【解決手段】血液検体分析方法は、血液検体と、フィブリン及びフィブリノゲン分解産物(FDP)の測定用試薬と、を混合して測定試料を調製し、測定試料を光学的に測定して得られる光学的情報の経時的変化に基づいて、FDP濃度を示す第1情報と、光学的情報の経時的変化を示すタイムコース曲線の湾曲度合を示す第2情報と、を取得し、第1情報と第2情報とに基づいて、血液検体の線溶亢進状態を判定することを含む。
前記血液検体の前記線溶亢進状態を判定することは、前記第1情報が示すFDP濃度をFDP濃度に比例する評価関数に適用して得られる値と、前記第2情報と、を比較することを含む
請求項1記載の血液検体分析方法。
前記第2情報は、タイムコース曲線中に設定された始点及び終点を結ぶ直線と、前記タイムコース曲線と、によって囲まれた領域の大きさによって、前記タイムコース曲線の湾曲度合を示す
請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液検体分析方法。
血液検体と、フィブリン及びフィブリノゲン分解産物(FDP)の測定用試薬と、を混合して測定試料を調製する試料調製部と、 前記測定試料を光学的に測定して検出信号を出力する検出部と、
前記検出信号に基づいて、前記測定試料の光学的情報を取得する取得部と、
前記光学的情報に基づいて、FDP濃度を示す第1情報と、前記光学的情報の経時的変化を示すタイムコース曲線の湾曲度合を示す第2情報と、を取得し、前記第1情報と前記第2情報とに基づいて、前記血液検体のDダイマーに関する値を取得する処理部と、
を備える血液検体分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1.検体分析方法及び検体分析装置の概要]
実施形態に係る検体分析方法は、
図1に示すステップS11からステップS15を含む。ステップS11からステップS15は、
図2に示す血液検体分析装置10によって実行される。血液検体分析装置10は、被験者から採取された血液検体を、免疫比濁法等によって測定し、血液検体の分析を行う。分析対象となる血液検体は、例えば、血漿である。血液検体は、血清又は全血であってもよい。
【0019】
血液検体分析装置10は、測定装置20と、処理装置30と、を備えている。測定装置20は、血液検体を含む測定試料を測定する。処理装置30は、測定装置20から取得した測定結果を分析する。
【0020】
測定装置20は、試料調製部21と、検出部22と、制御部23と、を備えている。試料調製部21は、キュベット保持部24と、試薬セット部28と、試薬分注部29aと、検体分注部29bと、を備えている。キュベット保持部24は、キュベット25を保持する。キュベット25は、測定試料を調製するための容器である。試薬セット部28は、試薬を収容した試薬容器27がセットされる。試薬分注部29aは、試薬セット部28にセットされた試薬容器27から試薬を吸引し、キュベット27に試薬を分注する。検体分注部29bは、検体容器26から血液検体を吸引し、キュベット27に血液検体を分注する。なお、検体容器26は、図示しない搬送装置によって検体分注部29bによる検体吸引位置に搬送される。
【0021】
試薬容器27に収容された試薬は、FDP測定用の試薬を含む。FDP測定用の試薬としては、市販されている各種のFDP測定用試薬が利用可能であり、例えば、シスメックス株式会社製のFDP測定キット・リアスオートP−FDP試薬及び株式会社LSIメディエンス製のエルピアFDP−P試薬などが利用可能である。
【0022】
図1のステップS11において、試料調製部21は、キュベット25に分注された血液検体と試薬とを混合し、FDP測定用の測定試料(以下、単に「測定試料」という場合「FDP測定用の測定試料」を指す)を調製する。試料調製部21による試料調製のための動作は、制御部23によって制御される。
【0023】
検出部22は、光源22aと、受光部22bと、を有して構成されている。光源22aは、キュベット25中の測定試料に光を照射するよう設けられる。光源22aは、例えば、ハロゲンランプ又はLEDを含んで構成される。光源22aから照射される光の波長は、測定に適した波長を用いればよく、例えば、800nm、575nm、又は730nmである。
【0024】
受光部22bは、測定試料からの透過光又は散乱光を受光して、受光した光量に応じた電気信号である検出信号を測定結果として出力する。受光部22bは、例えば、フォトダイオードを含んで構成される。
【0025】
図1のステップS12において、検出部22は、測定試料の濁度を測定し、測定試料の濁度の経時的変化を示す検出信号を出力する。検出信号は、測定試料を透過した透過光又は散乱光の経時的変化を示す信号であってもよい。例えば、免疫比濁法によって測定試料の濁度を測定する場合、受光部22bは、光源22aから照射された測定試料を透過した光を受光する。測定試料において免疫複合体の凝集反応が進むと、測定試料の濁度が上昇するため、透過光の光量は減少し、電気信号の出力レベルが時間経過に従って低下する。したがって、受光部22bから出力される検出信号は、測定試料の濁度の経時的変化を示す。
【0026】
制御部23は、検出部22から検出信号を受信し、検出信号に基づいて光学的情報を算出する。制御部23は、光学的情報を取得する取得部として機能する。光学的情報は、例えば、光学濃度(Optical Density :OD)値である。OD値は、検出信号が示す濁度の増加速度に基づいて算出される。OD値は、濁度ではなく、例えば、透過光強度から算出されてもよい。制御部23は、測定開始から測定完了までの期間の検出信号に基づいて、測定開始から測定完了までの期間のOD値の時系列データを算出する。OD値の時系列データは、OD値の経時的変化、すなわち時間の経過によって現れるOD値の変化を示すデータであり、測定試料の光学的情報のタイムコース曲線を示す。制御部23は、算出したOD値の時系列データを、処理装置30へ送信する。
【0027】
制御部23は、CPU23a及びメモリ(記憶部)23bを備えている。制御部23は、メモリ23bに格納されたコンピュータプログラムをCPU23aによって実行することで、制御部23としての機能を発揮する。
【0028】
処理装置30は、CPU31と、メモリ(記憶部)32と、表示部33と、を備えている。処理装置30は、メモリ32に格納されたコンピュータプログラムをCPU31によって実行することで、処理装置30としての機能を発揮する。
【0029】
処理装置30は、制御部23から、OD値の時系列データを受信する。
図1のステップS13において、処理装置30は、OD値の時系列データから、第1情報及び第2情報を算出する。第1情報はFDP濃度を示す情報である。第2情報は、測定試料のOD値のタイムコース曲線の湾曲度合を示す情報である。
【0030】
ステップS14において、処理装置30は、FDP濃度を示す第1情報と湾曲度合を示す第2情報とに基づいて、血液検体の線溶亢進状態の判定をする。また、処理装置30は、FDP濃度を示す第1情報と湾曲度合を示す第2情報とに基づいて、Dダイマーに関する値を求める。Dダイマーに関する値は、例えば、Dダイマー濃度の推定値又はDダイマー濃度から算出される値である。Dダイマー濃度から算出される値は、例えば、FDP/Dダイマー比である。
【0031】
処理装置30のメモリ32は、線溶亢進状態の判定及びDダイマーに関する値を求めるための分析用情報32a,32b,32c,33d,34eを有している。分析用情報32a,32b,32c,33d,34eは、それぞれ後述の式(1)から式(5)に対応する。処理装置30のCPU30は、FDP濃度を示す第1情報と湾曲度合を示す第2情報と、メモリ32に格納された分析用情報と、を用いて、線溶亢進状態の判定し、Dダイマーに関する値を求める。各式(1)から式(5)については後述する。
【0032】
ステップS15において、処理装置30は、結果表示画面を、表示部33に表示させる。結果表示画面は、線溶亢進状態の判定結果、及びDダイマーに関する値、並びにその他の測定結果を表示することができる。結果表示画面についても後述する。
【0033】
[2.処理装置による検体分析処理]
[2.1 FDP濃度]
処理装置30は、測定試料のOD値のタイムコース曲線を示すOD値の時系列データから、FDP濃度を示す第1情報を算出する。FDP濃度は、FDP測定に使用されたFDP測定試薬の添付文書に記載のFDP濃度算出手順に従って算出される。具体的には、処理装置30は、光学的情報であるOD値の所定時間(例えば、1分間)当たりの変化量を求め、求めた変化量をキャリブレータから得られる検量線に適用して、測定試料中のFDP濃度を算出する。
【0034】
FDP濃度を示す第1情報は、FDP濃度を直接的に示す情報であってもよいし、FDP濃度に相関するパラメータのようにFDP濃度を間接的に示す情報であってもよい。FDP濃度を直接的に示す情報は、例えば、上記のFDP濃度算出手順に従って算出されたFDP濃度である。FDP濃度を間接的に示す情報は、例えば、OD値の所定時間当たりの変化量である。OD値の所定時間当たりの変化量は、FDP濃度の算出に用いられることからも明らかなように、FDP濃度と相関するので、FDP濃度を間接的に示す。
【0035】
[2.2 タイムコース曲線の湾曲度合の算出と線溶亢進]
非特許文献1記載の指針に従って、FDP/DD比を用いて、血液検体の線溶亢進状態を判定するには、FDP測定と、Dダイマー測定と、が必要である。しかし、本発明者は、驚くべきことにDダイマー測定を行わなくてもFDP測定によって、これまでDダイマー測定が必要であった線溶亢進状態判定を行えることを見出した。
【0036】
より具体的には、本発明者は、測定試料の光学的情報のタイムコース曲線の形状と、線溶亢進状態と、の間に相関があることを見出した。本発明者の見出した相関は、測定試料の光学的情報の経時的変化を示すタイムコース曲線の湾曲度合が、線溶亢進状態に関連している、というものである。この相関を利用することにより、FDP測定の結果に基づいて、線溶亢進状態判定を行うことができる。
【0037】
測定試料の光学的情報とは、測定試料を光学的に測定して得られる情報であり、例えば、光学濃度(OD)値である。測定試料の光学的情報のタイムコース曲線とは、FDP測定用試料を用いて調製された測定試料の光学的情報の経時的変化を示す曲線であり、概ね、
図3のような曲線Cとなる。タイムコース曲線は、処理装置30が取得したOD値の時系列データに基づいて描かれる。
【0038】
図3において、横軸は、測定試料の測定開始からの経過時間を示し、縦軸は、測定試料のOD値を示す。タイムコース曲線の湾曲度合とは、経時的に増加する光学的情報のタイムコース曲線の曲がり具合である。ここで、OD値は、微弱な増減を繰り返しながら増加するが、微弱な増減によるタイムコース曲線の変動は考慮せず、タイムコース曲線をマクロ的に見た場合のタイムコース曲線の湾曲を考える。
【0039】
測定試料のOD値のタイムコース曲線は、多くの場合、測定開始(経過時間=0sec)から数十秒程度までの第1期間T1の曲線部分C1と、第1期間T1に続き測定終了までの第2期間T2の曲線部分C2と、を含む。第1期間T1は、例えば30秒である。OD値は、第2期間T2においては単調増加するが、第1期間T1においては、測定試料の濁度が安定せず、OD値の大きな増加及び減少が生じることがある。このような第1期間T1は、OD値の経時的変化を適切に示しているわけではないので、タイムコース曲線Cの湾曲度合を算出する際には、第1期間T1を除外したほうが、湾曲度合を精度よく求めることができる。なお、OD値が第1期間T1においても安定的に単調増加する場合には、第1期間T1における曲線部分C1を、タイムコース曲線Cの湾曲度合を算出する際に考慮してもよい。
【0040】
例えば、
図3のタイムコース曲線Cの第2期間T2の始点TAから終点TBの範囲で、タイムコース曲線Cの湾曲度合を考える場合、始点TAから終点TBを結ぶ直線Lからのタイムコース曲線Cの上方への突出量Hが大きいほど、曲線は大きく曲がり、湾曲度合が大きくなる。逆に、突出量Hが小さいほど、湾曲度合が小さくなる。
【0041】
多くの場合、OD値のタイムコース曲線は、
図3に示すように、第2期間T2において上方凸状の曲線となり、突出量Hが正の値となる。ただし、Dダイマーを形成する因子が欠損している被験者から採取された血液検体などの場合、直線Lに対して下方凸状になることもあり、この場合、湾曲度合及び突出量Hは負の値となる。
【0042】
処理装置30は、OD値の時系列データから、タイムコース曲線の湾曲度合を示す第2情報を算出する。湾曲度合は、様々な指標によって示すことができる。
【0043】
[2.3 湾曲度合を示す指標のバリエーション]
図4は、湾曲度合を示す第2情報のバリエーションを示している。湾曲度合を示す第2情報の第1例は、タイムコース曲線の凸状エリア面積である。
図4(a)に示すように、凸状エリア面積は、タイムコース曲線において面積算出の対象期間の始点TAから終点TBを結んだ直線Lとタイムコース曲線Cとで囲まれた領域の大きさとして算出される。算出の対象期間の始点TAから終点TBは、
図3の第2期間T2のように、測定試料のOD値が単調増加する期間内に設定すると湾曲度合を精度よく求めることができる。なお、直線Lよりも上のエリアの面積は正の値として扱い、直線Lよりも下のエリアの面積は負の値として扱うのが好ましい。
【0044】
直線Lからみて上方への湾曲度合が大きいほど、凸状エリア面積は大きくなり、上方への湾曲度合が小さいほど、凸状エリア面積は小さくなる。
【0045】
湾曲度合を示す第2情報の第2例は、タイムコース曲線Cの曲率半径又は曲率である。タイムコース曲線を単調増加する曲線等によって曲線近似し、その近似曲線の曲率半径又は曲率をタイムコース曲線の曲率半径又は曲率とすることができる。タイムコース曲線Cを曲線近似することで、微弱な増減によるタイムコース曲線の変動を無視して、タイムコース曲線をマクロ的にとらえることができる。
【0046】
なお、タイムコース曲線Cが上方凸状の場合の曲率半径又は曲率を正の値として扱い、下方凸状の場合の曲率半径又は曲率を負の値として扱うのが好ましい。また、曲率半径又は曲率の算出対象範囲の始点TAから終点TBまでの間において、曲率半径又は曲率が変化する場合には、
図4(b)に示すように、対象期間内の複数の点P1,P2,P3,P4の曲率半径の平均又は曲率の平均を第2情報として求めても良い。
【0047】
湾曲度合を示す第2情報の第3例は、タイムコース曲線Cを多項式近似したときの係数である。例えば、ax
2+bx+cの2次関数でタイムコース曲線を近似したときの係数aを第2情報とすることができる。
【0048】
湾曲度合を示す第2情報の第4例は、タイムコース曲線の突出量Hである。
図4(c)に示すように、突出量Hは、突出量Hの算出対象範囲の始点TAから終点TBを結ぶ直線Lの中点Pからタイムコース曲線C側へ垂直に延び、タイムコースコース曲線Cに至るまでの長さとして算出される。タイムコース曲線Cが上方凸状の場合の突出量Hを正の値として扱い、下方凸状の場合の突出量Hを負の値として扱うのが好ましい。
【0049】
なお、突出量Hは、
図4(d)に示すように、直線Lと並行な線L’であって、突出量Hの算出対象範囲の始点TAから終点TBまでのタイムコース曲線Cの接線となる線L’と、直線Lとの間隔であってもよい。
【0050】
湾曲度合を示す第2情報の第5例は、凸状エリアの近似図形の面積である。凸状エリアの近似図形の面積は、第1例における凸状エリア面積の大きさを示す情報のバリエーションの一つである。凸状エリアの近似図形は、例えば、
図4(e)に示すように、面積算出の対象範囲の始点TAから終点TBを結んだ直線Lとタイムコース曲線Cとで囲まれた領域を近似する三角形とすることができる。近似図形は、半円又は任意の多角形とすることができる。
【0051】
湾曲度合を示す第2情報の第6例は、タイムコース曲線Cの接線L1,L2,L3又は回帰直線の傾きのうち、任意の2つの比率である。
図4(f)に示すように、接線又は回帰直線の傾きは、例えば、タイムコース曲線の序盤(例えば、始点TA又はその近傍)における接線L1又は回帰直線の傾き、タイムコース曲線の中盤(例えば、始点TAと終点TBの間の点P1)における接線L2又は回帰直線の傾き、又は、タイムコース曲線の終盤(例えば、終点TB又はその近傍)における接線L3又は回帰直線の傾きとして算出される。このようにして算出された任意の2つの接線L1,L2,L3又は回帰直線の傾きの比を第2情報として算出できる。第2情報は、例えば、L1の傾き/L2の傾き、L2の傾き/L1の傾き、又は、L3の傾き/L1の傾きである。複数の接線又は回帰直線を2つの群にわけ、それぞれの群で、傾きの合計又は平均を算出し、2つの群の傾きの合計又は平均の比を第2情報として算出してもよい。例えば、タイムコース曲線の前半で、3つの接線それぞれの傾きを算出し、それらの第1平均値を算出する。タイムコース曲線の後半でも、同様に、3つの接線それぞれの傾きを算出し、それらの第2平均値を算出する。第1平均値と第2平均値との比率を第2情報として算出できる。
【0052】
[2.4 凸状エリア面積の算出例]
以下では、湾曲度合を示す第2情報として、第1例の凸状エリア面積を採用する。処理装置30は、OD値の時系列データから次の式(1)を用いて、凸状エリア面積を算出する。式(1)は、メモリ32に、分析用情報32aとして格納されている。
【数1】
ここで、tは、タイムコース曲線における時刻[sec]である。OD(t)は、時刻t秒におけるOD値である。a×t−bは、タイムコース曲線において湾曲度合算出の始点TAから湾曲度算出の終点TBを結ぶ直線の回帰式である。ここでの始点TAは、測定開始(t=0)から30秒の時点におけるOD値であり、終点TBは、測定開始から150秒の時点におけるOD値である。なお、始点TAは、始点基準時(例えば、30秒)付近の期間(例えば、27.5から32.5秒)の間のFDP濃度の平均値でもよいし、終点TBは、終点基準時(例えば、150秒)付近の期間(例えば、147.5から152.5秒)の間のFDP濃度の平均値でもよい。希釈測定の場合には、式(1)を用いて算出された凸状エリア面積に、希釈倍率を掛けた値を、凸状エリア面積とすることができる。
【0053】
[2.5 線溶亢進状態判定]
処理装置30は、FDP濃度を示す第1情報と、タイムコース曲線の湾曲度合を示す第2情報と、に基づいて、線溶亢進状態を判定する。
図5は、横軸をFDP濃度とし、縦軸を凸状エリア面積とした2次元空間を示している。
図5の2次元空間に、第1情報及び第2情報によって特定される点をプロットすると、線溶亢進型の検体から得られた第1情報及び第2情報の点の分布と、非線溶亢進型の検体から得られた第1情報及び第2情報の点の分布には、違いが生じることを本発明者は見出した。すなわち、線溶亢進型検体は、概ね、
図5の2次元空間の右下側に多く分布し、非線溶亢進型検体は、概ね、
図5の2次元空間の左側又は左上側に多く分布する。
【0054】
したがって、血液検体の線溶亢進状態の判定は、FDP濃度と凸状エリア面積とがわかれば、従来のようにFDP/Dダイマー比を求めなくても、線溶亢進状態の判定が行える。血液検体の線溶亢進状態の判定は、例えば、FDP濃度を示す第1情報を評価関数に適用して得られる値V1と、第2情報である凸状エリア面積と、を比較する判定を含むことができる。評価関数は、例えば、FDP濃度に比例する関数であり、FDP濃度×A+Bで示される。ここで、A,Bは、タイムコース曲線取得の条件により定まる係数である。A,Bの値の例は、後述する。評価関数を用いた判定条件は、以下の式(2)で表される。以下では、式(2)による判定を第1判定という。評価関数を含む式(2)は、メモリ32に分析用情報32bとして格納されている。
【数2】
【0055】
式(2)を満たすか否かの判定は、処理装置30によって算出されたFDP濃度と凸状エリア面積を
図5にプロットした場合に、プロットした点が、
図5において式(2)に対応する判定ラインV1=FDP濃度×A+Bに一致する又は判定ラインV1よりも下に位置するか否かの判定と等価である。処理装置30は、式(2)が満たされた場合、検体を線溶亢進型であると判定する。
【0056】
血液検体の線溶亢進状態の判定は、FDP濃度を示す第1情報と、閾値Cと、を比較することを更に含んでも良い。ここで、閾値Cは、FDP測定用試薬における線溶亢進型検体を捉える強さを考慮して決定される値である。閾値Cを用いた判定条件は、以下の式(3)で表される。以下では、式(3)による判定を第2判定という。式(3)は、メモリ32に分析用情報32cとして格納されている。
【数3】
【0057】
処理装置30は、式(2)に加えて、式(3)をも満たす場合に、検体を線溶亢進型であると判定することで、より精度良く判定が行える。
【0058】
なお、血液検体の線溶亢進状態の判定は、式(2)(3)で示される判定条件を用いるものに限られない。例えば、
図5に示す2次元空間において線溶亢進型検体が属するべきエリアを予め分画しておき、分析対象の検体から得られた第1情報及び第2情報で示される2次元空間座標が、線溶亢進型検体が属すべきエリアに属するか否かで、判定してもよい。
【0059】
[2.6 係数A,B及び閾値Cの設定例]
[2.6.1 第1設定例と判定性能の検証結果]
第1設定例では、凸状エリア面積を用いた場合の線溶亢進状態の判定として、式(2)で示される第1判定のみを行う。したがって、第1設定例において設定される値は、係数A,Bであり、閾値Cは設定されない。第1設定例での判定性能の検証のため、ここでは、FDP測定のほか、Dダイマー測定も行う。第1設定例の判定性能の検証のため、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定結果との対比において、第1設定例での感度と特異度とを求めた。第1設定例の検証のために使用した血液検体は、凍結血漿検体であり、全37例である。
【0060】
FDP測定試料は、検体に、FDP測定用試薬を混合して調製した。使用したFDP測定用試薬は、シスメックス株式会社製のリアスオートP−FDPである。FDP濃度が120μg/mLを超える検体は、シスメックス株式会社製の線溶系希釈液により8倍希釈測定を行い、凸状エリア面積は、式(1)で求めた値を8倍して得た。
【0061】
Dダイマー測定試料は、検体に、Dダイマー測定用試薬を混合して調製した。使用したDダイマー測定用試薬は、シスメックス株式会社製のDダイマー測定キット・リアスオートDダイマー・ネオである。
【0062】
第1設定例での判定性能の検証のため、上記のように調製されたFDP測定試料とDダイマー測定試料とを、それぞれ、シスメックス株式会社製全自動血液凝固測定装置CS2000iにより測定し、各測定試料のOD値のタイムコース曲線を得た。使用した試料の添付文書に従い、得られたタイムコース曲線から、FDP濃度及びDダイマー濃度を算出した。さらに、FDP濃度及びDダイマー濃度から、それらの比であるFDP/Dダイマー比を算出した。
【0063】
第1設定例及び後述の第2設定例では、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定基準として、FDP/Dダイマー比≧2.5を陽性、すなわち線溶亢進状態と判定する、という基準を採用し、FDP濃度の大きさは考慮しないものとする。
【0064】
凸状エリア面積を用いた場合における線溶亢進状態の判定のため、FDP測定試料のOD値のタイムコース曲線から、式(1)によって凸状エリア面積を求めた。そして、凸状エリア面積を用いた場合の線溶亢進状態の判定として、式(2)で示される第1判定を行い、
図6に示すROC曲線を得た。
図6のROC曲線は、式(2)の右辺の評価関数に含まれる係数A,Bのうち、係数Bを−2.6に設定し、係数Aを2.0から0.0までの範囲で変化させた場合のROC曲線である。
図6において、横軸は、偽陽性率であり、縦軸は感度である。
図6のROC曲線のROC曲線下面積は0.61である。
【0065】
図6のROC曲線から、係数Aの値を決定した。決定される係数Aの値は、
図6のROC曲線において、(偽陽性率,感度)=(0%,0%)の点から(偽陽性率,感度)=(100%,100%)の点を結ぶ直線から左上方に最も離れた点における係数Aの値である。ここでは、A=0.29とした。
【0066】
以下の表1は、A=0.29,B=−2.6である評価関数に、算出されたFDP濃度を代入して得られた値V1と、凸状エリア面積と、を比較して得られた線溶亢進型状態の判定結果を示す。
【表1】
【0067】
また、
図7は、37検体それぞれのFDP測定試料から得られたFDP濃度及び凸状エリア面積をプロットした結果を示す。
図7において、白丸のプロットは、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって、非線溶亢進検体と判定されたものを示し、黒丸のプロットは、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって、線溶亢進検体と判定されたものを示す。プロット近傍の数値は、FDP濃度及びDダイマー濃度から算出されたFDP/Dダイマー比を示す。
図7には、式(2)の右辺の評価関数に対応する判定ライン50が示されている。
図7の判定ライン50は、A=0.29,B=−2.6である評価関数に対応する。
図7において、判定ライン50と一致するプロット及び判定ライン50よりも下のプロットは、式(2)で示す第1判定によって線溶亢進型であると判定される。
【0068】
表1及び
図7から明らかなように、式(2)で示す第1判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は15であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は22である。一方、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は14であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は23である。表1によれば、真陽性検体は9例であり、偽陽性検体は6例であり、偽陰性検体は5例であり、真陰性検体は17例である。
【0069】
第1設定例によれば、式(2)で示す第1判定による線溶亢進状態判定の感度=真陽性検体9例÷陽性検体14例=64%であり、特異度=真陰性検体17例÷陰性検体23例=74%となる。
【0070】
[2.6.2 第2設定例と判定性能の検証結果]
第2設定例でも、第1設定例と同様に、凸状エリア面積を用いた場合の線溶亢進状態の判定として、式(2)で示される第1判定のみを行う。したがって、第2設定例として設定される値も、係数A,Bである。
【0071】
第1設定例と第2設定例で異なる点は、第1設定例では、血液検体が凍結血漿検体であったのに対して、第2設定例では、血液検体が新鮮血漿検体であることである。第2設定例では、54例の新鮮血漿検体を用いた。また、第2設定例では、FDP測定試料とDダイマー測定試料とを、それぞれ、シスメックス株式会社製全自動血液凝固測定装置CS5100により測定し、各測定試料のOD値のタイムコース曲線を得た。使用した試料の添付文書に従い、得られたタイムコース曲線から、FDP濃度及びDダイマー濃度を算出した。さらに、FDP濃度及びDダイマー濃度から、それらの比であるFDP/Dダイマー比を算出した。なお、FDP/Dダイマー比は、FDP濃度÷Dダイマー濃度によって算出される。
【0072】
第2設定例では、第1設定例と同様の条件で判定性能を検証した。算出された凸状エリア面積を用いた場合の線溶亢進状態の判定として、式(2)で示される第1判定を行い、
図8に示すROC曲線を得た。
図8のROC曲線は、式(2)の右辺の評価関数に含まれる係数A,Bのうち、係数Bは−2.6に設定し、係数Aを2.0から0.0までの範囲で変化させた場合のROC曲線である。
図8において、横軸は、偽陽性率であり、縦軸は感度である。
図8のROC曲線のROC曲線下面積は0.77である。
【0073】
図8のROC曲線から、第1設定例と同様に、係数Aの値を決定した。ここでは、A=0.29とした。
【0074】
以下の表2は、A=0.29,B=−2.6である評価関数に、算出されたFDP濃度を代入して得られた値V1と、凸状エリア面積と、を比較して得られた線溶亢進型状態の判定結果を示す。
【表2】
【0075】
また、
図9は、54検体それぞれのFDP測定試料から得られたFDP濃度及び凸状エリア面積をプロットした結果を示す。
図9において、白丸のプロットは、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって、非線溶亢進検体と判定されたものを示し、黒丸のプロットは、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって、線溶亢進検体と判定されたものを示す。プロット近傍の数値は、FDP濃度及びDダイマー濃度から算出されたFDP/Dダイマー比を示す。
図9には、式(2)の右辺の評価関数に対応する判定ライン50が示されている。
図9の判定ライン50は、A=0.29,B=−2.6である評価関数に対応する。
図9において、判定ライン50と一致するプロット及び判定ライン50よりも下のプロットは、式(2)で示す第1判定によって線溶亢進型であると判定される。
【0076】
表2及び
図9から明らかなように、式(2)で示す第1判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は20であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は34である。一方、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は16であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は38である。表2によれば、真陽性検体は12例であり、偽陽性検体は8例であり、偽陰性検体は4例であり、真陰性検体は30例である。
【0077】
第2設定例によれば、感度=真陽性検体12例÷陽性検体16例=75%であり、特異度=真陰性検体40例÷陰性検体30例=79%となる。
【0078】
第1設定例及び第2設定例からわかるように、血液検体が凍結検体であっても、新鮮検体であっても、式(2)で示す第1判定による線溶亢進状態判定は、ある程度良好な感度及び特異度が得られる。
【0079】
[2.6.3 第3設定例と判定性能の検証結果]
第3設定例でも、第1設定例及び第2設定例と同様に、凸状エリア面積を用いた場合の線溶亢進状態の判定として、式(2)で示される第1判定のみを行う。したがって、第3設定例として決定される値も、係数A,Bである。
【0080】
第3設定例では、第1設定例及び第2設定例とは、使用される試薬が異なる。第3設定例において使用したFDP測定試料は、株式会社LSIメディエンス製のエルピアPDP−Pである。FDP濃度が80μg/mLを超える検体は、株式会社LSIメディエンス製の共通希釈液II(S)により8倍希釈測定を行い、凸状エリア面積は、式(1)で求めた値を8倍して得た。
【0081】
第3設定例において使用したDダイマー測定試料は、株式会社LSIメディエンス製のエルピアエースD−DダイマーIIである。
【0082】
第3設定例では、FDP測定試料とDダイマー測定試料とを、それぞれ、シスメックス株式会社製全自動血液凝固測定装置CS5100により測定し、各測定試料のOD値のタイムコース曲線を得た。使用した試料の添付文書に従い、得られたタイムコース曲線から、FDP濃度及びDダイマー濃度を算出した。さらに、FDP濃度及びDダイマー濃度から、それらの比であるFDP/Dダイマー比を算出した。
【0083】
第3設定例で用いた血液検体は、新鮮血漿検体62例である。第3設定例でも、第1設定例及び第2設定例と同様の条件で判定性能を検証した。ただし、第3設定例では、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定基準として、FDP/Dダイマー比≧2.0を陽性、すなわち線溶亢進状態と判定する、という基準を採用する。第3設定例でも、FDP濃度の大きさは考慮しないものとする。
【0084】
算出された凸状エリア面積を用いた場合の線溶亢進状態の判定として、式(2)で示される第1判定を行い、
図10に示すROC曲線を得た。
図10のROC曲線は、式(2)の右辺の評価関数に含まれる係数A,Bのうち、係数Bは−0.97に設定し、係数Aを2.0から−1.0までの範囲で変化させた場合のROC曲線である。
図10において、横軸は、偽陽性率であり、縦軸は感度である。
図10のROC曲線のROC曲線下面積は0.86である。
【0085】
図10のROC曲線から、第1設定例及び第2設定例と同様に、係数Aの値を決定した。ここでは、A=0.088とした。
【0086】
以下の表3は、A=0.088,B=−0.97である評価関数に、算出されたFDP濃度を代入して得られた値V1と、凸状エリア面積と、を比較して得られた線溶亢進型状態の判定結果を示す。
【表3】
【0087】
また、
図11は、62検体それぞれのFDP測定試料から得られたFDP濃度及び凸状エリア面積をプロットした結果を示す。
図11において、白丸のプロットは、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって、非線溶亢進検体と判定されたものを示し、黒丸のプロットは、DP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって、線溶亢進検体と判定されたものを示す。プロット近傍の数値は、FDP濃度及びDダイマー濃度から算出されたFDP/Dダイマー比を示す。
図11には、式(2)の右辺の評価関数に対応する判定ライン50が示されている。
図11の判定ライン50は、A=0.0887,B=−0.97である評価関数に対応する。
図11において、判定ライン50と一致するプロット及び判定ライン50よりも下のプロットは、式(2)で示す第1判定によって線溶亢進型であると判定される。
【0088】
表3及び
図11から明らかなように、式(2)で示す第1判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は15であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は47である。一方、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は15であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は47である。表3より、真陽性検体は13例であり、偽陽性検体は2例であり、偽陰性検体は2例であり、真陰性検体は45例である。
【0089】
第3設定例によれば、感度=真陽性検体13例÷陽性検体15例=87%であり、特異度=真陰性検体45例÷陰性検体47例=96%となる。
【0090】
第1設定例から第3設定例によれば、式(2)で示す第1判定による線溶亢進状態判定は、使用されるFDP測定用試薬にかかわらず、有用であることがわかる。
【0091】
[2.6.4 第4設定例と判定性能の検証結果]
第4設定例では、凸状エリア面積を用いた場合の線溶亢進状態の判定として、式(2)で示される第1判定に加えて、式(3)で示される第2判定も行い、式(2)に加えて、式(3)をも満たす場合に、検体を線溶亢進型であると判定する。したがって、第4設定例として設定される値は、係数A,B及び閾値Cである。第4設定例では、第1設定例において得られた37検体の測定結果を用いて、第1判定及び第2判定により線溶亢進状態の判定を行う。第4設定例では、係数B=−2.6とし、閾値C=80μg/mLとした。
【0092】
第4設定例における係数Aの決定のため、
図12に示すROC曲線を得た。
図12のROC曲線は、式(2)の係数Aを2.0から−1.0までの範囲で変化させた場合のROC曲線である。
図14において、横軸は、偽陽性率であり、縦軸は感度である。
図14のROC曲線のROC曲線下面積は1.0である。
図12のROC曲線から、第1設定例と同様に、係数Aの値を決定した。ここでは、A=0.186とした。
また、第4設定例及び後述の第5設定例では、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定基準として、FDP/Dダイマー比≧2.5かつFDP濃度≧80μg/mLを陽性、すなわち線溶亢進状態と判定する、という基準を採用する。
【0093】
以下の表4は、第1判定及び第2判定により得られた線溶亢進型状態の判定結果を示す。第1判定は、A=0.186,B=−2.6である評価関数に、算出されたFDP濃度を代入して得られた値V1と、凸状エリア面積と、を比較することで行われる。
【表4】
【0094】
図13は、
図7と同様のプロット結果に、第4設定例に従った判定ライン50を描いたものを示している。
図13の判定ライン50は、式(2)に示す第1判定に対応する第1部分ライン51と、式(3)で示す第2判定に対応する第2部分ライン52と、を有して構成されている。
図13において、第1部分ライン51と一致するプロット又は第1部分ライン51よりも下のプロットであり、かつ、第2部分ライン52と一致するプロット又は第2部分ライン52よりも右側のプロットは、第1判定及び第2判定によって、線溶亢進型であると判定される。
図13に示すように、第4設定例では、
図7に示す第1設定例よりも係数Aが小さくなっている。係数Aが小さい場合、式(2)で示される第1判定だけであると、第1設定例よりも感度及び特異度が低下してしまうおそれがある。しかし、係数Aが小さくても、式(3)で示される第2判定をも行うことで、第1設定例よりも感度及び特異度を良好にすることができる。したがって、第2判定を導入することで、係数Aの設定の自由度を高くすることができる。同様に、第2判定の導入によって、係数Bの設定の自由度も高くすることができる。
【0095】
表4及び
図13から明らかなように、式(2)で示す第1判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は4であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は33である。一方、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は4であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は33である。表4によれば、真陽性検体は4例であり、偽陽性検体は0例であり、偽陰性検体は0例であり、真陰性検体は33例である。
【0096】
第1設定例によれば、式(2)で示す第1判定による線溶亢進状態判定の感度=真陽性検体4例÷陽性検体4例=100%であり、特異度=真陰性検体33例÷陰性検体33例=100%となる。
【0097】
[2.6.5 第5設定例と判定性能の検証結果]
第5設定例では、第2設定例において得られた54検体の測定結果を用いて、第4設定例と同様に第1判定及び第2判定により線溶亢進状態の判定を行う。第5設定例では、係数B=−2.6とし、閾値C=80μg/mLとした。
【0098】
第5設定例における係数Aの決定のため、
図14に示すROC曲線を得た。
図14のROC曲線は、式(2)の係数Aを2.0から−1.0までの範囲で変化させた場合のROC曲線である。
図14において、横軸は、偽陽性率であり、縦軸は感度である。
図14のROC曲線のROC曲線下面積は1.0である。
【0099】
図14のROC曲線から、第1設定例と同様に、係数Aの値を決定した。ここでは、A=0.22とした。
【0100】
以下の表5は、第1判定及び第2判定により得られた線溶亢進型状態の判定結果を示す。第1判定は、A=0.22,B=−2.6である評価関数に、算出されたFDP濃度を代入して得られた値V1と、凸状エリア面積と、を比較することで行われる。表5の判定では、54検体のうち、FDP濃度が80μg/mL未満の38検体を除いた16検体を判定対象としている。
【表5】
【0101】
図15は、
図9と同様のプロット結果に、第5設定例に従った判定ライン50を描いたものを示している。
図15の判定ライン50は、式(2)に示す第1判定に対応する第1部分ライン51と、式(3)で示す第2判定に対応する第2部分ライン52と、を有して構成されている。
図15において、第1部分ライン51と一致するプロット又は第1部分ライン51よりも下のプロットであり、かつ、第2部分ライン52と一致するプロット又は第2部分ライン52よりも右側のプロットは、第1判定及び第2判定によって、線溶亢進型であると判定される。表5及び
図15から明らかなように、式(2)で示す第1判定及び式(3)で示す第2判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は9であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は7である。一方、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は9であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は7である。表5によれば、真陽性検体は9例であり、偽陽性検体は0例であり、偽陰性検体は0例であり、真陰性検体は7例である。
【0102】
第5設定例によれば、第1判定及び第2判定による線溶亢進状態判定の感度=真陽性検体9例÷陽性検体9例=100%であり、特異度=真陰性検体7例÷陰性検体7例=100%となる。このように、第5設定例では、第2判定があることで、第2設定例に比べて判定性能が高まる。
【0103】
[2.6.6 第6設定例と判定性能の検証結果]
第6設定例では、第3設定例において得られた62検体の測定結果を用いて、第4設定例及び第5設定例と同様に第1判定及び第2判定により線溶亢進状態の判定を行う。ただし、第6設定例では、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定基準として、FDP/Dダイマー比≧2.0かつFDP濃度≧50μg/mLを陽性、すなわち線溶亢進状態と判定する、という基準を採用する。
【0104】
第6設定例では、係数B=−0.97とし、閾値C=50μg/mLとした。第6設定例における係数Aの決定のため、
図16に示すROC曲線を得た。
図16のROC曲線は、式(2)の係数Aを2.0から−1.0までの範囲で変化させた場合のROC曲線である。
図16において、横軸は、偽陽性率であり、縦軸は感度である。
図16のROC曲線のROC曲線下面積は0.97である。
【0105】
図16のROC曲線から、第1設定例と同様に、係数Aの値を決定した。ここでは、A=0.076とした。
【0106】
以下の表6は、第1判定及び第2判定により得られた線溶亢進型状態の判定結果を示す。第1判定は、A=0.076,B=−0.97である評価関数に、算出されたFDP濃度を代入して得られた値V1と、凸状エリア面積と、を比較することで行われる。表6の判定では、62検体のうち、FDP濃度が50μg/mL未満の46検体を除いた16検体を判定対象としている。
【表6】
【0107】
図17は、
図11と同様のプロット結果に、第6設定例に従った判定ラインを描いたものを示している。
図17判定ライン50は、式(2)に示す第1判定に対応する第1部分ライン51と、式(3)で示す第2判定に対応する第2部分ライン52と、を有して構成されている。
図17において、第1部分ライン51と一致するプロット又は第1部分ライン51よりも下のプロットであり、かつ、第2部分ライン52と一致するプロット又は第2部分ライン52よりも右側のプロットは、第1判定及び第2判定によって、線溶亢進型であると判定される。表6及び
図17から明らかなように、式(2)で示す第1判定及び式(3)で示す第2判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は11であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は5である。一方、FDP/Dダイマー比を用いた場合の線溶亢進状態の判定によって線溶亢進型であると判定された検体数は10であり、非線溶亢進型であると判定された検体数は6である。したがって、真陽性検体は10例であり、偽陽性検体は1例であり、偽陰性検体は0例であり、真陰性検体は5例である。
【0108】
よって、第6設定例によれば、第1判定及び第2判定による線溶亢進状態判定の感度=真陽性検体10例÷陽性検体10例=100%であり、特異度=真陰性検体5例÷陰性検体6例=83%となる。このように、第6設定例では、第2判定があることで、第3設定例に比べて判定性能が高まる。
【0109】
[3.検証]
[3.1 第1検証実験]
線溶亢進状態判定に用いられるFDP濃度とタイムコース曲線の凸状エリア面積との関係を検証するため、第1検証実験を行った。第1検証実験では、FDP/Dダイマー比が所定の値に調製された人工FDP試料を希釈して、FDP濃度がそれぞれ30μg/mL、60μg/mL、120μg/mLである3種類の検証用検体を作成した。人工FDP試料としては、FDP/Dダイマー比=2に調製されたシスメックス株式会社製のPD−FDP標準品を使用した。人工FDP試料の希釈には、同社製の線溶系希釈液を用いた。FDP濃度が異なる3つの検証用検体それぞれを、シスメックス株式会社製のFDP測定用試薬であるリアスオートP−FDPと混合し、3つの測定試料を調製した。3つの測定試料は、それぞれ、FDP/Dダイマー比は同じであるが、FDP濃度が異なる。
【0110】
3つの測定試料を、シスメックス株式会社製全自動血液凝固測定装置CS2000iにより測定し、各測定試料のOD値のタイムコース曲線を得た。
図18は、FDP濃度が異なる3つの測定試料から得られたタイムコース曲線を示す。
図18に示すタイムコース曲線によれば、FDP/DD比が一定であれば、FDP濃度に比例して、タイムコース曲線の湾曲度が大きくなり、凸状エリア面積が大きくなることがわかる。
【0111】
さらに、上記と同様の方法で、FDP濃度が、5μg/mL、10μg/mL、30μg/mL、60μg/mL、80μg/mL、120μg/mLの5種類の検証用検体を作成した。5種類の検証用検体それぞれを3つの異なるロットのリアスオートP−FDPと混合し測定試料を調製した。なお、3つの異なるロットそれぞれを、第1ロット、第2ロット、及び第3ロットという。各測定試料を、上記と同様に測定して、各測定試料のタイムコース曲線を得た。得られたタイムコース曲線から、式(1)によって凸状エリア面積を算出した。ロット毎にFDP濃度と凸状エリア面積をプロットし回帰線を描いた
図19から明らかなように、FDP/Dダイマー比が一定であれば、FDP濃度と凸状エリア面積との間には、凸状エリア面積=FDP濃度×A+Bに示す直線的な関係が成り立つことがわかる。
【0112】
なお、第1ロットについての
図19(a)において、A=0.2183,B=−0.0791であり、相関係数r=0.9988となった。第2ロットについての
図19(b)において、A=0.2031,B=0.4924であり、相関係数r=0.9983となった。第3ロットについての
図19(c)において、A=0.24728,B=0.11871であり、相関係数r=0.9985となった。
【0113】
[3.2 第2検証実験]
FDP濃度が一定の場合における、FDP/Dダイマー比と凸状エリア面積との関係を検証するため、第2検証実験を行った。第2検証実験では、FDP濃度が40μg/mLで一定となり、FDP/Dダイマー比がそれぞれ1.0,2.0,4.0となる3つの検証用検体を作成した。検証用検体は、人工Dダイマー試料と人工フィブリノゲン分解産物試料とを混合することにより得た。3つの検証用検体それぞれを、シスメックス株式会社製のFDP測定用試薬であるリアスオートP−FDPと混合し、3つの測定試料を調製した。3つの測定試料は、それぞれ、FDP濃度は同じであるが、FDP/Dダイマー比が異なる。
【0114】
3つの測定試料を、シスメックス株式会社製全自動血液凝固測定装置CS2000iにより測定し、各測定試料のOD値のタイムコース曲線を得た。
図20は、FDP/Dダイマー比が異なる3つの測定試料から得られたタイムコース曲線を示す。
図20に示すタイムコース曲線によれば、FDP/Dダイマー比が大きくなるほど、タイムコース曲線は直線的な形状を示し、湾曲度合が小さくなることがわかる。すなわち、タイムコース曲線において、30秒の時点の始点TAと150秒の時点の終点TBとを結んだ直線Lよりも上に膨らんだ面積、すなわち、凸状エリア面積は、FDP/Dダイマー比が大きくなるほど、小さくなることがわかる。
【0115】
このように、凸状エリア面積の大きさから、FDP/Dダイマー比を予測することが可能である。なお、Dダイマー濃度が非常に小さく、FDP/Dダイマー比が非常に大きい場合には、直線Lに対して下方凸状になることもあり、この場合、タイムコース曲線の湾曲度合及び凸状エリア面積は、負の値となる。
【0116】
[3.3 第1検証実験及び第2検証の考察]
第1検証実験及び第2検証実験の結果によれば、FDP濃度と凸状エリア面積とを求めることによって、FDP/Dダイマー比を予測することが可能となることが裏付けられる。したがって、第1判定に用いられる式(2)は、FDP/Dダイマー比を用いた線溶亢進状態判定の代替となり得るものであることが裏付けられる。すなわち、FDP濃度と凸状エリア面積とを求めることによって、線溶亢進状態判定が可能である。
【0117】
[3.4 ウェスタンブロティングによる検証]
図15においてプロットされた計54検体のうち、11検体を、ウェスタンブロッティングにより検証した。その結果を
図21に示す。
【0118】
ウェスタンブロッティングは、以下を用いて実施した。
Bio-Rad ReadyGel 5-20%
Dako社 A0080 抗ヒトフィブリノゲン ポリクローナル抗体(ウサギ)
Dako社 P0448 抗ウサギ抗体-HRP(ヤギ)
Dako社 抗マウス抗体-HRP(ウサギ)
Bio-Rad社 170-6431 HRP Conjugate Substrate Kit
【0119】
ウェスタンブロッティングによる検証対象となった11検体は、
図22において、AからKのアルファベットで示されている。なお、
図22においても、プロット点近傍の数字は、FDP/Dダイマー比を示している。11検体のうち、AからFまでの6検体は、第1判定及び第2判定を用いた線溶亢進状態判定において、線溶亢進検体と判定されたものであり、IからJまでの3検体は、第1判定及び第2判定を用いた線溶亢進状態判定において、非線溶亢進検体と判定されたものである。
【0120】
ウェスタンブロッティングによる線溶亢進状態判定では、100kDa付近にバンドが検出されれば線溶亢進と判定した。
図21によれば、AからFまでの6検体では、Bの検体を除いて100kDa付近にバンドが検出されている一方、IからKまでの3検体では、100kDa付近にバンドが検出されていないことがわかった。したがって、第1判定及び第2判定を用いた線溶亢進状態判定は、ウェスタンブロッティングによる線溶亢進状態判定とは、概ね結果が一致しており良好な結果が得られた。
【0121】
[4.FDP/Dダイマー比推定及びDダイマー濃度推定]
[4.1 推定方法]
前述のように、処理装置10は、
図1のステップ14にいて、線溶亢進状態を判定するのに加えて、又は代えて、Dダイマーに関する値を求めることができる。ここで、処理装置10が求めるDダイマーに関する値は、FDP/Dダイマー比の推定値及び、Dダイマー濃度の推定値である。
【0122】
処理装置10は、処理装置30は、FDP濃度を示す第1情報と、凸状エリア面積を示す第2情報と、に基づいて、FDP/Dダイマー比の推定値及び、Dダイマー濃度の推定値を求める。処理装置30は、以下の式(4)を用いて、FDP/Dダイマー比の推定値を算出する。式(4)は、メモリ32に分析用情報32dとして格納されている。
【数4】
【0123】
式(4)における、FDPFDP濃度1μg/mlあたりの凸状エリア面積は、凸状エリア面積÷FDP濃度によって算出される。したがって、FDP濃度1μg/mlあたりの凸状エリア面積は、FDP濃度を示す第1情報と、凸状エリア面積を示す第2情報と、に基づいて算出できる。
【0124】
処理装置30は、FDP/Dダイマー比の推定値から、以下の式(5)に基づき、Dダイマー濃度の推定値を算出する。式(5)は、メモリ32に分析用情報3eとして格納されている。
【数5】
【0125】
[4.2 推定方法の検証]
[4.2.1 式(4)の算出]
まず、前述の式(4)の算出手順を説明する。複数の血漿検体から作成されたFDP測定試料及びDダイマー測定試料を用いて、FDP測定及びDダイマー測定を行った。それぞれの測定により、OD値のタイムコース曲線を得た。添付文書それぞれの測定により得られたタイムコース曲線から、FDP濃度及びDダイマー濃度を算出した。さらに、FDP濃度及びDダイマー濃度から、それらの比であるFDP/Dダイマー比を算出した。FDP測定により得られたタイムコース曲線から式(1)に従って凸状エリア面積を算出した。凸状エリア面積とFDP濃度から、FDP濃度1μg/mlあたりの凸状エリア面積を算出した。
【0126】
算出したFDP/Dダイマー比と、FDP濃度1μg/mlあたりの凸状エリア面積と、の関係を指数関数で近似することにより、式(4)を得た。
図23は、算出したFDP/Dダイマー比と、FDP濃度1μg/mlあたりの凸状エリア面積とをプロットしたものに、式(4)で示される近似曲線を描いたものである。
【0127】
図23からわかるように、FDP/Dダイマー比と、FDP濃度1μg/mlあたりの凸状エリア面積との間には、所定の関係性がみられるため、FDP濃度1μg/mlあたりの凸状エリア面積が求まれば、例えば式(4)を用いて、FDP/Dダイマー比の推定値を求めることができる。
【0128】
[4.2.2 式(4)及び式(5)の検証]
前述の第2設定例における54検体から得たFDP濃度及び凸状エリア面積から、FDP濃度1μg/mlあたりの凸状エリア面積を求め、式(4)に基づいて、FDP/Dダイマー比を推定した。さらに、式(5)に従い、式(4)に基づいて、FDP濃度を、推定したFDP/Dダイマー比で割って、Dダイマー濃度の推定値を算出した。その結果を
図24に示す。
図24の横軸は、各検体のDダイマーの実測値を示す。Dダイマーの実測値は、検体とDダイマー測定用試薬とを混合して調製された試料を測定した得られたDダイマー濃度である。
図24の縦軸は、各検体の、FDPタイムコース解析によるDダイマー推定値を示す。FDPタイムコース解析によるDダイマー推定値は、式(4)及び式(5)により得られたDダイマー濃度の推定値である。
【0129】
図24からわかるように、Dダイマー実測値とDダイマー濃度の推定値とは高い相関(相関係数r=0.99)を示しており、Dダイマー濃度の推定が良好である。また、Dダイマー濃度の推定が良好であることから、FDP/Dダイマー比の推定も良好であることが裏付けられる。
【0130】
[5.検体分析結果表示]
処理装置30は、
図1のステップS14までの分析処理が完了すると、
図25に示す結果表示画面100を表示部32に表示させる。結果表示画面100は、検体毎に、測定日時、検体番号、FDP濃度を示すFDP測定値のほか、線溶亢進フラグ101、FDP/DD推定値102、及びDD推定値103の表示領域を有する。線溶亢進フラグ101は、検体が線溶亢進状態と判定されたか否かを示す。線溶亢進状態と判定された検体については、線溶亢進フラグ101の領域において例えば、「線溶亢進」と表示される。
【0131】
FDP/DD推定値102の領域は、FDP/Dダイマー比の推定値を表示し、DD推定値103の領域は、Dダイマー濃度の推定値を表示する。
【0132】
処理装置30は、結果表示画面100における特定の検体の指定を、例えばマウスによるクリックにより、ユーザから受け付けると、その検体に関する詳細情報を表示する詳細画面110を表示する。
図26に示すように詳細画面110は、波形表示エリア111、検体の情報表示エリア112、及びFDP波形解析の結果表示エリア113を含む。
【0133】
波形表示エリア111は、FDP測定用の測定試料から得られたタイムコース曲線を表示する領域である。検体の情報表示エリア112は、例えば、検体番号、患者名、測定日時、FDP濃度の測定値、希釈の有無などの表示を含む。FDP波形解析の結果表示エリア113は、タイムコース曲線の湾曲度合、線溶亢進判定結果、FDP/Dダイマー比の推定値、Dダイマー濃度の推定値などを含む。このように、検体分析によって得られた情報を表示することで、医師による線溶亢進の診断を支援することができる。
【0134】
上記実施形態においては、Dダイマー測定を行わずにFDP測定によって、線溶亢進状態判定やDダイマー濃度の推定を行ったが、さらにDダイマー測定を行っても良い。例えば、1次スクリーニングとして、Dダイマー測定を行わずにFDP測定により線溶亢進状態判定を行ったのちに、二次検査として、Dダイマー測定を行ってFDP/Dダイマー比を求めて線溶亢進状態判定を行っても良い。また、Dダイマー測定により得られたDダイマー濃度の値が異常な値である場合に、FDP測定により得られたDダイマー濃度の推定値を用いて、Dダイマー濃度の値が本当に異常な値かを確認してもよい。このように、本発明の実施に際して、Dダイマー測定を行っても良い。