【実施例】
【0037】
実施例1:各種系統群からのラビリンチュラ株と珪藻との二員培養の比較解析
本実施例に用いたラビリンチュラ株の詳細を以下に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
上記の各株の前培養は、細口試験管内のd-GPY培地(Glucose 2.0 g, Polypepton 1.0 g, Yeast extract 0.5 g, (Agar) 15.0 g, Sea Water 500 ml, Distilled Water 500 ml)中、表1に記載の培養温度にて1週間静置することにより行った。
【0040】
珪藻株としては、Skeletonema marinoi-dohrnii complex NIES-324株を用いた。珪藻株の前培養は、200 mlマイヤーフラスコ内のAC済みf/2培地(NaNO
3 7.5 mg, NaH
2PO
4・2H
2O 0.6 mg, Vitamin B
12 0.05 μg, Biotin 0.05 μg, Thiamine HCl 10 μg, Na
2SiO
3・9H
2O 1 mg, f/2 metals* 0.1 mL, Sea Water 99.9 mL; f/2 metals*: Na
2EDTA・2H
2O 440 mg, FeCl
3・6H
2O 316 mg, CoSO
4・7H
2O 1.2 mg, ZnSO
4・7H
2O 2.1 mg, MnCl
2・4H
2O 18 mg, CuSO
4・5H
2O 0.7 mg, Na
2MoO
4・2H
2O 0.7 mg, Distilled water 100 ml)中、25℃で2週間静置することにより行った。
【0041】
二員培養は以下の通りに行った。
本実施例では、珪藻に対してのみ成長を阻害すると考えられる珪酸質を枯渇した培地(-Si f/2培地: NaNO
3 7.5 mg, NaH
2PO
4・2H
2O 0.6 mg, Vitamin B
12 0.05 μg, Biotin 0.05 μg, Thiamine HCl 10 μg, f/2 metals 0.1 mL, Herbst人工海水** 99.9 mL; Herbst人工海水**: NaCl 30 g, KCl 0.7 g, MgCl
2・6H
2O 10.8 g, MgSO
4・7H
2O 5.4 g, CaCl
2・2H
2O 1 g, Distilled water 1000 ml)を使用した。
(1) Skeletonema の洗浄
1. Skeletonema(30 ml)をファルコン(容量50 ml)にいれる
2. 遠心分離機にかける 2500rpm 2min 25℃
3. 上澄みを除く
4. f/2培地を30ml加える
5. 遠心分離機にかける 2500rpm 2min 25℃
6. 上澄みを除く
7. -Si f/2培地とSkeletonema前培養液が1:1になるように、6のSkeletonema細胞を加える
(2-1) Skeletonema細胞の分注(二員培養+Skeletonema単独培養用)
1. (1)で用意したSkeletonema細胞をマイヤー(容量50ml)に30mlずつ分注する
(2-2) -Si f/2培地の分注(ラビリンチュラ類単独培養用)
1. -Si f/2培地をマイヤー(容量50ml)に30mlずつ分注する
(3-1) ラビリンチュラ類の用意(遊走子を形成する系統群)
1. d-GPY寒天培地上にラビリンチュラ類を塗布する
2. Herbst人工海水で遊走子を誘導する
3. 倒立顕微鏡で遊走子の誘導を確認後、接種に用いる
【0042】
【表2】
【0043】
(3-2) ラビリンチュラ類の用意(遊走子を形成しない系統群)
1. 前培養液(30ml)をファルコン(50ml)にいれる
2. 遠心分離機にかける 2500rpm 1min 25℃
3. 上澄みを除く
4. Herbst人工海水を30ml加える
5. 遠心分離機にかける 2500rpm 1min 25℃
6. 上澄みを除く
7. Herbst人工海水を30ml加える
(4) ラビリンチュラ類の接種
1. (3)で用意したラビリンチュラ類細胞を、(2)で用意した培地にそれぞれ接種する。30mlの培地に対して1ml接種する
(5) 二員培養の条件
1. 表1に記載の培養温度にて10日間静置することにより行う
【0044】
単独培養及び二員培養のそれぞれについて培養後のラビリンチュラ類の個体数を計測し、これらを比較した。結果を
図1に示す。いずれの系統群についても、二員培養により、単独培養の場合と比較してより効率的にラビリンチュラ細胞が増殖し、これは特にAplanochytrium kerguelenseについて顕著であった。
また、Skeletonemaについて状態のよい細胞の割合を計測した。結果を
図2に示す。ラビリンチュラ類との共培養によりSkeletonemaの状態の悪化が観察された。
【0045】
実施例2:Aplanochytriumと珪藻の二員培養の経時的な観察
本実施例において、ラビリンチュラ株としてAplanochytrium kerguelense KMPB N-BA-107株を用い、珪藻株としてSkeletonema marinoi-dohrnii complex NIES-324株を用いた。ラビリンチュラ株の前培養は、細口試験管内のd-GPY培地(組成は上述の通り)中、室温で1週間静置することにより行い、珪藻株の前培養は、200 mlマイヤーフラスコ内のAC済みf/2培地(組成は上述の通り)中、25℃で2週間静置することにより行った。
【0046】
二員培養は以下の通りに行った。
本実施例では、系統群ごとの比較において、珪藻が死滅する前にラビリンチュラ類による栄養摂取がみられたため、珪酸質を含むf/2培地(組成は上述の通り)を使用して実験を行った。
(1) Skeletonema の洗浄
1. Skeletonema(30ml)をファルコン(容量50ml)にいれる
2. 遠心分離機にかける 2500rpm 2min 25℃
3. 上澄みを除く
4. f/2培地を30ml加える
5. 遠心分離機にかける 2500rpm 2min 25℃
6. 上澄みを除く
7. f/2培地とSkeletonema前培養液が1:1になるように、6のSkeletonema細胞を加える
(2-1) Skeletonema細胞の分注(二員培養+Skeletonema単独培養用)
1. (1)で用意したSkeletonema細胞をマイヤー(容量50ml)に30mlずつ分注する
(2-2) f/2培地の分注(ラビリンチュラ類単独培養用)
1. f/2培地をマイヤー(容量50ml)に30mlずつ分注する
(3) ラビリンチュラ類の用意
1. 前培養液(30ml)をファルコン(50ml)にいれる
2. 遠心分離機にかける 2500rpm 1min 25℃
3. 上澄みを除く
4. 海水を30ml加える
5. 遠心分離機にかける 2500rpm 1min 25℃
6. 上澄みを除く
7. 海水を30ml加える
(4) ラビリンチュラ類の接種
1. (3)で用意したラビリンチュラ類細胞を、(2)で用意した培地にそれぞれ接種する。30mlの培地に対して1ml接種する
(5) 二員培養の条件
1. 室温にて10日間静置することにより行う
【0047】
単独培養及び二員培養のそれぞれについて、ラビリンチュラ類の個体数及び状態のよいSkeletonema細胞の割合を培養開始時、及び培養の2, 4, 6, 8, 10日目に計測した。結果を
図3に示す。二員培養の経過に伴い、Aplanochytriumの個体数が増加する一方、状態のよい珪藻の割合が減少することが観察された。
【0048】
更に、二員培養中、Aplanochytriuimの外質ネットが付着する前及び後のSkeletonemaを光学顕微鏡で観察したところ、外質ネットの付着によってSkeletonemaの葉緑体の色がぬけることが観察された(
図4)。このことは、Aplanochytriumは外質ネットで生きたSkeletonemaに接触し、積極的に栄養を摂取していることを示唆しており、海洋の主要な一次生産者である珪藻を“捕食する”という、生態系でのラビリンチュラ類の役割を認識できた。
【0049】
実施例3:Aplanochytrium属の別の株を用いた二員培養の解析
Aplanochytrium kerguelense KMPB N-BA-107株に加えてAplanochytrium属の別の株も用いた以外は実施例2と同様にしてSkeletonema marinoi-dohrnii complex NIES-324株との二員培養を行い、培養後のラビリンチュラ類の個体数を計測した。結果を
図5に示す。二員培養の10日目において、別の株ではAplanochytrium kerguelenseよりも更に高い細胞数の増加が認められた。
【0050】
実施例4:新規のアプラノキトリウム属微生物株を用いた二員培養の解析
本実施例に用いたラビリンチュラ株の詳細を以下に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
なお、表3に記載のAplanochytrium sp.の株であるSEK602、SEK717、1209-15S-01m、および1209-15B-01mはいずれも、本発明者らにより見出された新規株である。SEK602株およびSEK717株は、それぞれ受領番号FERM AP−22313(受領日:2016年9月2日)および受領番号FERM AP−22314(受領日:2016年9月2日)として、千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(IPOD)に寄託されている。
【0053】
珪藻株としては、実施例1と同様にSkeletonema marinoi-dohrnii complex NIES-324株を用いた。各株の前培養、珪藻株の前培養、および二員培養は実施例1に記載の通りに行った。なお、表3に記載のApplanochytrium sp.の株はいずれも遊走子を形成しない系統群である。
【0054】
単独培養及び二員培養のそれぞれについて培養後のラビリンチュラ類の個体数を計測し、これらを比較した。結果を
図6に示す。いずれの系統群についても、二員培養により、単独培養の場合と比較してより効率的にラビリンチュラ細胞が増殖し、これは特にAplanochytrium kerguelenseについて顕著であった。なかでも、Aplanochytrium sp. SEK602株およびSEK717株は著しく大きい増殖速度を示した。
また、Skeletonemaについて状態のよい細胞の割合を計測した。結果を
図7に示す。ラビリンチュラ類との共培養によりSkeletonemaの状態の悪化が観察された。なかでも、Aplanochytrium sp. SEK602株またはSEK717株との共培養により、状態の悪いSkeletonemaの割合が顕著に増加した。
【0055】
実施例5:Aplanochytriumと珪藻の二員培養の経時的な観察
本実施例において、ラビリンチュラ株としてAplanochytrium sp. KMPB N-BA-107株を用い、珪藻株としてSkeletonema marinoi-dohrnii complex NIES-324株を用いた。ラビリンチュラ株の前培養、珪藻株の前培養、および二員培養は、実施例2に記載の通りに行った。
【0056】
単独培養及び二員培養のそれぞれについて、ラビリンチュラ類の個体数及び状態のよいSkeletonema細胞の割合を培養開始時、及び培養の2, 4, 6, 8, 10日目に計測した。結果を
図8に示す。二員培養の経過に伴い、Aplanochytriumの個体数が増加する一方、状態のよい珪藻の割合が減少することが観察された。