【解決手段】移動燃料電池システム1は、燃料電池210のスタック200と、コントローラ160と、を有する。燃料電池は、実質的に純粋な水素の存在に対応する基準信号を、スタック内の単一の複数の燃料電池全体の局部水素値に対応する信号と比較することができるセンサから構成される水素欠乏検出デバイスを持つ。検出デバイスは、従来のような電池電圧監視を必要とすることなく、電池またはスタック内における水素欠乏状態の兆候を速やかに検出する。これにより、水素欠乏状態をユーザに警告するとともに、スタック動作修正のための警報信号をコントローラ160に発信する。
前記アノード流路および前記カソード流路のうちの少なくとも1つと選択的に流体協働する流体導入デバイスをさらに備え、前記コントローラが前記比較に応答して動作すると、前記流路の各々が前記流体導入デバイスから浄化流体および不活性化流体のうちの少なくとも1つを受け取る、請求項5に記載のシステム。
【背景技術】
【0002】
[0002]燃料電池は、化学反応を介して燃料を使用可能な電気に変換する。このようなエネルギー生成手段の重要な利点は、中間過程としての燃焼に頼ることなくエネルギーの生成が達成されることである。したがって燃料電池は、推進および関連する原動アプリケーションのための内燃機関(ICE)および関連する動力発生源に勝るいくつかの環境的利点を有している。陽子交換膜または重合体電解質膜(いずれの事象においてもPEM)燃料電池などの典型的な燃料電池では、一対の触媒化電極は、鉄透過性電解質層(Nafion(商標)など)によって分離され、これらの3つの層が合わさっていわゆる膜電極アセンブリ(MEA)を形成している。アノードおよびカソード上の典型的な触媒充填は、1平方センチメートルの支持表面積(多孔性炭素系マットなど)当たり約0.05mgから0.4mgの白金(Pt)である。電気化学反応は、ガス状還元剤(水素H
2など)の形態の第1の反応物がアノードに導入され、かつ、アノードでイオン化され、次に、イオン化した第1の反応物がイオン透過性媒体を通過して、既に他の電極(カソード)を介して導入されているガス状酸化剤(酸素O
2など)の形態の第2の反応物と結合すると生じ、反応物のこの結合は、副産物として水を形成する。第1の反応物のイオン化によって解放された電子は、直流(DC)の形態で外部回路を介してカソードへ移動し、外部回路は、通常、有用な仕事が実施され得る負荷(電動機ならびに様々なポンプ、弁、圧縮機または他の流体引渡し構成要素など)を含む。DC電気のこの流れによって生成される発電は、多数のこのような電池を結合してより大きい電流生成アセンブリにすることによって大きくされ得る。このような1構造では、燃料電池は、燃料電池スタックを形成するために、一組のトランプに非常に似ている共通積重ね寸法に沿って接続される。この文脈においては、総電圧出力または総電流出力を大きくするために配列される多数の個々の電池の任意のこのような配列は、電池のこのような精密なスタック配列が容易に明らかではない状況においてさえ、スタックを画定することと見なされることは当業者には理解されよう。
【0003】
[0003]拡散媒体または流通路内のフラッディングまたはアイスブロッケージ、ならびにMEA内またはMEA全体のH
2不良分布などの要因のため、燃料電池スタック内の電池のいくつかは、アノードへのH
2の供給が少ない状態に遭遇することがあり、これは、始動中または正規動作中のいずれかで生じることがあり、また、極端な例では、供給が完全に遮断されることがある。アノードにおける広域H
2欠乏(H
2供給が完全に遮断される)は、アノードが分極されて電位がカソードよりはるかに高くなる電池逆転として知られている現象をもたらす。アノードの微小部分へのH
2供給が遮断されると、H
2が欠乏したカソードの部分は、触媒支持層を構築している炭素などのキーとなる特定の燃料電池成分の酸化閾値より高い電位に遭遇する。これは、ひいては炭素腐食および関連する性能損失の原因になり、さらには影響を受けた電池内における短絡の原因になる。
【0004】
[0004]これまでのところ、アノード欠乏およびそれに伴う電池逆転の影響を改善する努力は満足すべきものではない。このような努力の1つでは、電池電圧変化を監視するための方法として電池電圧監視(CVM)が使用されている。残念ながらこの監視が提供しているのは、スタック内で既に展開している水素不足事象の兆候のみである。さらに、スタック内のすべての電池上にCVMを置くことはコスト高になる。別のこのような努力は、競合する炭素腐食反応を抑制するための方法として、優勢な酸素発生反応を促進する触媒を必要とすることがあり、黒鉛化された支持戦略単独では、燃料電池システム始動、停止、過渡またはフローブロッケージ動作状態を頻繁に伴う広域H
2欠乏問題または局部H
2欠乏問題のいずれかの下で炭素腐食速度を十分に遅くしていない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[0010]最初に
図1Aおよび1Bを参照すると、概念上の燃料電池システムのブロック図(
図1A)、ならびに個々の燃料電池(
図1B)が示されている。本発明の実施形態と矛盾しない方法で動作され得る移動燃料電池システム1は、反応物引渡しシステム100(燃料(すなわち第1の反応物)源110(水素タンクなど)、および酸素(すなわち第2の反応物)源120(好ましい一形態は大気である)で構築されている)、燃料電池スタック200、および電池または電動機の形態の負荷300、パワートレイン400、および最後に車輪として概念的に示されている1つまたは複数の原動デバイス500を含む。負荷300が電動機である構成では、負荷300は、スタック200から出力される電流を、当業者に知られている方法でパワートレイン400および車輪500を動作させるために使用され得る回転軸動力などの機械的動力に変換するために使用される。スタック200内には、直列に接続された多数の個々の燃料電池210が示されている。図から分かるように、反応物の引き渡し、ならびに冷却または他の伝熱のために使用される流体などの付随する流体の引渡しは、適切に構成された導管170および対応するポンプ140ならびに弁150を含む専用回路によって達成されることが好ましい。当業者には理解されるように、それらのそれぞれの引渡し源からの反応物が既に加圧された形態であるポンプ140の構成は任意選択であり、いずれの変形態様も本発明の範囲内である。図には示されていないが、他の燃料引渡しおよび燃料処理システムもシステム1と共に使用するために利用可能である。例えば燃料源110および酸素源120に加えて、(とりわけ)スタック200を冷却するために使用され得る水源(図示せず)を存在させることができる。
【0012】
[0011]スタック200の燃料電池210によって生成される電流は、ポンプ140および関連する機器、ならびに肉体的安楽装置(空気調和機、加熱器、窓霜取り装置、パワーシートなど)、等々に電力を提供するために使用され得る。さらに、このシステム1は移動(車両など)アプリケーションのために示されているが、燃料電池210、それらのそれぞれのスタック200および付随機器の使用は、静止アプリケーションにも等しく適用することができることは当業者には理解されよう。この文脈においては、スタック付随機器は、バランスオブプラント(BOP)動作を提供するために使用される機器であり、本明細書において考察される寄生的デバイス、ならびに電流のそれらの源をスタック200から引き出す他の構成要素を含むことができる。本開示と矛盾しない方法でスタック200を停止する一部分では、スタック200によって供給される電流は、このような付随機器を動作させるために必要な量と実質的に一致するレベルに低減されることが好ましい。
【0013】
[0012]本発明による方法およびシステムは、専用ハードウェアデバイスおよび対応するソフトウェアで構築される1つまたは複数のプログラムモジュールに編成された命令を実行することができる、コンピュータをベースとするコントローラ160(プログラム可能制御デバイスまたは電子制御ユニットとも呼ばれる)によって実施され得る。本発明によるシステム1操作機能(弁の開閉、ポンプまたは圧縮機のターンオンまたはターンオフ(ならびにそれらのスピードアップまたはスピードダウン)、および知覚したデータおよび診断機能情報の伝達など)のうちのいずれかを実現するための命令は、そのメモリ部分の上に置かれているレジデントを含む、コントローラ160を構築している様々なデバイスまたは構成要素の任意の適切に構成された実施形態の中で有形的に具体化され得る。とりわけ
図1Aを参照すると、コントローラ160と、燃料電池システム1を構築している様々な構成要素との間に描かれている接続は、コントローラ160から受け取った命令を介して動作を変化させることができることを示している。コントローラ160と協働するこのような構成要素の1つは、1つまたは複数の反応物流路が水素欠乏状態に直面している適切な信号で起動され得る、浄化または不活性化流体導入デバイス130(ここではタンクまたは関連する流体容器として示されている)である。
【0014】
[0013]好ましい形態では、コントローラ160は、デジタルコンピュータと結合した自動データ処理機器として構成される。このような場合、コントローラ160は、インプット、アウトプット、処理装置(しばしば中央処理装置(CPU)と呼ばれる)およびメモリのうちの1つまたは複数を含み、メモリは、コードおよび処理装置によって生成される出力データがアウトプットを介して別のプログラムまたはユーザに伝達され得るよう、コードに含まれている命令が入力データに基づいて処理装置によって操作されるよう、このようなコード、プログラムまたはアルゴリズムをコントローラのメモリに一時的に、または恒久的に記憶することができる。したがってコントローラ160は、適当なH
2リークまたは関連する不良分布状態が存在する場合に、システム1の速やかで、有効な応答を提供するために必要なデータ収集、操作または関連する計算機能のうちの少なくともいくつかを実施するために特に適合されたものになる。本開示のどこかで考察される計算を具体化するコンピュータ実行可能命令は、本発明において示されている目的を達成するために、コントローラ160内の適切な場所(上記メモリなど)に置かれ得ることは当業者には理解されよう。
【0015】
[0014]特定の形態では、上で概説した知覚機能および制御機能を実施するために必要なアルゴリズムおよび数式を含んだコンピュータ可読プログラムコードは、コントローラ160メモリの適切な部分にロードされ得る。このようなコンピュータ可読プログラムコードは、コードに含まれている命令が、磁気的可読ディスクまたは光学的可読ディスク、または他の関連する、フラッシュメモリデバイス、CD、DVD、EEPROM、フロッピーディスク、または機械実行可能命令およびデータ構造を記憶することができる他のこのような媒体などの非一時的機械可読媒体上に置かれるよう、製造物品の一部として形成されることも可能である。このような媒体は、コントローラ160、またはコンピュータ可読プログラムコードからの命令を翻訳するために使用される処理装置を有する他の電子デバイスによってアクセスされ得る。プロセッサおよびプロセッサによって実行されるように構成される任意のプログラムコードが合わさって、本明細書において考察される制御機能のうちの1つまたは複数を実施する手段を画定する。コンピュータ分野の技術者には理解されるように、コントローラ160は、データおよび関連する情報をその処理装置と他の内部デバイス(上記インプット、アウトプットおよびメモリデバイスなど)および外部デバイス(スタック200およびその付随機器など)の間で伝達するための追加チップセットならびにバスおよび関連する配線を含むことができる。プログラムコード手段がROMにロードされると、システム1のコントローラ160は、本明細書において説明される方法で適切な停止シーケンスを決定するように構成された目的特化機械になる。
【0016】
[0015]とりわけ
図1Bを参照すると、個々の燃料電池210の詳細が示されている。電池210は、電極、とりわけアノード220、カソード230、および電極間に配置された電解質層240に対応する部分を含む。アノード220、カソード230および電解質層240は、合わさってMEA250を画定している。反応物を電池210の中に運び、また、電池210から運び出すために使用されるそれぞれの水素通路および酸素通路226、236が同じく示されている。この文脈においては、「部分」という用語は、燃料電池スタック200全体のうちの部分、またはスタック200内の個々の電池210の部分のいずれかを記述するべく使用されている。したがって電池210またはスタック200のいずれかに生じるH
2欠乏または不良分布状態は、電池210またはスタック200のそれぞれのアノード部分またはカソード部分220、230に導入される反応物が、修正を必要としているアノード部分220内におけるH
2濃度変化として出現する状況をカバーすることを意味しており、また、文脈は、このような不良分布を適用する個々の電池210またはスタック200全体に関して明確にすることになることを意味している。いずれにせよ、どの変形態様も本発明の範囲内であると見なされる。
【0017】
[0016]アノード220は、水素通路226に流体露出されるガス拡散層222および触媒層224を含む。同様に、カソード230は、酸素通路236に流体接続されるガス拡散層232および触媒層234を含む。通路226、236は、いずれも、該当する反応物をそれらのそれぞれのアノード220およびカソード230に運び、また、それらのそれぞれのアノード220およびカソード230から運び出すアノード流路およびカソード流路(いずれも以下で説明される)の一部を形成している。ガス拡散層222、232は、水素および酸素の拡散、ならびに燃料−酸素反応の結果として生じる水の流れを許容するために多孔性であることが好ましい。ここでは陽子交換膜の形態で示されている電解質層240は、イオン化した水素のアノード220からカソード230への流れを許容し、その一方で、電解質層240を通って流れる電流の通過を禁止する。この文脈においては、反応物流路は、MEA250と協働するバイポーラプレート(図示せず)中に形成された通路、ならびに導管、マニフォルド、ヘッダ、および燃料源および酸素源に流体結合される他の引渡し機構を含むことができる。いずれの形態の流路の考察であるかは、文脈から明らかになるであろう。
【0018】
[0017]過渡燃料電池動作、とりわけ始動動作および停止動作の間(後者については、以下でより詳細に考察される)、水素−空気界面および他の状態(アイスブロッケージ、フラッディング、等々を含む)の存在は、触媒層224、234内における炭素の寿命を短くし得る過剰電位の原因になることがあり、このような状態の影響を防止し、または最小化するために、不活性化および浄化機器(以下で考察される適切な流体引渡し機器に関連して上で考察した流体導入デバイス130を含む)がシステム1に含まれ得る。
【0019】
[0018]個々の燃料電池210のアノード220側のための電気化学水素センサS
Hが示されており、動的水素電極E
DH(上記反応生成器として働く)の形態の一対の電極、および互いに間隔を隔てた動作電極E
Wを含む。ここでは単一のセンサとして示されているが、アノード220流路には必要に応じて2つ以上のこのような水素センサS
Hが置かれ得ることは当業者には理解されよう。この文脈においては、センサS
Hは、実質的に純粋なH
2基準に相関する電圧発生器(ここでは小型電源の形態で示されている)Pによって能動的に生成される信号を利用している電気化学属性を有している点で、従来のセンサ(
図1Aに描かれているセンサSなど)とは異なっている。同様に、酸素発生電極E
OER(その構造は動的水素電極E
DHと類似している)がカソード230流路内に置かれ、上で言及した動的水素電極E
DHおよび動作電極E
Wの場合と同様、複数の酸素発生電極E
OERが、それらがそれぞれの動的水素電極E
DHおよび電圧発生器Pと協働して電池210の両端間の電位の測値を提供するよう、カソード230に沿って間隔を隔てられ得る。
【0020】
[0019]詳細には、センサS
Hは、電源Pと合わさって働いて検出デバイス260を画定する。電源Pを使用することによって以下の式1のHERおよび酸素発生反応(OER)を誘導し、選択は、電池210またはスタック200内の特定の場所における動的水素電極E
DHの配置で決まり、アノード220内におけるH
2の実質的に純粋な存在に対応する基準信号は、動的水素電極E
DHを介してセンサS
Hによって使用するために生成され得る。この信号と、アノード220内のどこかの局部H
2濃度に露出される動作電極E
Wから得られる信号とを比較することにより、局部H
2濃度および関連するH
2欠乏状態の正確な兆候を極めて速やかに生成することができる。動的電極E
DHは、適切なH
2濃度検出のためにはアノード220側に設けられなければならないが、その配置は、アノード220の入口領域または出口領域のいずれであってもよく、また、いずれの配置も本発明の範囲内である。この文脈においては、局部H
2濃度は、動作電極E
Wに隣接する電池210またはスタック200内の場所に対応しており、したがってピックアップされる信号は、対応する電池210またはスタック200の他の部分からの他の流体濃度の影響がないその隣接する領域におけるH
2濃度に実質的に完全に対応する。他の形態の実質的に純粋なH
2生成も使用され得るが(内燃機関に使用される従来のO
2センサの方法と概ね類似した方法で水素供給材料中に侵入することができる注入器の上流側のラインを有するなど)、本発明者は、その代わりに、圧力がより高い注入器に基づく手法の使用、およびその結果として生じる電圧に対する影響は寄生的なものであるという懸念に対して、電極に基づく基準発生を選択した。式の形態では、HERは以下の通りである。
【0021】
HER:2H
++2e
−→H
2 (1)
[0020]以下で考察されるように、差動信号を使用することにより、電気化学水素センサS
Hは、極めて小さい水素濃度変化を測定することができる。さらに、CVMに関連する遅延とは異なり、H
2欠乏状態を示す信号は、コントローラ160によって受信されると、はるかに速やかに作用されることが可能であり、したがってH
2欠乏のさらなる展開および電池210逆転を防止するべく動作状態が調整され得る。したがって電池210およびスタック200の何らかの重大な性能変化または障害が生じるはるかに前に、アノード220H
2欠乏をもたらす通常は望ましくない状態が検出され得る。別の形態では、本発明の電気化学水素センサS
Hを使用して、スタック200内におけるCVMデバイスの数が低減され得る。センサS
Hの感度能力の以下の表は、2つの異なる温度における代表的な電圧変化を示したものである。
【0023】
この表は、知覚電極S
Hによって測定される期待電圧信号を示しており、また、比較的微小なH
2濃度変化に対する著しい感度を示している。
[0021]次に
図2Aおよび2Bを参照すると、過渡状態の間、燃料電池210の両端間の電圧を変化させるように動作する様々な反応の様子が表現式で示されている。とりわけ
図2Aを参照すると、始動および停止、ならびに局部H
2欠乏が存在し得る動作異常の間の影響が説明されている。燃料電池210の動作状態の変化が生じると、アノード220およびカソード230における流体の構成も同じく変化する。例えば、定常状態動作の間、アノード220には、比較的一定の流れの燃料(通常、H
2の形態の燃料)が通過し、一方、カソード230には、比較的一定の流れの酸素(通常、空気の形態の酸素)が通過する。
【0024】
[0022]正規動作の間、電池210の長さに沿って、適切な導管170を介して画定された流路に沿って反応物が導入される。酸化反応および還元反応は、水素フロントF(水素−空気界面とも呼ばれる)の後段で生じる。それらにおいて、しばしばアノード220における水素酸化反応(HOR)と呼ばれる反応でH
2が酸化され、これは、
HOR:2H
2→4H
++4e
− (2)
として式の形態で示されている。上記式1および2を比較すると分かるように、HORおよびHERは互いに逆の反応である。O
2の比較還元はカソード230で生じる(しばしば酸素還元反応、ORR(Oxygen Reduction Reaction)と呼ばれる反応で)。これは、
ORR:O
2+4H
++4e
−→2H
2O (3)
として式の形態で示されている。
【0025】
[0023]過渡的流れの間の複数の欠陥は、とりわけ上で考察した炭素支持構造に関係しているため、アノード220およびカソード230の腐食によるものとされている。如何にして生じるかには無関係に、H
2不良分布は化学量論外状態の原因になり、ひいては上記電池逆転の原因になり、電池逆転には、炭素酸化の熱力学的平衡電位(0.207V)よりはるかに高いアノード220電位の著しい上昇が伴う。詳細には、過渡動作(定常状態から停止への移行など)の間、アノード220に既に存在しているH
2は、H
2が陽子および電子に変換される際に、引き続いて消費される。このH
2消費は、入ってくる空気(例えば開放アノード排気ラインから入ってくる)によって充填される希薄ガス環境を生成し、測定される電圧より高い電極電位を形成するフロントFの生成をもたらす。正規の開路電圧(OCV)下におけるフロントFの後段の燃料電池210部分は、アノード220とカソード230の間の約0.9ボルトの測定電位を示すことになり、一方、フロントFの前段の燃料電池210部分は、約1.7ボルトの電位に遭遇することになる(フロントFの右側の領域への乏しい平面内陽子導通のため、測定された0.9ボルトOCV+膜240中における0.8ボルトの逆極性負電気化学電位降下の両方を含む)。
【0026】
[0024]これらの高められた電位の下では、フロントFの前段の燃料電池210部分は、利用可能なH
2の低減に遭遇する。アノード220に利用することができるO
2によって、カソード230内の炭素支持が酸化されることになる。これらの概念上の電圧を使用すると、フロントFの後段(示されているように左側)の様々な場所で、本発明の手法を使用することなく測定されたOCVは、アノード220に0ボルト、膜240に0ボルト、また、カソード230に0.9ボルトを生成することになる(0.9ボルトの正味電圧に対して)。フロントFの前段(示されているように右側)は、1.7ボルトの正味電圧に対して、アノード220に0ボルト、膜240に−0.8ボルト(例えば固有内部抵抗のため)、また、カソード230に0.9ボルトを示すことになり、この過剰電圧は、十分に上記炭素酸化の原因になる。本明細書において考察されている手法を使用することにより、さもなければ高いOCVを、炭素腐食反応を引き起こすのに十分な電圧レベルが得られないことを保証するレベルまで降下させるための改善処置(流体導入デバイス130からの窒素または浄化流体の導入によるカソード230の不活性化または浄化など)が速やかに実現され得る。例えばコントローラ160は、有害な電池210またはスタック200動作状態を回避するための方法として、周囲の、またはタンクに含まれている浄化流体または不活性化流体を受け入れるべく、様々な弁、ポンプおよび関連する反応物引渡し機器(ならびに電流消費負荷)の操作を達成するために、検出デバイス260によってピックアップされるこれらのより低い電圧ニーズに応答することができる。一形態では、本発明の手法を使用した後に、フロントFの後段の様々な場所で測定されたOCVは、アノード220で0ボルト、膜240で0ボルト、また、カソード230で0.2ボルト(または未満)を示すことになる(0.4ボルト以下の正味電圧に対して)。同様に、フロントの同じ前段は、1.0ボルトの正味電圧に対して、アノード220に0ボルト、膜240に−0.8ボルト、また、カソード230に0.2ボルトを示すことになり、したがってH
2濃度変化の検出は、局部H
2欠乏または広域H
2欠乏の望ましくない状態を防止するために、他の機器と関連して使用され得る。過剰電圧は、すべて重大な炭素腐食の原因になり得るため、いずれの軽減も、カソード内の局部電位を1.0V未満にすることができるよう、端子電圧を0.2V未満にすることが好ましい。
【0027】
[0025]上で言及したように、電子および陽子は、アノード220における炭素酸化反応(COR)およびOERのうちの1つまたは両方によって供給されるため、電池逆転はとりわけ破壊的である。これらは、
OER:2H
2O→O
2+4H
++4e
− (4)
COR:C+2H
2O→CO
2+4H
++4e
− (5)
として式の形態で示されている。式5のCORに明確に示されているように、電池逆転は、アノード220触媒(典型的な形態では白金、Ptであってもよい)を支持するために使用される炭素の消費をもたらす。同様に、
図2Aに描かれているように、アノード220における局部H
2欠乏の場合、膜240を介したO
2クロスオーバは、H
2が減損される領域では低減され、カソード230の炭素支持の腐食をもたらす。望ましくないことには、いずれの反応もMEA250内における総合的劣化をもたらし、
図1Bの検出デバイス260を燃料電池システム1の中に実現することによって低減され得る。
【0028】
[0026]とりわけ
図2Bを参照すると、同様の状態が広域アノード220欠乏状態を引き起こすことがある(示されているようにアノードの実質的な全体から水素が奪われる場合など)。この文脈においては、
図2Aの局部H
2欠乏をもたらす機構(対応するカソード230の炭素支持上に損傷が生じる)と、
図2Bの広域H
2欠乏をもたらす機構(アノード220の炭素支持上に損傷が生じる)には相違があるが、炭素腐食を低減または回避することに対する結果としての要求は同じである。局部H
2欠乏(
図2Aに描かれている欠乏など)とは対照的に、広域H
2欠乏を含む状況ではORR反応は存在しない。
【0029】
[0027]もう一度
図1Aおよび1Bを参照すると、本発明者は、センサS
Hを使用することにより、様々な構成要素リード(または電極)を異なる濃度のH
2に露出させることができることを発見した。さらに、受け取った濃度を比較することにより、
E
eq=E
0+(RT/nF)×ln(Ox/Red)
であることを式の形態で記述しているNernst還元/酸化電位によって電圧差を生成することができる。E
0は、25℃における標準(すなわち可逆)電極電位に対して引用される熱力学的値であり、Rはガス定数8.31451J/(Kモル)であり、TはKelvin温度であり、nは電子の数であり、FはFaradayの定数96485C/モルであり、また、OxおよびRedは、それぞれ酸化剤種および還元剤種の化学アクティビティを表している。この電圧差は、電圧低減アノード220またはカソード230フラッディングプロセスの一部として不活性化流体または浄化流体(流体導入デバイス130などからの)の使用と共に、H
2欠乏状態のより速やかで、かつ、正確な兆候を達成するための方法として、センサS
Hおよびコントローラ160によって利用され得る。
【0030】
[0028]センサS
H電極の配置の選択は、スタック200内の個々の電池210または異なる場所における複数の電池210から選択される電池210の入口領域および/または出口領域のいずれかの使用の問題であり、いずれの変形態様も本発明の範囲内であると見なされる。特定の一形態では、2つの電極E
DHおよびE
Wが、監視される電池210の入口または出口のいずれかと協働して置かれることが可能であり、一方、別の一形態では、それらは、スタック200内の異なる電池210内のアノード部分220またはカソード部分230と協働して置かれ得る。実質的に純粋な(すなわち100%の)H
2を保証する方法の1つは、式1で上で考察した方法でHERを開始するための方法として、電源Pと関連して動的水素電極E
DHを使用することである。同様に、酸素発生電極E
OERは、上記式4に示されているOER反応を容易にするために、電源Pの他に、選択された電池210のカソード230と結合され得る。
【0031】
[0029]上で言及したように、電気化学水素センサS
Hは、スタック200内の選択された電池210と結合され得る。選択される電池210の一バージョンは、ブロックされた流通路、またはスタック200の残りの部分におけるプレートと比較して通路の深さを浅くすることによって断面積が狭くなった1つまたは複数の通路のいずれかを有することができ、このような修正は、反応物を電池電極に引き渡すために使用されるバイポーラプレート(図示せず)の形態である通路のサイズ、形状または縦横比の変化として出現する。望ましくない状態をよりいっそう早く検出するための水素センサS
Hの使用は、有害な動作状態を回避するためには不可欠であり、それにより適切な処置をより早く講じることができる。
【0032】
[0030]「ことが好ましい」、「概ね」および「通常」のような用語は、本明細書においては、特許請求される本発明の範囲を制限するために、または特定の特徴が特許請求される本発明の構造または機能にとって不可欠であり、本質的であり、さらには重要であることをほのめかすために利用されているのではないことに留意されたい。そうではなく、これらの用語は、単に、本発明の特定の実施形態に利用され、または利用されない代替特徴または追加特徴を強調することが意図されているにすぎない。
【0033】
[0031]本発明を説明し、かつ、定義する目的のために、「実質的に」および「約」という用語およびそれらの変形態様は、本明細書においては、何らかの定量的比較、値、測値または他の表現に帰属され得る不確実性の固有の程度を表すために利用されていることに留意されたい。また、「実質的に」という用語は、本明細書においては、定量的表現が、問題になっている主題の基本的な機能が変化することになることなく、言及されている基準から変化し得る程度を表すために同じく利用されている。
【0034】
[0032]以上、本発明について、特定の実施形態を参照して詳細に説明したが、それでもなお、特許請求の範囲で定義されている本発明の範囲を逸脱することなく修正および変更が可能であることは明らかであろう。詳細には、本発明の範囲は、言及されている好ましい態様および例証実施形態に必ずしも限定されず、特許請求の範囲によって統制されるべきである。
(項目1)
燃料電池システムの水素欠乏検出デバイスにおいて、
前記システム内のアノード流路およびカソード流路のうちの少なくとも1つと信号的に協働する少なくとも1つのセンサであって、
水素の実質的に純粋な濃度に対応する第1の信号を生成するように構成された第1の電極と、
前記アノード流路内における局部水素濃度に対応する第2の信号を受信するように構成された第2の電極であって、前記第1の信号および前記第2の信号の比較が、前記スタック内における水素欠乏状態の前記コントローラに兆候を提供する、第2の電極と
を備える、センサと、
前記第1の電極と協働する電圧源であって、前記電池内の水素の前記実質的に純粋な濃度を生成する少なくとも1つの反応を促進するのに十分な電圧を提供するように構成された、電圧源と
を備えるデバイス。
(項目2)
前記第1の電極が、前記アノード流路内で生じる水素発生反応に基づいて前記第1の信号を測定するために前記アノード流路と協働する、項目1に記載のデバイス。
(項目3)
前記第1の電極が、前記アノード流路内で生じる酸素発生反応に基づいて前記第1の信号を測定するために前記カソード流路と協働する、項目1に記載のデバイス。
(項目4)
前記電圧源が前記アノード流路内の水素発生反応を促進するように構成された、項目1に記載のデバイス。
(項目5)
前記電圧源が前記カソード流路内の酸素発生反応を促進するように構成された、項目1に記載のデバイス。
(項目6)
燃料電池システムにおいて、
それぞれアノード、カソード、前記アノードと前記カソードとの間に配置された膜、およびそれぞれの反応物を運ぶように構成された流路を備える燃料電池のスタックと、
前記スタックと協働するコントローラと、
前記コントローラおよび前記スタック内の前記電池のうちの少なくとも1つと信号的に協働する少なくとも1つのセンサであって、
前記アノード流路内の水素発生反応を介して生成される水素の実質的に純粋な濃度に対応する第1の信号を生成するように構成された第1の電極と、
前記アノード流路内における局部水素濃度に対応する第2の信号を受信するように構成された第2の電極であって、前記第1の信号および前記第2の信号の比較が、前記スタック内における水素欠乏状態の前記コントローラに兆候を提供する、第2の電極と
を備える、センサと、
前記第1の電極と協働する電圧源であって、水素の前記実質的に純粋な濃度を生成する少なくとも1つの反応を促進するのに十分な電圧を提供するように構成された電圧源と
を備える燃料電池システム。
(項目7)
前記アノード流路および前記カソード流路のうちの少なくとも1つと選択的に流体協働する流体導入デバイスをさらに備え、前記コントローラが前記比較に応答して動作すると、前記流路の各々が前記流体導入デバイスから浄化流体および不活性化流体のうちの少なくとも1つを受け取る、項目6に記載のシステム。
(項目8)
前記第1の電極が、前記アノード流路内で生じる水素発生反応に基づいて前記第1の信号を測定するために前記アノード流路と協働する、項目6に記載のシステム。
(項目9)
前記システムが電池電圧測定デバイスを備えていない、項目6に記載のシステム。
(項目10)
前記電圧源が前記アノード流路内の水素発生反応を促進するように構成された、項目6に記載のシステム。
(項目11)
前記電圧源が前記カソード流路内の酸素発生反応を促進するように構成された、項目6に記載のシステム。
(項目12)
燃料電池スタックを保護する方法において、
少なくとも1つのセンサをコントローラ、および、前記スタック内の少なくとも1つの燃料電池と信号的に協働させるステップであって、前記センサが、
前記スタック内の少なくとも1つの反応物流路内の水素発生反応を介して生成される水素の実質的に純粋な濃度に対応する第1の信号を生成するように構成された第1の電極と、
前記少なくとも1つの反応物流路内における局部水素濃度に対応する第2の信号を受信するように構成された第2の電極と
を備えた、ステップと、
前記水素発生反応または前記酸素発生反応を生成するために電圧源を使用するステップと、
前記スタック内における水素欠乏状態の前記コントローラに兆候を提供するために前記第1の信号および前記第2の信号の比較を使用するステップと、
前記水素欠乏状態を低減するために前記コントローラを介して前記スタックの動作を調整するステップと
を含む方法。
(項目13)
前記水素欠乏状態の検出が電池電圧監視デバイスを使用することなく実施される、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記少なくとも1つの反応物流路がアノード流路を備える、項目12に記載の方法。
(項目15)
前記少なくとも1つの反応物流路が、アノード流路およびカソード流路を備える複数の流路を備える、項目12に記載の方法。