【課題】患者(具体的には、幼児、乳幼児、新生児、及び言葉を使えない患者又は他の何らかの、言葉又は認識に困難がある患者(例えば、発達障害がある患者))の痛みを客観的且つ定量的に評価及び特性化する装置及び方法の提供。
【解決手段】痛覚計500は電気刺激を印加する神経選択的刺激装置502、皮質活動のレベルを測定する皮質活動モニタ504を有し、神経選択的刺激装置及び皮質活動モニタに接続されたマイクロプロセッサであって、電気刺激の強度と、患者の脳の1つ以上の領域における活動のレベルとを相関させることと、痛み強度の測定値、感覚探知閾値(SDT)の測定値、薬の鎮痛効果の測定値、薬に対する耐性の発現の兆候、鎮痛薬誘発性痛覚過敏の発現の兆候、異痛症の状態の兆候、痛み管理薬の用量対反応特性の測定値、及び痛み状態の特性化のうちの少なくとも1つを特定することと、を行うように構成されたマイクロプロセッサと、を含む。
前記刺激装置は、前記モニタリング装置によって皮質活動のSDTレベルが測定されるまで、前記電気刺激の強度を漸増させるように構成されている、請求項1に記載の装置。
前記刺激装置は、Aβ線維内に活動電位を発生させる第1の周波数、Aδ線維内に活動電位を発生させる第2の周波数、及びC線維内に活動電位を発生させる第3の周波数で電気刺激を感覚神経線維に印加するように構成されている、
請求項1に記載の装置。
前記モニタリング装置は、近赤外分光法(NIRS)、脳波検査(EEG)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、及び近赤外画像法(NIRI)のうちの少なくとも1つを利用して、前記患者の脳の前記1つ以上の領域における皮質活動の前記レベルを測定する、請求項1に記載の装置。
前記モニタリング装置は、NIRSと、2つの発光器及び2つの検出器を有するNIRSセンサとを利用して、前記患者の脳の前記1つ以上の領域における皮質活動の前記レベルを測定する、請求項4に記載の装置。
前記モニタリング装置は又、EEGを、センサである電極とともに利用して、前記患者の脳の前記1つ以上の領域における皮質活動の前記レベルを測定する、請求項5に記載の装置。
前記モニタリング装置は、EEGを、センサである電極とともに利用して、前記患者の脳の前記1つ以上の領域における皮質活動の前記レベルを測定する、請求項4に記載の装置。
前記マイクロプロセッサは、グラフィカルユーザインタフェースの一部分であり、ペリフェラルインタフェースを介して第2のマイクロプロセッサと接続されており、前記接続を介して前記第2のマイクロプロセッサを制御するように構成されており、
前記第2のマイクロプロセッサは、前記マイクロプロセッサから受け取るコマンドに基づいて、前記刺激装置及び前記モニタリング装置を制御する、
請求項1に記載の装置。
患者固有のパラメータを定義することと、痛み強度の測定値、SDTの測定値、薬の鎮痛効果の測定値、薬に対する耐性の発現の兆候、鎮痛薬誘発性痛覚過敏の発現の兆候、異痛症の状態の兆候、痛み管理薬の用量対反応特性の測定値、及び/又は痛み状態の特性化を前記マイクロプロセッサが特定するかどうかを選択することと、についての入力を受け取るように構成されたユーザ入力装置を更に備える、請求項1に記載の装置。
前記患者固有パラメータは、目標となる神経線維、前記電気刺激が印加される時間の長さ、前記電気刺激が印加される際の周波数、前記電気刺激が印加される際の強度、前記患者の身体の、1つ以上のモニタリングセンサが配置される場所、前記患者の身体の、1つ以上の刺激電極が配置される場所、前記患者が痛みを体験している場所、前記患者の発達段階、前記患者の年齢、前記患者の体重、前記患者の性別、前記患者の病状、及び現在の、又は予定されている治療介入のうちの少なくとも1つを含み、
前記マイクロプロセッサは、前記神経特異的刺激の強度と、前記患者の脳の前記1つ以上の領域における活動のレベルとを相関させることと、痛み強度の測定値、SDTの測定値、薬の鎮痛効果の測定値、薬に対する耐性の発現の兆候、鎮痛薬誘発性痛覚過敏の発現の兆候、異痛症の状態の兆候、痛み管理薬の用量対反応特性の測定値、及び/又は痛み状態の特性化を、前記患者固有データ入力に少なくとも部分的に基づいて特定することと、を行うように構成されている、
請求項9に記載の装置。
前記マイクロプロセッサは、前記鎮痛薬又は前記治験薬の鎮痛効果を、前記鎮痛薬又は前記治験薬の投与前及び投与後の痛み知覚強度の複数の測定値を特定することにより、測定するように構成されている、請求項11に記載の装置。
電気刺激を印加する前記ステップは、皮質活動のレベルを測定する前記ステップにおいて皮質活動のSDTレベルが測定されるまで、前記電気刺激の強度を漸増させるステップを含む、請求項14に記載の方法。
電気刺激を印加する前記ステップは、Aβ線維、Aδ線維、及びC線維のうちの1つに活動電位を発生させる為に選択された周波数で電気刺激を印加するステップを含む、請求項14に記載の方法。
皮質活動のレベルを測定する前記ステップは、近赤外分光法(NIRS)、脳波検査(EEG)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、及び近赤外画像法(NIRI)のうちの少なくとも1つを利用するモニタリング装置を用いて実施される、請求項14に記載の方法。
皮質活動のレベルを測定する前記ステップは、NIRSと、2つの発光器及び2つの検出器を有するNIRSセンサとを利用するモニタリング装置を用いて実施される、請求項18に記載の方法。
皮質活動のレベルを測定する前記ステップは、EEGを、センサである電極とともに利用して、前記患者の脳の前記1つ以上の領域における皮質活動の前記レベルを測定するモニタリング装置を用いても実施される、請求項19に記載の方法。
皮質活動のレベルを測定する前記ステップは、EEGを、センサである電極とともに利用して、前記患者の脳の前記1つ以上の領域における皮質活動の前記レベルを測定するモニタリング装置を用いて実施される、請求項18に記載の方法。
患者固有のパラメータを定義することと、前記電気刺激の強度と、前記患者の脳の前記1つ以上の領域において測定された皮質活動の前記レベルとを相関させる前記ステップが、痛み強度の測定値、感覚探知閾値(SDT)の測定値、薬の鎮痛効果の測定値、薬に対する耐性の発現の兆候、鎮痛薬誘発性痛覚過敏の発現の兆候、異痛症の状態の兆候、痛み管理薬の用量対反応特性の測定値、及び/又は痛み状態の特性化を特定するかどうか、を選択することと、についての入力をユーザから受け取るステップを更に含む、請求項14に記載の方法。
前記患者固有パラメータは、目標となる神経線維、前記電気刺激が印加される時間の長さ、前記電気刺激が印加される際の周波数、前記電気刺激が印加される際の強度、前記患者の身体の、1つ以上のモニタリングセンサが配置される場所、前記患者の身体の、1つ以上の刺激電極が配置される場所、前記患者が痛みを体験している場所、前記患者の発達段階、前記患者の年齢、前記患者の体重、前記患者の性別、前記患者の病状、及び現在の、又は予定されている治療介入のうちの少なくとも1つを含み、
前記電気刺激の強度と、前記患者の脳の前記1つ以上の領域において測定された皮質活動の前記レベルとを相関させる前記ステップは、痛み強度の測定値、SDTの測定値、薬の鎮痛効果の測定値、薬に対する耐性の発現の兆候、鎮痛薬誘発性痛覚過敏の発現の兆候、異痛症の状態の兆候、痛み管理薬の用量対反応特性の測定値、及び/又は痛み状態の特性化を、前記患者固有データ入力に少なくとも部分的に基づいて特定する、
請求項23に記載の方法。
様々なパラメータを有する有害及び半有害刺激に対する反応としての、複数の第1の患者の脳の1つ以上の領域における皮質活動の様々なレベルの複数の測定値を蓄積するステップであって、前記有害刺激は、前記半有害刺激に先だって、且つ/又は、1つ以上の臨床評価の一環として印加される、前記蓄積するステップと、
前記複数の測定値と、痛みスケールにおける、痛みスコアを表す複数の定量値とを相関させるステップと、
前記複数の測定値、これらに対応する定量値、及び前記対応する有害及び半有害刺激の前記パラメータをデータライブラリに記憶するステップと、
第2の患者の脳の前記1つ以上の領域における皮質活動の前記レベルの測定値に基づいて前記第2の患者に前記定量値のうちの1つを割り当てるステップであって、前記第2の患者に割り当てられる前記1つの定量値は、前記第2の患者の脳の前記1つ以上の領域における皮質活動の前記レベルの測定値に最も近い、前記データライブラリ内の測定値に対応する、前記割り当てるステップと、
を更に含む、請求項14に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
医療提供者は、診断及び治療にあたる患者の苦痛のレベルが様々であるという問題にしばしば直面する。患者の痛みを適切に評価することは、痛みの診断及び治療を正しく行う為には不可欠である。しかしながら、医療提供者は、患者が自分の体験している痛みを正確に説明することができない為に、そのような評価を行うことが困難である場合が多い。こうした困難さは、効果のない治療、不十分な治療、及び/又は過剰な治療につながる場合がある。
【0003】
より詳細には、痛みの体験には、少なくとも2つの構成要素がある。1)「感覚的」(侵害的)要素、並びに、2)「情動的」(感情的)要素である。感覚的要素は、特定刺激に対する反応として体性感覚系内で体験される侵害受容の感覚モダリティ(例えば、刺激に関する情報を患者の脳に運ぶ神経線維)からなる。情動的要素は、痛みが将来に及ぼす影響に関連付けられた不愉快さ及び他の感情(例えば、苛立ち、恐怖、苦悩など)からなる。
【0004】
従来の医療提供者は、患者の苦痛の量及び/又は強度を主観的、定性的、且つ/又は半定量的に測定する為に、様々な装置/方法を用いてきた。最もよく用いられてきた装置/方法は、カテゴリ別痛み記述子である。例えば、
図1Aは、言葉痛み強度スケールを示しており、これは、形容詞的記述子(例えば、「痛くない」、「少し痛い」、「ほどほど痛い」、「かなり痛い」、「非常に痛い」、「これ以上ないほど痛い」など)に基づく痛み強度測定に使用する。
図1Bは、数値的痛み強度スケールを示しており、これは、数値的等級付け(即ち、0の「痛くない」から10の「これ以上ないほど痛い」まで)に基づく痛み強度測定に使用する。
図1Cは、視覚的アナログスケール(VAS)を示しており、これは、2つの端点の間の連続的直線上の位置(即ち、左側端点に近いほど「痛くない」に近く、右側端点に近いほど「これ以上ないほど痛い」に近い)に基づく痛み強度測定に使用する。
図1Dは、ウォン・ベーカー(Wong−Baker)痛み強度スケールを示しており、これは、患者がどのように感じているかを最もよく表している顔(例えば、満面の笑顔は「痛くない」であり、泣き顔は「これ以上ないほど痛い」)に基づく痛み強度測定に使用する。
図1Eは、未熟児痛みプロファイル(PIPP)痛み評価スケールを示しており、これは、具体的な行動観察結果に対応するスコア(即ち、「リラックスした姿勢」が「痛くなさそう」に対応し、「のたうち回る」が「かなり痛い」に対応する)に基づく痛み測定に使用する。
図1Fは、泣き叫び、酸素要求、バイタルサイン上昇、表情、及び不眠(CRIES)痛み評価スケールを示しており、これは、複数の異なる行動観察結果を総計したスコア(即ち、「正常な」呼吸はスコア0に対応し、「顔をしかめる」はスコア2に対応する)に基づく痛み測定に使用する。これらの図が示すように、カテゴリ別痛み記述子は、言葉、数値、視覚、観察結果、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0005】
図1Aの言葉痛み強度スケール、
図1Bの数値痛み強度スケール、及び
図1CのVASは、主に、痛みを認識できる成人の痛み強度の評価に用いる。これらの装置/方法は、患者が、医師又は開業医による、患者の痛みについての質問を理解すること、並びに、ある程度の診断評価を可能にする為に、自分の痛みが各スケール上のどこに当てはまると思うかを、患者が口頭、又は他の提示方法で伝達できることを必要とする。医療提供者は、患者に対し、自分の痛みを、対応するカテゴリ別記述子を使用して説明するように指示し、患者の回答に従ってスケールの該当箇所にマーキングする。
【0006】
これらの方法は、自分の痛みの強さ又は場所を医師又は開業医に伝達できない患者(例えば、自分の痛み又は医師の質問を理解できない患者、「言葉を使えない」患者又は他の何らかの、言葉又は認識に困難がある患者、発達障害がある患者など)には使用できない。この為、小児や認識に難がある成人の痛み強度測定には、
図1Dのウォン−ベーカー痛み強度スケールを使用する。乳幼児や言葉を使えない患者の痛み強度測定には、
図1EのPIPP痛み評価スケールや
図1FのCRIES痛み評価スケールを主に使用する。これら2つの装置/方法は、医療提供者の観察だけを頼りにする。
【0007】
他の痛み評価装置/方法も、同様の弱点を抱えている。例えば、痛み耐性閾値(PTT)及び痛み知覚閾値(PPT)は共に、患者からの言葉による返答を頼りにして決定する。これらの決定は、主観的且つ半定量的であり、電気刺激を用いて大径及び小径の知覚神経線維の両方を直接興奮させて行う。PPTの決定値は、潜在的に有害である電気刺激の、知覚できる最小量を表しており、一方、PTTの決定値は、有害電気刺激の、医療診断ツールとして用いた場合に耐えることが可能な最大量を表している。従って、PTTの決定値は、患者の主観的な、言葉による返答だけに依存するのではなく、患者が、ある程度の嫌悪刺激を体験することを必要としており、これは、望ましくない不快感を患者に与えるばかりでなく、痛みの感情的要素をも誘発してしまう。
【0008】
同様に、神経障害性痛みの診断に利用可能な装置/方法は、患者の痛みの強度及び特徴(例えば、焼けるような、刺すような、ずきずきする、など)を患者自身が報告することを必要とする。この要件の為には、ある程度の教養や認識能力が必要であるが、発達遅延のある患者、言葉を使えない患者、或いは、非常に幼い患者には、それらが欠落している。更に、検査パラダイムを実施する為には、患者の主観的な入力が必要である。
【0009】
上述の従来の装置/方法に伴う、カテゴリ分けの制限により、医療提供者は、同程度の痛み強度の説明が患者ごとにばらばらであるという事態に遭遇することが避けられない(特に、痛みの感情的要素が性質として非常に主観的であるという点において)。痛み閾値は人によって異なる可能性があり、それらの痛み閾値は、外的影響(例えば、気を散らすものや雰囲気)によって変化する可能性がある。こうした状況依存要素及び経験的認識要素は、部分的には、痛みが最もよく発生するのが、けがや病気などの外傷性事象の一環としてであるという事実の結果である。例えば、有害刺激に対する反応としての患者の侵害性痛みは、苛立ち、恐怖、苦悩、及び/又は苦痛などの感情を伴う場合がある。この為、同程度の侵害性痛みを体験した複数の患者の間で痛みの説明が異なる場合があり、その結果、診断及び治療内容が異なってしまう場合がある。こうした問題が悪化するのは、患者が自分の痛みを説明できず、医療提供者が自分で患者を理学的に観察するしかない場合である(例えば、幼児、乳幼児、新生児、言葉を使えない患者、発達障害がある患者の場合)。
【0010】
痛みの侵害的要素も、患者ごとに主観的である場合がある。例えば、痛覚過敏に苦しんでいる患者は、侵害的痛みに対して強調された反応を体験する可能性がある。患者は、病気の際の挙動の一環として侵害的痛みに対して敏感になる可能性がある(即ち、病気に対する展開的反応)。また、異痛症に苦しんでいる患者であれば、普通は侵害的痛みを引き起こさないような刺激で侵害的痛みを体験する可能性がある。この為、患者によっては、他の患者より痛みに敏感な場合があり、そのような患者は、理学的所見に対して不釣り合いな侵害的苦痛を体験する可能性がある。その結果、そうした患者を適正に診断及び治療することが殊更困難になる可能性がある。
【0011】
患者が体験する痛みの主観的要素が様々であることに加えて、患者が故意でなく自分の痛みの評価を正しく行わないようにする場合がある。例えば、患者が痛みの程度を伝えようとしない場合や、患者が医療提供者から厄介者或いは薬を欲しがる者として見られることをおそれる場合がある。或いは、患者が、自分の病気に対して、意気消沈していたり、運命として諦めていたりする場合があり、その為、痛みが避けられないものであり、耐えなければならないものであると感じている場合がある。医療提供者の側ですら、痛みが避けられないものであり、耐えなければならないものであるとする姿勢をとる場合や、個人的な先入観や偏見が評価の独立性を阻害している場合がある。このように、患者にとって内的であれ外的であれ、様々な主観的要因が存在し、これらが患者の痛み評価を潜在的に偏向させている可能性があり、結果として、不正確な診断や、効果のない治療、不十分な治療、及び/又は過剰な治療につながる可能性がある。
【0012】
こうした主観的要因は、痛みの診断及び治療に悪影響を及ぼすだけでなく、痛み管理に用いる薬(即ち、鎮痛薬及び他の痛み介入)の有効性についての臨床試験にも悪影響を及ぼす。そのような臨床試験における主たる結果因子は、痛み緩和及び痛み軽減である。しかし、従来の痛み評価装置/方法では、得られる結果の個人間のばらつきが大きい為に、臨床試験又は他の臨床評価において、痛み緩和及び痛み軽減(即ち、有効性)の客観的測定量を得ることが困難であった。その為、そのような臨床試験の結果は、その精度、ひいては有用性が限定されたものであった。
【0013】
鎮痛薬の有効性を客観的に測定することは、従来の痛み評価装置/方法では困難であるが、それに加えて、特定の鎮痛薬を長期間にわたって、且つ/又は、高用量投与することにより、この困難さが更に増す可能性がある。例えば、オピオイド(例えば、モルヒネ、ヘロイン、ヒドロコドン、オキシコドン、メタドンなど)を長期間にわたって、且つ/又は、高用量投与すると、結果として、患者において、有害刺激に対して敏感(即ち、オピオイド誘発性痛覚過敏)になる場合があり、且つ/又は、以前は無害であった刺激に対して痛みがある反応(即ち、オピオイド誘発性異痛症)を示すようになる場合がある。しかしながら、これらのオピオイド誘発性毒性の形態は、オピオイドに対する耐性と同様の正味効果を示す為、これらの形態を耐性と区別することが、臨床状況では困難である。そして、オピオイドの用量を増やすことは、耐性を克服することには効果的な方法となりうるが、オピオイド誘発性の痛覚過敏又は異痛症を補償する為にこれを行うことは、身体依存性を高めながら痛みに対してますます敏感にすることになり、患者の症状を逆に悪化させる可能性がある。このような場合は、オピオイド治療を完全にやめてしまうほうが、実際には患者にとって有利である可能性がある。従って、医療提供者にとっては、実際の痛みを診断し、定量化し、治療によって誘発された副作用と区別することが可能であることが最も重要である。更に、医療提供者にとっては、そのような形態のオピオイド誘発性毒性の発生を識別することによって、それらを耐性と区別し、適切な治療を行うことが可能であるようにすることが非常に重要である。
【0014】
上述のように、当該技術分野においては、患者(具体的には、幼児、乳幼児、新生児、及び言葉を使えない患者又は他の何らかの、言葉又は認識に困難がある患者(例えば、発達障害がある患者))の痛みを客観的且つ定量的に評価及び特性化する装置及び方法が必要とされている。又、当該技術分野においては、現在使用されている鎮痛薬及び他の痛み介入の効果を客観的に測定し、又、痛み管理を目的とした新薬及び/又は治験薬並びに介入の有効性並びに用量と反応との関係を客観的に測定する装置及び方法も必要とされている。又、当該技術分野においては、そのような鎮痛薬に対する耐性及び/又は鎮痛薬誘発毒性の発現を検出する装置及び方法が必要とされている。更に、複数の証拠が示唆するところによれば、発育上の予期しない時期に、新生児が繰り返し且つ長期間にわたって痛みにさらされると、新生児のその後の痛み処理、長期的発育、及び挙動が変化する。従って、新生児期後の痛み処理経路のそのような変化を防ぐ為には、新生児期における痛みの適正な診断、定量化、並びに適切な痛み治療を行うことが最も重要である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、先行技術の弱点を克服し、少なくとも後述の利点を提供するものであって、その為には、神経特異的電気刺激を皮質活動モニタリングと統合することにより、痛みの客観的、定性的、且つ定量的な測定値、感覚探知閾値(SDT)、薬及び他の痛み介入の鎮痛効果、鎮痛薬及び他の痛み介入の薬力学的影響、痛み管理を目的とした、新規な治験薬及び他の介入の有効性並びに用量と反応との関係、並びに、様々な薬や痛み介入による耐性及び/又は鎮痛薬誘発毒性の発現を取得する。本発明は又、様々な痛み状態(例えば、神経障害性痛み、痛覚過敏、異痛症など)の客観的特性化を行うことを可能にする。より詳細には、神経特異的電気刺激を患者に漸増的に印加していき、刺激が特定の知覚神経線維を活性化するまで(即ち、目標神経線維において閾値活動電位が発生するまで)、但し、痛みの感情的要素を誘発しないように印加していく。言い換えると、明白な痛みがなく、身体への害がまったくない状態で興奮が検出される程度まで、知覚神経線維を活性化する。そして、患者が明白な痛みを受けない為、皮質活動モニタリング技術を用いて、患者が体験する侵害受容のレベルを測定する。本発明は、これらの技術を統合して、患者が体験する侵害受容の測定レベルと、印加される神経特異的電気刺激のタイプとの直接的相関を与えることにより、その刺激に対する患者の反応の客観的、定性的、且つ定量的な測定を行うものである。
【0019】
神経特異的電気刺激に対する、測定された患者の反応を用いて、患者のSDTを決定し、患者の刺激反応の診断的特性化(例えば、神経障害性痛み、痛覚過敏、異痛症など)を行う。又、測定された患者の反応を用いて、印加されている神経特異的電気刺激のタイプに応じた、患者のSDTに対する様々な薬及び痛み介入の鎮痛効果を特定する。そして、本発明は、これらの測定を、時間を追って繰り返すことにより、様々な薬による耐性及び/又は鎮痛薬誘発毒性の発現を検出することも可能である。従って、本発明は、患者における痛みを客観的且つ定量的に評価する装置及び方法を提供するだけでなく、薬及び他の痛み介入の鎮痛効果を客観的に測定し、痛み管理を目的とした新規な治験薬及び他の介入の有効性並びに用量と反応との関係を測定し、痛み状態を客観的に特性化する装置及び方法も提供する。
【0020】
本発明によって提供されるこれらの利点及び他の利点は、以下、並びに添付図面における好ましい実施形態の説明により、よりよく理解されるであろう。好ましい実施形態を説明するにあたっては、わかりやすくする為に具体的な専門用語を用いている。しかしながら、本発明は、そのように選択された具体的な専門用語に限定されるものではなく、具体的な用語のそれぞれは、同様の目的を達成する為に同様に動作する全ての技術的等価物を包含することを理解されたい。例えば、「Aβ線維」、「Aδ線維」、「C線維」という用語は、ヒトの皮膚の一次神経線維を限定的に意味する場合に用いるだけでなく、より広く、筋肉、関節、及び内臓における対応する神経線維(例えば、II群、III群、及びIV群の神経線維)を意味する場合にも用いる。
【0021】
A.神経特異的電気刺激
体性感覚系は、接触、温度、姿勢、痛みなどの感覚モダリティを生成する受容器及び処理中枢を含む。感覚受容器は、人体の皮膚及び上皮、骨格筋、骨及び関節、並びに内臓を覆う神経終末である。これらの感覚受容器は、様々なタイプの神経線維によって刺激され、同じ細胞又は隣接する細胞において段階的電位又は活動電位を発生させることにより、刺激に対する反応としての感覚変換を開始する。これらの神経線維は、軸索伝導速度、無反応時間、線維サイズ、髄鞘形成などの特性に基づいて等級分けすることが可能である。
【0022】
図面を参照すると、
図2は、ヒトの典型的な感覚神経の神経線維径の分布を示すグラフと、対応する神経線維特性を列挙した表とを示している。ヒトの典型的な感覚神経は、一次求心線維が束ねられて構成されている。ヒトの皮膚の一次線維は、大径(例えば、5−12μm)且つ有髄のAベータ(Aβ)線維、中径(即ち、2−5μm)且つ有髄のAデルタ(Aδ)線維、及び小径(即ち、0.2−1.5μm)且つ無髄のC線維を含んでいる。ヒトの筋肉の一次線維は、類似の有髄軸索群、即ち、Aβ線維と類似のII群線維、Aδ線維と類似のIII群線維、及びC線維と類似のIV群線維に細分される。そして、関節の一次線維は、I群線維だけでなくII群、III群、及びIV群線維を含んでいるが、このうちのIV群線維は、類似の皮膚線維を持たないが、Aα筋線維と同様である。これらの主要な線維タイプのそれぞれは、それぞれの特徴的な神経生理学的特性、感覚機能、脱分極特性、電気刺激によって誘起される興奮、並びに伝導ブロック感受性を有している。
【0023】
例えば、Aβ線維は、様々な皮膚機械的受容器及び少数の内臓機械的受容器と結合されており、I群及びII群線維は、筋機械的受容器及び関節機械的受容器と結合されている。Aβ線維並びにI群及びII群線維は、「低閾値」線維と見なされている。これは、それらの線維が、皮膚に対する無害刺激(例えば、皮膚の押し込み、皮膚及び毛の動き、皮膚及び毛の振動など)、筋肉に対する無害刺激(例えば、筋肉の長さの変化、筋肉の伸長、筋肉の収縮、筋肉の振動など)、及び関節に対する無害刺激(例えば、関節の膨張、関節の収縮、関節の振動など)を検出する為である。Aβ線維及びII群線維は、伝導速度が速い(例えば、それぞれ、30−75m毎秒及び24−71m毎秒である)。I群線維は、伝導速度が更に速い(例えば、72−120m毎秒である)。Aβ線維及びII群線維は、典型的には、接触、圧迫、及び/又は振動の知覚信号を伝達するインパルスを伝導する。そのような信号の伝導は、病変部の加圧による閉塞の影響を最も受けやすい。
【0024】
Aδ線維、C線維、並びにIII群及びIV群線維は、機械的受容器、温度受容器、及び多モード侵害受容器と結合されている。これらは、「高閾値」線維と見なされている。これは、それらが、Aβ線維並びにI群及びII群線維に対する刺激(即ち、無害刺激)より高い強度の刺激(即ち、有害刺激)を検出するからである。これらは、皮膚に対する有害刺激(例えば、激しい圧迫、過酷な温度、皮膚組織の損傷など)、筋肉に対する有害刺激(例えば、激しい圧迫、虚血。筋肉組織の損傷など)、及び関節に対する有害刺激(例えば、極端な曲げ、無害な動き、関節のプロービングなど)を検出する。これらの線維は、有害刺激と無害刺激とを区別しないものもあれば、痛みを伴う激しい刺激にのみ反応するものもある。
【0025】
Aδ線維及びIII群線維は、伝導速度が中程度である(例えば、それぞれ、12−30m毎秒及び6−23m毎秒である)。C線維及びIV群線維は、伝導速度が遅い(例えば、それぞれ0.3−1.5m毎秒、及び2.5m毎秒未満)。Aδ線維及びIII群線維と、C線維及びIV群線維との間で伝導速度に差があることは、部分的には、Aδ線維及びIII群線維が有髄であって(即ち、電気的絶縁物質である薄い髄鞘で覆われていて)、C線維及びIV群線維が無髄であるという事実に起因している。この為、Aδ線維及びIII群線維を刺激すると、鋭利な性質の急速な痛みが早い時点で誘発されるが、C線維及びIV群線維を刺激すると、鈍く、ずきずきする性質の長引く痛みが遅い時点で誘発される。言い換えると、Aδ線維及びIII群線維は、典型的には、激しい圧迫、過酷な温度、及び/又はけがによる痛みの初期知覚信号を伝達するインパルスを伝導し、C線維及びIV群線維は、痛みの初期知覚に続く、長引く、ずきずきする体験の信号を伝達するインパルスを伝導する。Aδ線維及びIII群線維による信号の伝導は、病変部に酸素が十分に供給されないことによる閉塞の影響を最も受けやすく、C線維及びIV群線維による信号の伝導は、病変部に麻酔をかけて麻痺させることによる閉塞の影響を最も受けやすい。
【0026】
図2に戻ると、無髄のC線維は、典型的なヒトの感覚神経において最も多くある線維であり(最大80%)、Aδ線維及びAβ線維は、互いに同等に少ない(それぞれ最大10%)。小径のC線維は、無反応時間が最も長く、より径が大きいAδ線維及びAβ線維は、無反応時間がより短い。これらの無反応時間の違いは、各線維の表面積当たりの使用可能なイオンチャネルの量の直接の結果であろう。径が小さいほど、荷電閾値も高くなり、線維において活動電位を発生させる為の刺激脱分極に長い時間を必要とする。例えば、薬理学的介入又は病的状態がない場合、C線維には、0.01−2.0mAの範囲の正弦波を5Hzの周波数で印加することにより、C線維において活動電位を発生させることが可能であり、Aδ線維には、0.03−2.2mAの範囲の正弦波を250Hzの周波数で印加することにより、Aδ線維において活動電位を発生させることが可能であり、Aβ線維には、0.22−6.0mAの範囲の正弦波を2000Hzの周波数で印加することにより、Aβ線維において活動電位を発生させることが可能である。正弦波を用いるのが好ましいのは、脱分極の頻度が波形の周波数に依存する為である。
【0027】
径が小さいほど無反応時間が長くなる為、この正弦波刺激は、特定の神経線維だけに作用するように、様々な継続時間で印加することが可能である。例えば、Aβ線維は、2000Hzの周波数で印加される短い継続時間(例えば、最長0.25ミリ秒)の正弦波刺激に反応できるが、より小径の線維(即ち、Aδ線維及びC線維)は、それよりかなり長い継続時間(例えば、C線維の場合は最長100ミリ秒)の正弦波刺激でないと反応できない。そして、Aβ線維は、より小径の線維(即ち、Aδ線維及びC線維)において活動電位を発生させることに使用される周波数(例えば、5Hz及び250Hz)であって、Aβ線維を脱分極できる周波数より素早く再分極する。言い換えると、小径の線維は、短い継続時間では、それぞれの閾値活動電位を達成せず、大径の線維は、低い周波数では、それぞれの閾値活動電位を達成しない。同時に、これらの因子は、様々な周波数(Hz)、強度(mA)、及び継続時間(ミリ秒)の電気刺激を用いて、Aβ線維、Aδ線維、及びC線維から選択的反応を別々に誘起することを可能にする。そこで、このような、目標を絞った電気刺激を、以下では「神経特異的」電気刺激と称し、そのような複数の目標からユーザが選択することを可能にする装置を、以下では「神経選択的」刺激装置と称する。
【0028】
損傷を引き起こす従来型刺激(例えば、熱刺激、化学刺激、機械的刺激など)ではなく、電気刺激を用いて、痛みを評価し、特定の感覚神経線維に目標を絞ることの重要な一利点は、そのような電気刺激が、周辺の侵害受容器をバイパスして目標神経線維を直接刺激することである。結果として、適応(即ち、同じ反応を誘発する為に必要な刺激が強くなること)や習慣化(即ち、刺激の繰り返し中に反応性が減退したり抑制されたりすること)のような受容器依存プロセスは起こらない。従って、電気刺激を使用することは、個々のタイプの感覚神経によって保持される侵害性経路の特性化を可能にするだけでなく、損傷を引き起こさずに特定の神経線維の試験を繰り返すことを可能にする。
【0029】
更に、本発明では、患者が痛い(又は有害)と見なす(又は知覚する)刺激より弱い電気刺激を利用して、それぞれの患者のSDTを決定する。このような「半有害」神経特異的刺激の印加は、目標神経線維の閾値活動電位を達成する為には十分な大きさでありながら、患者がその電気刺激に対する反応として痛い感じを意識して知覚することがないほどの小ささである強度を有する電気刺激を発生させることにより行う。従って、神経特異的周波数(例えば、5Hz及び250Hz)で印加される半有害電気刺激は、Aδ線維及びC線維の閾値活動電位を別々に達成することに使用可能であり、これによって患者が実際に痛みを知覚することはない。
【0030】
B.皮質活動モニタリング
上述の受容器及び神経線維に加えて、体性感覚系は更に、前帯状皮質(ブロードマン24野、32野、及び33野)、一次体性感覚皮質(ブロードマン3野、1野、及び2野)、二次体性感覚皮質(ブロードマン5野)、島皮質(ブロードマン13野及び14野)、背外側前頭前皮質(ブロードマン9野及び46野)、及び頭頂葉皮質(ブロードマン7野)を含む。これらの脳皮質領域は、体性感覚系内でそれぞれが異なる役割を果たす。例えば、一次体性感覚皮質(S1)は、触覚の侵害的刺激の強度情報を処理し、背外側前頭前皮質(DLPFC)は、触覚の侵害的刺激の注意的情報及び感情的情報をコード化する。従って、これらの、脳皮質領域をモニタリングすることにより、そのような刺激に対する患者の反応を測定することが可能である。そのようなモニタリング技術として、近赤外分光法(NIRS)及び脳波検査(EEG)がある。
【0031】
NIRSは、患者の皮質領域の血行力学的変化を評価する発光及び光吸収の技術であって、この評価は、生体組織に赤外光を侵入させて脳の酸素化を推定し、組織発色団によって吸収される赤外光の量を測定することにより行う。組織発色団としては、例えば、ヘモグロビン(即ち、オキシヘモグロビン[O2Hb]、デオキシヘモグロビン[HHb]、及び総ヘモグロビン[HbT=O2Hb+HHb])やシトクロムaa3(即ち、酸化シトクロムaa3)などがある。酸素化の増加は、領域血流の増加を表しており、これは、脳内では、皮質活動の増加と相関があるように示されている。近赤外スペクトル内の光(即ち、波長が700−1000nmの光)は、組織内に十分侵入して脳皮質領域(例えば、一次体性感覚皮質や背外側前頭前皮質)を照射することが可能である。オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、及び酸化シトクロムaa3は、それぞれ異なる吸収スペクトルを近赤外スペクトル内に有しており、これは可視スペクトルにおける場合と同じである。従って、NIRSを用いることにより、それらの皮質領域におけるヘモグロビン及び酸化シトクロムaa3の濃度、並びに、それらの皮質領域におけるヘモグロビン酸素飽和度(即ち、StO2=O2Hb/tHb)及びシトクロムaa3の酸化還元状態(即ち、酸化シトクロムaa3の減少)を測定することが可能である。
【0032】
図3A及び
図3Bに示すように、それらの測定値を用いて、患者の脳皮質領域における、特定の刺激に対する血行力学的反応をモニタリングすることが可能である。
図3Aは、6Hzのサンプリング周波数(即ち、毎秒6個の測定値を取得)を用いて、生後5週間の早期新生児(即ち、月経後30週齢)から得られたデータを含んでおり、
図3Bは、2Hzのサンプリング周波数(即ち、毎秒2個の測定値を取得)を用いて、生後5週間の早期新生児(即ち、月経後34週齢)から得られたデータを含んでいる。これらの図では、一次体性感覚皮質において取得されたNIRS測定値を用いて、総ヘモグロビンの変化を時間に対してプロットしている。20秒の時点で患者に刺激を印加しており、これによって、すぐ後に、対側一次体性感覚皮質において測定される総ヘモグロビンが大幅に増加している。組織の酸素化の増加は、対側一次体性感覚皮質における領域血流の増加(即ち、対側一次体性感覚皮質内の活動の増加)を表している為、
図3A及び
図3Bは、特定の刺激に対する患者(特に新生児及び乳幼児)の反応を測定する際のNIRSの有効性を示している。
【0033】
NIRSは特に、新生児及び乳幼児の痛み測定に適しており、これは、上述のように、真の痛み体験が感情的要素を含む為である。新生児及び乳幼児は、痛み刺激に対する行動反応をすぐに適応させるため、従来の痛み評価装置/方法では効果がない。従って、NIRSが特に新生児及び乳幼児の痛み測定に適しているのは、(例えば、一次体性感覚皮質(侵害的)と背外側前頭前皮質(感情的)とにおいて測定された血行力学的変化を比較することにより)痛みの感情的要素と侵害的要素とを分離できる為である。
【0034】
EEGは、脳活動を評価する生体電位測定技術であり、この評価は、患者の頭骨の皮膚上に電極を配置し、脳で発生する興奮電位及び抑制電位の強度及びパターンを測定することにより行う。EEG信号は、多くの場合、異なる周波数帯に分割され、それらは、デルタ(<4Hz)、シータ(4−8Hz)、アルファ(8−12Hz)、ベータ(13−30Hz)、及びガンマ(>30Hz)である。皮質領域の活性化は、アルファ帯のEEG発振の振幅の減少と、ガンマ帯のEEG発振の振幅の増加とによって特徴付けられる。従って、EEGを用いることにより、脳の別々の皮質領域(例えば、一次体性感覚皮質と背外側前頭前皮質)での神経活動及び血行力学的活動を測定することが可能である。
【0035】
図4A及び
図4Bに示すように、これらの測定値を用いて、様々な刺激に対する皮質反応をモニタリングすることも可能である。
図4A及び
図4Bは、頭皮上の位置Czにおいてガンマ帯の38−72Hzの周波数範囲で実施したEEG測定により、19−30歳の患者から得られたデータを含んでいる。
図4Aは、EEGの発振を時間に対してプロットしたものであり、
図4Bは、それらのEEG発振のフィッシャー(Fisher)のZ値(即ち、Znk=0.5ln[(1+rnk)/(1−rnk)])を時間に対してプロットしたものである。相関分析を行って、EEG掃引の一部分におけるEEG発振の共分散を統計的に推定し、結果として得られた相関係数(即ち、rnk)をフィッシャーのZ値に変換することにより、分析の時間間隔の間の発振反応の正規化尺度を与えている。この正規化方法の詳細な説明が、マリツェヴァ,I.等(Maltseva,I.)著,「動的メモリ動作のインジケータとしてのアルファ発振−省略された刺激の予想(Alpha oscillations as an indicator of dynamic memory operations−anticipation of omitted stimuli」,インターナショナル ジャーナル オブ サイコフィジオロジ(Int.J.Psychophysiology),36巻(3号),185−197頁,(2000年)に示されており、この内容は、参照によって、その全体があたかも本明細書に示されているかのように本明細書に組み込まれている。
【0036】
図4A及び
図4Bでは、375ミリ秒の時点で患者に刺激を印加しており、これによって、ほぼ同時に、一次体性感覚皮質付近で測定されたEEG発振のZ値が著しく増加している。これらのZ値の増加は、一次体性感覚皮質の活性化(即ち、一次体性感覚皮質における活動の増加)を表している為、
図4A及び
図4Bは、特定の刺激に対する患者(特に新生児及び乳幼児)の反応を測定する際のEEGの有効性も示している。EEGは特に、NIRSに関して上述したことと同様の理由で、新生児及び乳幼児の痛み測定に適している。また、新生児及び乳幼児の脳は、本質的に未熟であることから、少数の明確に定義されたパターンしか表現しないが、そのことによって、これらのパターンがEEGで認識しやすくなっていることも、EEGが特に新生児及び乳幼児の痛み測定に適している理由である。
【0037】
前述の例では、一次体性感覚皮質又はその付近でNIRS及びEEGの測定値を取得することを説明したが、NIRS及びEEGの測定値は、代替として、又は追加で、他の皮質領域(例えば、背外側前頭前皮質や後頭皮質など)で取得してもよい。上述のように、一次体性感覚皮質は、触覚の侵害的刺激の強度情報を処理し、背外側前頭前皮質は、触覚の侵害的刺激の注意的情報及び感情的情報をコード化する。言い換えると、一次体性感覚皮質での活動は、痛みの侵害的要素とより強く関連付けられており、背外側前頭前皮質での活動は、痛みの感情的要素とより強く関連付けられている。背外側前頭前皮質での活動は又、プラセボ誘発性及び鎮痛薬誘発性の両方の無痛覚とも関連付けられている。後頭皮質での活動は、一般に、一次体性感覚皮質及び背外側前頭前皮質での、痛みに誘発された活動を反映しない。従って、後頭皮質での測定値は、一次体性感覚皮質及び/又は背外側前頭前皮質での測定値に対する対照標準として使用可能である。更に、一次体性感覚皮質及び背外側前頭前皮質の両方でNIRS及び/又はEEGの測定値を取得することにより、痛みの侵害的要素と感情的要素との区別、及び/又は薬誘発性無痛覚と感情誘発性無痛覚との区別を支援することが可能である。両方の場所でNIRS又はEEGを行うことも可能であり、一方の場所でNIRSを行い、別の場所でEEGを行うことも可能であり、両方の場所でEEG及びNIRSの両方を行うことも可能である。両方の場所でEEG及びNIRSの両方を行う構成では、冗長な分、高信頼度の測定値が得られる。
【0038】
C.痛覚計
本発明は、神経特異的電気刺激と皮質活動モニタリングとの新規な組み合わせを利用するものであり、神経特異的電気刺激とモニタリングされた皮質活動との直接相関を実時間で取ることにより、痛み強度及び無痛覚の客観的測定値を与える。本発明は、これらの測定値を用いて、痛みの客観的定量化を行い(例えば、痛みスコア、SDT値などを与え)、現在使用されている鎮痛薬及び他の痛み介入の効果の客観的測定値を与え、痛み管理を目的とした新薬及び/又は治験薬並びに他の介入の有効性並びに用量と反応との関係の客観的な測定値を与え、耐性及び/又は鎮痛薬誘発毒性の発現を識別し、痛みの客観的特性化(例えば、侵害的痛み、神経障害性痛み、痛覚過敏、異痛症など)を与える。この機能性は、単一の装置によって与えられる。以下では、その装置を「ヒト痛覚計」、又は単に「痛覚計」と称する。
【0039】
図5は、本発明の非限定的な一実施形態によるヒト痛覚計500の一例を示す。痛覚計500は、神経選択的刺激装置502、皮質活動モニタ504、コンポーネントインタフェース506、及びグラフィカルユーザインタフェース508を含んでいる。神経選択的刺激装置502は、特定の神経線維(例えば、Aβ線維、Aδ線維、及びC線維)に対して、神経特異的周波数(即ち、2000Hz、250Hz、及び5Hz)で印加される特定の電圧及び電流を用いて神経特異的刺激を印加するように構成されている。皮質活動モニタ504は、神経選択的刺激装置502から発生する神経特異的電気刺激及び/又は他の形式の刺激に対する血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応に基づいて、皮質活動をモニタリングするように構成されている。コンポーネントインタフェース506は、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504の両方を制御すること、これら2つのコンポーネント502及び504の機能性を統合すること、並びに、これら2つのコンポーネント502及び504によって取得されたデータを記憶することを行うように構成されている。そして、グラフィカルユーザインタフェース508は、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504を制御するためにユーザが入力したデータを受信して送信することと、これら3つのコンポーネント502、504、及び506によって測定、サンプリング、及び記憶されたデータを分析して表示することと、を行うように構成されている。
【0040】
図5に示した痛覚計500は、主にNIRSの観点で説明されるが、本発明の趣旨から逸脱することなく、NIRSの代わりに(又はNIRSに加えて)EGGを用いることも可能である。更に、他の好適な形式の皮質活動モニタリング(例えば、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、近赤外画像法(NIRI)など)も、本発明の趣旨から逸脱することなく、NIRS及び/又はEEGの代わりに(又はこれらに加えて)用いることが可能である。しかし、一般に、NIRS及びEEGを実施する為に必要な機材は他の形式の皮質活動モニタリングに利用される機材ほど大掛かりではない為、又、少なくともNIRS及びEEGの機能について上述している為、本発明の痛覚計500は、NIRS及び/又はEEGを利用することが好ましい。
【0041】
i.神経選択的刺激装置502
図6に示すように、神経選択的刺激装置502は、低電圧回路600及び高電圧回路602を含んでいる。低電圧回路600及び高電圧回路602は、両方とも、コンポーネントインタフェース506内のマイクロプロセッサ900(
図9)に接続されている。低電圧回路600は、正弦波発生回路604、デジタルポテンショメータ回路606、及びDC相殺回路608を含んでいる。そして、高電圧回路602は、高精度非反転演算増幅器(オペアンプ)610、第1のカレントミラー612、第2のカレントミラー614、第1の高電圧電流源616、第2の高電圧電流源618、及び電極入出力620を含んでいる。低電圧回路600が純AC正弦波信号を発生させ、これを高電圧回路602が電流ベースの信号に変換する。
【0042】
より詳細には、マイクロプロセッサ900が正弦波発生回路604に接続されていて、正弦波発生回路604は、低電力直接デジタル合成(DDS)プログラマブル波形発生集積回路(IC)を含んでいる。マイクロプロセッサ900は、様々な神経線維(例えば、C線維、Aδ線維、及びAβ線維)の活性化に必要な刺激に対応する様々な信号周波数(例えば、5Hz、250Hz、及び2000Hz)を発生させるコマンド(
図6の「周波数選択」)を正弦波発生回路604に送信する。マイクロプロセッサ900は又、水晶振動子を基準とする1メガヘルツ(MHz)のクロッキング信号を正弦波発生回路604に送信する。正弦波発生回路604は、この信号を用いて、周波数精度が±10ミリヘルツ(mHz)である必要な正弦波信号を発生させる。
【0043】
正弦波発生回路604及びマイクロプロセッサ900は、両方とも、デジタルポテンショメータ回路606に接続されている。正弦波発生回路604は、発生させた正弦波をデジタルポテンショメータ回路606に送信する。そして、マイクロプロセッサ900は、様々な信号振幅に対応するコマンド(
図6の「強度選択」)をデジタルポテンショメータ回路606に送信する。このコマンドを、デジタルポテンショメータ回路606にある電圧分割器が用いて、様々な信号振幅を、正弦波発生回路604が発生させた正弦波に適用する。これらの信号振幅は、高電圧回路602が使用して、様々な神経線維(例えば、C線維、Aδ線維、及びAβ線維)の活性化に必要な刺激に対応する様々な強度(例えば、0.5mA、0.85mA、及び2.3mA)の電流を発生させることが可能であるように、マイクロプロセッサ900によって厳密に制御される。高電圧回路602が発生させる最大強度は、患者に印加される刺激が半有害にとどまるように設定される(即ち、目標神経線維の閾値活動電位を達成する為には十分な強度でありながら、患者が痛みを意識して知覚することがないような低い強度になるように設定される)。
【0044】
デジタルポテンショメータ回路606は、DC相殺回路608に接続されており、マイクロプロセッサ900及び正弦波発生回路604からの入力を用いて発生させた信号をDC相殺回路608に送信する。DC相殺回路608は、これらの信号からDC成分を除去して、所望の周波数及び振幅を有する純AC信号を生成する。結果として得られる電圧ベースの信号は、高電圧回路602に送信されて、電流ベースの信号に変換される。
【0045】
低電圧回路600のDC相殺回路608は、高電圧回路602の非反転オペアンプ610の非反転入力に接続されている。非反転オペアンプ610の反転入力には、高精度利得抵抗RGainが、抵抗とキャパシタの組み合わせR6/C1を介して接続されている。DC相殺回路608が、デジタルポテンショメータ回路606からの入力で発生させた電圧ベースの正弦波信号を非反転オペアンプ610に送信する一方、利得抵抗RGainは、高電圧回路602の利得の制御に用いる。非反転オペアンプ610の入力バイアス電流は数ピコアンペア(pA)未満であることが好ましく、利得抵抗RGainの抵抗値は約10オームであることが好ましい。
【0046】
非反転オペアンプ610は、第1及び第2のカレントミラー612及び614のそれぞれの第1のトランジスタQ2及びQ7に接続されている。そして、第1及び第2のカレントミラー612及び614の第2のトランジスタQ1及びQ6は、それぞれ抵抗R1及びR5を介して、利得抵抗RGainと、非反転オペアンプ610の非反転入力とに接続されている。第1のカレントミラー612の第1及び第2のトランジスタQ2及びQ1は、NPNトランジスタであり、第2のカレントミラー614の第1及び第2のトランジスタQ7及びQ6は、PNPトランジスタである。
【0047】
第1及び第2のカレントミラー612及び614の第2のトランジスタQ1及びQ6は、第1及び第2の高電圧電流源616及び618の第1のトランジスタQ3及びQ10にそれぞれ接続されており、第1及び第2のカレントミラー612及び614の出力が、それぞれ、第1及び第2の高電圧電流源616及び618に送られる。高電圧源+HV(例えば、+400V)及び−HV(例えば、−400V)が、それぞれ、抵抗R2及びR10を介して、第1及び第2の高電圧電流源616及び618の第2のトランジスタQ4及びQ9に接続されている。そして、第1及び第2の高電圧電流源616及び618の第3のトランジスタQ5及びQ8は、抵抗R9と抵抗及びキャパシタの組み合わせR7/C2及びR8/C3のペアとの直列接続を介して、電極入出力620に接続されている。第1の高電圧電流源616の第1、第2、及び第3のトランジスタQ3、Q4、及びQ5は、PNPトランジスタであり、第2の高電圧電流源618の第1、第2、及び第3のトランジスタQ10、Q9、及びQ8は、NPNトランジスタである。高電圧回路602の各コンポーネントは、連係して、10mA以上の強度を有する電流刺激を発生させることが可能な電圧電流変換器として動作する。
【0048】
高電圧回路602の電極入出力620は、電流測定抵抗RSense及びマイクロプロセッサ900に接続されている。第1及び第2のカレントミラー612及び614の出力は、結合され、抵抗とキャパシタの組み合わせR7/C2及びR8/C3のペアを介して、電極入出力620に送られ、更なるDC相殺を与え、患者の皮膚インピーダンスの変化を補償する。そして、結果として患者に印加される電流は、測定抵抗RSenseを通して測定され、微調節のためにマイクロプロセッサ900に送り返される(
図6の「フィードバック」)。例えば、マイクロプロセッサ900は、測定された電流が、所望の神経線維を目標とする為に必要な電流より高い場合、及び/又は、半有害刺激を生成する為の閾値電流より高い場合には、電流の強度を自動的に下げる。このようにして、低電圧回路600が、所望の信号の周波数及び振幅を厳密に制御し、高電圧回路602が、電圧電流変換を厳密に行う。
【0049】
電極入出力620は、対応する電極ケーブル512を介して、電極510に接続されている。例えば、
図5を参照されたい。電極510は、神経選択的刺激装置502と患者の皮膚との間の、歪みのない安定したインタフェースを与える。電極510は、金メッキし、各電極間の間隔が均一になるように、フレキシブルスプレッダを用いてペア化することが好ましい。電極510は又、安定した出力電流密度を維持して、結果に信頼性及び再現性を持たせるために、カップ状にへこませて電極ゲル対応にすることが好ましい。電極ケーブル512は、軽量リードワイヤであって、末端が、電極510を弾性保持するように構成された、ばね仕掛けの成形部分になっている。電極510及び電極ケーブル512は、再利用可能であっても使い捨てであってもよく、一度使用したら捨てるように設計してよい。痛覚計500は、市販の電極510及び電極ケーブル512を使用して操作するように構成されており、このことは、痛覚計500の製造コスト及び運用コストを下げることに役立つ。
【0050】
ii.皮質活動モニタ504
図7に示すように、皮質活動モニタ504は、第1の電流駆動回路700、第2の電流駆動回路702、第1の光検出回路704、第2の光検出回路706、アナログ多重化器708、及び高分解能16ビットアナログデジタル変換器(ADC)710を含んでいる。神経選択的刺激装置502の低電圧回路600及び高電圧回路602と同様に、マイクロプロセッサ900には、皮質活動モニタ504の様々なサブコンポーネント700−710が接続されている。第1の電流駆動回路700は、第1の高精度非反転オペアンプ712、赤色発光器714、及びトランジスタQ11を含んでいる。第2の電流駆動回路702は、第2の高精度非反転オペアンプ716、IR発光器718、及びトランジスタQ12を含んでいる。第1の光検出回路704は、第1の光検出ダイオード720、第1のインピーダンス変換オペアンプ722、第1のローパスフィルタ(LPF)724、及び第1の電圧フォロワオペアンプ726を含んでいる。第2の光検出回路706は、第2の光検出ダイオード728、第2のインピーダンス変換オペアンプ730、第2のLPF732、及び第2の電圧フォロワオペアンプ734を含んでいる。赤色発光器714及びIR発光器718から赤色光及びIR光がそれぞれ発せられ、その反射光が、それぞれ、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728によって検出される。
【0051】
より詳細には、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900(
図9)が、抵抗R13及びR14を介して、それぞれ、第1の非反転オペアンプ712の非反転入力、及び第2の非反転オペアンプ716の非反転入力と接続されている。マイクロプロセッサ900は、抵抗R13及びR14が電流(それぞれ、
図7の「赤色選択」及び「IR選択」)を交互に受けるように選択することにより、赤色発光器及びIR発光器718に必要な電流励振レベルを発生させる。結果として得られる抵抗R13及びR14の両端の電圧降下が、第1及び第2の電流駆動回路700及び702によって電流に変換され、これらの電流によって、赤色発光器714及びIR発光器718が、それぞれ、赤色光及びIR光を交互に発する。マイクロプロセッサ900は、患者の脳皮質領域の血行力学的変化の測定に必要なように、発光頻度並びに赤色発光器714とIR発光器718との間の遅延を制御する。例えば、発光器714及び718のそれぞれについて、デューティサイクル25%の125Hzの頻度で発光を繰り返すことが可能である。
【0052】
マイクロプロセッサ900は又、多重化器708に接続されており、多重化器708は、抵抗R11及びR12を介して、それぞれ、第1及び第2の電流駆動回路700及び702の出力に接続されている。マイクロプロセッサ900は又、ADC710を介して多重化器708と接続されている。多重化器708は、第1及び第2の電流駆動回路700及び702の出力(それぞれ、
図7の「赤色入力電流」及び「IR入力電流」)を受け取り、これらの出力をサンプリングし、その結果をADC710に転送する。ADC710は、第1及び第2の電流駆動回路700及び702からのアナログ電流出力をデジタル信号に変換してマイクロプロセッサ900に送信する。マイクロプロセッサ900は、これらの信号を分析し、一時的に記憶する。例えば、マイクロプロセッサ900は、各信号の長さ、周波数、及び強度を特定し、これらの信号を別々の刺激サイクルとして識別し、そのデータを一時的にRAMに記憶した後、更なる処理に備えて、このデータをグラフィカルユーザインタフェース508に送信する。これらのデジタル信号は、赤色発光器714及びIR発光器718への入力電流を表しており、これらの入力電流は、それぞれ、赤色発光器714及びIR発光器718から発せられる赤色光及びIR光の量に対応する。
【0053】
第1及び第2の光検出回路704及び706の出力も、多重化器708に接続されている。赤色発光器714及びIR発光器718から発せられた赤色光及びIR光は、患者の頭骨の皮下を伝搬すると、伝搬路の一端において、皮膚、脳組織、並びに患者の脳の脳血管系内のヘモグロビン及びシトクロムaa3によって特異的に吸収される。伝搬路の他端においては、遺伝物質によって吸収されない赤色光及びIR光が、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728によって受信される。第1及び第2の光検出ダイオード720及び728のそれぞれは、受信した光の量(即ち、吸収した光子の量)に比例する電流を発生させることにより、受信光を電気信号に変換する。この電流は、対応するインピーダンス変換オペアンプ722又は730が受け取って、電圧に変換する。この電流は、信号対ノイズ比が非常に小さい微少電流となる可能性がある為、第1及び第2のインピーダンス変換オペアンプ722及び730は、それぞれ、入力インピーダンスが極端に大きく、入力電流がピコアンペア(pA)レンジであることが好ましい。これによって非常に精度の高い増幅が可能になる。
【0054】
第1及び第2のインピーダンス変換オペアンプ722及び730の出力電圧は、それぞれ、第1及び第2のLPF724及び732に送られる。これは、これらの出力電圧からノイズを更に除去する為である。第1及び第2のLPF724及び732の次数及びこれらの極の位置は、皮質活動モニタ504の動作周波数(例えば、125Hz)で得られる信号の完全性を維持しながらノイズを除去するように選択する。次に出力電圧を、第1及び第2の電圧フォロワオペアンプ726及び734に通して、負荷効果を除去する。多重化器708は、結果として得られる出力電圧(それぞれ、
図7の「赤色出力電圧」及び「IR出力電圧」)を受け取り、これらをサンプリングして、ADC710に転送する。
【0055】
ADC710は、第1及び第2の光検出回路704及び706からのアナログ電圧出力をデジタル信号に変換してマイクロプロセッサ900に送信する。マイクロプロセッサ900は、これらの信号を分析し、一時的に記憶する。例えば、マイクロプロセッサ900は、光検出回路704及び706のそれぞれから50個のデータ点を収集し、これらのデータ点を平均し、平均値を一時的にRAMに記憶した後、更なる処理に備えて、平均値をグラフィカルユーザインタフェース508に送信する。これらのデジタル信号は、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728で発生した電流の量を表しており、これらの電流量は、それぞれ、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728で受け取った赤色光及びIR光の量に対応する。そして、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728で受信された赤色光及びIR光の量と、赤色発光器714及びIR発光器718から発せられた赤色光及びIR光の量とを比較することにより、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000(
図10)は、患者の脳皮質領域において時間とともに発生する血行力学的変化の量を測定することが可能である。
【0056】
赤色発光器714、IR発光器718、第1の光検出ダイオード720、及び第1の光検出ダイオード728は、対応するセンサケーブル516を介して痛覚計500に接続されている単一NIRSセンサ514の一部分として設けることが可能である。例えば、
図5を参照されたい。NIRSセンサ514は、患者の脳皮質領域に近接する患者の皮膚組織に結合されて、赤色発光器714及びIR発光器718によって赤色光及びIR光がそれらの皮質領域内を伝搬していくことが可能であるように、且つ、反射された赤色光及びIR光を、それぞれ、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728が受け取ることが可能であるように、構成されている。赤色発光器714は、デオキシヘモグロビンの吸収スペクトルに対応する波長(即ち、730−775nm)を有する赤色光を発するように構成されている。IR発光器718は、デオキシヘモグロビンの吸収スペクトルに対応する波長(例えば、850−900nm)を有するIR光を発するように構成されている。第1の光検出ダイオード720は、赤色光波長スペクトル(即ち、600−750nm)内で受け取る光の量に比例する電流を発生させるように構成されている。第2の光検出ダイオード728は、IR光スペクトル(即ち、750−1000nm)内で受け取る光の量に比例する電流を発生させるように構成されている。代替として、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728の一方又は両方を、これらの波長スペクトルの両方(即ち、600−1000nm)において受け取る光の量に基づいて電流を発生させるように構成してもよい。
【0057】
赤色発光器714及びIR発光器718は、それぞれの波長スペクトル内で別々の波長の光を発する別々の半導体ダイオード素子(又はダイ)を含んでよい。例えば、IR発光器718は、910nm付近に中心がある波長で発光する1つのダイと、810nm付近に中心がある波長で発光する別のダイとを含んでよい。同様に、単一の発光ダイオード(LED)が、赤色発光器714及びIR発光器718の両方並びにそれぞれのダイを含んでよい。例えば、単一LEDが、730nm付近に中心がある波長で発光する赤色発光器714のダイと、前述の実施例によるIR発光器718とを含んでよい。3つ以上の波長で光を発生させる為に3つ以上のダイを同様に設ける場合は、追加のダイからそれらの光を発生させるために必要な励振電流を発生させるための1つ以上の追加駆動回路700又は702を、皮質活動モニタ504内に設ける。
【0058】
赤色発光器714及びIR発光器718が発生させるように構成されている相異なる光の波長の数に関係なく、赤色発光器714及びIR発光器718並びにそれぞれのダイは、単一LED内に設けることが好ましい。そして、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728は、赤色及びIRの波長スペクトルの両方(即ち、600−1000nm)において受け取る光の量に基づいて電流を発生させるように構成することが好ましい。このようにして、LED並びに第1及び第2の光検出ダイオード720及び728を共通の形態で使用することにより、利用可能な全ての波長の光を発生させ、且つ受け取ることが可能になり、NIRSセンサ514を構成する際の融通性が高まる。
【0059】
図8Aは、単一LED800を含む一例示的NIRSセンサ514を示しており、LED800には、赤色発光器714及びIR発光器718の両方、並びにそれぞれのダイが含まれている。光子の平均侵入深さは発光源と受光側検出器との間の距離に比例する為、LED800は、第1の光検出ダイオード720までの距離Aが、第2の光検出ダイオード728までの距離Bより短くなるように配置することが好ましく、この距離Bが長いことを補償するために、第2の光検出ダイオード728を、第1の光検出ダイオード720より大きくすることが好ましい。この構成により、経路長が異なる2つの別々の伝搬経路が形成され、短いほうは、赤色発光器714及びIR発光器718から第1の光検出ダイオード720までの経路であり、長いほうは、赤色発光器714及びIR発光器718から第2の光検出ダイオード728までの経路である。短いほうの経路は、患者の頭部の皮膚、筋肉、及び骨の中の血行力学的変化を測定し、長いほうの経路は、それらの血行力学的変化に加えて、患者の脳皮質領域内の血行力学的変化を測定する。そして、長いほうの経路を介して第2の光検出ダイオード728で取得された測定値(MB)から、短いほうの経路を介して第1の光検出ダイオード720で取得された測定値(MA)を差し引くことにより、患者の脳皮質領域での測定値(MCortical)を分離することが可能である(即ち、MB−MA=MCortical)。
【0060】
残念なことに、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728の配置場所間で、皮膚、筋肉、及び/又は骨に何らかのばらつきがあると、上述の測定値に誤差が混入する可能性がある。そこで、NIRSセンサ514は、第2のLED802を含むことが好ましい。LED802も、赤色発光器714及びIR発光器718の両方、並びにそれぞれのダイを含んでいる。
図8Bに示すように、この構成により、経路長が異なる伝搬経路のペアを2つ形成することが可能になり、第1のLED800は、第1の光検出ダイオード720までの距離Aが、第2の光検出ダイオード728までの距離Bより短くなるように配置され、第2のLED802は、第2の光検出ダイオード728までの距離A’が、第1の光検出ダイオード720までの距離B’より短くなるように配置される。第1及び第2の光検出ダイオード720及び728は両方とも、短い経路と長い経路との両方から光子を吸収する為、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728は両方とも、これらの経路長の両方に対して効果的に動作する為に十分な大きさであることが好ましい。
【0061】
第1のLED800までの長いほうの経路を介して第2の光検出ダイオード728で取得された測定値(MB)から、第1のLED800までの短いほうの経路を介して第1の光検出ダイオード720で取得された測定値(MA)を差し引き、第2のLED802までの長いほうの経路を介して第1の光検出ダイオード720で取得された測定値(MB’)から、第2のLED802までの短いほうの経路を介して第2の光検出ダイオード728で取得された測定値(MA’)を差し引くことにより、患者の脳皮質領域での測定値(MCortical)が分離される(即ち、(MB−MA)+(MB’−MsA’)=MCortical)。このようにして、
図8Bの二重発光器/二重検出器構成は、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728の配置場所間の皮膚、筋肉、及び/又は骨におけるばらつきを考慮したものとなっている。そして、バーンロイター(Bernreuter)の米国特許第7,865,223号に記載のように、第1及び第2のLED800及び802の間隔、並びに第1及び第2の光検出ダイオード720及び728の間隔は、様々な組織深さでの測定を最適化する為に、必要に応じて修正又は変更することが可能である。更に、同じく米国特許第7,865,223号に記載のように、この二重発光器/二重検出器構成によって与えられる追加の測定値を、3つの異なる波長で代わる代わる取得することにより、表面効果を更に除去することが可能である。米国特許第7,865,223号の開示は、参照によって、その全体があたかも本明細書に示されているかのように本明細書に組み込まれている。
【0062】
NIRSセンサ514は、その構成如何にかかわらず、再利用可能であっても使い捨てであってもよく、一度使用したら捨てるように設計してよい。センサケーブル516は、NIRSセンサ514とは別に設けてよく、NIRSセンサ514と一体であってもよく、再利用可能であっても使い捨てであってもよい。例えば、
図8A及び
図8Bにおいて、NIRSセンサ514は使い捨てでセンサケーブル516は再利用可能であってもよく、或いは、NIRSセンサ514は、使い捨ての一体型センサケーブル516とともに使い捨てであってもよく、或いは、NIRSセンサ514は、再利用可能の一体型センサケーブル516とともに再利用可能であってもよい。痛覚計500は、市販のNIRSセンサ514及びセンサケーブル516を使用して操作するように構成されており、このことは、痛覚計500の製造コスト及び運用コストを下げることに役立つ。
【0063】
ここまでは、NIRSセンサ514を1つだけ使用する場合について詳述したが、痛覚計500は、様々な患者(例えば、成人、小児、乳幼児、新生児、実験動物など)の様々な皮質領域(例えば、後頭皮質、一次体性感覚皮質、二次体性感覚皮質、島皮質、背外側前頭前皮質、頭頂葉皮質など)での血行力学的変化を測定するように、必要に応じて、患者の頭部の様々な場所で複数のNIRSセンサ514を利用するように構成される。また、ここまでは、2つの電流駆動回路700及び702並びに2つの光検出回路704及び706だけを使用する場合について詳述したが、痛覚計500は、NIRSセンサ514の数、並びにそれぞれのLED800及び802の中のダイの数に対応する数の電流駆動回路700及び702並びに光検出回路704及び706を含む。例えば、
図5では、6個のNIRSセンサ514が与えられており、各NIRSセンサ514は、2個のLED800及び802と3個のダイとを有する。従って、
図5の皮質活動モニタ504は、36個の電流駆動回路(6個のNIRSセンサ×2個のLED/NIRSセンサ×3個のダイ/LED×1個の電流駆動回路/ダイ=36個の電流駆動回路)と、12個の光検出回路(6個のNIRSセンサ×2個の光検出回路/NIRSセンサ=12個の光検出回路)とを有する。
【0064】
iii.コンポーネントインタフェース506
図9に示すように、コンポーネントインタフェース506は、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504が共用するマイクロプロセッサ900を含んでいる。上述のように、マイクロプロセッサ900は、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504を制御し、これらのコンポーネント502及び504の機能性を統合する。コンポーネントインタフェース506は又、メモリ902、ペリフェラルインタフェースアダプタ(PIA)904、及び電力バス906を含んでいる。メモリ902は、マイクロプロセッサ900によって実行されるソフトウェアと、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504を用いて生成されるデータとを記憶する。PIA904は、マイクロプロセッサ900が外部装置と電子的に通信する為の接続を提供する。電力バス906は、マイクロプロセッサ900、神経選択的刺激装置502、及び皮質活動モニタ504を動作させる為の共通電源を提供する。
【0065】
より詳細には、メモリ902は、読み出し専用メモリ(ROM)及びランダムアクセスメモリ(RAM)を含んでいる。ROMは、必須のシステム命令(即ち、基本入出力システム(BIOS)命令)が永続的に記憶された不揮発性メモリチップである。これらの命令は、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504の動作及び相互作用を制御する。そして、RAMは、これらの命令の一部が、マイクロプロセッサ900によって実行される前に一時的に記憶される揮発性メモリチップである。マイクロプロセッサ900は又、他のデータ(例えば、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504を用いて生成されたデータ)もRAMに一時的に記憶してよい。そのようなデータは、例えば、更なる処理の為にグラフィカルユーザインタフェース508に送信する前に、RAMに一時的に記憶することが可能である。
【0066】
PIA904は、マイクロプロセッサ900にパラレル入出力インタフェース機能を与えて、痛覚計500をペリフェラル(例えば、プリンタやモニタ)に接続することを可能にする専用インタフェースチップである。PIA904は又、痛覚計500を病院の中央モニタリングシステムに接続することを可能にしてもよい。グラフィカルユーザインタフェース508が、痛覚計500から離れた場所にあるコンピューティング装置(例えば、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータなど)として与えられた場合、PIA904は、その装置とインタフェースする機能を提供する。従って、メモリ902は、これらのタイプのインタフェースのうちの1つ以上を促進する為に必要な命令をROMに記憶する。そして、痛覚計500は、そのような外部装置と接続する為のしかるべき接続ポートを含む(例えば、RS−232接続、RJ45接続、ユニバーサルシリアルバス(USB)接続、同軸ケーブル接続など)。
【0067】
図示していないが、コンポーネントインタフェース506は、マイクロプロセッサ900によって制御される専用信号発生チップセットを含んでいる。例えば、コンポーネントインタフェース506は、様々なタスクを実施する為に必要に応じてデジタル信号を電圧又は電流に変換するデジタルアナログ変換器(DAC)を含んでよく、様々なタスクは、例えば、赤色発光器714及びIR発光器718から、それぞれ、赤色光及びIR光を発する為に必要な電流励振レベルを発生させるタスクである。これらのチップセットは、マイクロプロセッサ900のデジタル信号発生の負担を軽減するように働き、これによって、マイクロプロセッサ900は、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504を用いて生成されたデータの信号処理を行うことが可能になる。更に、これらのチップセットは、これらがなければ痛覚計500内の複雑な回路(例えば、第1及び第2の電流駆動回路700及び702)で実施することになるタスクを実施することが可能であり、これによって、痛覚計500のサイズ及び複雑さを著しく低減することが可能である。
【0068】
iv.グラフィカルユーザインタフェース
図10に示すように、グラフィカルユーザインタフェース508は、専用のマイクロプロセッサ1000と専用のメモリ1002とを含んでいる。グラフィカルユーザインタフェース508は更に、ユーザ入力装置1004及びディスプレイ装置1006を含んでいる。マイクロプロセッサ1000は、痛覚計500の全体動作を制御する。メモリ1002は、痛覚計100の全体動作を制御する為にマイクロプロセッサ1000が使用するデータ及びソフトウェアを記憶する。入力装置1004は、ユーザからの入力を受け取って、様々な患者に様々な検査を実施する為のパラメータを設定する。ディスプレイ装置1006は、入力されたデータや、痛覚計500の各種コンポーネント502−508によって生成されたデータを表示する。グラフィカルユーザインタフェース508のこれらのサブコンポーネント1000−1006は、連係して動作することにより、患者の体性感覚皮質、及び患者の脳の他の皮質領域における刺激アルゴリズム及び反応検出を調整及び自動化して、データの取り込み、記憶、及び処理を実施する。
【0069】
より詳細には、マイクロプロセッサ1000は、痛みデータを生成、収集、及び分析する為に必要に応じて、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002、入力装置1004、及びディスプレイ装置1006、並びにコンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサと通信する。マイクロプロセッサ1000は、入力装置1004を介してユーザからの入力を受信し、メモリ1002に記憶されているソフトウェアから、実行するアルゴリズムを選択する。例えば、ユーザは入力装置1004(例えば、キーボード、タッチスクリーン、マウスなど)を利用して、痛覚計500が実施する分析のタイプ(例えば、SDTを決定すること、痛みスコアを決定すること、鎮痛薬の効果をモニタリングすることなど)と、その分析に影響を及ぼす変数があれば、その変数を定義するパラメータ(例えば、患者の年齢、使用しているNIRSセンサ514のタイプ、NIRSセンサ514の位置、使用している電極510のタイプ、電極510の位置、使用しているEEG電極1100のタイプ、EEG電極1100の位置など)と、を選択することが可能である。そして、マイクロプロセッサ1000は、選択されたタイプの分析を開始するために、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900にコマンドを送信し、マイクロプロセッサ900は、神経選択的刺激装置502に適切な電気刺激を発生させ、皮質活動モニタ504に適切な発光を行わせる。
【0070】
コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900は、神経選択的刺激装置502が発生させた別々の刺激サイクルを識別し、皮質活動モニタ504が収集したデータ点を平均すると、そのデータをマイクロプロセッサ900のRAMに一時的に記憶し、更なる処理及び記憶延長に備えて、そのデータを定期的に、パケットの形で、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000に送り返す。これらのパケットのデータは、電極510により印加された電気刺激の周波数及び強度、赤色発光器714及びIR発光器718によって赤色光及びIR光が発せられた際の電流レベル、並びに、光検出ダイオード720及び728によって検出された電流を識別する。そして、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900は、一連の、電気刺激並びにNIRS及び/又はEEGの同時ループの1つ1つが実施されるごとに、これらのパケットのデータをグラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000に送信する。グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は、次に、選択された分析タイプと、入力装置1004から入力されたパラメータとに基づいて、自身の処理ループを用いてそのデータを分析する。これらのループについては、後で、痛覚計ソフトウェアに関して詳述する。
【0071】
マイクロプロセッサ1000は、その分析の結果を、ディスプレイ装置1006において、関連する数値(例えば、記録されたSDT値、算出された痛みスコアなど)、言葉(例えば、書面での結果、書面での警告など)、及び/又はグラフィカル(例えば、痛み反応のプロット、痛みスケールグラフなど)の形式で動的に表示する。マイクロプロセッサ1000は又、神経選択的刺激装置502を用いて印加された電気刺激の値(例えば、周波数、強度、サイクル時間など)、及び/又は、皮質活動モニタ504を用いて測定された血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化の値(例えば、閾値酸素化且つ/又は電気的活動値、体性感覚酸素化且つ/又は電気的活動値、酸素化且つ/又は電気的活動値の変化など)を、同様の形式で動的に表示してもよい。このようにして、ユーザ(例えば、有資格医療提供者)は、電気刺激に対する患者の生理学的反応を、意味がわかる数値、言葉、及び/又はグラフィカルの形式でモニタリングすることが可能であり、これによって、ユーザは、痛み及び痛み管理に関して正確な臨床的決定を行うことが可能である。実際、痛覚計500は、他の医療機器(例えば、薬調剤システム)と接続して、患者の生理学的反応(例えば、薬調剤器からの用量の増減)に基づいて、それらの医療機器を制御するようにプログラムすることまでも可能である。
【0072】
マイクロプロセッサ1000は、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504から(コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900を介して)受信したデータと、分析結果とを、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶する。このデータ(例えば、刺激の周波数及び強度、血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化、痛みスコア、SDT値など)は、後で取り出したり、電子健康記録(EHR)システムに伝達したりする為、且つ/又は、後で精査する為に、分析が実施された特定の患者に関連付けられ、コード化され、安全な方式で記憶される。このデータは、入力装置1004からグラフィカルユーザインタフェース508に入力されたデータ(これは患者の名前及び/又は識別情報を含むことが可能である)に基づいて、特定の患者に関連付けられる。そして、このデータをEHRシステムに伝達する方法としては、無線インタフェースを用いて無線伝達する方法、コンポーネントインタフェース506のPIA904を介した接続を用いる方法、グラフィカルユーザインタフェース508内のPIA(図示せず)を介した接続を用いる方法、可搬型記憶媒体(例えば、書き換え可能ディスク、フラッシュドライブなど)を用いる方法などがある。
【0073】
グラフィカルユーザインタフェース508は、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900における複雑な処理の負担を更に軽減する為に、コンポーネントインタフェース506から独立したマイクロプロセッサ1000を含んでおり、これによって、マイクロプロセッサ900は、主に神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504により生成されたデータを処理する為に動作することが可能になる。更に、グラフィカルユーザインタフェース508を、神経選択的刺激装置502、皮質活動モニタ504、及びコンポーネントインタフェース506から離れているコンピューティング装置(例えば、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータなど)として設けることが可能である。この構成では、グラフィカルユーザインタフェース508は、コンポーネントインタフェース506のPIA904を介して神経選択的刺激装置502、皮質活動モニタ504、及びコンポーネントインタフェース506と接続することが可能であり、これによって、痛覚計500は、グラフィカルユーザインタフェース508として動作する多種多様なコンピューティング装置のいずれとも動作することが可能になる。
【0074】
同様に、痛覚計500の様々なコンポーネント(即ち、神経選択的刺激装置502、皮質活動モニタ504、コンポーネントインタフェース506、及びグラフィカルユーザインタフェース508)のいずれも、或いは、それらのサブコンポーネント(例えば、電流駆動回路700及び702、光検出回路704及び706、メモリ1002、入力装置1004、ディスプレイ装置1006など)のいずれも、離れた場所にあるスタンドアロン装置として設けてよい。更に、これらのコンポーネント502−508、又はサブコンポーネント600、602、700−710、902−906、及び1002−1006のいずれもが、無線インタフェースを介して互いに無線データ通信を行うことも可能である。例えば、電流駆動回路700及び702、光検出回路704及び706、無線通信機、並びに独立電源を、NIRSセンサ514の中又は近くに設けてよく、そうすることによって、NIRSセンサ514は、皮質活動モニタ504の他のサブコンポーネント708及び710から離れて、且つ、それらと無線データ通信を行いながら動作することが可能になり、痛覚計500とNIRSセンサ514との間のセンサケーブル516が不要になる。そのような無線通信は、任意の好適な無線技術(例えば、Wi−Fi、BLUETOOTH(登録商標)ブランドの無線技術、無線周波数(RF)など)を用いて行うことが可能である。
【0075】
グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900より複雑な処理(例えば、グラフィカルユーザインタフェースにおける動的表示の生成、痛覚計ソフトウェアによって定義される様々な処理ループの実行など)を実施する為、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900より高速であることが好ましい(例えば、2.8GHz以上)。又、マイクロプロセッサ1000は、高速処理をサポートするために、少なくとも4MBのキャッシュメモリと、少なくとも4GBのRAMとを有することが好ましい。そして、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002は、複数の患者についての、多様な時間枠にわたるデータを記憶する為、少なくとも100GBの固体データ記憶装置を含むことが好ましい。メモリ1002を固体記憶装置とすることにより、処理及び記憶のサイクル数が増え、従来の回転板型ハードドライブで起こったようなハードドライブ故障の可能性が減る。
【0076】
D.痛覚計ソフトウェア
痛覚計500の統合化されたコンポーネント502−506を用いて、次の(1)−(5)を行うことが可能である。(1)痛みと、有害及び半有害の刺激に対する反応とを客観的に定量化する。(2)そのような刺激及び他の臨床的に関連する刺激に対する反応としてのSDT及び/又は痛みスコアを決定する。(3)薬及び他の痛み介入の鎮痛効果、並びに、痛み管理を目的とした新薬及び/又は治験薬の有効性並びに用量と反応との関係をモニタリングする。(4)鎮痛薬及び他の介入に対する耐性の発現を特定する。(5)痛みの診断的特性化を行う。これらは全て、患者における痛みの総合的管理の指針になる。この機能性は、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶されたソフトウェアによって制御される。そして、マイクロプロセッサ1000は、このソフトウェアにある命令を実行することにより、上記機能性を実現する為に必要な各種タスクを実施する。
【0077】
より詳細には、このソフトウェアは、神経選択的刺激装置502によって印加される半有害電気刺激と、皮質活動モニタ504によって実施される血行力学的測定及び/又は生体電位測定との同時且つ自己矛盾なき制御を自動化及び調整する複数の刺激アルゴリズムを含んでいる。これらのアルゴリズムのどれをマイクロプロセッサ1000で実行するかは、痛覚計500の入力装置1004においてユーザが入力するデータによって決定される。ユーザは、上に列挙した4つの機能のうちから選択することが可能である他に、以下のような事柄を選択することも可能である。即ち、目標とする神経線維(例えば、Aβ線維、Aδ線維、又はC線維)、刺激を印加する時間の長さ(例えば、1秒、10秒、15秒、又は20秒など)、電極510の位置(例えば、左腕、左脚、左足など)、NIRSセンサ514及び/又はEEG電極1100の位置(例えば、後頭皮質、一次体性感覚皮質、背外側前頭前皮質など)、患者の痛みの位置(例えば、左腕、左脚、左足など)、患者の発達段階(例えば、新生児、小児、成人)及び/又は年齢(例えば、月経後30週齢、2−5歳、65歳超など)、患者の体重(例えば、Xポンド、100−125ポンド、125−150ポンドなど)、患者の性別(例えば、男性又は女性)、患者の、関連する体調/病状(あれば)(例えば、痛覚過敏、オピオイド依存、心臓病など)、及び/又は、現在の(又は予定されている)治療介入(あれば)(例えば、オピオイド、alpha−2、アゴニストなど)を選択することも可能である。
【0078】
これらの選択のそれぞれは、神経選択的刺激装置502が神経特異的電気刺激をどのように印加しなければならないか(即ち、患者に応じて、電気刺激の周波数及び/又は強度を微調節しなければならない場合がある)、並びに、皮質活動モニタ504が血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応をどのように測定するか(即ち、患者に応じて、NIRSセンサ514の位置及び/又はタイプ、及び/又は光の波長を変えなければならない場合があり、且つ/又は、患者に応じて、EEG電極1100の位置及び/又はタイプ、及び/又は測定対象の電気的活動の周波数を変えなければならない場合がある)を決定する為の因子として働くことが可能である。そして、痛覚計ソフトウェアは、これらの各種選択に基づいて適切な調節を行うように構成されたアルゴリズムを含んでいる。例えば、NIRSセンサ514同士の間隔は、年齢によって決定されるものであって、所与の波長における差分経路長因子(DPF)及び血行力学的変化の測定に用いるアルゴリズムを部分的に決定づける。
【0079】
これらの選択のうちの幾つかの結果として、ユーザに対する指示が、痛覚計500のディスプレイ装置1006に表示される場合がある。例えば、ユーザは、成人患者に対するオピオイドの効果をモニタリングすることを選択でき、これを選択すると、ディスプレイ装置1006に幾つかの指示が表示される。これらは、例えば、患者の痛みの元ではない四肢(例えば、セグメントC7)に電極510を配置する指示、患者の後頭皮質及び体性感覚皮質(例えば、T3とT5との間、C3とP3との間、P3とO1との間、P4とO1との間)にNIRSセンサ514を配置する指示、及び/又は、患者の後頭皮質及び体性感覚皮質(例えば、P3、Pz、P4、O1、及びO2)にEEG電極1100を配置する指示である。これらの指示は、電極510、NIRSセンサ514、及び/又はEEG電極1100を配置する際にユーザをよりよく案内するグラフィカル表示(例えば、
図11A及び
図11Bに示したグラフィカル表示)を含んでよい。そして、これらの選択の結果として、周波数が5Hzで強度が0.50−0.80mAである電流が、その患者に印加すべき電流として選択される。この周波数及び強度は、C線維に固有であって、オピオイドによって変調される。ユーザは、電極510、NIRSセンサ514、及び/又はEEG電極1100を指示どおりに配置した後、電極510による神経特異的電気刺激の印加、並びに、NIRSセンサ514及び/又はEEG電極1100による血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応のモニタリングの開始を痛覚計500に指示することが可能である。
【0080】
電極510によって神経特異的電気刺激が印加されていて、NIRSセンサ514及び/又はEEG電極1100によって血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応がモニタリングされている間に、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900から受信したデータの分析を開始する。これらの同時タスクは、痛覚計ソフトウェアによって定義された3つの別々の処理ループ、即ち、制御/分析ループ、刺激ループ、及びモニタリングループに基づいて実施される。以下では、これらのループの埋め込み構造を説明する。まず、最も外側のループから説明し、その後、内側のループへと説明を進めていく。
【0081】
i.制御/分析ループ
図12に示すように、最も外側のループが制御/分析ループであり、中間のループが刺激ループであり、最も内側のループがモニタリングループである。制御/分析ループは、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000を制御し、内側ループを直接又は間接的に呼び出して、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504の動作を初期化及び調整し、これらのコンポーネントが生成したデータを収集し、所望のデータを取得した後、これらのコンポーネントを非活性化する。制御/分析ループは又、神経選択的刺激装置502及び皮質活動モニタ504が生成しているデータをリアルタイムで分析し、そのデータの、生成及び分析された部分を表示するよう、ディスプレイ装置1006に指示する。
【0082】
以下のシーケンスリストは、グラフィカルユーザインタフェース508によって実施される一例示的制御/分析ループ処理を示す。
1.痛覚計500のコンポーネント502−508を初期化(ブート)し、内部システム診断を実施し、システム状態をログ記録/報告し、グラフィカルユーザインタフェース508を起動する(システムエラーが、注意を要する装置動作不良を示していない場合)。
2.所望の機能を選択し、患者固有のパラメータを設定する為に、入力装置1004からユーザ入力を受け取るべく、グラフィカルユーザインタフェース508を初期化する。
3.入力装置1004から受け取った入力に基づいて、電極510、NIRSセンサ514、及び/又はEEG電極1100を配置する指示をユーザに与える。
4.電力バス906から神経選択的刺激装置502、皮質活動モニタ504、及びコンポーネントインタフェース506に電力を供給し、これらを待機モードにすることを、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
a.神経選択的刺激装置502の低電圧回路600及び高電圧回路602を初期化する。
b.皮質活動モニタ504の電流駆動回路700及び702、光検出回路704及び706、多重化器708、及びADC710を初期化する。
c.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900、メモリ902、及びPIA904にあるタイマを初期化する。
5.ユーザ入力に基づいてアルゴリズムを選択し、このアルゴリズムを用いて、電気刺激のサイクル時間、神経特異的周波数及び強度を選択し、ユーザ入力に基づいて酸素測定法のパラメータを選択する。
6.ユーザからの指示を受けて、電極510による神経特異的電気刺激の印加、及びNIRSセンサ514及び/又はEEG電極1100による血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応のモニタリングを開始する。
7.皮質活動モニタ504による血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のモニタリングの開始を、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
a.神経特異的電気刺激を印加しない状態で、測定ループを開始して、皮質活動のベースライン測定値を収集する(後述のモニタリングループの説明を参照)。
b.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900によって収集されたデータ(NIRS及び/又はEEGデータのみ)を、分析/制御ループでの更なる処理の為にグラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000に送信する。
8.収集されたデータを定量化し、その患者のベースライン値としてメモリ1002に記憶する。
9.神経選択的刺激装置502による、患者への神経特異的電気刺激の印加の開始を、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
a.刺激ループを開始して、神経特異的周波数及び強度の電気刺激を所定のサイクル時間にわたって印加する(後述の刺激ループの説明を参照)。
b.グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000において、電気刺激が印加されている時間の長さをクロックタイマで計測することを開始する。
c.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900が受信したデータが、印加されている神経特異的電気刺激の強度が半有害レベルを超えていることを示した場合は、神経選択的刺激装置502による、患者への神経特異的電気刺激の印加を停止することを、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示し、そうでない場合は、電気刺激を開始してから所定の長さの時間が経過したことをクロックタイマが示した後に、神経選択的刺激装置502による、患者への神経特異的電気刺激の印加を停止することを、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
d.グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000において、電気刺激が印加されて「いない」時間の長さをクロックタイマで計測することを開始する。
e.電気刺激を停止してから所定の長さの時間が経過した後に、所定の刺激サイクル数にわたってステップa−dを繰り返し、その後、神経選択的刺激装置502による、患者への神経特異的電気刺激の印加を停止することを、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
f.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900によって収集されたデータ(NIRS及び/又はEEGデータ、及び刺激データ)を、分析/制御ループでの更なる処理の為にグラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000に送信する。
10.収集されたデータを定量化し、ベースライン値と比較して、その患者の神経特異的な血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応として、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶する。
11.比較により、神経特異的反応値が、ベースライン値より大きい所定量を超えていると判定された場合は、ステップ9及び10を、同じ神経特異的周波数及び強度で所定回数繰り返すことを、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示し、そうでない場合は、ステップ9及び10を、神経特異的強度をより大きくした電気刺激を用いて繰り返すことを、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
12.NIRS及び/又はEEGデータの定量化された値を、患者の痛み関連皮質活動の、意味がわかる尺度に変換する。
13.皮質活動モニタ504による血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のモニタリングの停止を、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。
14.定量化された値を、患者の客観的痛み測定値として、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶する。
15.結果の動的表示をディスプレイ装置1006に生成する。
図13は、その例示的処理の各ステップを示すフローチャートである。
【0083】
以上のステップ及び
図13に示したように、制御/分析ループは、測定ループを開始し、皮質活動モニタ504を用い、神経選択的刺激装置502によって神経特異的電気刺激が印加されていない場合に患者の皮質領域で起こっている血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化に基づいて、皮質活動のベースライン量を確立する。このベースラインが確立された後、制御/分析ループは、刺激ループを開始し、神経選択的刺激装置502を用いて神経特異的電気刺激を患者に印加し、同時に、皮質活動モニタ504が、患者の皮質領域で起こっている血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のモニタリングを続ける。神経特異的電気刺激は、神経特異的周波数及び強度(例えば、2000Hz及び2.2mA)で所定回数(例えば、50回)繰り返されるオンオフサイクル(即ち、刺激が印加される期間の後に刺激が印加され「ない」期間がある)の形式で印加される。これらのオンオフ刺激サイクルの長さは、入力装置1004から入力される患者固有の変数(例えば、刺激の位置、患者の病状又は体調など)に応じて変わるが、典型的には数秒続き、各サイクルに必ず「オフ」期間と「オン」期間とを組み込んでいる。このオンオフ刺激サイクルの系列を、以下では「周波数サイクル」と称する。これは、これらが全て、目標となる神経線維に応じた同じ神経特異的周波数(例えば、C線維は5Hz、Aδ線維は250Hz、Aβ線維は2000Hz)で印加される為である。
【0084】
周波数サイクルにおいてデータが収集された後、制御/分析ループは、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000を用いてそのデータを分析して、閾値レベルの半有害刺激が患者によって体験されたかどうかを判定する。閾値レベルの反有害刺激が体験された場合、刺激ループは、この周波数サイクルを所定回数繰り返す。そうでない場合、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は、神経選択的刺激装置502によって印加されている神経特異的電気刺激の強度を増やし、その新しい強度で周波数サイクル(例えば、2000Hz及び2.3mA)を実施することを、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に指示する。この強度は、閾値レベルの半有害刺激が体験されるまで漸増され、閾値レベルになったら、刺激ループは、この周波数サイクルを、その神経特異的周波数及び強度で所定回数繰り返す。
【0085】
制御/分析ループは、各周波数サイクルの間に皮質活動モニタ504によってデータを継続的に収集し、これを分析して、神経特異的電気刺激が印加された患者が体験した痛みの客観的測定量を与える。より具体的には、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は、皮質活動モニタ504によって測定されたNIRSデータ(即ち、血行力学的反応パラメータの神経特異的変化を反映する差分赤外線吸収データ)及び/又はEEGデータ(即ち、生体電位的反応パラメータの神経特異的変化を表す差分電気活動データ)の値を、患者の痛み関連皮質活動の、意味のわかる尺度(例えば、痛みスコア、SDTなど)の形に定量化する。例えば、周波数サイクルの間に測定された総ヘモグロビン(HbT)の変化の平均が5.2μmol/Lであれば、これは、SDT値の1から12までのスケールの8と関連付けることが可能である。EEGを、NIRSと組み合わせて(又はNIRSの代わりに)用いた場合は、同様の関連付けを、フィッシャーのZ値を用いて行うことが可能である。この客観的痛み測定値は、その患者に関連付けて、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶することが可能である。
【0086】
本発明の痛覚計500では、臨床現場においてユーザが手動で印加する有害刺激(例えば、手術、静脈穿刺、動脈穿刺、踵穿刺、静脈内挿管、気管内チューブ導入、気管内チューブ吸引、栄養補給用胃管挿入、電極リード及びテープの除去など)を用いて同様の処理を実施することが可能である。この場合、刺激ループは、省略するか、その有害刺激の手動印加に先だって利用する。例えば、上述の例示的処理によりSDTを決定し、次に、神経特異的電気刺激を印加せずに上述の例示的処理を繰り返して、手動で印加される有害刺激に対する反応として測定される皮質活動に基づいて痛みスコアを決定する動作を、ユーザがグラフィカルユーザインタフェース508の入力装置1004で選択することが可能である。この例では、有害刺激を、皮質活動モニタ504が患者の皮質活動を測定するタイミングと合わせる為に、ユーザは、有害刺激の手動印加の適切なタイミングに関する指示を、ディスプレイ装置1006を介して受け取る。そして、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は、予め決定された患者のSDTを基準測定値として、その皮質活動を痛みスコアにより定量化する。刺激が印加されていない状態での患者の皮質活動は、SDT及び痛みスコアの両方に対するベースラインとして働く。このようにして、ベースライン値及びSDT値は、臨床的介入前の患者において決定することが可能であり、有害刺激を手動印加した後の痛みスコアを算出する際の有用な比較子として用いることが可能である。
【0087】
これらのベースライン値及びSDT値を用いて、鎮痛薬及び他の痛み介入の効果を特定することも可能である。この場合は、痛み治療を目的とした介入を受けている患者において上述の例示的処理を時間とともに繰り返し、上述の例示的処理を用いて、その治療の間の様々な時点での、その患者のSDTを決定する。グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は、それらのSDT値を、対応する投与量情報とともに、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶し、これらの値を時間に対して比較して、その患者における、介入に対する耐性の発現、又は鎮痛薬誘発毒性の発現を識別する。例えば、鎮痛薬に対する耐性の発現が識別されるのは、SDTが同じままで、鎮痛薬の投与量が時間とともに増える傾向が現れたときである。又、痛覚過敏の発現が識別されるのは、鎮痛薬の投与量が同じままで、SDTが時間とともに減る傾向が現れたときである。
【0088】
ii.刺激ループ
刺激ループは、コンポーネントインタフェース506及び神経選択的刺激装置502のマイクロプロセッサ900を制御し、患者の皮質領域における特定の活動(具体的には、患者の体性感覚系に関連付けられた活動)を誘発する為に、特定の感覚神経線維(例えば、C線維、Aδ線維、及びAβ線維)を選択的に刺激する周波数で電気刺激を与える。コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900、並びに、神経選択的刺激装置502の低電圧回路600及び高電圧回路602は、制御/分析ループのステップ4で初期化されている。そして、以下のシーケンスリストは、制御/分析ループのステップ9において、コンポーネントインタフェース506及び神経選択的刺激装置502のマイクロプロセッサ900によって実施される一例示的刺激ループ処理を示す。
1.神経特異的周波数及び強度での電気刺激の印加を開始する指示を、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000から受け取る。
2.制御/分析ループのステップ5において選択された神経特異的周波数での連続正弦波信号の発生を開始するように、正弦波発生器604を構成する。
3.正弦波信号に対して初期電圧出力ゼロの印加を開始するように、デジタルポテンショメータ606を構成する。
4.ステップ5において選択されたサイクル時間に従って、神経特異的電気刺激の「オン」時間及び「オフ」時間を選択する。
5.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900において、デジタルポテンショメータ606の電圧出力がゼロである時間の長さをクロックタイマで計測することを開始する。
6.選択された「オフ」時間が経過した後に、制御/分析ループのステップ5において選択された神経特異的強度に対応する電圧出力を正弦波信号に適用することを開始するように、デジタルポテンショメータ606を構成する。
7.コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900において、デジタルポテンショメータ606の電圧出力が神経特異的強度である時間の長さをクロックタイマで計測することを開始する。
8.選択された「オン」時間が経過した後に、電圧出力ゼロを正弦波信号に適用することを開始するように、デジタルポテンショメータ606を構成する。
9.所定回数のオンオフ刺激サイクルについてステップ5−8を繰り返す。
10.オンオフ刺激サイクルが完了したことをグラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000に通知し、更なる指示に備えて待機する。
11.制御/分析ループのステップ10における比較により、神経特異的反応値が、ベースライン値より大きい所定量を超えていると判定された場合は、ステップ6−9を、同じ神経特異的周波数及び強度で所定回数繰り返す指示を、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000から受け取り、そうでない場合は、ステップ6−9を、神経特異的強度をより大きくした電気刺激を用いて繰り返す指示を、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000から受け取る。
図14は、その例示的処理の各ステップを示すフローチャートである。
【0089】
以上のステップ及び
図14に示したように、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は、神経特異的周波数及び強度での電気刺激の印加を開始する指示を、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に送信する。コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900は、これらの指示に基づいて、その周波数で連続正弦波信号を発生させることの開始を正弦波発生器604に指示し、それらの信号に電圧を適用することの開始をデジタルポテンショメータ606に指示する。この電圧は、最初はゼロであるが、神経特異的強度に相当する電圧まで漸増される。上述のように、この神経特異的電圧は、神経選択的刺激装置502の高電圧回路602によって神経特異的電流に変換される。
【0090】
グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000によって選択されたオンオフサイクル時間に基づいて、神経選択的刺激装置502は、所定回数の(例えば、50回の)オンオフサイクルが完了するまで、「オン」時間と「オフ」時間、即ち、神経特異的電気刺激を繰り返す。オンオフサイクルが完了した時点で、刺激ループは、制御/分析ループによって再開されない限り、停止する。制御/分析ループは、上述のように、神経特異的電気刺激の発生に用いる電流の強度を漸増させることを選択することを含んでよい。そして、やはり上述のように、制御/分析ループは、所望の回数の周波数サイクルが完了するまで、刺激ループを、所定の回数だけ停止及び再開する。又、電極510を介して印加されている電流が所定値より大きいことが検出された場合にも、刺激ループは停止する。所定値の電流は、例えば、強度が、目標神経線維の閾値活動電位を達成する為には十分な大きさでありながら、患者が痛い感じを意識して知覚することがないほどの小ささである(即ち、半有害刺激よりは大きい強度の)電流である。
【0091】
サイクル時間、サイクルシーケンス数、最小及び最大電流強度、及び電流強度の増加度合いは、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000が、入力装置1004から受信されたユーザ入力に基づいて選択したアルゴリズムによって決定される。周波数サイクルの回数は、患者が知覚した痛みを定量化する為の統計精度が得られるように十分な数のデータ点を与えるように選択される。そして、刺激に対する最小閾値反応が観測されないまま、最大電流強度に達した場合は、この最大電流強度を、閾値量として、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶する。従って、痛覚計500においてSDTが決定されている場合には、この値を用いて患者のSDTを算出する。
【0092】
iii.モニタリングループ
モニタリングループは、コンポーネントインタフェース506及び皮質活動モニタ504のマイクロプロセッサ900を制御し、神経選択的刺激装置502を用いて印加される半有害神経特異的電気刺激、及び/又は手動で印加される有害刺激に対する反応としての、患者の脳皮質領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化に基づいて、痛みの客観的測定値を与える。コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900及び皮質活動モニタ504のサブコンポーネント700−710は、制御/分析ループのステップ4において初期化されている。そして、以下のシーケンスリストは、制御/分析ループのステップ7−13において、コンポーネントインタフェース506及び神経選択的刺激装置502のマイクロプロセッサ900によって実施される一例示的モニタリングループ処理を示す。
1.赤色発光器714及びIR発光器718のいずれが励振電流を受けるかを交互に選択する制御信号を発生させる為の、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900にある第1のクロックタイマを初期化する。
2.第1のタイマからの制御信号に基づいて、電流駆動回路700及び702内で、赤色発光器714及びIR発光器718に必要な電流励振レベルを交互に発生させる。
3.多重化器708のどのチャネルをADC710によって処理するかを交互に選択する制御信号を発生させる為の、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900にある第2のクロックタイマを初期化する。
4.第2のタイマからの制御信号によって選択された多重化器のチャネルに基づいて、第1の電流駆動回路700、第2の電流駆動回路702、第1の光検出回路704、及び第2の光検出回路706からの信号を、交互に、ADC710によってサンプリング及び変換する。
図15は、その例示的処理の各ステップを示すフローチャートである。
【0093】
以上のステップ及び
図15に示したように、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は、第1及び第2の電流駆動回路700及び702の赤色発光器714及びIR発光器718を用いて赤色光及びIR光を交互に発生させることを開始する指示を、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に送信する。グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000は又、赤色発光器714及びIR発光器718が赤色光及びIR光を発し、第1及び第2の光検出器720及び728がその光の反射部分を受光するのに合わせて、第1の電流駆動回路700、第2の電流駆動回路702、第1の光検出回路704、及び第2の光検出回路706で発生する信号を交互にサンプリングすることを開始する指示を、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に送信する。これら2つの交互サイクルは、グラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000が、モニタリングループを停止する指示をコンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900に送信するまで、連続的に実施される。
【0094】
第1のタイマは、赤色発光器714及びIR発光器718の活性化を有効化/無効化する為に、デューティサイクル25%のパルス列を周波数125Hzで発生させることが好ましい。第2のタイマは、0.5ミリ秒の周期を有していて、このタイミングで、多重化器708の次のチャネルが、ADC710によるアナログデジタル変換の為に選択されることが好ましい。そして各発光サイクルは、多重化器の4つのチャネルがインタリーブされて、0.5ミリ秒刻みで信号をADC710に供給するように、2ミリ秒続くことが好ましい。この構成では、コンポーネントインタフェース506のマイクロプロセッサ900は、インタリーブされた各0.5ミリ秒サンプルの間に50個のデータ点を収集し、それらを平均し、平均されたそれらのデータ点のセットを16個、更なる処理に備えて、8ミリ秒おきにグラフィカルユーザインタフェース508のマイクロプロセッサ1000に送信する。これらの平均データ点のそれぞれは、赤色発光器714及びIR発光器718への入力電流の値、並びに、第1及び第2の光検出ダイオード720及び728において検出される電流の値を含んでいる。
【0095】
E.ヒトの痛覚の測定
本発明の痛覚計は、実践上は、以下のことに使用可能である。(1)痛みと、有害及び半有害の刺激に対する反応とを客観的に定量化する。(2)そのような刺激及び他の臨床的に関連する刺激に対する反応としてのSDT及び/又は痛みスコアを決定する。(3)薬及び他の痛み介入の鎮痛効果、並びに、痛み管理を目的とした新薬及び/又は治験薬の有効性並びに用量と反応との関係をモニタリングする。(4)鎮痛薬及び他の介入に対する耐性の発現を特定する。(5)痛みの診断的特性化を行う。これらは全て、患者における痛みの総合的管理の指針になる。以下では、ヒトの痛覚の測定の、これらの形式のそれぞれについて個別に説明する。
【0096】
i.痛みの客観的定量化
本発明の皮質活動モニタリング機能性は、痛みの感情的要素を、痛みの実際の侵害的要素から分離することを可能にする。痛みの感情的要素は、神経選択的刺激装置502を用いて、患者が侵害を知覚しない活動電位を特定の神経線維で発生させることにより(即ち、半有害電気刺激を発生させることにより)除去される。結果としての、これらの神経線維の神経支配は患者には知覚されないが、本発明の皮質活動モニタ504は、その刺激に対する反応としての、患者の脳皮質領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化を測定することが可能である。これらの測定値は、痛みの侵害的要素を痛みの感情的要素と分離することが可能であり、言葉での主観的定量化及び/又は医師の主観的観察を必要としない為、半有害電気刺激に対する患者の反応の客観的測定量を与える。
【0097】
その測定値から痛みの感情的要素を更に除去することが可能であり、これは、侵害的痛みに関連する特定の脳皮質領域(即ち、一次体性感覚皮質)及び感情的痛みに関連する特定の脳皮質領域(即ち、背外側前頭前皮質)における皮質活動をモニタリングすることにより、可能である。これら2つの領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化を互いに相関付けることにより、感情的要素と侵害的要素との間の関係が特定される。従って、有害刺激を手動印加したこと、及び/又は患者の体調の結果として、患者が実際に痛みを知覚している場合は、感情的要素を侵害的要素と分離することにより、患者の実際の侵害的痛みの、より正確な、且つ、より客観的な測定量を与えることが可能である。
【0098】
ii.SDT及び痛みスコアの決定
本発明は、従来の、PPTやPTTなどの装置/方法とは異なる検査パラダイムを用いる。即ち、継続時間が自己制御式である神経特異的電気刺激を利用してSDT及び痛みスコアを決定する点が異なり、刺激の強度は、皮質活動モニタ504で測定される血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化の客観的測定値に基づいて制御される。一般的に遭遇する臨床的に妥当な、痛みを伴う(又は有害な)刺激に対する血行力学的反応及び/又は神経生理学的反応をまとめたものを、対照標準(例えば、刺激なし)又は他の基準反応とともに用いて、SDT及び/又は痛みスコアを評価及び報告する際に対照する痛みスケールを作成する。この検査パラダイムは又、手動印加される有害刺激を含めることを可能にしており、上述のように、手動印加される有害刺激は、その感情的要素を分離することが可能であり、これによって、侵害的痛みの客観的測定値を与えることが可能である。グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶されているルックアップテーブル(又はスケール)を用いて、特定の周波数及び強度の電気刺激におけるSDT値及び痛みスコアを患者に対応付けることにより、それらの周波数及び強度の電気刺激での、その患者についての血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化の測定量に対応するSDT値又は痛みスコアを特定することが可能である。複数の患者について痛みスコア及び/又はSDTを決定する為に使用可能な、基準反応のライブラリを形成する為に、患者ごとの既知の生理学的相違に基づいて、様々な患者に対応する様々なルックアップテーブルが用意される。
【0099】
図16に示すように、これらのルックアップテーブルは、臨床評価(例えば、臨床試験、患者エンカウンタなど)を経て定義される。より具体的には、複数の異なる患者に、複数の異なるレベルの刺激を印加し、皮質活動モニタ504を用いて、それらの患者の脳皮質領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化を測定する。この刺激には有害刺激が含まれ、有害刺激は、神経選択的刺激装置502を用いて印加してよく、従来の熱刺激、化学刺激、又は機械的刺激として印加してもよい。神経選択的刺激装置502は、一般には、半有害刺激以外のものを印加することには使用されない為、臨床試験中に有害刺激を印加することが可能になるように構成された別個の「臨床試験」モードを持つことになる。このモードは又、患者が体験した痛みを定量化する為の入力を、グラフィカルユーザインタフェース508の入力装置1004から受けるように構成される。これらの定量化結果を、皮質活動モニタ504で測定された血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のレベルと突き合わせることにより、様々な生理学的特性を有する様々な患者(例えば、様々な年齢、体重、病状、病歴などを有する患者)に対応するSDT値の範囲が特定される。
【0100】
様々な患者ごとに決定されたこれらのSDT値範囲を用いて、ルックアップテーブルを作成する。そして、これらのルックアップテーブルにある各範囲を用いて、後から評価される患者についてのSDTを特定する。これは、後から評価される患者について測定された血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のレベルを、後から評価される患者と類似の生理学的特性を有する事前評価された患者について得られたSDTに対応する、ルックアップテーブル内の値と突き合わせることによって行う。
図16に示したように、又、痛覚計ソフトウェアの制御/分析ループに関して上述したように、それらのルックアップテーブルを用いて患者を後から評価する処理は、刺激が何も印加されていない状態での患者における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化のベースラインレベルを測定し、これを対照標準として使用することを含む。次に、神経選択的刺激装置502を用いて、神経特異的電気刺激を印加する。これは、皮質活動モニタ504で測定される血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化が当該SDT範囲に収まるまで行う。次に、その患者における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化の閾値レベルを取得する為に使用された神経特異的電気刺激の、対応する周波数及び強度を、その患者のSDTと関連付け、その患者の今後の評価で使用する為に、グラフィカルユーザインタフェース508のメモリ1002に記憶する。
【0101】
ルックアップテーブルの定義に使用する評価は有害刺激の印加を含む為、これらの評価は、生理学的特性が異なる様々な患者ごとのSDT範囲を確立することに特化して設計された臨床評価の間に行うことが好ましい。次に、適切なルックアップテーブルを用いて痛覚計500を事前プログラムし、その後、痛覚計500の他の臨床設定を行う。これによって、痛覚計500は、それらの、半有害刺激のみを印加する他の臨床設定で利用可能になる。痛みスコア用のルックアップテーブルは、ほぼ同様の方法で定義及び使用が可能である。
【0102】
iii.モニタリングの効果と薬及び痛み介入の有効性
本発明の、神経特異的電気刺激に対する反応としての血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化をモニタリングする機能により、本発明では、薬及び他の痛み介入の鎮痛効果、並びに、痛み管理を目的とした新薬及び/又は治験薬の有効性並びに用量と反応との関係を特定することが可能である。より具体的には、様々な鎮痛薬クラスが様々な神経線維を変調する。そして、本発明は、これらの特定線維を神経特異的電気刺激の目標とすることにより、それらの神経線維を変調する特定の薬の効果を評価することが可能である。
【0103】
例えば、オピオイドは、C線維を変調するが、Aβ線維を変調しない。従って、神経特異的電気刺激を周波数5HzでC線維に印加することにより、オピオイドの効果を測定することが可能である。そして、この神経特異的電気刺激を、本発明の皮質活動モニタ504によって与えられる客観的測定値と組み合わせて利用することにより、特定の感覚神経線維において、鎮痛薬及び他の痛み介入の効果を測定することが可能である。このように、本発明を定量的感覚検査(QST)パラダイムとともに用いることにより、特定の痛み介入に対する痛み反応を客観的に測定することが可能である。
【0104】
図17に示すように、上述のルックアップテーブルにおいて与えられるSDT値は、特定の痛み介入の効果の検査の一環として用いることが可能である。
図17では、皮質活動モニタ504を用いて、痛み介入が投与される前(例えば、外科手術を受けた直後)の患者が体験している痛みの測定を開始する。その時点では、神経選択的刺激装置502による電気刺激は印加されていない。次に、痛み介入を投与し、患者の脳皮質領域における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化の測定を、それらがその患者のSDTを下回るまで行う。この測定値の低下は、痛み介入が効果的であったことを示している。
【0105】
所定の時間量の間に血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化が患者のSDTを下回ったら、神経選択的刺激装置502により、神経特異的電気刺激を、当該痛み介入によって変調される神経線維の固有の周波数(例えば、オピオイドであれば5Hz)で患者に印加する。患者の痛みの元に対する効果ではなく、特定の神経線維タイプに対する鎮痛薬の全身的な効果を測定する為に、電極510を、患者の痛みの元ではない四肢(例えば、指、つま先など)に配置する。そして、電流を、その患者について決定されたSDT範囲に収まる強度に維持して、血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化がその閾値を下回っていれば、痛み介入が効果的に働いていることになるように、且つ、血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化がその閾値以上であれば、痛み介入が切れてきたことになるようにする。
【0106】
痛み介入が切れてきたことが示された場合は、これに対して、痛覚計500は、アラートを発生させることが可能であり、例えば、グラフィカルユーザインタフェース508のディスプレイ装置1006に警告を表示することが可能であり、且つ/又は、痛覚計500は、薬調剤システムと通信して、そのシステムに、適量の痛み介入を自動的に再投与させることが可能であり、且つ/又は、痛覚計500は、病院の中央モニタリングシステムと通信して、別のどこかの場所(例えば、ナースステーション)でアラートを発生させることが可能である。これらのアラート、又は、その、薬調剤システムとの通信の結果として、痛み介入は患者に再投与される。痛覚計500は、患者の痛みのモニタリングを継続し、必要に応じてそのように痛み介入を再投与することにより、患者の痛みが有害レベルを下回り続けるようにする。
【0107】
iv.耐性の発現の特定
本発明は、
図16及び
図17に示した処理を長期間にわたって繰り返すことにより、特定の痛み介入に対する耐性の発現を特定することが可能である。
図16に示した処理は、患者のSDTの変化を識別する為に、特定の投薬において断続的に繰り返されており、
図17の処理は、その投薬に対する反応として、痛み介入の効果を特定する為に、連続的に繰り返されている。そして、痛み介入が切れてくる時点をより正確に識別できるように、患者のSDTを、時間に対して調節することが可能である。そして、同様の強度の神経特異的電気刺激に対する反応として、患者のSDTが時間とともに減少したときに、耐性の発現が識別される。痛覚計500は、痛み介入の再投与が必要な場合には、上述の場合と同様に耐性の発現を識別した時点で、アラートを発生させるか、投薬を調節することが可能である。
【0108】
v.痛みの診断的特性化
本発明の、神経特異的電気刺激に対する反応としての血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化をモニタリングする機能は、本発明が様々な痛み状態における痛みの診断的特性化を行うことも可能にする。より具体的には、様々な痛み状態が様々な神経線維を変調する。そして、本発明は、これらの特定線維を神経特異的電気刺激の目標とすることにより、患者が体験している痛み状態を診断することが可能である。
【0109】
これは、例えば、神経障害性痛みは、Aβ線維を介して変調される為である。従って、神経特異的電気刺激を周波数2000HzでAβ線維に印加することにより、負傷による神経障害性痛みの存在を検出することが可能である。その場合は、電極510を、患者の身体の、痛みの元になっている場所の上に配置する。そして、患者の痛みの元の場所にあるAβ線維(一般に、侵害的痛みには関連付けられない感覚線維)の、半有害神経特異的刺激に対する反応としての痛みの測定値が有害又は近有害レベルであれば、その患者が神経障害性痛みに苦しんでいることになる。同様の手法を用いて、他の痛み状態(例えば、痛覚過敏、異痛症など)の診断も可能である。
【0110】
F.補足的開示
ここまでの開示に加えて、以下の記事の開示も、参照によって、その全体があたかも本明細書に示されているかのように本明細書に組み込まれている。
1.米国医師会(American Medical Association),「モジュール6:小児科の痛み管理(Module 6:Pediatric Pain Management)」,ペイン マネジメント シリーズ(Pain Management Series),http://www.ama−cmeonline.com/pain_mgmt/module06/index.htm(2010年2月)
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4.ベセラ, L.等(Becerra, L. et al.)著,「体性感覚皮質における拡散光トモグラフィ活性化:有痛及び無痛熱刺激による特定活性化(Diffuse Optical Tomography Activation in the Somatosensory Cortex: Specific Activation by Painful vs. Non−Painful Thermal Stimuli)」, プロス ワン(PLoS ONE), 4巻(11号), 1−5頁 (2009年)
5.ベセラ,L.等(Becerra,L.et al.)著,「痛み及び触覚刺激の拡散光トモグラフィ:皮質感覚及び感情系の活性化(Diffuse Optical Tomography of Pain and Tactile Stimulation:Activation in Cortical Sensory and Emotional Systems)」,ニューロイメージ(Neuroimage),41巻(2号),252−259頁(2008年)
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38.レイ,S.,M.コープ等(Wray,S.,M.Cope,et al.)著,「脳酸素化の非侵襲性モニタリングの為のシトクロムaa3及びヘモグロビンの近赤外吸収スペクトルの特性化(Characterization of the near infrared absorption spectra of cytochrome aa3 and haemoglobin for the non−invasive monitoring of cerebral oxygenation)」,バイオケミカル エ バイオフィジカ アクタ(Biochim Biophys Acta),933巻(1号),184−192頁(1988年)
39.ヤルニツキ D.,E.スプレッヒャー等(Yarnitsky,D.,E.Sprecher,et al.)著,「複数セッションの実験的痛み測定(Multiple session experimental pain measurement)」,ペイン(Pain),67巻(2−3号),327−333頁(1996年)
【0111】
G.要約
本発明は、特定の感覚痛み線維経路の生理学的完全性を評価する神経選択的刺激装置502と、半有害刺激及び有害刺激の両方に対する脳の反応を検出する皮質活動モニタ504とを統合する。本発明では、これらのコンポーネントを統合する為に中央マイクロプロセッサ900を用いる。中央マイクロプロセッサ900は、刺激の印加と、その刺激に対する患者の反応の評価とを自動化する。神経選択的刺激装置502は、特定の感覚神経線維によって感知可能な特定の周波数及び強度のセットで、強度が漸増する電気刺激(即ち、神経特異的電気刺激)を印加する。皮質活動モニタ504は、NIRS及び/又はEEGを用いて、患者の脳の様々な皮質領域(限定ではなく例として、一次体性感覚皮質、後頭皮質、背外側前頭前皮質など)における血行力学的変化及び/又は神経生理学的変化をサンプリングして、半有害刺激及び有害刺激の両方に対する反応を定量化する。これらの刺激は、神経選択的刺激装置502により自動的に印加してよく、或いは、臨床ケア(例えば、静脈穿刺、術後痛み、気管内チューブ吸引、包帯交換など)の実施中に手動で印加してもよい。そして、この反応信号を処理して、SDT及び/又は痛みスコアを生成する。
【0112】
脳の様々な皮質領域にNIRSプローブ及び/又はEEG電極1100を配置することにより、様々な刺激に対する、感覚的な(例えば、体性感覚皮質の)特異反応、視覚的な(例えば、後頭皮質の)特異反応、及び感情的な(例えば、背外側前頭前皮質の)特異反応を認識及び特定することが可能になる。脳の様々な領域からNIRS及び/又はEEG反応の測定値を取得することにより、有害刺激に対するヒトの反応の要素(例えば、痛みの侵害的要素と感情的要素)が区別され、そのような反応に対するベースライン及び/又は対照標準の測定値が得られる。これらの信号の処理は、最終的には次のことの為に行われる。(1)痛みと、有害及び半有害の刺激に対する反応とを客観的に定量化する。(2)そのような刺激及び他の臨床的に関連する刺激に対する反応としてのSDT及び/又は痛みスコアを決定する。(3)痛み治療を目的とした鎮痛薬及び他の介入の効果をモニタリングする。(4)鎮痛薬及び他の介入に対する耐性の発現を特定する。(5)痛みの診断的特性化を行う。これらは全て、患者における痛みの総合的管理の指針になる。結論としての痛覚計500は、グラフィカルユーザインタフェース508及びディスプレイ装置1006を備えたコンパクトな造りであって、各種の臨床環境に組み込むことが容易であり、他の診断モダリティと組み合わせて、又は他の診断モダリティの補助として用いることが可能である。
前記刺激装置は、前記モニタリング装置によって皮質活動の感覚探知閾値(SDT)レベルが測定されるまで、前記電気刺激の強度を漸増させるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
前記刺激装置は、Aβ線維内に活動電位を発生させる第1の周波数、Aδ線維内に活動電位を発生させる第2の周波数、及びC線維内に活動電位を発生させる第3の周波数で電気刺激を感覚神経線維に印加するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
前記モニタリング装置は、近赤外分光法(NIRS)、脳波検査(EEG)、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、及び近赤外画像法(NIRI)のうちの少なくとも1つを利用して、前記患者の脳の前記複数の領域における皮質活動の前記レベルを測定する、請求項1に記載のシステム。
前記モニタリング装置は、NIRSと、複数の発光器及び複数の検出器を有するNIRSセンサとを利用して、前記患者の脳の前記複数の領域における皮質活動の前記レベルを測定する、請求項4に記載のシステム。
前記モニタリング装置は、EEGを、センサである電極とともに利用して、あるいは、EEG及びNIRSを、センサである電極と少なくとも一つのNIRSセンサーとの組み合わせとともに利用して、前記患者の脳の前記複数の領域における皮質活動の前記レベルを測定する、請求項4に記載のシステム。
脳の様々な皮質領域にNIRSプローブ及び/又はEEG電極1100を配置することにより、様々な刺激に対する、感覚的な(例えば、体性感覚皮質の)特異反応、視覚的な(例えば、後頭皮質の)特異反応、及び感情的な(例えば、背外側前頭前皮質の)特異反応を認識及び特定することが可能になる。脳の様々な領域からNIRS及び/又はEEG反応の測定値を取得することにより、有害刺激に対するヒトの反応の要素(例えば、痛みの侵害的要素と感情的要素)が区別され、そのような反応に対するベースライン及び/又は対照標準の測定値が得られる。これらの信号の処理は、最終的には次のことの為に行われる。(1)痛みと、有害及び半有害の刺激に対する反応とを客観的に定量化する。(2)そのような刺激及び他の臨床的に関連する刺激に対する反応としてのSDT及び/又は痛みスコアを決定する。(3)痛み治療を目的とした鎮痛薬及び他の介入の効果をモニタリングする。(4)鎮痛薬及び他の介入に対する耐性の発現を特定する。(5)痛みの診断的特性化を行う。これらは全て、患者における痛みの総合的管理の指針になる。結論としての痛覚計500は、グラフィカルユーザインタフェース508及びディスプレイ装置1006を備えたコンパクトな造りであって、各種の臨床環境に組み込むことが容易であり、他の診断モダリティと組み合わせて、又は他の診断モダリティの補助として用いることが可能である。