【課題】 CMOSインバータのような遷移周波数が低い反転増幅器を使用した場合であっても、前記遷移周波数を超える高周波領域において発振を可能とする圧電発振回路を提供することにある。
前記反転増幅器は、電源端子及び接地端子を有し、前記電源端子に抵抗を介して電源電圧が印加され、前記接地端子に抵抗を介して接地される請求項1又は2に記載の圧電発振回路。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の圧電発振回路の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の圧電発振回路の基本構成を示したものであり、その回路定数を表1に、水晶振動子の等価定数を表2に示す。
【0014】
IC1はCMOS半導体素子からなる反転増幅器(インバータ)、L
2及びL
3は共振用インダクタ、C
3は共振用キャパシタ、Cxは調整用キャパシタである。Xtalは、表2に示したような等価回路定数を有する圧電振動子(水晶振動子)である。ここで、C
4は出力カップリングキャパシタ、C
5及びC
6は電源(Vcc)と接地(GND)間に挿入するバイパスキャパシタである。前記インバータIC1は、インダクタL
3を介して出力側(OUT)から入力側(IN)に帰還接続されている。また、前記Xtalの一端が前記IC1の入力側(IN)に接続され、他端が接地(GND)されている。このように、L
3,C
3によるLC共振を含む回路構成において、前記IC1の入力側(IN)にXtalの一端を接続し、他端を接地(GND)することによって、
図10に示すように、|Rcci|/R1がCMOS導体素子のトランスコンダクタンスG
Mの低下によっても低下することがなく、さらに最大値が発生することとなる。これによって、前記IC1がCMOS半導体素子からなる回路構成において、IC1の遷移周波数を超えた高周波領域での発振が可能となる。また、前記IC1に高周波用のトランジスタを使用した場合は、バイアイス回路が必要となるが、
図1に示した本発明の回路構成にあっては前記バイアス回路が不要となるので、部品点数が少なく回路構成がシンプルになると共に、消費電力も低減させることができる。
以下、
図2乃至
図14を参照して、
図1に示した基本回路構成の解析結果及び実験結果を示す。
【0015】
図2に第1等価回路を示す。Lp、rp、CpはL
2,L
3に寄生する寄生インダクタンスlp、IC1の入力キャパシタンスCi、入出力キャパシタンスCio、出力キャパシタンスCoで回路の寄生キャパシタンスを含む等価回路である。Cn、CuはそれぞれCxとXtalに寄生するキャパシタンスを示す。
【0016】
図3に第2等価回路を示す。CpをLp、rpに合成,更にlpを含めてLq、rqとする。(1)のように設定し,rq(2)とLq(3)を得る。
【0020】
さらに、(4)のように設定し、rq、LqにCioを含めてr2q(5)、L
2q(6)とする。
【0024】
IC1のトランスコンダクタンスをG
Mとし、
図3に示した第2等価回路にキルヒホッフの法則を適応して(7)を得る。次に、同式を(8)に変換し、インピーダンス(9)を設定すると、
図4に示す第3等価回路のRc(11)、Cc(12)を得る。更に、CiをRc, Ccへ含め合成し
図5の等価回路のRcc(13),Ccc(14)を得る。
【0033】
図6(a)に第5等価回路を示す。Rccとrqを合成しRci(15)を得て、同様に、Lq,CxnおよびCccを合成してCci(16)を得る。これらの合成インピーダンスをZciとする。同図でR
1,L
1,C
1およびC
0が圧電振動子の等価回路である。特にR
1,L
1,C
1をモーションアームと呼び、このインピーダンスをZmとする。C
0とCuの合成インピーダンスをZ
0とする。改めてキルヒホッフの法則を適応し(17)を得る。モーションアームZmは振動源であり、圧電振動子のインピーダンスの一部であるZ
0をZciへ含めた合成インピーダンスZcciとのつり合いを(18)とする。Zcci(19)の実部と虚数部、すなわち等価抵抗Rcci(20)ならびに等価キャパシタンスCcci(21)を示す。これらに基づいて
図6(b)に示す第6等価回路を得る。
【0042】
図6(b)に示した第6等価回路において、圧電発振回路における閉回路を構成する条件、即ち実部がゼロとなる抵抗条件(23)を得る。ここで、発振余裕度としてR
1とRcciの絶対値との比を定義し、発振のし易さに対する評価式(24)に変換する。(5)同式において等号は定常発振の条件、不等号は起動時の条件を表わす。
【0045】
ここで、Ψosc(25)を定義する。発振起動から定常時に至る周波数条件として虚数部分がゼロとなる条件(26)を得る。1<Ψoscも発振条件の1つとなる。(5)同式を満たすことにより電流I(ωosc)が発生、閉回路を構成する。ここで、ωoscは発振時の角周波数である。
【0048】
更に厳密にはRcci、Ccci即ちΨoscともωの関数(27)で表わすことができる。同式で(28)が厳密な発振周波数foscとなる。
【0051】
ここで、発振周波数は、圧電振動子のモーションアームのL
1、C
1の共振周波数をf
1の角周波数と、発振角周波数ωoscとω
1との差をΔωoscとの比の無次元数(29)で表わすことができる。
【0053】
<LC発振回路の解析>
図1に示した圧電発振回路は、LC発振回路も含む。水晶振動子の振動源であるモーションアームが発生していない状態ではLC発振が可能な発振モードである。LC発振の発振条件は
図5の第4等価回路で水晶振動子をC
0に相当するキャパシタンスCzで置換し、
図7に示すように、LC発振回路における閉回路構成のための抵抗条件(30)が得られる。
【0055】
発振余裕度に変換し,(31)に示す。
【0057】
Czu,CxnならびにCccの合成キャパシタンスCs(32),Ψlc(33)を示す。発振周波数flc,発振角周波数ωlc(34)を得る。
【0059】
<解析結果>
前記式(23)、(31)に基づき、G
Mをパラメータとした|Rcci|/R
1、|Rcc|/rqの周波依存性を
図8に示す。解析に使用した回路定数は表1、圧電振動子Xtalの等価定数は表2に示した通りである。水晶共振発振モードを示す|Rcci|/R
1は、G
Mが小さい程ピーク値が大きく、発振の周波数帯域が狭くなり、大きなG
M対してはピーク値が低下し発振の周波数帯域が広くなる。G
M=1[mA/V]では約153〜164MHzの幅11MHz、G
M=2[mA/V]では周波数が約141〜174MHzの幅33MHz、4MHzではG
Mは約134〜186MHzの幅52MHzで1≦|Rcci|/R
1を示し発振条件を満たす。LC発振モードに対する|Rcc|/rqも広帯域の周波数特性を示し、G
M=1[mA/V]では約142〜212MHzの幅70MHz、G
M=2[mA/V]では約120〜235MHzの幅115MHzで1≦|Rcc|/rqとなり、広い範囲で発振条件を満たす。
【0060】
前記式(21)、(22)、(24)、(28)、(31)ならびに(34)に基づき、|Rcci|/R
1、|Rcc|/rq、Ccci、Lcci、foscならびにflcのCxに対する依存性を
図9に示す。定常発振における発振限界に近い条件として、G
M=0.85[mA/V]とする。水晶共振発振モードでは、|Rcc|/rq≦|Rcci|/R
1の範囲で回路リアクタンスが容量性、Ccciとなる領域で発振可能であり、Cx≒12〜24[pF]の範囲で発振条件を満たす。LC発振モードは全領域で|Rcc|/rq≒1.4〜1.5と発振限界を超えている。発振周波数はCx≒12[pF]近傍で約156MHzの水晶共振発振モードと交差する。
【0061】
前記式(21)、(22)、(24)、(28)、(29)、(31)ならびに(36)に基づき、|Rcci|/R
1、|Rcc|/rq、fosc、Δfosc/fmim、f
TのG
M依存性を
図10に示す。実験ではG
Mを固定して測定することはできないが、この解析により特性に関する重要な知見を得ることができる。
【0062】
前記f
Tは、能動素子の高周波特性を示す遷移周波数である。このf
Tはバイポーラトランジスタでは特に重要であり、使用周波数限界を示すパラメータとして使用されている。
図11にCMOSインバータの等価回路を示す。次式(35)に示すように、遷移周波数f
Tは、出力を短絡した場合の出力電流I
outと入力電流I
inの比を1とすることで求めることができる。
【0064】
CiはCMOSインバータの入力キャパシタンス、Cioは出力・入力間キャパシタンスであり、インバータを回路基板に装着した場合を想定して回路の寄生キャパシタンスを含める。これによって、対応する周波数f
T(36)を得る。
【0066】
上記遷移周波数f
Tは、解析結果から明らかなように、Ci、Cio及びG
Mに強く依存する。即ちG
Mが1/10に減少すればf
Tも1/10に減少する。水晶共振発振モードでは、G
M≒8[mA/V]でfosc≒f
Tを示す。G
M≦4[mA/V]で|Rcc|/rq≦|Rcci|/R
1を示し、LC発振モードから水晶共振発振モードに移行、G
M≒1.3[mA/V]で最大値|Rcci|/R
1|max≒162を示しその後急激に減少、G
M≒0.8[mA/V]で|Rcci|/R
1≒0となり負性抵抗を失う。Δfosc/fmimもG
Mの減少に伴い|Rcci|/R
1|max以降急激に減少する。ここで、fmimは発振限界のG
M≒0.8[mA/V]の周波数である。CMOSインバータの増幅限界を示すf
Tを超えて発振可能なことを示している。LC発振モードでは、G
M≒8[mA/V]で|Rcc|/rq≒46を示し、その後徐々に減少して、G
M≒0.8[mA/V]で|Rcc|/rq≦1を示し発振条件を失う。但し、
図9からも明らかなように、より高周波側に|Rcc|/rqの最大値を示し、f
Tを超えて発振可能なことを示している。
【0067】
現在の圧電発振回路の主流であるコルピッツ型の発振回路あるいはピアース型の発振回路の回路リアクタンスはキャパシタンスだけで構成されおり、発振に必要とする負性抵抗はトランスコンダクタンスの減少、キャパシタンスの増加により減少するためf
Tを超えて発振させることは略不可能である。
【0068】
<実験結果>
周波数特性と実験による安定度評価について述べる。実験には、Universal Frequency Counter50230A(Agilent,PaloAlto,U.S.A)を用いた。周波数外部標準としてルビジウム発振器を用いた。
図12に発振周波数の評価基準である2 sample standard deviationと発振周波数の調整用キャパシタンスCx依存性の実験データにより水晶共振モードとLC発振モードの安定性を比較する。ゲート時間を0.1sに固定した。
【0069】
水晶共振モードは、Cx=2〜9[pF]近傍でLC発振モードと同じ周波数と安定度σy(τ=0.1s)≒10
-6の値を示すが、発振周波数が水晶共振器の周波数と交差する10[pF]≦Cx≦15[pF]の範囲で156MHz近傍に固定される。このとき、4×10
-9≦σy≦2×10
-8範囲で明らかに水晶発振の特徴を示している。さらに調整用キャパシタを増加させると、16pF≦CxでLC発振モードと略同じσyを示す。LC発振モードは、2≦Cx≦9[pF]では水晶共振モードより僅かに高い周波数を示す。10[pF]≦Cx≦15[pF]の範囲で異なる周波数を示し、16[pF]≦Cxの範囲では僅かに高い周波数を示している。LC発振の場合、水晶共振器のC
0に相当するキャパシタCz=3[pF]で置換するのであるが、この結果は実際のC
0の値が3[pF]より僅かに大きいことによって生じていると予測できる。
【0070】
図10に示した解析結果と比較すると、水晶共振モードに移行するCxの値はCx≒12[pF]でおおよそ一致するが、発振範囲は12[pF]<Cx<24[pF]の範囲を示し、実験結果とは多少異なる。また、LC発振モードの発振周波数はCx≒12[pF]で156MHzと結果と整合するが解析範囲ではかなり異なる値を示している。LC発振は回路を構成する寄生キャパシタンス、インダクタンスの影響が大きいため、
図2に示す等価回路では精度が落ちるが、傾向としては正しい結果が得られている。
【0071】
水晶発振モードとLC発振モードの2 sample standard deviationσy(τ)の実測データを比較した結果を
図13に示す。水晶発振モードとLC発振モードのσy(τ)はおおよそ同じ傾向を示すが、安定度σy(τ)は10
-2程水晶発振モードが優れている。両発振モードが共存する回路で、それぞれの発振モードを識別、分離する方法として2 sample standard deviationは有効である。
【0072】
式(29)に示すΔfosc/f
1のf
1をVcc=1.7[V]とする最低発振周波数fmimに置換するΔfosc/f
1|mimとCMOSインバータの消費電流I
Dの電源電圧(Vcc)の依存性の実測データを
図14に示す。
【0073】
Vcc=1.7[V]で発振を開始、I
D≒2.6[mA]を示しVccの上昇に従いI
Dは比例し増加、Vcc=3[V]でI
D≒8.5[mA]を示す。Δfosc/f
1はVccの上昇に従い、Vccのおおよそ2乗に従って急激に上昇し、Vcc=3[V]でΔfosc/f
1≒310[ppm]の変化を示す。一般にCMOSインバータのトランスコンダクタンスとI
Dの関係は次式のように考えられている。
【0074】
【数37】
ここで、Kは比例定数である。I
Dの増加はG
Mの増加を伴い、Δfosc/f
1に関しては振動子電流との関係も深いため数値的近似は困難であるが、
図10に示した解析結果のG
Mの増加とΔfosc/f
1の増加傾向は一致する。
【0075】
次に、圧電振動子をキャパシタとして発振させる場合の実施形態について説明する。圧電発振回路の調整次第によっては、圧電振動子のLC並列共振を利用して発振させることもできる。
図15は、本実施形態において、実際に作製した圧電発振回路の構成、表3は回路定数、表4は使用した圧電振動子の等価回路定数を示したものである。
【0078】
図15及び
図16に示す反転増幅器IC2は、電源端子Vcc及び接地端子GNDを有し、それぞれの端子に抵抗R3,R4が接続される。この抵抗R3,R4は、ネガティブフィードバックの役割を果たすと共に、貫通電流の抑圧及び発振安定後の消費電流を低減する効果を有している。
【0079】
図15における圧電発振回路の回路定数を表3、圧電振動子X1の等価定数を表4に示す。このとき、発振周波数434.020MHzを確認した。
【0080】
図16は、
図15に示した圧電振動子X1をキャパシタCa1に置き換えて構成した回路を示したものである。
【0081】
図18は、表4に示した圧電振動子X1をネットワークアナライザ(S&A社250C)にて測定したときの共振波形である。
【0082】
図19は、
図18の共振波形をキャパシタンス成分とみた場合の波形である。
図15の回路で発振させたときの発振周波数434.020MHzにおいて、圧電振動子のキャパシタンス成分と
図16の回路が該当周波数で発振するときのキャパシタCa1の値が略一致することから、
図15に示した発振回路は圧電振動子のキャパシタンス成分により発振していることが言える。
【0083】
図20は
図15の回路で発振させた時のPhaseNoiseを示したものである。なお、比較のために、
図16の発振回路におけるCa1を2.2pFとしたときのPhaseNoiseを示した。
図15の回路はPhaseNoise特性が良く、圧電振動子による発振であることが分かる。
【0084】
以上説明したように、汎用のCMOSインバータの遷移周波数(f
T)の関係から100MHzを超える高周波では発振させることが困難であったが、本発明の回路構成によれば、汎用のCMOSインバータを用いた場合であっても、100MHzを超える高周波領域において安定した発振を得ることが可能となった。また、従来の発振回路と比較して圧電振動子を発振させるために必要な負性抵抗を大きくとることができる。
【0085】
前記汎用のCMOSインバータの消費電流は、一般的に10mA以下であることから、この汎用のCMOSインバータの消費電流を超えることのない低消費電流で本発明の圧電発振回路を駆動することが可能となる。このように、消費電流の低減に伴い、従来のバイポーラトランジスタを使用した高周波発振回路と比較して、ジッタや位相雑音、輻射ノイズといった発振回路特性の改善効果が得られる。
【0086】
また、汎用のCMOSインバータは比較的安価であることと、バイアス回路を要するバイポーラトランジスタを使用して構成した場合と比較して、部品点数を少なくすることができるので、圧電発振回路全体のコストダウンを図ることができる。
【0087】
さらに、本発明の圧電発振回路は、LC共振回路を備えていることから、LCの値の調整によりフィルタ効果を果たし、いくつかの不要振動(副振動)を有した圧電振動子を使用した場合においては、所定の周波数領域に限定して安定した発振をさせることも可能である。
【0088】
なお、本発明の圧電発振回路では、セラミック振動子、ATカット水晶振動子、GTカット水晶振動子、SAW共振子及びLamb波共振子等の各種の振動モードを有した圧電振動子が用いられる。インバータに関しては、CMOSを用いたが、バイポーラ又はFETであっても同様な回路構成をとることができる。