【実施例】
【0031】
図1は、本願発明の実施例に係るリハビリ用杖1(本願請求項における「リハビリ用杖」の一例)の概要を示すブロック図である。以下、リハビリ用1の概要を説明する。
【0032】
図1を参照して、リハビリ用杖1は、取っ手3(本願請求項における「取っ手」の一例)と、柄5(本願請求項における「柄」の一例)と、センサ部7と、制御部9と、電源部10と、伸縮調整部11と、モニタ13(本願請求項における「モニタ」の一例)とを備える。取っ手3は、患者が握る部位であり、柄5との接続点15(本願請求項における「接続点」の一例)を有する。柄5は、取っ手3から延びており、接地部17(本願請求項における「接地部」の一例)を有する。センサ部7は、荷重測定部19(本願請求項における「荷重測定部」の一例)と加速度測定部21(本願請求項における「加速度測定部」の一例)とを有する。荷重測定部19は、第1力センサ部23(本願請求項における「第1力センサ部」の一例)と第2力センサ部25(本願請求項における「第2力センサ部」の一例)とを有する。加速度測定部21は、第1加速度計27(本願請求項における「第1加速度計」の一例)と第2加速度計29(本願請求項における「第2加速度計」の一例)とを有する。制御部9は、データ分析部31と、データ変換部33と、記憶部35と、通信部37と、電源制御部39とを有する。
【0033】
次に、
図2を参照して、リハビリ用杖1の具体的な構成について述べる。リハビリ用杖1は、荷重測定部19として、2つの力センサ部である第1力センサ部23及び第2力センサ部25を取っ手3の内部であって接続点15の両側に備える。具体的には、接続点15から取っ手3の前方端16(本願請求項における「取っ手の一端」の一例)までの間に第1力センサ部23を備え、接続点15から取っ手3の後方端18(本願請求項における「取っ手の他端」の一例)までの間に第2力センサ部25を備える。また、杖1は、加速度測定部21として、取っ手3の内部の制御部9に第1加速度計27を備え、柄5の内部の接地部17に近いところに第2加速度計29を備える。
【0034】
取っ手3は、前方上部51と、後方上部53と、前方下部55と、後方下部57とを備える。前方上部51は、患者が取っ手3を握ったときに、手のひらの親指及び人差し指に近い部分が当たるところを指す。後方上部53は、患者が取っ手3を握ったときに、手のひらの薬指及び小指に近い部分が当たるところを指す。前方下部55は、患者が取っ手3を握ったときに、親指、人差し指及び/又は中指をかけるところを指す。後方下部57は、患者が取っ手3を握ったときに、薬指及び/又は小指をかけるところを指す。柄5は、内部に電源部10を備える。電源部10は、センサ部7、制御部9及びモニタ13に電力を供給する。また、柄5は、長さを調整可能とする伸縮調整部11を備える。
【0035】
続いて、2つの力センサ部による測定について述べる。
図3は、2つの力センサ部による測定を説明する図であり、(a)リハビリ用杖1が地に着いているとき、及び、(b)リハビリ用杖1が振り上げられているときを示す図である。
【0036】
図3(a)を参照して、リハビリ用杖1が地に着いているとき、患者の体を支えるべく、取っ手3の前方上部51及び後方上部53から接地部17に向かって(
図3(a)に示す矢印の向きに)力がかかる。したがって、第1力センサ部23及び第2力センサ部25は、それぞれ上から下への力を感知して測定する。2つの力センサがあることにより、リハビリ用杖1にかかる力の大きさだけでなく、リハビリ用杖1のどこにどのような比率で力がかかっているかについても把握が容易となる。したがって、患者の歩様に関するさらなる情報を得ることが可能となる。
【0037】
また、
図3(b)を参照して、リハビリ用杖1を振り上げているとき、リハビリ用杖1には振り上げるための力がかかっている。具体的には、前方下部55に下から上への力がかかり、後方上部53に上から下への力がかかる。そのため、第1力センサ部23は、下から上への力を感知して測定し、第2力センサ部25は、上から下への力を感知して測定する。このように、取っ手3にかかる曲げ力も測定可能となる。このため、患者がリハビリ用杖1を地に着けているのか、振り上げているのかといったリハビリ用杖1の状態をデータから判別し、患者の歩様に関するさらなる情報を得られる。
【0038】
さらに、リハビリ用杖1が第1加速度計27及び第2加速度計29の2つの加速度計を備えるため、リハビリ用杖1全体の動きに加えて、リハビリ用杖1の姿勢を把握可能となる。例えば、リハビリ用杖1が鉛直方向を向いているのか水平方向を向いているのかといったことを判別し、患者の歩様に関するさらなる情報を得られる。
【0039】
さらに、取っ手3は、発光部41と、電源ボタン43と、USB接続部45とを備える。発光部41は、青色及び赤色に発光して、リハビリ用杖1の状態、充電レベル、エラー等を患者に表示する。電源ボタン43は、患者が電源部10のON/OFFを切り替えるために使用する。USB接続部45は、リハビリ用杖1の充電、設定、携帯電子機器との接続等に用いられる。発光部41、電源ボタン43及びUSB接続部45は、取っ手3の後方に備えられているため、患者が手元で操作したり視認したりするのに好都合である。
【0040】
制御部9は、図示しないデータ分析部31、データ変換部33、記憶部35、通信部37、電源制御部39、アンプ、A/Dコンバータを備える。通信部37は、外部機器との有線及び/又は無線での通信を行う。無線通信を行うか否かは切替可能である。電源制御部39は、リハビリ用杖1が一定時間使用されていない場合に、電源部10をOFFにする。
【0041】
さらに、制御部9は、図示しないブザーを備える。ブザーは、安全な値を超える力がリハビリ用杖1にかかった際に警報を発する。これにより、医療従事者がいない状況であっても、患者の自己管理により安全で治療上有意義な歩行リハビリを行うことが容易となる。そのため、自宅での歩行リハビリの実施が容易となる。患者の歩行リハビリに対する内発的動機づけを高めることもさらに容易となる。
【0042】
以下、リハビリ用杖1を用いた歩様分析方法(本願請求項における「歩様分析方法」の一例)の測定の具体例について述べる。
【0043】
患者は、電源ボタン43をONにして、リハビリ用杖1を用いて歩行する。制御部9は、荷重測定部19を制御して、歩行の間にリハビリ用杖1にかかる荷重を測定させる。また、制御部9は、加速度測定部を制御して、リハビリ用杖1の加速度を測定させる(測定ステップ;本願請求項における「測定ステップ」の一例)。測定結果は、データ分析部31及びデータ変換部33により表示に適した形式に変換される(変換ステップ)。モニタ13は、変換後の測定結果を表示する(表示ステップ)。また、通信部37は、必要に応じて、測定データを有線及び/又は無線で外部機器に転送する(転送ステップ)。
【0044】
モニタ13が表示する内容や、通信部37が通信するデータには、例えば、ステップ数、リハビリ用杖1に印加された力の現在値、最大値及び最小値(kg)、力の極大値のうち最後の2回の間の経過時間(秒)、リハビリ用杖1の矢状面及び前頭面に対する角度の現在値、最大値及び最小値(°)が含まれる。
【0045】
図4を参照して、測定結果について例示する。
図4は、リハビリ用杖1で測定した測定データを変換した後の測定結果として、力、角度、加速度の経時変化の概要を例示する図である。
図4において、力の値は、リハビリ用杖1の電源部10がONになったときの値を0kgとする。角度の値は、取っ手3の内部にある第1加速度計27が接地部17の近くにある第2加速度計29に対して前方にあるか後方にあるかで示される。加速度の値は、接地部17の加速度の絶対値|a
2|=(a
x22+a
y22+a
z22)
1/2として算出される。リハビリ用杖1が動いていないか等速直線運動を行っているときは、|a
2|=g(g;重力加速度)として表示される。
【0046】
患者がリハビリ用杖1の使用を開始する時刻t1以前は、荷重測定部19に荷重がかかっていないので力の値はゼロである。リハビリ用杖1が鉛直に立っているとすると、第1加速度計27と第2加速度計29が鉛直方向に一直線上にあり、角度はゼロ又は「鉛直」と表示される。リハビリ用杖1が静止しているため、加速度の絶対値|a
2|としてはgが表示される。
【0047】
時刻t1において、患者がリハビリ用杖1の使用を開始すると、荷重測定部19に荷重がかかり始める。体が前方に進む過程でリハビリ用杖1への荷重が減少に転じ、やがて時刻t2において、接地部17が地面から離れると、力の値はゼロとなる。この間、患者が前方に進むと共に取っ手3の内部にある第1加速度計27が前方に進むが、接地部17の近くにある第2加速度計29はほとんど動かないので、角度は「前方」側に増大する。また、接地部17の近くにある第2加速度計29がほとんど動かないので、加速度の絶対値|a
2|としてほぼgが表示される。
【0048】
時刻t2において、患者がリハビリ用杖1を振り上げて接地部17が地面から離れると、荷重測定部19にかかる荷重は、再び接地部17が地面に接地する時刻t3までゼロとなる。この間、接地部17は、次に接地する地点に向かって取っ手3よりも前方に向かって進む。すなわち、第1加速度計27が第2加速度計29に後れをとることとなるので、角度は「後方」側に増大する。また、時刻t2から時刻t3にかけて、加速度は、患者がリハビリ用杖1を振り上げて降ろす力に応じて変化する。
【0049】
時刻t3において、接地部17が地面に接地すると、荷重測定部19に再び荷重がかかり始める。体が前方に進む過程でリハビリ用杖1への荷重が減少に転じ、やがて時刻t4において、接地部17が地面から離れると、力の値はゼロとなる。この間、患者が前方に進むと共に取っ手3の内部にある第1加速度計27が前方に進むが、接地部17の近くにある第2加速度計29はほとんど動かないので、角度は「前方」側に増大する。また、加速度は、接地部17が地面に接地した時刻t3において、瞬間的に大きな加速度が発生する。次の瞬間にはgよりも加速度の絶対値が小さくなるが、やがて加速度はgに落ち着いて再度接地部17が地面から離れる時刻t4までは変化しない。
【0050】
以後、歩き続ける間は、時刻t2から時刻t4までのサイクルが繰り返される。
【0051】
患者が歩行を止める際には、最後に接地部17が地面に接触する時刻t5から荷重測定部19にかかる荷重が増大し始め、リハビリ用杖1が鉛直に立てられて使用を終了する時刻t6にかけて荷重が減少する。この間、角度は、時刻t5から時刻t6にかけて「前方」側にシフトし、時刻t6においてゼロ又は「鉛直」と表示される。また、加速度は、接地部17が接地した時刻t5の直後の急激な増減の後にgに落ち着いてからは、時刻t6まで変化しない。
【0052】
以上の時刻t1から時刻t6にかけての歩行から、力の最大値及び最小値が得られる。力の最小値は、原則としてゼロである。力の計測データからは、患者がどの程度リハビリ用杖1に依存しているかが視覚的に、かつ、定量的に把握可能となる。
【0053】
また、「前方」側の角度の最大値及び「後方」側の角度の最大値が得られる。角度の計測データからは、患者が杖をどの程度前後に動かしているかが視覚的に、かつ、定量的に把握可能となる。このため、患者の歩幅も定量的に把握可能となる。
【0054】
さらに、加速度の計測データから、患者の歩行がどの段階にあるかが視覚的に、かつ、定量的に把握可能となる。加速度データを見ると、患者の歩行を大きく3つの異なる状態に区別可能となる。1つ目に、接地部17が動かない状態。このとき加速度は、重力加速度で一定となる。2つ目に、接地部17が空中を動いている状態。このとき加速度は、杖の動きに応じて変化する。そして3つ目に、接地部17が地面に着いた瞬間。このとき加速度に非常に急激な変化が見られる。
【0055】
杖を用いて歩く歩行周期においては、次の2つの段階が区別される必要がある。
第1段階:接地部17が接地すべき新しい地点に向けて動いている段階
第2段階:接地部17が接地して、杖が支えとなりバランスをとる段階
【0056】
第1段階では、3つの特徴がある。接地部17が動いている。接地部17が取っ手3に対して前方に動いていて、角度の変化として現れる。また、荷重がほぼゼロである。第2段階でも、3つの特徴がある。接地部17が動いていない。接地部17が取っ手3に対して後方に動いて居て、角度の変化として現れる。また、荷重の変化がみられる。第1段階から第2段階の移行は、接地部17の地面への接地により特徴づけられていて、荷重や加速度の変化に現れる。このような段階間の移行の特徴を把握すれば、歩行の経時変化に加えてステップ数を得ることが可能となる。
【0057】
図5は、リハビリ用杖1で測定した力の経時変化の測定結果を例示する図である。縦軸は、リハビリ用杖1にかかった荷重[kg]を示し、横軸は、経過時間[秒]を示す。
【0058】
図5に示すように、計測データは通常、ノイズを含む。そのため、多少のノイズが入っても歩行周期を把握できることが好ましい。
図5では、2.6[秒]から13[秒]にかけて10サイクルの歩行周期が繰り返されたことが明確に把握できる。歩行周期1サイクルに要する平均時間は、(13[秒]-2.6[秒])/(10-1)=1.16[秒/サイクル]であった。言い換えると、歩行速度が、60[秒/分]/1.16[秒/サイクル]≒52[サイクル/分]であった。
【0059】
図5には、各サイクルにおける荷重の最大値も表示されている。例えば、第1サイクルの荷重の最大値は、19.44[kg]であった。第2サイクルの荷重の最大値は、19.31[kg]であった。10サイクルの荷重の最大値の平均は、
(19.44+19.31+20.25+21.24+20.43+18.99+17.33+17.46+20.29+21/20)/10=19.6[kg]
であった。
【0060】
本願発明に係るリハビリ用杖1を用いることにより、以上のような計測データ及びグラフが得られるので、患者の歩様を定量的に、かつ、視覚的に把握することが可能となる。また、定期的に歩様を測定することにより、リハビリの効果を見た目だけではなく、定量的に把握することが可能となる。
【0061】
ここで、データ分析部31、データ変換部33、記憶部35及びモニタ13の位置について述べる。
図6は、モニタ13の設置例を示す図であり、(a)リハビリ用杖1に取り付けられている例、及び、(b)リハビリ用杖1から離れている例を示す図である。
【0062】
図6(a)に示すように、リハビリ用杖1は、データ分析部31、データ変換部33、記憶部35を取っ手3に備え、モニタ13を柄5に備える。結果として、リハビリ用杖1には、備えるべき機能が全て組み込まれている。しかし、データ分析部31、データ変換部33、記憶部35及びモニタ13の位置に関しては、これに限られない
【0063】
図6(b)に示すように、リハビリ用杖1は、データ分析部31、データ変換部33、記憶部35及びモニタ13を外付けの外部機器が備えるものであってもよい。この場合、外部機器は、データ分析部31、データ変換部33、記憶部35及びモニタ13をリハビリ用杖1から分離して備えている。外部機器は、リハビリ用杖1の通信部37(本願請求項における「無線送信部」の一例)からの通信を受信する無線受信部(本願請求項における「無線受信部」の一例)を備える。リハビリ用杖1と外部機器は、全体として歩様分析システム(本願請求項における「歩様分析システム」の一例)を構成する。有線で又は無線で接続している。無線通信の方式としては、赤外線通信やBluetooth(登録商標)のようなラジオ波を用いた通信方式が挙げられる。この場合、リハビリ用杖1の測定データが通信部によって外部機器に転送され、外部機器によって分析され、適切な形式で表示される。
【0064】
外付けのデータ分析部31、データ変換部33、記憶部35及びモニタ13は、手で携帯する装置でもよいし、腕時計やメガネのように身に着けるデバイスでもよい。いずれにせよ、医療従事者及び/又は患者がリハビリを行っている際にリアルタイムに測定結果を確認できるシステムの構成であることが好ましい。
【0065】
なお、取っ手と柄は、取り外し可能な構造でもよいし、一体であってもよい。