【解決手段】抄紙機に使用されるシュープレスベルト1であって、樹脂層により構成され、かつフェルトから搾水された水を受容する排水溝223が形成されたフェルト側樹脂層22を有し、フェルト側樹脂層22が、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンを含む化合物を硬化させて形成されるシュープレスベルト1。
抄紙機に使用されるシュープレスベルトであって、樹脂層により構成され、かつフェルトから搾水された水を受容する排水溝が形成されたフェルト側樹脂層を有し、フェルト側樹脂層が、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンを含む化合物を硬化させて形成される、前記シュープレスベルト。
フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の、以下式(1)で表される機械的強度指数が、10(MPa・回/μm)以上である、請求項1または2に記載のシュープレスベルト。
機械的強度指数(MPa・回/μm)=A×B/C (1)
式中、各記号は、それぞれ、
A=引張強度(MPa)
B=引張伸度(%)
C=デマッチャ式クラック進展測度(μm/回)
である。
フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の、式(1)で表される機械的強度指数が、25(MPa・回/μm)以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシュープレスベルト。
フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の、式(1)で表される機械的強度指数が、50(MPa・回/μm)以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシュープレスベルト。
フェルト側樹脂層が、末端にイソシアネート基(−NCO)を有するプレポリマーと末端に活性水素基(−H)を有する硬化剤とが混合された化合物を硬化させて形成され、活性水素基(−H)とイソシアネート基(−NCO)との当量比(H/NCO)が、0.8以上1.0以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシュープレスベルト。
フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料のポリオールが、ポリカーボネートジオール、ポリテトラメチレングリコールから選択される、1種または2種以上の化合物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のシュープレスベルト。
フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の硬化剤が、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、4,4‘−メチレンビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)、1,4−シクロヘキサンジメタノールから選択される、1種または2種以上の化合物である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のシュープレスベルト。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明のシュープレスベルト及びシュープレスベルトの製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
まず、本発明のシュープレスベルトについて説明する。
図1は、本発明の好適な実施形態に係るシュープレスベルトの一例を示す機械横断方向断面図である。なお、図中、各部材は、説明の容易化のため適宜大きさが強調されており、実際の各部材の比率及び大きさが示されているものではない。ここで、上記機械横断方向については(Cross Machine Direction)、「CMD」ともいい、また、機械方向(Machine Direction)については、「MD」ともいう。
【0018】
図1に示すシュープレスベルト1は、抄紙機のプレスパートにおいて、フェルトと協働して湿紙を搬送し、湿紙から水分を搾水するために用いられるものである。シュープレスベルト1は、無端状の帯状体をなしている。即ち、シュープレスベルト1は環状のベルトである。そして、シュープレスベルト1は、通常、その周方向が抄紙機の機械方向(MD)に沿うようにして配置されるものである。
【0019】
図1に示すシュープレスベルト1は、補強繊維基材層21と、補強繊維基材層21の外表面側にある一方の主面に設けられたフェルト側樹脂層22と、補強繊維基材層21の内表面側にある他方の主面に設けられたシュー側樹脂層23とを有し、これらの層が積層されて形成されている。
【0020】
補強繊維基材211としては、特に限定されないが、例えば、経糸と緯糸とを織機等により製織した織物が一般的に使用される。また、製織せずに、経糸列と緯糸列の重ね合わせによる格子状素材を使用することもできる。
補強繊維基材211を構成する繊維の繊度は、特に限定されないが、例えば300〜10000dtex、好ましくは、500〜6000dtexとすることができる。
また、補強繊維基材211を構成する繊維の繊度は、その繊維を用いる部位によって異なっていてもよい。例えば、補強基材211の経糸と緯糸とでそれらの繊度が異なっていてもよい。
【0021】
補強繊維基材211の素材としては、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、脂肪族ポリアミド(ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612等)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、羊毛、綿、金属等を1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
フェルト側樹脂層(排水溝223、フェルトと接触するランド表面224を有する樹脂層)22の樹脂222に用いられるウレタン樹脂としては、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(以下「H6XDI」と表記)と、ポリオールとを反応させて得られる末端にイソシアネート基(−NCO)を有するウレタンプレポリマーと、活性水素基(−H)を有する硬化剤とを、硬化剤の活性水素基とウレタンプレポリマーのイソシアネート基との当量比(H/NCO)の値が、0.9以上1.0以下となる割合で混合された組成物を硬化されて得られるJIS−A硬度が90〜99度、好ましくは93〜98度のポリウレタンを用いる。
【0023】
ウレタンプレポリマー原料のイソシアネート化合物として、H6XDIは、イソシアネート化合物中55〜100モル%、好ましくは75モル%以上使用でき、H6XDI以外のイソシアネート化合物としては、p−フェニレン−ジイソシアネート(PPDI)、2,4−トリレン−ジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレン−ジイソシアネート(2,6−TDI)、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、1,5−ナフタレン−ジイソシアネート(NDI)が45モル%以下、好ましくは25モル%以下併用できる。
【0024】
ウレタンプレポリマー原料のポリオールとして、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリカプロラクトンジオール(PCL)、ポリエチレンアジペート(PEA)、トリメチロールプロパン(TMP)、ポリカーボネートジオール(PCD)から選択される、1種または2種以上の化合物を使用でき、好適には、ポリカーボネートジオール(PCD)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)から選択される、1種または2種以上の化合物を使用できる。
【0025】
硬化剤として、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ハイドロキノンビス−βヒドロキシルエチルエーテル、シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ブタントリオール、シクロヘキサントリオール、トリエタノールアミン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4’−ビス(2−クロロアニリン)、4,4‘−メチレンビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ビス(sec−ブチルアミノ)−ジフェニルメタン、N,N’−ジアルキルジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレン−ビス(2,3−ジクロロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、4,4’−メチレン−ビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、トリメチレン−ビス(4−アミノベンゾエート)およびフェニレンジアミン、から選択される、1種または2種以上の化合物を使用でき、好適には、1,4−ブタンジオール(BD)、トリメチロールプロパン(TMP)、グリセリン(Gly)、4,4‘−メチレンビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)(MCDEA)、1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)から選択される、1種または2種以上の化合物を使用できる。
【0026】
また、樹脂222に、酸化チタン、カオリン、クレー、タルク、珪藻土、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、シリカ、マイカなどの、無機充填剤を1種又は2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0027】
補強繊維基材層21は、補強繊維基材211と、樹脂212とによって構成されている。樹脂212は、補強繊維基材211中の繊維の間隔を埋めるように補強繊維基材層21中に存在している。即ち、樹脂212の一部は、補強繊維基材211に含浸しており、一方で、補強繊維基材211は、樹脂212中に埋設されている。なお、補強繊維基材層21中における樹脂212の組成及び種類は、補強繊維基材層21中の部位ごとに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
【0028】
補強繊維基材層21を構成する樹脂212の材料としては、ウレタン、エポキシ、アクリル等熱硬化性樹脂、又はポリアミド、ポリアリレート、ポリエステル等の熱可塑性樹脂を1種又は2種以上を組み合わせて使用することができ、好適にはウレタン樹脂を使用することができる。
【0029】
樹脂212に用いられるウレタン樹脂としては、特に限定されないが、例えば、芳香族或いは脂肪族ポリイソシアネート化合物とポリオールとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、活性水素基を有する硬化剤とともに硬化させて得られるウレタン樹脂とすることができる。また、水系ウレタン樹脂を使用することができる。この場合、架橋剤を水系ウレタン樹脂とともに併用して、水系ウレタン樹脂を架橋することも可能である。
【0030】
また、上述したフェルト側樹脂層22に用いることのできる樹脂材料を1種又は2種以上組み合わせて用いることもできる。補強繊維基材層21を構成する樹脂材料と、フェルト側樹脂層22を構成する樹脂材料とは、種類及び組成について、同一であっても異なるものであってもよい。
【0031】
また、補強繊維基材層21は、フェルト側樹脂層21と同様に、無機充填剤を1種又は2種以上含むものであってもよい。
なお、補強繊維基材層の21中における樹脂材料及び無機充填剤の組成及び種類は、補強繊維基材層21中の部位ごとに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
【0032】
シュー側樹脂層(シューと接触するシュー接触表面231を有する樹脂層)23は、補強繊維基材層21の一方の主面に設けられた、主として樹脂材料で構成される層である。
シュー側層23は、補強繊維基材層21に接合する主面とは反対側の主面において、シューと接触するためのシュー接触表面231を構成している。シュープレスベルト1は、使用時において、シューと接触するシュー接触表面231がシューにより加圧され、シューに対向するロールと協働して、湿紙、フェルト、シュープレスベルトを加圧することで、湿紙から水分を脱水している。
【0033】
シュー側樹脂層23を構成する樹脂材料としては、上述したような補強繊維基材層21に用いることのできる樹脂材料を1種又は2種以上組み合わせて用いることかできる。シュー側樹脂層23を構成する樹脂材料は、フェルト側樹脂層22又は補強繊維基材層21を構成する樹脂材料と、種類及び組成について、同一であっても異なるものであってもよい。
【0034】
特に、シュー側樹脂層23を構成する樹脂材料としては、機械特性、耐摩耗性、柔軟性の観点から、ウレタン樹脂が好ましい。
また、シュー側樹脂層23は、フェルト側樹脂層21と同様に無機充填剤を1種又は2種以上含むものであってもよい。
なお、シュー側樹脂層23中における樹脂材料及び無機充填剤の組成及び種類は、シュー側樹脂層23中の部位ごとに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
【0035】
上述したようなシュープレスベルト1の寸法は、特に限定されず、その用途に合わせて適宜設定することができる。
例えば、シュープレスベルト1の巾は、特に限定されないが、700〜13500mm、好ましくは2500〜12500mmとすることができる。
また例えば、シュープレスベルト1の長さ(周長)は、特に限定されないが150〜600cm、好ましくは、200〜500cmとすることができる。
【0036】
また、シュープレスベルト1の厚さは、特に限定されないが、例えば、1.5〜7.0mm、好ましくは2.0〜6.0mmとすることができる。
また、シュープレスベルト1は、部位ごとにそれぞれ厚さが異なっていてもよいし、同一であってもよい。
【0037】
図1に例示したシュープレスベルト1は、フェルト側層に排水溝を形成することで、湿紙からより多くの水分を脱水することができる。排水溝の形態としては特に限定されないが、通常一般的に、シュープレスベルトの機械方向に平行で連続的な複数の溝が形成される。例えば溝巾が、0.5〜2.0mm、溝深さが0.4〜2.0mm、溝本数が5〜20本/inchと設定することができる。また溝の断面形状は、矩形型、台形型、U字型、或いはランド部及び溝底部と溝壁の接する部位に丸みを持たせる等、適宜設定することができる。
また、これらの排水溝の形態は、溝の巾、深さ、本数、断面形状について、同一のものとしてもよいし、異なるものを組み合わせて形成してもよい。更にまた、これらの排水溝については、不連続として形成してもよいし、機械横断方向に平行な複数の溝として形成されてもよい。
このように排水溝を形成すると、溝壁と溝ランド部のフェルト接触表面224で構成される角部(ランドエッジ部)225が同時に形成されることになる。
【0038】
以上のようなシュープレスベルト1は、後述する本発明のシュープレスベルトの製造方法により製造可能である。
【0039】
以上、本実施形態に係るシュープレスベルト1は、機械的特性、特に耐クラック性や耐ランドエッジ欠損性向上させることができる。
【0040】
次に、本発明のシュープレスベルトの製造方法の好適な実施形態について説明する。
図2乃至
図5は、本発明のシュープレスベルトの製造方法の好適な実施形態を説明する概略図である。
【0041】
本発明の実施形態に係るシュープレスベルトの製造方法は、フェルトを介して湿紙を担持し、湿紙を搬送し、湿紙から水分を脱水するためのシュープレスベルトの製造方法であって、フェルト側樹脂層(フェルト側樹脂層の前駆体)、補強繊維基材層、シュー側樹脂層の樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、フェルト側樹脂層に排水溝を形成する溝形成工程と、を有する。
【0042】
まず、樹脂層形成工程においては、樹脂層を形成する。本工程においては、具体的には、環状かつ帯状の補強繊維基材211が樹脂材料中に埋設された補強繊維基材層21と、その両面に樹脂層としてのフェルト側樹脂層の前駆体22aとシュー側樹脂層23とが積層した積層体1aを形成する。
【0043】
このような積層体1aの形成はいかなる方法であってよいが、本実施形態においては、シュー側樹脂層23を形成し、シュー側樹脂層23の一方の表面に補強繊維基材211を配置し、補強繊維基材211に樹脂材料を塗布、含浸、貫通させ、補強繊維基材層21とシュー側樹脂層23とが一体化した積層体を形成し、次に補強繊維基材層21とシュー側樹脂層23の接着面に対向する補強繊維基材層21の表面に、フェルト側樹脂層の前駆体22aを形成する。
【0044】
具体的には、例えば、まず、
図2に示すように、シュー側樹脂層23は、離型剤を表面に塗布したマンドレル38に、マンドレル38を回転させながら樹脂材料をマンドレル表面に0.8〜3.5mmの厚みに形成されるように塗布し、該樹脂材料塗布層を40〜140℃に昇温し、0.5〜1時間かけて前硬化させて形成される。
【0045】
そして、その上から補強繊維基材を配置し(図示せず)、
図3に示すように該マンドレル38を回転させながら補強繊維基材層21を形成する樹脂材料を0.5〜2.0mm塗布し、補強繊維基材に含浸、貫通させると共に前記シュー側樹脂層23と接着させ、補強繊維基材層21とシュー側樹脂層23とが一体化された積層体が形成される。
【0046】
しかる後に、
図4に示すように該マンドレル38を回転させながらフェルト側樹脂層22を形成する樹脂材料を、前記補強繊維基材層21の表面に1.5〜4mmの厚みに形成されるように塗布、含浸させ、該樹脂材料塗布層を70〜140℃にて2〜20時間かけて加熱硬化させて、フェルト側樹脂層の前駆体22a及び半製品外周層表面221を有する積層体1aが形成される。
【0047】
なお、樹脂材料の塗布はいかなる方法で行うものであってもよいが、本実施形態においては、マンドレル38を回転しつつ注入成形用ノズル40から樹脂材料を吐出して、各層に樹脂材料を付与することにより行い、同時に付与された樹脂材料をコーターバー39を用いて各層に均一に塗布する。
また、加熱方法は特に限定されないが、例えば、遠赤外線ヒーター等による方法を用いることができる。
また、樹脂材料は、上述した無機充填剤との混合物として付与されるものであってもよい。また、各層の各部位を形成するための樹脂材料及び無機充填剤の種類及び組成は同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
【0048】
次に、溝形成工程においては、フェルト側樹脂層に排水溝を形成する。本工程においては、具体的には、積層体1aの外表面(フェルト接触表面221)に、排水溝223を形成する。
【0049】
このような排水溝223の形成はいかなる方法であってよいが、本実施形態においては、上記で得られた積層体1aの外表面をシュープレスベルト1の所望の厚みとなるように、研磨やバフ加工を施し(図示せず)、その後、例えば
図5に示すように、マンドレル38を回転させながら、複数枚の円盤状の回転刃が取り付けられた溝加工装置45をフェルト接触表面221に当接させ、排水溝223を形成し、シュープレスベルト1を完成させる。
【0050】
なお、排水溝223の形態としては特に限定されないが、通常一般的に、シュープレスベルトの機械方向に平行で連続的な複数の溝が形成される。例えば溝巾が、0.5〜2.0mm、溝深さが0.4〜2.0mm、溝本数が5〜20本/inchと設定することができる。また溝の断面形状は、矩形型、台形型、U字型、或いはランド部及び溝底部と溝壁の接する部位に丸みを持たせる等、適宜設定することができる。
また、これらの排水溝の形態は、溝の巾、深さ、本数、断面形状について、同一のものとしてもよいし、異なるものを組み合わせて形成してもよい。更にまた、これらの排水溝については、不連続として形成してもよいし、機械横断方向に平行な複数の溝として形成されてもよい。
【0051】
以上、本発明の実施形態に係るシュープレスベルトの製造方法として、フェルト側樹脂層、補強繊維基材層、シュー側樹脂層の樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、フェルト側樹脂層に排水溝を形成する溝形成工程と、を有する製造方法について説明した。
【0052】
また、上記実施形態におけるシュープレスベルトの製造方法は、マンドレル(1本のロール)製法として説明したが、別の実施形態として、2本の平行に配置されたロールに環状の補強繊維基材を掛け入れ、この補強繊維基材に樹脂を塗布、含浸、積層をし、シュー側樹脂層を形成してから、これを反転し、反転後の補強繊維基材層表面に、フェルト側樹脂層を形成、溝加工を施すことによってシュープレスベルトを製造することもできる(2本ロール製法)。また、各樹脂層の形成順序は任意とすることもできる。
【0053】
以上、本発明について好適な実施形態に基づき詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0055】
1.ポリウレタン試験片の製造
まず、シュープレスベルトを形成するポリウレタンの物性を評価するため、表1に記載されるウレタンプレポリマーと硬化剤から、参考例1〜10のポリウレタン試験片を製造した。
具体的には、各参考例1〜10において、ウレタンプレポリマーと硬化剤を混合し、室温の金型に注入し、140℃に加熱し、140℃で1時間かけて前硬化させたのち金型から外し、140℃で3時間かけて後硬化させ、ポリウレタンシートを得た。得られたシートより参考例1〜10の試験片(厚み1.5mm:引張強度測定用、厚み3.5mm:クラック進展測度測定用)を製作した。
【0056】
得られた試験片について、JIS−A硬度、引張強度(JIS K6251:ダンベル3号。引張測度500mm/分)、クラック進展測度を評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
なお、クラック進展測度は、
図6に示される、JIS−K−6260(2005年度)に定義されるデマチャ式屈曲試験に類似する試験機を用いて、20℃、相対湿度52%の雰囲気下、次の条件でクラック伸展性の試験を行った。
【0058】
試験片61のサイズは、巾25mm、長さ185mm(つかみ代片側20mm含む)、つかみ具62間の長さ150mm、厚さ3.5mm、試験片中央に、半径1.5mmの半円筒状の凹み61aをつけたものとした。往復運動は、つかみ具間最大距離100mm、最小距離35mm、運動距離65mm、往復速度360往復/分とした。試験片の半円筒状の凹みの中央部に巾方向に約2mmの長さの切り込みを入れた。左右のつかみ具は、往復方向に対してそれぞれ45°の角度を成すように設定した。この条件で屈曲を繰返し、所定のストローク回数(試験時間×往復速度)ごとに亀裂の長さを測定した。なお、亀裂の長さが初期の切り込み長さ測定値(約2mm)から15mmを超えた時点で試験を終了し、ストローク回数と亀裂長さの近似曲線から、亀裂長さが15mmの時のストローク回数を読取り、成長した亀裂長さ(亀裂長さ15mm−初期の切り込み長さ測定値)をその時のストローク回数で除した値をクラック進展測度(μm/回)とした。
【0059】
【表1】
【0060】
2.シュープレスベルトの製造
参考例1〜6の樹脂を用いて実施例1〜6、参考例7〜10の樹脂を用いて比較例1〜4のシュープレスベルトを以下の方法により製造した。
【0061】
(1)樹脂層形成工程
適宜駆動手段により回転可能な直径1500mmのマンドレルの表面に、マンドレルを回転させながら、樹脂材料を、マンドレルの回転軸に対して平行に移動可能な注入成形用ノズルによって1.4mm厚に塗布、硬化処理し、シュー側樹脂層を形成した(
図2)。その後マンドレルを回転させたまま室温で10分間放置し、マンドレルに付属している加熱装置によって140℃に加熱し、140℃で1時間かけて前硬化させた。
【0062】
次に、緯糸がポリエチレンテレフタレート繊維の5000dtexのマルチフィラメント糸の撚糸で、経糸がポリエチレンテレフタレート繊維の550dtexのマルチフィラメント糸で、経糸が緯糸で挟まれ、緯糸と経糸の交差部がウレタン系樹脂接着により接合されてなる格子状素材(経糸密度は1本/cm、緯糸密度は4本/cm)を、緯糸がマンドレルの軸方向に沿うように、シュー側樹脂層の外周表面に隙間なく一層配置した。そして、この格子状素材の外周に、ポリエチレンテレフタレート繊維の6700dtexのマルチフィラメント糸を螺旋状に30本/5cmピッチで巻きつけて糸巻層を形成し、これら格子状素材と糸巻層とで補強繊維基材を形成した。その後、補強繊維基材の隙間を塞ぐようにシュー側樹脂層の樹脂材料と同一の樹脂材料を塗布し、補強繊維基材層とシュー側樹脂層とが一体化された積層体を形成した(
図3)。
【0063】
次に、補強繊維基材層の上から、マンドレルを回転させながら、補強繊維基材層及びシュー側樹脂層の樹脂材料と同一の樹脂材料をマンドレルの回転軸に対して平行に移動可能な注入成形用ノズルによって約2.5mm厚に塗布、含浸し、硬化処理を行い、フェルト側樹脂層と補強繊維基材層とシュー側樹脂層とが一体化された積層体を形成した(
図4)。
硬化処理は、マンドレルを回転させたまま室温で40分間放置し、更にマンドレルに付属している加熱装置によって140℃に加熱し、140℃で3時間かけて加熱硬化させた。
その後、全厚が5.2mmとなるように、フェルト側樹脂層のフェルト接触表面を研磨し、積層体を得た。
なお、参考例9の樹脂では、硬度が低すぎ、シュープレスベルトとしての樹脂層を形成することができなかった。
【0064】
(2)溝形成工程
得られた積層体のフェルト側樹脂層のフェルト接触表面に、溝加工装置を当接させ、フェルト側樹脂層に、MD方向の排水溝(溝幅0.8mm、溝深さ0.8mm、ピッチ幅2.54mm)を多数形成してシュープレスベルトを得た(
図5)。
【0065】
以上の工程を経て、各実施例、比較例のシュープレスベルトを得た。得られたシュープレスベルトについて、耐クラック性評価、耐ランドエッジ欠損性評価を実施した。
【0066】
3.耐クラック性評価
耐クラック性評価は、
図7に示す屈曲疲労試験装置を用いて、20℃、相対湿度52%の雰囲気下、次の条件でクラック発生の試験を行った。試験片71のサイズは、巾60mm、つかみ具間長さ70mmとした。下部のつかみ具72aに円弧状の往復運動を与えることにより、上部つかみ具72bおよび試験片も円弧状に往復し、下部つかみ具の先端で試験片が屈曲され疲労されるようにした。円弧の中心から下部つかみ具の先端までの距離は168mm、下部つかみ具の移動距離は161mm、往復速度162往復/分とした。上部つかみ具の重さは400gとした。この条件で屈曲を繰返し、クラックが発生するまでの屈曲回数を測定した。なお、耐クラック性評価については、以下の通りである。
「◎」:屈曲回数100万回以上でもクラック発生せず。
「○」:屈曲回数80万回以上でクラック発生。
「△」:屈曲回数50万回以上でクラック発生。
「×」:屈曲回数20万回未満でクラック発生。
各実施例、各比較例の耐クラック性評価の試験結果について表2に示す。
【0067】
4.耐ランドエッジ欠損性評価
耐ランドエッジ欠損性評価は、
図8に示すシュー型疲労試験装置を用いて、20℃、相対湿度52%の雰囲気下、次の条件でランドエッジ欠損発生の試験を行った。試験片81のサイズは、巾90mm、つかみ具間長さ40mmとした。左右のつかみ具82について水平方向に往復運動させ、かつ左右のつかみ具82が左から右に移動するときのみ、シュー83をピストン84によって加圧し、試験片81にシュー84とロール85とで70kg/cm
2の圧力を加えた。左右のつかみ具の移動距離は170mm、往復速度57往復/分とし、50万回往復させた。なお試験中、潤滑油供給口86から潤滑油を供給した。この条件で左右のつかみ具の往復を繰返し、ランドエッジ欠損が発生状況について測定した。なお、耐ランドエッジ欠損性評価については、以下の通りである。
「◎」:ランドエッジ欠損の発生なし。
「○」:ランドエッジ欠損の発生はないが、こすれきずあり。
「×」:ランドエッジ欠損の発生あり。
各実施例、各比較例の耐ランドエッジ欠損性評価の試験結果について表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示すように、実施例1〜6に係るシュープレスベルトは、耐クラック性、耐ランドエッジ欠損性が向上したことがわかる。
また、耐クラック性、耐ランドエッジ欠損性は、表1に示した機械的強度指数と関係が深く、機械的強度指数が、10以上が好ましく、25以上がより好ましく、50以上が更に好ましいことがわかる。
抄紙機に使用されるシュープレスベルトであって、樹脂層により構成され、かつフェルトから搾水された水を受容する排水溝が形成されたフェルト側樹脂層を有し、フェルト側樹脂層が、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンおよびポリカーボネートジオールを含む化合物を硬化させて形成される、前記シュープレスベルト。
フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の、以下式(1)で表される機械的強度指数が、10(MPa・回/μm)以上である、請求項1または2に記載のシュープレスベルト。
機械的強度指数(MPa・回/μm)=A×B/C (1)
式中、各記号は、それぞれ、
A=引張強度(MPa)
B=引張伸度(%)
C=デマッチャ式クラック進展速度(μm/回)
である。
フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の、式(1)で表される機械的強度指数が、25(MPa・回/μm)以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシュープレスベルト。
フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の、式(1)で表される機械的強度指数が、50(MPa・回/μm)以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシュープレスベルト。
フェルト側樹脂層が、末端にイソシアネート基(−NCO)を有するプレポリマーと末端に活性水素基(−H)を有する硬化剤とが混合された化合物を硬化させて形成され、活性水素基(−H)とイソシアネート基(−NCO)との当量比(H/NCO)が、0.8以上1.0以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシュープレスベルト。
[3]フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の、以下式(1)で表される機械的強度指数が、10(MPa・回/μm)以上である、[1]または[2]に記載のシュープレスベルト。
[4]フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の、式(1)で表される機械的強度指数が、25(MPa・回/μm)以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載のシュープレスベルト。
[5]フェルト側樹脂層を構成する樹脂材料の、式(1)で表される機械的強度指数が、50(MPa・回/μm)以上である、[1]〜[4]のいずれかに記載のシュープレスベルト。
まず、シュープレスベルトを形成するポリウレタンの物性を評価するため、表1に記載されるウレタンプレポリマーと硬化剤から、参考例1〜10のポリウレタン試験片を製造した。
具体的には、各参考例1〜10において、ウレタンプレポリマーと硬化剤を混合し、室温の金型に注入し、140℃に加熱し、140℃で1時間かけて前硬化させたのち金型から外し、140℃で3時間かけて後硬化させ、ポリウレタンシートを得た。得られたシートより参考例1〜10の試験片(厚み1.5mm:引張強度測定用、厚み3.5mm:クラック進展
に示される、JIS−K−6260(2005年度)に定義されるデマチャ式屈曲試験に類似する試験機を用いて、20℃、相対湿度52%の雰囲気下、次の条件でクラック伸展性の試験を行った。
試験片61のサイズは、巾25mm、長さ185mm(つかみ代片側20mm含む)、つかみ具62間の長さ150mm、厚さ3.5mm、試験片中央に、半径1.5mmの半円筒状の凹み61aをつけたものとした。往復運動は、つかみ具間最大距離100mm、最小距離35mm、運動距離65mm、往復速度360往復/分とした。試験片の半円筒状の凹みの中央部に巾方向に約2mmの長さの切り込みを入れた。左右のつかみ具は、往復方向に対してそれぞれ45°の角度を成すように設定した。この条件で屈曲を繰返し、所定のストローク回数(試験時間×往復速度)ごとに亀裂の長さを測定した。なお、亀裂の長さが初期の切り込み長さ測定値(約2mm)から15mmを超えた時点で試験を終了し、ストローク回数と亀裂長さの近似曲線から、亀裂長さが15mmの時のストローク回数を読取り、成長した亀裂長さ(亀裂長さ15mm−初期の切り込み長さ測定値)をその時のストローク回数で除した値をクラック進展