(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-43808(P2017-43808A)
(43)【公開日】2017年3月2日
(54)【発明の名称】石灰系脱燐剤
(51)【国際特許分類】
C21C 1/02 20060101AFI20170210BHJP
【FI】
C21C1/02 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-167767(P2015-167767)
(22)【出願日】2015年8月27日
(71)【出願人】
【識別番号】591166710
【氏名又は名称】大阪鋼灰株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084593
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】但馬 律雄
【テーマコード(参考)】
4K014
【Fターム(参考)】
4K014AA03
4K014AB02
4K014AB03
4K014AB04
(57)【要約】
【課題】脱燐するにふさわしいカルシウム・フェライトを使用しつつも、造滓剤相互の協働滓化作用を実現すべく好適な滓化環境を形成すること。
【解決手段】生石灰に酸化鉄が添加され、加熱溶融により生じた溶融体が水砕され、石灰系脱燐剤が生成される。この水砕化脱燐剤5〜50重量%に非溶融生成粉粒状生石灰95〜50重量%を混成させ、脱燐性を向上させる。これは、水砕により急冷されて結晶化が抑制され、生成されたカルシウム・フェライトがガラス化度の向上した非晶質砂粒となって、低い温度や短時間で溶融し、溶解熱も小さくなり滓化性が著しく向上する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鉄に含まれる燐酸分と反応して、スラグの生成を促す石灰系精錬剤において、
生石灰に酸化鉄が添加され、加熱溶融により生じた溶融体が水砕されていることを特徴とする石灰系脱燐剤。
【請求項2】
前記水砕化脱燐剤5〜50重量%に非溶融生成生石灰95〜50重量%を混成させていることを特徴とする石灰系脱燐剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2の石灰系脱燐剤に、アルミナAl2 O3 粉粒体が添加されていることを特徴とする石灰系脱燐剤。
【請求項4】
請求項1または請求項2の石灰系脱燐剤に、MgO粉粒体が添加されていることを特徴とする石灰系脱燐剤。
【請求項5】
前記加熱溶融体を生成するに際してAl2 O3 が添加されていることを特徴とする請求項1に記載された石灰系脱燐剤。
【請求項6】
前記加熱溶融体を生成するに際してMgOが添加されていることを特徴とする請求項1に記載された石灰系脱燐剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石灰系脱燐剤に係り、詳しくは、カルシウム・フェライトを使用して溶銑や溶鋼等を脱燐する滓化剤に関し、特に溶融の迅速化を図って溶湯での低温滓化性の向上を期すようにした石灰系精錬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精錬炉内の溶湯に含まれる硫黄分や燐酸分等と反応して脱硫スラグや脱燐スラグを生成するにあたって、今日では石灰系の精錬剤の使用が定着している。その代表的なものは生石灰CaOであり、溶鉄中に含まれている珪素が酸化されてSiO
2 となると、
CaO+SiO
2 →CaO・SiO
2
の反応を呈し、燐が、
2P+5FeO→P
2 O
5 +5Fe
によってP
2 O
5 となると、
CaO・SiO
2 +CaO→2CaO・SiO
2
P
2 O
5 +nCaO→nCaO・P
2 O
5
(n=2ないし5)
の反応を呈するからである。
【0003】
その生石灰にはミルスケールFe
2 O
3 や蛍石CaF
2 を混合して、その滓化性の向上を図ることが多い。ミルスケールは脱燐を促すための酸化剤であり、蛍石は融点の高い生石灰の反応性を高めるための融剤として機能する。すなわち、蛍石は塩基性スラグの塩基度を下げることなくスラグの流動性をよくし、造滓作用を活発化させる。ちなみに、脱燐は低温度・酸化性雰囲気であることが必要であるが、スラグが高塩基度であることも要求される。
【0004】
具体的には、ミルスケールや蛍石は適量が添加されるにとどまるが、生石灰を主材とした滓化剤による不純物の除去過程は、まず高炉の溶銑樋や傾注樋等の高炉鋳床において例えばミルスケール,焼結鉱,砂鉄等の固体酸化物である脱珪剤を供給して脱珪し、トピードカーや取鍋でCaOやMgを投入して脱硫し、転炉で脱燐・脱炭する。このような工程を経る場合、脱燐に5分を、脱炭に30分を割り当てても脱燐率はせいぜい85%にとどまる。ましてや、トピードカーで脱燐する場合は、脱硫のために溶湯の温度上げておくこともあって一部が復燐し、脱燐率は60%近くに低下することもある。
【0005】
しかし、投入したりインジェクションされた後はCaO、Fe
2 O
3 、CaF
2 が散らばり、相互の連携作用が薄れてmCaO・nP
2 O
5 やmCaO・nFe
2 O
3 ・P
2 O
5 を生成する脱燐反応に時間を要したり、高い脱燐効率が望めなくなる。そのうえ、生石灰融剤としての蛍石は環境上問題の多いふっ素を含むスラグの生成を余儀なくし、燐肥としての可能性を持つスラグでありながら結局は利用の途が閉ざされ、また廃棄するにも困難を伴う。このような事情から、CaOの融解を低い温度で実現するとともにP
2 O
5 の生成に寄与するFe
2 O
3 をCaOに帯同させ、そして予め溶融しておいて以後の融解を低温で実現できるようにしておけば、蛍石の採用を排除することもできるようになる。
【0006】
溶鋼中の燐は気体酸素や酸化鉄中の酸素で酸化されてP
2 O
5 となり、溶融石灰と反応してnCaO・P
2 O
5 となることは既に述べたが、このかたちでスラグ中へ移行して固定される。このために古くから燐分の多い鉄鉱石は酸性トーマス転炉等で精錬され、そのスラグがトーマス燐肥として利用されるなどした。
【0007】
ところで塩基性炉の発達もあって、P
2 O
5 の生成のために必要となる酸素源として、気体酸素やミルスケールなどが使用されるようになった。そのため、カルシウム・フェライトによる脱燐の研究も多くなされてきた。例えば特許文献1には、酸化鉄ダストに水を加えた泥漿と石灰石CaCO
3 とを混合して1,200℃以上で焼成し、これによって生石灰CaOの表面にカルシウム・フェライトを形成しておくことが記載されている。
【0008】
このカルシウム・フェライトで被覆された生石灰を滓化剤として溶湯に添加すると、吹錬終期において滓化が急速に進行していたのとは異なり、早い時期から溶解滓化を始めて精錬能率が改善される。このように脱燐・脱硫効果が上がるのは、融点の低いカルシウム・フェライトが、石灰石CaCO
3 を焼成することによって生じた生石灰の融解を促しているからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭39−25884号公報
【特許文献2】特開昭61−217513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
最初にも触れたが、酸化剤としてのミルスケール等と滓化剤としての生石灰と溶剤としての蛍石との混合物を用いる場合、脱燐を促進させるためには、1,300℃ないし1,470℃といった比較的低い温度において脱燐剤を迅速に滓化させて高塩基度のスラグを形成するようにしなければならない。そのため、脱燐剤の組成は、その融点が1,300℃以下となるように決めておく必要がある。しかし、単なる混合物であると融点の高い生石灰や酸化剤が偏在するにとどまり、脱燐処理時にスラグの形成が遅れ、ひいては脱燐反応に遅滞をきたす。
【0011】
このような背景を踏まえて、特許文献2においては、脱燐のために低融点のカルシウム・フェライトの組成を持つ焼結鉱を用いることが提案されている。この滓化剤を使用するにあたっては、脱燐を充分に行わせるため脱燐処理前の溶湯中のSi含有量を0.20%以下に低減しておくようにしている。これは、0.20%を超えると脱珪も脱燐反応と共に進行し、脱燐剤の歩留りを悪くするからという。そのカルシウム・フェライトの組成を持つ焼結鉱は、CaOとFe
2 O
3 のみならず、マンガン分が20重量%以下、ふっ素分が16重量%以下、場合によっては塩素分も21重量%以下を含ませたものとして、このような組成により滓化剤の低融点化を図ろうとしている。
【0012】
蛍石を入れるのは、脱珪した際の2CaO・SiO
2 が石灰の表面を覆っても、残りの生石灰が炉温で溶けて反応しやすくなるとの考えに立つ。しかし、融点が2,570℃もある生石灰の結合を弱めて融化を促進する蛍石は環境上問題の多いふっ素を含むため、蛍石を用いて生成された脱燐スラグは上記のごとく燐肥としての利用の途がなくなる。
【0013】
カルシウム・フェライトを用いて脱燐することは、以上の説明からも分かるように既に行われていることであるが、いずれも、生石灰にコーティングするなどして一体性を持たせた滓化剤となっている。それゆえ、カルシウム・フェライトによるP
2 O
5 の生成とその造滓化が可能となるが、脱燐が済んだ時点でカルシウム・フェライト中の酸化鉄分は消耗しているので、溶湯の温度が上昇して脱炭期に入ると折角スラグに固定しておいた燐分の一部が溶湯に復燐するという事態が生じる。
【0014】
本発明は上記した問題に鑑みなされたもので、その目的は、脱燐するにふさわしいカルシウム・フェライトを使用しつつも、造滓剤相互の協働滓化作用を実現すべく最も好適な滓化環境を作り出し、かつ脱炭期における復燐を可及的に抑制できるように、蛍石を添加することなく生石灰の融化を促進できるようにすると共に、それ自体が脱燐作用を高く発揮するカルシウム・フェライトである低温滓化性脱燐剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、溶鉄に含まれる燐酸分と反応して、スラグの生成を促す石灰系精錬剤に適用される。その特徴とするところは、生石灰に酸化鉄が添加され、加熱溶融により生じた溶融体が水砕されていることである。なお、水砕化脱燐剤5〜50重量%に非溶融生成生石灰95〜50重量%を混成させておくとよい。
【0016】
上記の石灰系脱燐剤に、アルミナAl
2 O
3 粉粒体が添加され、またはMgO粉粒体が添加され、もしくはその両方が混合された石灰系脱燐剤としておくこともできる。
【0017】
一方、加熱溶融体を生成するに際してAl
2 O
3 またはMgOを含ませ、もしくはその両方を含ませてガラス質化した石灰系脱燐剤とすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、加熱した生石灰と酸化鉄の溶融混合物は水砕により急冷されて結晶化が抑制され、生成されたカルシウム・フェライトはガラス化度の向上した非晶質砂粒となる。このような非晶性の滓化剤は同一組成を有した結晶性滓化剤に比べて低い温度や短時間で溶融し、溶解熱も小さくなって滓化性が著しく向上する。そのカルシウム・フェライトは溶解しやすく、不純物の除去効率が高く、溶湯温度損失も低減させる。ガラス化度の向上は大気中水分との反応も抑え、崩壊・粉化が少なくなって同一組成を有した結晶性滓化剤に比べて保存性も飛躍的に改善される。
【0019】
水砕化脱燐剤5〜50重量%に素焼き生石灰や塩焼き生石灰などの非溶融生成生石灰95〜50重量%を混成させ、両者をほぼ同時期に溶湯に投入すれば、生石灰よりも融点の低いカルシウム・フェライトが先に融けて生じた低温域にあって、カルシウム・フェライトと溶湯中の燐との反応が一気に進行する。以後、溶融したカルシウム・フェライトにより非溶融生成生石灰の融化も促され、燐酸分が生石灰によってスラグとして固定されやすくなる。
【0020】
上記したカルシウム・フェライト、または非溶融生成生石灰と混成されたものに、アルミナAl
2 O
3 が添加されれば、蛍石を添加した場合と同様に生石灰の溶融が促進され、しかも脱燐後のスラグが安定し、その後に燐の少なくなった溶湯の高温脱炭・清浄化操業をより一層容易にする。炉壁レンガの溶損原因となることもなく、塩基性スラグの塩基度を下げることなくスラグの流動性をよくし、炉内反応上大きな支障をきたすこともない。なお、アルミナに代えて、またはアルミナとともにMgOを添加しておけば、MgOが炉壁に用いられているマグネシア系耐火物に対してスラグ侵蝕を抑える効果を高める。
【0021】
加熱溶融体を生成するに際してAl
2 O
3 が添加されている場合には、CaO−Fe
2 O
3 −Al
2 O
3 の三元系となり、カルシウム・フェライトの融点を可及的に低くしておくことができる。このカルシウム・フェライトは脱燐作用を発揮するだけでなく、生石灰の溶融を助勢してその滓化作用を活発化する。
【0022】
加熱溶融体を生成するに際して上記のアルミナに代えてMgOが添加されるか、アルミナとともにMgOが添加されていると、マグネシア系耐火物に対してスラグ侵蝕を抑える効果を強める。CaO−Fe
2 O
3 −MgO三元系、もしくはCaO−Fe
2 O
3 −Al
2 O
3 −MgO四元系構成はガラス質滓化剤の一層の低温溶融を促す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る石灰系脱燐剤を、実施の形態を示して詳細に説明する。これは、金属精錬炉内の溶鉄に含まれる燐酸分等と反応して溶融スラグの生成を促進する石灰系フラックスを提供する。すなわち、滓化剤の溶融の迅速化(早期溶解性・高反応性)を実現して溶湯での低温滓化性の向上を図ろうとする。
【0024】
概略を述べれば、本発明は、脱燐剤としてふさわしいカルシウム・フェライトCalcium−Ferriteの粒化過程において滓化のための性状を改善すること、ならびにそのカルシウム・フェライトを素焼き生石灰もしくは塩焼き生石灰と併用し、カルシウム・フェライトと生石灰との協働滓化の相乗作用を促すべく最も好適な滓化環境を作り出そうとすることにある。加えて、蛍石を添加することなく生石灰の溶融化を促進して造滓作用の活性を図ると共に、脱燐スラグの肥料等としての利用の途を確保しようとする。
【0025】
この発明における石灰系脱燐剤は生石灰に酸化鉄が添加され、加熱溶融により生じた溶融体が水砕されているものである。この精錬剤は融点が例えば1,300℃以下に抑えられ、その滓化性の向上も図られる低温滓化性の脱燐剤とすることができる。原料は、素焼き生石灰CaOと酸化鉄FeO,Fe
2 O
3 などとされる。これら原料組成物は例えば反射炉や電気炉に投入して融解され、そして水砕される。
【0026】
加熱溶融した生石灰と酸化鉄の溶融混合物は水砕により急冷されるために結晶化が抑制され、生成されたカルシウム・フェライトはガラス化度が向上した非晶質固体となる。このような非晶質な造滓材は同一組成を有する結晶性の造滓材に比べて低い温度や短時間で溶融し、溶解熱も小さくなるとともに滓化性も向上する。この精錬剤は溶解しやすいため不純物除去効率が高く、溶湯温度損失を低減させる。また、使用量単位を下げることができるので、スラグの発生量も少なくなり、その処理の低廉化が図られる。
【0027】
まず、反射炉または電気炉における処理から述べる。例えば、生石灰30ないし50重量%,酸化鉄70ないし50重量%の組成となるように、石灰石と酸化鉄とを反射炉に投入して融解する。完全に融解した後に炉体を傾け溶融状態にあるカルシウム・フェライトを直接水槽に投入して急冷する。水砕されて薄片状または1ミリメートル前後の砂粒状の外観を呈して槽底のベルトコンベア上に堆積する。その時点で結晶化が進む前に固化してしまうため非晶質な固体となる。こうして得られたガラス状の滓化剤は同一組成を有する結晶性滓化剤に比べて低温で軟化または溶融し、その際に消費される熱エネルギも結晶性のものに比べて少なくなる。なお、直接水槽に投入することに代えて、溶解物に圧力水を噴射するなどして水砕することもできる。
【0028】
水槽から運び出された後はドライヤ設備により乾燥される。ガラス化度が向上しているゆえに、空気中の水分と反応して崩壊し粉末化しようとするのが抑制され、同一組成を有する結晶性のものに比べて保存性が著しく向上する。
【0029】
上記した溶融操作は反射炉にかぎらず、電気炉によっても行うことができる。反射炉では火炎の伝導熱と炉蓋等からの輻射熱で加熱され、電気炉ではアーク熱もしくは電気抵抗熱で加熱することができる。いずれも、炉内には装入物を飛散させる要因がないので、原料である石灰・酸化鉄にはほとんど前処理を施すことなく投入が可能となり、製造中の取り扱いが簡素化される。
【0030】
なお、石灰石を溶融すべく加熱すれば800℃前後の時点で生石灰となる。そこで、原料として生石灰を準備してもよいが、それを使用するまでもなく採掘した石灰石を砕いておけばそのまま使用することもできる。もちろん、所望する組成比率とするためには、分子量を考慮して生石灰の必要量の少なくとも100/56=1.8倍を使用するなどの配慮がなされる。
【0031】
本発明者は、カルシウム・フェライトが溶銑や溶鋼などの溶融金属と直接接触するところでは、生石灰より早期に溶融するカルシウム・フェライトの周囲に生じる低温域において、燐がカルシウム・フェライトと活発に反応するという知見をすでに得ており、この知見をより利用しやすくしようとしたものが本発明である。すなわち、酸化性雰囲気において低温部位でカルシウム・フェライトの酸化鉄分による脱燐反応が急速に進行すると、これが全体に波及して脱燐が活発に展開される。
【0032】
ここで、脱燐法の一例を述べる。生石灰CaOと同時もしくは少し早い時期にカルシウム・フェライトを、溶湯に投入する。滓化に際して、脱燐性が向上するように、水砕化脱燐剤5〜50重量%に対して、素焼き生石灰や塩焼き生石灰などの非溶融生成生石灰は95〜50重量%で混成される。生石灰よりも融点の低いカルシウム・フェライトが先に融けて生じた低温域にあって、カルシウム・フェライトと溶湯中の燐との反応が優先して進行する。以後は、溶融したカルシウム・フェライトにより非溶融生成生石灰の融化も促され、燐酸分が生石灰によってスラグとして固定されやすくなる。なお、脱炭後の最終スラグの塩基度(CaO/SiO
2 )が3.5ないし4.5となるようにしておくことが好ましい。
【0033】
ちなみに、水砕化脱燐剤5重量%以上を非溶融生成生石灰95重量%以下に混成させているのは、前者による脱燐性が発現できるようにするためであることは言うまでもない。一方、水砕化脱燐剤は多くても50重量%にとどめられ、非溶融生成生石灰は残量である50重量%以上とされているのは、溶湯中の燐との反応が先行したカルシウム・フェライトにより非溶融生成生石灰の融化が促されることによっての脱燐作用を発揮させやすくするためである。製造コストが高いカルシウム・フェライトの使用量抑制にも寄与する。
【0034】
ところで、カルシウム・フェライトの水砕物は粒度にばらつきがあるにしても0.5ないし2ミリメートル程度であり、そのまま炉頂投入用に供することができる。一方、インジェクションに使用する場合は、水砕物が0.05ミリメートル以下とされるが、水砕物の脆さは微粉化に要するエネルギの軽減に大いに寄与する。
【0035】
上記のようにカルシウム・フェライトと生石灰とが混在した状態にあると、低融点のカルシウム・フェライトが溶け出すと共にその部分の溶湯温度の上昇が抑えられ、フェライト中の酸素分を得て燐分の酸化が急激に進行する。生じたP
2 O
5 は溶けて活性化されたCaOと結合し、CaO・P
2 O
5 のかたちでスラグ化される。脱燐がほぼ終了すると、溶湯を他の転炉に移しかえるまでもなく直ちに脱炭工程に入ることができ、CaOによって脱炭スラグを生成させることができる。
【0036】
生石灰とカルシウム・フェライトとは、転炉へほぼ同時期に投入されることも多い。溶融しにくいCaOが存在するので酸素吹錬によってCaOと接触する溶湯の温度が上昇しても、カルシウム・フェライトが溶融したところでは湯温の上昇が抑えられて低温部が生じ、その部分で脱燐にふさわしい条件が整う。融けたカルシウム・フェライトの酸化鉄分FeO,Fe
2 O
3 が燐と急速に反応し、それが全体に波及してP
2 O
5 の生成が進められる。
【0037】
これから分かるように、生石灰が存在してはじめてカルシウム・フェライトの脱燐作用は顕著に現れ、一方、カルシウム・フェライトの存在があってCaOの溶融が促され、生成されたP
2 O
5 を融化された生石灰に反応させて脱燐スラグ化が助長される。このように、カルシウム・フェライトと生石灰とは相互に他方の作用を助勢すべく働きかけ、その相乗効果の高い脱燐率が発揮される。
【0038】
ところで、石灰石は製鉄等の精錬分野のみならずセメント製造工場においても大量に消費される。わが国には石灰岩が豊富に存在するといっても、それぞれの産業分野における処理工程にふさわしい原料のみが使用される。すなわち、いずれもキルンで焼成する工程があるため、粉化する原料であれば焼成中に飛び散って炉内を流通する熱ガスに持ち去られ、焼成できなくなってしまう。
【0039】
上記したように融解処理する場合には粉化は問題とならず、却って粉化により酸化鉄と混ざりやすく、また反応性を増進させる。したがって、今まで見向きもされなかった大きさの結晶粒子の石灰岩も使用することができるようになり、廉価に入手できることになって都合がよい。
【0040】
ところで、上で述べた酸化鉄としては圧延機のミルスケールや加熱炉から出るスケールを使用すればよいが、焼結鉱,砂鉄,鉄鉱石といったものでもよく、要は鉄系固体酸化物であればよい。
【0041】
蛍石を使用しないから、スラグを肥料として使用してもふっ素で環境破壊を招く虞もなければ、二次的被害の発生要因を含むこともない。しかも、造滓剤のトータルの投入量が少なくなり、結果として排滓量の抑制も図られる。
【0042】
ところで、上記したカルシウム・フェライト、または非溶融生成生石灰と混成されたものに、アルミナAl
2 O
3 を添加することもできる。蛍石を添加した場合と同様に生石灰の溶融が促進され、しかも脱燐後のスラグが安定して、その後に燐の少なくなった溶湯の高温脱炭・清浄化操業をより一層容易とする。炉壁レンガの溶損原因となることもなく、塩基性スラグの塩基度を下げることなくスラグの流動性をよくし、炉内反応上大きな支障をきたすこともない。なお、Al
2 O
3 の添加によって、CaO−Fe
2 O
3 −Al
2 O
3 の三元系となることにより、その融点はより一層下がる傾向となる。なお、アルミナとしてはアルミ灰(アルミ精錬灰)やボーキサイトを用いればよい。
【0043】
ちなみに、上記のアルミナに代えて、またはアルミナとともにMgOを添加すれば、MgOが炉壁に用いられているマグネシア系耐火物に対してスラグ侵蝕を抑える効果を強める。
【0044】
加熱溶融体を生成するに際してAl
2 O
3 を添加し、CaO25ないし40重量%,Fe
2 O
3 50ないし70重量%,Al
2 O
3 2ないし10重量%から構成されるカルシウム・フェライトとしておけば、その融点を可及的に低くしておくことができる。ましてやAl
2 O
3 が含まれているため三元系となって、一層の融点降下を促すことができる。このようなカルシウム・フェライトは脱燐作用を発揮するだけでなく、生石灰の溶融を助勢してその滓化作用を活発なものにする。言うまでもなくガラス質の滓化剤となっているわけで、滓化剤としての寄与は上記したごとくアルミナをカルシウム・フェライトに爾後的に混成させる場合よりはその活性の早期化を果たさせやすいものとなる。
【0045】
カルシウム・フェライト中にMgOを含ませたり、これにAl
2 O
3 を追加しておく場合も、それぞれの効能が先行することにもなる。すなわち、CaO−Fe
2 O
3 −MgO三元系、もしくはCaO−Fe
2 O
3 −Al
2 O
3 −MgO四元系構成のガラス質剤の一層の低温溶融を促した脱燐作用が発揮される。