(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-48293(P2017-48293A)
(43)【公開日】2017年3月9日
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバー分散体、その製造方法、およびセルロースナノファイバーフィルム
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20170217BHJP
C08B 15/00 20060101ALI20170217BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20170217BHJP
C08L 1/26 20060101ALI20170217BHJP
C08J 3/02 20060101ALI20170217BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20170217BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20170217BHJP
【FI】
C08B11/12
C08B15/00
C08L1/02
C08L1/26
C08J3/02 ACEP
D21H11/18
B82Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-171880(P2015-171880)
(22)【出願日】2015年9月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
【テーマコード(参考)】
4C090
4F070
4J002
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090AA06
4C090BA24
4C090BA29
4C090BB65
4C090BB92
4C090BD02
4C090BD19
4C090BD24
4C090CA04
4C090CA05
4C090CA19
4C090DA10
4C090DA22
4C090DA26
4C090DA27
4F070AA02
4F070AB11
4F070AC36
4F070AC38
4F070AC72
4F070AD02
4F070BA09
4F070BB04
4F070CA02
4F070CA04
4F070CB02
4F070CB12
4F070CB14
4F070CB15
4J002AB011
4J002AB032
4J002EC046
4J002EC056
4J002ED036
4J002FA041
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4J002FD206
4J002GB00
4J002GB01
4J002HA06
4L055AF09
4L055AF10
4L055AF46
4L055AG34
4L055EA16
4L055EA32
(57)【要約】
【課題】セルロースナノファイバーが良好に分散した分散体、その製造方法、およびセルロースナノファイバーフィルムに関する。
【解決手段】セルロースナノファイバーを分散した分散体中に、カルボキシメチルセルロース(以下CMC)を添加、混合することで低濃度であっても、補強性や分散性の高いセルロースナノファイバー、その製造方法、およびセルロースナノファイバーフィルムを提供できる。また、酸を使用せず、生体適応性に優れたナノファイバーの分散体を得ることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーを分散した分散体であって、該分散体中にカルボキシメチルセルロースを含むことを特徴とするセルロースナノファイバー分散体。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースは、100〜245MPaの高圧噴射処理により解繊されたナノファイバーであって、ペースト、ゲル、スラリー、分散液、懸濁液またはエマルジョンのうち、いずれか1つの形態となっていることを特徴とする請求項1に記載のセルロースナノファイバー分散体。
【請求項3】
前記カルボキシメチルセルロースの繊維径は、4〜100nmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセルロースナノファイバー分散体。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーを0.01〜10重量%、前記カルボキシメチルセルロースを前記セルロースナノファイバーに対して0.1〜50重量%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のセルロースナノファイバー分散体。
【請求項5】
セルロースファイバーとカルボキシメチルセルロースを含む分散流体を高圧噴射処理することを特徴とするセルロースナノファイバー分散体の製造方法。
【請求項6】
カルボキシメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースナノファイバーを添加したセルロースナノファイバーに、油性成分を添加し、ミキサーおよび/または撹拌脱泡装置で撹拌した後、乾燥させることで形成することを特徴とするセルロースナノファイバーフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバー分散体、その製造方法、およびセルロースナノファイバーフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
天然のバイオマスであるセルロース、キチン、キトサンは、ナノファイバーが集束化して繊維構造をとり、強靭な構造体として機能している。これらのセルロース、キチン、キトサンの繊維は高次構造をとっており、表面間での主に水素結合を介した結合によって強く集束されており、ナノファイバーの状態まで解繊させ、分散させることは難しい。
【0003】
特許文献1に記載されている通り、ウォータージェットを用いてセルロース、キチン、キトサン、またはこれらの化学修飾原料をナノファイバー化することでバイオマスのナノファイバーを製造することができる。バイオマスナノファイバーは、幅20〜100nm、長さ数μmの極細繊維であり、バイオマスが有する高次構造を解繊することで、人工的には製造が困難なナノファイバーを大量に製造することができる。ナノファイバーの原料となるセルロース、キチン、キトサンは、食品添加物や化粧品添加原料として使用されており、当社のウォータージェット技術により解繊されたナノファイバーは、水と原料のみから製造されており、医薬、化粧品、食品用途にも使用可能である。
【0004】
また、バイオマスナノファイバーを対象物に添加する場合、その分散性が非常に重要である。ナノ繊維の効果を最大限に発揮するにはいかに均一に対象物に分散しているかが重要であり、分散性が乏しいとその機能は発揮し難い。
【0005】
さらに、ナノファイバーの単一化や分散性向上のため、セルロースにTEMPO酸化(非特許文献1参照)、カルボキシメチル化(非特許文献2参照)、カチオン化(特許文献2参照)などの化学処理を事前に施して分散性、機能性を高める手法についても多く報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5334055号
【特許文献2】特許第5150792号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】SAITO、T. ET AL. CELLULOSE COMMUN. vol. 14、no. 2、2007、62
【非特許文献2】Wangberg、L., ET AL., Langmuir、2008、24(3)、784−795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、バイオマスナノファイバーをPVA等の水溶性高分子に添加した場合、添加量に比例して徐々に補強効果が出るものの、バイオマスナノファイバーの物性を考えると、その補強効果および分散性には、改善の余地がある。
【0009】
また、バイオマスナノファイバーを比較的分散がしやすい水系素材に添加した場合、添加による一時的な効果はあるものの、特に低濃度での添加については、時間の経過によって、凝集や沈殿が見られ、分散性や機能性を十分に付与しているとは言えず、改善の余地がある。
【0010】
さらに、バイオマスナノファイバーだけを添加した場合、低濃度での添加の場合には、ナノファイバーの特性である三次元構造の絡み合いが弱く、ネットワークを形成させ難いため、単一分散させるにも、改善の余地があった。
【0011】
また、TEMPO酸化、カルボキシメチル化、カチオン化などの化学処理を事前に施した場合、ナノファイバーの単一化や分散性は向上するが、セルロースの従来持つ補強効果などの物性が失われてしまうという問題があった。
【0012】
上述の課題に鑑みて、本発明の目的は、低濃度であっても、補強性や分散性の高いセルロースナノファイバー分散体、その製造方法、およびセルロースナノファイバーフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のセルロースナノファイバー分散体は、セルロースナノファイバーを分散した分散体であって、分散体中にカルボキシメチルセルロースを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のセルロースナノファイバー分散体は、カルボキシメチルセルロースが100〜245MPaの高圧噴射処理により解繊されたナノファイバーであって、ペースト、ゲル、スラリー、分散液、懸濁液またはエマルジョンのうち、いずれか1つの形態となっていることを特徴とする。
【0015】
本発明のセルロースナノファイバー分散体は、カルボキシメチルセルロースの繊維径が、4〜100nmであることを特徴とする。
【0016】
本発明のセルロースナノファイバー分散体は、セルロースナノファイバーを0.01〜10重量%、カルボキシメチルセルロースをセルロースナノファイバーに対して0.1〜50重量%含むことを特徴とする。
【0017】
本発明のセルロースナノファイバー分散体の製造方法は、セルロースファイバーとカルボキシメチルセルロースを含む分散流体を高圧噴射処理することを特徴とする。
【0018】
本発明のセルロースナノファイバーフィルムは、カルボキシメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースナノファイバーを添加したセルロースナノファイバーに、油性成分を添加し、ミキサーおよび/または撹拌脱泡装置で撹拌した後、乾燥させることで形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸を使用せずに、溶媒として水を用いて100MPa〜245MPaの高圧噴射処理を行うことで、高い粉砕力によって、十分な微細化ができ、生体適応性に優れたナノファイバーの分散体を得ることができる。
【0020】
また、カルボキシメチルセルロース(以下CMC)を添加、混合することで低濃度であっても、補強性や分散性の高いセルロースナノファイバー、その製造方法、およびセルロースナノファイバーフィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明にて使用される高圧噴射処理装置のチャンバーの概略構成を示す模式図である。
【
図2】本発明により得られたセルロースナノファイバーを示す電界放射型走査電子顕微鏡像である。
【
図3】本発明により得られたCMCナノファイバーを示す電界放射型走査電子顕微鏡像である。
【
図4】本発明に係るCMCナノファイバー添加セルロースナノファイバーからなる薄膜フィルムの外観を示す図である。
【
図5】各種セルロースナノファイバーの引っ張り試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態を以下に説明する。
【0023】
バイオマス原料は、生物由来の高分子で、セルロース、キチン、キトサン、またはこれらの誘導体のことを意味する。本発明に係る高圧噴射装置でバイオマス原料を高圧噴射処理すると、繊維の長さをある程度保持したまま繊維同士の絡まりがほどけて細くなっていく。そして、高圧噴射装置の噴射圧力や処理回数などの処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることが可能である。
【0024】
ナノファイバーは、繊維径(幅)がナノサイズになったものを意味する。例えば、セルロースは、本発明の方法の実施により繊維同士がほどけて1本の最小単位の繊維になると、その繊維径(直径)は10〜50nm程度となる。ナノファイバーの繊維径(幅)は、電子顕微鏡像(写真)に基づいて測定することができる。このような繊維は、長さはナノサイズではないが、直径(幅)がナノサイズであるので、本明細書においてナノファイバーと記載する。
【0025】
セルロースは、高圧噴射処理によりナノファイバー化することができ、得られたナノファイバーは、高圧噴射処理に供されるセルロース濃度が薄い場合には、流動性のある分散体になるが、セルロースが微細化(ナノファイバー化)するにしたがって粘性が高くなり、濃度が高くなるとペーストに近い性状となる。よって、流動性のある分散体だけでなく、このようなペースト状のセルロースナノファイバー分散体も包含する。
【0026】
分散媒は、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール)、グリセリン、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトアミドなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。好ましい分散媒は、水、含水溶媒であり、特に水が好ましい。
【0027】
分散剤は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、CMCの塩の種類は、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどの第2族元素の塩、アンモニウム塩が例示され、水に対する溶解性の点からナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩が好ましいが、ナトリウム塩が最も好ましい。
【0028】
分散剤は、CMCが挙げられ、好ましくは、セルロースと同様にナノファイバー化処理を施したCMCナノファイバーである。CMCナノファイバーは、ペースト、ゲル、スラリー、分散液、懸濁液、またはエマルジョンのうち、いずれか1つの形態のものを使用できる。
【0029】
セルロースナノファイバー分散体において、セルロースナノファイバーは0.01〜10重量%、好ましくは0.5〜5.0重量%、より好ましくは1.0〜3.0重量%含まれ、分散剤は、セルロースナノファイバー(固形分重量)に対して0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%、より好ましくは5〜20重量%含まれる。さらに、分散媒の含有量は、50〜99.9重量%、好ましくは60〜99.5重量%、より好ましくは70〜99重量%である。
【0030】
セルロースナノファイバー分散体は、セルロースナノファイバー1質量部に対し、分散剤を0.01〜0.4質量部、好ましくは0.02〜0.3質量部、より好ましくは
0.03〜0.25質量部、最も好ましくは0.05〜0.2質量部程度である。
【0031】
セルロースナノファイバー分散体は、セルロースと分散剤を含むセルロース分散流体を1回〜複数回の高圧噴射処理することにより製造する。もしくはナノファイバー化後のセルロースナノファイバーに分散剤を加え、ミキサーおよび/または撹拌脱泡装置で撹拌することによって製造できる。
【0032】
セルロースナノファイバー分散体を製造する場合、原料となるセルロース分散流体の濃度は、高濃度ほど処理効率が高まるため好ましい。しかし、特にナノレベルに微細化した繊維の場合、粘度が高くなりすぎ、ペースト状になると高圧噴射が困難になる。本発明では、セルロースファイバーないしセルロースナノファイバーが高濃度であっても高圧噴射することができる装置を開発したため、分散流体中のセルロース濃度は、例えば1〜20重量%程度、好ましくは5〜20重量%程度、より好ましくは10〜20重量%程度、さらに好ましくは11〜20重量%程度であってもよい。
【0033】
セルロースナノファイバー分散体の製造に使用するセルロースは、繊維状、粒状などの任意の形態であってもよい。セルロースは、リグニンやヘミセルロースを除去し、精製されたセルロースが好ましい。また、市販の原料を使用してもよい。高圧噴射装置でセルロースを高圧噴射処理すると、セルロースは繊維の長さを保ったまま繊維同士の絡まりがほどけて細くなるが、噴射圧力や処理回数などの処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることも可能である。
【0034】
本実施形態の方法により処理されて得られたセルロースナノファイバーの平均径は4〜100nm程度、好ましくは10〜40nm程度、最も好ましくは15〜25nm程度である。本実施形態のナノファイバーは、繊維長/繊維径(アスペクト比)が大きくて分散状態が良好であるため、強度を保ちつつ不織布のようにナノファイバーが絡み合ったフィルム・シート状に成型することが容易であり、各種の材料として好適に使用できる。セルロースナノファイバー分散液をフィルム・シート状にした不織布は、高い透明性を確保できる。
【0035】
セルロース分散流体は、(株)スギノマシンが開発した高圧噴射を用いた超微細化装置を用いてノズルより高圧噴射することができる。高圧噴射の圧力は、100〜245MPa程度である。噴射速度は、440〜700m/s程度である。
【0036】
高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させたセルロース分散流体は、回収し、再度ノズルより衝突用硬質体に向けて高圧噴射され、この操作を必要な回数、例えば1〜50回程度、好ましくは1〜40回程度、より好ましくは1〜30回程度、さらに好ましくは1〜20回程度、特に好ましくは1〜10回程度繰り返す。セルロースは、衝突用硬質体に衝突することで、繊維の絡まりがほどけ、繊維径が縮小し、ナノサイズに微細化していく。また、高圧噴射処理に供するセルロース分散流体に特定の分散剤が含まれているので、分散したナノファイバーの再結合が抑制され、少ない処理回数で良好に分散したナノファイバー分散体を得ることができる。なお、衝突用硬質体としては、ボール状、平板状などの形状が挙げられる。
【0037】
セルロースのナノファイバー化には臼(ディスクミル)やエレクトロスピニング法などが用いられているが、生産効率は低く、微細化の均一性にも問題がある。
【0038】
本発明は、触媒や有害な薬品を一切使用せず、水あるいは水混和性溶媒のみを用いた環境低負荷なセルロースの分解およびナノファイバー化技術を提供する。また、ナノファイバー化はほぼ完全に達成でき、マイクロサイズのセルロースが含まれることはなく、平均繊維径の均一性にも優れている。
【0039】
本実施形態のナノファイバーは、繊維径が4〜100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に40nm以下である。本実施形態のナノファイバーは、繊維径が非常に細く、開繊が不十分なセルロースは実質的に存在せず、水に分散させた場合に透明な溶液に近い外観を有し、水の中にナノファイバーが分散していることは肉眼的には認められず、透明な分散液(低濃度の場合)または透明ゲルもしくは不透明ゲル(高濃度の場合)を得ることができる。本実施形態の分散体は、水分散液、水分散ゲル、水分散ペーストなどの種々の形態が含まれる。高圧噴射の処理回数を増やすことで不透明なゲルから透明なゲルにすることができる。なお、繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)法により、直接観察して測定する。
【0040】
伸びきり鎖結晶からなるセルロースナノファイバーの弾性率、強度はそれぞれ140GPaおよび3GPaに達し、代表的な高強度繊維、アラミド繊維に等しく、ガラス繊維よりも高弾性であることが知られている。しかも線熱膨張係数は1.0×10
−7/℃と石英ガラスに匹敵する低さである。本発明のセルロースナノファイバー分散体は、ナノファイバーの分散性に優れているのでコンポジットの補強繊維としても有用である。
【0041】
また、本実施形態のセルロースナノファイバー分散体は、リン酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリを少量加えてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、本実施形態を実施例により詳細に説明するが、本実施形態がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0043】
(実施例1)
イオン交換水にセルロース、またはCMC、もしくはセルロースとCMCを混合したスラリー状の分散流体を100〜245MPaの超高圧に加圧し、小径のオリフィスノズル(φ0.1〜0.8mm)から高圧で噴射し、ナノファイバーを得る。
【0044】
オリフィスノズルからの吐出流は440〜700m/sの高速噴流となるが、その速度までに加速されるオリフィス内では、高い剪断力が発生する。ここで使用するオリフィスノズルの厚みは0.4mmと極端に薄いため、圧力エネルギーのほぼ100%を噴射の速度エネルギーに変換できる。すなわち、オリフィス内部では、0.1〜0.8mmという狭い隙間と、440〜700m/sの超高速の状態となり、高い剪断力を得るための条件が満たされている。
剪断力=スラリーの粘度×速度/隙間
スラリーの粘度については、本処理回路(高圧噴射装置)の各部を改善したことで、より高濃度すなわち高粘度のスラリーを処理することができるようになり、スラリー自身の剪断力(ずり応力)を高める要因にもなっている。
【0045】
440〜700m/sの高速噴流(高圧噴射状態)では、気泡が発生し、この気泡が消滅することによって強い衝撃力が発生する。オリフィスノズルの下流に衝撃増強領域を設けることで、キャビテーションを効率的に発生させることができる。
【0046】
また、構造上の高速噴流受けとして、ボール状または平板状のセラミック硬質体を具える。結晶化度をより低下させるためには、噴射圧力を高くし噴流の速度の速い領域を用い、この硬質体への衝突力も粉砕に利用する。(
図1参照)
【0047】
(実施例2)
実施例1にてナノファイバー化処理したセルロース、およびCMC分散液をt-ブタノールで置換し、凍結乾燥させた。乾燥させた試料に白金とパラジウムの混合物の蒸着を約3nmの膜厚で行った。JEOL社のJSM-6700を用いて加速電圧2.0kVの条件で電子顕微鏡観察を行った。本発明のウォータージェット処理によりナノファイバー化されたセルロースナノファイバーのFE−SEM像を
図2にCMCナノファイバーのFE−SEM像を
図3に示す。本発明によれば、酸を使用せずに、媒体として水を用いて100〜245MPaの高圧噴射処理を行うことで、バイオマスナノファイバーを得ているので、繊維本来の形状が細部まで維持された状態で微細化されていることが判る。
【0048】
(実施例3)
実施例1にてナノファイバー化処理した混合分散液のフィルム化を行った。微細化されたナノファイバーをシャーレに流し入れ(キャスト)、乾燥させるとナノファイバーのフィルムが得られる。フィルム化の方法に特に制限はなく、フィルム作製に一般的に用いられているフィルムアプリケーターや吸引濾過などの操作後に乾燥させることでフィルムを作製することができる。乾燥は、加熱あるいは常温乾燥により行うことができる。
【0049】
(実験例1)
繊維長さが相対的に異なる3種類のセルロース(1)IMa-10002(極長繊維)、(2)WMa-10002(標準)、(3)FMa-10002(極短繊維)にCMCを添加することによって、希釈分散性にどのような影響を及ぼすのかを実験した。なお、CMCは、ぞれぞれ、(a)和光純薬製、(b)BiNFi-s CMC(ナノファイバー化前)、(c)BiNFi-s CMC(ナノファイバー化後)、を使用した。
【0050】
実験方法としては、以下の表のように配合した分散液をミキサー(WARING社 ワーリングブレンダー 7012S型)で、撹拌後(3,400rpm、5min)、分散状況を観察した。分散状況は、表1のA〜Dで示した。
【表1】
【0051】
極長繊維のセルロースナノファイバーの希釈分散性に関する結果を表2に示す。
0.1重量%以下の濃度に希釈すると沈殿が生じ始めるが、各種CMCを添加することで沈殿が起こらなくなり、分散性が向上することがわかる。CMC(ナノファイバー化後)、CMC、CMC(ナノファイバー化前)の順に効果が見られた。
【表2】
【0052】
標準タイプのセルロースナノファイバーの希釈分散性に関する結果を表3に示す。0.05重量%以下の濃度に希釈すると沈殿が生じ始めるが、各種CMCを添加することで沈殿が起こらなくなり分散性が向上することがわかる。CMC(ナノファイバー化後)、CMC、CMC(ナノファイバー化前)の順に効果が見られた。
【表3】
【0053】
極短繊維タイプのセルロースナノファイバーの希釈分散性に関する結果を表4に示す。0.1重量%以下の濃度に希釈すると沈殿が生じ始めるが、各種CMCを添加することで沈殿が起こらなくなり、分散性が向上することがわかる。CMC(ナノファイバー化後)、CMC(ナノファイバー化前)、CMCの順に効果が見られた。
【表4】
【0054】
(実験例2)
次に、繊維長さが相対的に異なる3種類のセルロース(1)IMa-10002(極長繊維)、(2)WMa-10002(標準)、(3)FMa-10002(極短繊維)にCMCを添加することによって、引っ張り強度にどのような影響を及ぼすのかを実験した。なお、CMCは、ぞれぞれ、(a)和光純薬製、(b)BiNFi-s CMC(ナノファイバー化前)、(c)BiNFi-s CMC(ナノファイバー化後)、を使用した。配合量を表5に示す。
【表5】
【0055】
実験方法としては、表5のように配合した分散液をミキサー(WARING社 ワーリングブレンダー 7012S型)で撹拌後(8,400rpm、5min)、分散液の50gを撹拌脱泡装置(共立精機株式会社製ハイマージャHM-400W)で、自転:公転=9:9の条件で撹拌脱泡し、シャーレに添加、30℃にて乾燥し、フィルムを作成し、引っ張り試験を実施した。なお、引っ張り試験は、Biomacrоmоlecules2008.9.1579-1585の方法を用いた。
【0056】
本実験例において、分散液には、油性成分として、グリセリンを配合した。本実施形態においては、グリセリンを用いたが、その他、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタジオール)なども油性成分として用いることができる。
【0057】
結果を
図5に示す。CMCを添加することでフィルムの引張応力がIMa(極長繊維)で2〜2.4倍、WMa(標準)で2.7〜3.4倍、FMa(極短繊維)で2.7〜3.2倍に増加した。また、ナノファイバー化したCMCの添加時の応力が最も高く、補強効果が高かった。
【符号の説明】
【0058】
1 セルロースナノファイバー
2 CMCナノファイバー
10 高圧噴射処理装置のチャンバー
11 加圧部、
12 ノズル(オリフィスノズル)、
13 貫通孔、
14 衝撃増強領域、
15 衝突用硬質体