【解決手段】藻類の破砕方法は、不等毛植物門に属する微細藻類に対して、グリセリンを含む処理液中に前記微細藻類を保持するグリセリン処理をした後、高圧分散装置を用いて物理的処理をする。
不等毛植物門に属する微細藻類に対して、グリセリンを含む処理液中に前記微細藻類を保持するグリセリン処理をした後、高圧分散装置を用いて物理的処理をする、藻類の破砕方法。
前記処理液のグリセリン濃度は、前記処理液に含まれる前記微細藻類の乾燥質量に対して0.01質量%以上、1500質量%以下とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の藻類の破砕方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<不等毛植物門に属する微細藻類>
本開示において、不等毛植物門に属する微細藻類とは、微細藻類のうち、不等毛植物門に属するものをいう。微細藻類とは、酸素を発生する光合成を行う生物の中からコケ植物、シダ植物、及び種子植物を除いた残りのうちの、細胞サイズが直径約1μm〜100μmのものをいう。なお、細胞サイズは、光学顕微鏡を用いて観察倍率400倍で測定した細胞の長軸径である。不等毛植物門に属する微細藻類の具体例としてはBacillariophyceae綱、及びEustigmatophyceae綱等が挙げられる。Bacillariophyceae綱の微細藻類の具体例としては、Chaetoceros属、Nitzschia属、及びSkeletonema属等が挙げられる。Eustigmatophyceae綱の微細藻類の具体例としては、Nannochloropsis(ナンノクロロプシス)属が挙げられる。このうち、脂質の生産性及び脂質の回収性の観点から、Eustigmatophyceae綱の微細藻類が好ましく、中でもNannochloropsis属がより好ましい。Nannochloropsis属の藻類としてはNannochloropsis oculata、Nannochloropsis salina、及びNannochloropsis gaditanaなどが例示される。微細藻類は、沼や池等に生息するものを採取したものでも、培養したものでもよく、更には商業的に入手したものでもよい。
【0011】
<破砕方法>
本実施形態の藻類の破砕方法は、藻類を破砕して藻類の破砕物を得る。具体的に、不等毛植物門に属する微細藻類に対して、グリセリン処理をした後、高圧分散装置を用いて物理的処理をする。
【0012】
物理的処理よりも前に、不等毛植物門に属する微細藻類に対して、酵素による酵素処理をすることもできる。この場合の酵素には、例えばヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びラミナリナーゼから選ばれた1種以上を用いることができる。
【0013】
本実施形態の破砕方法は、採取又は培養等により得られた、藻類が分散媒中に分散した分散液をそのまま処理液として行うことができる。また、処理液中に含まれる微細藻類の濃度(以下、藻体濃度ともいう。)を調整するための希釈又は濃縮等の操作を行ってから破砕することもできる。更に、分散媒の置換又は添加物の添加等の処理を行ってもよい。藻類を培養した後、常温若しくは低温において溶液状態で保存したり、凍結保存したりすることもできる。
【0014】
本実施形態の破砕方法において処理液の藻体濃度は、特に限定されない。生産性を向上させる観点、藻類を効率良く破砕する観点及び脂質を効率良く回収する観点からは、0.5g/L以上が好ましく、0.8g/L以上がより好ましく、5g/L以上が更に好ましく、30g/L以上がより更に好ましい。また、藻類を効率良く破砕する観点、脂質を効率良く回収する観点及び処理液の流動性の観点から、200g/L以下が好ましく、150g/L以下がより好ましく、100g/L以下が更に好ましく、80g/L以下がより更に好ましく、60g/L以下がより更に好ましい。グリセリン処理と物理的処理とをそれぞれ異なる濃度で行ってもよい。濃度の調整方法は特に限定されない。濃縮方法としては例えばろ過、圧搾、遠心分離、重力沈降、凝集沈降、加圧浮上又は分散媒の蒸発等の方法が挙げられる。上記の方法を組み合わせて多段階の濃縮を行ってもよい。希釈方法としては例えば水等の液体を添加する方法が挙げられる。なお、処理液中の微細藻類の濃度は、実施例に記載された方法により測定された値である。
【0015】
−グリセリン処理−
グリセリン処理は、不等毛植物門に属する微細藻類を、グリセリンを含む処理液中に保持することにより行うことができる。グリセリン処理の回数は1回とすることができるが、2回以上行うこともできる。
【0016】
処理液のグリセリン濃度は、処理液に含まれる微細藻類の乾燥質量に対して、微細藻類を効率良く破砕する観点から、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上であり、更に好ましくは0.5質量%以上であり、より更に好ましくは1質量%以上であり、より更に好ましくは3質量%以上である。また、微細藻類を効率良く破砕する観点及び経済性の観点から、好ましくは1500質量%以下であり、より好ましくは500質量%以下であり、更に好ましくは100質量%以下であり、より更に好ましくは20質量%以下である。
【0017】
グリセリン処理の処理時間は、微細藻類を効率良く破砕する観点から、好ましくは0.5時間以上であり、より好ましくは8時間以上であり、更に好ましくは12時間以上であり、より更に好ましくは20時間以上である。また、生産性の観点から、好ましくは48時間以下であり、より好ましくは36時間以下であり、更に好ましくは30時間以下である。
【0018】
グリセリン処理の温度は、経済性の観点から、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは15℃以上であり、更に好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは45℃以下であり、更に好ましくは40℃以下である。グリセリン処理の間を通じて一定の温度とすることができるが、処理の間に温度が変化してもよい。例えば、屋外で微細藻類を培養する場合、特に温度を制御せずに外気温下においてグリセリン処理することができる。
【0019】
グリセリン処理を行う際の処理液のpHは特に限定されず、例えば微細藻類の培養液等のpHを調整することなくそのまま処理することができる。但し、グリセリン処理の効果は、グリセリンと微細藻類の細胞壁との何らかの化学反応によるものであると考えられるため、化学反応を効率良く進めるという観点から、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは3.5以上あり、更に好ましくは4.0以上であり、より更に好ましくは4.5以上であり、また、好ましくは9.0以下であり、より好ましくは8.5以下であり、更に好ましくは8.0以下であり、より更に好ましくは7.5以下である。後に示す酵素処理の際のpHとグリセリン処理の際のpHとを合わせることもできる。pHは、JIS Z8802に従った測定方法により、処理液の温度を25℃として測定することにより求めることができる。
【0020】
グリセリン処理をする際の処理液の分散媒は、特に限定されないが、経済性の観点から水が好ましい。水は精製されていても、不純物を含んでいてもよい。また、海水であってもよい。処理液が、塩化ナトリウム等の塩、窒素若しくはリンを含む化合物、微量金属、無機系凝集剤、有機系凝集剤、キレート剤、及び緩衝剤等の添加物のいずれか1つ又は2つ以上を含んでいてもよい。水を主成分とする培養液により微細藻類を培養した場合には、微細藻類の培養液をそのまま又は希釈等をしてグリセリン処理することができる。培養液又はその希釈液を処理液とする場合には、処理液が通常の培養液に含まれる種々の成分を含んでいてかまわない。培養液を希釈する場合には、水又は所定の添加物を含む水溶液を用いることができる。また、培養液を水又は所定の添加物を含む水溶液に置換してからグリセリン処理してもよい。
【0021】
−物理的処理−
物理的処理は、高圧分散装置により行うことができる。高圧分散装置は、基本的に、固体粒子や液滴粒子等の分散質を含む処理液を加圧した状態で狭い流路を通過させ、その後急激に減圧することで処理液中の固体粒子や液滴粒子等の分散質を更に分散又は粉砕する装置である。高圧分散装置は、工業化において大量処理が可能であるという観点からも好ましい。
【0022】
処理液の加圧には高圧ポンプを用いることができる。処理液を通過させる狭い隙間を有する流路は、所定の圧力等を加えることができればどのような構造としてもよい。必要とする圧力等によって隙間の幅等の値は適宜変えればよいが、例えば、流路を直径が1μm〜2000μm程度の直管とすることができる。また、1μm〜2000μm程度の穴を有するオリフィスが直管の流路の途中に配置されている構造としてもよい。1μm〜2000μm程度の隙間を有するスリットが直管の流路の途中に配置されている構造とすることもできる。また、バルブの先端とバルブ受けの隙間に流路を形成させ、バルブの開度を調整することで、隙間の間隔を1μm〜2000μm程度としてもよい。更に、1μm〜2000μm程度の隙間の流路を対向させて配置し、処理液同士を衝突させてもよい。流路の方向を例えば直角に曲げるなど急激に変化させて、流路の壁面に処理液を衝突させてもよい。
【0023】
このような処理を行う装置として種々の構成のものを用いることができるが、微細藻類を効率良く破砕する観点から、例えば均質バルブを有する均質バルブ式の高圧分散装置及びチャンバを有するチャンバ式の高圧分散装置等を用いることが好ましい。中でも、少量処理が可能である観点からチャンバ式の高圧分散装置が好ましく、工業化においては大量処理が可能である観点から均質バルブ式の高圧分散装置が好ましい。
図1には均質バルブ100の一例を示す。均質バルブ100は、吐出孔が形成された均質バルブシート(バルブ受け)101と、均質バルブシート101の吐出口と対向する位置に配置された均質バルブ本体102と、均質バルブ本体102を囲むインパクトリング103とを有する。均質バルブシート101、均質バルブ本体102及びインパクトリング103が形成する間隙を通過する際に処理液には大きな圧力が加わり、間隙を通過した後は急激に減圧される。吐出孔から吐出された処理液中の分散質は、均質バルブ本体102及びインパクトリング103に衝突する。間隙を通過する際のせん断応力、衝突による衝撃力、及び間隙を通過した後の圧力降下によるキャビテーションにより、分散質が粉砕される。
【0024】
均質バルブシート101、均質バルブ本体102及びインパクトリング103が形成する間隙の大きさを変化させることにより分散質に加わる剪断力を調整できる。均質バルブシート101と均質バルブ本体102とが互いに対向する面は、平滑面とすることができる。また、流路を長くし、分散質に十分に強い剪断力を与えることを目的として、流路となる壁面に凹凸を形成することもできる。また、インパクトリング103が設けられていない構成とすることもできる。
【0025】
また、物理的処理にはチャンバ式の高圧分散装置を用いることもできる。チャンバ式の高圧分散装置は、処理液を互いに衝突させる又は壁面等と衝突させる形式ものと、衝突させない形式ものとがある。
【0026】
処理液同士を衝突させる形式のチャンバ式高圧分散装置は、例えば
図2に示すようなチャンバ110を有している。チャンバ110は、複数の処理液の流入管路111と、流入管路111と同数のせん断管路112と、単一の流出管路113とが順次連結され、複数のせん断管路112の流出管路113に近い方の端が1カ所で接続されており、接続箇所において処理液同士を衝突させる。流入管路111及び流出管路113よりも細いせん断管路112におけるせん断応力、処理液同士の衝突による衝撃力、及び流出管路113における圧力降下によるキャビテーションにより、分散質が粉砕される。
【0027】
処理液と壁面とを衝突させる形式のチャンバ式高圧分散装置は、例えば
図3に示すようなチャンバ120を有している。チャンバ120は、各々単一の、液体の流入管路121と、せん断管路122と、流出管路123とが順次連結されている。せん断管路122と流出管路123とのなす角度は直角となっており、せん断管路122の液体流を流出管路123の内壁に衝突させる。せん断管路122におけるせん断応力、処理液と壁面との衝突による衝撃力、及び流出管路123における圧力降下によるキャビテーションにより、分散質が粉砕される。
【0028】
処理液を衝突させない形式のチャンバ式高圧分散装置は、例えば流路中に狭いせん断管路が設けられており、せん断管路におけるせん断応力と、拡がった流出管路における圧力降下によるキャビテーションにより、分散質が粉砕される。
【0029】
これらの形式の高圧分散装置に限らず、他の形式の高圧分散装置を用いることもできる。
【0030】
いずれの形式の高圧分散装置についても、微細藻類の物理的処理に用いる場合には、処理液に加える圧力(入口圧)は、藻類を効率良く破砕する観点から、ゲージ圧で10MPa以上、好ましくは30MPa以上、より好ましくは50MPa以上、更に好ましくは80MPa以上であり、経済性の観点から、好ましくは200MPa以下、より好ましくは150MPa以下、更に好ましくは120MPa以下である。藻類を効率良く破砕する観点及び経済性の観点から、減圧後の圧力(出口圧)は大気圧(絶対圧で0.1MPa)とすることができる。流路の構造等により完全に大気圧まで減圧されなくてもよく、出口圧は絶対圧で、好ましくは0.3MPa以下、より好ましくは0.2MPa以下、更に好ましくは0.15MPa以下、より更に好ましくは0.11MPa以下である。
【0031】
均質バルブ式の高圧分散装置の具体例としては、圧力式ホモジナイザー(株式会社エスエムテー)、高圧ホモゲナイザー(株式会社イズミフードマシナリ)、及びミニラボ8.3H型(Rannie社)等が挙げられる。チャンバ式の高圧分散装置の例としては、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社)、ナノヴェイタ(エス・ジーエンジニアリング株式会社、吉田機械興業株式会社)、スターバースト(スギノマシン株式会社)、アルティマイザー(スギノマシン株式会社)、ジーナスPY(白水化学株式会社)、及びDeBEE2000(日本ビーイーイー株式会社)等が挙げられる。これらのうち、少量処理が可能である観点からナノヴェイタが好ましく、工業化においては大量処理が可能である観点から圧力式ホモジナイザーが好ましい。
【0032】
グリセリン処理の後、他の処理を行うことなく物理的処理を行うことができる。物理的処理の際に処理液がグリセリンを含んでいても、物理的処理を行うことができる。グリセリン処理の後すぐに物理的処理を行うことができるが、グリセリン処理の後、処理液を一旦保存してから物理的処理を行うこともできる。処理液を保存する場合、保存温度は、必要とするエネルギーを低減する観点から20℃前後程度の常温とすることができる。処理液は、凍結保存することもできる。グリセリン処理の後、物理的処理の前に処理液の濃縮、希釈又は分散媒の置換、処理液のpH調整等の操作を行うこともできる。
【0033】
物理的処理の回数は1回とすることができるが、2回以上行うこともできる。また、グリセリン処理と物理的処理とのサイクルを複数回繰り返すようにすることもできる。
【0034】
グリセリン処理の後に物理的処理を行うことにより不等毛植物門に属する微細藻類を効率良く破砕することができる。不等毛植物門に属する微細藻類である場合には、先に示したようなグリセリン処理と物理的処理との組み合わせとすることにより、物理的処理単独の場合よりも破砕効率を大きく向上させることができる。本実施形態の破砕方法においては、グリセリン処理に要するエネルギーは小さく、費用も非常に低く抑えられる。このため、物理的処理単独の場合と比べて、単純に破砕率が向上するだけでなく、必要とするエネルギーや費用を考慮した実質的な効率についても大きく向上する。また、グリセリン処理が数十時間〜数日間に及んだとしても、大きなエネルギーは必要とせず、グリセリン処理費用も低く抑えられる。また、サイクルタイムについても許容の範囲内であり、実質的な破砕率の向上効果が十分に得られる。
【0035】
−酵素処理−
微細藻類を更に効率良く破砕するために、物理的処理よりも前に、酵素処理を行うことができる。酵素処理は、グリセリン処理の際に添加されたグリセリンの影響を避けることができるため、グリセリン処理の前に行うことが好ましい。但し、グリセリン処理と物理的処理との間に行うことも、グリセリン処理の前後両方で行うこともできる。酵素処理の後にグリセリン処理を行う場合、処理液が酵素を含んだ状態でグリセリン処理を行うことができる。また、溶媒の置換等を行い、酵素が除去された状態でグリセリン処理を行うこともできる。酵素処理の回数は1回とすることができるが、2回以上行うこともできる。酵素処理を2回以上行う場合、それぞれ異なる種類の酵素により処理を行うこともできる。酵素処理とグリセリン処理とのサイクルを複数回繰り返すこともできる。また、酵素処理とグリセリン処理と物理的処理とのサイクルを複数回繰り返すこともできる。
【0036】
酵素処理に用いる酵素は、微細藻類を効率良く破砕する観点から、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びラミナリナーゼから選択された1種以上とすることが好ましい。
【0037】
ヘミセルラーゼは、ヘミセルロースを分解する酵素を総称する。例えば、「セルラーゼ」第1刷(村尾 沢夫著)に記載されているように、ヘミセルロースとは、陸上植物の細胞壁を構成するセルロース、及びペクチン以外の多糖である。主なヘミセルロースの例として、キシラン、及びガラクトマンナン等が挙げられる。前者を分解する酵素の総称として、キシラナーゼと表記され、後者を分解する酵素の総称として、マンナナーゼと表記される。すなわち、ヘミセルラーゼは、キシラナーゼとマンナナーゼとを包括する。市販のヘミセルラーゼの例として、アスベルギルスニゲル(Aspergillus niger)由来のヘミセルラーゼである「H2125」(Sigma-Aldrich社製)が挙げられる。また、市販のマンナナーゼの例としては、セルロシンGM5(HBI社製)、マンナナーゼBGM「アマノ」10(天野エンザイム社製)、及びスミチームACH(新日本化学工業社製)等が挙げられる。また、市販のキシラナーゼの例として、セルロシンTP25(HBI社製)、及びスミチームX(新日本化学工業社製)等が挙げられる。
【0038】
セルラーゼは、セルロース中のβ-1,4-グルコシド結合を加水分解する酵素を総称する。セルロースは、グルコースのみがβ-1,4結合した多糖である。市販のセルラーゼの例としては、セルラーゼオノズカ R-10(ヤクルト薬品工業社製)、及びセルラーゼA「アマノ」3(天野エンザイム社製)等が挙げられる。
【0039】
ペクチナーゼは、ペクチン質の分解に関係する酵素類を意味する。ペクチン質は、ガラクチュロン酸がα-1,4のグルコシド結合で鎖状に重合したオリゴガラクチュロン酸、ポリガラクチュロン酸及びそれらのメチルエステル等からなっている。ペクチナーゼは、ポリガラクチュロナーゼ、ペクチンリアーゼ、及びペクチンエステラーゼの3種に大別される。市販のペクチナーゼ製剤は、いずれも、これらの酵素類の複数を含む酵素組成からなる。市販のペクチナーゼ製剤の例としては、セルロシンPE60(HBI社製)、Macerozyme R-10(ヤクルト薬品工業社製)、及びペクチネックスウルトラ(Novozymes社製)等が挙げられる。
【0040】
ラミナリナーゼは、β-D-グルカン中のβ-1,3-のグルコシド結合の還元基側に隣接するβ-1,3又はβ-1,4-グルコシド結合,ラミナリン,(1,3;1,4)-β-Dグルカンを加水分解する酵素である。ラミナリナーゼの例として、Trichoderma sp.由来のラミナリナーゼである「L5272」(Sigma-Aldrich社製)、及びLaminarinase, from Trichoderma sp.(和光純薬工業社製)等が挙げられる。
【0041】
ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びラミナリナーゼの中でも破砕効率の観点から、好ましくはヘミセルラーゼ、又はセルラーゼであり、より好ましくはヘミセルラーゼである。これらの酵素は、単独で使用することができる。また、複数種類を組み合わせて用いてもよい。また、酵素以外の細胞壁分解物質含んでいてもよい。酵素以外の細胞壁分解物質としては、例えば、塩、アルカリ、界面活性剤及び洗剤等が挙げられる。これらの細胞壁分解物質は複数組み合わせて用いてもよい。
【0042】
酵素処理は、所定濃度に調製した酵素溶液を、微細藻類を含む処理液に添加することにより行うことができる。また、所定濃度に調製した酵素溶液に微細藻類を分散させてもよい。微細藻類を含む処理液に乾燥状態の酵素を加えて溶解させることも可能である。
【0043】
酵素処理の条件は、使用する酵素が作用する条件とすればよい。例えば、処理液のpHは、酵素活性の観点から、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは3.5以上であり、更に好ましくは4.0以上であり、より更に好ましくは4.5以上であり、また、好ましくは8.0以下であり、より好ましくは7.0以下であり、更に好ましくは6.5以下である。pHは、JIS Z8802に従った測定方法により、処理液の温度を25℃として測定することにより求めることができる。
【0044】
酵素処理の温度は、酵素活性の観点から、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは25℃以上であり、更に好ましくは30℃以上であり、また、好ましくは60℃以下であり、より好ましくは50℃以下であり、更に好ましくは45℃以下であり、より更に好ましくは40℃以下である。
【0045】
酵素濃度は、使用する酵素及び必要とする処理効率等に応じて適切な濃度とすればよい。例えば、分散液中に含まれる微細藻類の乾燥質量に対して、藻類の破砕性及び処理効率の観点から、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、更に好ましくは0.05質量%以上であり、より更に好ましくは0.1質量%以上であり、より更に好ましくは0.5質量%以上である。また、藻類の破砕性及び経済性の観点から、好ましくは100質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。
【0046】
酵素処理の処理時間は、処理効率の観点から、好ましくは0.5時間以上であり、より好ましくは8時間以上であり、更に好ましくは12時間以上であり、より更に好ましくは20時間以上である。生産性の観点から、好ましくは48時間以下であり、より好ましくは36時間以下であり、更に好ましくは30時間以下である。
【0047】
物理的処理よりも前に、酵素処理を行うことにより、グリセリン処理単独の場合よりも更に効率良く微細藻類の破砕を行うことができる。
【0048】
<微細藻類からの脂質の回収>
以上説明した本実施形態の藻類の破砕方法により得られた藻類の破砕物に対して脂質の回収処理を行うことにより藻類から脂質を回収することができる。破砕率が高いほど、微細藻類の分散液からの脂質の回収率が向上する。従って、微細藻類を効率良く破砕できる本実施形態の破砕方法により、不等毛植物門に属する微細藻類を破砕してから脂質を回収することにより、脂質の回収率を大きく向上することができる。また、微細藻類の破砕率を高くすることにより、回収に用いる溶媒の量を低減できたり、回収に必要とするエネルギーや費用を低減できたりするという利点も得られる。
【0049】
−脂質−
本開示において、脂質には、単純脂質、複合脂質及び誘導脂質が含まれる。単純脂質には、油脂又は脂肪酸エステルなどの脂肪酸と各種アルコールとのエステル等が含まれる。複合脂質には、脂肪酸、アルコール及びリン酸を含むリン脂質、並びに脂肪酸、アルコール及び糖を含む糖脂質等が含まれる。誘導脂質には、単純脂質又は複合脂質の加水分解生成物であり、水に不溶性の脂肪酸、高級アルコール、ステロール、テルペン、及び脂溶性ビタミン等が含まれる。脂質の回収性の観点から、単純脂質又は複合脂質が好ましく、単純脂質がより好ましく、油脂が更に好ましい。
【0050】
−油脂−
油脂とは、脂肪酸とグリセリンとのエステルを意味し、具体的には、モノグリセリド、ジグリセリド、及びトリグリセリドのような中性脂質をいう。油脂を構成する脂肪酸は、単一でなくてよい。
【0051】
−脂肪酸−
脂肪酸は、炭素数が2〜4の短鎖脂肪酸、炭素数が5〜12の中鎖脂肪酸、及び炭素数が13以上の長鎖脂肪酸のいずれであってもよい。また、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよい。飽和脂肪酸の具体例としては、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、及びイコサン酸が挙げられる。一価の不飽和脂肪酸の具体例としては、9−ヘキサデセン酸、及び9−オクタデセン酸等が挙げられる。多価の不飽和脂肪酸の具体例としては、9,12−オクタデカジエン酸、6,9,12−オクタデカトリエン酸、5,8,11,14−イコサテトラエン酸、9,12,15−オクタデカトリエン酸、5,8,11,14,17−イコサペンタエン酸、及び4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸が挙げられる。
【0052】
−脂肪酸エステル−
脂肪酸エステルとは、油脂以外の、脂肪酸とアルコールとのエステルであり、長鎖脂肪酸と1価又は2価の高級アルコールとのエステルである蝋や、中鎖脂肪酸と低級又は高級アルコールとのエステルである中鎖脂肪酸エステル等を含む。
【0053】
−脂質の回収処理−
脂質の回収処理は、微細藻類の破砕物を含む分散液から脂質を分取することができれば特に限定されない。例えば、脂質の回収処理として溶媒抽出、遠心分離、静置処理、及びカラムクロマトグラフィー等から選ばれた1種又は2種以上の組み合わせを用いることができる。中でも、脂質の回収性の観点から、溶媒抽出、遠心分離及び静置処理から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせが好ましく、中でも溶媒抽出と遠心分離との組み合わせ、又は溶媒抽出と静置処理との組み合わせが好ましい。
【0054】
溶媒抽出は、微細藻類を破砕して得た破砕物を含む分散液に抽出用の溶媒を添加して混合すればよい。溶媒を添加した後、攪拌を行ってもよい。微細藻類から溶出した脂質は、溶媒に溶解するため、溶媒相と水相とを相分離させて、溶媒相を回収することにより、脂質を回収することができる。
【0055】
溶媒抽出に用いる溶媒は、適宜選択することができ、例えば、特開2015−124239号公報に記載の溶媒等を用いることができる。また、超臨界二酸化炭素等を用いた超臨界抽出を用いることもできる。更に、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、又は亜臨界抽出等を用いることもできる。例えば、「生物化学実験法24 植物脂質代謝実験法」(山田晃弘 編著、株式会社学会出版センター、p3−4)に記載の方法を参考にすることができる。
【0056】
溶媒抽出の温度は特に限定されないが、脂質の回収性の観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上である。また、上記観点及び溶媒を加温する等の経済性の観点から、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下、さらにより好ましくは40℃以下である。
【0057】
また、溶媒抽出の回数は1回でもよく、2回以上行ってもよい。溶媒抽出を2回以上行う場合は、同じ溶媒により行っても、異なる溶媒により行ってもよい。
【0058】
遠心分離は、分離板型、円筒型、又はデカンター型等の一般的な機器を使用することができる。この場合の遠心力は、脂質の回収性の観点から、好ましくは500G以上、より好ましくは1000G以上とすることができる。また、経済性の観点から、好ましくは10000G以下、より好ましくは5000G以下、更に好ましくは2000G以下とすることができる。
【0059】
遠心分離の処理時間は、脂質の回収性の観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上、更に好ましくは10分以上とすることができる。また、経済性の観点から、好ましくは80分以下、より好ましくは40分以下、更に好ましくは20分以下とすることができる。
【0060】
遠心分離の際の温度は特に限定されないが、脂質の回収性及び経済性の観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上であり、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下である。
【0061】
溶媒抽出と遠心分離とを組み合わせる場合には、溶媒相と水相との分離を遠心分離により迅速に行うことができる。
【0062】
静置処理は、脂質と水相とが相分離するまで処理液を静止状態に置けばよい。溶媒抽出と組み合わせる場合には、溶媒相と水相とが相分離するまで静止状態とすればよい。
【0063】
本開示の藻類から脂質を回収する方法によれば、このような簡便な操作により、体内に脂質を蓄積した微細藻類から高い回収率で脂質を回収することができる。
【0064】
微細藻類から回収された脂質は、直接又は精製処理若しくは分解処理等を行ってバイオディーゼル燃料等のバイオ燃料として用いることができる。また、機能性食品、医薬品、化成品、及び化粧品等の原料として用いることができる。
【0065】
破砕した微細藻類から脂質を回収する方法について説明したが、糖質及び蛋白質等の脂質以外の生成物を回収して利用することもできる。これらの回収について既知の方法を用いることができる。
【0066】
上述した実施の形態に関し、本開示は更に以下の藻類を破砕する方法及び藻類から脂質を回収する方法を開示する。
【0067】
<1>
不等毛植物門に属する微細藻類に対して、グリセリンを含む処理液中に前記微細藻類を保持するグリセリン処理をした後、高圧分散装置を用いて物理的処理をする、藻類の破砕方法。
【0068】
<2>
前記微細藻類が、ナンノクロロプシス属である、<1>に記載の藻類の破砕方法。
【0069】
<3>
前記グリセリン処理の処理時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは8時間以上、更に好ましくは12時間以上、より更に好ましくは20時間以上であり、好ましくは48時間以下、より好ましくは36時間以下、更に好ましくは30時間以下である、<1>又は<2>に記載の藻類の破砕方法。
【0070】
<4>
前記処理液のグリセリン濃度は、前記処理液に含まれる前記微細藻類の乾燥質量に対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは3質量%以上であり、好ましくは1500質量%以下、より好ましくは500質量%以下、更に好ましくは100質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0071】
<5>
前記物理的処理の圧力は、ゲージ圧で好ましくは10MPa以上、より好ましくは30MPa以上、更に好ましくは50MPa以上、より更に好ましくは80MPa以上であり、好ましくは200MPa以下、より好ましくは150MPa以下、更に好ましくは120MPa以下の圧力を加えた後、絶対圧で、好ましくは0.3MPa以下、より好ましくは0.2MPa以下、更に好ましくは0.15MPa以下、より更に好ましくは0.11MPa以下、より更に好ましくは大気圧(0.1MPa)である、前記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0072】
<6>
前記物理的処理よりも前に、酵素処理を行う、<1>〜<5>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0073】
<7>
前記酵素処理は、前記グリセリン処理よりも前に行う、<6>に記載の藻類の破砕方法。
【0074】
<8>
前記酵素処理は、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びラミナリナーゼから選ばれた1種以上の酵素により行う、<6>又は<7>に記載の藻類の破砕方法。
【0075】
<9>
前記酵素処理におけるpHは、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.5以上、更に好ましくは4.0以上、より更に好ましくは4.5以上であり、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.0以下、更に好ましくは6.5以下である、、<6>〜<8>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0076】
<10>
前記酵素処理の温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、更に好ましくは30℃以上であり、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下であり、更に好ましくは45℃以下であり、より更に好ましくは40℃以下である、<6>〜<9>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0077】
<11>
前記酵素処理における酵素濃度は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、より更に好ましくは0.1質量%以上であり、より更に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは100質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である、<6>〜<10>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0078】
<12>
前記酵素処理の処理時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは8時間以上、更に好ましくは12時間以上、より更に好ましくは20時間以上であり、好ましくは48時間以下、より好ましくは36時間以下、更に好ましくは30時間以下である、<1>〜<11>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0079】
<13>
前記グリセリン処理の温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、好ましくは50℃以下、より好ましくは45℃以下、更に好ましくは40℃以下である、<1>〜<12>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0080】
<14>
前記グリセリン処理における藻体濃度は、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは0.8g/L以上、更に好ましくは5g/L以上、より更に好ましくは30g/L以上であり、好ましくは200g/L以下、より好ましくは150g/L以下、更に好ましくは100g/L以下、より更に好ましくは80g/L以下、より更に好ましくは60g/L以下である、<1>〜<13>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0081】
<15>
前記グリセリン処理におけるpHは、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.5以上、更に好ましくは4.0以上、より更に好ましくは4.5以上であり、好ましくは9.0以下、より好ましくは8.5以下、更に好ましくは8.0以下、より更に好ましくは7.5以下である、、<1>〜<14>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0082】
<16>
高圧分散装置が、均質バルブ式の高圧分散装置又はチャンバ式の高圧分散装置である、<1>〜<15>のいずれか1つに記載の藻類の破砕方法。
【0083】
<17>
<1>〜<16>のいずれか1つに記載された藻類の破砕方法により得られた藻類の破砕物に対して脂質の回収処理を行い、藻類から脂質を回収する方法。
【0084】
<18>
前記脂質の回収処理が、溶媒抽出、遠心分離、静置処理、及びカラムクロマトグラフィーから選ばれた1種又は2種以上の組み合わせであり、好ましくは溶媒抽出、遠心分離及び静置処理から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり、より好ましくは溶媒抽出と遠心分離との組み合わせ、又は溶媒抽出と静置処理との組み合わせである、前記<17>に記載の藻類から脂質を回収する方法。
【実施例】
【0085】
本開示について実施例を用いて更に詳細に説明する。以下の実施例は例示であり、本発明を限定するものではない。
【0086】
<使用藻体>
沖縄県石垣島近郊の沿岸から藻体含む海水サンプルを取得した。取得した海水サンプルをフィルタによって濃縮し、マイクロピペットにより一つの藻体株を単離した。この単離した藻体は、培養液(ダイゴIMK培地、和光純薬工業社製)によって培養を行い、更に培養液(f/2培地)を用いて藻体を増殖させた。この藻体の一部をテキサス大学(UTEX Culture Collection)に分析を依頼し、ナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)であることが同定された。
【0087】
また、ナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)「ヤンマリンK−1」(クロレラ工業製、分散液を構成する液体:海水、藻体濃度:50g/L)を入手し、実験に用いた。
【0088】
<細胞数の計測>
希釈した分散液2μLをバクテリアカウンター(サンリード硝子製)の計算室に注入した後、光学顕微鏡「ECLIPSE80i」(Nikon製)を用いて観察倍率400倍で観察し、ブロック内の細胞数をカウントした。バクテリアカウンターの計算室のうち、0.05mm角のブロックを使用した。計算室には、0.05mm角のブロック16マス(縦4マス×横4マス)からなる集合体が、25個(縦5個×横5個)並んでいる。これらの集合体のうち、顕微鏡の観察画面の右上から左下までの対角線上に存在する5個の集合体中に含まれる細胞数をカウントした。すなわち、0.05mm角のブロックの80マス(16マス×5個)中の細胞数をカウントした。バクテリアカウンターの計算室の深さは0.020mmであり、0.05mm角のブロック1つあたりの体積は1/20000mm
3である。カウントした細胞の総数を、該当するブロックの体積(1/20000mm
3×80マス)で除し、更にカウントに用いた希釈液の希釈倍率をこれに乗ずることにより、希釈前のサンプル1mLあたりの細胞数を求めた。なお、希釈液には、ダイゴ人工海水SP(和光純薬工業製)を用いた。
【0089】
<細胞破砕率の算出>
前述の細胞数の測定方法により、処理液中の細胞数を測定した。破砕前の細胞数から破砕後の細胞数を引いて、破砕前の細胞数で除し、100を乗じた値を細胞破砕率(%)とした。
【0090】
<藻体濃度の測定>
微細藻類を含む分散液を遠心分離機「CR22GIII」(HITACHI社製、ローター:18A)にて、遠心分離(回転数:15000r/min、温度:25℃、時間:5分間)し、上清を捨てた後、0.125Mクエン酸-リン酸水素二ナトリウムバッファー(pH5)に再分散させた。再分散させた液をフィルタ「Supor-450」(日本ポール製、孔径0.45μm)にて吸引ろ過し、等量の蒸留水で掛け洗いした。藻体を捕集したフィルタをアルミカップに移して105℃で2時間乾燥させた。乾燥後の重量を測定し、フィルタの風袋を差し引いて藻体濃度(g/L)とした。また、分散液がフィルタで吸引ろ過しにくい場合は、適当な濃度に分散液を希釈して、乾燥後の重量を測定し、フィルタの風袋を差し引いた後、希釈率を乗じて藻体濃度(g/L)とした。なお、希釈液には、0.125Mクエン酸−リン酸水素二ナトリウムバッファー(pH5)を用いることができる。
【0091】
<物理的処理>
物理的処理は、高圧分散装置により行った。高圧分散装置には、ナノヴェイタ「NM-L200-D」(吉田機械興業社製、クロス型ノズル:NVGL-XT160)を用いた。処理圧力は、入口圧がゲージ圧で100MPa、出口圧が絶対圧で0.1Mpa(大気圧)とし、端切りのために7ショット目から取得した。パス回数は1回とした。
【0092】
(実施例1)
不等毛植物門に属する微細藻類としてナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)(分散液を構成する液体:人工海水「ダイゴ人工海水SP」日本製薬株式会社製、藻体濃度:1.0g/L)を用いた。25℃における処理液のpHは7.3であった。1MのHClを滴下し、処理液のpHを5.0に調整した。pHを調整した処理液に対してグリセリンを0.01質量%となるように添加し、25℃で24時間保持してグリセリン処理を行った。グリセリン処理後に物理的処理を行った。細胞の破砕率は44%であった。
【0093】
(実施例2)
処理液のグリセリン濃度を0.1質量%とした以外は、実施例1と同様にした。細胞の破砕率は45%であった。
【0094】
(比較例1)
処理液のpHを5.0に調整した後、グリセリン処理を行うことなく30分以内に物理的処理を行った。細胞の破砕率は16%であった。
【0095】
(比較例2)
処理液のpHを調整せずに比較例1と同様に行った。細胞の破砕率は22%であった。
【0096】
(比較例3)
pHの調整をしていない処理液に、プロピレングリコールを0.1質量%となるように添加し、25℃で24時間保持した。この後、物理的処理を行った。細胞の破砕率は28%であった。
【0097】
表1に実施例1、2、比較例1〜3の条件及び結果をまとめて示す。グリセリンを含む処理液中に微細藻類を保持するグリセリン処理をした後、物理的処理を行うことにより、破砕率が大きく向上した。
【0098】
【表1】
【0099】
(実施例3)
不等毛植物門に属する微細藻類としてナンノクロロプシス・オキュラータ(Nannochloropsis oculata)「ヤンマリンK−1」(クロレラ工業製、分散液を構成する液体:海水、藻体濃度:50g/L)を用いた。分散液を、遠心分離(遠心力:23000G、回転数:15000r/min、温度:25℃、時間:5分間)して、上清を捨てた後、0.125Mクエン酸−リン酸水素二ナトリウムバッファー(pH5)に藻体濃度が50g/Lとなるように再分散させた。遠心分離には遠心分離機「CR22GIII(日立工機株式会社製、ローター:18A)を用いた。藻体を再分散させた処理液に対してグリセリンを0.07質量%となるように添加し、37℃で24時間保持してグリセリン処理を行った。グリセリン処理後に物理的処理を行った。細胞の破砕率は65%であった。
【0100】
(実施例4)
グリセリン処理の前に、酵素処理を行った。実施例3と同様にして藻体を再分散させた処理液を調製した後、処理液に含まれる微細藻類の乾燥質量に対して0.04質量%となるように酵素を添加し、37℃で24時間酵素処理を行った。酵素にはヘミセルロースの1種であるキシラナーゼ(HBI社製、セルロシンTP−25)を用いた。酵素処理の後、処理液にグリセリンを0.5質量%となるように添加し、37℃で24時間保持してグリセリン処理を行った。グリセリン処理後に、物理的処理を行った。細胞の破砕率は72%であった。
【0101】
(比較例4)
「ヤンマリンK−1」(50g/L)に対し、pH調整、酵素処理及びグリセリン処理を行わずに物理的処理を行った。細胞の破砕率は35%であった。
【0102】
表2に実施例3、4、比較例4の条件及び結果をまとめて示す。グリセリンを含む処理液中にて微細藻類を保持するグリセリン処理をした後、物理的処理を行うことにより、破砕率が大きく向上した。グリセリン処理と共に酵素処理を行うことにより更に破砕率が向上した。
【0103】
【表2】