【解決手段】この気体熱伝導式ガスセンサ100は、雰囲気ガスとの熱伝導に基づいて抵抗値が変化する検知素子部40と、検知素子部40に直列に接続されるとともに、検知素子部40とともにブリッジ回路を構成する温度補償素子部50とを含むセンサ部10と、センサ部10に定電流を供給する定電流供給部20と、定電流供給部20から定電流が供給されている状態における、基準となる温度下でのセンサ部10の電圧と、環境温度下でのセンサ部10の電圧とに基づいて、環境温度下でのセンサ部10からの出力を補正する補正部30とを備える。
雰囲気ガスとの熱伝導に基づいて抵抗値が変化する検知素子部と、前記検知素子部に直列に接続されるとともに、前記検知素子部とともにブリッジ回路を構成する温度補償素子部とを含むセンサ部と、
前記センサ部に定電流を供給する定電流供給部と、
前記定電流供給部から定電流が供給されている状態における、基準となる温度下での前記センサ部の電圧と、環境温度下での前記センサ部の電圧とに基づいて、前記環境温度下での前記センサ部からの出力を補正する補正部とを備える、気体熱伝導式ガスセンサ。
第1の温度下での前記センサ部からの出力と、前記第1の温度とは異なる第2の温度下での前記センサ部からの出力との差が所定のしきい値を超える場合に、前記検知素子部および前記温度補償素子部のうちの少なくとも一方が故障していると判断する制御部をさらに備える、請求項1または2に記載の気体熱伝導式ガスセンサ。
雰囲気ガスとの熱伝導に基づいて抵抗値が変化する検知素子部と、前記検知素子部に直列に接続されるとともに、前記検知素子部とともにブリッジ回路を構成する温度補償素子部とを含むセンサ部に、定電流を供給する工程と、
定電流が供給されている状態における、基準となる温度下での前記センサ部の電圧と、環境温度下での前記センサ部の電圧とに基づいて、前記環境温度下での前記センサ部からの出力を補正する工程とを備える、気体熱伝導式ガスセンサの出力補正方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の測定装置、および、従来の気体熱伝導式ガスセンサでは、それぞれ、温度補正回路(温度センサ)および温度補償素子部により、環境温度の変化に起因する出力の誤差が補正されている一方、環境温度が大きく変動した場合には、誤差が十分に補正できないという問題点がある。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、環境温度が大きく変動した場合でも、環境温度の変化に起因する誤差を十分に補正することが可能な気体熱伝導式ガスセンサおよび気体熱伝導式ガスセンサの出力補正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の局面による気体熱伝導式ガスセンサは、雰囲気ガスとの熱伝導に基づいて抵抗値が変化する検知素子部と、検知素子部に直列に接続されるとともに、検知素子部とともにブリッジ回路を構成する温度補償素子部とを含むセンサ部と、センサ部に定電流を供給する定電流供給部と、定電流供給部から定電流が供給されている状態における、基準となる温度下でのセンサ部の電圧と、環境温度下でのセンサ部の電圧とに基づいて、環境温度下でのセンサ部からの出力を補正する補正部とを備える。
【0009】
この発明の第1の局面による気体熱伝導式ガスセンサでは、上記のように、定電流供給部から定電流が供給されている状態における、基準となる温度下でのセンサ部の電圧と、環境温度下でのセンサ部の電圧とに基づいて、環境温度下でのセンサ部からの出力を補正する補正部を備える。これにより、温度補償素子部による環境温度の変化に起因する気体熱伝導式ガスセンサの出力の誤差の補正に加えて、基準となる温度下でのセンサ部の電圧と環境温度下でのセンサ部の電圧とに基づいて環境温度下でのセンサ部からの出力を補正する補正部による補正が行われるので、環境温度が大きく変動した場合でも、環境温度の変化に起因する誤差を十分に補正することができる。
【0010】
上記第1の局面による気体熱伝導式ガスセンサにおいて、好ましくは、補正部は、補正係数をKとし、補正後のセンサ部からの出力をV
cとし、補正前のセンサ部からの出力をV
outとし、aおよびbを定数とし、環境温度下でのセンサ部の電圧をSV
Tとし、基準となる温度下でのセンサ部の電圧をSV
refとした場合に、下記の式(1)および式(2)に基づいて、環境温度下でのセンサ部からの出力を補正するように構成されている。
【数2】
このように構成すれば、式(2)における(SV
T−SV
ref)の項が環境温度の変化を反映するので、上記の式(1)および式(2)に基づいて適切にセンサ部からの出力を補正することができる。
【0011】
上記第1の局面による気体熱伝導式ガスセンサにおいて、好ましくは、第1の温度下でのセンサ部からの出力と、第1の温度とは異なる第2の温度下でのセンサ部からの出力との差が所定のしきい値を超える場合に、検知素子部および温度補償素子部のうちの少なくとも一方が故障していると判断する制御部をさらに備える。このように構成すれば、環境温度の変化に起因する誤差を十分に補正しながら、検知素子部および温度補償素子部の故障を検知することができる。
【0012】
この発明の第2の局面による気体熱伝導式ガスセンサの出力補正方法は、雰囲気ガスとの熱伝導に基づいて抵抗値が変化する検知素子部と、検知素子部に直列に接続されるとともに、検知素子部とともにブリッジ回路を構成する温度補償素子部とを含むセンサ部に、定電流を供給する工程と、定電流が供給されている状態における、基準となる温度下でのセンサ部の電圧と、環境温度下でのセンサ部の電圧とに基づいて、環境温度下でのセンサ部からの出力を補正する工程とを備える。
【0013】
この発明の第2の局面による気体熱伝導式ガスセンサの出力補正方法では、上記のように、定電流が供給されている状態における、基準となる温度下でのセンサ部の電圧と、環境温度下でのセンサ部の電圧とに基づいて、環境温度下でのセンサ部からの出力を補正する工程を備える。これにより、温度補償素子部による環境温度の変化に起因する気体熱伝導式ガスセンサの出力の誤差の補正に加えて、基準となる温度下でのセンサ部の電圧と環境温度下でのセンサ部の電圧とに基づいて環境温度下でのセンサ部からの出力を補正する補正部による補正が行われるので、環境温度が大きく変動した場合でも、環境温度の変化に起因する誤差を十分に補正することが可能な気体熱伝導式ガスセンサの出力補正方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記のように、環境温度が大きく変動した場合でも、環境温度の変化に起因する誤差を十分に補正することが可能な気体熱伝導式ガスセンサおよび気体熱伝導式ガスセンサの出力補正方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
[第1実施形態]
(気体熱伝導式ガスセンサの構成)
まず、
図1を参照して、第1実施形態による気体熱伝導式ガスセンサ100の構成について説明する。
【0018】
図1に示すように、第1実施形態による気体熱伝導式ガスセンサ100は、センサ部10と、定電流供給部20と、補正部30とを備えている。また、センサ部10は、検知素子部40と、温度補償素子部50と、抵抗R1と、抵抗R2とを含む。
【0019】
検知素子部40には、雰囲気ガス(たとえば、水素)との熱伝導に基づいて抵抗値が変化する第1抵抗部41が設けられている。第1抵抗部41は、たとえば、白金薄膜抵抗体から構成されている。また、第1抵抗部41の一方端と他方端とは、それぞれ、リード線42を介して、電極43および電極44に接続されている。また、第1抵抗部41、リード線42、電極43および電極44は、筐体45内に収容されている。また、筐体45は、SUSキャップ46により封止されている。また、筐体45には、複数(たとえば、2個)の開口部47が設けられている。そして、この開口部47を介して雰囲気ガスが筐体45内に侵入することにより、雰囲気ガスとの熱伝導に基づいて第1抵抗部41の抵抗値が変化する。
【0020】
温度補償素子部50には、基準ガス(たとえば、空気)との熱伝導に基づいて抵抗値が変化する第2抵抗部51が設けられている。第2抵抗部51は、たとえば、白金薄膜抵抗体から構成されている。また、第2抵抗部51の一方端と他方端とは、それぞれ、リード線52を介して、電極53および電極54に接続されている。また、第2抵抗部51、リード線52、電極53および電極54は、筐体55内に収容されている。また、筐体55は、SUSキャップ56により封止されている。筐体55内には、基準ガス(たとえば、空気)が密閉されている。すなわち、基準ガスは、雰囲気ガスとは混ざり合わない。
【0021】
また、温度補償素子部50は、検知素子部40に直列に接続されるとともに、検知素子部40とともにブリッジ回路を構成している。具体的には、気体熱伝導式ガスセンサ100には、抵抗R1および抵抗R2が設けられている。そして、検知素子部40(第1抵抗部41)、温度補償素子部50(第2抵抗部51)、抵抗R1および抵抗R2により、ブリッジ回路が構成されている。
【0022】
定電流供給部20は、センサ部10に定電流を供給するように構成されている。具体的には、定電流供給部20は、検知素子部40(電極43)および抵抗R1に一方端が接続され、温度補償素子部50(電極54)および抵抗R2に他方端が接続されている。また、検知素子部40(第1抵抗部41)および温度補償素子部50(第2抵抗部51)を定電流供給部20により駆動させた場合には、検知素子部40および温度補償素子部50に印加される電圧は、環境温度を反映するので、検知素子部40および温度補償素子部50は、温度センサを兼ねることになる。これにより、気体熱伝導式ガスセンサ100に別個に温度センサを設ける必要ない。また、温度センサを別個に設けた場合では、長期間使用した時の経年変化による検知素子部の抵抗値のドリフトを補正する必要がある。一方、温度センサを別個に設けずに、検知素子部40および温度補償素子部50を用いる気体熱伝導式ガスセンサ100では、長期間使用した時の検知素子部40および温度補償素子部50の各々の抵抗値が同様にドリフトする(キャンセルする)ので、ドリフトの補正を行うことなく、検知の精度を維持することが可能になる。
【0023】
また、補正部30には、センサ部10からの出力と、センサ部10の電圧が入力されるように構成されている。具体的には、補正部30は、検知素子部40と温度補償素子部50との間(点A1)と、抵抗R1と抵抗R2との間(点A2)とに接続されており、検知素子部40と温度補償素子部50との間の電位と、抵抗R1と抵抗R2との間の電位との電位差が入力される。なお、以下では、センサ部10からの出力を、「センサ出力」と記載する。
【0024】
また、補正部30は、検知素子部40(抵抗R1)の一方端側と、温度補償素子部50(抵抗R2)の他方端側とに接続されており、センサ部10の電圧(ブリッジ回路の両端の電位差)が入力されるように構成されている。なお、以下では、センサ部10の電圧(ブリッジ回路の両端の電位差)を、「センサ電圧」と記載する。
【0025】
ここで、第1実施形態では、補正部30は、定電流供給部20から定電流が供給されている状態における、基準となる温度下でのセンサ部10の電圧と、環境温度下でのセンサ部10の電圧とに基づいて、環境温度下でのセンサ部10からの出力を補正するように構成されている。具体的には、補正部30は、補正係数をKとし、補正後のセンサ部10からの出力をV
cとし、補正前のセンサ部10からの出力をV
outとし、aおよびbを定数とし、環境温度下でのセンサ部10の電圧をSV
Tとし、基準となる温度下でのセンサ部10の電圧をSV
refとした場合に、下記の式(3)および式(4)に基づいて、環境温度下でのセンサ部10からの出力を補正するように構成されている。
【数3】
【0026】
(定数aおよび定数bの算出方法)
次に、
図2を参照して、上記の式(4)の定数aおよび定数bの算出方法について説明する。
【0027】
まず、たとえば、基準となる温度を20℃とした場合、20℃の温度下における基準ガス(空気)中におけるセンサ部10からの出力V
out(ref)と、ブリッジ回路の両端の電圧(センサ部10の電圧)SV
(ref)が取得される。また、環境温度T下における基準ガス(空気)中におけるセンサ部10からの出力V
out(T)と、ブリッジ回路の両端の電圧(センサ部10の電圧)SV
(T)が取得される。そして、(SV
(T)−SV
(ref))と、V
out(ref)/V
out(T)とは、
図2に示すように、1次の関係になり、この関係から、定数aおよび定数bが算出される。
【0028】
(検知原理)
次に、気体熱伝導式ガスセンサ100のガスの検知原理について説明する。
【0029】
まず、定電流供給部20からブリッジ回路(検知素子部40、温度補償素子部50、抵抗R1および抵抗R2)に電流値が略一定の定電流が供給される。これにより、検知素子部40の第1抵抗部41、および、温度補償素子部50の第2抵抗部51が、200℃〜400℃程度の温度で自己発熱する。ここで、検知素子部40の第1抵抗部41、および、温度補償素子部50の第2抵抗部51の発熱量と放熱量とが平衡に達した時、検知素子部40の第1抵抗部41、および、温度補償素子部50の第2抵抗部51の温度が一定となって、安定状態になる。そして、検知素子部40の筐体45内にガス(水素など)が侵入して、第1抵抗部41に接触した場合、このガスの熱伝導率に応じて第1抵抗部41の温度が変化する。気体熱伝導式ガスセンサ100では、この温度の変化を第1抵抗部41の抵抗値の変化として検知することにより、ガス(ガスの濃度)が検知される。また、上記のように、検知素子部40および温度補償素子部50が温度センサを兼ねており、環境温度の温度変化が考慮された(補正された)上で、ガスが検知される。
【0030】
また、気体熱伝導式ガスセンサ100は、温度補償素子部50の筐体55に封止されている基準ガス(たとえば、空気)と熱伝導率が大きく異なるガスの検知に適しており、たとえば、水素やメタンなどの検知が可能である。また、水素を検知する場合、気体熱伝導式ガスセンサ100は、燃料電池車に搭載する水素漏洩検知手段として適用することが可能である。この場合、−30℃〜100℃程度の環境温度の変動が大きい条件下で、比較的高い検知精度が必要となり、温度補償素子部50による補正に加えて、第1実施形態のように補正部30による補正を行うことが特に有効である。
【0031】
(出力補正方法)
次に、気体熱伝導式ガスセンサ100の出力補正方法について説明する。
【0032】
まず、雰囲気ガスとの熱伝導に基づいて抵抗値が変化する検知素子部40と、検知素子部40に直列に接続されるとともに、検知素子部40とともにブリッジ回路を構成する温度補償素子部50とを含むセンサ部10に、定電流が供給される。そして、センサ部10からの出力が補正部30に入力される。
【0033】
次に、定電流が供給されている状態における、基準となる温度(たとえば、20℃)下でのセンサ部10の電圧と、環境温度下でのセンサ部10の電圧とに基づいて、上記の式(3)および(4)により、環境温度下でのセンサ部10からの出力が補正される。この出力の補正は、気体熱伝導式ガスセンサ100の動作中常に(出力毎に)行われており、環境温度が変化した場合でも、環境温度の変化に応じた補正が行われる。
【0034】
(定電圧駆動と定電流駆動との比較)
次に、
図3〜
図6を参照して、気体熱伝導式ガスセンサを定電圧により駆動した場合と、定電流により駆動した場合との比較(実験)について説明する。
図3に示すように、比較例による気体熱伝導式ガスセンサ200は、定電圧供給部220からセンサ部210に定電圧が供給されるように構成されている。また、第1実施形態の気体熱伝導式ガスセンサ100とは異なり、補正部30は、設けられていない。
【0035】
図4および
図5では、20℃および80℃のそれぞれの温度下において、空気中と100%水素中とにおけるセンサ電圧(V)、センサ電流(mV)、検知素子部の電圧(V)、温度補償素子部の電圧(V)、検知素子部の第1抵抗部の抵抗(Ω)、および、温度補償素子部の第2抵抗部の抵抗(Ω)が記載されている。
【0036】
図4に示すように、比較例による気体熱伝導式ガスセンサ200(定電圧供給部220による駆動)では、検知素子部240および温度補償素子部250の抵抗値の比によって、検知素子部240および温度補償素子部250の電圧が決まる。これにより、100%水素中での検知素子部240の抵抗値(20℃で、13.54Ω)が、空気中での検知素子部240の抵抗値(20℃で、16.86Ω)よりも小さくなる分、温度補償素子部250の電圧が上昇した。具体的には、20℃では、1.18Vから1.41Vに上昇した。すなわち、温度補償素子部250の100%水素中での温度が上昇した。
【0037】
一方、
図5に示すように、気体熱伝導式ガスセンサ100(定電流供給部20による駆動)では、検知素子部40および温度補償素子部50の抵抗値の和によって、センサ電圧が決まる。これにより、100%水素中での検知素子部40の抵抗値(20℃で、12.66Ω)が、空気中での検知素子部240の抵抗値(20℃で、16.86Ω)よりも小さくなる分、センサ電圧が低下した。具体的には、20℃では、2.36Vから2.07Vに低下した。その結果、温度補償素子部50の電圧は、変化しなかった。具体的には、20℃では、1.18Vで変化しなかった。すなわち、温度補償素子部50は、100%水素中でも温度が変化しなかった。
【0038】
このように、気体熱伝導式ガスセンサ100(定電流供給部20による駆動)では、温度補償素子部50が100%水素中でも温度が変化しないので、100%水素中では、検知素子部40の抵抗値の変化分のみが反映された出力が得られる。これにより、定電流供給部20による駆動は、定電圧供給部220による駆動に比べて、環境温度の変化に対する気体熱伝導式ガスセンサ100の特性上、有利になる(精度が良い)ことが確認された。
【0039】
しかしながら、
図5に示すように、気体熱伝導式ガスセンサ100(定電流供給部20による駆動)においても、80℃の温度下においては、空気中の温度補償素子部50の抵抗値(19.07Ω)と、100%水素中の温度補償素子部50の抵抗値(18.56Ω)とにおいて、ズレが生じた(20℃の場合に比べて、ズレが比較的大きくなった)。これは、基準ガスが封入されている密閉型の温度補償素子部50では、環境温度の変化に応じて密閉型の温度補償素子部50の内部の圧力(基準ガスの密度)が変化して、温度補償素子部50(第2抵抗部51)近傍の熱伝導率が僅かに変化してしまうためである。すなわち、検知素子部40(密閉されていない構造)と温度補償素子部50(密閉された構造)との構造上の差異に起因して、温度補償素子部50の抵抗値にズレが生じた。
【0040】
図6では、気体熱伝導式ガスセンサ100(定電流供給部20による駆動)において、20℃、50℃および80℃の各温度下での水素濃度を0%〜100%に変化させた場合の、水素に対するセンサ出力(感度)の比較結果が示されている。この比較結果から、20℃でのセンサ出力(感度)を基準とすると、50℃では、+3.5%、80℃では、+7.5%の誤差が生じていることが判明した。
【0041】
(補正部によるセンサ出力の補正)
次に、
図7および
図8を参照して、補正部30によってセンサ出力を補正した場合について説明する。
【0042】
上記検知素子部40と温度補償素子部50との構造上の差異に起因する、温度補償素子部50の抵抗値のズレは、環境温度の変化に応じて、センサ部10の電圧値(検知素子部40の一方端(電極43)と、温度補償素子部50の他方端(電極54)との間の電圧値)が変化することを利用することにより、補正することが可能である。具体的には、環境温度の変化の前後での電圧値を温度情報としてマイコン(図示せず)に取り込むとともに、上記の式(3)および式(4)に基づいて補正を行った。
【0043】
ここで、上記の式(3)および式(4)において、定数a=−0.2とし、定数b=0.94とし、SV
ref=2.391とした。その結果、
図7に示すように、20℃でのセンサ出力(感度)を基準とすると、50℃では、+0.5%、80℃では、−0.1%に誤差が改善されたことが判明した。また、
図8に示すように、−30℃から100℃の間で環境温度を変化させた場合において、水素の体積濃度が0vol.%(空気)、20vol.%、40vol.%、60vol.%、80vol.%、および、100vol.%下でのセンサ出力の変化が、略一定になる(変化が小さい)こと確認された。すなわち、上記の式(3)および(4)による補正を行うことにより、環境温度が大きく変動した場合でも、環境温度の変化に起因する誤差を十分に補正することが可能になることが確認された。
【0044】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0045】
第1実施形態では、上記のように、定電流供給部20から定電流が供給されている状態における、基準となる温度下でのセンサ部10の電圧と、環境温度下でのセンサ部10の電圧とに基づいて、環境温度下でのセンサ部10からの出力を補正する補正部30を備える。これにより、温度補償素子部50による環境温度の変化に起因する気体熱伝導式ガスセンサ100の出力の誤差の補正に加えて、基準となる温度下でのセンサ部10の電圧と環境温度下でのセンサ部10の電圧とに基づいて環境温度下でのセンサ部10からの出力を補正する補正部30による補正が行われるので、環境温度が大きく変動した場合でも、環境温度の変化に起因する誤差を十分に補正することができる。
【0046】
また、第1実施形態では、上記のように、補正部30は、補正係数をKとし、補正後のセンサ部10からの出力をV
cとし、補正前のセンサ部10からの出力をV
outとし、aおよびbを定数とし、環境温度下でのセンサ部10の電圧をSV
Tとし、基準となる温度下でのセンサ部10の電圧をSV
refとした場合に、上記の式(3)および式(4)に基づいて、環境温度下でのセンサ部10からの出力を補正する。これにより、式(4)における(SV
T−SV
ref)の項が環境温度の変化を反映するので、上記の式(3)および式(4)に基づいて適切にセンサ部10からの出力を補正することができる。
【0047】
[第2実施形態]
(気体熱伝導式ガスセンサの構成)
次に、
図9を参照して、第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、第1抵抗部141および第2抵抗部151は、MEMS技術を用いて形成され、Si(シリコン)基板上に形成された白金薄膜抵抗体から構成されている。
【0048】
図9に示すように、第2実施形態による気体熱伝導式ガスセンサ101では、センサ部110は、検知素子部140と、温度補償素子部150とを含む。また、検知素子部140の第1抵抗部141と、温度補償素子部150の第2抵抗部151とは、それぞれ、MEMS技術を用いて形成され、Si(シリコン)基板上に形成された白金薄膜抵抗体から構成されている。すなわち、第1抵抗部141および第2抵抗部151は、極めて小さい白金薄膜抵抗体から構成されている。これにより、気体熱伝導式ガスセンサ101の省電力化、俊敏な応答が可能になる。
【0049】
ここで、極めて小さい白金薄膜抵抗体から構成されている第1抵抗部141および第2抵抗部151は、発熱量が小さいため、第1抵抗部141および第2抵抗部151の近傍の気流の影響を受けやすい。すなわち、センサ出力の誤差が生じやすい。そこで、上記第1実施形態と同様に、補正部30によるセンサ出力の補正を行うことは、センサ出力の誤差が生じやすいMEMS技術を用いて形成された第1抵抗部141および第2抵抗部151を含む気体熱伝導式ガスセンサ101にとって、特に有効である。
【0050】
なお、第2実施形態のその他の構成および効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0051】
[第3実施形態]
(気体熱伝導式ガスセンサの構成)
次に、
図10を参照して、第3実施形態について説明する。この第3実施形態では、検知素子部40および温度補償素子部50のうちの少なくとも一方が故障していると判断する制御部60が設けられている。
【0052】
図10に示すように、第3実施形態による気体熱伝導式ガスセンサ102では、センサ部10に接続される制御部60が設けられている。制御部60は、センサ部10からセンサ出力が入力されるように構成されている。ここで、第3実施形態では、制御部60は、第1の温度下でのセンサ部10からの出力と、第1の温度とは異なる第2の温度下でのセンサ部10からの出力との差が所定のしきい値を超える場合に、検知素子部40および温度補償素子部50のうちの少なくとも一方が故障していると判断するように構成されている。
【0053】
ここで、検知素子部40および温度補償素子部50は、それぞれ、個体差がない(少ない)ことを前提として、上記の式(4)における定数aおよび定数bを決定しており、検知素子部40毎および温度補償素子部50毎に設定されていない。また、上記の式(3)および式(4)による補正を行うことにより、センサ部10からの出力は、
図8に示すように略一定になる。つまり、第1の温度下でのセンサ部10からの出力と、第1の温度とは異なる第2の温度下でのセンサ部10からの出力との差が大きくなる場合には、検知素子部40および温度補償素子部50のうちの少なくとも一方が故障している(不良品である)と考えることができる。
【0054】
なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0055】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0056】
第3実施形態では、上記のように、第1の温度下でのセンサ部10からの出力と、第1の温度とは異なる第2の温度下でのセンサ部10からの出力との差が所定のしきい値を超える場合に、検知素子部40および温度補償素子部50のうちの少なくとも一方が故障していると判断する制御部60を設ける。これにより、環境温度の変化に起因する誤差を十分に補正しながら、検知素子部40および温度補償素子部50の故障を検知することができる。
【0057】
なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0058】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0059】
たとえば、上記第1〜第3実施形態では、1次式である上記の式(3)および式(4)に基づいて、センサ部からの出力を補正する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上記の式(3)および式(4)以外の式に基づいて、センサ部からの出力を補正してもよい。たとえば、2次式に基づいて、センサ部からの出力を補正してもよい。
【0060】
また、上記第1〜第3実施形態では、基準となる温度を20℃とする例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、基準となる温度を20℃以外の温度にしてもよい。
【0061】
また、上記第1〜第3実施形態では、気体熱伝導式ガスセンサにより水素の濃度を検知する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、気体熱伝導式ガスセンサを、水素以外のガスの濃度を検知するようにしてもよい。
【0062】
また、上記第1〜第3実施形態では、温度補償素子部に空気からなる基準ガスが封入されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、温度補償素子部に空気以外の基準ガスが封入されていてもよい。
【0063】
また、上記第1〜第3実施形態では、検知素子部の筐体に開口部が2つ設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、検知素子部の筐体に1つまたは3つ以上の開口部を設けてもよい。
【0064】
また、上記第1〜第3実施形態では、第1抵抗体および第2抵抗体が、白金薄膜抵抗体から構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第1抵抗体および第2抵抗体を、白金薄膜抵抗体以外の抵抗体から構成してもよい。
【0065】
また、上記第3実施形態では、補正部と制御部とが別個に設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、制御部が補正部を兼ねていてもよい。