特開2017-42810(P2017-42810A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-42810コイルばねの製造方法及びコイルばねの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-42810(P2017-42810A)
(43)【公開日】2017年3月2日
(54)【発明の名称】コイルばねの製造方法及びコイルばねの製造装置
(51)【国際特許分類】
   B21F 35/00 20060101AFI20170210BHJP
【FI】
   B21F35/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-169300(P2015-169300)
(22)【出願日】2015年8月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000210986
【氏名又は名称】中央発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠記
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼山 年雄
(72)【発明者】
【氏名】大倉 伸介
【テーマコード(参考)】
4E070
【Fターム(参考)】
4E070AB09
4E070EA05
(57)【要約】
【課題】 コイル部の中心軸線が湾曲したコイルばねの製造において、平坦度が悪化することを抑制する。
【解決手段】 コイル部1Bの中心軸線Loと平行な方向を軸線方向とし、コイル部1Bの内周方向と平行な方向を円周方向としたとき、コイル部1Bの径方向に対して傾斜した傾斜面を有する楔体を径方向からコイル部1Bに複数回打ち込む工程において、楔体11が打ち込まれた後に、その打ち込まれた位置に対して軸線方向及び円周方向にずらしながら楔体を順次打ち込んでいく。これにより、楔体の打ち込みによって発生したコイル部1Bの捻れを相殺するような捻れが発生する。したがって、コイルばね全体が大きく捻れてしまうことを抑制できるので、平坦度が悪化することを抑制でき得る。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材が螺旋状に巻かれたコイル部の中心軸線が湾曲したコイルばねの製造方法であって、
湾曲成形される前の前記中心軸線と平行な方向を軸線方向とし、前記コイル部の内周方向と平行な方向を円周方向としたとき、
前記コイル部の径方向に対して傾斜した傾斜面を有する楔体を前記径方向から前記コイル部に複数回打ち込む工程において、
前記楔体が打ち込まれた後に、その打ち込まれた位置に対して前記軸線方向及び前記円周方向にずれた位置に前記楔体が打ち込まれることを特徴とするコイルばねの製造方法。
【請求項2】
前記中心軸線が上下方向に一致し、かつ、前記コイル部の線材が向かって右上から左下に延びるように傾斜している状態を「Z巻の向き」としたとき、
前記コイル部が「Z巻の向き」に螺旋状であるとき、前記楔体が打ち込まれる位置は、「Z巻の向き」にずれていくことを特徴とする請求項1に記載のコイルばねの製造方法。
【請求項3】
前記中心軸線が上下方向に一致し、かつ、前記コイル部の線材が向かって左上から右下に延びるように傾斜している状態を「S巻の向き」としたとき、
前記コイル部が「S巻の向き」に螺旋状であるとき、前記楔体が打ち込まれる位置は、「S巻の向き」にずれていくことを特徴とする請求項1に記載のコイルばねの製造方法。
【請求項4】
線材が螺旋状に巻かれたコイル部の中心軸線が湾曲したコイルばねの製造装置であって、
湾曲成形される前の前記中心軸線と平行な方向を軸線方向とし、前記コイル部の内周方向と平行な方向を円周方向としたとき、
前記コイル部の径方向に対して傾斜した傾斜面を有する楔体を前記径方向から前記コイル部に複数回打ち込む打ち込み機構を備え、
前記打ち込み機構は、前記楔体を打ち込んだ後に、その打ち込んだ位置に対して前記軸線方向及び前記円周方向にずれた位置に前記楔体を打ち込むことを特徴とするコイルばねの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、螺旋状のコイル部の中心軸線が湾曲したコイルばねの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載のコイルばねの製造方法では、楔状の拡開ツールを径方向からコイル部に複数回打ち込む工程(以下、打込工程という。)を有する。
打込工程においては、拡開ツールの打ち込み位置は、打ち込まれる度に、コイル部に対して中心軸線に沿ってずれていく。つまり、特許文献1に記載のコイルばねの製造方法では、拡開ツールは、コイル部に対して中心軸線に沿ってずれながらコイル部に打ち込まれていく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−226450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、拡開ツールがコイル部に対して中心軸線に沿ってずれながらコイル部に打ち込まれていくと、打込工程が終了したときに、コイルばね全体(中心軸線)が螺旋状に湾曲してしまい、コイルばねの平坦度が悪化する可能性が極めて高い。
【0005】
コイルばねの平坦度とは、当該コイルばねが定盤等の平面に載置された場合において、当該ばねと当該平面との隙間をいう。仮に、中心軸線の曲率中心が同一平面に存在すれば、上記の隙間は極めて小さい値又は0となる。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、コイル部の中心軸線が湾曲したコイルばねの製造において、平坦度が悪化することを抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願では、線材(1A)が螺旋状に巻かれたコイル部(1B)の中心軸線(Lo)が湾曲したコイルばねの製造方法であって、湾曲成形される前の中心軸線(Lo)と平行な方向を軸線方向(L1)とし、コイル部(1B)の内周方向と平行な方向を円周方向としたとき、コイル部(1B)の径方向に対して傾斜した傾斜面(11A)を有する楔体(11)を径方向からコイル部(1B)に複数回打ち込む工程において、楔体(11)が打ち込まれた後に、その打ち込まれた位置に対して軸線方向(L1)及び円周方向(L2)にずれた位置に楔体(11)が打ち込まれる。
【0008】
すなわち、コイル部(1B)の線材(1A)は中心軸線(Lo)に対して傾いているので、楔体(11)がコイル部(1B)に打ち込まれると、コイル部(1B)が捻れるように塑性変形する。
【0009】
このため、仮に、楔体(11)がコイル部(1B)に対して中心軸線に沿って打ち込まれていくと、楔体(11)が打ち込まれる度に、捻れが積算されていくので、コイルばね全体が大きく捻れてしまう。
【0010】
これに対して、本願発明では、楔体(11)が打ち込まれた後に、その打ち込まれた位置に対して軸線方向(L1)及び円周方向(L2)にずれた位置に楔体(11)が打ち込まれる。
【0011】
このため、前回の打ち込みによって発生したコイル部(1B)の捻れを相殺するような捻れを発生させることが可能となる。したがって、コイルばね全体が大きく捻れてしまうことを抑制できるので、平坦度が悪化することを抑制でき得る。
【0012】
因みに、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本発明は上記各括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】Aはアークスプリング1を示す図である。BはZ巻の向きを示す図である。CはS巻の向きを示す図である。
図2】Aはコイルばねの製造装置を示す正面図である。Bは図2Aの左側面図である。
図3】A及びBは打ち込み位置を示す図である。
図4】コイルばねの平坦度と送り角度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に説明する「発明の実施形態」は実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的構成や構造等に限定されるものではない。
【0015】
本実施形態は、自動車用のコイルばねの製造に本発明を適用したものである。各図に付された方向を示す矢印等は、各図相互の関係を理解し易くするために記載したものである。本発明は、各図に付された方向に限定されるものではない。
【0016】
少なくとも符号を付して説明した部材又は部位は、「複数」や「2つ以上」等の断りをした場合を除き、少なくとも1つ設けられている。以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
【0017】
(第1実施形態)
1.アークスプリング
図1Aは、本実施形態に係るコイルばねの製造方法により製造されるばね(以下、アークスプリング1という。)を示す。アークスプリング1は、線材1Aが螺旋状に巻かれたコイル部1Bの中心軸線Loが湾曲したコイルばねをいう。
【0018】
中心軸線Loとは、コイル部1Bの長手方向と直交する断面の図心を連ねた仮想線である。断面の図心とは、当該断面の面積モーメントが釣り合う点をいう。例えば、断面形状が円の場合には、断面の図心は、当該円形断面の中心と一致する。
【0019】
本実施形態に係るコイルばねの製造方法では、「湾曲成形される前の中心軸線Loが直線状のコイルばね(図1B及び図1C参照)」の線材1Aを塑性変形させることにより、中心軸線Loが円弧状に湾曲したアークスプリング1を製造する。
【0020】
2.「巻の向き」の定義
線材1Aが図1Bに示す向きに螺旋状となっている場合を「Z巻の向き」という。具体的には、中心軸線Loが上下方向に一致し、かつ、線材1Aが向かって右上から左下に延びるように傾斜している状態を「Z巻の向き」という。
【0021】
線材1Aが図1Cに示す向きに螺旋状となっている場合を「S巻の向き」という。具体的には、中心軸線Loが上下方向に一致し、かつ、線材1Aが向かって左上から右下に延びるように傾斜している状態を「S巻の向き」という。
【0022】
3.製造方法及び製造装置
図2A及び図2Bは、本実施形態に係るコイルばねの製造装置10の模式図である。当該コイルばねの製造装置10は、本実施形態に係るコイルばねの製造方法を用いた製造装置である。
【0023】
楔体11は、コイル部1Bの径方向に対して傾斜した傾斜面11Aを少なくとも1つ有する拡開ツールである。本実施形態に係る楔体11は、60度のテーパ角を有する円錐状である。楔体11は、油圧又は空気圧を利用した打ち込み機構12にて径方向からコイル部1Bに複数回打ち込まれる。以下、当該作動を打ち込み工程という。
【0024】
打ち込み工程では、コイル部1Bに楔体11が打ち込まれた後、その打ち込まれた位置に対して軸線方向L1及び円周方向L2にずれた位置に楔体11が打ち込まれる。軸線方向L1とは中心軸線Loと平行な方向である(図2A参照)。円周方向L2とはコイル部1Bの内周方向と平行な方向をいう(図2B参照)。
【0025】
すなわち、コイル部1Bが「Z巻の向き」に螺旋状であるとき、楔体11が打ち込まれる位置は、「Z巻の向き」にずれていく。つまり、コイル部1Bが「Z巻の向き」に螺旋状であるとき、楔体11が打ち込まれる位置を連ねた仮想線は、図3Aの一点鎖線L3に示すようになる。
【0026】
コイル部1Bが「S巻の向き」に螺旋状であるとき、楔体11が打ち込まれる位置は、「S巻の向き」にずれていく。つまり、コイル部1Bが「S巻の向き」に螺旋状であるとき、楔体11が打ち込まれる位置を連ねた仮想線は、図3Bの一点鎖線L4に示すようになる。
【0027】
図2Aに示す移動機構13は、コイル部1Bを円周方向L2に回転させながらコイル部1Bを軸線方向L1に移動させる機構であって、打ち込み機構12と連動してコイル部1Bを移動させる。
【0028】
つまり、楔体11は、実線の位置から二点鎖線の位置に移動し、その後、実線の位置に復帰することにより1回の打ち込み作動が終了する。当該打ち込み作動が終了すると、移動機構13は、コイル部1Bを予め設定された距離(以下、送り量という。)だけ軸線方向L1に移動させるとともに、予め設定された角度(以下、送り角度という。)だけコイル部1Bを円周方向L2に回転させる。
【0029】
移動機構13によるコイル部1Bの移動作動が終了すると、再び、楔体11の打ち込み作業が実行される。このように、楔体11の打ち込み作業とコイル部1Bの移動作動とが交互に実行されることにより、楔体11が打ち込まれる位置が、漸次、軸線方向L1及び円周方向L2にずれていく(図3A及び図3B参照)。
【0030】
なお、本実施形態では、線材1Aが螺旋状に巻かれてコイル部1Bが成形された時点で熱処理が実行され、その後、打ち込み工程が完了した時点で再び熱処理が実行される。これにより、塑性変形により線材1Aに生じた内部応力が除去される。
【0031】
4.本実施形態に係るコイルばねの製造方法及び製造装置の特徴
コイル部1Bの線材1Aは中心軸線Loに対して傾いているので、楔体11がコイル部1Bに打ち込まれると、コイル部1Bが捻れるように塑性変形する。このため、仮に、楔体11がコイル部1Bに対して中心軸線に沿って打ち込まれていくと、楔体11が打ち込まれる度に、捻れが積算されていくので、アークスプリング1全体が大きく捻れてしまう。
【0032】
これに対して、本実施形態では、「楔体11が打ち込まれた後に、その打ち込まれた位置に対して軸線方向L1及び円周方向L2にずれた位置に楔体11が打ち込まれる」ので、前回の打ち込みによって発生したコイル部1Bの捻れを相殺するような捻れが発生する。したがって、アークスプリング1全体が大きく捻れてしまうことを抑制できるので、平坦度が悪化することを抑制でき得る。
【0033】
なお、図4は、送り量をコイル部1Bのピッチ寸法とし、コイル部1Bの巻数を50とし、線材1Aの線径を3.7mmとし、内径寸法を18.4mmとし、線材1AをSWOSC−VHとし、かつ、打ち込み工程を実行する前のコイル部1Bの自然長を約300mmとした場合において、アークスプリング1の平坦度と送り角度との関係を示す試験結果である。
【0034】
この試験結果からも明らかなように、送り角度を適切な角度(本実施形態では、約0.6度)とすることにより、アークスプリング1の平坦度が大きく悪化することを確実に抑制できる。
【0035】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、楔体11の打ち込み回数はコイル部1Bの巻数と一致するが、本発明はこれに限定されるものではなく、楔体11の打ち込み回数は少なくとも2回であれば十分である。
【0036】
例えば、打ち込み回数がn回であるとき、少なくともk(=1〜n−1)回目の打ち込み位置とk+1回目の打ち込み位置との間で軸線方向L1及び円周方向L2のずれがあればよい。さらに、k回目の打ち込み位置とk+1回目の打ち込み位置との差は不問である。つまり、1ピッチ毎に打ち込む場合や2ピッチ毎に打ち込む場合等であってもよい。
【0037】
上述の実施形態では、線材1Aが螺旋状に巻かれてコイル部1Bが成形された時点で熱処理が実行され、その後、打ち込み工程が完了した時点で再び熱処理が実行されたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
上述の実施形態では、60度のテーパ角を有する円錐にて楔体11が構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではない。
上述の実施形態では、楔体11の先端がコイル部1Bの中心に到達するまで打ち込まれたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
上述の実施形態に係るコイル部1Bは円形であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば楕円形であってもよい。
上述の実施形態では、自動車用コイルばねの製造に本発明を適用したが、本発明の適用はこれに限定されるものではなく、その他のコイルばねの製造にも適用できる。
【0040】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0041】
1… アークスプリング
1A… 線材
1B… コイル部
10… コイルばねの製造装置
11… 楔体
12… 打ち込み機構
13… 移動機構
図1
図2
図3
図4