特開2017-48113(P2017-48113A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-48113(P2017-48113A)
(43)【公開日】2017年3月9日
(54)【発明の名称】ガラス基板、及びガラス基板積層体
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/225 20060101AFI20170217BHJP
   B32B 17/00 20060101ALI20170217BHJP
【FI】
   C03B5/225
   B32B17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-235120(P2016-235120)
(22)【出願日】2016年12月2日
(62)【分割の表示】特願2015-533349(P2015-533349)の分割
【原出願日】2015年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-134578(P2014-134578)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-202301(P2014-202301)
(32)【優先日】2014年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-202455(P2014-202455)
(32)【優先日】2014年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤本 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 駿介
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB24
4F100AB24A
4F100AB24B
4F100AG00A
4F100AG00B
4F100BA02
4F100EJ42
4F100GB41
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸が小さいガラス基板及びガラス基板積層体を提供する。
【解決手段】ディスプレイに用いるガラス基板が含む白金族金属の凝集物は、50μmを越える最大長さの凝集物を含み、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合は、70%以上であり、最大長さが30μm以下である凝集物の個数の割合は、90%以上である。ガラス基板積層体は、前記ガラス基板を複数枚積層して形成されたものであって、体積の合計は0.1m3以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の、ディスプレイに用いるガラス基板が積層されて形成されるガラス基板積層体であって、
前記ガラス基板積層体の前記ガラス基板の体積の合計は0.1m3以上であり、
前記ガラス基板積層体が含む全白金族金属の凝集物は、50μmを越える最大長さの凝集物を含み、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合は、70%以上であり、最大長さが30μm以下である凝集物の個数の割合は、90%以上である、ことを特徴とするガラス基板積層体。
【請求項2】
ディスプレイに用いるガラス基板が含む白金族金属の凝集物は、50μmを越える最大長さの凝集物を含み、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合は、70%以上であり、最大長さが30μm以下である凝集物の個数の割合は、90%以上である、ことを特徴とするガラス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板、及びガラス基板積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板は、一般的に、ガラス原料から熔融ガラスを生成させた後、清澄工程、均質化工程を得た後、熔融ガラスをガラス基板へと成形する工程を経て製造される。 ところで、高温の熔融ガラスから品位の高いガラス基板を量産するためには、ガラス基板の欠陥の要因となる異物等が、ガラス基板を製造するいずれのガラス処理装置からも熔融ガラスへ混入しないよう考慮することが望まれる。このため、ガラス基板の製造過程において熔融ガラスに接する部材の壁は、その部材に接する熔融ガラスの温度、要求されるガラス基板の品質等に応じ、適切な材料により構成する必要がある。
たとえば、熔融ガラスを生成した後成形工程に供給するまでの間の熔融ガラスは極めて高温状態になるため、熔融、清澄、供給、攪拌を行う装置は、耐熱性の高い白金族金属である白金を含有する部材が用いられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−111533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、白金族金属は、高温になるに従って揮発し易くなる。そして白金族金属の揮発物が凝集すると、この凝集物である結晶の一部が異物として熔融ガラス中に混入し、ガラス基板の品質の低下を招くおそれがあった。特に、清澄工程は、熔解工程から成形工程にいたるまでの間で熔融ガラスの温度が最も高くなる工程であるので、清澄工程を主に行う清澄管は、極めて高い温度に加熱される。このため、清澄工程後の熔融ガラスには、清澄管から揮発した白金族金属が凝集することで得られる凝集物の一部が異物となって混入し易い。
【0005】
ガラス基板製造過程で白金族金属の異物が混入すると、白金族金属の異物とガラスの熱膨張係数の差に起因してガラス基板に歪が生じ、この歪によってディスプレイの表示不良を引き起こす問題や、白金族金属がガラス基板の主表面付近に存在してガラス基板の主表面に凹凸を形成し、主表面上に設ける薄膜トランジスタ(TFT)の形成が均一に行えないことに起因するディスプレイの表示不良の問題が生じる。近年、画像表示装置の画面表示の高精細化に伴ってディスプレイに用いるガラス基板では、ガラス基板内に混入する白金族金属の異物の低減がさらに強く求められている。
このように、ガラス基板に混入する白金族金属の異物(凝集物)の量を低減することが好ましい。しかし、成形前の熔融ガラスの温度は極めて高く、特に、清澄工程を行う清澄管では、白金族金属の揮発を誘発する原因である酸素を清澄管の気相空間雰囲気から排除することはできず、白金族金属の揮発を完全になくすことはできない。また、清澄管において、白金族金属の揮発物の凝集を生じさせる原因である装置内壁面の温度差を0にすることもできず、白金族金属の揮発を完全になくすことはできない。このため、製造過程で熔融ガラス中に白金族金属の異物(凝集物)が混入することを完全に阻止することは難しい。
【0006】
そこで、本発明は、ガラス基板に白金族金属の異物(凝集物)が混入しても、上記問題を生じさせ難いガラス基板、及びガラス基板積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、上述したように、ガラス基板の製造過程で熔融ガラス中に白金族金属の異物(凝集物)が混入することを完全に阻止することは難しいことから、熔融ガラス中に白金族金属の異物(凝集物)が混入しても、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくする異物の形態を模索した。その結果、白金族金属の最大長さが50μm以下であることが、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくする上で有効であり、また、ガラス基板に混入する白金族金属の異物(凝集物)のうち、白金族金属の最大長さが50μm以下である白金族金属の異物(凝集物)の個数の割合が70%以上であることが有効であるという知見を得た。特に、ガラス基板を製造するとき、熔融ガラスに混入した白金族金属の異物(凝集物)の大きさを低減させることが、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくする上で有効であるという知見を得た。これは、表示不良の発生を抑制するためには、白金族金属の異物(凝集物)の絶対数を低減させるための従来技術からは容易に想到し得ない知見である。
【0008】
すなわち、本発明の一態様は、ガラス基板の製造方法である。当該ガラス基板の製造方法は、以下の形態を含む。
(第1の形態)
ガラス基板の製造方法は、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスの導入により、前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれた気相空間が形成される空間を有し、前記壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する工程であって、前記熔融ガラスの処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が異物として前記熔融ガラスに混入する熔融ガラス処理工程と、を備え、
前記熔融ガラスに混入した凝集物のうち、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合が70%以上になるように、前記熔融ガラスに混入した凝集物の大きさを小さくする凝集物処理工程と、を備える。
【0009】
(第2の形態)
ガラス基板の製造方法は、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスからなる液相と、前記熔融ガラスの液面と壁から形成される気相空間とを有し、前記気相空間を囲む壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する工程であって、前記熔融ガラスの処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が異物として前記熔融ガラスに混入する熔融ガラス処理工程と、
前記熔融ガラス処理工程で熔融ガラスに混入した凝集物のうち、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合が70%以上になるように、前記熔融ガラスに混入した凝集物の大きさを小さくする凝集物処理工程と、を備える。
【0010】
(第3の形態)
ガラス基板の製造方法は、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスの導入により、前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれた気相空間が形成される空間を有し、前記壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する工程であって、前記熔融ガラスの処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が異物として前記熔融ガラスに混入する熔融ガラス処理工程と、を備え、
前記熔融ガラスに混入した凝集物の大きさが小さくなるように、前記熔融ガラスにおける前記凝集物の溶解度を調整する凝集物処理工程、を備える。
【0011】
(第4の形態)
ガラス基板の製造方法は、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスからなる液相と、前記熔融ガラスの液面と壁から形成される気相空間とを有し、前記気相空間を囲む壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する工程であって、前記熔融ガラスの処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が異物として前記熔融ガラスに混入する熔融ガラス処理工程と、を備え、
さらに、前記凝集物に与える熱量が、前記熔融ガラスに混入した前記凝集物の大きさを小さくすることができる最小熱量以上となるように、前記凝集物に与える熱量を制御する凝集物処理工程、を備える。
【0012】
(第5の形態)
前記ガラス基板の製造方法において、前記気相空間と接する前記壁の最高温度と最低温度との差を5℃以上にし、前記気相空間は酸素を含む、第1の形態〜第4の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0013】
(第6の形態)
前記凝集物処理工程は、前記凝集物を含む前記熔融ガラスの温度を、前記熔融ガラス処理工程において凝集物が熔融ガラスに混入する領域における熔融ガラスの温度と比べて高くなるように昇温させる、前記第1の形態〜前記第5の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。あるいは、前記凝集物処理工程において、前記熔融ガラスの温度は最高温度となる。
【0014】
(第7の形態)
前記凝集物処理工程では、前記凝集物の熔融ガラスへの溶解度を、前記熔融ガラス処理工程において凝集物が熔融ガラスに混入する領域における前記溶解度に比べて高くする、前記第1の形態〜前記第6の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。あるいは、前記凝集物処理工程は、前記凝集物の熔融ガラスへの溶解度高めることで、前記熔融ガラスに混入した凝集物の大きさを小さくする、前記第1の形態〜前記第6の形態のいずれか1つの形態のガラス基板の製造方法。詳細には、前記凝集物処理工程は、前記凝集物の熔融ガラスへの溶解度高めるように熔融ガラスを加熱制御することで、前記熔融ガラスに混入した凝集物の大きさを小さくする、前記第1の形態〜前記第6の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0015】
(第8の形態)
前記ガラス処理装置は、清澄管を有する清澄装置であり、
前記熔融ガラスは、前記清澄管を流れ、
前記清澄管内の前記気相空間は、前記熔融ガラスの流れの方向に沿って形成され、前記凝集物処理工程は、前記清澄管で行われる、前記第1の形態〜前記第7の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0016】
(第9の形態)
前記熔融ガラス処理工程では、前記熔融ガラスに含まれる酸化スズを用いて前記熔融ガラス中の泡数を低減する清澄処理を行い、前記熔融ガラスは、前記ガラス処理装置を流れ、前記気相空間と接する前記壁には、前記熔融ガラスの流れの方向に沿って温度分布を形成させ、前記気相空間には、前記熔融ガラスの流れの方向に沿って酸素濃度分布を形成させる、前記第1の形態〜前記第8の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0017】
(第10の形態)
前記凝集物処理工程は、前記ガラス処理装置で行われ、前記熔融ガラスは、前記ガラス処理装置を流れ、前記ガラス処理装置を流れる熔融ガラスのうち、前記気相空間における熔融ガラスの流れ方向において、酸素濃度が最も高くなる領域と対応する位置を流れる熔融ガラスに対して行われる、前記第1の形態〜前記第9の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0018】
(第11の形態)
前記気相空間中の酸素濃度を、0%超であって、1.0%以下にし、前記気相空間と接する前記壁の最高温度と最低温度の差を、5℃以上であって、100℃以下にする、前記第1の形態〜前記第10の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0019】
(第12の形態)
前記凝集物処理工程における前記熔融ガラスの温度を、1670℃〜1730℃の温度範囲とするように熔融ガラスの温度を制御する、前記第1の形態〜前記第11の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0020】
(第13の形態)
前記熔融ガラス処理工程において凝集物が熔融ガラスに混入する領域における前記熔融ガラスの温度を、1580℃〜1660℃の温度範囲とするように熔融ガラスの温度を制御する、前記第1の形態〜前記第12の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0021】
(第14の形態)
前記熔融ガラス処理工程は、前記凝集物処理工程を含む、前記第1の形態〜前記第13の形態のいずれか1つの形態に記載のガラス基板の製造方法。
【0022】
(第15の形態)
前記ガラス基板は、ディスプレイ用ガラス基板である、前記第1の形態〜前記第14の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0023】
(第16の形態)
前記凝集物処理工程開始時の前記熔融ガラス中に溶けている白金族金属の濃度を、0.05〜20ppmにする、前記第1の形態〜前記第15の形態のいずれか1つの形態に記載のガラス基板の製造方法。
【0024】
(第17の形態)
前記凝集物処理工程では、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が0.2〜0.5となる範囲で前記熔融ガラスの前記白金族金属の飽和溶解度を調整する、前記第1の形態〜前記第16の形態のいずれか1つの形態に記載のガラス基板の製造方法。
【0025】
(第18の形態)
前記ガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が0〜0.5質量%である、前記第1の形態〜前記第17の形態のいずれか1つの形態に記載されたガラス基板の製造方法。
【0026】
(第19の形態)
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程と、
前記熔融ガラスの導入により、前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれた気相空間が形成される空間を有し、前記壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置において前記熔融ガラスを処理する工程であって、前記熔融ガラスの処理時、前記
気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が異物として前記
熔融ガラスに混入する熔融ガラス処理工程と、
前記熔融ガラス処理工程において、前記熔融ガラスに混入した凝集物の少なくとも一部を前記熔融ガラスに溶解させる凝集物処理工程と、を備え、
前記凝集物処理工程開始時の前記熔融ガラス中に溶けている白金族金属の濃度を、0.05〜20ppmにする、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0027】
(第20の形態)
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
前記熔融ガラスの導入によって前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれる気相空間が形成され、前記気相空間に接する壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置を用いて前記熔融ガラスを処理する工程であって、前記熔融ガラスの処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が前記熔融ガラスに混入する熔融ガラス処理工程と、
前記熔融ガラス処理工程で前記熔融ガラスに混入した凝集物の少なくとも一部を前記熔融ガラスに溶解させる凝集物処理工程と、を備え、
前記凝集物処理工程では、新たに作製されるガラス基板に含まれる前記凝集物の欠陥個数が許容レベルになるように、前記ガラス処理装置を用いて作製したガラス基板において検出された前記凝集物の欠陥個数に基づいて前記熔融ガラスの温度を調整することで前記凝集物白金族金属の飽和溶解度を調整することを特徴とするガラス基板の製造方法。
ここで、記凝集物処理工程では、前記凝集物の飽和溶解度を調整するために、前記熔融ガラスの温度を1660〜1750℃の範囲で調整することが好ましい。
【0028】
(第21の形態)
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
前記熔融ガラスの導入によって前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれる気相空間が形成され、前記気相空間に接する壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置を用いて前記熔融ガラスを処理する工程であって、前記熔融ガラスの処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が前記熔融ガラスに混入する熔融ガラス処理工程と、
前記熔融ガラス処理工程で前記熔融ガラスに混入した凝集物の少なくとも一部を前記熔融ガラスに溶解させる凝集物処理工程と、を備え、
前記凝集物処理工程では、ガラス基板に含まれる前記凝集物の欠陥個数が許容レベルになるように、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を0.2〜0.5の範囲で調整することにより、前記熔融ガラスの前記白金族金属の飽和溶解度を調整することを特徴とするガラス基板の製造方法。
ここで、前記[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])は、前記ガラス基板が含有する酸化錫の含有量及びガラス原料に含まれる酸化物の含有量の少なくともいずれかを調節することにより調整されることが好ましい。
【0029】
また、本発明の他の一態様は、複数枚のガラス基板が積層されたガラス基板積層体である。このとき、以下の第22の形態を含む。
(第22の形態)
前記ガラス基板積層体中のガラス基板の体積の合計は0.1m3以上であり、前記ガラス基板が含む全白金族金属の凝集物のうち、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合は、70%以上である、ことを特徴とするガラス基板積層体。
【0030】
また、本発明の他の一態様は、ガラス基板であり、以下の第23の形態を含む。
(第23の形態)
ガラス基板が含む白金族金属の凝集物のうち、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合は、70%以上である、ことを特徴とするガラス基板。
【0031】
さらに、本発明の他の一態様は、ガラス基板製造装置である。当該ガラス基板製造装置は、以下の形態を含む。
(第24の形態)
ガラス基板製造装置は、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解装置と、
前記熔融ガラスの導入により、前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれた気相空間が形成される空間を有し、前記壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された、前記熔融ガラスを処理する装置であって、前記熔融ガラスの処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が異物として前記熔融ガラスに混入するガラス処理装置と、
前記熔融ガラス処理工程で熔融ガラスに混入した凝集物のうち、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合が70%以上になるように、前記熔融ガラスに混入した凝集物の大きさを小さくする処理手段と、を備える。
【0032】
さらに、本発明の他の一態様も、ガラス基板製造装置である。当該ガラス基板製造装置は、以下の形態を含む。
(第25の形態)
ガラス基板製造装置は、
ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解装置と、
前記熔融ガラスの導入により、前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれた気相空間が形成される空間を有し、前記壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された、前記熔融ガラスを処理する装置であって、前記熔融ガラスの処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が異物として前記熔融ガラスに混入するガラス処理装置と、を備え、
前記熔融ガラスに混入した凝集物の大きさが小さくなるように、前記熔融ガラスにおける前記凝集物の溶解度を調整する手段、を備える。
【0033】
(第26の形態)
また、前記第1の形態〜前記第21の形態のガラス基板の製造方法、前記第22の形態のガラス基板積層体、前記第23の形態のガラス基板、及び前記第24、25の形態のガラス基板製造装置のいずれか1つの形態における前記ガラス基板は、650℃以上の歪点を有するガラス基板である。
【0034】
前記第1の形態〜前記第21の形態のガラス基板の製造方法、前記第22の形態のガラス基板積層体、前記第23の形態のガラス基板、及び前記第24、25の形態のガラス基板製造装置のいずれか1つの形態における前記ガラス基板は、液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ用ガラス基板、あるいはLTPS(Low Temperature Poly-silicon)薄膜半導体を用いたディプレイ用ガラス基板として用いられる。
【発明の効果】
【0035】
上述のガラス基板の製造方法、ガラス基板、ガラス基板積層体、及びガラス基板製造装置によれば、ガラス基板に白金族金属の異物(凝集物)が混入しても、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができる。これにより、ガラス基板の製造時の歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施形態に係るガラス基板の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図2】実施形態に係るガラス基板製造装置の構成を示す模式図である。
図3】実施形態に係る清澄管を主に表した外観図である。
図4】実施形態に係る清澄管の内部を表す断面図と清澄管の温度プロファイルの一例を示す図である。
図5】熔融ガラスの最高温度と異物の割合との関係を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本実施形態のガラス基板の製造方法は、熔融ガラスの導入により、熔融ガラスの表面と壁に囲まれた気相空間が形成される空間を有し、前記壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置、例えば、熔融ガラスからなる液相と、熔融ガラスの液面と壁から形成される気相空間とを有し、気相空間を囲む壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置において熔融ガラスを処理する(熔融ガラス処理工程)。この熔融ガラスの処理時、気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が異物として熔融ガラスに混入する。熔融ガラスに混入した前記凝集物のうち、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合が70%以上になるように、熔融ガラスに混入した凝集物の大きさを小さくする処理を行う(凝集物処理工程)。あるいは、熔融ガラスに混入した凝集物の大きさが小さくなるように、熔融ガラスにおける異物(凝集物)の溶解度を調整する。例えば、異物(凝集物)に与える熱量が、熔融ガラスに混入した異物(凝集物)の大きさを小さくすることができる最小熱量以上となるように、異物(凝集物)に与える熱量を制御する(凝集物処理工程)。
このように、ガラス基板に混入する白金族金属の異物(凝集物)の大きさを小さくすることにより、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができる。このため、従来の問題を改善して、ガラス基板の製造歩留まりを改善する。
以降の説明では、凝集物の溶融ガラスに対する溶解度が、凝集物が熔融ガラスに溶解して大きさを小さくすることができる最小溶解度以上となるように、溶解度を調整する条件を制御する例として、凝集物に与える熱量が、熔融ガラスに混入した凝集物の大きさを小さくすることができる最小熱量以上となるように、凝集物に与える熱量を制御する例を挙げて説明する。
【0038】
(ガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置)
図1は、本実施形態に係るガラス基板製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。ガラス基板の製造方法は、図1に示されるように、主として、熔解工程S1と、清澄工程S2と、攪拌工程S3と、成形工程S4と、徐冷工程S5と、切断工程S6とを備える。
図2は、本実施形態に係るガラス基板製造装置200の構成の一例を示す模式図である。ガラス基板製造装置200は、熔解槽40と、清澄管41と、攪拌装置100と、成形装置42と、移送管43a,43b,43cとを備える。移送管43aは、熔解槽40と清澄管41を接続する。移送管43bは、清澄管41と攪拌装置100を接続する。移送管43cは、攪拌装置100と成形装置42を接続する。
【0039】
熔解工程S1では、ガラスの原料を熔解して熔融ガラスが生成される。熔融ガラスは、熔解槽40に貯留され、所望の温度を有するように加熱される。熔融ガラスは、清澄剤を含有する。環境負荷低減の観点から、清澄剤として酸化スズが好適に用いられる。
熔解槽40では、ガラス原料は、その組成等に応じた温度に加熱されて熔解される。これにより、熔解槽40では、例えば、1500℃〜1620℃の高温の熔融ガラスGが得られる。なお、熔解槽40では、少なくとも1対の電極間に電流を流すことで、電極間の熔融ガラスGが通電加熱されてもよく、また、通電加熱に加えてバーナーによる火焔を補助的に与えることで、ガラス原料が加熱されてもよい。
【0040】
清澄工程S2は、熔融ガラスが流れる移送管43a及び清澄管41の内部で行われる。最初に、熔融ガラスの温度を上昇させる。清澄剤は、昇温により還元反応を起こして酸素を放出する。熔融ガラス中に含まれる泡は、放出した酸素を吸収して拡大し、熔融ガラスが気相空間と接する表面に浮上し、破泡して消滅する。すなわち、脱泡処理工程S2Aが行われる。さらに、脱泡処理工程S2Aの途中から、あるいは、脱泡処理工程S2Aの終了後、熔融ガラスの温度を高くして、脱泡処理において混入した白金族金属の凝集物の大きさを低減する凝集物処理工程S2Bが行われる。その後、熔融ガラスの温度を低下させる。これにより、還元された清澄剤は、酸化反応を起こして、熔融ガラス中に残存している酸素等のガス成分を吸収する。すなわち、吸収処理工程S2Cが行われる。
【0041】
具体的には、熔解槽40で得られた熔融ガラスGは、熔解槽40から移送管43aを通過して清澄管41に流入する。清澄管41は、熔融ガラスGの導入により、熔融ガラスGの表面と壁に囲まれた気相空間が形成される空間を有し、この壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されている。例えば、熔融ガラスが流れる液相と、熔融ガラスの液面と壁から形成される気相空間とを有し、気相空間を囲む壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されている。移送管43a,43b,43cは、白金族金属製の管である。なお、白金族金属は、単一の白金族元素からなる金属、および、白金族元素からなる金属の合金を意味する。白金族元素は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)およびイリジウム(Ir)の6元素である。本実施形態では、例えば、白金含有量が70%以上である白金とロジウムの合金が好適に用いられる。白金族金属は、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性に優れている。清澄管41には、熔解槽40と同様に加熱手段が設けられている。また、少なくとも移送管43aにも加熱手段が設けられている。
【0042】
清澄工程S2では、熔融ガラスGを昇温することで脱泡する脱泡処理工程と、熔融ガラスに混入する白金族金属の異物(凝集物)に与える熱量を調整することで、白金族金属の異物(凝集物)を分断、あるいは熔解して白金族金属の異物(凝集物)の大きさを低減する凝集物処理工程と、熔融ガラスを降温することで、熔融ガラス中の泡を熔融ガラスが吸収する吸収処理工程を行う。凝集物処理工程では、熔融ガラスに混入した異物(凝集物)を分断し、あるいは熔解して白金族金属の異物(凝集物)の大きさを小さくするには、異物(凝集物)に与える熱量を、所定の熱量(最小熱量)以上にする必要がある。この場合、異物(凝集物)に与える熱量が、この最小熱量以上となるように、熔融ガラス中の異物(凝集物)に与える熱量を制御する。上記最小熱量は、予め実験等により予め調べることができる。最小熱量を熔融ガラスGの温度で制御する場合、例えば、清澄管41における熔融ガラスGの温度を、1580℃〜1730℃の範囲、好ましくは、1670℃〜1730℃の範囲で制御する。
清澄工程S2では、熔融ガラスGの清澄を十分に行なうという観点からは、移送管43aの内部を流れる熔融ガラスGの温度は、降温されることなく、順次昇温されることが好ましい。熔解工程S1の後、熔融ガラスGは1630℃以上まで3℃/分以上の速度で昇温されることが好ましい。
移送管43aを流れる熔融ガラスGの最高温度は1620℃〜1690℃であり、1640℃〜1670℃であることが好ましい。また、移送管43aと清澄管41を接続する領域である清澄管入口での熔融ガラスGの温度は、1610℃〜1680℃であり、1630℃〜1660℃であることが好ましい。さらに、清澄管41と移送管43bとを接続する領域である清澄管出口での熔融ガラスGの温度は、1530℃〜1600℃であり、1540℃〜1580℃であることが好ましい。
清澄管41において清澄された熔融ガラスGは、清澄管41から移送管43bを通過して攪拌装置100に流入する。熔融ガラスGは、移送管43bを通過する際に冷却される。
【0043】
攪拌工程S3では、清澄された熔融ガラスが攪拌されて、熔融ガラスの成分が均質化される。これにより、ガラス基板の脈理等の原因である熔融ガラスの組成ムラが低減される。均質化された熔融ガラスは、成形工程S4に送られる。
具体的には、攪拌装置100では、清澄管41を通過する熔融ガラスGの温度よりも低い温度で、熔融ガラスGが攪拌される。例えば、攪拌装置100において、熔融ガラスGの温度は、1250℃〜1450℃である。例えば、攪拌装置100において、熔融ガラスGの粘度は、500ポアズ〜1300ポアズである。熔融ガラスGは、攪拌装置100において攪拌されて均質化される。
攪拌装置100で均質化された熔融ガラスGは、攪拌装置100から移送管43cを通
過して成形装置42に流入する。熔融ガラスGは、移送管43cを通過する際に、熔融ガ
ラスGの成形に適した粘度となるように冷却される。例えば、熔融ガラスGは、1100〜1300℃まで冷却される。
なお、本実施形態の攪拌工程S3は、清澄工程S2の後に行なわれるが、攪拌工程S3は、清澄工程S2の前に行われてもよい。この場合、攪拌工程S3時の熔融ガラスGの温度は、清澄管41内の熔融ガラスGの温度と同等か高くてもよい。
【0044】
成形工程S4では、オーバーフローダウンドロー法またはフロート法によって、熔融ガ
ラスからシートガラスが連続的に成形される。
具体的には、成形装置42に流入した熔融ガラスGは、成形炉(図示せず)の内部に設置されている成形体52に供給される。成形体52の上面には、成形体52の長手方向に沿って溝が形成されている。熔融ガラスGは、成形体52の上面の溝に供給される。溝から溢れた熔融ガラスGは、成形体52の一対の側面を伝って下方へ流下する。成形体52の側面を流下した一対の熔融ガラスGは、成形体52の下端で合流して、シートガラスGRが連続的に成形される。
【0045】
徐冷工程S5では、成形工程S4で連続的に成形されたシートガラスが所望の厚みを有
し、かつ、歪みおよび反りが生じないように徐々に冷却される。
切断工程S6では、徐冷工程S5で徐冷されたシートガラスが所定の長さに切断されて、ガラスシートが得られる。ガラスシートは、さらに、所定のサイズに切断されて、ガラス基板が得られる。
【0046】
(ガラス基板積層体及びガラス基板)
本実施形態は、複数枚のガラス基板を積層して形成されたガラス基板積層体及びガラス基板を提供する。
本実施形態のガラス基板積層体は、その体積の合計は0.1m3以上であり、このガラス基板積層体が含む全白金族金属の凝集物のうち、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合は、70%以上である、ことを特徴とする。このようなガラス基板積層体は、後述するように、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができる。このため、上記積層体の各ガラス基板は、ディスプレイ用ガラス基板に好適であり、特に、画面表示において高精細が求められるディスプレイパネル用ガラス基板において有効である。
また、本実施形態のガラス基板は、ガラス基板が含む白金族金属の凝集物のうち、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合は、70%以上であることを特徴とする。このような構成のガラス基板により、後述するように、ガラス基板に歪がより生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸をより作りにくくすることができる。
なお、ガラス基板積層体及びガラス基板は、含有する白金族金属の凝集物のうち、最大長さが50μm以下である凝集物の個数の割合が90%以上であることがより好ましい。また、ガラス基板積層体及びガラス基板は、含有する白金族金属の凝集物のうち、最大長さが30μm以下である凝集物の個数の割合が90%以上であることがより好ましい。
ガラス基板に用いるガラスは、歪点が600℃以上であるガラスが、後述するガラス基板の製造方法に適している。上記歪点は650℃以上であることがより好ましく、690℃以上であることがよりいっそう好ましく、730℃以上であることが特に好ましい。
【0047】
(ガラス基板の適用例) 本実施形態のガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ用ガラス基板やディスプレイを保護するカバーガラスとして、特に適している。ディスプレイ用ガラス基板を用いるディスプレイには、ディスプレイ表面がフラットなフラットパネルディスプレイの他、有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイであって、ディスプレイ表面が湾曲した曲面ディスプレイが含まれる。ガラス基板は、高精細ディプレイ用ガラス基板として、例えば液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ用ガラス基板、LTPS(Low Temperature Poly-silicon)薄膜半導体、あるいはIGZO(Indium,Gallium,Zinc,Oxide)等の酸化物半導体を用いたディプレイ用ガラス基板として用いることが好ましい。
ディスプレイ用ガラス基板としては、無アルカリガラス、または、アルカリ微量含有ガラスが用いられる。ディスプレイ用ガラス基板は、高温時における粘性が高い。例えば、102.5ポアズの粘性を有する熔融ガラスの温度は、1500℃以上である。なお、無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物(R2O)を実質的に含まない組成のガラスである。アルカリ金属酸化物を実施的に含まないとは、原料等から混入する不純物を除き、ガラス原料としてアルカリ金属酸化物を添加しない組成のガラスであり、例えば、アルカリ金属酸化物の含有量は0.1質量%未満である。
【0048】
(ガラス組成)
熔解槽40では、図示されない加熱手段によりガラス原料が熔解され、熔融ガラスGが生成される。ガラス原料は、所望の組成のガラスを実質的に得ることができるように調製される。ガラスの組成の一例として、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板等のディスプレイ用ガラス基板として好適な無アルカリガラスは、SiO2 50質量%〜70質量%、Al23 0質量%〜25質量%、B23 0質量%〜15質量%、MgO 0質量%〜10質量%、CaO 0質量%〜20質量%、SrO 0質量%〜20質量%、BaO 0質量%〜10質量%を含有する。なお、BaO 0質量%〜10質量%に代えて、BaO 0質量%〜20質量%としてもよい。ここで、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量は、5質量%〜30質量%である。
【0049】
また、ディスプレイ用ガラス基板として、アルカリ金属酸化物を微量含むアルカリ微量含有ガラスを用いてもよい。アルカリ微量含有ガラスは、成分として、0.1質量%〜0.5質量%のR’2Oを含み、好ましくは、0.2質量%〜0.5質量%のR’2Oを含む。ここで、R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種であり、R’2Oは、Li2O、Na2O、K2Oの含有量の合計である。なお、R’2Oの含有量の合計は、0.1質量%未満であってもよい。したがって、本実施形態のガラス基板は、無アルカリガラスを含めて、アルカリ金属酸化物(R’2O)の含有量が0〜0.5質量%であるガラスが好適に用いられる。
【0050】
本実施形態によって製造されるガラスは、上記成分に加えて、SnO2 0.01質量%〜1質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.5質量%)、Fe23 0質量%〜0.2質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.08質量%)をさらに含有してもよい。また、本発明によって製造されるガラスは、環境負荷を考慮して、As23、Sb23およびPbOを実質的に含有しないことが好ましい。環境負荷低減のために、好ましくは、酸化スズ(SnO2)が清澄剤として用いられる。
【0051】
本実施形態は、熔融ガラス処理工程を清澄工程とし、熔融ガラス処理装置を、清澄管41を含んだ清澄装置とする形態を例に挙げて説明しているが、熔融ガラス処理工程を行う装置は、熔解槽40と成形装置42との間に設けられ、熔融ガラスに所定の処理をする装置である限りにおいて、特に制限されない。ガラス処理装置は、清澄装置の他に、例えば攪拌装置、あるいは熔融ガラスを移送する移送管とすることもできる。したがって、熔融ガラスの処理は、熔融ガラスを清澄する処理の他に、熔融ガラスを均質化する処理、熔融ガラスを移送する処理等を含む。また、凝集物処理工程S2Bも、清澄工程S2で行われる例を挙げて説明したが、例えば、攪拌工程S3、移送管にて熔融ガラスGを移送する工程で行われてもよい。なお、凝集物処理工程S2Bが清澄工程S2で行われる場合であっても、凝集物処理工程S2Bは、上述したように、吸収処理工程S2Cの前に行われる必要はなく、吸収処理工程S2Cの後に行われてもよい。
【0052】
(清澄管の構成)
次に、本実施形態における清澄装置の清澄管41の構成について詳細に説明する。なお、清澄装置は、清澄管41の他に、通気管41a、加熱電極41b、及び、清澄管41の外周を囲む図示されない耐火物保護層及び耐火物レンガを含む。図3は、清澄管41を主に表す外観図である。図4は、清澄管41の内部を表す断面図と清澄管の温度プロファイルの一例を示す図である。
【0053】
清澄管41には、通気管41a、および、一対の加熱電極41bが取り付けられている。清澄管41は、その内部に、熔融ガラスGの導入により、熔融ガラスGの表面と壁に囲まれた気相空間41cが形成される空間を有する。例えば、清澄管41は、その内部に、熔融ガラスGが流れる液相と、熔融ガラスGの液面と壁から形成される気相空間を有する。気相空間41cは、熔融ガラスGの流れの方向に沿って形成されている。気相空間41cを囲む壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されている。本実施形態では、気相空間41cを囲む壁全体が白金族金属を含む材料で構成されている。
【0054】
通気管41aは、熔融ガラスGが流れる方向の途中であり、気相空間41cと接する壁に設けられ、気相空間41cと清澄管41の外側の大気とを連通させる。通気管41aは、清澄管41と同様に、白金族金属で成形されることが好ましい。通気管41aは放熱機能により、通気管41aの温度が低下し易いので、通気管41aを加熱するための加熱機構を設けてもよい。
【0055】
一対の加熱電極41bは、清澄管41aの両端に設けられたフランジ形状の電極板である。加熱電極41bは、図示されない電源から供給される電流を清澄管41に流し、この電流により、清澄管41は通電加熱される。清澄剤として酸化スズを用いる場合、例えば清澄管41の壁は最高温度が1670℃〜1750℃、より好ましくは1690℃〜1750℃となるように加熱される。清澄管41の壁の最高温度と最低温度との差分は5℃以上であり、気相空間は酸素を有する。熔融ガラスGの温度は、酸化スズの還元反応が促進される温度まで加熱される。さらに、熔融ガラスGは、白金族金属の異物(凝集物)が分断あるいは熔解する温度、例えば1670℃以上に加熱されることが好ましく、1680℃以上に加熱されることがより好ましい。より具体的には、1670℃〜1730℃に加熱されることが好ましく、1680℃〜1700℃に加熱されることがより好ましい。熔融ガラスGの最高温度が1730℃を超えると、清澄管41aを構成する白金族金属からなる管が熔損し易くなる。なお、熔融ガラスGの最高温度は、清澄管41に設けられた図示されない熱伝対の計測値から算出することができる。
このような清澄管41の内部を流れる熔融ガラスGの温度は、清澄管41を流れる電流を制御することで制御することができる。
加熱電極41bは清澄管41に一対設けられるが、加熱電極41bの数は特に制限されない。加熱電極41bの電流量を制御することで、清澄管41の気相空間41cと接する壁の温度は、例えば1500〜1750℃の範囲に制御される。
【0056】
清澄管41の内部では、熔融ガラスGに含有する清澄剤、例えば酸化スズの酸化還元反応によって、熔融ガラスGに含まれるCO2またはSO2を含む泡が除去される。具体的には、最初に、熔融ガラスGの温度を上げて、清澄剤を還元させることにより、酸素の泡を熔融ガラスG中に発生させる。熔融ガラスG中に含まれるCO2、N2、SO2等の気体成分を含む泡は、清澄剤の還元反応によって生じた酸素泡と合体する。酸素泡と合体した泡は、気層空間と接する熔融ガラスGの表面に浮上し泡を放出する、すなわち破泡して消滅する。(脱泡処理)。この脱泡処理における熔融ガラスGの温度は、1610℃〜1730℃であり、好ましくは1640℃〜1710℃である。上記範囲の温度のとき、清澄管41の壁から白金族金属は盛んに揮発する。脱泡によって気相空間に酸素が放出されるので、脱泡処理が行われる気相空間の部分では、酸素濃度が高くなり、この結果、白金族金属の揮発はよりいっそう盛んになる。これに伴って、気相空間に含まれる白金族金属の揮発物の濃度が高くなるので、気相空間に含まれる白金族金属の揮発物の凝集が生じやすくなる。特に、壁の部分的に冷えた位置、例えば、清澄管41の入口近傍の壁で白金族金属の揮発物は凝集し易くなる。したがって、清澄管41の壁に付着した白金族金属の凝集物の一部が脱落して、熔融ガラスG内に異物として混入し易い。例えば、熔融ガラスが清澄管41に流入した後、熔融ガラスGの温度が1580℃〜1660℃となる領域において、気相空間に含まれる白金族金属の揮発物の凝集及び凝集物の熔融ガラスGへの混入が生じやすい。
このため、脱泡処理の途中から、あるいは脱泡処理の終了後から、熔融ガラスGに混入する白金族金属の異物(凝集物)の大きさを低減させる凝集物処理工程を行う。
脱泡処理の終了後から凝集物処理工程を行う場合、白金族金属の異物(凝集物)を含む熔融ガラスGの温度を、白金族金属の異物(凝集物)が熔融ガラスGに混入する領域における熔融ガラスの温度と比べて高くなるように熔融ガラスGを昇温させることが好ましい。
また、脱泡処理工程の途中から凝集物処理工程を行う場合、脱泡処理工程と凝集物処理工程が同時に行われる。脱泡処理工程の途中から凝集物処理工程を行なう場合、脱泡処理工程と凝集物処理工程が同時に行われる場合がある。脱泡処理工程の途中から凝集物処理工程を行う場合、凝集物処理工程において熔融ガラスが最高温度となる。すなわち、脱泡処理工程(熔融ガラス処理工程)は、凝集物処理工程を含んでもよい。
【0057】
凝集物処理工程は、熔融ガラスに混入した白金族金属の異物(凝集物)に加える熱量を制御することにより、具体的には、熔融ガラスGの温度を1670℃以上にすることにより、白金族金属の異物(凝集物)を分断、熔解させることが好ましい。このとき、熔融ガラスGに混入する白金族金属の異物(凝集物)のうち、最大長さが50μm以下の大きさの異物の個数の割合が70%以上となるように凝集物処理工程を行うことにより、ガラス基板の生じる歪は小さく、ガラス基板の主表面に凹凸を形成することも少なくなる。このような大きさの異物にするためには、熔融ガラスGの温度が1670℃以上の状態を10分以上、好ましくは30分以上維持することが好ましい。すなわち、白金族金属の異物(凝集物)の大きさを低減する凝集物低減処理は、1670℃以上の温度で、10分以上保持することで、白金族金属の異物(凝集物)の大きさを小さくすることができる。
また、本実施形態では、上記凝集物処理工程において、熔融ガラスに混入した白金族金属の異物(凝集物)の熔融ガラスへの溶解度を、熔融ガラス処理工程において白金族金属の異物(凝集物)が熔融ガラスに混入する領域における溶解度に比べて高くなるように溶解度を制御することも好ましい。異物(凝集物)の熔融ガラスGへの溶解度を高くする場合、熔融ガラスGの温度を上昇させることで、凝集物の熔融ガラスへの溶解度を高める、あるいは、熔融ガラスGの温度を上昇させ及び/又は処理時間を長くすることで、異物(凝集物)の熔融ガラスGへの溶解量を高めることができる。
【0058】
なお、白金族金属の異物(凝集物)は、一方向に細長い線状物である。このため、白金族金属の凝集物(異物)の最大長さとは、白金族金属の異物(凝集物)を撮影したときの異物の像に外接する外接長方形の長辺の長さをいう。
凝集物処理工程前は、最大長さが100μm以上である白金族金属の異物(凝集物)の割合が80%を超える。また、本実施形態では、凝集物処理工程前の白金族金属の異物(凝集物)とは、最大長さの最小長さに対する比であるアスペクト比が100を超える白金族金属の異物を指す。例えば、白金族金属の異物(凝集物)の最大長さが50μm〜300μm、最小長さが0.5μm〜2μmである。
【0059】
この後、熔融ガラスGの温度を下げて、還元された清澄剤を酸化させる。これにより、熔融ガラスG中に残留する泡の酸素が熔融ガラスGに吸収される(吸収処理)。こうして、残存する泡は小さくなり消滅する。このように、清澄剤の酸化還元反応によって、熔融ガラスGに含まれる泡が除去される。また、吸収処理工程S2Cでは、熔融ガラスGの温度及び清澄管41の壁の温度は1580℃以下に低下しており、脱泡処理工程S2Aと比較して気相空間に含まれる酸素濃度が低下しているので、白金族金属の揮発及び凝集は行われ難くなる。このため、吸収処理工程S2Cでは、脱泡処理工程S2Aと比較して新たな白金族金属の凝集物が異物となって熔融ガラスGに混入する可能性は遥かに低い。
【0060】
図示されていないが、清澄管41の外壁面には耐火物保護層が設けられる。耐火物保護層の外側には、さらに、耐火物レンガが設けられる。耐火物レンガは、基台(図示せず)に載置されている。なお、耐火物保護層及び/又は耐火物レンガにより清澄管41からの放熱量を調整することで、清澄管41の気相空間41cと接する壁の温度及び/又は清澄管41内を流れる熔融ガラス温度は制御されてもよい。
【0061】
図4は、清澄管41のX方向の位置に合わせて表した清澄管41の温度プロファイル(清澄管41の気相空間41cと接する壁のX方向の温度プロファイル)の一例を示している。温度プロファイルでは、清澄管41の熔融ガラスGの流入する側の端41d(入口)と通気管41aとの間で、温度が最高温度Tmaxとなっている。この最高温度Tmaxの位置Pから、清澄管41の端41dに向かって温度が低下する温度勾配が形成されている。同様に、最高温度Tmaxの位置Pから、通気管41aのX方向の位置に向かって温度が低下する温度勾配が形成されている。また、温度勾配領域は、図示されないが、上記以外に、通気管41aのX方向の位置と清澄管41の熔融ガラスGの流出する側の端41e(出口)との間にも形成されている。このような温度勾配領域において、いずれの温度勾配領域においても温度勾配領域における最高温度と最低温度の温度差が0℃超、150℃以下、より好ましくは0℃超、100℃以下になっている。図4に示すように、壁の温度が最高温度Tmaxになるまで継続して続く温度上昇区間の前半部分で、脱泡処理が開始し、少なくとも最高温度Tmaxまで続く。また、最高温度Tmaxを含む、温度上昇区間の後半部分で凝集物処理工程が開始し、少なくとも最高温度Tmaxまで続く。凝集物処理工程は、例えば、熔融ガラスGの温度が1670℃以上で開始する。なお、脱泡処理工程の終了と凝集物処理工程の終了の時点は、どちらが先であってもよいが、熔融ガラスに混入する全ての白金族金属の異物を凝集物処理工程の対象とする点から、凝集物処理工程の終了は、脱泡処理工程の終了と同時あるいはそれ以降であることが好ましい。
【0062】
このように、本実施形態では、熔融ガラスG中の泡を脱泡する処理を行うが、このとき、壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が異物として熔融ガラスGに混入する。熔融ガラスGに混入した異物(凝集物)のうち、最大長さが50μm以下である異物(凝集物)の個数の割合が70%以上になるように、熔融ガラスGに混入した凝集物の大きさを小さくする。あるいは、混入した白金族金属の異物の大きさを低減させるように、白金族金属の異物に加える熱量を制御する。これにより、ガラス基板に白金族金属の異物が混入しても、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができる。
【0063】
また、上述した清澄管41における気相空間と接する壁の温度の最高温度と最低温度の差を5℃以上であり、気相空間は酸素を含む雰囲気であっても、すなわち、白金族金属の凝集物が生じ易い条件であっても、熔融ガラスに含まれる白金族金属の異物の大きさを低減でき、あるいは、最大長さが50μm以下である白金族金属の異物の個数の割合を70%以上になるようすることができる。したがって、ガラス基板に白金族金属の異物が混入しても、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができる。
【0064】
また、凝集物処理工程を行うとき、凝集物を含む熔融ガラスGの温度を、熔融ガラス処理工程において白金族金属の異物(凝集物)が熔融ガラスGに混入する領域における熔融ガラスの温度と比べて高くなるように昇温させることが好ましい。これにより、白金族金属の異物(凝集物)を熱により分断し、あるいは熔解させることができ、確実に白金族金属の異物(凝集物)の大きさを低減することができる。
【0065】
また、ガラス処理装置は、清澄管41を有する清澄装置であり、清澄管41内の気相空間は、熔融ガラスの流れの方向に沿って形成され、凝集物処理工程は、清澄管41で行われることが好ましい。清澄管41における熔融ガラスGの温度は、成形工程までの間で最高温度になるので、白金族金属の異物(凝集物)の熱による分断あるいは熔解を容易に行うことができる。
【0066】
本実施形態のガラス処理工程では、熔融ガラスGに含まれる酸化スズを用いて熔融ガラスG中の泡数を低減する清澄処理を行い、ガラス処理装置における気相空間と接する壁には、熔融ガラスの流れの方向に沿って温度分布を形成させ、気相空間には、熔融ガラスGの流れの方向に沿って酸素濃度分布を形成させている。このような装置において、白金族金属の揮発に影響を与える酸素濃度分布があることで、白金族金属の揮発物の凝集物が生じ易く、この凝集物が異物として熔融ガラスに混入し易い。このような場合でも、白金族金属の異物(凝集物)の大きさを低減させることが容易にできるので、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができる。
【0067】
凝集物処理工程は、ガラス処理装置で行われ、このガラス処理装置を流れる熔融ガラスのうち、気相空間において酸素濃度が最も高くなる領域と対応する流れ方向の位置を流れる熔融ガラスを含むように行われることが好ましい。図4に示す温度プロファイルでは、最高温度Tmaxにおいて熔融ガラスGの脱泡処理は最も盛んに行われる。これにより、泡から放出された酸素により、最高温度Tmax付近の気相空間内の領域では、酸素濃度が最も高くなる。例えば、凝集物処理工程は、この酸素濃度が最も高くなる気相空間内の領域と対応する流れ方向の位置を通過する熔融ガラスに対して行なう。このため、白金族金属が最大酸素濃度に起因して白金族金属の揮発が盛んに行われ、その結果、白金族金属の凝集物が生じ易く、白金族金属の凝集物が異物として熔融ガラスに混入しても、この異物の大きさを効率よく低減させることができる。
【0068】
清澄管41の気相空間中の酸素濃度を、0%超であって、1.0%以下とし、清澄管41の壁の最高温度と最低温度の差を、5℃以上であって、100℃以下とすることが好ましい。これにより、白金族金属の揮発を抑え、熔融ガラスGに混入する白金族金属の異物を抑えることができる。しかし、この場合でも、白金族金属の異物を完全にゼロにすることはできない。このため、白金族金属の異物の大きさを低減させることで、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくする本実施形態の効果は、いっそう顕著になる。また、白金族金属の揮発を抑えることができるので、清澄管41等の白金族金属で構成された装置の寿命を向上させることができる。
【0069】
また、熔融ガラス処理工程の少なくとも一部において熔融ガラスGの温度が1580℃〜1660℃の温度範囲となるように制御し、凝集物処理工程時の熔融ガラスGの温度を、1670℃〜1730℃となるように制御することにより、脱泡処理を確実に行い、かつ、白金族金属の異物(凝集物)の大きさを確実に低減することができる。つまり、ガラス基板に含まれる泡数の低減と最大長さが50μm以上である白金族金属の異物の低減とを両立することができる。また、清澄管41の気相空間の酸素濃度が場所による分布を有する場合、酸素濃度が所定の値より高い領域では、熔融ガラスGに白金族金属の異物(凝集物)が混入し易くなるので、白金族金属の異物(凝集物)が混入したとしても、白金族金属の異物(凝集物)の大きさを低減させることができる程度の温度、例えば1680℃以上の温度に熔融ガラスGの温度を調整することが好ましい。より好ましくは、気相空間の酸素濃度分布に沿って、熔融ガラスの温度分布を形成するように熔融ガラス温度を制御することが好ましい。
【0070】
上述の実施形態では、熔融ガラスにおける凝集物の溶解度を調整する条件を制御する例として、凝集物に与える熱量を制御する例を挙げて説明した。しかし、溶解度が、上記最小溶解度以上となるように、溶解度を調整する条件は、上記熱量の制御を含む、以下の条件が挙げられる。これらの条件を制御することで、あるいはこれらの条件を組み合わせて制御することで溶解度を調整することができる。
【0071】
(凝集物の溶解度を調整する条件)
凝集物の溶解度を調整するための条件としては、例えば、
(a)熔融ガラスに溶けている白金族金属の濃度、
(b)熔融ガラスの温度あるいは温度分布(凝集物に与える熱量)、
(c)気相空間の圧力、
(d)熔融ガラスの酸素活量、が挙げられる。
【0072】
(a)熔融ガラスに溶けている白金族金属の濃度
凝集処理工程開始時の熔融ガラスに溶けている白金族金属の濃度が低いほど、白金処理工程において、熔融ガラス中の白金族金属の異物が溶解する溶解度は上昇する。熔融ガラスの白金族金属の濃度は、例えば、清澄管内の熔融ガラスをサンプリングし、冷却後粉砕してICP定量分析を用いた測定により求めることができる。
白金族金属の濃度を低くし過ぎると、白金族金属の凝集物の溶解度が大きくなる反面、熔融ガラスと接する清澄管の壁から熔融ガラスに白金族金属が溶出して、清澄管の熔損を起こす場合がある。
このようなデメリットの発生を抑える観点から、白金族金属の濃度は、調整されている。
【0073】
なお、清澄管41における凝集物処理工程開始時の熔融ガラスに溶けている白金族金属は、清澄管41や移送管43a等の熔融ガラスと接する壁面から溶出する白金族金属に主に由来する。この壁面から白金族金属が溶出する量は、移送管43a、凝集物処理工程開始前の脱泡処理工程における熔融ガラスの温度あるいは熔融ガラスと接する清澄管41の壁面の温度に依存する。したがって、移送管43a、清澄管41の壁面の温度あるいは温度分布を調整することにより、凝集物処理工程開始時の熔融ガラスの白金族金属の濃度を調整することができる。例えば、清澄管41を流れる電流の調整、清澄管41の周囲に配されたヒータに供給される電流の調整、あるいはこれらの組み合わせによって行うことができる。凝集物処理工程開始時の熔融ガラスに溶けている白金族金属の濃度を低くすることにより、凝集物処理工程開始時における、熔融ガラス中の白金族金属の異物が溶解する溶解度は上昇する。この点から、凝集物処理工程開始時の熔融ガラスに溶けている白金族金属の濃度は、0.05〜20ppmに調整されることが好ましい。
これにより、ガラス基板の製造工程中、白金族金属の凝集物が熔融ガラスに混入しても、白金族金属の凝集物の欠陥個数を許容レベルにしたガラス基板を製造することができる。
【0074】
(b)熔融ガラスの温度あるいは温度分布
清澄管41において、熔融ガラスに混入した白金族金属の凝集物の溶解度は、熔融ガラスの温度を高くすることで増加させることができる。熔融ガラスの温度あるいは温度分布
については、上述しているので説明を省略する。
【0075】
熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、白金族金属の凝集物の溶解量が大きくなる反面、下記のデメリットを生じさせる。
・リボイル泡の増加
清澄管41において熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、脱泡処理工程において過剰に脱泡されるため、熔融ガラスの酸素活量は低くなり、その結果、熔融ガラスは還元状態になる。この状態で、吸収処理工程が行われると、以下のメカニズムに従って、熔融ガラス中にリボイル泡が過剰に発生して、ガラス基板にリボイル泡の気泡が残存する場合がある。リボイル泡は、具体的には、熔融ガラスに不純物として含まれる硫黄や炭素に起因して生じたSOあるいはCO等を含む泡である。熔融ガラスの還元状態が時間的に長くなる場合、熔融ガラスに溶存しているSO、COが容易に還元されることでSO、COが生成しやすい。このSO、COはSO、COに比べて熔融ガラスに溶解されにくいために気泡となりやすい。このようなリボイル泡が多く発生すると、ガラス基板に泡欠陥として残り、ガラス基板の品質を低下させる場合がある。なお、ガラス基板に残存した泡は、例えば、レーザ顕微鏡または目視により検出される。
・ガラス成分の揮発量の増加
清澄管41において熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、熔融ガラスの成分、例えばBが気相空間に多く揮発する。この結果、ガラス組成が局部的に変化してガラスの熱膨張係数や粘度等のガラス特性が局所的に変わり、脈理等のスジをガラス基板に発生させる。
・白金族金属の揮発量の増加
清澄管41において、熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、熔融ガラスに接する気相空間の温度も高くなり、さらには、熔融ガラスの脱泡処理によって気相空間に放出された酸素の量が多くなり、その結果、気相空間を囲む清澄管の壁から白金族金属が揮発しやすくなる。白金族金属の揮発量が増えると、気相空間の白金族金属の濃度が高くなり、凝集および凝集物の熔融ガラスへの混入が起きやすくなる。
・清澄管の熔損
清澄管41において、熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、熔融ガラスに接する清澄管41の壁が熔損してしまう場合がある。
このようなデメリットの発生を抑える観点から、清澄管41における熔融ガラスの温度あるいは温度分布の調整が行われる。
【0076】
(c)気相空間の圧力
白金族金属の凝集物の溶解度は、清澄管41の気相空間41cの圧力を高くすることで増加させることができる。気相空間の圧力とは、気相空間に含まれる気体の全圧を意味する。
気相空間41cの圧力の調整は、例えば、気相空間41c内の気体が通気管41aを通って清澄管41の外側に吸引される量(吸引量)や、清澄管41内へのガス、例えば不活性ガスの供給量、熔融ガラスから放出されるガスの放出量を調整することによって行うことができる。吸引量は、例えば、清澄管41の通気管41aの出口を吸引装置と接続したり、上記出口を狭める等して、気相空間41cと清澄管41の外側の大気との圧力差の大きさを調節することで調整できる。熔融ガラスから放出されるガスの放出量は、例えば、熔融ガラスに含まれる清澄剤の量、ガラス成分の配合比を調整することで調整できる。なお、気相空間41cの圧力が、清澄管41の外側の大気圧より高いまたは低いことは、例えば、通気管41aから放出されるガス量によって求めることができる。
熔融ガラス中の異物を熔融ガラスに溶かすために、気相空間41cの圧力を高くする方法は、上述したように、清澄管41内へのガスの供給量、例えば不活性ガスの供給量、あるいは熔融ガラスから放出されるガスの放出量を調整することによって行うことができる。気相空間41cの圧力は例えば0.8〜1.2atmの範囲で調整されることが好ましい。
【0077】
気相空間41cの圧力を高くし過ぎると、白金族金属の凝集物の溶解量が大きくなる反面、下記のデメリットを生じさせる。
・清澄不良
気相空間41c内の圧力を高くし過ぎると、脱泡処理工程において、熔融ガラス中に発生した泡が熔融ガラスの表面から放出され難くなり、清澄不良を招く場合がある。
・白金族金属の揮発量の増加
気相空間41c内の圧力を高くし過ぎると、清澄管41の外側の大気との圧力差が大きくなって、気相空間41内の気流の流速が上昇する。このため、気相空間41c内の白金族金属の濃度が上昇せず飽和状態になり難いため、清澄管41の壁からの白金族金属の揮発量が増加する。
このようなデメリットの発生を抑える観点から、気相空間の圧力の調整が行われる。
【0078】
(d)熔融ガラスの酸素活量
清澄管41において、白金族金属の凝集物の溶解度は、熔融ガラスの酸素活量を上昇させることにより、増加させることができる。熔融ガラスの酸素活量とは、熔融ガラスに溶存する酸素量(気泡として熔融ガラス中に存在するものを除く)を意味する。本実施形態では、酸素活量の指標として、[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が用いられる。ここで、[Fe2+]及び[Fe3+]は、熔融ガラスに含まれるFe2+及びFe3+の活量であり、具体的には、質量百分率表示含有量であり、分光光度法を用いて計測することができる。
例えば、清澄工程における脱泡処理工程では、熔融ガラスの温度が高くなって、熔融ガラスに溶存する酸素が気泡となって脱泡されるため、熔融ガラスの酸素活量は低下する。一方、清澄工程において、熔融ガラスの温度が低くなると、清澄剤が酸素を取り込むため、酸素活量は増大する。
熔融ガラスの酸素活量は、例えば、熔解工程において、熔融ガラスに含まれる清澄剤、酸化物の量を調整することのほか、熔融ガラスに含まれる清澄剤あるいはガラス原料の酸化物の量を調整することのほか、清澄工程において、凝集物処理工程開始前の熔融ガラスの温度を調整すること、あるいは凝集物処理工程開始前に熔融ガラス内に酸素含有ガスをバブリングすることによって調整することができる。
熔融ガラス中の酸素活量の調整は、熔融ガラスの温度あるいは温度分布の調整とともに行われてもよい。また、熔融ガラス中の酸素活量を調整は、気相空間41cの圧力の調整とともに行われてもよい。熔融ガラス中の酸素活量を調整は、上述したように、熔融ガラスに含まれる清澄剤あるいはガラス原料の酸化物の量を調整することのほか、清澄工程において、凝集物処理工程開始前の熔融ガラスの温度を調整すること、あるいは、凝集物処理工程開始前に熔融ガラス内に酸素含有ガスをバブリングすることによって調整することができる。凝集物処理工程中、酸素活量の指標である[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を例えば0.2〜0.5の範囲で調整することが好ましい。
【0079】
熔融ガラスの酸素活量の調整の際、熔融ガラスの酸素活量を高くし過ぎると、白金族金属の凝集物の溶解量が大きくなる反面、下記のデメリットを生じさせる。
・白金族金属の揮発量の増加
熔融ガラスの酸素活量を大きくし過ぎると、脱泡処理工程において熔融ガラスから気相空間に放出される酸素量が増加し、気相空間の酸素濃度が上昇するため、白金族金属が容易に酸化されて揮発しやすくなる。白金族金属が揮発しやすくなると、白金族金属の凝集物が生成しやすく、熔融ガラスに混入しやすくなる。
・酸素泡の熔融ガラス中の残存
熔融ガラスの酸素活量を大きくし過ぎると、吸収処理工程において、還元された清澄剤が酸素を取り込めなくなり、酸素を含んだ泡(酸素泡)が熔融ガラス中に生成され、ガラス基板において泡として残るため、ガラス基板の品質を低下させやすくなる。
このようなデメリットの発生を抑える観点から、熔融ガラスの酸素活量の調整によって白金族金属の凝集物の溶解量を大きくする際には、適宜条件パラメータ(熔融ガラスの温度等)を組み合わせて調整することが好ましい。
【0080】
あるいは、熔融ガラスの温度調整を、凝集物の欠陥個数に基づいてフィードバック調整してもよい。調整の対象となる熔融ガラスの温度は、凝集物処理工程開始時点の温度であってもよく、凝集物処理工程の途中の温度であってもよい。
ガラス基板中の白金族金属の凝集物の欠陥は、ガラス基板の表面に斜め方向からレーザ光等の光を入射させ、その反射光を受光することを、ガラス基板の各位置で行ない、受光により得られた画像から白金族金属の凝集物の形状に合致する領域を特定することにより、検出することができる。凝集物の欠陥は、このように装置を用いて行う代わりに目視によって検出してもよい。この凝集物の欠陥個数の許容レベルは、単位質量で表したとき、例えば0.02個/kg以下である。上記許容レベルは、ガラス基板のユーザが求める、歪みや主表面の凹凸に関するスペックに応じて変化する。
例えば、ガラス基板において検出された欠陥個数が許容レベルを超えていた場合は、熔融ガラスの温度を高くして、熔融ガラスにおける白金族金属の飽和溶解度を高くし、これにより、熔融ガラスに混入した凝集物の溶解を促進させる。一方、ガラス基板において検出された欠陥個数が許容レベルにある場合は、許容レベルにある欠陥個数の上限値と対応する熔融ガラスの温度より高い範囲内で低くすることができる。このように熔融ガラスの温度を調整することで、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができ、これにより、ガラス基板に含まれる凝集物の欠陥個数を許容レベルにしつつ、リボイル泡の増加等に起因して生じるガラス基板の品質の低下を抑制できる。
熔融ガラスの温度調整は、具体的に、ガラス処理装置が清澄管を含む清澄装置である場合は、清澄管に電流を流して通電加熱することによって行うことができる。電流量は、加熱電極に印加される電圧の大きさによって調整することができる。また、熔融ガラスの温度調整は、通電加熱に代えてまたは通電加熱と組み合わせて、清澄管の周囲に配した図示されないヒータによって間接的に調整されてもよい。ヒータは、例えば、耐火物保護層や耐火物レンガの内部または外側に配置される。また、熔融ガラスの温度調整は、耐火物保護層や耐火物レンガを用いて清澄管からの放熱量を調整することで行われてもよい。
【0081】
凝集物処理工程では、ガラス基板に含まれる凝集物の欠陥個数が許容レベルに
なるように、熔融ガラスの温度調整に代えて、又は温度調整に加えて、上述した熔融ガラスの酸素活量の指標であるガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を0.2〜0.5の範囲で調整することにより記白金族金属の飽和溶解度を調整することが好ましい。
【0082】
(凝集物処理工程後の白金族金属の凝集物)
凝集物処理工程後に熔融ガラス、ガラス基板、又はガラス基板積層体に含まれる白金族金属の異物(凝集物)のうち、最大長さが50μm超である異物(凝集物)の個数の割合は30%未満に減少する。
【0083】
本実施形態では、熔融ガラスGの温度を高くするために、清澄管41の温度を高くする場合、本実施形態の上述した効果を有効に発揮することができる。
例えば、環境負荷低減のために、熔融ガラスの清澄剤として酸化スズが用いられることが好ましいが、酸化スズは、As23やSb23と比較して、清澄効果(酸化反応)が得られる温度が高い。このため、酸化スズを清澄剤とした用いた場合、As23やSb23を清澄剤とした用いた場合と比較して清澄管41の温度を高くして、熔融ガラスGの温度を高くする必要がある。すなわち、清澄剤として酸化スズを使用するため、従来よりも清澄管41の揮発(酸化)が生じ易くなり、白金族金属の揮発及び凝集の問題が生じ易い。このように、清澄剤として酸化スズを用いることで、白金族金属の異物(凝集物)が熔融ガラスに混入する量が増加したとしても、本実施形態のように、白金族金属の異物の大きさを低減することができるので、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができるといった効果が顕著になる。すなわち、表示不良を引き起こすような異物(凝集物)の量を十分に低減できる。
【0084】
また、粘性の高い熔融ガラスは、清澄工程において泡の浮上速度が遅く、清澄することが難しい。また、攪拌装置100で行う攪拌工程においても、粘性の高い熔融ガラスを均質に攪拌することは難しい。したがって、清澄効果あるいは熔融ガラスの均質化を十分に得るためには、熔融ガラスの温度を高くする必要がある。このため、温度の高い熔融ガラスにするためにガラス処理装置の温度も上昇させると、ガラス処理工程で、白金族金属の揮発が激しくなり異物(凝集物)が熔融ガラスに混入する量が増加し易い。つまり、白金族金属の揮発及び凝集の問題が生じ易い。
例えば、ディスプレイパネルに用いるガラス基板には、薄膜トランジスタが形成されるが、薄膜トランジスタの動作に悪影響を与えないように、ガラス基板には、無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスを用いることが好ましい。無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスは、ソーダガラス等のアルカリ含有ガラスと比較して、粘性が高いため、清澄工程において泡の浮上速度が遅く、清澄することが難しい。このため、清澄効果を十分に得るためには、清澄管41の温度を高くして、熔融ガラスGの温度を高くする必要がある。つまり、製造する対象が無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスであるため、アルカリガラスよりも清澄管41の揮発(酸化)が生じやすくなっており、白金族金属の揮発及び凝集の問題が生じ易い。このように、無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスを用いるために、清澄管41の温度を高くして、白金族金属の異物(凝集物)が熔融ガラスに混入する量が増加したとしても、本実施形態のように、白金族金属の異物の大きさを低減することができるので、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができるといった効果が顕著になる。すなわち、表示不良を引き起こすような異物(凝集物)の量を十分に低減できる。
【0085】
上述した無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスは、歪点が高いガラスである。歪点の高いガラスは、歪点が低いガラスと比較して、粘性が高いため、清澄工程において泡の浮上速度が遅く、清澄することが難しい。このため、清澄効果を十分に得るためには、清澄管41の温度を高くして、熔融ガラスGの温度を高くする必要がある。つまり、歪点が高いガラスを製造する場合、歪点が低いガラスを製造する場合よりも清澄管の揮発(酸化)が生じやすくなっており、白金族金属の揮発及び凝集の問題が生じ易い。このように、歪点の高いガラスを用いるために、清澄管41の温度を高くして、白金族金属の異物(凝集物)が熔融ガラスに混入する量が増加したとしても、本実施形態のように、白金族金属の異物の大きさを低減することができるので、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができるといった効果が顕著になる。すなわち、表示不良を引き起こすような異物(凝集物)の量を十分に低減できる。
なお、ディスプレイ用ガラス基板には、ガラス基板の歪点が600℃以上、より好ましくは650℃以上であることが求められるが、ガラス基板の歪点が600℃以上であると、表示不良を引き起こすような大きさの異物(凝集物)の量を十分に低減できる本実施形態の効果が顕著となる。また、高精細ディスプレイ用ガラス基板には、より歪点が高いことが求められ、歪点が690℃以上であることが好ましく、730℃以上であることがより好ましい。このように歪点が690℃以上、730℃以上であると、本実施形態の上述した効果がより顕著になる。
また、本実施形態で用いられる酸化スズを含む熔融ガラスの粘度は、1500℃以上の温度、例えば1500℃〜1700℃、あるいは1550℃〜1650℃の温度において、粘度が102.5ポアズであることが好ましい。この場合、本実施形態の上述した効果がより顕著になる。
また、本実施形態で製造されるガラス基板の板厚を0.005mm〜0.8mm、好ましくは0.01mm〜0.5mm、より好ましくは0.01mm〜0.2mmとする場合、本実施形態の上述した効果がより顕著になる。このような板厚の薄いガラス基板を製造すると、異物(凝集物)がガラス表面にあらわれて表面凹凸を形成し易くなる。本実施形態では、このような板厚に起因する問題を上述した効果により解消することができる。
【0086】
[実験例]
本実施形態の効果を確認するために、図1に示す凝集物処理工程S2Bを含んだ製造工程でガラス基板を作製した(実施例)。凝集物処理工程S2Bでは、凝集物に与える熱量の制御を行なった。
ガラス基板の作製条件は下記の通りである。
ガラス基板のガラスの組成は、SiO2 60.7質量%、Al23 17質量%、B23 11.5質量%、MgO 2質量%、CaO 5.6質量%、SrO 3質量%、SnO2 0.2質量%、であり、歪点は660℃であり、板厚は0.4mmであった。
また、図1に示す凝集物処理工程S2Bを行わず、脱泡処理工程S2A後、吸収処理工程S2Cを行った従来の製造工程でガラス基板を上述の作製条件で作製した。 具体的には、下記表1に示す例1〜5では、清澄管41における熔融ガラスGの最高温度を1670℃〜1720℃にし、熔融ガラスGの温度が1670℃以上となる時間を40分とした。一方、例6,7では、熔融ガラスGの最高温度を1670℃未満にし、熔融ガラスGの温度が1670℃以上となる時間を0分とした。
【0087】
こうして作製した0.1m3の複数枚のガラス基板における白金族金属の異物(凝集物)を、光学顕微鏡を用いてその数をカウントするとともに、白金族金属の異物(凝集物)の最大長さを計測した。そして、ガラス基板に混入する全白金族金属の異物(凝集物)のうち、最大長さが50μm以下である異物の個数の割合を求めた。求めた割合を、下記表1に最高温度とともに示す。例1〜5の異物の割合は、いずれのガラス基板においても70%以上であったが、例6,7の異物の割合は、いずれのガラス基板も35%以下であった。図5は、熔融ガラスの最高温度と異物の割合との関係を表すグラフ図である。図5からわかるように、最大長さが50μm以下である異物の割合は、熔融ガラスの最高温度を1660℃から1670℃以上にすることで、急激に上昇し1670℃以上の温度で70%以上となった。1690℃以上では、最大長さが50μm以下である異物の割合が92%以上となり、特に、1700℃以上では、最大長さが50μm以下である異物の割合が100%となった。これより、本実験例の条件において、異物に与える熱量を制御する場合、熔融ガラスの最高温度を1670℃以上、好ましくは1690℃以上、より好ましくは1700℃以上にすることで異物に熱量を与えることが好ましいことがわかる。本実験例の条件では、最高温度1670℃が、最大長さが50μm以下である異物の割合を70%にする最高温度の下限温度であるが、最高温度を1670℃以上にすることは必ずしも必須ではなく、他の条件方法にて凝集物(異物)の溶解度を調整することでも、最大長さが50μm以下である異物の割合を70%にすることを実現することができる。
【0088】
【表1】
【0089】
以上、本発明のガラス基板の製造方法、ガラス基板、及びガラス基板積層体について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0090】
40 熔解槽
41 清澄管
41a 通気管
41b 加熱電極
41c 気相空間
42 成形装置
52 成形体
43a,43b.43c 移送管
100 攪拌装置
200 ガラス基板製造装置
図1
図2
図3
図4
図5