(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-24920(P2017-24920A)
(43)【公開日】2017年2月2日
(54)【発明の名称】SiC単結晶成長炉用誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20170113BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20170113BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-141790(P2015-141790)
(22)【出願日】2015年7月16日
(71)【出願人】
【識別番号】599098747
【氏名又は名称】竹内電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長船 忠義
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓
(72)【発明者】
【氏名】竹内 浩
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BE08
4G077DA02
4G077DA18
4G077EG18
4G077HA06
4G077HA12
4G077SA01
4G077SA04
4G077SA11
(57)【要約】
【課題】より大きいSiC単結晶バルクを製作する時、装置や電力が大きくなり単結晶成長炉内で不純物の発生等結晶成長に悪影響を及ぼすグロー放電が発生する。グロー放電防止に、より役立つSiC単結晶成長炉用誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】従来装置において整合トランス(2)の二次巻線に接続している接地線(5)を除去し、誘導加熱コイル(4)の中点又はその近傍に接地線(5)を設ける。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶成長炉に用いられる誘導加熱装置に関して、誘導加熱コイル(4)の巻線の中点、又はその近辺に接地線(5)を設けたことを特徴とするSiC単結晶成長炉用誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はSiC単結晶成長炉に用いられる誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Si基板の代わりにSiC基板を用いて半導体素子を製作すれば、半導体素子の性能が大幅に向上することが知られている。SiC基板を用いた半導体素子製作の実用化と相俟ってより大型のSiC単結晶成長炉が開発、実用化される趨勢にある。
【0003】
従来、例えば特許文献1において、黒鉛製の坩堝の外周に配置させた加熱ヒータによって坩堝内にSiC単結晶を成長させるSiC単結晶製造装置が提案されている。この製造装置では、SiC単結晶からなる種結晶を用いて、昇華再結晶法によりSiC単結晶を製造する方法である。一般に、黒鉛坩堝内にSiC単結晶である種結晶基板および原料粉末を配置し、黒鉛坩堝を加熱することで、原料と結晶の温度差を利用して、SiC単結晶の成長が行われている。
図1を用いて一般的なSiC単結晶成長方法を説明する。
【0004】
SiC単結晶成長炉用誘導加熱装置の概念図を
図1に示す。石英管(9)とフランジ(6)より成り立つ排気室内に黒鉛坩堝(11)、断熱材(10)等が配置される。排気室は排気系(12)に接続される。排気室はガス圧制御弁(12)により所望のアルゴン気体圧に設定できる機能を持つ。石英管外に取り付けられた誘導加熱コイル(4)で黒鉛坩堝(11)を加熱し、昇温させる。
【0005】
まず排気室内を高真空に排気する。次にガス圧制御弁(7)にてアルゴン気体を排気室に入れ排気室内を数10kPaにする。数10kPaの状態で黒鉛坩堝(11)を誘導加熱し、所定温度(2000数百℃)に昇温させる。黒鉛坩堝を所定温度に保持するよう高周波誘導加熱電力を調整する。黒鉛坩堝が所定温度で安定になれば、排気室内のアルゴン気圧を徐々に下げて所定気圧(数100〜数kPa)にし、SiC単結晶成長を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-108915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のSiC単結晶成長炉用誘導加熱装置には、次のような欠点があった。
【0008】
より大型のSiC単結晶バルク製作のためには黒鉛坩堝(11)の大型化、それに伴って誘導加熱コイル(4)の大型化、誘導加熱供給電力の増大が必然である。
要求される寸法のSiC単結晶バルク製作に必要な黒鉛坩堝(11)の設計、それを誘導するためのN巻きの誘導加熱コイルを設計し、誘導加熱電力周波数f(Hz)で誘導加熱電力P(W)で加熱するとき、誘導加熱コイル印加電圧e(t)は次の近似式で記述される。
【0009】
【数1】
【0010】
従来用いられてきた誘導加熱コイル(4)の電力周波数は数kHz〜30kHz程度である。
【0011】
誘導加熱コイルに流れる電流に対応して黒鉛坩堝に誘導電流が流れ、この電流が坩堝を加熱する。この現象は変圧器の原理により説明される。加熱コイルの巻線を変圧器の一次巻線、黒鉛坩堝の円筒を変圧器の二次巻線と考えて解析される。一次巻線、二次巻線間の結合因数は誘導加熱コイル及び黒鉛坩堝の形状、即ち各々の半径や軸方向の長さに大きく支配される。通常SiC単結晶成長炉において黒鉛坩堝に発生する電圧は誘導加熱コイル電圧の10分の1から数分の1程度である。
【0012】
数kHz〜数10kHzの高周波電圧によって生じるグロー放電は直流放電現象と同じ放電機構と考えられている。真空内で生じるグロー放電について、その放電開始電圧Vsはパッシェンの法則が適用される。典型的なパッシェン曲線の一例を
図2に示す。パッシェン曲線による放電開始電圧はVs=F(Pd)と記述され、VsはPdのある値で最小を示す。V
s(min)は排気室内の気体の種類、気体の圧力P、電極の材質、電極の形状、電極の距離d等に依存する。パッシェン曲線の最小放電開始電圧は通常100〜300V程度である。よって真空室内において電極形成箇所での電圧が最小放電開始電圧以下であれば真空室内での気体圧力が零から大気圧に至るまで放電が発生しないことを示唆している。
【0013】
図1に示されたSiC単結晶成長炉内では装置の大型化に対してグロー放電を発生させるという欠点があった。グロー放電の発生は不純物ガスの発生等結晶成長に悪影響を及ぼすので防止されなければならない。本発明は前記のような欠点を改善するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従来製作されたSiC単結晶成長炉誘導加熱装置の概念
図1においては、整合トランス(2)の二次巻線出力端子(b)点で接地される。整合トランス(2)二次巻線出力電圧e
0(t)により電流i(t)が流れる場合を考える。その時、誘導加熱コイルの印加電圧e(t)を次式で表す。
【0015】
【数2】
【0016】
誘導加熱コイル(c)点、(d)点(但d点はコイルの中点)、(e)点の電圧は接地電位に対して各々次式で表される。
【0017】
【数3】
【0018】
黒鉛坩堝(11)は断熱材(10)で包まれ、断熱材(10)は絶縁材(例えば石英管等)で支えられ下側のフランジ(6)に固定される。通常上、下のフランジ(6)は接地電位である。黒鉛坩堝は大地に対しては前述の絶縁物、断熱材(10)を介して支えられている。電気的には黒鉛坩堝(11)は大地に対してフローティングの状態であると表現される。
【0019】
誘導加熱コイル(4)に高周波電圧が印加されると、黒鉛坩堝(11)に電圧が誘起される。これにより黒鉛坩堝(11)に誘導加熱コイル(4)の印加電圧の1/kの逆向きの電圧を誘導する。黒鉛坩堝(11)に発生する交流電圧e
x(t)は次式で書かれる。
【0020】
【数4】
【0021】
k:誘導加熱コイル(4)、黒鉛坩堝(11)の形状等により決まる定数、通常5<k<15が期待される
【0022】
黒鉛坩堝(11)と大地電位であるフランジ(6)間の放電を考える。
図1において黒鉛坩堝(11)(f)点、(g)点、(h)点の大地を基準にした電圧表示をする為には黒鉛坩堝上に基準電位を設けなければならない。
図1において誘導加熱コイル(4)と黒鉛坩堝(11)の配置上、(h)点を仮想接地電位と見做すのが妥当である。ワークコイルの巻き線と断熱材と坩堝は局部的に静電容量で結合していると考えられる。
【0023】
(h)点を仮想接地電圧と考えて黒鉛坩堝(f)点、(g)点、(h)点の電圧は接地電位に対して各々次式で表せられる。
【0024】
【数5】
【0025】
図1においてアルゴン気体雰囲気中で黒鉛坩堝(11)、フランジ(6)等を電極と考える構造で決定されるパッシェン曲線の放電開始電圧の最小値をV
s(min)とする。
(f)点でE/k<V
s(min)即ちE<kV
s(min)を満足すれば、即ち誘導加熱コイルの印加電圧e(t)=Esinωt<kV
s(min)sinωtを満足すれば高真空から大気圧に至るまで放電は発生しない。
【発明の効果】
【0026】
SiC単結晶成長炉用誘導加熱装置において誘導加熱コイルの中点近傍に接地線を接続することにより従来整合トランス二次巻線接地に比べて誘導加熱コイル印加電圧を約2倍程度まで許容できる。これはSiC単結晶成長炉用誘導加熱装置の大径化に対応できる技術である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】従来のSiC単結晶成長炉用誘導加熱装置を示す概念図である。
【
図3】本発明のSiC単結晶成長炉用誘導加熱装置を示す概念図である。
【
図4】本発明における整合コンデンサーを分割して配置した場合の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1において整合トランス(2)の二次巻線に接続した接地線(5)を除去し、
図3に示した如く誘導加熱コイル(4)の巻線の中心近辺に接地線(5)を接続する。この接地線(5)は高温に加熱された炉の近辺であるから熱輻射を浴びる。耐温性のある線材又は冷却水パイプのようなものでしっかりとした接地線とすることが好ましい。
【0029】
本発明のSiC単結晶成長炉用誘導加熱装置の概念図を
図3に示す。接地線(5)を誘導加熱コイル(4)の中点(d)点に接続する。
図3においては誘導加熱コイル(4)と黒鉛坩堝(11)の配置上、(g)点を仮想接地電位と見做すのが妥当である。ワークコイルの巻き線と断熱材と坩堝は局部的に静電容量で結合していると考えられる。(g)点を仮想接地電位と考えて、黒鉛坩堝(f)点、(g)点、(h)点の電圧は接地電位に対して各々次式で表わされる。
【0031】
パッシェン曲線の最小値をV
s(min)とすれば(f)点、(g)点でE/2k<V
s(min)即ちE/2k<kV
s(min)を満足すれば、即ち誘導加熱コイル電圧e(t)=Esinωt<2kV
s(min)を満足すれば高真空から大気圧に至るまで放電は発生しない結果を得る。
【実施例1】
【0032】
実際に
図1または
図3の構成の高周波誘導加熱装置を用いて加熱実験を行った結果について説明する。まず、排気室内をAr雰囲気中の5kPaの圧力で保持し、高周波周波数25kHzの40kW程度の供給電力で黒鉛坩堝(11)が2500℃となるように加熱を行った。
【0033】
図3の構成を用いた場合は放電が発生することなく、黒鉛坩堝(11)を安定して2500℃に保持することができたが、
図1の構成を用いた場合は放電の発生が著しく、黒鉛坩堝(11)の温度を安定して2500℃に保持することができなかった。
【実施例2】
【0034】
また、
図4に示すように、
図3に示したコンデンサー(3a)を分割して直列に配置することによって、整合トランス(2)の二次側への耐圧を低減することが可能である。
【0035】
図4の構成の高周波誘導加熱装置を用いて前記実施例1と同様の実験を行った場合も、放電が発生することなく、黒鉛坩堝(11)を安定して2500℃に保持することができた。
【0036】
本発明は従来のSiC単結晶成長炉誘導装置において整合トランス二次巻線に設ける接地線を誘導加熱コイルの中心近辺に設けることとした所に特徴がある。
【産業上の利用可能性】
【0037】
なお、本発明にかかる結晶成長炉に用いられる誘導加熱方法及び装置は、他の結晶成長、例えば窒化アルミニウム、窒化ガリウム等のワイドバンドギャップ半導体材料の結晶成長方法にも適用可能である。