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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-29038(P2017-29038A)
(43)【公開日】2017年2月9日
(54)【発明の名称】微生物コロニーの測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20170120BHJP
   C12M 1/34 20060101ALN20170120BHJP
   C12M 3/04 20060101ALN20170120BHJP
   C12M 3/06 20060101ALN20170120BHJP
【FI】
   C12Q1/06
   C12M1/34
   C12M3/04
   C12M3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-151278(P2015-151278)
(22)【出願日】2015年7月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000150774
【氏名又は名称】株式会社槌屋
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】海谷 慎一
(72)【発明者】
【氏名】中内 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】松村 覚
(72)【発明者】
【氏名】小野木 健夫
(72)【発明者】
【氏名】大原 康之
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB01
4B029BB02
4B029CC01
4B029FA01
4B029FA03
4B029FA04
4B029FA09
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ15
4B063QS33
4B063QX01
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】微生物を染色することで、試薬を接触させたときに微生物コロニーの凝集体が溶解しないようにし、培地上の微生物コロニーの形状が変化することなく、測定後も引き続き微生物を培養可能にする微生物コロニーの測定方法の提供。
【解決手段】培地1上で微生物を培養する培養工程と、所定の蛍光試薬及び所定の抗体のうちの少なくとも1種を、多孔質膜3に付着物として付着させる付着工程と、前記培養工程の後に、多孔質膜3を培地1上に載置し、前記付着物により微生物を染色する多孔質膜3載置工程と、前記載置されている多孔質膜3の上方から励起光を照射し、多孔質膜3を介して微生物により発せられる蛍光を上方から観測することにより微生物コロニー4を測定する測定工程と、を行う、培地1上に形成される微生物コロニー4の測定方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地上に形成される微生物コロニーを測定する微生物コロニーの測定方法であって、
培地上で微生物を培養する培養工程と、
所定の蛍光試薬及び所定の抗体のうちの少なくとも1種を、多孔質膜に付着物として付着させる付着工程と、
前記培養工程の後に、前記多孔質膜を前記培地上に載置し、前記付着物により前記微生物を染色する多孔質膜載置工程と、
前記載置されている前記多孔質膜の上方から励起光を照射し、前記多孔質膜を介して前記微生物により発せられる蛍光を上方から観測することにより微生物コロニーを測定する測定工程と、
を行うことを特徴とする微生物コロニーの測定方法。
【請求項2】
前記微生物は複数種類を含み、
前記付着工程は、1種類以上の前記微生物を染色する抗体と1種類以上の前記微生物を染色する前記蛍光試薬とを前記多孔質膜に付着させ、
前記測定工程は、前記載置されている前記多孔質膜に励起光を照射し、前記多孔質膜を介して前記抗体により発せられる蛍光と前記蛍光試薬による染色によって発せられる蛍光とをそれぞれ観測することにより微生物コロニーを測定する請求項1記載の微生物コロニーの測定方法。
【請求項3】
前記微生物は複数種類を含み、
前記付着工程は、1種類以上の前記微生物を染色する抗体を付着させて第1の多孔質膜を形成する第1付着工程と、1種類以上の前記微生物を染色する前記蛍光試薬を付着させて第2の多孔質膜を形成する第2付着工程と、を行い、
前記多孔質膜載置工程は、前記第1の多孔質膜を前記培地上に載置する第1載置工程と、前記第2の多孔質膜を前記培地上に載置する第2載置工程と、を行い、
前記測定工程は、前記第1載置工程後に前記第1の多孔質膜に励起光を照射し、前記第1の多孔質膜を介して前記抗体により発せられる蛍光を観測する第1測定工程と、前記第2載置工程後に前記第2の多孔質膜に励起光を照射し、前記第2の多孔質膜を介して前記蛍光試薬による染色によって発せられる蛍光を観測する第2測定工程と、を行う請求項1記載の微生物コロニーの測定方法。
【請求項4】
前記培養工程は、前記微生物が混ざった溶液をフィルタにより濾過し、当該フィルタを前記培地上に載置することによって前記微生物を培養する請求項1乃至3のいずれかに記載の微生物コロニーの測定方法。
【請求項5】
前記培養工程を行った後、前記付着部を付着させることなく前記多孔質膜を前記培地上に載置し、次いで、前記培地上の前記多孔質膜に対して前記付着工程を行い、その後前記測定工程を行う請求項1記載の微生物コロニーの測定方法。
【請求項6】
前記多孔質膜の平均孔径は目的とする微生物よりも小さい請求項1乃至5のいずれかに記載の微生物コロニーの測定方法。
【請求項7】
前記付着工程は、界面活性剤を含む溶媒に前記付着物を溶かした溶液により前記多孔質膜を湿潤させることによって、前記付着物を前記多孔質膜に付着させる請求項6記載の微生物コロニーの測定方法。
【請求項8】
前記付着工程は、前記付着物の安定化剤を含む溶媒に前記付着物を溶かした溶液により前記多孔質膜を湿潤させることによって、前記付着物を前記多孔質膜に付着させる請求項6又は7に記載の微生物コロニーの測定方法。
【請求項9】
前記多孔質膜の平均孔径は目的とする微生物よりも大きく、
前記付着工程は、乾燥した前記付着物を前記多孔質膜に付着させる請求項1乃至5のいずれかに記載の微生物コロニーの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培地上に形成される微生物コロニーに試薬を接触させて染色等を行い、光学的に観測する微生物コロニーの測定方法に関する。詳しくは、試薬を接触させたときに微生物コロニーの凝集体が溶解しないようにし、測定後も引き続き微生物を培養可能にする微生物コロニーの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種培地上に培養した微生物コロニーに試薬を付着させて染色したり、蛍光を発するようにさせたりすることで光学観測を容易にすることが行われている。また、微生物を含む液体等をメンブレンフィルタにより濾過することにより、そのメンブレンフィルタに微生物を付着させ、そのメンブレンフィルタを培地上に載置して付着させた微生物を培養してコロニーを形成させ、試薬により染色後観測することが行われている(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている微生物の計測方法は、培地の上に検体を滴下拡散し、この検体入り培地を所定時間だけ培養した後、検体入り培地に試薬を滴下拡散し、顕微鏡で光学観測している。
特許文献2に開示されている生理活性判定方法は、微生物をメンブレンフィルタ上に捕集して培養した後、そのメンブレンフィルタの下面側から浸透させた蛍光染色液でメンブレンフィルタ上の微生物を染色する。その後、顕微鏡で光学観測している。
特許文献3に開示されている自己拡散式微生物培養装置は、基材と、台座と、カバーシートとを備え、培養面又はカバーシートに培地及び指示薬等が堆積されており、カバーシートが透明であるため、カバーシートを被せたまま培地上の微生物コロニーを観察することができる。
特許文献4に開示されている微生物を迅速に検出するための装置は、基材と基材を覆う透明のカバーシートとを備え、基材やカバーシートに冷水溶性粉末が接着剤により接着されている。また、冷水溶性粉末は、ゲル化剤及び培養のための栄養素が含まれている。更に、冷水溶性粉末は蛍光試薬等の検出試薬を含めることができ、この試薬により染色して観察することができる。このような装置は、カバーシートをめくった状態で基材上に試験サンプルを載置した後、カバーシートを戻して覆うことで、微生物の培養を行うことができ、カバーシートを被せたまま基材上の微生物コロニーを観察することができる。
他方、病原体と蛍光色素の結合率を向上させて迅速な検知を行うために、捕集した病原体に蛍光色素を含むミストを衝突させる手法(ミスト標識法)が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。これによれば、捕集基板の表面を蛍光色素の水溶液に浸漬する従来法よりも、結合率を大幅に向上できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−147997号公報
【特許文献2】特開2007−097532号公報
【特許文献3】特表2004−515236号公報
【特許文献4】特表2013−535522号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】富樫盛典他「食品中細菌数および呼気中病原体の迅速計測技術」、日立評論2013年9月号、第48−53頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されているような微生物の計測方法は、検体入り培地に試薬を滴下拡散しているため、培地の微生物コロニーの構成菌が融け出す等により微生物コロニーの形状が崩れ、微生物コロニーの正確な測定ができなくなるおそれがある。
また、特許文献2に記載されているような生理活性判定方法では、メンブレンフィルタ上に形成された微生物コロニーの形状が失われないように、検体を乾燥させ、染色液をメンブレンフィルタの下面側から浸透させたりする必要があった。このため、観測後に微生物を続けて培養させることができなかった。
また、特許文献3に開示されている自己拡散式微生物培養装置では、培地に蛍光試薬等の溶液を付着させて染色させた後に、カバーシートを再度被せると微生物コロニーを構成する微生物が平滑なカバーシートと培地との間を蛍光試薬等の水分により流動可能となり、時間が経過するにつれて微生物コロニーの形状が崩れ、微生物コロニーの正確な測定や測定後の培養ができなくなるおそれがある。
また、特許文献4に開示されている微生物を迅速に検出するための装置では、基材上に試験サンプルを載置等する作業中に、基材やカバーシートの冷水溶性粉末中の検出試薬が微生物に接触するため、その接触時間を制御することができず、観測時に検出試薬の退色や自己着色等が生じて、適切な観察ができなくなる恐れがある。
他方、非特許文献1に記載されているようなミスト標識法では、ミストによる微生物の捕集範囲を限定することが困難である。また、個別微生物の計数が可能であっても微生物の集合体を観測することはできない。更に、一定の湿度を保った状態で一定時間反応させることができないため、抗体以外の反応性試薬(蛍光染色剤等)を使用することが困難であるという問題がある。これらの問題により、蛍光染色剤等を用いて微生物コロニーを測定し、測定後も継続して培養可能とする目的には、ミストを利用する微生物の検知手法は適さない。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、試薬を接触させたときに微生物コロニーを構成する凝集体が溶解しないようにし、測定後も微生物を引き続き培養可能にする微生物コロニーの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.培地上に形成される微生物コロニーを測定する微生物コロニーの測定方法であって、培地上で微生物を培養する培養工程と、所定の蛍光試薬及び所定の抗体のうちの少なくとも1種を、多孔質膜に付着物として付着させる付着工程と、前記培養工程の後に、前記多孔質膜を前記培地上に載置し、前記付着物により前記微生物を染色する多孔質膜載置工程と、前記載置されている前記多孔質膜の上方から励起光を照射し、前記多孔質膜を介して前記微生物により発せられる蛍光を上方から観測することにより微生物コロニーを測定する測定工程と、を行うことを特徴とする微生物コロニーの測定方法。
2.前記微生物は複数種類を含み、
前記付着工程は、1種類以上の前記微生物を染色する抗体と1種類以上の前記微生物を染色する前記蛍光試薬とを前記多孔質膜に付着させ、前記測定工程は、前記載置されている前記多孔質膜に励起光を照射し、前記多孔質膜を介して前記抗体により発せられる蛍光と前記蛍光試薬による染色によって発せられる蛍光とをそれぞれ観測することにより微生物コロニーを測定する前記1.記載の微生物コロニーの測定方法。
3.前記微生物は複数種類を含み、前記付着工程は、1種類以上の前記微生物を染色する抗体を付着させて第1の多孔質膜を形成する第1付着工程と、1種類以上の前記微生物を染色する前記蛍光試薬を付着させて第2の多孔質膜を形成する第2付着工程と、を行い、前記多孔質膜載置工程は、前記第1の多孔質膜を前記培地上に載置する第1載置工程と、前記第2の多孔質膜を前記培地上に載置する第2載置工程と、を行い、前記測定工程は、前記第1載置工程後に前記第1の多孔質膜に励起光を照射し、前記第1の多孔質膜を介して前記抗体により発せられる蛍光を観測する第1測定工程と、前記第2載置工程後に前記第2の多孔質膜に励起光を照射し、前記第2の多孔質膜を介して前記蛍光試薬による染色によって発せられる蛍光を観測する第2測定工程と、を行う前記1.記載の微生物コロニーの測定方法。
4.前記培養工程は、前記微生物が混ざった溶液をフィルタにより濾過し、当該フィルタを前記培地上に載置することによって前記微生物を培養する前記1.乃至3.のいずれかに記載の微生物コロニーの測定方法。
5.前記培養工程を行った後、前記付着部を付着させることなく前記多孔質膜を前記培地上に載置し、次いで、前記培地上の前記多孔質膜に対して前記付着工程を行い、その後前記測定工程を行う前記1.乃至4.のいずれかに記載の微生物コロニーの測定方法。
6.前記多孔質膜の平均孔径は目的とする微生物よりも小さい前記1.乃至5.のいずれかに記載の微生物コロニーの測定方法。
7.前記付着工程は、界面活性剤を含む溶媒に前記付着物を溶かした溶液により前記多孔質膜を湿潤させることによって、前記付着物を前記多孔質膜に付着させる前記6.記載の微生物コロニーの測定方法。
8.前記付着工程は、前記付着物の安定化剤を含む溶媒に前記付着物を溶かした溶液により前記多孔質膜を湿潤させることによって、前記付着物を前記多孔質膜に付着させる前記6.又は7.に記載の微生物コロニーの測定方法。
9.前記多孔質膜の平均孔径は目的とする微生物よりも大きく、
前記付着工程は、乾燥した前記付着物を前記多孔質膜に付着させる前記1.乃至5.のいずれかに記載の微生物コロニーの測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、培地上に形成される微生物コロニーを測定する微生物コロニーの測定方法であって、培地上で微生物を培養する培養工程と、所定の蛍光試薬及び所定の抗体のうちの少なくとも1種を、多孔質膜に付着物として付着させる付着工程と、前記培養工程の後に、前記多孔質膜を前記培地上に載置し、前記付着物により前記微生物を染色する多孔質膜載置工程と、前記載置されている前記多孔質膜の上方から励起光を照射し、前記多孔質膜を介して前記微生物により発せられる蛍光を上方から観測することにより微生物コロニーを測定する測定工程と、を行うため、培地上の微生物コロニーの形状を溶解等によって変化させることなく、培地上に載置した多孔質膜に付着された抗体や試薬を微生物コロニーに接触させ、微生物を染色することができる。また、培地上に多孔質膜を載置したまま多孔質膜を透過した蛍光を上方から観測するため、培地上の微生物コロニーの溶解や形状変化が生じないようにすることができる。更に、培地上の微生物コロニーを乾燥等させることなく、多孔質膜の孔に余分な水分を逃がして観測することができるため、測定後も引き続き培地上の微生物の培養を継続することができる。また、培養した培地上の微生物コロニーの溶解等が生じないようにすることができる。
【0010】
前記微生物は複数種類を含み、前記付着工程は、1種類以上の前記微生物を染色する抗体と1種類以上の前記微生物を染色する前記蛍光試薬とを前記多孔質膜に付着させ、前記測定工程は、前記載置されている前記多孔質膜に励起光を照射し、前記多孔質膜を介して前記抗体により発せられる蛍光と前記蛍光試薬による染色によって発せられる蛍光とをそれぞれ観測することにより微生物コロニーを測定する場合は、1枚又は複数枚の多孔質膜を用いた多重染色によって選択的な染色を行うことができ、種類の異なる微生物のうち特定の種類の微生物を識別して測定を行うことができる。
前記微生物は複数種類を含み、前記付着工程は、1種類以上の前記微生物を染色する抗体を付着させて第1の多孔質膜を形成する第1付着工程と、1種類以上の前記微生物を染色する前記蛍光試薬を付着させて第2の多孔質膜を形成する第2付着工程と、を行い、前記多孔質膜載置工程は、前記第1の多孔質膜を前記培地上に載置する第1載置工程と、前記第2の多孔質膜を前記培地上に載置する第2載置工程と、を行い、前記測定工程は、前記第1載置工程後に前記第1の多孔質膜に励起光を照射し、前記第1の多孔質膜を介して前記抗体により発せられる蛍光を観測する第1測定工程と、前記第2載置工程後に前記第2の多孔質膜に励起光を照射し、前記第2の多孔質膜を介して前記蛍光試薬による染色によって発せられる蛍光を観測する第2測定工程と、を行う場合は、第1測定工程において抗体によって発せられる蛍光を測定することができ、第2測定工程において蛍光試薬により微生物が発する蛍光を測定することができる。このため、波長が同じである場合等、抗体による蛍光と蛍光試薬による蛍光とが区別できない場合であっても、1種類の微生物と微生物の全体とを識別することができる。また、多孔質膜により、抗体の溶液と、次に蛍光試薬の溶液を微生物コロニーに接触させても、微生物コロニーの溶解等をさせないようにすることができる。
【0011】
前記培養工程は、前記微生物が混ざった溶液をフィルタにより濾過し、当該フィルタを前記培地上に載置することによって前記微生物を培養する場合には、培地に直接微生物を付着させる工程を不要とし、容易にフィルタ上で培養することができる。
前記多孔質膜の平均孔径が目的とする微生物よりも小さい場合には、多孔質膜の孔を通じて微生物が流動することを防止することができる。また、培地の湿気により湿潤して孔が塞がり、透光性が向上した多孔質膜を透過する蛍光の光量が多くなるため、より高感度に測定を行うことができる。
前記付着工程は、界面活性剤を含む溶媒に前記付着物を溶かした溶液により前記多孔質膜を湿潤させることによって、前記付着物を前記多孔質膜に付着させる場合には、界面活性剤により撥水性のある多孔質膜であっても湿潤させることができ、場所によらず蛍光試薬等の濃度が均一となるように分散させることができる。また、多孔質膜の乾燥による反りを抑制することができる。これによって、多孔質膜を培地上に載置したときに蛍光試薬等の溶液を培地上の微生物に均一に接触させ、微生物の染色を均一にすることができる。
前記付着工程は、前記付着物の安定化剤を含む溶媒に前記付着物を溶かした溶液により前記多孔質膜を湿潤させることによって、前記付着物を前記多孔質膜に付着させる場合には、蛍光をむらなく発するようにすることができる。
培養工程を行った後、付着部を付着させることなく多孔質膜を培地上に載置し、次いで、培地上の多孔質膜に対して付着工程を行い、その後測定工程を行う場合は、蛍光試薬等の付着を測定工程の直前に行うことができ、短時間で反応する蛍光試薬であっても適切な時間で観察することができる。
前記多孔質膜の平均孔径が目的とする微生物よりも大きく、前記付着工程は、乾燥した前記付着物を前記多孔質膜に付着させる場合には、培地の湿気によって蛍光試薬等を溶解することができ、培地上に生育した遊走性の少ない微生物によるコロニーの溶解等を起こすことなく好適に染色することができる。また、蛍光試薬等を付着させた多孔質膜が乾燥状態であるため、その取扱いを容易にし、保管性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
図1】本微生物コロニーの測定方法による光学観測を行うときの構成を説明するための模式図である。
図2】メンブレンフィルタに微生物が付着した状態を示す模式図である。
図3】メンブレンフィルタを培地に載置し、培養により微生物コロニーが形成されている状態を示す模式図である。
図4】試薬を含む多孔質膜を培地上のメンブレンフィルタ上に載置し、微生物コロニーを試薬により染色させている状態を示す模式図である。
図5】実験例1における(a)観察結果、及び(b)蛍光部分が基点となるように2値化した画像である。
図6】実験例1における観察後の培養後の状態を示す画像である。
図7】実験例1における観察後の培養後、多孔質膜を除去した状態を示す画像である。
図8】比較例1における観察後の培養後の状態を示す画像である。
図9】実験例2における観察結果を示す画像である。
図10図9の画像を画像処理して2値化した画像である。
図11】実験例2における観察後の培養後の状態を示す画像である。
図12】実験例2における観察後の培養後、多孔質膜を除去した状態を示す画像である。
図13】実験例3における抗体により励起する蛍光の(a)観察結果、及び(b)蛍光部分が基点となるように2値化した画像である。
図14】実験例3における蛍光試薬により励起する蛍光の(a)観察結果、及び(b)蛍光部分が基点となるように2値化した画像である。
図15】実験例4における(a)可視光による観察結果を示す画像、(b)抗体により励起する蛍光のみに制限した(a)の点線部分における観察結果を示す画像、(c)蛍光試薬により励起する蛍光のみに制限した(a)の点線部分における観察結果を示す画像である。
図16】カメラによる観察を行うための装置の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0014】
本実施形態に係る微生物コロニーの測定方法は、培地上に形成される微生物コロニーを測定する方法であって、培地上で微生物を培養する培養工程と、所定の蛍光試薬及び所定の抗体のうちの少なくとも1種を、多孔質膜に付着物として付着させる付着工程と、前記培養工程の後に、多孔質膜を培地上に載置し、前記付着物により前記微生物を染色する多孔質膜載置工程と、載置されている多孔質膜に励起光を照射し、多孔質膜を介して微生物により発せられる蛍光を上方から観測することにより微生物コロニーを測定する測定工程と、を行うことを特徴とする。
【0015】
本測定方法により測定することができる微生物は特に問わず、例えば、大腸菌、腸炎ビブリオ、サルモネラ、リステリア、クロストリジウム、バチルス等の、グラム陽性、グラム陰性、好気性、嫌気性を問わずコロニーを形成する細菌等を挙げることができる。
微生物を培養させて微生物コロニーを形成するための培地は、対象となる微生物に応じて適宜選択することができ、寒天培地等の固形培地、半流動培地等を用いることができる。また、培地に直接微生物を培養するに限られず、濾過等により微生物を付着させたメンブレンフィルタ等の多孔質膜を培地上に載置し、そのまま微生物を培養してフィルタ上に微生物コロニーを形成させてもよい。
微生物の培養方法は、必要とする観測方法に合わせて通常用いられる培養方法を選択することができる。
【0016】
前記蛍光試薬は、検出対象となる微生物コロニーを選択的に染色できるものであればよく、検出する微生物によって適宜選択される。微生物の活性を利用する蛍光染色剤として、例えば、微生物のエステラーゼ活性により染色されるフルオレセインジアセテート等のエステラーゼ系染色剤、呼吸活性により染色されるCTC等のテトラゾリウム塩系染色剤等を挙げることができる。検出対象となる微生物が生産する酵素、及び酵素の誘導体等により蛍光試薬を作用させてもよい。そのような酵素の例として、大腸菌が生成するβグルクロニダーゼ、βガラクトシダーゼ、βグルコシダーゼ等を挙げることができる。
【0017】
また、蛍光試薬に代わり又は蛍光試薬と共に、特定の微生物と結合して蛍光を発するように装飾された抗体を用いることができる。抗体は、特定の微生物にのみ結合するタンパク質や特異性を備える核酸であり、特定の微生物中の抗原と結合して発色反応(所謂免疫染色)を生じさせることができる。微生物の抗体として、例えば、DNA、RNA及び合成核酸を用いた核酸アプタマー、ウシ、ウサギ、ヒト、マウス、モルモット及びニワトリ等から精製するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等に、蛍光色素を修飾基として結合させて用いることができる。また、修飾基となる蛍光色素の例としてPE、PE−Cy5、PerCP、APC等の蛍光タンパクや、FITC、Cy3、Cy5、テキサスレッド等の小分子蛍光色素を挙げることができる。
【0018】
前記多孔質膜は、微生物コロニーを構成する微生物が流動して微生物コロニーが溶解等して輪郭が変化しないように、蛍光試薬等を微生物に接触させるために用いられる。また、蛍光試薬等は多孔質膜の孔等に付着されることにより保持される。多孔質膜は、蛍光試薬等によって生じる蛍光物質に対する励起光、及び微生物から発せられる蛍光を、膜厚方向に透過可能である必要がある。励起光及び蛍光を透過可能にする手段は任意に選択することができ、例えば、湿潤時に励起光及び蛍光に対して透過性を備える材質を用いることを挙げることができる。また、多孔質膜を構成する孔内を介して膜厚方向に導光させてもよい。
【0019】
多孔質膜の平均孔径は、目的に応じ適宜選択することができる。
このような孔径として、観測目的とする微生物の最小径よりも小さい径とすることを挙げることができる。微生物より小さな径とすることにより、培地上に載置した後において、孔を介して微生物が流動しないようにしつつ、蛍光試薬等による染色を行うことができる。更に、培地の湿気により湿潤して孔が塞がることで散光を抑制し、透光性が向上した多孔質膜を透過する蛍光の光量が多くなるため、より高感度に測定を行うことができる。このような径の例として、大腸菌等に対し、孔径を0.1〜0.45μmとすることを挙げることができる。
また、遊走性の少ない微生物(例えば、非運動性の菌や、鞭毛を欠落するなどの運動性陰性細菌)を所定濃度の培地(例えば寒天濃度が1.0%以上、より好ましくは1.5%以上の寒天培地)であり、蛍光試薬等を乾燥させた状態で付着させた多孔質膜において、その多孔質膜の平均孔径を目的とする微生物よりも大きな径としてもよい。このような条件であれば、微生物コロニーの観察後も培地上に多孔質膜を載置して微生物コロニーの培養を継続しても、微生物が孔を介して流動することないため、微生物コロニーが孔を介して拡大し、多孔質膜の上部表面まで成長させることができる。そして、多孔質膜を培地上から剥がし取ることで多孔質膜上に微生物コロニーの一部が付着した状態で培地から分離することができ、その後の観察等に利用することができる。
【0020】
多孔質膜に蛍光試薬等を付着物として付着させる方法は特に問わず、任意に選択することができる。
例えば、多孔質膜は、蛍光試薬等の溶液を湿潤させて使用することができる。蛍光試薬等の溶液を湿潤させた多孔質膜は、培地上に載置したときに蛍光試薬等の溶液が培地上の微生物に接触して染色することができる。また、多孔質に蛍光試薬等の溶液を湿潤させる方法として、例えば、溶液中に含浸、溶液を噴霧、溶液を塗布等の既知の手段を挙げることができる。
また、蛍光試薬等の溶液を多孔質膜に湿潤等させた後、乾燥させてもよい。培地の湿気等により乾燥している蛍光試薬等が溶解し、培地上の微生物に接触して染色することができる。このように蛍光試薬等を乾燥させた多孔質膜は、その取扱いを容易にし、保管性も向上させることができる。
更に、多孔質膜に蛍光試薬等の粉末を散布して付着させてもよい。また、多孔質膜を作成する際に蛍光試薬等を練り込んで一体に形成してもよい。
【0021】
多孔質膜に湿潤させる蛍光試薬等の溶液に、安定化剤を添加することができる。このような安定化剤の例として分散剤、pH緩衝剤、塩濃度調製剤を挙げることができる。より具体的な例としてジメチルスルホキシド(DMSO)又は界面活性剤を挙げることができる。これらを添加することにより多孔質膜に蛍光試薬等を湿潤する際に、場所によらず蛍光試薬等の濃度が均一となるように分散させることができ、微生物の染色を均一に行うことができる。また、多孔質膜を培地上に載置したときの蛍光試薬等の溶液の粘性を調節することができ、微生物が遊走したり、微生物コロニーが溶解したりすることによって、微生物コロニーの輪郭が溶解等しないよう制御することができる。更に、蛍光試薬等を付着させた多孔質膜の反りを抑制することができ、多孔質膜の表面を平坦にすることができる。そして、微生物の蛍光が多孔質膜により乱反射して観測精度が低下することを防止することができる。
DMSO、界面活性剤及び安定化剤の種類及び濃度は、微生物の増殖や、蛍光試薬等による染色を過度に阻害しない濃度において適時選択することができる。
【0022】
また、湿潤させた多孔質膜を乾燥させてもよい。例えば、蛍光試薬の溶液を多孔質膜に含浸させた後、乾燥させる。また、乾燥状態の蛍光試薬を多孔質膜に吹き付ける等により物理的に付着させてもよい。乾燥させた蛍光試薬を付着させた多孔質膜は、保存の管理が容易になる。
乾燥させた多孔質膜は、培地上に載置することで、培地の湿気により付着物を溶解させて染色することができる。また、培地上に載置後、水等の溶媒を噴霧することにより付着物を溶解させ、染色することができる。
尚、多孔質膜に蛍光試薬等を付着させる工程は、測定工程と同時に行ってもよい。例えば、培養工程を行った後、付着部を付着させることなく多孔質膜を培地上に載置し、次いで、培地上の多孔質膜に対して付着工程を行い、その後測定工程を行ってもよい。このとき、培地上に載置した多孔質膜に蛍光試薬を付着させる手段を任意に選択することができ、例えば、蛍光試薬の溶液を多孔質膜に滴下や噴霧等して付着させてもよいし、乾燥状態の蛍光試薬を多孔質膜に吹き付け等により付着させてもよい。
【0023】
多孔質膜を培地上に載置する多孔質膜載置工程は、付着物が付着する多孔質膜を培地等(培地上のフィルタ等)に載置することで、付着物を培地等に接触させ、微生物を付着物により染色させる工程である。多孔膜を載置する条件は特に問わないが、付着物の反応に適する温度(例えば25〜37℃)の温度下で行うことで、染色を促進させることができる。また、多孔質膜を予め所定の温度(例えば25〜37℃)になるまで加温してから載置しても良い。
【0024】
微生物コロニーの測定は、培地上に載置されている多孔質膜の上方から励起光を照射し、その多孔質膜を介して培地上の微生物から発せられる蛍光を上方から観測することで行われる。
照射する励起光は、蛍光試薬又は抗体によって得られる蛍光物質と、観測方法に合わせて適宜選択することができる。
また、微生物から発せられる蛍光を観測する手段は適宜選択することができ、例えば、蛍光顕微鏡等を用いた肉眼観察する、イメージセンサ等により撮像等を挙げることができる。イメージセンサ等により撮像を行う構成の例を図16に挙げる。図16に例示する撮像装置6は、光源62及び撮像素子63を備え、光源62から発せられる励起光が落射照明部61を介して照射されている培地1を、撮像素子63により撮像することにより画像を取得する。光源62は、対象となる微生物コロニーの蛍光の励起光を発するための光源であり、その種類を特に問わない。
例えば、光源62として、LEDランプ、水銀ランプ、ハロゲンランプ、レーザ発振器等を挙げることができる。落射照明部61は、培地1に照射する光源62の光路と、培地1を撮像する撮像素子63の光路の光軸と、を同一にするためのものであり、ダイクロイックミラーやプリズム等を組み合わせて構成することができる。撮像素子63は、微生物コロニーから発する蛍光の波長により撮像して、その画像を得ることができる手段であればよく、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ、SITイメージセンサ等を例示することができる。
また、落射照明部61又は撮像素子63にダイクロイックミラーや光学フィルタ等を任意に組み合わせて、撮像素子63に到達する蛍光の波長を選択したり、到着する波長の切替を行ったりすることができる。
【0025】
本微生物コロニーの測定方法においては、複数(多重)の染色を行ってもよい。例えば、複数の染色は、2種類以上の複数種類の微生物に対してそれぞれを特定するために、複数の蛍光試薬や抗体を任意に組み合わせて行うことができる。また、複数の微生物コロニーに対して特定の物質を生成しているかを特定するために行うことができる。
例えば、多孔質膜載置工程では、多孔質膜を1種類の微生物を染色する抗体の溶液と蛍光試薬の溶液とで多孔質膜を湿潤させて培地上に載置する。次に、測定工程では、載置されている多孔質膜に励起光を照射し、多孔質膜を介して抗体から発せられる蛍光と微生物から発せられる蛍光とをそれぞれ観測することにより微生物コロニーを測定することができる。これによって、1つの多孔質膜を用いて、多重染色によって選択的な染色を行うことができ、種類の異なる微生物のうち特定種類の微生物を識別して測定を行うことができる。
【0026】
また、複数の染色を行う場合において各染色を分けて行い、染色毎に測定工程を行ってもよい。
例えば、前記多孔質膜載置工程は、抗体を付着させた第1の多孔質膜を培地上に載置する第1の多孔質膜載置工程と、更に蛍光試薬を付着させた第2の多孔質膜を培地上の第1の多孔質膜上に載置する第2の多孔質膜載置工程と、を行うようにすることができる。そして、前記測定工程は、前記第1の多孔質膜載置工程後に第1の多孔質膜に励起光を照射し、第1の多孔質膜を介して抗体から発せられる蛍光を観測する第1の測定工程と、前記第2の多孔質膜載置工程後に第2の多孔質膜に励起光を照射し、第1の多孔質膜及び第2の多孔質膜を介して抗体から発せられる蛍光を観測する第2の測定工程と、を行うことができる。このようにすれば、第1の測定工程において抗体が発する蛍光を測定することができ、第2の測定工程において蛍光試薬により微生物全体が発する蛍光を測定することができる。このため、抗体による蛍光の波長と蛍光試薬による蛍光の波長とを区別して観測できない場合であっても、第1の測定工程において抗体により染色された1種類以上の微生物を測定することができる。次に、第2の多孔質膜載置工程を行った後に第2の測定工程を行うことによって、蛍光試薬によって染色された抗体による染色とは異なる1種類以上の微生物コロニーの全体を測定することができることとなる。
また、第1の測定工程の後に、抗体を失活させて、抗体と蛍光試薬が同時に蛍光を発しないようにしてもよい。このような失活の条件は適宜選択され、例えば4〜25℃の温度で所定時間静置することで行うことができる。
更に、複数の波長を放射する光源によって、複数波長の蛍光を発するようにし、観測時に各波長の蛍光をバンドパスフィルタ等によりそれぞれ選択して観察してもよい。
【0027】
本微生物コロニーの測定方法により、大腸菌の観測を行った。
1.実験例1
(1)培養工程
大腸菌を含む水溶液である検体をメンブレンフィルタ2(メルク社、HABG02500)によって濾過し、メンブレンフィルタ2に大腸菌5を付着させた(図2)。大腸菌5は、大きさが短軸0.4−0.7μm、長軸2.0−4.0μm程度の桿状体である。
このメンブレンフィルタ2をトリプトソイ寒天平板培地1上に載置した状態で、37℃の恒温槽内に5時間静置して培養し、大腸菌5の微生物コロニー4を形成させた(図3)。
【0028】
(2)多孔質膜載置工程
その後、多孔質膜3である厚さ0.1mm、平均孔径0.2μmの未着色PTFE製メンブレンフィルタ(メルクミリポア社、JGWP02500)を0.01mol/m3のCTC溶液に浸漬し、湿潤させた。そして、CTCを湿潤させた多孔質膜3を培地1上のメンブレンフィルタ2上に重ね合わせるように載置した。このとき、湿潤した多孔質膜3は着色されておらず、且つ透光性を備えており、図6に例示するように多孔質膜3下のメンブレンフィルタ2の表面の状態が透けて見える。その後、37℃の恒温槽内で5分以上静置した(図4)。
【0029】
(3)測定工程
多孔質膜3及びメンブレンフィルタ2を載置した培地1をシャーレに移し、蓋をした後、培地1の上方から多孔質膜3に向けて励起光を照射して、蛍光顕微鏡により培地1上から多孔質膜3を介して観察、及び撮影を行った(図1図5)。
図5に示すように、メンブレンフィルタ2を介した状態で合っても、微生物コロニー4から発せられる蛍光を確認することができた。また、微生物コロニー4の形状も輪郭が崩れたりすることがなく円形状であった。
更に、撮影後、多孔質膜3を載置した状態で、37℃の恒温槽に戻し、18時間静置して、追加の培養を行った(図6図7)に示す。次いで、多孔質膜3を剥がして撮影したメンブレンフィルタ2上の画像を図7に示す。
図6に示すように、メンブレンフィルタ2上の各微生物コロニー4は、多孔質膜3が載置されていてもその輪郭が崩れることなく存在していることを、多孔質膜3を介して観察することができる。また、図7に示すように、多孔質膜3を除去しても輪郭が崩れることなく存在していることが分かる。
【0030】
2.比較例1
実験例1と同じ条件で平均孔径を10μmとした多孔質膜(メルクミリポア社、JGWP02500)を用いて染色を行った比較例1の結果を図8に示す。図8に示すように、多孔質膜の孔の大きさが微生物(大腸菌)よりも大きいため、コロニーを構成する微生物が流動して、多孔質膜の全体に分散したため観測ができない状態となった。
【0031】
3.実験例2
次いで、染色による観察を行った。
(1)培養工程
乳酸菌(Lactobacillus casei)をミスラ法により培養した。始めに、寒天培地に乳酸菌を含む検体を滴下・浸透させ、好気条件で20時間培養を行い、乳酸菌のコロニーを形成させた。
【0032】
(2)多孔質膜載置工程
その後、多孔質膜である厚さ0.1mm、平均孔径0.2μmの未着色PTFE製メンブレンフィルタを0.01mol/m3のCTC溶液に浸漬させた。そして、CTCを湿潤させた多孔質膜を培地上のメンブレンフィルタ上に重ね合わせるように載置し、37℃の恒温槽内で5分以上静置した。
【0033】
(3)測定工程
多孔質膜及びメンブレンフィルタを載置した培地をシャーレに移して蓋をした後、上方から多孔質膜に向けて励起光を照射して、蛍光顕微鏡により観察、及び撮影を行った(図9図10)。
図9図10に示すように、実施例1と同様に微生物コロニーが観察できることが分かる。
また、撮影後、多孔質膜を載置した状態で37℃の恒温槽に戻した後、24時間静置して、追加の培養を行った画像を図11に示す。次いで、多孔質膜を剥がして撮影したメンブレンフィルタ上の画像を図12に示す。
図11に示すように、培地上の各微生物コロニーは、多孔質膜が載置されていてもその輪郭が崩れることなく存在していることが、多孔質膜を介して観察することができる。また、図12に示すように、多孔質膜を除去しても輪郭が崩れることなく存在していることが分かる。
【0034】
4.実験例3
複数の微生物が存在する培地を二重染色法による観察を行った。
(1)培養工程
微生物として、病原大腸菌(O157、GTC03904株)と、一般大腸菌(ATCC8739株)を含む生理食塩水である検体をメンブレンフィルタ(メルク社、HABG02500)によって濾過し、メンブレンフィルタに各大腸菌を付着させた。
各大腸菌が付着したメンブレンフィルタをトリプトソイ寒天寒天平板培地上に載置した状態で、恒温槽内に37℃5時間静置して培養し、各大腸菌の微生物コロニーを形成させた。
【0035】
(2)第1多孔質膜載置工程及び第1測定工程
その後、第1多孔質膜である厚さ0.1mm、平均孔径0.2μmの未着色PTFE製メンブレンフィルタ(メルクミリポア社、JGWP02500)を0.1mg/mLの抗体(Kirkegaard & Perry Laboratories社、02-95-90、Anti-E.coli O157:H7, Goat-Poly, FITC, BacTrace)の溶液に浸漬し、湿潤させて、培地上のメンブレンフィルタ上に載置した(第1の多孔質膜載置工程)。
前記第1の多孔質膜載置工程の後、第1多孔質膜及びメンブレンフィルタを載置した培地をシャーレに移し、蓋をした後、図16に例示するように、複数のダイクロイックミラーを用いた落射照明部61を介して上方から第1多孔質膜に向けて光源62であるLEDライトにより励起光(中心波長490nm)を照射して、525nm以上の波長を透過するように設計された光学フィルタを取り付けたCCDカメラ63によって撮影を行った(第1測定工程、図5図13)。抗体による蛍光の波長は530nmであり、図13は抗体により発色した病原大腸菌のコロニーの分布を表している。
【0036】
(3)第2多孔質膜載置工程及び第2測定工程
更に、第1多孔質膜と同種の第2多孔質膜を0.01mol/m3のCTC溶液に湿潤させて、第1多孔質膜上に載置した(第2の多孔質膜載置工程)。このとき、培地から順にメンブレンフィルタ、第1多孔質膜、第2多孔質膜が積層された状態となる。このとき、第2多孔質膜に付着しているCTCが、第1多孔質膜内に分散し、メンブレンフィルタ上の各微生物に接触することで、各微生物を染色する。
前記第2の多孔質膜載置工程の後、蓋をしたシャーレの上方から第2多孔質膜に向けて励起光(中心波長490nm)を照射して、630nm以上の波長を透過するように設計された光学フィルタを取り付けたCCDカメラによって撮影を行った(図14)。図14はCTCにより発色した一般大腸菌のコロニーの分布を表している。
上記のような測定工程によって、第1多孔質膜及び第2多孔質膜を介した状態であっても、別種の微生物コロニーから発せられる蛍光を識別することが可能になる。また、微生物コロニーの形状も、輪郭が崩れたりすることがなく円形状に保たれている。
【0037】
5.実験例4
微生物コロニーの測定方法による二重染色法による観察は、複数枚の多孔質膜を用いる実験例3の方法に限られない。抗体の蛍光波長と、染色剤の蛍光波長とは異なるため、複数の多孔質膜載置工程をまとめることができる。
例えば、多孔質膜載置工程として前記抗体と、前記CTCとを混合した溶液を多孔質に湿潤させた多孔質膜を培地上に載置させた後、第1測定工程として波長530nm付近を透過するバンドパスフィルタを取り付けたCCDカメラによって撮影を行い(図15(a)、(b))、その後、第2測定工程として波長630nm付近を透過するバンドパスフィルタを取り付けたCCDカメラによって撮影を行うことにより、抗体及び染色剤の蛍光をそれぞれ撮影することができる(図15(c))。
このように、撮影可能な蛍光を制限することにより単一の多孔質膜載置工程であっても、病原大腸菌のコロニー分布と、一般大腸菌と病原大腸菌を合わせた微生物コロニーの分布を観察することができる。
【0038】
本発明は以上で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1;培地、2;メンブレンフィルタ、3;多孔質膜、4;微生物コロニー、5;微生物、6;撮像装置、61;落射照明部、62;光源、63;カメラ、63;撮像素子。
図1
図2
図3
図4
図16
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15