(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-39161(P2017-39161A)
(43)【公開日】2017年2月23日
(54)【発明の名称】冷間エマルション圧延における入口油膜厚みの計算および高潤滑性を可能にする圧延油
(51)【国際特許分類】
B21B 27/10 20060101AFI20170203BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20170203BHJP
B21B 38/10 20060101ALI20170203BHJP
【FI】
B21B27/10 B
B21B1/22 L
B21B38/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-176125(P2015-176125)
(22)【出願日】2015年8月21日
(71)【出願人】
【識別番号】591172216
【氏名又は名称】小豆島 明
(72)【発明者】
【氏名】小豆島 明
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AD05
4E002BC08
4E002CB09
(57)【要約】
【課題】 高張力鋼鈑などの冷間エマルション圧延において入口油膜厚みを求めるとき、入口油膜厚みの計算に熱効果を考慮に入れた新しい計算システムの開発し、この計算システムを用いて入口油膜厚みの計算を行い、この計算結果を用いて冷間エマルション圧延における材料とロール間の接触界面に導入される油膜厚みを増加させる因子を解明する手段を開発し、高速冷間エマルション圧延においても高潤滑性を可能にする圧延油を開発する。
【解決手段】
冷間エマルション圧延における入口油膜厚みの計算に熱効果を考慮に入れた新しい計算システムを提供する。その計算結果を用いて、高張力鋼鈑やステンレス鋼板などの冷間エマルション潤滑圧延における入口油膜厚みを増加させるため、油膜厚み
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間エマルション圧延において材料とロール間の接触界面に導入される油膜厚みを定量的に理解することを可能にするためのエマルション潤滑圧延における入口油膜厚みを高精度に求めることができる入口部の潤滑油の熱効果を考慮に入れた計算システム
【請求項2】
冷間エマルション圧延における材料とロール間の接触界面において油膜厚みを増加させ、高潤滑性を発揮することを可能にするために、エマルション潤滑圧延における入口油膜厚
【請求項3】
圧延油の粘度、組成、添加する乳化剤、エマルション濃度やエマルション粒径などを考慮したエマルション圧延油
【請求項4】
油膜厚みh
2のうち、Dynamic concentrationモデルによってエマルション濃度が100%
マルション粒径などを考慮したエマルション圧延油
【請求項5】
バックアップロールの材料、直径などを考慮および入側のロール表面に同じ圧延油成分の薄膜を塗布する圧延方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高張力鋼鈑やステンレス鋼板などの冷間エマルション圧延における入口油膜厚みの計算および高潤滑性を可能にする圧延油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高張力鋼鈑やステンレス鋼板などの冷間圧延においては焼付きが発生する可能性が高く、圧延速度が圧延機の最高速度まで増加することができないことが起こっている。そのため、焼付き発生を防止するため高潤滑性を有するダイレクト圧延油の開発が行われて、焼付きの改善がなされている。しかし、近年の省コスト、省エネ、省資源を考えると、従来のレサキュレーション型エマルション圧延油を用いた安価な方法で焼付き発生を抑える技術開発が必要になっている。そのためには、これまでのレサキュレーション型エマルション圧延油を用いた潤滑システムにおいて潤滑性を高める工夫を考える必要がある。
【0003】
高張力鋼鈑などの冷間圧延において1種類のレサキュレーション型エマルション圧延油を用いた潤滑システムにおいては過酷な圧延条件においては焼付けを防止することは困難であるため、2種類のエマルション濃度の圧延油を用いたハイブリッド潤滑システムが開発されている。一方、エマルション潤滑圧延における材料とロール間の接触界面に導入される入口油膜厚みの計算において、入口部の潤滑油に熱効果を考慮しなければならない領域では、いまだに求めることができていない状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−099757
【特許文献2】特開2013−221123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このハイブリッド潤滑システムでは2種類のエマルション圧延油を用意し、それぞれのエマルション圧延油を材料とロール間に給油するための二つの配管経路が必要になり、経費がかかることおよびこの潤滑システムでは同じ圧延油の2種類エマルション濃度を選択する自由度しかない。エマルション圧延において潤滑性を向上し、耐焼付け性を改善するためには、エマルション潤滑圧延における導入メカニズムを確立し、材料とロール間に導入される入口油膜厚みに及ぼすトライボロジー因子を明確にするとともに、熱効果を考慮に入れ、入口油膜厚みを高精度に求めることが必要である。本発明は、エマルション潤滑圧延における導入メカニズムを確立し、材料とロール間の入口部に導入される入口油膜厚みを高精度に求め、入口油膜厚みに及ぼすトライボロジー因子を定量的に求めことおよびその結果を用いてエマルション潤滑圧延における材料とロール接触界面に導入される油膜厚さを増加させることにより、潤滑性を向上し、耐焼付け性を改善する圧延油を提案することである。
【0006】
上記課題を解決するための手段は以下のとおりである。まず、
図1に示すエマルション潤滑圧延における導入モデルを用いて、冷間エマルション圧延における入口油膜厚みの計算システムを提案する。
図1はロールと材料間でエマルション潤滑されている入口部でのモデルの(a)模式図、(b)濃度変化,(c)圧力変化を示す。高張力鋼鈑などの冷間エマルション圧延における入口油膜厚みを求めるためには、圧延速度がアルミニウム板などに比べ非常に大きくなるため、入口部における油膜のせん断による熱効果を考慮する必要がある。入口油膜厚みの計算に熱効果を考慮に入れた新しい計算システムの構築を行う。つづいて、この計算システムを用いて入口油膜厚みの計算を行い、冷間エマルション圧延における材料とロール間の接触界面に導入される油膜厚みを増加させる因子を解明する手段を構築し、高速冷間エマルション圧延においても高潤滑性を可能にする圧延油の開発を行う。最後に、油膜厚みを増加させるために開発した圧延油についての評価を行う。
【0007】
本発明において開発したエマルション潤滑圧延における入口油膜厚みの計算システムは、冷間エマルション圧延における入口油膜厚みを高精度に計算でき、その計算結果は材料とロール間の接触界面に導入される圧延油の油膜を増加させる圧延油の開発を容易にすることができる。
【0008】
本発明の圧延油は、高張力鋼鈑やステンレス鋼板などの高速冷間エマルション圧延における材料とロール間の接触界面において油膜厚みを増加させ、高潤滑性を発揮することを可能にするものである。この開発した圧延油は、従来のレサキュレーション型エマルション圧延油として用いることができ、焼付き発生を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示したロールと材料間でエマルション潤滑されている入口部でのモデルを用いて、入口油膜厚みの計算のための仮定は以下の通りである。
(1)ロールと材料は入口部で剛体であり、それぞれの表面は鏡面である。
(2)ロールと材料表面はプレートアウトされており、その油膜厚みは
ウトされた厚みである。
(3)エマルション粒子は、プレートアウトしたロールと材料間の距離が粒子直径dに等しくなったx
3点でプレートアウトしたロールと材料表面に付着する。
(4)付着したエマルション粒子は優先的に進行し、エマルション濃度を増加させ、x
2点で
る。
ここで、cはエマルション濃度である。
(5)x
2点で油膜が100%になり、その油膜厚みh
2はロールと材料間の距離に等しく、
で与えられ、圧力はx
2点を境界として、x
2点から入口点(x
1点)に向かってゼロから増加し、その圧力が材料の降伏応力Yになったとき材料は降伏する。
(6)x
2点以降の油膜における熱効果を考慮する。
(7)入口部で潤滑によって伝達される熱は無視する。
(8)潤滑油の粘度は圧力と温度の関数で、温度は油膜断面T
0に等しい。
【0010】
入口油膜厚みの計算に必要なレイノルズ方程式(4)、エネルギー式(5)および粘度式(6)は
を用いた。ここで、pは圧力、V
1は入口部での材料速度、V
rはロール速度、hはx
2点以降での油膜厚み、h
1は入口部での油膜厚み、θはかみ込み角、Tは温度、T
0は周囲の温度、αおよびβは粘度の圧力、温度係数である。
(3)式の境界条件としては
とした。次に(4)式の潤滑油の速度νは
で与えられる。その境界条件としては
として積分を行い、平均温度T
mを求めた。
【0011】
入口油膜厚みを計算するフローチャートを
図2に示す。圧力境界x
2点の油膜厚み
区間中、一増分区間の潤滑油の温度は平均温度T
mで一定であるとした。入口油膜厚みh
1を仮定して、初期値を設定して、(7)式の境界条件を用いて書くx点での圧力p
iと平均温度T
miをそれぞれRunge‐Kutta法およびNewton‐Raphson法を用いて各ステップごとに計算した。油膜厚みhがh
1になったとき、圧力pが材料の降伏応力Yに等しいかどうか比較して、p=Yになるまでh
1を繰る返し変更した。この計算システムを用いて入口油膜厚み求めることができる。Fig.2に入口油膜厚みを計算するフローチャートを示す。
【0012】
計算のためのインプットデータとして、材料の降伏応力Y=200MPa、圧延油の基油粘度η=0.5,0.05Pa・s、その圧力および温度係数 α=2×10
−8/Pa,β=0.04/℃、かみ込み角θ=2.1°、および入側の速度比V
1/V
r=85.5%の値を与えた。入口油膜厚みは、その基準値をベースにして圧力境界位置x
2点でのh
2の値を変化させて計算した。Fig.3に基油粘度0.05Pa・sにおいてインプットデータでh
2を変化させたときのエマルション潤滑における入口油膜厚みとロール速度の関係を示す。比較のためにニート潤滑も含め熱効果を考慮に入れた場合と入れない場合の結果を示す。以上のようにエマルション潤滑圧延において入口油膜厚みの計算を可能にすることが本発明の形態のひとつである。
【0013】
図3の計算結果から入口油膜厚みはニート潤滑に比べいずれの条件においてもエマルション潤滑のほうが小さくなっている。そして、エマルション潤滑においては圧力境界位置x
2が入口点に近くなるほど、言い換えればh
2が小さくなるほど入口油膜厚みは小さくなっている。また、ロール速度の増加に対する入口油膜厚みの増加率もh
2の減少とともに小さくなっている。エマルション潤滑圧延において、入口油膜厚みに対して熱効果を考慮に入れた場合と入れない場合を比較すると、いずれのh
2の値においてもロール速度800m/minより影響が現れ、熱効果を考慮に入れることにより入口油膜厚みが小さくなっている。エマルション潤滑圧延においても、圧延速度が1500m/minを超えるような高圧延速度においては、熱効果を考慮に入れた入口油膜厚みの計算を行う必要があることを示している。
【0014】
更に、
図3から入口油膜厚みはh
2の値に大きく依存することが理解できる。すなわち、エマルション潤滑圧延において材料とロール間の接触界面に導入される油膜厚みを大きくするためには、h
2の値をできるだけ大きくすることが必要である。h
2の値を大きくするた
ことであることが本発明の形態のひとつである。
【0015】
本発明は、エマルション潤滑圧延において材料とロール間の接触界面に導入される油膜厚みを定量的に理解することを可能にするため、エマルション潤滑圧延における入口部における導入メカニズムを確立し、入口部における潤滑油の熱効果を考慮入れた入口油膜厚みを高精度に求める計算システムを提案することを意味している。
【0016】
更に本発明は、高張力鋼鈑やステンレス鋼板などの冷間エマルション圧延における材料とロール間の接触界面において油膜厚みを増加させ、高潤滑性を発揮することを可能にするために、エマルション潤滑圧延における入口油膜厚みを増加させる
図1に示された式(3)
【0017】
具体的に本発明において、h
2の値を大きくするには、一つ目として材料表面にプレート
マルション濃度やエマルション粒径などの考慮、二つ目としてロール表面にプレートアウ
入側のロール表面に同じ成分の圧延油の塗布、三つ目としてdynamic concentrationモデ
粘度、組成、エマルション濃度、エマルション粒径などを考慮すること意味している。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を示す。板厚0.8mmの普通鋼鈑を表面粗さ0.05RaμmのSUJ‐2の直径76mmのロールの2段圧延機を用いて2種類の圧延速度60m/minと120m/min、圧下率10%で200cStと500cStの2種類の粘度の合成エステル系油(A,B)の濃度5%エマルションで圧延を行い、圧延後の表面光沢を測定した。表1に測定した表面光沢を示す。圧延速度60m/minのエマルション潤滑圧延においては、粘度が小さな圧延油Aの表面光沢は粘度の大きな圧延油Bの表面光沢よりも135高い値を示した。圧延速度120m/minにおいては、圧延油Aの表面光沢が40高い値を示した。これらの結果から推定される入口油膜厚みは
図2の入口油膜厚みの計算結果などから容易に推察される。
【0019】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ロールと材料間でエマルション潤滑されている入口部でのモデル (a)模式図、(b)濃度変化,(c)圧力変化
【
図3】基油粘度0.05Pa・sの圧延油のh
2を変化させたときのエマルション潤滑圧延における入口油膜厚みとロール速度の関係