特開2017-41465(P2017-41465A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2017041465-誘導加熱装置 図000004
  • 特開2017041465-誘導加熱装置 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-41465(P2017-41465A)
(43)【公開日】2017年2月23日
(54)【発明の名称】誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20170203BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20170203BHJP
   H05B 6/36 20060101ALI20170203BHJP
   C23C 16/46 20060101ALI20170203BHJP
   C23C 16/507 20060101ALI20170203BHJP
   C30B 25/10 20060101ALI20170203BHJP
   H01L 21/324 20060101ALI20170203BHJP
   H01L 21/22 20060101ALI20170203BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20170203BHJP
【FI】
   H01L21/205
   H05B6/10 331
   H05B6/36 Z
   C23C16/46
   C23C16/507
   C30B25/10
   H01L21/324 Q
   H01L21/22 511G
   H01L21/68 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-160337(P2015-160337)
(22)【出願日】2015年8月17日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】中井 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】津田 正徳
(72)【発明者】
【氏名】米虫 悠
【テーマコード(参考)】
3K059
4G077
4K030
5F045
5F131
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB15
3K059AD05
3K059CD72
4G077AA03
4G077BE08
4G077DB01
4G077EA05
4G077EG03
4G077EG04
4G077EG13
4G077EG16
4G077EG25
4G077HA06
4G077HA12
4G077TA04
4G077TA06
4G077TA11
4G077TA12
4G077TD02
4G077TE02
4G077TE05
4G077TF01
4G077TF04
4G077TF05
4K030BA37
4K030CA12
4K030FA04
4K030GA02
4K030KA23
4K030KA46
5F045AB06
5F045AC01
5F045AC07
5F045AF02
5F045DP19
5F045EK03
5F045EM09
5F131AA02
5F131BA02
5F131BA04
5F131BA22
5F131BA24
5F131CA03
5F131CA06
5F131CA22
5F131CA32
5F131CA37
5F131DA43
5F131EA04
5F131EA17
5F131EB81
5F131EC02
5F131EC05
5F131EC08
5F131EC12
5F131EC15
5F131EC17
5F131EC18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】構造の複雑化を招来することなく、サセプタに載置しているウェハを均一に加熱することが可能な誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】ウェハWを載置可能なサセプタ2と、サセプタ2及びウェハWを収容可能な内部空間4Sを気密に保持する真空容器4と、真空容器4の外側に巻回されるコイル5とを備え、コイル5に高周波電流を印加することでサセプタ2を誘導加熱により加熱し、真空容器内4SにガスGを流すように構成した誘導加熱装置1において、面方向に異方性を有する黒鉛製のサセプタ2を適用し、サセプタ2の径をウェハWの径よりも所定寸法大きく設定した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上向き面にウェハを載置可能な円盤状のサセプタと、
前記サセプタ及び前記ウェハを収容する内部空間を気密状態に保持可能な真空容器と、
前記真空容器の外側に巻回されるコイルとを備え、
前記コイルに高周波電流を印加することで前記サセプタを誘導加熱により加熱可能な誘導加熱装置であり、
面方向に異方性を有する黒鉛製の前記サセプタの直径を前記ウェハの直径よりも所定寸法大きく設定し、前記サセプタの中心位置に前記ウェハの中心位置を合わせた状態で前記ウェハを前記サセプタに載置することを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記サセプタに前記ウェハの中心位置を合わせて載置した状態において、当該ウェハのエッジから当該サセプタのエッジまでの距離を、前記コイルにより前記サセプタに発生する磁束の浸透深さの1.5倍乃至2.0倍に設定している請求項1記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
複数の前記サセプタを多段状に支持可能なボートを前記真空容器内に配置している請求項1又は2に記載の誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハを真空容器内のサセプタに載置した状態で加熱する誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の単結晶を材料ウェハの上に形成する半導体製造装置として、近時では、気密状態に密閉可能な真空容器内にサセプタを配置し、コイルに高周波電流を印加することによってサセプタを加熱するように構成された誘導加熱装置が実用化されている。このような誘導加熱装置によれば、サセプタに載置されているウェハも加熱され、当該ウェハの表面上に厚み及び不純物濃度を精密に制御した薄膜を形成することが可能である。
【0003】
なお、前述の誘導加熱コイルに替えてヒータを加熱源とし、ヒータからの輻射熱を利用してサセプタを加熱する装置も知られている。しかしながら、このようなヒータを加熱源とする装置は、真空容器内全体を必要な処理温度にまで上げる昇温処理自体に時間が掛かり、工程短縮化を図ることが困難であった。さらにまた、ヒータを加熱源とする装置は、処理温度が最高で1200℃程度までに制限されるため、1800℃程度までの処理温度が必要な場合、例えば、優れた物理的・化学的性質を有することからシリコン(Si)半導体を凌駕する小型・低損失の半導体デバイスの実現が可能とされるデバイスとして注目されている炭化ケイ素(SiC)半導体を製造する場合には適用することができない。
【0004】
このような技術背景もあり、1800℃程度までの処理温度にも対応可能な上述の誘導加熱装置が実用化されている。
【0005】
ところで、誘導加熱装置による加熱処理中にウェーハの温度分布にずれが生じると、要求されている高度な加工処理(薄膜形成処理)を実施することができず、十分な品質を確保できないことになる。したがって、誘導加熱装置には、ウェーハの温度分布を均一にする加熱処理が必要とされている。
【0006】
そこで、例えば、下記特許文献1には、半導体の加熱を行う半導体製造装置として、リング状をなし、それぞれ直径の異なる複数のサセプタを同芯円上に分割配置し、サセプタの上部または下部に、各サセプタを誘導加熱する高周波加熱源としての誘導加熱コイルを分割配置した構成が開示されています。このような構成であれば、サセプタを複数に分割配置したことより、ウェハ加熱時の全体の温度制御は、サセプタの分割数に応じて精密に行うことが可能となり、ウェハの温度分布を均一にすることが可能であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−011868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1記載の誘導加熱装置は、1枚のウェハに対して複数のサセプタ及び複数の誘導加熱コイルをそれぞれ同心円状に配置することが必須であり、所定の同心円状に配置できなければ、所望の高精度な加熱処理を実施できなかったり、加熱処理の精度が低下するおそれがある。
【0009】
また、特許文献1では言及されていないものの、複数のサセプタ及び複数の誘導加熱コイルを同心円状に配置しなければならない構成を採用して、1つの真空容器内(引用文献1における反応室20内)に複数枚のウェハを多段状に配置し、各ウェハに対する加熱処理を実施可能な誘導加熱装置を想定した場合、ウェハの段数に応じて、それぞれ同心状に配置される複数のサセプタ及び複数の誘導加熱コイルの組み合わせ(セット)も複数必要になる。そして、処理可能なウェハの枚数を多く設定するほど、サセプタ及び誘導加熱コイルのセット数も増大し、構造の複雑化を招来するとともに、各セットを構成する誘導加熱コイル単位の加熱制御が煩雑になるおそれがあり、各ウェハの温度分布を均一にすることができない事態も考えられる。特に、ある高さ位置のウェハの温度分布を均一にすべく、当該ウェハが載置されているサセプタに対して、当該サセプタと同じセットを構成する誘導加熱コイルで誘導加熱した場合に、サセプタ及び当該サセプタに載置しているウェハが、他のセットを構成する誘導加熱コイルによっても誘導加熱される事態も考慮する必要があり、各セット単位で煩雑な制御が要求されることが予想される。
【0010】
一方、サセプタ毎に個別の誘導加熱コイルを配置する構成に替えて、真空容器の外側に誘導加熱コイルを周回させて配置した構成を採用した場合、サセプタ毎に個別の誘導加熱コイルで加熱する煩雑な制御は回避できる。しかしながら、このような構成であれば、同心円状に配置された複数のサセプタのうち、誘導加熱コイルに相対的に近い位置に配置されているサセプタ(外側のサセプタ、直径の大きいサセプタ)が優先的に加熱されることになり、載置しているウェハを均一に加熱することができず、ウェハに対する高精度の加熱処理を行うことが困難である。このような不具合は、加熱室内において加熱処理可能なウェハの枚数を1枚に設定した誘導加熱装置であっても同様に生じる。
【0011】
そもそも、複数のサセプタを同心円状に配置するという技術は、加熱室内に配置された円盤状のサセプタを、加熱室の外側に配置された誘導加熱コイルによって加熱する周知の構成であれば、誘導加熱の原理に基づき、円盤状をなすサセプタのうち誘導加熱コイルに近いエッジ部分のみが部分的に加熱されることにより、載置しているウェハを均一に加熱することができないという不具合に着目してなされたものであると推察できる。特に、近年のウェハの大型化に伴い、周知の円盤状のサセプタも単純に大型化した構成を採用すれば、上記不具合は顕著になる。しかしながら、複数のサセプタを同心円状に配置する構成であれば、上述の通り、部品点数の増加及び構造の複雑化を招来する点で不利である。
【0012】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、主たる目的は、構造の複雑化を招来することなく、サセプタに載置しているウェハを均一に加熱することが可能な誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち本発明の誘導加熱装置は、上向き面にウェハを載置可能な円盤状のサセプタと、サセプタ及びウェハを収容する内部空間を気密状態に保持可能な真空容器と、真空容器の外側に巻回されるコイルとを備え、コイルに高周波電流を印加することでサセプタを誘導加熱により加熱可能な誘導加熱装置に関するものである。そして、本発明に係る誘導加熱装置は、サセプタとして、面方向に異方性を有する黒鉛製のものを適用するとともに、サセプタの直径をウェハの直径よりも所定寸法大きく設定し、サセプタの中心位置にウェハの中心位置を合わせた状態でウェハをサセプタに載置することを特徴としている。
【0014】
このような誘導加熱装置であれば、面方向に異方性を有するカーボン(黒鉛材)、つまり、面方向の熱伝導率が厚さ方向の熱伝導率よりも高く、熱伝導率において異方性があって、異方性方向を熱伝導方向に略一致させたカーボンで形成したサセプタを適用していることによって、ウェハの直径よりも所定寸法大きく設定したサセプタのうち、外周部(エッジ近傍領域)を高周波を用いた誘導加熱処理によって加熱すると、面方向に熱伝導率及び電気伝導率が高いサセプタの特性に基づいて、中央部分を含むサセプタ全体を均一に加熱することができ、サセプタに載置したウェハ内の温度分布の均一化を図ることが可能である。したがって、本発明に係る誘導加熱装置によれば、加熱処理中におけるウェハ内の温度分布が不均一であることに起因する不具合、すなわち、ウェハに対する高精度の加熱処理を行うことが困難であり、製造される半導体に悪影響を及ぼす欠陥が発生する事態を防止・抑制することが可能である。また、本発明に係る誘導加熱装置は、誘導加熱以外の加熱方式を採用した構成と比較して、誘導加熱方式のメリットである所定の処理温度まで昇温させる処理の短時間化を図ることが可能であり、処理工程時間全体の短縮化にも貢献する。
【0015】
特に、本発明の誘導加熱装置は、円盤状をなすサセプタの直径をウェハの直径よりも所定寸法大きく設定し、サセプタの中心位置にウェハの中心位置を合わせた状態でウェハを前記サセプタに載置しているため、サセプタに対するウェハの載置領域が、サセプタのうち交流磁場が浸透するエッジ及びその近傍領域を避けた領域となり、ウェハに磁束が通って交流磁場による渦電流によってサセプタ上のウェハが影響を受けてしまう事態、すなわち、ウェハの損壊や不良品化が発生する事態を回避しつつ、サセプタ全体を均一に加熱することができる。また、本発明の誘導加熱装置では、1枚のウェハに対して円盤状のサセプタを1つ用意すれば十分であるため、例えば直径の異なるリング状のサセプタを複数用意し、これらリング状のサセプタを同心円状に配置する構成と比較して、構造の簡略化及び部品点数の削減を図ることができる。
【0016】
本発明に係る誘導加熱装置において、円盤状をなすサセプタの直径を、ウェハの直径よりも所定寸法大きく設定する際の好適な条件としては、サセプタにウェハの中心位置を合わせて載置した状態において、ウェハのエッジからサセプタのエッジまでの距離を、コイルによりサセプタに発生する磁束の浸透深さの1.5倍〜2.0倍に設定する条件を挙げることができる。このような条件を満たせば、交流磁場による渦電流によってサセプタ上のウェハが影響を受けない領域又は受け難い領域、また、交流磁場による渦電流が極小となる領域にウェハを載置することになり、ウェハにコイルから通る磁束を限りなくゼロに近付けることができ、渦電流によるウェハへの影響が出ない、または出にくい加熱処理時の環境を確保することが可能である。
【0017】
加えて、本発明の誘導加熱装置は、サセプタを1つだけ備え、当該サセプタに載置した1枚のウェハを加熱処理する装置であってもよいが、処理効率の向上という観点では、複数のサセプタを多段状に支持可能なボートを真空容器内に配置した構成を採用することも可能である。このようなバッチ処理可能な誘導加熱装置であっても、各サセプタに対応付けてコイルを配置する必要はないため、各サセプタに対応付けてコイルを配置する構成と比較して、熱容量も小さく、構造の簡略化及び部品点数の削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明では、熱伝導に対し面方向の異方性を有し、その異方性方向を熱伝導する方向に略一致させた円盤状のカーボンサセプタを適用し、サセプタの直径をウェハの直径よりも所定寸法大きく設定して、サセプタの中心位置にウェハの中心位置を合わせた状態でウェハをサセプタに載置する構成を採用したことによって、構造の複雑化を招来することなく、昇温時間の短縮化を実現することが可能であるとともに、サセプタに載置しているウェハを均一に加熱することが可能な誘導加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る誘導加熱装置の模式的な断面図。
図2】同実施形態におけるサセプタ及びウェハの相対位置関係を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態に係る誘導加熱装置1は、図1に示すように、ウェハWを載置可能なサセプタ2と、多段状に配置される複数のサセプタ2を支持するボート3と、サセプタ2及びボート3を内部空間4Sに収容可能な耐熱性に優れた真空容器4と、真空容器4の周囲に巻回されたコイル5とを備えたものである。
【0022】
真空容器4は、筒状の形態を有することからチューブとも称されるものであり、給気口41から真空容器内4Sに供給され上方に流れるガスG(キャリアガス、ケイ素原料ガス、炭素原料ガス等)を排気口42から排出可能に構成されている。本実施形態では、給気口41及び排気口42を真空容器4の下端部近傍に形成している。真空容器4は、内部空間4Sを、サセプタ2及びボート3を収容しているメイン空間4Saと、真空容器4の周壁に沿って高さ方向に延びるサブ空間4Sbとに区分けし、これらメイン空間4Sa及びサブ空間4Sbを真空容器4のうち中空の部分球状をなす天井壁近傍の内部空間43Sを介して相互に連通させている。本実施形態では、給気口41をメイン空間4Saに直通する位置に形成し、排気口42をサブ空間4Sbに直通する位置に形成している。したがって、給気口41からメイン空間4Saに供給されたガスGは、図1において矢印で示すように、サセプタ2及びウェハWが配置されるメイン空間4Saを通過した後に、サブ空間4Sbを通じて排気口42から排気される。すなわち、メイン空間4Saは、ガスGが供給されるガス供給対象空間として機能し、サブ空間4Sbは、排気口42を通じて真空引きされる排気経路として機能する。また、給気口41には、真空容器内4SへのガスGの供給量を調整して、サセプタ2及びウェハWが配置される空間(メイン空間、加熱室)を通過するガス流量を調整可能なガス供給制御弁(図示省略)を接続し、排気口42には真空容器内4Sの圧力を調整可能な圧力調整弁(図示省略)を接続し、これら各弁に接続した図示しない圧力調整装置により、各弁を制御して真空容器内4Sの圧力を所定値に調整するように構成している。真空容器4については、水冷2重構造のものを適用することも可能である。
【0023】
コイル5は、真空容器4の外壁から所定距離離れた位置において真空容器4を取り巻くように螺旋状に配置した誘導加熱コイルである。ソレノイド状に巻回された誘導加熱コイル5には、任意の周波数の交流電力を出力可能な図示しない電源装置(高周波電源)が接続され、電源装置から誘導加熱コイル5に対して交流電力を供給することで、誘導加熱コイル5の周囲に交番磁場を発生させ、この交番磁場を浸透対象物であるサセプタ2に浸透させて誘導加熱する。
【0024】
サセプタ2は、誘導加熱処理時の最高温度よりも融点が高い高融点金属材料である黒鉛から形成されたカーボンサセプタである。本実施形態では、所定厚みに設定された円盤状のサセプタ2を水平姿勢で配置している。そして、本実施形態に係る誘導加熱装置1では、面方向に大きな熱伝導率を有する異方性黒鉛シートによってサセプタ2を形成している。具体的には、例えば、面方向の熱伝導率が200W/m・K以上であるサセプタ2を適用している。また、本実施形態では、面方向の導電率が1000S/cm以上であるサセプタ2を適用している。なお、本実施形態では、厚み方向の熱伝導率が50W/m・K以下であり、厚み方向の導電率が50S/cm以下のサセプタ2を適用している。本実施形態のサセプタ2は、このような面方向に大きな熱伝導率を有する異方性黒鉛シートを複数枚重ねて形成されたものである。これにより、サセプタ2の面内をより一層均一に加熱することが可能である。なお、図1及び後述の図2では複数枚の黒鉛シートを積層状に形成したサセプタ2全体を示し、各黒鉛シートについては省略している。
【0025】
本実施形態で適用する円盤状のサセプタ2は、図2に示すように、その半径を、当該サセプタ2に載置する円盤状のウェハWの半径よりも所定寸法大きく設定している。具体的には、カーボンサセプタ2はウェハWよりも半径を図2に示す所定寸法L分だけ大きく設定している。本実施形態では、Lの値を、コイル5によりサセプタ2に発生する浸透深さ(以下、「浸透深さδ」とする)よりも大きな値(例えば浸透深さδの1.5倍から2.0倍)に設定している。ここで、浸透深さについて、表面からxの部分の導体(加熱体)内部を流れる電流と浸透深さの関係は、
Ix=Io exp(−x/δ)
但し、Ix:表面から深さxにおける電流、Io:導体の表面を流れる渦電流、δ:浸透深さ、であらわすことができる。したがって、浸透深さδのところに流れる電流は、1/e=0.37となり、表面を流れる電流の0.37倍に減衰した電流が流れることになる。この関係は、磁場でも同じ関係である。
また、周波数fと浸透深さδの関係は、以下の式1で表すことができる。
【0026】
【数1】
【0027】
本実施形態のサセプタ2は、上述のように、面方向の導電率が1000S/cm以上であり、抵抗率は1000μ.Ω・cmであるため、式1より、周波数が20KHzであれば、浸透深さδは1.12cmとなる。このことは、周波数が20KHzである場合に、サセプタ2の外縁2Eから中心2Sに向かって1.12cmまでの領域に多くの磁束が入り、その部分が誘導加熱されることを意味する。したがって、コイル5から発生する磁束は、サセプタ2のエッジ2Eから中心2Sに向かった所定領域であって且つ浸透深さδに相当する領域(図2における領域2A)に渦電流を発生させてジュール損によりサセプタ2を加熱する。以上より、サセプタ2のうち、加熱電力が入る(通る)のはエッジ2Eを含むエッジ近傍領域2Aであることが把握できる。
【0028】
そして、サセプタ2の半径をウェハWの半径よりも、浸透深さδ(電流の浸透深さδ)よりも大きな値(δの1.5倍から2倍)に設定することで、中心WSをサセプタ2の中心2Sに一致させた姿勢でサセプタ2に載置したウェハWに、コイル5からサセプタ2への磁束が極めて通りにくい状況を確保することができ、コイル5から発生する磁界の影響によってウェハWにダメージが与えられる不具合を防止することが可能である。一方で、面方向に大きな熱伝導率を持つ異方性黒鉛材を用いて構成したサセプタ2を適用していることで、ジュール損により加熱したサセプタ2のエッジ近傍領域2Aから当該サセプタ2の面方向中央部分に向けて(図2でサセプタ2の中央2Sに向かう矢印の方向に)熱が伝わり、サセプタ2全体を均熱化することができる。したがって、サセプタ2に載置したウェハW全体を均熱化することができ、ウェハW内の温度分布も均一にすることが可能である。
【0029】
本実施形態の誘導加熱装置1は、このような構成及び特性を有するサセプタ2を、その中心2Sを真空容器4の中心、より具体的には、真空容器4のメイン空間4Saの中心に一致させた状態でメイン空間4Saに配置している。
【0030】
ボート3は、多段状に配置される複数枚のサセプタ2を所定ピッチで支持するものである。このようなボート3によって、真空容器4のメイン空間4Saに、ウェハWを載置したサセプタ2を多段状に積み込むことができる。図1では模式的に10枚のサセプタ2を支持可能なボート3を例示しているが、数十枚以上のサセプタ2を支持可能なボートを適用することも可能である。なお、ボート3や真空容器4は、1800℃の処理温度に耐える耐熱性に優れた材質、例えばSiC等で構成することができる。また、処理温度が1200℃以下である場合には、石英を材質とするボートや真空容器を適用しても構わない。
【0031】
また、本実施形態の誘導加熱装置1では、誘導加熱コイル5で加熱されたサセプタ2から放出される熱が真空容器4の外部へ漏れないように遮断する機能を発揮し得る断熱材(図示省略)を適宜の箇所に配置することもできる。断熱材としては、導電性及び耐熱性を有し且つ発熱体であるサセプタ2よりも十分に大きい体積固有抵抗率を有する素材から形成されたものを挙げることができる。なお、断熱材とサセプタ2は適宜の手段によって電気的に絶縁状態に設定すればよい。
【0032】
また、図示しないが、本実施形態の誘導加熱装置1は、真空容器4の内部温度を計測する温度計や、温度計で計測した温度に基づいてコイル5の出力を制御する出力制御装置を備えたものである。
【0033】
以上の構成を有する本実施形態の誘導加熱装置1は、真空容器4の内部空間4Sを反応室として機能させ、反応室全体を加熱するホットウォール型のCVD(Chemical Vapor Deposition・化学気相成長)、エピタキシャル装置、アニール等の熱処理装置である。
【0034】
次に、このような構成をなす誘導加熱装置1の動作及び作用効果について説明する。
【0035】
本実施形態に係る誘導加熱装置1は、ウェハWを載置したサセプタ2をボート3によって多段状に支持している状態で、電源装置からコイル5に交流電力を供給することによって、コイル5の周囲に交番磁場が生成され、この交番磁場は、黒鉛からなるサセプタ2に浸透し、サセプタ2を誘導加熱する。この際、交流磁場は、サセプタ2のうち、外縁(エッジ2E)から浸透深さδに相当する距離分だけ中心2Sに寄った位置までの領域(図2の領域2A)に多く浸透して、この領域2Aに多くの電力が入りサセプタ2を加熱する一方で、サセプタ2のうち当該領域2A、つまり交流磁場が多く浸透する領域2AにはウェハWが載置されていないことにより、交流磁場がウェハWを通過して浸透する量を最小限にとどめる(限りなくゼロに近付ける)ことができる。
【0036】
そして、本実施形態では、面方向に異方性を有し、面方向の熱伝導率に優れ、また面方向には誘導加熱の実施に適した電気抵抗を持ったサセプタ2を適用しているため、サセプタ2のうち、交流磁場が多く浸透する領域であるエッジ2Eの近傍領域2Aが加熱されると、面方向に熱が伝わり、サセプタ2の中心2Sを含むサセプタ2全体を均一な加熱状態にすることが可能である。すなわち、サセプタ2のエッジ2Eには、コイル5による誘導加熱によって多くの電力が入り、浸透深さδの部分では、表面(サセプタ2のエッジ2E)の0.14倍の電力に減り(加熱電力はI^2×Rで表されるので浸透深さδ部分では電流の2乗となる)、浸透深さδよりも内側(中心側)に近づくほどに電力は弱まるが、面方向に異方性を有するサセプタ2を適用しているため、サセプタ2のうち、交流磁場が多く浸透する領域であるエッジ2Eの近傍領域2Aが加熱されると、面方向に熱が伝わり、サセプタ2の中心2Sを含むサセプタ2全体を均一な加熱状態にすることができる。
【0037】
以上の処理により、各サセプタ2はそれぞれ面方向において均一に加熱され、各サセプタ2に載置したウェハWをそれぞれ所定の目標温度(エピタキシャル成長温度、例えば1800℃)まで均一に加熱することができる。なお、所定の処理に到達した時点で、その温度を保持するようにコイル5の出力(電源装置からコイル5への交流電力供給量に応じたコイル5の出力)を制御し、高温の平衡状態を維持する。また、圧力調整装置により、真空容器内4Sの圧力値が所定の値となるように、ガス供給制御弁及び圧力調整弁を制御する。真空容器内4Sであって且つサセプタ2よりも真空容器4の周壁側に近い位置に断熱材を配置した構成であれば、コイル5の周囲に生成される交番磁場交番磁場は、断熱材を通ってサセプタ2に浸透することになる。
【0038】
本実施形態に係る誘導加熱装置1は、以上の処理を経て、高温(1800℃程度)の平衡状態を維持し、各サセプタ2に載置しているウェハWの表面に均一な膜厚の薄膜、本実施形態では単結晶SiC薄膜(SiCエピ膜とも称されるものであり、以下では、「SiC薄膜」と称す)を形成することができる。そして、給気口41から真空容器内4S(ガス供給対象空間、メイン空間4Sa)に供給する原料ガスGの供給量に比例してSiC薄膜の成長速度は増加することから、ガスGを効率良く加熱して十分なガスGの分解と供給を行うことでSiC薄膜の高速成長を得ることができる。つまり、本実施形態に係る誘導加熱装置1は、ウェハW上にSiC薄膜を形成するエピタキシャル成長を実現するCVDエピタキシャル装置として機能し、ウェハW上にエピタキシャル成長によってSiC薄膜を堆積させたエピタキシャルウェハWを生産することができる。
【0039】
本実施形態の誘導加熱装置1は、厚み及び不純物濃度を精密に制御したSiC薄膜をウェハW上に堆積させた高品質なエピタキシャルウェハを安定して供給することができ、SiC半導体デバイス実用化に多いに貢献する。
【0040】
このように、本実施形態に係る誘導加熱装置1は、これまでに着想されることのなかった技術的思想、すなわち、面方向に異方性を有するカーボン(黒鉛材)で形成したサセプタ2を適用するという技術的思想を採用したことによって、高周波を用いた誘導加熱処理によってサセプタ2の外周部(エッジ近傍領域2A)を加熱すると、面方向に熱伝導率及び電気伝導率が高いサセプタ2の特性に基づいて、中央部分を含むサセプタ2全体を均一に加熱することができ、サセプタ2に載置したウェハW内の温度分布の均一化を図ることが可能である。したがって、本実施形態に係る誘導加熱装置1によれば、温度分布の不均一に起因する不具合、すなわち、製造される半導体の抵抗率やキャリアの存続時間(長寿命化)等に悪影響を及ぼす欠陥の発生を防止・抑制することができる。また、本実施形態に係る誘導加熱装置1は、誘導加熱以外の加熱方式を採用した構成と比較して、誘導加熱方式のメリットである所定の処理温度まで昇温させる処理の短時間化を図ることが可能であり、処理工程時間全体の短縮化にも貢献する。
【0041】
特に、本実施形態の誘導加熱装置1は、サセプタ2の直径をウェハWの直径よりも所定寸法大きく設定し(具体的にはサセプタ2の直径をウェハWの直径よりも浸透深さδの1.5倍乃至2.0倍の寸法に設定し)、サセプタ2のうち、交流磁場が多く浸透する領域であるエッジ近傍領域2AにウェハWを載置する構成ではなく、交流磁場による渦電流によってサセプタ2上のウェハWが影響を受けない領域又は受け難い領域、また交流磁場による渦電流が極小となる領域にウェハWを載置する構成を採用しているため、ウェハWに多くの磁束を通す事態を回避して、渦電流によるウェハWへの影響が出ない、または出にくい状況下でサセプタ2全体を均一に加熱することができる。その結果、ウェハWの破壊や不良品化を回避することができる。
【0042】
加えて、本実施形態の誘導加熱装置1は、複数のサセプタ2を多段状に支持するボート3を真空容器内4Sに配置しているため、複数のウェハWに対する加工処理を同時に実施するバッチ処理が可能になり、処理効率を向上させることができる。加えて、バッチ処理可能な誘導加熱装置1でありながら、各サセプタに対応付けてコイルを個別に配置する構成を採用していないことによって、各サセプタに対応付けてコイルを個別に配置する構成と比較して、熱容量も小さく、構造の簡略化及び部品点数の削減を図ることができる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、化学的気相成長(CVD)によってウェハ上にエピタキシャル成長膜を作成する装置として機能する誘導加熱装置を例示したが、本発明の誘導加熱装置は、化学的気相成長(CVD)によってウェハ上に、エピタキシャル成長膜以外の有用な膜を作成する装置として機能させることもできる。
【0044】
また、誘導加熱装置は、加熱対象物であるウェハに対して化学反応を利用して適宜の処置を施すものであってもよいし、加熱対象物に対して焼結又は溶解を利用して適宜の処理を施すものであってもよい。
【0045】
また、サセプタは、面方向に異方性を有するものであればよく、面方向の熱伝導率や面方向の電気伝導率の値は特に制限されない。さらにまた、本発明では、サセプタにウェハの中心位置を合わせて載置した状態において、ウェハのエッジからサセプタのエッジまでの距離を、ウェハへの影響が出ない範囲であれば、コイルによりサセプタに発生する磁束の浸透深さの2.0倍よりも大きな値に設定したり、あるいは、コイルによりサセプタに発生する磁束の浸透深さの1.5倍よりも小さな値に設定することも可能である。
【0046】
上述の実施形態では、真空容器内に複数のサセプタを多段状に配置し、複数枚のウェハを同時に加熱処理可能な誘導加熱装置を例示したが、真空容器内に1つのサセプタを配置し、このサセプタに載置した1枚のウェハに対して加熱処理可能な誘導加熱装置であってもよい。
【0047】
また、加熱処理時に用いる高周波は、1KHz以上であることが好ましいが、特に制限されない。高周波の値によって電流の浸透深さδも変化するため、加熱状態においてサセプタのうちコイルからの交流磁場が浸透する領域を除く領域の上向き面にウェハを載置できるように、サセプタの直径を適宜の値に設定すればよい。
【0048】
サセプタが、シート状の黒鉛材を重ねて形成されたものではなく、単一のブロック状またはシート状の黒鉛材を用いて形成されたものであっても構わない。
【0049】
さらにはまた、サセプタが、面方向に異方性を有する黒鉛材の表面をSiCコーティングしたものであってもよい。この場合、黒鉛材とウェハとが直接接触する事態を回避し、ウェハへの汚染、無用なパーティクルの発生を抑制することができるとともに、プロセスガスとの意図しない反応を低減することが期待できる。
【0050】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…誘導加熱装置
2…サセプタ
3…ボート
4…真空容器
5…コイル
W…ウェハ
図1
図2