【解決手段】P-セレクチンに特異的に結合し、PSGL-1のP-セレクチンへの結合を遮断し、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を解離させる抗体が開示される。また、P-セレクチンの立体配座エピトープに結合し、かつPSGL-1のP-セレクチンへの結合を遮断し、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を解離させる二重機能を有する抗体が開示される。
P-セレクチンの立体配座エピトープに特異的に結合する単離された抗体またはその結合断片であって、前記立体配座エピトープが配列番号1のアミノ酸位置1〜35の範囲内にある前記単離された抗体またはその結合断片。
アミノ酸位置4、14、17、21または22のいずれか1つ以上が、それぞれN、N、V、RまたはHで置換される場合に結合が阻害される、請求項4に記載の単離された抗体または結合断片。
活性化内皮細胞の白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板への結合を阻害することによってP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、請求項1に記載の単離された抗体または結合断片。
活性化血小板の白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板への結合を阻害することによってP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、請求項1に記載の単離された抗体または結合断片。
活性化内皮細胞と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、請求項1に記載の単離された抗体または結合断片。
活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、請求項1に記載の単離された抗体または結合断片。
単離された抗体またはその結合断片が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはIgG2/G4キメラからなるアイソタイプから選択されるIgGである、請求項14に記載の単離された抗体または結合断片。
ATCC番号PTA12154のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体または前記モノクローナル抗体のCDRを含むヒト化抗体である、請求項1に記載の単離された抗体。
炎症性または血栓性状態または障害を治療または抑制する方法であって、配列番号1のアミノ酸位置1〜35の範囲内にあるP-セレクチンの立体配座エピトープに特異的に結合する抗体またはその結合断片の治療的有効量を被験者に投与することを含む前記方法。
アミノ酸位置4、14、17、21または22のいずれか1つ以上が、それぞれN、N、V、RまたはHで置換される場合に結合が阻害される、請求項28に記載の方法。
請求項1に記載の抗体または結合断片が、活性化内皮細胞と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、請求項25に記載の方法。
請求項1に記載の抗体または結合断片が、活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、請求項25に記載の方法。
抗体またはその結合断片が、活性化内皮細胞の白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板への結合を阻害することによってP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、請求項25に記載の方法。
抗体またはその結合断片が、活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との結合を阻害することによるP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、請求項25に記載の方法。
炎症性、血栓性の状態もしくは他の状態または障害が、血小板、鎌状赤血球、白血球、リンパ球もしくは内皮細胞の接着、血管閉塞性鎌形赤血球の疼痛クリーゼ、血栓症、アテローム性動脈硬化症、腫瘍転移、アレルギー反応、甲状腺炎、乾癬、皮膚炎、腎炎、エリテマトーデス、強皮症、敗血症、鼻炎、アナフィラキシー、糖尿病、多発性硬化症、移植片拒絶、移植片対宿主疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、関節炎および虚血性再潅流障害、広範囲にわたる外傷もしくは慢性炎症と関連する状態、全身性炎症反応症候群ならびに多臓器不全の少なくとも1以上に関連する、請求項25に記載の方法。
抗体が、本明細書でG1、hSel001、G4で表されるモノクローナル抗体であるか、または前記モノクローナル抗体のCDRを含むヒト化抗体である、請求項25に記載の方法。
P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1)のP-セレクチンへの細胞-細胞間結合を遮断する方法であって、配列番号1のアミノ酸位置1〜35の範囲内にあるP-セレクチンの立体配座エピトープに特異的に結合する抗体またはその結合断片を活性化血小板、白血球、リンパ球および/または鎌状赤血球に投与することを含む前記方法。
請求項1に記載の抗体または結合断片が、活性化内皮細胞と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、請求項47に記載の方法。
請求項1に記載の抗体または結合断片が、活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、請求項47に記載の方法。
抗体またはその結合断片が、活性化内皮細胞の白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板への結合を阻害することによってP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、請求項47に記載の方法。
抗体またはその結合断片が、活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との結合を阻害することによるP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、請求項47に記載の方法。
抗体が、本明細書においてG1、hSel001、G4で表されるモノクローナル抗体であるか、または前記モノクローナル抗体のCDRを含むヒト化抗体である、請求項47に記載の方法。
P-セレクチンの立体配座エピトープを、この立体配座エピトープに結合することができる試験抗体に暴露し、エピトープ-試験抗体複合体を形成させ;エピトープ-試験抗体複合体を、P-セレクチンに結合することができるPSGL-1またはPSGL-1ミメティックに暴露し;PSGL-1またはPSGL-1ミメティックがエピトープ-試験抗体複合体に結合することができない場合に、PSGL-1のP-セレクチンへの結合を試験抗体が遮断すると結論することを含む、スクリーニング方法。
抗P-セレクチン抗体を特徴付ける方法であって、能遮断抗P-セレクチン抗体が結合することができる立体配座エピトープを含むP-セレクチンタンパク質またはその断片に結合した無傷のPSGL-1タンパク質、PSGL-1断片またはPSGL-1ミメティックを含む、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を提供し;抗P-セレクチン抗体が立体配座エピトープに結合することができるようにするのに適した条件下で抗P-セレクチン抗体に既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を暴露し;既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を解離させる能力に関して抗P-セレクチン抗体を特徴付けることを含む前記方法。
支持基体および、前記支持基体に結合する立体配座エピトープを含む試験基体であって、機能遮断抗P-セレクチン抗体が前記立体配座エピトープに結合することができ、前記立体配座エピトープが配列番号1のアミノ酸1〜35の範囲内にある、前記試験基体。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
例示的な図面、実験、結果および実験室手順として本開示の発明の概念の少なくとも一実施形態を詳細に説明する前に、本発明の概念が、以下の説明で述べた、あるいは図面、実験および/または結果で示した成分の構造および配置の詳細にその適用が限定されないことが理解されなければならない。本発明の概念は、他の実施形態が可能であり、あるいは種々の方法で実施または実行することができる。そのようなものとして、本明細書で用いられる術語は、その最も広い範囲および意味を提供するものとし、その実施形態は、例示的であって限定するものではないものとする。本明細書で用いられる術後および用語法は説明することが目的であり、限定するものとみなしてはならないこともまた理解されるべきである。
【0020】
本明細書において、特記しない限り、本開示の発明の概念と関連して用いられる科学用語および専門用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。さらにまた文脈上別段の必要がなければ、単数用語は複数であることを含み、複数用語は単数用語を含むものとする。一般に、本明細書に記載の細胞および組織培養、分子生物学ならびにタンパク質およびオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド化学およびハイブリダイゼーションと関連して用いられる命名法およびそれらの技術は公知であり、当該技術分野で一般的に用いられるものである。組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成ならびに組織培養および形質転換(例えばエレクトロポレーション、リポフェクション)には標準法が用いられる。酵素反応および精製技術は、製造業者の仕様書に従って行われるか、当該技術分野で一般に実施されるように行われるかまたは本明細書に記載されるように行われる。前述の技術および手順は、一般に、当該分野で公知の慣用法に従って行われ、本明細書を通じて引用し説明されている種々の一般的かつより具体的な参照文献の記載に従って行われる。例えば、Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2
nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989) およびColigan et al. Current Protocols in Immunology (Current Protocols, Wiley Interscience (1994))を参照のこと(これらは参照により本願に組み込まれる)。本明細書に記載の分析化学、合成有機化学、医薬化学および製薬化学と関連して用いられる命名法ならびにそれらの実験室手順および技術は公知であり、当該技術分野で一般的に用いられるものである。化学合成、化学分析、医薬製剤、調製物ならびに送達および患者の治療には標準法が用いられる。
【0021】
本明細書に記載のすべての公報および特許出願は、本開示の発明の概念が属する当業者の技術レベルを示す。すべての公報および特許出願は、個別の公開または特許出願が個別・具体的に示されて参照により組み込まれるかのようにして同程度に参照により本願に組み込まれる。
本明細書において開示および請求されている組成物および/または方法は、すべて、本開示を考慮して、過度の実験を要することなく製造および実行することができる。本開示の発明の概念の組成物および方法は、好ましい実施形態に関して記載されているが、本発明の概念の概念、精神および範囲から逸脱することなく、組成物および/または方法ならびに本明細書に記載の方法の段階および段階の順序に変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。当業者に明らかなすべてのこれらの類似した代替物および改変は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の概念の精神、範囲および概念の範囲内であると考えられる。
【0022】
本開示に従って用いられるとき、特記しない限り、以下の用語は、以下の意味を有すると解釈されるものとする。
本特許請求の範囲および/または本明細書において、用語“含んでいる(comprising)”と組み合わせて用いられる場合、語句“1つの(a)”または“1つの(an)”の使用は、“1つの(one)”を意味することができるが、“1以上の”、“少なくとも1つの”および“1または2以上の”の意味と一致する場合もある。本特許請求の範囲における用語“または(or)”の使用は、たとえその開示が代替物のみならびに“および/または”のことを言う定義を支持するものであっても、代替物のみを指すかまたは代替物が相互排他的であると明確に記載されていない限り、“および/または”を意味するために用いられる。本願を通じて、用語“約”は、ある値が、その値を測定するために用いられている装置、方法に関する誤差の固有の変動または、被験者間に存在する変動を含むことを意味するために用いられる。用語“少なくとも1つの”の使用は、2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、100などを含むが限定されない、1ばかりでなく2以上の任意の量を含むと理解される。用語“少なくとも1つの”は、それが結合している用語に応じて100または1000以上にまで広げることができ、さらに、より高い限度が満足な結果を生じる限りは、100/1000の量は限度であると考えてはならない。
用語“約”は、ある値が、その値を測定するために用いられている装置、方法に関する誤差の固有の変動および/または被験者間に存在する変動を含むことを意味するために用いられる。
【0023】
明細書および特許請求の範囲に用いられる場合、語句“含んでいる(comprising)”(および含んでいる(comprising)の任意の語形、例えば“含む(comprise)”および“含む(comprises)”)、“有している(having)”(および有している(having)の任意の語形、例えば“有する(have)”および“有する(has)”)、“含んでいる(including)”(および含んでいる(including)の任意の語形、例えば“含む(includes)”および“含む(include)”)または“含んでいる(containing)”(および含んでいる(containing)の任意の語形、例えば“含む(contains)”および“含む(contain)”)は、包括的またはオープンエンドであり、記載されていない追加の要素または方法段階を排除しない。
【0024】
本明細書において、用語“またはそれらの組み合わせ”は、その用語の前にある記載された項目のすべての順列および組み合わせのことを言う。例えば、“A、B、Cまたはそれらの組み合わせ”は、A、B、C、AB、AC、BCまたはABCの少なくとも1つを含むものとし、特定の文脈において順序が重要な場合には、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BACまたはCABもまた含むものとする。この例に続いて、1以上の項目または用語の反復、例えばBB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなどを含む組み合わせもまた明らかに含まれる。他に文脈から明らかでない限り、一般的には、任意の組み合わせにおける項目または用語の数に限定はないことは、当業者には明らかであろう。
【0025】
用語“ペプチド”、“ポリペプチド”および“タンパク質”は、本明細書においては、アミノ酸残基のポリマーを指すために用いられる。本明細書において、用語“ポリペプチド”は、天然タンパク質、タンパク質断片またはポリペプチド配列のアナログを指すための一般名である。故に、天然タンパク質、タンパク質断片およびアナログはポリペプチド類の種である。本明細書において、用語"単離されたペプチド/ポリペプチド/タンパク質"は、その起源または誘導の起源によって、"単離されたペプチド/ポリペプチド/タンパク質"が、(1)自然界に見られるペプチド/ポリペプチド/タンパク質と結合していない、(2)同じ起源の他のペプチド/ポリペプチド/タンパク質を含まない、例えばマウスタンパク質を含まない、(3)異なる種からの細胞によって発現される、かつ/または(4)自然に存在しない、cDNA、組換えRNAまたはそれらの合成起源もしくは組み合わせペプチド/ポリペプチド/タンパク質のことを言う。
【0026】
本明細書において、用語“アミノ酸”は、アミノ官能基および酸官能基の両方を含み、天然に存在するアミノ酸のポリマー中に含まれることができる天然または合成のすべての分子を含む。例示的なアミノ酸は、天然に存在するアミノ酸;それらのアナログ、誘導体およびコンジナー;バリアント側鎖を有するアミノ酸アナログ;ならびに前述のいずれかのすべての立体異性体を含む。本明細書においては、用語“マウスアミノ酸”とは、マウスP-セレクチンにおいて見られが、ヒトP-セレクチンの対応する位置には見られないアミノ酸残基のことを言う。本明細書においては、用語“ヒトアミノ酸”とは、ヒトP-セレクチンにおいて見られるが、マウスP-セレクチン対応する位置には見られないアミノ酸残基のことを言う。
【0027】
本明細書において、通常の20のアミノ酸およびそれらの略語は、従来の用法に従う。Immunology--A Synthesis (2nd Edition, E. S. Golub and D. R. Gren, Eds., Sinauer Associates, Sunderland, Mass. (1991))(参照により本願に組み込まれる)を参照のこと。通常の20のアミノ酸の立体異性体(例えば、D-アミノ酸)、非天然アミノ酸、例えばα,α-二置換アミノ酸、N-アルキルアミノ酸、乳酸および他の通常でないアミノ酸もまた、本開示のポリペプチドの適切な成分であり、請求される発明の概念(単数または複数)であることができる。通常でないアミノ酸の例は、4-ヒドロキシプロリン、α-カルボキシグルタミン酸、ε-N,N,N-トリメチルリジン、ε-N-アセチルリジン、O-ホスホセリン、N-アセチルセリン、N-ホルミルメチオニン、3-メチルヒスチジン、5-ヒドロキシリジン、σ-N-メチルアルギニンならびに他の同様なアミノ酸およびイミノ酸(例えば4-ヒドロキシプロリン)を含む。本明細書で用いられるポリペプチド表記法においては、標準的な用法および慣習に従って、左手方向はアミノ末端方向であり、右手方向はカルボキシ末端方向である。
【0028】
用語“ポリヌクレオチド”と“核酸”は同義で使用される。それらは、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはそれらのアナログである、任意の長さのヌクレオチドの重合体を指す。限定するものではないポリヌクレオチドの例には、遺伝子または遺伝子断片のコード領域または非コード領域、連鎖解析から定義される遺伝子座(単数または複数)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマーがある。ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログを含むことができる。存在する場合、ヌクレオチド構造への改変は、そのポリマーの組み立ての前後に付与することができる。ヌクレオチドの配列は非ヌクレオチド成分によって中断されることができる。ポリヌクレオチドは、例えば標識成分と結合されることによってさらに改変されることができる。用語“単離された核酸”と“単離されたポリヌクレオチド”は同義で使用される。核酸またはポリヌクレオチドは、(1)“単離されたポリヌクレオチド”が、そのポリヌクレオチドが内部に見いだされる自然界にあるポリヌクレオチドの全部または一部に結合していない、(2)天然では結合されないポリヌクレオチドに結合されているまたは(3)より大きな配列の一部として天然に存在しない、場合に核酸またはポリヌクレオチドは"単離された”とみなされる。
【0029】
本明細書において、用語“ベクター”は、それが結合されている他の核酸を運ぶことができる核酸分子を指すものとする。ベクターのタイプの1つには、追加のDNAセグメントをライゲーションすることができる環状二本鎖DNAループである“プラスミド”がある。他のタイプのベクターには、追加のDNAセグメントをそのウイルスゲノムに結合することができるウイルスベクターがある。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律複製することができる(例えば、細菌の複製起点およびエピソーム哺乳動物ベクターを有する細菌ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムと共に複製されることができる。さらに、特定のベクターは、遺伝子の発現を指示することができる。本明細書においては、このようなベクターを“組換え発現ベクター”(または単に“発現ベクター”)と呼ぶ。
【0030】
本明細書において、ある物に適用するとき、用語“天然に存在する”は、ある物が自然界に見られる事実のことを言う。例えば、生物体(ウイルスを含む)に存在し、自然における供給源から単離されることができ、研究室においてヒトによってまたは他のふうに故意に改変されていないポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列は天然に存在する。用語“天然に存在する”は、本明細書において用語“天然”と同義で使用されることができる。
本明細書において、“白血球ローリング”は、血管の内皮細胞への白血球の弱い接着および、強固な接着が起こる前の血管の内皮細胞に沿った白血球のローリング、および、内皮組織への白血球の遊出を含む。白血球ローリング後に、これらの接着白血球は内皮を移動し、再潅流中に虚血組織を破壊することができる。従って、白血球ローリングの抑制は、急性炎症反応によって引き起こされる組織および器官への損傷の抑制をもたらす。
【0031】
本明細書において、“P-セレクチンアンタゴニスト”は、例えばP-セレクチンとP-セレクチン糖タンパク質リガンド-1との間の相互作用を抑制することにより、例えばP-セレクチンを発現する内皮細胞および活性化血小板とPSGL-1を発現する白血球の相互作用を抑制することにより、P-セレクチンに拮抗することができる任意の薬剤を含む。
【0032】
用語“単離された”または“精製された”とは、その自然環境から実質的に離され、例えばその組成物の50%を超えて存在する(例えばモルベースで)主要な種である分子のことを言う。例えば、単離されたタンパク質は、それが由来する細胞または組織源からの細胞物質または他のタンパク質を実質的に含まない。本用語はまた、単離されたタンパク質が少なくとも60%(w/w)純粋である、または少なくとも70%(w/w)純粋である;または少なくとも75%(w/w)純粋である;または少なくとも80%(w/w)純粋である;または少なくとも85%(w/w)純粋である、または少なくとも90%(w/w)純粋である、または少なくとも92%(w/w)純粋である、または少なくとも95%(w/w)純粋である、または少なくとも96%(w/w)純粋である、または少なくとも97%(w/w)純粋である、または少なくとも98%(w/w)純粋である、または少なくとも99%(w/w)純粋である、または100%(w/w)純粋である調製物のことも言う。いくつかの実施形態において、単離された分子は医薬組成物のために十分に純粋である。
【0033】
“抑制”活性とは、同じインヒビターの非存在下でのP-セレクチン活性に対する、P-セレクチンインヒビター(例えば抗体またはその断片)によるP-セレクチン活性の抑制のことを言う。中和抗体は、1以上のP-セレクチン活性を抑制することができる。例えば、活性(例えば、PSGL-1に結合しているP-セレクチン)の抑制は、好ましくは少なくとも約10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%またはそれ以上である。他の例において、二重機能抗体または断片の解離活性(すなわち、解離させることができる既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の百分率)は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%またはそれ以上であることができる。
【0034】
本明細書で用いられる場合、用語“P-セレクチンインヒビター”は、任意の薬剤、例えば、P-セレクチンの活性、発現、プロセシング、結合または細胞表面への局在を抑制することができる中和抗体を含む。このようなインヒビターは、P-セレクチンの生物活性を“抑制する”、“中和する”または“軽減する”と表現される。
用語“有効量”とは、本開示の発明の概念に従って用いられた場合に合理的な便益/リスク比に比例した、好ましくは過度な副作用(例えば毒性、刺激およびアレルギー反応)を示さずに検出可能な治療効果を示すのに十分な生物活性分子もしくはコンジュゲートまたはそれらの誘導体の量のことを言う。用語“薬学的に許容される”とは、合理的な便益/リスク比に比例した、過度な副作用、例えば毒性、刺激および/またはアレルギー反応を示さない、ヒトおよび/または動物への投与に適した化合物および組成物のことを言う。本開示の発明の概念の化合物は、当該分野で公知の製剤技術を用いて遅延放出、制御放出または持続放出を提供するために設計されることができる。
用語“エピトープ”とは、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用するポリペプチドにおける抗原決定基のことを言う。エピトープは、直鎖状エピトープであることもできるし、立体配座エピトープであることもできる。立体配座エピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の種々のセグメントからアミノ酸を空間的に並置することによって生じる。
【0035】
本明細書において、用語“モノクローナル抗体”とは、実質的に均一な抗体から得られた抗体、すなわち、少量存在する可能性のある天然に存在する起こりうる変異を除けばその集団を含む個々の抗体が同一である抗体のことを言う。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、一般に、単一のエピトープ部位に対して指向性を有する。さらにまた、一般的には種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を含む従来のポリクローナル抗体調製物と対照的に、各モノクローナル抗体は、単一の決定基に対して指向性を有する。その特異性に加えて、一実施形態において、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンによる汚染のないハイブリドーマ培養によって合成されるという点で好都合である。修飾語“モノクローナル”は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体の特性を示すものであって、特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈してはならない。
【0036】
抗体
抗体分子は、免疫グロブリンと呼ばれる血漿タンパク質のファミリーに属し、その基本的な合成ブロックである免疫グロブリンフォールドまたはドメインは、免疫系および他の生体認識系の多くの分子に種々の形で用いられている。典型的な免疫グロブリンは、可変領域として知られる抗原結合領域および定常領域として知られる非可変領域を含む4つのポリペプチド鎖を有する。
天然の抗体および免疫グロブリンは、通例、約150,000ダルトンのヘテロ四量体の糖タンパク質であり、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖で構成される。各L鎖は、1つの共役ジスルフィド結合によってH鎖に結合されるが、種々の免疫グロブリンアイソタイプのH鎖の間でジスルフィド結合の数は変化する。各H鎖およびL鎖は、規則的に配置された鎖間ジスルフィド架橋も有する。各H鎖は、1つの末端に可変ドメイン(VH)を有し、次いでいくつかの定常ドメインを有する。各L鎖は、1つの末端に可変ドメイン(VL)を有し、他の末端に定常ドメインを有する。L鎖の定常ドメインはH鎖の第1定常ドメインにアラインメントされ、L鎖の可変ドメインは、H鎖の可変ドメインにアラインメントされる。
【0037】
そのH鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンを種々のクラスに帰属させることができる。免疫グロブリンには、少なくとも5つの主要なクラス、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、このうちのいくつかは、さらに、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG
1、IgG
2、IgG
3およびIgG
4ならびにIgA
1およびIgA
2に分割することができる。免疫グロブリンの種々のクラスに対応するH鎖の定常ドメインは、それぞれ、アルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)およびミュー(μ)と呼ばれる。抗体のL鎖は、その定常ドメインのアミノ配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる明らかに異なる2つのタイプの内の1つに帰属させることができる。免疫グロブリンの種々のクラスのサブユニット構造および三次元配置は公知である。
【0038】
抗体の可変ドメインとの関係において、用語“可変”とは、可変ドメインの特定の部分が抗体間の配列において全く異なる事実のことを言う。可変ドメインは結合のためのドメインであり、その特定の抗原に対するそれぞれの特定の抗体の特異性を決定する。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメインを通して均等には分布していない。可変性は、L鎖およびH鎖可変ドメインの両方において、超可変領域としても知られる、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、1つの鎖について3つのセグメントに集中している。ほとんどの場合、L鎖可変領域に3つのCDRが存在し(CDRL1、CDRL2およびCDRL3)、H鎖可変領域に3つのCDRが存在する(CDRH1、CDRH2およびCDRH3)。CDRは抗体分子の機能活性に寄与し、足場領域またはフレームワーク領域を含むアミノ酸配列によって分離されている。種々のCDRの中で、CDR3配列、特にCDRH3は最も多様であり、従って抗体の特異性に最も大きく寄与する。CDRを決定するために、少なくとも2つの技術がある:(1)異種間配列可変性に基づくアプローチ(すなわち、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institute of Health, Bethesda, Md. (1987)(その全体が参照により組み込まれる);および(2)抗原抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ(Chothia et al., Nature, 342:877 (1989)(その全体が参照により組み込まれる)。
【0039】
より高度に保存された可変ドメイン部分はフレームワーク(FR)と呼ばれる。天然のH鎖およびL鎖の可変ドメインは、それぞれ、主としてβ-シート配置をとり、3つのCDRに結合された4つのFR領域を含み、このFR領域はβ-シート構造に結合するループを形成するか、または場合によってはβ-シート構造の一部を形成する。それぞれのL鎖およびH鎖におけるCDRはFR領域によってすぐそばに保持され、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。定常ドメインは、抗体を抗原に直接に結合させるのには関与しないが、抗体依存的細胞毒性における抗体の関与などの、種々のエフェクター機能を示す。
【0040】
従って、本開示の発明の概念の抗体は、全免疫グロブリン、抗体断片、例えばFv、Fabおよび同様な断片、可変ドメイン相補性決定領域(CDR)を含む一本鎖抗体などの形態を含む種々の形態のいずれかであることができ、これらはすべて、本明細書において、一般用語“抗体”に該当する。好ましい実施形態において、下記の治療方法およびスクリーニング方法の両方に関係して、本明細書に記載の本開示の発明の概念の抗原またはエピトープに免疫特異的である抗体またはその断片が用いられる。
【0041】
本明細書において、用語“抗体断片”とは、一般に、抗原結合領域または可変領域である、完全長抗体の一部のことを言う。抗体断片の例は、Fab、Fab'、F(ab')
2およびFv断片を含む。抗体のパパイン消化によって、Fab断片と呼ばれる、単一の抗原結合部位をそれぞれが有する同一の抗原結合断片と、容易に結晶化するその能力からそう呼ばれる残りの“Fc”断片とが生じる。ペプシン処理によって、抗原を架橋することができる2つの抗原結合断片を有するF(ab')
2断片と、残りの他の断片(pFc'と呼ばれる)とが生じる。さらなる断片には、ダイアボディ、直鎖抗体、一本鎖抗体分子および、複数の抗体断片から形成される多重特異性抗体を含むことができる。本明細書において、抗体に関する“機能性断片”は、Fv、F(ab)およびF(ab')
2断片のことを言う。本開示の発明の概念の抗体の断片は、例えば、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30〜35、〜40、〜45、〜50、〜75、〜100、〜150〜200〜250(すべてを含む)またはそれ以上ほどのアミノ酸であることができる。
【0042】
抗体断片のいくつかのタイプは以下にように定義される。
Fabは、抗体分子の一価の抗原結合断片を含む断片である。Fab断片は、全長抗体を酵素パパインで消化し、無傷のL鎖およびH鎖の1つの一部を生じさせることによって製造することができる。
Fab'は、全長抗体をペプシンで処理し、次いで還元して、無傷のL鎖および1つのH鎖の一部を生じさせることによって得ることができる抗体分子の断片である。抗体1分子当たり2つのFab'断片が得られる。
Fab'断片は、抗体ヒンジ領域由来の1以上のシステインを含むH鎖CH1ドメインのカルボキシル末端のいくつかの残基が加わっているだけFab断片と異なる。
(Fab')
2は、全長抗体を酵素ペプシンで処理し、その後還元せずに得ることができ切る抗体の断片である。F(ab')
2は、2つのFab'断片が2つのジスルフィド結合によって結合した二量体である。
【0043】
Fvは、完全な抗原認識部位および結合部位を含む最小限の抗体断片である。この領域は、H鎖可変ドメイン1つおよびL鎖可変ドメインが強固な非共有結合で会合している二量体(VH-VL二量体)からなる。この配置において、各可変ドメインの3つのCDRが相互作用してVH-VL二量体の表面抗原結合部位が規定される。6つのCDRが、総合的に抗体に対する抗原結合特異性を付与している。しかしながら、単一の可変ドメイン(すなわち、抗原に特異的な3つのCDRのみを含む、Fvの半分)であっても抗原を認識しそれに結合する能力を有するが、結合部位全体と比較して親和性は低い。
本明細書において、一本鎖抗体(SCA)は、遺伝子融合した一本鎖分子として適切なポリペプチドリンカーによって結合されたL鎖可変領域とH鎖可変領域を含む遺伝子操作された分子として定義される。このような一本鎖抗体は、“一本鎖Fv”または“sFv”または“scFv”抗体断片とも呼ばれる。一般に、Fvポリペプチドは、sFvが抗原結合性のための所望の構造の形成を可能にするために、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含む。
【0044】
一実施形態において、本開示の発明の概念は、ヒトP-セレクチンに特異的に結合する抗体に関する。このような抗体におけるCDRは、VHおよびVLの特異的配列には限定されるものではなく、P-セレクチンのPSGL-1への結合を遮断し、解離させる能力を保持するこれらの配列のバリアントを含むことができる。当業者は、当該分野で公知の技術を用いて、このようなバリアントを製造することができる。例えば、本明細書の他の部分で記載のように、FRおよび/またはCDRにおいてアミノ酸置換、欠失または付加を行うことができる。FRにおける変化は、通例、抗体の安定性を改善し、免疫原性を減少させるために設計されるが、CDRにおける変化は、一般的には、抗体のその標的に対する親和性を増加させるために設計される。FRのバリアントは、天然に存在する免疫グロブリンのアロタイプもまた含む。このような親和性を増加させる変化は、CDRを改変し、抗体のその標的に対する親和性を試験することを含む常法によって経験的に決定することができる。
【0045】
例えば開示されたCDRのいずれか1つの内部で保存的アミノ酸置換を行うことができる。当業者に公知の方法に従って、種々の改変を行うことができる(78)。これらには、限定するものではないが、その配列内の、同一または機能的に同等のアミノ酸残基をコードする異なるコドンに関する置換(“保存的置換”)によって改変され、それと共に“サイレント”変化を生じるヌクレオチド配列が含まれる。例えば、互いに保存的に置換されることができる非極性アミノ酸は、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンを含む。互いに保存的に置換されることができる極性中性アミノ酸は、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンを含む。互いに保存的に置換されることができる正に荷電した(塩基性)アミノ酸はアルギニン、リジンおよびヒスチジンを含む。互いに保存的に置換されることができる負に荷電した(酸性)アミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸を含む。配列内のアミノ酸の代替物は、そのアミノ酸が属するクラスの他のメンバーから選択されることもできる。
【0046】
本開示の発明の概念の抗体の誘導体およびアナログは、組換え法および合成法を含む当該分野で公知の種々の技術によって製造することができる(79、80)。CDR配列が、抗P-セレクチン抗体の可変領域のCDR配列とはわずかにかつ保存的に異なる抗体、例えばhSel001(以下にさらに詳細に説明する)もまた本発明の範囲に含まれる。上で述べたように、一般的には、アミノ酸は、同様な電荷、疎水性または立体化学的特性を有する関連アミノ酸によって置換される。このような置換は、当業者の通常の技能の範囲内であろう。さらにまた、抗体の結合特性に悪影響を与えずにFRを変化させることができることは、当業者には明らかであろう。FRへの変化は、限定するものではないが、抗原接触または結合部位の安定化にとって重要な特定のフレームワーク残基を非ヒト由来からヒト化するかまたは操作すること、例えば、定常領域のクラスまたはサブクラスの変化、Fc受容体への結合などのエフェクター機能を変化させることができる特定のアミノ酸残基の変化を含む。
【0047】
一実施形態において、本開示の発明の概念は、抗体ヒト化と呼ばれるプロセスである、親非ヒト抗体のCDRがヒト受容体抗体のFRに移植された、P-セレクチンに特異的に結合する抗体に関する。ヒト化プロセスは、元の親和性をできるだけ維持しながら、非ヒト抗体の免疫原性を低下させるように設計される。一実施形態において、ヒトH鎖および/またはL鎖受容体FRは、それらが由来する生殖系列配列の未変異アミノ酸配列である。このような生殖系列FRは、これらの配列が、抗体再構成(antibody rearrangement)および親和性成熟の前にすべてのヒトに存在することを考慮すれば非免疫原性であることが期待される。さらにまた、このような抗体FRのアミノ酸残基、特にCDRに隣接した、またはその付近に位置する残基は、抗体結合親和性をよりよく保存するようなアミノ酸置換が必要とされることがありうる。例えば、親マウスモノクローナル抗体可変FRとヒト可変FR受容体との間で重要なアミノ酸が異なっている場合、それらの位置でヒトFRアミノ酸はマウスアミノ酸残基によって置換されることができる。それにもかかわらず、H鎖および/またはL鎖のFRはアミノ酸置換を含まないことができ、このようなヒト化由来の抗体は、親抗体の結合親和性のすべてではないにしてもその多くをなお有することができることが期待される。さらにまた、本発明の抗体は、純粋に生殖系列配列に属し、これらのFR配列の1つまたは両方における置換を欠くヒトVHおよび/またはVL FRを含むこともできる。
本明細書において、P-セレクチンまたはその立体配座エピトープに対する抗体の“親和性”は、そのK
d、すなわち解離定数によって特徴付けられる。より強い親和性はより低いK
dで表され、より弱い親和性はより高いK
dで表される。そのようなものとして、本発明の抗体は、好ましくは、P-セレクチン立体配座エピトープに対して、K
d≦1000nMまたは≦500nMまたは≦100nMまたは≦50nM、あるいはより好ましくは、K
d≦25nM、よりさらに好ましくは、K
d≦10nM、よりさらに好ましくはK
d≦5nMまたは≦1nMまたは≦0.1nMで表される親和性を有する。
【0048】
本明細書において、抗体または抗体断片“ホモログ”は、タンパク質またはペプチドの関連性のあるアミノ酸配列(好ましくは、例えばCDRならびに/または可変ドメインVHおよび/またはVLにおける)が、所定の配列に対して、少なくとも50%同一である、少なくとも60%同一である、少なくとも70%同一である、少なくとも75%同一である、少なくとも80%同一である、少なくとも85%同一である、少なくとも90%同一である、少なくとも91%同一である、少なくとも92%同一である、少なくとも93%同一である、少なくとも94%同一である、少なくとも95%同一である、少なくとも96%同一である、少なくとも97%同一である、少なくとも98%同一である、少なくとも99%同一である、少なくとも99.5%同一である、または100%同一であることを意味する。例として、このような配列は、種々の種由来のバリアントであることもでき、相同配列は、組換えにより製造されることもできる。該配列は、短縮化、欠失、アミノ酸置換または付加によって、所定の配列から誘導されることができる。2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、標準的なアラインメントアルゴリズム、例えばBasic Local Alignment Tool(BLAST)ならびに当該分野の他のアラインメントアルゴリズムおよび方法(81〜84)によって決定される。
【0049】
モノクローナル抗体の調製は一般に行われており、当業者には公知である。モノクローナル抗体は、種々の確立された技術によってハイブリドーマ培養物から単離精製されることができる。このような単離技術は、プロテインAセファロースを用いるアフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーを含む。モノクローナル抗体分泌ハイブリドーマの調製に代わる選択肢において、それぞれ本明細書に記載の立体配座エピトープを有する組換えコンビナトリアル免疫グロブリンライブラリー(例えば、抗体ファージディスプレイライブラリー)をスクリーニングし、それによって本発明に記載のP-セレクチンに結合する免疫グロブリンライブラリーメンバーを単離することによって、モノクローナル抗P-セレクチン抗体を同定し単離することができる。ファージディスプレイライブラリーを作成しスクリーニングするためのキットは市販されている(例えば、 Pharmacia Recombinant Phage Antibody System、カタログ番号27〜9400〜01;およびStratagene SurJZAP(登録商標). Phage Display Kit、カタログ番号240612)。
モノクローナル抗体のin vitroおよびin vivoでの操作方法は当業者に公知である。例えば、本発明に従って用いられるモノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein(85)によって最初に記載されたハイブリドーマ法で製造することもできるし、例えば、米国特許第4,816,567号の記載に従って、組換え法によって製造することもできる。
他の方法は、例えば、ヒトまたは霊長類に特異的で認識できる配列を含む抗体の作成を意味する、組換えによるモノクローナル抗体のヒト化を含む。
【0050】
本明細書に記載されているように、ヒトP-セレクチンまたはその立体配座エピトープに高い親和性で結合する本開示の発明の概念の抗体の製造方法は、DNA構築物(本発明のP-セレクチン特異的中和抗体の少なくとも一部をコードするDNA配列を含む構築物)で細胞をトランスフェクトし、抗体タンパク質が細胞によって発現されるような条件下で細胞を培養し、抗体タンパク質を単離することを含むことができる。
好ましくは、他で述べたように、野生型免疫グロブリンH鎖Fc領域のエフェクター機能と比較してエフェクター機能を調節する(すなわち抑制または亢進する)ために定常領域は改変されている。種々の実施形態において、IgG定常領域は抑制されたエフェクター機能を有する。あるいはIgG定常領域は、亢進したエフェクター機能を有する。Fcエフェクター機能は、例えば、抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)、食作用、補体依存性細胞障害作用および半減期またはクリアランス速度の機能を含む。FcドメインのIgGアミノ酸配列は、Fcガンマ受容体への結合(従ってADCCまたは食作用機能)に作用するように改変されることもできるし、補体系との相互作用(補体依存性細胞障害機能)を改変するように改変されることもできる。
【0051】
一実施形態において、該抗体は、少なくとも1つのFc受容体に対する親和性が低いかまたはない定常領域またはFc部分を含む。別の実施形態において、第2ポリペプチドは、補体タンパク質C1qに対する親和性が低いかまたはない。一般に、抗体のエフェクター機能は、エフェクター分子例えばFc受容体に対する抗体の親和性を変えることによって変えることができる。結合親和性は、一般に、エフェクター分子の結合部位を改変することによって変えられる。エフェクター分子、例えばFc受容体との相互作用を変えるIgG改変の開示は、例えば、米国特許第5,624,821号および第5,648,260号において見出すことができる。
【0052】
本開示の発明の概念の抗体タンパク質は、当該分野で公知の技術を用いて製造することができる。例えば、抗体タンパク質は、組換えにより細胞内で製造されることができる(79、86)。
組換え産生のために、抗体タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、適切な発現ビヒクル、例えば挿入されたコード配列の転写および翻訳に必要なエレメントを含むベクターに挿入される。次いで、発現ビヒクルは、該ペプチドを発現するための適切な標的細胞にトランスフェクトされる。当該技術分野で公知のトランスフェクション技術は、限定するものではないが、リン酸カルシウム沈殿法(87)およびエレクトロポレーション(88)を含む。本明細書に記載の抗体タンパク質を発現するために、好ましくは真核細胞を含む種々の宿主-発現ベクター系を用いることができる。
【0053】
本開示の発明の概念は、さらに、本明細書において開示されるかまたは別の方法で可能にされた抗体をコードする単離された核酸を提供する。該核酸はDNAまたはRNAを含むことができ、その全部または一部が合成によって製造されたものであることもできるし、組換えによって製造されたものであることもできる。本明細書に記載されるヌクレオチド配列とは、文脈上別段の必要がなければ、特定の配列を含むDNA分子を含み、TがUに置換された前記の特定の配列を含むRNA分子を含む。
他の実施形態において、本開示の発明の概念の抗体をコードする核酸分子は、例えば本明細書に開示された配列と少なくとも50%同一であるヌクレオチド配列もまた含む。本明細書に開示された配列に対して、配列が少なくとも60%同一である、少なくとも70%同一である、少なくとも75%同一である、少なくとも80%同一である、少なくとも85%同一である、少なくとも90%同一である、少なくとも91%同一である、少なくとも92%同一である、少なくとも93%同一である、少なくとも94%同一である、少なくとも95%同一である、少なくとも96%同一である、少なくとも97%同一である、少なくとも98%同一である、少なくとも99%同一であるまたは少なくとも99.5%同一である実施形態および/または高ストリンジェンシーまたは中程度のストリンジェンシーの条件下で本開示の発明の概念の配列にハイブリダイズする実施形態もまた考えられる。同一性パーセントは、視覚的検査および数学的計算によって決定することができる。
【0054】
本明細書において、“高ストリンジェンシー”を含むストリンジェンシーは、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって容易に決定される条件を含む。一般に、このような条件は、42℃、50%ホルムアミド、6xSSC(または他の同様なハイブリダイゼーション溶液、例えば、Stark溶液(50%ホルムアミド、42℃))でのハイブリダイゼーションおよびおおよそ68℃、0.2xSSC、0.1%SDSでの洗浄を特徴とする。温度および洗浄液の塩濃度は、プローブの長さなどの要因に応じて調整することができることは、当業者には明らかであろう。
本明細書において、“中程度のストリンジェンシー”は、例えばDNAの長さに基づいて、当業者によって容易に決定されることができる条件を含む。基本的な条件はSambrookら(79)によって示されており、ニトロセルロースフィルターのための予洗液5xSSC、0.5%SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の使用、50%ホルムアミド、6xSSC、42℃(または他の同様なハイブリダイゼーション溶液、例えばStark溶液(50%ホルムアミド、42℃))のハイブリダイゼーション条件および60℃、0.5xSSC、0.1%SDSの洗浄条件を含む。
【0055】
本明細書において、モノクローナル抗体は特に、それらが所望の生物活性を示す限りは、H鎖および/またはL鎖の一部の特定の種由来の抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一であるかまたはそれに相同性を示し、鎖(単数または複数)の残りが、他の種由来の抗体または他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一であるかまたはそれに相同性を示す“キメラ”抗体ばかりでなく、このような抗体の断片もまた含む(米国特許第4,816,567号)。
【0056】
抗体断片の製造方法もまた当該技術分野で公知である(参照により本願に組み込まれる)。本発明の抗体断片は、抗体のタンパク質加水分解によっても製造することができるし、その断片をコードするDNAのE.コリ(E. coli)における発現によっても製造することができる。上で述べたように、慣用法により、全長抗体のペプシンまたはパパイン消化によって抗体断片を得ることができる。例えば、抗体断片は、ペプシンを用いて抗体を酵素切断し、F(ab')
2で示される5S断片を得ることによって製造することができる。この断片は、さらに、チオール還元剤によりジスルフィド結合を切断し、場合によりスルフヒドリル基の保護基を用いて3.5SのFab'一価断片を生じさせることができる。あるいは、ペプシンを用いる酵素切断により、直接に、一価Fab'断片2つおよびFc断片が生じる。これらの方法は、例えば、米国特許第4,036,945号および米国特許第4,331,647号ならびにそれらに含まれる引用文献に記載されており、それらは参照により、本明細書に明示的に組み込まれる。
【0057】
無傷の抗体によって認識される立体配座エピトープに断片が結合する限り、抗体を切断する他の方法、例えばH鎖の分離による一価のL-H鎖断片の形成、さらなる断片の切断または他の酵素的、化学的もしくは遺伝子技術もまた使用することができる。例えば、Fv断片はVH鎖とVL鎖の会合を含む。この会合は非共有結合的であることもできるし、その可変鎖は分子間ジスルフィド結合によって結合されるかまたは化学物質、例えばグルタルアルデヒドによって架橋されることもできる。好ましくは、Fv断片はペプチドリンカーによって結合されたVH鎖およびVL鎖を含む。これらの一本鎖抗体結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドによって結合されたVHおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって製造される。構造遺伝子は発現ベクターに挿入され、続いてこれが宿主細胞、例えばE.コリに導入される。この組換え宿主細胞は、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを有する単一のポリペプチド鎖を合成する。抗体断片の他の形態は、単一のCDRををコードするペプチドである。CDRペプチド(“最少認識単位”は、多くの場合抗原の認識および結合に関与する。CDRペプチドは、目的とする抗体のCDRをコードする遺伝子をクローニングまたは構築することによって得ることができる。このような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することによって製造することができる。
【0058】
本開示の発明の概念は、非ヒト(例えば霊長類またはげっ歯類)抗体の完全ヒト型およびヒト化型を含む操作された抗体を含む。このようなヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小限の配列を含むキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはその断片(例えばFv、Fab、Fab'、F(ab')
2または抗体の他の抗原結合性部分配列)である。大部分に関して、ヒト化抗体は、ヒト受容体抗体のCDRからの残基が、所望の特異性、親和性および能力を有する、非ヒト種例えばマウス、ラットまたはウサギのドナー抗体CDRからの残基によって置換されたヒト免疫グロブリンである。本開示の発明の概念のヒト化抗体の例は、G4抗体のCDRを含み、G4抗体のフレームワーク配列に相同なヒトフレームワーク配列を含むヒト化抗体である。
【0059】
操作された抗体の製造において、本開示の発明の概念の抗体分子をコードするDNA配列は、確立された標準法によって合成的に製造される。例えばホスホアミジン法に従って、例えば自動DNA合成装置においてオリゴヌクレオチドが合成され、精製され、アニーリングされ、ライゲーションされて適切なベクターにクローニングされる。
次いで、このDNA配列は組換え発現ベクターに挿入されることができ、このベクターは任意のベクターであることができ、これは好都合には、組換えDNA手順に供されることができる。ベクターの選択は、多くの場合、それが導入される宿主細胞によって左右される。従って、該ベクターは、自律複製型ベクター、すなわち、その複製が染色体複製とは独立した染色体外実体、例えばプラスミドとして存在するベクターであることができる。あるいは、該ベクターは、宿主細胞に導入されたとき、宿主細胞ゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体(単数または複数)と共に複製されるベクターであることができる。
【0060】
該ベクターにおいて、タンパク質をコードするDNA配列は適切なプロモーター配列に作動可能に連結されていなければならない。このプロモーターは、選択された宿主細胞において転写活性を示し、宿主細胞に対して相同または異種のタンパク質をコードする遺伝子由来であることができる任意のDNA配列であることができる。哺乳動物細胞においてコードされたDNA配列の転写を指示する適切なプロモーターの例は、限定するものではないが、LTRプロモーター、SV40プロモーター、MT-1(メタロチオネイン遺伝子)プロモーターまたはアデノウイルス2型主要後期プロモーターを含む。昆虫細胞に使用するための適切なプロモーターは、ポリヘドリンプロモーターである。酵母宿主細胞に使用するための適切なプロモーターは、酵母解糖系遺伝子またはアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子からのプロモーターあるいはTPI1またはADH2-4cプロモーターを含む。糸状菌宿主細胞に使用するための適切なプロモーターは、例えばADH3プロモーターまたはtpiAプロモーターである。
【0061】
該DNAコード配列は、適切なターミネーター、例えばヒト成長ホルモンターミネーターあるいは(菌類宿主に関しては)TPI1またはADH3プロモーターに作動可能に連結されていることもできる。該ベクターは、さらなるエレメント、例えばポリアデニル化シグナル(例えばSV40または名称アデノウイルス5型Elb領域から)、転写エンハンサー配列(例えばSV40エンハンサー)および翻訳エンハンサー配列(例えば、アデノウイルスVA RNAをコードする配列)を含むことができる。
該組換え発現ベクターは、さらに、当該の宿主細胞内で該ベクターを複製することを可能にするDNA配列を含むことができる。このような配列の例は(宿主細胞が哺乳動物細胞の場合)SV40複製起点である。このベクターはまた、選択マーカー、例えば、その生成物が宿主細胞における欠陥を補う遺伝子、例えばジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)をコードする遺伝子または薬物、例えばネオマイシン、ハイドロマイシン(hydromycin)もしくはメトトレキサートに対する耐性を付与する遺伝子を含むことができる。
該タンパク質、プロモーターおよびターミネーターをそれぞれコードするDNA配列をライゲーションし、複製に必要な情報を含む適切なベクターにそれらを挿入するために用いる手順は当業者に公知である。
【0062】
本開示の発明の概念の組換えタンパク質を得るために、コードDNA配列は、第2ペプチドコード配列およびプロテアーゼ切断部位コード配列に有効に融合されて、融合タンパク質をコードするDNA構築物を得(ここで、プロテアーゼ切断部位コード配列はHBP断片と第2ペプチドコードDNAとの間に位置する)、組換え発現ベクターに挿入され、組換え宿主細胞内で発現されることができる。一実施形態において、前記第2ペプチドは、限定するものではないが、グルタチオン-S-レダクターゼ、子牛チモシン、細菌チオレドキシンまたはヒトユビキチン、天然または合成のバリアントあるいはそれらのペプチドを含む群から選択される。他の実施形態において、プロテアーゼ切断部位を含むペプチド配列は、アミノ酸配列IEGR切断部位を有する第Xa因子、アミノ酸配列DDDDK切断部位を有するエンテロキナーゼ、アミノ酸配列LVPR/GS切断部位を有するトロンビンまたはアミノ酸配列XKX切断部位を有するアクロモバクター・リティクス(Acharombacter lyticus)であることができる。
【0063】
発現ベクターが導入される宿主細胞は、ペプチドまたは完全長タンパク質を発現することができる任意の細胞であることができ、好ましくは真核細胞、例えば無脊椎動物(昆虫)細胞または脊椎動物細胞、例えばゼノパス・レービス(Xenopus Laevis)卵母細胞または哺乳動物細胞であり、特に昆虫細胞および哺乳動物細胞である。適切な哺乳動物細胞株の例は、限定するものではないが、HEk293(ATCC CRL-1573)、COS(ATCC CRL-1650)、BHK(ATCC CRL-1632、ATCC CCL-10)またはCHO(ATCC CCL-61)細胞株を含む。哺乳動物細胞をトランスフェクトし、細胞に導入されたDNA配列を発現する方法は当該分野で公知である。
あるいは、宿主細胞として真菌細胞(酵母細胞を含む)を使用することができる。適切な酵母細胞の例は、サッカロミセス種(Sacchyromyces spp.)またはシゾサッカロミセス種(Schizosaccharomyces spp.)、特にサッカロミセス・セレビシエ(Sacchyromyces cerevisiae)株の細胞を含む。他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えばアスペルギルス種(Aspergillus spp.)またはニューロスポラ種(Neurospora spp.)、特にアスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)またはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)株の細胞である。タンパク質の発現のためのアスペルギルス種の使用は、例えばEP238023に記載されている。
【0064】
該細胞を培養するために使用される培地は、哺乳動物細胞を増殖させるのに適した任意の従来の培地、例えば適切なサプリメントを含む血清含有培地もしくは無血清培地、または該タンパク質を発現させるために用いられる昆虫細胞、酵母細胞、真菌細胞または任意の細胞を増殖させるための適切な培地であることができる。適切な培地は、販売業者から入手される場合もあるし、公開された手順に従って製造される場合もある。
組換えにより細胞によって製造されるタンパク質は、次いで、遠心分離または濾過によって培地から宿主細胞を分離し、塩、例えば硫酸アンモニウムによって上清または濾液のタンパク性成分を沈殿させ、種々のクロマトグラフ法、例えばHPLC、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどによって精製することを含む慣用法によって培地から回収することができる。
該抗体が得られたら、例えば個々のB細胞が同定され、かつ/またはモノクローナル抗体が製造されたら、これらの抗体の可変領域をコードする配列を得ることができる。可変領域配列は、例えば、ハイブリドーマ、B細胞またはファージによって産生される抗体タンパク質を最初に配列決定し、コードする核酸配列を決定することによって得ることができる。一実施形態において、免疫グロブリン可変領域(VHおよびVL)DNAまたはcDNAを代わりに配列決定することができる。抗体がハイブリドーマ細胞株または単離されたB細胞由来の場合、可変領域をコードするcDNAは、例えばBabcookら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93:7843-7848 (1996))および国際公開番号第WO92/02551号に記載されている方法によるPCRを用いて増幅することができる。両方の参照文献の内容は、その全体が参照により明示的に本願に組み込まれる。
【0065】
“キメラ”抗体とは、少なくとも2つの異なる供給源からの成分で構成される抗体のことを言う。特定の実施形態において、キメラ抗体は、他の分子、例えば第2種由来の抗体の一部に融合された第1種由来の抗体の一部を含む。特定のこのような実施形態において、キメラ抗体は、ヒト由来の抗体の一部に融合された非ヒト動物由来の抗体の一部を含む。特定のこのような実施形態において、キメラ抗体は、別の動物からの抗体の一部に融合されたある動物由来の抗体の可変領域の全部または一部を含む。例えば、限定を意図したものではないが、キメラ抗体は、ヒト由来の抗体の定常領域に融合された非ヒト動物由来の抗体の可変領域の全部または一部を含むことができる。
【0066】
本開示の発明の概念のモノクローナル抗体の利用には、被験者、例えば限定するものではないがヒトへのそれらの投与を必要とする場合がある。しかしながら、該モノクローナル抗体が非ヒト動物、例えばげっ歯類において産生される場合、このような抗体のヒト患者への投与により、通常は免疫応答が誘導され、この免疫応答はこの抗体の配列に対して指向性を有する。このような反応により、このような治療の期間および有効性が限定される。このような問題を克服するために、本開示の発明の概念のモノクローナル抗体は“ヒト化”される。すなわち、それらの1以上の抗原性部分が除去され、それによってヒト抗体の類似した部分が置換される一方で、所望のエピトープに対する抗体の親和性が保持されるように抗体が操作される。この操作は、いくつかのアミノ酸のみを含むこともできるし、無傷の抗体の相補性決定領域のみを残して抗体のフレームワーク領域全体を含むこともできる。抗体をヒト化するいくつかの方法が当該技術分野で公知であり、米国特許第6,180,370号(2001年1月30日、Queenらに発行);第6,054,927号(2000年4月25日、Brickellに発行);第5,869,619号(1999年2月9日、Studnickaに発行);第5,861,155号(1999年1月19日、Linに発行);第5,712,120号(1998年1月27日、Rodriquezらに発行);および第4,816,567号(1989年3月28日、Cabillyらに発行)に開示されている。それらの明細書は、その全体が参照により本願に明示的に組み込まれる。
【0067】
上記のように、“ヒト化”抗体とは、ヒト抗体によりよく適合する(アミノ酸配列で)ように改変された非ヒト抗体のことを言う。前述のように、抗体は、主にH鎖およびL鎖の相補性決定領域(CDR)に位置するアミノ酸残基を介して標的抗原と相互作用する。従って、CDR内のアミノ酸配列は、CDRの外側の配列よりも、個々の抗体間でより多様であることができる。CDR配列は大部分の抗体-抗原相互作用に関与するため、天然に存在する抗体からのCDR配列が、異なる特性を有する異なる抗体からのフレームワーク配列、例えばヒト抗体フレームワーク領域に移植された発現ベクターを構築することによって、特異的な天然に存在する抗体の特性をまねた組換え抗体を発現することが可能である。このようなフレームワーク配列は、公開DNAデータベースまたは生殖系列抗体遺伝子配列を含む公表された参照文献から入手することができる。例えば、ヒトH鎖およびL鎖の可変領域遺伝子の生殖系列DNA配列は、“VBase”ヒト生殖系列配列データベース(mrc-cpe.cam.ac.uk/vbaseからインターネットで入手できる)において見出すことができるし、Kabat, E. A., et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242; Tomlinson, I. M., et al. (1992) "The Repertoire of Human Germline VH Sequences Reveals about Fifty Groups of VH Segments with Different Hypervariable Loops" J. Mol. Biol. 227:776-798;およびCox, J. P. L. et al. (1994) "A Directory of Human Germ-line VH Segments Reveals a Strong Bias in their Usage" Eur. J. Immunol. 24:827-836;においても見出すことができる(それぞれの内容は、参照により本願に明示的に組み込まれる)。
【0068】
抗体のヒト化型は、主としてヒト免疫グロブリンの配列で構成され、最小限の非ヒト免疫グロブリン由来配列を含む免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはその断片(例えばFv、Fab、Fab'、F(ab')
2または抗体の他の抗原結合性部分配列)である。ヒト化は、げっ歯類のCDR配列を対応するヒト抗体配列に置換することによるWinterおよび共同研究者の方法(Jones ら、1986; Riechmann ら、1988; Verhoeyen ら、1988)に従って行うことができる。(米国特許第5,225,539号もまた参照のこと)。ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基によって置換される場合もある。ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、移入CDRまたはフレームワーク配列にも見られない残基を含むこともできる。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域のすべてまたは実質的に全部が非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、フレームワーク領域のすべてまたは実質的に全部がヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のフレームワーク領域である、少なくとも1つの、そして一般的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含む。ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリンの定常領域(Fc)、一般的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部もまた含む(Jones ら、1986; Riechmann ら、1988; および Presta、1992)。
【0069】
本開示の発明の概念は、さらに、完全ヒトモノクローナル抗体の使用を含む。完全ヒト抗体は、本質的に、CDRを含むL鎖およびH鎖の全配列がヒト遺伝子に起因する抗体分子に関する。このような抗体は、本明細書において、“ヒト抗体”または“完全ヒト抗体”と呼ばれる。“ヒト抗体”はヒト抗体配列を含み、非ヒト動物からの抗体配列を含まない。特定の実施形態において、ヒト抗体は、天然抗体には見られない合成配列をさらに含むことができる。この用語は、その抗体が製造される方法によって限定されない。
ヒトモノクローナル抗体は、トリオーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor et al., Hybridoma, 2:7 (1983)参照)およびヒトモノクローナル抗体を製造するためのEBVハイブリドーマ技術(Cole et al., PNAS, 82:859 (1985)参照)によって製造することができる。ヒトモノクローナル抗体は、本開示の請求された発明の概念(単数または複数)の実施に用いることができ、ヒトハイブリドーマを用いるか(Cote et al. PNAS, 80:2026 (1983)参照)、またはin vitroでEBウイルスを用いてヒトB細胞を形質転換する(Coleら、(1985)参照)ことによって製造することができる。
【0070】
さらに、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活化されたトランスジェニック動物、例えばマウスにヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入することによってヒト抗体を製造することができる。チャレンジ後、ヒト抗体の産生が観察され、この抗体産生は、あらゆる点で、遺伝子再構成、アセンブリおよび抗体レパートリーを含むヒトにおいて見られる抗体産生と酷似している。このアプローチは、例えば限定を意図するものではないが、米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,661,016号ならびにMarks et al., J Biol. Chem., 267:16007 (1992); Lonberg et al., Nature, 368:856 (1994); Morrison, 1994; Fishwild et al., Nature Biotechnol., 14:845 (1996); Neuberger, Nat. Biotechnol., 14:826 (1996);およびLonberg and Huszar, Int Rev Immunol., 13:65 (1995) に記載されている。
【0071】
さらに、ヒト抗体は、抗原によるチャレンジに応答して動物の内因性抗体よりも完全ヒト抗体を産生するように改変されたトランスジェニック非ヒト動物を用いて製造することができる(国際公開番号第WO94/02602号参照)。非ヒト宿主におけるH鎖およびL鎖免疫グロブリンをコードする内在性遺伝子が無力化され、ヒトH鎖およびL鎖免疫グロブリンをコードする活性遺伝子座が宿主のゲノムに挿入される。ヒト遺伝子は、例えば、必要なヒトDNAセグメントを含む酵母人工染色体を用いて組み込まれる。次いで、全装備に満たない改変を含む中間トランスジェニック動物を交雑することによってすべての所望の改変を提供する動物が子孫として得られる。このような非ヒト動物の一実施形態はマウスであり、国際公開番号第WO96/33735号および第WO96/34096号の開示に従ってXENOMOUSE(登録商標)と呼ばれる。この動物は、完全ヒト免疫グロブリンを分泌するB細胞を産生する。この抗体は、目的とする免疫原での免疫処置後に、例えばポリクローナル抗体調製物として動物から直接得ることもできるし、あるいは動物由来の不死化したB細胞、例えばモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから得ることもできる。さらに、ヒト可変領域を含む免疫グロブリンをコードする遺伝子を回復させ発現させて直接に抗体を得ることもできるし、さらに改変させて、抗体のアナログ、例えば一本鎖Fv分子を得ることもできる。
【0072】
内因性免疫グロブリンH鎖の発現を欠く非ヒト宿主、例えば例示としてのマウス、を作成する方法の例は、米国特許第5,939,598号(1999年8月17日、Kucherlapatiらに発行)において開示されており、これは参照により本願に組み込まれる。これは、胚性幹細胞における少なくとも1つの内因性H鎖遺伝子座からJセグメント遺伝子を欠失させて遺伝子座の再構成を妨げ、再構成された免疫グロブリンH鎖遺伝子座の転写物の形成を妨げ、ここでこの欠失は選択マーカーをコードする遺伝子を含む標的化ベクターによって達成され;この胚性幹細胞から、その体細胞および生殖細胞が選択マーカーをコードする遺伝子を含むトランスジェニックマウスを作成することを含む方法によって得ることができる。
【0073】
目的とする抗体、例えばヒト抗体を製造する方法は、米国特許第5,916,771号(1999年6月29日、Horiらに発行)に開示されており、これは参照により本願に組み込まれる。この方法は、培養物中の1方の哺乳動物宿主細胞にH鎖をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを導入し、他方の哺乳動物宿主細胞にL鎖をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを導入し、これら2つの細胞を融合させてハイブリッド細胞を形成させることを含む。このハイブリッド細胞は、H鎖およびL鎖を含む抗体を発現する。
用語“中和抗体”または“中和する抗体”とは、抗体が特異的に結合するエピトープを含むポリペプチドの少なくとも1つの活性を抑制する抗体のことを言う。特定の実施形態において、中和抗体は、in vitroおよび/またはin vivoで活性を抑制する。用語“抗原結合部位”とは、抗原に特異的に結合することができる抗体の一部のことを言う。特定の実施形態において、抗原結合部位は1以上の抗体可変領域によって提供される。
【0074】
本発明の抗体は、好ましくは、補体を不活化する1以上の改変を含む。用語“補体活性”は、補体系、個々の補体経路関連分子およびこれらの分子をコードする遺伝子の活性化と関連する生化学的活性および生理活性を広く含む。従って、補体活性は、例えば、補体経路分子をコードする遺伝子の構造および発現、補体経路分子の生化学的活性(例えば、酵素活性または制御活性)、補体系の活性化から開始されるかまたは生じる細胞活性ならびに補体経路分子に対する血清自己抗体の存在を含む。hSel001抗体において、補体を不活化するための好ましい改変は、H鎖定常領域CH2の位置342におけるリジン残基のアラニンによる置換である。同じ位置における他の置換は、例えば、その置換が、補体を活性化する定常領域の能力も除去するという条件で、gly、leu、trp、tyr、pro、thr、ser、met、asp、asn、glu、gln、phe、ile、val、thrおよびcysのいずれかを含むことができる。
【0075】
用語“補体経路関連分子”、“補体経路分子”および“補体経路関連タンパク質”は同義で使用され、活性化補体系によって媒介されるか、またはそれに感受性のあるか、またはそれにより引き起こされる補体活性化およびその下流の細胞活性に関与する種々の分子を指す。これらは、補体経路の開始剤(すなわち、補体系の活性化を直接または間接に引き起こす分子)、補体活性化中に産生される、または役割を果たす分子(例えば、補体タンパク質/酵素、例えばC3、C5、C5b-9、B因子、MASP-1およびMASP-2)、補体受容体またはインヒビター(例えば、クラステリン、ビトロネクチン、CR1またはCD59)ならびに活性化補体系によって制御されるか、または誘発される分子(例えば、膜侵襲複合体阻止因子、MACIF)を含む。従って、上記の補体タンパク質に加えて、補体経路関連分子はまた、例えば、C3/C5コンベルターゼ調節因子(RCA)、例えば補体受容体1型(CR1またはCD35とも呼ばれる)、補体受容体2型(CR2またはCD21とも呼ばれる)、膜補因子タンパク質(MCPまたはCD46)およびC4bBP;MAC調節因子、例えばビトロネクチン、クラステリン(“SP40,40”とも呼ばれる)、CRP、CD59および相同制限因子(HRF);免疫グロブリン鎖、例えばIgカッパ、IgラムダまたはIgガンマ;C1インヒビター;ならびに他のタンパク質、例えばCR3、CR4(CD11b/18)およびDAF(CD55)を含む。
【0076】
二重機能抗P-セレクチン抗体
本開示の発明の概念は、P-セレクチンに特異的に結合し、PSGL-1のP-セレクチンへの結合を遮断するばかりでなく、また既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体も解離させる“二重機能”抗体およびその断片に関する。本開示は、これまで知られていなかった、二重機能抗体(例えばキメラ、ヒトまたはヒト化抗体またはその断片であることができる)が結合するP-セレクチンのレクチンドメイン(例えば、炭水化物認識ドメイン、CRD)内の抗体結合ドメイン(立体配座エピトープ)を記載する。本開示の発明の概念はまた、本明細書に記載の立体配座エピトープに結合し、かつ(1)PSGL-1のP-セレクチンへの結合を遮断し、(2)既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を解離させる二重機能を有する抗P-セレクチン抗体に関する。本開示の発明の概念は、特に、血小板、鎌状赤血球、白血球、リンパ球および/または内皮細胞の接着が関与する、霊長類の動物(ヒトを含む)の炎症性、血栓性もしくは他の疾患または障害の治療における二重機能抗P-セレクチン抗体またはその抗体断片の使用であって、状態または障害が、限定するものではないが、鎌状細胞血管閉塞性クリーゼ、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎および腸炎)、関節炎(例えば、関節リウマチ、変形性関節症および乾癬性関節炎)、移植片拒絶、移植片対宿主疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、乾癬、皮膚炎、敗血症、腎炎、エリテマトーデス、強皮症、鼻炎、アナフィラキシー、糖尿病、多発性硬化症、アテローム性動脈硬化症、血栓症、腫瘍転移、アレルギー反応、甲状腺炎、虚血性再潅流障害(例えば、心筋梗塞、発作もしくは臓器移植による)ならびに広範囲にわたる外傷もしくは慢性炎症と関連する状態、例えば、IV型遅延型過敏症、例えば結核菌による感染と関連したものまたは全身性炎症反応症候群、または多臓器不全の少なくとも1つと関連するかまたはそれを含む前記使用に関する。
【0077】
重要なことに、これらの炎症性疾患の治療におけるこのような二重機能抗体の使用は、炎症の予防、抑制または抑制を可能にするばかりでなく、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1をこの抗体が解離させることができるという点で、進行中の炎症性疾患プロセスを治療する機構もまた提供する。例えば、鎌状細胞血管閉塞性クリーゼの場合は、該二重機能抗体は未来の血管閉塞性事象を予防することができるばかりでなく、進行中の血管閉塞症の治療に使用することもできる。本開示の発明の概念はまた、本明細書に新たに記述されたP-セレクチンの立体配座エピトープに結合し、PSGL-1のP-セレクチンへの結合を遮断するばかりでなく、PSGL-1のP-セレクチンへの結合の解消(すなわち、既に形成された複合体の解離)も引き起こす抗P-セレクチン抗体の検出のためのスクリーニングアッセイに関する。
【0078】
本明細書に記載したように、本開示の発明の概念は、P-セレクチン(配列番号1)を認識し(すなわちそれに結合し)、P-セレクチンのPSGL-1(またはPSGL-1様受容体)への結合を遮断し、さらにPSGL-1/P-セレクチン相互作用を介した既に形成された接着または細胞複合体の解離を引き起こす精製された抗体(キメラ、ヒトまたはヒト化抗体およびその断片を含むがこれに限定されない)ならびにこのような抗体(またはその結合断片)を用いる治療法に関する。
より具体的には、本開示の発明の概念は、P-セレクチンに対する精製された抗体(またはその断片)、このような抗P-セレクチン抗体(またはその断片)を産生する宿主細胞、白血球、鎌状赤血球、リンパ球、血小板および内皮細胞のP-セレクチン媒介接着を遮断し、さらにPSGL-1/P-セレクチン相互作用を介した既に形成された接着または細胞複合体解離を引き起こす抗P-セレクチン抗体(またはその断片)を同定するためのスクリーニングアッセイならびにこのような抗体(またはその結合断片)を用いる治療法に関する。本開示の発明の概念は、特に、限定するものではないが、G4、G4のヒト化型およびhSel001抗体を含む霊長類(ヒトを含む)P-セレクチンおよびその結合断片に対する新規抗体を含む。本開示の好ましい抗体は、霊長類(特にヒト)P-セレクチンに特異的に結合し、in vitroおよび/またはin vivoで1以上のP-セレクチン活性を抑制することができる。本明細書においては、用語“PSGL-1”はまた、鎌状赤血球(赤血球)の“PSGL-1様受容体”を含むものとする。
【0079】
一般に、本開示の発明の概念の抗体または抗体断片は、本明細書に記載のP-セレクチン結合部位に特異的に結合し、PSGL-1のP-セレクチンへの結合を遮断し、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を解離させる抗体に対してそれが同様なまたは免疫学的特性を有する限り、任意の上限サイズを有することができる。本明細書においては、用語“包括的”とは、本明細書に記載の任意の2つの数の間のすべての整数を指すものとする。
本明細書の他の部分で述べたように、本開示の発明の概念の抗体断片は、本明細書に記載のP-セレクチンに結合するエピトープの全部または一部に選択的に結合する能力を保持する。好ましくは、本発明の抗体の抗体または結合断片は、配列番号1に示す配列のアミノ酸残基1〜35またはより具体的には4〜23の1以上を含むエピトープに結合することができる。
好ましい実施形態において、上で述べたように、本開示の発明の概念の抗体または抗体断片は、好ましくはP-セレクチンに高親和性(例えばK
dが≦1000nM)で結合し、好ましくはヒト定常領域を含み、好ましくはP-セレクチンのPSGL-1への結合を抑制し、より好ましくは既に形成された複合体におけるP-セレクチンのPSGL-1への結合の解消を引き起こすアイソタイプIgG
1、IgG
2、IgG
3、IgG
4またはIgG
2/G
4キメラの免疫グロブリンを含む。さらにまた、抗P-セレクチン抗体またはその結合断片は、好ましくは、抗体のエフェクター機能と総称される、C1qとの相互作用によって古典的経路により補体を活性化せず、好ましくはFc受容体と結合しない。本開示の発明の概念は、特に、血小板、鎌状赤血球、白血球、リンパ球および/または内皮細胞の接着が関与する、霊長類の動物(ヒトを含む)の炎症性、血栓性もしくは他の疾患または障害の治療における本明細書において記載され同定された二重機能抗P-セレクチン抗体または抗体断片の使用であって、状態または障害が、限定するものではないが、鎌状細胞血管閉塞性クリーゼ、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎および腸炎)、関節炎(例えば、関節リウマチ、変形性関節症および乾癬性関節炎)、移植片拒絶、移植片対宿主疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、乾癬、皮膚炎、敗血症、腎炎、エリテマトーデス、強皮症、鼻炎、アナフィラキシー、糖尿病、多発性硬化症、アテローム性動脈硬化症、血栓症、腫瘍転移、アレルギー反応、甲状腺炎、虚血性再潅流障害(例えば、心筋梗塞、発作もしくは臓器移植による)ならびに広範囲にわたる外傷もしくは慢性炎症と関連する状態、例えば、IV型遅延型過敏症、例えばツベルクル・バシリによる感染と関連したものまたは全身性炎症反応症候群、または多臓器不全の少なくとも1つと関連するかまたはそれを含む前記使用に関する。
【0080】
本明細書の他の部分で述べたように、これらの細胞の表面リガンド(PSGL-1)に結合することによって、そして活性化内皮細胞を有する内皮への鎌状赤血球の結合において、P-セレクチンは炎症および血栓部位への白血球の動員においてその中心的役割を果たす。PSGL-1は、好中球および単球を含む白血球ならびに一部の内皮細胞上に構成的に発現される。PSGL-1様受容体は鎌状赤血球上に発現され、これらの細胞が活性化内皮細胞上のP-セレクチンに結合するのを可能にする。
【0081】
理論に拘束されることを望まないが、例えば本発明の抗P-セレクチン抗体による血管閉塞性鎌形赤血球の疼痛クリーゼの治療は、以下の相互作用:(1)白血球上のPSGL-1の活性化内皮上のP-セレクチンへの結合;(2)鎌状赤血球上のPSGL-1様リガンドの活性化内皮上のP-セレクチンへの結合;(3)内皮細胞上のPSGL-1の活性化血小板の表面上のP-セレクチンへの結合;(4)特徴付けられていないリガンド-受容体相互作用による鎌状赤血球と白血球との結合;(5)鎌状赤血球上のPSGL-1様受容体の活性化血小板上のP-セレクチンへの結合および/または;(6)白血球上のPSGL-1の活性化血小板の表面上のP-セレクチンへの結合、のいずれか1つ以上を抑制することによって効果を発揮すると考えられる。二重機能抗P-セレクチン抗体は、微小血管における細胞-細胞相互作用の複数のレベルでの血管閉塞症の開始および広がりを遮断すると考えられる。さらにまた、本明細書の他の部分で述べた様に、二重機能抗P-セレクチン抗体はP-セレクチン/PSGL-1複合体を解離させ、それによって、進行中の血管閉塞症に介入する治療に用いることができる。
【0082】
P-セレクチンは、特定の赤血球(すなわち鎌状赤血球)ならびに、単球、好中球、好酸球、CD4
+T細胞、CD8
+T細胞、B細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む白血球を含む血球と活性化血小板または活性化内皮細胞との相互作用を媒介する。本明細書において述べた様に、P-セレクチンは、損傷、感染または物理化学的攻撃によって生じる炎症に対する多くの細胞応答に関与することが知られている。血管の内表面のアテローム病変を特徴とするアテローム性動脈硬化症は、特定の白血球と、血管壁の内膜上のP-セレクチンを含む内皮細胞との結合に関連する状態の1例である。
前述のように、例えば、白血球のテターリングおよびローリングならびに赤血球(すなわち鎌状赤血球)の接着を阻止するためにP-セレクチンに対する抗体を用いるP-セレクチン機能の遮断に関する治療によって、多くのタイプの炎症性および血栓性疾患に十分な効果を発揮することができる。内皮および血小板への白血球のローリングおよびテターリングの開始におけるその枢要な役割を考慮すれば、P-セレクチンは、炎症性および血栓性障害を治療する治療法の開発のための主要標的である。例えば、器官損傷ならびに関連合併症および病的状態の再発性慢性作用は急性期の鎌状赤血球貧血の一時的な性質と相まって、P-セレクチンとPSGL-1との結合による最初の接着の遮断および以前に、進行中の、あるいは既に形成された接着の解離の誘導の両方を示す治療介入が、このおよび他の炎症性および血栓性疾患に対する新規用途を有することを示唆している。従って、本開示の発明の概念は、P-セレクチン-PSGL-1結合を遮断するばかりでなく、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の(従って細胞-細胞複合体の)解離も引き起こす、P-セレクチンに対する“二重機能”抗体をスクリーニングし同定するためのP-セレクチンの立体配座抗体結合エピトープの使用方法ならびに、疾患、例えば限定するものではないが炎症性および血栓性疾患の治療処置のためのこのような抗体を含む。
【0083】
上で述べたように、P-セレクチンの新規立体配座結合エピトープが、本明細書に記載されるように見出された。これらの立体配座結合エピトープの発見は、さらに、立体配座エピトープに高い特異性で結合し、P-セレクチンとPSGL-1との結合を遮断するばかりでなく、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離も誘導し(すなわち、P-セレクチン-PSGL-1結合の解消も誘導し)、それによって、細胞複合体、例えば白血球/内皮細胞、白血球/血小板、リンパ球/内皮細胞、リンパ球/血小板、鎌状赤血球/内皮細胞または鎌状赤血球/血小板複合体の解離を引き起こす二重機能抗P-セレクチン抗体(従って、この抗体は、本明細書において“二重機能”抗体と呼ぶことができる)の発見へと導いた。
P-セレクチンに対するいくつかの抗体の結合領域は、マウスおよびヒトにおける天然タンパク質P-セレクチンのレクチン、上皮増殖因子(EGF)およびコンセンサスリピート(CR)領域を含む大きな機能性ドメインの構築物を用いて以前マッピングされている(90、70、91〜95)。これらの結果により、P-セレクチンに対するいくつかの機能遮断抗体の主要な結合部位は、天然P-セレクチンタンパク質のアミノ酸残基1〜120にまたがる領域であるレクチン結合ドメインまたはアミノ酸121〜154にまたがるEGFドメインに存在することが示された。
【0084】
以下に本発明の具体的態様をいくつか例示的に列挙する。
〔1〕P-セレクチンの立体配座エピトープに特異的に結合する単離された抗体またはその結合断片であって、前記立体配座エピトープが配列番号1のアミノ酸位置1〜35の範囲内にある前記単離された抗体またはその結合断片。
〔2〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸4〜23の範囲内にある、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔3〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸位置4、14、17、21および22を含む、前記〔2〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔4〕アミノ酸位置4、14、17、21および22におけるアミノ酸が、それぞれH、I、K、NおよびRである、前記〔3〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔5〕アミノ酸位置4、14、17、21または22のいずれか1つ以上が、それぞれN、N、V、RまたはHで置換される場合に結合が阻害される、前記〔4〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔6〕P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1)のP-セレクチンへの結合を遮断する能力を有する、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔7〕既に形成されたP-セレクチン-PSGL-1複合体を解離させる能力をさらに含む、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔8〕活性化内皮細胞の白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板への結合を阻害することによってP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔9〕活性化血小板の白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板への結合を阻害することによってP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔10〕活性化内皮細胞と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔11〕活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔12〕抗体またはその断片がモノクローナル抗体またはその断片である、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔13〕抗体またはその断片が、キメラ、ヒトもしくはヒト化抗体またはその断片である、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔14〕IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMからなるクラスから選択される免疫グロブリンを含む、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔15〕単離された抗体またはその結合断片が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4またはIgG2/G4キメラからなるアイソタイプから選択されるIgGである、前記〔14〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔16〕Fab、Fab'、F(ab)2またはscFv断片の少なくとも1つを含む、前記〔1〕に記載の結合断片。
〔17〕K
d≦1000nM、K
d≦500nM、K
d≦100nM、K
d≦50nM、K
d≦25nM、K
d≦10nM、K
d≦5nM、K
d≦1nMまたはK
d≦0.1nMで立体配座エピトープに結合する、前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片。
〔18〕ATCC番号PTA12154のハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体または前記モノクローナル抗体のCDRを含むヒト化抗体である、前記〔1〕に記載の単離された抗体。
〔19〕薬学的に許容される担体、ビヒクルまたは希釈剤に配合される前記〔1〕に記載の単離された抗体または結合断片を含む組成物。
〔20〕前記〔1〕に記載の抗体または結合断片を発現する細胞株。
〔21〕ATCC番号PTA12154のハイブリドーマを含む、前記〔20〕に記載の細胞株。
〔22〕前記〔21〕に記載のハイブリドーマによって産生される、単離されたモノクローナル抗体。
〔23〕モノクローナル抗体がG4で表わされる、前記〔22〕に記載の単離されたモノクローナル抗体。
〔24〕前記〔21〕に記載のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体のCDRを含む単離されたヒト化抗体。
〔25〕炎症性または血栓性状態または障害を治療または抑制する方法であって、配列番号1のアミノ酸位置1〜35の範囲内にあるP-セレクチンの立体配座エピトープに特異的に結合する抗体またはその結合断片の治療的有効量を被験者に投与することを含む前記方法。
〔26〕立体配座エピトープが配列番号1のアミノ酸位置4〜23の範囲内にある、前記〔25〕に記載の方法。
〔27〕立体配座エピトープが配列番号1のアミノ酸位置4、14、17、21および22を含む、前記〔25〕に記載の方法。
〔28〕アミノ酸位置4、14、17、21および22におけるアミノ酸が、それぞれH、I、K、NおよびRである、前記〔27〕に記載の方法。
〔29〕アミノ酸位置4、14、17、21または22のいずれか1つ以上が、それぞれN、N、V、RまたはHで置換される場合に結合が阻害される、前記〔28〕に記載の方法。
〔30〕抗体またはその結合断片が、P-セレクチンへのP-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1)の結合を遮断する能力を有する、前記〔25〕に記載の方法。
〔31〕抗体またはその結合断片が、既に形成されたP-セレクチン-PSGL-1複合体を解離させる能力をさらに含む、前記〔25〕に記載の方法。
〔32〕前記〔1〕に記載の抗体または結合断片が、活性化内皮細胞と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、前記〔25〕に記載の方法。
〔33〕前記〔1〕に記載の抗体または結合断片が、活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、前記〔25〕に記載の方法。
〔34〕抗体またはその結合断片が、活性化内皮細胞の白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板への結合を阻害することによってP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、前記〔25〕に記載の方法。
〔35〕抗体またはその結合断片が、活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との結合を阻害することによるP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、前記〔25〕に記載の方法。
〔36〕抗体またはその結合断片がモノクローナル抗体またはその結合断片である、前記〔25〕に記載の方法。
〔37〕抗体またはその断片が、キメラ、ヒトまたはヒト化抗体またはその断片である、前記〔25〕に記載の方法。
〔38〕抗体またはその結合断片が、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMからなるクラスから選択される免疫グロブリンを含む、前記〔25〕に記載の方法。
〔39〕抗体またはその結合断片が、I gG1、IgG2、IgG3、IgG4またはIgG2/G4キメラである、前記〔38〕に記載の方法。
〔40〕結合断片がFab、Fab'、F(ab)2またはscFv断片の少なくとも1つを含む、前記〔25〕に記載の方法。
〔41〕抗体またはその結合断片が、K
d≦1000μM、K
d≦500nM、K
d≦100nM、K
d≦50nM、K
d≦5nM、K
d≦10nM、K
d≦5nM、K
d≦1nMまたはK
d≦.1nMで立体配座エピトープに結合する、前記〔25〕に記載の方法。
〔42〕炎症性、血栓性の状態もしくは他の状態または障害が、血小板、鎌状赤血球、白血球、リンパ球もしくは内皮細胞の接着、血管閉塞性鎌形赤血球の疼痛クリーゼ、血栓症、アテローム性動脈硬化症、腫瘍転移、アレルギー反応、甲状腺炎、乾癬、皮膚炎、腎炎、エリテマトーデス、強皮症、敗血症、鼻炎、アナフィラキシー、糖尿病、多発性硬化症、移植片拒絶、移植片対宿主疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、炎症性腸疾患、関節炎および虚血性再潅流障害、広範囲にわたる外傷もしくは慢性炎症と関連する状態、全身性炎症反応症候群ならびに多臓器不全の少なくとも1以上に関連する、前記〔25〕に記載の方法。
〔43〕虚血性再潅流障害が、心筋梗塞、発作および臓器移植の少なくとも1つによって引き起こされる、前記〔42〕に記載の方法。
〔44〕抗体が被験者に、非経口、筋肉内、腹腔内、硬膜外または経口、静脈内、皮下投与または噴霧型で投与される、前記〔25〕に記載の方法。
〔45〕抗体または結合断片が、1ng/kg〜100mg/kgの量で被験者に投与される、前記〔25〕に記載の方法。
〔46〕抗体が、本明細書でG1、hSel001、G4で表されるモノクローナル抗体であるか、または前記モノクローナル抗体のCDRを含むヒト化抗体である、前記〔25〕に記載の方法。
〔47〕P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1)のP-セレクチンへの細胞-細胞間結合を遮断する方法であって、配列番号1のアミノ酸位置1〜35の範囲内にあるP-セレクチンの立体配座エピトープに特異的に結合する抗体またはその結合断片を活性化血小板、白血球、リンパ球および/または鎌状赤血球に投与することを含む前記方法。
〔48〕抗体またはその結合断片が、既に形成されたP-セレクチン-PSGL-1複合体を解離させる能力をさらに含む、前記〔47〕に記載の方法。
〔49〕前記〔1〕に記載の抗体または結合断片が、活性化内皮細胞と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、前記〔47〕に記載の方法。
〔50〕前記〔1〕に記載の抗体または結合断片が、活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との間の細胞-細胞間結合を解離させる能力を有する、前記〔47〕に記載の方法。
〔51〕抗体またはその結合断片が、活性化内皮細胞の白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板への結合を阻害することによってP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、前記〔47〕に記載の方法。
〔52〕抗体またはその結合断片が、活性化血小板と白血球、リンパ球、鎌状赤血球および/または血小板との結合を阻害することによるP-セレクチンの機能を遮断する能力を有する、前記〔47〕に記載の方法。
〔53〕抗体が、本明細書においてG1、hSel001、G4で表されるモノクローナル抗体であるか、または前記モノクローナル抗体のCDRを含むヒト化抗体である、前記〔47〕に記載の方法。
〔54〕P-セレクチンの立体配座エピトープを、この立体配座エピトープに結合することができる試験抗体に暴露し、エピトープ-試験抗体複合体を形成させ;エピトープ-試験抗体複合体を、P-セレクチンに結合することができるPSGL-1またはPSGL-1ミメティックに暴露し;PSGL-1またはPSGL-1ミメティックがエピトープ-試験抗体複合体に結合することができない場合に、PSGL-1のP-セレクチンへの結合を試験抗体が遮断すると結論することを含む、スクリーニング方法。
〔55〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸1〜35の範囲内にある、前記〔54〕に記載のスクリーニング方法。
〔56〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸4〜23の範囲内にある、前記〔54〕に記載のスクリーニング方法。
〔57〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸位置4、14、17、21および22を含む、前記〔54〕に記載のスクリーニング方法。
〔58〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸位置20および23をさらに含む、前記〔57〕に記載のスクリーニング方法。
〔59〕配列番号1のアミノ酸位置4、14、17、21および22におけるアミノ酸が、それぞれH、I、K、NおよびRである、前記〔57〕に記載のスクリーニング方法。
〔60〕立体配座エピトープが、基体に結合している無傷のP-セレクチンタンパク質の構成要素として提供される、前記〔54〕に記載のスクリーニング方法。
〔61〕立体配座エピトープが、基体に結合しているP-セレクチンタンパク質の一部の構成要素として提供される、前記〔54〕に記載のスクリーニング方法。
〔62〕立体配座エピトープが支持基体に結合している、前記〔54〕に記載のスクリーニング方法。
〔63〕PSGL-1またはPSGL-1ミメティックが支持基体に結合している、前記〔54〕に記載のスクリーニング方法。
〔64〕抗P-セレクチン抗体を特徴付ける方法であって、能遮断抗P-セレクチン抗体が結合することができる立体配座エピトープを含むP-セレクチンタンパク質またはその断片に結合した無傷のPSGL-1タンパク質、PSGL-1断片またはPSGL-1ミメティックを含む、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を提供し;抗P-セレクチン抗体が立体配座エピトープに結合することができるようにするのに適した条件下で抗P-セレクチン抗体に既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を暴露し;既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を解離させる能力に関して抗P-セレクチン抗体を特徴付けることを含む前記方法。
〔65〕立体配座エピトープが配列番号1のアミノ酸1〜35の範囲内にある、前記〔64〕に記載の方法。
〔66〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸4〜23の範囲内にある、前記〔64〕に記載の方法。
〔67〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸位置4、14、17、21および22を含む、前記〔64〕に記載の方法。
〔68〕アミノ酸位置4、14、17、21および22におけるアミノ酸が、それぞれH、I、K、NおよびRである、前記〔67〕に記載の方法。
〔69〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸位置20および23をさらに含む、前記〔67〕に記載の方法。
〔70〕立体配座エピトープを含むP-セレクチンタンパク質またはその断片が支持基体に結合している、前記〔64〕に記載の方法。
〔71〕無傷のPSGL-1タンパク質、そのPSGL-1断片またはPSGL-1ミメティックが支持基体に結合している、前記〔64〕に記載の方法。
〔72〕支持基体および、前記支持基体に結合する立体配座エピトープを含む試験基体であって、機能遮断抗P-セレクチン抗体が前記立体配座エピトープに結合することができ、前記立体配座エピトープが配列番号1のアミノ酸1〜35の範囲内にある、前記試験基体。
〔73〕立体配座エピトープが配列番号1のアミノ酸4〜23の範囲内にある、前記〔72〕に記載の試験基体。
〔74〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸位置4、14、17、21および22を含む、前記〔72〕に記載の試験基体。
〔75〕立体配座エピトープが、配列番号1のアミノ酸位置20および23をさらに含む、前記〔72〕に記載の試験基体。
〔76〕配列番号1のアミノ酸位置4、14、17、21および22におけるアミノ酸がそれぞれH、I、K、NおよびRである、前記〔72〕に記載の試験基体。
〔77〕立体配座エピトープが、支持基体に結合した無傷のP-セレクチンタンパク質の構成要素として提供される、前記〔72〕に記載の試験基体。
〔78〕立体配座エピトープが、支持基体に結合したP-セレクチンタンパク質の一部の構成要素として提供される、前記〔72〕に記載の試験基体。
【0085】
本明細書において、以下に実施例が提供される。しかしながら、本開示の発明の概念は、これらの特定の実験、結果および実験室手順に本願が限定されるものと解釈してはならない。むしろ、これらの実施例は、単に種々の実施形態として提供されるものであって、例示的であり、網羅的ではないことを意味する。
【実施例】
【0086】
本開示は、P-セレクチンに対する機能遮断試験抗体でプローブした、P-セレクチンのレクチン、EGF、CR1およびCR2ドメインを含むマウス/ヒトキメラを用いることによる新規非直鎖状(例えば立体配座)エピトープの発見を記載する。以前の研究によって、P-セレクチン構築物の適当なフォールディングおよび立体配座には、最低でもレクチンおよびEGFドメインの発現が必要であることが示された(91)。ヒトP-セレクチンとマウスP-セレクチンのアミノ酸配列の比較によって、レクチンドメインには相同性があるが、ヒトとマウスには、特定の数のアミノ酸残基が異なることが示された。本明細書において、ヒトP-セレクチンとマウスP-セレクチンとの間のアミノ酸の相違(配列およびナンバリングは成熟タンパク質のもの)を同定するために、三次元(3-D)相同性を用いて、ヒトとマウスのP-セレクチンのレクチン、EGF、CR1およびCR2ドメインを比較した(
図1)。
【0087】
本方法には、P-セレクチンの3-Dモデリングを用い、タンパク質の露出面でヒトP-セレクチンとマウスP-セレクチンとの間のアミノ酸位置の差を比較し、フォールドされたタンパク質の表面に位置するレクチンおよびEGFドメインにおけるヒトとマウスの間のアミノ酸クラスターの相違を同定した。この3-D方法は、タンパク質のフォールディングによって互いに近くにもたらされた不連続なアミノ酸の並置によって生じるアミノ酸クラスターの相違を表す。例えば、一部のアミノ酸は、らせん構造の同じ表面、例えば面上に位置することによって立体配座エピトープを形成する。このようなクラスターの相同性の比較によって、ヒトP-セレクチンに対する機能遮断(PSGL-1遮断)抗体の結合に関するこのような変化の効果を試験するためのアミノ酸置換の選択が可能となった。
【0088】
本方法はさらに、レクチン、EGF、CR1およびCR2ドメインにわたるキメラタンパク質の構築の戦略を同定し、ヒトまたはマウスのP-セレクチンの特定部位における1つまたは複数のアミノ酸を置換し、ヒトP-セレクチンへの抗体結合を最適化するアミノ酸を同定することを可能にするcDNAのオープンリーディングフレームにおける保存された制限部位のマッピングを含んだ。ATGからCR2ドメインにわたるヒトおよびマウスのP-セレクチンN末端領域を用い、適切なベクター、例えばpBluescript(pBS-hPselおよびpBS-mPsel)を用いて、公知の分子クローニング技術によりキメラを構築した。このキメラを他の適切なベクター、例えばpIG1(pIG-hPselおよびpIG-mPsel)に挿入し、ここでこの構築物を、ヒンジ、CH2およびCH3領域を含むヒトIgG1のFc領域に融合させた。これらの構築物は、P-セレクチンの天然立体配座に一致する構造を保っていた。従って、天然タンパク質の表面に露出されたドメインもまたキメラ構築物に存在し、それによって試験抗体の結合のための推定上のエピトープとして役立った。このような構築物は、当業者に公知の分子および細胞発現技術を用いてトランスフェクトされ一過性に発現されることができた。
【0089】
この方法を用い、例えば、限定するものではないが、当業者に公知の蛍光表示式細胞選別(FACS)および表面プラズモン共鳴(BIACORE)法を用い、ヒト/マウスキメラに結合する試験抗体を評価することができる。キメラ構築物における種々の位置におけるアミノ酸の変化の、例えばヒトP-セレクチンに関する抗体の結合を阻害または可能にする効果を、マウスアミノ酸を例えばヒト配列に置換するか、あるいは逆にマウス配列にヒトアミノ酸を置換することによって評価し、それによって最適の結合のための特定のアミノ酸の同定が可能になった。
【0090】
キメラ構築物の特徴付け
ヒトP-セレクチン配列に置換したマウスP-セレクチンのアミノ酸は、下記のキメラにおいてボールド体で示される。マウス配列に置換したヒトP-セレクチンのアミノ酸は、イタリックボールド体で示される。グルタミンのヒスチジンへの置換は、下線のボールド体で示される。
【0091】
天然タンパク質構築物
配列番号1
ヒトP-セレクチン レクチン、EGF、CR1、CR2ドメイン
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号2
マウスP-セレクチン レクチン、EGF、CR1、CR2ドメイン-ヒトとは異なるアミノ酸はボールド体
42 WTYNYSTKAYSWNNSRVFCRRHFTDLVAIQNKNEIAHLNDVIPFFNSYYWIGIRKINNKW
102 TWVGTNKTLTEEAENWADNEPNNKKNNQDCVEIYIKSNSAPGKWNDEPCFKRKRALCYTA
162 SCQDMSCSNQGECIETIGSYTCSCYPGFYGPECEYVKECGKVNIPQHVLMNCSHPLGEFS
222 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
282 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
ヒト/マウスキメラ構築物
配列番号3
キメラ-1
(ヒトクラスターAにおけるマウス置換-N
4N
14V
17F
18R
20R
21H
22F
23)
1 WTYNYSTKAYSWNNSRVFCRRHFTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号4
キメラ-2
(I
35までヒトクラスターA-その後はマウス)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIAHLNDVIPFFNSYYWIGIRKINNKW
61 TWVGTNKTLTEEAENWADNEPNNKKNNQDCVEIYIKSNSAPGKWNDEPCFKRKRALCYTA
121 SCQDMSCSNQGECIETIGSYTCSCYPGFYGPECEYVKECGKVNIPQHVLMNCSHPLGEFS
181 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
241 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号5
キメラ-3
(ヒトクラスターAにおける置換-マウスN
4N
14V
17F
18への)
1 WTYNYSTKAYSWNNSRVFCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号6
キメラ-4
(ヒトクラスターAにおける置換-マウスR
20R
21H
22F
23への)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCRRHFTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号7
キメラ-5
(単一アミノ酸変化-ヒトH
4からマウスN
4への)
1 WTYNYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号8
キメラ-5Q
(クラスターAにおけるQのH
4への置換-推定上のグリコシル化部位の除去)
1 WTYQYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号9
キメラ-6
(EGF-S
121までヒト配列-マウスEGF、CR1およびCR2)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSNQGECIETIGSYTCSCYPGFYGPECEYVKECGKVNIPQHVLMNCSHPLGEFS
181 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
241 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号10
キメラ-7
(G
177までヒト配列-その後はマウス)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGEFS
181 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
241 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号11
キメラ-7B
(EGF-V
156の末端までヒト配列-その後はマウス)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVKECGKVNIPQHVLMNCSHPLGEFS
181 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
241 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号12
キメラ-8
(単一アミノ酸変化-ヒトI
14からマウスN
14への)
1 WTYNYSTKAYSWNNSRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号13
キメラ-9
(単一アミノ酸変化-ヒトK
17からマウスV
17への)
1 WTYHYSTKAYSWNISRVYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号14
キメラ-10
(単一アミノ酸変化-ヒトY
18からマウスF
18への)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKFCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号15
キメラ-11
(単一アミノ酸変化-ヒトQ
20からマウスR
20への)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCRNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号16
キメラ-12
(単一アミノ酸変化-ヒトN
21からマウスR
21への)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQRRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号17
キメラ-13
(単一アミノ酸変化-ヒトR
22からマウスH
22への)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNHYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号18
キメラ-14
(単一アミノ酸変化-ヒトY
23からマウスF
23への)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRFTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
241 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号19
キメラ-15
(クラスターC2-S
97までヒト配列-その後はマウス)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
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181 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
241 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号20
キメラ-16
(マウスクラスターAへのヒトH
4I
14K
17N
21R
22の置換)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKFCRNRFTDLVAIQNKNEIAHLNDVIPFFNSYYWIGIRKINNKW
61 TWVGTNKTLTEEAENWADNEPNNKKNNQDCVEIYIKSNSAPGKWNDEPCFKRKRALCYTA
121 SCQDMSCSNQGECIETIGSYTCSCYPGFYGPECEYVKECGKVNIPQHVLMNCSHPLGEFS
181 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
242 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号21
キメラ-17
(クラスターBのI
35までヒト配列-I
42までマウスクラスターB-CR1のE
154までヒト-マウスCR1、CR2)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIAHLNDVIPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVKECGKVNIPQHVLMNCSHPLGEFS
181 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
242 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号22
キメラ-17B
(クラスターBのI
35までヒト配列-I
42までマウスクラスターB-その後はヒト)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIAHLNDVIPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
242 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号23
キメラ-18
(マウスクラスターC(C1、C2、C3)およびマウスCR1、CR2を有するヒト配列)
1WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPFFNSYYWIGIRKNNKTW
61TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSNSAPGKWNDEHCLKKKRALCYTA
121SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVKECGKVNIPQHVLMNCSHPLGEFS
181FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
242FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号24
キメラ-18B
(マウスクラスターC(C1、C2、C3)を有するヒト配列)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPFFNSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSNSAPGKWNDEHCLKKKRALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
242 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号25
キメラ-19
(マウスクラスターDおよびマウスCR1、CR2を有するヒト配列)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKINNKW
61 TWVGTNKTLTEEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
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181 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
242 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号26
キメラ-19B
(マウスクラスターDを有するヒト配列)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKINNKW
61 TWVGTNKTLTEEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
242 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号27
キメラ-20
(マウスクラスターEおよびマウスCR1、CR2を有するヒト配列)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEPCFKRKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVKECGKVNIPQHVLMNCSHPLGEFS
181 FNSQCTFSCAEGYELDGPGELQCLASGIWTNNPPKCDAVQCQSLEAPPHGTMACMHPIAA
242 FAYDSSCKFECQPGYRARGSNTLHCTGSGQWSEPLPTCEAIA
配列番号28
キメラ-20B
(マウスクラスターEを有するヒト配列)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEPCFKRKHALCYTA
121 SCQDMSCSKQGECLETIGNYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
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242 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
配列番号29
キメラ-21
(マウスクラスターFを有するヒト配列)
1 WTYHYSTKAYSWNISRKYCQNRYTDLVAIQNKNEIDYLNKVLPYYSSYYWIGIRKNNKTW
61 TWVGTKKALTNEAENWADNEPNNKRNNEDCVEIYIKSPSAPGKWNDEHCLKKKHALCYTA
121 SCQDMSCSNQGECIETIGSYTCSCYPGFYGPECEYVRECGELELPQHVLMNCSHPLGNFS
181 FNSQCSFHCTDGYQVNGPSKLECLASGIWTNKPPQCLAAQCPPLKIPERGNMTCLHSAKA
242 FQHQSSCSFSCEEGFALVGPEVVQCTASGVWTAPAPVCK---
【0092】
ヒト/マウスキメラに対する抗P-セレクチン抗体のFACS分析
ヤギ抗ヒトFc抗体でコーティングされたビーズに結合されたヒト/マウスキメラに対する抗P-セレクチン抗体の結合を測定するために、例えばBD BIOSCIENCES FACS ARIAセルソーターシステムでのFACS分析を用いて、P-セレクチンのヒト/マウスキメラに対する抗体結合を分析した。キメラでコーティングされたこのようなビーズを試験抗P-セレクチン抗体と共にインキュベートし、次いでそれを、FACSシステムによる検出に適したレポーター、例えばFITCで標識された、抗マウスFcまたはアイソタイプ特異的抗体で検出した。
【0093】
1段階表面プラズモン共鳴(BIACORE)
本開示の発明の概念の一側面において、試験抗P-セレクチン抗体を捕捉するためにBIACOREチップを用いた。本明細書に記載のヒト-マウスP-セレクチンキメラを該チップ上に配置し、予め結合させたこのチップに試験抗体を添加した。共鳴応答単位(resonance response unit)によって、試験抗体に対するキメラの結合を測定した。
【0094】
2段階表面プラズモン共鳴(BIACORE)分析
本開示の発明の概念の他の側面において、その表面に共有結合させたヤギ抗ヒトIgG Fcポリクローナル抗体を有する捕捉チップ、例えばBIACOREチップが提供された。ヒトIgG Fc上のレクチン、EGF、CR1およびCR2ドメインのP-セレクチンキメラヒト/マウス構築物を該チップ上に注入し、共鳴応答によって測定される表面コーティングの標準的レベルを達成する濃度で捕捉させた。各P-セレクチンキメラ構築物のローディング後に達成される共鳴応答レベルを新規“二次ベースライン”レベルと呼んだ。次いで、試験抗P-セレクチン抗体(例えば、G1、G3、G4、G5およびhSel001を含むマウスまたはヒト化モノクローナル抗P-セレクチン抗体)をBIACOREチップ上に注入し、表面上にすでに補足させたP-セレクチンキメラ構築物に結合させるためにインキュベートした。この方法は、マウスIgG Fc上のP-セレクチン構築物を作成し、ヤギ抗マウスIgG Fcポリクローナル抗体で補足し、次いで試験ヒト化抗P-セレクチン抗体でプローブすることによって、ヒト化抗体を試験するために改変することができる。P-セレクチン構築物に結合する抗体は、二次ベースラインからの共鳴応答レベルの増加を引き起こす。得られた共鳴応答の増加は、“追加共鳴単位(resonance unit)(RU)”として測定することができ、従って、試験抗体の捕捉チップ上にプレコーティングしたP-セレクチン構築物への結合レベルを示す。これらの方法を用い、P-セレクチンキメラに対する抗P-セレクチン抗体の特定の立体配座エピトープへの結合のための最適の必要条件が精密にマッピングされた。
【0095】
二重機能抗P-セレクチン抗体(P-セレクチンのPSGL-1への結合を遮断し、かつ解離させる抗体)の同定
特異的抗P-セレクチン抗体の二重機能性(すなわち、上記のように、これらはP-セレクチンとPSGL-1との間の結合相互作用を遮断し、かつ解離させる(解消させる)ことができる)を発見するために、BIACORE分析もまた用いた。この方法において、PSGL-1またはPSGL-1の結合エピトープの小分子ミメティック、例えばビオチン化グリコスルホペプチドミメティック(例えば、GSP-6)またはPSGL-1のN末端を含むキメラタンパク質が、当業者に公知の方法を用いてBIACOREチップ、例えばストレプトアビジンチップ上に捕捉される(GSP-6は、例えば米国特許第6,593,459号に詳細に記載されている、PSGL-1の露出されたN末端のアミノ酸42〜60のグリコシル化され硫酸化された18アミノ酸からなるペプチドミメティックである)。最初に、一実施形態において、“機能遮断”能力を明らかにするために、抗P-セレクチン抗体は可溶性P-セレクチンとプレミックスされ、P-セレクチン/抗体複合体の形成を可能にする期間インキュベートされる。得られた抗P-セレクチン抗体/P-セレクチン複合体は、PSGL-1(またはPSGL-1ミメティック)を含むチップまたは他の基体上に導入され、PSGL-1またはそのミメティックへの結合が測定される。該チップ上でPSGL-1またはPSGL-1ミメティックへのP-セレクチンの結合を阻止する抗P-セレクチン抗体は、本明細書において、機能遮断抗体と呼ばれる。
【0096】
次に、機能遮断抗体(すなわち、P-セレクチンへのPSGL-1の結合を遮断する抗体)であることが示された(上記の方法または他の類似の方法によって)抗P-セレクチン抗体は、追加の機能、すなわち、既に形成されたP-セレクチンPSGL-1複合体間の結合を解離させる(解消させる)能力を有する機能に関して試験することができる。このような抗体は、本明細書に記載のBIACORE分析の方法を用いて“二重機能”特性に関して試験することができる。一実施形態において、この二重機能特性を明らかにするために、PSGL-1またはそのミメティック、例えばGSP-6がBIACOREチップに結合される。次いで、P-セレクチンがチップ上に配置され、PSGL-1またはそのミメティックへの結合が可能にされる。平衡後、PSGL-1またはそのミメティックへのP-セレクチンの結合がセンサグラムで示され、機能遮断抗P-セレクチン抗体が導入され、P-セレクチンのPSGL-1またはそのミメティックへの結合の解離が任意の適切な方法によって測定される。P-セレクチン/PSGL-1結合を解離させる(すなわち解消させる)ことが示されるこのような抗体は、“解離抗体(dissociating antibody)”と呼ばれ、二重機能抗体として特徴付けられる(すなわち、それらは、P-セレクチンのPSGL-1への結合の破壊において、機能遮断と解離特性の両方を有する)。このような二重機能抗体は、本発明の特に好ましい実施形態である。なぜなら、それらは、例えば本明細書において他に記載したように、急性および慢性の炎症性および血栓性疾患の治療剤として、治療用途に特に適しているからである。
【0097】
立体配座エピトープの発見
成熟ヒトおよびマウスP-セレクチンタンパク質の三次元(3-D)構造を分析し、レクチンおよびEGFドメインにおけるアミノ酸の相違に関して比較した。タンパク質の露出面で、立体配座アミノ酸の相違に関する6つのクラスターを同定した。これらは、クラスターA、B、C、D、EおよびFと呼ばれた(
図1)。残基1〜35にわたるヒトとマウスのP-セレクチンのN-末端は8つのアミノ酸の相違を含む。クラスターAは、最初のアミノ酸の相違(H
4)および最後のアミノ酸の相違(Y
23)の境界によって任意に定義された。クラスターAは20のアミノ酸を含み、該タンパク質のN末端付近のシステイン結合で堅いαへリックスを形成する(
図5における領域“1”参照)。クラスターB(
図1)はアミノ酸残基36〜42にわたる立体配座エピトープであり、ヒトとマウスのP-セレクチンの間に4つのアミノ酸の相違を含む。本明細書においては、用語“立体配座エピトープ”は、還元条件下では認識されないエピトープを指すものとする。クラスターCおよびE(
図1)は立体配座であり、かつ不連続であり、天然P-セレクチンタンパク質のフォールディングによって近接させられている。クラスターCは、ヒトとマウスのP-セレクチンの間に5つのアミノ酸の相違を含む3つの配座領域(C1、C2、C3)を有する。クラスターC1は、51のアミノ酸によってC2と隔てられており、クラスターC2は15のアミノ酸によってC3と隔てられている。同様に、クラスターEは、ヒトとマウスのP-セレクチンの間に5つのアミノ酸の相違を含む2つの立体配座エピトープ(E1、E2)を有し、クラスターE1はE2と19のアミノ酸によって隔てられている。クラスターA、B、C、DおよびEは、P-セレクチンのコンセンサスレクチンドメイン内に存在する(
図1)。クラスターFはEGFドメイン内に存在し、11のアミノ酸の内、3つのアミノ酸の相違を有する。クラスターC1、E1、C2、E2およびC3は、P-セレクチンとその生理学的リガンドPSGL-1との相互作用に関して以前同定された重要な接触残基を含む(Somers et al)。クラスターAおよびBは、これらの接触残基の遠位(上流)にある。
【0098】
これらのクラスターにわたるキメラを作成するために用いることができる共通の制限部位を同定するために、ヒトとマウスのP-セレクチンに関するcDNAのオープンリーディングフレームを分析した。PCRおよび化学的DNA合成を用いて、特異的タンパク質またはキメラ構築物をコードするcDNA、例えば配列番号1〜29(前述および配列表における)を作成した。制限クローニングを用いて、ヒト/マウスキメラをコードするプラスミドを構築した。該キメラはCOS-7細胞内で一過性に発現され、FACSおよびBIACORE分析に用いられた。P-セレクチンキメラは、BIACOREチップに結合されたGSP-6へのそれらの結合を分析するBIACOREを用いて、結合機能に関して試験された。上で述べたように、GSP-6はヒトPSGL-1のN末端をまねた小分子である。すべての試験キメラは、様々な程度であるが、チップ上のGSP-6に結合した。なぜなら、マウスP-セレクチンは、ヒトP-セレクチンよりもヒトPSGL-1への結合親和性が低いからである。これによって、キメラは、発現および精製後に機能を維持していることが示された。
【0099】
FACS分析
配列番号1〜29に対応する構築物またはキメラを用いた抗P-セレクチン抗体のFACS分析の結果を表1にまとめる。レクチンおよびEGFドメインを含むヒト組換えP-セレクチンを用いるマウスの免疫処置によって作成されたハイブリドーマから4つの抗P-セレクチン試験抗体(G1、G3、G4およびG5)が単離された(90および未公表データ)。これらの研究によって、これらの抗体はヒトP-セレクチンに特異的であり、G1、G3およびG4は機能遮断抗体であるが、G5は非遮断であることが示されている(90および未公表データ)。G1、G3およびG5をFACS分析によって分析した。この方法を用いたとき、G1、G3およびG5はすべてヒトP-セレクチン(配列番号1)に結合したが、マウスP-セレクチン(配列番号2)には結合しなかった。ヒト配列のクラスターAにおいて、対応する8つのマウスアミノ酸を置換した場合(キメラ1、配列番号3)、G1による結合は破壊されたが、G3またはG5による結合は破壊されなかった。このことは、クラスターAにおける対応する8つのアミノ酸位置の少なくとも1以上が、G1のP-セレクチンへの結合に必須であり、これらの1以上の位置での“マウス”アミノ酸による置換により結合が破壊されたことを示した。これらの残基の重要性を確認するために、位置1〜23における8つの異なるヒトアミノ酸をマウス配列のクラスターAにおいて置換した(配列番号4、キメラ-2)。これらの置換によって、G1にマウスタンパク質への結合が付与された。EGF、CR1およびCR2ドメインにマウスアミノ酸置換を有するヒトP-セレクチンレクチンドメインを含むキメラ(配列番号9、キメラ-6)ならびに、EGFドメインを通じ、かつCR1ドメインにヒト配列を含み、CR1ドメインの残りおよび全CR2ドメインにマウス配列を含むキメラ(配列番号10、キメラ-7)はG1およびG3によって結合されたが、これは、これらのマウスアミノ酸の置換後に主要な結合エピトープが無傷で残っており、抗体結合エピトープの立体配座が悪影響を受けていないことを示している。これらのデータにより、G1およびG3に対する結合エピトープがレクチンドメインに存在することが確定された。
【0100】
FACS法を用いることによって、試験抗体G3はヒトP-セレクチンに結合するが、マウスP-セレクチンには結合せず、G1とは対照的に配列番号3(キメラ-1)に結合することが示されたが、このことは、G3は、G1によって結合されるエピトープとは異なるエピトープに結合することを示している。G3エピトープマッピングの詳細に関して、下記の表1にその概略を述べる。
前もって非遮断であることが示されている試験抗体G5もまたこの方法を用いて分析した。G5もまたヒトP-セレクチンに結合するが、マウスP-セレクチンには結合しないことが示されている。G5は、配列番号3および、EGFドメインにまたがり、N
178までのCR1の最初の部分を含む配列番号10に結合したが、G5は、S
128までまたがる配列番号9には結合しなかった。抗体G5は、CR1の最初の部分に結合し、少なくともアミノ酸R
128からN
178までを必要とすることをこれらの結果は示している。
【表1】
【0101】
1段階表面プラズモン共鳴(BIACORE)
G1抗体のP-セレクチンへの結合に対するクラスターAドメイン(アミノ酸4〜23)の重要性をさらに研究するために、1つまたは複数のマウスアミノ酸がヒトP-セレクチン配列に挿入されたいくつかのキメラ構築物を作成し、本明細書に開示された表面プラズモン共鳴(“1段階”BIACORE)法を用いて結合を分析した。1段階BIACORE結合結果を表1に示す。G1試験抗体はBIACOREチップに捕捉され、種々のキメラの結合が応答単位で測定された。ヒトP-セレクチン(配列番号1)、ヒトクラスターAを有するマウスP-セレクチン(配列番号4)およびマウスP-セレクチン(配列番号2)の構築物へのG1の結合を示す代表的センサグラムを
図2に示す。この方法を用いたとき、G1はヒトP-セレクチンおよび配列番号4(マウスP-セレクチンのクラスターAにおいてヒトアミノ酸が置換されている)に結合するが、マウスP-セレクチン(配列番号2)には結合しないことが示された。これらの結果により、この方法がFACS結果と一致することが明らかとなった。
【0102】
マウスP-セレクチン(配列番号2)は、位置4に推定上のグリコシル化部位(N)を有するが、ヒトP-セレクチン(配列番号1)は有さない。この相違の重要性を試験するために、ヒトP-セレクチン配列番号1の位置4をN(配列番号7を形成する)またはQ(配列番号8を形成する)で置換し、これらの置換のG1抗体結合に対する効果を測定した。ヒトP-セレクチンの位置4にアスパラギン(N)を挿入することによって、G1結合が減少した。このことは、ヒトP-セレクチンにおけるこの部位のグリコシル化が抗体結合に干渉することを示唆している。この位置におけるグルタミン(Q)の置換は、G1結合を阻害しなかった。
【0103】
G1抗体結合に最適または必須であるクラスターAにおけるアミノ位置をさらに同定するために、ヒトP-セレクチン(配列番号1)へのマウス配列アミノ酸の単一アミノ酸置換を行い、本明細書に開示された1段階BIACORE法を用いて、得られたキメラのG1への結合を測定した(表1)。試験されたキメラ(括弧内に特定の置換を示す)は、配列番号7(H
4N);配列番号12(I
14N);配列番号13(K
17V);配列番号14(Y
18F);配列番号15(Q
20R);配列番号16(N
21R);配列番号17(R
22H);および配列番号18(Y
23F)であった。G1抗体は配列番号14、15および18に結合したが、配列番号12、13および17には結合せず、配列番号7および配列番号16にはかろうじて弱く結合した。アミノ酸位置4、14、17、21および22は、それぞれ個々にG1結合に必要な位置であることをこの結果は示した。好ましい実施形態において、これらのアミノ酸は、それぞれH
4、I
14、K
17、N
21およびR
22である。
G1のヒト化型(hSel001)が親抗体の同一のエピトープ特異性を維持したことを確認するために、hSel001の配列番号1、2および20への結合をこの方法を用いて試験した。hSel001の結合パターンはG1の結合パターンと同一であった。これにより、ヒト化プロセスの間、エピトープ特異性が維持されていることが確認された。
【0104】
2段階表面プラズモン共鳴(BIACORE)
追加のキメラへのG1、G3、G4およびG5(G5は非遮断性)の結合を評価するために、本明細書に記載の2段階表面プラズモン共鳴(“2段階”BIACORE)アッセイを用いた。試験抗体に関する“2段階”アッセイの結果を表1および
図2に示す。この方法を用いたとき、研究された試験抗体のいずれもがマウスP-セレクチンに結合せず、すべてがヒトP-セレクチンに結合した。このことより、それらのヒトP-セレクチンへの特異性が明らかにされた。G1、G3、G4およびG5試験抗体はすべて配列番号10に結合した。このことは、それらすべてが、ヒトP-セレクチンのN末端からレクチンおよびEGFドメインにわたる領域に結合することを示唆している。G5非遮断抗体は、配列番号9に結合せず、配列番号10に結合したが、このことより、G5がCR1ドメインに結合することが確認された。
【0105】
この方法を用いるさらなる分析により、G3は、クラスターC1、C2、C3、CR1およびCR2に挿入されるマウスアミノ酸を有する配列番号23に結合せず、C1、C2およびC3にマウスアミノ酸を有する配列番号24にも結合しないことが示された。G3はまた、配列番号19および配列番号20である、クラスターCにマウス配列を有する他のキメラにも結合しなかった。G3遮断抗体は、結合のためにクラスターCを必要とし、タンパク質フォールディングによって近くにもたらされたアミノ酸の立体配座クラスターは、抗P-セレクチン抗体の結合ドメイン(立体配座エピトープ)として役立ちうるという新規発見を明らかにしていることをこれらの結果は示している。G3はPSGL-1とP-セレクチンとの結合を遮断することができ、従って機能遮断特性も有することがこの方法により確定された(
図3)。しかしながら、この方法はまた、G3はP-セレクチン/PSGL-1複合体の結合に結合するかまたはそれを解離させる(解消させる)ことはなく(
図4)、従って本開示の発明の概念の好ましい抗体の二重機能特性を有さないこともまた示された。
【0106】
G1およびG4のP-セレクチンへの結合に寄与するアミノ酸位置は、クラスターAにおけるヒト/マウスハイブリッドを作成することによって同定された。ハイブリッドクラスターAキメラ(配列番号20)は、位置4、14、17、21および22(それぞれH、I、K、NおよびR)におけるヒトP-セレクチンアミノ酸ならびに、位置18、20および23(それぞれY、QおよびY)におけるマウスP-セレクチンアミノ酸を含む。表1で示されるように、G1およびG4は共に配列番号20に結合した。以前のデータを考慮すれば、アミノ酸位置4、14、17、21および22は、G1、G4およびG1のヒト化型(hSel001)のP-セレクチンの最適の結合にそれぞれ必要な位置を含むことをこの結果は示している。G1、G4およびhSel001を含む一群の抗体は、同じか同様なエピトープに結合し、このエピトープが、以前P-セレクチンに関して同定されたレクチン-リガンド結合ドメイン接触残基(71)に対して遠位のクラスターAのらせん構造体中に見出されるという新規発見をこれらの結果は含む。好ましい実施形態において、位置4、14、17、21および22におけるアミノ酸は、それぞれH、I、K、NおよびRである。このエピトープの3-D分析により、該へリックスの同じ面上の部位を占めるのに必要なアミノ酸を有する堅いへリックス構造が明らかにされた。従って、クラスターAは立体配座エピトープを含むように表される(
図5)。
図3および4に示すBIACORE分析により、G1、G4およびhSel001はP-セレクチンとPSGL-1との結合を遮断することも解離させることもでき、従って、この群の抗体による本明細書に記載のエピトープの結合は、本開示の発明の概念の好ましい実施形態の二重機能特性を有することが確定された。
【0107】
ヒトP-セレクチンにおけるレクチン-リガンド結合ドメインに対して遠位にある配列番号1のアミノ酸1〜35の範囲内に位置する立体配座エピトープ、より具体的には、アミノ酸4〜23の範囲内に位置する立体配座エピトープが固有の二重機能特性を有するということをこれらの結果は示している。理論に拘束されるわけではないが、このエピトープに結合する抗体は、P-セレクチンのPSGL-1への結合を解離させる立体配座変化を誘導するレクチン-リガンド結合界面上に発揮するアロステリック力に寄与することによって作用すると考えられる。従って、G1は、クラスターAにおいて遠位エピトープに結合し、P-セレクチン上のレクチン-リガンド結合部位で分子相互作用を結合し破壊させることによって複合体を遮断し解離させることができる。対照的に、P-セレクチンのレクチン-リガンド結合ドメインにおけるエピトープに結合するG3などの抗体は、アロステリック障害によってPSGL-1へのP-セレクチンの結合を遮断することができるが、P-セレクチン/PSGL-1複合体の解離を引き起こすことができない。なぜなら、この抗体は、リガンドでふさがれたとき、クラスターCの立体配座エピトープに結合することができないからである。試験抗体G5はP-セレクチンCR1のクラスターに結合し、非遮断抗体であることが示された(
図3)。
【0108】
要約すれば、P-セレクチンに結合する抗体は、P-セレクチンとそのそのリガンドであるPSGL-1との相互作用に関して、3つの可能な活性を有することが特徴付けられた。
第1に、P-セレクチン抗体は、P-セレクチンに結合することができるが、P-セレクチンへのPSGL-1の結合には干渉しない(“非遮断”)。例えば、本明細書に記載されているように、抗体G5はアミノ酸157〜164に結合し、結合にはCR1のR
157、E
161、L
162、E
163およびL
164を必要とするが、この結合はP-セレクチンのPSGL-1への結合を遮断しない。
第2に、P-セレクチン抗体は、P-セレクチンに結合し、P-セレクチンへのPSGL-1の結合に干渉することができるが(“機能遮断”)、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体に結合するかまたはそれを解離させない。例えば、本明細書に記載の結果は、抗体G3が、レクチン-リガンド結合ドメインにわたるP-セレクチンの異なる部分における立体配座クラスターに結合することを示す。G3はクラスターCに結合し、C1アミノ酸Y
44、Y
45、S
46およびC2アミノ酸P
98およびC3アミノ酸H
114を必要とし、従って立体配座エピトープを必要とする。この抗体は、P-セレクチンとPSGL-1との間の相互作用を遮断するが、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体に結合するかまたはそれを解離させることができない。
第3に、P-セレクチンに結合することができる特別な特異性を有し、P-セレクチンへのPSGL-1の結合を遮断するばかりでなく(機能遮断抗体)、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1結合の解消(解離結合)も引き起こすことができるP-セレクチン抗体を我々は見出した。このような抗体は、本明細書において、“二重機能”抗体と呼ばれる。本明細書に開示された結果は、例えば、G1がクラスターAにおける立体配座エピトープに結合し、この結合が、アミノ酸位置4、14、17、21および22を含み、好ましくは、これらのアミノ酸がそれぞれH、I、K、NおよびRである、立体配座エピトープに関する絶対的な必要条件を有していたことを明らかにしている。本明細書の他の部分で先述のように、これらの位置のいずれか1つにおける“ヒト”アミノ酸(H、I、K、NおよびR)の、それぞれ、対応する“マウス”アミノ酸(N、N、V、RおよびH)での置換は、本明細書に記載の二重機能抗体による結合の解消をもたらすであろう。
【0109】
本開示の発明の概念の他の実施形態において、標準的なハイブリドーマ法を用いて作成された、G4と呼ばれる前もって特徴付けられていなかったマウスモノクローナル抗P-セレクチン抗体クローンを、クラスターAの立体配座エピトープへの結合に関して試験し、本明細書に記載の方法を用いて二重機能能力に関して試験した。ヒト/マウスキメラ配列番号1〜4、7〜10、19および20への結合に関してG4を試験した。G4は配列番号20に結合することが示され、G1に関する記載と同様な結合特異性を有していた(表1参照)。G4は、PSGL-1へのP-セレクチンの結合を遮断することが示され(
図3)、同様に、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離も引き起こすことが示された(
図4)。従って、G4は、P-セレクチンのレクチン-リガンド結合ドメインに対して遠位にあるエピトープ(クラスターAにおける)に結合し、PSGL-1へのP-セレクチンの結合を遮断し解離させる二重機能P-セレクチン抗体として特徴付けられる。従って、G1およびG4抗体は共に、クラスターAにおけるエピトープに結合し、共に二重機能特性が明らかにされた。この結果はまた、二重機能能力に関する抗P-セレクチン抗体のスクリーニングに用いることができるエピトープとして、クラスターAまたはその特異的結合位置もしくはアミノ酸の使用もまた明らかにしている。このような二重機能抗体は、P-セレクチン媒介接着の開始および/または急性または慢性の環境における進行中のP-セレクチン媒介接着を治療することができる、治療用途のための唯一の特性を有する。本明細書に記載の方法を用いれば、クラスターAエピトープまたはその特定の位置もしくはアミノ酸を用いるスクリーニング法を用いて、二重機能特性を有する他の抗体を同定することができる。
【0110】
hSel001と呼ばれる、エフェクター機能を欠くヒト化IgG2抗P-セレクチン抗体(前もって特徴付けられたヒトフレームワーク領域に移植したマウス抗体G1のCDRを含むヒト化P-セレクチン結合性抗体(国際特許公開第WO2008/069999号))もまた、本明細書に記載のスクリーニング法を用いてスクリーニングした。データの概要(表1)は、hSel001抗体が、抗体G1と同じ同じキメラ(配列番号1および20)に結合したことを示している。hSel001結合は、クラスターAの範囲内にある本明細書に記載の立体配座エピトープに特異的であった。抗体hSel001は、PSGL-1へのP-セレクチンの結合をそれが遮断し(
図3)、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体を解離させる(
図4)ことを可能にする二重機能特性を有するという結果が示された。従って、hSel001は、本開示の発明の概念によって場合により含まれる他の抗体であり、本明細書に記載され、PSGL-1へのP-セレクチンの結合が遮断され、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離が促進される、炎症性および血栓性疾患のための治療処置と指定用いることができる。
【0111】
ヒト好中球のフロー(flow)下での細胞ベースのin vitroローリングアッセイ
抗体G1、G4およびhSel001の遮断および解離特性をさらに評価するために、低レベルおよび高レベルの膜P-セレクチンでコーティングされたフローチャンバ内で1.0dyn/cm
2のフロー下で導入された新鮮分離ヒト好中球を用いて細胞ベースのin vitroローリングアッセイを行った。低密度P-セレクチンは0.25μg/mlでコーティングされ、高密度P-セレクチンは2μg/mlでコーティングされた。I
125標識G1mAbを用いて、部位密度を50部位/mm
2(低)および380部位/mm
2(高)であると測定した。低密度P-セレクチン上では、好中球は、平均速度5μm/sまたは6.5μm/sのいずれかでローリングした。高密度P-セレクチン上では、好中球は平均速度1μm/sでローリングした。好中球は、緩衝液で、フロー下で導入し、ローリングおよびテターリングを開始させた。平衡化した後、試験抗体(G1、G3、G4およびhSel001)を無細胞緩衝液で、フロー下で導入した。抗体がチャンバに到達するまでに、約1分間の間隔のデッドボリュームが存在する。その後1分間隔で、結合したままの細胞を計数し、%結合細胞で表した。ビデオ顕微鏡検査でおおよそ0〜20分間結果を記録し、データをラン後に記録した。
【0112】
図6パネル(A)および(C)における結果により、好中球は、低密度P-セレクチン上でより高い速度でローリングしたことが示された。従って、P-セレクチン/PSGL-1複合体はレクチン/リガンド結合の通常のオン・オフキネティクスによって放出されるため、好中球は、次のP-セレクチン結合部位へより高い速度でより遠くの距離を移動した。複合体が放出されるに従って、以前占められていたP-セレクチンが抗P-セレクチン抗体による結合のために利用可能になる。従って、すべての4つの抗体、G1、G3、G4およびhSel001は、1〜4分間にわたって、等価な遮断機能を示した。
高密度P-セレクチン上の
図6パネル(B)および(D)における結果は、より多くの数のP-セレクチン結合部位が利用可能なため、好中球はかなり遅く(1μm/s)ローリングすることが示された。多くの好中球は、この密度で、P-セレクチン上でローリングを停止する。これらの条件下で、マウス抗体G1およびG4ならびにヒト化抗体hSel001は、直ちにそして1〜8分間、P-セレクチン/PSGL-1複合体の解離によって好中球をローリングおよびテターリングさせることができた。対照的に、G3抗P-セレクチン抗体は、好中球のローリングを遮断するのに16〜20分間を必要とした。このことにより、G3抗体は、占拠されていないP-セレクチン部位に結合し、従ってP-セレクチン/PSGL-1複合体を遮断することはできるが、あらかじめ形成された複合体に結合し、それを解離させることはできなかったことが示された。フロー下でのこれらの細胞-結合アッセイによって、マウス抗体G1およびG4ならびにヒト化抗体hSel001は、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の遮断および解離を引き起こす二重機能特性をすべてが有することを示す、本明細書において以前報告したBIACORE結果が確認される。
【0113】
hSel001は、マウス抗体G1に対して増強された結合を示す
G1およびhSel001のP-セレクチン結合親和性をin vitroで分析し、表面プラズモン共鳴(BIACORE)を用いて比較した。可溶性ヒトP-セレクチンをBIACORE CM5チップに共有結合させ、マウス抗体G1およびヒト化抗体hSel001をチップに導入することによって独立して試験した。
抗P-セレクチン抗体とP-セレクチン(抗原)との相互作用をさらに評価するために、表面プラズモン共鳴(SensiQ)を用いる速度論的解析を行った。マウスモノクローナル抗P-セレクチン抗体G1およびヒト化hSel001抗体を、SensiQでの表面プラズモン共鳴によって分析した。これらの2つの抗体の結合のキネティクスを分析するために、組換えタンパク質Gを共役結合させることによってセンサーチップを官能基化した。20nM溶液を1分間注入することによって、マウス抗体G1を導入し、チップ上に補足させた。10nM溶液を1分間注入することによって、同様に官能基化された別のチャンネル上へヒト化抗体hSel001を導入し捕捉させた。いくつかの濃度の可溶性ヒトP-セレクチン(100nM〜1.56nM)を導入し、結合を応答単位(RU)で測定した。それぞれの結合のデータをQdat分析ソフトウェアを用いて分析した。
図7は、単一のP1-セレクチン濃度での両方の抗体の結合結果を示す。
【0114】
これらの結果に基づいて、hSel001のK
d(解離定数)は5.89nMであると測定され、これに対してマウス抗体G1のK
dは8.94nMであると測定された(表2)。これは、マウスモノクローナル抗P-セレクチン抗体G1と比較して、ヒト化抗P-セレクチン抗体hSel001における結合親和性の34%の改善を意味する。さらに、hSel001のK
a(会合定数)は、G1よりも64.7%高く、これはhSel001がP-セレクチンにより速く結合することを意味する。これらの結果は、2つとも、ヒト化hSel001抗体が、G1と比較して改善されたK
d(親和性)およびK
a(最初の結合の速度)を有することを示す。
【表2】
【0115】
上記の方法のいずれかによって提供される本開示の発明の概念の抗体は、好ましくは、病的状態の治療処置に使用するための医薬組成物の製造に用いられる。このような治療は、炎症反応または血栓症または他の状態を緩和し、解消し、抑制するために医薬組成物を投与することを含む。
医薬組成物の製造のための前記抗体の抗体または機能的に活性な断片もしくはバリアントの使用ならびに、炎症反応または疾患または血栓症、例えば限定するものではないが本明細書に記載のものの予防および/または治療におけるその使用は、本開示の発明の概念の重要な目的である。
【0116】
例えば、本開示の発明の概念は、特に、限定するものではないが、血小板、鎌状赤血球、白血球、リンパ球および/または内皮細胞の接着が関与する、霊長類の動物(ヒトを含む)の炎症性、血栓性もしくは他の疾患または障害の治療における二重機能抗P-セレクチン抗体またはその抗体断片の使用であって、状態または障害が、限定するものではないが、鎌状細胞血管閉塞性クリーゼ、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸炎)、関節炎(例えば、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎)、移植片拒絶、移植片対宿主疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、乾癬、皮膚炎、敗血症、腎炎、エリテマトーデス、強皮症、鼻炎、アナフィラキシー、糖尿病、多発性硬化症、アテローム性動脈硬化症、血栓症、腫瘍転移、アレルギー反応、甲状腺炎、虚血性再潅流障害(例えば、心筋梗塞、発作もしくは臓器移植による)ならびに広範囲にわたる外傷もしくは慢性炎症と関連する状態、例えば、IV型遅延型過敏症、例えばツベルクル・バシリによる感染と関連したものまたは全身性炎症反応症候群、または多臓器不全の少なくとも1つと関連するかまたはそれを含む前記使用に関する。本明細書において、用語“霊長類”は、ヒト、ヒヒおよびカニクイザルを含むサルならびに類人猿のことを言い、後者は、例えば、チンパンジー、ゴリラ、テナガザルおよびオランウータンを含む。本明細書に記載されないが、炎症性もしくは血栓性の状態または開示に関連する他の病的状態もまた、本明細書に記載の抗体および組成物を用いて治療することができる。
【0117】
本開示の発明の概念に記載の医薬の医薬組成物において、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciencesの最新版または本明細書の他の部分での記載に従って、医薬組成物の製剤化の確立された方法のいずれかによって抗体を製剤化することができる。本組成物は、一般的には、局所もしくは全身注入または輸液に適した形態であることができ、そのようなものとして、滅菌水または等張生理食塩水またはグルコース溶液で製剤化されることができる。本組成物は、当該分野で公知の従来の滅菌技術によって滅菌されることができる。得られた水溶液は、使用のためにパッケージングされることもできるし、無菌条件下で濾過し、凍結乾燥することもでき、この凍結乾燥製剤は、投与前に滅菌水溶液と混合することができる。本組成物は、必要に応じて、生理的状態に近づけるために、例えば緩衝化剤、等張化剤など、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどの薬学的に許容される補助物質を含むことができる。タンパク質の濃度は多岐にわたることができ、例えば、質量で約.01%未満から15〜20%またはそれ以上であることができる。組成物の投薬単位は、例えば、抗体または抗体断片の約1μg〜約1000mgを含むことができる。
【0118】
本開示の発明の概念の抗体または抗体断片は、局所投与または注射によって投与されることができる。用量は、治療を受ける特定の状態または特定の個人に応じて医師によって処方される。用法・用量は、担当医師によって決められたパラメータに従って注意深く適合され、調整される。好ましい投与経路は、経口、吸入、皮下、静脈内、筋肉内、気管内、膀胱内または腹腔内注射であることができ、24〜48時間に一回、週一回、14日に一回、4週に一回、例えば体重(kg)当たり0.01〜1000mg、特に0.1mg〜100mg、特に1〜10mgの範囲で投与されることができる。この用量は、カテーテルを介して連続的に投与されることもできるし、個々のボーラスで投与されることもできる。本発明の抗体は、有効量で、例えば、限定するものではないが、1ng/kg〜1μg/kg、0.01μg/kg〜50μg/kg、0.1μg/kg〜1μg/kg、1μg/kg〜5μg/kg、5μg/kg〜10μg/kg、10μg/kg〜50μg/kg、50μg/kg〜100μg/kg、100mg/kg〜1mg/kg、1mg/kg〜10mg/kgまたは10mg/kg〜100mg/体重(kg)の範囲で投与されることができる。
【0119】
本明細書に記載の抗体を含む本開示の発明の概念に使用される医薬組成物は、さらに、治療を受ける特定の状態および特定の個人に従って、医師によってルーチンに処方される他の治療化合物、例えば抗炎症薬が追加されることができ、ここで前記薬物は、治療を受ける特定の状態および特定の個人に従って医師によって処方される。
本明細書の他の部分で述べた様に、P-セレクチン/PSGL-1結合の現象は、鎌状赤血球、内皮細胞白血球および血小板相互作用および/または微小小胞接着、白血球ローリング、動員、凝集;サイトカインの白血球分泌;凝固の促進;ならびに、限定するものではないが、鎌状細胞血管閉塞性クリーゼ、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸炎)、関節炎(例えば、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎)、移植片拒絶、移植片対宿主疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、乾癬、皮膚炎、敗血症、腎炎、エリテマトーデス、強皮症、鼻炎、アナフィラキシー、糖尿病、多発性硬化症、アテローム性動脈硬化症、血栓症、腫瘍転移、アレルギー反応、甲状腺炎、虚血性再潅流障害(例えば、心筋梗塞、発作もしくは臓器移植による)ならびに広範囲にわたる外傷もしくは慢性炎症と関連する状態、例えば、IV型遅延型過敏症、例えばツベルクル・バシリによる感染と関連したものまたは全身性炎症反応症候群、または多臓器不全を含む炎症、血栓症、凝固、免疫応答およびシグナル伝達の他の側面に機能的重要性を有する。本明細書に記載のP-セレクチンに対する中和抗体(またはその断片)は、例えばin vivoまたはin vitroで、P-セレクチン/PSGL-1受容体結合(または鎌状赤血球の場合は、P-セレクチン/PSGL-1様受容体結合)を介した、患者におけるこれらの活性の1以上を抑制すると考えられる。従って、本明細書に記載の中和抗体(またはその断片)によるP-セレクチン/PSGL-1結合の阻害は、本明細書に記載のものを含むが限定されない種々の状態および障害の患者の治療に有用である。
【0120】
本明細書に記載のP-セレクチン特異的抗体または結合断片は、他の分子に連結合させることができる。例えば、抗体は、他のペプチドもしくはタンパク質、毒素、放射性同位体、細胞毒性薬または細胞増殖抑制剤に連結させることができる。本抗体は、化学架橋または組換え法によって共有結合させることができる。本抗体はまた、米国特許第4,640,835号;第4,496,689号;第4,301,144号;第4,670,417号;第4,791,192号;または第4,179,337号に示された方法で、種々の非タンパク質性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレンの1つに結合されることもできる。本抗体は、例えばそれらの安定性または半減期を増すために、ポリマーへの共有結合によって化学修飾されることができる。例示的なポリマーおよびそれを結合させる方法は、米国特許第4,766,106号;第4,179,337号;第4,495,285号;および第4,609,546号にも示されている。
【0121】
本抗体(またはその断片)はまた、検出可能な標識でタグをつけることもできる。検出可能な標識は、その化学的性質によって、分子相互作用の検出を可能にする、分析的に識別できるシグナルを提供する分子である。抗体を含むタンパク質は、直接に(例えば、発色団、フルオロフォアまたは放射性同位体によって)または間接的に(例えば、有色、発光または蛍光物質を産生する反応を触媒する手段によって)検出することができる分子に共有結合または非共有結合している場合、検出可能な標識を有する。検出可能な標識は、例えば、従来の化学を用いて抗体に結合されることもできる放射性標識、例えば131Iもしくは99Tc、重金属または蛍光性基質、例えばユーロピウムを含む。検出可能な標識はまた、酵素標識、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼを含む。検出可能な標識はさらに、特定のコグネイト検出可能部分、例えば標識アビジンへの結合によって検出されることができる化学的部分、例えばビオチンを含む。
【0122】
本開示の発明の概念は、P-セレクチン/PSGL-1結合の遮断および/または既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離を引き起こす抗P-セレクチン抗体およびその結合断片のスクリーニング方法にも関する。
上で述べたように、本開示の発明の概念は、P-セレクチンに対する抗体、このような抗P-セレクチン抗体を産生する宿主細胞、このような抗P-セレクチン抗体発現コードするDNAを含むベクターならびに、P-セレクチン/PSGL-1結合を遮断し、他の実施形態において既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離も引き起こす“二重機能”を有する抗P-セレクチン抗体を同定するためのスクリーニング方法に関する。従って、一実施形態において、本開示の発明の概念は、ヒトP-セレクチン(配列番号1)のアミノ酸1〜35、より好ましくはアミノ酸4〜23における立体配座エピトープ(例えば本明細書に記載の立体配座エピトープ)に特異的に結合し、P-セレクチンへの結合からPSGL-1またはそのミメティックを遮断し、それへのこのような結合を解消させることができ、それによってP-セレクチン/PSGL-1結合によるセレクチン媒介接着を遮断し、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離を引き起こす二重機能を示す抗P-セレクチン抗体を同定する方法に関する。
【0123】
好ましい実施形態において、本スクリーニング方法は、P-セレクチン/PSGL-1結合を抑制または破壊し、好ましくは既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離も引き起こす抗P-セレクチン抗体またはその断片を同定するために用いることができる、in vitroでの流体ベースおよび/または基体ベースアッセイを含む。試験抗体は、一連のアッセイ、例えば、限定するものではないが、P-セレクチンのアミノ酸1〜35の範囲内にあり、より具体的にはアミノ酸4〜23の範囲内にある立体配座エピトープに結合し、P-セレクチンへのPSGL-1リガンドの結合を遮断し、好ましくは既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離を引き起こす抗体を同定する本明細書に記載のアッセイを用いて二重機能能力をスクリーニングすることができる。今まで、抗P-セレクチン抗体で、P-セレクチンへのPSGL-1結合を遮断し、かつ既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離を引き起こす能力を有することが示されたものはない。本明細書においては、用語“試験抗体”は全抗体または抗体の断片のことを言う。試験抗体は、ライブラリー(例えばファージ、酵母または細菌)のメンバーであることもでき、ライブラリーにおける抗体断片であることもできる。ライブラリーは、所望されないエピトープに結合したすべてのメンバーを除去することによって差し引くことができる。
【0124】
スクリーニング方法の第1段階において、例えばP-セレクチンに対して作成された試験抗体は、P-セレクチンへのPSGL-1の結合を遮断する能力に関してアッセイされる。P-セレクチンへのPSGL-1の結合を遮断する試験抗体は、既に形成されたP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離を引き起こす能力を測定するためにスクリーニングされる。P-セレクチンへのPSGL-1結合を遮断し、かつP-セレクチン/PSGL-1複合体の解離を引き起こす二重機能を有するとして同定された試験抗体は、本開示の発明の概念の特に好ましい実施形態を含み、本開示の発明の概念の方法に用いることができる。本アッセイの流体ベースの実施形態の例は、限定するものではないが、(1)PSGL-1/P-セレクチン複合体の解離を明らかにするための、P-セレクチン(例えば、hSel001)に結合することができる抗体または試験抗体に暴露された、または暴露されていない細胞集合体を測定する、白血球またはHL60/活性化血小板を用いる細胞ベースのFACSアッセイ、(2)P-セレクチン(例えば、hSel001)に結合することができる抗体または試験抗体に暴露され、または暴露されずにSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)で測定されたP-セレクチン/GSP-6-ストレプトアビジン-ビオチン複合体に基づく液体ベースアッセイおよび(3)液体ベースアッセイに用いられる、基体としてのAlphaLisaビーズの使用を含む。
【0125】
本方法の一実施形態において、P-セレクチンへのPSGL-1の結合を遮断する試験抗体は、スクリーニングアッセイを用いて最初に同定される。例えば、スクリーニングアッセイの好ましい実施形態において、当業者に公知の方法で、P-セレクチンに結合することができる(場合により、支持基体、例えばBIACOREチップに結合した)PSGL-1または合成PSGL-1ミメティック、例えばGSP-6またはPSGL-1の末端エピトープ部分が提供される。次いで、PSGL-1(またはPSGL-1ミメティック)(基体に結合されていることができる)が抗P-セレクチン試験抗体/P-セレクチン複合体に暴露される。次いで、PSGL-1-基体への複合体の結合の程度が評価される。試験抗体/P-セレクチン複合体がPSGL-1に結合しない場合、試験抗体は“機能遮断”抗体として同定される。一実施形態において、GSP-6またはPSGL-1ミメティックはビオチンに結合される。GSP-6/ミメティック-ビオチン複合体自身は、例えば、基体上のストレプトアビジンコーティングに結合されることができる。
【0126】
スクリーニングアッセイの他の実施形態において、立体配座エピトープの完全性を維持し、上記のように、場合により支持基体に結合したP-セレクチンまたはその一部が提供される。例えば、立体配座エピトープを維持するP-セレクチンの一部は、限定するものではないが、P-セレクチンのレクチンおよびEGF結合ドメインを含む配列(例えば、配列番号1のアミノ酸1〜153)を含む。この実施形態において、立体配座エピトープを有するP-セレクチンまたはその部分は、P-セレクチン-抗体複合体に結合する試験抗体に暴露される。次いで、PSGL-1またはその高分子量ミメティック、例えばGSP-6/ビオチン/アビジン複合体は、P-セレクチン/試験抗体複合体に暴露され、PSGL-1(またはそのミメティック)への結合の程度が評価される。PSGL-1のP-セレクチン/抗体複合体への結合を抑制または阻害する抗体は“機能遮断”抗体として同定される。
【0127】
スクリーニングアッセイの他の実施形態において、前述のように、支持基体(例えばビーズまたはBIACOREチップ)にPSGL-1またはそのミメティックのいずれかが結合される。次いで、P-セレクチンがPSGL-1/基体に適用されてP-セレクチン/PSGL-1(またはミメティック)複合体が形成される。次いで、試験抗体が適用され、P-セレクチンが解離されるため、質量の減少または応答単位(RU)として複合体の解離が測定される。P-セレクチン/PSGL-1複合体の解離を誘導する機能遮断抗P-セレクチン抗体は、二重機能抗P-セレクチン抗体と呼ばれる。
このスクリーニングアッセイの別の実施形態において、立体配座エピトープを含むP-セレクチンまたはP-セレクチンの一部は、PSGL-1よりもむしろ支持基体に結合することができる。PSGL-1またはその高分子量ミメティック、例えばGSP-6/ビオチン/アビジン複合体は、次いで支持基体上のP-セレクチンに暴露され、PSGL-1/P-セレクチン複合体が形成される。次いで、PSGL-1/P-セレクチン複合体が機能遮断抗P-セレクチン抗体に暴露され、例えば本明細書の他の部分で記載のようにBIACORE法を用いて複合体の解離が評価される。
本アッセイのさらに他の実施形態において、抗P-セレクチン抗体自身が支持基体に結合しており、P-セレクチン/PSGL-1複合体がそれに暴露され、上記のようにその解離が測定される。
【0128】
本開示の発明の概念およびその利点について詳細に説明してきたが、本明細書で定義する本開示の発明の概念の精神および範囲から逸脱することなく本明細書において種々の変化、置換および改変を行うことができることを理解すべきである。さらに、本願の範囲は、本明細書に記載のプロセスの特定の実施形態、製造の品目、材料の組成、手段、方法およびステップに限定されないものとする。現在既存の、または後に開発される、本明細書に記載の対応する実施形態と実質的に同じ機能を発揮するかまたは実質的に同じ結果を達成するプロセス、製造の品目、材料の組成、手段、方法またはステップを本開示の発明の概念に用いることができることは、当業者には明らかであろう。従って、本明細書に記載の本発明は、このようなプロセス、製造の品目、材料の組成、手段、方法またはステップをその範囲に含むものとする。
限定するものではないが、米国特許出願番号第12/974,539号;第12/974,739号;第12/516,987号;およびWO2008/069999を含む本明細書に記載の引用文献、特許または公報のそれぞれは、参照によりその全体が明示的に本願に組み込まれる。
【0129】
引用文献