【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の通り、従前においても、上肢をサポートする為のクッションなどは種々提案されている。しかしながら、従来提案されているこれらの器具或いは装置は、何れも肩関節にかかる負担を軽減できるものの、その荷重がクッション部材を介して腹部に作用するものとなっていた。
【0007】
ここで、皮膚・筋肉などの関節周囲の軟部組織の収縮等によって関節の動きが制限された患者であって、特に上肢が屈曲又は拘縮した姿勢となってしまった患者や障害者の場合には、屈曲又は拘縮した上肢の安全性を確保する為、更に肩関節にかかる負担を軽減して症状の悪化を避ける為に、屈曲又は拘縮した上肢を支持・保護するのが望ましい。
【0008】
そこで本発明は、看護、リハビリ或いは介護などに際して、車いすや歩行器等の介護器具を利用して移動する場合であっても、屈曲又は拘縮している姿勢を確実に保持する事ができ、更に肩関節にかかる負担を適切に軽減しながらも、腹部に対する負担を軽減する事のできる上肢サポート用クッションを提供する事を第1の課題とする。
【0009】
また、姿勢保持が困難で、上肢の屈曲・拘縮姿勢がみられる患者や障害者或いは高齢者(以下、総称して「患者」とも言う)を対象とし、上肢をクッション材入りの上肢支えで適切に保持することにより、肩関節にかかる負荷を軽減すると共に、上肢が椅子等の構造フレームの外側にはみ出すことを防止して、安全で安楽な姿勢保持を可能とする上肢サポート用クッションを提供する事を第2の課題とする。
【0010】
そして、着座姿勢の患者を支持する為に提供されている従来の器具や装置は、腹部にかかる負荷を負担するものとして形成されていたことから、使用者の胸部から腹部にかかる範囲にはクッションが存在し、当該クッションが使用者の鳩尾(みぞおち)付近に常に接触していた。その為、使用者が前屈みの状態になる場合等には、腹部或いは胃を圧迫してしまい、使用者に不快を生じさせる要因となっていた。特に、胃瘻を造設している患者にあっては、鳩尾付近の腹壁を切開して胃内に管を通している為、当該胃瘻部に極力負荷がかからない安心・安全な構造が望まれていた。
【0011】
そこで、本発明では胃瘻を造成している利用者であっても、当該胃瘻造成部分に対して極力負荷がかからない安全で安楽な姿勢を保持できる上肢サポート用クッションを提供する事を第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題の少なくとも何れかを解決するべく、本発明では着座姿勢の患者の上肢を保持する事の出来る上肢サポート用クッションを提供する。
【0013】
即ち、本発明にかかる上肢サポート用クッションは、使用者の上肢をサポートするクッションであって、着座姿勢にある使用者の背中側に存在する部材に対して着脱自在に設けられる係止部材と、この係止部材に吊下げられたクッション本体とからなり、クッション本体は、着座姿勢における使用者の肘部を支持する肘支持部分と、当該肘支持部から上方に展開して使用者の前腕を支持する前腕支持部分とを有する上肢サポート面を備えて構成するものである。
【0014】
即ち、かかる上肢サポート用クッションは、クッション本体を、係止部材によって車いすの背凭れ部等に取り付けて使用するものであり、このクッション本体が具える上肢サポート面により、使用者(患者など)の上肢における肘部と前腕部とを挙上姿勢で保持するように構成している。したがって、この上肢サポート面は、使用者の肘部が当接する位置から上方に展開して拡がるように形成している。このように構成した上肢サポート用クッションによれば、使用者である患者における挙上した上肢を、安全かつ確実に保持する事ができ、肩部にかかる負荷を大幅に軽減する事ができる。また、当該クッション本体は、使用者の肩甲帯から脇下、上腕部外側、肘関節、前腕部を下側と外側から包み込むようにサポートする事ができ、よって上肢全体の肩関節への負荷を軽減すると共に、前腕部がクッション本体の外側にはみ出すことを防止する事ができる。
【0015】
前記係止部材は、着座姿勢にある使用者の背中側に存在する部材(以下、「背中側部材」とも言う)に対して着脱自在に設けられるものであり、少なくとも後述するクッション本体を保持できるものが使用される。かかる係止部材を設ける背中側部材は、使用者が着座する物品や機具が予め具えているものの他、当該物品や機具に別途設けた構成要素であっても良い。使用者が着座する物品や機具としては、車椅子、椅子、車両等の搭乗シート或いはソファ等であって良く、これらの背凭れや、使用者の背中側に設けた支柱などの各種部材に、前記係止部材を設ける事ができる。即ち、係止部材は椅子等が予め備えている部材や構成の他、別途設けた部材に取り付ける事ができる。具体的には、クッション本体の両側の上部に取り付けた係止部材を車椅子などの取付対象物に取り付ける場合、当該取付対象物の構造フレームの頭部支持部上端に近い位置に当該係止部を取り付ける箇所がない場合には、高さ調節可能な支柱などの取付用アタッチメントを別途設けて設置する事もできる。
【0016】
前記係止部材は、使用しない時には取り外しておくことができるように、前記背中側部材に対して、着脱自在に取り付けるのが望ましい。よって、当該係止部材は、アタッチメントやホック、ボタン、或いはベルト等を用いて形成する事ができる。
【0017】
また、前記背中側部材に対して着脱自在に設けられる係止部材は、更に長さ調節自在に形成されるのが望ましい。具体的には、例えば係止部材としてアタッチメントと、このアタッチメントから延出するバンド乃至はベルトを用いて構成し、このバンド乃至はベルトにアジャスターやトリグライド等を設けて長さ調整自在に形成するのが望ましい。これにより、クッション本体を車椅子や椅子フレームのグリップや取っ手など、頭部支持部上端に近い位置で、前記アジャスターを使って固定する事ができる。そして係止部材を長さ調整自在に形成する事によって、クッション本体を、使用者の体型や症状等に応じた最適な位置、例えばクッション本体の上部が肩関節に存在する位置に設置する事ができる。
【0018】
上記係止部材には、使用者の上肢をサポートする為にクッション本体を吊下げる。特に当該係止部材をクッション本体上部の外側寄りに設ける事により、当該クッション本体の上部の内側が使用者の肩甲帯の背面側に存在することができ、クッション本体は、使用者の肩甲帯の背面から上肢を包み込むようにサポートする事ができる。
【0019】
このクッション本体は、着座姿勢にある使用者の上肢を支持する上肢サポート面を備えている。かかる上肢サポート面は、着座している使用者の屈曲又は拘縮している上肢を、拳上状態で支持するものであり、よって肘部を支持する肘支持部分と、当該肘支持部から上方に展開して使用者の前腕を支持する前腕支持部分とを有するものとして形成する事ができる。このような上肢サポート面を備える事により、当該上肢サポート面は、使用者の肩関節から腋下、上腕部外側、肘関節、前腕部を下側と外側から包み込むようにサポートする事ができ、着座姿勢にある使用者の上肢を支持し、当該上肢の重さを負担する事ができる。よって、当該クッション本体によって、使用者の肩関節に対する上肢全体の負荷を軽減することができる。
【0020】
そして前記上肢サポート面に形成された前腕支持部分は、着座した使用者の肘部から前腕部を、挙上姿勢で収容する凹部を備える事が望ましい。かかる凹部を具えることで、当該凹部に前腕部分が収まり、安定した姿勢を保持する事ができる為である。即ち、当該凹部を設ける事で、使用者肘部から前腕部を挙上した状態で保持する事ができる為、上肢の屈曲・拘縮が見られる患者や高齢者、或いは機能回復訓練中の患者にとって、座位姿勢の保持が非常に楽なものとなる。なお、上記凹部は、前腕部だけでなく、更に使用者の肘部を収容するように形成するのが望ましい。肘部を収容且つ保持することにより、肘関節が収まって安定しやすくなり、また腋下から上腕部及び肘関節を下方から確実に支持する事ができ、肩関節に対する負荷を軽減できる為である。
【0021】
上記上肢サポート面は、前記凹部よりも外側が、前記凹部よりも内側よりも、正面側に膨出している事が望ましく、特に凹部外側の下側が、凹部の内側よりも膨出させることが望ましい。屈曲又は拘縮した前腕部が外側にはみ出さないようにすると共に、脇下から上腕部及び肘関節を下方から支える事ができるようにするためである。また、使用者の内側寄りの膨出部分を少なくして、装着の容易性を向上させて、装着時の違和感を軽減する為である。更に、肘関節が伸展して前腕部が外側下方向きに下がった場合でも、前腕部を確実に支持できる為、使用者の姿勢が多少崩れた際にも、当該クッションが使用者の身体からずれる事無く、常に上肢を安定させる事ができる為である。
【0022】
凹部よりも外側を正面側に膨出させるためには、当該部分に綿やスポンジなどのクッション又は空気などの流動体を肉厚に充填したり、角度をつけた保形性を有するプラスチック板や金属板等の補強板を背面側に設けて、凹部よりも外側が膨出する形状を成形することができる。特に、上記の凹部として、左右腕用クッション部材の夫々に、長さ方向に沿う溝として形成することにより、凹部の内側と外側における中綿等のクッションの量を個別に調整する事ができる。また、前記補強板は約30°折り曲げた板として形成する事ができ、これを設けるには、クッション本体の背面側に、当該補強板を収容するポケットを設けることができる。かかる補強板を設置することにより、当該クッション本体を強化でき、筋緊張による反り返りが生じた際にも、前腕部の外側へのはみ出しを確実に防止できる。
【0023】
前記クッション本体は、右腕用クッション部材又は左腕用クッション部材として片側の腕だけを支持するように形成しても良いし、使用者の右腕用クッション部材と左腕用クッション部材とから構成し、使用者の両腕を支持するように形成しても良い。片側の上肢だけを保持すれば十分な場合もあり、一方で両側の上肢を保持しなければならない場合もあるためである。両側の上肢を保持する場合には、左右それぞれの上肢を分担し、最適な位置で支持することができる。そして、この右腕用クッション部材と左腕用クッション部材とで形成する場合には、両クッション部材同士は、下方側であって、使用者の胸郭下部に位置する連結部で連結するのが望ましい。右腕用クッション部材と左腕用クッション部材とを連結する部分には、使用者の上肢の荷重が作用する。そこで、当該連結部分を使用者の胸郭下部に存在させることで、胃瘻を造成している障害者や高齢者などの使用者において、鳩尾(みぞおち)を圧迫する事が無くなり、使用時の快適さを向上させることができる。特に、使用者が胃瘻を造設している場合には、前屈みの状態になったとしても、鳩尾(みぞおち)に設けられる胃瘻部に負荷がかかる事態を無くして、使用時の快適性を向上させることができる。したがって当該連結部は、使用者の胸郭の下部に沿った曲線的な形状となるように、上方に向かう円弧状に形成するのが望ましい。
【0024】
前記連結部は、右腕用クッション部材と左腕用クッション部材の両者を繋げる機能を果たす事ができれば良い。したがって右腕用クッション部材と左腕用クッション部材とを一体化した部位を連結部として良く、当該連結部をジョイントやアタッチメント等で形成して、両者を連結する構成としても良い。また当該連結部は、上肢の荷重を負担する部位である事から、腋下を逃しつつ、広い面積で使用者に接するように、半円形状など幅広な形状に形成する事が望ましい。更に使用者の凡そ中央部に位置し、使用者の食事等によって汚れが付着しやすい部分であることから、当該連結部にはカバー等を設けて、清拭可能な構成とするのが尚望ましい。
【0025】
前記クッション本体は、綿やスポンジなどのクッション材料を成形した単一の部材として形成する他、更に外側をカバーする外側部材を用いて形成する事もできる。即ち、当該クッション本体は、綿やスポンジなどのクッション材料又は空気などの流動体を充填した袋状の内側部材と、この内側部材を包囲する外側部材とで構成する事ができる。クッション本体を内側部材と外側部材とからなる二重構造とすることにより、外側部材は前記内側部材を収容するカバーとして作用する事ができる。よって当該外側部材で内側部材を包囲することにより、例えば食事や日々の使用によって汚れが生じた場合にも、外側部材を剥がして洗浄する事ができ、クッション本体を清潔な状態に保つ事ができる。
【0026】
また、内側部材を構成するクッション材料は、弾力性が異なる2種類以上のクッション材料を積層させることもできる。弾力性が異なるクッション材料を使用する事により、サポートする上肢の部位に対応した最適なクッション性、及びサポート機能を果たす事ができる為である。かかる内側部材は、前記クッション材料を袋などに収容して形成することができる。
【0027】
さらに、前記内側部材には、前腕部を収容する凹部を形成すると共に、当該凹部の底面には面ファスナーを設け、当該面ファスナーによって、前記外側部材の内面であって且つ前記凹部と正対する部分を咬合するように構成する事が望ましい。このように形成する事で、外側部材は、内側部材に形成した凹部に沿って成形する事ができる為である。また、この面ファスナーによって、内側部材と外側部材とが確実に固定される為、使用者の動きによって内側部材と外側部材とがずれる事を防止できる。よって、上記構成とする事で、クッション本体における内側部材と外側部材が確実に固定され、使用者の快適な使用感を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
上記本発明の上肢サポート用クッションによれば、車椅子の背凭れ等に対して、係止部材によってクッション本体を吊下げ、このクッション本体は、着座姿勢における使用者の肘部を支持する肘支持部分と、当該肘支持部から上方に展開して使用者の前腕を支持する前腕支持部分とを有する上肢サポート面を備えることから、屈曲又は拘縮している上肢であっても、より安定な状態でサポートする事ができる。しかも、屈曲又は拘縮している上肢は、着座姿勢における使用者の肘部を支持する肘支持部分と、当該肘支持部から上方に展開して使用者の前腕を支持する前腕支持部分とを有する上肢サポート面によって支持できることから、使用者の腹部にかかる負担を大幅に軽減する事ができる。
【0029】
よって、本発明にかかる上肢サポート用クッションにより、看護、リハビリ或いは介護などに際して、車いすや歩行器等の介護器具を利用して移動する場合であっても、屈曲又は拘縮している姿勢を確実に保持する事ができ、更に肩関節にかかる負担を適切に軽減すると共に腹部への負担を軽減できる上肢サポート用クッションを提供する事ができる。
【0030】
また、前記クッション本体を、使用者の右腕用クッション部材と左腕用クッション部材とで構成し、両クッション部材を着座姿勢にある使用者の胸郭下部位置で連結することにより、胃瘻を造成している利用者であっても、当該胃瘻部に極力負荷がかからない安心・安全な上肢サポート用クッションを提供する事ができる。
【0031】
また、前記上肢サポート面に形成された前腕支持部分が、着座した使用者の肘部から前腕部を挙上姿勢で収容する凹部を備える場合には、当該前腕部を安定させてサポートする事ができ、更に当該凹部が使用者の肘部も収容する場合には、肩関節にかかる当該上肢全体の負荷を軽減する事ができる。
【0032】
また、前記上肢サポート面における前記凹部よりも外側を、凹部よりも内側よりも、正面側に膨出させて形成した場合には、上肢を安定してサポートする事ができ、筋緊張による反り返りが生じた際にも、前腕部の外側へのはみ出しを確実に防止できる。
【0033】
そして前記クッション本体が、クッション部材を積層させて収容する内側部材と、この内側部材を包囲する外側部材とを具えており、この内側部材に凹部を形成して、その底面に面ファスナーを設け、当該面ファスナーによって、前記外側部材の内面であって、前記凹部との正対部分を咬合させた場合には、当該凹部に沿った形状に形成する事ができ、また汚れやすい外側部材だけを取り外して洗浄できる。