特開2017-44253(P2017-44253A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キーパー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2017044253-密封装置の組付方法及び密封装置 図000003
  • 特開2017044253-密封装置の組付方法及び密封装置 図000004
  • 特開2017044253-密封装置の組付方法及び密封装置 図000005
  • 特開2017044253-密封装置の組付方法及び密封装置 図000006
  • 特開2017044253-密封装置の組付方法及び密封装置 図000007
  • 特開2017044253-密封装置の組付方法及び密封装置 図000008
  • 特開2017044253-密封装置の組付方法及び密封装置 図000009
  • 特開2017044253-密封装置の組付方法及び密封装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-44253(P2017-44253A)
(43)【公開日】2017年3月2日
(54)【発明の名称】密封装置の組付方法及び密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20170210BHJP
   F16J 15/00 20060101ALI20170210BHJP
【FI】
   F16J15/32 311T
   F16J15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-166464(P2015-166464)
(22)【出願日】2015年8月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000104490
【氏名又は名称】キーパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】松井 規真
(72)【発明者】
【氏名】高畠 誠聡
【テーマコード(参考)】
3J006
【Fターム(参考)】
3J006AE15
3J006AE37
3J006AE41
3J006CA01
(57)【要約】
【課題】圧入治具により密封装置を組み付ける際に、保護カバー等の別部品を利用することなく、セレーションや傷等の障害物に起因するシールリップの損傷を防止して密封性を確保する。
【解決手段】内側部材1及び外側部材2のいずれかの相手部材に接触するシールリップ7を備える密封装置4を、圧入治具3を利用して内側部材1と外側部材2との間の空間に圧入して組み付ける密封装置4の組付方法において、シールリップ7を径方向に変形させてリップ先端8を相手部材から離間させた状態で圧入を行い、密封装置4を最終取付位置まで圧入後、シールリップ7の変形を解除するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側部材及び外側部材のいずれかの相手部材に接触するシールリップを備える密封装置を、圧入治具を利用して前記内側部材と前記外側部材との間の空間に圧入して組み付ける密封装置の組付方法において、
前記シールリップを径方向に変形させてリップ先端を前記相手部材から離間させた状態で前記圧入を行い、前記密封装置を最終取付位置まで圧入後、前記シールリップの変形を解除することを特徴とする密封装置の組付方法。
【請求項2】
内側部材及び外側部材のいずれかの相手部材に接触するシールリップを備え、圧入治具を利用して前記内側部材と前記外側部材との間の空間に圧入して組み付けられる密封装置において、
前記圧入治具から付与される押圧力により前記圧入に先駆けて前記シールリップを径方向に変形させてリップ先端を前記相手部材から離間させる押圧部が、前記シールリップの機器外部側斜面に設けられていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置の組付方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、特に、オイルシール、ダストシール及びアウターシール等のラジアルシール全般に適用して好適な密封装置の組付方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
軸等の内側部材やその周囲を覆うハウジング等の外側部材(外側機器ともいう)との間の空間に組み付けられる密封装置には、機器内部への異物等の侵入防止や機器内部からの潤滑剤等の漏洩防止のためにシールリップが備えられている。
【0003】
シールリップは、内側部材及び外側部材のいずれかの相手部材に締代をもって接触する。例えば図7に示すように、軸等の内側部材101にシールリップ107が接触する場合、密封装置104のシールリップ107の内周径h1は、内側部材101の外周径h2よりも小さくなるように設計される(h1<h2)。これにより、シールリップ107が内側部材101に締代をもって接触する。また、例えば図8に示すように、ハウジング等の外側部材102にシールリップ107が接触する場合、シールリップ107の外周径h3は、外側部材102の内周径h4よりも大きくなるように設計される(h3>h4)。これにより、シールリップ107が外側部材102に締代をもって接触する。
【0004】
ここで、圧入治具(取付け治具、取付けジグともいう)103を利用して内側部材101と外側部材102との間の空間に密封装置104を圧入して組み付ける際、組み付け中にシールリップ107が滑る面(シールリップ107が内側部材101と接触する場合は内側部材101の外周面、シールリップ107が外側部材102と接触する場合は外側部材102の内周面)にセレーションや傷等の障害物があると、シールリップ107が接触して損傷し、密封性を確保できなくなることがある。
【0005】
そこで、圧入治具103を利用して密封装置104を組み付ける際に、このような障害物によりシールリップ107が損傷するのを防止する方法として、保護カバー(保護治具ともいう)を利用して障害物を覆った上で密封装置104の組み付けを行う方法が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】オイルシール国際規格 ISO6194(1990年10月1日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、保護カバーを利用する場合には、シールリップが接触する相手部材に対して保護カバーを着脱する工程が必須となる。そうすると、その分だけ工数が増加してしまう問題がある。また、相手部材の形状に合わせて保護カバーを作製する必要があり、そのための費用が発生してしまう問題もある。さらに、作製した保護カバーに傷や汚れ等がつかないように保管する手間や保管場所の確保が必要になるという問題もある。したがって、圧入治具を利用した密封装置の組み付けは、保護カバー等の別部品を利用せずに行うことが望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、圧入治具により密封装置を組み付ける際に、保護カバー等の別部品を利用することなく、セレーションや傷等の障害物に起因するシールリップの損傷を防止して密封性を確保することのできる密封装置の組付方法、さらにはこの密封装置の組付方法に用いて好適な密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、本発明の密封装置の組付方法は、内側部材及び外側部材のいずれかの相手部材に接触するシールリップを備える密封装置を、圧入治具を利用して内側部材と外側部材との間の空間に圧入して組み付ける密封装置の組付方法において、シールリップを径方向に変形させてリップ先端を相手部材から離間させた状態で圧入を行い、密封装置を最終取付位置まで圧入後、シールリップの変形を解除するようにしている。
【0010】
また、本発明の密封装置は、内側部材及び外側部材のいずれかの相手部材に接触するシールリップを備え、圧入治具を利用して内側部材と外側部材との間の空間に圧入して組み付けられる密封装置において、圧入治具から付与される押圧力により圧入に先駆けてシールリップを径方向に変形させてリップ先端を相手部材から離間させる押圧部が、シールリップの機器外部側斜面に設けられているものとしている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、圧入治具により密封装置を組み付ける際に、保護カバー等の別部品を利用することなく、セレーションや傷等の障害物に起因するシールリップの損傷を防止して密封性を確保することが可能となる。
【0012】
したがって、保護カバー等の別部品の着脱工程を省略して、保護カバー等の別部品を利用する場合よりも作業工数を低減することができる。また、保護カバー等の別部品の製作費用及び管理費用(保管場所の確保、及び保護カバー等の別部品に傷や汚れがつかないような管理等)を削減することができる。
【0013】
また、相手部材の表面にセレーションや傷等の障害物がある場合だけでなく、拡径部又は縮径部を形成することで生じる段差等によって相手部材の径にばらつきがある場合においても、シールリップを損傷させることなく最終取付位置まで移動させることができる。したがって、相手部材の径のばらつきに関係なく密封装置を最終取付位置に装着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る密封装置の組付方法の第一実施形態について、押圧部をオイルシールに設けた場合の一例を示す断面図である。
図2】本発明に係る密封装置の組付方法の第一実施形態について、押圧部を圧入治具に設けた場合の一例を示す断面図である。
図3】本発明に係る密封装置の組付方法の第一実施形態について、押圧部をオイルシールと圧入治具の双方に設けた場合の一例を示す断面図である。
図4】本発明に係る密封装置の組付方法の第一実施形態について、押圧部をオイルシールと圧入治具の双方に設けた場合の他の例を示す断面図である。
図5】本発明に係る密封装置の組付方法の第二実施形態の一例を示す断面図である。
図6】本発明に係る密封装置の組付方法の第三実施形態の一例を示す断面図である。
図7】従来の密封装置の組み付け状態の一例を示す断面図である。
図8】従来の密封装置の組み付け状態の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
なお、以降の説明では、圧入治具3の押圧面のうち圧入時にオイルシール4の後面5aと接触する部分を第一押圧面3aと呼び、圧入治具3の押圧面のうちオイルシール4のシールリップ7と向かい合う面を第二押圧面3bと呼ぶ。
【0017】
<第一実施形態>
まず、本発明の第一実施形態として、密封装置がオイルシールであり、オイルシールのシールリップが内側部材に接触する場合を例に挙げて図1図4に基づいて説明する。なお、図1図4において、右側が機器外部側であり、左側が機器内部側である。
【0018】
第一実施形態に係る密封装置の組付方法は、内側部材である軸1に接触するシールリップ7を備えるオイルシール4を、圧入治具3を利用して軸1と外側部材であるハウジング2との間の空間に圧入して組み付ける方法であり、シールリップ7を径方向(オイルシール4の径方向外側)に変形させてリップ先端8を軸1から離間させた状態で圧入を行い、オイルシール4を最終取付位置まで圧入後、シールリップ7の変形を解除するようにしている。
【0019】
第一実施形態において、シールリップ7は、オイルシール4の内周側に備えられている。そして、シールリップ7の機器外部側(非密封流体側)斜面7aと機器内部側(密封流体側)の面7bとによりリップ先端8が形成されている。シールリップ7の内周径h1は軸1の外周径h2よりも小さくなるように設計されている(h1<h2)。
【0020】
第一実施形態に係る密封装置の組付方法においては、シールリップ7を径方向(オイルシール4の径方向外側)に変形させてリップ先端8を軸1から離間させた状態でオイルシール4の圧入が行われる。つまり、シールリップの内周径h1と軸1の外周径h2の大小関係をh1<h2からh1>h2に逆転させた状態でオイルシール4の圧入が行われる。
【0021】
そのための手段として、例えばオイルシール4に押圧部9が設けられる。押圧部9は、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、圧入治具3の第二押圧面3bが押圧部9に接触するように設けられる。
【0022】
例えば、図1では、押圧部9として、軸方向に平行又は略平行な環状突起をシールリップ7の機器外部側斜面7aにシールリップ7と一体的に設け、環状突起の先端をオイルシール4の後面5aよりも機器外部側に突出させるようにしている。したがって、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、圧入治具3の第二押圧面3bが押圧部9としての環状突起の先端に接触する。
【0023】
ここで、押圧部9は、オイルシール4ではなく、圧入治具3に設けるようにしてもよい。この場合、押圧部9は、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、シールリップ7の機器外部側斜面7aに押圧部9が接触するように設けられる。
【0024】
例えば、図2では、押圧部9として、軸方向に平行又は略平行な環状突起を圧入治具3の第二押圧面3bに圧入治具3と一体的に設けるようにしている。そして、環状突起の長さを、オイルシール4の後面5aを軸方向に垂直に延長した平面Aからシールリップ7の機器外部側斜面7aまでの距離よりも長いものとしている。したがって、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、シールリップ7の機器外部側斜面7aに押圧部9としての環状突起の先端が接触する。
【0025】
また、押圧部9は、オイルシール4と圧入治具3の双方に設けるようにしてもよい。なお、以降の説明において、押圧部9をオイルシール4と圧入治具3の双方に設ける場合には、オイルシール4に設けられた押圧部9を第一押圧部9aと呼び、圧入治具3に設けられた押圧部9を第二押圧部9bと呼ぶ。
【0026】
この場合、第一押圧部9a及び第二押圧部9bは、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、第一押圧部9aの機器外部側後端と第二押圧部9bの先端が接触するように設けられる。
【0027】
例えば、図3では、第一押圧部9aとして、軸方向に平行又は略平行な環状突起をシールリップ7の機器外部側斜面7aにシールリップ7と一体的に設けるようにしている。また、第二押圧部9bとして、軸方向に平行又は略平行な環状突起を圧入治具3の第二押圧面3bに圧入治具3と一体的に設けるようにしている。この場合、第一押圧部9aの機器外部側後端は、第一押圧部9aの先端となる。そして、双方の環状突起の先端どうしが接触したときの環状突起の合計の長さを、オイルシール4の後面5aを軸方向に垂直に延長した平面Aからシールリップ7の機器外部側斜面7aまでの距離よりも長いものとしている。したがって、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、第一押圧部9aとしての環状突起の先端と第二押圧部9bとしての環状突起の先端が接触する。
【0028】
ここで、押圧部9をオイルシール4と圧入治具3の双方に設ける場合、第一押圧部9aは必ずしも軸方向に平行又は略平行なものとせずともよく、径方向内側に向けて突出するようにしてもよい。例えば、図4では、第一押圧部9aとして、径方向内側に向けて突出させた環状突起をシールリップ7の機器外部側斜面7aにシールリップ7と一体的に設けるようにしている。また、第二押圧部9bとして、軸方向に平行又は略平行な突起を圧入治具3の第二押圧面3bに圧入治具3と一体的に設けるようにしている。そして、第二押圧部9bとしての突起の長さを、オイルシール4の後面5aを軸方向に垂直に延長した平面Aから第一押圧部9aとしての突起の機器外部側後端までの距離よりも長いものとしている。したがって、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、第一押圧部9aとしての環状突起の機器外部側後端に第二押圧部9bとしての環状突起の先端が接触する。
【0029】
よって、押圧部9をオイルシール4のみに設けた場合、あるいは、圧入治具3のみに設けた場合、もしくはオイルシール4と圧入治具3の双方に設けた場合のいずれの場合においても、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、圧入治具3からの押圧力をシールリップ7に伝えることができる。これにより、シールリップ7を径方向(オイルシール4の径方向外側)に変形させてリップ先端8を軸1から離間させることができる。したがって、オイルシール4の設計時におけるシールリップ7の内周径h1と軸1の外周径h2の大小関係を逆転させた状態、即ち、h1<h2からh1>h2に逆転させた状態で、圧入治具3の第一押圧面3aをオイルシール4の後面5aに接触させて、オイルシール4を圧入することができる。故に、リップ先端8を軸1に接触させることなく、オイルシール4を最終取付位置まで圧入して装着することができるので、軸1の外周面の障害物に起因するシールリップ7の損傷を防止することができる。
【0030】
そして、オイルシール4を最終取付位置まで圧入した後、圧入治具3をオイルシール4から離すことによって、シールリップ7の変形を解除することができる。これにより、シールリップ7の内周径h1と軸1の外周径h2の大小関係をオイルシール4の設計時の関係に戻すことができる。即ち、h1>h2からh1<h2に戻すことができる。したがって、最終取付位置において、シールリップ7を軸1に締代をもって接触させ、密封性を確保することができる。
【0031】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態として、密封装置がオイルシールであり、オイルシールのシールリップが外側部材に接触する場合を例に挙げて図5に基づいて説明する。なお、図5において、右側が機器外部側であり、左側が機器内部側である。
【0032】
第二実施形態に係る密封装置の組付方法は、外側部材であるハウジング2に接触するシールリップ7を備えるオイルシール4を、圧入治具3を利用して内側部材である軸1とハウジング2との間の空間に圧入して組み付ける方法であり、シールリップ7を径方向(オイルシール4の径方向内側)に変形させてリップ先端8をハウジング2から離間させた状態で圧入を行い、オイルシール4を最終取付位置まで圧入後、にてシールリップ7の変形を解除するようにしている。
【0033】
第二実施形態において、シールリップ7は、オイルシール4の外周側に備えられている。そして、シールリップ7の機器外部側(非密封流体側)斜面7aと機器内部側(密封流体側)の面7bとによりリップ先端8が形成されている。シールリップ7の外周径h3はハウジング2の内周径h4よりも大きくなるように設計されている(h3>h4)。
【0034】
第二実施形態に係る密封装置の組付方法においては、シールリップ7を径方向(オイルシール4の径方向内側)に変形させてリップ先端8をハウジング2から離間させた状態で圧入が行われる。つまり、シールリップの外周径h3とハウジング2の内周径h4の大小関係をh3>h4からh3<h4に逆転させた状態でオイルシール4の圧入が行われる。
【0035】
そのための手段として、例えばオイルシール4に押圧部9が設けられる。押圧部9は、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、圧入治具3の第二押圧面3bが押圧部9に接触するように設けられる。
【0036】
例えば、図5では、押圧部9として、軸方向に平行又は略平行な環状突起をシールリップ7の機器外部側斜面7aにシールリップ7と一体的に設け、環状突起の先端をオイルシール4の後面5aよりも機器外部側に突出させるようにしている。したがって、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、圧入治具3の第二押圧面3bが押圧部9としての環状突起の先端に接触する。
【0037】
よって、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、圧入治具3からの押圧力をシールリップ7に伝えることができる。これにより、シールリップ7を径方向(オイルシール4の径方向内側)に変形させてリップ先端8をハウジング2から離間させることができる。したがって、オイルシール4の設計時におけるシールリップ7の外周径h3とハウジング2の内周径h3の大小関係を逆転させた状態、即ち、h3>h4からh3<h4に逆転させた状態で、圧入治具3の第一押圧面3aをオイルシール4の後面5aに接触させて、オイルシール4を圧入することができる。故に、リップ先端8をハウジング2に接触させることなく、オイルシール4を最終取付位置まで圧入して装着することができるので、ハウジング2の内周面の障害物に起因するシールリップ7の損傷を防止することができる。
【0038】
そして、オイルシール4を最終取付位置まで圧入した後、圧入治具3をオイルシール4から離すことによって、シールリップ7の変形を解除することができる。これにより、シールリップ7の外周径h3とハウジング2の内周径h4の大小関係をオイルシール4の設計時の関係に戻すことができる。即ち、h3<h4からh3>h4に戻すことができる。したがって、最終取付位置において、シールリップ7をハウジング2に締代をもって接触させ、密封性を確保することができる。
【0039】
なお、第二実施形態においても、第一実施形態と同様に、押圧部9を、オイルシール4ではなく、圧入治具3に設けるようにしてもよいし、オイルシール4と圧入治具3の双方に設けるようにしてもよい。また、押圧部9をオイルシール4と圧入治具3の双方に設ける場合には、第一実施形態と同様に、第一押圧部9aとして、軸方向に平行又は略平行な環状突起をシールリップ7の機器外部側斜面7aにシールリップ7と一体的に設けるようにし、第二押圧部9bとして、軸方向に平行又は略平行な環状突起を圧入治具3の第二押圧面3bに圧入治具3と一体的に設けるようにしてもよい。また、第一押圧部9aは必ずしも軸方向に平行又は略平行なものとせずともよく、径方向外側に向けて突出するようにしてもよい。これらの場合にも、上記と同様、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、圧入治具3からの押圧力をシールリップ7に伝えることができ、本発明の作用・効果が奏される。
【0040】
<第三実施形態>
次に、本発明の第三実施形態として、オイルシールを第二実施形態とは逆向きに組み付ける場合を例に挙げて図6に基づいて説明する。なお、図6において、右側が機器外部側であり、左側が機器内部側である。
【0041】
第三実施形態に係る密封装置の組付方法は、外側部材であるハウジング2の内周に接触するシールリップ7を備えるオイルシール4を、圧入治具3を利用して内側部材である軸1とハウジング2との間の空間に圧入して組み付ける方法である。オイルシール4の基本構成は第二実施形態と共通しているが、第三実施形態では、オイルシール4は第二実施形態とは逆向きに取り付けられる。つまり、第三実施形態では、第一実施形態及び第二実施形態におけるオイルシール4の後面5aが機器内部側を向くように配置される。したがって、第三実施形態では、第一実施形態及び第二実施形態におけるオイルシール4の前面5bに相当する部分が後面となる。また、第三実施形態では、第一実施形態及び第二実施形態におけるシールリップ7の機器外部側(非密封流体側)斜面7aが機器内部側(密封流体側)を向き、シールリップ7の機器内部側(密封流体側)斜面7bが機器外部側(非密封流体側)を向く。
【0042】
なお、第三実施形態において、シールリップ7の外周径h3はハウジング2の内周径h4よりも大きくなるように設計されている(h3>h4)。
【0043】
第三実施形態に係る密封装置の組付方法においては、シールリップ7を径方向(オイルシール4の径方向内側)に変形させてリップ先端8をハウジング2から離間させた状態で圧入が行われる。つまり、シールリップの外周径h3とハウジング2の内周径h4の大小関係をh3>h4からh3<h4に逆転させた状態でオイルシール4の圧入が行われる。
【0044】
そのための手段として、例えばオイルシール4と圧入治具3の双方に押圧部9が備えられる。具体的には、第一押圧部9a及び第二押圧部9bが、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5bに接触するのに先駆けて、第一押圧部9aの機器外部側後端と第二押圧部9bの先端とが接触するように設けられる。
【0045】
例えば、図6では、第一押圧部9aとして、先端を軸1に向けた環状突起をシールリップ7の機器内部側斜面7aに対向する面7cにシールリップ7と一体的に設けるようにしている。なお、シールリップ7の機器内部側斜面7aに対向する面7cは、第三実施形態においてシールリップ7の機器外部側斜面となる。また、第二押圧部9bとして、軸方向に平行又は略平行な環状突起を圧入治具3の第二押圧面3bに圧入治具3と一体的に設けるようにしている。そして、第二押圧部9bとしての突起の長さを、オイルシール4の後面5bを軸方向に垂直に延長した平面Bから第一押圧部9aとしての突起の機器外部側後端までの距離よりも長いものとしている。したがって、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5bに接触するのに先駆けて、第一押圧部9aとしての突起の機器外部側後端に第二押圧部9bの先端が接触する。
【0046】
よって、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5bに接触するのに先駆けて、圧入治具3からの押圧力がシールリップ7に伝えることができる。これにより、シールリップ7を径方向(オイルシール4の径方向内側)に変形させてリップ先端8をハウジング2から離間させることができる。したがって、オイルシール4の設計時におけるシールリップ7の外周径h3とハウジング2の内周径h3の大小関係を逆転させた状態、即ち、h3>h4からh3<h4に逆転させた状態で、圧入治具3の第一押圧面3aをオイルシール4の後面5bに接触させて、オイルシール4を圧入することができる。故に、リップ先端8をハウジング2に接触させることなく、オイルシール4を最終取付位置まで圧入して装着することができるので、ハウジング2の内周面の障害物に起因するシールリップ7の損傷を防止することができる。
【0047】
そして、オイルシール4を最終取付位置まで圧入した後、圧入治具3をオイルシール4から離すことによって、シールリップ7の変形を解除することができる。これにより、シールリップ7の外周径h3とハウジング2の内周径h4の大小関係をオイルシール4の設計時の関係に戻すことができる。即ち、h3<h4からh3>h4に戻すことができる。したがって、最終取付位置において、シールリップ7をハウジング2に締代をもって接触させ、密封性を確保することができる。
【0048】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0049】
例えば、上述の実施形態では、オイルシール4の基本構造を、補強環6がゴム材料5で覆われて接着され、ゴム材料5にシールリップ7が一体的に設けられた外周ゴムオイルシールとしたが、オイルシール4の基本構造は、本発明の作用・効果が奏される限り、このような構造には限定されない。
【0050】
また、押圧部9(第一押圧部9a及び第二押圧部9b)の形状や構造等は、圧入治具3から付与される押圧力によりオイルシール4の圧入に先駆けてシールリップ7を径方向に変形させてリップ先端8を相手部材である内側部材又は外側部材から離間させる機能が発揮される限り、上述した形状や構造等に限定されるものではない。
【0051】
例えば、上述の実施形態では、オイルシール4に押圧部9(第一押圧部9a)を設ける場合、環状突起をシールリップ7と一体的に形成するようにしていたが、環状突起はシールリップ7とは別体として形成し、所定位置に接着等するようにしても構わない。また、圧入治具3に押圧部9(第二押圧部9b)を設ける場合、環状突起を圧入治具3と一体的に形成するようにしていたが、環状突起は圧入治具3とは別体として形成し、所定位置に溶接等するようにしても構わない。
【0052】
また、上述の実施形態では、押圧部9(第一押圧部9a及び第二押圧部9b)を環状突起としたが、環状突起の環状構造は必ずしも連続的なものとせずともよく、1又は複数の切欠を設けたり、あるいは間欠的・断続的なものとしてもよい。また、必ずしも環状構造とせずともよく、圧入治具3から付与される押圧力によりオイルシール4の圧入に先駆けてシールリップ7を径方向に変形させてリップ先端8を相手部材である内側部材又は外側部材から離間させる機能が発揮されるのであれば、シールリップ7の機器外部側斜面7a、7cに複数の突起を一定の規則性をもって又はランダムに設けるようにしても構わない。
【0053】
また、上述の第三実施形態では、押圧部9をオイルシール4と圧入治具3の双方に設ける場合について説明したが、押圧部9をオイルシール4のみに設けるようにしてもよい。例えば、図6に示した第二押圧部9bを、圧入治具3ではなく第一押圧部9aの機器外部側の後端に接続し、第一押圧部9aの形状を断面略L字型にすることによっても、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5bに接触するのに先駆けて、圧入治具3からの押圧力をシールリップ7に伝えることができる。したがって、この場合にも、本発明の作用・効果が同様に奏される。
【0054】
同様に、上述の第一実施形態において、図4に示した第二押圧部9bについても、圧入治具3ではなく第一押圧部9aの機器外部側の後端に接続し、第一押圧部9aの形状を断面略L字型にすることによって、オイルシール4の圧入の際に、圧入治具3の第一押圧面3aがオイルシール4の後面5aに接触するのに先駆けて、圧入治具3からの押圧力をシールリップ7に伝えることができる。したがって、この場合にも、本発明の作用・効果が同様に奏される。
【0055】
なお、押圧部9をオイルシール4のみに設ける場合、圧入治具3の押圧面に突起を形成せずともフラットな状態で本発明を実施することができる。したがって、押圧面がフラットな既存の圧入治具を利用して本発明を実施することができる。
【0056】
また、上述の実施形態では、本発明の密封装置の組付方法について、密封装置としてオイルシールを用いた場合を例に挙げて説明したが、密封装置はオイルシールに限定されるものではなく、ダストシールやアウターシール等のラジアルシール全般を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 内側部材(軸)
2 外側部材(ハウジング)
3 圧入治具
4 密封装置(オイルシール)
7 シールリップ
7a、7c シールリップの機器外部側斜面
8 リップ先端
9 押圧部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8