【課題】本発明の目的は、成形時の流動性に優れるとともに、成形直後の膨れおよびリフロー後のブリスタの発生を抑制できる液晶ポリマー組成物を提供することにある。また本発明の目的は、ハイサイクル成形に適した液晶ポリマー組成物を提供することにある。
【解決手段】液晶ポリマー100重量部、繊維状充填材1〜30重量部、板状または粉状充填材1〜40重量部、および高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩0.01〜1.3重量部を含有し、溶融粘度が10〜25Pa・sである液晶ポリマー組成物。
液晶ポリマー100重量部、繊維状充填材1〜30重量部、板状または粉状充填材1〜40重量部、および高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩0.01〜1.3重量部を含有し、溶融粘度が10〜25Pa・sである液晶ポリマー組成物。
繊維状充填材と板状または粉状充填材との合計量が、液晶ポリマー100重量部に対して、2〜50重量部である、請求項1〜5のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
繊維状充填材が、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびウォラストナイトからなる群より選択される1種以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
板状または粉状充填材が、タルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタン、および珪藻土からなる群より選択される1種以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の液晶ポリマー組成物。
【背景技術】
【0002】
サーモトロピック液晶ポリマー(以下、液晶ポリマーまたはLCPと略称する)は、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等に優れているため、各種用途にその使用が拡大しつつある。
【0003】
特にパーソナル・コンピューターや携帯電話等の情報・通信分野においては、部品の高集積度化、小型化、薄肉化、低背化が急速に進んでおり、非常に薄い部分が形成されるケースが多い。そこで、液晶ポリマーはその優れた成形性、すなわち流動性が良好であり、かつバリが出ないという他の樹脂にない特徴を生かして、その使用量が大幅に増大している。
【0004】
また液晶ポリマーは、反りの発生抑制や機械強度の向上を目的に、通常タルクやマイカなどの充填材を添加した液晶ポリマー組成物として、成形に供することが知られている。
近年、成形品の更なる小型化や薄肉化とともに、成形時の射出速度を高めるハイサイクル成形が要求されており、液晶ポリマーにもより一層の高流動性が求められている。
ハイサイクル成形に適した高流動性の液晶ポリマーを得るためには、タルクやマイカなどの充填材の配合量を少なくし、低粘度化する方法が考えられる。
【0005】
しかし、充填材の配合量を少なくした液晶ポリマーをハイサイクル成形に供した場合、成形時に成形品表面に膨れが発生するとともに、リフロー後にブリスタが発生するという問題があった。
【0006】
成形品表面に膨れが発生する原因は、液晶ポリマーが成形機の金型内を通過する際に、金型と接触するスキン層(樹脂表面層)が先に固化するためコア層(樹脂中心部)との境界に歪みが生じ、金型を開いた際の応力によって歪み部分に空洞(膨れ)が生じるものと考えられる。ハイサイクル成形のような高速で射出した場合、スキン層とコア層との歪みが増大するため、膨れの発生個数もより顕著となる。
【0007】
また、コア層とスキン層との境界に歪みが生じた状態の成形品は、成形直後の表面に膨れが発生していない場合であっても、リフロー後にスキン層とコア層の間の空洞が熱膨張してブリスタが発生するという問題もあった。
【0008】
成形時の膨れを抑制する方法として、液晶ポリエステルに充填材とともに特定の脂肪酸エステルおよび脂肪酸金属塩を含有させた液晶性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
【0009】
しかしながら、特許文献1は、樹脂中に存在するガス(気泡)を低減することにより、気泡に起因する膨れの発生を防止するものであり、ハイサイクル成形のような高速射出においても膨れの発生を抑制し得るものではなかった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の液晶ポリマー組成物に用いる液晶ポリマーは、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれる異方性溶融相を形成する液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステルアミド樹脂である。
【0016】
液晶ポリマーの異方性溶融相の性質は、直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージにのせた試料を窒素ガス雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0017】
本発明に用いる液晶ポリマーは、一種の液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステルアミド樹脂であってもよく、二種以上の液晶ポリエステル樹脂および/または液晶ポリエステルアミド樹脂の混合物であってもよい。
【0018】
本発明に用いる液晶ポリマーは、分子鎖中に脂肪族基を有する半芳香族液晶ポリマー、または分子鎖が全て芳香族基より構成される全芳香族液晶ポリマーの何れを用いてもよい。これらの液晶ポリマーの中では、難燃性や機械物性が良好であることから全芳香族液晶ポリマー、特に全芳香族液晶ポリエステル樹脂を用いるのが好ましい。
【0019】
本発明に用いる液晶ポリマーを構成する繰返し単位としては、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位などが挙げられる。
【0020】
芳香族オキシカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えばパラヒドロキシ安息香酸、メタヒドロキシ安息香酸、オルトヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、3’−ヒドロキシフェニル−4−安息香酸、4’−ヒドロキシフェニル−3−安息香酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、パラヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が、得られる液晶ポリマーの特性や結晶融解温度を調整しやすいという点から好ましい。
【0021】
芳香族ジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が、得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、結晶融解温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから好ましい。
【0022】
芳香族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えばハイドロキノン、レゾルシン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル等の芳香族ジオール、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中では、ハイドロキノンおよび4,4’−ジヒドロキシビフェニルが、重合時の反応性、得られる液晶ポリマーの特性などの点から好ましい。
【0023】
芳香族アミノオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えばp−アミノフェノール、m−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、5−アミノ−1−ナフトール、8−アミノ−2−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0024】
芳香族ジアミノ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物などのアミド形成性誘導体が挙げられる。
【0025】
芳香族アミノカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えばp−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0026】
芳香族オキシジカルボニル繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば3−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、および5−ヒドロキシイソフタル酸等のヒドロキシ芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0027】
脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレートなどの脂肪族ジオキシ繰返し単位を含有するポリマーを、前記の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などと反応させることによっても、脂肪族ジオキシ繰返し単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0028】
本発明に用いる液晶ポリマーは本発明の目的を損なわない範囲で、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、および芳香族ジチオールおよびヒドロキシ芳香族チオールなどが挙げられる。これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、および脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であることが好ましい。
【0029】
これらの繰返し単位を組み合わせたポリマーは、単量体の構成や組成比、ポリマー中での各繰返し単位のシークエンス分布によっては、異方性溶融相を形成するものとしないものが存在するが、本発明に用いる液晶ポリマーは異方性溶融相を形成するものに限られる。
【0030】
本発明の液晶ポリマー組成物に使用される液晶ポリマーとしては、流動性に優れ、かつ膨れやブリスタの発生を抑制できる観点から、式(I)〜(IV)の繰返し単位から構成される全芳香族液晶ポリエステル樹脂が好適に使用される。
【0031】
【化1】
[式中、Ar
1およびAr
2はそれぞれ2価の芳香族基を表す。]
【0032】
ここで、「芳香族基」は、6員の単環または環数2の縮合環である芳香族基を示す。
【0033】
流動性に優れ、かつ膨れやブリスタの発生を抑制できる観点から、Ar
1およびAr
2はそれぞれ、下記の芳香族基(1)〜(4)から選択される1種以上のものであることが好ましく、Ar
1が式(1)および/または(4)で表される芳香族基であり、Ar
2が式(1)および/または(3)で表される芳香族基であることがより好ましく、Ar
1が式(1)で表される芳香族基であり、Ar
2が式(1)および(3)で表される芳香族基であることが特に好ましい。
【0035】
本発明に用いる好ましい液晶ポリマーの具体例としては、例えば下記の単量体構成単位からなるものが挙げられる。
1)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸共重合体
2)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
7)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル共重合体
8)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
10)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4'−ジヒドロキシビフェニル共重合体
11)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル共重合体
12)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
13)4−ヒドロキシ安息香酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
15)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4'−ジヒドロキシビフェニル共重合体
16)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
17)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
18)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4−アミノフェノール共重合体
19)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル /4−アミノフェノール共重合体
20)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
21)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
22)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
23)4−ヒドロキシ安息香酸/2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
24)4−ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4,4'−ジヒドロキシビフェニル共重合体。
【0036】
以上の中でも、1)、9)、10)および12)の単量体構成単位からなる液晶ポリマーが好ましく、特に10)の単量体構成単位からなる液晶ポリマーがより好ましい。
【0037】
以下、本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法について説明する。
【0038】
本発明に用いる液晶ポリマーの製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合またはアミド結合を形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを用いることができる。
【0039】
溶融アシドリシス法とは、本発明で用いる液晶ポリマーの製造方法に用いるのに好ましい方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、続いて反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば、酢酸、水等)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0040】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0041】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法の何れの場合においても、液晶ポリマーを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基および/またはアミノ基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2〜5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0042】
単量体のアシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリマーの製造時に単量体に無水酢酸等のアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0043】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法の何れの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0044】
触媒の具体例としては、ジアルキルスズオキシド(例えばジブチルスズオキシド)、ジアリールスズオキシドなどの有機スズ化合物;二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物;カルボン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩(例えば酢酸カリウム);無機酸塩類(例えば硫酸カリウム);ルイス酸(例えば三フッ化硼素);ハロゲン化水素(例えば塩化水素)などの気体状酸触媒などが挙げられる。
【0045】
触媒の使用割合は、通常単量体全量に対して1〜1000ppm、好ましくは2〜100ppmである。
【0046】
このようにして重縮合反応されて得られた液晶ポリマーは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工される。
【0047】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリマーは、分子量を高め耐熱性を向上させる目的などで、減圧下または不活性ガス雰囲気下において、実質的に固相状態において熱処理を行ってもよい。
【0048】
固相状態で行う熱処理の温度は、液晶ポリマーが溶融しない限り特に限定されないが、260〜350℃、好ましくは280〜320℃で行うのがよい。
【0049】
本発明の液晶ポリマー組成物は、上記のようにして得られた液晶ポリマー100重量部に加えて、繊維状充填材1〜30重量部、板状または粉状充填材1〜40重量部、および高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩0.01〜1.3重量部を含有し、溶融粘度が10〜25Pa・sである。
【0050】
繊維状充填材の含有量は、1〜30重量部、好ましくは2〜25重量部、より好ましくは3〜20重量部であり、板状または粉状充填材の含有量は、1〜40重量部、好ましくは2〜35重量部、より好ましくは3〜30重量部である。繊維状充填剤または粒状充填材の含有量が上記下限値以上であると、液晶ポリマー組成物の耐熱性や機械強度にさらに優れる。繊維状充填剤または粒状充填材の含有量が上記上限値以下であると、流動性にさらに優れる。繊維状充填材の含有量が1重量部を下回る場合、および板状または粒状充填材の含有量が1重量部を下回る場合、いずれも液晶ポリマー組成物の耐熱性や機械強度が不足するとともに反りが発生しやすくなる。繊維状充填材の含有量が30重量部を上回る場合、および板状または粒状充填材の含有量が40重量部を上回る場合、いずれも流動性が悪くなるとともに膨れが発生しやすくなる。
【0051】
また、繊維状充填材と板状または粒状充填材との合計量は、液晶ポリマー100重量部に対して、2〜50重量部が好ましく、4〜48重量部がより好ましく、6〜45重量部がさらに好ましい。繊維状充填材と板状または粒状充填材の合計量が上記下限値以上であると、液晶ポリマー組成物の耐熱性や機械強度にさらに優れるとともに反りが発生しにくい。繊維状充填材と板状または粒状充填材との合計量が上記上限値以下であると、流動性にさらに優れ、また膨れが発生しにくい。
【0052】
高級脂肪酸エステルの含有量は、0.01〜1.3重量部、好ましくは0.03〜1.2重量部、より好ましくは0.05〜1.0重量部である。高級脂肪酸エステルの含有量が上記下限値以上であると、膨れの発生がさらに抑制され、また高級脂肪酸エステルの含有量が上記上限値以下であると、ブリスタがさらに発生し難い。高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩の含有量が0.01重量部を下回ると、膨れが発生しやすくなり、1.3重量部を上回ると、ブリスタが発生しやすくなる。
【0053】
本発明において使用される繊維状充填材の具体例としては、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維およびウォラストナイトからなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
【0054】
本発明において用いる繊維状充填材の平均繊維径および平均繊維長は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、平均繊維径が0.1〜50μmであり、平均繊維長が50〜700μmであることが好ましい。
【0055】
これらの繊維状充填材の中でも、機械強度の点でガラス繊維が好適に使用される。
【0056】
本発明において使用される板状または粉状の充填材の具体例としては、タルク、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、ドロマイト、クレイ、ガラスフレーク、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタン、および珪藻土からなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。これらの中で、寸法安定性の点でタルクが好ましい。
【0057】
本発明において使用される高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩の原料となる高級脂肪酸は、好ましくは炭素原子数10以上のものである。高級脂肪酸の例としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、モンタン酸等が挙げられる。この中でステアリン酸およびモンタン酸が好ましい。
【0058】
エステルの原料となるアルコールとしては、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、グリセリン、ソルビタン、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、ポリオキシエチレンビスフェノールA等が挙げられる。
【0059】
また、金属塩を構成する金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、あるいは亜鉛などが挙げられ、特にアルカリ土類金属が好ましく用いられる。高級脂肪酸金属塩の具体例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸リチウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸マグネシウムおよびパルミチン酸バリウム等が挙げられる。これらの中でもコストの点および成形品の物性維持の点で、ステアリン酸カルシウムおよびモンタン酸カルシウムが好ましく用いられる。
【0060】
本発明に用いられる高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩は、液晶ポリエステル樹脂組成物との混合を容易にするため、粉末または粒子形状であることが好ましい。また、高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩の粒径は、平均粒子径100μm未満が好ましく、粒径50μm未満がさらに好ましい。粒径が上記上限値以上未満の場合は、成形加工時に可塑化を安定させる効果に優れる。
【0061】
液晶ポリマー、繊維状充填材、板状または粉状充填材、および高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩を含有する本発明の液晶ポリマー組成物は、溶融粘度が10〜25Pa・s、好ましくは12〜23Pa・s、より好ましくは13〜20Pa・sであり、溶融粘度が比較的低い高流動性の液晶ポリマー組成物である。なお、溶融粘度は、液晶ポリマー組成物の結晶融解温度以上で測定される溶融粘度、例えば結晶融解温度+10℃における溶融粘度であり、好ましくは350℃における溶融粘度である。溶融粘度は、液晶ポリマーや充填材等の液晶ポリマー組成物に含まれる液晶ポリマーや添加剤等の種類および含有比率等のより調整することができる。
【0062】
液晶ポリマー組成物の溶融粘度が上記下限値以上であると、膨れの抑制効果が高く、また、液晶ポリマー組成物の溶融粘度が上記上限値以下であると、流動性にさらに優れる。液晶ポリマー組成物の溶融粘度が10Pa・sを下回る場合、膨れ抑制効果が得られず、25Pa・sを上回る場合、流動性が低下するため成形性が悪くなる。
【0063】
本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した繊維状充填材、板状または粉状充填材、高級脂肪酸エステルおよび/または高級脂肪酸金属塩以外に、さらに添加剤を含有してもよい。さらに含有してもよい添加剤としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、ポリシロキサン、フッ素樹脂などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などから選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0064】
また、本発明の液晶ポリマー組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、他の樹脂成分を含有してもよい。他の樹脂成分としては、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、およびその変性物、ならびにポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどの熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。他の樹脂成分は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて含有させることができる。他の樹脂成分の含有量は特に限定的ではなく、液晶ポリマー組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には液晶ポリマー100重量部に対する他の樹脂の合計含有量が0.1〜100重量部、特に0.1〜80重量部となる範囲で添加される。
【0065】
上述した繊維状充填材、板状または粉状充填材および高級脂肪酸エステルと、必要によりその他の添加剤並びに他の樹脂成分などは、液晶ポリマー中に添加され、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出機などを用いて、液晶ポリマーの結晶融解温度近傍ないし結晶融解温度+20℃で溶融混練して液晶ポリマー組成物とすることができる。
【0066】
このようにして得られた本発明の液晶ポリマー組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって、射出成形品、フィルム、シート、および不織布などの成形品に加工される。これら成形品は、本発明の液晶ポリマーから構成され、つまり、本発明の液晶ポリマー組成物を成形して得られる。
【0067】
本発明の液晶ポリマー組成物から構成される成形品としては、スイッチ、リレー、コネクタ、チップ、光ピックアップ、インバータトランス、コイルボビン、アンテナおよび基板などが挙げられる。
【0068】
本発明の液晶ポリマー組成物は、高流動性であるため射出速度が通常100〜500mm/sec、好ましくは110〜480mm/sec、より好ましくは120〜450mm/sec、さらに好ましくは130〜320mm/secであるハイサイクル成形に好適に使用することが可能である。
【0069】
しかもハイサイクル成形時の課題であった膨れが著しく抑制されるため、本発明の液晶ポリマー組成物は、小型化および薄肉化が求められる電気電子部品、特にコネクタの成形材料として好適に用いられる。
【0070】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
LCPの合成例
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、パラヒドロキシ安息香酸314.2g(35モル%)、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸61.2g(5モル%)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル169.4g(14モル%)、ハイドロキノン114.5g(16モル%)およびテレフタル酸323.9g(30モル%)を仕込み、さらに全単量体の水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0072】
窒素ガス雰囲気下に室温〜145℃まで1時間かけて昇温し、同温度で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステル樹脂(液晶ポリマー)のペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。
【0073】
実施例1〜2および比較例1〜5
合成例で得られた液晶ポリマー100重量部に、繊維状充填材、板状充填材および高級脂肪酸エステルを表1に記載の重量比でそれぞれ配合し、二軸押出機(株式会社JSW、TEX−30)にて溶融混練したものをペレット化し、液晶ポリマー組成物を調製した。繊維状充填材、板状充填材および高級脂肪酸エステルは以下のものを使用した。
〈繊維状充填材〉
CPIC社製ガラス繊維ECS3010A(平均繊維径:10.5μm)
〈板状充填材〉
富士タルク株式会社製タルクHK−A(平均粒子径24.0μm、含水量0.13重量%)
〈高級脂肪酸エステル〉
クラリアント ジャパン社製Licowax E flakes powder(融点:82℃)
【0074】
得られた液晶ポリマー組成物のペレットについて、溶融粘度を以下に示す方法にて測定した。結果を表1に示す。
【0075】
(1)溶融粘度
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、1.0mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec
−1の条件下、試料(液晶ポリマー組成物のペレット)の350℃での溶融粘度を測定した。
【0076】
【表1】
【0077】
得られた液晶ポリマー組成物のペレットについて、膨れ発生率およびブリスタ発生率を以下に示す方法にて測定した。結果を表2に示す。
【0078】
(2)膨れ発生率
射出成形機(日精樹脂株式会社製、NEX−15−1E)を用いて、表3に示す成形条件にて、縦30mm、横6.0mm、高さ5.0mm、厚さ0.2mmの箱型試験片を成形した。
この試験片100個について、成形直後の試験片表面の膨れを目視にて確認し、膨れが発生した試験片の個数をカウントした。膨れ発生率は、試験片100個に対する、膨れが発生した試験片の個数の割合を算出することによって決定した。
○:膨れ発生率0%、△:膨れ発生率1〜10%、×:膨れ発生率:11%以上
【0079】
(3)ブリスタ発生率
膨れ発生試験で作成した箱型試験片について、膨れが発生していない試験片を23℃、相対湿度50%の条件で24時間静置した後、IRリフロー装置(千住金属工業社製、SAI−2604)を用いて、各試験片について以下の条件でリフロー処理を行った。
リフロー後、試験片表面のブリスタを目視にて確認し、ブリスタが発生した試験片の個数をカウントした。ブリスタ発生率は、試験片100個に対する、ブリスタが発生した試験片の個数の割合を算出することによって決定した。
○:ブリスタ発生率0%、△:ブリスタ発生率1〜10%、×:ブリスタ発生率:11%以上
【0080】
<リフロー処理条件>
予備加熱:190℃、30〜50秒、本加熱:250℃以上、20〜30秒、ピーク温度:260〜265℃
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
表2に示される通り、実施例1および2の液晶ポリマー組成物は、射出速度が低い場合だけでなく、射出速度が高い場合であっても膨れ発生率およびブリスタ発生率が共に0%である、これより、本発明の液晶ポリマー組成物はハイサイクル成形に非常に好適であることが分かる。一方、比較例1〜5の液晶ポリマー組成物は、射出速度が低い場合において膨れおよびブリスタの発生が観察され、また射出速度が高い場合においては、膨れ発生率およびブリスタ発生率が非常に高い結果となり、本発明の課題を達成できない。