特開2017-36612(P2017-36612A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-36612免震構造物に用いる変位制限装置及びプレコンプレッションの導入方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-36612(P2017-36612A)
(43)【公開日】2017年2月16日
(54)【発明の名称】免震構造物に用いる変位制限装置及びプレコンプレッションの導入方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20170127BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20170127BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20170127BHJP
【FI】
   E04H9/02 331Z
   F16F15/04 D
   F16F7/08
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-158862(P2015-158862)
(22)【出願日】2015年8月11日
(71)【出願人】
【識別番号】000170772
【氏名又は名称】黒沢建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 亮平
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139AC26
2E139CA02
2E139CB04
2E139CC02
2E139CC15
3J048AA02
3J048AC01
3J048BA08
3J048BE12
3J048CB06
3J048DA01
3J048EA38
3J066AA26
3J066BB04
3J066CA06
3J066CB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】設計上想定以上の巨大地震に遭遇しても、または、免震性能が不足している既存建物において、既存の積層ゴム免震装置の過大変形を制限して、免震装置と共に上部構造を損傷しないようにする変位制限装置を提供することである。
【解決手段】下部構造1と上部構造2との間に設置され、免震装置3の過大変形による損傷を防止する変位制限装置12であって、変位制限装置12は、弾性体で形成した本体部13とベースプレート14とで構成され、本体部13にプレコンプレッションが導入されている。既設建造物または新設建造物に関係なく、プレコンプレッションが導入される変位制限装置12を設置することによって、変位制限装置12と上部構造2との接触面に所定の摩擦力が生じ、免震装置の過大変形を制限し、免震装置3と共に上部構造2が損傷や破損することを防ぎ、簡単に取り替えまたは新たに設置することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、
前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、
該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、
前記本体部にプレコンプレッションが導入されていること
を特徴とする変位制限装置。
【請求項2】
前記弾性体に導入されたプレコンプレッションで前記変位制限装置の本体部と上部構造または下部構造との間に所要の摩擦力を生じさせたこと
を特徴とする請求項1に記載の変位制限装置。
【請求項3】
前記弾性体は、硬質ゴム、天然ゴム、合成ゴム、高減衰ゴムのいずれかであり、PCワイヤーまたはPC鋼材で形成されたメッシュ材が多段入りで形成された積層ゴムとすること
を特徴とする請求項1乃至2に記載の変位制限装置。
【請求項4】
前記メッシュ材は、格子状または渦巻状とすること
を特徴とする請求項3に記載の変位制限装置。
【請求項5】
下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、
前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、
該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、
前記本体部をジャッキアップすることにより、本体部の弾性体に所要のプレコンプレッションが付与されること
を特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法。
【請求項6】
下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、
前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、
該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、
該弾性体において、鉛直方向に所要の勾配で分割しくさび状に形成し、水平方向に本体部に押圧力を与え鉛直方向に弾性圧縮変形させることによって,本体部の鉛直方向に所要のプレコンプレッションが付与されること
を特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新設または既存を問わず、免震建物構造における積層ゴム系の免震装置と併用して使用され、積層ゴム系免震装置の過大変形による損傷を防止するプレコンプレッションが導入された変位制限装置及びプレコンプレッションの導入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免震建物構造としては、下部構造と上部構造とを分離し、その間に免震装置を設置する免震層が形成される。一般的に免震装置は大きく分けてアイソレータとダンパーという2つの装置で構成され、積層ゴム系のものとすべり系の2種類がある。また、アイソレータの中にはダンパー機能を兼ね備えているものもある。すべり系はすべり支承と転がり支承があるが、免震装置として積層ゴムがよく用いられている。この種の免震装置は、薄いゴム板と鋼板とを交互に積層して接着したものであり、水平方向には柔軟で、変形しても元の位置に戻る免震機能を有するものであるが、上下方向には硬くて上部構造の荷重を十分支持できるようになっている。
【0003】
積層ゴム系の免震装置として、複数の従来技術が公知になっている。例えば、第1の従来技術としては、薄いゴム層と鋼板を多数積層して積層ゴム体を形成し、その中央部の孔に純度99.9%以上の鉛を充填・圧入している。即ち、上部積層ゴム体の平面中央部に積層ゴム体を貫通して嵌合される棒状の超塑性金属からなる塑性材料コアが構成されている。鉛コアの形状は,ここでは高さ全体に渡って同一断面積である従来型の場合について表している。通常は円柱状の形状が採用されている。鉛コアはゴムと鋼板内に密封されており、鉛直荷重の作用により、鉛とゴム・鋼板内に密着した状態におかれている(特許文献1の図1記載内容参照)。
【0004】
この積層ゴム系の免震装置によれば、地震時に水平力が作用すると、図に示すように、積層ゴム体は水平方向にせん断変形し、積層ゴム体のせん断変形により鈍りコアも水平せん断変形を強制される。この時積層ゴム体の水平方向復元力特性は、図に示すように、ゴム材質が天然ゴムの場合、せん断歪度y=250%までは略線径の弾性剛性を示し、それ以後徐々にハードニング傾向を示し、y=400%前後で破断に至るのが一般的特性である、としている。
【0005】
また、公知に係る第2の従来技術としては、大型の積層ゴムを用いた免震装置の問題点を解決するためのものであって、円筒状の積層ゴムの両面に円盤状の連結鋼板が固着された積層ゴム体と、該複数の積層ゴム体に固着された前記連結鋼板の一方又は双方をフランジが設けられた連結鋼板とし、該フランジの設けられた連結鋼板が向き合うように前記積層ゴムを複数個積み重ねて多段積層ゴム組立を形成するために前記各フランジ間を結合する結合手段と、該結合手段を有する複数の前記多段積層ゴム組立の前記各フランジの約半周部分に係合する複数の円弧状凹部の係合部を有し、前記結合手段により前記多段積層ゴム組立を形成する際、前記複数の多段積層ゴム組立の各フランジ相互間を連結する1又は複数の連結安定板と、前記多段積層ゴム組立の上下連結鋼板に固着された取付用鋼板と、から構成された積層ゴムを用いた免震ユニットである(特許文献2参照)。
【0006】
この免震ユニットによれば、積層ゴムの直径が比較的小さい、例えば直径70cm程度以下の破断性能の優れている積層ゴムを用いて,大型或いは巨大な構造物についても免震対策を講じることができると共に、免震ユニットを複数組連結する連結部分の分解を容易に行うことができるため、建設後における積層ゴムのメンテナンス及び維持管理が極めて容易になる。また、大型積層ゴムの製作に比較し、製造コストを大幅に低減することができると共に、品質の向上と均一化が図られ品質保証の観点からの利点があり、積層ゴムの生産の効率化を図ることができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−21193号公報
【特許文献2】特開2003−343649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記第1および第2の従来技術に開示された積層ゴムによる免震装置は、高価なものだけでなく、建物の鉛直荷重を支えるために柱脚位置にフーチングを介して配置されている。ゴムの経年劣化、または、設計の想定以上の巨大地震が発生した場合には変形オーバー(過大変形)によって装置が損傷や破損が発生した場合、交換するには大掛かりな工事となり、高額なコストがかかるという問題がある。
【0009】
また、既存の免震建物においては,当時の設計上想定した地震が現在の巨大地震より低いため、免震装置が過大変形することによって免震装置自体が破損するばかりでなく、建物の揺れが止まらなくて過大変位するため、補強しないと使用不能となったとの報告もある。
【0010】
最近、性能不足の免震装置が既存建物に使われていることが発覚された。この場合は、設計通りの免震性能を有しないため、不良免震装置を取替しないと既存建物が使用不可になる。しかしながら、既存建物は当初から免震装置が交換できるような構造には設計されていないため、すべての免震装置の取替えは実質的に不可能であるから、これらの既存建物に対して、免震性能の補強を必要としていることは現実問題として要求されている。
【0011】
そこで、本発明は、設計上想定以上の巨大地震に遭遇しても、または、免震性能が不足している既存建物において、既存(従来)の積層ゴム系の免震装置の過大変形を制限して、免震装置と共に上部構造を損傷しないようにする安価かつ施工簡単、交換可能な小型の変位制限装置およびその装置に係る製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するための具体的手段として、本発明に係る第1の発明は、下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、前記本体部にプレコンプレッションが導入されていることを特徴とする変位制限装置を提供するものである。
【0013】
前記第1の発明においては、前記弾性体に導入されたプレコンプレッションで前記変位制限装置の本体部と上部構造または下部構造との間に所要の摩擦力を生じさせたこと;前記本体部の弾性体は、硬質ゴム、天然ゴム、合成ゴム、高減衰ゴムのいずれかであり、PCワイヤーまたはPC鋼材で形成されたメッシュ材が多段入りで形成された積層ゴムとすること;前記メッシュ材は、格子状または渦巻状とすること、を付加的な要件として含むものである。
【0014】
また、本発明に係る第2の発明は、下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、前記本体部をジャッキアップすることにより、本体部の弾性体に所要のプレコンプレッションが付与されることを特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法を提供するものである。
【0015】
さらに、本発明に係る第3の発明は、下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、該弾性体において、鉛直方向に所要の勾配で分割しくさび状に形成し、水平方向に前記本体部に押圧力を与え鉛直方向に弾性圧縮変形させることによって,本体部の鉛直方向に所要のプレコンプレッションが付与されることを特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る変位制限装置によれば、以下に示す通りの効果を奏する。
1、既存建物においては、本発明のプレコンプレッションが導入される変位制限装置を設置することによって、変位制限装置と上部構造である大梁(地中梁)との接触面に所定の摩擦力が生じ、該摩擦力は、地震力に対する抵抗力(復元力)になり、既存の免震装置の過大変形を制限し、免震装置と共に上部構造が損傷や破損することを防ぐことができる。
2、新規建物においては、本発明のプレコンプレッションが導入される変位制限装置を設置することによって、従来の免震装置の安全性を大幅に高めることができる。または、設計上においては従来の高価な免震装置をサイズダウンすることができ、全体のコスト軽減を図ることが可能である。
3、本発明の変位制限装置は、必要な軸圧縮力の導入方法を解決しているため、軸力のない所にも設置することが可能となり、従来の免震装置に比べ、安価かつ施工簡単、交換可能な小型装置になる。
4、本発明の変位制限装置は、建物の鉛直荷重を支える役目としないため、柱脚位置に設置される従来の高価な免震装置より先に壊して地震エネルギーを吸収するように設計すれば、従来の免震装置を地震から守ることができる。本願の変位制限装置は安価かつ設置や交換が簡単であるため、巨大地震発生後に速やかに復旧することができる。
5、弾性材は、PCワイヤーまたはPC鋼線等で形成されたメッシュ材をゴムに入れ込んで合成した積層ゴムを利用することによって、弾性体の引張強度及び弾性変形性能を大幅に高めることができ、従来の天然積層ゴム系免震装置と同等以上のせん断変形能力が得られると共に、ゴムのせん断変形によるせん断抵抗力(復元力)を高めることになる。また、コストの面においても、従来の鋼板と天然ゴムを交互に重ねて形成された積層ゴムに比べ安価となる。
【0017】
また、弾性材にメッシュ材を入れることによって、ゴムが水平方向にせん断変形をしながら、鉛直方向に導入されたプレコンプレッションを確実に保持することが確保できるから、ゴムの変形によって所定の摩擦力が変動や損失されることはないのである。
さらに、メッシュ材を渦巻状にすることによって、格子状に比べ方向依存性がなく全方向の地震力に対してメッシュ筋が均等に働くことができ、積層ゴム弾性材の強度と変形性能がフルに発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る変位制限装置を備えた免震建物構造の要部を略示的に示した側面図である。
図2】同実施の形態に係る変位制限装置を備えた免震建物構造において、地震を受けた時の変位状況を略示的に示した側面図である。
図3】前記第1の実施の形態に係る変位制限装置の変形実施例を備えた免震建物構造の要部を略示的に示した側面図である。
図4】同実施の形態に係る変位制限装置の変形実施例を備えた免震建物構造において、地震を受けた時の変位状況を略示的に示した側面図である。
図5】本発明の第2の実施の形態に係る変位制限装置を備えた免震建物構造の要部を略示的に示した側面図である。
図6】同実施の形態に係る変位制限装置を備えた免震建物構造において、地震を受けた時の変位状況を略示的に示した側面図である。
図7】前記第2の実施の形態に係る変位制限装置の変形実施例を備えた免震建物構造の要部を略示的に示した側面図である。
図8】同実施の形態に係る変位制限装置の変形実施例を備えた免震建物構造において、地震を受けた時の変位状況を略示的に示した側面図である。
図9】本発明の変位制限装置に使用される好ましい弾性体の第1実施例を示すもので、(1)は略示的に示した平面図、(2)は略示的に示した縦断面図である。
図10】本発明の変位制限装置に使用される好ましい弾性体の第2実施例を示すもので、(1)は略示的に示した平面図、(2)は略示的に示した縦断面図である。
図11】本発明の変位制限装置の配置例を略示的に示した免震建物構造の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を図示の複数の実施の形態に基づいて詳しく説明する。まず、図1、2に示した免震建物構造における第1の実施の形態に係る変位制限装置について説明する。図1において、免震建物構造としては、下部構造1と上部構造2との間に積層ゴム形式のメインの免震装置3が配置され、下部構造1は地盤4に打ち込んだ杭5の頭部にラップル基礎6を設けると共に、杭5の頭部周辺と地盤4の上面を覆うマットスラブ7が形成されている。上部構造2は、建物の各柱8を支えるフーチング9がそれぞれ設けられると共に、該各フーチング9間をつなぐ大梁(地中梁)10が設けられ、該大梁(地中梁)10の上面にスラブ11が形成されている。そして、免震装置3は下部構造1である杭頭部のラップル基礎6と上部構造2であるフーチング9との間に設置され、下部構造1のマットスラブ7と上部構造2の大梁(地中梁)10との間が、免震層Aとしてのピットである。
【0020】
また、免震層Aに形成されたピットの所要位置にプレコンプレッションが導入され、前記積層ゴム形式の免震装置3の過大変形による損傷や破損を防止するための変位制限装置12が配置される。この変位制限装置12は、弾性体とした本体部13とベースプレート14とで形成され、該本体部13の上面が大梁10の下面に接し、ベースプレート14の下面に所要の出力を有するジャッキ15を設置し、該ジャッキ15とマットスラブ7との間に高さを合せるための調整ブロック16を設置して所要の高さに調整しておく。ジャッキアップして弾性材である本体部13にプレコンプレッションPを導入することによって、変位制限装置12の本体部13と大梁10との接触面に所要の摩擦力Fを発生させる。
【0021】
そして、図2に示すように、この摩擦力Fは、巨大地震時に上部構造2と下部構造1との間に発生した相対変位を抑制するように抵抗し、常に元の位置に戻そうとする復元力になるのである。この摩擦力Fは、摩擦係数kとプレコンプレッションPとの積になる(F=k・P)。摩擦係数kとプレコンプレッションPとを調整することによって、該摩擦力Fを所要の大きさに合せて生じさせることが可能である。
【0022】
従って、既存建物において、既存の免震装置3が性能不足によって免震層Aに過大変位が発生する恐れがある場合には、変位制限装置12を設置して性能不足している分を補うこととする。必要な減衰力(復元力)から設置の個数と1個あたりの摩擦力Fを算出し、ジャッキ15で所要のプレコンプレッションPを導入することができる。例えば、既存の免震装置3の性能不足している減衰力(復元力)は、1基あたり80トンとすると、この免震装置3の周りに変位制限装置12を4個均等に配置すれば、一個当たり必要な摩擦力Fが20トンになり、摩擦係数k=0.5とすると、プレコンプレッションPは20トンになる。
【0023】
新設建物の場合には、柱8の脚部に設置する免震装置3と併設して変位制限装置12を設置することによって、柱8の脚部に設置する免震装置3の負担を軽減し、サイズダウンしてコスト低減を図ることができる。また、免震層A全体の安全率として変位制限装置12を設置し、免震装置3を地震から守ることができる。さらに、免震装置3より先に変位制限装置12を壊すように設計すれば、免震装置3の破損を防止することができる。変位制限装置12は安価で簡単に交換できるため、地震後に速やかに復旧することができる。
【0024】
また、調整ブロック16について、鋼製または中空箱断面のコンクリート製等で軽量に形成することが好ましい。施工性と交換可能性により、ボルト17でスラブ7に固定することとする。また、変位制限装置12は、本体部13とベーススプレート14とで形成されることとしているが、これに限ることなく、例えば、さらに、本体部13の上面に所要の摩擦係数に合せて適切な材料を選んで上面プレートとして上面に取付けることとしてもよい。要するに、少なくとも本体部13の下面(ジャッキ取付側)にベースプレート14を取付けることが好ましい。そして、プレコンプレッションを均等に本体部13に導入するため、ベースプレート14を所要の剛性を有する鋼製プレートとすることが好ましい。
【0025】
変位制限装置12は、方向依存性のないように平面形状を円形または円形に近似した形とし、地震時にあらゆる方向の変形に対応可能なものとする。
ジャッキ15については、小型のネジジャッキやボルトジャッキ等の油圧ジャッキとしてよい。特に限定されるものでなく、所要の出力に満足するもの、かつ、軽量で小型であるものを用いることが好ましい。また、実施例では変位制限装置12のセンターに一台を設置することとしているが、これに限ることなく、例えば、四隅に複数台を設置することとしてもよい。
【0026】
また、ジャッキアップした後に、押圧力を維持する方法は以下の二通りとする。
1つ目としては、ジャッキを付けっぱなしとする。この場合には、ゲージ18を付けて出力を定期的に測定し常時管理し、特に、地震発生後、出力の変動や損失の有無についてゲージ18で確認することが望ましい。
【0027】
二つ目としては、サポート材、たとえば、鋼製支柱を用いてベースプレート14の四隅に入れて押圧力を保持し、中央に設置したジャッキを緩めて撤去する。その後、ベースプレート14と調整ブロック16との間に無収縮モルタル等を充填して硬化させ、硬化したモルタルはジャッキの代わりに押圧力を保持することになる。取り外したジャッキは使い回しでき、コストを軽減することができる。
以上の二つ方法について、建物の状況や施工の場所、設備等によって総合的に判断してその方法手段を選定して実施することが望ましい。
【0028】
次に、図3図4に示した前記第1の実施の形態における変位制限装置12の変形実施例について説明する。この変形実施例については、大半の部分は前記第1の実施の形態と同一であるので、同一部分には同一符号を付してその詳細な説明は重複するので省略する。
この変形実施例は、巨大地震時に免震層Aが変形する際に、変位制限装置12が免震層Aの変形に追従できるように本体部13の上面と大梁(地中梁)10の下面との接触面の中央にずれ止め部材19を取り付け手いるのである。このずれ止め部材19は、鋼製プレートとして予め大梁(地中梁)10の下面に固定して一体化しておき、本体部13を取付ける際に位置決めともなるし、地震時に本体部13が大変形する時に、万一、変位制限装置12と大梁(地中梁)10との接触面に滑動現象が発生するような場合に、ずれ止め部材19に当接している側面に支圧力が生じて滑動を止める役割をする。なお、本体部13の下面に取り付けられるベースプレート14の形状もジャッキ15に馴染むように形成した方がよい。
【0029】
次に、図5図6に示した第2の実施の形態について説明する。
この第2の実施の形態に係る変位制限装置12と前記第1の実施の形態に係る変位制限装置12と異なる点は、本体部13の弾性体にプレコンプレッションPを導入する方法・手段であり、その他は実質的に同一であるので、同一符号を付してその詳細は省略する。
本体部13を構成する弾性体において、予め所要の圧縮変形量を計算して弾性体の高さを決め、鉛直方向(拘束方向)に所要の勾配で分割してくさび状の二つ弾性材20a、20bに形成し、下方の弾性体20bを予めベースプレート14に固定して一体化し、該ベースプレート14を調整ブロック16の上面にセットしてボルト21で拘束して固定する。
【0030】
下方の弾性体20bの勾配と合わせるようにして、上方の弾性体20aを大梁10との間にセットし、該弾性体20aに水平方向の強力な押圧力を与えて横から押し込み、鉛直方向(拘束方向)において、下方の弾性体20bと同じ位置に位置付けされて一本の柱状体になるまで強く押し込み、一本の柱状体になればくさび作用により上下の弾性体20a、20bともに所定の軸変形が発生することによって、本体部13(弾性体)に所定のプレコンプレッションが付与されることになる。つまり、弾性体20a、20bが上下に弾性圧縮されて軸方向に所定のプレコンプレッションPが付与されて所定位置にセットされるのである。
【0031】
セット終了後、上下弾性体20a。20bの接合面は接着剤にて接合して二つの弾性体を一体化し一つにする。弾性圧縮変形によって本体部13(弾性体)に弾性反力(復元力)が生じ、この弾性反力(復元力)によって本体部13と大梁(地中梁)10との接触面に所定の摩擦力Fを発生させることができる。地震時においては、前記第1の実施の形態と同じように変位制限装置12が作動し、免震装置3が過大変形にならないように変位を抑制し、柱8の脚位置に設置された免震装置3と共に上部構造の損傷や破損を防止することができる。そして、ジャッキを使用せずに本体部13にプレコンプレッションPを導入することができるため、前記第1の実施の形態に比べ更にコストを低減することができる。
【0032】
くさび状の弾性体20a、20bの勾配について、水平から押圧力を受けて鉛直方向に十分に弾性変形ができるようにするため、勾配の角度を5度〜20度の範囲内に設定し、最も好ましいのは、10度〜15度とすることである。
【0033】
この第2の実施の形態に係る変位制限装置12についても、その変形実施例を示した図7図8に基づいて説明する。この変形実施例についても、大半の部分は前記第2の実施の形態と同一であるので、同一部分には同一符号を付してその詳細な説明は重複するので省略する。
この変形実施例も、やはり巨大地震時に免震層Aが変形する際の変位制限装置12が免震層Aの変形に追従できるように考慮したのであり、本体部13の上面と大梁(地中梁)10の下面との当接部分のずれ止め対策である。
【0034】
即ち、本体部13にプレコンプレッションPを導入して上端を大梁10に当接させて取り付けた後に、本体部13の上端の周りで大梁10にずれ止め部材22をボルト23止めして取り付けておく。このずれ止め部材22は、前記第1の実施の形態で示したものとは異なるが、それぞれに限定して使用することではない。要するに、適宜のずれ止め機能を有する部材であれば種々の形状のものが使用できるし、さらに、必要に応じて複数を併用することもできる。
【0035】
次に、本発明の本体部として使用される弾性体について複数の実施例を上げて説明する。
まず、本体部13として使用される弾性体は、硬質ゴムを用いることが好ましいが、天然ゴム、合成ゴムまたは高減衰ゴムのいずれかとしてもよい。コストを軽減するため、ゴムチッブや廃タイヤを再生したゴム等を使用することが望ましい。
また、ゴム製弾性体のせん断強度及びせん断変形能力を高めるため、上記のゴム材料に炭素繊維を入れ混ぜ合わせて合成ゴムとしたものを用いることが好ましい。
【0036】
図9(1)、(2)に示した第1の実施例は、本体部13の弾性体としては、上記ゴム材料に、PC鋼より線、PC鋼材やPCワイヤー等のPC鋼材で格子状に形成されたメッシュ材24を多段入りで形成された積層ゴムを用いることが好ましい。PC鋼材が高い強度をもっていることでプレコンプレッションPを導入し変位制限装置12として使用することが最適であるが、これに限ることなく、高強度棒鋼や繊維棒材としてもよい。
【0037】
また、図10(1)、(2)に示したように、上記ゴム材料を使用する点は変わらないが、メッシュ材24としては、格子状ではなく渦巻状としたPCワイヤーまたは鋼棒を使用して、前記同様に多段入りで形成された積層ゴム構造とする。
前記実施例に係る格子状のメッシュ材24の場合は、地震時弾性材がせん断変形する際に、地震力によってX、Y二方向のPC鋼材の合力で対応して応力を伝達することになる。それに比べ、細いPCワイヤーで形成された渦巻状のメッシュ材24の場合は、方向依存性がなく全方向に対してメッシュ筋が均等に働き、弾性材の強度と変形能力がフルに発揮できるから最も効果的である。
【0038】
次に、免震建物構造における変位制限装置12の配置例を図11に示した平面図によって説明する。
免震建物構造においては、各柱8が建てられる位置に前後左右が大梁10で連結されたフーチング7を設け、該フーチング7とラップル基礎6との間にメインの免震装置3が設けられている。本発明の変位制限装置12は、柱8以外の軸力がないが強度的に建造物を支える大梁10とマットスラブ7との間に設置するのである。この場合に、建造物のコーナー部のフーチング7には2本の大梁10しか連結されないが、側面のフーチング7には3本の大梁10が連結され、建造物の内側にあるフーチング7には4本の大梁10が連結されるのである。
【0039】
この種の免震建物構造においては、従来からあるメインの免震装置3については、例えば、コーナー部に設置するのは、天然積層ゴム免震装置であり、側面に設置するのは鉛プラグ入り天然積層ゴム免震装置であり、中央部に設置するのは滑り支承型の免震装置である。そして,本発明の変位制限装置12は、柱8以外の軸力がない所に設置するから、建物平面においては、メインの1基の免震装置3につき柱8の周りに少なくとも2個以上で、4個を均等に配置することが好ましい。このように個数を増やして全体に分散して配置することができるようにしたので、装置自体を小型で軽量化することができたのである。勿論、必要な個数は建造物構造と免震装置3の状態に応じて自由に選択し配置することができる。
【0040】
以上説明した実施の形態は、本発明の構成要件(主旨)を限定するものではなく、本発明の主旨に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、図示の実施例では変位制限装置12の本体部13の上端が大梁10の下面に当接し、ベースプレート14の下面に所要の出力を有するジャッキ15設置し、該ジャッキ15とマットスラブ7との間に高さを合わせるための調整ブロック16を設置しているが、これに限定されることなく、配置状態を全く逆にして、例えば、マットスラブ7の上に変位制限装置12の本体部13を設置し、その上にジャッキ15を介在させて調整ブロック16を大梁10に取り付けるようにしてもよいのである。要するに、変位制限装置12の本体部13と下部構造1との間に所要の摩擦力を生じさせることができればよいのである。また、第2の実施の形態においても,同じ要領で変更して、変位制限装置12の本体部13と下部構造1との間に所要の摩擦力を生じさせることができる。
また、ジャッキの代わりに、バネを利用して本体部13にプレコンプレッションを付与することができる。図示は省略するが、例えば、所要の弾性反力を有する圧縮コイルバネを利用し、該圧縮コイルバネを予めワイヤー等の拘束手段を用いて弾性圧縮変形させておき、該弾性圧縮変形した状況で本体部13の取り付け位置に合せて一緒にセットし、セット完了後、拘束ワイヤーを切断して拘束を解放することによって、所要の弾性反力が開放されて本体部13に所用のプレコンプレッションを導入させ、変位制限装置12の本体部13と上部構造2または下部構造1との間に所要の摩擦力を生じさせることができる。
また、本願においての所要の摩擦力とは、変位制限装置12の本体部13と上部構造2または下部構造1との間に生じる静止摩擦力とすることが好ましいが、これに限ることなく、必要に応じて、本体部13と上部構造2または下部構造1との間に滑りながら生じる動摩擦力とする場合もある。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る変位制限装置12においては、該変位制限装置12の本体部13を弾性体としたため、地震時に変位制限装置12の水平抵抗力(復元力)は、摩擦力Fと弾性体の弾性せん断変形による反力(せん断力)との合力になるが、安価で軽量化した変位制限装置12を提供することを目的としているから、主な水平抵抗力(復元力)を摩擦力Fに負担させ、本体部13は免震層Aの変位に追従することができればよいとする。要するに、従来の積層ゴム系の免震装置3は、鉛直荷重を支える機能と、水平変形をしながらエネルギーを吸収する機能を具備するものとして要求されているため、高価な材料を使用することに限られている。それに比べ、本発明の変位制限装置12は、従来の免震装置3の免震性能を補強または補助するものとしているから、鉛直荷重を支える機能が不要であり、そして、水平方向においては、本体部13の変形とエネルギー吸収性能のみを要求するが、反力(せん断力)に対して要求を緩和しているから、弾性体の材料特性は、幅広い材料より選定することができるため、安価で提供することが可能になる。これは、従来の積層ゴム系の免震装置3との異なる性能要求によるものであるが、新築または既存のこの種の免震建物構造において広く適用または利用できるのである。
【符号の説明】
【0042】
1 下部構造
2 上部構造
3 メインの免震装置
4 地盤
5 杭
6 ラップル基礎
7 マットスラブ
8 柱
9 フーチング
10 大梁(地中梁)
11 スラブ
12 変位制限装置
13 本体部
14 ベースプレート
15 ジャッキ
16 調整ブロック
17、21、23 取付ボルト
18 ゲージ
19、22 ずれ止め部材
20a、20b 弾性体
24 メッシュ材
A 免震層
P プレコンプレッション
F 摩擦力
k 摩擦係数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2016年3月4日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するための具体的手段として、本発明に係る第1の発明は、下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、前記本体部に所要のプレコンプレッションが導入され、前記変位制限装置の本体部と上部構造または下部構造との間に所要の摩擦力を生じさせるようにしたことを特徴とする変位制限装置を提供するものである。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
前記第1の発明においては、前記弾性体は、硬質ゴム、天然ゴム、合成ゴム、高減衰ゴムのいずれかであり、PCワイヤーまたはPC鋼材で形成されたメッシュ材が多段入りで形成された積層ゴムとすること;及び前記メッシュ材は、格子状または渦巻状とすること;を付加的な要件として含むものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
また、本発明に係る第2の発明は、下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置のプレコンプレッション導入方法であって、該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、前記本体部をジャッキアップすることにより、本体部の弾性体に所要のプレコンプレッションが付与されることを特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法を提供するものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
さらに、本発明に係る第3の発明は、下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置のプレコンプレッション導入方法であって、該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、該弾性体において、鉛直方向に所要の勾配で分割してくさび状に形成し、水平方向に本体部に所要の押圧力を与え鉛直方向に弾性圧縮変形させることによって,本体部の鉛直方向に所要のプレコンプレッションが付与されることを特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法を提供するものである。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
次に、図3図4に示した前記第1の実施の形態における変位制限装置12の変形実施例について説明する。この変形実施例については、大半の部分は前記第1の実施の形態と同一であるので、同一部分には同一符号を付してその詳細な説明は重複するので省略する。
この変形実施例は、巨大地震時に免震層Aが変形する際に、変位制限装置12が免震層Aの変形に追従できるように本体部13の上面と大梁(地中梁)10の下面との接触面の中央にずれ止め部材19を取り付けいるのである。このずれ止め部材19は、鋼製プレートとして予め大梁(地中梁)10の下面に固定して一体化しておき、本体部13を取付ける際に位置決めともなるし、地震時に本体部13が大変形する時に、万一、変位制限装置12と大梁(地中梁)10との接触面に滑動現象が発生するような場合に、ずれ止め部材19に当接している側面に支圧力が生じて滑動を止める役割をする。なお、本体部13の下面に取り付けられるベースプレート14の形状もジャッキ15に馴染むように形成した方がよい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、
前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、
該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、
前記本体部に所要のプレコンプレッションが導入され、前記変位制限装置の本体部と上部構造または下部構造との間に所要の摩擦力を生じさせるようにしたこと
を特徴とする変位制限装置。
【請求項2】
前記弾性体は、硬質ゴム、天然ゴム、合成ゴム、高減衰ゴムのいずれかであり、PCワイヤーまたはPC鋼材で形成されたメッシュ材が多段入りで形成された積層ゴムとすること
を特徴とする請求項に記載の変位制限装置。
【請求項3】
前記メッシュ材は、格子状または渦巻状とすること
を特徴とする請求項に記載の変位制限装置。
【請求項4】
下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、
前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置のプレコンプレッション導入方法であって、
該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、
前記本体部をジャッキアップすることにより、本体部の弾性体に所要のプレコンプレッションが付与されること
を特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法。
【請求項5】
下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、
前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置のプレコンプレッション導入方法であって、
該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、
該弾性体において、鉛直方向に所要の勾配で分割してくさび状に形成し、水平方向に本体部に所要の押圧力を与え鉛直方向に弾性圧縮変形させることによって,本体部の鉛直方向に所要のプレコンプレッションが付与されること
を特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法。
【手続補正書】
【提出日】2016年6月27日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新設または既存を問わず、免震建物構造における積層ゴム系の免震装置と併用して使用され、積層ゴム系免震装置の過大変形による損傷を防止するプレコンプレッションが導入された変位制限装置及びプレコンプレッションの導入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免震建物構造としては、下部構造と上部構造とを分離し、その間に免震装置を設置する免震層が形成される。一般的に免震装置は大きく分けてアイソレータとダンパーという2つの装置で構成され、積層ゴム系のものとすべり系の2種類がある。また、アイソレータの中にはダンパー機能を兼ね備えているものもある。すべり系はすべり支承と転がり支承があるが、免震装置として積層ゴムがよく用いられている。この種の免震装置は、薄いゴム板と鋼板とを交互に積層して接着したものであり、水平方向には柔軟で、変形しても元の位置に戻る免震機能を有するものであるが、上下方向には硬くて上部構造の荷重を十分支持できるようになっている。
【0003】
積層ゴム系の免震装置として、複数の従来技術が公知になっている。例えば、第1の従来技術としては、薄いゴム層と鋼板を多数積層して積層ゴム体を形成し、その中央部の孔に純度99.9%以上の鉛を充填・圧入している。即ち、上部積層ゴム体の平面中央部に積層ゴム体を貫通して嵌合される棒状の超塑性金属からなる塑性材料コアが構成されている。鉛コアの形状は,ここでは高さ全体に渡って同一断面積である従来型の場合について表している。通常は円柱状の形状が採用されている。鉛コアはゴムと鋼板内に密封されており、鉛直荷重の作用により、鉛とゴム・鋼板内に密着した状態におかれている(特許文献1の図1記載内容参照)。
【0004】
この積層ゴム系の免震装置によれば、地震時に水平力が作用すると、図に示すように、積層ゴム体は水平方向にせん断変形し、積層ゴム体のせん断変形により鈍りコアも水平せん断変形を強制される。この時積層ゴム体の水平方向復元力特性は、図に示すように、ゴム材質が天然ゴムの場合、せん断歪度y=250%までは略線径の弾性剛性を示し、それ以後徐々にハードニング傾向を示し、y=400%前後で破断に至るのが一般的特性である、としている。
【0005】
また、公知に係る第2の従来技術としては、大型の積層ゴムを用いた免震装置の問題点を解決するためのものであって、円筒状の積層ゴムの両面に円盤状の連結鋼板が固着された積層ゴム体と、該複数の積層ゴム体に固着された前記連結鋼板の一方又は双方をフランジが設けられた連結鋼板とし、該フランジの設けられた連結鋼板が向き合うように前記積層ゴムを複数個積み重ねて多段積層ゴム組立を形成するために前記各フランジ間を結合する結合手段と、該結合手段を有する複数の前記多段積層ゴム組立の前記各フランジの約半周部分に係合する複数の円弧状凹部の係合部を有し、前記結合手段により前記多段積層ゴム組立を形成する際、前記複数の多段積層ゴム組立の各フランジ相互間を連結する1又は複数の連結安定板と、前記多段積層ゴム組立の上下連結鋼板に固着された取付用鋼板と、から構成された積層ゴムを用いた免震ユニットである(特許文献2参照)。
【0006】
この免震ユニットによれば、積層ゴムの直径が比較的小さい、例えば直径70cm程度以下の破断性能の優れている積層ゴムを用いて,大型或いは巨大な構造物についても免震対策を講じることができると共に、免震ユニットを複数組連結する連結部分の分解を容易に行うことができるため、建設後における積層ゴムのメンテナンス及び維持管理が極めて容易になる。また、大型積層ゴムの製作に比較し、製造コストを大幅に低減することができると共に、品質の向上と均一化が図られ品質保証の観点からの利点があり、積層ゴムの生産の効率化を図ることができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−21193号公報
【特許文献2】特開2003−343649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記第1および第2の従来技術に開示された積層ゴムによる免震装置は、高価なものだけでなく、建物の鉛直荷重を支えるために柱脚位置にフーチングを介して配置されている。ゴムの経年劣化、または、設計の想定以上の巨大地震が発生した場合には変形オーバー(過大変形)によって装置が損傷や破損が発生した場合、交換するには大掛かりな工事となり、高額なコストがかかるという問題がある。
【0009】
また、既存の免震建物においては,当時の設計上想定した地震が現在の巨大地震より低いため、免震装置が過大変形することによって免震装置自体が破損するばかりでなく、建物の揺れが止まらなくて過大変位するため、補強しないと使用不能となったとの報告もある。
【0010】
最近、性能不足の免震装置が既存建物に使われていることが発覚された。この場合は、設計通りの免震性能を有しないため、不良免震装置を取替しないと既存建物が使用不可になる。しかしながら、既存建物は当初から免震装置が交換できるような構造には設計されていないため、すべての免震装置の取替えは実質的に不可能であるから、これらの既存建物に対して、免震性能の補強を必要としていることは現実問題として要求されている。
【0011】
そこで、本発明は、設計上想定以上の巨大地震に遭遇しても、または、免震性能が不足している既存建物において、既存(従来)の積層ゴム系の免震装置の過大変形を制限して、免震装置と共に上部構造を損傷しないようにする安価かつ施工簡単、交換可能な小型の変位制限装置およびその装置に係る製作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するための具体的手段として、本発明に係る第1の発明は、下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、前記本体部の下面に設置されたジャッキでジャッキアップしたことによって本体部に所要のプレコンプレッションが導入維持され、前記変位制限装置の本体部と上部構造または下部構造との間に所要の摩擦力を生じさせるようにしたことを特徴とする変位制限装置を提供するものである。
【0013】
前記第1の発明においては、前記弾性体に導入されたプレコンプレッションで前記変位制限装置の本体部と上部構造または下部構造との間に所要の摩擦力を生じさせたこと;前記本体部の弾性体は、硬質ゴム、天然ゴム、合成ゴム、高減衰ゴムのいずれかであり、PCワイヤーまたはPC鋼材で形成されたメッシュ材が多段入りで形成された積層ゴムとすること;前記メッシュ材は、格子状または渦巻状とすること、を付加的な要件として含むものである。
【0014】
また、本発明に係る第2の発明は、下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置のプレコンプレッション導入方法であって、該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、前記本体部の下面に設置されたジャッキでジャッキアップすることによって本体部に所要のプレコンプレッションを導入し、且つ該ジャッキを緩めずに導入されたプレコンプレッションを維持させることを特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る変位制限装置によれば、以下に示す通りの効果を奏する。
1、既存建物においては、本発明のプレコンプレッションが導入される変位制限装置を設置することによって、変位制限装置と上部構造である大梁(地中梁)との接触面に所定の摩擦力が生じ、該摩擦力は、地震力に対する抵抗力(復元力)になり、既存の免震装置の過大変形を制限し、免震装置と共に上部構造が損傷や破損することを防ぐことができる。
2、新規建物においては、本発明のプレコンプレッションが導入される変位制限装置を設置することによって、従来の免震装置の安全性を大幅に高めることができる。または、設計上においては従来の高価な免震装置をサイズダウンすることができ、全体のコスト軽減を図ることが可能である。
3、本発明の変位制限装置は、必要な軸圧縮力の導入方法を解決しているため、軸力のない所にも設置することが可能となり、従来の免震装置に比べ、安価かつ施工簡単、交換可能な小型装置になる。
4、本発明の変位制限装置は、建物の鉛直荷重を支える役目としないため、柱脚位置に設置される従来の高価な免震装置より先に壊して地震エネルギーを吸収するように設計すれば、従来の免震装置を地震から守ることができる。本願の変位制限装置は安価かつ設置や交換が簡単であるため、巨大地震発生後に速やかに復旧することができる。
5、弾性材は、PCワイヤーまたはPC鋼線等で形成されたメッシュ材をゴムに入れ込んで合成した積層ゴムを利用することによって、弾性体の引張強度及び弾性変形性能を大幅に高めることができ、従来の天然積層ゴム系免震装置と同等以上のせん断変形能力が得られると共に、ゴムのせん断変形によるせん断抵抗力(復元力)を高めることになる。また、コストの面においても、従来の鋼板と天然ゴムを交互に重ねて形成された積層ゴムに比べ安価となる。
【0016】
また、弾性材にメッシュ材を入れることによって、ゴムが水平方向にせん断変形をしながら、鉛直方向に導入されたプレコンプレッションを確実に保持することが確保できるから、ゴムの変形によって所定の摩擦力が変動や損失されることはないのである。
さらに、メッシュ材を渦巻状にすることによって、格子状に比べ方向依存性がなく全方向の地震力に対してメッシュ筋が均等に働くことができ、積層ゴム弾性材の強度と変形性能がフルに発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る変位制限装置を備えた免震建物構造の要部を略示的に示した側面図である。
図2】同実施の形態に係る変位制限装置を備えた免震建物構造において、地震を受けた時の変位状況を略示的に示した側面図である。
図3】前記第1の実施の形態に係る変位制限装置の変形実施例を備えた免震建物構造の要部を略示的に示した側面図である。
図4】同実施の形態に係る変位制限装置の変形実施例を備えた免震建物構造において、地震を受けた時の変位状況を略示的に示した側面図である。
図5】本発明の変位制限装置に使用される好ましい弾性体の第1実施例を示すもので、(1)は略示的に示した平面図、(2)は略示的に示した縦断面図である。
図6】本発明の変位制限装置に使用される好ましい弾性体の第2実施例を示すもので、(1)は略示的に示した平面図、(2)は略示的に示した縦断面図である。
図7】本発明の変位制限装置の配置例を略示的に示した免震建物構造の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を図示の複数の実施の形態に基づいて詳しく説明する。まず、図1、2に示した免震建物構造における第1の実施の形態に係る変位制限装置について説明する。図1において、免震建物構造としては、下部構造1と上部構造2との間に積層ゴム形式のメインの免震装置3が配置され、下部構造1は地盤4に打ち込んだ杭5の頭部にラップル基礎6を設けると共に、杭5の頭部周辺と地盤4の上面を覆うマットスラブ7が形成されている。上部構造2は、建物の各柱8を支えるフーチング9がそれぞれ設けられると共に、該各フーチング9間をつなぐ大梁(地中梁)10が設けられ、該大梁(地中梁)10の上面にスラブ11が形成されている。そして、免震装置3は下部構造1である杭頭部のラップル基礎6と上部構造2であるフーチング9との間に設置され、下部構造1のマットスラブ7と上部構造2の大梁(地中梁)10との間が、免震層Aとしてのピットである。
【0019】
また、免震層Aに形成されたピットの所要位置にプレコンプレッションが導入され、前記積層ゴム形式の免震装置3の過大変形による損傷や破損を防止するための変位制限装置12が配置される。この変位制限装置12は、弾性体とした本体部13とベースプレート14とで形成され、該本体部13の上面が大梁10の下面に接し、ベースプレート14の下面に所要の出力を有するジャッキ15を設置し、該ジャッキ15とマットスラブ7との間に高さを合せるための調整ブロック16を設置して所要の高さに調整しておく。ジャッキアップして弾性材である本体部13にプレコンプレッションPを導入することによって、変位制限装置12の本体部13と大梁10との接触面に所要の摩擦力Fを発生させる。
【0020】
そして、図2に示すように、この摩擦力Fは、巨大地震時に上部構造2と下部構造1との間に発生した相対変位を抑制するように抵抗し、常に元の位置に戻そうとする復元力になるのである。この摩擦力Fは、摩擦係数kとプレコンプレッションPとの積になる(F=k・P)。摩擦係数kとプレコンプレッションPとを調整することによって、該摩擦力Fを所要の大きさに合せて生じさせることが可能である。
【0021】
従って、既存建物において、既存の免震装置3が性能不足によって免震層Aに過大変位が発生する恐れがある場合には、変位制限装置12を設置して性能不足している分を補うこととする。必要な減衰力(復元力)から設置の個数と1個あたりの摩擦力Fを算出し、ジャッキ15で所要のプレコンプレッションPを導入することができる。例えば、既存の免震装置3の性能不足している減衰力(復元力)は、1基あたり80トンとすると、この免震装置3の周りに変位制限装置12を4個均等に配置すれば、一個当たり必要な摩擦力Fが20トンになり、摩擦係数k=0.5とすると、プレコンプレッションPは20トンになる。
【0022】
新設建物の場合には、柱8の脚部に設置する免震装置3と併設して変位制限装置12を設置することによって、柱8の脚部に設置する免震装置3の負担を軽減し、サイズダウンしてコスト低減を図ることができる。また、免震層A全体の安全率として変位制限装置12を設置し、免震装置3を地震から守ることができる。さらに、免震装置3より先に変位制限装置12を壊すように設計すれば、免震装置3の破損を防止することができる。変位制限装置12は安価で簡単に交換できるため、地震後に速やかに復旧することができる。
【0023】
また、調整ブロック16について、鋼製または中空箱断面のコンクリート製等で軽量に形成することが好ましい。施工性と交換可能性により、ボルト17でスラブ7に固定することとする。また、変位制限装置12は、本体部13とベーススプレート14とで形成されることとしているが、これに限ることなく、例えば、さらに、本体部13の上面に所要の摩擦係数に合せて適切な材料を選んで上面プレートとして上面に取付けることとしてもよい。要するに、少なくとも本体部13の下面(ジャッキ取付側)にベースプレート14を取付けることが好ましい。そして、プレコンプレッションを均等に本体部13に導入するため、ベースプレート14を所要の剛性を有する鋼製プレートとすることが好ましい。
【0024】
変位制限装置12は、方向依存性のないように平面形状を円形または円形に近似した形とし、地震時にあらゆる方向の変形に対応可能なものとする。
ジャッキ15については、小型のネジジャッキやボルトジャッキ等の油圧ジャッキとしてよい。特に限定されるものでなく、所要の出力に満足するもの、かつ、軽量で小型であるものを用いることが好ましい。また、実施例では変位制限装置12のセンターに一台を設置することとしているが、これに限ることなく、例えば、四隅に複数台を設置することとしてもよい。
【0025】
また、ジャッキアップした後に、押圧力を維持する方法は以下の二通りとする。
1つ目としては、ジャッキを付けっぱなしとする。この場合には、ゲージ18を付けて出力を定期的に測定し常時管理し、特に、地震発生後、出力の変動や損失の有無についてゲージ18で確認することが望ましい。
【0026】
二つ目としては、サポート材、たとえば、鋼製支柱を用いてベースプレート14の四隅に入れて押圧力を保持し、中央に設置したジャッキを緩めて撤去する。その後、ベースプレート14と調整ブロック16との間に無収縮モルタル等を充填して硬化させ、硬化したモルタルはジャッキの代わりに押圧力を保持することになる。取り外したジャッキは使い回しでき、コストを軽減することができる。
以上の二つ方法について、建物の状況や施工の場所、設備等によって総合的に判断してその方法手段を選定して実施することが望ましい。
【0027】
次に、図3図4に示した前記第1の実施の形態における変位制限装置12の変形実施例について説明する。この変形実施例については、大半の部分は前記第1の実施の形態と同一であるので、同一部分には同一符号を付してその詳細な説明は重複するので省略する。
この変形実施例は、巨大地震時に免震層Aが変形する際に、変位制限装置12が免震層Aの変形に追従できるように本体部13の上面と大梁(地中梁)10の下面との接触面の中央にずれ止め部材19を取り付けているのである。このずれ止め部材19は、鋼製プレートとして予め大梁(地中梁)10の下面に固定して一体化しておき、本体部13を取付ける際に位置決めともなるし、地震時に本体部13が大変形する時に、万一、変位制限装置12と大梁(地中梁)10との接触面に滑動現象が発生するような場合に、ずれ止め部材19に当接している側面に支圧力が生じて滑動を止める役割をする。なお、本体部13の下面に取り付けられるベースプレート14の形状もジャッキ15に馴染むように形成した方がよい。
【0028】
次に、本発明の本体部として使用される弾性体について複数の実施例を上げて説明する。
まず、本体部13として使用される弾性体は、硬質ゴムを用いることが好ましいが、天然ゴム、合成ゴムまたは高減衰ゴムのいずれかとしてもよい。コストを軽減するため、ゴムチッブや廃タイヤを再生したゴム等を使用することが望ましい。
また、ゴム製弾性体のせん断強度及びせん断変形能力を高めるため、上記のゴム材料に炭素繊維を入れ混ぜ合わせて合成ゴムとしたものを用いることが好ましい。
【0029】
図5(1)、(2)に示した第1の実施例は、本体部13の弾性体としては、上記ゴム材料に、PC鋼より線、PC鋼材やPCワイヤー等のPC鋼材で格子状に形成されたメッシュ材24を多段入りで形成された積層ゴムを用いることが好ましい。PC鋼材が高い強度をもっていることでプレコンプレッションPを導入し変位制限装置12として使用することが最適であるが、これに限ることなく、高強度棒鋼や繊維棒材としてもよい。
【0030】
また、図6(1)、(2)に示したように、上記ゴム材料を使用する点は変わらないが、メッシュ材24としては、格子状ではなく渦巻状としたPCワイヤーまたは鋼棒を使用して、前記同様に多段入りで形成された積層ゴム構造とする。
前記実施例に係る格子状のメッシュ材24の場合は、地震時弾性材がせん断変形する際に、地震力によってX、Y二方向のPC鋼材の合力で対応して応力を伝達することになる。それに比べ、細いPCワイヤーで形成された渦巻状のメッシュ材24の場合は、方向依存性がなく全方向に対してメッシュ筋が均等に働き、弾性材の強度と変形能力がフルに発揮できるから最も効果的である。
【0031】
次に、免震建物構造における変位制限装置12の配置例を図7に示した平面図によって説明する。
免震建物構造においては、各柱8が建てられる位置に前後左右が大梁10で連結されたフーチング9を設け、該フーチング9とラップル基礎6との間にメインの免震装置3が設けられている。本発明の変位制限装置12は、柱8以外の軸力がないが強度的に建造物を支える大梁10とマットスラブ7との間に設置するのである。この場合に、建造物のコーナー部のフーチング9には2本の大梁10しか連結されないが、側面のフーチング9には3本の大梁10が連結され、建造物の内側にあるフーチング9には4本の大梁10が連結されるのである。
【0032】
この種の免震建物構造においては、従来からあるメインの免震装置3については、例えば、コーナー部に設置するのは、天然積層ゴム免震装置であり、側面に設置するのは鉛プラグ入り天然積層ゴム免震装置であり、中央部に設置するのは滑り支承型の免震装置である。そして,本発明の変位制限装置12は、柱8以外の軸力がない所に設置するから、建物平面においては、メインの1基の免震装置3につき柱8の周りに少なくとも2個以上で、4個を均等に配置することが好ましい。このように個数を増やして全体に分散して配置することができるようにしたので、装置自体を小型で軽量化することができたのである。勿論、必要な個数は建造物構造と免震装置3の状態に応じて自由に選択し配置することができる。
【0033】
以上説明した実施の形態は、本発明の構成要件(主旨)を限定するものではなく、本発明の主旨に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、図示の実施例では変位制限装置12の本体部13の上端が大梁10の下面に当接し、ベースプレート14の下面に所要の出力を有するジャッキ15設置し、該ジャッキ15とマットスラブ7との間に高さを合わせるための調整ブロック16を設置しているが、これに限定されることなく、配置状態を全く逆にして、例えば、マットスラブ7の上に変位制限装置12の本体部13を設置し、その上にジャッキ15を介在させて調整ブロック16を大梁10に取り付けるようにしてもよいのである。要するに、変位制限装置12の本体部13と下部構造1との間に所要の摩擦力を生じさせることができればよいのである。また、第2の実施の形態においても,同じ要領で変更して、変位制限装置12の本体部13と下部構造1との間に所要の摩擦力を生じさせることができる。
また、ジャッキの代わりに、バネを利用して本体部13にプレコンプレッションを付与することができる。図示は省略するが、例えば、所要の弾性反力を有する圧縮コイルバネを利用し、該圧縮コイルバネを予めワイヤー等の拘束手段を用いて弾性圧縮変形させておき、該弾性圧縮変形した状況で本体部13の取り付け位置に合せて一緒にセットし、セット完了後、拘束ワイヤーを切断して拘束を解放することによって、所要の弾性反力が開放されて本体部13に所用のプレコンプレッションを導入させ、変位制限装置12の本体部13と上部構造2または下部構造1との間に所要の摩擦力を生じさせることができる。
また、本願においての所要の摩擦力とは、変位制限装置12の本体部13と上部構造2または下部構造1との間に生じる静止摩擦力とすることが好ましいが、これに限ることなく、必要に応じて、本体部13と上部構造2または下部構造1との間に滑りながら生じる動摩擦力とする場合もある。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る変位制限装置12においては、該変位制限装置12の本体部13を弾性体としたため、地震時に変位制限装置12の水平抵抗力(復元力)は、摩擦力Fと弾性体の弾性せん断変形による反力(せん断力)との合力になるが、安価で軽量化した変位制限装置12を提供することを目的としているから、主な水平抵抗力(復元力)を摩擦力Fに負担させ、本体部13は免震層Aの変位に追従することができればよいとする。要するに、従来の積層ゴム系の免震装置3は、鉛直荷重を支える機能と、水平変形をしながらエネルギーを吸収する機能を具備するものとして要求されているため、高価な材料を使用することに限られている。それに比べ、本発明の変位制限装置12は、従来の免震装置3の免震性能を補強または補助するものとしているから、鉛直荷重を支える機能が不要であり、そして、水平方向においては、本体部13の変形とエネルギー吸収性能のみを要求するが、反力(せん断力)に対して要求を緩和しているから、弾性体の材料特性は、幅広い材料より選定することができるため、安価で提供することが可能になる。これは、従来の積層ゴム系の免震装置3との異なる性能要求によるものであるが、新築または既存のこの種の免震建物構造において広く適用または利用できるのである。
【符号の説明】
【0035】
1 下部構造
2 上部構造
3 メインの免震装置
4 地盤
5 杭
6 ラップル基礎
7 マットスラブ
8 柱
9 フーチング
10 大梁(地中梁)
11 スラブ
12 変位制限装置
13 本体部
14 ベースプレート
15 ジャッキ
16 調整ブロック
17 取付ボルト
18 ゲージ
19 ずれ止め部材
24 メッシュ材
A 免震層
P プレコンプレッション
F 摩擦力
k 摩擦係数
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、
前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置であって、
該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、
前記本体部の下面に設置されたジャッキでジャッキアップしたことによって本体部に所要のプレコンプレッションが導入維持され、前記変位制限装置の本体部と上部構造または下部構造との間に所要の摩擦力を生じさせるようにしたこと
を特徴とする変位制限装置。
【請求項2】
前記弾性体は、硬質ゴム、天然ゴム、合成ゴム、高減衰ゴムのいずれかであり、PCワイヤーまたはPC鋼材で形成されたメッシュ材が多段入りで形成された積層ゴムとすること
を特徴とする請求項1に記載の変位制限装置。
【請求項3】
前記メッシュ材は、格子状または渦巻状とすること
を特徴とする請求項2に記載の変位制限装置。
【請求項4】
下部構造と上部構造との間に免震装置を介在させてある免震建物構造において、
前記下部構造と上部構造との間に設置され、前記免震装置の過大変形による損傷を防止する変位制限装置のプレコンプレッション導入方法であって、
該変位制限装置は、弾性体で形成した本体部とベースプレートとで構成され、建物の鉛直荷重による軸力がない所に設置され、
前記本体部の下面に設置されたジャッキでジャッキアップすることによって本体部に所要のプレコンプレッションを導入し、且つ該ジャッキを緩めずに導入されたプレコンプレッションを維持させること
を特徴とする変位制限装置のプレコンプレッション導入方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7