【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)タンパク質を用いた受容野型フィルター素子による画像処理2015年第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集 平成27年2月26日発行 (2)タンパク質を用いた受容野型フィルター素子による画像処理2015年第62回応用物理学会春季学術講演会にて発表 平成27年3月13日発表
【解決手段】 光フィルタ素子は、それぞれが透明電極を有して互いに対向する第1基板及び第2基板と、前記第1基板の前記第2基板との対向面に第1のパターンで形成される第1光受容タンパク質膜と、前記第2基板の前記第1基板との対向面に第2のパターンで形成される第2光受容タンパク質膜と、前記第1基板と前記第2基板の間に充填される電解質溶液と、前記第1基板の前記第1光受容タンパク質膜と反対側の面に配置されるマスクと、を有し、前記マスクは、ガボール関数を多値化した開口パターンを有する。
前記プロジェクタは、前記ライン・アンド・スペースパターンのサイズが、前記マスクの前記開口パターンの設計波長に一致するように、前記画像を拡大して前記開口パターン上に投影し、走査することを特徴とする請求項4に記載の欠陥検出システム。
一対の透明電極基板の間に電解質溶液を介して保持される光受容タンパク質膜を有するセルと、前記光セルの入射面に配置され所定の開口パターンを有するマスクと、前記一対の透明電極基板の何れか一方に形成されるアンテナパターンとを有する光セルと、
前記光セルの前記マスクに対向する位置に配置される光源と、
を有し、
前記アンテナパターンは、前記光源と前記開口パターンの間を横切るバー状の物体の数及び/または方向に応じた出力波形の信号を送信する、
ことを特徴とする光センサ。
【背景技術】
【0002】
バクテリオロドプシンは高度好塩菌がもつ光受容タンパク質であり、動物の網膜等に存在する視物質(光受容タンパク質)のロドプシンと同様の構造と機能をもつ。バクテリオロドプシン(適宜、「bR」と略称する)は、人間の視覚と同じ微分応答反応を再現できることから、方向センサや速度センサへの応用が提案されている(非特許文献1)。また、bR薄膜が形成された一対のITO基板の間に電解質溶液を挟み込んで光応答セルを作製しエッジ検出を行う手法が知られている(非特許文献2、及び非特許文献3)。ITO基板上にbR薄膜で256個の正方ピクセルパターンを形成し、ピクセルパターンからの出力信号を256個のLEDに接続して二次元表示する構成も知られている(特許文献1)。
【0003】
網膜上に投影された視覚情報は、大脳皮質との中継点である外側膝状体を通り、大脳皮質の一次視覚野(V1)に伝送される。一次視覚野には、方向選択性と空間周波数選択性をもつ単純型細胞が存在し、エッジや動きの検出が行われる。一次視覚野には複雑型細胞も存在し、単純型細胞と同様に方向選択性と空間周波数選択性を有する。多数の単純型細胞による検出は複雑型細胞により一般化され、最適な条件(方位、空間周波数)の検出に収れんされる。その後、二次視覚野以降の領野で情報処理されて物体の形や動きが表現される。
【0004】
図1は、単純型細胞の受容野の構造モデルである。受容野とは、視覚細胞がもつ限られた視野である。単純型細胞では、受容野に興奮領域と抑制領域が隣接して並んでいる。興奮領域は、明るい光で刺激したときに発火する領域である。抑制領域は、暗い光で刺激したとき(光が消えると)発火する領域である。単純型細胞の受容野の構造は、2次元のガボール(Gabor)関数によって表される。
図1の左側は対称ガボール型の構造、右側は非対称ガボール型の構造である。単純型細胞の受容野は、特定の空間周波数に強く反応し(空間周波数選択性)、特定の方向の線分に強く反応する(方向選択性)。
【0005】
図2は、ガボール関数を示す。ガボール関数は、ガウス関数と正弦波または余弦波の積で表わされ、空間周波数(線分の周期)や方向等の特徴量を抽出するフィルタリング機能をもつ。ガボール関数の波長λ、位相オフセットψ、三次元ガウス分布の底面楕円γ等のパラメータを選択することで任意の空間周波数、方向、位相等を抽出することができる。ガボールフィルタは、パターン認識や指紋認識、電子回路の欠陥検出などに適用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ガボール関数によるフィルタリング処理は、画像処理演算量が膨大になり、ソフトウェアや通常のプロセッサではリアルタイム処理が困難である。また膨大な演算処理量のため消費電力が大きい。ガボールフィルタリングを欠陥検出に適用する場合、多数のカメラと多大な計算機処理時間を要する。
【0009】
他方、簡単な構成で動きを検知することのできるセンサが望まれるが、上述した公知の手法では、シンプルかつ高精度なモーションセンサとしての実用化には至っていない。
【0010】
そこで、本発明は簡単な構成でアナログ画像処理に適用できる光フィルタ素子とその応用及び光センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、光受容タンパク質を用いたアナログ画像処理に適する光フィルタ素子とそれを用いた欠陥検出システム及び光センサを実現する。
【0012】
具体的には、本発明の一態様として、単純型細胞受容野を模した光フィルタ素子を提供する。光フィルタ素子は、
それぞれが透明電極を有して互いに対向する第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の前記第2基板との対向面に第1のパターンで形成される第1光受容タンパク質膜と、
前記第2基板の前記第1基板との対向面に第2のパターンで形成される第2光受容タンパク質膜と、
前記第1基板と前記第2基板の間に充填される電解質溶液と、
前記第1基板の前記第1光受容タンパク質膜と反対側の面に配置されるマスクと、
を有し、前記マスクは、ガボール関数を多値化した開口パターンを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の別の態様として、欠陥検出システムを提供する。欠陥検出システムは、
上述の光フィルタ素子を用いた光センサと、
測定対象物のライン・アンド・スペースパターンを撮影するカメラと、
前記カメラで撮影された画像を前記光フィルタ素子の前記開口パターン上に走査するプロジェクタと、
前記画像の走査により前記光フィルタ素子に流れる光電流の出力波形を表示する表示装置と、
を含む。
【0014】
本発明のさらに別の態様として、モーションセンサに適した光センサを提供する。光センサは、
一対の透明電極基板の間に電解質溶液を介して保持される光受容タンパク質膜を有するセルと、前記光セルの入射面に配置され所定の開口パターンを有するマスクと、前記一対の透明電極基板の何れか一方に形成されるアンテナパターンとを有する光セルと、
前記光セルのマスクに対向する位置に配置される光源と、
を有し、
前記アンテナパターンは、前記光源と前記開口パターンの間を横切るバー状の物体の数及び/または方向に応じた出力波形の信号を送信する。
【発明の効果】
【0015】
簡単な構成でアナログ画像処理に適用することができる光フィルタ素子を実現する。また、任意のラインパターンを有するデバイスの欠陥検出に適用することができる。また、モーションセンサに適した光セルが実現される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施形態では、bR薄膜を用いた光デバイスを提供する。bR薄膜の材料である紫膜はもともと太陽電池(エネルギー供給源)としての機能をもつので、バイアス電源も不要である。またbR薄膜を用いた光セルは微分・差分機能をもつので、外部演算回路も不要である。以下で、具体的な実施形態を説明する。
<第1実施形態>
図3は、第1実施形態で提供される光フィルタ素子10の構成を示す。光フィルタ素子10は、ガボールフィルタを実現するアナログ素子である。光フィルタ素子10は、互いに対向する一対のITO基板12、13と、光入射側のITO基板12の入射面に配置されるマスク11を有する。ITO基板12とITO基板13の互いに対向する面には、所定の形状にパターニングされたbR薄膜15a、15bが形成されている。より具体的には、ITO基板12のマスク11と反対側の面の興奮領域に相当する位置に、bR薄膜15aがパターニングされている。ITO基板13の対向面の抑制領域に相当する位置に、bR薄膜15bがパターニングされている。ITO基板12と13の間には、電解質溶液16がOリングなどのシーリング部材17により封入されている。電解質溶液16は、たとえばpH8.3のKCl(塩化カリウム)の0.1M溶液である。
【0018】
マスク11は、ガボール関数を二値化した開口パターン11a、11b、及び11cを有する。
図2に示したように、ガボール関数は式(1)で表される。
【0019】
【数1】
ここで、σはガウス関数の広がり、γは三次元ガウス分布の底面楕円形状、λは波長(x方向の空間周波数)、ψはガウス関数の位相オフセット、θは座標系の回転角である。このガボール関数を数値計算し、絶対値をとった出力を所定の閾値で切って二値化する。一例として、σ=2、γ=1、λ=4、ψ=0として数値計算し、拡大印刷すると中央の開口パターン11bの幅は3.2mm、両側の開口パターン11aと11cの幅は2.5mmで、設計波長λ=8.7mmになる。開口パターン11a〜11cの幅方向は、
図2のガボール関数のx方向に相当する。
【0020】
次に、光フィルタ素子10の作製方法を説明する。bR薄膜15a、15bは、ディップコート法、スピンコート法、キャスト法など、任意の方法で形成できる。たとえばディップコート法を用いる場合は、ITO基板12,13のbR薄膜15a、15bの形成領域以外の部分をマスキングする。マスキングしたITO基板12,13をbR懸濁液に浸漬して、所定の速度で引き上げる。引き上げ速度によってbR薄膜15a、15bの厚さを制御することができる。実施形態では、興奮領域のbR薄膜15aの厚さを94.2nm、抑制領域のbR薄膜15bの厚さを63.5nmとする。
【0021】
bR薄膜15a、15bが形成されたITO基板12,13の間にシーリング部材17としてのOリングを挟み込み、電解質液を注入する。Oリングの直径は、一例として15mmである。ITO基板12と13を、図示しない別の支持基板で挟み込んで固定してもよい。
【0022】
マスク11は、グラフィックソフトウェアでガボール関数を数値計算し、絶対値出力を所定の閾値で切って二値化する。この計算結果をプリンタで透明シートに印刷してマスク11を作製する。マスク11を、ITO基板12の入射面に透明樹脂または接着剤で貼り付ける。開口パターン11a〜11cの中に、透明なITO基板12を介してbR薄膜15a、15bが位置し、受光部となる。ガボール関数のパラメータを変えて印刷するだけで、楕円率や透過率の異なるマスク11を容易に作製することができる。
【0023】
光フィルタ素子10は、一対の電極(ITO基板の透明電極)とbR薄膜15a、15b、及びマスク11だけを用いた簡単な1画素のアナログ素子である。このアナログ素子は、シンプルなbR成膜法とマスク11のプリントアウトだけで作製することができる。bR薄膜15の材料である受容体タンパク質自体が、好塩菌(バクテリア)にとって「太陽電池」のようなエネルギー源に当たるので、光フィルタ素子10を駆動するためのバイアス電源が不要である。
【0024】
図4は、
図3の光フィルタ素子10の特性を評価する測定光学系1の概略図である。測定光学系1は、光センサ20と、光センサ20に接続されるオシロスコープ25と、プロジェクタ30と、レンズ35を含む。光センサ20は、光フィルタ素子10と、光フィルタ素子10に接続される電流電圧コンバータ21を有する。電流電圧コンバータ21は、内部に増幅回路を有する。光センサ20の回路は、興奮領域のbR薄膜15aで光バーのエッジが検出されたときに正の光電流が流れ、抑制領域のbR薄膜15bで光バーのエッジが検出されたときに負の光電流が流れるように接続されている。
【0025】
プロジェクタ30は、たとえば入射光強度50mW/cm
2の水銀ランプを光源として用いる。レンズ35は焦点距離800mmの凸レンズであり、プロジェクタ30からの光をフィルター上にフォーカスする。レンズ35から光フィルタ素子10までの距離は40cmである。光フィルタ素子10に流れる光電流をオシロスコープ25で観測する。
【0026】
光フィルタ素子10の評価に先立って、マスク11を用いないbR薄膜単体のbR光セル18を用いてbRの光応答特性を確認する。bR光セル18は一対のITO基板の間にbR薄膜と電解質溶液を挟み込んだ公知の構成である。
【0027】
図5は、bR光セル18の光応答特性を示す。光センサ20のケース23の前面にbRセル18を固定し、プロジェクタ30で、ライン形状に成形された光ビーム(「光バー31」と称する)をbR光セル18に対して走査する。bR光セル18のbR薄膜の厚さは30nm、受光部の面積は10×10mm
2、電解質溶液は
図3の光フィルタ素子10と同じものである。光バー31の幅は1.7mmとし、走査速度を変えながら光電流値(peak-to-peak値)を測定する。
【0028】
図5の右側のグラフは、光バー31の走査速度とbR光セル18に流れる光電流の関係を示す。走査速度が200mm/sまで光電流は急峻に増大し、200mm/s以降はほぼ一定となる。bR光セル18の光電流は、走査速度200mm/s以降は飽和する。これは、bR光セルが遅い動きには反応せず,一定速度以上の速い動きによく反応することを示している。
【0029】
次に、
図3の光フィルタ素子10を用いて、光バー走査速度依存性を測定する。上述のように、光フィルタ素子10はマスク11を有し、脳の一次視覚野の単純型細胞受容野の構造を模したものである。
【0030】
図6は、光フィルタ素子10の特性測定結果を示す。
図4の測定光学系1で、プロジェクタ30の光バーの幅を1.3mmに成形する。グラフ(A)は、走査速度を80mm/sとしたときの光電流出力波形、グラフ(B)は、光バー走査速度依存性を示す。グラフ(A)で、マスク11の開口パターン11b(
図3参照)に光が入射したときに、興奮領域が刺激されて正の光電流が流れる。開口パターン11a及び11cに光が入射したときに、抑制領域が刺激されて負の光電流が流れる。グラフ(B)から、光バーの走査速度が50mm/sまでは、速度が速いほど出力が高くなり、走査速度が毎秒数センチ〜10数センチの間で良好な出力が得られることがわかる。
【0031】
図7は、光フィルタ素子10の光バー幅依存性を示す。光バーの幅を2.6mm〜8.6mmの間で変え、図の左側から右側へ、マスク11の開口パターン11a〜11cが並ぶ方向に沿って光バーを走査する。走査速度は40mm/s、80mm/s、120mm/sの3通りで測定する。
【0032】
図7のグラフに示すように、走査速度にかかわらず特定の幅に強く反応することがわかる。この例では、光バー31の幅が4〜5mm付近のときに最大出力が得られる。開口パターン11a〜11cを合わせて二値化パターンと称すると、4〜5mmという光バー31の幅は、
図3の二値化パターンの設計波長λの1/2に近似する。もっとも、検出感度のマージンは広く、走査速度に関係なく高い電流値が得られている。特に光バー31の幅が4〜7mmの間で高い出力が得られている。これは、
図2のガボール関数を所定の閾値で二値化したためと考えられる。複数の閾値を用いてガボール関数を段階的な値(グレースケール)で多値化してマスク11を形成した場合は、最大出力が4.5mm近傍に収束し、精度が上がる。また、検知したい対象物のサイズに合わせて多値化パターン(開口パターン11a〜11cを有する二値化パターンなど)を設計することで、高感度のセンサが実現する。
【0033】
図8は、光フィルタ素子10の空間周波数特性を示す図である。
図7では一本の光バーの幅を変えて走査したが、
図8では複数の光バーを並べた状態で走査する。通常ガボールフィルターの空間周波数特性は、設計正弦(余弦)波の波長λの逆数に一致するとき最も高感度であることが知られている。光バーの本数は6本、走査速度を80mm/sに設定し、光バーの幅/間隔を変えたところ、4〜5mmの間で出力プロファイルが安定かつ最大出力となる。
図8は、バー幅/間隔が2.6mm、4.9mm、8.6mmの結果を示す。複数の光バーを並べた配列は、半導体集積回路などの電子部品のライン・アンド・スペースと類似しており、
図8の空間周波数特性を利用して、配線パターンの検出を高精度に行うことができる。この場合、電子部品の配線のライン・アンド・スペース(1μm、10μmなど)が光フィルタ素子10の二値化パターンの設計波長に合致するように、プロジェクタ30の倍率を制御することで、高精度の空間周波数検出が可能になる。
【0034】
図9は、空間周波数の欠陥検出を示す図である。
図9(A)のように、幅と間隔の異なる複数の光バーを並べて、光フィルタ素子10上を走査する。走査速度は80mm/sである。走査の先頭側(図の右側)から1〜3本目と6〜7本目の光バーの幅と間隔は4.9mm、4本目と5本目の光バーの幅及び間隔は2.9mmである。
【0035】
図9(B)のグラフは測定結果を示す。矢印Aで示すように、周期構造が異なる4本目と5本目の光バーのみで出力が著しく低下している。このことから、光フィルタ素子10を空間周波数の欠陥抽出に適用できることがわかる。詳細は後述するが、たとえば半導体集積回路の配線パターンの欠陥検出に適用することができる。
【0036】
図10は、光フィルタ素子10の方向選択性を示す図である。マスク11に対して光バーを走査する方向を変えて、光フィルタ素子10の応答特性を測定する。走査する光バーの幅は4.9mm、走査速度は80mm/sである。グラフ(A)は、マスク11の開口パターン11a〜11cの配列方向に沿って走査(走査角度0°)したときの出力プロファイルである。グラフ(B)は走査角度が45°のときの出力プロファイルである。グラフ(C)は走査角度が90°、すなわち、開口パターン11a〜11cの配列方向と直交する方向に光バーを走査したときの出力プロファイルである。グラフ(D)は、走査方向が135°のときの出力プロファイルである。
【0037】
これらの結果から、角度を変えることで出力が80%ほど減少し、開口パターン11a〜11cの配列方向に沿って光バーを走査するとき(走査角度0°)だけ強い反応が得られることがわかる。
【0038】
図11は、走査速度を変えて
図10を同様の測定を行い、光電流値を角度の関数としてプロットした図である。
図10と同様に、光フィルタ素子10は、走査速度にかかわりなく強い方向選択性を示す。
【0039】
図6〜
図11の結果から、光フィルタ素子10は、任意のライン状のものやパターンを検出することができ、たとえば電子部品の欠陥検出に良好に適用できることがわかる。
【0040】
図12は、光フィルタ素子10を用いた欠陥検出システム50の概略図である。欠陥検出システム50は、
図4の光センサ20と、プロジェクタ30と、カメラ55と、表示装置56を有する。表示装置56は、
図4のようにオシロスコープ25でもよいし、パーソナルコンピュータの表示画面でもよい。光センサ20は、マスク11を有する光フィルタ素子10をアナログセンサ素子として有する。
【0041】
たとえば、ウェハ51上の各チップ領域52に形成された所定の配線パターンをカメラ55で順次撮影する。ウェハ51を保持する図示しないステッパをチップ単位で走査することで、チップ領域52を順次カメラ55の撮影領域内に移動する。ウェハ51は、ウェハ51に形成されたアライメントマークにより、チップ領域52の配線パターンの並ぶ方向が、光フィルタ素子10のマスク11の開口パターン11a〜11cの配列方向と一致するように保持されている。チップ領域52のライン・アンド・スペースは、あらかじめ設計データからわかっている。
【0042】
カメラ55は、順次電子部品の配線パターンを撮影する。カメラ55で取得された画像データは、プロジェクタ30に供給される。プロジェクタ30は拡大機能と画像回転機能を有してもよい。プロジェクタ30は、画像データの配線パターンのライン・アンド・スペースが、光フィルタ素子10の二値化パターンの開口配列方向の幅の1/2となるように画像データを拡大し、ミラー等により光センサ20上に走査する。
【0043】
光センサ20は、光フィルタ素子10で生じる光電流を電圧変換して表示装置56に出力する。
図9を参照して説明したように、配線パターンのライン・アンド・スペースが設計値から外れている場合は、出力波形に欠損が生じる。したがって、電子部品等の欠陥をリアルタイムで検出することができる。この方法は、画像処理の一部をアナログ処理とすることで、従来のガボールフィルタを用いた画像処理と比較して、計算時間を大幅に低減することができる。また、消費電力も小さい。
【0044】
ひとつのチップ領域52が複数の配線領域を有し、配線領域によって配線方向が90°異なる場合は、プロジェクタ30でチップ領域52ごとの画像データを一時的に格納し、画像データを90°回転して画像を光センサ20上に走査することも可能である。
【0045】
図12の欠陥検出システム50は、プリント基板等の個別の電子部品をベルト上で順次検査する場合にも適用できる。
【0046】
図13は、光フィルタ素子10の変形例として、複数の二値化パターンを配置した光フィルタ素子10Aを示す。光フィルタ素子10Aは、4つのフィルタで構成された1素子デバイスである。光フィルタ素子10Aでは、一つのマスク11Aに向きが異なる複数の二値化パターンP1〜P4が形成されている。二値化パターンP1〜P4の各々がガボール関数を二値化した開口パターン11a〜11cを有する。マスク11Aは、グラフィックソフトウェアの数値計算により開口パターン11a〜11cの形状とサイズを決定し、パターンの向きを回転させるレイアウト処理を施してからプリントアウトすることで、簡単に作製できる。光フィルタ素子10Aの一方のITO基板12に、二値化パターンP1〜P4の興奮領域に相当するbR薄膜15aを形成する。ITO基板13に、二値化パターンP1〜P4の抑制領域に相当するbR薄膜15bを形成する。ITO基板13のbR薄膜15bと反対側の面の図示しない電極も、bR薄膜15bと同様のパターンであるのが望ましい。
【0047】
光フィルタ素子10Aは、検出対象となるライン・アンド・スペースパターンの方向が未知の場合に有用である。
図10を参照して説明したように、ライン・アンド・スペースパターンがX方向に並んでいるときは、二値化パターンP1で最大出力が得られ、その他の二値化パターンP2〜P4では出力がほとんど無いか、わずかに逆極性の出力となる。ライン・アンド・スペースパターンが並ぶ方向がX軸と45°の角度をなすときは、二値化パターンP2で最大出力となり、その他の二値化パターンP1,P3,P4の出力は影響しない。ライン・アンド・スペースパターンがY方向に並ぶときは、二値化パターンP3で最大出力が得られる。ライン・アンド・スペースパターンがX軸から135°のときは、二値化パターンp4で最大出力が得られる。
【0048】
光フィルタ素子10Aを光センサ20(
図12参照)の入射面に配置し、プロジェクタ30で撮影画像の投射光をX軸方向に走査する。これにより、プロジェクタ30に画像データの回転機能がなくても、ライン・アンド・スペースパターンの欠陥検出を行うことができる。また、チップ領域52や電子部品が斜め配線を含む場合も、有効に欠陥検出を行うことができる。
<第2実施形態>
図14は、第2実施形態の光センサ60を示す。第2実施形態では、bR薄膜を用いた光セルの適用例として、簡便なモーションセンサを提供する。光センサ60は、光セル80と、光源62を有する。光セル80は、ITO基板12上に成膜されたbR薄膜15と、対極ITO基板13の間に電解質溶液を介して保持される。光入射側のITO基板12の入射面に配置され、所定の開口パターン11dを有するマスク11と、いずれか一方のITO基板(図の例ではITO基板13)に形成されたアンテナパターン19を有する。開口パターン11dは、この例では直径10mm〜15mmの円形のパターンである。円形のパターンとすることで任意の方向からの物体の動きを検知する。ITO基板13に薄膜技術などを用いてアンテナパターン19に接続される増幅回路を形成してもよい。
【0049】
光源62と光セル80を、スタンド台61で一体的に保持してもよい。この場合は、スタンド台61の開口パターン11dに対応する位置に円形窓63を形成する。円形窓63内に露出する光セル80が受光部となる。
【0050】
光セル80のbR薄膜15はタンパク質であり、その吸収波長領域は500〜650nmである。光源62としては、白色LEDや安価な緑色または赤色LEDを用いることができる。LEDの指向性が良い場合はLEDをそのまま用いる。LEDの指向性がそれほど良くない場合は、図示しない平板型円形フレネルレンズを被せて受光効率を向上してもよい。
【0051】
通常状態で、自然光あるいは光源62からの光が円形窓63から受光部としての光セル80に入射しているだけでは何の変化も生じないので、光セル80の出力はゼロである。円形窓63上を物体が横切ったときに、光セル80は物体の動き及び/またはエッジを検出して、応答する。一例として、円形窓63に物体のエッジが入ったときに負に出力し、円形窓63から物体のエッジが出たときに正に出力するように、ITO基板12と13の透明電極の極性を設定する。逆の極性に設定して、受光部である円形窓63に物体のエッジが入ったときに正に出力、エッジが出たときに負に出力するように接続してもよい。たとえば、光源62がオンの状態でユーザの指が円形窓63上を素早く横切ったときに、光セル80は応答する。
【0052】
図15は、円形窓63を横切る指の本数に応じた出力波形を示す。
図15の(A)は指が一本のときの出力波形、(B)は指が2本のときの出力波形、(C)は指が3本のときの出力波形、(D)は指が4本のときの出力波形である。(A)〜(D)の波形のそれぞれにコマンドを割り当てると、2ビットの情報を送信することができる。指の数に応じた光セル80の応答出力を、アンテナパターン19でワイヤレス送信する。
【0053】
光センサ60に近傍に、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信機能付きの情報端末70を配置することで、非接触でコマンド操作することができる。たとえば、情報端末70で料理レシピを開いているときに、次の手順へのページ操作や、料理の出来上がり状態の画像の確認を、非接触ですることができる。
【0054】
光センサ60は、情報端末70だけではなく、無線通信機能付きの家電(クッキングヒーター、エアコンデュショナー、電灯)や、換気扇、ドア等とワイヤレス通信することで家電や換気扇のオン・オフ、ドアのロックまたはアンロックを非接触で指示することができる。
【0055】
光セル80は簡単なアナログ素子でありながら、エッジ検出に非常に敏感であり、動きの速度が速いほど検出感度が良い。円形窓63の上方で指を振るだけで4通りのコマンドを送信することができるので、利用者にとって有用である。後述するように、受光部の形状あるいはマスク11の開口パターンを非対称な形状にすることで、情報量をさらに増やすことができる。光センサ60はスタンド型に限定されず、たとえば、壁に設置してもよい。
【0056】
図16は、光センサ60の変形例としてコンパクトケース型の光センサ60Aを示す。ケース65の蓋65bの裏側に、光源62Aを配置する。光源62Aは、たとえばLEDにフレネルレンズを被せたものである。ケース65の本体65a側に、光セル80Aと、LEDのドライバIC66を配置する。光セル80Aのマスク11の開口パターン11dが受光部となる。光センサ60Aのケース65の蓋65bを開いて、受光部上で指を振るだけで所定のコマンドを送信することができる。この光センサ60Aは場所を選ばないので有利である。
【0057】
図17は、マスク11の別の開口パターンと出力波形を示す。
図17(A)で、マスク11は非対称の開口パターン11eを有する。たとえば、紙面の右向きに回転させた正三角形の開口パターン11eを形成する。正三角形の開口パターン11eの中に露出するbR薄膜(
図17では不図示)が受光部となる。
【0058】
指が三角形の辺を通過するときに高い出力、頂点を通過するときに低いなだらかな出力が得られる。
図17(B)は、
図17(A)の配置パターンで、指を左から右へ横切らせたときの出力波形、
図17(C)は、指を右から左へ横切らせたときの出力波形である。動かす指を1本〜4本と変化させ、かつ移動方向を右から左、または左から右に変えることで、8通りの出力波形が得られる。8通りの出力波形にそれぞれコマンドを割り当てることで、3ビットの情報を送信することができる。
【0059】
図18は、マスク11のさらに別の開口パターンと出力波形を示す。
図18(A)で、マスク11は、異なるサイズの矩形の開口パターン11fと11gを間隔を置いて組み合わせた非対称のパターンを有する。開口パターン11fと11gの幅はほぼ同じ、開口パターン11gの高さは開口パターン11fの高さの40〜60%、2つのパターンの間のスペース幅は、開口パターン11fと11gの幅の約半分である。
【0060】
図18(B)は指をマスク11の左から右へ横切らせたときの出力波形、
図18(C)は指をマスク11の右から左へ横切らせたときの出力波形である。この例では、指が開口パターンに入ったときに負の出力となり、開口パターンを出るときに正の出力となるようにITO基板の透明電力の接続が設定されている。
【0061】
図示は省略するが、マスク11で指を上から下に横切らせたときは、負のピークが2つ(開口パターン11fに入るときと、開口パターン11gに入るとき)現れた後に、正のピークが1つ(開口パターン11f、11gの両方から出るとき)現れる。指を下から上に横切らせたときは、負のピークがひとつ現れた後に、正のピークが2つ(開口パターン11gを出るときと開口パターン11fを出るとき)、連続して現れる。
【0062】
この場合、4通りの出力波形が得られる。
【0063】
第2実施形態の光センサ60(または60A)では、簡単な構成で物体の動きを検知して、複数種類の情報を送信することができる。
【0064】
上述した実施形態以外に種々の変形が可能である。たとえば、第1実施形態の光フィルタ素子に反射膜を用いてもよい。
【0065】
図19は、光フィルタ素子の変形例として光フィルタ素子10Bを示す。光フィルタ素子10Bの基本的構成は、
図3の光フィルタ素子10と同様であるが、光りの入射側と反対側のITO基板13の裏面に反射膜41が形成されている。反射膜41として、アルミニウム(Al)や金(Au)など、高反射率を有する適切な材料を用いることができる。
【0066】
反射膜41を設けることで、図中の矢印Aで示すように、入射光がITO基板12→bR薄膜(15aまたは15b)→ITO基板13の反射膜41で反射→bR薄膜(15bまたは15a)→ITO基板12→出射の順で進み、bR薄膜を二度通過する。この構成により、光強度が二倍になりセンサ感度が向上する。逆に言うと、弱い光でも検出可能になる。反射が得られればよいので、ITO基板13と反射膜41に替えて、金属板を電極として用いてもよい。
【0067】
以上述べたように実施形態の光フィルタ素子・光セルは、アナログ画像処理や電子部品の欠陥検出、モーションセンサ等に適用することができる。また、実施形態の光フィルタ素子を用いることで、簡単な構成でライン状またはバー状の任意の物体を検出することができる。