【課題】高濃度の臭素を含有している電極用触媒前駆体を電極用触媒の原料として用いても、簡易な操作により、臭素(Br)種の含有量が確実かつ十分に低減された電極用触媒を得ることができる電極用触媒の製造方法の提供。
【解決手段】担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部と、を含むコア・シェル構造を有する電極用触媒の製造方法であり、工程(1);超純水と、水素を含む気体等の還元剤と、臭素(Br)種を含む材料を使用して製造されており蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第1の臭素(Br)種の濃度以上の電極用触媒前駆体とを含む液を、予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する第1の工程とを含む。
担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部と、を含むコア・シェル構造を有する電極用触媒の製造方法であって、
工程(1);超純水と、還元剤と、臭素(Br)種を含む材料を使用して製造されており蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第1の臭素(Br)種の濃度以上の電極用触媒前駆体と、を含む液を、10℃〜95℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する第1の工程と、
工程(2);前記第1の工程の後に得られた液に超純水を添加して、
前記第1の工程の後に得られた液に含まれる触媒前駆体を超純水に分散させた第1の液を調製する第2の工程と、
工程(3);超純水を用いて、前記第1の液に含まれる触媒前駆体をろ過洗浄して、
洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、
前記電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となった液に含まれる触媒前駆体を超純水に分散させた第2の液を調製する第3の工程と、
工程(4);前記第2の液を乾燥する工程と、
を含む、電極用触媒の製造方法。
担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部と、を含むコア・シェル構造を有する電極用触媒の製造方法であって、
工程(1’);超純水と、水素を含む気体と、臭素(Br)種を含む材料を使用して製造されており蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第1の臭素(Br)種の濃度以上の電極用触媒前駆体と、を含む液を、
10℃〜60℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する第1’の工程、を含む、電極用触媒の製造方法。
工程(5);前記第1の工程、又は第1’の工程の後に得られた分散液を乾燥する第5の工程をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法。
前記シェル部が、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第1シェル部と、当該第1シェル部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第2シェル部と、を有している、
請求項1〜15のいずれか1項に記載の電極用触媒の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の技術的背景を勘案すると、特に、いわゆるコア・シェル構造を有する電極用触媒においては、原料として白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の金属の塩化物塩、臭化物塩等のハロゲン化物塩を原料として使用する一方で、電極用触媒に含まれる塩素(Cl)種のみならず、臭素(Br)種の含有量を確実かつ十分に低減することができる電極用触媒の製造工程を検討することが重要となる。
しかしながら、比較的簡便な手法により臭素(Br)種の含有量を確実かつ十分に低減することができるコア・シェル構造を有する電極用触媒の製造方法は、これまで十分に検討されておらず、未だ改善の余地があった。
【0014】
例えば、特許文献1には、ハロゲン元素が電極内に残留すると電池性能を低下させることが記載されている。しかしながら、特許文献1には、ハロゲン元素の除去方法として、温水洗浄等が記載されているに過ぎず、具体的な対策は記載されていない。
さらに、特許文献2には、電極用触媒の原料としてハロゲン化合物を用い、特に脱ハロゲン処理(洗浄)をしていない場合や電極用触媒の原料としてハロゲン化合物を用いていないで、酸、水洗浄をしたこと場合が開示されているに過ぎない。また、100ppm未満の塩素を含有する白金(Pt)等の粉末を含んだ電極用触媒を製造するためには、特許文献3等に開示された塩素を除去する複雑なプロセスを含んだ電極用触媒の製造方法を採用しなければならないという不都合があった。このように、特許文献1〜6に開示されている電極用触媒の製造方法は、ハロゲン元素が電極内に残留すると電池性能を低下させるという知見を基礎として、実質的には、塩素のみを対象として、塩素の除去そのものを除去することを技術的課題にしているに過ぎないものである。特許文献1〜6に開示されている電極用触媒の製造方法は、いずれも、特定のハロゲン元素に着目して、当該ハロゲン元素を比較的容易かつ効率良く除去するための具体的なプロセスを備えていない。
【0015】
本発明は、かかる技術的事情に鑑みてなされたものであって、ハロゲン元素の中でも特に「臭素」に着目し、比較的高濃度の臭素(Br)種を含有している電極用触媒前駆体を電極用触媒の原料として用いても、比較的簡便な操作により、臭素(Br)種の含有量を確実かつ十分に低減することができる電極用触媒の製造方法を提供することを目的とする。
なお、本発明の電極用触媒の製造方法によって、電極用触媒と、この電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(MEA)、及び、燃料電池スタックが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本件発明者等は、鋭意検討を行った結果、コア・シェル構造を有する電極用触媒において、以下の知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本件発明者等は、超純水と還元剤と蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が比較的高濃度(例えば、1900ppmを超える濃度、更に3000ppm以上の濃度)の電極用触媒前駆体とを含む液を一定条件下において処理することにより、得られる電極用触媒の臭素(Br)種の含有量を確実かつ十分に低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
より具体的には、本発明は、以下の技術的事項から構成される。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1) 担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部と、を含むコア・シェル構造を有する電極用触媒の製造方法であって、
工程(1);超純水と、還元剤と、臭素(Br)種を含む材料を使用して製造されており蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第1の臭素(Br)種の濃度以上の電極用触媒前駆体と、を含む液を、10℃〜95℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する第1の工程と、
工程(2);前記第1の工程の後に得られた液に超純水を添加して、
前記第1の工程の後に得られた液に含まれる触媒前駆体を超純水に分散させた第1の液を調製する第2の工程と、
工程(3);超純水を用いて、前記第1の液に含まれる触媒前駆体をろ過洗浄して、
洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、
前記電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となった液に含まれる触媒前駆体を超純水に分散させた第2の液を調製する第3の工程と、
工程(4);前記第2の液を乾燥する工程と、
を含む、電極用触媒の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の製造方法によれば、超純水に電極用触媒前駆体を分散させた液に、入手容易で取扱いが容易な還元剤を添加するという比較的簡便な操作により、生成物である電極用触媒について臭素(Br)種の含有量を確実かつ十分に低減することができる。
また、本発明によれば、臭素(Br)種の含有量を確実かつ十分に低減できるので、得られる電極用触媒について、当該臭素(Br)種の影響により発生する触媒活性の低下を十分に防止することが容易にできる。さらに、本発明の製造方法は、電極用触媒の量産化に適しており、製造コストの低減にも適している。
【0019】
ここで、本発明において、臭素(Br)種とは、構成成分元素として臭素を含む化学種をいう。具体的には、臭素を含む化学種には、臭素原子(Br)、臭素分子(Br
2)、臭素化物イオン(Br
−)、臭素ラジカル(Br・)、多原子臭素イオン、臭素化合物(X−Br等、ここで、Xは対イオン)が含まれる。
【0020】
また、本発明において、臭素(Br)種の濃度は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される。電極用触媒に含まれる臭素(Br)種を蛍光X線(XRF)分析法により、測定した値が臭素(Br)種の濃度である。
なお、臭素(Br)種の濃度は、電極用触媒に含まれる臭素元素に換算された臭素原子の濃度となっている。
【0021】
さらに、本発明は、
(2) 担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部と、を含むコア・シェル構造を有する電極用触媒の製造方法であって、
工程(1’);超純水と、水素を含む気体と、臭素(Br)種を含む材料を使用して製造されており蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第1の臭素(Br)種の濃度以上の電極用触媒前駆体と、を含む液を、10℃〜60℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する第1’の工程、を含む、電極用触媒の製造方法を提供する。
本発明の製造方法によれば、超純水に電極用触媒前駆体を分散させた液に、入手容易で取扱いが容易な還元剤として水素を含む気体を溶解させるという比較的簡便な操作により、電極用触媒について臭素(Br)種の含有量を確実かつ十分に低減することができる。
【0022】
また、本発明は、
(3)前記第1の臭素(Br)種の濃度が3000ppmである、(1)又は(2)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。この第1の臭素(Br)種の濃度の数値は、後述する比較例の結果により支持されている。なお、後述する実施例の結果に基づけば、第1の臭素(Br)種の濃度は1900ppmを超える範囲の数値であってもよい。例えば、第1の臭素(Br)種の濃度は3000ppmであってもよい。
【0023】
ここで、本発明の効果をより確実に得る観点からは、本発明において使用する還元剤は、入手容易で取扱いが容易な物質であることが好ましい。この観点から、還元剤は、超純水に電極用触媒前駆体を分散させた液に、容易に分散可能な物質、又は、容易に溶解可能な物質であることがより好ましい。更にその上で、還元剤は、比較的安価に入手できる物質であることが特に好ましい。
以上の観点から、本発明において使用する還元剤は、以下の(4)〜(7)に挙げられる物質であることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、
(4) 前記還元剤が有機酸及び有機酸塩から選択される少なくとも1種の化合物である、(1)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0025】
さらに、本発明は、
(5) 前記還元剤がギ酸、及びギ酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、(1)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0026】
また、本発明は、
(6) 前記還元剤が無機酸及び無機酸塩から選択される少なくとも1種の化合物である、(1)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0027】
さらに、本発明は、
(7) 前記還元剤が炭酸、及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の化合物である、(1)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0028】
また、本発明は、
(8) 工程(5); 前記第1の工程の後に得られた分散液、又は前記第1’の工程の後に得られた分散液を乾燥する第5の工程をさらに含む、(1)〜(7)のいずれか1に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
このように、第1の工程の後に得られた分散液(又は、第1’の工程の後に得られた分散液)を第5の工程で一旦乾燥させ、その後に第2の工程において再び超純水に分散させること(いわゆるリスラリー化すること)により、より確実に電極用触媒前駆体に含まれる臭素(Br)種を低減できることを本発明者らは見出した。
本発明者らは、第1の工程、又は、第1’の工程(更にこれに続く第2の工程及び第3の工程)において、電極用触媒前駆体の粉体には、超純水中に分散されて保持されている状態(又はその後に超純水でろ過洗浄されている状態)にあるにもかかわらず、十分に洗浄されていない部分(例えば、粉体の細孔表面のうち、超純水が接触できていない部分)が存在していると考えている。
そして、本発明者らは、第5の工程において、第1の工程の後に得られた分散液(又は、第1’の工程の後に得られた分散液)を一旦乾燥させた上で、得られる電極用触媒前駆体の粉体を超純水を使用してリスラリー化することにより、前の工程で、超純水が接触できなかった部分のうちの少なくとも一部が新たに超純水に接触し洗浄されることになると考えている。
【0029】
さらに、本発明は、
(9) 工程(2);前記第1’の工程の後に得られた液に超純水を添加して、
前記第1’の工程の後に得られた液に含まれる電極用触媒前駆体を超純水に分散させた第1の液を調製する第2の工程と、
工程(3);超純水を用いて、前記第1の液に含まれる電極用触媒前駆体をろ過洗浄して、
洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、
前記電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となった液に含まれる電極用触媒前駆体を超純水に分散させた第2の液を調製する第3の工程と、
工程(4);前記第2の液を乾燥する工程と、
を更に含む、(2)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0030】
また、本発明は、
(10) 前記第1の設定値が100μS/cm以下の範囲から選択される値である(1)又は(9)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0031】
さらに、本発明は、
(11)前記第1の工程、又は前記第1’の工程に供される電極用触媒前駆体が、
工程(P1);臭素(Br)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第2の臭素(Br)種の濃度以上の電極用触媒前駆体を、超純水に添加して、前記電極用触媒前駆体を超純水に分散させた第P1の液を調製する第P1の工程と、
工程(P2);超純水を用いて、前記第P1の液に含まれる前記電極用触媒前駆体を洗浄して、洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第P1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体を超純水に分散させて第P2の液を調製する第P2の工程と、
工程(P3);前記第P2の液を乾燥する工程と、
を含む前処理を施されているものである、
(1)〜(10)のいずれか1に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
このように、第P2の工程の後に得られた分散液を第P3工程において一旦乾燥させ、その後に第1の工程(又は第1’の工程)において再び超純水に分散させること(いわゆるリスラリー化すること)により、より確実に電極用触媒前駆体に含まれる臭素(Br)種を低減できることを本発明者らは見出した。
すなわち、第5の工程を経て第1の工程(又は、第1’の工程)を実施する場合の説明で述べたリスラリー化により得られる効果と同じ効果が得られる。
【0032】
また、本発明は、
(12) 前記第2の臭素(Br)種の濃度が3000ppmである、(11)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0033】
また、本発明は、
(13) 予め設定された第P1の設定値が100μS/cm以下の範囲から選択される値である、(11)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0034】
さらに、本発明は、
(14) 前記シェル部には、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含有されており、
前記コア部には、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及びニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれている、
(1)〜(13)いずれか1に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0035】
さらに、本発明は、
(15) 前記シェル部を構成する金属の原料として、白金(Pt)臭化物が使用されている、(14)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0036】
また、本発明は、
(16) 前記シェル部が、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第1シェル部と、当該第1シェル部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第2シェル部と、を有している、
(1)〜(15)のいずれか1に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【0037】
さらに、本発明は、
前記第2シェル部を構成する金属の原料として、白金(Pt)臭化物が使用されている(16)に記載の電極用触媒の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0038】
本発明の電極用触媒の製造方法によれば、比較的高濃度(例えば、1900ppmを超える濃度、3000ppm以上の濃度)の臭素(Br)種を含有している電極用触媒前駆体を電極用触媒の原料として用いても、比較的簡易な操作により、臭素(Br)種の含有量が確実かつ十分に低減された電極用触媒を得ることができる。
また、本発明によれば、臭素(Br)種の含有量を確実かつ十分に低減できるので、得られる電極用触媒について、当該臭素(Br)種の影響により発生する触媒活性の低下を十分に防止することが容易にできる。
さらに、本発明によれば、電極用触媒の量産化に適しており、製造コストの低減に適した電極用触媒の製造方法を提供することができる。
なお、本発明の電極用触媒の製造方法によれば、臭素(Br)種の濃度が十分に低減された電極用触媒、当該電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(MEA)、及び、燃料電池スタックが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。まず、本発明の電極用触媒の製造方法について説明し、次にこの電極用触媒の製造方法により得られる電極用触媒等について説明する。
<電極用触媒の製造方法>
本発明の電極用触媒の製造方法は、工程(1);超純水と、還元剤と、臭素(Br)種を含む材料を使用して製造されており蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第1の臭素(Br)種の濃度以上の電極用触媒前駆体と、を含む液を、10℃〜95℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する第1の工程と、
工程(2);前記第1の工程の後に得られた液に超純水を添加して、
前記第1の工程の後に得られた液に含まれる触媒前駆体を超純水に分散させた第1の液を調製する第2の工程と、
工程(3);超純水を用いて、前記第1の液に含まれる触媒前駆体をろ過洗浄して、
洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、
前記電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となった液に含まれる触媒前駆体を超純水に分散させた第2の液を調製する第3の工程と、
工程(4);前記第2の液を乾燥する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0041】
また、本発明の電極用触媒の製造方法は、工程(1’);超純水と、水素を含む気体と、臭素(Br)種を含む材料を使用して製造されており蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第1の臭素(Br)種の濃度以上の電極用触媒前駆体と、を含む液を、10℃〜60℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度(好ましくは20℃〜40℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度)でかつ予め設定された保持時間で保持する第1’の工程、を含む。
【0042】
図1は、第1の工程〜第4の工程を含んだ電極用触媒の製造方法の製造工程の好適な一実施形態の各操作を示したフローチャートである。以下、各工程について説明する。
【0043】
(第1の工程等)
本発明の電極用触媒の製造方法は、第1の工程を含む。
図1は、第1の工程の好適な一実施形態の各操作を示したフローチャートである。
図1に示されるように、第1の工程は、超純水と、還元剤と、蛍光X線(XRF)分析法により測定される第1の臭素(Br)種の濃度が予め設定された所定値(例えば、3000ppm、1900ppm)以上の電極用触媒前駆体とを含む液を10℃〜95℃の範囲内の所定温度(好ましくは20〜90℃の範囲内の所定温度)、所定時間で保持する。第1の工程において、超純水、還元剤、所定の電極用触媒前駆体を含む液を作製する。
なお、第1の工程において、水素を含んだ気体を還元剤として用いた工程を第1’の工程とした。
図2は、第1’の工程の好適な一実施形態の各操作を示したフローチャートである。
図2に示されるように、第1’の工程は、超純水と、水素を含む気体と、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第1の臭素(Br)種の濃度以上の電極用触媒前駆体とを含む液を10〜60℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度(好ましくは20〜40℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度)、所定時間で保持する。第1’の工程において、超純水、水素を含む気体、所定の電極用触媒前駆体を含む液を作製する。
なお、以下の説明において、第1の工程と第1’の工程を特に区別しない場合に「第1の工程等」という。
【0044】
[超純水]
本発明の電極用触媒の製造方法が含む、第1の工程等において使用される「超純水」は、以下の一般式(1)で表される比抵抗R(JIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率の逆数)が3.0MΩ・cm以上である水である。また、「超純水」はJISK0557「用水・排水の試験に用いる水」に規定されている「A3」のに相当する水質又はそれ以上の清浄な水質を有していることが好ましい。
上記超純水は、下記一般式(1)で表される関係を満たす電気伝導率を有している水であれば、特に限定されない。例えば、上記超純水として、超純水製造装置「Milli-Qシリーズ」(メルク株式会社製)、「Elix UVシリーズ」(日本ミリポア株式会社製)を使用して製造される超純水を挙げることができる。
なお、第1の工程等において、上記超純水を使用することにより、臭素(Br)種等の不純物が含まれないことになるため好ましい。
【0045】
【数1】
上記一般式(1)において、Rは比抵抗を表し、ρはJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率を表す。
【0046】
[還元剤]
第1の工程において使用される還元剤は、電極用触媒の製造工程において、原料となる触媒成分及び処理液に由来する臭素(Br)種等と反応し、臭素(Br)種等を除去する役割を有する。還元剤としては、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩などが好ましく挙げられる。なお、第1’の工程において使用される還元剤は、水素を含む気体である。
【0047】
有機酸又は有機酸塩としては、ホルムアルデヒド、ギ酸、ギ酸ナトリウム等が挙げられる。無機酸又は無機酸塩としては、炭酸、炭酸ナトリウム、等が好ましく挙げられる。
【0048】
[電極用触媒前駆体]
第1の工程等において使用される電極用触媒前駆体は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第1の臭素(Br)種の濃度(例えば、第1の臭素(Br)種の濃度が3000ppm)以上という条件を満たしている。上記電極用触媒前駆体に含まれている臭素(Br)種は、電極用触媒の原料となる触媒成分及び処理液に由来する。
従来、採用されている電極用触媒の製造方法により得られる電極用触媒は、特に臭素(Br)種の除去を施さない限りは、通常、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が第1の臭素(Br)種の濃度以上の比較的高濃度(例えば、第1の臭素(Br)種の濃度が3000ppm、更には1900ppm)となっている。本発明者らの検討によれば、従来採用されている臭素(Br)種を含む材料を使用した電極用触媒の製造方法により得られる電極用触媒(本発明においては電極用触媒前駆体)は、上記分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が3000ppm以上となっている(後述の比較例の結果を参照)。
第1の工程等において、予め設定される第1の臭素(Br)種の濃度は、使用される電極用触媒前駆体の品質に応じて適宜変更して設定することができる。具体的には、臭素(Br)種を含んだ材料を使用して製造された電極用触媒の臭素(Br)種の濃度に着目する。予め設定される第1の臭素(Br)種の濃度は、電極用触媒の触媒性能を十分に発揮することができ、かつ電極用触媒の製造プロセスに適合した範囲であることが好ましい。
すなわち、第1の工程等において使用される電極用触媒前駆体は、従来採用されている電極用触媒の製造方法により得られる電極用触媒に相当する。
【0049】
電極用触媒1の電極用触媒前駆体は、電極用触媒の触媒成分(コア部4、シェル部5)を担体2に担持させることより製造される。
電極用触媒前駆体の製造方法は、担体2に電極用触媒1の触媒成分を担持させることができる方法であれば、特に制限されるものではない。
例えば、担体2に電極用触媒1の触媒成分を含有する溶液を接触させ、担体2に触媒成分を含浸させる含浸法、電極用触媒の触媒成分を含有する溶液に還元剤を投入して行う液相還元法、アンダーポテンシャル析出(UPD)法等の電気化学的析出法、化学還元法、吸着水素による還元析出法、合金触媒の表面浸出法、置換めっき法、スパッタリング法、真空蒸着法等を採用した製造方法を例示することができる。
【0050】
[前処理工程]
本発明の電極用触媒の製造方法においては、第1の工程等に供される電極用触媒前駆体として、以下の工程(P1)〜工程(P3)を含む「前処理工程」を経由して得られた電極用触媒前駆体を採用してもよい。
図3は、前処理工程の好適な一実施形態の各操作を示したフローチャートである。
【0051】
図3に示されるように、前処理工程は、工程(P1);臭素(Br)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が予め設定された第2の臭素(Br)種濃度以上の比較的高濃度(例えば、第2の臭素(Br)種の濃度が3000ppm、更には1900ppm、又は1400ppmを超える所定の値)の電極用触媒前駆体を、超純水に添加して、前記電極用触媒前駆体を超純水に分散させた第P1の液を調製する第P1の工程と、
工程(P2);超純水を用いて、前記第P1の液に含まれる前記電極用触媒前駆体を洗浄して、洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第P1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体を超純水に分散させて第P2の液を調製する第P2の工程と、
工程(P3);前記第P2の液を乾燥する工程を含む。
【0052】
第P2の工程におけるろ過洗浄の方法は、後述する第3の工程におけるろ過洗浄の方法と同様である。第P2の工程における第P1の設定値は、100μS/cm以下、更に10μS/cm以下の範囲から選択される値であることが好ましい。また、第P3の工程における乾燥の方法は、後述する第4の工程における乾燥の方法と同様である。
このように、第P2の工程の後に得られた分散液を第P3工程において一旦乾燥させ、その後に第1の工程(又は第1’の工程)において再び超純水に分散させること(いわゆるリスラリー化すること)により、より確実に電極用触媒前駆体に含まれる臭素(Br)種を低減できる。
【0053】
図4は、第1の工程の前に前処理工程を含む電極用触媒の製造方法の各操作を示したフローチャートである。
また、
図5は、第1’の工程の前に前処理工程を含む電極用触媒の製造方法の各操作を示したフローチャートである。
図4、
図5に示されるように、電極用触媒前駆体の原料を前処理工程に付することによって、電極用触媒前駆体の原料に含まれる臭素(Br)種が除去される。そして、臭素(Br)種の濃度が低減された電極用触媒前駆体を第1の工程等における電極用触媒前駆体とする。かかる電極用触媒前駆体は、第1の工程等に付される。第1の工程等においては、工程(P1)〜工程(P3)を経由して得られた電極用触媒前駆体を出発物質として用い、各操作を実行する。このように、本発明の電極用触媒の製造方法においては、第1の工程等の前に前処理工程を設けて、電極用触媒前駆体に含まれる臭素(Br)種の濃度をさらに低減させることができる。
前処理工程において、予め設定される第2の臭素(Br)種の濃度は、通常、第1の工程等において設定される第1の臭素(Br)種の濃度よりも高く設定される。
第1の臭素(Br)種の濃度及び第2の臭素(Br)種の濃度は、電極用触媒前駆体に含まれている臭素(Br)種の濃度、製造プロセスに応じて予め設定される。
【0054】
[保持温度等]
第1の工程において、超純水と還元剤と蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が第1の臭素(Br)種濃度以上の比較的高濃度(例えば、第1の臭素(Br)種濃度が3000ppm、或いは1900ppm、更には1400ppmを超える所定の値)の電極用触媒前駆体とを含む液を10℃〜95℃の範囲内の所定温度(好ましくは20〜90℃の範囲内の所定温度)を設定して、この液を保持する。保持温度は、10℃〜95℃の範囲内、好ましくは20〜90℃の範囲内であれば特に制限されるものではないが、電極用触媒前駆体に含まれる臭素(Br)種の濃度、還元剤の種類等により、適宜設定される。
第1’の工程において、還元剤として水素を含んだ気体を用いる場合、保持温度は、10〜60℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度に設定することが好ましい。更に好ましくは20〜40℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度に設定することが好ましい。
保持温度は、少なくとも1段階の設定温度を有する。保持時間は、還元剤と電極用触媒前駆体とが十分に反応することができる時間であれば特に制限されない。
【0055】
超純水、還元剤、電極用触媒前駆体を混合した液を上記保持温度及び保持時間にて保持することにより、電極用触媒前駆体に含まれていた臭素(Br)種は除去される。そして、電極用触媒前駆体中の蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度は、大きく低下する。最終的に上記臭素(Br)種の濃度は、第1の臭素(Br)種の濃度未満に容易に低減される。例えば、臭素(Br)種の濃度は3000ppm未満、1900ppm未満、更には1400ppm以下、更には0〜900ppmの水準にまで容易に低減されることによって、上記電極用触媒前駆体は、本発明の電極用触媒となる。
【0056】
このように本発明の電極用触媒の製造方法によれば、第1の工程を含むことにより、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が第1の臭素(Br)種の濃度以上の比較的高濃度(例えば、第1の臭素(Br)種の濃度が3000ppm)の電極用触媒前駆体を原料として採用しても、上記臭素(Br)種の濃度が3000ppm未満に容易に低減され、1900ppm未満、更には1400ppm以下、更には0〜900ppmの水準にまで容易に低減された電極用触媒を得ることができる。
【0057】
(第5の工程)
さらに、本発明の電極用触媒の製造方法は、第1の工程等の後に得られた液を乾燥する第5の工程をさらに含んでいてもよい。第1の工程等の後に得られた分散液(又は、第1’の工程の後に得られた分散液)を第5の工程において一旦乾燥させ、その後に第2の工程において再び超純水に分散させること(いわゆるリスラリー化すること)により、上記臭素(Br)種の濃度がきわめて低減された電極用触媒をより確実に得ることができる。
このことについてのメカニズムは十分に解明されていないが、本発明者らは、第1の工程等(更にそれに続く第2の工程及び第3の工程)において、電極用触媒前駆体の粉体には、超純水中に分散されている状態(又は超純水によりろ過洗浄されている状態)にもかかわらず、十分に洗浄されない部分(例えば、粉体の細孔表面のうち、超純水が接触できない部分)が存在していると考えている。
そして、本発明者らは、第5の工程において、第1の工程等の後に得られた分散液を一旦乾燥させた上で、得られる電極用触媒前駆体の粉体を超純水に再分散させること(リスラリー化すること)により、前の工程で、超純水が接触できなかった部分のうちの少なくとも一部が新たに超純水に接触し洗浄されることになるため臭素(Br)種がより確実に除去されるようになると考えている。
第1の工程等の後に得られた液を乾燥する条件は、第1の工程等の後に得られた液に含まれている電極用触媒前駆体を得ることができる乾燥温度及び乾燥時間を備えていれば特に制限されない。例えば、乾燥温度は、20〜90℃であり、乾燥時間は、0.5〜24時間である。
【0058】
(第2の工程)
本発明の電極用触媒の製造方法は、第2の工程を含む。第2の工程は、上記第1の工程等の後に得られた液に超純水を添加して、第1の工程等の後に得られた液に含まれる電極用触媒前駆体を超純水に分散させた第1の液を調製する工程である。第2の工程は、第1の工程等において得られた電極用触媒を電極用触媒前駆体とみなし、第1の液を調製する工程である。
なお、第2の工程には、還元剤として水素を含んだ気体を用いた、第1’の工程を経由して得られた液を処理する場合も含まれる。
【0059】
(第3の工程)
本発明の電極用触媒の製造方法は、第3の工程を含む。第3の工程は、第2の工程で作製した第1の液に含まれる電極用触媒前駆体をろ過洗浄して、洗浄した後に得られるろ液の電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返す工程である。第3の工程は、電極用触媒前駆体を洗浄して当該電極用触媒前駆体に含まれる臭素(Br)種の濃度を低下させる。
【0060】
洗浄した後に得られるろ液の電気伝導率ρは、JIS規格試験法(JIS K0552)により測定される。第3の工程において、第1の液に含まれる電極用触媒前駆体をろ過洗浄して、洗浄した後に得られるろ液の電気伝導率ρを測定し、電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返す。第3の工程においては、予め第1の設定値を決定しておくことにより、電極用触媒前駆体に含まれる上記臭素(Br)種の濃度を緻密に制御することができる。
【0061】
第1の設定値は、電極用触媒に含まれる臭素(Br)種の濃度に応じて適宜設定することができる。第1の設定値は、100μS/cm以下の範囲から選択される値であることが好ましい。第1の設定値が100μS/cm以下であると、電極用触媒前駆体に含まれる上記臭素(Br)種の濃度を3000ppm未満に容易に低減でき、更に1400ppm以下、更には0〜900ppmの水準にまで容易に低減することができるため好ましい。さらに、第1の設定値は、10μS/cm以下の範囲から選択される値であることが好ましい。
第1の工程等が前処理工程を経由する場合、予め設定される第1の設定値は、通常は前処理工程において設定される第P1の設定値以下又は第P1の設定値より低くに設定される。
ただし、先に述べたリスラリー化の効果により、前処理工程よりも第1工程(及び第2工程)において、洗浄により除去される臭素(Br)種の量が増え、臭素(Br)種の濃度が大きくなる場合には、第1の設定値が第P1の設定値よりも高く設定される場合もある。
【0062】
第3の工程において、第2の工程で作製した第1の液に含まれる電極用触媒前駆体をろ過洗浄して、第1の設定値以下となった場合に第1の液の洗浄を終了する。第1の設定値以下となった際の第1の液を第2の液とする。
【0063】
なお、第3の工程における前記ろ過洗浄の方法は、本発明の電極用触媒のコア・シェル構造を損なわない方法であれば特に限定されない。上記ろ過の方法としては、ろ紙やメンブレンフィルターを用いて、自然ろ過や減圧ろ過する方法等が挙げられる。
【0064】
(第4の工程)
本発明の電極用触媒の製造方法は、第4の工程を含む。第4の工程は、第3の工程おいて作製した第2の液を乾燥する工程である。第2の液を乾燥する条件は、第2の液に含まれている電極用触媒前駆体を得ることができる乾燥温度及び乾燥時間を備えていれば特に制限されない。例えば、乾燥温度は、20〜90℃であり、乾燥時間は、0.5〜24時間である。
【0065】
また、第4の工程の後に、超純水に酸を添加した水溶液に該コア・シェル触媒を分散させて、10〜95℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度(好ましくは20〜90℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度)でかつ予め設定された保持時間で保持する工程をさらに含んでもよい。前記酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、酢酸等が挙げられる。
【0066】
本発明の電極用触媒の製造方法によれば、電極用触媒前駆体に含まれる臭素(Br)種を低減することができる。本発明の電極用触媒の製造方法により得られた電極用触媒は、蛍光X線(XRF)分析法により測定した臭素(Br)種の濃度が0〜2000ppmである臭素(Br)種を含んでいる。
【0067】
本発明の電極用触媒の製造方法により得られた電極用触媒は、上記蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が3000ppm未満、好ましくは1900ppm以下、より好ましくは1400ppm以下、更に好ましくは0〜900ppmの水準にまで低減されていることから、得られる電極用触媒について、当該臭素(Br)種の影響により発生する触媒活性の低下を十分に防止することができ、触媒活性を向上させることもできる。
【0068】
<電極用触媒>
図6は、本発明の電極用触媒の製造方法によって得られた電極用触媒1(コア・シェル触媒)の好適な一形態を示す模式断面図である。
図6に示されるように電極用触媒の製造方法によって得られた電極用触媒1は、担体2と担体2上に担持された、いわゆる「コア・シェル構造」を有する触媒粒子3を含んでいる。触媒粒子3は、コア部4と、コア部4の表面の少なくとも一部を被覆するように形成されたシェル部5とを備えている。触媒粒子3はコア部4とコア部4上に形成されるシェル部5とを含むいわゆる「コア・シェル構造」を有する。
すなわち、電極用触媒1は、担体2に担持された触媒粒子3を有しており、この触媒粒子3は、コア部4を核(コア)とし、シェル部5がシェルとなってコア部4の表面を被覆している構造を備えている。
また、コア部4の構成元素(化学組成)と、シェル部5の構成元素(化学組成)は異なる構成となっている。
【0069】
本発明において、電極用触媒1は、触媒粒子3が有しているコア部4の表面の少なくとも一部の上にシェル部5が形成されていればよく、特に限定されるものではない。
例えば、本発明の効果をより確実に得る観点からは、
図6に示すように、電極用触媒1は、シェル部5によってコア部4の表面の略全域が被覆された状態であることが好ましい。
また、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1は、シェル部5によってコア部4の表面の一部が被覆され、コア部4の表面が部分的に露出した状態であってもよい。
すなわち、本発明において、電極用触媒は、コア部の表面の少なくとも一部にシェル部が形成されていればよい。
【0070】
図7は、本発明の電極用触媒(コア・シェル触媒)の別の好適な一形態(電極用触媒1A)を示す模式断面図である。
図7に示されるように、本発明の電極用触媒1Aは、コア部4と、コア部4の表面の一部を被覆するシェル部5a及びコア部4の他の表面の一部を被覆するシェル部5bから構成されている触媒粒子3aを有している。
図7に示された電極用触媒1Aが含んでいる触媒粒子3aにおいて、シェル部5aによっても、シェル部5bによっても被覆されていないコア部4が存在する。このようなコア部4が、コア部露出面4sとなる。
すなわち、
図7に示されるように、本発明の効果を得ることができる範囲において、電極用触媒1Aが含んでいる触媒粒子3aは、コア部4の表面が部分的に露出した状態(例えば、
図7に示されたコア部4の表面の一部である4sが露出した状態)であってもよい。
別の表現をすれば、
図7に示された電極用触媒1Aのように、コア部4の表面の一部にシェル部5a、他の表面の一部にシェル部5bがそれぞれ部分的に形成されていてもよい。
【0071】
図8は、本発明の電極用触媒(コア・シェル触媒)の別の好適な一形態(電極用触媒1B)を示す模式断面図である。
図8に示されるように、本発明の電極用触媒1Bは、コア部4と、コア部4の表面の略全域を被覆するシェル部5から構成されている触媒粒子3を有している。
シェル部5は、第1シェル部6と第2シェル部7とを備えた二層構造であってもよい。すなわち、触媒粒子3は、コア部4とコア部4上に形成されるシェル部5(第1シェル部6及び第2シェル部7)とを含む、いわゆる「コア・シェル構造」を有する。
電極用触媒1Bは、担体2に担持された触媒粒子3を有し、触媒粒子3がコア部4を核(コア)とし、第1シェル部6及び第2シェル部7がシェル部5となってコア部4の表面の略全域が被覆されている構造を有している。
なお、コア部4の構成元素(化学組成)と、第1シェル部6の構成元素(化学組成)と、第2シェル部7の構成元素(化学組成)とは、それぞれ異なる構成となっている。
また、本発明の電極用触媒1Bが備えているシェル部5は、第1シェル部6、第2シェル部7に加えて、さらに別のシェル部を備えているものであってもよい。
本発明の効果をより確実に得る観点からは、
図8に示すように、電極用触媒1Bは、シェル部5によってコア部4の表面の略全域が被覆された状態であることが好ましい。
【0072】
図9は、本発明の電極用触媒(コア・シェル触媒)の別の好適な一形態(電極用触媒1C)を示す模式断面図である。
図9に示されるように、本発明の電極用触媒1Cは、コア部4と、コア部4の表面の一部を被覆するシェル部5a、及びコア部4の他の表面の一部を被覆するシェル部5bから構成されている触媒粒子3aを有している。
シェル部5aは、第1シェル部6aと第2シェル部7aとを備えた二層構造であってもよい。
また、シェル部5bは、第1シェル部6bと第2シェル部7bとを備えた二層構造であってもよい。
すなわち、触媒粒子3aは、コア部4と、コア部4上に形成されるシェル部5a(第1シェル部6a及び第2シェル部7a)と、コア部4上に形成されるシェル部5b(第1シェル部6b及び第2シェル部7b)と、を含む、いわゆる「コア・シェル構造」を有する。
図9に示された触媒粒子3aを構成するシェル部5bにおいて、第2シェル部7bよって被覆されていない第1シェル部6bが存在する。第2シェル部7bよって被覆されていない第1シェル部6bが第1シェル部露出面6sとなる。
図9に示されるように触媒粒子3aを構成するシェル部5aにおいて、第1シェル部6aの略全域が第2シェル部7aによって被覆された状態であることが好ましい。
また、
図9に示されるように本発明の効果を得られる範囲において、触媒粒子3aを構成するシェル部5bにおいて、第1シェル部6bの表面の一部が被覆され、第1シェル部6bの表面が部分的に露出した状態(例えば、
図9に示された第1シェル部6bの表面の一部6sが露出した状態)であってもよい。
【0073】
更に、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1は、担体2上に、「シェル部5によってコア部4の表面の略全域が被覆された状態のコア部4及びシェル部5の複合体」と、「シェル部5によってコア部4の表面の一部が被覆された状態のコア部4及びシェル部5の複合体」とが混在した状態であってもよい。
具体的には、本発明の電極用触媒は、本発明の効果を得られる範囲において、
図6及び7に示した電極用触媒1、1Aと、
図8及び9に示した電極用触媒1B、1Cとが混在した状態であってもよい。
更に、本発明の電極用触媒は、本発明の効果を得られる範囲において、
図9に示されるように同一のコア部4に対し、シェル部5aとシェル部5bとか混在した状態であってもよい。
更に、本発明の電極用触媒は、本発明の効果を得られる範囲において、同一のコア部4に対し、シェル部5aのみが存在する状態であってもよく、同一のコア部4に対し、シェル部5bのみが存在する状態であってもよい(いずれの状態も図示せず)。
また、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1には、担体2上に、上記電極用触媒1、1A、1B、1Cの少なくとも1種に加えて、「コア部4がシェル部5によって被覆されていないコア部のみからなる粒子」が担持された状態が含まれていてもよい(図示せず)。
更に、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1には、上記電極用触媒1、1A、1B、1Cの少なくとも1種に加えて「シェル部5の構成元素のみからなる粒子」がコア部4に接触しない状態で担体2に担持された状態が含まれていてもよい(図示せず)。
また、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1には、上記電極用触媒1、1A、1B、1Cの少なくとも1種に加えて「シェル部5に被覆されていないコア部4のみの粒子」と、「シェル部5の構成元素のみからなる粒子」とが、それぞれ独立に担体2に担持された状態が含まれていてもよい。
【0074】
コア部4の平均粒子径は2〜40nmが好ましく、4〜20nmがより好ましく、5〜15nmが特に好ましい。
シェル部5の厚さ(コア部4との接触面から当該シェル部5の外表面までの厚さ)については、電極用触媒の設計思想によって好ましい範囲が適宜設定される。
例えば、シェル部5を構成する金属元素(例えば白金など)の使用量を最小限にすることを意図している場合には、シェル部5の厚さは、当該シェル部5を構成する金属元素が1種類の場合には、この金属元素の1原子の直径(球形近似した場合)の2倍に相当する厚さであることが好ましい。また、当該シェル部5を構成する金属元素が2種類以上の場合には、1原子で構成される層(2種類以上の原子がコア部4の表面に並置されて形成される1原子層)に相当する厚さであることが好ましい。
また、例えば、シェル部5の厚さをより大きくすることにより耐久性の向上を図る場合には、1〜10nmが好ましく、2〜5nmがより好ましい。
【0075】
シェル部5が第1シェル部6と第2シェル部7から構成される二層構造である場合には、第1シェル部6と第2シェル部7の厚さは、本発明の電極用触媒の設計思想によって好ましい範囲が適宜設定される。
例えば、第2シェル部7に含まれる金属元素である白金(Pt)等の貴金属の使用量を最小限にすることを意図している場合には、第2シェル部7は、1原子で構成される層(1原子層)であることが好ましい。この場合には、第2シェル部7の厚さは、当該第2シェル部7を構成する金属元素が1種類の場合には、当該金属元素の1原子の直径(1原子を球形とみなした場合)の約2倍に相当する厚さであることが好ましい。
また、第2シェル部7に含まれる金属元素が2種類以上である場合には、当該第2シェル部7は、1種類以上の原子で構成される層(2種類以上の原子がコア部4の表面方向に並置されて形成される1原子層)に相当する厚さであることが好ましい。例えば、第2シェル部7の厚さをより大きくすることにより、電極用触媒の耐久性を向上させることを図る場合には、当該第2シェル部7の厚さを1.0〜5.0nmとすることが好ましい。電極用触媒の耐久性をさらに向上させることを図る場合には、当該第2シェル部7の厚さを2.0〜10.0nmとすることが好ましい。
なお、本発明において「平均粒子径」とは、電子顕微鏡写真観察による、任意の数の粒子群からなる粒子の直径の平均値のことをいう。
【0076】
担体2は、コア部4とシェル部5からなる複合体である触媒粒子3を担持することができ、かつ表面積の大きいものであれば特に制限されない。さらに、担体2は、電極用触媒1を含んだガス拡散電極形成用組成物中で良好な分散性を有し、優れた導電性を有するものであることが好ましい。
【0077】
担体2は、グラッシーカーボン(GC)、ファインカーボン、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、活性炭の粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素系材料や酸化物等のガラス系あるいはセラミックス系材料などから適宜採択することができる。
これらの中で、コア部4との吸着性及び担体2が有するBET比表面積の観点から、炭素系材料が好ましい。
更に、炭素系材料としては、導電性カーボンが好ましく、特に、導電性カーボンとしては、導電性カーボンブラックが好ましい。導電性カーボンブラックとしては、商品名「ケッチェンブラックEC300J」、「ケッチェンブラックEC600」、「カーボンEPC」等(ライオン化学株式会社製)を例示することができる。
【0078】
コア部4を構成する成分は、シェル部5によって、被覆される成分であれば特に限定されない。
図6、7に示された電極用触媒1、1Aのように、シェル部5が上記二層構造ではなく、一層構造を採用する場合には、コア部4に貴金属を採用することもできる。上記電極用触媒1、1Aが有している触媒粒子3、3aを構成するコア部4には、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及びニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれている。
【0079】
パラジウム(Pd)合金は、パラジウム(Pd)と合金を形成することができる他の金属との組み合わせであれば特に制限されるものでない。例えば、パラジウム(Pd)と他の金属との組み合わせである2成分系のパラジウム(Pd)合金、パラジウム(Pd)と2種類以上の他の金属との組み合わせである3成分系以上のパラジウム(Pd)合金であってもよい。具体的には、2成分系のパラジウム(Pd)合金として、金パラジウム(PdAu)、銀パラジウム(PdAg)、銅パラジウム(PdCu)等を例示することができる。3成分系のパラジウム(Pd)合金としては、金銀パラジウム(PdAuAg)等を例示することができる。
【0080】
白金(Pt)合金は、白金(Pt)と合金を形成することができる他の金属との組み合わせである合金であれば、特に制限されるものでない。例えば、白金(Pt)と他の金属との組み合わせである2成分系の白金(Pt)合金、白金(Pt)と2種類以上の他の金属との組み合わせである3成分系以上の白金(Pt)合金であってもよい。具体的には、2成分系の白金(Pt)合金として、ニッケル白金(PtNi)、コバルト白金(PtCo)等を例示することができる。
【0081】
ニッケル(Ni)合金は、ニッケル(Ni)と合金を形成することができる他の金属との組み合わせである合金であれば、特に制限されるものでない。例えば、ニッケル(Ni)と他の金属との組み合わせである2成分系のニッケル(Ni)合金、ニッケル(Ni)と2種類以上の他の金属との組み合わせである3成分系以上のニッケル(Ni)合金であってもよい。具体的には、2成分系のニッケル(Ni)合金として、タングステンニッケル(NiW)等を例示することができる。
【0082】
シェル部5には、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含まれている。白金(Pt)合金は、白金(Pt)と合金を形成することができる他の金属との組み合わせである合金であれば特に制限されるものでない。例えば、白金(Pt)と他の金属との組み合わせである2成分系の白金(Pt)合金、白金(Pt)と2種類以上の他の金属との組み合わせである3成分系以上の白金(Pt)合金であってもよい。具体的には、2成分系の白金(Pt)合金として、ニッケル白金(PtNi)、コバルト白金(PtCo)、白金ルテニウム(PtRu)、白金モリブデン(PtMo)、白金チタン(PtTi)等を例示することができる。なお、シェル部5に一酸化炭素(CO)に対する耐被毒性を持たせるためには、白金ルテニウム(PtRu)合金を使用してもことが好ましい。
【0083】
図8、9に示された電極用触媒1B、1Cのように、シェル部5が第1シェル部6と第2シェル部7から構成される二層構造を採用する場合には、特に、電極用触媒1の製造コストを低減する観点から、貴金属以外の金属元素を主成分としてもよい。
具体的には、コア部4には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)以外の金属元素を含む金属、金属化合物、及び金属と金属化合物との混合物であることが好ましく、貴金属以外の金属元素を含む金属、金属化合物、及び金属と金属化合物との混合物であることがより好ましい。
【0084】
シェル部5に含まれる白金(Pt)の担持量は、電極用触媒1の重量に対して5〜20質量%、好ましくは8〜16質量%であることが好ましい。白金(Pt)の担持量が5質量%以上であると、電極用触媒としての触媒活性を十分に発揮できるため好ましく、白金(Pt)の担持量が20質量%以下であると、製造コストの観点から好ましい。
【0085】
シェル部5が第1シェル部6と第2シェル部7から構成される二層構造である場合には、第1シェル部6は、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及びニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれていることが好ましく、パラジウム(Pd)単体が含まれていることがより好ましい。
電極用触媒1B、1Cの触媒活性をより高く、容易に得る観点からは、第1シェル部6は、パラジウム(Pd)単体を主成分(50wt%以上)として構成されていることがより好ましく、パラジウム(Pd)単体のみから構成されていることがより好ましい。
第2シェル部7は、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含まれていることが好ましく、白金(Pt)単体が含まれていることがより好ましい。
電極用触媒1B、1Cの触媒活性をより高く、容易に得る観点からは、第2シェル部7は、白金(Pt)単体を主成分(50wt%以上)として構成されていることがより好ましく、白金(Pt)単体のみから構成されていることがより好ましい。
【0086】
(臭素(Br)種の濃度)
本発明の電極用触媒の製造方法によって得られた電極用触媒は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が3000ppm以上である電極用触媒前駆体を用いた場合であっても、電極用触媒の製造方法の少なくとも工程(1)を経由することにより、上記臭素(Br)種の濃度が低減される点に技術的特徴を有する。
【0087】
本発明の電極用触媒の製造方法は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が3000ppm以上である電極用触媒前駆体を原料として使用した場合、臭素(Br)種の濃度が1900ppm以下、更に1400ppm以下、更には0〜900ppmの水準にまで低減された電極用触媒を従来よりも容易に提供することができる。
【0088】
ここで、臭素(Br)種は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される。電極用触媒の製造方法により得られる電極用触媒に含まれる臭素(Br)種を蛍光X線(XRF)分析法により、測定した値が臭素(Br)種の濃度である。なお、臭素(Br)種の濃度は、電極用触媒に含まれる臭素元素に換算された臭素原子の濃度となっている。
【0089】
蛍光X線(XRF)分析法は、ある元素Aを含む試料に1次X線を照射し、元素Aの蛍光X線を発生させ、元素Aに関する蛍光X線の強度を測定することにより、試料に含まれる元素Aの定量分析を行う方法である。蛍光X線(XRF)分析法を用いて定量分析を行う場合、理論演算のファンダメンタル・パラメータ法(FP法)を採用してもよい。FP法は、試料に含まれる元素の種類とその組成がすべて判れば、それぞれの蛍光X線(XRF)の強度を理論的に計算することができるということを利用している。そして、FP法は試料を測定して得られた各元素の蛍光X線(XRF)に一致するような組成を推定する。
【0090】
蛍光X線(XRF)分析法は、エネルギー分散型蛍光X線(XRF)分析装置、走査型蛍光X線(XRF)分析装置、多元素同時型蛍光X線(XRF)分析装置等の汎用蛍光X線(XRF)分析装置を使用することによって実行される。蛍光X線(XRF)分析装置は、ソフトウエアを備えており、当該ソフトウエアにより元素Aの蛍光X線(XRF)の強度と元素Aの濃度との間の関係について実験データ処理を行う。ソフトウエアは、蛍光X線(XRF)分析法において一般的に採用されているものであれば特に制限されるものではない。例えば、ソフトウエアとして、FP法を採用した汎用蛍光X線(XRF)分析装置用ソフトウエア「解析ソフト:「UniQuant5」」等を採用することができる。なお、蛍光X線(XRF)分析装置としては、例えば、波長分散型全自動蛍光X線分析装置(商品名:Axios「アクシオス」)(スペクトリス株式会社製)を例示することができる。
【0091】
本発明の電極用触媒の製造方法により得られる電極用触媒は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が3000ppm未満、好ましくは1900ppm以下、より好ましくは1400ppm以下、更に好ましくは0〜9000ppmの水準に低減されている。電極反応の触媒活性と耐久性を十分に得る観点からは、この臭素(Br)種の濃度は、3000ppm以下であるのがより好ましく、1000ppm以下であることが特に好ましい。
臭素(Br)種の濃度が3000ppm以下であると、臭素(Br)種の影響により発生する触媒活性の低下を十分に防止することができる。そして、電極用触媒として、十分な触媒活性を発揮することができるため好ましい。
ここで、本発明の電極用触媒の製造方法は、電極用触媒の原料として、臭素(Br)種の濃度が3000ppm以下である電極用触媒前駆体であっても使用することができる。臭素(Br)種の濃度がより低い電極用触媒前駆体を使用すれば、臭素(Br)種を除去するための作業や使用する超純水の使用量が削減できるため好ましい。
【0092】
(蛍光X線(XRF)分析法)
蛍光X線(XRF)分析法は、例えば以下のように実行される。
(1)測定装置
・波長分散型全自動蛍光X線分析装置Axios(アクシオス)(スペクトリス株式会社製)
(2)測定条件
・解析ソフト:「UniQuant5」(FP(four peak method)法を用いた半定量ソフト)
・XRF測定室雰囲気:ヘリウム(常圧)
(3)測定手順
(i)試料を入れた試料容器をXRF試料室に入れる。
(ii)XRF試料室内をヘリウムガスで置換する。
(iii)ヘリウムガス雰囲気(常圧)下、測定条件を、解析ソフト「UniQuant5」を使用するための条件である、「UQ5アプリケーション」に設定し、サンプルの主成分が「カーボン(担体の構成元素)」、サンプルの分析結果の表示形式が「元素」となるよう計算するモードに設定する。
【0093】
<燃料電池スタックの構造>
図10は、本発明の電極用触媒の製造方法によって製造された電極用触媒を含むガス拡散電極形成用組成物、このガス拡散電極形成用組成物を用いて製造されたガス拡散電極、このガス拡散電極を備えた膜・電極接合体(MEA)、及びこの膜・電極接合体(MEA)を備えた燃料電池スタックの好適な一実施形態を示す模式図である。
図10に示された燃料電池スタックSは、膜・電極接合体(MEA)400を一単位セルとし、この一単位セルを複数積み重ねた構成を有している。
【0094】
更に、燃料電池スタックSは、アノード200aと、カソード200bと、これらの電極の間に配置される電解質膜300と、を備えた膜・電極接合体(MEA)400を有している。
また、燃料電池スタックSは、この膜・電極接合体(MEA)400がセパレータ100a及びセパレータ100bにより挟持された構成を有している。
【0095】
以下、本発明の電極用触媒の製造方法によって製造された電極用触媒を含む燃料電池スタックSの部材である、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極200a及びガス拡散電極200b、膜・電極接合体(MEA)400について説明する。
【0096】
<ガス拡散電極形成用組成物>
上記電極用触媒1をいわゆる触媒インク成分として用い、ガス拡散電極形成用組成物とすることができる。このガス拡散電極形成用組成物は、上記電極用触媒が含有されていることを特徴とする。ガス拡散電極形成用組成物は上記電極用触媒とイオノマー溶液を主要成分とする。イオノマー溶液は、水とアルコールと水素イオン伝導性を有する高分子電解質とを含有する。
【0097】
イオノマー溶液中の水とアルコールとの混合比率は、ガス拡散電極形成用組成物を電極に塗布する際に適した粘度を与える比率であればよく、通常、水100重量部に対して、アルコールを0.1〜50.0重量部含有することが好ましい。また、イオノマー溶液に含まれるアルコールは、一価アルコール又は多価アルコールであることが好ましい。一価アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。多価アルコールとしては、二価アルコール又は三価アルコールが挙げられる。二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、4−ブタンジオールを例示することができる。三価アルコールとしては、グリセリンを例示することができる。また、イオノマー溶液に含まれるアルコールは、1種類又は2種類以上のアルコールの組み合わせであってもよい。なお、イオノマー溶液には、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を適宜含有させることもできる。
【0098】
イオノマー溶液は、電極用触媒を分散させるため、ガス拡散電極を構成する部材であるガス拡散層との密着性を高めるためにバインダー成分として、水素イオン導電性を有する高分子電解質を含有する。高分子電解質は、特に制限されるものではないが、公知のスルホン酸基、カルボン酸基を有するパーフルオロカーボン樹脂を例示することができる。容易に入手可能な水素イオン伝導性を有する高分子電解質としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)を例示することができる。
【0099】
ガス拡散電極形成用組成物は、電極用触媒、イオノマー溶液を混合し、粉砕、撹拌することにより作製することができる。ガス拡散電極形成用組成物の作製は、ボールミル、超音波分散機等の粉砕混合機を使用して調製することができる。粉砕混合機を操作する際の粉砕条件及び撹拌条件は、ガス拡散電極形成用組成物の態様に応じて適宜設定することができる。
【0100】
ガス拡散電極形成用組成物に含まれる電極用触媒、水、アルコール、水素イオン伝導性を有する高分子電解質の各組成は、電極用触媒の分散状態が良好であり、かつ電極用触媒をガス拡散電極の触媒層全体に広く行き渡らせることができ、燃料電池が備える発電性能を向上させることができるように設定することが必要である。
【0101】
具体的には、電極用触媒1.0重量部に対し、高分子電解質0.1〜2.0重量部、アルコール0.01〜2.0重量部、水2.0〜20.0重量部とすることが好ましい。さらに好ましくは、電極用触媒1.0重量部に対し高分子電解質0.3〜1.0重量部、アルコール0.1〜2.0重量部、水5.0〜6.0重量部であることが好ましい。各成分の組成が上記範囲内にあるとガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜がガス拡散電極上において、成膜時に広がりすぎないため好ましく、また、ガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜が適度かつ均一な厚さの塗膜を形成することができるため好ましい。
【0102】
なお、高分子電解質の重量は乾燥状態の重量であって高分子電解質溶液中の溶媒を含まない状態の重量であり、水の重量は高分子電解質溶液中に含まれる水を含む重量である。
【0103】
<ガス拡散電極>
本発明の製造方法によって製造された電極用触媒を含むガス拡散電極(200a、200b)は、ガス拡散層220とガス拡散層220の少なくとも一面に積層された電極用触媒層240とを備えている。ガス拡散電極(200a、200b)が備えている電極用触媒層240には、上記電極用触媒1が含まれている。なお、本発明のガス拡散電極200は、アノードとして用いることができ、カソードとしても用いることができる。
なお、
図10においては、便宜上、上側のガス拡散電極200をアノード200aとし、下側のガス拡散電極200をカソード200bとする。
【0104】
(電極用触媒層)
電極用触媒層240は、アノード200aにおいて、ガス拡散層220から送られた水素ガスが電極用触媒層240に含まれている電極用触媒1の作用により水素イオンに解離する化学反応が行われる層である。また、電極用触媒層240は、カソード200bにおいて、ガス拡散層220から送られた空気(酸素ガス)とアノードから電解質膜中を移動してきた水素イオンが電極用触媒層240に含まれている電極用触媒1の作用により結合する化学反応が行われる層である。
【0105】
電極用触媒層240は、上記ガス拡散電極形成用組成物を用いて形成されている。電極用触媒層240は、電極用触媒1とガス拡散層220から送られた水素ガス又は空気(酸素ガス)との反応を十分に行わせることができるように大きい表面積を有していることが好ましい。また、電極用触媒層240は、全体に亘って均一な厚みを有するように形成されていることが好ましい。電極用触媒層240の厚みは、適宜調整すればよく、制限されるものではないが、2〜200μmであることが好ましい。
【0106】
(ガス拡散層)
ガス拡散電極200が備えているガス拡散層220は、燃料電池スタックSの外部より、セパレータ100aとガス拡散層220aとの間に形成されているガス流路に導入される水素ガス、セパレータ100bとガス拡散層220bとの間に形成されているガス流路に導入される空気(酸素ガス)をそれぞれの電極用触媒層240に拡散するために設けられている層である。また、ガス拡散層220は、電極用触媒層240をガス拡散電極200に支持して、ガス拡散電極200表面に固定化する役割を有している。ガス拡散層220は、電極用触媒層240に含まれる電極用触媒1と水素ガス、空気(酸素ガス)との接触を高める役割を有している。
【0107】
ガス拡散層220は、ガス拡散層220から供給された水素ガス又は空気(酸素ガス)を良好に通過させて電極用触媒層240に到達させる機能を有している。このため、ガス拡散層220は、ガス拡散層220に存在するミクロ構造である細孔構造が電極用触媒1、カソード200bにおいて生成する水により、塞がれることがないようにするため、撥水性を有していることが好ましい。このため、ガス拡散層220は、ポリエチレンテレフタレート(PTFE)等の撥水成分を有している。
【0108】
ガス拡散層220に用いることができる部材は、特に制限されるものではなく、燃料電池用電極のガス拡散層に用いられている公知の部材を用いることができる。例えば、カーボンペーパー、カーボンペーパーを主原料とし、その任意成分としてカーボン粉末、イオン交換水、バインダーとしてポリエチレンテレフタレートディスパージョンからなる副原料をカーボンペーパーに塗布したものが挙げられる。ガス拡散層の厚みは、燃料電池用セルの大きさ等により適宜設定することができ、特に制限されるものではないが、反応ガスの拡散距離を短くするためには、薄いものが好ましい。一方、塗布ならびに組立工程での機械的強度を有することも併せて求められるので、例えば、通常50〜300μm程度のものが使用される。
【0109】
ガス拡散電極200a、ガス拡散電極200bは、ガス拡散層220、電極用触媒層240との間に中間層(図示せず)を備えていてもよい。上記ガス拡散電極200a、ガス拡散電極200bは、ガス拡散層、中間層及び触媒層を備えた三層構造を有することとなる。
【0110】
(ガス拡散電極の製造方法)
ガス拡散電極の製造方法について説明する。
ガス拡散電極の製造方法は、触媒成分が担体に担持されてなる電極用触媒1と水素イオン伝導性を有する高分子電解質と、水とアルコールとのイオノマー溶液を含有するガス拡散電極形成用組成物をガス拡散層220に塗布する工程と、このガス拡散電極形成用組成物が塗布されたガス拡散層220を乾燥させ、電極用触媒層240を形成させる工程とを備える。
【0111】
ガス拡散電極形成用組成物をガス拡散層220上に塗布する工程において重要なことは、ガス拡散層220上にガス拡散電極形成用組成物を均一に塗布することである。ガス拡散電極形成用組成物を均一に塗布することにより、ガス拡散層220上に均一な厚みを有するガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜が形成される。ガス拡散電極形成用組成物の塗布量は、燃料電池の使用形態により適宜設定することができるが、ガス拡散電極を備えた燃料電池の電池性能の観点から、電極用触媒層240に含まれる白金等の活性金属の量として、0.1〜0.5(mg/cm
2)であることが好ましい。
【0112】
次に、ガス拡散電極形成用組成物がガス拡散層220上に塗布された後、このガス拡散層220に塗布されたガス拡散電極形成用組成物の塗布膜を乾燥させて、ガス拡散層220上に電極用触媒層240を形成させる。ガス拡散電極形成用組成物の塗布膜が形成されたガス拡散層220を加熱することにより、ガス拡散電極形成用組成物に含まれるイオノマー溶液中の水及びアルコールが気化し、ガス拡散電極形成用組成物から消失する。その結果、ガス拡散電極形成用組成物を塗布する工程において、ガス拡散層220上に存在しているガス拡散電極形成用組成物の塗布膜は、電極用触媒と高分子電解質を含む電極用触媒層240となる。
【0113】
<膜・電極接合体(MEA)>
本発明の製造方法によって製造された電極用触媒を含む膜・電極接合体400(Membrane Electrode Assembly:以下、MEAと略する。)は、上記電極用触媒1を用いたガス拡散電極200であるアノード200aとカソード200bとこれらの電極を仕切る電解質300を備えている。膜・電極接合体(MEA)400は、アノード200a、電解質300及びカソード200bをこの順序により積層した後、圧着することにより製造することができる。
【0114】
<燃料電池スタック>
本発明の製造方法によって製造された電極用触媒を含む燃料電池スタックSは、得られた膜・電極接合体(MEA)400のアノード200aの外側にセパレータ100a(アノード側)を取り付け、カソード200bの外側にそれぞれセパレータ100b(カソード側)を取り付け、一単位セル(単電池)とする。そして、この一単位セル(単電池)を集積させて燃料電池スタックSとする。なお、燃料電池スタックSに周辺機器を取り付け、組み立てることにより、燃料電池システムが完成する。
【実施例】
【0115】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、本発明者らは、実施例及び比較例に示す触媒について、蛍光X線(XRF)分析法ではヨウ素(I)種が検出されないことを確認した。
また、以下の製造方法の各工程の説明において特にことわりない場合には、その工程は室温、空気中で実施した。
【0116】
<電極用触媒前駆体の製造>
(製造例1)
本発明の電極用触媒の製造方法により、電極用触媒を以下のプロセスにより製造した。なお、製造例において、使用した電極用触媒の原料は、以下の通りである。
・カーボンブラック粉末:商品名「Ketjen Black EC300」(ケッチェンブラックインターナショナル社製)
・テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム
・硝酸パラジウム
・塩化白金酸カリウム
【0117】
[パラジウム担持カーボンの調製]
電極用触媒の担体として、カーボンブラック粉末を用い、水に分散させて、5.0g/Lの分散液を調製した。この分散液に、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム水溶液(濃度20質量%)5mLを滴下して混合した。得られた分散液に、ギ酸ナトリウム水溶液(100g/L)100mLを滴下した後、不溶成分を濾別し、濾別された不溶成分を純水で洗浄し、乾燥することにより、カーボンブラック上にパラジウムが担持されたパラジウム(コア)担持カーボンを得た。
【0118】
[パラジウム(コア)上への銅(Cu)の被覆]
50mMの硫酸銅水溶液を、三電極系電解セルに入れた。この三電極系電解セルに上記で調製したパラジウム担持カーボンを適量加え、攪拌後静置した。静止状態で450mV(対 可逆水素電極)を作用電極に印加し、パラジウム担持カーボンのパラジウム上に銅(Cu)を一様に被覆した。これを銅−パラジウム担持カーボンとする。
【0119】
[パラジウム(コア)上への白金(Pt)の被覆]
銅がパラジウム上に被覆された銅−パラジウム担持カーボンを含む液に、被覆された銅に対して、物質量比で2倍相当の白金(Pt)を含む塩化白金酸カリウム水溶液を滴下することにより、上記銅−パラジウム担持カーボンの銅(Cu)を白金(Pt)に置換した。
【0120】
[前処理]
工程(P1):上述のようにして得られた銅−パラジウム担持カーボンの銅(Cu)が白金(Pt)に置換された白金パラジウム担持カーボンの粒子の粉体を乾燥させずに超純水に分散させた第P1の液を調製した。
工程(P2):次に、第P1の液をろ過装置を使用し、超純水でろ過洗浄した。洗浄後に得られるろ液の電気伝導率が10μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体を超純水に分散させて、電極用触媒前駆体−超純水分散液(I)を得た。
工程(P3):次に、該分散液(I)をろ過し、得られたろ物を70℃、空気中で約24時間乾燥させた。これにより、製造例1で得られた電極用触媒前駆体1を得た。
【0121】
なお、後述するように、電極用触媒前駆体1について、XRF分析法により測定される臭素(Br)種の濃度は、表1に記載するように3000ppm以上であることが確認された。
これにより以下の実施例においては、原料の電極用触媒前駆体の第1の臭素(Br)種の濃度は3000ppmとなる。
【0122】
<電極用触媒の製造>
(実施例1)
[第1’の工程]
製造例1で得られた電極用触媒前駆体1を5.0g量りとり容器に入れた。次に、該容器に超純水1000(mL)を加え、この液を室温(25℃)に保ちながら、この液中に水素ガス(約100%)を約10mL/分の割合で、約60分間通気した。
[第5の工程]
水素ガスを通気した後の液をろ過し、得られたろ物を温度70℃、空気中で、約24時間の条件下で乾燥させ、電極用触媒を得た。実施例1で得られた電極用触媒を触媒1とした。
【0123】
[担持量の測定]
得られた触媒1について、白金と、パラジウムの担持量(質量%)を以下の方法で測定した。
触媒1を王水に浸し、金属を溶解させた。次に、王水から不溶成分のカーボンを除去した。次に、カーボンを除いた王水をICP分析した。
ICP分析の結果は、白金担持量が20.9質量%、パラジウム担持量が22.5質量%であった。
【0124】
(実施例2)
[第1の工程]
製造例1で得られた電極用触媒前駆体1を5.0g量りとり、容器に入れた。次に、当該容器に濃度0.01Mのギ酸ナトリウム水溶液を1000mL加え、得られた水性分散液を室温(25℃)に保ち、撹拌しながら約240分間保持した。
[第2〜4の工程]
第1の工程の後に得られる液に超純水を添加して分散液(第1の液)を得た。
次に、超純水を用いて、前記分散液に含まれる不溶成分を濾別し、そして洗浄した。洗浄後に得られるろ液の電気伝導率が10μS/cm以下になるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体を超純水に分散させて、電極用触媒前駆体−超純水分散液(第2の液、以下、「分散液(II)」という)を得た。該分散液(II)をろ過し、得られたろ物を温度70℃、空気中、24時間の条件下で乾燥し、電極用触媒を得た。実施例2で得られた電極用触媒を触媒2とした。
触媒2について、実施例1と同様のICP分析を行い、表1に示す白金担持量、パラジウム担持量を測定した。
【0125】
(実施例3)
実施例2において、第1の工程のギ酸ナトリウム水溶液を炭酸ナトリウム水溶液とした以外は実施例2と同様にして、電極用触媒を得た。実施例3で得られた電極用触媒を触媒3とした。
触媒3について、実施例1と同様のICP分析を行い、表1に示す白金担持量、パラジウム担持量を測定した。
【0126】
(実施例4)
実施例3において、第1の工程の保持温度を90℃とした以外は実施例3と同様にして、電極用触媒を得た。実施例4で得られた電極用触媒を触媒4とした。
触媒4について、実施例1と同様のICP分析を行い、表1に示す白金担持量、パラジウム担持量を測定した。
【0127】
(実施例5)
実施例2において、第1の工程の保持温度を室温から90℃とし、第1の工程〜第4の工程を行い、第1の工程〜第4の工程を1セットとして、所定回数繰り返した以外は実施例2と同様にして、電極用触媒を得た。実施例5で得られた電極用触媒を触媒5とした。
触媒5について、実施例1と同様のICP分析を行い、表1に示す白金担持量、パラジウム担持量を測定した。
【0128】
(比較例1)
製造例1で製造された電極用触媒前駆体1を比較例1の電極用触媒とした。
【0129】
<電極用触媒の評価>
(臭素(Br)種の濃度)
実施例1〜5、及び比較例1で得られた電極用触媒の臭素(Br)種の濃度を蛍光X線(XRF)分析法により測定した。電極用触媒中の臭素(Br)種濃度の測定は、波長分散型蛍光X線測定装置Axios(スペクトリス株式会社製)により測定した。具体的には、以下の手順により行った。
【0130】
電極用触媒の測定用試料を波長分散型蛍光X線測定装置に付属しているXRF試料容器に入れた。電極用触媒の測定用試料を入れたXRF試料容器をXRF試料室に入れ、XRF試料室内をヘリウムガスで置換する。その後、ヘリウムガス雰囲気(常圧)下、蛍光X線測定を行った。
【0131】
ソフトウエアには、波長分散型蛍光X線測定装置用解析ソフト「UniQuant5」を使用した。測定条件を、解析ソフト「UniQuant5」に合わせ、「UQ5アプリケーション」に設定し、電極用触媒の測定用試料の主成分が「カーボン(電極用触媒担体の構成元素)」、サンプルの分析結果の表示形式が「元素」となるよう計算するモードに設定した。測定結果を解析ソフト「UniQuant5」により解析して臭素(Br)種の濃度を算出した。測定結果を表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
表1によれば、本発明の電極用触媒の製造方法において、高濃度の臭素(Br)種を含有する電極用触媒前駆体を原料として採用した場合であっても、この電極用触媒前駆体に所定の臭素(Br)種除去法を適用することにより、電極用触媒前駆体の臭素(Br)種の濃度が3000ppm(第1の臭素(Br)種の濃度又は第2の臭素(Br)種の濃度が3000ppm)以上の場合であっても、臭素(Br)種を3000ppm以下、更には1400ppm以下、更には約0〜900ppmの水準にまで大きく低減させた電極用触媒を容易に製造できることが明らかとなった。
さらに、表1によれば、本発明の電極用触媒の製造方法により得られた電極用触媒は、電極用触媒前駆体に所定の臭素(Br)種除去法を適用しなかった電極用触媒に比較して、臭素(Br)種の含有量が十分に低減されており、臭素(Br)種による触媒活性の低下が十分に防止された電極用触媒を得ることができることが明らかとなった。
これらの結果は、本発明の電極用触媒の製造方法が量産化に適しており、製造コストの低減に適した製造方法であることを示している。
ここで、表1の実施例5について、臭素種の濃度が「0ppm」とは、蛍光X線(XRF)分析で臭素(Br)種が未検出と判定される水準の濃度を示す。なお、ここでの蛍光X線(XRF)分析における臭素(Br)種の検出限界は100ppmであった。