(54)【発明の名称】活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬、活性化部分トロンボプラスチン時間測定用試薬キットおよび活性化部分トロンボプラスチン時間の測定方法
【解決手段】エラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを含むAPTT測定用試薬、エラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを含む第1試薬と、カルシウム塩を含む第2試薬とを含むAPTT測定用試薬キット、並びに血液検体とエラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを混合して試料を得る第1混合工程、第1混合工程で得られた試料とカルシウム塩とを混合して測定試料を得る第2混合工程、および第2混合工程で得られた測定試料のAPTTを測定する工程を含むAPTTの測定法。
前記金属イオン形成化合物が亜鉛イオン形成化合物とアルミニウムイオン形成化合物との混合物またはマンガンイオン形成化合物とアルミニウムイオン形成化合物との混合物である請求項6に記載の試薬。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.APTT測定用試薬
本実施形態に係るAPTT測定用試薬(以下、単に「試薬」ともいう)は、エラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを含む。本実施形態に係る試薬において、エラグ酸化合物、リン脂質およびポリビニルアルコール化合物は、通常、水系溶媒に溶解されている。
【0011】
本明細書において、「エラグ酸化合物」とは、エラグ酸、エラグ酸の塩およびエラグ酸の金属キレート化合物の総称をいう。エラグ酸は、内因系凝固経路に関与する接触因子の活性化剤であることが知られている。接触因子としては、例えば、プレカリクレイン、高分子キニノゲン、第XII因子、第XI因子などが挙げられるが、特に限定されない。エラグ酸は、天然由来のエラグ酸であってもよく、合成されたエラグ酸であってもよい。エラグ酸の塩としては、例えば、エラグ酸のアルカリ金属塩などが挙げられるが、特に限定されない。アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。エラグ酸は、配位結合を介して金属イオンと金属キレート化合物を形成することにより、内因系凝固経路に関与する接触因子に対し強力な活性化作用を示す。したがって、本実施形態に係る試薬中において、エラグ酸化合物は、エラグ酸の金属キレート化合物であることが好ましい。金属イオンは、好ましくは亜鉛イオンとアルミニウムイオンとの混合物およびマンガンイオンとアルミニウムイオンとの混合物である。
【0012】
本実施形態に係る試薬におけるエラグ酸化合物の量は、APTTの測定条件などに応じて適宜決定できる。本実施形態に係る試薬におけるエラグ酸化合物の量は、通常、好ましくは0.01〜0.5mM、より好ましくは0.05〜0.2mMである。
【0013】
本実施形態に係る試薬には、内因系凝固経路に関与する接触因子の活性化剤として、エラグ酸化合物以外の活性化剤をさらに含んでいてもよい。かかる活性化剤としては、例えば、シリカ、カオリン、珪藻土(例えば、セライトコーポレーション製、商品名:セライト(登録商標)など)などが挙げられるが、特に限定されない。この場合、本実施形態に係る試薬におけるエラグ酸化合物とエラグ酸化合物以外の活性化剤との合計量は、接触因子の活性化剤としての効果を十分に確保する観点から、好ましくは0.05mM以上、より好ましくは0.1mM以上であり、良好な試薬感度を確保する観点から、好ましくは0.2mM、より好ましくは0.11mM以下である。
【0014】
本明細書において、「ポリビニルアルコール化合物」とは、ポリビニルアルコールおよびその誘導体の総称をいう。また、本明細書において、「ポリビニルアルコールの誘導体」は、ポリビニルアルコールの側鎖に、修飾基を有する化合物をいう。修飾基は、ポリビニルアルコールによるエラグ酸の分散能を妨げない官能基であればよい。修飾基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1〜3のアルキル基などが挙げられるが、特に限定されない。
【0015】
ポリビニルアルコール化合物のけん化度は、水系溶媒に対する溶解性を十分に確保する観点から、好ましくは72mol%以上、より好ましくは78mol%以上であり、より長期間にわたって沈殿の発生を抑制し、長期保存安定性を向上させる観点から、好ましくは89mol%以下、より好ましくは80mol%以下である。ここで、ポリビニルアルコール化合物のけん化度は、JIS K6726−1994に規定されたポリビニルアルコール試験方法に準じて算出することによって求められる値である。
【0016】
ポリビニルアルコール化合物の重合度は、分散効果を十分に確保する観点から、好ましくは200以上、より好ましくは300以上であり、粘性増加を抑制する観点から、好ましくは500以下、より好ましくは400以下である。
【0017】
エラグ酸は、従来のAPTT測定用試薬に用いられる水系溶媒に溶解しにくく、沈殿を生じやすいという性質を有する。エラグ酸の沈殿が生じた場合、凝固反応系におけるエラグ酸が不足し、凝固反応の進行が遅くなる。そのため、凝固時間が過度に延長することがある。そこで、従来のAPTT測定用試薬では、エラグ酸の沈殿防止剤としてフェノールを配合することにより、エラグ酸の沈殿を抑制している。しかし、フェノールは、環境への負荷の低減の観点から、使用をさけることが望まれている。これに対し、本実施形態に係る試薬においては、ポリビニルアルコール化合物によってエラグ酸の沈殿を防止できる。そのため、本実施形態に係る試薬は、フェノールを実質的に含有していなくてもよい。すなわち、本実施形態に係る試薬は、エラグ酸化合物と、エラグ酸化合物の沈殿防止剤としてのポリビニルアルコール化合物とを含むが、フェノールを実質的に含有しない試薬である。ここで、「フェノールを実質的に含有しない」とは、本実施形態に係る試薬に、人為的にフェノールが配合されておらず、慣用の検出手段にて検出不可能であることを意味する。
【0018】
本実施形態に係る試薬におけるポリビニルアルコール化合物の含有量は、沈殿の発生を抑制する観点から、好ましくは0.025質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、粘性の増加を抑制する観点から、好ましくは0.2質量%以下であり、0.1質量%以下である。エラグ酸100質量部あたりのポリビニルアルコール化合物の量は、十分な分散効力を確保する観点から、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上であり、十分な分散効力を確保する観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。
【0019】
リン脂質は、血液の凝固反応を促進する。リン脂質は、分子構造中にリン酸エステル部位を有する脂質である。リン脂質は、天然由来リン脂質であってもよく、合成リン脂質であってもよい。天然由来リン脂質としては、例えば、ウサギ、ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒトなどの動物、大豆などの植物に由来するリン脂質などが挙げられるが、特に限定されない。動物に由来するリン脂質としては、例えば、ウサギ脳、ウシ脳、卵黄、ヒト胎盤などに由来するリン脂質などが挙げられるが、特に限定されない。リン脂質としては、具体的には、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどが挙げられるが、特に限定されない。これらのリン脂質のなかでは、血液の凝固反応が効率的に進むことから、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルセリンが好ましい。これらのリン脂質は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。リン脂質が有する脂肪酸側鎖としては、例えば、パルミトイル基、オレオイル基、ステアロイル基などが挙げられるが、特に限定されない。これらの脂肪酸側鎖は、血液の凝固反応を妨げない範囲で適宜選択できる。
【0020】
本実施形態に係る試薬におけるリン脂質の量は、リン脂質の種類、APTTの測定条件などに応じて適宜決定できる。本実施形態に係る試薬におけるリン脂質の量は、通常、好ましくは30〜2000μg/mL、より好ましくは100〜600μg/mLである。リン脂質がホスファチジルエタノールアミンである場合、本実施形態に係る試薬におけるリン脂質の量は、通常、好ましくは10〜700μg/mL、より好ましくは30〜300μg/mLである。リン脂質がホスファチジルコリンである場合、本実施形態に係る試薬におけるリン脂質の量は、通常、好ましくは20〜1000μg/mL、より好ましくは30〜500μg/mLである。リン脂質がホスファチジルセリンである場合、本実施形態に係る試薬におけるリン脂質の濃度は、通常、好ましくは3〜300μg/mL、より好ましくは5〜150μg/mLである。リン脂質がホスファチジルグリセロールである場合、本実施形態に係る試薬におけるリン脂質の量は、通常、好ましくは3〜300μg/mL、より好ましくは5〜150μg/mLである。
【0021】
水系溶媒は、血液凝固能の臨床検査に通常用いられる水系溶媒から適宜選択できる。水系溶媒としては、例えば、水、生理食塩水などが挙げられるが、特に限定されない。
【0022】
本実施形態に係る試薬のpHは、好ましくは6〜8、より好ましくは7〜7.6である。本実施形態に係る試薬のpHは、APTT測定用試薬に通常用いられる緩衝液成分によって適宜調整できる。緩衝液成分は、pH5〜9、好ましくはpH6〜8の範囲で緩衝作用を有する緩衝液成分であることが好ましい。緩衝液成分としては、例えば、2−[4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−イル]エタンスルホン酸(HEPES)、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(Tris)、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0023】
本実施形態に係る試薬は、金属イオン形成化合物をさらに含むことが好ましい。金属イオン形成化合物は、本実施形態に係る試薬中において、金属イオンを形成する化合物であればよい。本実施形態に係る試薬が防腐剤としてアミノグリコシド系抗生物質を含む場合、金属イオン形成化合物は、亜鉛イオン形成化合物、マンガンイオン形成化合物およびアルミニウムイオン形成化合物のなかから選択された任意の組み合わせが好ましい。なかでも、亜鉛イオン形成化合物とアルミニウムイオン形成化合物との混合物、およびマンガンイオン形成化合物とアルミニウムイオン形成化合物との混合物が、アミノグリコシド系抗生物質による凝固時間の過度の延長を効果的に抑制する観点から好ましい。亜鉛イオン形成化合物としては、例えば、塩化亜鉛などのハロゲン化亜鉛などが挙げられるが、特に限定されない。マンガンイオン形成化合物としては、例えば、塩化マンガンなどのハロゲン化マンガンなどが挙げられるが、特に限定されない。アルミニウムイオン形成化合物としては、例えば、塩化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウムなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0024】
本実施形態に係る試薬における金属イオン形成化合物の量は、通常、接触因子の活性化作用を向上させる観点から、好ましくは1μM以上、より好ましくは10μM以上であり、沈殿物の発生を抑制する観点から、好ましくは1mM以下、より好ましくは500μM以下である。本実施形態に係る試薬における金属イオン形成化合物が、亜鉛イオン形成化合物とアルミニウムイオン形成化合物との混合物、またはマンガンイオン形成化合物とアルミニウムイオン形成化合物との混合物である場合、本実施形態に係る試薬における金属イオン形成化合物の量は、アミノグリコシド系抗生物質による凝固時間の過度の延長を効果的に抑制する観点から、好ましくは10〜500μMである。
【0025】
本実施形態に係る試薬は、芳香族アミノ酸化合物をさらに含むことが好ましい。この場合、芳香族アミノ酸化合物により、エラグ酸化合物の沈殿をより効果的に抑制できる。本明細書において、「芳香族アミノ酸化合物」とは、芳香族アミノ酸、および芳香族アミノ酸の誘導体の総称をいう。芳香族アミノ酸は、芳香環を側鎖に有するアミノ酸である。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、非ベンゼン芳香環、複素芳香環などが挙げられるが、特に限定されない。芳香族アミノ酸化合物中における芳香環の数は、1個であってもよく、複数個であってもよい。芳香族アミノ酸化合物が複数個の芳香環を有する場合、複数個の芳香環は、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。芳香族アミノ酸は、α−アミノ酸である。芳香族アミノ酸は、タンパク質中に見出される種類のアミノ酸およびその誘導体から選択される少なくとも1種であることが好ましい。芳香族アミノ酸としては、例えば、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジンなどが挙げられるが、特に限定されない。芳香族アミノ酸の誘導体とは、芳香族アミノ酸に含まれる芳香環における水素原子または水酸基が、適切な置換基により任意に置換された化合物である。置換基は、血液凝固反応およびエラグ酸の可溶化または分散化を妨げない置換基であればよい。芳香族アミノ酸化合物のなかでは、フェニルアラニンおよびチロシンが好ましく、フェニルアラニンがより好ましい。なお、芳香族アミノ酸化合物は、L−体、D−体およびそれらの混合物のいずれであってもよい。また、芳香族アミノ酸化合物は、天然由来の化合物であってもよいし、合成された化合物であってもよい。
【0026】
本実施形態に係る試薬における芳香族アミノ酸化合物の量は、芳香族アミノ酸化合物の種類、本実施形態に係る試薬に含まれるエラグ酸化合物の量などに応じて適宜決定できる。本実施形態に係る試薬における芳香族アミノ酸化合物の量は、通常、分散効力を十分に確保する観点から、好ましくは0.001w/v%以上、より好ましくは0.01w/v%以上であり、水系溶媒に対する十分な溶解性を確保する観点から、好ましくは10w/v%以下、より好ましくは1.0w/v%以下である。
【0027】
本実施形態に係る試薬は、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤などが挙げられるが、特に限定されない。防腐剤としては、例えば、アミノグリコシド系抗生物質などの抗生物質、アジ化ナトリウムなどが挙げられるが、特に限定されない。抗酸化剤としては、例えば、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソールなどが挙げられるが、特に限定されない。安定化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0028】
本実施形態に係る試薬は、例えば、水系溶媒とリン脂質およびポリビニルアルコール化合物とエラグ酸化合物とを混合し、得られた混合物のpHを適切なpHに調整することなどによって製造できる。なお、得られた試薬には、必要に応じて、金属イオン形成化合物、芳香族アミノ酸化合物、添加剤などをさらに添加してもよい。
【0029】
本実施形態に係る試薬は、一般的なAPTTの測定条件下で、カルシウム塩の溶液とともに適切に使用した場合、従来のAPTT測定用試薬と同程度の測定結果を得ることができる。より具体的には、本実施形態に係る試薬を用いて、所定の正常血漿〔例えば、シスメックス(株)製の商品名:コアグトロールIX〕のAPTTを測定した場合、APTTが25〜35秒の範囲内となることが望ましい。また、所定の異常血漿〔例えば、シスメックス(株)製、商品名:コアグトロールIIX〕のAPTTを測定した場合、APTTが60〜100秒の範囲内となることが望ましい。
【0030】
本実施形態に係る試薬は、APTTの測定およびLAの検出に好適に用いることができる。本実施形態に係る試薬の使用方法は、従来のAPTT測定用試薬と同様である。
【0031】
2.APTT測定用試薬キット
本実施形態に係るAPTT測定用試薬キット(以下、単に「キット」ともいう)は、エラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを含む第1試薬と、カルシウム塩を含む第2試薬とを含むことを特徴とする。
【0032】
本実施形態に係るキットの一例としては、
図1に示されるキット10などが挙げられるが、特に限定されない。
図1に示されるキット10は、第1試薬容器11と、第2試薬容器12とを含む。第1試薬容器11は、エラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを含む第1試薬を収容する。第2試薬容器12は、カルシウム塩を含む第2試薬を収容する。本実施形態に係るキットは、添付文書をさらに含んでもよい。添付文書は、本実施形態に係るキットを用いてAPTTの測定を行なう操作手順などの記載を含んでもよい。
【0033】
第1試薬に用いられるエラグ酸化合物、リン脂質およびポリビニルアルコール化合物は、前述の本実施形態に係るAPTT測定用試薬に用いられるエラグ酸、リン脂質およびポリビニルアルコール化合物と同様である。また、第1試薬におけるエラグ酸化合物、リン脂質およびポリビニルアルコール化合物それぞれの量は、前述の本実施形態に係るAPTT試薬におけるエラグ酸、リン脂質およびポリビニルアルコール化合物それぞれの量と同様である。第1試薬は、適宜、水系溶媒、添加剤などを含んでもよい。水系溶媒および添加剤は、前述の本実施形態に係るAPTT測定用試薬に用いられる水系溶媒および添加剤と同様である。第1試薬は、好ましくは前述の本実施形態に係るAPTT測定用試薬である。
【0034】
なお、本実施形態に係るキットでは、エラグ酸化合物、リン脂質およびポリビニルアルコール化合物が、別々の容器に収容されていてもよい。この場合、別々の容器に収容されたエラグ酸化合物、リン脂質およびポリビニルアルコール化合物それぞれを、使用時に混合することによって第1試薬を調製することができる。
【0035】
第2試薬は、カルシウム塩を含む。カルシウム塩は、APTTを測定する際に用いられる測定試料中でカルシウムイオンを形成する塩であればよい。カルシウム塩としては、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、酒石酸カルシウムなどが挙げられるが、特に限定されない。これらのカルシウム塩は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。第2試薬におけるカルシウム塩の量は、好ましくは2.5〜40mM、より好ましくは10〜30mMである。第2試薬は、適宜、水系溶媒、添加剤などを含んでもよい。水系溶媒および添加剤は、前述の本実施形態に係るAPTT測定用試薬に用いられる水系溶媒および添加剤と同様である。
【0036】
本実施形態に係るキットは、必要に応じ、希釈用の水系溶媒、対照血漿などをさらに含んでもよい。水系溶媒は、前述の本実施形態に係るAPTT測定用試薬に用いられる水系溶媒と同様である。対照血漿としては、例えば、正常血漿、精度管理用血漿、各種の凝固因子が欠乏した血漿、LA陽性血漿などが挙げられるが、特に限定されない。精度管理用血漿としては、例えば、シスメックス(株)製の商品名:コアグトロールIX、シスメックス(株)製の商品名:コアグトロールIIXなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0037】
本実施形態に係るキットを用い、例えば、LAを検出する場合、希釈用の水系溶媒で第1試薬を所望の希釈率となるように希釈し、互いにリン脂質濃度の異なる2種類の第1試薬を調製することができる。
【0038】
本実施形態に係るキットは、APTTの測定およびLAの検出に好適に用いることができる。本実施形態に係るキットの使用方法は、従来のAPTT測定用試薬キットと同様である。
【0039】
3.APTTの測定方法
本実施形態に係るAPTTの測定方法(以下、単に「測定方法」ともいう)は、血液検体とエラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを混合して試料を得る第1混合工程、
前記第1混合工程で得られた試料とカルシウム塩とを混合して測定試料を得る第2混合工程、および
前記第2混合工程で得られた測定試料のAPTTを測定する工程
を含むことを特徴とする。本実施形態に係る測定方法によれば、第IX因子を含む血液検体を用いた場合であっても十分な感度でAPTTを測定することができる。
【0040】
なお、本明細書において、「試料」とは、血液検体とエラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物との混合物をいう。また、「測定試料」とは、血液検体とエラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とカルシウム塩との混合物をいう。
【0041】
第1混合工程において、血液検体とエラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを混合して試料を得る。なお、第1混合工程に先立ち、血液検体を、凝固反応を行なうのに適した温度に加温してもよい。この場合、血液検体の加温温度は、通常、好ましくは30〜45℃、より好ましくは36〜38℃である。
【0042】
血液検体としては、例えば、血液、血液から得られた血漿などが挙げられるが、特に限定されない。本実施形態に係る測定方法では、血液検体として、被検者の血液から得られた血漿、前述の対照血漿およびそれらの混合物などを用いることができる。血漿は、例えば、血液を溶血させないように遠心分離に供して血球成分を除くことなどによって得られる。また、血液には、血液凝固能の臨床検査に通常用いられる公知の抗凝固剤が添加されていてもよい。抗凝固剤としては、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられるが、特に限定されない。本実施形態に係る測定方法では、対照血漿として、正常血漿、精度管理用血漿、各種の凝固因子が欠乏した血漿、LA陽性血漿などを用いることができる。正常血漿は、健常者の血液から得られた血漿であってもよく、市販の正常血漿であってもよい。
【0043】
LAの検出を目的とする場合は、血液検体として、LAが存在する可能性のある血漿と正常血漿との混合物をさらに用いることが好ましい。被検者が凝固因子を欠損している場合、被検者の血漿と正常血漿との混合により凝固時間の延長が防止され、検査の感度が向上する。なお、被験血漿/正常血漿(体積比)は、通常、好ましくは8/2〜2/8、特に好ましくは5/5である。
【0044】
第1混合工程において、血液検体とエラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物との混合の順番は、特に限定されない。
【0045】
第1混合工程において、血液検体と混合されるエラグ酸化合物の量は、測定試料におけるエラグ酸化合物の濃度が所定濃度となる量であればよい。測定試料におけるエラグ酸化合物の濃度は、通常、好ましくは3.5〜150μM、より好ましくは10〜50μMである。
【0046】
血液検体と混合されるリン脂質の量は、測定試料におけるリン脂質の濃度が所定濃度となる量であればよい。測定試料におけるリン脂質の濃度は、リン脂質の種類に応じて適宜設定することができる。リン脂質がホスファチジルエタノールアミンである場合、測定試料におけるリン脂質の濃度は、通常、好ましくは1〜150μg/mL、より好ましくは5〜50μg/mLである。リン脂質がホスファチジルコリンである場合、測定試料におけるリン脂質の濃度は、通常、好ましくは1〜100μg/mL、より好ましくは5〜80μg/mLである。リン脂質がホスファチジルセリンである場合、測定試料におけるリン脂質の濃度は、通常、好ましくは0.1〜50μg/mL、より好ましくは1〜10μg/mLである。リン脂質がホスファチジルグリコールである場合、測定試料におけるリン脂質の濃度は、通常、好ましくは0.1〜50μg/mL、より好ましくは1〜10μg/mLである。リン脂質が2種類以上のリン脂質の混合物である場合、測定試料における各リン脂質の濃度の合計は、通常、好ましくは5〜400μg/mL、より好ましくは20〜100μg/mLである。
【0047】
なお、第1混合工程においては、エラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを別々に用いる代わりに、前述の本実施形態に係るAPTT測定用試薬または前述の本実施形態に係るAPTT測定用試薬キットの第1試薬を用いることができる。なお、LAの検出を目的とする場合は、APTT測定用試薬または第1試薬を希釈して、互いに異なるリン脂質濃度を有する2種類のAPTT測定用試薬または第1試薬を調製して用いることが好ましい。血液検体とAPTT測定用試薬または第1試薬との混合に際し、[血液検体]/[APTT測定用試薬または第1試薬](体積比)は、通常、好ましくは8/2〜2/8、より好ましくは6/4〜4/6、特に好ましくは5/5である。
【0048】
第1混合工程における加温温度は、血液の凝固反応を行なうのに適した温度であればよい。加温温度は、通常、好ましくは25〜45℃、より好ましくは35〜38℃である。また、加温時間は、通常、好ましくは1〜10分間、より好ましくは3〜5分間である。
【0049】
第2混合工程において、第1混合工程で得られた試料とカルシウム塩とを混合して測定試料を調製し、測定試料のAPTTを測定する。
【0050】
第2混合工程においては、試料にカルシウム塩を添加するのに先立ち、試料を、凝固反応を行なうのに適した温度に加温してもよい。試料の加温温度は、凝固反応の反応性の観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは36℃以上であり、タンパク質の安定性の観点から、好ましくは45℃以下、より好ましくは38℃以下である。この場合、加温時間は、凝固反応の反応性の観点から、好ましくは1分間以上、より好ましくは2分間以上であり、タンパク質の安定性の観点から、好ましくは6分間以下、より好ましくは5分間以下である。
【0051】
試料と混合されるカルシウム塩の量は、測定試料におけるカルシウム塩の濃度が所定濃度となる量であればよい。測定試料におけるカルシウム塩の濃度は、好ましくは2〜20mM、より好ましくは4〜10mMである。
【0052】
なお、第2混合工程では、カルシウム塩として、前述の本実施形態に係るキットの第2試薬を用いることができる。第1混合工程で得られた試料と第2試薬との混合に際し、血液検体/第2試薬(体積比)は、通常、好ましくは8/2〜5/5、より好ましくは7/3〜6/4、特に好ましくは2/1である。
【0053】
第2混合工程における加温温度は、第1混合工程における加温温度と同様である。
【0054】
測定試料のAPTTは、凝固情報に基づいて調べることができる。凝固情報としては、例えば、測定試料に光を照射したときの透過光または散乱光の変化、測定試料の粘度の変化などが挙げられるが、特に限定されない。この場合、測定試料のAPTTは、測定試料に光を照射し、測定試料を透過した透過光または測定試料からの散乱光の変化をモニターすること、測定試料の粘度の変化をモニターすることなどによって調べることができる。APTTの測定には、一般的なAPTTの測定に用いられる測定装置が用いられる。測定装置としては、例えば、光学的情報検出部を備える市販の血液凝固測定装置などが挙げられるが、特に限定されない。測定装置の具体例としては、シスメックス(株)製の商品名:CS−2000i、商品名:CS−2100iなどが挙げられる。なお、本明細書において、APTTは、第1混合工程で得られた試料へのカルシウム塩の添加開始時から血漿が凝固するまでの時間である。血漿の凝固は、例えば、光が照射された測定試料からの光の変化がなくなったこと、測定試料の粘度の変化がなくなったことなどを指標として判断することができる。
【0055】
LAの検出を目的とする場合、検査対象の血漿(以下、「被検血漿」ともいう)および正常血漿それぞれについて、APTT測定用試薬およびこれを希釈した試薬と、カルシウム塩とを用いることが好ましい。また、LAの検出は、APTT測定用試薬およびこれを希釈した試薬それぞれを用いて被検血漿から得たAPTTに基づいて得られる値と、閾値とを比較し、比較結果に基づいて行われることが好ましい。なお、APTT測定用試薬を用いる代わりに、APTT測定用試薬キットの第1試薬を用いることもできる。
【0056】
閾値として、例えば、正常血漿のAPTTに対する被検血漿のAPTTの比などが用いられる。閾値の具体例としては、ループス比(以下、「LR値」ともいう)、ロスナーインデックスなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0058】
[LR値]=(b/a)/(d/c)=bc/ad (I)
(式中、aは被検血漿と第1試薬とを用いて得られたAPTT、bは被検血漿と希釈したAPTT測定用試薬とを用いて得られたAPTT、cは正常血漿とAPTT測定用試薬とを用いて得られたAPTT、dは正常血漿と希釈したAPTT測定用試薬とを用いて得られたAPTTを示す)
【0059】
にしたがって算出された値をいう。正常血漿の場合、LR値は1程度である。また、血液凝固因子欠損患者、ワーファリン投与患者またはヘパリン投与患者に由来する血漿の場合、LR値は1程度となる。これに対して、LA陽性患者に由来する血漿の場合、LR値は1より大きい。したがって、被検血漿のLR値と正常血漿のLR値との比較結果より、被検血漿中のLAを検出できる。
【実施例】
【0060】
以下において、各略語の意味は、以下のとおりである。なお、「重量平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフによって求められた値である。
<略語>
PVA:ポリビニルアルコール
HEPES:2−[4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−イル]エタンスルホン酸
Tris:2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール
PVP:ポリビニルピロリドン(キシダ化学(株)製、ポリビニルピロリドンK−30)
PEG6000:ポリエチレングリコール6000(重量平均分子量:7300〜9300)
PE:ホスファチジルエタノールアミン
PC:ホスファチジルコリン
PS:ホスファチジルセリン
PG:ホスファチジルグリセロール
BHA:3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール
【0061】
また、以下において、用いられたポリビニルアルコールの特性は、表1に示されるとおりである。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例1〜12および比較例1)
表2に示された緩衝液成分、活性化剤、金属イオン形成化合物、ポリビニルアルコール化合物、添加剤および水を、表2に示された組成となるように混合し、フェノールを含有していない試薬を得た(実施例1〜12)。また、表2に示された緩衝液成分、活性化剤、金属イオン形成化合物、添加剤および水を、表2に示された組成となるように混合して試薬を得た(比較例1)。
【0064】
【表2】
【0065】
実施例1〜12および比較例1の試薬それぞれを60℃で保存した。保存開始から6日間経過時および12日間経過時に沈殿の有無を肉眼で観察することにより、実施例1〜12および比較例1の試薬それぞれの長期保存安定性を評価した。その結果を表3に示す。なお、長期保存安定性の評価基準は、以下のとおりである。
<評価基準>
AA:12日間経過時に沈殿が観察されず、優れた長期保存安定性を有する
A :6日間経過時に沈殿が観察されず、良好な長期保存安定性を有する
NG:6日間経過時に沈殿が観察され、長期保存安定性を有しない
【0066】
【表3】
【0067】
表3に示された結果から、エラグ酸とポリビニルアルコール化合物とを含む実施例1〜12の試薬では、保存開始から6日間経過時において、沈殿が観察されなかった。したがって、実施例1〜12の試薬は、良好な長期保存安定性を有することがわかった。また、けん化度が72〜89であるポリビニルアルコール化合物を含む実施例5〜12で得られた試薬では、保存開始から12日間経過時において、沈殿が観察されなかった。したがって、実施例5〜12の試薬は、優れた長期保存安定性を有することがわかった。一方、ポリビニルアルコール化合物を含まない比較例1の試薬では、保存開始から6日間経過時において、沈殿が観察された。
【0068】
これらの結果から、エラグ酸を含むAPTT測定用試薬に、ポリビニルアルコール化合物をさらに配合することにより、長期保存時における沈殿の発生を抑制できることが示唆された。また、長期保存時の安定性の点から、ポリビニルアルコール化合物のけん化度は、72〜89が好ましいことがわかった。
【0069】
(実施例13〜15および比較例2)
(1)試薬の調製および熱処理
表4に示された緩衝液成分、活性化剤、金属イオン形成化合物、リン脂質、ポリビニルアルコール化合物、添加剤および水を、表4に示された組成となるように混合し、フェノールを含有していない試薬を得た(実施例13〜15)。また、表4に示された緩衝液成分、活性化剤、金属イオン形成化合物、リン脂質、添加剤および水を、表4に示された組成となるように混合して試薬を得た(比較例2)。得られた試薬を45℃で2週間保存した。
【0070】
【表4】
【0071】
(2)APTTの測定
被検血漿50μLを30℃で1分間加温した。つぎに、加温後の被験血漿と、第1試薬50μLとを混合した。得られた混合物を37℃で3分間加温した。加温後の混合物と、第2試薬50μLとを混合し、全自動血液凝固分析装置〔シスメックス(株)製、商品名:CS−2100i〕を用いてAPTTを測定した。なお、被検血漿として、正常血漿〔シスメックス(株)製の商品名:コアグトロールIX〕、正常血漿〔プレシジョン・バイオロジック・インコーポレーテッド(Precision BioLogic Incorporated)製、商品名:CRYOcheck Normal Reference Plasma〕、異常血漿〔シスメックス(株)製の商品名:コアグトロールIIX〕、ヘパリン添加血漿〔プレシジョン・バイオロジック・インコーポレーテッド製、商品名:CRYOcheck Heparin Control〕または陽性対照〔プレシジョン・バイオロジック・インコーポレーテッド製、商品名:CRYOcheck Lupus Positive Control〕を用いた。また、第1試薬として、実施例13、14、15または比較例2の試薬を用いた。第2試薬として、25mM塩化カルシウム水溶液を用いた。APTTの測定は、各被検血漿につき、2回ずつ行なった。その結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
異常血漿〔シスメックス(株)製の商品名:コアグトロールIIX〕およびヘパリン添加血漿〔プレシジョン・バイオロジック・インコーポレーテッド製、商品名:CRYOcheck Heparin Control〕それぞれのAPTTの規格範囲は、通常、60〜100秒間であった。表5に示された結果から、実施例13〜15で得られた試薬を用いた場合、異常血漿〔シスメックス(株)製の商品名:コアグトロールIIX〕およびヘパリン添加血漿〔プレシジョン・バイオロジック・インコーポレーテッド製、商品名:CRYOcheck Heparin Control〕それぞれのAPTTが通常のAPTTの規格範囲と同様に60〜100秒間であることがわかった。また、ポリビニルアルコール化合物を含む試薬は、ポリビニルアルコール化合物を含まない試薬(比較例2)で確認された異常血漿のAPTTの短縮およびエラグ酸の沈殿を抑制した。なお、規格範囲内のAPTTについては、一般的な異常域対照試料(異常血漿)を用いることによって凝固時間測定時の精度管理が可能であることが知られていた。また、エラグ酸の沈殿と異常血漿のAPTTの短縮現象とには因果関係があることが知られていた。したがって、これらの結果から、実施例13〜15で得られた試薬は、熱処理が施された場合でも十分な感度を確保することができ、かつ長期保存安定性に優れることがわかった。
【0074】
(実施例16、比較例3〜5)
(1)試薬調製
表6に示された緩衝液成分、活性化剤、金属イオン形成化合物、リン脂質、ポリビニルアルコール化合物、添加剤および水を、表6に示された組成となるように混合し、フェノールを含有していない試薬を得た(実施例16)。また、表6に示された緩衝液成分、活性化剤、金属イオン形成化合物、リン脂質、添加剤および水を、表6に示された組成となるように混合して試薬を得た(比較例3)。
【0075】
【表6】
【0076】
市販のAPTT測定用試薬〔シーメンスヘルスケアダイアグノスティックス製、商品名:ACTIN−FS〕を比較例4の試薬、市販のAPTT測定用試薬〔シーメンスヘルスケアダイアグノスティックス製、商品名:ACTIN−FSL〕を比較例5の試薬として用いた。
【0077】
(2)APTTの基準範囲の測定
被検血漿50μLを30℃で1分間加温した。つぎに、加温後の被験血漿と、第1試薬50μLとを混合した。得られた混合物を37℃で3分間加温した。加温後の混合物と、第2試薬50μLとを混合し、全自動血液凝固分析装置〔シスメックス(株)製、商品名:CS−2100i〕を用いてAPTTを測定した。なお、被検血漿として、正常血漿49検体を用いた。また、第1試薬として、実施例16、比較例3、4または5の試薬を用いた。第2試薬として、25mM塩化カルシウム水溶液を用いた。APTTの測定は、各被検血漿につき、1回ずつ行なった。APTTの測定値から、平均値、SD、基準範囲上限および基準範囲下限を求めた。その結果を表7に示す。
【0078】
【表7】
【0079】
(3)第IX因子感度試験
正常血漿〔プレシジョン・バイオロジック・インコーポレーテッド(Precision BioLogic Incorporated)製、商品名:CRYOcheck Normal Reference Plasma〕と、IX因子欠乏血漿〔シスメックス国際試薬(株)製、商品名:第IX因子欠乏血漿〕とを、正常血漿/IX因子欠乏血漿(体積比)が3/7となるように混合し、被検血漿を得た。
【0080】
被検血漿50μLを30℃で1分間加温した。つぎに、加温後の被験血漿と、第1試薬50μLとを混合した。得られた混合物を37℃で3分間加温した。加温後の混合物と、第2試薬50μLとを混合し、全自動血液凝固分析装置〔シスメックス(株)製、商品名:CS−2100i〕を用いてAPTTを測定した。なお、第1試薬として、実施例16、比較例3、4または5の試薬を用いた。第2試薬として、25mM塩化カルシウム水溶液を用いた。APTTの測定は、各被検血漿につき、5回ずつ行なった。APTTの測定値から、APTTの平均値およびAPTTの平均値と平均基準範囲上限との差を求めた。APTTの平均値と平均基準範囲上限との差は、式(II):
[APTTの平均値と平均基準範囲上限との差]
=[平均基準範囲上限]−[APTTの平均値] (II)
にしたがって求めた。その結果を表8に示す。
【0081】
【表8】
【0082】
表8に示された結果から、エラグ酸とポリビニルアルコール化合物とを含む実施例16の試薬を用いた場合、測定されたAPTTの平均値が基準範囲上限よりも大きいことがわかった。また、実施例16の試薬で得られたAPTTの平均値と基準範囲上限との差は、比較例4の試薬で得られたAPTTの平均値と基準範囲上限との差よりも大きいことがわかった。一方、ポリビニルアルコール化合物を含まない比較例3および5の試薬では、測定されたAPTTの平均値が基準範囲上限よりも小さいことがわかった。APTTの平均値が基準範囲上限よりも大きいことは、正常検体と第IX因子が7割欠損している検体とを切り分けできることを示すと考えられた。したがって、エラグ酸とポリビニルアルコール化合物を含むAPTT測定用試薬によれば、IX因子を高感度で検出できることがわかった。
【0083】
(参考例1、2、比較例6および7)
表9に示された緩衝液成分、活性化剤、金属イオン形成化合物、リン脂質、添加剤および水を、表9に示された組成となるように混合し、フェノールを含有していない試薬を得た(参考例1および2)。参考例1の試薬は、亜鉛イオン形成化合物である塩化亜鉛とアルミニウムイオン形成化合物である塩化アルミニウムとが配合されている。また、参考例2の試薬は、マンガンイオン形成化合物である塩化マンガンとアルミニウムイオン形成化合物である塩化アルミニウムとが配合されている。
【0084】
【表9】
【0085】
銅イオン形成化合物とアルミニウム形成化合物とを含む市販のAPTT測定用試薬〔シスメックス(株)製、商品名:トロンボチェックAPTT−SLA〕を比較例6の試薬、銅イオン形成化合物を含む市販のAPTT測定用試薬〔シスメックス(株)製、商品名:トロンボチェックAPTT〕を比較例7の試薬として用いた。
【0086】
被検血漿50μLを30℃で1分間加温した。つぎに、加温後の被験血漿と、第1試薬50μLとを混合した。得られた混合物を37℃で3分間加温した。加温後の混合物と、第2試薬50μLとを混合し、全自動血液凝固分析装置〔シスメックス(株)製、商品名:CS−2100i〕を用いてAPTTを測定した。なお、被検血漿として被検血漿A〔シスメックス(株)製、商品名:コアグトロールI〕、または被検血漿B〔シスメックス(株)製の商品名:コアグトロールIにトプラマイシンをその濃度が10μg/mLとなるように添加して得られた混合物〕を用いた。また、第1試薬として、参考例1、2、比較例6または7の試薬を用いた。第2試薬として、25mM塩化カルシウム水溶液を用いた。APTTの測定値から、式(III):
【0087】
[APTT比]
=[被検血漿BのAPTT]/[被検血漿AのAPTT] (III)
【0088】
にしたがってAPTT比を算出した。APTTの測定値を表10、APTT比を
図2に示す。
【0089】
【表10】
【0090】
表10および
図2に示された結果から、参考例1および2の試薬では、APTT比が1.1であった。これに対し、比較例6および7の試薬では、APTT比が1.2〜2.5であった。APTT比の許容範囲は、通常、1.2であった。これらの結果から、参考例1および2の試薬によれば、トプラマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質に起因するAPTTの過度の延長をより抑制できることがわかった。したがって、これらの結果から、エラグ酸化合物とリン脂質とポリビニルアルコール化合物とを含むAPTT試薬において、亜鉛イオン形成化合物またはマンガンイオン形成化合物とアルミニウムイオン形成化合物とをさらに配合した場合にも、参考例1および2の試薬と同様に、アミノグリコシド系抗生物質に起因するAPTTの過度の延長をより抑制できることが示唆された。