(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-43542(P2017-43542A)
(43)【公開日】2017年3月2日
(54)【発明の名称】クラスター構造を有する粘膜細胞用清浄保湿剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/64 20060101AFI20170210BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20170210BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20170210BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20170210BHJP
【FI】
A61K8/64
A61K8/73
A61K8/34
A61Q11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-164491(P2015-164491)
(22)【出願日】2015年8月24日
(71)【出願人】
【識別番号】507202563
【氏名又は名称】ティーアンドケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092668
【弁理士】
【氏名又は名称】川浪 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100148714
【弁理士】
【氏名又は名称】川浪 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100154232
【弁理士】
【氏名又は名称】幸田 京子
(72)【発明者】
【氏名】神林 照光
(72)【発明者】
【氏名】脇山 潤
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AA122
4C083AC121
4C083AC131
4C083AC132
4C083AD041
4C083AD071
4C083AD211
4C083AD262
4C083AD271
4C083AD281
4C083AD411
4C083AD412
4C083BB55
4C083CC41
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD33
4C083DD41
4C083EE06
4C083EE07
4C083EE32
4C083EE33
(57)【要約】
【課題】 口腔等を清浄し、粘膜細胞の乾燥を防ぎ、且つ患者QOLを改善するために長期使用可能な安全性の高い粘膜細胞用清浄保湿剤を提供する。
【解決手段】 粘膜細胞用清浄保湿剤は、カチオン性ペプチドと、多糖類を含有するセルロース誘導体と、糖アルコールとを含有し、クラスター構造を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性ペプチドと、
多糖類を含有するセルロース誘導体と、
糖アルコールと
を含有し、クラスター構造を有する粘膜細胞用清浄保湿剤。
【請求項2】
pHは、5.5〜7である、請求項1記載の粘膜細胞用清浄保湿剤。
【請求項3】
前記カチオン性ペプチドは、ポリリジン、ナイシン及びラクトフェリンからなる群の中から選択された1又は2以上からなり、
前記粘膜細胞用清浄保湿剤に対する前記カチオン性ペプチドの含有率は、0.01〜0.1重量%である、請求項1記載の粘膜細胞用清浄保湿剤。
【請求項4】
前記セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群の中から選択された1又は2以上からなり、
前記セルロース誘導体は、アロエベラに含まれるマンノース多糖と複合化した複合化物であり、
前記粘膜細胞用清浄保湿剤に対する前記複合化物の含有率は、0.05〜2重量%であり、
前記粘膜細胞用清浄保湿剤に対する前記アロエベラの含有率は、0.001〜0.1重量%である、請求項1記載の粘膜細胞用清浄保湿剤。
【請求項5】
前記糖アルコールは、グリセロール、ポリグリシトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール及びプロピレングリコールからなる群の中から選択された1又は2以上からなり、
前記粘膜細胞用清浄保湿剤に対する前記糖アルコールの含有率は、30〜65重量%である、請求項1記載の粘膜細胞用清浄保湿剤。
【請求項6】
前記pHは、6.0である、請求項2記載の粘膜細胞用清浄保湿剤。
【請求項7】
前記セルロース誘導体は、O/Wエマルジョンの前記カチオン性ペプチド及び前記糖アルコールをクラスター構造化している、請求項4記載の粘膜細胞用清浄保湿剤。
【請求項8】
前記セルロース誘導体は、アロエベラと複合化したものである、請求項1記載の粘膜細胞用清浄保湿剤。
【請求項9】
前記粘膜細胞は、口腔、口唇又は口角の上皮組織である、請求項1記載の粘膜細胞用清浄保湿剤。
【請求項10】
前記粘膜細胞用清浄保湿剤は、歯磨き、洗口液、マウスジェルを含む、請求項1記載の粘膜細胞用清浄保湿剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔等の粘膜細胞の乾燥に苦しむ人の粘膜細胞を清浄化し、保湿を維持するための粘膜細胞用清浄保湿剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術は、単なる粘膜細胞の湿潤に留まり、湿潤下組織を長時間保湿し、粘膜細胞を保護することに主眼を置いていない。このため、粘膜保護に必要な湿潤及び保湿において、細胞親和性、展延性、蒸発性、細菌侵襲バリア性及び唾液分泌促進などが欠落している。その結果、口が乾燥し、会話、食事及び呼吸などの基本的なQOL(Quality Of Life)の機能の改善が十分に果たされていない。
【0003】
口腔等の乾燥症状は、様々な要因で起こることが知られている。例えば、抗がん治療の抗がん剤、放射線治療やシェーグレン、加齢などの唾液腺自体の機能低下障害、ストレスなどの神経性によるもの、抗うつ剤、睡眠薬、降圧剤及び鎮痛剤などの薬剤によるもの、発熱及び脱水などの全身代謝性によるもの、口呼吸などの蒸発によるものなど、主には唾液分泌力が低下することが原因で引き起こされることが分かってきた。
特に、高齢化に伴い、複合的要因で唾液分泌低下が引き起こされることが多くなってきている。
【0004】
近年、唾液が浄化作用、免疫及び抗菌作用、粘膜保護作用、消化作用、再石灰化、pH緩衝ひいては食事嚥下及び会話の円滑化など、様々な機能を果たしていることが、唾液分泌成分から理解されるようになってきている。しかし、唾液の保湿機能を最も重視したものは少ない。
【0005】
口腔等の粘膜細胞の乾燥に苦しむ人に向けて、各種保湿剤が提供されている。しかし、4級アンモニウム塩などのカチオン系殺菌剤(特許文献1)、フッ素系抗菌剤(特許文献2)、アズレン抗炎症剤(特許文献3)などの薬剤の希釈や、ヒノキチオール、リゾチームなどの天然抗菌剤(特許文献4)による抗菌など、唾液の抗菌機能代替に特化し、即効性の菌数低減による対処療法に留まったものがほとんどである。
【0006】
さらに、保湿剤として、低分子の糖アルコールなどは、水溶性の溶解の早いものが多く(特許文献5)、単独では溶流出し易いので、滞留時間が少ない。また、これらは、透湿性が高く、乾燥し易い。特に、乾燥の激しい状態では、口腔等の粘膜細胞の内皮の角質化組織の乾燥剥落も起こり、さらに内層のさらなる乾燥を招き、口腔等の粘膜細胞を長時間湿潤した状態に保持できない。
【0007】
また、タマリンドガム(特許文献6)、ジェランガムなどの天然ガム類が抗菌剤の滞留性向上に使われる(特許文献7)。しかし、口腔等が周囲環境に左右され易く、粘膜細胞との接着性や水分透過性の点で満足できるものではない。
また、ヒドロキシエチルセルロースを用いた活性物質を低粘度液体剤形として提供すること(特許文献8)を試みている。しかし、難溶性活性物質を微粒子に分散するもので、保湿効果を期待したものではない。
【0008】
セロビオースリピッドと保湿剤を用いた保湿効果を有する化粧料(特許文献9)では、保湿剤が20重量%以下であり、口腔等の乾燥症などの著しく乾燥する症状の改善にはつながらない。
ポリブテンと口腔ケア活性物質とを含む口腔ケア組成物(特許文献10)では、ポリブテンの歯への付着に着目したもので、使用用途は歯面保護である。また、増粘剤としてセルロース誘導体を、保湿剤及び甘味剤として糖アルコールを使用できるとしたものであり、ナイシンも抗菌製剤として利用している。
【0009】
さらに、グリセリルグリセリドを含有する口腔組成物(特許文献11)では、グリセリルグリセリドを配合し、その他湿潤剤として糖アルコール、増粘剤としてセルロース誘導体、抗菌剤としてラクトフェリンや抗炎症剤を配合している。しかし、口腔内へ素早く水分補給するためのもので、就寝時、或いは炎症、虫歯及び歯周病などの治癒後の長期ケアの持続性を考慮したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−330793号
【0011】
【特許文献2】特開2002−255773号
【0012】
【特許文献3】特開平9−291018号
【0013】
【特許文献4】特開2004−123630号
【0014】
【特許文献5】特開2005−029506号
【0015】
【特許文献6】特表2008−540631号
【0016】
【特許文献7】特開平8−3074号
【0017】
【特許文献8】特開2011−251989号
【0018】
【特許文献9】特開2015−48319号
【0019】
【特許文献10】特表2004−524334号
【0020】
【特許文献11】特開2012−153619号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従来技術の多くは、抗菌剤及び抗炎症剤などの薬理的改善或いは単なる渇き防止に留まっており、保護膜による保湿や唾液分泌促進によるQOLの改善(粘膜細胞の乾燥を減らして、食事、呼吸、会話の円滑化、覚醒)、ADL(Activity of Daily Life)の改善などの総合的な観点からの商品は数少ない。
一方、粘膜細胞のケアの重要性は、従来の虫歯及び入れ歯などの歯科治療や審美などの歯科的観点からのみ発展してきており、保清及び保湿などによる口腔等の粘膜細胞の乾燥症の予防、ADL/QOL改善などの医科の観点からは、ようやく見直されてきたにすぎず、いまだ十全と言えるものではない。
【0022】
雑菌の繁殖に影響する因子として、温度、水分(湿度)、空気、pH(水素イオン指数)、血液、かひなどが重要である。このうち、唾液分泌に影響を与えないものは無く、唾液分泌の減少を補完及び補充できれば、乾燥の状態を改善でき、口腔等の粘膜組織全体の保護につながり、ひいては身体の健康維持及び改善につながる。
つまり、抗菌力は強くなく増殖を抑制できる程度でよく、すなわち使用量で調整できる程度のもので十分であり、むしろ菌をシャットアウトでき、保湿力が大きく持続的である保湿剤を提供することが重要である。
そこで、本発明は、口腔等を清浄し、粘膜細胞の乾燥を防ぎ、且つ患者QOLを改善するために長期使用可能な安全性の高い粘膜細胞用清浄保湿剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の一態様による粘膜細胞用清浄保湿剤は、カチオン性ペプチドと、多糖類を含有するセルロース誘導体と、糖アルコールとを含有し、クラスター構造を有する。
前記粘膜細胞用清浄保湿剤のpHは、5.5〜7が望ましく、6.0がさらに望ましい。
【0024】
前記カチオン性ペプチドは、ポリリジン、ナイシン及びラクトフェリンからなる群の中から選択された1又は2以上からなってもよい。ここで、前記粘膜細胞用清浄保湿剤に対する前記カチオン性ペプチドの含有率は、好ましくは、0.01〜0.1重量%である。
【0025】
前記セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群の中から選択された1又は2以上からなってもよい。ここで、前記セルロース誘導体は、アロエベラに含まれるマンノース多糖と複合化した複合化物であってもよい。前記粘膜細胞用清浄保湿剤に対する前記複合化物の含有率は、好ましくは、0.05〜2重量%である。前記粘膜細胞用清浄保湿剤に対する前記アロエベラの含有率は、好ましくは、0.001〜0.1重量%である。
【0026】
前記糖アルコールは、グリセロール、ポリグリシトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール及びプロピレングリコールからなる群の中から選択された1又は2以上からなってもよい。ここで、前記粘膜細胞用清浄保湿剤に対する前記糖アルコールの含有率は、好ましくは、30〜65重量%である。
前記セルロース誘導体は、O/Wエマルジョンの前記カチオン性ペプチドと前記糖アルコールをクラスター構造化していてもよい。
前記セルロース誘導体は、アロエベラと複合化したものであってもよい。
前記粘膜細胞は、口腔、口唇又は口角の上皮組織であってもよい。
前記粘膜細胞用清浄保湿剤は、歯磨き、洗口液、マウスジェルを含んでもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の粘膜細胞用清浄保湿剤は、口唇、口角、口腔などの乾燥を粘膜細胞の状態や周囲環境、放置時間などに合わせた持続性清浄保湿剤として利用でき、飲み込んでも安全な、また味覚的にも継続使用ができ、唾液分泌をうながす環境を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の実施例1〜3及び比較例1〜5の保湿剤の成分及び使用感を示す図。
【
図2】本発明の実施例3及び比較例1〜2の乾燥テストの結果を示す図。
【
図3】本発明の実施例1〜3及び比較例5の保湿剤の細菌分析結果を示す図。
【
図4】本発明の実施例2の保湿剤における使用量と経時菌数の変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態について、以下に詳細を説明する。
本発明は、口腔等を清浄した後に粘膜を保護するために、溶解及び流出し難い特徴を持ち、且つ透湿性や菌透過性の低い湿潤した保護膜を塗布するための粘膜細胞用清浄保湿剤(粘膜細胞ケア組成物)を提供する。
従って、本発明の保湿剤としては、口腔等の粘膜に広がり付着し易く、高い保水性を維持でき、粘膜細胞が汚れ難い高分子ポリマーが望ましい。
また、抗菌力が強いものは苦渋味が強く、味覚上継続使用が難しい。甘味刺激は唾液分泌を促進するが、砂糖などの糖質類は細菌の栄養源となるため避けた方が良い。このため、本発明の保湿剤は、糖アルコールなどの細菌の栄養源になり難い原料が好ましい。
【0030】
以上の観点から、本発明の粘膜細胞用清浄保湿剤は、カチオン性ペプチドと、多糖類を含有するセルロース誘導体と、糖アルコールとを含有し、クラスター構造を形成している。例えば、少量の植物油とグリセリンや糖アルコールでエマルジョンを形成させ、透湿性を抑制し、水溶性の細菌接着性のカチオン性ペプチドとともに、水溶性のセルロース誘導体皮膜ゲルによりクラスター構造化(例えば、包摂)させる。この包摂水性膜によって、細菌を遮断し、且つエマルジョンとペプチドと糖アルコールで、膜の水分及び菌の透過性を抑制している。
尚、本発明に係る粘膜細胞としては、例えば、口腔、口唇又は口角を含む口腔などの上皮組織が挙げられる。
【0031】
<カチオン性ペプチド>
細菌の細胞表面膜は、陰イオンの電荷を持つ。このため、細菌は、カチオン性(陽イオン)ペプチドと接着し易い。本発明の粘膜細胞用清浄保湿剤は、カチオン性ペプチドを含有することで、菌の透過を防止している。
カチオン性ペプチドは、例えば、ポリリジン、ナイシン及びラクトフェリンからなる群の中から選択された1又は2以上からなる。ペプチドは種々あるが、水溶性カチオン性ペプチド、例えば、クラスター構造に包摂したカチオン性ペプチドが望ましい。また、O/Wエマルジョンのカチオン性ペプチドでもよい。但し、カチオン性ペプチドは、上記記載のペプチドに限定するものではなく、天然に存在し、安全性が高く、安価で入手し易いものが望ましい。
保湿剤に対するカチオン性ペプチドの含有率は、好ましくは、0.01〜0.1重量%である。通常、抗菌の効力を発揮させるための濃度は0.1重量%以上が好ましいが、本発明のように菌の透過防止には0.1重量%未満で十分である。但し、菌の侵入を防ぐには、0.01重量%より多く含有することが望ましい。
【0032】
<セルロース誘導体>
セルロース誘導体は、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースからなる群の中から選ばれた1又は2以上からなる。
セルロース誘導体は、多糖類を含有することが望ましい。例えば、セルロース誘導体は、アロエベラと複合化されている。より具体的には、セルロース誘導体は、アロエベラに含まれるマンノース多糖と複合化した複合化物であることが望ましい。セルロース誘導体のみでは、細菌の透過防止の効果が弱いが、本発明のように、より細胞凝集性の強いマンノース多糖をセルロース誘導体に配合すると、より細菌の透過性や乾燥時の皮膜形成性を高めることができる。
保湿剤に対する複合化物(セルロース誘導体とマンノース多糖との複合化物)の含有率は、好ましくは、0.05〜2重量%である。0.05以下の場合は、長時間持続的に保湿させる効果が薄まってしまい、2重量%以上の場合は、流動性の点で広がりが悪く、使用感も悪化するためである。
保湿剤に対するアロエベラの含有率は、好ましくは、0.001〜0.1重量%である。セルロース誘導体のクラスター構造の形成及び水溶性保護膜の皮膜性向上を考慮すると、この範囲が望ましい。
【0033】
<糖アルコール>
糖アルコールは、例えば、グリセロール、ポリグリシトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール及びプロピレングリコールからなる群の中から選択された1又は2以上からなる。
保湿剤に対する糖アルコールの含有率は、好ましくは、20〜65重量%であり、さらに好ましくは、30〜65重量%である。糖アルコール類は、植物油のエマルジョン表面で配向して、セルロース誘導体の親水基と弱い結合をし、保水性のクラスター構造を形成し、より水の運動性を制限できる。通常、30重量%以下で保湿剤として使用されるが、20重量%を超えると安定した保水性が得られ、30重量%を超えるとより安定した保水性が得られる。一方、65重量%以上では、クラスター構造が保持できず、溶出し易くなる。
尚、近年、糖アルコールでもあるグリセリンは、体細胞内の天然保湿成分(Natural Moisturizing Factor)として作用し、乾燥から細胞を保護していることが分かってきており、安全である。
【0034】
<pH>
pHは、5以下で脱灰が起こり、虫歯になり易い。このため、以下のように、本発明の保湿剤は、中性に近いもので、緩衝力のあるものが望ましい。
具体的には、保湿剤のpHは、5〜8が好ましく、5.5〜7がさらに好ましく、例えば、有機酸塩により緩衝能を持たせている。より望ましくは、pHは、6.0であり、例えば、有機酸またはその塩からなるpH調整剤で調整される。
【0035】
<クラスター構造>
本発明の粘膜細胞用清浄保湿剤は、セルロース誘導体がカチオン性ペプチドと糖アルコールをクラスター構造化(例えば、包摂)している。これにより、本発明の保湿剤は、細菌の侵入を防ぐことができる。尚、本発明は、口腔内の殺菌を目的としておらず、菌の透過を阻止できれば十分である。
【0036】
口腔等が乾燥したり、抗菌剤を用いて殺菌したりすると、口腔内の細菌は菌バランスが崩れ、日和見感染を招く。そして、強力に殺菌すると、悪玉菌に菌交代が起こり易く、逆に憎悪を招く。微生物の増殖は、水分活性を下げると、抑えられることが分かっている。糖アルコールなどの水分活性低下物質は、低分子で浸透圧の高いものが利用されるが、漬物などの食品保存技術に見られるように、高濃度では浸透圧により、逆に脱水が起こり、細胞の萎凋が起こると考えられている。そこで、本発明のようにクラスター構造化することで、これら水分活性低下物質が高分子物質に結合した状態では、浸透圧に寄与し難く、脱水による萎凋になり難いと考えられる。
このような本発明の粘膜細胞用清浄保湿剤は、セルロース誘導体/アロエベラの複合物に、糖アルコールとカチオン性ペプチドを、グリセリンと植物油のO/Wエマルジョンに溶解混和したものを混合し、このように混合したものをpH調整後に静置して製造する。
【0037】
また、本発明の清浄保湿剤は、調整水や配合を調整することで、液状、ゲル状にした含嗽液、洗口液、塗布剤を形成することができる。さらに、本発明の清浄保湿剤は、ピロリン酸カルシウムやその増粘にケイ酸ナトリウムなどを配合し、歯磨き剤として使用することもできる。さらに、本発明の清浄保湿剤は、洗口液、マウスジェルなどとして使用することも可能である。
さらに、口唇、口角、口腔等の乾燥状態や放置時間に応じて、塗布、頻度及び使用量を調整したり、物性の違うタイプのものを使用したりして、適切な粘膜保護が可能となる。
通常、口腔組成物には、菌交代を起こし易い効力の強い抗生物質、抗菌及び抗真菌剤、抗炎症剤、防カビ剤や口腔乾燥を引き起こし易い医薬品、粘膜細胞毒性のある薬剤が使われる。しかし、本発明の清浄保湿剤は、これらを使用しないで、できる限り天然に近い安全性の高い成分を利用することができる。
【0038】
また、本発明の清浄保湿剤によれば、継続的または持続的に唾液の補完をし、分泌促進をさせる保湿剤の開発と使用ケア方法、各種口腔等の乾燥症状の状態の把握や要因を把握した上で、粘膜細胞ケアまたは粘膜ケアを補完する唾液腺マサージなどとの相互的活用により、ADL/QOLが改善されて、自立及び入院日数の短縮に寄与できる。
以上のように、本発明によれば、口腔等を清浄し、粘膜細胞の乾燥を防ぎ、且つ患者QOLを改善するために長期使用可能な安全性の高い粘膜細胞用清浄保湿剤を提供することができる。
【0039】
<実施例>
(1)使用感
図1は、本発明の実施例1〜3及び比較例1〜5の保湿剤の成分及び使用感を示す。尚、
図1における保湿剤の成分の単位は重量%である。
実施例1〜3及び比較例1〜5では、
図1に示すような各配合の保湿剤を作成し、保湿剤の使用後の感覚を比較した。使用感としては、「風味の好ましいのは」、「残り易いのは」「保湿の良好なのは」「広がりの良いのは」という4項目を設けている。また、
図1において、◎は10人中9人以上、○は10人中6〜8人、△は10人中4〜5人、×は10人中0〜3人が該当していたことを示す。
図1に示すように、実施例1〜3では、◎が2項目以上で、×が無く、良好な結果が得られた。尚、セルロース誘導体、糖アルコールの濃度によって、使用感が異なることが分かった。
【0040】
(2)乾燥テスト
図2は、本発明の実施例3及び比較例1〜2の保湿剤の乾燥テストの結果を示す。
この乾燥テストでは、1gの保湿剤を、乾燥した角質層にみたてたろ紙に塗布し、1時間放置した。その後、保湿剤の広がり具合や漏れ具合、留置の様子を観察した。
図2に示すように、比較例1では、保湿剤の広がりが見られず、ろ紙表面は染み出たところの乾燥が観察された。比較例2では、保湿剤は広がりすぎず、かつ、全体に乾燥が見られた。一方、実施例3では、保湿剤は滑らかに広がりつつも、全体に湿潤し、乾燥が防げていた。このように、
図2の乾燥テストにおいても、
図1の使用感の結果を反映していた。
【0041】
(3)細菌分析
図3は、本発明の実施例1〜3及び比較例5の保湿剤の細菌分析結果を示す。
細菌分析では、ハロー法の阻止円の径2〜3cmを抗菌、径1〜2cmを弱い抗菌、接触部のみを静菌的とした。培地及び培養は、各菌種で適切な方法を選択した。これらの菌種は、口腔内の常在菌で10×5乗CFU(Colony Forming Unit:コロニー形成単位)の各培地に塗布し、1cm径の円筒孔に流し込み、阻止円を測定した。
菌種として、ブドウ球菌、緑膿菌、ミュータンス菌、ジンジバリス菌、カンジダ菌について測定した。
細菌分析の結果、口腔関連の5菌種のいずれの菌においても、実施例では、阻止円を観測し又は接触部での抗菌を観察できた。
実施例1〜3では、流動し易さ(カチオン性ペプチドの捕捉力)による菌増殖の抑制力に違いがあった。
比較例5は、接触部も抗菌は全く認められず、阻止円も認められなかった(増殖した)。つまり、比較例5のように、カチオン性ペプチドが0.005%の比較例5では、菌を補足できず、阻止円は認められず、増殖したと判断できる。
【0042】
(4)抗菌効果分析
図4は、本発明の実施例2の保湿剤における使用量と経時菌数の変化を示す。
実施例2の保湿剤を用いて、カンジダの抗菌試験を実施した。全体として抗菌力は弱いが、添加量を増やすと菌の増殖抑制効果が見られた。従って、実施例2は、少量の保湿剤で強い抗菌性を有するものではないが、使用時の菌付着量や残存量で増殖抑制を持続することができた。見掛け上は、菌のトラップにより菌の動きを制限すると、菌の増殖は抑制される。
尚、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。本発明の実施形態は、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更等を行うことができる。