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特開2017-48406粉末成形による金属皮膜の形成方法及び形成システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-48406(P2017-48406A)
(43)【公開日】2017年3月9日
(54)【発明の名称】粉末成形による金属皮膜の形成方法及び形成システム
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/12 20160101AFI20170217BHJP
   C23C 4/10 20160101ALI20170217BHJP
   B05D 1/12 20060101ALI20170217BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20170217BHJP
   C23C 4/06 20160101ALI20170217BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20170217BHJP
【FI】
   C23C4/12
   C23C4/10
   B05D1/12
   B05D3/06 Z
   C23C4/06
   B23K26/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-74681(P2015-74681)
(22)【出願日】2015年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】596132721
【氏名又は名称】一般財団法人近畿高エネルギー加工技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】514082424
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502284162
【氏名又は名称】日本サーマルエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129986
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓生
(72)【発明者】
【氏名】周 展
(72)【発明者】
【氏名】川崎 守夫
【テーマコード(参考)】
4D075
4E168
4K031
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA43
4D075AA83
4D075AA85
4D075BB32Y
4D075BB32Z
4D075BB48Y
4D075BB48Z
4D075BB83Y
4D075DA06
4D075DA23
4D075DB01
4D075EA02
4D075EC05
4D075EC10
4D075EC53
4D075EC54
4E168BA33
4E168CB03
4E168CB07
4E168GA04
4E168KA04
4K031AB08
4K031CB09
4K031CB13
4K031CB14
4K031CB30
4K031CB45
4K031DA04
4K031DA08
4K031EA01
4K031EA02
4K031EA07
4K031FA02
(57)【要約】
【課題】先端隅に角部を有する柱状母材に再溶融処理を行う場合において、再溶融熱の部分的な集中や不足を解消し、溶融エネルギーの過多付与部分や過少付与部分の発生を抑制することで、再溶融後の皮膜厚さや組成の緻密度の偏りを解消し得る金属皮膜の形成方法を提供する。
【解決手段】先端面(11)及び角部(1C)を含む柱状母材(1)の端部全体に、金属粉末の溶射によって溶射被膜を定着させる溶射工程と、柱状母材(1)の側周部を囲う加熱子(C)によって前記溶射皮膜を再溶融することにより、溶射皮膜を変性させて、前記角部を含む母材表面に金属皮膜を形成する再溶融工程と、を具備する。再溶融工程において、柱状母材(1)を、前記角部を含む先端面(11)が鉛直下方を向いた垂下状態、又は所定の対水平下方傾斜角で斜め方向を向いた傾斜状態のいずれかの状態に保持し、かつ、柱状母材(1)を柱軸(1A)周りに回転させながら再溶融する。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1μm以上0.9μm以下の範囲内の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の重量比混合割合(Rwc)で結合剤(mc)と混合させ造粒焼結させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射と、レーザービームによるレーザー照射とを、基材(1)表面内で重畳させた溶射スポット(p)に対して同時に複合照射することで、基材(1)上に金属皮膜を形成する金属皮膜の形成方法であって、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー照射速度(L1)」、及び「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の設定値に設定して制御手段に記憶させる設定工程と、
前記設定工程によって設定された設定要素の各設定値に従って前記複合溶射を行いながら溶射スポット(p)を基材表面上で移動させる、複合溶射中の移動工程と、を含んでなり、
前記設定工程は、エネルギー密度(ED)〔J/mm2〕、パワー密度(PD)〔W/mm2〕、及び一次増加率(A)からなる一次相関関係に従って、以下のいずれかの混合割合条件に応じた設定要素の各設定値を設定することを特徴とする金属皮膜の連続形成方法。
〔混合割合条件1〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が50%以上80%未満の場合:エネルギー密度(ED)〔J/mm〕が3以上7以下、パワー密度(PD)〔W/mm〕が20以上90以下の範囲内であって、かつパワー密度(PD)はエネルギー密度(ED)の単位増加あたり10の一次増加率A〔W/J〕に応じたPD値に設定される。
〔混合割合条件2〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が80%以上95%未満の場合:エネルギー密度(ED)〔J/mm〕が6以上16以下、パワー密度(PD)〔W/mm〕が55以上115以下の範囲内であって、かつパワー密度(PD)はエネルギー密度(ED)〔J/mm2〕の単位増加あたり−15の一次増加率A〔W/J〕に応じたPD値に設定される。
【請求項2】
1.0μm以上2.0μm以下の範囲内の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の混合割合(Rwc)で結合剤(mc)と混合させ造粒焼結させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射と、レーザービームによるレーザー照射とを、基材(1)表面内で重畳させた溶射スポット(p)に対して同時に複合照射することで、基材(1)上に金属皮膜を形成する金属皮膜の形成方法であって、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の設定値に設定して制御手段内の記憶領域に記憶させる設定工程と、
前記設定工程によって記憶された設定要素の各設定値に従って前記複合溶射を行いながら溶射スポット(p)を基材表面上で移動させる、複合溶射中の移動工程と、を含んでなり、
前記設定工程は、
エネルギー密度(ED)〔J/mm〕及びパワー密度(PD)〔W/mm〕の一次相関関係に従って、以下の混合割合条件に応じた設定要素の各設定値を設定することを特徴とする金属皮膜の形成方法。
〔混合割合条件3〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が50%以上80%未満の場合:エネルギー密度(ED)〔J/mm〕が3以上12以下、パワー密度(PD)〔W/mm〕が60以上120以下の範囲内であって、かつパワー密度(PD)がエネルギー密度(ED)の単位増加あたり20の一次減少率−A〔W/J〕(A:正値の一次係数)に応じて設定される。
〔混合割合条件4〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が80%以上95%未満の場合:エネルギー密度(ED)〔J/mm〕が3以上12以下、パワー密度(PD)〔W/mm〕が25以上60以下の範囲内であって、かつパワー密度(PD)がエネルギー密度(ED)の単位増加あたり4の一次減少率−A〔W/J〕(A:正値の一次係数)に応じて設定される。
【請求項3】
前記設定工程は、プラズマ溶射における粉末供給ガス流量〔l/min〕が3.0〜4以内であって、前記「粉末供給速度(mm1)」〔rpm〕が0.5〔rpm〕以上1.0〔rpm〕以下の場合において、前記「相対移動速度(pV)」〔mm/s〕を10以上30以下に設定する請求項1又は2記載の金属皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記設定工程は、プラズマ溶射及びレーザー溶射の各溶射距離〔mm〕が共に15mm170以下の場合において、前記「レーザー出力(L2)」〔kw〕を0.5以上4.0以下の範囲内に設定する請求項1、2、又は3のいずれか記載の金属皮膜の形成方法。
【請求項5】
所定の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の混合割合(Rwc)で結合剤粉末(mc)と混合させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射(P)と、レーザービームによるレーザー照射(L)とを、基材(1)表面内の同一の溶射スポット(p)に重畳させて複合照射を行うことで、基材(1)上に金属皮膜を形成する金属皮膜の連続形成システムであって、
一定の溶射距離で前記金属粉末のプラズマ溶射を行うプラズマ溶射機(P)と、
一定の溶射距離でレーザー光を溶射スポット(p)範囲に合わせて焦点化させたレーザー溶射を行うレーザー照射機(L)と、
プラズマ溶射機及びレーザー照射機(L)による溶射スポットへの複合溶射状態を保ったまま、基材上の溶射スポットの位置を相対移動させる保持移動機(V)と、
少なくとも前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の値に可変制御する制御手段と、を具備してなり、
前記制御手段は、使用する金属粉末(mm)の炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)、及び、最大粒径(mwΦ)の各入力値、のそれぞれを記憶する第一記憶領域と、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、照射スポット(p)の面積値(PA)と、のそれぞれの可変量を記憶する第二記憶領域と、
基準値として入力される少なくとも1つのパワー密度(L2/PA)及びエネルギー密度(pV/(L2・√PA))の組み合わせ値を記憶する基準値記憶領域と、有してなり、
第一記憶領域に記憶された各入力値を、予め棲み分け設定された各入力値範囲の組み合わせからなる第一入力域(1)、第二入力域(2)、第三入力域(3)、第四入力域(4)のいずれかの入力域に分類して当該分類した前記いずれかの入力域に応じて、調整係数Aを下記演算条件から選択し、
基準値記憶領域に記憶された、1つのパワー密度(L2/PA)及びエネルギー密度(pV/(L2・√PA))の組み合わせ値を基準として、下記演算式を基に、第二記憶領域に記憶された設定要素の可変量に対応する、「レーザー出力(L2)」の可変量、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」の可変量を表示画面に表示することを特徴とする、金属皮膜の連続形成システム。
〔演算式〕(L2/PA)=A・(pV/(L2・√PA))
〔演算条件〕上記演算式中のAは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じ、A1,A2,A3,A4のいずれかから選択される。
(演算条件1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A1=10
(演算条件2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A2=−15
(演算条件3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A3=−20
(演算条件4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A4=−4
【請求項6】
所定の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の混合割合(Rwc)で結合剤粉末(mc)と混合させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射(P)と、レーザービームによるレーザー照射(L)とを、基材(1)表面内の同一の溶射スポット(p)に重畳させて複合照射を行うことで、基材(1)上に金属皮膜を形成する金属皮膜の連続形成システムであって、
一定の溶射距離で前記金属粉末のプラズマ溶射を行うプラズマ溶射機(P)と、
一定の溶射距離でレーザー光を溶射スポット(p)範囲に合わせて焦点化させたレーザー溶射を行うレーザー照射機(L)と、
プラズマ溶射機及びレーザー照射機(L)による溶射スポットへの複合溶射状態を保ったまま、基材上の溶射スポットの位置を相対移動させる保持移動機(V)と、
少なくとも前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の値に可変制御する制御手段と、を具備してなり、
前記制御手段は、使用する金属粉末(mm)の炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)、及び、最大粒径(mwΦ)の各入力値、のそれぞれを記憶する第一記憶領域と、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、照射スポット(p)の面積値(PA)と、のそれぞれを記憶する第二記憶領域と、を有してなり、
第一記憶領域に記憶された各入力値を、予め棲み分け設定された各入力値範囲の組み合わせからなる複数の入力域のいずれかに分類し、
分類した入力域に応じて、第二記憶領域に記憶された少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」と、照射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」と、のそれぞれを含む設定要素を、照射スポット(p)の面積値(PA)を用いた以下の演算式に従って算出し、前記演算式に基づく各算出値を所定の設定値に設定することを特徴とする、金属皮膜の連続形成システム。
〔演算式〕(L2/PA)=A・(pV/(L2・√PA))+B
〔演算条件〕上記演算式中のAは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じ、A1,A2,A3,A4のいずれかから選択される。
(演算条件1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A1=10、B=0.0
(演算条件2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A2=−15、B=14.0
(演算条件3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A3=−20、B=180.0
(演算条件4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A4=−4、B=85.0
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶射によって金属製の母材の表面に金属皮膜を定着させるための金属皮膜の形成方法に関する。特に、先端隅に角部を有する柱状母材を対象とし、この対象の母材表面へ、金属材表面の摩耗、傷付き、表面劣化の修復を目的とした金属皮膜を形成する場合の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、母材表面に、金属粉末の溶射によって溶射被膜を定着させ、この定着させた溶射皮膜を高圧下で再溶融することにより、溶射皮膜を変性させて耐摩耗性、耐熱性、耐食性のある金属皮膜を形成する方法が知られている。この溶射被膜の変性は、再溶融によって溶射皮膜中に含まれる微細気泡やガスを脱気し、また溶射皮膜中の金属酸化物を表面側に浮き上がらせて緻密な金属皮膜を形成すると共に、母材表面への定着力を上げるものである。従来の溶射被膜の再溶融処理を行う際には、ガス炎による加熱、誘導加熱、炉による加熱、或いは、環状の誘導コイルによる誘導加熱が行われる。
【0003】
前記のうち溶射被膜の定着工程において従来、基材W表面に硬質粒子含有金属をプラズマ溶射Pにより吹き付けて耐摩耗性皮膜Mを形成するに当たり、同時に基材W表面の吹付け位置ZにレーザービームLを照射する方法が知られる。硬質粒子含有金属のプラズマ溶射によって形成する耐摩耗性皮膜として、緻密な連続層で皮膜自体の強度と基材に対する密着強度に優れ、高い耐摩耗性を具備するものを形成する、とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−302819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記複合溶射による金属皮膜の形成においては、複合溶射のためのパラメータ設定が複雑となり、最適なパラメータの組み合わせを見つけることが煩雑となることから、事前の設定条件の抽出や設定条件の調整が容易ではなく、このため結果として、高硬度で靱性の高い皮膜を形成することが容易ではなかった。特にレーザー出力が小さすぎるとレーザー複合溶射による緻密化の効果が得られず、逆にレーザー出力が大きすぎると結合剤の変性が先に進んでしまうことから、最適範囲の上限と下限の範囲設定が必要であり、またこの範囲は粉末種の組み合わせ、例えば結合剤の粉末粒径や混合割合によっても変わるものであった。
さらに粉末の供給量すなわち供給濃度と、複合溶射の移動速度との関係も、一概に供給濃度が高く又は移動速度が大きければ必要な膜厚の金属皮膜が好適な緻密さと分散性をもって得られるとは限らないものであった。これらパラメータの設定の煩雑さは複合溶射の実用化において特に重要な課題であった。
【0006】
そこで本発明では、複合溶射による金属被膜の形成において、複合溶射のためのパラメータ設定の複雑さを低減させ、最適なパラメータの組み合わせを見つけることを比較的容易とし、もって、事前の設定条件の抽出や設定条件の調整を容易化し、複合溶射による高硬度で靱性の高い金属皮膜を比較的容易に形成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明では下記(1)〜(6)の手段を講じている。
【0008】
(1)本発明の金属被膜の形成方法は、0.1μm以上0.9μm以下の範囲内の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の重量比混合割合(Rwc)で結合剤(mc)と混合させ造粒焼結させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射と、レーザービームによるレーザー照射とを、基材(1)表面内で重畳させた溶射スポット(p)に対して同時に複合照射することで、基材(1)上に金属皮膜を形成する金属皮膜の形成方法であって、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー照射速度(L1)」、及び「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の設定値に設定して制御手段に記憶させる設定工程と、
前記設定工程によって設定された設定要素の各設定値に従って前記複合溶射を行いながら溶射スポット(p)を基材表面上で移動させる、複合溶射中の移動工程と、を含んでなり、
前記設定工程は、エネルギー密度(ED)〔J/mm2〕、パワー密度(PD)〔W/mm2〕、及び一次増加率(A)からなる一次相関関係に従って、以下のいずれかの混合割合条件に応じた設定要素の各設定値を設定することを特徴とする。
〔混合割合条件1〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が50%以上80%未満の場合:エネルギー密度(ED)〔J/mm〕が3以上7以下、パワー密度(PD)〔W/mm〕が20以上90以下の範囲内であって、かつパワー密度(PD)はエネルギー密度(ED)の単位増加あたり10の一次増加率A〔W/J〕に応じたPD値に設定される。
〔混合割合条件2〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が80%以上95%未満の場合:エネルギー密度(ED)〔J/mm〕が6以上16以下、パワー密度(PD)〔W/mm〕が55以上115以下の範囲内であって、かつパワー密度(PD)はエネルギー密度(ED)〔J/mm2〕の単位増加あたり−15の一次増加率A〔W/J〕に応じたPD値に設定される。
【0009】
(2)本発明の金属皮膜の形成方法は、1.0μm以上2.0μm以下の範囲内の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の混合割合(Rwc)で結合剤(mc)と混合させ造粒焼結させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射と、レーザービームによるレーザー照射とを、基材(1)表面内で重畳させた溶射スポット(p)に対して同時に複合照射することで、基材(1)上に金属皮膜を形成する金属皮膜の形成方法であって、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の設定値に設定して制御手段内の記憶領域に記憶させる設定工程と、
前記設定工程によって記憶された設定要素の各設定値に従って前記複合溶射を行いながら溶射スポット(p)を基材表面上で移動させる、複合溶射中の移動工程と、を含んでなり、
前記設定工程は、
エネルギー密度(ED)〔J/mm〕及びパワー密度(PD)〔W/mm〕の一次相関関係に従って、以下の混合割合条件に応じた設定要素の各設定値を設定することを特徴とする。
〔混合割合条件3〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が50%以上80%未満の場合:エネルギー密度(ED)〔J/mm〕が3以上12以下、パワー密度(PD)〔W/mm〕が60以上120以下の範囲内であって、かつパワー密度(PD)がエネルギー密度(ED)の単位増加あたり20の一次減少率−A〔W/J〕(A:正値の一次係数)に応じて設定される。
〔混合割合条件4〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が80%以上95%未満の場合:エネルギー密度(ED)〔J/mm〕が3以上12以下、パワー密度(PD)〔W/mm〕が25以上60以下の範囲内であって、かつパワー密度(PD)がエネルギー密度(ED)の単位増加あたり4の一次減少率−A〔W/J〕(A:正値の一次係数)に応じて設定される。
【0010】
(3)本発明の上記いずれかの金属皮膜の連続形成システムにおいて、前記設定工程は、プラズマ溶射における粉末供給ガス流量〔l/min〕が3.0〜4以内であって、前記「粉末供給速度(mm1)」〔rpm〕が0.5〔rpm〕以上1.0〔rpm〕以下の場合において、前記「相対移動速度(pV)」〔mm/s〕を10以上30以下に設定することが好ましい。
【0011】
(4)本発明の上記いずれかの金属皮膜の連続形成システムにおいて、前記設定工程は、プラズマ溶射及びレーザー溶射の各溶射距離〔mm〕が共に15mm170以下の場合において、前記「レーザー出力(L2)」〔kw〕を0.5以上4.0以下の範囲内に設定することが好ましい。
【0012】
(5)本発明の金属皮膜の連続形成システムは、下記に従って、「レーザー出力(L2)」の可変量、並びに、「相対移動速度(pV)」の可変量を表示画面に出力表示するものである。
すなわち所定の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の混合割合(Rwc)で結合剤粉末(mc)と混合させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射(P)と、レーザービームによるレーザー照射(L)とを、基材(1)表面内の同一の溶射スポット(p)に重畳させて複合照射を行うことで、基材(1)上に金属皮膜を形成する金属皮膜の連続形成システムであって、
一定の溶射距離で前記金属粉末のプラズマ溶射を行うプラズマ溶射機(P)と、
一定の溶射距離でレーザー光を溶射スポット(p)範囲に合わせて焦点化させたレーザー溶射を行うレーザー照射機(L)と、
プラズマ溶射機及びレーザー照射機(L)による溶射スポットへの複合溶射状態を保ったまま、基材上の溶射スポットの位置を相対移動させる保持移動機(V)と、
少なくとも前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の値に可変制御する制御手段と、を具備してなり、
前記制御手段は、使用する金属粉末(mm)の炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)、及び、最大粒径(mwΦ)の各入力値、のそれぞれを記憶する第一記憶領域と、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、照射スポット(p)の面積値(PA)と、のそれぞれの可変量を記憶する第二記憶領域と、
基準値として入力される少なくとも1つのパワー密度(L2/PA)及びエネルギー密度(pV/(L2・√PA))の組み合わせ値を記憶する基準値記憶領域と、有してなり、
第一記憶領域に記憶された各入力値を、予め棲み分け設定された各入力値範囲の組み合わせからなる第一入力域(1)、第二入力域(2)、第三入力域(3)、第四入力域(4)のいずれかの入力域に分類して当該分類した前記いずれかの入力域に応じて、調整係数Aを下記演算条件から選択し、
基準値記憶領域に記憶された、1つのパワー密度(L2/PA)及びエネルギー密度(pV/(L2・√PA))の組み合わせ値を基準として、下記演算式を基に、第二記憶領域に記憶された設定要素の可変量に対応する、「レーザー出力(L2)」の可変量、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」の可変量を表示画面に表示することを特徴とする。
〔演算式〕(L2/PA)=A・(pV/(L2・√PA))
〔演算条件〕上記演算式中のAは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じ、A1,A2,A3,A4のいずれかから選択される。
(演算条件1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A1=10
(演算条件2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A2=−15
(演算条件3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A3=−20
(演算条件4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A4=−4
【0013】
(6)本発明の金属皮膜の連続形成システムは、下記に従って、「レーザー出力(L2)」の可変量、並びに、「相対移動速度(pV)」を含む設定要素の算出値を表示画面に出力表示するものである。
すなわち所定の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の混合割合(Rwc)で結合剤粉末(mc)と混合させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射(P)と、レーザービームによるレーザー照射(L)とを、基材(1)表面内の同一の溶射スポット(p)に重畳させて複合照射を行うことで、基材(1)上に金属皮膜を形成する金属皮膜の連続形成システムであって、
一定の溶射距離で前記金属粉末のプラズマ溶射を行うプラズマ溶射機(P)と、
一定の溶射距離でレーザー光を溶射スポット(p)範囲に合わせて焦点化させたレーザー溶射を行うレーザー照射機(L)と、
プラズマ溶射機及びレーザー照射機(L)による溶射スポットへの複合溶射状態を保ったまま、基材上の溶射スポットの位置を相対移動させる保持移動機(V)と、
少なくとも前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の値に可変制御する制御手段と、を具備してなり、
前記制御手段は、使用する金属粉末(mm)の炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)、及び、最大粒径(mwΦ)の各入力値、のそれぞれを記憶する第一記憶領域と、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、照射スポット(p)の面積値(PA)と、のそれぞれを記憶する第二記憶領域と、を有してなり、
第一記憶領域に記憶された各入力値を、予め棲み分け設定された各入力値範囲の組み合わせからなる複数の入力域のいずれかに分類し、
分類した入力域に応じて、第二記憶領域に記憶された少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」と、照射スポット(p)を基材(1)面上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」と、のそれぞれを含む設定要素を、照射スポット(p)の面積値(PA)を用いた以下の演算式に従って算出し、前記演算式に基づく各算出値を所定の設定値に設定し、表示画面に出力表示することを特徴とする。
〔演算式〕(L2/PA)=A・(pV/(L2・√PA))+B
〔演算条件〕上記演算式中のAは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じ、A1,A2,A3,A4のいずれかから選択される。
(演算条件1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A1=10、B=0.0
(演算条件2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A2=−15、B=14.0
(演算条件3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A3=−20、B=180.0
(演算条件4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A4=−4、B=85.0
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記手段によって、レーザー照射のパワー密度とエネルギー密度という2つのエネルギー量の一次相関関係という技術的性状に着目し、混合粉末の条件ごとに前記相関関係の傾向を一次関数として簡易規定することで、複合溶射による金属被膜の形成において、どのような溶射条件であっても、複合溶射のためのパラメータ設定の複雑さを低減させ、最適なパラメータの組み合わせを比較的容易に得ることを可能とした。また、事前の設定条件の抽出や設定条件の調整を容易化し、複合溶射による高硬度で靱性の高い金属皮膜を比較的容易に形成することのできる形成方法を提供することとなった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の金属皮膜の形成方法の溶射工程における溶射室内の斜視状態図。
図2】実施例1の金属皮膜の形成方法の溶射工程における溶射部分の一部拡大斜視図。
図3】実施例1の金属皮膜の形成方法の溶射工程における移動ステップの移動方向制御を示す平面図。
図4】実施例1の金属皮膜の形成方法による評価別組織の評価基準写真。
図5】(演算条件1)及び(演算条件2)におけるパワー密度とエネルギー密度との一次相関関係図。
図6】(演算条件3)及び(演算条件4)におけるパワー密度とエネルギー密度との一次相関関係図。
図7】実施例2の金属皮膜の形成方法の溶射工程兼再溶融工程(複合溶射工程)における溶射室内の斜視状態図。
図8】実施例2の金属皮膜の形成方法の溶射工程兼再溶融工程(複合溶射工程)における図7の溶射部分の一部拡大斜視図。
図9】実施例2の金属皮膜の形成方法の溶射工程兼再溶融工程(複合溶射工程)における回転及び移動方向を示す概念図。
図10】各サンプルにおける実験条件のまとめ表。
図11】移動速度の影響を示す実験による断面観察結果の比較表。
図12】実験観察結果の断面拡大組織写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態例につき、実施例として示す図面と共に説明する。図1は実施例1の金属皮膜の形成方法における溶射室内の斜視状態図であり、図2はその溶射部分の一部拡大斜視図であり、図3は実施例1の金属皮膜の形成方法の溶射工程における移動ステップの移動方向制御を示す平面図である。これら形成装置によって、表1表2の各々の設定条件で金属皮膜を形成して比較した。比較の際は、図4に示す評価基準写真、及び表3に示す評価定義を用いて、被膜断面組織の観察評価、及び境界面の状態の観察評価を行った。また粉末供給量、ガン移動速度と膜厚の関係をしらべたところ、粉末の供給量は切り出し装置の回転数を0.5、1.5rpm、移動速度を10〜300mm/sと変えて実験を行った結果、移動速度およびパス回数に応じて膜厚を推定することが可能であることが判明した。
【0017】
以下いずれの実施例においても、本発明の溶射被膜の形成方法は、先端面(11)の周縁に角部(1C)を有する柱状母材(1)の端部全体に、0.1μm以上0.9μm以下の範囲内の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の重量比混合割合(Rwc)で結合剤(mc)と混合させ造粒焼結させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射を行い、このプラズマ溶射の溶射範囲に重畳させて、レーザービームによるレーザー照射を、基材(1)表面内で重畳させた溶射スポット(p)に対して同時に複合照射することで、基材(1)上に金属皮膜を形成する溶射工程による。
【0018】
(溶射工程)
溶射工程は、ニッケル、コバルトを含むW系自溶性合金の金属マトリックスを含む金属混合粉末を高圧の溶射室内で切り出し、円柱母材(1)の先端の対象面へ溶射する工程である。自溶性合金は、ニッケル基・コバルト基からなる合金に、ボロン(B)やシリコン(Si)などのフラックス成分を含有させたもので、特に本実施例では、金属混合粉末の切り出し溶射と同時に、母材の対象面の溶射範囲内を焦点とするレーザー補助照射を行う、いわゆる複合溶射工程としている(図1)。レーザーは高いエネルギー密度を有し、ビームの照射強度、照射一及びタイミングを制御することができるため、良好な高密度の溶射被膜を形成し、かつ母材への良好な密着性を確保することができる。複合溶射とはすなわち、所定の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を所定の混合割合(Rwc)で結合剤粉末(mc)と混合させた金属粉末(mm)のプラズマ溶射(P)と、レーザービームによるレーザー照射(L)とを、円柱母材(1)表面内の同一の溶射スポット(p)に重畳させて複合照射を行うことで、円柱母材(1)上に溶射皮膜を形成する工程である。本発明の特徴と複合溶射とを組み合わせることで、母材への定着性を確保しつつ、より均一な高密度の金属皮膜を形成することができる。なお、本工程後にさらに再溶融加熱を行うことにより、より気孔が少なく、密着強度の高い溶射被膜を得る事が出来る。
【0019】
具体的には、溶射室内の上部一側方から斜め下方向きに固定したレーザーガン(LG)と、同じ溶射室内の上部他側方から反対の斜め下方向きに固定した溶射ガン(PG)と、柱状母材(1)を立設状態で保持する保持穴(FH)付の保持フレーム(F)と、から構成される。保持フレーム(F)は、溶射室内を保持レールに沿って平面視二軸方向へ移動制御可能な直方体からなり、上面から、鉛直方向に穿穴された二本の保持穴(FH)が設けられる。各保持穴(FH)には、円柱の柱状母材(1)(1´)が一本ずつ挿入される。挿入状態では柱状母材(1)の先端の縮径した短円柱部のみが保持穴(FH)の穴縁から上方へ突出した状態となり、他の部分が不要にレーザーや溶射の影響を受けないようにしている。
【0020】
レーザーガン(LG)によるレーザー光と、溶射ガン(PG)による溶射粉末(P)は、柱状母材(1)の先端面(11)内の一部である所定面積範囲(PA)に複合照射される。保持フレーム(F)が平面視にて直交する2軸方向へ平行移動制御可能に載置保持されており、往復位置すなわち往復動線を所定間隔ずつずらしながら、溶射室内を平行に往復移動しながら移動可能となっている(図1の2本の矢印方向参照)。そして、中将母材(1)の先端面(11)上にて複合照射された所定面積範囲(PA)が、中将母材(1)の先端面(11)上を、往復動線を変えながら並行に往復動する。これにより先端面(11)全体が先端面の形状縁すなわち角部にまで亘って溶射され、先端面から角部周囲の側面に亘って溶射被膜が形成される。
【0021】
なお溶射工程においては、
前記プラズマ溶射(P)における金属粉末(mm)の粉末供給速度(mm1)、並びに
前記レーザー照射(L)におけるレーザー照射速度(L1)、及びレーザー出力(L2)、のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の設定値に設定して制御手段に記憶させる設定ステップと、
前記設定ステップによって設定された設定要素の各設定値に従って前記複合溶射を行いながら溶射スポット(p)を基材表面上で移動させる、複合溶射中の移動ステップと、を含んでなる。
そして前記設定ステップは、エネルギー密度(ED)〔J/mm〕、パワー密度(PD)〔W/mm〕、及び一次増加率Aからなる一次相関関係に従って、所定の混合割合条件に応じた設定要素の各設定値を設定することを特徴とする。
【0022】
〔条件1〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が50%以上80%未満の場合:ED〔J/mm〕が3以上7以下、PD〔W/mm2〕が20以上90以下の範囲内であって、かつPDはEDの単位増加あたり4以上15以下の一次増加率A〔W/J〕に応じたPD値に設定される。
〔条件2〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が80%以上95%未満の場合:ED〔J/mm〕が6以上16以下、PD〔W/mm2〕が55以上115〔W/mm2〕以下の範囲内であって、かつPDはED〔J/mm〕の単位増加あたり−24〜−6の一次増加率A〔W/J〕に応じたPD値に設定される。
或いは前記設定ステップは、
エネルギー密度(ED)〔J/mm〕及びパワー密度(PD)〔W/mm〕の一次相関関係に従って、以下の混合割合条件に応じた設定要素の各設定値を設定することを特徴とする金属皮膜の形成方法。
〔条件3〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が50%以上80%未満の場合:ED〔J/mm〕が3以上12以下、PD〔W/mm〕が60以上120以下の範囲内であって、かつPDがEDの単位増加あたり7〜33の一次減少率−A〔W/J〕(A:正値の一次係数)に応じて設定される。
〔条件4〕炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)が80%以上95%未満の場合:ED〔J/mm〕が3以上12以下、PD〔W/mm〕が25以上60以下の範囲内であって、かつPDがEDの単位増加あたり2.5〜5の一次減少率−A〔W/J〕(A:正値の一次係数)に応じて設定される。
【0023】
また前記設定ステップは、プラズマ溶射における粉末供給ガス流量〔l/min〕が3.0〜4以内であって、前記「粉末供給速度(mm1)」〔rpm〕が0.5〔rpm〕以上1.0〔rpm〕以下の場合において、前記「相対移動速度(pV)」〔mm/s〕を10以上30以下に設定するものである。
或いは前記設定ステップは、プラズマ溶射及びレーザー溶射の各溶射距離〔mm〕が共に15mm170以下の場合において、前記「レーザー出力(L2)」〔kw〕を0.5以上4.0以下の範囲内に設定するものである。
【0024】
(装置構成)
複合溶射を行う装置構成として例えば、
一定の溶射距離で前記金属粉末のプラズマ溶射を行うプラズマ溶射機(P)と、
一定の溶射距離でレーザー光を溶射スポット(p)範囲に合わせて焦点化させたレーザー溶射を行うレーザー照射機(L)と、
プラズマ溶射機及びレーザー照射機(L)による溶射スポットへの複合溶射状態を保ったまま、基材上の溶射スポットの位置を相対移動させる保持移動機(V)と、
少なくとも前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」、並びに、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」、並びに、溶射スポット(p)を円柱母材(1)の先端面(11)上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」のそれぞれを含む設定要素を、それぞれ所定の値に可変制御する制御手段と、を具備してなるものが挙げられる(図1)。
【0025】
制御手段は、使用する金属粉末(mm)の炭化タングステン粉末(mw)の混合割合(Rwc1)、及び、最大粒径(mwΦ)の各入力値、のそれぞれを記憶する第一記憶領域と、
少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、照射スポット(p)の面積値(PA)と、のそれぞれを記憶する第二記憶領域と、を有してなる。
第一記憶領域に記憶された各入力値を、予め棲み分け設定された各入力値範囲の組み合わせからなる複数の入力域のいずれかに分類し、
分類した入力域に応じて、
第二記憶領域に記憶された少なくとも、前記プラズマ溶射における金属粉末(mm)の切り出し装置の回転数である「粉末供給速度(mm1)」と、前記レーザー照射における「レーザー出力(L2)」と、照射スポット(p)を円柱母材(1)の先端面(11)上で相対移動させる「相対移動速度(pV)」と、のそれぞれを含む設定要素を、照射スポット(p)の面積値(PA)を用いた以下の演算式に従って演算する。
そして、同演算式に基づく各算出値を所定の設定値に自動設定し、表示する。
【0026】
〔演算式〕(L2/PA)=A・(pV/(L2・√PA))+B
〔演算条件〕上記演算式中のAは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じ、A1,A2,A3,A4のいずれかから選択される。
(演算条件1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A1=10、B=0.0
(演算条件2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A2=−15、B=14.0
(演算条件3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A3=−20、B=180.0
(演算条件4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A4=−4、B=85.0
【0027】
また前記設定ステップは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じた、
下記エネルギー密度(E1)〔J/mm〕及びパワー密度(E2)〔W/mm〕の相関関係に従って設定要素の各設定値を設定する。
【0028】
(粒径が比較的小さいとき)
特に0.1μm以上0.9μm以下の範囲内の最大粒径(mwΦ)では、炭化タングステン粉末の混合割合に応じて、高域パワー密度かつ低域エネルギー密度の第一条件域と、低域パワー密度かつ高域エネルギー密度の第二条件域とに済み分けた、以下の対応値を設定することが好ましいことが判明した。
(条件1)50%≦混合割合R≦80%の場合:PD〔W/mm〕は70以上110以下の範囲内、EDは3以上7以下の範囲内であって、PDはEDの増加に伴って4〜15の一次増加率A〔W/J〕で増加する対応値。
(条件2)80%≦混合割合R≦95%の場合:PD〔W/mm〕は30以上60以下の範囲内、ED〔J/mm〕は6以上16以下の範囲内であって、PDはED〔J/mm〕の増加に伴って−6〜−24の一次増加率A〔W/J〕で減少する対応値。
【0029】
(粒径が比較的大きいとき)
また特に、1.0μm以上2.0μm以下の範囲内の最大粒径(mwΦ)では、
PD〔W/mm2〕が55以上90以下、かつED〔J/mm〕が55以上90以下の範囲内の共通条件域において、炭化タングステン粉末の混合割合に応じた以下の対応値を設定することが好ましいことが判明した。
(条件3)50%≦混合割合R≦80%の場合:PD〔W/mm〕はED〔J/mm〕の増加に伴って4〜15の一次増加率A〔W/J〕で増加する対応値。
(条件4)80%≦混合割合R≦95%の場合:PD〔W/mm〕はED〔J/mm〕の増加に伴って−6〜−24の一次増加率A〔W/J〕で減少する対応値。
【0030】
前記設定ステップは、
エネルギー密度(ED)〔J/mm2〕及びパワー密度(PD)〔W/mm2〕の一次相関関係に従って設定要素の各設定値を設定することを特徴とする。
〔case1〕0.1μm以上0.9μm以下の最大粒径(mwΦ)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:PDはEDの増加に伴って4〜15の増加率A〔W/J〕で増加する。
[case2]最大粒径(mwΦ)が1μm以上2μm以下の場合:
E2(L2、PA)=A・E1(L1,L2,PL)
(1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:−7<A1<−35(中心値−18)
(2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:-2.5<A2<-5(中心値−7)
(3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:4<A3<6(中心値8)
(4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:
E2(L2、PA)=A1・E1(L1,L2,PL);但し−5.5<A4<−24(中心値−10)
【0031】
ここで発明者は、下記パワー密度(PD)〔W/mm〕及びエネルギー密度(ED)〔J/mm〕の相関関係に従うことで好ましい被膜組織を形成できることを見出した。
〔演算式〕(L2/PA)=A・(pV/(L2・√PA))+B
〔演算条件〕上記演算式中のAは、炭化タングステン粉末(mw)及び結合剤粉末(mc)の混合割合(Rwc)に応じ、A1,A2,A3,A4のいずれかから選択される。
(演算条件1)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A1=10、B=0.0
(演算条件2)1μm以上の最大粒径(mwΦ1)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A2=−15、B=14.0
(演算条件3)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を50%以上80%未満の混合割合(Rwc1)で含む場合:A3=−20、B=180.0
(演算条件4)1μm未満の最大粒径(mwΦ2)の炭化タングステン粉末(mw)を80%以上の混合割合(Rwc2)で含む場合:A4=−4、B=85.0
【0032】
(実験及び評価)
使用した粉末は市販品を組み合わせた粉末と今回開発した表1の各粉末である。この粉末を用い、溶射条件およびプラズマ条件を変えた実験を行い、皮膜の組織、膜厚、硬度などを調べ、高硬度・高靱性皮膜形成に適した粉末種の組み合わせおよび複合溶射条件などを明らかにした。
【0033】
(使用粉末)
表1中、SWCで表される粉末中のWCは1〜2μのWC粉にCoを混ぜ造粒・焼結したものである。一方、PWCで表わされる粉末中のWCは0.5μレベルの微細WC粒にCoを混ぜ造粒・焼結したものである。
【表1】
【0034】
(実験方法1)プラズマ溶射ガン・レーザーガンと溶射対象物の位置関係
プラズマ溶射ガン・レーザーガンと溶射対象物の相対的な位置を図1、2に示す。2つのガンは固定されており、溶射対象物が乗った試験台が前後、左右に動くようになっている。図2には、今回使った溶射対象物の形状を示す。将来対象とする金型部品(パンチ)をイメージした丸棒(材質:SKD11)を対象物とした。
(実験方法2)複合溶射における溶射・照射パターン(溶射台の動きと溶射・照射)
図3に示すR0から溶射をスタートし、R2〜R4の間レーザを照射する方法をとった。ガンはR4を終えてからRRのルートを通ってR0に戻り、2回目の溶射に入ることになる。
【0035】
(溶射条件)表2に溶射条件を示す。溶射速度を50mm/sから10mm/sまで下げた実験および粉末供給速度を0.5rpm(従来1.5rpm)まで下げた実験を行った。
【表2】
(レーザー照射条件)
レーザーの焦点は6mmで変えず、レーザー出力を 0.5、1.0、2.0、3.0、4.0kw と5条件に変えた。
(パワー密度およびエネルギー密度)パワー密度およびエネルギー密度は以下の式で表される値である。
物理的には、レーザー照射パワー密度はレーザー照射の相対強度を反映する値、レーザー照射エネルギー密度はレーザー照射による(対象物への)入熱量と考えられる
先ずレーザ照射のパワー密度(表示Pρ、単位W/mm)は、
Pρ
= レーザ出力(W)/ 照射面積(mm)と規定される。
又レーザ照射のエネルギー密度(表示Eρ、単位J/mm)は、
Eρ = レーザ出力(W)/ 照射面サイド長(mm)/レーザ照射速度(mm/sec) と規定される。
【0036】
(外観観察結果)
パワー密度、エネルギー密度が小さい範囲では、外観観察上では大きな違いは認められなかったが、両密度が大きくなるにつれて、表面は金属光沢を発するようになる。自溶合金とWC粒がうまく溶融し、緻密な組織になったものと推察される。ところが、加えるエネルギーが大き過ぎると、皮膜と本体との境界や皮膜表面が波打つようになる。本体金属が必要以上に溶け出したものと考えられる。
(皮膜断面組織観察結果と評価)
図4に皮膜断面の組織観察結果を示す。皮膜断面の組織を拡大(約350倍)し、その断面で金属面(緻密な組織になっていると考えられる)と判断される比率および境界面の状態(真直ぐか曲がっている)により、定義し、皮膜を評価した。表3に皮膜評価定義、図4に代表的な評価別組織写真を示す。
【表3】
【0037】
4種類の粉末別の組織観察結果を、先に記述したパワー密度およびエネルギー密度で整理し、図5図6にまとめた。楕円で囲んだ範囲が適正溶射・プラズマ条件であり、その中央値は一次関数として前記演算式の通りに導出される。
【0038】
上記方法及びシステムにより、レーザー出力の最適範囲を、エネルギー密度とパワー密度の関係の一次相関化によって簡易的に得ることができるものとなった。すなわちレーザー出力が小さすぎるとレーザー複合溶射による緻密化の効果が得られず、逆にレーザー出力が大きすぎると結合剤の変性が先に進んでしまうところ、最適範囲の上限と下限の範囲設定を簡易的に行う事が出来、またこの範囲を粉末種の組み合わせとして、結合剤の高低二種類の粉末粒径域と、二種類の混合割合域との組合せからなる4種の条件域によって簡易的に区分することで、各条件域の相関変位の特性をも考慮するものとした。
さらに粉末の供給量すなわち供給濃度と、複合溶射の移動速度との関係も、各条件域の相関変位の特性を考慮した状態で変位量又は最適値を簡易的に算出するものとした。これにより、各種パラメータの設定の煩雑さを回避しつつ、妥当な設定値を導き出すものとなった。
【0039】
(実験方法3)
図7,8に示す実験方法3では、複合溶射工程を、柱軸を斜め上方に保持しながら行うものである。
すなわち実験方法3では、前記先端面及び角部を含む柱状母材の端部全体に、金属粉末を溶射する溶射工程と、
前記溶射工程における金属粉末の溶射部へ高周波レーザーを重畳して照射し、金属粉末による溶射皮膜を加熱して再溶融することにより、溶射皮膜を変性させて、前記角部を含む母材表面に金属皮膜を形成する再溶融工程と、を同時に具備する。
【0040】
図7の複合溶射工程においては、前記溶射工程と前記再溶融工程とを、柱状母材の端部の所定領域において同時に粉末溶射と高周波レーザーとを重畳領域として同時に行い、柱状母材(1)を支持する保持プレート(F1)をその下部の可動式保持フレーム(FC)の可動によって往復動させることで、前記重畳領域を柱状母材(1)の表面で相対移動させるものとしている。
【0041】
図7の再溶融装置は、溶射室内の上部一側方から斜め下方向きに固定したレーザーガン(LG)と、同じ溶射室内の上部他側方から反対の斜め下方向きに固定した溶射ガン(PG)と、柱状母材(1)を立設状態で傾斜保持する保持穴(FH)付の保持プレート(F1)と、保持プレート(F1)の下部裏側に設けられて柱状母材(1)を軸回転駆動させる回転モーター(F2)と、保持プレート(F1)を保持する保持アーム(FA)と、保持アーム(FA)の保持位置を稼動させる可動式保持フレーム(FC)とから構成される(図7)。
柱状母材を、前記角部を含む先端面が、10度を超えかつ45度未満の所定の対水平下方傾斜角で斜め上方向を向いた上傾斜状態に保持し、かつ、保持プレート(F1)の下部裏側の軸回転手段たる回転モーター(F2)によって、保持プレート(F1)の保持穴(FH)を挿通させた柱状母材(1)をその柱軸周りに回転させながら複合溶射する。図7では一枚の保持プレート(F1)に4つの保持穴(FH)を形成し、このうち下二つの保持穴(FH)内に柱状母材(1)(1)´を一本ずつ挿入して、各先端部が突出するように保持している。
図1,2に示す従来の水平移動方式では、側面の皮膜形成が十分になされないので、溶射中サンプルを傾け、回転させることにより側面部に皮膜が安定して出来る装置の開発を行った。図7,8に装置の外観図及び拡大図、図9に材料、装置の動きの概念図を示す。この装置は一つのステッピングモーターで2〜4本柱状母材を回転させることが出来るようになっている。この装置をロボットに載せ、傾斜角度55度(垂
直に対して)に設定して実験を行った。サンプルを所定の回転速度で回転させながら、初期位置から溶射・レーザをONにして移動させ、それから設定時間静止後、レーザをoffにし初期位置に戻るというパターンを基本とした。
実験条件を図10に示す。実験の結果、移動速度を遅くしすぎると過加熱により気泡が生じることが分かった(図11)。移動速度を50mm/secにすると、図12に示すように、側面およびコーナー部分の膜厚は確保されているものの、図12上図に示すように停止時間が短すぎると角部の被膜厚さが小さく十分な膜厚を確保できないことが判明した。また1パス当たりのパワー密度が大きく過加熱状態になると、頭部組織内の気泡、側面組織内の分散化、割れ部が発生することが確認された。
上記より、複数回のパスのうち1パス当たりのエネルギー速度を一定範囲に設定し、パワー密度の1パス当たりの分割値と全パスによるパワー密度の合計値とにそれぞれ上限を設けることが、過加熱による問題を生じにくいといえる。
本発明は上述した実施例に限られることなく、各実施例の方法要素、各実施器具の構成ないし一部要素の一部省略・抽出、他の公知構成ないし他の知られた要素同士の組み合わせ、一部要素の代替置換など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
図10
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図11
図12