(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-25271(P2017-25271A)
(43)【公開日】2017年2月2日
(54)【発明の名称】農業環境改良資材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/50 20060101AFI20170113BHJP
C05G 5/00 20060101ALI20170113BHJP
C02F 11/10 20060101ALI20170113BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20170113BHJP
C07G 99/00 20090101ALI20170113BHJP
C05F 3/00 20060101ALI20170113BHJP
【FI】
C09K17/50 H
C05G5/00 A
C02F11/10 Z
B09B3/00 A
C07G99/00 C
C05F3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】書面
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-152816(P2015-152816)
(22)【出願日】2015年7月15日
(71)【出願人】
【識別番号】515207215
【氏名又は名称】株式会社グリーンテック
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩一
(72)【発明者】
【氏名】三田村 勝雄
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
4H026
4H055
4H061
【Fターム(参考)】
4D004AA01
4D004AA02
4D004AA12
4D004BA04
4D004CA19
4D004CA50
4D004CC07
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4D059AA30
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4D059EB06
4D059EB20
4H026AA01
4H026AA08
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4H026AB04
4H055AA01
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4H055AB01
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4H061AA02
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4H061CC31
4H061CC35
4H061DD14
4H061EE43
4H061EE64
4H061EE66
4H061GG48
4H061HH11
(57)【要約】
【課題】 本発明の解決課題は、循環型の農業生産を実現するために農業環境を健全に維持することは,作物の安心安全安定生産にとって極めて重要であるが、化学肥料と農薬の過度の利用により微生物が係っている物質循環のバランスが崩れかけている。農業環境を壊す害虫や植物病害菌に対する拮抗微生物担体が提案されているが、農業環境を健全に維持できるシステムになっていない。
【解決手段】 拮抗作用・自己防御作用とミネラル成分の定常補給作用と土壌改良作用と発酵作用を高効率的に発揮させるため、製紙スラッジに由来する炭素質ファイバーに強化された肥料ミネラル鉱物粒子の炭化処理物である支持体上に放線菌と糸状真菌のいずれか一方又は両方の拮抗微生物およびその培養材であるキチン系物質の粉とを担持した農業環境改良資材を提案する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土着微生物が増殖した培養材を炭化処理物である支持体に担持していることを特徴とする農業環境改良資材。
【請求項2】
土着微生物が拮抗微生物である放線菌と糸状真菌であり、培養材がキチン系物質の粉と腐植土であることを特徴とする請求項1に記載の農業環境改良資材。
【請求項3】
土着微生物が、キチン系物質の粉としてカニ殻やエビ殻やキトサンの中から1種以上から構成される培養材を分解し増殖する際にキチナーゼまたはグルカナーゼを生成し、増殖することを特徴とする請求項2に記載の農業環境改良資材。
【請求項4】
請求項2に記載のキチン系物質の粉の内、20μmから1mmサイズの粉を支持体に担持させ、土着微生物が当該キチン系物質の粉を分解しながら増殖するときに生成されるキチナーゼまたはグルカナーゼが存在していることを特徴とする農業環境改良資材。
【請求項5】
北海道天塩郡の遠別町と天塩町に生息する請求項1に記載の土着微生物であり、当該地域に分布する請求項1に記載の腐植土であることを特徴とする農業環境改良資材。
【請求項6】
請求項1に記載の支持体は、セルロース繊維および平均粒子径が0.1〜10μmの填料であるカルサイトとカオリンとタルクとチタニアの1種以上の粉末及び鉄系無機凝集剤を含む製紙スラッジと肥料ミネラル鉱物粉末から構成される配合物の600℃〜950℃の炭化処理物であり、その直径が2mmから4mm、長さが10mm以下のペレットであることを特徴とする農業環境改良資材。
【請求項7】
請求項6に記載の肥料ミネラル鉱物粉末の平均粒子径が75〜250μmで、石英、長石、斜長石、方解石、絹雲母、黄鉄鉱、チタン石、磁鉄鉱、硫磁鉄鉱、石墨、緑泥石、イライト、クロライト、石膏、ドロマイトの中から2種以上から構成され、支持体が当該肥料ミネラル鉱物と製紙スラッジの配合物の600℃〜950℃の炭化処理物であることを特徴とする農業環境改良資材。
【請求項8】
請求項6に記載の肥料ミネラル鉱物粉末が秩父系古生層小佛統を含む山梨県東北部周辺で産出する石墨片石・緑色片石・石墨千枚岩から構成され、支持体が当該肥料ミネラル鉱物と製紙スラッジの配合物の600℃〜950℃の炭化処理物であることを特徴とする農業環境改良資材。
【請求項9】
請求項6から請求項8に記載の炭化処理物の中に直径が1μmから30μm、長さが10mm以下、含有量が10重量%以上から30重量%以下の製紙スラッジ由来の炭素質ファイバーによって絡まった構造体を形成し、その合間に平均粒子径0.1〜10μmの填料由来の粒子が仮焼結状態で存在し、炭化処理物の気孔率が50〜86%であることを特徴とする農業環境改良資材。
【請求項10】
請求項9に記載の炭化処理物の中の炭素質ファイバーが炭化処理後に酸化処理を施すことにより親水性であることを特徴とする農業環境改良資材。
【請求項11】
請求項6に記載の炭化処理物10gと水90gの混合液のpHが6以上から8以下であることを特徴とする農業環境改良資材。
【請求項12】
請求項1に記載の炭化処理物に20μmから1mmサイズのキチン系物質の粉を担持させる第1工程後、当該炭化処理物と放線菌と糸状真菌のいずれか一方又は両方の土着微生物である拮抗微生物の担持した農業環境改良資材と培養材として10mm未満に粉砕したカニ殻やエビ殻やキトサンの中から1種以上のキチン系物質の粉と腐植土から成る混合物を作製する第2工程後、水分含量を20〜70重量%に調製し、発酵温度を40℃以上で拮抗微生物を増殖させる第3工程後、水分含有量を10%以下に乾燥する第4工程を特徴とする農業環境改良資材の製造方法。
【請求項13】
請求項12において、土着微生物は北海道天塩郡の遠別町と天塩町に生息する拮抗微生物であり、炭化処理物はセルロース繊維及び填料であるカルサイトとカオリンとタルクとチタニアの1種以上及び鉄系無機凝集剤を含む製紙スラッジと秩父系古生層小佛統を含む山梨県東北部周辺で産出する石墨片石・緑色片石・石墨千枚岩からなる肥料ミネラル鉱物との配合物の炭化処理物であり、培養材の腐植土は北海道天塩郡の遠別町と天塩町に分布する腐植土であることを特徴とする農業環境改良資材の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の農業環境改良資材に対して、水分含量を5〜20倍に調製し、1〜24時間静置後、抽出液は液体肥料とし、抽出済み沈殿物は土壌改良資材もしくは請求項12の農業環境改良資材の製造に再利用されることを特徴とする農業環境改良資材の製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の農業環境改良資材を1〜20重量%、牛糞や馬糞や豚糞や鶏糞の家畜糞を20〜70重量%、稲わらや麦わらや製紙かすやおがくずの乾燥有機物を1〜40重量%、水分含有量を20〜70重量%に調製し、40℃以上の発酵させることによりC/N比の炭素率が20から40に堆肥化させることを特徴とする農業環境改良資材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙スラッジに由来する炭素質ファイバーと肥料ミネラル微粒子の多孔質構造体であり、キチン質物質の粉の上で増殖した拮抗微生物を担持させることにより、拮抗作用・ミネラル成分の定常補給作用・堆肥の発酵作用を高効率的に発揮する農業環境改良資材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環型の農業生産を実現するために健全な農業環境を維持することは,作物の安心安全安定生産にとって極めて重要であるが、近年、化成肥料の投入によって農地の生産性は飛躍的に増大した反面、農産物の一元集荷、加工により作物の収穫物残渣が農地に還元されなくなり、農地における有機物の物質循環が閉塞し、その結果として、地力の減退が問題となっている。失われた地力を補うためには有機物を堆肥などのかたちで施用することが望ましいとされているが、堆肥の発生地である酪農地帯と堆肥が欲しい畑作地帯とが地理的に隔絶されたり、堆肥自体の取扱性の不都合により、流通およびコストの面から堆肥の移動が制限されてきた。
【0003】
農薬が土壌生態系を破壊し良い農地が減少している。その原因はここ数年の天候不順や酸性雨など地球規模の環境問題が盛んに論議されているが、案外見逃されているのが土壌環境の悪化である。人類が生活していく上で、不可欠な食糧を生み出してくれる土地は、化学肥料や農薬の大量使用によって土の中にすむ微生物の機能が少しずつ弱くなり自力で更正できないほど衰えている。
【0004】
従って、化学肥料と農薬の過度の利用により微生物が係っている物質循環のバランスが崩れかけているので、化学肥料と農薬に依存しない有機農業の取り組みの中で農業環境を壊す害虫や植物病害菌に対する拮抗微生物担体が提案されている。非特許文献1によれば、微生物担体とは、微生物がすみかとして利用できる構造物で、表面に微生物を保持することのできるキャリアーであり、微生物資材とも呼ばれる。土壌改良の場合、有用菌を直接土壌に投入しても、もともと土壌に生息している土着微生物が多いために、有用菌は機能する前に死滅してしまう。しかし、微生物担体に有用菌を保持した後に土壌に投入すると、効率的に機能を発揮することが知られ、菌類による病害などに対する拮抗微生物である乳酸菌などを担体に保持して利用する病害防除が報告されている。土壌に使用される微生物担体としては、ゼオライト、木炭、カニ殻などが知られている。ゼオライトには表面凹凸がなくかつ栄養物が無いため、微生物の定着が低い。木炭は栄養物がなくかつ撥水性のため微生物の定着が低い。カニ殻は微生物にとって栄養を取り込んで増殖できる担持体になるが、分解が進行して支持体を失ってしまう。
【0005】
特許文献1では、製紙スラッジを再資源化し、土壌改良資材及び融雪材として有効利用するため、絶乾重量で、可燃分が10〜20%、SiO
2が20〜35%、Al
2O
3が15〜20%、Fe
2O
3が5〜15%、Caが10〜20%及びMgOが5〜15%を含み、JISC2141による吸水率は、70〜150%であり、BET吸着法による比表面積は、60〜120m
2/gであり、JISK1474によるpHは8.0〜11.0を有する、連続気泡を有する多孔質粒状炭化焼成物及びその製造方法、並びに、容積空隙率が75%以上、空隙容積が1500mm
3/g以上を有し、平均空隙半径が20〜60μmであり、全空隙容積に占める1μm以上の空隙が70%以上である黒色の多孔質粒状炭化焼成物が提案されている。炭化処理後の炭素質ファイバーの表面が撥水性の為、これを土壌に鋤き込んでも分離してしまう課題があった。
【0006】
特許文献2では、耐熱性と保存性に優れた土壌菌である、バチルスコーアグランス或いはバチルスサーアクランスのいずれか一方又は両方の菌体を炭化物に担持させた土壌菌担持炭化物が提案され、これによって効果的な土壌改良効果と発酵処理効果を期待して、畜産・農業・漁業・食品系廃棄物リサイクル用及び工業用を含む環境浄化用微生物資材へ用途適用可能な土壌菌担持炭化物を目指している。実施例において、バチルスコーアグランス或いはバチルスサーアクランスのいずれか一方又は両方の菌体の培養では培地を使用した。そして37℃×2日間の振蕩培養を行い、芽胞形成を顕微鏡で確認して種菌とした。炭化処理を行った製紙スラッジの炭化物を土壌菌支持体として利用した。しかし、土壌菌のエサを伴っていないことと、炭化処理を行った製紙スラッジの炭化物は撥水性の傾向にあるため土壌菌の定着率を下げている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】野々山弥、東京工業大学学位論文、甲第8025号、森林土壌中の菌核における微生物相の解析と微生物担体としての有効性評価に関する研究
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−61141号公報、ペーパースラッジ炭化焼成物及びその製造方法
【特許文献2】特開2002−360244号公報、土壌菌担持炭化物及びその製造方法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
循環型の農業生産を実現するために健全な農業環境を維持することは,作物の安心安全安定生産にとって極めて重要であるが、化学肥料と農薬の過度の利用により微生物が係っている物質循環のバランスが崩れかけている。農業環境を壊す害虫や植物病害菌に対する拮抗微生物担体が提案されているが、健全な農業環境を維持できるシステムになっていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
拮抗作用・自己防御作用とミネラル成分の定常補給作用と土壌改良作用と発酵作用を高効率的に発揮させるため、製紙スラッジに由来する炭素質ファイバーに強化された肥料ミネラル鉱物粒子の炭化処理物である支持体上に放線菌と糸状真菌のいずれか一方又は両方の拮抗微生物およびその培養材であるキチン系物質の粉とを担持した農業環境改良資材を提案する。
【発明の効果】
【0011】
大気・土壌・微生物・植物・動物における農業環境を健全な状態に構築することによって、限られた資源である物質循環型の農業生産を実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】炭化処理物ペレット‐炭素質ファイバー強化農業環境改良資材(農業環境改良資材B)
【
図2】炭化処理温度による炭化処理物中の灰分、炭素分、揮発分の変化
【
図3】炭化処理前後のPSのX線回折プロファイル、△カルサイト、□タルク、◇カオリン
【
図4】左:炭化処理物の破断面のFE−SEM写真、右:同一視野におけるC元素のマッピング写真
【
図6】炭素質ファイバー強化農業環境改良資材Cの生産システム
【
図7】農業環境改良資材Bとキチン系物質の粉のカニ殻の混合物の培養・熟成、発酵時の温度変化
【
図8】左:炭化処理物上の微生物叢の分布FE−SEM写真、右:微生物の胞子嚢のFE−SEM写真
【
図9】左:炭化処理物上のキチン質粉の分布FE−SEM写真、右:微生物のFE−SEM写真
【
図10】左:FE−SEM写真、右:P元素のマッピングEDS写真
【
図11】農業環境改良資材Lと農業環境改良ペレットの生産システム
【
図12】葉面散布液である農業環境改良資材L中のイオン成分の含有量を分析
【発明を実施するための形態】
【0013】
請求項1では、土着微生物が増殖した培養材を炭化処理物である支持体に担持していることを特徴とする農業環境改良資材。請求項2では、土着微生物が拮抗微生物である放線菌と糸状真菌であり、培養材がキチン系物質の粉と腐植土であることを特徴とする請求項1に記載の農業環境改良資材。請求項3では、土着微生物が、キチン系物質の粉としてカニ殻やエビ殻やキトサンの中から1種以上から構成される培養材を分解し増殖する際にキチナーゼまたはグルカナーゼを生成し、増殖することを特徴とする請求項2に記載の農業環境改良資材。請求項4では、請求項2に記載のキチン系物質の粉の内、20μmから1mmサイズの粉を支持体に担持させ、土着微生物が当該キチン系物質の粉を分解しながら増殖するときに生成されるキチナーゼまたはグルカナーゼが存在していることを特徴とする農業環境改良資材。請求項5では、北海道天塩郡の遠別町と天塩町に生息する請求項1に記載の土着微生物であり、当該地域に分布する請求項1に記載の腐植土であることを特徴とする農業環境改良資材。
【0014】
請求項6では、請求項1に記載の支持体は、セルロース繊維および平均粒子径が0.1〜10μmの填料であるカルサイトとカオリンとタルクとチタニアの1種以上の粉末及び鉄系無機凝集剤を含む製紙スラッジと肥料ミネラル鉱物粉末から構成される配合物の600℃〜950℃の炭化処理物であり、その直径が2mmから4mm、長さが10mm以下のペレットであることを特徴とする農業環境改良資材。請求項7では、請求項6に記載の肥料ミネラル鉱物粉末の平均粒子径が75〜250μmで、石英、長石、斜長石、方解石、絹雲母、黄鉄鉱、チタン石、磁鉄鉱、硫磁鉄鉱、石墨、緑泥石、イライト、クロライト、石膏、ドロマイトの中から2種以上から構成され、支持体が当該肥料ミネラル鉱物と製紙スラッジの配合物の600℃〜950℃の炭化処理物であることを特徴とする農業環境改良資材。請求項8では、請求項6に記載の肥料ミネラル鉱物粉末が秩父系古生層小佛統を含む山梨県東北部周辺で産出する石墨片石・緑色片石・石墨千枚岩から構成され、支持体が当該肥料ミネラル鉱物と製紙スラッジの配合物の600℃〜950℃の炭化処理物であることを特徴とする農業環境改良資材。請求項9では、請求項6から請求項8に記載の炭化処理物の中に直径が1μmから30μm、長さが10mm以下、含有量が10重量%以上から30重量%以下の製紙スラッジ由来の炭素質ファイバーによって絡まった構造体を形成し、その合間に平均粒子径0.1〜10μmの填料由来の粒子が仮焼結状態で存在し、炭化処理物の気孔率が50〜86%であることを特徴とする農業環境改良資材。請求項10では、請求項9に記載の炭化処理物の中の炭素質ファイバーが炭化処理後に酸化処理を施すことにより親水性であることを特徴とする農業環境改良資材。請求項11では、請求項6に記載の炭化処理物10gと水90gの混合液のpHが6以上から8以下であることを特徴とする農業環境改良資材。
【0015】
請求項12では、請求項1に記載の炭化処理物に20μmから1mmサイズのキチン系物質の粉を担持させる第1工程後、当該炭化処理物と放線菌と糸状真菌のいずれか一方又は両方の土着微生物である拮抗微生物の担持した農業環境改良資材と培養材として10mm未満に粉砕したカニ殻やエビ殻やキトサンの中から1種以上のキチン系物質の粉と腐植土から成る混合物を作製する第2工程後、水分含量を20〜70重量%に調製し、発酵温度を40℃以上で拮抗微生物を増殖させる第3工程後、水分含有量を10%以下に乾燥する第4工程を特徴とする農業環境改良資材の製造方法。請求項13では、請求項12において、土着微生物は北海道天塩郡の遠別町と天塩町に生息する拮抗微生物であり、炭化処理物はセルロース繊維及び填料であるカルサイトとカオリンとタルクとチタニアの1種以上及び鉄系無機凝集剤を含む製紙スラッジと秩父系古生層小佛統を含む山梨県東北部周辺で産出する石墨片石・緑色片石・石墨千枚岩からなる肥料ミネラル鉱物との配合物の炭化処理物であり、培養材の腐植土は北海道天塩郡の遠別町と天塩町に分布する腐植土であることを特徴とする農業環境改良資材の製造方法。
【0016】
請求項14では、請求項1に記載の農業環境改良資材に対して、水分含量を5〜20倍に調製し、1〜24時間静置後、抽出液は液体肥料とし、抽出済み沈殿物は土壌改良資材もしくは請求項12の農業環境改良資材の製造に再利用されることを特徴とする農業環境改良資材の製造方法。請求項15では、請求項1に記載の農業環境改良資材を1〜20重量%、牛糞や馬糞や豚糞や鶏糞の家畜糞を20〜70重量%、稲わらや麦わらや製紙かすやおがくずの乾燥有機物を1〜40重量%、水分含有量を20〜70重量%に調製し、40℃以上の発酵させることによりC/N比の炭素率が20から40好ましくは25〜35に堆肥化させることを特徴とする農業環境改良資材の製造方法。
【0017】
以上の発明を実施するための形態のポイントは次のとおりである。土着微生物は北海道天塩郡の遠別町と天塩町に生息する土着微生物であり、拮抗微生物である放線菌と糸状真菌である。また、培養材はキチン系物質の粉と腐植土であり、さらに詳しくはキチン系物質の粉としてカニ殻やエビ殻やキトサンの中から1種以上から構成され、腐植土として北海道天塩郡の遠別町と天塩町地域に分布する腐植土である。土着微生物がキチン系物質の粉を分解しながら増殖するときにキチナーゼまたはグルカナーゼを生成する。土着微生物が分解酵素を出してカニ殻を栄養にして増殖した培養材を炭化処理物である支持体に担持させていることを特徴にしている。
【0018】
担持体である支持体は、古紙原料からトイレットペーパーを製造する際に発生する無機物と紙の短繊維である製紙スラッジは産業廃棄物であった。再資源化を図った製紙スラッジと肥料ミネラル鉱物粉末から構成される配合物の炭化処理物である。製紙スラッジ由来の炭素質ファイバーによって絡まった構造を形成し、その合間に平均粒子径0.1〜10μmの填料由来の微粒子が仮焼結の多孔質状態で存在した炭素質ファイバー強化の構造体であるので、約300gの粒子強度がある。これにより、農業作業中に全崩壊することなく担持体である支持体の役割を維持することが出来る。さらに、炭化処理後に親水性化処理を施すことにより、土着微生物と培養材を安定して担持させることが可能である。また、600℃〜950℃の炭化処理では、アルカリ土類金属のCaはカルサイトCaCO
3と存在しているため、pHが6以上から8以下の植物には有利な農業資材となっている。
【0019】
次に、土着微生物が分解酵素を出してカニ殻を栄養にして増殖した培養材を炭化処理物である支持体に担持させた農業環境改良材Cの効率良く生産する手順は次のとおりである。第1工程として、20μmから1mmサイズのキチン系物質の粉を炭化処理物に付着させる。第2工程として、農業環境改良材Bと土着微生物の種菌と培養材のカニ殻の必要な資材を調合する。第3工程として、水分含量を20〜70重量%に調製し、発酵温度を40℃以上でカニ殻を栄養にして拮抗微生物を増殖させる。第4工程として水分含有量を20%以下に乾燥させる。この生産フローチャートにより、炭化処理物の支持体の表面には拮抗微生物と拮抗微生物が生産した分解酵素やカニ殻の分解したCaやPやKなどのミネラル成分と未分解のカニ殻などが存在した農業環境改良材Cが生産される。
【0020】
次に、大気・土壌・微生物・植物・動物を取り巻く農業環境において、健全な物質循環が不可欠である。有用な肥料成分である窒素・リン・カリを含有している堆肥を発生する酪農地帯と堆肥が欲しい畑作地帯とを有機的に結び付けることが重要である。また、堆肥化の過程で家畜ふん尿に紛れ込んでいる大腸菌などの病原菌を取り除くことが必要である。土着微生物の拮抗微生物である放線菌と糸状真菌は堆肥の中温発酵に大きく係り、かつ病原菌の細胞壁を溶かす作用により、病原細菌・寄生虫卵・有害昆虫卵・雑草種子などが死滅または不活性化する。家畜ふん尿の堆肥化工程は次のとおりである。第1の工程において、拮抗微生物である放線菌と糸状真菌が増殖したカニ殻を担持した農業環境改良資材Cを1〜20重量%、牛糞や豚糞や鶏糞の家畜糞を20〜70重量%、稲わらや麦わらや製紙かすやおがくずの乾燥有機物を10〜40重量%、水分含有量を20〜70重量%に調製混合する。この時、農業環境改良資材Cが黒灰色であるので、ふんに対して均一な混合状態を確認できる。放線菌と糸状真菌も担持の支持体に守られて均一に混合することが出来る。第2の工程において、40℃以上の温度管理、水分調整、C/N比の炭素率の調整して中温発酵を実施する。第3の工程において、切り返し時、農業環境改良資材Lを均等に散布して放線菌と糸状真菌を補給する。
【産業上の利用可能性】
【0021】
土着微生物が増殖した培養材を炭化処理物である支持体に担持している微生物担体は、土着微生物と培養材の組合せを選択することにより、本発明の農業環境改良資材以外の産業分野に利用可能である。例えば、脱臭微生物を増殖できる培養材を選択すると持続性のある脱臭剤が考えられる。また、水処理分野やバイオマス分野も考えられる。
【実施例1】
【0023】
再生紙工場内で循環した用水中の製紙スラッジ(PS)を鉄系凝集剤で沈殿させ、脱水して得た水分量57%のPSを造粒して2〜5cmの円柱状に成形し、長さが2cm以下に切断した。ロータリーキルンで水分量10%まで乾燥した。PSは、セルロース繊維および平均粒子径が0.1〜10μmの填料であるカルサイトとカオリンとタルクとチタニアの粉末及び鉄系無機凝集剤を含む製紙スラッジから構成される配合物である。填料用途のカルサイト、カオリン、タルク、チタニアの粒子サイズは次のとおりである。カルサイトは石灰石を焼成した生石灰に炭酸ガスを反応させて作る軽質炭酸カルシウムでその平均粒子径が9〜15μm、カオリンの平均粒子径が1〜3μm、タルクは珪酸マグネシウム水化物(3MgO・4SiO
2・H
2O)が主成分の鉱物でその平均粒子径が9〜15μm、チタニアの平均粒子径が2μm以下。
【0024】
この乾燥したPS造粒物を連続式の外熱型ロータリーキルンで、炉内温度900℃で炭化焼成し、15分間滞留させた。焼成が完全に終了した時点で、炭化処理物の温度を下げて、その冷却途中に空気に接触させることにより黒灰色の炭化処理物を得た。この時の標準的な製造工程を
図1に示した。標準の炭化処理温度を決定するに当たり、この配合物を
図2の炭化処理温度で処理した炭化処理物中の灰分、炭素分、揮発分の変化を示した。処理温度の上昇に伴い揮発分が600℃まで10%以上あるが、それ以上の温度では揮発分が減少する。これより炭化処理温度は600℃〜950℃が好ましいと考えられる。走査型電子顕微鏡のEDS分析によるこの炭化処理物の化学分析結果は表1のとおりであった。カーボンは13%〜25%、SiO
2は7%〜24%、CaCO
3は33%〜61%、Al
2O
3は4%〜14%、MgOは1%〜3%、Fe
2O
3は4%〜11%、TiO
2は1%〜2%、その他は1%〜7%であった。
図3に900℃炭化処理前後のPSのX線回折プロファイルを示した。処理前後でプロファイルの若干の差が認められるが、填料由来のカルサイトとカオリンとタルクのピークが観察される。
【0025】
土壌改良材として使用される木炭を土壌に鋤き込んだとしても降雨により土壌から分離する問題がある。セロース繊維を炭化処理だけにすると炭素質のファイバーが撥水性のため同様な問題が発生する。さらに親水性の微生物やカニ殻などを担持させるときの障害となる。炭化処理物の中の炭素質ファイバーが炭化処理後に400℃から700℃で酸化処理を施すことにより炭素質ファイバーの表面を親水性にすることができる。
[
図1]炭化処理物ペレット‐炭素質ファイバー強化農業環境改良資材(農業環境改良資材B)
【0026】
【表1】
[
図2]炭化処理温度による炭化処理物中の灰分、炭素分、揮発分の変化
[
図3]炭化処理前後のPSのX線回折プロファイル、△カルサイト、□タルク、◇カオリン
【0027】
900℃の炭化処理物の破断面を走査型電子顕微鏡で観察したFE−SEM写真を
図4左に示した。そして、
図4右にC元素のマッピング写真を示した。これより製紙スラッジ由来の炭素質ファイバーは19体積%と評価される。また、タルク由来のMg元素のマッピング写真もCa元素と同様に粒子として全体に分布していた。
図5にさらに拡大した部分のFE−SEM写真を示した。粒子径0.1〜10μmの填料由来の粒子が多孔質の仮焼結状態で存在していることが判った。この分析結果によって、炭化処理物の中に直径が1μmから30μm、長さが10mm以下、含有量が10重量%以上から30重量%以下の製紙スラッジ由来の炭素質ファイバーによって絡まった構造体を形成し、その合間に平均粒子径0.1〜10μmの填料由来の粒子、特にカルサイトCaCO
3が仮焼結状態で存在していることが判った。言い換えると、平均粒子径0.1〜10μmの填料由来の鉱物粒子が仮焼結状体を炭素質ファイバーによって強化した構造体を形成しているので、農業作業中でも構造を維持できる程度の強度を持たせることが可能である。炭素質ファイバー強化農業環境改良資材は土着微生物が増殖した培養材を担持する炭化処理物である支持体ベースになるので、農業環境改良資材Bと表示する。
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図4]左:炭化処理物の破断面のFE−SEM写真、右:同一視野におけるC元素のマッピング写真
[
図5]炭化処理物中鉱物微粒子のFE−SEM写真
【実施例2】
【0028】
土着微生物が増殖した培養材を炭化処理物である支持体に担持し、土着微生物が拮抗微生物である放線菌と糸状真菌であり、培養材がキチン系物質の粉と腐植土であり、土着微生物が、キチン系物質の粉としてカニ殻やエビ殻やキトサンの中から1種以上から構成される培養材を分解し増殖する際にキチナーゼまたはグルカナーゼを生成し、増殖した農業環境改良資材を製造する標準のフローチャートを
図6に示した。
【0029】
第1の工程として、実施例1で製造した炭素質ファイバー強化農業環境改良資材である農業環境改良資材B100重量%に対して、20μmから1mmサイズ粉砕したカニ殻の粉0.1〜2重量%とを混合することによって、カニ殻の粉を農業環境改良資材Bに担持させた。この時、農業環境改良資材Bに親水性化処理を施さないと撥水性の表面状態の為に十分な担持が得られない。
【0030】
第2の工程として、第1の工程で製造したキチン系物質の粉付着農業環境改良資材B100重量%に対して、種菌として北海道天塩郡の遠別町に生息する拮抗微生物が担持した土着微生物の種菌担持体0.5〜5重量%と、培養材として10mm未満に粉砕したカニ殻の粉と水分含量20〜70重量%の混合物を作製した。
【0031】
第3の工程として、北海道天塩郡遠別町の三田村川流域にある農業環境改良資材の製造場で、第2の工程で製造した混合物を10日〜30日間の1次発酵後、切り返し後、10日〜30日間の2次発酵させた。発酵温度を40℃以上で拮抗微生物を培養・熟成・増殖させた。
図7に農業環境改良資材Bとキチン系物質の粉のカニ殻の混合物の培養・熟成、発酵時の温度変化を示した。発酵1と発酵2において、開始15日後に50℃を越えたので切り替えし後、更に15日間発酵した。発酵3では切り替えなしで25日間の発酵を行った。
【0032】
第4の工程として、第3の工程で製造した放線菌と糸状真菌である土着微生物が増殖したキチン系物質の粉の培養材が担持した農業環境改良資材の水分含有量を10%以下に乾燥させた。これにより増殖の進行を抑制する。微生物とカニ殻を担持した炭化処理物は微生物担持体(キャリア)の農業環境改良資材となるので、以後、農業環境改良資材Cとする。
【0033】
農業環境改良資材Cの表面を観察するため、金蒸着して表面導電性を付与後にFE−SEM観察した。
図8左において炭化処理物の表面に微生物叢の分布状態が認められる
図8右において微生物の胞子嚢が認められた。次に、金蒸着をしないで農業環境改良資材Cの表面をFE−SEM観察した。
図9左において導電性の炭素質ファイバー強化した炭化処理物の粒子と比べて電気的絶縁性の部分が電子のチャージアップにより白色に浮き出ている。この部分を拡大すると
図9右において微生物の胞子嚢が認められた。白色の領域以外の領域と比較して白色の領域では高い確率で微生物の存在を確認できた。次に、FE−SEMのEDS分析により、白色の領域の元素分析を実施した。定性分析からCaとPとClが検出された。
図10左のFE−SEM写真と同一視野のP元素マッピングを
図10右に示した。白色の領域ではCaとPとClが共存していることより、カニ殻と考えられる。因みにカニ殻の化学成分はキチンが24.8重量%、CaCO
3が70.3重量%、P
2O
5が2.6重量%、SrOが1.1重量%、Sが0.5重量%、K
2Oが0.3重量%、SiO
2が0.3重量%、Fe
2O
3が0.1重量%とされている。
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図6]炭素質ファイバー強化農業環境改良資材Cの生産システム
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図7]農業環境改良資材Bとキチン系物質の粉のカニ殻の混合物の培養・熟成、発酵時の温度変化
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図8]左:炭化処理物上の微生物叢の分布FE−SEM写真、右:微生物の胞子嚢のFE−SEM写真
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図9]左:炭化処理物上のキチン質粉の分布FE−SEM写真、右:微生物のFE−SEM写真
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図10]左:FE−SEM写真、右:P元素のマッピングEDS写真
【実施例3】
【0034】
20kgの農業環境改良資材Cと10kgのカニ殻を1000kgの水に混合後、7日間漬け込み静置した。固形物を分離して、微生物とカニ殻とミネラルを抽出した葉面散布液(リキッド)である農業環境改良資材Lの製造システムを
図11に示した。以後、農業環境改良資材Lと表記する。食物抽出液と同じように、噴霧機、スプレイヤーなどで農業環境改良資材Lを作物に散布する。この抽出・散布を2回繰り返し、2〜3週間で抽出作業を終了する。抽出した固形物については
図6の炭素質ファイバー強化農業環境改良資材Cの生産システムにより再生しても良いし、圃場に施用しても良い。また、葉面散布の別の方法もあり、
図11に限定されない。用水路から水を取り込む口と舗場の入口の通路に農業環境改良資材Cを設置しておくと、用水路からの水が農業環境改良資材Cを通過して舗場全体に微生物とカニ殻とミネラルが供給される。以上のように抽出液が散布された舗場では病害にかかることなく、安心安全の農業生産が出来ている。
【0035】
葉面散布液である農業環境改良資材L中のイオン成分の含有量を分析した。比較材として鹿児島県指宿市山川町の畑で採取した土壌粉、本発明の農業環境改良資材Bの粉、北海道空知郡で製造した農業環境改良資材Cの粉、北海道天塩郡で製造した農業環境改良資材Cの粉を選定し、それぞれの粉10gとイオン交換水90gに2日間漬け込み得られた抽出液をそれぞれ、抽出液1、抽出液2、抽出液3、抽出液4とした。ICP元素分析をし、CaとMgとKとNaとSとSiとFeとMnとCuとAlとBが検出された。
図12にそれぞれの抽出液に含有する総質量を示した。抽出液1の土壌と比較して、抽出液2は5倍のミネラルの抽出が起きている。カニ殻と微生物を担持した抽出液3と抽出液4は担持していない抽出液2と比較して、約10倍のミネラルの抽出が起きている。微生物がカニ殻を栄養にして増殖するときに分解したカニ殻の成分がミネラル分の抽出に大きく貢献していると考えられる。また、農業環境改良資材Bは10μm以下の鉱物微粒子の仮焼結体であるので、雨水に曝されたときにミネラル成分の定常補給作用が期待される。
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図11]農業環境改良資材Lと農業環境改良ペレットの生産システム
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図12]葉面散布液である農業環境改良資材L中のイオン成分の含有量を分析
【実施例4】
【0036】
秋頃に酪農家などにて固形状のふん尿を分離し(敷料を含む、尿は尿溜に貯留)、固形分を堆肥化施設に搬入する。搬入したふん尿100重量%に対して、水分が83重量%と固形分が17重量%であった。これに農業環境改良資材Cが5重量%、カニ殻が10重量%を加え、約4ヶ月間切り返し時に農業環境改良資材Lの葉面散布液を散布して発酵を促した。この間、水分含有量を20〜70重量%に調製し、40℃以上の発酵させることによりC/N比の炭素率が25から35の堆肥を製造した。そして、春に堆肥として有効活用した。
図13に農業環境改良資材Cと農業環境改良資材Lを利用した家畜ふん尿の堆肥化処理システムの標準フローチャートを示した。家畜ふん尿の堆肥化処理は、家畜の種類、家畜舎の構造・貯留施設、敷料の多い少ない等により、ふん尿の形状を、固形状(ソリッド、水分84%未満)、半固形状(セミソリッド、水分84%以上〜87%未満)、液状(スラリー、水分87%以上)に区分できるが、堆肥化の方法は区分に合わせた方法が選択される。
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図13]家畜ふん尿の堆肥化処理システム