【実施例】
【0049】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0050】
(比較例1)
用いたフェノール樹脂は株式会社オーシカ製、ディアノールD−117(不揮発分45.5%、pH11.3)である。比較例1として、フェノール樹脂のみで接着剤を製造する場合は、D−117:小麦粉(赤花):ソーダ灰:水を、質量比10:1.5:0.3:1の割合で混合・撹拌して、フェノール樹脂調製物1を得て、これを比較例1の接着剤とした。
【0051】
(実施例1〜3、比較例2〜3)
実施例1〜3、及び比較例2として、フェノール樹脂とリグノフェノールとを混合する場合は、D−117:小麦粉(赤花):ソーダ灰を、質量比10:1.5:0.3の割合で混合・撹拌したフェノール樹脂調製物2を用いた。この場合は、フェノール樹脂に水を添加しなかった。
【0052】
リグノフェノールは、島根県隠岐の島町布施地区にあるリグノフェノール製造実証プラントにおいて、スギ木粉試料から相分離系変換システムにより得られたものを用いた。得られたリグノフェノールを1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(キシダ化学株式会社製)に溶解させ、さらに、レゾルシノール系接着剤用硬化剤(株式会社オーシカ製、D用硬化剤、ホルムアルデヒドの三量体とヤシ殻を含む)、小麦粉(日清製粉株式会社神戸工場製、日清フラワー薄力小麦粉)を添加し、撹拌することによりリグノフェノール調製物1を得た。水酸化ナトリウム水溶液、リグノフェノール、レゾルシノール系接着剤用硬化剤及び小麦粉の混合割合は、質量比7:3:1.5:0.3である。
【0053】
フェノール樹脂調製物2とリグノフェノール調製物1とを混合し、実施例1〜3及び比較例2の接着剤を得た。また、リグノフェノール調製物1のみを用いて製造した接着剤を、比較例3とした。
【0054】
実施例1〜3、及び比較例1〜3におけるフェノール樹脂調製物とリグノフェノール調製物との混合割合、及びフェノール樹脂とリグノフェノールとの質量比は、表1、表2のとおりである。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
(構造用集成材のJASに基づくブロックせん断試験)
実施例1〜3、及び比較例1〜3の接着剤を用いて、混合割合による接着性能を確認するため、クロマツ板を接着後、試験片を採取し、構造用集成材のJASに基づくブロックせん断試験を行った。
【0058】
被着材として、含水率15%以下のクロマツ板を幅75mm×厚さ12mm×材長900mmに裁断し、4枚作製した。このうち1枚のクロマツ板の裏側に、比較例1で得られた接着剤を刷毛塗布方法により250g/m
2で塗布した。この際、比較例1の接着剤のpHは10.3であった。接着剤を塗布した面と、2枚目のクロマツ板の裏側を向かい合わせたものを試験体とし、熱圧接着試験装置(高松横井工業株式会社製、FHP−H300型)を使用し、ホットプレス温度160℃、圧締圧力0.98Mpa、圧締時間35分により試験体を作製した。次に3枚目のクロマツ板の裏側にも、比較例1で得られた接着剤を同様に塗布し、4枚目のクロマツ板の裏側を向かい合わせたものを試験体とし、熱圧接着試験装置を用いて同様に試験体を作製した。作製した2組の試験体それぞれから構造用集成材のJASに定められたブロックせん断試験片を26個ずつ採取した。このとき、試験片の接着面積は750mm
2とした。同様に実施例1〜3、及び比較例2〜3で得られた接着剤についても、クロマツ板により試験体を作製し、ブロックせん断試験片を採取した。この際、接着剤のpHは、実施例1〜3についてそれぞれ、10.7、10.9、10.8、比較例2〜3についてそれぞれ、10.8、11.2であった。
【0059】
ブロックせん断試験は、試験片がせん断したときの荷重が、試験機の容量の15〜85%に該当する試験機(ミネベア株式会社製、AL−100kNB型)及び試験片のせん断面と荷重軸が平行であって、試験片に回転モーメントなどが生じないように設計されたブロックせん断試験装置(ミネベア株式会社製、JASせん断試験治具)を使用した。試験片を構成する一方のクロマツ板の端部、及び試験片を構成するもう一方のクロマツ板の逆側端部を、ブロックせん断試験装置で固定し、荷重速度1mm/分の条件で、各固定部から試験片の中央方向へ試験片のせん断面と荷重軸が平行となり、かつ、試験片に回転モーメントなどが生じないように荷重をかけ、試験片をせん断させた。
【0060】
(せん断強さの算出)
せん断強さは、下記式(3)により算出した。
【数1】
【0061】
(木破率の算出)
木破率は、点格子板を使用し、以下のようにして算出した。ブロックせん断試験にて、せん断させた試験片のせん断面の上に、180個の点を有する点格子板を重ね、試験片が木破している部分と重なり合っている点の数を数え、下記式(4)により、木破率を算出した。
【数2】
【0062】
比較例1については51個の試験片を用い、実施例1〜3および比較例2〜3については52個の試験片を用いて、ブロックせん断試験を実施し、最大荷重及び木破率を測定した。試験結果から算出したせん断強さ及び木破率の平均値と標準偏差を表3に示す。
また、表3に示すせん断強さの平均値をグラフにしたものを
図1とし、表3に示す木破率の平均値をグラフにしたものを
図2とする。
図1及び
図2において、エラーバーは標準偏差を表す。
図1のJAS基準値は7.2N/mm
2であり、
図2のJAS基準値は65%である。
【0063】
【表3】
【0064】
表3からわかるように、フェノール樹脂とリグノフェノールとの質量比が7.0/3.0〜2.7/7.3の範囲にある接着剤を用いた実施例1〜3については、せん断強さ及び木破率ともJAS基準値を満たし、比較例1の接着剤と同程度の接着性能が確認できた。特に、フェノール樹脂とリグノフェノールとの質量比が、約6.9/3.1である実施例1が、最も優れたせん断強さを示した。
【0065】
(合板のJASに基づく接着力試験)
実施例1〜3、及び比較例1〜3の接着剤を用いて、混合割合による接着性能を確認するため、アカマツ単板を接着後、試験片を採取し、合板のJASに基づく接着力試験を行った。
【0066】
被着材として、含水率1%(標準偏差0.2%)、厚さ3.3mmのアカマツ単板を幅35cm×長さ35cmに裁断し、3枚作製した。このうち1枚のアカマツ単板の裏側に、比較例1で得られた接着剤を刷毛塗布方法により350g/m
2で塗布した。この際、比較例1の接着剤のpHは11.5であった。接着剤を塗布した面と、2枚目のアカマツ単板の表側を繊維方向が直交するように向かい合わせて重ね、さらに、3枚目のアカマツ単板の裏側に、比較例1で得られた接着剤を同様に塗布し、2枚目の単板の裏側と繊維方向が直交するように向かい合わせたものを試験体とし、熱圧接着試験装置(高松横井工業株式会社製、FHP−H300型)を使用し、ホットプレス温度160℃、圧締圧力0.98Mpa、圧締時間は圧締時の単板厚さ1mmにつき90秒と換算し、9mm×90秒で13分30秒の圧締により試験体を作製した。作製した試験体から合板のJASに定められた引張せん断試験片を採取した。このとき、試験片の幅は25mmとし、試験片の切り込みと切り込みとの間隔は25mmとした。同様に実施例1〜3及び比較例2〜3で得られた接着剤についても、アカマツ単板により試験体を作製し、引張せん断試験片を採取した。この際、接着剤のpHは、実施例1〜3についてそれぞれ、11.9、11.9、12.0、比較例2〜3についてそれぞれ、11.7、12.1であった。
【0067】
引張せん断試験片は、比較例1で得られた接着剤により作製した試験体から48個採取し、これを12個ずつ4つの組にグループ分けした。同様に、引張せん断試験片は、実施例1〜3及び比較例2〜3で得られた接着剤により作製した各試験体からも48個ずつ採取し、これを12個ずつ4つの組にグループ分けした。
【0068】
1つめのグループについては常態接着力試験用、2つめのグループについては合板のJASに規定されている接着の程度を表す1類に該当するスチーミング処理試験用、3つめのグループについては同様に1類に該当する煮沸繰返し試験用、4つめのグループについては、合板のJASに規定されている接着の程度を表す特類に該当するスチーミング繰返し試験用とした。
【0069】
ここで、合板のJASに規定されている接着の程度を表す1類とは、コンクリート型枠用合板及び断続的に湿潤状態となる場所(環境)において使用することを主な目的とした合板のJAS第3条第2項の接着の程度の要件を満たす合板の類別をいう。また、特類とは、屋外又は常時湿潤状態となる場所(環境)において使用することを主な目的とした合板のJAS第3条第1項の接着の程度の要件を満たす合板の類別をいう。
【0070】
常態接着力試験、スチーミング処理試験、煮沸繰返し試験、及びスチーミング繰返し試験は、合板のJASに記載されている試験方法に準拠して実施した。各試験における引張せん断試験は、試験機(ミネベア株式会社製、AL−100kNB型)及び合板引張試験治具(ミネベア株式会社製)を使用した。合板引張試験治具を用いて、試験片の両端を各固定位置が対称的になるように固定し、荷重速度3mm/分の条件で、試験片を試験片の両端の方向に引張り、せん断させた。
【0071】
(せん断強さの算出)
常態接着力試験、スチーミング処理試験、煮沸繰返し試験、及びスチーミング繰返し試験において、せん断強さは、下記式(5)により算出した。
【数3】
【0072】
(木破率の算出)
常態接着力試験、スチーミング処理試験、煮沸繰返し試験、スチーミング繰返し試験において、木破率は、点格子板を使用し、以下のようにして算出した。引張せん断試験にて、せん断させた試験片のせん断面の上に、169個の点を有する点格子板を重ね、試験片が木破している部分と重なり合っている点の数を数え、下記式(6)により、木破率を算出した。
【数4】
【0073】
合板のJASに規定されているせん断強さと木破率の基準を表4に示す。以下、常態接着力試験、スチーミング処理試験、煮沸繰返し試験、及びスチーミング繰返し試験において、表4に示す合板のJAS基準値を満たす場合は「○」と評価し、合板のJAS基準値を満たさない場合は「×」と評価する。
【0074】
【表4】
【0075】
常態接着力試験では、採取した試験片について、作製したそのままの常態で引張せん断試験を実施し、最大荷重及び木破率を測定し、せん断強さ及び平均木破率を算出した。常態接着力試験の結果を表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
スチーミング処理試験については、採取した試験片を室温の水中に2時間以上浸せきした後、120±3℃で3時間スチーミングを行い、これを室温の水中に冷めるまで浸せきし、濡れたままの状態で引張せん断試験を実施し、最大荷重及び木破率を測定し、せん断強さ及び平均木破率を算出した。スチーミング処理試験の結果を表6に示す。
【0078】
【表6】
【0079】
煮沸繰返し試験については、採取した試験片を沸騰水中に4時間浸せきした後、60±3℃で20時間乾燥(恒温乾燥器に入れ、器中に湿気がこもらないように乾燥する。)し、更に沸騰水中に4時間浸せきし、これを室温の水中に冷めるまで浸せきし、濡れたままの状態で引張せん断試験を実施し、最大荷重及び木破率を測定し、せん断強さ及び平均木破率を算出した。煮沸繰返し試験の結果を表7に示す。
【0080】
【表7】
【0081】
スチーミング繰返し試験では、採取した試験片を室温の水中に2時間浸せきした後、130±3℃で2時間スチーミングを行い、室温の流水中に1時間浸せきし、更に130±3℃で2時間スチーミングを行い、室温の水中に冷めるまで浸せきし、濡れたままの状態で引張せん断試験を行い、同様にせん断強さ及び平均木破率を算出した。スチーミング繰返し試験の結果を表8に示す。
【0082】
【表8】
【0083】
表5〜8に示すせん断強さの平均値をグラフにしたものを
図3とし、表5〜8に示す木破率の平均値をグラフにしたものを
図4とする。
図3及び
図4において、エラーバーは標準偏差を表す。
図3中の☆マークは、合板のJASに規定されている接着程度の基準を満たしていることを示す。
【0084】
表5〜8からわかるように、フェノール樹脂とリグノフェノールとの質量比が7.0/3.0〜2.7/7.3の範囲にある接着剤を用いた実施例1〜3は、常態接着力試験、スチーミング処理試験、煮沸繰返し試験において、比較例1と同様に、JAS基準値を満たしており、さらに、実施例1及び3は、スチーミング繰返し試験においても、比較例1と同様に、JAS基準値を満たす結果となった。特に、フェノール樹脂とリグノフェノールとの質量比が、約6.9/3.1である実施例1は、全ての試験において、最も優れた木破率を示した。
【0085】
(実施例4)
フェノール樹脂調製物2とリグノフェノール調製物1とを、表9に示すとおりに混合し、実施例4の接着剤を得た。
【0086】
【表9】
【0087】
実施例4、並びに比較例1及び3の接着剤を用いて、混合割合による接着性能を確認するため、スギ単板を接着後、試験片を採取し、合板のJASに基づく接着力試験を行った。
【0088】
被着材として、含水率1%(標準偏差0.3%)、厚さ3.5mmのスギ単板を幅36cm×長さ36cmに裁断し、3枚作製した。このうち1枚のスギ単板の裏側に、比較例5で得られた接着剤を刷毛塗布方法により350g/m2で塗布した。この際、比較例1の接着剤のpHは11.4であった。接着剤を塗布した面と、2枚目のスギ単板の表側を繊維方向が直交するように向かい合わせて重ね、さらに、3枚目のスギ単板の裏側に、比較例5で得られた接着剤を同様に塗布し、2枚目の単板の裏側と繊維方向が直交するように向かい合わせたものを試験体とし、熱圧接着試験装置(高松横井工業株式会社製、FHP−H300型)を使用し、ホットプレス温度160℃、圧締圧力0.98Mpa、圧締時間は圧締時の単板厚さ1mmにつき90秒と換算し、9mm×90秒で13分30秒の圧締により試験体を作製した。作製した試験体から合板のJASに定められた引張せん断試験片を採取した。このとき、試験片の幅は25mmとし、試験片の切り込みと切り込みとの間隔は25mmとした。同様に、実施例4及び比較例3で得られた接着剤についても、スギ単板により試験体を作製し、引張せん断試験片を採取した。この際、接着剤のpHは、実施例4の接着剤が11.8、比較例3の接着剤が、12.2であった。
【0089】
引張せん断試験片は、比較例1で得られた接着剤により作製した試験体から48個採取し、これを12個ずつ4つの組にグループ分けした。同様に、引張せん断試験片は、実施例4及び比較例3で得られた接着剤により作製した各試験体からも48個ずつ採取し、これを12個ずつ4つの組にグループ分けした。
【0090】
1つめのグループについては常態接着力試験用、2つめのグループについては合板のJASに規定されている接着の程度を表す1類に該当するスチーミング処理試験用、3つめのグループについては同様に1類に該当する煮沸繰返し試験用、4つめのグループについては、特類に該当するスチーミング繰返し試験用とした。
【0091】
上述した方法と同様に、各グループについて、常態接着力試験、スチーミング処理試験、煮沸繰返し試験、及びスチーミング繰返し試験を実施し、最大荷重及び木破率を測定し、せん断強さ及び平均木破率を算出した。
【0092】
常態接着力試験の結果を表10に示す。
【0093】
【表10】
【0094】
スチーミング処理試験の結果を表11に示す。
【0095】
【表11】
【0096】
煮沸繰返し試験の結果を表12に示す。
【0097】
【表12】
【0098】
スチーミング繰返し試験の結果を表13に示す。
【0099】
【表13】
【0100】
表10〜13に示すせん断強さの平均値をグラフにしたものを
図5とし、表10〜13に示す木破率の平均値をグラフにしたものを
図6とする。
図5及び
図6において、エラーバーは標準偏差を表す。
図5中の☆マークは、合板のJASに規定されている接着程度の基準を満たしていることを示す。
【0101】
表10〜13からわかるように、フェノール樹脂とリグノフェノールとの質量比が7.0/3.0〜2.7/7.3の範囲にある接着剤を用いた実施例4においてのみ、常態接着力試験、スチーミング処理試験、煮沸繰返し試験、スチーミング繰返し試験のすべての試験でJAS基準値を満たした。また、実施例4は、すべての試験において、最も優れたせん断強さを示す結果となった。