【解決手段】隔膜90は、多孔性支持体92と、支持体92の一方の表面から支持体92に含浸している高分子多孔膜91とを備える。多孔膜91の一方の表面A、表面Aと反対側の表面B、表面A及び表面Bに平行な多孔膜91の断面を断面C、表面Aにおける平均孔径をD
前記支持体の前記他方の表面が、前記多孔膜の前記表面Bから厚さ方向へ当該多孔膜の厚さの5%以下だけ後退した範囲内に存在する当該表面Bに平行な平面上にある、請求項2に記載のアルカリ水電解用隔膜。
前記支持体の前記他方の表面が、前記多孔膜の前記表面Bから厚さ方向へ前記支持体の繊維径以下だけ進出した範囲内に存在する当該表面Bに平行な平面上にある、請求項2に記載のアルカリ水電解用隔膜。
前記有機高分子樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
前記支持体が、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、フッ素系樹脂、ポリケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種の繊維で形成された不織布、織布、又は、不織布と織布の複合布である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
前記有機高分子樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項10又は11に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
前記支持体が、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、フッ素系樹脂、ポリケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種の繊維で形成された不織布、織布、又は、不織布と織布の複合布である、請求項10〜12のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
前記有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項10〜13のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルカリ水電解用隔膜には、(1)ガス遮断性、(2)イオン透過性、(3)機械的強度、(4)電気絶縁性の各性能が要求される。
【0006】
上記(1)のガス遮断性は、隔膜を通じてイオンのみを通し、生成したガスの通過や拡散がないことであり、高純度の水素と酸素を回収する上で重要である。ガス遮断性の性能は、隔膜の多孔構造の孔径と多孔度に影響されると考えられている。上記(2)のイオン透過性は、隔膜が適用されるアルカリ水電解装置の電解効率に影響を与える。イオン透過性が高くなるにしたがって隔膜の電気抵抗は低くなり、アルカリ水電解装置の電解効率を向上させることができる。イオン透過性の性能は、隔膜の多孔構造の孔径と多孔度に影響されると考えられている。上記(3)の機械的強度として、特に、隔膜と電極との間の摩擦に対する耐摩耗性が求められる。上記(4)の電気絶縁性は一般的な高分子多孔膜が備える性能である。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、上記(1)〜(4)の性能、即ち、ガス遮断性、イオン透過性、機械的強度、電気絶縁性を併せ備えたアルカリ水電解用隔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るアルカリ水電解用隔膜は、アルカリ水電解槽の陽極室と陰極室を隔てるアルカリ水電解用隔膜であって、
シート状の多孔性支持体と、前記支持体の一方の表面から当該支持体に含浸している有機高分子樹脂を含む多孔膜とを備え、
(i)前記多孔膜の厚さは前記支持体の厚さよりも大きく、
(ii)前記多孔膜の一方の膜表面を表面A、前記表面Aと反対側の前記多孔膜の他方の膜表面を表面B、前記表面A及び前記表面Bに平行な前記多孔膜の断面を断面C、前記表面Aにおける前記多孔膜の平均孔径をD
A、前記表面Bにおける前記多孔膜の平均孔径をD
B、前記断面Cにおける前記多孔膜の平均孔径をD
Cと規定したときに、実質的に同一である平均孔径D
A及び平均孔径D
Bよりも大きい平均孔径D
Cを有する断面Cが前記多孔膜に存在し、
(iii)前記多孔膜の前記表面A及び前記表面Bに平行な断面又は表面を面S、前記面Sにおける前記多孔膜の平均孔径をD
Sと規定したときに、前記平均孔径D
A又は前記平均孔径D
B以上且つ前記アルカリ水電解槽で生じる気泡の気泡径分布の下限値よりも小さい平均孔径D
Sを有する前記面Sが、前記多孔膜のうち前記支持体に含浸している含浸領域に存在するものである。
【0009】
上記アルカリ水電解用隔膜では、多孔膜のうち電解で生じる気泡の気泡径分布の下限値よりも小さい平均孔径D
Sを有する面Sは、支持体によって支持されることによって摩擦に対する機械的強度を備えている。よって、多孔膜に存在する面Sによって、隔膜に電解によって生じる気泡を透過させないガス遮断性を担保することができる。
【0010】
また、上記アルカリ水電解用隔膜は、多孔膜の厚さ方向中間部分に表面A及び表面Bよりも平均孔径が大きい断面Cを有している。断面Cの孔には、表面A及び表面Bの孔と比較して電解液で満たされやすい。このように、多孔膜に断面Cが存在することによって、アルカリ水電解用隔膜に高いイオン透過性能を備えることができる。加えて、アルカリ水電解用隔膜は、高分子多孔膜によって電気絶縁性が備えられている。
【0011】
よって、本発明によれば、ガス遮断性、イオン透過性、機械的強度、及び電気絶縁性を併せ備えたアルカリ水電解用隔膜を提供することができる。
【0012】
上記アルカリ水電解用隔膜において、前記多孔膜が、前記支持体の前記一方の表面から他方の表面まで当該支持体に含浸していることが望ましい。
【0013】
これにより、隔膜の厚さを抑えつつ、隔膜の機械的強度を備えることができる。
【0014】
上記アルカリ水電解用隔膜において、前記多孔膜の前記表面Bと、前記支持体の前記他方の表面とが実質的に同一の平面上にあってよい。
【0015】
また、前記支持体の前記他方の表面が、前記多孔膜の前記表面Bから厚さ方向へ当該多孔膜の厚さの5%以下だけ後退した範囲内に存在する当該表面Bに平行な平面上にあってよい。或いは、前記支持体の前記他方の表面が、前記多孔膜の前記表面Bから厚さ方向へ前記支持体の繊維径以下だけ進出した範囲内に存在する当該表面Bに平行な平面上にあってよい。これらの態様においても、前記多孔膜の前記表面Bと前記支持体の前記他方の表面とが実質的に同一の平面上にあると見做すことができる。
【0016】
これにより、隔膜の両方の表面に滑らかな多孔膜が表れることから、電解時の隔膜表面への泡の付着の抑制が期待される。よって、隔膜を用いた電解の電解効率を高めることができる。
【0017】
上記アルカリ水電解用隔膜において、前記多孔膜の気孔率が、80%以上90%以下であることが望ましい。
【0018】
これにより、隔膜は高いイオン透過性能を備えることができる。
【0019】
上記アルカリ水電解用隔膜において、前記多孔膜の前記表面A及び前記表面Bに平行な断面を断面L、前記断面Lにおける前記多孔膜の平均孔径をD
Lと規定したときに、前記多孔膜の最大平均孔径となる平均孔径D
Lを有する前記断面Lが前記多孔膜のうち前記含浸領域に存在することが望ましい。
【0020】
このように多孔膜のうち最大平均孔径を有する断面Lが支持体で支持されることによって、隔膜に高いイオン透過性能を担保することができる。
【0021】
上記アルカリ水電解用隔膜において、前記有機高分子樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0022】
これにより、アルカリ水電解用隔膜に要求されるガス遮断性とイオン透過性を備えることができる。
【0023】
上記アルカリ水電解用隔膜において、前記多孔性支持体が、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、フッ素系樹脂、ポリケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種の繊維で形成された不織布、織布、又は、不織布と織布の複合布であってよい。
【0024】
これにより、アルカリ水電解用隔膜に要求される機械的強度を備えることができる。
【0025】
本発明の一態様に係るアルカリ水電解用隔膜の製造方法は、
有機高分子樹脂を有機溶媒に加えて製膜溶液を調製することと、
シート状の多孔性支持体の一方の表面から他方の表面まで前記製膜溶液を含浸させるように、前記製膜溶液を前記支持体に前記一方の表面から塗工することと、
前記支持体に塗工された製膜溶液の両面を実質的に同じ条件で水分に晒すことにより多孔膜を形成することと、を含むものである。
【0026】
上記によれば、前述の通り、ガス遮断性、イオン透過性、及び機械的強度を併せ備えたアルカリ水電解用隔膜の製造方法を提供することができる。
【0027】
上記製造方法において、前記製膜溶液が前記支持体の前記他方の表面からしみ出るように、前記製膜溶液を前記支持体に塗工することが望ましい。
【0028】
これにより、隔膜の両方の表面に滑らかな多孔膜が表れることから、電解時の隔膜表面への泡の付着の抑制が期待される。よって、隔膜を用いた電解の電解効率を高めることができる。
【0029】
上記製造方法において、前記有機高分子樹脂が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0030】
これにより、アルカリ水電解用隔膜に要求されるガス遮断性とイオン透過性を備えることができる。
【0031】
上記製造方法において、前記多孔性支持体が、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、フッ素系樹脂、ポリケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種の繊維で形成された不織布、織布、又は、不織布と織布の複合布であってよい。
【0032】
これにより、アルカリ水電解用隔膜に要求される機械的強度を備えることができる。また、比較的大きな面積のアルカリ水電解用隔膜を製造することが可能となる。
【0033】
上記製造方法において、前記有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0034】
これにより、アルカリ水電解用隔膜に要求されるガス遮断性とイオン透過性を備えることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ガス遮断性、イオン透過性、及び機械的強度を併せ備えたアルカリ水電解用隔膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係るアルカリ水電解用隔膜は、図示しないアルカリ水電解装置の電解セルの一構成要素として用いられる。以下、本発明の一態様に係るアルカリ水電解用隔膜(以下、単に「隔膜90」ということがある)について説明する。
【0038】
〔アルカリ水電解用隔膜90の概略構成〕
図1は本発明の一態様に係るアルカリ水電解用隔膜90の断面図であり、
図2はアルカリ水電解用隔膜90における多孔膜91の平均孔径の分布と、多孔膜91と支持体92の位置関係とを示す模式的断面図である。
図1及び
図2に示すように、隔膜90は、シート状の多孔性支持体92と、有機高分子樹脂を含む高分子多孔膜91とを備えている。多孔膜91の厚さは支持体92の厚さよりも大きい。つまり、支持体92は多孔膜91よりも薄い。そして、支持体92の一方の表面から他方の表面まで、即ち、支持体92の厚さ方向の全域に亘って、多孔膜91が支持体92に含浸している。ここで、「含浸」とは、支持体92の組織又は構造の隙間に多孔膜91が入り込むことをいう。多孔膜91のうち、支持体92に含浸している領域を「含浸領域93」ということとする。含浸領域93により、多孔膜91と支持体92とが結合されている。
【0039】
隔膜90の多孔膜91の一方側(
図1,2において紙面上側)の膜表面を表面Aと、表面Aと反対側(
図1,2において紙面下側)の多孔膜91の膜表面を表面Bと、支持体92の一方側の表面を表面αと、表面αと反対側の支持体92の表面を表面βとそれぞれ規定する。支持体92の表面βと多孔膜91の表面Bは、実質的に同一の平面上にある。ここで、「実質的に同一の平面上にある」とは、支持体92の表面βと多孔膜91の表面Bとが同一の平面上にあることと、支持体92の表面βが多孔膜91の表面Bから厚さ方向へ所定の範囲内に存在する当該表面Bに平行な平面上にあることとが含まれる。
【0040】
つまり、支持体92の表面βと多孔膜91の表面Bとが実質的に同一平面上にあることには、
図3に示すように、支持体92の表面βが、多孔膜91の表面Bから厚さ方向(
図3において紙面上側)へΔt1だけ後退した範囲内に存在する当該表面Bに平行な平面上にあることが含まれうる。この態様の隔膜90では、多孔膜91の表面Bが支持体92の表面βを厚さ方向へ超えた位置にあり、隔膜90の両表面には支持体92と比較して緻密な多孔膜91が露出している。これにより、電解で発生した気泡が隔膜90の表面に付着しにくくなり、電解効率の低下の抑制が期待される。
【0041】
図7に示す多孔膜91の表面近傍の断面のSEM写真から、多孔膜91の表面から厚さ方向中間部分に向かう平均孔径の増加割合は一定ではないことが明らかとなっている。この写真から、多孔膜91の表面から厚さ方向中間部分へ向かって数〜十数μm(
図7ではおよそ5μm)までの領域は、表面と平行な断面の平均孔径が略一定であることが観察される。更に、上記写真から、多孔膜91の表面から厚さ方向中間部分へ向かって数〜十数μmより大きい領域から、表面と平行な断面の平均孔径が徐々に大きくなっていることが観察される。
【0042】
よって、多孔膜91の表面A又は表面Bから数μmの範囲は平均孔径が殆ど同じであり、多孔膜91の表面A又は表面Bから所定の範囲は平均孔径が十分に小さいということができる。多孔膜91の表面近傍であって、表面と平均孔径が殆ど同じとなる範囲は、多孔膜91の製造方法や材料によってばらつきがあるが、表面から数〜十数μm(膜厚のおよそ5%)までの範囲であることが実験的に得られている。以上を踏まえて、上記Δt1は、多孔膜91の厚さ方向の大きさのおよそ5%以下の値であってよい。
【0043】
また、支持体92の表面βと多孔膜91の表面Bとが実質的に同一平面上にあることには、
図4に示すように、支持体92の表面βが、多孔膜91の表面Bから厚さ方向(
図4において紙面下側)へΔt2だけ進出した範囲内に存在する当該表面Bに平行な平面上にあることが含まれうる。
【0044】
支持体92のメッシュは多孔膜91の表面の平均気泡径と比較して極めて大きいことから、多孔膜91の表面Bが支持体92の表面βから厚さ方向へ後退していても、隔膜90の表面には多孔膜91の表面Bと支持体92の表面βの双方が現れることがある。例えば、多孔膜91の表面Bが支持体92の表面βから支持体92の繊維径(直径)だけ厚さ方向へ後退している隔膜90がこのケースに該当する。以上を踏まえて、Δt2は、支持体92の繊維径(直径)以下の値との値であってよい。この態様の隔膜90の一方の表面には多孔膜91が現れ、他方の表面には支持体92と多孔膜91が現れる。
【0045】
上記隔膜90において、支持体92の厚さ方向中央92cと多孔膜91の厚さ方向中央91cとは一致せず、支持体92の厚さ方向中央92cは多孔膜91の厚さ方向中央91cよりも表面B側に位置している。
【0046】
本来、多孔膜91の摩擦に対する機械的強度は低いが、支持体92に多孔膜91を含浸させて多孔膜91が支持体92に支持されることによって、隔膜90の機械的強度が担保されている。含浸領域93の厚さが大きいほど隔膜90の機械的強度が高まる。しかしながら、支持体92の厚さが大きいほど隔膜90のイオン透過性が低下する傾向にある。そこで、本態様に係る隔膜90では、支持体92の厚さは多孔膜91の厚さより小さく、且つ、多孔膜91の膜表面のうちの一つと支持体92の表面のうちの一つが実質的に同一の平面上にあるように支持体92の厚さ方向全域に亘って多孔膜91を含浸させることで、隔膜90の機械的強度とイオン透過性のバランスを図っている。
【0047】
〔多孔膜91の孔径〕
多孔膜91の孔径の評価は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して行う。測定画面内に、観察対象面に存在する孔が100個以上150個以下写るように倍率を調節し、写った孔のそれぞれに対し、孔の最大長と最小長の平均長を相加平均で算出する。それぞれの平均長からさらに相加平均を算出し、これを平均孔径とする。SEMによる観察は膜の観察面と垂直になるように行い、孔とは周囲を途切れなく樹脂で囲まれたものとする。また測定画面内で孔の一部が見切れているものは孔と見なさないものとする。
【0048】
図2に示すように、多孔膜91の表面A及び表面Bに平行な断面を断面C、表面Aにおける平均孔径をD
A、表面Bにおける平均孔径をD
B、断面Cにおける平均孔径をD
Cと規定する。上記において、本実施態様に係る隔膜90では、平均孔径D
Aと平均孔径D
Bとが実質的に同一であり、平均孔径D
Cは平均孔径D
A及び平均孔径D
Bよりも大きい。なお、「平均孔径D
Aと平均孔径D
Bとが実質的に同一である」ことには、製造誤差等を加味して、平均孔径D
Aに対する平均孔径D
Bの比(平均孔径D
B/平均孔径D
A)が0.9〜1.1であることが含まれる。
【0049】
多孔膜91の平均孔径は厚さ方向に亘って均一ではない。多孔膜91の孔径分布は、膜表面(表面Aと表面B)の平均孔径よりも、表面Aと表面Bの間である厚さ方向中間部分の平均孔径が大きい。更に詳細には、多孔膜91の孔径分布は、表面Aから厚さ方向中間部分に向かって平均孔径が増加し、表面Bから厚さ方向中間部分に向かって平均孔径が増加している。但し、多孔膜91の表面A及び表面Bに平行な断面のうち、平均孔径が最も大きな断面が多孔膜91の厚さ方向中央91cに位置するとは限らない。また、表面A又は表面Bから厚さ方向中間部分に向かう平均孔径の増加割合が一定であるとは限らない。
【0050】
アルカリ水電解では、電極間に電圧がかかると、陰極の表面に水素が発生し、陽極の表面に酸素が発生する。これらの電極発生ガス(マイクロバブル)の気泡径分布は、電極径、発生する気泡の量、電極表面上での電解液の表面張力などによって変化するものの、およそ2〜30μmであることが知られている。ここで、隔膜90のガス遮断性は、多孔膜91の厚さ方向における最も小さな孔径の大きさに応じて発現する。つまり、隔膜90に要求されるガス遮断性は、多孔膜91の厚さ方向の少なくとも一部分に電極発生ガスの気泡径分布の下限値(即ち、2μm)よりも小さな孔径を有する断面又は表面が形成されていれば発現できる。そして、多孔膜91のそれ以外の部分の孔径を大きくすることで、隔膜90のイオン透過性を向上させることができる。
【0051】
そこで、多孔膜91の表面A及び表面Bに平行な断面又は表面を面S、面Sにおける平均孔径をD
Sと規定したときに、平均孔径D
A又は平均孔径D
B以上、且つ、アルカリ水電解槽で生じる気泡の気泡径分布の下限値よりも小さい平均孔径D
Sを有する面Sが含浸領域93に存在する。なお、平均孔径D
Sが過度に小さい(例えば、0.01μm未満)であると、多孔膜91の構造が過度に緻密になり、かえってイオン透過性が低下するおそれがある。以上を踏まえて、面Sの平均孔径D
Sは0.01〜2μmの範囲から選択された値であることが望ましい。
【0052】
図2に示す隔膜90では、多孔膜91のうち、表面A及び表面B並びにこれらの近傍の断面の平均孔径は、他の部分の平均孔径と比較して小さい。なお、表面A及び表面Bの近傍の断面とは、表面A及び表面Bと平行な断面であって、表面A又は表面Bに十分に近接しており、且つ、表面A及び表面Bの平均孔径と実質的に等しい平均孔径を有する断面のことをいう。
【0053】
図2に示す隔膜90では、平均孔径D
Aと平均孔径D
Bの双方が電極発生ガスの気泡径分布の下限値よりも十分に小さく、多孔膜91の表面Bが含浸領域93に含まれていることによって、多孔膜91の表面Bが面Sの要件を充足している。多孔膜91の含浸領域93は摩擦に対する機械的強度が他の部分よりも高く、含浸領域93に存在する孔は損傷したり変形したりしにくい。よって、隔膜90に機械的負荷が加わっても、多孔膜91の少なくとも一部分(面S)には電極発生ガスの気泡径分布の下限値より小さい平均孔径D
Sが維持される。つまり、隔膜90に、電解で生じる気泡を透過させないガス遮断性を担保することができる。
【0054】
更に、隔膜90において、表面A及び表面Bに平行な多孔膜91の断面を断面Lとし、断面Lにおける平均孔径が多孔膜91の最大平均孔径D
Lであると規定する。本態様に係る隔膜90では、このような断面Lは表面Aと表面Bの厚さ方向間に存在し、且つ、含浸領域93含まれている。よって、隔膜90に機械的負荷が加わっても、多孔膜91の最大平均孔径D
Lが維持される。つまり、隔膜90に、アルカリ水電解に高いイオン透過性能を担保することができる。
【0055】
〔多孔膜91の素材〕
上記隔膜90の多孔膜91は、有機高分子樹脂を含んでいる。この有機高分子樹脂は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0056】
ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドは、アルカリ水電解用隔膜90として要求される化学的強度(耐熱性及び耐アルカリ性)を十分に備え、且つ、アルカリ水電解用隔膜90に要求されるガス遮断性とイオン透過性を実現し得る点で好適である。
【0057】
更に、多孔膜91は、上記の有機高分子樹脂に加えて、酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)及びこれらの混合物から選択された親水性無機材料をさらに含んでいてもよい。これらの親水性無機材料を多孔膜91が含有することにより、隔膜90のイオン透過性の更なる向上が見込まれる。
【0058】
多孔膜91の厚さは、特に限定するものではないが、80μm〜600μmが好ましく、150μm〜350μmがより好ましい。多孔膜91の厚さが、80μm以上であれば、十分なガス遮断性が得られ、また、多少の衝撃で多孔膜91が破れ、支持体92が露出することがない。600μm以下であれば、孔内に含まれる溶液の抵抗によりイオンの透過性が阻害されることがなく、良好なイオン透過性を発揮することができる。
【0059】
また、多孔膜91の気孔率は、80%以上90%以下であることが望ましい。多孔膜91の気孔率を80%以上とすることによって、隔膜90に良好なイオン透過性を備えることができる。但し、多孔膜91の気孔率が90%を超えると、多孔膜91の摩擦に対する機械的強度が著しく低下するおそれがある。なお、気孔率は、次式で得られる。
気孔率(%)=[1−(乾燥膜重量)÷(膜体積分の素材重量)]×100
但し、上記において乾燥膜重量は支持体92を除く多孔膜91のみの重量であり、膜体積分の素材重量は支持体92を除いた多孔膜91のみの体積分の素材重量である。
【0060】
多孔膜91の気孔率が上記条件を満たすことで、イオン透過性の向上が期待される。なお、多孔膜91は既存のアルカリ水電解用隔膜と比較して著しく大きな気孔率を有するが、多孔膜91が支持体92に支持されていることで、隔膜90の機械的強度は担保されている。
【0061】
〔支持体92の素材〕
上記隔膜90の支持体92は、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、フッ素系樹脂、ポリケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドからなる群から選択される少なくとも1種の繊維で形成された、不織布、織布、又は不織布と織布の複合布である。複合布は、例えば、不織布に織布が内在する態様のものであってよい。
【0062】
ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、フッ素系樹脂、ポリケトン、ポリイミド、及び、ポリエーテルイミドは、機械的強度が高く、絶縁性、耐熱性及び耐アルカリ性を有している。よって、これらの群から選択される少なくとも1種の繊維で形成された、不織布、織布、又は複合布は、アルカリ水電解装置の隔膜90に要求される機械的強度と化学的強度を十分に備えており、支持体92の素材として好適である。また、このような素材から成る支持体92を用いることにより、隔膜90の製造容易性を向上させることができる。
【0063】
支持体92は、繊維目付(単位面積あたりの繊維の重量(単位:g/m
2))が20〜200g/m
2であるものが好適であり、40〜100g/m
2であるものが更に望ましい。繊維目付が20g/m
2に満たない支持体92を使用した隔膜90は良好なガス遮断性が得られず、また、繊維目付が200g/m
2を超える支持体92を使用した隔膜90は電解効率の不足や成膜不良が生じることがある。
【0064】
〔アルカリ水電解用隔膜の製造方法〕
アルカリ水電解用隔膜90は、上記支持体92に上記有機高分子樹脂の多孔膜91を相分離法により形成することにより、製造される。
【0065】
まず、アルカリ水電解用隔膜90の製造に用いる製造装置1の一例について説明する。
図5は、アルカリ水電解用隔膜90の製造装置1の概略構成を示す図である。この製造装置1では、隔膜90を連続的に製造することができる。
【0066】
図5に示す製造装置1は、塗工ユニット5と、薬液槽6と、支持体92の原反ロールである巻出ドラム2と、隔膜90(製品)が巻き取られる巻取ドラム12と、隔膜90の湿潤状態を維持するために巻取ドラム12を浸水させる水槽13とを備えている。製造装置1は、更に、巻出ドラム2から、塗工ユニット5及び薬液槽6を経由して巻取ドラム12に至る支持体92及び製品の移動経路を形成する複数のガイドローラ3,4,7,11と、隔膜90を移動経路に沿って搬送する駆動ローラ8及びニップローラ9と、搬送される隔膜90を所望の大きさに切断するスリッタ10とを備えている。
【0067】
塗工ユニット5は、製膜溶液22が流出するスリットを有しており、移動する支持体92の表面に製膜溶液22を所定厚さで塗布するものである。塗工ユニット5では、支持体92の選択された一方の表面に製膜溶液22を塗布することができる。また、塗工ユニット5では、製膜溶液22の支持体92への含浸具合(即ち、支持体92の表面からの厚さ方向への製膜溶液22の含浸深さ)を調整することができる。
【0068】
上記塗工ユニット5には、図示しない給液装置から製膜溶液22が供給されている。給液装置では、粉末状の有機高分子樹脂と、多孔膜91の構造(孔径、孔分布等)に作用する添加剤とを有機溶媒に溶解させることにより製膜溶液22が調製される。
【0069】
製膜溶液22における有機溶媒は、多孔膜91に含まれる有機高分子樹脂を溶解させ、且つ、水との混和性を有する有機溶媒であることが必要である。このような有機溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)及びこれらの混合物からなる群から1種以上を選択することができる。
【0070】
続いて、上記製造装置1を用いたアルカリ水電解用隔膜90の製造方法を説明する。予め、有機高分子樹脂を有機溶媒に加えて製膜溶液22を調製しておく。製造装置1では、巻出ドラム2から巻き出された支持体92は、移動経路に沿って塗工ユニット5、薬液槽6、スリッタ10、水槽13の順に移動する。
【0071】
塗工ユニット5では、支持体92に対し当該支持体92の一方の表面から製膜溶液22が塗布される。ここで、支持体92の一方の表面から他方の表面まで製膜溶液22を含浸させるように、支持体92に製膜溶液22が塗工される。支持体92の一方の表面から塗布された製膜溶液22が、他方の表面から僅かにしみ出るように支持体92に製膜溶液22が塗工されてもよい。このようにして、支持体92の両面に製膜溶液22の塗膜が形成される。なお、製品である隔膜90の厚さは、支持体92に塗工される製膜溶液22の厚さで調整される。
【0072】
続いて、薬液槽6では、製膜溶液22が塗工された支持体92が、薬液23に浸漬される。薬液23(非溶媒)は水であってよい。ここで、支持体92に塗工された製膜溶液22の両面が実質的に同じ条件で水分に晒される。例えば、支持体92を、薬液23の水面に対し垂直となるように進入させることによって、支持体92に塗工された製膜溶液22の両面を実質的に同じ条件で水分に晒すことができる。製膜溶液22が水分に晒されると、高分子樹脂と溶媒の相分離が起こり、高分子樹脂が相分離した状態で凝固することにより、多孔質構造(即ち、多孔膜91)が形成される。
【0073】
なお、上記では、製膜溶液22に相分離を生じさせるために、製膜溶液22が塗工された支持体92を薬液23に浸漬しているが、この方法に代えて、支持体92に塗工された製膜溶液22を加湿空気(水分)と接触させるようにしてもよい。
【0074】
上記のように多孔膜91が形成された支持体92は、駆動ローラ8とニップローラ9の間に挟まれて厚さが均一に整えられるとともに余分な水分が除去され、さらに、スリッタ10で適切な大きさに切断されたのち、巻取ドラム12に巻き取られる。
【0075】
上記製造方法によれば、多孔膜91が支持体92に支持された状態で移動するため、多孔膜91が製造途中で破断したり伸びたりしにくい。これにより、製造装置1における支持体92の厳密な移動速度調整は不要であり、また、従来と比較して製造速度を高めることが可能である。更に、幅広の支持体92の原反ロールを用いれば、従来使用されている隔膜と比較して大規模な隔膜(例えば、一辺が2000mmの正方形)を製造することができる。
【0076】
[実施例]
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態を具体的に説明する。但し、本実施の形態はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例に係る隔膜試料の評価方法は以下の通りである。
【0077】
〔A.孔径評価〕
隔膜試料の孔径の評価は、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社、電界放出形走査型電子顕微鏡 JSF-7000F)を使用して行った。まず、サンプルを所定の大きさに切り出し、マグネトロンスパッタ装置(日本電子株式会社、オートファインコーターJEC-3000FC)でメタルコーティングを行った。次に、このサンプルをSEMの観察用試料台にセットして測定を開始した。この時、SEMによる観察が膜の垂直方向から行えるようにサンプルをセットした。測定が開始すると、測定画面内に、観察対象の多孔膜面に存在する孔が100個以上150個以下写るようにSEMの倍率を調節し、写った孔のそれぞれに対し、孔の最大長と最小長の平均長を相加平均で算出した。それぞれの平均長の相加平均Dを算出し、これを対象膜の平均孔径とした。この評価における孔とは周囲を途切れなく樹脂で囲まれたものとし、また測定画面内で孔の一部が見切れているものは孔と見なさないものとした。多孔膜91の断面Cについては、表面Aと表面Bの中間となるように、表面Aから厚さ方向に200μmの位置で表面Aに平行な方向に凍結割断を行い、表面と同様にその断面の観察を行った。
【0078】
〔B.性能評価〕
実施例及び比較例に係る隔膜試料の性能を、
図6に概略的に示される試験装置50で得られた、電解電圧、発生酸素中の水素濃度、及び、発生水素中の酸素濃度の測定結果に基づいて評価した。
図6に示すように、試験装置50は、電解セル30、電解液貯槽51、直流電源装置65、及びコンピュータ66等を備えている。電解液貯槽51では、電解液であるKOH水溶液が生成・貯蔵されている。電解液貯槽51から、配管55を通じて電解セル30の陽極室48へ電解液が供給される。また、電解液貯槽51から、配管58を通じて電解セル30の陰極室49へ電解液が供給される。コンピュータ66の制御により、直流電源装置65から電解セル30の電極へ所定の直流が流される。なお、図示しないが、電解セル30の陽極と陰極の間にかかる電圧を計測する電圧計と、酸素過電圧と水素過電圧を計測する過電圧計測装置が試験装置50に備えられており、これらの計測結果はコンピュータ66により解析される。電解セル30の陽極室48では水電解により酸素が生成し、配管61を通じて陽極室48からKOH水溶液と酸素が排出される。電解セル30の陰極室49では水電解により水素が生成し、配管62を通じて陰極室49からKOH水溶液と水素が排出される。排出された水素中の酸素濃度及び酸素中の水素濃度は、図示しないガスクロマトグラフ分析計(株式会社島津製作所 GC-14B)により計測される。
【0079】
電解液貯槽51から電解セル30へ供給される電解液(KOH水溶液)の濃度は25重量%、温度は80℃とした。本試験装置の電極として陽極31aには純ニッケルメッシュ、陰極32aには水素発生用活性陰極を使用した。電解セル30の電解面積は1dm
2とした。上記構成の試験装置50を用いて、電源装置65から電解セル30へ0.4A/cm
2のセル電流が流れるために必要な電解電圧、発生酸素中の水素濃度、発生水素中の酸素濃度、酸素過電圧、及び水素過電圧を計測した。電解試験で計測される電解電圧が定常的に上下変動するが、計測値の平均値を電解電圧の値とした。更に、電解電圧の標準偏差σを算出し、3σを電解電圧の振れ(電解電圧の上下変動)とした。
【0080】
〔実施例1〕
ポリスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、ユーデルP(登録商標))、ポリエチレンオキサイド 平均Mv100,000(シグマアルドリッジジャパン合同会社)、N−メチル−2−ピロリドン(東京化成工業株式会社)をそれぞれ用い、70℃の温度下で撹拌して、以下のような製膜溶液を得た。
ポリスルホン :17重量%
ポリエチレンオキサイド :5重量%
N−メチル−2−ピロリドン:78重量%
支持体であるPPS不織布(東レ株式会社、トルコンペーパー(登録商標))に総膜厚が300μm程度となるように製膜溶液を塗工した。塗工後直ちに、40℃の純水を溜めた薬液槽(凝固浴)に、支持体が水面に対し垂直となるように浸漬させ、有機高分子樹脂を相分離及び凝固させた。その後、純水で十分に洗浄することにより有機溶媒を除去して、実施例1に係る隔膜試料を得た。
【0081】
〔比較例1〕
支持体に製膜溶液を塗工した後、片面にフッ素樹脂シート(日東電工株式会社、NITOFLON(登録商標)No.900UL、幅300mm×厚さ0.1mm)を貼り付け、そのまま直ちに、40℃の純水を溜めた薬液槽に支持体が水面に対し垂直となるように浸漬させて有機高分子樹脂を相分離及び凝固させたことを除いて、実施例1と同様の方法で比較例1に係る隔膜試料を得た。つまり、比較例1では、支持体に塗工された製膜溶液が、一方の面からのみ水分に晒されるようにした。
【0082】
〔実施例2〕
ポリエーテルスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、ユーデルE(登録商標))、ポリエチレンオキサイド 平均Mv100,000(シグマアルドリッジジャパン合同会社)、N−メチル−2−ピロリドン(東京化成工業株式会社)をそれぞれ用い、70℃の温度下で撹拌して、以下のような製膜溶液を得た。
ポリスルホン :17重量%
ポリエチレンオキサイド :3重量%
N−メチル−2−ピロリドン:80重量%
支持体であるPPS不織布(東レ株式会社、トルコンペーパー(登録商標))に総膜厚が300μm程度となるように製膜溶液を塗工した。塗工後直ちに、40℃の純水を溜めた薬液槽(凝固浴)に、支持体が水面に対し垂直となるように浸漬させ、有機高分子樹脂を相分離及び凝固させた。その後、純水で十分に洗浄することにより有機溶媒を除去して、実施例1に係る隔膜試料を得た。
【0083】
〔比較例2〕
支持体に製膜溶液を塗工した後、片面にフッ素樹脂シート(日東電工株式会社、NITOFLON(登録商標)No.900UL、幅300mm×厚さ0.1mm)を貼り付け、そのまま直ちに、40℃の純水を溜めた薬液槽に支持体が水面に対し垂直となるように浸漬させて有機高分子樹脂を相分離及び凝固させたことを除いて、実施例1と同様の方法で比較例1に係る隔膜試料を得た。つまり、比較例1では、支持体に塗工された製膜溶液が、一方の面からのみ水分に晒されるようにした。
【0085】
表1では、実施例1に係る隔膜試料と比較例1に係る隔膜試料の孔径評価と性能評価の結果が示されている。実施例1に係る隔膜試料では、多孔膜の表面Aと表面Bの平均孔径は実質的に等しく、表面Aと表面Bの厚さ方向の間であってこれらの面に平行な断面の平均孔径は表面Aと表面Bの平均孔径よりも大きい。一方、比較例1に係る隔膜試料では、多孔膜の表面Bの平均孔径に対し表面Aの平均孔径は著しく大きい。
【0086】
水素中酸素濃度と酸素中水素濃度の計測結果から、実施例1に係る隔膜試料と、比較例1に係る隔膜試料とでは、ガスバリア性能には殆ど差異がないことがわかった。
【0087】
また、電解電圧の振れの計測結果から、実施例1に係る隔膜試料に対し、比較例1に係る隔膜試料では、電解電圧の振れが著しく大きいことがわかった。電解電圧の振れの発生要因は、電極で発生した気泡が隔膜の表面に付着して電通パスを塞ぐことであると考えられる。隔膜表面に付着する気泡の増減因子の1つとして、隔膜表面形状(粗さ)が挙げられる。そこで、電解試験における電解電圧の振れに基づいて、隔膜表面への気泡の付着しやすさを評価した。
【0088】
更に、電解電圧の計測結果において、実施例1に係る隔膜試料では、比較例1に係る隔膜試料よりも良好な結果が得られた。これにより、実施例1に係る隔膜試料では、比較例1に係る隔膜試料と比較して、隔膜表面に付着する気泡が低減されることにより、電解電圧の上昇が抑制されていると推察される。