【実施例】
【0032】
<出発物質の合成>
[化合物1]
1−メチルイミダゾール1.2mL、6−クロロ−1−ヘキシン3.0mLと臭化リチウム3.0gを乾燥アセトニトリル10mLに溶解した。反応溶液を窒素雰囲気下70℃で7日間撹拌した。室温に戻した後、反応溶液に150mLの蒸留水を入れ、分液漏斗を使って不純物をジクロロメタンで抽出した(5回)。水溶液層を回収し、エバポレーターを使ってジクロロメタンを完全に除去した。水溶液に10mLの蒸留水に溶かした15gのリチウムビストリフロロメタンスルホニルイミド(以下「Li・Tf
2N」と表す)を滴下した。室温で1時間撹拌した後、分液漏斗を使って目的物をジクロロメタンで抽出した。溶液を硫化マグネシウムで乾燥した後に濾過し、溶媒をエバポレーターで除去した。減圧乾燥することで、下記式で示される液体の化合物1を98%の収率で得た。化合物1の構造を、
1H核磁気共鳴(
1H−NMR)及び
13C核磁気共鳴(
13C−NMR)により確認した。溶媒は重ジメチルスルホキシドを用いた。
1H−NMR及び
13C−NMRスペクトルを
図1に示す。
【化5】
【0033】
[化合物2の合成]
1−メチルイミダゾールに代えて、ピリジン1.2mLを用いたことを除き、化合物1の合成と同様の手順により、下記式で示される液体の化合物2を98%の収率で得た。
図2に化合物2の
1H−NMR及び
13C−NMRスペクトルを示す。
【化6】
【0034】
[化合物3の合成]
1−メチルイミダゾールに代えて、1−メチルピロリジン1.8mLを、6−クロロ−1−ヘキシンに代えて6−ヨード−1−ヘキシン4.0mLを用いたことを除き、化合物1の合成と同様の手順により、下記式で示される液体の化合物3を90%の収率で得た。
図3に化合物3の
1H−NMR及び
13C−NMRスペクトルを示す。
【化7】
【0035】
[化合物4の合成]
下記式で示される化合物4を、J.Am.Chem.Soc.2013,135,9055-9077記載の方法により合成した。
【化8】
【0036】
[化合物5の合成]
1−メチルイミダゾール0.80mLと4.0gの化合物4を乾燥アセトニトリル(10 mL)に溶解した。反応溶液を窒素雰囲気下70℃で3日間撹拌した。室温に戻した後、反応溶液を丸底フラスコに入れた150mLのジエチルエーテルに撹拌しながら滴下した。1時間後、目的物はフラスコの壁に付着していた。溶媒をデカンテーションにより除いた。目的物をジエチルエーテルで軽く洗った後、エバポレーターにより溶媒を完全に除去した。目的物を100mLの蒸留水に溶かした後、10mLの蒸留水に溶かした15gのLi・Tf
2Nを滴下した。室温で1時間撹拌した後、分液漏斗を使って目的物をジクロロメタンで抽出した。溶液を硫化マグネシウムで乾燥した後に濾過し、溶媒をエバポレーターで除去した。減圧乾燥することで、下記式で示される液体の化合物5を98%の収率で得た。
図4に化合物5の
1H−NMR及び
13C−NMRスペクトルを示す。
【化9】
【0037】
[化合物6の合成]
1−メチルイミダゾールに代えてピリジン0.80mLを用いたことを除き、化合物5と同様の手順により、下記式で示される液体の化合物6を98%の収率で得た。
図5に化合物6の
1H−NMR及び
13C−NMRスペクトルを示す。
【化10】
【0038】
[化合物7の合成]
1−メチルイミダゾールに代えて1−メチルピロリジン1.1mLを用いたことを除き、化合物5と同様の手順により、下記式で示される液体の化合物7を85%の収率で得た。
図6に化合物7の
1H−NMR及び
13C−NMRスペクトルを示す。
【化11】
【0039】
[グリシジルアジドポリマーの合成]
100mLのDMF中で5.0gのポリエピクロルヒドリンに5.0gのアジ化ナトリウムを窒素雰囲気下、90℃で24時間反応させることによって調製した。反応溶液を1Lの蒸留水に加え、目的物を沈殿させた。水をデカンテーションにより除いた後、さらに500mLの水中、500mLのメタノール中(2回)でよく洗浄した。得られた固体を減圧乾燥することでグリシジルアジドポリマーを収率98%で得た。
【0040】
<実施例1>
[カチオン性グリシジルポリマー1の合成]
上記グリシジルアジドポリマー0.50gを50℃で撹拌しながら25mLの乾燥N,N’−ジメチルホルムアミドに溶解させた。アルゴンを10分間溶液中に吹き込むことで溶液中の酸素を追い出した後、2.5gの化合物1と0.10gの銅触媒(Cu(MeCN)
4・PF
6)を溶液に添加した。反応溶液をアルゴン雰囲気下で、50℃で24時間撹拌した。室温にもどした後、反応溶液を300mLのジエチルエーテルに撹拌しながら滴下することで目的物を沈殿させた。30分撹拌した後、溶媒をデカンテーションにより除いた。目的物を40mLのアセトンに溶解した後、200mLの0.1モル/LのEDTA・2Na水溶液に撹拌しながら滴下した。EDTAが銅イオンを補足することで溶液が青く着色した。10gのリチウムビストリフロロメタンスルホニルイミド(Li・Tf
2N)を加えた後、エバポレーターによりアセトンを留去した。目的物はフラスコの壁に付着し、溶液はデカンテーションにより除いた。銅イオンをEDTAにより除去する過程を、水溶液の着色が無くなるまで繰り返した。目的物を蒸留水で軽く洗った後、100mLのアセトンに溶解した。硫化マグネシウムを添加して乾燥した後に濾過し、溶媒をエバポレーターで10mLに濃縮した。溶液を100mLのジクロロメタンに撹拌しながら滴下した。3時間後、目的物はフラスコの壁に付着し、溶液はデカンテーションにより除いた。目的物をジクロロメタンで軽く洗った後アセトンに溶解し、エバポレーターにより溶媒を除去した。減圧乾燥することでカチオン性グリシジルポリマー1を82%の収率で得た。該ポリマーの構造は
1H−NMR、
13C−NMR及びIRにより確認した。NMRの溶媒は重ジメチルスルホキシドを用いた。
図7にグリシジルポリマー電界質1の
1H−NMR、及び
13C−NMRスペクトルを、
図13(b)に赤外(IR)スペクトルを示す。
【0041】
<実施例2>
[カチオン性グリシジルポリマー2の合成]
化合物1に代えて、2.5gの化合物2を用いたことを除き、実施例1と同様の手順でカチオン性グリシジルポリマー2を76%の収率で得た。
図8に
1H−NMR、及び
13C−NMRスペクトルを、
図13(c)にIRスペクトルを示す。
【0042】
<実施例3>
[カチオン性グリシジルポリマー3の合成]
化合物1に代えて、2.5gの化合物3を用いたことを除き、実施例1と同様の手順によりカチオン性グリシジルポリマー3を75%の収率で得た。
図9に
1H−NMR、及び
13C−NMRスペクトルを、
図13(d)にIRスペクトルを示す。
【0043】
<実施例4>
[カチオン性グリシジルポリマー4の合成]
化合物1に代えて、3.4gの化合物5を用いたことを除き、実施例1と同様の手順によりカチオン性グリシジルポリマー4を90%の収率で得た。
図10に
1H−NMR、及び
13C−NMRスペクトルを、
図13(e)にIRスペクトルを示す。
【0044】
<実施例5>
[カチオン性グリシジルポリマー5の合成]
化合物1に代えて、3.4gの化合物6を用いたことを除き、実施例1と同様の手順でカチオン性グリシジルポリマー5を85%の収率で得た。
図11に
1H−NMR、及び
13C−NMRスペクトルを、
図13(f)にIRスペクトルを示す。
【0045】
<実施例6>
[カチオン性グリシジルポリマー6の合成]
化合物1に代えて、3.4gの化合物7を用いたことを除き、実施例1と同様の手順でカチオン性グリシジルポリマー6を76%の収率で得た。
図12に
1H−NMR、及び
13C−NMRスペクトルを、
図13(g)にIRスペクトルを示す。
【0046】
<カチオン性グリシジルポリマーの評価>
[IR測定]
原料であるグリシジルアジドポリマーと、実施例で調製したカチオン性グリシジルポリマー1〜6のIRスペクトルを、FT-IRスペクトロメーター8400S(島津製作所)を用いて、試料をKBrと混合しペレット状に成形したものを使って測定した。
図13に、グリシジルアジドポリマーとカチオン性グリシジルポリマー1〜6のIRスペクトルを並べて(a)〜(g)に示す。同図において横軸は波数であり、縦軸は透過率である。グリシジルアジドポリマー(a)には2100cm
-1にアジド基由来の大きなピークが観測され
る。化合物1〜7のアルキン化合物との反応後のカチオン性グリシジルポリマー1〜6ではアジド基のピークが消失していることから、反応は100%進行して全ての側鎖にイオン液体構成部位が導入されていることが分かる。
【0047】
[GPC測定]
カチオン性ポリマーはGPCカラムに吸着してしまうので、その分子量を正確に測定することはほぼ不可能である。そこで、上記グリシジルアジドポリマーから、電荷を持たない下記式(6)で示される中性ポリマーを合成し、該ポリマーの分子量をゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)(カラム:Shodex GPC LF-804、溶媒:ジメチルホルムアミド、検出器:屈折率計、標準試料:ポリスチレン)により測定することでグリシジルアジドポリマーの重合度を求め、及びカチオン性グリシジルポリマーの重合度を推定した。
図14に該中性ポリマーのGPCクロマトグラムを示す。同図において、横軸は溶出時間であり、縦軸は任意スケールの屈折率である。該中性ポリマーの数平均分子量(M
n)は1.63×10
5、重量平均分子量(M
w)は3.19×10
5、多分散度(M
w/M
n)は1.96であった。ここから、上記グリシジルアジドポリマーと実施例1〜6で得られたカチオン性グリシジルポリマーの数平均重合度は757、重量平均重合度は1480であることが分かった。このように高い重合度は、カチオン性グリシジルモノマーのアニオン開環重合では実現困難である。
【化12】
(nは上述のとおり)
【0048】
[DSC測定]
カチオン性グリシジルポリマー1〜6の示差走査熱量測定(DSC)(EXSTAR X−DSC7000示差走査熱量測定装置(日立ハイテクサイエンス))、アルミニウムセル、窒素雰囲気化下、10℃/分で、−120℃から100℃まで昇温)を行い、ガラス転移温度を求めた。
図15(a)〜(f)に該カチオン性グリシジルポリマー1〜6のDSC曲線を、表1にガラス転移温度(℃)を示す。
図15において、縦軸は下側が吸熱を示す。表1から、修飾に用いるアルキン化合物の種類によってガラス転移温度を制御できることが分かる。本発明で得られるポリマーの主鎖は柔軟なポリエーテルであるため、ポリスチレンやポリメチルメタクリレートなどのポリオレフィン系のポリマーに比べてガラス転移温度が低い。さらに、側鎖にオリゴエチレングリコール鎖を有するカチオン性グリシジルポリマー4〜6は、−20℃〜−30℃の低いガラス転移温度を有する。一般にガラス転移温度が低いほど高分子鎖の運動性が高くなるためにイオン伝導度が高くなることが知られており、本発明のカチオン性ポリマーのイオン伝導性材料としての潜在能力の高さを示している。
【0049】
[熱分解挙動]
カチオン性グリシジルポリマー1〜6の熱分解特性を、アルゴン雰囲気下で熱天秤測定(SDT Q600熱重量測定装置(TAインスツルメンツ))、10℃/分で、550℃まで昇温)により調べた。
図16に重量変化を示すカーブと、表1に5%重量損失温度を示す。
図16において、縦軸は試料の初期重量を1.0に規格化したときの該試料の重量変化を示すものであり、5%重量損失温度は規格化重量が0.95になる温度である。カチオン性グリシジルポリマー2及び3は250℃以上、カチオン性グリシジルポリマー1、4〜6は300℃以上の熱安定性を有し、実用に十分耐えうる値である。
【0050】
[イオン伝導度測定]
カチオン性グリシジルポリマー1〜6のイオン伝導度特性をインピーダンススペクトル(SI 1260型インピーダンスアナライザー(ソーラトロン社))により解析した。
図17及び18に無加湿、20℃条件下でのインピーダンススペクトルのナイキスト線図を示す。この条件下ではイオン伝導度が低いために容量性の半円が観測される。インピーダンスの周波数依存性がなくなる半円の右側の屈曲点の値からイオン伝導度の値を求めた。
図19、20に無加湿、120℃条件下でのインピーダンススペクトルのナイキスト線図を示す。この条件下ではイオン伝導度が高いために容量性半円は観測されなかった。インピーダンスの周波数依存性がなくなるZ”=0の値からイオン伝導度の値を求めた。イオン伝導度の値を表1にまとめた。最も高いイオン伝導度として、20℃で3.4×10
-6S/cm(カチオン性グリシジルポリマー6)、120℃で1.1×10
-3S/cm(カチオン性グリシジルポリマー6)の値が得られた。これらの値は塩などの添加物を含まない高分子単体の電解質としては最高クラスの値である。
【0051】
【表1】