。また、動き量dを、検査目的部位200が最大の動き量となるまでの時間が撮影時間よりも長い場合、1秒当たりの検査目的部位200の動き量と撮影時間との積で示される動き量とする。また、動き量dを、検査目的部位200が最大の動き量となるまでの時間が撮影時間よりも短い場合、最大の動き量とする。また、値S1及びS2を、X線検出器系50面における空間周波数が1.07〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、実測されたX線検出器系50のMTFに近似関数E(u)が関数近似するように調整された値として、複数の撮影条件を準備する。
【0198】
これにより、ボケを与える各要素のMTFを関数近似するための近似関数に用いられる拡大率M、値f1及びf2、動き量d、並びに、値S1及びS2を容易に決めることができる。
【0199】
(まとめ)
使用するX線システムには、固有の装置的性能の違いがある。動きを伴う被検体の画像を獲得するとき、例えば撮影者は、予め、管電流変化時や管電圧変化時の実測のX線管焦点のMTFのグラフを、近似関数で表現できるように、X線管焦点のMTFを表す近似関数を作成するための値、及び、X線検出器系に基づく値をコンピュータにデータベース化しておく(例えば
図6には値fに関するデータベースが示される)。
【0200】
そして、例えば撮影者は、EI値同等撮影条件(例えば
図5)をデータベースと照合し、ボケの要素のMTFを表す近似関数を作成するための値を決める。このとき、例えば撮影者は、検査目的部位面での検査目的部位の最大の動き量と、検査目的部位が最大の動き量になるまでの時間と、SODと、SIDとをX線システムに入力する。そして、コンピュータは、X線システムにおいて、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定することができる。
【0201】
このとき、検査目的部位によって、管電圧やmAs値に、被検体コントラストやX線画像モトルの観点から制約を設けておくと、EI値同等撮影条件の組み合わせを絞ることができ、効率良く最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための撮影条件を決定することができる。
【0202】
また、応用すれば、例えば、動きによるMTFの低下は、短時間撮影によって改善することができるが、ある程度撮影時間が短くなると、それ以上に短時間撮影を行っても、総合MTFを大きく改善することはできない。そこで、獲得するX線画像の総合MTFに許容範囲を設け、可能な限り撮影時間を長くなるようにすれば、X線画像モトルの観点から、さらに良い画像を獲得できる。
【0203】
また、例えば、コンピュータが決定した撮影条件を使用しない場合に、撮影者が設定している撮影条件での総合MTFと、コンピュータが決定したX線撮影条件での総合MTFとに、所定の開きがある場合には、注意を促してもよい。
【0204】
また、将来の展望として、X線システムがセンサーを有し、X線管焦点の位置とX線検出器系の位置を把握し、撮影者が検査目的部位の位置を知らせれば、拡大率は簡単に決定される。また、被検体の外見上の動きをセンサーによって計測し、最大の動き量となるまでの時間が把握されれば、最適な解像度特性を有するX線画像を取得するための推奨撮影条件を、撮影者の技術力や知識力に左右されずに、獲得することができる。
【0205】
(その他の実施の形態)
以上、本発明に係るX線撮影条件決定方法、プログラム及びX線システムについて、上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施に限定されるものではない。
【0206】
例えば、本発明の包括的または具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD−ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたは記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。例えば、本発明は、上記X線撮影条件決定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現されてもよい。
【0207】
しかしながら、プログラムはX線システムに一体化されていることが望ましい。なぜならば、値f(値f1及びf2)又は値S(値S1及びS2)は、企業秘密であることが多い。また、撮影者にとっては、その値を知ることなく、管電圧、管電流及び公称焦点サイズを選択すれば、管電圧や管電流の変化に対応する値f(値f1及び値f2)がデータベースから引き出されればよい。同様に、値S(値S1及び値S2)がデータベースから引き出されればよい。これにより、X線システムのブラックボックス化が保たれる。
【0208】
その他、実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。
前記作成するステップでは、前記複数の撮影条件をそれぞれ代入した前記近似関数SMTF(u)に、前記空間周波数uとして0.25×n(n=1〜6の整数)で示される値をn=1における値から順次代入して、当該近似関数SMTF(u)のそれぞれが絶対値化される前の値がn=i(i=2〜6の整数)のときに初めて負になる場合は、当該近似関数SMTF(u)のそれぞれに、当該空間周波数uとして0.25×(i−1)で示される値を代入して当該複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータを作成し、
前記決定するステップでは、前記複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最も数値の大きい総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を決定する
請求項2〜11のいずれか1項に記載のX線撮影条件決定方法。
前記作成するステップでは、前記複数の撮影条件をそれぞれ代入した前記近似関数SMTF(u)をグラフ化することで、当該複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータを作成し、
前記決定するステップでは、
1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で前記複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータに偽解像が生じていない場合、1.0〜1.5cycles/mmの空間周波数領域において、当該複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を決定し、
1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で前記複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータに偽解像が生じている場合、1.5cycles/mmよりも低空間周波数領域で偽解像が生じない空間周波数において、当該複数の撮影条件ごとの総合MTFシミュレーションデータのうち最もグラフが高く示された総合MTFシミュレーションデータに対応する撮影条件を決定する
請求項2〜11のいずれか1項に記載のX線撮影条件決定方法。