(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-46769(P2017-46769A)
(43)【公開日】2017年3月9日
(54)【発明の名称】理美容鋏
(51)【国際特許分類】
B26B 13/00 20060101AFI20170217BHJP
【FI】
B26B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-170686(P2015-170686)
(22)【出願日】2015年8月31日
(71)【出願人】
【識別番号】500063309
【氏名又は名称】株式会社ヤマナカ
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】山中 幸嗣
(72)【発明者】
【氏名】山中 好昭
【テーマコード(参考)】
3C065
【Fターム(参考)】
3C065AA03
3C065BA03
3C065FA02
(57)【要約】
【課題】櫛や指を挟むことがなく、安全性や鋏の保護効果に優れ、なおかつ、荒刈りと仕上げ刈りの要求に対して1本の理美容鋏で対応することができる理美容鋏を実現して提供することを課題としている。
【解決手段】理美容鋏1を、使用者が利き手で鋏を持ったときに動刃2が上、静刃3が下になるように動刃2と静刃3が組み合わされており、さらに、静刃3の厚みが動刃2の厚みよりも薄く設定された構造にした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が利き手で鋏を持ったときに動刃(2)が上、静刃(3)が下になるように動刃(2)と静刃(3)が組み合わされており、さらに、前記静刃(3)の厚みが動刃(2)の厚みよりも薄く設定された理美容鋏。
【請求項2】
前記静刃の刃面(3i)を平坦な面で、前記動刃の刃面(2i)を長手直角断面において凸となる曲面でそれぞれ形成して前記動刃(2)と静刃(3)に厚み差を生じさせた請求項1に記載の理美容鋏。
【請求項3】
前記動刃(2)と静刃(3)を連結した要(4)の位置からハンドルに至る領域において前記動刃(2)と静刃(3)間に触点が存在しない鋏にした請求項1又は2に記載の理美容鋏。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整髪作業の安全性を高め、さらに、髪の荒刈りと仕上げ刈りの両方に対応することも可能にした理美容鋏に関する。
【背景技術】
【0002】
操作性を改善した理美容鋏として、下記特許文献1に開示されたものが知られている。その特許文献1の理美容鋏は、動刃と静刃のピボット結合点(要)の近傍において動刃と静刃の内面を対称的に捩れた摺接面にし、さらに、要の軸線を、水平にした鋏を側面から見た状態で垂直な軸に対して傾斜させ、なおかつ、動刃と静刃の位置関係を一般的な理美容鋏とは正反対にしている。
【0003】
一般的な理美容鋏は、使用者が利き手で鋏を持ったときに動刃が下、静刃が上になるように動刃と静刃が組み合わされているのに対し、特許文献1の理美容鋏は、動刃が上、静刃が下になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭48−29752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
理美容師による整髪は、荒刈り用の理美容鋏と仕上げ刈り用の理美容鋏を使い分けて行うことが通常行われている。
【0006】
仕上げ刈り用の理美容鋏は、荒刈り用の理美容鋏に比べて動刃、静刃の厚みが薄い。頭髪に櫛を当て、その櫛の表面に仕上げ刈り用の理美容鋏を沿わせて髪をカットすると、動刃、静刃の厚みが薄い分、髪を短くきれいに揃えて仕上げることができる。
【0007】
この仕上げ刈りや荒刈りを、動刃が静刃の下にある一般的な理美容鋏を用いて行うと、動刃が櫛の表面に沿って動くため、櫛を挟む(噛む)状況が発生し易い。
【0008】
その挟み込みにより、櫛が削られたり、鋏の刃が傷むなどの不具合が生じる。刃の厚みが薄い仕上げ刈り用の理美容鋏は特に、刃が傷み易く、櫛を噛んだ部分が欠けることもある。
【0009】
また、理美容師による整髪では、髪を指で挟み、鋏を指に沿わせて髪をカットすることもあり、この場合には、鋏で指を挟んで傷つけることがある。
【0010】
このほか、荒刈りと仕上げ刈りは、上述したように鋏を使い分ける方法が通常採られているが、鋏の持ち替えが面倒なために、仕上げ刈り用の理美容鋏で荒刈りと仕上げ刈りを行うこともときおり行われており、これが原因で、刃の切れ味が鈍って理美容鋏の寿命が低下する問題も発生している。
【0011】
なお、荒刈り用の理美容鋏で仕上げ刈りを行うことはできないわけではないが、この方法や特許文献1が述べているように、下側の刃を櫛から少し浮かせて髪をカットする方法では、刃厚や浮かせ量の不可避の変動が影響して髪を短くきれいに整えることができない。
【0012】
この発明は、櫛や指を挟むことがなく、安全性や鋏の保護効果に優れ、なおかつ、荒刈りと仕上げ刈りの要求に対して1本の理美容鋏で対応することができる理美容鋏を実現して提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の理美容鋏は、使用者が利き手で鋏を持ったときに動刃が上、静刃が下になるように動刃と静刃が組み合わされ、さらに、前記静刃の厚みが動刃の厚みよりも薄く設定されたものである。
【0014】
ここで言う静刃と動刃の厚みは、少なくとも刃面(刃表)が存在する部分の厚みであって、静刃と動刃の厚みの比較が、互いの刃が摺り合う位置、即ち、刃線に沿った刃元からの距離が等しい位置、かつ、刃線から峰に向かう距離も等しい位置でなされたものとする。
【0015】
その比較位置での静刃、動刃の峰部の厚みは等しくてもよい。峰部の厚みを等しくするものについては、刃面が存在する領域の厚みに差をつける。
【0016】
動刃と静刃は、どちらも刃元から刃先に向かって厚みが変動する。ここで指定した位置での厚みの比較であれば、上記刃元から刃先に向かう厚みの変動の影響を受けず、刃線に沿った各域において動刃と静刃の厚みに差がつく。
【0017】
なお、静刃は、長手直角断面において刃面を平坦な面にするのがよい。一方、動刃は、長手直角断面での刃面形状を凸曲面にするのがよい。
【0018】
この刃面形状の違いを利用して静刃と動刃の比較位置での厚みに差をつけることができる。また、一般的な理美容鋏は、動刃、静刃とも長手直角断面での刃面形状を凸曲面にしており、その凸曲面の曲率に差をつける(静刃の刃面を平面に近づける)構造でも静刃と動刃の比較位置での厚みに差をつけることができる。
【0019】
その厚み差は、動刃の比較位置での厚みに対して静刃の比較位置での厚みを少なくとも2割程度薄くするのがよい。
【0020】
また、動刃は、その厚みを、荒刈り用理美容鋏で一般的に設定されている厚みよりも厚くするのがよい。厚みの増加量は、特に限定されないが、一般的な荒刈り用理美容鋏の厚みに対して1割程度の厚み増でも構わない。
【0021】
このほか、理美容鋏においては、動刃と静刃の少なくとも一方について、要よりもハンドル側の裏面(内面)を凹ませるなどして触点を無くしたり、触点面積を減少させたりして動刃の動きを軽くすることが一部で行われている。
【0022】
この発明の理美容鋏、特に、動刃厚みを一般的な設計値よりも大きくして耐久性向上を図った理美容鋏については、動刃の動きを軽くして使い勝手を良くする上でその処理(無触点化や触点面積の減少)が有効になる。
【発明の効果】
【0023】
この発明の理美容鋏は、静刃に対して動刃が上に配置されており、これにより、静刃が櫛の表面や理美容師の指に接することになるため、静刃を櫛や理美容師の指に密着させても櫛や理美容師の指が誤って挟まれる事態が発生しない。
【0024】
そのために、整髪作業の安全性が高まり、櫛や指や鋏の刃を傷つけることが無くなる。
【0025】
また、櫛に添わせる静刃の厚みが動刃の厚みよりも薄いので、静刃を仕上げ刈りに適した刃厚を持つ刃にし、その静刃を櫛に密着させて髪をカットすることができ、短くて毛先がきれいに整った仕上げが可能となる。
【0026】
さらに、静刃の上にある動刃は、仕上げ精度には影響を及ぼさない。この動刃は、静刃と擦れ合って髪をカットするまでは髪を静刃に向かって押し動かし、なおかつ、カットされた髪を振り落とす働きをするので、髪の接触が静刃よりも多く、静刃に比べて刃先の負担が大きくなる。
【0027】
この発明の理美容鋏は、その刃先の負担が大きい動刃の厚みが静刃の厚みよも厚いため、動刃、静刃が共に厚みの薄い従来の仕上げ刈り用理美容鋏に比べて負荷に耐える能力が高い。従って、荒刈りを行なっても刃の傷みや切れ味の低下を生じ難く、同一理美容鋏で仕上げ刈りと荒刈りの両方に対応することが可能になる。
【0028】
なお、静刃の刃面を平坦な面にした理美容鋏は、静刃の刃面を櫛の表面に沿わせ易く、髪をカットする位置のばらつきを抑えて仕上げ刈りの作業性と作業の質を向上させることができる。
【0029】
また、要よりもハンドル側で刃の裏面を凹ませて動刃と静刃の触点をなくしたり、触点面積を減少させたりしたものは、動刃の重量が大きくても動刃の動きを軽くすることができ、鋏の使い勝手が良くなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】この発明の理美容鋏の一例を示す平面図である。
【
図3】
図2のIII−III線に沿った拡大断面図である。
【
図4】
図1のIV−IV線に沿った拡大断面図である。
【
図5】
図2のIII−III線に沿った位置の断面の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面の
図1〜
図5に基づいて、この発明の理美容鋏の実施の形態を説明する。
【0032】
図1に示すように、例示の理美容鋏1は、使用者が利き手でその鋏を持ったときに、動刃2が上、静刃3が下になるように動刃2と静刃3が組み合わされている。
【0033】
4は、動刃2と静刃3を連結した要である。例示の理美容鋏1の要4は、静刃3で引き留めたピボット軸4a(
図4参照)と、そのピボット軸に螺合させる調整ナット4bと、その調整ナットに締め付けられて動刃2と静刃3の摺動面の摩擦抵抗を変化させる調整用ばね板4cとで構成されている。
【0034】
ピボット軸4aは、先端部が動刃2の軸孔4dを貫通しており、その貫通した先端部に調整ナット4bを螺合させている。図示のピボット軸4aは、静刃3の刃元3cよりもハンドル3f側の裏面(
図4参照)に立設されているが、そのピボット軸は、動刃を貫通して静刃に設けられたねじ孔にねじ込まれる頭部付きのねじであっても構わない。
【0035】
図示の理美容鋏1の静刃3は、その刃の厚みを動刃2の厚みよりも薄くしている。動刃2と静刃3の厚みの比較は、既述の通り、互いの刃が摺り合う位置、即ち、刃線2a(又は3a)に沿った刃元2c(又は3c)からの距離が等しい位置(各刃の刃線2a、3aからの刃線直角方向の距離も等しい位置)でなされたものにして刃元2c(又は3c)から刃先2d(又は3d)に至る各域での静刃厚みを動刃厚みよりも薄くする。
【0036】
例示の理美容鋏1における動刃2と静刃3の厚み差は、
図3に示すように、静刃3の刃面3iを平坦な面にし、一方、動刃2の刃面2iは凸曲面となすことによって生じさせている。
【0037】
図5に示すように、刃面2i,3iを共に凸曲面にし、その刃面2i,3iの曲率を異ならせる(刃面2iを刃面3iよりも曲率が小さくて平面に近い形状にする)設計でも静刃3の厚みを動刃2の厚みよりも薄くすることができる。
【0038】
また、例示の理美容鋏1は、動刃2と静刃3の峰2b、3bについては、各比較位置での厚みを等しくしているが、静刃の峰2bの比較位置での厚みを動刃の峰3bの厚みよりも薄くしてもよく、この構造によれば、刃面2i,3iを同一断面形状にして動刃と静刃の厚みに差をつけることができる。
【0039】
図3の2e,3eは、動刃2と静刃3の裏スキ面、
図1、
図4の2f、3fは各刃のハンドル、2gはヒットポイント2hを有する動刃のリング、3gは指掛3hを有する静刃のリングである。
【0040】
例示の理美容鋏1は、
図2、
図4に示すように、要4の設置部からハンドル部に至る部分において動刃2、静刃3の裏面(内面)2j、3jを離反させて触点をなくしており、触点が存在する鋏に比べて動刃2の動きが軽くなっている。
【実施例】
【0041】
図1に示した構造の理美容鋏を試作した。その理美容鋏は、
図1、
図2に示すように、動刃2の全長L=16.5mm、刃元2cでの動刃幅w1=14mm、刃元3cでの静刃幅w2=14mm、動刃2の刃面2i部の最大部厚みd1=3.5mm、静刃3の刃面3i部の最大部厚みd2=2.8mm(動刃厚みの80%)にした。動刃2と静刃3の刃面部の厚みは刃元が最大となっている。
【0042】
荒刈り用の理美容鋏の場合、動刃の長さが同程度のものについては、刃元における最大部厚みが3.2mm程度に設計されているものが多い。その設計の鋏に比べて、動刃の厚みは1割弱増加したものになっている。
【0043】
この試作品を使用して同一鋏で荒刈りと仕上げ刈りを行なった。その結果、整髪の仕上がり状態は仕上げ専用の理美容鋏(比較品)を使用したときと遜色がなかった。
【0044】
また、鋏で櫛や指を挟む事態が起こらなかった。
さらに、仕上げ専用の理美容鋏と同程度の頻度で荒刈りと仕上げ刈りを行って3ヶ月経過後に動刃、静刃の切れ味を比較した結果、試作品は、切れ味の低下が比較品に比べて少なかった。
【符号の説明】
【0045】
1 理美容鋏
2 動刃
3 静刃
2a,3a 刃線
2b,3b 峰
2c,3c 刃元
2d,3d 刃先
2e,3e 裏スキ面
2f,3f ハンドル
2g,3g リング
2h ヒットポイント
3h 指掛
2i,3i 刃面
2j 動刃の触点除去部の裏面
3j 静刃の触点除去部の裏面
4 要
4a ピボット軸
4b 調整ナット
4c 調整用板ばね
4d 軸孔