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特開2017-53017燐含有鉄の製造方法及び、肥料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-53017(P2017-53017A)
(43)【公開日】2017年3月16日
(54)【発明の名称】燐含有鉄の製造方法及び、肥料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/02 20060101AFI20170224BHJP
   C05B 5/00 20060101ALI20170224BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170224BHJP
【FI】
   C21C1/02 LZAB
   C05B5/00
   B09B3/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-180056(P2015-180056)
(22)【出願日】2015年9月11日
(71)【出願人】
【識別番号】510123518
【氏名又は名称】JXホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000170325
【氏名又は名称】鴻池運輸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 高郁
【テーマコード(参考)】
4D004
4H061
4K014
【Fターム(参考)】
4D004AA43
4D004BA04
4D004CA29
4D004CA37
4D004CB04
4D004CC01
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA10
4H061AA02
4H061BB42
4H061CC08
4K014AE01
(57)【要約】
【課題】縦型炉内で、脱燐スラグに含まれる燐の、溶融鉄への濃縮を効果的に促進させることにより、得られる燐含有鉄中の燐の濃度を有効に高めることのできる燐含有鉄の製造方法及び、肥料の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の燐含有鉄の製造方法は、縦型炉を用いて、製鋼精錬の脱燐処理で発生した脱燐スラグから、燐を濃化させた燐含有鉄を製造する方法であって、縦型炉内の底部に底部炭材を装入して配置し、縦型炉内で前記底部炭材上に、鉄成分および燐成分を含む脱燐スラグを有する原料を、充填炭材とともに装入して配置する原料配置工程と、原料配置工程の後、縦型炉内で底部炭材に支燃性ガスを導入し、還元雰囲気とし、原料を溶融させ、溶融した燐含有鉄を得る溶融工程と、溶融工程の後、燐含有鉄を縦型炉から排出させる排出工程とを有し、縦型炉内に配置する前記原料中の鉄元素の量を、6〜25質量%とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦型炉を用いて、製鋼精錬の脱燐処理で発生した脱燐スラグから、燐を濃化させた燐含有鉄を製造する方法であって、
縦型炉内の底部に底部炭材を装入して配置し、縦型炉内で前記底部炭材上に、鉄成分および燐成分を含む脱燐スラグを有する原料を、充填炭材とともに装入して配置する原料配置工程と、原料配置工程の後、縦型炉内で底部炭材に支燃性ガスを導入し、還元雰囲気とし、原料を溶融させ、溶融した燐含有鉄を得る溶融工程と、溶融工程の後、燐含有鉄を縦型炉から排出させる排出工程とを有し、
縦型炉内に配置する前記原料中の鉄元素の量を、6〜25質量%とする燐含有鉄の製造方法。
【請求項2】
原料配置工程で、縦型炉内の前記底部炭材上に、前記原料及び充填炭材のそれぞれを、各一層以上の層状で交互に積層させて配置する請求項1に記載の燐含有鉄の製造方法。
【請求項3】
原料配置工程で、前記原料及び充填炭材を、合計三層以上の層状に積層させて配置する請求項2に記載の燐含有鉄の製造方法。
【請求項4】
溶融工程で、底部炭材および充填炭材から発生する一酸化炭素により、脱燐スラグ中の酸化状態の鉄成分を還元して溶融させるとともに、脱燐スラグが溶融してなる溶融スラグ中の酸化状態の燐成分を還元し、溶融した鉄に燐成分を含ませ、燐含有鉄を得る請求項1〜3のいずれか一項に記載の燐含有鉄の製造方法。
【請求項5】
前記溶融スラグが、カルシウム元素および珪素元素を含み、該溶融スラグにおける酸化物質量換算での珪素の量に対するカルシウムの量の比(CaO/SiO2)を、0.9〜1.5とする請求項4に記載の燐含有鉄の製造方法。
【請求項6】
前記原料に、カルシウム元素および珪素元素の少なくとも一方を含む他の原料を追加することで、前記溶融スラグの珪素元素の量に対するカルシウム元素の量の比(CaO/SiO2)を調整する請求項5に記載の燐含有鉄の製造方法。
【請求項7】
溶融工程で、縦型炉内の最大温度を1800℃〜2600℃とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の燐含有鉄の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の燐含有鉄の製造方法により製造される燐含有鉄を原料とし、この原料に、機械的処理および化学的処理のうちの少なくとも一つの処理を行う肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製鋼精錬の脱燐処理で発生した脱燐スラグから、燐を濃化させた燐含有鉄を製造する方法及び、それを用いて肥料を製造する方法に関するものであり、特には、脱燐スラグから燐濃度の高い燐含有鉄を得ることのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
燐(P)は、たとえば、非特許文献1に記載されているように、生体を構成するとともに、生命活動の維持に必要なエネルギー獲得における重要な機能を担う必須元素である。このため、燐は「いのちの元素」とも呼ばれ、例えば、化学肥料やエッチング液、鉄鋼添加材等として広く利用されている。
【0003】
燐を化学肥料として利用する場合、湿式法により燐鉱石から合成した燐酸が原料として多用される。湿式法による燐酸の合成は、燐鉱石を硫酸で分解し、生成する硫酸カルシウムを分離してまず希薄な燐酸を製造し、次いで高濃度まで濃縮して、燐酸を得ることにより行うことができる。
【0004】
また、燐酸は、半導体や金属アルミニウムのエッチング液等にも用いられており、この場合は、乾式法によって燐鉱石から合成された燐酸が原料として多用される。乾式法による燐酸の合成は、燐鉱石を電気炉で還元し、生成する黄燐を燃焼させて五酸化二燐とし、これを水和することで燐酸を得ることにより行うことができる。
【0005】
そしてまた、燐を鉄鋼添加材として利用する場合、燐鉱石から得られる燐鉄(フェロホスホル)が用いられる。燐鉄を製造するには、電気炉に燐鉱石、珪石、コークスおよび屑鉄を装入して溶融し、その過程で燐鉱石に含まれる燐酸化物(P25)をコークスに含まれる炭素で還元する。これにより、生成する溶融燐鉄を排出すれば、燐鉄を得ることができる。このようにして製造された燐鉄は、通常、質量%でP:20〜28%およびSi:約4%を含み、残部がFeおよび不純物からなる。
【0006】
このように燐は広く利用されているが、燐を利用する際に燐源(原料)となる燐鉱石は枯渇しつつある。このため、燐を含む産業副産物や汚泥から、燐を回収することや、燐鉱石として用いることのできる所定の燐濃度の燐含有鉄を人工的に製造することは、工業に限らず、農業やその他産業においても必要不可欠である。
【0007】
産業副産物に含まれる燐を回収する方法については、これまでに種々の提案がなされている。なかでも、製鋼精錬では、得られる鉄鋼製品の高温延性や耐食性、溶接性等の特性の悪化を招く溶銑中の燐の固溶を防止するため、溶銑の燐含有量を低減する脱燐処理が行われており、近年は、この脱燐処理で多量に発生する燐を含む脱燐スラグから、燐を回収する技術の開発が行われている。
【0008】
この種の技術としては、たとえば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1には、天然の燐鉱石の代替として利用可能な人工燐鉱石の製造方法であって、溶解炉内に燐原料、珪素原料および炭材とともに鉄原料を装入して溶融し、燐を濃化させた溶融鉄を排出することにより得られる燐含有鉄を人工燐鉱石とすることが記載されている。
特許文献1によれば、溶解炉内に燐原料とともに鉄原料を装入して溶融し、燐を濃化させた溶融鉄から燐含有鉄を得ることができ、そして、この燐含有鉄は、燐の濃化によりその含有量が増加していることから、天然の燐鉱石の代替品である人工燐鉱石として利用できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2014/017499号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】大竹 久夫,他4名,「リン資源枯渇危機とはなにか」,大阪大学出版会,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかるに、特許文献1に記載された方法では、溶解炉内で、鉄原料等が溶解した溶融鉄への燐の移行が十分に進行せず、得られる燐含有鉄中の燐の濃度を、所期したほどに高めることができなかった。それ故に、特許文献1に記載された方法は、更なる改善の余地があった。
【0012】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、縦型炉内で、脱燐スラグに含まれる燐の、溶融鉄への濃縮を効果的に促進させることにより、得られる燐含有鉄中の燐の濃度を有効に高めることのできる燐含有鉄の製造方法及び、肥料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は鋭意検討の結果、溶融鉄中の燐と炭素には相互に強い斥力が働くことに起因して、溶融鉄中の燐濃度と炭素濃度の間には負の相関があることに着目した。そして、この観点より、特許文献1に記載された方法では、溶解炉内に燐原料とともに鉄原料をも装入し、炉内では脱燐スラグ等の燐原料に含まれる鉄とともに鉄原料の鉄が多量に含まれるところ、溶解炉内で多くの鉄は、溶融した後に近傍の炭材の炭素に接触して炭素濃度が上昇し、溶融鉄への燐の濃縮が阻害される結果として、得られる燐含有鉄の燐の濃度を十分大きく高めることができないと考えた。
【0014】
このような知見に基き、この発明の燐含有鉄の製造方法は、縦型炉を用いて、製鋼精錬の脱燐処理で発生した脱燐スラグから、燐を濃化させた燐含有鉄を製造する方法であって、縦型炉内の底部に底部炭材を装入して配置し、縦型炉内で前記底部炭材上に、鉄成分および燐成分を含む脱燐スラグを有する原料を、充填炭材とともに装入して配置する原料配置工程と、原料配置工程の後、縦型炉内で底部炭材に支燃性ガスを導入し、還元雰囲気とし、原料を溶融させ、溶融した燐含有鉄を得る溶融工程と、溶融工程の後、燐含有鉄を縦型炉から排出させる排出工程とを有し、縦型炉内に配置する前記原料中の鉄元素の量を、6〜25質量%とすることにある。
【0015】
この発明の燐含有鉄の製造方法では、原料配置工程で、縦型炉内の前記底部炭材上に、前記原料及び充填炭材のそれぞれを、各一層以上の層状で交互に積層させて配置することが好ましい。特に、原料配置工程では、前記原料及び充填炭材を、合計三層以上の層状に積層させて配置することがより好ましい。
【0016】
また、この発明の燐含有鉄の製造方法では、溶融工程で、底部炭材および充填炭材から発生する一酸化炭素により、脱燐スラグ中の酸化状態の鉄成分を還元して溶融させるとともに、脱燐スラグが溶融してなる溶融スラグ中の酸化状態の燐成分を還元し、溶融した鉄に燐成分を含ませ、燐含有鉄を得ることが好ましい。
【0017】
この場合においては、前記溶融スラグが、カルシウム元素および珪素元素を含み、該溶融スラグにおける酸化物質量換算での珪素の量に対するカルシウムの量の比(CaO/SiO2)を、0.9〜1.5とすることがより好ましい。
またここでは、前記原料に、カルシウム元素および珪素元素の少なくとも一方を含む他の原料を追加することで、前記溶融スラグの珪素元素の量に対するカルシウム元素の量の比(CaO/SiO2)を調整することが好適である。
【0018】
なお、溶融工程では、縦型炉内の最大温度を1800℃〜2600℃とすることが好ましい。
【0019】
また、この発明の肥料の製造方法は、上記のいずれかの燐含有鉄の製造方法により製造される燐含有鉄を原料とし、この原料に、機械的処理および化学的処理のうちの少なくとも一つの処理を行うことにある。
【発明の効果】
【0020】
この発明の燐含有鉄の製造方法によれば、縦型炉内に配置する前記原料中の鉄元素の量を6〜25質量%として、縦型炉内に装入する鉄量を比較的少なくすることにより、脱燐スラグに含まれる燐の、溶融鉄への移行が効果的に促進されるので、得られる燐含有鉄中の燐の濃度を大きく高めることができる。
このような高い燐濃度の燐含有鉄は、機械的処理や化学的処理を施すことにより、特に肥料として有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明の一の実施形態に係る燐含有鉄の製造方法を示すフロー図である。
図2図1の燐含有鉄の製造方法に用いることのできる脱燐スラグの発生プロセスの一例を示すフロー図である。
図3図1の燐含有鉄の製造方法に用いることのできる縦型炉の一例を、原料及び炭材を装入配置した状態で概略的に示す縦断面図である。
図4】実施例で得られた燐含有鉄中の燐濃度と炭素濃度の関係を示すグラフである。
図5】実施例で得られた燐含有鉄中の燐濃度とスラグ塩基度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る燐含有鉄の製造方法では、たとえば、図1に示すように、製鋼精錬の脱燐処理で発生した脱燐スラグ1、及び、必要に応じて追加する他の原料2からなる原料を、炭材3とともに、縦型炉11内に装入し、縦型炉11内で、燐を濃化させた燐含有鉄4を得た後、燐含有鉄4及びスラグ5を縦型炉11から排出させる。
より詳細には、縦型炉11内の底部に底部炭材3aを装入して配置し、縦型炉内で前記底部炭材上に、鉄成分および燐成分を含む脱燐スラグ1を有する原料を、充填炭材3bとともに装入して配置する原料配置工程と、原料配置工程の後、縦型炉11内で底部炭材3aに支燃性ガスを導入し、還元雰囲気とし、原料を溶融させ、溶融した燐含有鉄4を得る溶融工程と、溶融工程の後、燐含有鉄4を縦型炉11から排出させる排出工程とを有する方法であり、特に、縦型炉11内に配置する原料1、2中の鉄元素の量を、6〜25質量%とするものである。
【0023】
(脱燐スラグ)
脱燐スラグ1は、図2に例示するような製鋼精錬の脱燐処理で発生する。
製鋼精錬では、高炉21内に、主に鉄源で構成される鉱石類と還元材であるコークスとが、交互に炉頂から投入されて層状に積み重ねられる。鉱石類およびコークスは、炉頂から徐々に炉内を降下しながら、羽口から吹き込まれ上昇するガス(加熱空気)により加熱され、鉱石類は還元されながら軟化、溶融して溶銑となり、炉下部から排出される。排出された溶銑には、通常、燐が0.1質量%程度で含まれる。
【0024】
溶銑に含まれる燐が固溶すると、得られる鉄鋼製品の高温延性や耐食性、溶接性等の特性を著しく悪化させるおそれがあるので、製鋼精錬では、脱燐処理で溶銑の燐含有量を低減する。図2に示すところでは、脱燐炉22において、溶銑に鉄スクラップとともに脱燐剤として塊状の生石灰や石灰石等を添加した状態で、高圧の酸素を吹き込むことにより、溶銑中の燐を酸化してスラグへ移行させる。これにより、脱燐炉22から排出される溶銑の燐含有量は0.01質量%程度に低減される一方で、溶銑中の燐は脱燐スラグ1に含まれる。
なお、脱燐処理された溶銑は、脱炭や精錬、鋳造、圧延等の処理を施すことにより鉄鋼製品に仕上げられる。
【0025】
このようにして発生する脱燐スラグ1は、燐を多く含むとともに発生量が多いことから、この発明では、かかる脱燐スラグ1から燐を回収することを目的とする。脱燐スラグ1は一般に、たとえば、リンをP25換算で2質量%〜8質量%、より典型的には2質量%〜4質量%で含有し、また鉄を元素質量として6質量%〜40質量%、より典型的には10質量%〜25質量%で含有する。通常、脱燐スラグ1中の燐は酸化物の形態(P25等)であり、鉄は酸化物及び/又は単体金属の形態である。さらに脱燐スラグ1は、マンガンを元素質量として3質量%〜10質量%、より典型的には3質量%〜7質量%で含有することがある。
なお、一般的な脱燐スラグのスラグ塩基度(CaO/SiO2)は、およそ2〜3程度である。
鉄元素を含む原料として、鉄スクラップなどを装入することもできるが、脱燐スラグ1以外の原料を用いないことが好ましい。具体的には、装入される鉄元素の全量の内、脱燐スラグ以外の原料に由来する鉄成分は、元素質量として20質量%以下、特には10質量%以下、さらには5質量%以下とすることが好ましい。
【0026】
(他の原料)
上記の脱燐スラグ1以外の他の原料2は、たとえば、後述する溶融スラグ中の、酸化物質量換算での珪素元素に対するカルシウム元素の量の比(CaO/SiO2)を調整すること等を目的として、脱燐スラグ1とともに縦型炉11内に装入する原料に追加することができる。
他の原料2は、カルシウム元素を含むものとしては、生石灰、消石灰、貝殻、卵殻などを挙げることができ、また、珪素元素を含むものとしては、廃ガラスなどを挙げることができる。これらのうちの一種以上を、他の原料2とすることができる。
【0027】
(炭材)
炭材3は、縦型炉11の羽口から供給される支燃性ガスと反応して一酸化炭素ガスを生成させ、上記の原料中の酸化状態の鉄成分及び燐成分の還元をもたらすためのものであって、炭素を主成分とする固体材料である。炭材3として、例えば、コークスや木炭、バイオマス、RDF、廃木材、廃パルプ、微粉炭を用いることができる。ここで、「RDF」とは、「Refuse Derived Fuel」の略であり、廃棄物に由来する炭材を意味する。炭材3は、溶解炉で使用可能な範囲であれば、非固体の炭素材料、例えばコールタールやピッチを含んでいてもよく、石炭を含んでもよい。
【0028】
<原料配置工程>
原料配置工程では、上述した脱燐スラグ1及び他の原料2からなる原料を、炭材3とともに、縦型炉11内に配置する。
具体的には、図3に示すような縦型炉11で、はじめに、縦型炉11の底部に、底部炭材3aを装入して配置し、その後、底部炭材3a上に、脱燐スラグ1を有する原料を、充填炭材3bとともに装入して配置する。
【0029】
ここにおいて、この発明では、縦型炉11内に配置する原料1、2中の鉄元素の量を、6〜25質量%とする。このように縦型炉11内に装入する鉄量を少なくすることにより、溶融工程で、多量の溶融鉄が炭材3の炭素に接触すること、及び、それによって溶融鉄中の炭素濃度が上昇することが抑制されて、溶融鉄への燐の濃縮を促進させることができるので、得られる燐含有鉄4に含まれる燐の濃度を大きく高めることができる。
この観点から、原料1、2中の鉄元素の量の上限値は、好ましくは20質量%とし、より好ましくは15質量%とする。
【0030】
また、同様の観点から、原料1、2中の脱燐スラグ1以外の鉄供給源からの鉄元素の量は、原料1、2全体の鉄元素の量の40%以下であることが好ましく、さらに20%以下であることがより一層好ましい。たとえば、原料1、2が多くの鉄原料を含むものとし、原料1、2に含まれる鉄元素のうち、脱燐スラグ1に含まれる鉄元素を除いた鉄元素の量が、原料1、2全体の鉄元素の量の40%を超える場合は、溶融工程で、多量の鉄が溶解して生成された溶融鉄が、炭材3の炭素に接触し、溶融鉄の炭素濃度の上昇を招き、製造される燐含有鉄4の燐濃度を十分に高めることができないおそれがある。
【0031】
ところで、図3に示す縦型炉11は、炉壁11bに、炉底11aから所定の高さに位置して、底部に支燃性ガス及び燃料を供給するための一次羽口12と、一次羽口12より上方側に位置して、上部に支燃性ガスを吹き込むための二次羽口13とを有するものであり、さらに、炉底11aに、溶融鉄を排出するための出湯口(図示せず)と、出湯口より上方に、スラグ5を排出するための排滓口(図示せず)とを備える。また、縦型炉11の上部には、原料1、2や炭材3を装入するための上部開口11cが設けられている。
縦型炉11の具体例としては、転炉形式又は高炉形式の炭材充填層型溶解炉またはサブマージドアーク炉を挙げることができる。縦型炉11の形状や大きさについては特に制限はない。
【0032】
ここで、底部炭材3aは、縦型炉11内で、炉底11aから、一次羽口12よりも上方側の位置まで、好ましくは二次羽口13よりも上方側の位置まで配置することができる。それにより、羽口から支燃性ガスを吹き込むことで、底部炭材3aに支燃性ガスを導入することができる。特に、底部炭材3aの最上部と、炉底11aとの間の鉛直距離Dvが2m以上となる高さまで、底部炭材3aを配置することが、所要の温度を確保するとの観点から好ましい。
【0033】
底部炭材3a上に配置する原料1、2は、充填炭材3bと混合させて装入することも可能であるが、図3に示すように、原料1、2及び充填炭材3bのそれぞれを略水平方向に延びる層状とし、それらの層状の原料1、2及び充填炭材3bを交互に積層させて配置することが好ましい。
それにより、原料1、2を充填炭材3bと混合させて配置した場合に比して、原料1、2中の鉄の近傍には、原料1、2中の燐が多く存在することになるので、後述の溶融工程で、原料1、2中の還元溶融した鉄に、同じ原料1、2に含まれる脱燐スラグ1中の還元した燐が移行しやすくなる。言い換えれば、原料1、2を充填炭材3bと混合させて配置した場合は、溶融工程で、原料1、2中の鉄成分が、その近傍の充填炭材3bの炭素と接触しやすくなって、溶融鉄中の炭素濃度が上昇し、それにより、溶融鉄への燐の濃縮が進まずに、製造される燐含有鉄4の燐濃度が低下することが懸念される。
より好ましくは、原料1、2の層と、充填炭材3bの層を、合計三層以上に交互に積層させて配置する。
【0034】
<溶融工程>
溶融工程では、羽口から支燃性ガスを含む流体を送りつつ、底部炭材3aに支燃性ガスを導入し、炭材3を燃焼させる。ここで、支燃性ガスは、酸素分子を含む気体である。支燃性ガスの導入により、炭材3は、酸素分子と部分酸化反応して一酸化炭素ガスを生成して、炉内を還元雰囲気とする。そして、炭材3の燃焼熱によって、原料1、2が加熱されて溶融することで、溶融鉄および溶融スラグが生成する。生成した溶融鉄および溶融スラグは滴下し、縦型炉11の底部に溶融鉄相を形成するとともに溶融鉄相の上に溶融スラグ相を形成する。
【0035】
その過程で、脱燐スラグ1に含まれる燐の酸化物が、炭材3や一酸化炭素ガスとの還元反応によって還元された後で溶融鉄に溶解するので、脱燐スラグ1に含まれる燐が溶融鉄に移行して濃化する。
【0036】
特にここでは、底部炭材3aおよび充填炭材3bから発生する一酸化炭素により、脱燐スラグ1中の酸化状態の鉄成分を還元して溶融させるとともに、脱燐スラグ1が溶融してなる溶融スラグ中の酸化状態の燐成分を還元し、溶融した鉄に燐成分が含まれる反応を起こすことが好適である。つまり、脱燐スラグ1に含まれる鉄成分の溶融した鉄に、その脱燐スラグ1に含まれる燐成分を含ませることが好ましい。それにより、溶融した鉄に炭材3の炭素が接触することによる溶融鉄中の炭素濃度の上昇が抑制されて、溶融鉄での燐の濃化を促進させることができる。その結果として、得られる燐含有鉄4の燐濃度を高めることができる。
【0037】
またここでは、脱燐スラグ1が溶融して生成された溶融スラグが、カルシウム元素および珪素元素を含み、溶融スラグにおける酸化物質量換算での珪素の量に対するカルシウムの量の比(CaO/SiO2)を、0.9〜1.5とすることが、燐濃度の増加の観点から好ましい。溶融スラグのこのスラグ塩基度(CaO/SiO2)の増加により、溶融スラグの流動性が良くなって、反応、分離、凝集等が速やかに生じる他、融点を下げることができるからである。
溶融スラグのCaO/SiO2が、0.9未満である場合は、流動性をあまり高めることができず、燐含有鉄4の燐濃度増加の効果を十分に得ることができない。この一方で、CaO/SiO2が、1.5を超える場合は、溶融のために高温が必要となり、耐火物の破損や操業の不安定化が懸念される。溶融スラグのCaO/SiO2は、1.2〜1.5とすることがより好ましく、さらに、1.3〜1.45とすることが特に好ましい。
【0038】
溶融スラグのスラグ塩基度を上記の範囲内に調整するため、先述したカルシウム元素及び/又は珪素元素を含む他の原料2を追加することができ、また他の原料2の装入量を増減させることができる。
溶融スラグの組成は、炉から取り出されるスラグ5の組成とほぼ等しく、投入する原料1、2や燃焼したコークス量から算定することができる。これにより、溶融スラグのCaO/SiO2を算出することが可能である。
【0039】
この溶融工程では、縦型炉11内の最大温度(ランス前理論燃焼温度)を、1800℃〜2600℃とすることができる。この温度を1800℃未満とすると、原料が溶融しない懸念があり、また2600℃より高くすると、耐火物損傷や操業不安定となる可能性がある。通常、縦型炉11の最上部の羽口近傍での燃焼温度が最高温度となり、上記の温度は、燃焼反応から計算することができる。
【0040】
<排出工程>
上述した溶融工程を経た後、縦型炉11の出湯口から溶融状態の燐含有鉄4を排出し、必要に応じて、これを鋳込み冷却した後、破砕、整粒することにより、燐が濃化した粒状等の燐含有鉄を得ることができる。この際に、縦型炉11の排滓口から、スラグ5が排出される。
【0041】
なお、この排出工程で燐含有鉄を排出しつつ、縦型炉11の上部開口11cから原料1、2や炭材3を装入することにより、燐含有鉄4を連続的に製造することができる。このように燐含有鉄4を連続的に装入するに当っては、上述した溶融工程で、縦型炉11に支燃性ガスを供給した際に、上部開口11cから原料1、2や炭材3を装入してもよい。
【0042】
このような製造方法により製造された燐含有鉄は、燐を、好ましくは2質量%以上の高濃度で含み、化学肥料やエッチング液、鉄鋼添加材等に用いることに適している。なかでも、後述の処理を施して肥料とすることが有効である。なお、製造された燐含有鉄中の炭素の含有量は、1質量%〜20質量%、特には1.0質量%〜2.5質量%とすることが好ましい。炭素は1質量%未満にすると溶解しにくく、2.5質量%超えにするとリン歩留りがあがらない可能性がある。
【0043】
<肥料の製造方法>
以上のようにして製造した燐含有鉄は、該燐含有鉄を原料として、その原料に、機械的処理および化学的処理のうちの少なくとも一つの処理を施すことにより、肥料の製造に供することができる。
ここで、機械的処理としては、粉砕、ふるい分け、磁力分離などを適宜利用することができる。またここで、化学的処理としては、空気中などの酸化雰囲気下での酸化、硫酸などの酸による溶解などを適宜利用することができる。
【実施例】
【0044】
次に、この発明の燐含有鉄の製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的とするものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0045】
(試験例1)
一次羽口及び二次羽口を有する2t試験溶解炉を縦型炉として用いて、底部炭材としてコークスを二次羽口の上部まで充填し、その上に、脱燐スラグ及び、充填炭材としてのコークスを混合して装入し、一次羽口より支燃性ガスを導入して脱燐スラグを溶融させ、燐含有鉄(Fe−P−Mn−C系)を得た。ここで用いた脱燐スラグは、鉄を14.2質量%、マンガンを6.6質量%、燐を2.3質量%でそれぞれ含有するものであった。溶融スラグのスラグ塩基度(CaO/SiO2)は1程度とした。
また、原料の装入は12チャージにわたって行い、1チャージ当たり原料及び充填炭材を32kg装入した。1チャージ当たりの装入物の比率は、脱燐スラグ1000kg、コークス600kgとした。
【0046】
(試験例2)
試験例2は、脱燐スラグの他の原料として石灰石を追加したことを除いて、試験例1と同様の条件で行った。1チャージ当たりの装入物の比率は、脱燐スラグ1000kg、石灰石100kg、コークス600kgとした。試験例2では、石灰石の追加により、溶融スラグのスラグ塩基度(CaO/SiO2)を1.3程度に調整した。
【0047】
(試験例3)
試験例3では、試験例1と同様の縦型炉を用いて、二次羽口の上部まで充填した底部炭材上に、同様の組成の脱燐スラグ及び、充填炭材としてのコークスを、底部側からこの順序で、それぞれ層状に一層ずつ配置して実質的に同様の試験を行った。つまり、層状の脱燐スラグは、底部炭材と層状の充填炭材の間に挟まれる態様で配置した。脱燐スラグ600kg及びコークス300kgを交互に装入し、これを10チャージにわたって行った。
【0048】
以上に述べた各試験例1〜3で得られた燐含有鉄(メタル)中の燐濃度と炭素濃度の関係、及び、燐含有鉄中の燐濃度とスラグ塩基度との関係をそれぞれ図4及び5に示す。
図4及び5に示すところから解かるように、試験例3で、燐濃度が9.5質量%と最も高い燐含有鉄が得られた。
【0049】
図4より、試験例1〜3のなかでも試験例3では、炭素濃度が1質量%程度と低く、燐濃度が6.5〜9.5質量%と高い燐含有鉄が得られたことが解かる。
また図5より、スラグ塩基度は試験例1、2、3の順に増加するところ、スラグ塩基度が所定の範囲内で増加するほど、燐含有鉄の燐濃度が増加する傾向があることが解かった。
【符号の説明】
【0050】
1 脱燐スラグ(原料)
2 他の原料(原料)
3 炭材
3a 底部炭材
3b 充填炭材
4 燐含有鉄
5 スラグ
11 縦型炉
11a 炉底
11b 炉壁
11c 上部開口
12 一次羽口
13 二次羽口
21 高炉
22 脱燐炉
Dv 底部炭材の最上部と炉底との間の鉛直距離
図1
図2
図3
図4
図5