【構成】 田んぼダムシステム10は、複数の水田100からの排水量をまとめて規制する連結タイプの田んぼダムシステムであって、各水田に設けられる複数の個別排水管20、各個別排水管と公共排水路104とを接続する集合排水管22、および集合排水管に設けられる排水量調整部24などを備える。また、少なくとも田面高さが低位の水田が備える個別排水管には、フロート弁体(54)を有する逆流防止部50が設けられる。
田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用され、前記水田区域から公共排水路への排水量を抑制することによって水害の発生を防止する田んぼダムシステムであって、
前記複数の水田のそれぞれに設けられる複数の個別排水管、
前記複数の水田に跨るように設けられ、前記複数の個別排水管の下流側端部と前記公共排水路とを接続する集合排水管、
前記集合排水管の下流側端部に設けられる排水量調整部、および
少なくとも田面高さが低位である前記水田が備える前記個別排水管に対して設けられる逆流防止部を備える、田んぼダムシステム。
田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用され、前記水田区域から公共排水路への排水量を抑制することによって水害の発生を防止する田んぼダムシステムであって、
前記複数の水田のそれぞれに設けられる複数の個別排水管、
田面高さが同じまたは略同じである水田に設けられる前記個別排水管の下流側端部のそれぞれと前記公共排水路とを接続する複数の集合排水管、
前記複数の集合排水管の下流側端部に設けられる排水量調整部、および
前記複数の個別排水管のそれぞれに設けられる逆流防止部を備える、田んぼダムシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
連結タイプの田んぼダムシステムでは、各水田に設けられる個別排水管が集合排水管によって連結される。このため、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用した場合、集合排水管からの排水量よりも雨量の方が多くなると、各水田から集合排水管に排出された排水が、田面高さが低位の水田(低位部の水田)に逆流して、畦畔が決壊する等の被害が低位部の水田に集中してしまう恐れがある。このため、従来の連結タイプの田んぼダムシステムでは、各水田に対して雨水が略均等に貯留されるように、各水田の田面高さを均一化する整備工事を予め行っていた。しかしながら、このような整備工事はコストが掛かるため、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域にそのまま適用できる田んぼダムシステムが望まれる。
【0009】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、田んぼダムシステムを提供することである。
【0010】
この発明の他の目的は、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用しても、各水田に対して雨水が略均等に貯留され、田面高さが低位の水田に被害が集中することを防止できる、田んぼダムシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用され、水田区域から公共排水路への排水量を抑制することによって水害の発生を防止する田んぼダムシステムであって、複数の水田のそれぞれに設けられる複数の個別排水管、複数の水田に跨るように設けられ、複数の個別排水管の下流側端部と公共排水路とを接続する集合排水管、集合排水管の下流側端部に設けられる排水量調整部、および少なくとも田面高さが低位である水田が備える個別排水管に対して設けられる逆流防止部を備える、田んぼダムシステムである。
【0012】
第1の発明では、田んぼダムシステムは、複数の個別排水管および集合排水管を備える連結タイプの田んぼダムシステムであって、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用される。そして、雨量が多いときには、集合排水管の下流側端部に設けられる排水量調整部を用いて、その水田区域に含まれる複数の水田からの排水量をまとめて規制することにより、河川の氾濫などの水害を防止する。この第1の発明では、少なくとも田面高さが低位である水田(低位部の水田)が備える個別排水管に対して、逆流防止部が設けられる。
【0013】
第1の発明によれば、低位部の水田の個別排水管に対して逆流防止部を設けるので、集合排水管からの排水量よりも雨量の方が多くなった場合でも、低位部の水田に対して排水が逆流することが防止され、各水田に対して雨水が略均等に貯留される。したがって、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用しても、低位部の水田に被害が集中することを防止できる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明に従属し、逆流防止部は、個別排水管に接続される弁箱、弁箱内に設けられ、当該弁箱内の水位に応じて上下動するフロート弁体、および弁箱の上端部に設けられ、フロート弁体によって開閉される通水口を有する弁座を備える。
【0015】
第2の発明では、逆流防止部は、個別排水管に接続される弁箱を備える。弁箱内には、弁箱内の水位に応じて上下動するフロート弁体が収容される。また、弁箱の上端部には、通水口を有する弁座が設けられる。そして、弁箱内の水位が上がると、フロート弁体によって弁座の通水口が閉じられることで、水田への排水の逆流が防止される。
【0016】
第2の発明によれば、動力を要することなく、水田への排水の逆流を適切に防止することができる。
【0017】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、逆流防止部は、複数の個別排水管のそれぞれに設けられる。
【0018】
第3の発明では、複数の個別排水管のそれぞれに、つまり田面高さが高位である水田が備える個別排水管も含む、全ての個別排水管に対して逆流防止部が設けられる。仮に、各水田の田面高さよりも公共排水路の水位が高くなった場合には、公共排水路から各水田への排水の逆流も考えられるが、各水田が備える個別排水管のそれぞれに対して逆流防止部を設けることによって、公共排水路から各水田への排水の逆流が防止される。
【0019】
第3の発明によれば、公共排水路からの排水の逆流がある場合にも、低位部の水田と高位部の水田とに不平等が生じることなく、各水田に対して雨水が略均等に貯留されるので、水田区域全体として水害の影響を受け難くなる。
【0020】
第4の発明は、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用され、水田区域から公共排水路への排水量を抑制することによって水害の発生を防止する田んぼダムシステムであって、複数の水田のそれぞれに設けられる複数の個別排水管、田面高さが同じまたは略同じである水田に設けられる個別排水管の下流側端部のそれぞれと公共排水路とを接続する複数の集合排水管、複数の集合排水管の下流側端部に設けられる排水量調整部、および複数の個別排水管のそれぞれに設けられる逆流防止部を備える、田んぼダムシステムである。
【0021】
第4の発明では、田んぼダムシステムは、複数の個別排水管および集合排水管を備える連結タイプの田んぼダムシステムであって、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用される。そして、雨量が多いときには、集合排水管の下流側端部に設けられる排水量調整部を用いて、その水田区域に含まれる複数の水田からの排水量をまとめて規制することにより、河川の氾濫などの水害を防止する。この第4の発明では、複数の集合排水管が設けられ、各集合排水管は、田面高さが同じまたは略同じである水田に設けられる個別排水管の下流側端部のそれぞれと公共排水路とを接続する。また、複数の個別排水管のそれぞれには、逆流防止部が設けられる。
【0022】
第4の発明によれば、複数の集合排水管を備え、田面高さが同じまたは略同じである水田に設けられる個別排水管の下流側端部同士を連結するので、各水田間において圧力差が生じず、各水田に対して雨水が略均等に貯留される。したがって、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用しても、低位部の水田に被害が集中することを防止できる。
【0023】
また、各水田が備える個別排水管のそれぞれに対して逆流防止部を設けたので、各水田の田面高さよりも公共排水路の水位が高くなった場合でも、公共排水路から各水田への排水の逆流が防止される。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、低位部の水田の個別排水管に対して逆流防止部を設けるので、集合排水管からの排水量よりも雨量の方が多くなった場合でも、低位部の水田に対して排水が逆流することが防止され、各水田に対して雨水が略均等に貯留される。したがって、田面高さの異なる複数の水田を含む水田区域に適用しても、低位部の水田に被害が集中することを防止できる。
【0025】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1−
図3を参照して、この発明の一実施例である田んぼダムシステム10は、雨量の多いとき(豪雨時)に、水田100から公共排水路104への排水量を抑制することによって、すなわち、水田100に降った雨水を一時的に貯留し、時間をかけて少しずつ公共排水路104に排水することによって、河川の氾濫などの水害を防止するシステムである。
【0028】
この実施例の田んぼダムシステム10は、複数の個別排水管20および集合排水管22を備える連結タイプの田んぼダムシステムであって、田面高さの異なる複数の水田100を含む水田区域102に適用されて、その水田区域102に含まれる複数の水田100からの排水量をまとめて規制する。水田(耕区)1枚の大きさにもよるが、約5〜10枚の水田100を1つの水田区域102として田んぼダムシステム10が適用される。ただし、簡略化のため、
図1では1つの水田区域102として2枚の水田100を示しており、
図3では1つの水田区域102として4枚の水田100を示している。
【0029】
以下、田んぼダムシステム10の構成について具体的に説明する。
図1−
図3に示すように、田んぼダムシステム10は、各水田100に設けられる排水桝106のそれぞれに接続される複数の個別排水管20を備える。
【0030】
排水桝106は、落水口とも言われ、合成樹脂またはコンクリート等によって形成される。排水桝106としては、従来公知のものが適宜用いられる。たとえば、排水桝106は、有底の矩形筒状に形成されて、畦畔108の水田100側の側面に設けられる。排水桝106の水田100側の壁(前壁)は、上下方向にスライド可能な堰板110となっており、この堰板110を上下動させることによって、田面水位を所望の設定水位に調整することが可能とされる。また、排水桝106の底壁は、田面と同じ高さ位置或いは一段低い高さ位置に配置され、この底壁に排水口112が形成される。そして、この排水口112に対して、個別排水管20の上流側端部が接続される。
【0031】
個別排水管20は、排水口112から下方に延びる縦管部20aと、所定の下り勾配で傾斜する傾斜管部20bとを備え、硬質塩化ビニル等の合成樹脂製の管や継手などを適宜連結することによって形成される。個別排水管20の内径は、たとえば150mmである。個別排水管5の下流側端部のそれぞれは、集合排水管22に接続される。
【0032】
集合排水管22は、複数の水田100に跨るように埋設され、複数の個別排水管20の下流側端部と公共排水路104とを接続する。つまり、各水田100から各個別排水管20に排出された排水は、集合排水管22を通って公共排水路104に排出される。集合排水管22は、硬質塩化ビニル等の合成樹脂製の管や継手などを適宜連結することによって形成される。集合排水管22の内径は、たとえば600mmである。
【0033】
集合排水管22の下流側端部には、排水量調整部24が設けられる。
図4に示すように、排水量調整部24は、集合排水管22から公共排水路104に排出する排水量を調整するための水門である。排水量調整部24は、ハンドル26を操作することによって上下動する矩形板状の仕切り部材(門扉)28を備え、この仕切り部材28の下端部には、厚み方向に貫通する小孔30が形成される。この小孔30の径は、たとえば90mmである。
【0034】
この実施例では、仕切り部材28を上下動させることによって、
図4に示す3つの段階に排水量が調整される。すなわち、仕切り部材28が最上位置に配置されて、集合排水管22が全開となる全開状態(
図4(A)参照)、仕切り部材28の小孔30が集合排水管22の底部に位置するように仕切り部材28が配置されて、排水量が小孔30分に抑制される排水量抑制状態(
図4(B)参照)、および仕切り部材28が最下位置に配置されて、集合排水管22が閉止される全閉状態(
図4(C)参照)の3つの段階に排水量が調整される。
【0035】
このような田んぼダムシステム10を田面高さの異なる複数の水田100を含む水田区域102に適用すると、排水量抑制時などに集合排水管22からの排水量よりも雨量の方が多くなった場合に、各水田100から集合排水管22に排出された排水が、各個別排水管20を逆流して各水田100に流入してしまう場合がある。特に、田面高さが低位の水田(低位部の水田)100には排水が逆流し易いため、田面高さが高位の水田(高位部の水田)100に発生する被害と比較して、低位部の水田100に被害が集中してしまう恐れがある。
【0036】
そこで、この実施例の田んぼダムシステム10では、個別排水管20のそれぞれに対して逆流防止部50を設ける(組み込む)ことによって、各水田100への排水の逆流を防止するようにしている。この実施例では、個別排水管20の縦管部20aの上流側端部、つまり排水桝106の排水口112に逆流防止部50が設けられる。
【0037】
図5に示すように、逆流防止部(逆流防止装置)50は、縦管状に形成される弁箱52を備える。この弁箱52は、硬質塩化ビニル等の合成樹脂によって形成され、個別排水管20に接続されて個別排水管20の一部を構成する。具体的には、弁箱52は、略円筒状の箱本体52aと、箱本体52aの下端部に形成されて、下方に向かって縮径するテーパ部52bとを含む。箱本体52aの内径は、個別排水管20の内径よりも大きく設定され、たとえば225mmである。また、テーパ部52bの下端には、短円筒形状の管接続部52cが下方に延びるように形成され、箱本体52aの上端には、円環状のフランジ部52dが外方に拡がるように形成される。管接続部52cは、個別排水管20の縦管部20aとの接続に用いられ、フランジ部52dは、後述する弁座56を取り付けるために用いられる。
【0038】
弁箱52の箱本体52a内には、弁箱52内の水位に応じて上下動するフロート弁体54が収容される。この際、フロート弁体54周囲の通水路の断面積は、後述する通水口56aの断面積よりも大きくなるようにされる。フロート弁体54は、合成樹脂、ゴムおよび金属などによって中空の球形状に形成される。ただし、水位に応じて上下動可能な比重となるならば、フロート弁体54は、中実体であってもよい。
【0039】
また、弁箱52の上端部には、通水口56aを有する弁座56が設けられる。弁座56は、合成樹脂などによって円形板状に形成され、弁箱52のフランジ部52dに対して、ボルト等を用いて着脱可能に固定される。この弁座56の中央部には、円形の通水口56aが形成される。通水口56aの径は、個別排水管20の内径と同じ或いは少し小さく設定され、たとえば125mmである。通水口56aは、後述のように、フロート弁体54によって開閉される。
【0040】
さらに、弁箱52の下端部には、通常排水時において、弁箱52内面との間に隙間を有する状態でフロート弁体54を保持するための台座58が設けられる。
図6からよく分かるように、台座58は、リング状の保持部58aと、保持部58aから斜め下方に延びる3本の脚部58bとを有する三脚台状に形成される。この台座58は、合成樹脂などによって形成され、接着剤などを用いて、弁箱52のテーパ部52b上面に対して固定的に取り付けられる。なお、台座58の形状、たとえば脚部58bの数などは適宜変更可能である。
【0041】
このような田んぼダムシステム10では、雨量が多いとき以外の通常排水時には、
図4(A)に示すように、排水量調整部24は全開状態とされる。そして、排水桝106の堰板110によって規定される設定水位以上の水が水田100に供給された場合には、その余剰水(排水)は、排水口112から個別排水管20に排出され、集合排水管22を通って公共排水路104に排出される。この際、逆流防止部50のフロート弁体54は、
図5に示すように、自重によって台座58の保持部58a上に載置された状態となり、弁座56の通水口56aは開口される。そして、フロート弁体54と弁箱52内面との間には、台座58の脚部58bによって隙間(通水路)が形成されるので、逆流防止部50の弁箱52内に流入した排水は、弁箱52内を円滑に流下していく。
【0042】
一方、雨量が多いとき(豪雨時)、または雨量が多くなりそうなときには、田んぼダムシステム10の管理者などによって、
図4(B)に示すように、排水量調整部24は排水量抑制状態とされる。すなわち、水田100に降った雨水を少しずつ公共排水路104に排水することによって、河川の氾濫などの水害が防止される。
【0043】
この排水量抑制状態において、集合排水管22(排水量調整部24の小孔30)から公共排水路104への排水量よりも水田区域102に降る雨量が多い場合には、
図7および
図8に示すように、集合排水管22内の水位が増していき、集合排水管22内に貯留しきれなくなった排水が、個別排水管20内を逆流していく。そして、個別排水管20内を逆流する排水が逆流防止部50に達して弁箱52内の水位が上がると、その水位に応じてフロート弁体54が上昇し、弁座56の通水口56aがフロート弁体54によって閉じられる。これにより、個別排水管20から水田100への排水の逆流が防止される。特に、逆流防止部50によって低位部の水田100への排水の逆流を防止することにより、低位部の水田100に被害が集中してしまうことが防止される。
【0044】
また、逆流防止部50によって排水の逆流が防止されている状態においては、これと同時に、水田100から個別排水管20への排水も停止され、水田100に降った雨水はそのまま水田100に貯留される。また、公共排水路104に排水されることによって、弁箱52内の水位が下がると、その水位に応じてフロート弁体54が下降し、弁座56の通水口56aが開口される。これにより、水田100から個別排水管20への排水が再開される。
【0045】
なお、
図4(B)に示すような排水量抑制状態での公共排水路104への排水も危険と判断されるような場合など、排水量抑制状態から公共排水路104への排水を中止する必要が生じた場合には、田んぼダムシステム10の管理者などによって、
図4(C)に示すように、排水量調整部24は全閉状態とされる。この全閉状態においても、個別排水管20内を排水が逆流してきた場合には、逆流防止部50によって水田100への排水の流入が防止される。
【0046】
この実施例によれば、各水田100が備える個別排水管20のそれぞれに対して、水位が上昇してきたときに通水口56aを閉じるフロート弁体54を備える逆流防止部50を設けた。このため、集合排水管22から公共排水路104への排水量よりも雨量の方が多くなった場合でも、低位部の水田100に対して排水が逆流することが防止され、各水田100に対して雨水が略均等に貯留される。
【0047】
したがって、この実施例の田んぼダムシステム10は、田面高さの異なる複数の水田100を含む水田区域102に対して、田面高さを均一化する整備工事を行うことなくそのまま適用することが可能であり、田面高さの異なる複数の水田100を含む水田区域102に適用しても、畦畔が決壊する等の被害が低位部の水田100に集中することを防止できる。
【0048】
また、仮に、公共排水路104の水位が水田100の田面高さよりも高くなった場合には、公共排水路104から各水田100に排水が逆流することも考えられるが、各水田100が備える個別排水管20のそれぞれに対して、つまり全ての個別排水管20に対して逆流防止部50を設けることによって、公共排水路104から各水田100への排水の逆流も防止される。したがって、公共排水路104からの排水の逆流がある場合にも、低位部の水田100と高位部の水田100とに不平等が生じることなく、各水田100に対して雨水が略均等に貯留され、水田区域102全体として水害の影響を受け難くなる。
【0049】
さらに、逆流防止部50として、フロート弁体54を利用して通水口56aを開閉する機構を用いたので、動力を要することなく、水田100への排水の逆流を適切に防止することができる。
【0050】
なお、上述の実施例では、逆流防止部50のフロート弁体54を球状に形成し、弁箱52の下端部に台座58を設けるようにしたが、弁箱52およびフロート弁体54の形状などを含む逆流防止部50の構成は、適宜変更可能である。以下、具体例を挙げて説明する。
【0051】
たとえば、
図9に示す実施例では、弁箱52の箱本体52aの側壁下端部には、内方に窪む複数の凹部52hが周方向に並ぶように設けられる。つまり、
図10からよく分かるように、箱本体52aの側壁下端部は、周方向に凹凸を繰り返す波形状(花形状の断面)に形成される。そして、フロート弁体54は、箱本体52aの凹部52hによって、箱本体52aの内面との間に隙間を有する状態で保持される。なお、
図10では6つの凹部52hを示しているが、凹部52hの数は任意である。また、フロート弁体54周囲の通水路の断面積は、通水口56aの断面積よりも大きくなるようにされる。
【0052】
水田100から排出される排水には、藁などの浮遊物が含まれることが想定されるが、
図9に示す実施例のように、弁箱52の構造を浮遊物などのごみが絡み難い構造にしておくことにより、ごみの詰まりによる逆流防止部50の動作不良を防止できる。
【0053】
また、たとえば、
図11に示す他の実施例では、逆流防止部50のフロート弁体54は、円錐状の弁本体54aと、弁本体54aから斜め下方に延びる複数本(この実施例では3本)の脚部54bとを有する。弁本体54aは、適切に浮力が発揮されるならば、中空体であってもよいし、中実体であってもよい。また、弁本体54aの底部側に肉盗み部が形成されて、そこに空気溜りが生じるようにしてもよい。
【0054】
図11に示す実施例では、通常排水時には、逆流防止部50のフロート弁体54は、自重によって弁箱52のテーパ部52bに載置された状態となり、弁座56の通水口56aは開口される。そして、水田100から逆流防止部50の弁箱52内に流入した排水は、脚部54bによって形成される隙間(通水路)を通って、弁箱52内を円滑に流下していく。
【0055】
一方、排水量抑制時などにおいて、弁箱52内の水位が上がると、
図12に示すように、その水位に応じてフロート弁体54が上昇し、弁座56の通水口56aがフロート弁体54の弁本体54aによって閉じられる。これにより、個別排水管20から水田100への排水の逆流が防止される。
【0056】
さらに、たとえば、
図13に示す他の実施例では、逆流防止部50のフロート弁体54は、短円柱状(円板状)に形成される。このフロート弁体54は、適切に浮力が発揮されるならば、中空体であってもよいし、中実体であってもよいし、底部側に肉盗み部が形成されていてもよい。また、弁箱52は、略円筒状の箱本体52eを備える。この箱本体52eの側壁には、個別排水管20の上流側端部との接続部としても利用される分岐管部52fが設けられる。さらに、箱本体52eの下端には、円環板状の底部52gが設けられる。これによって、通常排水時においてフロート弁体54を収容する弁体収容部が箱本体52eの下端部に形成される。また、底部52gには、小径の水抜管60が接続され、この水抜管60の下流側端部は、個別排水管20に連結される。そして、弁箱52の箱本体52eの上端には、通水口56aを有する弁座56が設けられる。
【0057】
図13に示す実施例では、通常排水時には、逆流防止部50のフロート弁体54は、自重によって、分岐管部52fより下方に形成される箱本体52eの弁体収容部に収容された状態となり、弁座56の通水口56aは開口される。そして、水田100から逆流防止部50の弁箱52内に流入した排水は、分岐管部52fを通って個別排水管20に排出される。なお、弁体収容部に入り込んだ排水は、水抜管60を通って個別排水管20に排出される。
【0058】
一方、排水量抑制時などにおいて、弁箱52内の水位が上がると、
図14に示すように、その水位に応じてフロート弁体54が上昇し、弁座56の通水口56aがフロート弁体54によって閉じられる。これにより、個別排水管20から水田100への排水の逆流が防止される。
【0059】
さらにまた、たとえば、
図15に示す他の実施例では、逆流防止部50のフロート弁体54は、円板状の弁本体54cを備える。弁本体54cの下面には、弁本体54cの浮力を増すための浮力体54dが設けられる。浮力体54dは、たとえば発泡体によって形成される。また、弁本体54cの上面には、水密性を向上させるためのゴム板などの弾性層54eが設けられる。さらに、弁本体54cの周縁部にはヒンジ部54fが設けられる。弁本体54cは、このヒンジ部54fを介して弁座56に取り付けられ、ヒンジ部54fを支点として上下方向に回動可能とされる。
【0060】
図15に示す実施例では、通常排水時には、逆流防止部50のフロート弁体54は、自重によって下方に垂れ下がった状態となり、弁座56の通水口56aは開口される。そして、水田100から逆流防止部50の弁箱52内に流入した排水は、弁箱52内を通ってそのまま個別排水管20に排出される。
【0061】
一方、排水量抑制時などにおいて、弁箱52内の水位が上がると、
図16に示すように、その水位に応じてフロート弁体54がヒンジ部54fを支点として上昇し、弁座56の通水口56aがフロート弁体54の弁本体54cによって閉じられる。これにより、個別排水管20から水田100への排水の逆流が防止される。
【0062】
なお、上述の各実施例では、全ての個別排水管20に対して逆流防止部50を設けるようにしているが、逆流防止部50は、必ずしも全ての個別排水管20に対して設けられる必要はなく、低位部の水田100が備える個別排水管20に対して設けられるだけでもよい。たとえば、田面高さが最も低位の水田100が備える個別排水管20のみに対して、或いは田面高さが最も高位の水田100が備える個別排水管20を除くその他の個別排水管20に対して、またはその間の任意の数個の個別排水管20に対して逆流防止部50を設けることもできる。このように、少なくとも低位部の水田100が備える個別排水管20に対して逆流防止部50を設けておくことにより、低位部の水田100に対して排水が逆流することが防止されて、各水田100に対して雨水が略均等に貯留されるので、低位部の水田100に被害が集中することを防止できる。
【0063】
また、上述の各実施例では、1つの水田区域102において1つの集合排水管22を設けるだけであったが、
図17に示す実施例のように、システム10は、複数の集合排水管22を備えることもできる。
【0064】
図17に示すように、この実施例のシステム10は、各水田100に設けられる排水桝106のそれぞれに接続される複数の個別排水管20を備える。また、各個別排水管20の上流側端部には、逆流防止部50が設けられる。
【0065】
そして、この実施例では、2つの集合排水管22が設けられる。各集合排水管22は、田面高さが同じまたは略同じである水田100に設けられる個別排水管20の下流側端部のそれぞれと公共排水路104とを接続する。すなわち、低位部の水田100と高位部の水田100とで配管系統が分けられており、低位部の水田100に設けられた個別排水管20のそれぞれは、低位部用の集合排水管22によって連結され、高位部の水田100に設けられた個別排水管20のそれぞれは、高位部用の集合排水管22によって連結される。集合排水管22の内径は、たとえば300mmである。このように、田面高さが同じまたは略同じである水田100に設けられる個別排水管20同士を選んで連結することによって、各水田100間において圧力差が生じず、各水田100に対して雨水が略均等に貯留されるようになる。
【0066】
なお、この実施例では、2つの集合排水管22を備えるようにしているが、3つ以上の集合排水管22を設け、水田100の田面高さに応じて配管系統を3つ以上に分けることも可能である。
【0067】
また、各集合排水管22の下流側端部は、近傍位置に配管され、そこに排水量調整部24が設けられる。
図18に示すように、この実施例の排水量調整部24は、ハンドル26を操作することによって上下動する矩形板状の仕切り部材28を備え、この仕切り部材28には、厚み方向に貫通する2つの小孔30が形成される。各小孔30の径は、たとえば45mmである。
【0068】
この実施例では、仕切り部材28を上下動させることによって、2つの集合排水管22からの排水量が同時に、3つの段階に調整される。すなわち、仕切り部材28が最上位置に配置されて、2つの集合排水管22が全開となる全開状態(
図18(A)参照)、仕切り部材28の各小孔30が各集合排水管22の底部に位置するように仕切り部材28が配置されて、2つの集合排水管22からの排水量が各小孔30分に抑制される排水量抑制状態(
図18(B)参照)、および仕切り部材28が最下位置に配置されて、各集合排水管22が閉止される全閉状態(
図18(C)参照)の3つの段階に排水量が調整される。ただし、各集合排水管22の下流側端部に対して個別に排水量調整部24を設け、2つの集合排水管22からの排水量を個別に調整することもできる。
【0069】
図17に示す実施例によれば、複数の集合排水管22を備え、田面高さが同じまたは略同じである水田100に設けられる個別排水管20の下流側端部同士を連結するので、各水田100間において圧力差が生じず、各水田100に対して雨水が略均等に貯留される。したがって、田面高さの異なる複数の水田100を含む水田区域102に適用しても、低位部の水田100に被害が集中することを防止できる。
【0070】
また、各水田100が備える個別排水管20のそれぞれに対して逆流防止部50を設けたので、仮に、各水田100の田面高さよりも公共排水路104の水位が高くなった場合でも、公共排水路104から各水田100への排水の逆流が防止される。
【0071】
なお、上述の各実施例では、個別排水管20の上流側端部(つまり水田100の排水口112)に逆流防止部50を設けたが、逆流防止部50は、個別排水管20の管路の途中に設けることもできる。
【0072】
また、上述の各実施例では、逆流防止部(逆流防止装置)50は、フロート弁体54の上下動を利用して通水口56aを開閉するものであったが、逆流防止部の機構は、このようなフロート弁体54を用いる機構に限定されない。たとえば、逆流防止部は、電動で仕切弁などを開閉する電動弁とすることもできる。この場合、個別排水管20に水位センサを設けておき、個別排水管20内の水位が設定水位以上であるか否かで仕切弁を開閉するようにするとよい。なお、水位センサは、田面に設けることもでき、田面水の水位が設定水位以上であるか否かで仕切弁を開閉することもできる。
【0073】
また、水位センサの検知情報を集中管理システムに送信し、その検知情報に基づいて電動弁を遠隔操作で開閉する遠隔監視システムとすることもできる。遠隔監視システムとする場合には、排水量調整部24も電動弁として遠隔操作することも可能である。
【0074】
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値は、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。