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特開2017-43353船舶の操舵システム及び船舶の操舵方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-43353(P2017-43353A)
(43)【公開日】2017年3月2日
(54)【発明の名称】船舶の操舵システム及び船舶の操舵方法
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/04 20060101AFI20170210BHJP
【FI】
   B63H25/04 H
   B63H25/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-165842(P2016-165842)
(22)【出願日】2016年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-167990(P2015-167990)
(32)【優先日】2015年8月27日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】山口 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】山元 康博
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プロペラ翼を水面から露出させた状態で操舵される船舶が旋回したときに、プロペラ軸と軸受の損傷の発生を防止することができる船舶の操舵システムを提供する。
【解決手段】アラーム信号発生部15は、露出状態検出部11でプロペラ4のプロペラ翼が水面から予め定めた量より多く露出している状態を検出しており且つ、旋回方向検出部13で、船舶の旋回方向がプロペラの回転方向と同じ方向であることを検出しているときに、露出状態検出部11で検出しているプロペラ翼の露出量と、回転速度検出部12で検出している回転速度及び舵角検出部で検出している舵角が、プロペラ軸1を下方に押すプロペラフォースによって軸受及びプロペラ軸1が損傷する条件に達する前にアラーム信号を発生する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
すべり軸受によって支持されたプロペラ軸に取り付けられたプロペラを船尾に有する船舶の操舵システムであって、
前記プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出部と、
前記プロペラの回転速度を検出する回転速度検出部と、
前記船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出部と、
前記船舶の舵角を検出する舵角検出部と、
前記露出状態検出部で前記プロペラが前記水面から予め定めた量より多く露出している状態を検出しており且つ、前記旋回方向検出部で、前記船舶の旋回方向が前記プロペラの回転方向と同じ方向であることを検出しているときに、前記露出状態検出部で検出している前記プロペラ翼の露出量と、前記回転速度検出部で検出している前記回転速度及び前記舵角検出部で検出している前記舵角が、前記プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによって前記すべり軸受及び前記プロペラ軸が損傷する条件に達する前にアラーム信号を発生するアラーム信号発生部とを備えている船舶の操舵システム。
【請求項2】
前記アラーム信号発生部は、前記プロペラ翼の露出量が半分以上になり、前記回転速度が全速回転速度の84%以上になり、且つ前記舵角が20°以上になるという操舵条件が成立すると前記アラーム信号を発生することを特徴とする請求項1に記載の船舶の操舵システム。
【請求項3】
前記アラーム信号が出力されると、音響及び画像の少なくとも一方によりアラームを発生するアラーム発生部をさらに備えている請求項1に記載の船舶の操舵システム。
【請求項4】
前記アラーム信号が出力されると、前記操舵条件が満たされない範囲まで、前記回転速度及び前記舵角を自動的に変更する操舵自動変更部をさらに備えている請求項1に記載の船舶の操舵システム。
【請求項5】
前記露出状態検出部は、ドラフトゲージの出力に基づいて前記露出している状態を検出する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の船舶の操舵システム。
【請求項6】
すべり軸受によって支持されたプロペラ軸に取り付けられたプロペラを船尾に有する船舶の操舵システムであって、
前記プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出部と、
前記プロペラの回転速度を検出する回転速度検出部と、
前記船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出部と、
前記船舶の舵角を検出する舵角検出部と、
前記船舶の旋回方向が前記プロペラの回転方向と同じ方向であるときにおいて、前記プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによって前記すべり軸受及び前記プロペラ軸が損傷する条件を、前記プロペラが前記水面から露出している露出量と、前記プロペラの前記回転速度と、前記舵角との関係として予め定めた複数の判定テーブルを記憶した判定テーブル記憶部と、
前記露出状態検出部が検出した前記プロペラの露出量と、前記旋回方向検出部で検出した前記船舶の旋回方向と、前記回転速度検出部で検出している前記回転速度及び前記舵角検出部で検出している前記舵角を入力として、前記判定テーブル記憶部から適切な判定テーブルを選択し、選択した前記判定テーブルに基づいて、船舶を継続して運航可能か、注意して運航可能かまたは運航停止かを判定する運航状態判定部とを備えている船舶の操舵システム。
【請求項7】
前記運航状態判定部は、前記注意して運航可能と判定するとアラーム信号を発生し、前記運航停止を判定すると運航停止信号を発生することを特徴とする請求項6に記載の船舶操舵システム。
【請求項8】
前記アラーム信号が出力されると、前記操舵条件が満たされない範囲まで、前記回転速度及び前記舵角を自動的に変更し、前記運航停止信号が出力されると前記船舶の運航を自動的に停止する操舵自動変更部をさらに備えている請求項7に記載の船舶の操舵システム。
【請求項9】
前記露出状態検出部は、ドラフトゲージの出力に基づいて前記露出している状態を検出する請求項6乃至8のいずれか1項に記載の船舶の操舵システム。
【請求項10】
すべり軸受によって支持されたプロペラ軸に取り付けられたプロペラを船尾に有する船舶の操舵方法であって、
前記プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出ステップと、
前記プロペラの回転速度を検出する回転速度検出ステップと、
前記船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出ステップと、
前記船舶の舵角を検出する舵角検出ステップと、
前記露出状態検出ステップで前記プロペラ翼が前記水面から露出している露出量を検出しており且つ、前記旋回方向検出ステップで、前記船舶の旋回方向が前記プロペラの回転方向と同じ方向であることを検出しているときに、前記露出状態検出ステップで検出している前記プロペラ翼の露出量と、前記回転速度検出ステップで検出している前記回転速度及び前記舵角検出ステップで検出している前記舵角が、前記プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによって前記軸受及び前記が損傷する条件に達する前にアラーム信号を発生するアラーム信号発生ステップと、
前記アラーム信号が消えるように前記船舶を操舵する操舵ステップとからなることを特徴とする船舶の操舵方法。
【請求項11】
前記アラーム信号発生ステップは、前記プロペラ翼の露出量が半分以上になり、前記回転速度が全速回転速度の84%以上になり、且つ前記舵角が20°以上になるという操舵条件が成立すると前記アラーム信号を発生することを特徴とする請求項10に記載の船舶の操舵方法。
【請求項12】
前記アラーム信号が発生されると、音響及び画像の少なくとも一方によりアラームを発生するアラーム発生ステップをさらに備えている請求項10に記載の船舶の操舵方法。
【請求項13】
前記操舵ステップでは、前記アラーム信号が発生されると、前記アラーム信号が消える範囲まで、前記回転速度及び前記舵角を自動的に変更する請求項10に記載の船舶の操舵方法。
【請求項14】
前記露出状態検出ステップでは、ドラフトゲージの出力に基づいて前記露出している状態を検出する請求項10に記載の船舶の操舵方法。
【請求項15】
すべり軸受によって支持されたプロペラ軸に取り付けられたプロペラを船尾に有する船舶の操舵方法であって、
前記プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出ステップと、
前記プロペラの回転速度を検出する回転速度検出ステップと、
前記船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出ステップと、
前記船舶の舵角を検出する舵角検出ステップと、
前記船舶の旋回方向が前記プロペラの回転方向と同じ方向であるときにおいて、前記プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによって前記すべり軸受及び前記プロペラ軸が損傷する条件を、前記プロペラが前記水面から露出している露出量と、前記プロペラの前記回転速度と、前記舵角との関係として予め定めた複数の判定テーブルを記憶した判定テーブル記憶部を準備するステップと、
前記露出状態検出ステップで検出した前記プロペラの露出量と、前記旋回方向検出ステップで検出した前記船舶の旋回方向と、前記回転速度検出ステップで検出している前記回転速度及び前記舵角検出ステップで検出している前記舵角を入力として、前記判定テーブル記憶部から適切な判定テーブルを選択し、選択した前記判定テーブルに基づいて、船舶を継続して運航可能か、注意して運航可能かまたは運航停止かを判定する運航状態判定ステップとを備えている船舶の操舵方法。
【請求項16】
前記運航状態判定ステップでは、前記注意して運航可能と判定するとアラーム信号を発生し、前記運航停止を判定すると運航停止信号を発生することを特徴とする請求項15に記載の船舶の操舵方法。
【請求項17】
前記アラーム信号が出力されると、前記操舵条件が満たされない範囲まで、前記回転速度及び前記舵角を自動的に変更し、前記運航停止信号が出力されると前記船舶の運航を自動的に停止する操舵自動変更ステップをさらに備えている請求項16に記載の船舶の操舵方法。
【請求項18】
前記露出状態検出ステップでは、ドラフトゲージの出力に基づいて前記露出している状態を検出する請求項15乃至17のいずれか1項に記載の船舶の操舵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受によって支持されたプロペラ軸に取り付けられたプロペラを船尾に有する船舶の操舵システム及び操舵方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許第4577822号(特許文献1)等に示されるように、従来、各種の船尾管軸受用軸封装置が提案されている。軸受によって支持されたプロペラ軸に取り付けられたプロペラを船尾に有する船舶で水深の浅い水域を航行することがしばしばある。従来は、船底が海底や川底につかないように注意して操舵をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4577822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら中国の揚子江等のように水深は浅いものの川幅が広い河川では、多数の船舶が航行している。最近、このような状況で運航されている船舶で、プロペラ翼を水面から露出した状態で船舶を操舵しなければならないときに、プロペラ軸と軸受に損傷が発生する事例が発生している。この損傷の発生は、プロペラ翼を水面から露出した状態および旋回時において、プロペラ軸に対して旋回方向下側に曲げる方向のプロペラフォースと呼ばれる力がプロペラに作用することが原因であることは判っている。しかしながら実際にどのような条件で、旋回時に損傷が発生するのかは判っていない。これはプロペラフォースについての研究例が少ないためである。なお船舶が直進しているときにも、プロペラ軸と軸受に損傷が発生する事例があることも知られている。
【0005】
本発明の目的は、プロペラ翼を水面から露出させた状態で操舵される船舶が旋回したときに、プロペラ軸と軸受の損傷の発生を防止することができる船舶の操舵システム及び船舶の操舵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、プロペラ翼を水面から露出した状態で船舶を操舵しているときに、プロペラ軸と軸受に損傷が発生する原因としてプロペラフォースに基づくすべり軸受の油膜の膜厚の変化を研究した。プロペラ軸が回転しているときにプロペラ軸と軸受との間に形成される潤滑油の膜厚が、船舶の操舵状況により、小さくなるであろうことが推測されている。発明者は、この現象の発生がプロペラ軸とすべり軸受に損傷を生じさせる原因の一つになっているとの前提で、研究を行った。そこで発明者は、水深との関係で種々試験したが、水深との関係だけで、損傷が発生するものではないことが判ってきた。そしてさらに原因を見い出すためにその他の要因について研究したところ、プロペラ翼の水面からの露出状態と、プロペラ軸の回転速度、旋回方向、旋回角度に原因があることを見いだした。この知見は、具体的には、プロペラの回転速度が所定以上あり、プロペラの回転方向と、旋回方向とが一致しており、しかも旋回角度が所定の値より大きくなると、プロペラ軸とすべり軸受との間のギャップ(油膜厚さ)が部分的に無くなってプロペラ軸とすべり軸受とが直接接触することにより、プロペラ軸と軸受に損傷が発生するというものである。本発明の船舶の操舵システム及び操舵方法は、この知見に基づくものである。
【0007】
そこで本出願の第1の発明の船舶の操舵システムでは、プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出部と、プロペラの回転速度を検出する回転速度検出部と、船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出部と、船舶の舵角を検出する舵角検出部と、アラーム信号発生部とを備えている。アラーム信号発生部は、露出状態検出部でプロペラ翼が水面から予め定めた量より多く露出している状態を検出しており且つ、旋回方向検出部で、船舶の旋回方向がプロペラの回転方向と同じ方向であることを検出しているときに、露出状態検出部で検出しているプロペラ翼の露出量と、回転速度検出部で検出している回転速度及び舵角検出部で検出している舵角が、プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによって軸受及びプロペラ軸を損傷する条件に達する前にアラーム信号を発生する。航行中の船舶の旋回角度を測ることは事実上できないため、本発明では、所定の旋回角度を得るために変更される舵角を検出することにより旋回角度の状況を検出する。舵角がある角度であることは、ある程度時間が経過すると旋回角度は舵角に対応する角度になる。そのため舵角を見ることによって、危険な状態になる前に対策を取ることができる。すなわち本発明によれば、損傷が発生する条件が揃う前にアラーム信号が発生されるため、損傷が発生する前に対処が可能になり、損傷の発生を有効に防止できる。
【0008】
具体的には、船舶がばら積み船の場合、アラーム信号発生部は、プロペラ翼の露出量が半分以上になり、回転速度が全速回転速度の84%以上になり、舵角が20°以上になるという操舵条件が成立するとアラーム信号を発生する。この操舵条件を監視するだけで、簡単且つ正確にアラーム信号を発生することができる。
【0009】
またアラーム信号が出力されると、音響及び画像の少なくとも一方によりアラームを発生するアラーム発生部をさらに備えているのが好ましい。音響及び画像の少なくとも一方によりアラームを発生すれば、このアラームにより、操舵者が操舵を変更することが可能になる。したがって既存の船舶においても、プロペラ軸と軸受に損傷が発生することを防止することができる。
【0010】
さらにアラーム信号が出力されると、操作条件を満たさない範囲まで、回転速度及び舵角を自動的に変更する操舵自動変更部をさらに備えていてもよい。このような操舵自動変更部を備えていれば、操舵者が必要な操作をしない場合でも、自動的に損傷の発生を防止できる。
【0011】
なお露出状態検出部が、プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する手法は任意であるが、例えば、露出状態検出部を、ドラフトゲージの出力に基づいてプロペラ翼が露出している状態を検出する構造とすることができる。このような構造にすると、プロペラ翼の露出状態を正確に検出することができる。
【0012】
本出願の第2の発明の船舶の操舵システムでは、プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出部と、プロペラの回転速度を検出する回転速度検出部と、船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出部と、船舶の舵角を検出する舵角検出部と、判定テーブル記憶部と、運航状態判定部とを備えている。判定テーブル記憶部は、船舶の旋回方向がプロペラの回転方向と同じ方向であるときにおいて、プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによって、すべり軸受及びプロペラ軸が損傷する条件を、プロペラが水面から露出している露出量と、プロペラの回転速度と、舵角との関係として予め定めた複数の判定テーブルを記憶している。そして運航状態判定部は、露出状態検出部が検出したプロペラの露出量と、旋回方向検出部で検出した船舶の旋回方向と、回転速度検出部で検出している回転速度及び舵角検出部で検出している舵角を入力として、判定テーブル記憶部から適切な判定テーブルを選択し、選択した判定テーブルに基づいて、より細かい条件の下で、船舶を継続して運航可能か、注意して運航可能かまたは運航停止かを判定する。
【0013】
本発明のように複数の判定テーブルを予め準備しておいて、プロペラの露出量と、船舶の旋回方向と、プロペラの回転速度及び船舶の舵角を入力することにより、簡単且つ適切に、船舶を継続して運航可能か、注意して運航可能かまたは運航停止かを判定することができる。
【0014】
なおアラーム信号が出力されると、操舵条件が満たされない範囲まで、回転速度及び舵角を自動的に変更し、運航停止信号が出力されると船舶の運航を自答的に停止する操舵自動変更部をさらに備えていると、対応の自動化が可能になる。
【0015】
本発明の第1の船舶の操舵方法は、プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出ステップと、プロペラの回転速度を検出する回転速度検出ステップと、船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出ステップと、船舶の舵角を検出する舵角検出ステップと、露出状態検出ステップでプロペラ翼が水面から露出している露出量を検出しており且つ、旋回方向検出ステップで、船舶の旋回方向がプロペラの回転方向と同じ方向であることを検出しているときに、露出状態検出ステップで検出しているプロペラ翼の露出量と、回転速度検出ステップで検出している回転速度及び舵角検出ステップで検出している舵角が、プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによって軸受及びプロペラ軸を損傷する条件に達する前にアラーム信号を発生するアラーム信号発生ステップと、アラーム信号が消えるように船舶を操舵する操舵ステップとからなる。
【0016】
本発明の第2の船舶の操舵方法は、プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出ステップと、プロペラの回転速度を検出する回転速度検出ステップと、船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出ステップと、船舶の舵角を検出する舵角検出ステップと、船舶の旋回方向がプロペラの回転方向と同じ方向であるときにおいて、プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによってすべり軸受及びプロペラ軸が損傷する条件を、プロペラが水面から露出している露出量と、プロペラの回転速度と、舵角との関係として予め定めた複数の判定テーブルを記憶した判定テーブル記憶部を準備するステップと、露出状態検出ステップで検出したプロペラの露出量と、旋回方向検出ステップで検出した船舶の旋回方向と、回転速度検出ステップで検出している回転速度及び舵角検出ステップで検出している舵角を入力として、判定テーブル記憶部から適切な判定テーブルを選択し、選択した判定テーブルに基づいて、船舶を継続して運航可能か、注意して運航可能かまたは運航停止かを判定する運航状態判定ステップとを備えている。さらに運航状態判定ステップでは、注意して運航可能と判定するとアラーム信号を発生し、運航停止を判定すると運航停止信号を発生するのが好ましい。そしてアラーム信号が出力されると、操舵条件が満たされない範囲まで、回転速度及び舵角を自動的に変更し、運航停止信号が出力されると船舶の運航を自動的に停止する操舵自動変更ステップをさらに備えていてもいよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】すべり軸受によって支持されたプロペラ軸に取り付けられたプロペラを船尾に有する船舶におけるプロペラ軸とすべり軸受と潤滑油との関係を、油膜の厚みを誇張して示した概念図である。
図2】油膜の厚みを説明するために用いる図である。
図3】本発明の実施の形態の船舶の操舵システムの構成を示すブロック図である。
図4】プロペラからプロペラ軸に加わる力の分力(プロペラフォース)Mz,Mx,My,Fx,Fy,Fzを示す図である。
図5】プロペラフォースの推定結果を示す図である。
図6】模型試験機の構造を示す図である。
図7】模型試験機を用いて測定した結果に基づいて、舵角を一定として、プロペラ翼の露出状態と回転速度を変えたときの軸受の油膜厚の最小値の推定結果を示す図である。
図8】本実施の形態の船舶の操舵システム及び操舵方法をコンピュータを用いて実現する場合のソフトウエアのアルゴリズムを示すフローチャートである。
図9】本出願の第2の発明の船舶の操舵システムの実施の形態の構成船舶の操舵システムの構成を示すブロック図である。
図10】本実施の形態の船舶の操舵システム及び操舵方法をコンピュータを用いて実現する場合のソフトウエアのアルゴリズムを示すフローチャートである。
図11】(A)乃至(F)は、判定テーブルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照して本出願の第1の発明の船舶の操舵システムの実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、軸受によって支持されたプロペラ軸に取り付けられたプロペラを船尾に有する船舶におけるプロペラ軸1とすべり軸受2と潤滑油3との関係を、油膜の厚みを誇張して示した概念図である。この例では、プロペラ軸は時計回り方向に回転する。プロペラ軸1と軸受2との間に形成される潤滑油3の膜厚は、膜厚が0になると、潤滑効果が得られなくなり、その部分においてプロペラ軸1とすべり軸受2との間に金属接触を生じることで損傷が発生する。なお研究によると、膜厚が部分的に実質的に0に近付く場所は、プロペラ翼が水面から露出している露出量と、プロペラ軸1の回転速度、船舶の旋回方向、舵角によって移動する。そのためこれらの条件が定かでなければ、プロペラ軸1とすべり軸受2との間に発生する摩擦で損傷が発生することを防止することができない。
【0019】
発明者は、プロペラ翼を水面から露出した状態で船舶を操舵しているときに、プロペラ軸1と軸受2に損傷が発生する原因としてプロペラフォースに基づく軸受の膜厚の変化を研究した。プロペラ軸1が回転しているときには、船舶の操舵状況により、プロペラ軸1と軸受2との間の潤滑油3の膜厚が小さくなることがある。そこで発明者は、この現象の発生がプロペラ軸1と軸受2に損傷を生じさせる原因の一つになっているとの前提で、研究を行った。そこで発明者は、水深との関係で種々試験したが、水深との関係だけで、損傷が発生するものではないことが判ってきた。そしてさらに原因を見い出すためにその他の要因について研究したところ、プロペラ翼の水面からの露出状態と、プロペラ軸1の回転速度、旋回方向、舵角の条件に原因があることを見いだした。具体的には、プロペラの回転速度が所定以上あり、プロペラの回転方向と、旋回方向とが一致しており、しかも舵角が所定の値より大きくなると、プロペラフォースによってプロペラ軸1と軸受2との間の油膜の膜厚が部分的に無くなってプロペラ軸1とすべり軸受2との間に発生する金属接触により、プロペラ軸1とすべり軸受2に損傷が発生することを発明者は見い出した。この知見により、本発明の船舶の操舵システムが発明された。
【0020】
図3は、本発明の実施の形態の船舶の操舵システム10の構成を示すブロック図である。操舵システム10は、プロペラ4のプロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出部11と、プロペラ4の回転速度を検出する回転速度検出部12と、操舵装置5の入力指令から船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出部13と、操舵装置5の入力指令から船舶の舵角θを検出する舵角検出部14と、アラーム信号発生部15とを備えている。露出状態検出部11は、例えば、ドラフトゲージの出力に基づいてプロペラ翼が露出している状態を検出する構造とすることができる。また本実施の形態では、アラーム信号が出力されると、操舵条件を満たさない範囲まで、回転速度及び舵角を自動的に変更する操舵自動変更部16をさらに備えている。さらに本実施の形態では、アラーム信号が出力されると、音響及び画像の少なくとも一方によりアラームを発生するアラーム発生部17をさらに備えている。
【0021】
アラーム信号発生部15は、露出状態検出部11でプロペラ4のプロペラ翼が水面から予め定めた量より多く露出している状態を検出しており且つ、旋回方向検出部13で、船舶の旋回方向がプロペラの回転方向と同じ方向であることを検出しているときに、露出状態検出部11で検出しているプロペラ翼の露出量Vと、回転速度検出部12で検出している回転速度S及び舵角検出部で検出している舵角θが、プロペラ軸1を下方に押すプロペラフォースによってすべり軸受2及びプロペラ軸1を損傷する条件に達する前にアラーム信号を発生する。
【0022】
具体的には、船型がばら積み船の場合、アラーム信号発生部15は、プロペラ翼の露出量が半分以上になり、回転速度が全速回転速度の84%以上になり、舵角が20°以上になるという操舵条件が成立するとアラーム信号を発生する。その他の船型では、この条件は当然にして異なってくる。本実施の形態では、この操舵条件を監視するだけで、簡単且つ正確にアラーム信号を発生することができる。
【0023】
上記実施の形態では、操舵自動変更部16を設けて、自動的に操舵条件を満たさない範囲まで回転速度及び舵角を自動的に変更するが、操舵自動変更部16を設けずに、アラーム発生部17からのアラーム音または表示装置に表示されたアラーム表示を見た操舵者が、必要な回避措置をとるようにしてもよいのは勿論である。
【0024】
図4は、プロペラからプロペラ軸1に加わる力の分力(プロペラフォース)Mz,Mx,My,Fx,Fy,Fzを示している。これらの分力のうち、プロペラ軸1の軸線と横方向に直交する方向にプロペラ軸1作用する分力即ちプロペラフォースMyがプロペラ軸1と軸受2との間の油膜の膜厚を部分的に薄くするように作用する。
【0025】
図5は、図6に示す構成の模型試験機を用いて測定した結果に基づいて、全没水(プロペラ翼が水面下にあって露出していない状態)と、半没水(プロペラ翼を水面から露出した状態かつ吃水が7.5mと7mの状態)にしたときで、回転速度を無次元化し且つ舵角(斜航角)を30°としたときのプロペラフォースMyの計測結果を示している。なお舵角(斜航角)を10°,20°,30°,40°,50°にして計測を行って、舵角(斜航角)が20°を超えると急激に、プロペラフォースMyが大きくなることを確認した。
【0026】
この計測結果から、半没水状態で、しかも回転速度と舵角(斜航角)を大きくすると、プロペラフォースMyが大きくなることが確認できた。この結果から、プロペラフォースMyを必要以上に大きくしない操舵条件を選ぶ必要があることが判る。
【0027】
しかしながら航路の条件の変化によって、操舵条件を変えざるを得ない。図7は、模型試験機を用いて測定した結果に基づいて、舵角(斜航角)を30°一定として、プロペラ翼の露出状態と回転速度を変えたときの軸受の油膜厚の最小値の推定結果を示している。この推定結果で、油膜の推定値が10μm以下になる場合には、運航を注意しないと、プロペラ軸と軸受との間が金属接触を生じて、プロペラ軸及び軸受の双方に損傷が発生する可能性が高くなる。なお図7において「Draft」は吃水であり、8.0mにおいて、プロペラ翼は1/3が水面から露出しており。7.0mにおいてプロペラ翼は1/2が水面から露出している。この結果から、本発明では、プロペラ翼の露出量が半分以上になり、回転速度が全速回転速度の84%以上になり、舵角が20°以上になるという操舵条件が成立するとアラーム信号を発生することとした。なおこの条件は、船型がばら積み船の場合であって、船型が異なる場合には、この操舵条件も変わることになる。
【0028】
図8は、本実施の形態の船舶の操舵システム及び操舵方法をコンピュータを用いて実現する場合のソフトウエアのアルゴリズムを示すフローチャートである。このアルゴリズムでは、プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出ステップST1の後に、プロペラ翼が半部以上露出しているか否かを判定する(ステップST2)。次にプロペラの回転速度を検出する(回転速度検出ステップST3)。そして回転速度が全速回転速度の84%以上であるか否かを判定する(回転速度検出判定ステップST4)。次に船舶の旋回方向を検出し(旋回方向検出ステップST5)、旋回方向がプロペラの回転方向と同じであることを判定すると(ステップST6)、船舶の舵角を検出する(舵角検出ステップST7)。そして舵角が20°以上あることを判定すると(ステップST8)、アラーム信号を発生する(ステップST8)。なお検出ステップ及び判定のステップの実行に順番はなく、いずれの検出ステップから実行してもよいのは勿論である。図8のステップを実行すると、本発明の方法における、露出状態検出ステップでプロペラ翼が水面から露出している露出量を検出しており且つ、旋回方向検出ステップで、船舶の旋回方向がプロペラの回転方向と同じ方向であることを検出しているときに、露出状態検出ステップで検出しているプロペラ翼の露出量と、回転速度検出ステップで検出している回転速度及び舵角検出ステップで検出している舵角が、プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによって軸受及びプロペラ軸を損傷する条件に達する前にアラーム信号を発生するアラーム信号発生ステップが実行されることになる。なおアラーム信号が出された後は、アラーム信号が消えるように船舶を操舵する操舵ステップを実施することになる。
【0029】
図9は、本出願の第2の発明の船舶の操舵システムの実施の形態の構成船舶の操舵システム10´の構成を示すブロック図である。この操舵システム10´は、プロペラ4のプロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出部11と、プロペラ4の回転速度を検出する回転速度検出部12と、操舵装置5の入力指令から船舶の旋回方向を検出する旋回方向検出部13と、操舵装置5の入力指令から船舶の舵角θを検出する舵角検出部14と、アラーム信号発生部15´と、操舵自動変更部16´と、運航状態判定部18と、判定テーブル記憶部19とを備えている。図3に示した第1の発明の実施の形態と同じ構成要素には図3に示した符号と同じ符号を付してあり、図3に示した第1の発明の実施の形態と同じ構成要素と機能等が異なるものには、図3に示した符号に´を付した符号を付してある。本実施の形態は、図3に示した実施の形態とは、運航状態判定部18と判定テーブル記憶部19を備えている点で大きく相違する。その他の点は、若干の機能の相違はあるものの、概ね同じである。
【0030】
判定テーブル記憶部19は、船舶の旋回方向がプロペラの回転方向と同じ方向であるときにおいて、プロペラ軸を下方に押すプロペラフォースによって、すべり軸受及びプロペラ軸が損傷する条件を、プロペラが水面から露出している露出量と、プロペラの回転速度と、舵角との関係として予め定めた複数の判定テーブルを記憶している。図11(A)乃至(F)は、判定テーブルの例を示している。これらの判定テーブルは、プロペラが水面から露出している露出量を、プロペラが水中に沈んでいる量Daとして示しており、横軸がプロペラの回転速度に相当する回転数(rpm)で縦軸が舵角に相当する舵角である。すなわち図11(A)のように、Da=9.5〜8.0とは、プロペラが9.5〜8.0m水中に沈んでいて、プロペラが僅かに水面から露出していることを意味している。図11(F)のように、Da=5.5mとは、プロペラが5m水中に沈んでおり、プロペラが半分近く水面から露出していることを意味する。図11(A)乃至(F)を見ると判るように、プロペラが水面から露出している量が増えるほど、「運航不可」になるゾーンが増え、プロペラが水面から露出している量が少ないほど、「注意ゾーン」と「運航可能ゾーン」が増加する。またプロペラの回転速度(回転数)が増え、舵角が大きくなるほど、「運航不可」になるゾーンが増える。
【0031】
そして運航状態判定部18は、露出状態検出部11が検出したプロペラの露出量と、旋回方向検出部13で検出した船舶の旋回方向と、回転速度検出部12で検出している回転速度及び舵角検出部14で検出している舵角を入力として、判定テーブル記憶部19から適切な判定テーブルを選択し、選択した判定テーブルに基づいて、船舶を継続して運航可能か、注意して運航可能かまたは運航停止かを判定する。プロペラの露出量にピッタリと一致する判定テーブルが無い場合には、露出状態検出部11が検出した露出量より多く且つ値が近い露出量に対する判定テーブルを用いる。このようにすれば、安全サイドで判定を行える。
【0032】
本実施の形態によれば、複数の判定テーブルを予め準備しておいて、プロペラの露出量と、船舶の旋回方向と、プロペラの回転速度及び船舶の舵角を入力することにより、簡単且つ適切に、船舶を継続して運航可能か、注意して運航可能かまたは運航停止かを判定することができる。
【0033】
なお操舵自動変更部16は、アラーム信号発生部25´からアラーム信号が出力されると、操舵条件が満たされない範囲まで、回転速度及び舵角を自動的に変更し、運航状態判定部18から運航停止信号が出力されると船舶の運航を自答的に停止するので、判定後の対応の自動化が可能になる。
【0034】
図10は、本実施の形態の船舶の操舵システム及び操舵方法をコンピュータを用いて実現する場合のソフトウエアのアルゴリズムを示すフローチャートである。このアルゴリズムでは、プロペラ翼が水面から露出している状態を検出する露出状態検出し、プロペラの回転速度を検出し、船舶の旋回方向を検出し、舵角を検出すると(ステップST11)、判定用テーブルの選択を行う(ステップST12)。そしてステップST13で、運航可能ゾーンにいるか否かを判定し、ステップST14で注意ゾーンにいるかを判定し、ステップST16で運航不可能ゾーンにいるか否かを判定する。ステップST14で注意ゾーンにいると判定したときには、アラーム信号を発生する(ステップST15)。そしてステップST16で運航可能ゾーンにいると判定したときには、運航停止信号を発生する(ステップST17)。なおこのアルゴリズムが実行された結果として、操舵自動変更部16は、アラーム信号が出力されると、操舵条件が満たされない範囲まで、回転速度及び舵角を自動的に変更し、運航停止信号が出力されると船舶の運航を自答的に停止する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、損傷が発生する条件が揃う前にアラーム信号が発生されるため、損傷が発生する前に対処が可能になり、損傷の発生を有効に防止できる。
【符号の説明】
【0036】
1 プロペラ軸
2 軸受
3 潤滑油
4 プロペラ
5 操舵装置
10,10´ 操舵システム
11 露出状態検出部
12 回転速度検出部
13 旋回方向検出部
14 舵角検出部
15,15´ アラーム信号発生部
16 操舵自動変更部
17 アラーム発生部
18 運航状態判定部
19 判定テーブル記憶部
図1
図2
図3
図8
図9
図10
図4
図5
図6
図7
図11