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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-5130(P2017-5130A)
(43)【公開日】2017年1月5日
(54)【発明の名称】パルス型ヨウ素レーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/095 20060101AFI20161209BHJP
   H01S 3/092 20060101ALI20161209BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20161209BHJP
   H01S 3/23 20060101ALI20161209BHJP
【FI】
   H01S3/095
   H01S3/092
   H01S3/10 D
   H01S3/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-118102(P2015-118102)
(22)【出願日】2015年6月11日
(71)【出願人】
【識別番号】507351702
【氏名又は名称】武久 究
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100129953
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 康弘
(72)【発明者】
【氏名】武久 究
【テーマコード(参考)】
5F172
【Fターム(参考)】
5F172AD04
5F172DD03
5F172EE02
5F172EE26
5F172NP08
5F172NP14
5F172NP18
5F172NR28
(57)【要約】
【課題】高効率なパルス型ヨウ素レーザ装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様にかかるパルス型ヨウ素レーザは、フラッシュランプ励起ヨウ素レーザであり、1マイクロ秒以上のパルス幅を有するレーザ光を発生させるフラッシュランプ励起ヨウ素レーザ発振器10と、励起酸素発生器102を有する化学励起ヨウ素レーザを1段以上有し、前記発振器からのレーザ光を増幅する化学励起ヨウ素レーザ増幅器20と、を備えたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラッシュランプ励起ヨウ素レーザであり、1マイクロ秒以上のパルス幅を有するレーザ光を発生させる発振器と、
励起酸素発生器を有する化学励起ヨウ素レーザを1段以上有し、前記発振器からのレーザ光を増幅する増幅器と、を備えたパルス型ヨウ素レーザ装置。
【請求項2】
前記増幅器が、塩素ガスを含むガス容器と、ヨウ素分子を含むガス容器とを備え、
前記フラッシュランプ励起ヨウ素レーザの発光タイミング、前記塩素ガスを前記励起酸素発生器に供給するタイミング、及び前記ヨウ素分子を前記増幅器のチャンバ内に供給するタイミングを制御する制御装置を備えることを特徴とする請求項1に記載のパルス型ヨウ素レーザ装置。
【請求項3】
前記ヨウ素分子を前記増幅器の前記チャンバ内に供給するタイミングを、前記塩素ガスを前記励起酸素発生器に供給するタイミングより遅らせることを特徴とする請求項2に記載のパルス型ヨウ素レーザ装置。
【請求項4】
前記増幅器内に満たされる励起酸素分子から発生する自然放出光の光強度に基づいて、前記ヨウ素分子を前記増幅器の前記チャンバ内に供給するタイミングを制御することを特徴とする請求項2、又は3に記載のパルス型ヨウ素レーザ装置。
【請求項5】
前記増幅器内に満たされる酸素分子の圧力に基づいて、前記ヨウ素分子を前記増幅器の前記チャンバ内に供給するタイミングを制御することを特徴とする請求項2、又は3に記載のパルス型ヨウ素レーザ装置。
【請求項6】
前記増幅器内に入射させるレーザ光におけるビーム断面積が、伝搬中に増加していくように前記増幅器のチャンバ内を伝搬させることを特徴とする前記請求項1〜5のいずれか1項に記載のパルス型ヨウ素レーザ装置。
【請求項7】
励起酸素発生器を有する化学励起ヨウ素レーザを有する発振器と、
励起酸素発生器を有する化学励起ヨウ素レーザを1段以上有し、前記発振器からのレーザ光を増幅する増幅器と、
前記発振器にヨウ素分子を注入するタイミングと、前記増幅器にヨウ素分子を注入するタイミングとを制御する制御装置を備えたパルス型ヨウ素レーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス型ヨウ素レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
励起状態のヨウ素原子(I(2P3/2))から放射される波長1.315μmの光をレーザ動作させるヨウ素レーザに関して、特に化学励起酸素ヨウ素レーザはCOIL(Chemical Oxygen-Iodine Laser)と呼ばれている。COILは大出力に連続(CW:Continuous Wave)動作できることで広く知られている。レーザ動作させるには、先ず、BHP溶液と、塩素ガスとの化学反応によって励起酸素分子を発生させる。なお、BHP溶液は、過酸化水素水(H2O2)と、水酸化カリウム(KOH)または水酸化ナトリウム(NaOH)との混合溶液である。励起酸素分子とはO2(1Δg)と示される電子状態の酸素分子のことであるが、励起酸素分子発生時にさらに高いエネルギー準位を有するO2(1Σg)も生成される。O2(1Δg)は一重項酸素(Singlet Oxygen)と呼ばれることもある。発生させた励起酸素分子にヨウ素分子を混合させることで、ヨウ素分子が原子に解離する。さらにO2(1Δg)のエネルギーが基底状態のヨウ素原子(I(2P1/2))に移乗して、励起状態のヨウ素原子(I(2P3/2))が生成される。このようにすることで、COILがレーザ動作する。なお、化学励起ヨウ素レーザに関しては、非特許文献1〜4において概説されている。
【0003】
化学励起ヨウ素レーザ装置の多くはCW動作を行う。化学励起ヨウ素レーザと同じ発振波長のヨウ素レーザでも、CF3I、C2F5I、n-C3F7I、あるいはi-C3F7I等のヨウ化アルキル(alkyl iodide)を用いるヨウ素レーザがある。これは1960年代から広く研究されていた。これらのヨウ化アルキルに対して、キセノンを用いたフラッシュランプから発生するパルス状の紫外光を照射させる。こうすることで、ヨウ素原子が効率良く解離する。しかも、ヨウ素原子が励起状態になっているため、レーザ動作できる。これはフラッシュランプ励起ヨウ素レーザ、あるいは光解離ヨウ素レーザと呼ばれている。フラッシュランプ励起ヨウ素レーザは、大出力のパルスレーザを発生できる。このことから、慣性核融合を目的とした大型装置が研究開発されていた。これに関しては、例えば、非特許文献5において説明されている。
【0004】
ただし、フラッシュランプ励起ヨウ素レーザにおいて大出力化のために装置を大型化するには、大きなフラッシュランプが多数必要になる。さらに、大電流を出せる大型のパルス電源が必要になる。したがって、フラッシュランプ励起ヨウ素レーザでは、装置が複雑化、大型化することが問題になる。そこで、大型化が容易である化学励起ヨウ素レーザを利用したパルス型のヨウ素レーザも研究されていた。これに関しては、非特許文献6に示されている。さらにまた、より効率良くレーザ動作させるために、ハイブリッド方式も研究されていた。ハイブリッド方式では、励起酸素分子にヨウ化アルキルを混合するとともに、フラッシュランプが用いられている。これに関しては、非特許文献7、8、9、10、11に示されている。
【0005】
従来研究されていたパルス型ヨウ素レーザでは、慣性核融合を主な目的としていた。したがって、パルス幅としてはピコ秒オーダーから、長くても10ナノ秒程度が対象であった。その場合、パルスエネルギーを高めるために、増幅器を用いる構成が用いられる。しかしながら、レーザ光が増幅器中を1回通過しても、効率良くエネルギーが取り出せない。このため、マルチパスと呼ばれる方式が検討されていた。マルチパス方式では、レーザ光が1台の増幅器内を何度も往復する。なお、ヨウ素レーザ増幅器のマルチパス増幅に関しては、非特許文献12、13、14において説明されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stephen C. Hurlick, et al., “COIL technology development at Boeing,” Proceedings of SPIE Vol. 4631, 101-115 (2002).
【非特許文献2】Masamori Endo, “History of COIL development in Japan: 1982-2002,” Proceedings of SPIE Vol. 4631, 116-127 (2002).
【非特許文献3】Edward A. Duff and Keith A. Truesdell, “Chemical oxygen iodine laser (COIL) technology and development,” Proceedings of SPIE Vol. 5414, 52-68 (2004).
【非特許文献4】Jarmila Kodymova, “COIL--Chemical Oxygen Iodine Laser: advances in development and applications,” Proceedings of SPIE Vol. 5958, 595818 (2005).
【非特許文献5】Klaus J. Witte, Ernst Fill, Gunter Brederlow, Horst Baumhacker, and R. Volk, “Advanced Iodine Laser Concepts,” IEEE Journal of Quantum Electronics, Vol. QE-17, 1809-1816 (1981).
【非特許文献6】M. Endo, K. Shiroki, and T. Uchiyama, “Chemically pumped atomic iodine pulse laser,” Appl. Phys. Lett. Vol. 59, 891-892 (1991).
【非特許文献7】N. G. Basov, N.P. Vagin, P. G. Kryukov, D. Kh. Nurligareev, V. S. Pazyuki, and N. N. Yuryshev, “Molecules of CH3I and n-C3F7I as iodine atom donors in a pulsed chemical oxygen-iodine laser,” Soviet Journal of Quantum Electronics, Vol. 14, 1275-1276 (1984).
【非特許文献8】N. N. Yuryshev, “Pulsed COIL review,” Proceedings of SPIE Vol. 1980, 181-185 (1992).
【非特許文献9】Nikolai N. Yuryshev, Nikolai P. Vagin, “Pulsed Mode of COIL,” Proceedings of SPIE Vol. 4760, 515-525 (2002).
【非特許文献10】Kenji Suzuki, Kozo Minoshima, Daichi Sugimoto, Kazuyoku Tei, Masamori Endo, Taro Uchiyama, Kenzo Nanri, Shuzaburo Takeda, and Tomoo Fujioka, “High pressure pulsed COIL assisted with an instantaneous production of atomic iodine,” Proceedings of SPIE Vol. 4184, 124-127 (2001).
【非特許文献11】Masamori Endo, Kozo Minoshima, Koichi Murata, Oleg Vyskubenko, Kenzo Nanri, Shuzaburo Takeda, and Tomoo Fujioka, “High pressure pulsed COIL assisted with an instantaneous production of atomic iodine II,” Proc. SPIE 5120, 397-404 (2003).
【非特許文献12】Zhuang Qi, Feng Hao, Wang Chengdong, Sha Guohe, Zhang Cunhao, “Model for amplifier of pulsed chemical oxygen-iodine laser,” Proceedings of SPIE Vol. 1980, 198-201 (1992).
【非特許文献13】Zhuang Qi, Feng Hao, Wang Chengdong, Sha Guohe, Zhang Cunhao, “Model for amplifier of pulsed chemical oxygen-iodine laser,” Proceedings of SPIE Vol. 1810, 501-504 (1992).
【非特許文献14】M. Endo, K. Kodama, Y. Handa, and T. Uchiyama, “Theoretical study of a large scale chemically pumped pulsed iodine laser amplifier,” Proceedings of SPIE Vol. 1810, 532-535 (1992).
【非特許文献15】V. N. Azyazov, S. Yu. Pichugin, M. C. Heaven, “A simplified kinetics model for the COIL active medium,” Proceedings of SPIE Vol.7915, 791505 (2011).
【非特許文献16】David L. carroll, “Chemical Laser Modeling with Genetic Algorithms,” AIAA Journal, Vol. 34, 338-346 (1996).
【非特許文献17】K. Takehisa, N. Shimizu, and T. Uchiyama, “Singlet oxygen generator using a porous pipe,” Journal of Applied Physics, Vol. 61, 68-73 (1987).
【非特許文献18】Wolfgang O. Schall, I. Plock, K. Grunewald, J. Handke, “Fluid Mechanic Aspects for Rotating Disk Generators,” Proceedings of SPIE Vol.3574, 265-272 (1998).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが前述した従来のパルス型ヨウ素レーザでは、パルス幅が非常に短くなる。その結果、ピークパワーが高くなるため、大気中で空気プラズマが発生してしまう。プラズマはレーザ光を強く吸収する。プラズマが発生すると、レーザ光はそれ以上伝搬できなくなる。従って、従来のパルス型ヨウ素レーザでは、大気中での長距離伝搬は困難であった。
【0008】
本件出願の発明者によって、大気中で大出力のパルスレーザ光を長距離伝送させるには、10マイクロ秒程度以上の長いパルスが好ましいことが分かった。この点について、以下に説明する。例えば10〜30km先のターゲットにレーザ光を集光する場合、ビーム品質が良くても、ターゲットでは10cm程度の集光サイズになってしまう。一方、厚み2mm程度のアルミ板に面積10cmの穴加工を施すには、約70kJが必要になる。なお、70kJは、体積分のアルミ板を蒸発させるエネルギーに相当する。一方、レーザ光のピークパワー密度を、約1MW/cm以下に抑える必要がある。1MW/cmは、空気プラズマが生成すると言われているエネルギー密度である。よって、レーザ光のパルス幅を7マイクロ秒以上にする必要がある。
【0009】
このようなマイクロ秒オーダーの長いパルスを対象としたヨウ素レーザ増幅器に関しては従来検討されていなかった。その理由としては、パルス動作の大出力ヨウ素レーザの研究対象はおもに核融合であったため、長くても10ナノ秒までの短パルス幅のレーザ光が想定されていたからである。従って、マイクロ秒オーダーのロングパルスを対象とした高効率な増幅器の構造については不明であった。さらには、従来の増幅器のようにマルチパスがロングパルスに対して有効であるか等も不明であった。しかも化学励起ヨウ素レーザの場合は、パルス動作に関する検討自体がほとんど行われていなかった。なお、非特許文献6にはパルス動作の化学励起ヨウ素レーザが示されているが、これは発振器であり、増幅器に関する検討は従来行われていなかった。
【0010】
本発明の目的は、高効率のパルス型ヨウ素レーザ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態にかかるパルス型ヨウ素レーザ装置は、フラッシュランプ励起ヨウ素レーザであり、1マイクロ秒以上のパルス幅を有するレーザ光を発生させる発振器と、励起酸素発生器を有する化学励起ヨウ素レーザを1段以上有し、前記発振器からのレーザ光を増幅する増幅器と、を備えたものである。
【0012】
上記のパルス型ヨウ素レーザ装置において、前記増幅器が、塩素ガスを含むガス容器とヨウ素分子を含むガス容器を備え、前記フラッシュランプ励起ヨウ素レーザの発光タイミング、前記塩素ガスを前記励起酸素発生器に供給するタイミング、及び前記ヨウ素分子を前記増幅器のチャンバ内に供給するタイミングを制御する制御装置が設けられていてもよい。
【0013】
上記のパルス型ヨウ素レーザ装置において、前記ヨウ素分子を前記増幅器の前記チャンバ内に供給するタイミングを、前記塩素ガスを前記励起酸素発生器に供給するタイミングより遅らせるようにしてもよい。
【0014】
上記のパルス型ヨウ素レーザ装置において、前記増幅器内に満たされる励起酸素分子から発生する自然放出光の光強度に基づいて、前記ヨウ素分子を前記増幅器の前記チャンバ内に供給するタイミングを制御するようにしてもよい。
【0015】
上記のパルス型ヨウ素レーザ装置において、前記増幅器内に満たされる酸素分子の圧力に基づいて、前記ヨウ素分子を前記増幅器の前記チャンバ内に供給するタイミングを制御するようにしてもよい。
【0016】
上記のパルス型ヨウ素レーザ装置において、前記増幅器内に入射させるレーザ光におけるビーム断面積が、伝搬中に増加していくように前記増幅器のチャンバ内を伝搬させるようにしてもよい。
【0017】
本実施形態にかかるパルス型ヨウ素レーザ装置は、励起酸素発生器を有する化学励起ヨウ素レーザを有する発振器と、励起酸素発生器を有する化学励起ヨウ素レーザを1段以上有し、前記発振器からのレーザ光を増幅する増幅器と、発振器にヨウ素分子を注入するタイミングと、増幅器にヨウ素分子を注入するタイミングとを制御する制御装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、高効率なパルス型ヨウ素レーザ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】遅延時間1に対する増幅光のエネルギー密度のシミュレーション結果を示す図である。
図2】遅延時間2に対する増幅効率のシミュレーション結果を示す図である。
図3】励起酸素残存率の時間変化のシミュレーション結果を示す図である。
図4】入射光のエネルギー密度に対する利得のシミュレーション結果を示す図である。
図5】実施形態1に係るパルス型ヨウ素レーザ装置100の構成図である。
図6】パルス型ヨウ素レーザ装置100の化学励起ヨウ素レーザ増幅器20の構成を示す図である。
図7】増幅器の構成を模式的に示す図である。
図8】増幅器の構成を模式的に示す図である。
図9】増幅器の構成を模式的に示す図である。
図10】入射光のエネルギーに対する増幅エネルギーのシミュレーション結果を示す図である。
図11】化学励起ヨウ素レーザ増幅器200の構成図である。
図12】実施の形態2にかかるパルス型ヨウ素レーザ装置300の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記の目的を達成するために、先ずは、非特許文献6に示されたようなパルス型の化学励起ヨウ素レーザを増幅器として用いた装置を対象としたシミュレーションを行った。シミュレーションでは、非特許文献15に記載された反応式を用いて、レート方程式を数値解析した。その反応式はヨウ素分子の解離を考慮したもので、実験を良く近似できることが示されている。また、ゲインの計算、及び各種ガスの圧力広がりの値は、前記非特許文献16に示された式や値を用いた。また、シミュレーションでは増幅器の光軸方向に空間分割する1次元モデルを対象とした。
【0021】
シミュレーション条件を以下に示す。
塩素ガス注入流量:100mol/s/m
ヨウ素分子注入流量:10mol/s/m
ヘリウムガス注入流量:100mol/s/m
入射パルス波形:サインカーブ(プラス側半周期)
パルス全幅:100μs
入射光強度:1.0J/cm
増幅長:10m
時間刻み:10ps
空間刻み:10cm
【0022】
増幅器中にヨウ素分子を注入するために一緒に注入するバッファガスにはヘリウムガスを用いると想定した。注入する流量は、ヨウ素分子の流量の10倍とした。増幅器における増幅長は10mとした。以上の条件で、一例として100マイクロ秒のパルス幅のレーザ光を増幅器に入射させて増幅特性を計算した。その結果、レーザ光がほとんど増幅されない計算結果が得られた。
【0023】
そこで、シミュレーションコードを改造して、シミュレーションを行った。具体的には、増幅器中に注入する励起酸素分子の注入開始時刻から少し遅れてヨウ素分子を注入する場合についてシミュレーションを行った。この遅延時間(遅延時間1とする。)を0から少しずつ増やしていき、シミュレーションを行った。それぞれの遅延時間において、さらにヨウ素分子の注入開始時刻から、少し遅らして入射光が入射するように設定してみた。ここでヨウ素分子の注入開始時刻に対する入射光の入射時刻の遅延時間を遅延時間2とする。これら遅延時間1、及び遅延時間2を様々に変化させて、増幅されるエネルギー(つまり増幅器から出射するレーザ光のエネルギーから、増幅器に入射させるレーザ光のエネルギーを差し引いた値)をシミュレーションで算出してみた。結果を図1に示す。ただし単位面積当たりの増幅エネルギー(すなわち厳密には増幅エネルギー密度)を図1に示したが、以下、単に増幅エネルギーと呼ぶ。これによると、遅延時間1は15ミリ秒程度、及び遅延時間2(図中にT2と示した時間)は0.3ミリ秒程度とすると高い増幅エネルギーが得られることが判った。なお、励起酸素分子とヨウ素分子を同時に注入する(つまり遅延時間1が0秒)とすると、図1から明らかなように、レーザ光はほとんど増幅されないことが判る。
【0024】
一方、従来のフラッシュランプ型ヨウ素レーザ増幅器では、マルチパスを行わないとエネルギーを効率良く取り出せないとされている。本シミュレーションによって、これを調べるために、入射レーザ光のパルス幅をパラメータとして増幅特性をシミュレーションした。条件としては遅延時間1を15msと一定として、遅延時間2を変えて増幅効率を算出した。図2に示したシミュレーション結果から判るように、パルス幅が短くなると、増幅効率が低下していく。このため、1パスでレーザ光を効率良く取り出すには、1マイクロ秒より長いパルス幅が必要であることが判った。本発明では100マイクロ秒程度のロングパルスを対象としている。このため、従来の増幅器のようなマルチパスを構成する必要がないことが確認された。
【0025】
なお増幅効率とは、式(1)に示された式で定義されたηの値である。
【数1】
【0026】
具体的には、増幅効率ηは増幅器内に供給される励起酸素分子の全エネルギーに対して、出射するレーザ光における増幅されたエネルギーの割合である。なお、式(1)中のLは増幅器の長さ(単位はm)、定数Kの値は、37.8(単位はJ/m3)である。また式(1)中の0.80とは、酸素分子全体における初期の励起酸素分子の割合を80%としたからである。
【0027】
遅延時間1を適当な値に設ける必要がある理由を調べるため、シミュレーションを行った。具体的には、レーザ光を入射させずに、増幅器内に満たされる励起酸素分子の残存率(すなわち励起酸素分子の分圧に対する全酸素分子の分圧の割合)を計算した。この結果を図3に示す。なお、遅延時間1をパラメータとして3通りに変えて計算した。計算結果から明らかなように、ヨウ素分子が注入されると、励起酸素分子の残存率が急に低下していくことが示された。つまりヨウ素分子が注入されると、励起酸素分子のエネルギーがヨウ素分子の解離に使われることから、励起酸素分子が急激に失われると考えられる。
【0028】
なお、ヨウ素分子は解離すると、励起状のヨウ素原子が生成されることになる。励起状のヨウ素原子は寿命が短いことから、直ぐに失活してしまう。すなわち、効率良く増幅させるには、励起ヨウ素原子がある程度蓄積した直後に、レーザ光を入射させる必要がある。一方、励起ヨウ素原子の密度は、励起酸素分子の圧力が高い方が高い。このことから、増幅効率を高めるには、励起酸素分子を高い圧力になるまで蓄積しておく方が良い。したがって、励起酸素分子の分圧がある程度高くなってから、ヨウ素分子を注入する方が、増幅エネルギーを高くできると考えられる。
【0029】
ただし遅延時間1を長くすればするだけ増幅エネルギーが増えるということではない。遅延時間1が長くなっていくと、励起酸素分子の分圧が高くなる。このため、励起酸素分子同士、あるいは他の分子との衝突によってエネルギーを失う衝突失活の確率が増えていくからである。すなわち、遅延時間1には限度があり、増幅エネルギーを最大にするには最適な時間が存在する。そこで、増幅器内に蓄積される励起酸素分子の密度をモニタし、ほぼ密度が最大値に近くなった瞬間でヨウ素分子を注入し始めれば良い。
【0030】
具体的には、増幅器のチャンバに小さな窓を設けて、そこにフォトダイオード(以下、PDと示す。)等の受光器を配置する。そして、増幅器内の励起酸素分子から発生する波長約1.27μmの自然放出光の光強度(PDによる受光信号)をモニタすれば良い。自然放出光の光強度の増加率が、ある一定値より下がった瞬間にヨウ素分子の注入開始とすれば良い。
【0031】
あるいはまた、増幅器のチャンバに圧力計を設けて、内部に蓄積される全酸素分子の圧力をモニタしてもよい。この場合、全酸素分子の圧力がある一定値になった瞬間にヨウ素分子の注入開始とする。モニタされる圧力は励起酸素分子だけではなく、全酸素分子となる。しかしながら、励起酸素分子の存在割合が、他の実験等から既に既知であるならば、全酸素分子の圧力が判れば、励起酸素分子の分圧もほぼ推定できる。
【0032】
一方、増幅器に入射光を入射させるタイミングである遅延時間2を設けている。つまり遅延時間を0秒より長くしている。こうすることは、増幅器中にヨウ素分子がある程度蓄積させておくために必要である。従って、最適な遅延時間2は、ヨウ素分子を注入する速度であるフローレートに依存するが、少なくとも0秒より長い時間とすべきである。ただし、ヨウ素分子を10mol/s/mで注入する場合は、遅延時間2は0.1〜0.5ミリ秒が好ましい。これは、後述するシミュレーション結果から明らかになった値である。なお、遅延時間2はフローレートに反比例する。このことから、ヨウ素分子のフローレートをM(mol/s/m)とすると、遅延時間2は、1/M〜5/M(単位はミリ秒)の間が好ましいことになる。なお、本発明で言及する遅延時間1、及び遅延時間2とは、各気体が増幅器のチャンバ内に入る瞬間の時刻を基準にした時間遅れのことであり、遅延時間を制御する制御装置自体や信号ケーブルに起因する遅延時間等を除いたものである。
【0033】
以上に説明したように、シミュレーション結果から、以下のことが判明した。1マイクロ秒より長いロングパルスを効率良く増幅させる場合は、マルチパスは不要である。励起酸素分子の注入開始時刻を基準とした場合に、ヨウ素分子の注入開始時刻、及び発振器からのレーザ光を増幅器内に入射させる時刻の2つの遅延時間を適切に設ける必要がある。しかしそれには、発振器におけるレーザ発振のタイミングを正確に制御する必要がある。
【0034】
そこで本発明では、発振器にはフラッシュランプ励起のヨウ素レーザを用いている。レーザ発振のタイミングはフラッシュランプの発光タイミングから一定時間遅れたものである。そして、フラッシュランプを発光させるタイミングは、フラッシュランプを駆動させる電源回路のトリガーによって正確に制御できる。なお、非特許文献6では、励起酸素分子を瞬間的に発生させる方式によるパルス型化学励起ヨウ素レーザを開示している。しかしながら、フラッシュランプ励起のヨウ素レーザを用いることで、より正確に発振タイミングを制御することができる。
【0035】
以上のように、本実施形態のパルス型ヨウ素レーザ装置では、発振器にフラッシュランプ励起のヨウ素レーザを用いている。したがって、励起酸素分子を利用する化学励起ヨウ素レーザに基づく増幅器とは異なる原理で励起状ヨウ素原子を生成することになる。しかし、どちらも励起状ヨウ素原子から放出される波長1.315μmのレーザ光を発振、あるいは増幅させている。つまり波長が同じであることから、発振器において発振波長をチューニングする必要がないことも本発明の特徴である。これに対して、もしも発振器に近赤外域でレーザ動作する波長可変固体レーザを用いたとすれば、発振波長を1.315μmに正確に合わせるために、波長選択素子や波長安定化素子等が必要になってしまう。
【0036】
以上に説明したような最適なタイミングを選んだ場合のシミュレーション結果を図4に示す。図4に示すように、最適なタイミングを選んだとしても、増幅器の増幅効率を高くすることはできない。具体的には、増幅器の増幅効率は、最高30%程度であることがシミュレーションから明らかになった。また、利得と増幅効率とは相反してしまう。このため、高い増幅効率を得るには、利得が小さくなってしまうことから、入射光に大きなエネルギーが必要になってしまう。ところが、大きなエネルギーをパルス型ヨウ素レーザ発振器だけで得ることが難しい。このため、多段階の増幅器が必要になってしまう。
【0037】
そこで、多段増幅器を適用せず、1段で大きな利得と増幅効率を両立させるために、本実施形態では、ビーム断面形状を整形することが望ましい。具体的には、増幅器内で伝搬される入射レーザ光において、そのビーム断面積が次第に大きくなるように、ビーム整形させている。そして、ビームを整形してから、入射レーザ光を増幅器中に入射させている。これによると、増幅器内に入射する直後のビーム断面積を小さくできる。このため、エネルギーが小さくても、光強度を高くでき、効率良くレーザ光を増幅することができる。
【0038】
このように増幅器中で入射光のビーム断面積を増大させる手法は、色素レーザや固体レーザにおける小型の光励起レーザでは容易に適用できる技術である。しかしながら、ビーム断面積が1mにも相当する巨大なガスレーザに関しては、この手法は、化学励起ヨウ素レーザ以外では困難である。この理由について以下に説明する。
【0039】
巨大な体積の増幅器が利用される大出力のガスレーザとしては、炭酸ガスレーザやエキシマレーザなどが知られている。これらのレーザは放電励起方式である。よって、レーザ媒質中で均一な放電を行うには、増幅媒質の太さが一定である必要がある。これに対して、化学励起ヨウ素レーザでは、励起媒質である励起酸素分子とヨウ素分子とを増幅器中に満たせば良い。よって、増幅器の形状にはほとんど関係なく、構成することができる。従って、増幅器の形状として、光軸に沿って次第に太くすることも容易である。したがって、ビーム断面積が次第に大きくなるように整形された入射光と増幅媒質とを、空間的に良好にマッチングさせることができる。
【0040】
添付の図面を参照して実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0041】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1を図5に基づいて説明する。図5は本発明のパルス型ヨウ素レーザ装置100の基本構成を示した構成図である。パルス型ヨウ素レーザ装置100は、フラッシュランプ励起ヨウ素レーザ発振器10と化学励起ヨウ素レーザ増幅器20とで構成された発振・増幅器(MOPAと呼ばれることがある。MOPAはMaster Oscillator and Power Amplifierの頭文字である。)である。フラッシュランプ励起ヨウ素レーザ発振器10が発振段となる。化学励起ヨウ素レーザ増幅器20が増幅段となる。
【0042】
フラッシュランプ励起ヨウ素レーザ発振器10から取り出されるレーザ光L0は、2枚の凸レンズ18a、18bを通過する。これにより、レーザ光L0のビーム径が拡大され、レーザ光L1となる。レーザ光L1は、化学励起ヨウ素レーザ増幅器20の増幅器チャンバ101内に入射する。化学励起ヨウ素レーザ増幅器20はレーザ光L1を増幅する。そして、増幅器チャンバ101内で増幅されたレーザ光L1は、レーザ光L2として化学励起ヨウ素レーザ増幅器20から取り出される。
【0043】
フラッシュランプ励起ヨウ素レーザ発振器10では、レーザ管11内にヨウ素化合物であるn-C3F7Iの蒸気が満たされている。レーザ管11は、石英ガラスから成る透明材料によって形成されている。レーザ管11は全反射鏡12と出力鏡13を備えている。レーザ管11の近傍には2本のキセノンフラッシュランプ14a、14bが配置されている。キセノンフラッシュランプ14aは駆動電源16と電力線15a1、15a2を介して接続されている。キセノンフラッシュランプ14bは駆動電源16と電力線15b1、15b2を介して接続されている。
【0044】
駆動電源16にトリガー信号S4が入ると、これらの電力線15a1、15a2、15b1、15b2にパルス状の大電流が流れる。これにより、キセノンフラッシュランプ14a、14bが発光する。このトリガー信号S4は、制御装置108から供給される。制御装置108は、フラッシュランプ励起ヨウ素レーザ発振器10と化学励起ヨウ素レーザ増幅器20の両方を制御する。
【0045】
化学励起ヨウ素レーザ増幅器20は、増幅器チャンバ101と励起酸素発生器102と高圧塩素タンク104と、ヨウ素供給タンク106と、を備えている(図6も合わせて参照)。増幅器チャンバ101は、増幅媒質で満たされている。図6に示すように、励起酸素発生器102は、増幅器チャンバ101の底部に配置されている。高圧塩素タンク104は、励起酸素発生器102に対して塩素ガスを供給する。具体的には、高圧塩素タンク104と、励起酸素発生器102は、複数の供給管105で繋がれている。また、多数の供給管105にはそれぞれ、電磁バルブが設けられている。供給管105に設けられた複数の電磁バルブ全体をバルブV2とする。バルブV2は、制御装置108からの開閉信号S2によって開閉動作する。
【0046】
また、増幅器チャンバ101は、複数の供給管107を介して、ヨウ素供給タンク106と繋がれている。ヨウ素供給タンク106は、多数の供給管107を介して、増幅器チャンバ101にヨウ素分子を注入する。さられに、多数の供給管107のそれぞれには、電磁バルブが付けられている。供給管107に設けられた複数の電磁バルブ全体をバルブV3とする。バルブV3は、制御装置108からの開閉信号S3によって開閉動作する。
【0047】
化学励起ヨウ素レーザ増幅器20には、増幅動作を行う前に予め真空排気しておくための排気管103が設けられている。排気管103は図示していない真空ポンプに繋がれている。排気管103には、バルブV1が設けられている。バルブV1は、制御装置108からの開閉信号S1によって開閉動作する。レーザ動作させる前にバルブV1を開くことで、増幅器チャンバ101の内部は真空排気される。真空排気が終わるとバルブV1は閉じられる。次にバルブV2が開き、高圧塩素タンク104から塩素ガスが励起酸素発生器102内に注入される。これにより、励起酸素発生器102内で、励起酸素分子が発生し、増幅器チャンバ101内に蓄積されていく。
【0048】
一方、増幅器チャンバ101の側面の一部には小型の石英窓109が取り付けられている。石英窓109の外側近傍には、PD(フォトダイオード)110が配置されている。PD110は、増幅器チャンバ101内の励起酸素分子から発生する波長1.27μmの自然放出光の発光強度をモニタする。PD110は、発光強度に応じたモニタ信号S5を制御装置108に出力する。制御装置108は、バルブV1〜V3の開閉タイミングを制御するための開閉信号S1〜S3を出力する。制御装置108は、駆動電源16の駆動タイミングを制御するためのトリガー信号S4を出力する。
【0049】
PD110で受光されるモニタ信号S5の強度は、最初は直線的に増加していく。そして、次第に増加率が下がっていき、飽和するようになっていく。その理由を以下に示す。増幅器チャンバ101内に満たされる励起酸素分子の圧力が高くなり過ぎると、励起酸素分子同士による衝突失活の速度が増す。このため、蓄積できる励起酸素分子には限界がある。
【0050】
そこで、本実施形態では、PD110で受光されるモニタ信号S5の強度の時間変化率を算出する。そして、時間変化率がある一定値以下になった瞬間に、ヨウ素分子を注入させる。すなわち、時間変化率が閾値以下となると、制御装置108がバルブV3を開く開閉信号S3を発生させる。すなわち、制御装置108は、モニタ信号S5に応じて、バルブV3を制御している。
【0051】
以上のように、本実施形態では、PD110が、増幅器チャンバ101内に蓄積される励起酸素分子の自然放出光の発光強度をモニタしている。そして、バルブV3を開く開閉信号S3を発生させるタイミングを、制御装置108が自然放出光の発光強度に基づいて制御している。あるいは、バルブV3を開く開閉信号S3を発生させるタイミングは、増幅器チャンバ101の圧力に基づいていてもよい。
【0052】
圧力に応じてバルブV1の開閉を制御するための構成について説明する。圧力計111が増幅器チャンバ101に取り付けられている。圧力計111は、増幅器チャンバ101内に蓄積される全酸素分子の圧力をモニタする。そして、圧力計111は、圧力に応じたモニタ信号S6を制御装置108に出力する。制御装置108は、モニタ信号S6に応じて、開閉信号S3を発生させる。具体的には、制御装置108は、圧力がある一定値になった瞬間にバルブV3を開くように制御する。
【0053】
化学励起ヨウ素レーザ増幅器20に関して、図6を用いて補足説明する。図6は化学励起ヨウ素レーザ増幅器20における光軸に垂直な断面を示した断面構造図である。化学励起ヨウ素レーザ増幅器20は増幅器チャンバ101を有している。増幅器チャンバ101の下には、励起酸素発生器102が配置されている。励起酸素発生器102と高圧塩素タンク104との間は供給管105によって接続されている。供給管105のバルブV2を開く、高圧塩素タンク104から塩素ガスが励起酸素発生器102内に供給される。これにより、化学励起ヨウ素レーザ増幅器20をレーザ動作させることができる。
【0054】
増幅器チャンバ101と、ヨウ素供給タンク106とは、供給管107を介して接続されている。ヨウ素供給タンク106には、ヨウ素分子とバッファガスであるヘリウムガスが満たされている。供給管107のバルブV3を開くことで、ヨウ素供給タンク106からヨウ素分子とヘリウムガスが増幅器チャンバ101内に供給される。バルブV2、V3が開いた直後に増幅器チャンバ101にレーザ光L1が入射する。なお、励起酸素発生器102としては、非特許文献17に示されたようなポーラスパイプを用いたものを利用することができる。あるいは、非特許文献18に示されたような回転円板型を励起酸素発生器102として利用しても良い。
【0055】
レーザ光L1のパルス全幅は100マイクロ秒となっている。レーザ光L1のパルスがパルス型ヨウ素レーザ増幅器20に入射するタイミングの前に、バルブV2が開く。具体的には、パルスの入射タイミングの15.3ミリ秒前に、制御装置108からの開閉信号S2によって、バルブV2が開く。これにより、高圧塩素タンク104内の塩素ガスが供給管105を通って、励起酸素発生器102に供給される。そして、励起酸素発生器102内で、励起酸素分子(O2(1Δg))が発生し、増幅器チャンバ101内に満たされる。なお、励起酸素発生器102における励起酸素分子の発生効率は80%になっている。
【0056】
一方、バルブV2が開く瞬間の後、制御装置108から開閉信号S3が発生して、バルブV3が開く。具体的には、バルブV2が開くタイミングから15.0ミリ秒遅れて、バルブV3が開かれる。つまり遅延時間1は15.0ミリ秒である。その瞬間にヨウ素供給タンク106からヨウ素分子とヘリウムガスが供給管107を通って、増幅器チャンバ101内に供給される。ヨウ素分子とヘリウムガスは、増幅器チャンバ101内に満たされ、励起酸素分子と混合される。また、レーザ光L1は、増幅器チャンバ101内にヨウ素分子が注入され始めた後に、増幅器チャンバ101内を伝搬することになる。具体的には、ヨウ素分子の注入され始める瞬間から0.3ミリ秒後に、レーザ光L1が増幅器チャンバ101内を伝搬する。つまり遅延時間2(T2)は0.3ミリ秒である。その結果、図2に示されたグラフから判るように、レーザ光L1は効率良く増幅される。
【0057】
次に、本発明のヨウ素レーザ装置を構成する化学励起ヨウ素レーザ増幅器20において、装置が複雑になる多段増幅器を構成せず、1段で大きな利得と高い増幅効率の両方が得られる構成について、図7図9を用いて説明する。図7図9は、増幅媒質の形状を示す斜視図である。
【0058】
本実施形態では、増幅器内で伝搬される入射レーザ光L1において、そのビーム断面積が次第に大きくなるようにしている。図7は比較のために、一般的な増幅器も示してある。つまり平行なビームを入射させる場合で、増幅媒質は直方体の形状とした(Type−0)。図8は、Type−Iという形状を示している。図9は、Type−IIという形状を示している。Type−Iでは増幅器中に入射する入射光のビーム断面積を1次元方向(幅方向のみ)に広がるような増幅器を想定している。Type−IIでは、2次元(幅と高さの2方向)に広がる場合を想定している。以上の3通りに関して、増幅特性をシミュレーションで調べてみた。
【0059】
これら3通りにおける共通条件として、増幅器の出射端の面積を1m、増幅器の体積を10mとしている。そして、入射光のエネルギーを変えた場合の増幅エネルギーを算出した。また、Type−I、Type−IIでは、増幅器の出射端でのビーム断面積(Sout)と入射端でのビーム断面積(Sin)の比率をパラメータとした。図10にシミュレーション結果を示す。図10から明らかなように、Type−IもType−IIも、入射光のエネルギーに依らずに、Type−0よりも増幅エネルギーが大幅に増加する。また、Type−IIはType−Iよりも高い増幅エネルギーが得られることも判明した。
【0060】
ただし、Type−IやType−IIの形状の場合、Type−0の場合に比べて、同じ増幅体積を得るためには、増幅器の長さを長くする必要がある。そこで、増幅器の長さを短くできる増幅器構造の一例について図11を用いて説明する。図11は、化学励起ヨウ素レーザ増幅器200の構成図である。なお、図11は、化学励起ヨウ素レーザ増幅器200を上から見た断面構成図である。
【0061】
化学励起ヨウ素レーザ増幅器200では、増幅器チャンバ201にレーザ光L21が入射する。レーザ光L21は、最初に凸レンズ210を通って一度集光される。そして、凸レンズ210で集光されたレーザ光L21は、エッジミラー211で反射する。エッジミラー211で反射したレーザ光L21は増幅器チャンバ201内にウインド212aから入射する。ウインド212aとしては、両面反射防止膜付きの石英板が用いられる。石英板は、光軸に対して垂直に配置されている。あるいはレーザ光L21が直線偏光の場合は、ウインド212aとしてブリュースターウインドを用いても良い。
【0062】
増幅器チャンバ201内に入射したレーザ光L22は、次第にビーム断面積が増えていく。レーザ光22は、ウインド212bを通って、一度、増幅器チャンバ201から出射する(これをレーザ光L23とする)。レーザ光L23は、折り返しミラー213a、及び213bによって180°反対方向に折り返されて、レーザ光L24となる。レーザ光L24は、ウインド212bから再び増幅器チャンバ201内に進む(これをレーザ光L25とする)。レーザ光L25はウインド212aから外部に出射する(これをレーザ光L26とする)。レーザ光L26は、大型の凸レンズ214を通って平行ビームに整形され、レーザ光L27となって取り出される。
【0063】
本実施形態では、2枚の折り返しミラー213a、213bを使ってビームを180°折り返す構成が特徴である。これは、一般的なマルチパスの場合とは異なる。つまりマルチパスの場合は、1枚のミラーにほぼ垂直入射させて180°折り返すようにするからである。これに対して本実施例では、2枚のミラーで180°折り返す理由としては、増幅器チャンバ201内で、レーザ光L22とレーザ光L25とが空間的に重ならないようにしている。
【0064】
この理由を以下に説明する。従来のナノ秒オーダーのヨウ素レーザ増幅器では、レーザ光が増幅器内を1パス通過するだけでは、通過した部分のレーザ媒質からエネルギーを効率良く取り出せない。したがって、レーザ光を、何度も往復させている。つまり往復させるビームが空間的に多少重なっても増幅効率はほとんど変わらない。これに対して、本実施形態のパルス型ヨウ素レーザ増幅器では、入射光がロングパルスである。このため、1パスだけで、増幅媒質のエネルギーを効率良く取り出すことができる。従って、増幅器中では往復ビームが重ならないようになっている。
【0065】
本実施形態によると、増幅器チャンバ201内の増幅媒質中でのデッドスペース(レーザ光が通過せずに、無駄になる体積)を小さくできる。しかも図8図9に示した形状をそのまま用いた場合に比べて増幅器の長さを約半分にできる。このような化学励起ヨウ素レーザ増幅器200を図1で示した化学励起ヨウ素レーザ増幅器20の代わりに用いることも可能である。
【0066】
本実施の形態によれば、1マイクロ秒より長いパルス幅を対象とした高効率なパルス型ヨウ素レーザ装置を提供することができる。特に、大型のパルス電源が不要である化学励起ヨウ素レーザによる増幅器を用いて効率良く増幅できる装置を提供することができる。
【0067】
実施の形態2.
次に、実施の形態2にかかるパルス型ヨウ素レーザ装置について、図12を用いて説明する。図12は、実施の形態2にかかるパルス型ヨウ素レーザ装置300の構成図である。パルス型ヨウ素レーザ装置300は、化学励起ヨウ素レーザ発振器310と化学励起ヨウ素レーザ増幅器320とで構成されている発振・増幅器である。すなわち、本実施形態2では発振器にも化学励起ヨウ素レーザを用いている点が実施形態1の構成と異なる点である。従って、構造的には、化学励起ヨウ素レーザ発振器310も化学励起ヨウ素レーザ増幅器320も、前述したパルス型ヨウ素レーザ装置100の化学励起ヨウ素レーザ増幅器20とほぼ同様になっている。例えば、化学励起ヨウ素レーザ発振器310と化学励起ヨウ素レーザ増幅器320の断面構造は、図6と同様の構成になっている。
【0068】
化学励起ヨウ素レーザ発振器310では、発振器チャンバ311に対して励起酸素分子とヨウ素分子を供給している。発振器チャンバ311の両側には、出力鏡313と全反射鏡314と、が配置されている。出力鏡313と全反射鏡314とで共振器が構成されている。出力鏡313からレーザ光L30が取り出される。レーザ光L30は2枚の凸レンズ318、319から成るビーム拡大器を通過する。これにより、レーザ光L30のビーム径が拡大されて、レーザ光L31となる。レーザ光L31は、化学励起ヨウ素レーザ増幅器320の増幅器チャンバ321内に入射する。増幅器チャンバ321で増幅されたレーザ光L32が取り出される。
【0069】
化学励起ヨウ素レーザ発振器310の励起酸素発生器において励起酸素分子を発生させるために、化学励起ヨウ素レーザ増幅器20と同様に、塩素ガスが供給される。具体的には、発振器チャンバ311の下に配置された励起酸素発生器(図12では不図示)に対して、高圧塩素タンク315から塩素ガスが供給される。なお、高圧塩素タンク315と励起酸素発生器との間の供給管にはバルブV35が配置されている。バルブV335が塩素ガスの供給を制御している。
【0070】
また、ヨウ素供給タンク316には、ヨウ素分子とバッファガスが溜められている。バッファガスには、上記と同様に、ヘリウムガスが用いられている。ヨウ素供給タンク316から発振器チャンバ311に対してヨウ素分子とバッファガスが供給される。ヨウ素分子とバッファガスを供給する供給管にはバルブV36が設けられている。バルブV36はヨウ素分子とバッファガスの供給を制御している。
【0071】
化学励起ヨウ素レーザ増幅器320は、増幅媒質で満たされる増幅器チャンバ321を備えている。増幅器チャンバ321の下には励起酸素発生器(図12では不図示)が配置されている。高圧塩素タンク325には、励起酸素発生器に対して供給される塩素ガスが溜められている。高圧塩素タンク325は塩素ガスを励起酸素発生器に対して供給する。なお、高圧塩素タンク325と励起酸素発生器との間の供給管にはバルブV33が配置されている。バルブV33が塩素ガスの供給を制御している。なお、化学励起ヨウ素レーザ発振器310と化学励起ヨウ素レーザ増幅器320の励起酸素発生器は、図6で示した構成と基本的に同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0072】
ヨウ素供給タンク316と同様に、ヨウ素供給タンク326には、ヨウ素分子とバッファガスが溜められている。ヨウ素供給タンク326から増幅器チャンバ321に対してヨウ素分子とバッファガスが供給される。ヨウ素分子とバッファガスとを供給する供給管にはバルブV37が設けられている。バルブV37はヨウ素分子とバッファガスの供給を制御している。
【0073】
発振器チャンバ311は、バルブV32を介して真空ポンプ(不図示)に接続されている。増幅器チャンバ321は、バルブV31を介して真空ポンプ(不図示)に接続されている。パルス型ヨウ素レーザ装置300をレーザ動作させるには、予めバルブV31、及びV32を開いておく。こうすることで、それぞれ増幅器チャンバ321、発振器チャンバ311内が真空排気される。なお、バルブV31、及びV32は、制御装置330からの開閉信号S31、S32によって制御される。真空排気が終わったら、制御装置330が、バルブV31、V32を閉じる。
【0074】
次に化学励起ヨウ素レーザ増幅器320の増幅器チャンバ321内に励起酸素分子の供給を開始する。そのため、制御装置330からの開閉信号S33によって、バルブV33が開かれる。バルブV33が開いた直後に、化学励起ヨウ素レーザ発振器310の発振器チャンバ311内に励起酸素分子の供給を開始する。このため、制御装置330からの開閉信号S35によってバルブV35が開かれる。
【0075】
増幅器チャンバ321には、圧力計323が取り付けられている。圧力計323は、増幅器チャンバ321内に注入される全酸素分子の圧力をモニタしている。圧力計323は、モニタ信号S34を制御装置330に出力する。制御装置330は、圧力計323からのモニタ信号S34に基づいて、化学励起ヨウ素レーザ発振器310のバルブV36の開閉を制御する。具体的には、増幅器チャンバ321内に満たされる全酸素分子の圧力が一定の圧力に到達した瞬間に、制御装置330は、開閉信号S36を出力する。この開閉信号S36によって、バルブV36が開く。このように、制御装置330は、酸素分子が一定圧力に到達したタイミングで、バルブV36を開くように指令を出す。バルブV36が開くと、化学励起ヨウ素レーザ発振器310の発振器チャンバ311内にヨウ素分子がバッファガスと共に供給される。ヨウ素分子がバッファガスの供給直後に、化学励起ヨウ素レーザ発振器310が発振するため、出力鏡313からレーザ光L30が取り出される。
【0076】
また、制御装置330は、開閉信号S36を出すのとほぼ同時に開閉信号S37をバルブV37に出力する。開閉信号S37によってバルブV37が開く。これにより、化学励起ヨウ素レーザ増幅器320の増幅器チャンバ321内にヨウ素分子がバッファガスと共に供給される。増幅器チャンバ321内では励起ヨウ素原子が生成するため、増幅作用を生じるようになる。励起ヨウ素原子の供給直後にレーザ光L31が入射する。化学励起ヨウ素レーザ増幅器320はレーザ光L31を増幅することができる。化学励起ヨウ素レーザ増幅器320で増幅されたレーザ光L31は、レーザ光L32となる。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態のパルス型ヨウ素レーザ装置300では、発振器にも化学励起ヨウ素レーザを用いた点に特徴がある。これを可能にしたのは、制御装置330が、開閉信号S31〜S33、S35〜S37を適切なタイミングで出力するからである。具体的には、制御装置330は、発振器と増幅器のそれぞれにおける励起酸素発生器で励起酸素分子を発生させるタイミング、及びそれぞれのチャンバ内に注入するヨウ素分子のタイミングを正確に制御している。本実施形態では、増幅器チャンバ321の全酸素分子の圧力に基づいて、バルブV31〜V33、V35〜V37を制御している。バルブV31〜V33、V35〜V37は例えば、電磁バルブである。
【0078】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態よる限定は受けない。例えば、もしも増幅器を2段で構成する場合、第一段目の増幅器を発振器と同様、フラッシュランプ励起ヨウ素レーザとして、第二段目を化学励起ヨウ素レーザとしても良い。
【0079】
本発明によると、大出力のパルスレーザ光を長距離伝送できるため、遠方に配置されている金属ターゲットに穴加工を施すことができる。従って、遠方から飛来してくるミサイル等を破壊することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 フラッシュランプ励起ヨウ素レーザ発振器
11 レーザ管
12、314 全反射鏡
13、314 出力鏡
14a、14b キセノンフラッシュランプ
15a1、15a2、15b1、15b2 電力線
16 駆動電源
20、320 化学励起ヨウ素レーザ増幅器
101 増幅器チャンバ
102 励起酸素発生器
103、312a、322a 排気管
104、315、325 高圧塩素タンク
105 供給管
106、316、326 ヨウ素供給タンク
107 供給管
108、330 制御装置
109 石英窓
110 PD
111、323 圧力計
201 増幅器チャンバ
210、318、319 凸レンズ
211 エッジミラー
212a、212b ウインド
213a、213b 折り返しミラー
214 凸レンズ
310 化学励起ヨウ素レーザ発振器
L0〜L2、L21〜L27、L30〜L32 レーザ光
V1〜V3、V31〜V33、V35〜V37 バルブ
S1〜S4、S31〜S37 開閉信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12