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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-40593(P2017-40593A)
(43)【公開日】2017年2月23日
(54)【発明の名称】物質識別装置
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/12 20060101AFI20170203BHJP
【FI】
   G01V3/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-163252(P2015-163252)
(22)【出願日】2015年8月20日
(71)【出願人】
【識別番号】594122553
【氏名又は名称】海洋総合開発株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100007983
【弁理士】
【氏名又は名称】笹川 拓
(72)【発明者】
【氏名】森 孝二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 準一
(72)【発明者】
【氏名】廣本 宣久
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA01
2G105BB14
2G105BB15
2G105CC01
2G105CC04
2G105DD02
2G105EE01
2G105FF01
2G105GG01
2G105HH01
2G105HH06
2G105JJ03
(57)【要約】
【課題】多数の乗客が利用する空港等での、隠匿物としての粉末から金属等の固体までの幅広い物質の検査を短時間で行うことが可能な物質識別装置を提供すること。
【解決手段】被検知物63を含む検知対象物60が放射する電磁波の放射エネルギーの信号を計測し、前記被検知物が放射する放射エネルギーの信号と前記被検知物の周辺の前記検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から前記検知対象物60に含まれる前記被検知物63の種類を識別する。さらに、検知対象物60に含まれる被検知物63の位置情報を算出して、算出した位置情報を基に、電磁波を被前記検知物63に照射し、前記検知物63からの反射エネルギーの信号から前記被検知物63の種類を識別する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質識別装置において、被検知物を含む検知対象物が放射する電磁波の放射エネルギーの信号を計測し、前記被検知物が放射する放射エネルギーの信号と前記被検知物の周辺の前記検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から前記検知対象物に含まれる前記被検知物の種類を識別することを特徴とする物質識別装置。
【請求項2】
前記物質識別装置において、さらに、電磁波を照射したときの前記被検知物からの反射エネルギーの信号と、電磁波が照射されないときの前記被検知物からの反射エネルギーの信号との差分から、前記検知対象物に含まれる前記被検知物の種類を識別することを特徴とする請求項1に記載の物質識別装置。
【請求項3】
前記物質識別装置は、前記被検知物の物質識別に関し、電磁波の前記放射エネルギーの信号又は前記反射エネルギーの信号のうち、少なくとも1以上の前記信号を用いることを特徴とする請求項2に記載の物質識別装置。
【請求項4】
前記放射エネルギーの計測は、前記被検知物が放射する放射エネルギーの信号と前記被検知物の周辺の所定の温度を有する前記検知対象物の放射エネルギーの差を計測することを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の物質識別装置。
【請求項5】
前記検知対象物は、常時ほぼ一定の温度を有するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1に記載の物質識別装置。
【請求項6】
前記検知対象物は、移動する又は静止した人間であることを特徴とする請求項5に記載の物質識別装置。
【請求項7】
所定の温度を有する黒体放射板の表面に、基準試料として放射率が概ね0の物質と放射率が概ね1の物質とを設置し、各前記基準試料の放射エネルギーの信号と、その基準試料の周辺の放射エネルギーの信号とを計測して、その差分から各前記基準試料における放射エネルギーの各差分値を算出して基準値として記憶し、
前記被検知物の種類の識別は、前記被検知物が放射する放射エネルギーの信号と該被検知物の周辺の前記検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から差分値を算出し、算出した前記差分値から放射エネルギーの前記基準値を参照して相対値を算出することを特徴とする請求項1、請求項3又は請求項4に記載の物質識別装置。
【請求項8】
所定の温度を有する黒体放射板の表面に、基準試料として反射率が概ね1の物質と反射率が概ね0の物質とを設置し、電磁波を照射したときの各前記基準試料からの反射エネルギーの信号と、電磁波が照射されないときの各前記基準試料からの反射エネルギーの信号とを計測して、その差分から各前記基準試料における反射エネルギーの各差分値を算出して基準値として記憶し、
前記被検知物の種類の識別は、電磁波を照射したときの前記被検知物が反射する反射エネルギーの信号と電磁波が照射されないときの該被検知物からの反射エネルギーの信号との差分から差分値を算出し、算出した前記差分値から反射エネルギーの前記基準値を参照して相対値を算出することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の物質識別装置。
【請求項9】
前記電磁波は、10GHz〜10THzの周波数を有するテラヘルツ波であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1に記載の物質識別装置。
【請求項10】
電磁波を放射する光源と、前記光源からの電磁波を被検知物に照射するビーム調整器と、前記被検知物からの放射エネルギーの信号及び/又は反射エネルギーの信号とを検知する検知装置と、前記検知装置からの信号を処理する画像処理兼制御装置と、から構成されていることを特徴とする請求項2に記載の物質識別装置。
【請求項11】
前記被検知物が放射する放射エネルギーの信号と該被検知物の周辺の検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から検知対象物に含まれる被検知物の位置情報を算出して、算出した位置情報を基に、電磁波を被前記検知物に照射するようにしたことを特徴とする請求項2に記載の物質識別装置。
【請求項12】
前記検知対象物を撮像する撮像手段を有し、前記撮像手段で撮像した前記検知対象物の映像に、被検知物の前記放射エネルギーの信号の前記差分及び/又は前記反射エネルギーの信号の前記差分を重畳して、画像として表示する表示手段を有することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の物質識別装置。
【請求項13】
前記画像処理兼制御装置は前記光源を制御し、前記被検知物からの放射エネルギーの信号及び/又は反射エネルギーの信号を基に前記光源からの電磁波の放射の強度を制御することを特徴とする請求項10に記載の物質識別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象物に含まれる被検知物を識別する物質識別装置に関し、特に、被検知物が放射する放射エネルギーの信号と被検知物の周辺の検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から検知対象物に含まれる被検知物の種類を識別することが可能な物質識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空港、公的施設、イベント会場での入場者に対して、衣服の下に隠匿した物質、危険物等の持込みを防止するためのセキュリティ検査が行われている。また、高額な商品を扱う店舗、企業、事務所等での貴重品、機密情報、物品等の持出しを防止する入退室検査も行われている。
【0003】
通常、簡易な検査では、金属探知機を内蔵したゲートを通過したり、必要により検査員が、ボディータッチにより衣服の下に隠匿した物質がないかをチェックしている。近年、これらの検査に加えて、テラヘルツ波を用いた検査方法が開示されている。テラヘルツ波を用いた検査では、金属探知機で探知出来ない物に対しても有効であることが知られている。
【0004】
ここで、電磁波であるテラヘルツ光を照射して被検知物の検知を行う従来の物質識別装置の先行技術文献を下記に示す。例えば、特許文献1に開示された特定物質探知装置は、0.3から3THzの電磁波(テラヘルツ光)を被検知物に照射し、その反射光を検知する。この特定物質探知装置は、特定する被検知物の分光スペクトルのみを透過する光学フィルタが光路上に配されており、被検知物から反射される光のみが撮像ユニットへ導かれることで被検知物を探知する構成となっている。
【0005】
また、特許文献2に開示された物体探知方法は、60GHzの電磁波を被検知物に照射し、その反射エネルギー信号を検知する構成であり、被検知物(金属)を持っているときと、持っていないときのそれぞれの反射エネルギーにおけるピーク変化のパターンから被検知物を検知するものである。
【0006】
また、特許文献3に開示された個人認証方法は、人体から放射される電磁波の放射エネルギー信号及び30GHzから30THzの電磁波を人体に照射し、その反射エネルギー信号のそれぞれの振幅を測定して、測定した電磁波の放射エネルギー、反射エネルギーから生体情報を抽出して、抽出した生体情報を組み合わせて、個人を認証するものである。
【0007】
また、特許文献4に開示された生体温度測定装置は、人体の測定部位から放射された電磁波信号を受信して、さらに、測定部位の導電率又は誘電率を測定し、導電率又は誘電率の測定値と受信した電磁波信号から温度に変換する処理を行って、人体の部位における温度を測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−265793号公報
【特許文献2】特開2000−009832号公報
【特許文献3】特開2005−270569号公報
【特許文献4】特開2003−294535号公報
【0009】
尚、先行技術文献と本発明との対比説明は、「発明を実施するための形態」で後述する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献3に開示された物質検知、物質識別装置は、電磁波であるテラヘルツ光を被検知物に照射し、被検知物からの反射エネルギーの信号を検知、解析して行うものである。これらの物質検知、識別装置は、テラヘルツ光の電磁波を被検知物全体に照射するため、検出に時間を要していた。このため、多数の乗客が利用する空港等での隠匿物、危険物等の検査には、多数の装置を必要とする。
【0011】
また、特許文献1では特定の物質を検知するために、検知物の分光スペクトルのみを透過する光学フィルタを光路上に設ける必要があり、このため、粉末から金属等の固体までの幅広い物質の検出に適していなかった。
【0012】
そこで、本発明は、被検知物を含む検知対象物が放射する電磁波の放射エネルギーの信号を計測し、被検知物が放射する放射エネルギーの信号と被検知物の周辺の検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から検知対象物に含まれる被検知物の種類を識別し、さらに、検知対象物に含まれる被検知物の位置情報を基に、電磁波を被検知物に照射するようにして、検知対象物に含まれる被検知物を識別することが可能な物質識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目標達成のため、本発明の物質識別装置は、物質識別装置において、被検知物を含む検知対象物が放射する電磁波の放射エネルギーの信号を計測し、前記被検知物が放射する放射エネルギーの信号と前記被検知物の周辺の前記検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から前記検知対象物に含まれる前記被検知物の種類を識別することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の物質識別装置は、前記物質識別装置において、さらに、電磁波を照射したときの前記被検知物からの反射エネルギーの信号と、電磁波が照射されないときの前記被検知物からの反射エネルギーの信号との差分から、前記検知対象物に含まれる前記被検知物の種類を識別することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の物質識別装置は、前記被検知物の物質識別に関し、電磁波の前記放射エネルギーの信号又は前記反射エネルギーの信号のうち、少なくとも1以上の前記信号を用いることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の物質識別装置における前記放射エネルギーの計測は、前記被検知物が放射する放射エネルギーの信号と前記被検知物の周辺の所定の温度を有する前記検知対象物の放射エネルギーの差を計測することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の物質識別装置における前記検知対象物は、常時ほぼ一定の温度を有するものであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の物質識別装置における前記検知対象物は、移動する又は静止した人間であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の物質識別装置は、所定の温度を有する黒体放射板の表面に、基準試料として放射率が概ね0の物質と放射率が概ね1の物質とを設置し、各前記基準試料の放射エネルギーの信号と、その基準試料の周辺の放射エネルギーの信号とを計測して、その差分から各前記基準試料における放射エネルギーの各差分値を算出して基準値として記憶し、前記被検知物の種類の識別は、前記被検知物が放射する放射エネルギーの信号と該被検知物の周辺の前記検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から差分値を算出し、算出した前記差分値から放射エネルギーの前記基準値を参照して相対値を算出することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の物質識別装置は、所定の温度を有する黒体放射板の表面に、基準試料として反射率が概ね1の物質と反射率が概ね0の物質とを設置し、電磁波を照射したときの各前記基準試料からの反射エネルギーの信号と、電磁波が照射されないときの各前記基準試料からの反射エネルギーの信号とを計測して、その差分から各前記基準試料における反射エネルギーの各差分値を算出して基準値として記憶し、前記被検知物の種類の識別は、電磁波を照射したときの前記被検知物が反射する反射エネルギーの信号と電磁波が照射されないときの該被検知物からの反射エネルギーの信号との差分から差分値を算出し、算出した前記差分値から反射エネルギーの前記基準値を参照して相対値を算出することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の物質識別装置における前記電磁波は、10GHz〜10THzの周波数を有するテラヘルツ波であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の物質識別装置は、電磁波を放射する光源と、前記光源からの電磁波を被検知物に照射するビーム調整器と、前記被検知物からの放射エネルギーの信号及び/又は反射エネルギーの信号とを検知する検知装置と、前記検知装置からの信号を処理する画像処理兼制御装置と、から構成されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の物質識別装置は、前記被検知物が放射する放射エネルギーの信号と該被検知物の周辺の検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から検知対象物に含まれる被検知物の位置情報を算出して、算出した位置情報を基に、電磁波を被前記検知物に照射するようにしたことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の物質識別装置は、前記検知対象物を撮像する撮像手段を有し、前記撮像手段で撮像した前記検知対象物の映像に、被検知物の前記放射エネルギーの信号の前記差分及び/又は前記反射エネルギーの信号の前記差分を重畳して、画像として表示する表示手段を有することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の物質識別装置における前記画像処理兼制御装置は前記光源を制御し、前記被検知物からの放射エネルギーの信号及び/又は反射エネルギーの信号を基に前記光源からの電磁波の放射の強度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、被検知物が放射する放射エネルギーの信号と被検知物の周辺の検知対象物の放射エネルギーの信号との差分を検出する。これにより、検知対象物に含まれる被検知物の種類を識別することが可能となる。例えば、人の衣服の下に隠匿した物質が、粉末、紙又は金属の何れかであることを識別することが可能となる。
【0027】
また、放射エネルギーで被検知物の位置を特定することができるため、放射エネルギーで特定したその位置を含む範囲に基づいて電磁波の照射を行うことにより、確実に被検知物からの反射エネルギーの信号を得ることができる。このため、検知対象物全体の電磁波を検知する必要がないため、短時間で被検知物を識別することができる。
【0028】
また、テラヘルツ波の放射エネルギー、反射エネルギーのキャリブレーションを行って物質種別毎に基準となる相対値をデータベースに記憶し、放射エネルギー、反射エネルギーの測定結果からデータベースを参照して物質の種別を決定するため、安定した物質の識別が可能となる。
【0029】
また、ボディースキャナー内のテラヘルツ波検知部が被検査者からのテラヘルツ波の放射エネルギーの信号を受信し、同時に撮像装置としてのCCDカメラで被検査者の画像を撮像して、テラヘルツ波検知部からの放射エネルギーの信号とCCDカメラの画像を高速画像処理して形状を認識し、その後、テラヘルツ波を照射し、その物質からの反射エネルギーの信号を処理して被検査者が所持する物質の識別処理をする。これにより制御コンピュータは、テラヘルツ波検知部で得られた画像とCCDカメラの画像との位置合わせを行い、CCDカメラの画像にテラヘルツ波検知部の画像を重畳した画像が表示装置に表示される。このため、被検査者が所持する物質を容易に確認することが可能となる。
【0030】
また、被検知物からのテラヘルツ波の放射エネルギー、反射エネルギーの各信号の強度差による識別情報で、警報に相当するものがある場合は警報音を発すると共に、識別情報を使って色別などで表示することが可能であり、音と画像により異常を告知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の物質識別装置の構成を示すブロック図である。
図2】ボディースキャナーの構成を示すブロック図である。
図3】画像処理/制御装置の構成を示すブロック図である。
図4】物質識別装置に関する放射エネルギー、反射エネルギーのキャリブレーションの処理を示すフローチャートである。
図5】物質を識別するためのデータベースに記憶されている識別材料毎の放射エネルギー及び反射エネルギーの相対値を示す表であり、(a)は放射エネルギーの相対値を示し、(b)は、反射エネルギーの相対値を示す。
図6】物質識別装置による被検知物の検出処理を示すフローチャートである。
図7】隠匿物の検出処理における放射エネルギーの信号の画像とCCDカメラの表示装置の表示例を示す図であり、画像左側にテラヘルツ画像とCCDカメラ画像と色別の識別情報を重畳表示し、右側には、CCDカメラ画像と色別の識別情報を重畳した表示例を示す。
図8】被検知物における放射エネルギー、反射エネルギーの任意の値の測定データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明による物質識別装置を実施するための形態について説明する。尚、本発明による物質識別装置は、検知物が放射する放射エネルギーの信号と被検知物の周辺の検知対象物の放射エネルギーの信号との差分から検知対象物に含まれる被検知物の種類を識別し、さらに、検知対象物に含まれる被検知物の位置情報を基に、電磁波を被検知物に照射するようにして、被検知物を識別するものである。
【0033】
図1は、本発明の物質識別装置の構成を示すブロック図、図2は、ボディースキャナーの構成を示すブロック図、図3は、画像処理/制御装置の構成を示すブロック図である。
【0034】
[物質識別装置の構成]
図1に示すように、物質識別装置1は、ボディースキャナー2と、テラヘルツ光源45と、ビーム調整器50と、画像処理/制御装置30と、制御コンピュータ55と、表示装置57とを有している。
【0035】
図1及び図2に示すようにボディースキャナー2は、検知対象物60である被検査者60及び被検知物63から放射されるテラヘルツ波の放射エネルギー、テラヘルツ光源45で照射されて被検知物63で反射されたテラヘルツ波の反射エネルギーを検出するテラヘルツ波検知部3を備えている。
【0036】
ボディースキャナー2は、テラヘルツ波検知部3で検出したテラヘルツ波エネルギーの大きさをデジタル値に変換して、変換したテラヘルツ波エネルギーのデジタル値を制御/信号出力部18を介して画像処理/制御装置30に出力する。
【0037】
尚、放射エネルギーとは、検知対象物60、被検知物63から放射されるテラヘルツ波のエネルギーをいう。一方、反射エネルギーとは、検知対象物60、被検知物63にテラヘルツ波を照射し、検知対象物60、被検知物63から反射するテラヘルツ波のエネルギーをいう。また、被検知物63とは、被検査者60が衣服の下に隠匿した粉末、金属等の物質をいう。
【0038】
また、ボディースキャナー2は、撮像装置15としてのCCDカメラ15を内蔵し、CCDカメラ15はテラヘルツ波検知部3で検出する検出エリア65(図7参照)を含む領域(空間)内の検知対象物60を撮像し、検知対象物60を撮像したビデオ信号を画像処理/制御装置30に出力する。尚、ボディースキャナー2に関する詳細は後述する。
【0039】
テラヘルツ光源45は、被検知物63にテラヘルツ波を照射するための光源であり、テラヘルツ波検知部3の周波数感度に合わせ、例えば、250GHz近傍のテラヘルツ波を照射する。テラヘルツ光源45は、テラヘルツ波(電磁波)の出力の大きさ、電磁波出力のON/OFFを画像処理/制御装置30で制御できるよう構成されている。
【0040】
ビーム調整器50は、テラヘルツ波を所定の方向に照射したり、拡大したり、絞ったり、偏波を変えたりして、テラヘルツビームを調整するものである。ビーム調整器50は、例えば、水平軸及び垂直軸の回転角度を可変して、テラヘルツ波を反射して被検知物63に照射する2軸ジンバルミラー等であってもよい。
【0041】
画像処理/制御装置30は、ボディースキャナー2で検出されたテラヘルツ波の信号を処理して、被検知物63が放射する放射エネルギーの信号と被検知物63の周辺の検知対象物60の放射エネルギーの信号との差分から検知対象物60に含まれる被検知物63の種類を識別する。
【0042】
さらに、画像処理/制御装置30は、テラヘルツ光源45によって電磁波が照射されているときのボディースキャナー2で検出された被検知物63の反射エネルギーの信号と、電磁波が照射されていないときの被検知物63の反射エネルギーの信号との差分から被検知物63の種類を識別する。尚、画像処理/制御装置30に関する詳細は後述する。
【0043】
制御コンピュータ55は、物質識別装置1の全体の制御及び画像処理/制御装置30の制御を行う。制御コンピュータ55には表示装置57が接続されており、表示装置57は、画像処理/制御装置30で処理された被検査者(検知対象物)60に含まれる被検知物63を、撮像装置15で撮像した画像に重畳して表示する。また、表示装置57は、被検知物63で危険物、隠匿物等をアラームとともにCCDカメラ15の画像に重畳して表示することも可能となっている。
【0044】
[ボディースキャナーの構成]
次に、図2を用いて物質識別装置1のボディースキャナー2について詳述する。図2に示すように、ボディースキャナー2は、テラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出器8と、スキャンミラー20と、撮像装置(CCDカメラ)15と、スキャンミラー20の位置を制御し、テラヘルツ波検出器8及び撮像装置15の信号を画像処理/制御装置30に出力する制御/信号出力部18を備えている。尚、テラヘルツ波検出器8とスキャンミラー20とでテラヘルツ波検知部3を構成している。
【0045】
テラヘルツ波検出器8は、検知対象物60、被検知物63からのテラヘルツ波を検出するものであり、アンテナによりテラヘルツ波を受信し、ダイオード等の固体素子でテラヘルツ波を検出する。
【0046】
テラヘルツ波検知部3は、例えば、複数の同一のテラヘルツ波検出器8で構成され、複数のアンテナが配設されており、スキャンミラー20により複数のテラヘルツ波検出器8から2次元の信号を得ることができる。
【0047】
検出されたテラヘルツ波の信号は、増幅器で増幅されて、制御/信号出力部18に出力される。
【0048】
また、スキャンミラー20は、検出エリア65(図7参照)内の検知対象物(被検査者)60からのテラヘルツ波を反射してテラヘルツ波検出器8に導くものであり、テラヘルツ波を反射するミラー(図示せず)を備え、ミラーの姿勢はミラー制御用モータ(図示せず)によって制御される。
【0049】
ミラーを駆動するミラー制御用モータは、制御/信号出力部18により制御される。
【0050】
これにより、制御/信号出力部18は、ミラーの姿勢を制御し、2次元の信号を得ることができる。
【0051】
このように、スキャンミラー20は、2次元の検査エリアにおける所定の位置からの電磁波をテラヘルツ波検出器8に導くようにミラーを制御する。
【0052】
このため、スキャンミラー20が2次元の検査エリアを順次走査することにより、検査エリアの全領域からの電磁波を受信することができる。また、スキャンミラー20を制御して、2次元の検査エリアの所定の位置における電磁波を受信することもできる。
【0053】
また、検査する空間は撮像装置15としてのCCDカメラ15で撮像されており、CCDカメラ15で撮像された撮像信号は制御/信号出力部18に出力される。尚、撮像装置15は、CCDカメラ15に限定するものではなく、他の固体素子を使用したカメラであってもよい。
【0054】
図2に示すように制御/信号出力部18は、ボディースキャナー2のテラヘルツ波検知部3で検出されてデジタル値に変換したテラヘルツ波の信号と、CCDカメラ15の撮像信号とを画像処理/制御装置30に出力する。
【0055】
[画像処理/制御装置の構成]
次に、図3を用いて、画像処理/制御装置(画像処理兼制御装置ともいう。)について詳述する。図3は、画像処理/制御装置の構成を示すブロック図である。図3に示すように、画像処理/制御装置30は、ボディースキャナー2からの信号を入力部31を介して画像処理部32に入力する。このとき、ボディースキャナー2から出力される信号は、テラヘルツ波検出器8で検出したテラヘルツ波のデジタル信号及び撮像装置(CCDカメラ)15からの撮像信号である。
【0056】
画像処理部32は、テラヘルツ波のデジタル信号を二次元の位置情報に基づき、各位置でのテラヘルツ波のデジタル信号の大きさを記憶する。また、撮像装置15の撮像信号から被検査者60のエリアを切り出して、検知対象物(被検査者)60のエリアの各位置におけるテラヘルツ波のデジタル信号の大きさを抽出する。これにより、被検査者60の検出エリア65(図7参照)が確定され、検出エリア65内のテラヘルツ波のデジタル信号の大きさが確定する。
【0057】
判定処理部33は、放射エネルギー、反射エネルギーの信号の差分処理から相対値を算出して、算出した相対値から図5(a)、(b)に示すデータベースを参照して被検知物63(隠匿物)の判別処理を行う。
【0058】
また、検査する空間は撮像装置(CCDカメラ)15で撮像されており、処理したテラヘルツ波の信号をCCDカメラ15の撮像信号に重畳して、制御コンピュータ55に接続されている表示装置57に画像として表示することができる。
【0059】
尚、CCDカメラ15で撮像される空間上に、ボディースキャナー2のテラヘルツ波検知部3で検知される空間の位置(領域)が設定されており、例えば、CCDカメラ15の撮像領域の中心を二次元のXY座標軸の原点として、X軸、Y軸方向に座標を設定することにより、CCDカメラ15画像のXY座標値に対応するボディースキャナー2のテラヘルツ波検知部3の検出信号の大きさを算出することができる。
【0060】
画像処理/制御装置30の画像処理部32は、光源制御部36にテラヘルツ光源45のテラヘルツ照射のON/OFF制御の信号を出力する。光源制御部36は、テラヘルツ光源45のテラヘルツ照射の条件設定を行い、テラヘルツ照射の条件設定後に、出力部37を介してテラヘルツ光源45をONして被検知物63にテラヘルツ波を照射するようにする。
【0061】
また、ビーム調整器50は、画像処理/制御装置30のビーム制御部38によって制御される。ビーム制御部38は、ビーム調整器50でテラヘルツ光源45からのテラヘルツ波の偏波を変えて、被検知物63(隠匿物)に照射するように制御する。
【0062】
このように、画像処理/制御装置30は、ビーム調整器50によってテラヘルツ波を所定の空間位置に照射することができる。また、ビーム調整器50として2軸ジンバルミラーを用いた場合には、2軸ジンバルミラーの水平軸及び垂直軸の回転角度を制御して、テラヘルツ光源45からのテラヘルツ波を上下方向及ぶ左右方向の所定の空間位置に照射可能となる。これにより、テラヘルツ光源45からのテラヘルツ波を被検査者60が有する被検知物の位置に照射することができる。
【0063】
図1に示す被検査者(検知対象物)60は、常時ほぼ一定の温度を有するものである。検知対象物60としては、移動する又は静止した人間であり、人間は、常時ほぼ37℃の一定の体温を有する。
【0064】
尚、物質識別装置は、上述した構成に限定するものではない。例えば、画像処理/制御装置30と制御コンピュータ55とを一体化するように構成してもよい。また、画像処理/制御装置30の一部の処理を制御コンピュータ55で行うようにしてもよい。
【0065】
以上述べた構成から成る本発明の物質識別装置は、検知物が放射する放射エネルギーの信号と被検知物63の周辺の検知対象物60の放射エネルギーの信号との差分から検知対象物60に含まれる被検知物63の種類を識別し、さらに、検知対象物60に含まれる被検知物63の位置情報を基に、電磁波を被検知物63に照射するようにして、被検知物63を識別するものである。
【0066】
このため、検知対象物60としての所定の温度を有する黒体放射板と、黒体放射板の表面に放射率、反射率が既知である基準試料を取り付けて、それぞれの放射エネルギー、反射エネルギーを事前に測定して、基準値を設定する更新動作であるキャリブレーションが必要となる。
【0067】
[キャリブレーションについて]
以下に、本発明の物質識別装置に関する放射エネルギー、反射エネルギーのキャリブレーションについて図4を用いて説明する。
【0068】
図4は、物質識別装置に関する放射エネルギー、反射エネルギーのキャリブレーションの処理を示すフローチャートである。
【0069】
物質識別装置に関する放射エネルギーのキャリブレーションは、最初に、テラヘルツ波の検出エリア65内に所定の温度、例えば、人間の体温である37℃を有する黒体放射板を設置し、温度制御された概ね放射率が0、反射率が概ね1の金属と、放射率が概ね1、反射率が概ね0のカーボンとを黒体放射板の表面に基準試料として取り付ける(ステップS1)。基準試料としての金属の表面は、金メッキ、研磨等により鏡面状態を有している。また、基準試料として、カーボンに限定するものではなく、水、共鳴バンドをもつ物質など放射率が概ね1の物質であってもよい。さらに、基準試料としての放射率が概ね0、反射率が概ね1の材料は、金属に限定するものではなく、例えば、高導電率体、高ドープ半導体からなる物質であってもよい。
【0070】
次に、物質識別装置は、各基準試料とその周辺(黒体放射板)の放射エネルギーを計測する(ステップS2)。計測した各基準試料とその周辺(黒体放射板)の放射エネルギーの値からその差分値を算出し、基準値として記憶装置に記憶する(ステップS3)。
【0071】
例えば、金属における放射エネルギーの基準値は、金属からの放射エネルギーの値とその周辺である黒体放射板の放射エネルギーの値との差分である。この差分が金属の放射エネルギーの基準値D1として記憶装置に記憶される。
【0072】
同様に、カーボンのおける放射エネルギーの基準値は、カーボンからの放射エネルギーの値とその周辺である黒体放射板の放射エネルギーの値との差分である。この差分がカーボンの放射エネルギーの基準値D2として記憶装置に記憶される。
【0073】
次に、反射エネルギーのキャリブレーションの処理について説明する。反射エネルギーのキャリブレーションでは、テラヘルツ光源45のテラヘルツ波を基準試料に照射するように設定する(ステップS4)。尚、反射エネルギーのキャリブレーションで使用する基準試料は、放射エネルギーのキャリブレーションで使用するものと同一である。
【0074】
また、テラヘルツ光源45の照射強度、テラヘルツ光源45のON/OFFの時間間隔等のテラヘルツ光源45の設定条件は以下のことを考慮して最適化を図る。即ち、テラヘルツ光源45をONしたときの反射エネルギーの信号が小さいとS/N比(信号対雑音比)が悪化するため、テラヘルツ光源45の照射強度を大きくして、S/N比の悪化を防ぐ。さらに、テラヘルツ光源45をOFFしたときに、ONの影響を受けないように、テラヘルツ光源45のON/OFFの時間間隔を調整する。
【0075】
テラヘルツ光源45をONして各基準試料にテラヘルツ波を照射し、そのときの反射エネルギーを計測する。また、テラヘルツ光源45をOFFして、各基準試料の反射エネルギーを計測する(ステップS5)。
【0076】
テラヘルツ光源45をON/OFFして計測した各基準試料の反射エネルギーの値からその差分値を算出し、基準値として記憶装置に記憶する(ステップS6)。
【0077】
例えば、金属における反射エネルギーの基準値は、テラヘルツ光源45のテラヘルツ波を金属に照射したときと、照射していないときの金属からの反射エネルギーの値との差分である。この差分が金属の反射エネルギーの基準値D3として記憶装置に記憶される。
【0078】
同様に、カーボンにおける反射エネルギーの基準値は、テラヘルツ光源45のテラヘルツ波をカーボンに照射したときと、照射していないときのカーボンからの反射エネルギーの値との差分である。この差分がカーボンの反射エネルギーの基準値D4として記憶装置に記憶される。
【0079】
このように、放射エネルギー及び反射エネルギーの基準値を計算し、記憶装置のデータベースに登録する。尚、キャリブレーションを行う毎に放射エネルギー及び反射エネルギーの基準値を更新するようにする。
【0080】
基準試料としての金属における放射エネルギー及び反射エネルギーの基準値(D1、D3)は、相対値が1となるように設定し、基準試料としてのカーボンにおける放射エネルギー及び反射エネルギーの基準値(D2,D4)は、相対値が0となるように設定する。これにより、被検知物63で計測された放射エネルギー及び反射エネルギーの相対値は、0から1の範囲内となるように算出される。
【0081】
図5は、物質を識別するためのデータベースに記憶されている放射エネルギー及び反射エネルギーの相対値を示す表である。
【0082】
図5(a)に示すように、データベースに記憶されている放射エネルギーの相対値r1が0以上で0.2未満の範囲のときには、被検知物(識別材料)63を粉末と識別する。データベースに記憶されている放射エネルギーの相対値r1が0.2以上で0.6未満の範囲のときには、被検知物(識別材料)63を紙と識別する。さらに、データベースに記憶されている放射エネルギーの相対値r1が0.6以上で1までの範囲のときには、被検知物(識別材料)63を金属と識別する。尚、粉末は、粒径が、検出波長以下のものをいう。例えば、本実施形態においては、周波数が250GHzであるため、約1mm以下の粒径をもつ粉末が該当する。
【0083】
一方、図5(b)に示すように、データベースに記憶されている反射エネルギーの相対値r2が0以上で0.5未満の範囲のときには、被検知物(識別材料)63を非金属と識別する。また、データベースに記憶されている反射エネルギーの相対値r2が0.5以上で1までの範囲のときには、被検知物(識別材料)63を金属と識別する。
【0084】
これにより、例えば、放射エネルギーの相対値r1が0.55のときには、被検知物(識別材料)63は金属に近い値を示しているが、紙と判断される。この状態で、反射エネルギーの相対値r2が0.4のときには、被検知物(識別材料)63は非金属と判断される。このため、放射エネルギー及び反射エネルギーの相対値から、紙であると判断できる。
【0085】
また、テラヘルツ波の放射エネルギー、反射エネルギーの信号における判定区分によって、他の物質形態、例えば、液体、粘土状の物、固形物についても、判定することができる。このため、図5に示す相対値は、一例であり、これに限定するものではない。
【0086】
[物質識別処理について]
次に、物質識別装置による隠匿物の検出処理について図1乃至図3図6を用いて説明する。図6は、物質識別装置による被検知物(隠匿物)の検出処理を示すフローチャートである。
【0087】
本発明に係る物質識別装置は、物質識別装置のボディースキャナーの前に立った検知対象物(被検査者)を自動で認識して、被検査者が所持する被検知物63の検査を自動的に開始する。
【0088】
物質識別装置による隠匿物の検査は、検知対象物60、被検知物63が発するテラヘルツ波の放射エネルギーの信号を検出して行われる。
【0089】
最初に、ボディースキャナーにより被検査者(検知対象物)60のテラヘルツ波の放射エネルギーの信号の検出、撮像装置(CCDカメラ)15による撮像を行う(ステップS10)。
【0090】
次に、画像処理/制御装置30の画像処理部32は、撮像装置(CCDカメラ)15で撮像した画像から被検査者(検知対象物)60のエリアを検出エリア65(図7参照)として切り出し、テラヘルツ波信号とCCDカメラ15の画像を高速画像処理して形状を認識できるようにすると共に、不要な画像を排除する。不要な画像を排除後に、検出エリア65内の放射エネルギーを計測する(ステップS11)。
【0091】
計測した放射エネルギーに対して、閾値を設定して、閾値以上の放射エネルギーのエリアを検出する。検出したエリアの大きさ、形状を確定し、所定の大きさ以上のエリアを有するものを被検知物63とする。また、被検知物63として検出したエリア内の中心位置を算出する(ステップS12)。
【0092】
検出した被検知物63の位置に対して、被検知物63の寸法と、被検知物63の寸法の1.5倍から2倍を目安として被検知物63の周辺(被検査者60)のテラヘルツ波の放射エネルギーを計測する。周辺のテラヘルツ波の放射エネルギー計測時に、被検知物63を取り囲めない場合、或いは、周辺の放射エネルギーが不均一の場合は、安定した周辺の放射エネルギーを取得するように計測範囲を変えるようにする。
【0093】
所定の大きさ以上のエリアを有する被検知物63を検知したときには、以下に示す放射エネルギーの信号の差分処理を行う。
【0094】
検出エリア65内の被検知物63が放射する放射エネルギーの信号と被検知物63の周辺の被検査者(検知対象物)60の放射エネルギーの信号との差分処理を行う(ステップS13)。
【0095】
判定処理部33は、放射エネルギーの信号の差分処理から相対値r1を算出して、算出した相対値r1からデータベースを参照して検知対象物60に含まれる被検知物63の種類を識別(評価)する(ステップS14)。表示装置57にCCDカメラ15による撮像した画像に、ボディースキャナーで検出した検知対象物60に含まれる被検知物63の画像及び被検知物63の大きさ、形状及び種類を表示する。また、表示装置57からアラームを発する。
【0096】
これにより、検知対象物60である人間が隠し持っている被検知物63の大きさ、形状及び種類が判明する。
【0097】
得られた画像とCCDカメラ15画像は制御コンピュータ55内で位置を合わせて重畳しモニターに表示する。図7は、放射エネルギーの信号の画像とCCDカメラ15の表示装置の表示例を示す。画像左側にテラヘルツ画像とCCDカメラ15画像と色別の識別情報を重畳表示し、右側には、CCDカメラ15画像と色別の識別情報を重畳表示する。
【0098】
次に、被検査者60にテラヘルツ光源45からテラヘルツ波を照射する。具体的には、被検査者60から3〜5mの距離でテラヘルツ光源45により照射し、これからの反射波(反射エネルギーの信号)を同じく3〜5mの距離でボディースキャナー2内のテラヘルツ波検知部3が検出、同時にCCDカメラ15で可視画像を撮像するようにする。
【0099】
尚、被検査者60とテラヘルツ光源45との距離、被検査者60とボディースキャナー2との距離は、一例であり、これに限定するものではない。また、画像処理/制御装置30は、テラヘルツ光源45の照射するテラヘルツ波の周波数、テラヘルツ波の偏波方向、照射領域等を制御する。
【0100】
画像処理/制御装置30の画像処理部32は、ステップS12で算出した被検知物63の位置検出情報に基づいてビーム制御部38からビーム調整器50を制御して、テラヘルツ光源45からのテラヘルツ波が被検知物63(隠匿物)に照射されるようにする(ステップS15)。
【0101】
即ち、放射エネルギーの信号により被検知物63の位置が検出されて、被検知物63の位置情報がビーム制御部38に入力される。ビーム制御部38は、入力された位置情報を、ビーム調整器50の水平軸、垂直軸の回転角度に変換して、テラヘルツ光源45のテラヘルツ波の中心が被検知物63の位置に照射されるように制御する。
【0102】
これにより、被検知物63のみにテラヘルツ波が照射されるため、ビーム調整器50でテラヘルツ波を検知対象物60の全体にスキャンするように照射する必要がないため、短時間で被検知物63にテラヘルツ波を照射することができる。
【0103】
ビーム制御部38によって、テラヘルツ光源45からの検知対象物60上での照射の位置が決まる。その後、光源制御部36で、テラヘルツ光源45によりテラヘルツ照射の条件設定を行う。具体的には、テラヘルツ光源45の設定条件を記憶した出力チャートに基づいて、テラヘルツ波の照射する強度を制御する外部電圧及びそのシーケンス(ON/OFF或いは段階的に電圧を変えてテラヘルツ波の出力を変化させる等)を決める。
【0104】
テラヘルツ照射の条件設定後に、出力部37を介してテラヘルツ光源45をONして被検知物63にテラヘルツ波を照射する(ステップS16)。
【0105】
ボディースキャナー2は、テラヘルツ光源45がONしたときの反射エネルギーを計測する(ステップS17)。
【0106】
次に、テラヘルツ光源45をOFFしてテラヘルツ波の照射を停止し(ステップS18)、ボディースキャナー2は、テラヘルツ光源45がOFFしたときの反射エネルギーを計測する(ステップS19)。
【0107】
テラヘルツ光源45をON/OFFしたときの、被検知物63の反射エネルギーの信号の差分処理を行う(ステップS20)。
【0108】
判定処理部33は、反射エネルギーの信号の差分処理から相対値r2を算出して、算出した相対値r2から図5(b)に示すデータベースを参照して被検知物63(隠匿物)の判別(評価)処理を行う(ステップS21)。
【0109】
このとき、撮像装置の画像に被検知物63(隠匿物)の検出画像を重畳して表示装置57に画像を表示する(ステップS22)。
【0110】
このように、テラヘルツ波の放射エネルギー、反射エネルギーを検出することにより、被検知物63(隠匿物)の識別を行うことができる。
【0111】
[放射エネルギー、反射エネルギーの任意の値の測定データについて]
以下に、被検知物の識別に関する放射エネルギー、反射エネルギーの任意の値の測定データの一例について説明する。図8は、被検知物における放射エネルギー、反射エネルギーの任意の値の測定データの一例を示す図である。尚、計測は、黒体放射板の表面に基準試料である粉末としての砂糖、塩、片栗粉及び小麦粉並びに紙並びに金属としてのアルミを用いたものである。
【0112】
図8に示す放射エネルギーの任意の値は、被検知物が放射する放射エネルギーの信号と被検知物の周辺の黒体放射板(検知対象物)の放射エネルギーの信号との強度差であり、反射エネルギーの任意の値は、被検知物にテラヘルツ波を照射したときの反射エネルギーの信号とテラヘルツ波の照射をOFFしたときの反射エネルギーの信号との強度差である。
【0113】
図8に示すように、粉末としての砂糖、塩、片栗粉及び小麦粉の反射エネルギーの任意の値は、300から800程度であり、紙は、700から800の範囲であり、金属としてのアルミは1500から2000の範囲である。また、粉末としての砂糖、塩、片栗粉及び小麦粉の放射エネルギーの任意の値は、0から200程度であり、紙は、400前後であり、金属としてのアルミは、900前後である。
【0114】
これにより、粉末と紙との反射エネルギーの任意の値は、重複しているが、一方、放射エネルギーの任意の値は、重複していることはなく、明確に識別することができる。
【0115】
尚、検知対象物として黒体放射板を用いた、放射エネルギー、反射エネルギーの任意の値のデータを示したが、検知対象物として人間である場合においても、同様の傾向のデータを得ることができる。
【0116】
このため、物質識別装置における被検知物の識別は、図5(a)、図5(b)に示すデータベース上に記憶されている相対値を使用する、又は、図8に示す任意の値を使用するようにする。また、両者を併用してもよい。
【0117】
このように、ボディースキャナー内のテラヘルツ波検知部が被検査者からのテラヘルツ波の放射エネルギーの信号を受信し、同時に撮像装置としてのCCDカメラで被検査者の画像を撮像して、テラヘルツ波検知部からの放射エネルギーの信号とCCDカメラの画像を高速画像処理して形状を認識し、その後、物質からの反射エネルギーの信号を処理して被検査者が所持する物質の識別処理をする。
【0118】
これにより制御コンピュータは、テラヘルツ波検知部で得られた画像とCCDカメラの画像との位置合わせを行い、CCDカメラの画像にテラヘルツ波検知部の画像を重畳した画像が表示装置に表示される。このため、被検査者が所持する物質を容易に確認することが可能となる。
【0119】
また、被検知物からのテラヘルツ波の放射エネルギー、反射エネルギーの各信号の強度差による識別情報で、警報に相当するものがある場合は警報音を発すると共に、識別情報を使って色別などで表示することが可能であり、音と画像により異常を告知することができる。
【0120】
以上述べたように、被検知物が放射する放射エネルギーの信号と被検知物の周辺の検知対象物の放射エネルギーの信号との差分を検出することにより、検知対象物に含まれる被検知物の種類を識別することが可能となる。例えば、人の衣服の下に隠匿した物質が、粉末、紙又は金属の何れかであることを識別することが可能となる。
【0121】
また、放射エネルギーで被検知物の位置を特定することができるため、放射エネルギーで特定したその位置に基づいて電磁波の照射を行うことにより、確実に被検知物からの反射エネルギーの信号を得ることができる。このため、電磁波を検知対象物の全体に照射する必要がないため、短時間で被検知物を識別することができる。
【0122】
また、テラヘルツ波の放射エネルギー、反射エネルギーのキャリブレーションを行って物質種別毎に基準となる相対値をデータベースに記憶し、放射エネルギー、反射エネルギーの測定結果からデータベースを参照して物質の種別を決定するため、安定した物質の識別が可能となる。
【0123】
[先行技術文献と本発明との対比]
以下に、出願人による先行技術調査において発見された先行技術文献と本発明との対比を説明する。特許文献1乃至特許文献3に開示された物質検知、物質識別装置は、本発明と技術分野が同じ物質識別装置に関するものである。
【0124】
特許文献1(特開2005−265793号公報)の段落番号「0009」8行から11行、特許文献2(特開2000−009832号公報)の段落番号「0009」、段落番号「0010」、及び特許文献3(特開2005−270569号公報)の段落番号「0018」1行から4行に、電磁波であるテラヘルツ光を検知対象物(人間)全体に照射し、検知対象物からの反射エネルギーの信号を検知、解析して行うことが開示されている。しかしながら、これらの物質検知、識別装置は、テラヘルツ光の電磁波を被検知物全体に照射するため、検出に時間を要していた。
【0125】
更に、特許文献1では特定の物質を検知するために、検知物の分光スペクトルのみを透過する光学フィルタを光路上に設ける必要があり、このため、粉末から金属等の固体までの幅広い物質の検出に適していなかった。
【0126】
また、特許文献4(特開2003−294535号公報)は、段落番号「0027」に開示されているように、人体の測定部位から放射された電磁波信号を受信して、さらに、測定部位の導電率又は誘電率の測定値と、受信した電磁波信号から温度に変換する処理を行って、人体の部位における温度を測定するものである。
【0127】
本発明は、被検知物が放射する放射エネルギーの信号と被検知物の周辺の検知対象物の放射エネルギーの信号との差分を検出することにより、検知対象物に含まれる被検知物の種類を識別することが可能となる。例えば、人の衣服の下に隠匿した物質が、粉末、紙又は金属の何れかであることを識別することが可能となる。
【0128】
また、放射エネルギーで被検知物の位置を特定することができるため、放射エネルギーで特定したその位置に基づいて電磁波の照射を行うことにより、確実に被検知物からの反射エネルギーの信号を得ることができる。このため、先行技術文献のように電磁波を検知対象物の全体に照射する必要がないため、短時間で被検知物を識別することができる。このため、多数の乗客が利用する場所での隠匿物、危険物等の検査に最適である。
【0129】
また、特許文献4に関しては、人体から放射された電磁波信号を受信するものであるが、人体の測定部位における生体温度を測定するためのものであり、本発明のように、人体の被検知物を識別するものではない。
【0130】
この発明は、その本質的特性から逸脱することなく数多くの形式のものとして具体化することができる。よって、上述した実施形態は専ら説明上のものであり、本発明を制限するものではないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0131】
1 物質識別装置
2 ボディースキャナー
3 テラヘルツ波検知部
8 テラヘルツ波検出器
15 撮像装置(CCDカメラ)
18 制御/信号出力部
20 スキャンミラー
30 画像処理/制御装置(画像処理兼制御装置)
31 入力部
32 画像処理部
33 判別処理部
36 光源制御部
37 出力部
38 ビーム制御部
45 テラヘルツ光源
50 ビーム調整器
55 制御コンピュータ
57 表示装置
60 検知対象物(被検査者)
63 被検知物(識別材料)
65 検出エリア

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8