【解決手段】血管機能検査装置1は、検査側の上腕に装着され、駆血及び開放を行う加圧部10と、指尖又は手首に装着され、駆血前後の脈波を測定するプローブ20と、加圧部10及びプローブ20を制御する制御部31と、制御部31に指令を与え、制御部31から脈波に係るデータを取得する処理部40と、を備え、処理部40が、脈波に係るデータに基づいて平均振幅値の計算及びカオス解析を行い、心血管疾患と血管内皮機能障害の判定を行うための特徴量を定量化する。
前記処理部が、前記カオス解析として、前記脈波の振幅値及びその変化率に基づいて駆血前後の血管ゆらぎを示すカオスアトラクターを算出し、前記算出されたカオスアトラクターについて、リアプノフ指数、外周面積及び短径と長径の固有ベクトルの少なくとも1つを定量化することを特徴とする請求項1に記載の血管機能検査装置。
前記プローブが光電式であって、測定部位に最適圧力を与えるための空気袋と、前記測定部位に光を照射する発光部と、前記測定部位からの反射光を受光する受光部と、を備えることを特徴とする請求項3に記載の血管機能検査装置。
前記プローブが、検査側の第1指尖に装着され、細い血管に係る前記脈波を測定する第1プローブを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の血管機能検査装置。
前記プローブが、対照側の第2指尖に装着され、細い血管に係る前記脈波を測定する第3プローブと、対照側の第2手首に装着され、太い血管に係る前記脈波を測定する第4プローブと、をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の血管機能検査装置。
前記処理部が、前記脈波について、検査側における駆血後の数値を(A)と、同じく駆血前の数値を(B)と、対照側における駆血後の数値を(C)と、同じく駆血前の数値を(D)とするとき、検査側駆血前後比(A/B)、対照側駆血前後比(C/D)及び前記検査側駆血前後比の前記対照側駆血前後比に対する検査側/対照側比((A/B)/(C/D))を求めることを特徴とする請求項6又は7に記載の血管機能検査装置。
前記第5ステップの後に、前記算出されたカオスアトラクターを心血管疾患ごとに既知のカオスアトラクター群とパターンマッチングにより対比する第9ステップをさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の血管機能検査方法。
【背景技術】
【0002】
重大な心血管疾患については、これに先立ち、血管機能障害が先行することが知られている。したがって、血管機能は、血管リスクを最も早く把握できる指標であり、心血管疾患に至る前に、投薬や生活習慣の変更によって回復可能である。つまり、血管機能の低下を早期に発見できれば、回復不可能な疾患の状態へ移る前に予防するができることになる。
【0003】
血管機能検査は、侵襲的方途と非侵襲的方法とに大別される。侵襲的方法としては、カテーテルによる血管造影法がある。しかし、これは入院検査であって高コスト、高リスクであり、非侵襲的方法が好ましく用いられる。非侵襲的方法としては、(1)エコー画像による血流依存性血管拡張反応(FMD;Flow−Mediated Dilation)検査がある。手動操作でエコー探触子を血管に押し当て、血管径を測定するものであるが、再現性が低く臨床応用に限界がある。(2)また、末梢動脈圧計側(PAT;Peripheral Arterisl Tonometry)検査がある。上腕駆血開放後の血管拡張反応を指尖の末梢脈拍動の血流量の変化として検出するものであるが、検査用プローブが使い捨てのためコストが高い。また、上腕の駆血は血圧計を用いて手動で行うため、操作者の負担が大きい。以下、(1)FMD検査と、(2)PATについて、説明する。
【0004】
(1)FMD検査とは、血管がアセチルコリン受容体からのシグナル伝達により、アルギニンから合成された一酸化窒素(NO)を介して拡張することや、血管が機械的刺激や「ずり応力(shear stress)」にも応答して血管内皮細胞よりNOが産生されて拡張することを応用したものである。近年、駆血開放後に血管内の血流増加により強力なずり応力が生じ、その後、一過性に血管が拡張する現象が明らかにされ、FMDと命名された。すなわち、FMDはNO依存性の一過性血管拡張反応と理解されている。FMDにより血管内皮細胞から産生されるNO等の血管拡張物質に反応する血管拡張性が診断できる。FMDを利用した検査方法としては上腕動脈の血管超音波検査で血管径変化を直接計測する方法を用いる。
【0005】
しかし、FMDの上腕動脈拡張率を超音波で測定する機器(BAUS:Brachial Artery Ultrasound)は、超音波による血管内径側定を原理とするため、内径描出が一定とならず、個人差が大きく再現性も乏しい。また、超音波エコー検査者の技量に依存するところが大きく超音波検査機器が高額(数千万円)である問題があった。また、測定時間も15分間と比較的長いという問題があった。
【0006】
(2)そこで、最近、FMD検査に関して、上腕動脈拡張率をエコーで測定するというデータの不安定と高額なエコー機器を使用しない上腕駆血解放後の血管拡張反応を指尖の毛細血管の圧変化でとらえるPAT技術による新しいFMD測定法が開発されている。例えば、非特許文献1に、上腕動脈駆血解放後の血管拡張反応に対して、指尖の血流量変動を圧変化として検出する方法が開示されている。また、PAT技術に関して特許文献1〜3が存在する。PATでも動脈硬化の判定が可能である報告もある(三上正俊、鍵谷昭文、小澤禎治:加圧脈波による動脈硬化診断。日本臨床生理学会雑誌35:9−18,2005)。
【0007】
しかし、PAT技術によりこれまでに商品化されている機器(商品名「エンドパッド2000」。なお、「ENDO PAT」は登録商標)は、上腕の駆血部分が手動になっており、加圧が一定でなく不安定で、駆血できているかの判断は、検者の波形による主観的判断に依存し、手動で適宣、再加圧している。指尖脈圧の駆血前後の指尖血流量を脈圧の比率(駆血後/駆血前)で計算するため、変化率が大きく出る。また、指尖血管圧測定プローブは、指尖を覆うプローブ内膜への依存性が高く、1回限りの「使い捨て」であり、ランニングコストが非常に高い問題を有している。また、測定時間も15分間と、FMD検査のそれから短縮されていないという問題があった。
【0008】
さらには次のような課題もあった。一般に、指尖脈波の振幅は、指尖部をセンサーに圧着させる圧力によって変化する。最適な圧力でセンサーに圧着させると、大きな振幅のきれいな脈波をセンシングすることができるが、圧力が弱すぎると、振幅が小さくノイズ成分が大きくなり、圧力が強すぎると、逆に血流が阻害されて、振幅が小さくなる。最適な圧力は、指の太さや、血管の硬さにより異なるので、バネ式の一般のプローブでは、圧力が弱すぎたり、強すぎたりするために、脈波が精度良く取れない場合がある。また、バネ式のプローブでは、15分間の測定を続けて指先を圧迫し続けるために、脈波の振幅が減衰してしまうこともある。指尖を内膜による覆うプローブも、多少の空気の漏れがあるため、時間経過に連れて脈波の振幅の減衰がある。
【0009】
さらにまた、FMDやPATでは、測定結果の精度や再現性が低いという課題があった。血管の充血反応原理においては、
図1に示すように、血流のフローによるずり力P1はNOを誘発し、NOは、血管を構成する平滑筋の拡張を生じさせるのに対し、血管壁圧P2の変化は非NO依存要素を誘発し、この非NO依存要素は、血管を構成する平滑筋の変化(収縮・膨張)につながる。FMDやPATでは、非NO依存要素による血管壁圧変化の影響を避けることが困難という課題があることと、ずり力P1及び血管壁圧P2による複雑で非均一な血管変形から、測定結果の精度や再現性を高らしめるためには、非NO依存要素による血管壁圧の変化に影響されない測定手段が望まれていた。またさらに、太い血管の測定とするFMDは太い血管に関わる血管内皮機能の検査が得意とする。一方、細い血管の測定とするPATは細い血管に関わる血管内皮機能の検査が得意とする。血管機能検査の汎用性が限定されていた。そこで、太い血管と細い血管の両方ともの血管機能の検査でき、更に同時観測による両者の割合を定量化できることにより、血管機能障害の病因を突き止められるような測定手段が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、血管内皮機能測定に適用できる高い再現性と凡用性に優れ、測定時間の短縮化、測定に要するコストの低減化を図った指尖及び手首(橈骨)の脈波解析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の構成によって把握される。
(1)本発明の第1の観点は、血管機能検査装置であって、検査側の上腕に装着され、駆血及び開放を行う加圧部と、指尖又は手首に装着され、駆血前後の脈波を測定するプローブと、前記加圧部及び前記プローブを制御する制御部と、前記制御部に指令を与え、前記制御部から前記脈波に係るデータを取得する処理部と、を備え、前記処理部が、前記脈波に係るデータに基づいて平均振幅値の計算及びカオス解析を行い、心血管疾患と血管内皮機能障害の判定を行うために前記脈波の特徴量を定量化することを特徴とする。
【0014】
(2)上記(1)の構成において、前記処理部は、前記カオス解析として、前記脈波の振幅値及びその変化率に基づいて駆血前後の血管ゆらぎを示すカオスアトラクターを算出し、前記算出されたカオスアトラクターについて、リアプノフ指数、外周面積及び短径と長径の固有ベクトルの少なくとも1つを定量化してもよい。
【0015】
(3)上記(1)又は(2)の構成において、前記プローブは、光電式又は圧力式によって前記脈波を測定してもよい。
【0016】
(4)上記(3)の構成において、前記プローブは、光電式であって、測定部位に最適圧力を与えるための空気袋と、前記測定部位に光を照射する発光部と、前記測定部位からの反射光を受光する受光部と、を備えてもよい。
【0017】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つの構成において、前記プローブは、検査側の第1指尖に装着され、細い血管に係る前記脈波を測定する第1プローブを含んでもよい。
【0018】
(6)上記(5)の構成において、前記プローブは、検査側の第1手首に装着され、太い血管に係る前記脈波を測定する第2プローブをさらに含んでもよい。
【0019】
(7)上記(6)の構成において、前記プローブは、対照側の第2指尖に装着され、細い血管に係る前記脈波を測定する第3プローブと、対照側の第2手首に装着され、太い血管に係る前記脈波を測定する第4プローブと、をさらに含んでもよい。
【0020】
(8)上記(7)の構成において、前記処理部が、前記脈波について、検査側における駆血後の数値を(A)と、同じく駆血前の数値を(B)と、対照側における駆血後の数値を(C)と、同じく駆血前の数値を(D)とするとき、検査側駆血前後比(A/B)、対照側駆血前後比(C/D)及び前記検査側駆血前後比の前記対照側駆血前後比に対する検査側/対照側比((A/B)/(C/D))を求めてもよい。
【0021】
(9)上記(2)から(8)のいずれか1つの構成において、前記心血管疾患ごとに既知のカオスアトラクター群を記憶する記憶部をさらに備え、前記処理部は、前記算出されたカオスアトラクターを前記既知のカオスアトラクター群とパターンマッチングにより対比してもよい。
【0022】
(10)上記(1)から(9)のいずれか1つの構成において、前記処理部によって処理された結果を表示する表示部をさらに備えてもよい。
【0023】
(11)本発明の第2の観点は、血管機能検査方法であって、検査側である第1指尖及び第1手首、並びに対照側である第2指尖及び第2手首に予備的に圧力を加え、それぞれの脈波を測定する第1ステップと、前記圧力が被験者にとって最適圧力であるかどうかを判定し、YESならば前記最適圧力を維持する第2ステップと、測定された駆血前の各脈波に基づいて振幅値を計算し、前記第1指尖、前記第1手首、前記第2指尖及び前記第2手首に係る駆血前のカオスアトラクターを算出する第3ステップと、検査側の前記第1指尖及び前記第1手首に対し、所定時間の間、駆血を施す第4ステップと、測定された駆血後の各脈波に基づいて振幅値を計算し、前記第1指尖、前記第1手首、前記第2指尖及び前記第2手首に係る駆血後のカオスアトラクターを算出する第5ステップと、前記第5ステップにおいて計算された振幅値及び算出されたカオスアトラクターについて、検査側における駆血後の数値を(A)と、同じく駆血前の数値を(B)と、対照側における駆血後の数値を(C)と、同じく駆血前の数値を(D)とするとき、検査側駆血前後比(A/B)、対照側駆血前後比(C/D)及び前記検査側駆血前後比の前記対照側駆血前後比に対する検査側/対照側比((A/B)/(C/D))を求める第6ステップと、前記検査側駆血前後比、前記対照側駆血前後比及び前記検査側/対照側比をそれぞれの基準値と対比する第7ステップと、前記第7ステップにおける対比の結果から心血管疾患と血管内皮機能障害を判定する第8ステップと、を備えることを特徴とする。
【0024】
(12)上記11)の構成において、前記第5ステップの後に、前記算出されたカオスアトラクターを心血管疾患ごとに既知のカオスアトラクター群とパターンマッチングにより対比する第9ステップをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、血管内皮機能測定に適用できる高い再現性と凡用性に優れ、測定時間の短縮化、測定に要するコストの低減化を図った指尖及び手首(橈骨)の脈波解析装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<血管機能検査装置1の全体構成>
本発明の実施形態に係る血管機能検査装置1について、図を参照しつつ説明する。
図2は、本実施形態の構成例を示しており、検査側である第1上肢A1の近位側すなわち上腕には駆血するためのカフ10(加圧部)が装着され、検査側である第1上肢A1及び対照側である第2上肢A2の遠位側すなわち両手指尖及び両手首にはそれぞれの脈波を測定する4つのプローブ20が、それぞれ装着されている。プローブ20は、第1上肢A1の第1指尖F1に装着された第1プローブ21と、第1上肢A1の第1手首W1に装着された第2プローブ22と、第2上肢A2の第2指尖F2に装着された第3プローブ23と、第2上肢A2の第2手首W2に装着された第4プローブ24とを含んでいる。
【0028】
なお、以下の説明において、検査側を駆血側と、対照側を非駆血側と称することもある。また、添付の図面において、検査側を「test」と、対照側を「control」と表示することもある。
【0029】
各プローブは空気チューブ21a、22a、23a、24aを介して、カフ10は空気チューブ10aを介して、これらを制御する装置本体30(制御部)に接続されており、装置本体30は、プローブ20により取得されたデータを解析し、表示するコンピュータ40(処理部)に接続されている。なお、各空気チューブには、接続された要素同士間の信号を送受信するための配線が施されている。また、コンピュータ40は、例えばスマートホンやタブレットなどの携帯情報端末としてもよく、装置本体30との接続は、有線でも無線でもいずれでも構わない。コンピュータ40は、データベース41(記憶部)及びディスプレイ42(表示部)を備えているが、これらはコンピュータ40の一部であっても外付けであってもいずれでも構わない。
【0030】
図3は、カフ10の装着と、プローブ20の装着とを拡大して示す図であり、装置本体30及びコンピュータ40との接続は省略されている。プローブ20と装置本体30及びコンピュータ40との関係は、
図4を参照して後述する。
図3に示すように、両手指尖にはそれぞれ第1プローブ21及び第3プローブ23が、両手首には第2プローブ22及び第4プローブ24が装着されている。第1プローブ21と第3プローブ23、第2プローブ22と第4プローブ24はそれぞれ同じ構成(ただし、第1プローブ21と第2プローブ22は検査側、第3プローブ23と第4プローブ24は対照側)であるので、第1プローブ21と第2プローブ22に代表させて、以下説明する。
【0031】
第1プローブ21は、検査側の第1指尖F1に装着され、その背側に位置する空気袋201と、第1指尖F1の掌側に向けて光を照射するLED202(発光部)と、LED202と併設され血管からの反射光を受光する受光センサ203(受光部)とを備えている。第2プローブ22は、検査側の第1手首W1に装着され、その橈骨の掌側に位置する空気袋201と、第1手首W1の橈骨の掌側に向けて光を照射するLED202(発光部)と、LED202と併設され血管からの反射光を受光する受光センサ203(受光部)とを備えている。
【0032】
それぞれの空気袋201は、装置本体30の内部又は外部に設けられている圧力ポンプ204及び排気弁205によって加圧又は減圧され、その圧力は圧力センサ206によって測定される。空気袋201は、脈波を測定するに際して被験者にとっての最適圧力を測定部位に付与するものであり、圧力ポンプ204、排気弁205及び圧力センサ206は装置本体30によって制御される。詳しくは、
図4及び
図5を参照して後述する。
【0033】
それぞれのLED202としては、例えば赤外線発光ダイオードを好適に用いることができ、受光センサ203としては、フォトダイオードやフォトトランジスタを好適に用いることができる。LED202と受光センサ203は第1プローブ21又は第2プローブ22の内部で、それらの光軸が交差するように配置されている。LED202から出た光(赤外線)は、皮膚を通して血管に照射されるが、血流中のヘモグロビンにて一部の波長帯(近赤外線)が吸収され、その反射光量は、心拍による血管の容量変動(すなわち、容量脈波)に応じて、変化することとなる。受光センサ203は、この変化を捉え、電圧変化として出力する。
【0034】
なお、ここでは、第1プローブ21又は第2プローブ22を、LED202及び受光センサ203を有する光電式の構成によって容量脈波を測定するものとして説明したが、これに限ることなく、圧力式の構成によって圧脈波を測定するようにしてもよい。圧力式の場合は、LED202及び受光センサ203に代えて、圧力センサ(圧力素子)により、血管の圧力変動を捕捉する。圧力式の場合には、正確な測定のため、圧力センサを動脈直上部に正しく押圧することが肝要である。
【0035】
駆血するためのカフ10としては、公知の自動血圧計などに採用されているものを用いることができ、第1プローブ21又は第2プローブ22とは別に、圧力ポンプ104又は排気弁105によって加圧又は減圧され、その圧力は圧力センサ106によって測定される。圧力ポンプ104、排気弁105及び圧力センサ106は装置本体30によって制御される。カフ10への加圧と開放は全自動化されており、加圧の知能化制御を行われる。カフ10の加圧はコンピュータ40によって自動監視されて完全駆血できるまで制御され、過加圧や欠加圧が避けられる。
【0036】
<プローブ20による測定>
次に、プローブ20による脈波の測定について、
図4及び
図5を参照しつつ、第1プローブ21に代表させて説明する。第3プローブ23については同様である。第2プローブ22及び第4プローブについても基本的には同様であるが、測定部位が異なることに伴って相違する点は後述する。
【0037】
第1プローブ21の空気袋201は、
図4に示すように、空気チューブ21aを介して、圧力ポンプ204、排気弁205及び圧力センサ206に接続されている。空気袋201の圧力は、圧力センサ206による検知結果に応じてコンピュータ40が装置本体30の制御部31に与える圧力制御コマンドに基づき、制御部31が圧力ポンプ204と排気弁205を制御することによって、調整される。LED202は、コンピュータ40が制御部31に与える脈波測定コマンドにより制御され、第1指尖F1に光を照射し、反射光は受光センサ203に受光される。
【0038】
装置本体30には、制御部31として、オートゲイン回路、直流成分抽出回路、A/D(アナログ/デジタル)変換回路、USBコントローラ、アナログフィルター、増幅回路、微分回路(2回微分)が設けられている。制御部31は、コンピュータ40から受け取った圧力制御コマンドによって空気袋201を制御するが、圧力制御コマンドとしては、加圧スピード、加圧開始、現在圧力維持、減圧スピード、減圧開始及び圧力開放が含まれる。また、制御部31は、コンピュータ40から受け取った脈波測定コマンドによってLED202及び受光センサ203を制御するが、脈波制御コマンドとしては、測定開始及び測定終了が含まれる。
【0039】
制御部31は、圧力センサ206及び受光センサ203が取得した信号を、圧力時系列データ、加速度脈波時系列デジタルデータ、脈波直流成分時系列デジタルデータ、脈波時系列デジタルデータとして、コンピュータ40に送信する。なお、加速度脈波は、元の波形である容量脈波を微分回路で2回微分することにより得られる。
【0040】
これらのデジタルデータを受けたコンピュータ40は、脈波の振幅値とその変化率に基づいてカオス解析を行い、血管ゆらぎとしてのカオスアトラクターを算出する。そして、そのゆらぎ指数としてリアプノフ指数を計算するとともに、エントロピーの計算、ピーク値(振幅の上限側のピーク値)の検出、高速フーリエ変換(FFT)による心拍変動解析(HRV解析;Heart Rate Variability)を行う。カオス解析については、項を改めて、後述する。
【0041】
<測定及び解析の手順>
上述した構成に基づき、
図5に示す手順に従って測定及び解析を行う。まず、本格測定を開始する前に、第1指尖F1の掌側に受光センサ203を圧着させる最適圧力を求めるため、予備測定を行う(ステップS101)。例えば、第1プローブ21の空気袋201への加圧を、20mmHgから120mmHgの範囲で変化させながら約1分間加圧し、被験者ごとに最適圧力を見出す(ステップS102)。
【0042】
ここで、最適圧力とは、前述したように、脈波の振幅は、測定部位である第1指尖F1の掌側を受光センサ203に圧着させる圧力によって変化することから、圧力が弱すぎて振幅が小さくノイズ成分が大きくなることを避け、また、逆に圧力が強すぎて血流が阻害され振幅が小さくなることを避けるような圧力を指す。また、測定するたびに指尖や手首に加える装着圧力を最適圧力に設定することは、測定結果のバラツキの要素を吸収し、優れた再現性に寄与する。
【0043】
この点について図示すると、
図6に示すようになる。
図6は、横軸に時間(秒)をとり、縦軸に脈波の振幅(一点鎖線で表示)、第1プローブ21の装着圧力(点線で表示)及び血管のコンプライアンスC(破線で表示)をとったものであり、装着圧力の上昇につれて、コンプライアンスCがまず極地点をとる最大コンプライアンス圧力が出現し、続いて脈波の振幅が極地点をとる最大振幅圧力が出現する。そこで、ノイズの影響を最小限に抑え、かつ、圧力が強すぎて血流が阻害されないように、再現性の高いデータを得るには、このコンプライアンスCが最大になる最大コンプライアンス圧力又は振幅が最大になる最大振幅圧力を、プローブ20の最適圧力として採用し、本格測定の続行中、維持することが望ましい。
【0044】
このうち、装着圧力が相対的に低い最大コンプライアンス圧力を用いると、より変化しやすく鋭敏なデータの変化を入手し易い。このようなことから、プローブ20のうち、指尖における細い血管(末梢血管)の脈波を測定する第1プローブ21(第3プローブ23も同じ)としては、最大コンプライアンス圧力を最適圧力とすることが好ましい。ここで、コンプライアンスCは、血管壁の伸展性であって、血管の容積変化/壁圧変化で表されるが、コンプライアンスCの極値点(コンプライアンスCの変化がゼロ)における装着圧力を最適圧力として設定、維持して脈波を測定することにより、非NO依存要素の影響を除外できるとともに、最大感度での測定が実現する。すなわち、血管内皮機能を反映したNO(一酸化窒素)による充血反応のみによって測定されので、高精度で血管内皮機能を評価することができる。
【0045】
これに対し、装着圧力が相対的に高い最大振幅圧力を用いると、よりノイズを小さくしたデータを入手し易い。このようなことから、プローブ20のうち、手首における太い血管(橈骨動脈)の脈波を測定する第2プローブ22や第4プローブ24としては、最大振幅圧力を最適圧力とすることが好ましい。
【0046】
このようにプローブ20ごとに最適圧力を維持したまま、本格測定を開始し、駆血前の測定を所定の時間行う。測定時間は、概ね2分間である。受光センサ203によって測定された電圧変化は、増幅回路にて増幅され、A/D変換後にコンピュータ40に送信されて振幅値として計算され記憶されるとともに、表示部に表示される。また、コンピュータ40は、計算された振幅値とその変化率を元にカオス解析によってカオスアトラクターを算出する(ステップS103)。カオス解析については、項を改めて、後述する。
【0047】
次に、検査側をカフ10で加圧し(ステップS104)、駆血を所定の時間行う(ステップS105)。駆血時間は、概ね3分間である。完全な駆血に達したかどうかを判断し、達成していない場合は駆血が達成されるまで加圧を継続する。カフ10は、
図3に示したように、圧力ポンプ104、減圧弁105及び圧力センサ106によって加圧、開放が施される。駆血が完全であるかどうかの判断方法は、第1プローブ21と第3プローブ23、又は第2プローブ22と第4プローブ24の間で脈波の相関係数を計算し、相関係数が閾値よりも小さい時に駆血されていると判断する。駆血達成後は、圧力の低下を監視、制御しつつ、所定の駆血時間が経過するまで設定圧力を自動的に維持する。
【0048】
その後、カフ10を開放して血流を再開し(ステップS106)、駆血後の測定を所定の時間行う。測定時間は概ね1分間である。これにより、本実施形態における測定時間の合計は、概ね5分間となる。受光センサ203によって測定された電圧変化は、増幅回路にて増幅され、A/D変換後にコンピュータ40に送信されて振幅値として計算され記憶されるとともに、表示部に表示される。また、コンピュータ40は、計算された振幅値とその変化率を元にカオス解析によってカオスアトラクターを算出する(ステップS107)。カオス解析については、項を改めて、後述する。
【0049】
図7は、プローブ20のうち、上段に検査側の第1プローブ21を、下段に対照側の第3プローブ23によって測定された脈波の振幅を示している。横軸は時間を、縦軸は脈波の振幅値を示す。検査側では駆血により一定時間、脈波が消失している。図中、Aは検査側の駆血後の測定区間、Bは同じく検査側の駆血前の測定区間、Cは対照側の駆血後の測定区間、Dは同じく対照側の駆血前の測定区間を表している。被験者の血管拡張率は、得られた駆血前後の振幅値から算出された平均振幅値に基づき、次のように設定される。すなわち、駆血側であって検査側の駆血後の平均振幅値を(A)、同じく駆血前の平均振幅値を(B)、非駆血側であって対照側の駆血後の平均振幅値を(C)、同じく駆血前の平均振幅値を(D)とするとき、検査側の駆血前後比(A/B)と対照側の駆血前後比(C/D)を求め、前者(A/B)の後者(C/D)に対する検査側/対照側比((A/B)/(C/D))を、血管拡張率として求める(ステップS108)。
【0050】
この検査側/対照側比について、FMDとエンドパット2000との関係において次のようにいうことができる。すなわち、FMDとエンドパット2000は検査側及び対照側の各駆血前後比を求めて判定しているが、本実施形態では、最終的に検査側/対照側比によって表されるので、異常な結果は少なくなる。また、前述した再現性について、本実施形態、FMD、エンドパット2000それぞれの方法で被験者1人を対象に3日間各複数回の測定を行ったところ、変動係数として、この順に、4.7%、22%、18%という結果が得られている。ここで、検査側/対照側比は、リスクファクター(加齢、血管硬化)に対してよい逆相関関係があることが判明しており、加齢については、検査側/対照側比=−0.00194*年齢+2.4019、相関係数r=0.46、血管硬化については、検査側/対照側比=−0.00112*血管硬化(血管年齢)+1.8728、相関係数r=0.57である。
【0051】
上述した検査側の駆血前後比(A/B)、対照側の駆血前後比(C/D)及び検査側/対照側比((A/B)/(C/D))は、平均振幅値から得られる血管拡張率のみならず、次項以降に説明するように、カオス解析によって振幅値及びその変化率から血管ゆらぎとして算出されたカオスアトラクターについて、得られたリアプノフ指数の変化に対してもゆらぎ指数の変化として適用される。さらに、カオスアトラクターをパターン(様子)として可視化し、コンピュータ40内外のデータベース41に記憶されている心血管疾患に係る既知のカオスアトラクター群とパターンマッチングにより対比する。このように、各比率の基準値との比較により(ステップS109)、及び/又は、カオスアトラクターのパターンマッチングにより、血管機能の状態を判定し(ステップS110)、ひいては心血管疾患を判定する。
【0052】
<カオス解析>
本実施形態では、上述した血管機能検査装置1において、測定された脈波の振幅値とその変化率に基づいて独自のカオス解析技術を駆使し、血管ゆらぎすなわち血管拡張のときに生ずる僅かな変化を分析する。
図8に示すように、カオス解析によるカオスアトラクターを血管ゆらぎとして把握し、血管拡張のパターン(様子)を示し、血流のフローによるずり力P1と血管壁圧P2による複雑で非均一な血管変形を見えることができ、更に血管機能障害の病因を見極めることを可能とするものである。
【0053】
図8の上段は、検査側の第1指尖F1に係る駆血前(血管拡張前)及び駆血後(血管拡張後)のカオスアトラクターを、中段は、第1指尖F1の振幅を、下段は、対照側の第2指尖F2の振幅を、それぞれ示している。ここでは、
図8の中段に示したように、検査側の脈波の振幅が駆血前に比べて駆血後において大きくなっている例を示しており、これに対応して、駆血後のカオスアトラクターは、駆血前のカオスアトラクターよりもサイズ(面積)が大きく、かつ、各ループ間の幅が広くなっている。駆血前後のカオストラクターを対比することによって、血管ゆらぎの変化を把握することができる。
【0054】
さらに、駆血後(血管拡張後)のカオスアトラクターのパターンを、心血管疾患ごとに対応してデータベース41に記憶されている既知のカオスアトラクターとパターンマッチングによって対比することにより、心血管疾患の病因を判定することができる。
図9は、駆血後(血管拡張後)のカオスアトラクターのパターンと、血管内皮障害/変形と、病因との対応例を示したものであり、上段は心筋梗塞を、下段は桃源病を示している。
【0055】
カオス解析について、以下に詳しく説明する。カオスアトラクターとは、一般に、ある力学系がそこに向かって時間発展をする集合のことである。その力学系において、カオスアトラクターに十分近い点から運動するとき、そのカオスアトラクターに十分近いままであり続ける。カオスアトラクターに含まれる軌道は、そのカオスアトラクターの内部にとどまり続けること以外に制限はなく、周期的であったり、カオス的であったりする。本実施形態では、横軸を脈波の振幅値とし、縦軸をその振幅値の変化率(振幅速度)として、プロットした集合である。カオスアトラクターの形状と大きさは、血管集団の有効な血管集団形状変化とサイズとを非線形的に捉えることができる。定量的には、以下の2つの事項を把握する。
【0056】
1つ目は、形状変化を示すゆらぎ指数として、リアプノフ指数を把握する。リアプノフ指数は、後述するように、力学系においてごく接近した軌道が離れていく度合いを表す量である。このリアプノフ指数は、不安定さ(バラツギさ)を示す数値であり、その値が大きければ不安定でバラツキが多く、小さければ安定であることを示す。ここでいう不安定(バラツキ)とはその力学系に小さな力を加えたときに、大きな状態の変化となって現れることを意味する。
【0057】
2つ目は、大きさを示す面積として、カオスアトラクターの外周面積を捉える。外周面積は、カオスアトラクターの動いた範囲が全部囲めるような、横軸(x軸)、縦軸(y軸)に平行に辺をとったときの四角形の面積である。算出式は、以下の式で表される。
Env.Area=(max(x)−min(x))*(max(y)−min(y))
【0058】
検査側の第1指尖F1の第1プローブ21及び第1手首W1の第2プローブ22を対象としたとき、上述の2つの数値を用いて、血管内皮機能の総合指数Indexを、以下のように表すことができる。
Index=Cs*{A1*第1指尖の平均振幅値(又は、カオスアトラクターの外周面積)+A2*第1指尖のゆらぎ指数}+Cl*{A3*第1手首の平均振幅値(又は、カオスアトラクターの外周面積)+A4*第1手首のゆらぎ指数}
ここで、Cs:第1指尖への寄与度、Cl:第1手首への寄与度、A1〜A4:それぞれの依存係数である。
【0059】
<<カオスアトラクターの可視化>>
次に、脈波などの生体信号からカオスアトラクターを可視化する方法について、説明する。時系列波形の生体信号からカオスアトラクターの形状を描く方法は、ターケンスの手法と呼ばれ、N点の状態変数、例えば時系列波形S
t={S
1,S
2,…,S
N}をd個に復元することを考える。まず、遅れ時間τを用いてd個の状態変数の組P
iをつくる。
P
i={S
i,S
i+τ,S
i+2τ,…,S
i+(d−1)τ}
仮に復元する状態変数の個数を3とすれば、その組Piは次のようになる。
P
i={S
i,S
i+τ,S
i+2τ}
【0060】
この操作を1≦i<N−(d−1)τの範囲で繰り返すことにより、力学系の構造を近似的に復元することができる。さらに、P
iをd次元の状態空間座標とみなし、各座標を結ぶことにより力学系の運動をカオスアトラクターとして表現することができる。ターケンスの手法のイメージを
図10及び
図11に示す。S
i,S
i+τ,S
i+2τをそれぞれX軸座標、Y軸座標、Z軸座標と考え、
図10の(x
1,y
1,z
1)、(x
2,y
2,z
2)、(x
3,y
3,z
3)を、
図11の左図に示したX,Y,Zの3軸をもつ3次元状態空間に埋め込む。これを1≦i<N−(d−1)τの範囲で繰り返すと
図11の右図のようになる。この手法において1つの状態変数をd個に復元することを埋め込みといい、遅れ時間τを埋め込み遅延時間、復元する状態変数の個数d(これは状態空間の次元と考えることもできる)を埋め込み次元と呼ぶ。各々のパラメータは自己相関やフラクタル次元を用いて最適値を求める必要がある。
【0061】
<<リアプノフ指数>>
リアプノフ指数は、カオスアトラクターの中に軌道を追跡して、次のように得ることができる。初期時刻で互いに似た状態は、超球サイズの中に似た位置(距離が近い)にある。
図12に示すように、この距離をr(0)とし、この軌道を発展して時刻tでの距離(軌道の差、離れる度合い)をr(t)とすると、
r(t)=r(0)*exp(λt)
と表せ、このλをリアプノフ指数と呼ぶ。Rosenstein(1993)のアルゴリズムにより、リアプノフ指数の推定は次のように行われる。近傍軌道間の初期変位をD、t秒後の変位をd(t)としたとき、リアプノフ指数λは、
d(t)=D*exp(λt)
で定義されるので、上式の両辺に対数変換を施し
log(d(t))=λt+log(D)
により、近傍軌道間変位−時間関数の線形近似直線の傾きとして、リアプノフ指数λを推定する。
【0062】
<<カオスアトラクターのパターンマッチング>>
カオスアトラクターのパターンマッチングについては、文字認識などで用いられているテンプレートマッチングという手法を応用して、パターンの類似度を計算する。例えば、計算ファイルのカオスアトラクターと、基本データファイルのカオスアトラクターをそれぞれ、2次元の場合は、100×100のセルに分割し、両方のカオスアトラクターのセルに点が存在する場合の数を数える。3次元の場合は、「平面」から「立体」へ展開し、100×100×100のセルに分割し、両方のカオスアトラクターのセルに点が存在する場合の数を数える。
【0063】
ここで、2つのカオスアトラクターの類似度の計算は、それぞれのカオスアトラクターのみに点が存在するセルの数をT1、両方のカオスアトラクターのセルに共通して点が存在するセルの数をT2とすると、両者のパターン類似度は、以下の式で表される。
パターン類似度=(T2/T1)×100
【0064】
<<カオスアトラクターの特徴量を示す他の例>>
カオスアトラクターの特徴量を判断する方法は、上述したもののほかに、例えば次のようなものとしてもよい。カオスアトラクターのそれぞれのループの短径Dと長径Lの特徴長さを計算し、これによって診断を高精度に行うことができる。ベクトルに対して線形変換をし、向きが同じで大きさが変わったベクトルが算出され、DとLを固有ベクトルといい、その値(長さ)を「固有値」と呼ぶ。そして、もっとも大きい固有値に対応する固有ベクトルのことをLで、2番目に大きい固有値に対応する固有ベクトルをDとしたとき、
Q=D/L
をもって診断することが可能であり、例えば、Q=0.75以上であれば軽度故障、Q=0.50−0.75であれば中度故障、Q=0.50以下であれば重度故障などと、診断できる。
【0065】
<<カオス解析結果の表示>>
図13及び
図14は、カオス解析によって得られた結果をディスプレイ42に表示した例を示している。これらの図では、左側に、上段から下段に向かって、検査側の第1指尖F1の脈波の振幅、対照側の第2指尖F2の脈波の振幅、検査側の第1手首W1の脈波の振幅、対照側の第2手首W2の脈波の振幅が表示され、中央に、それぞれに対応する駆血前後のカオスアトラクターが表示されている。右側の上段には、解析結果として、指尖及び手首それぞれについて、平均振幅値、最大振幅値−最小振幅値、リアプノフ指数に係る検査側の駆血前後比、対照側の駆血前後比、検査側/対照側比が表示されている。右側の下段には、指尖及び手首それぞれについて、駆血前の測定開始時間、駆血前のベースライン継続時間、駆血後の測定開始時間、駆血後の関心領域(ROI)継続時間が表示される。
【0066】
図13は、心筋梗塞、脳梗塞、冠状動脈硬化などの病因を有する被験者の解析結果を示しており、この場合、太い血管すなわち手首の橈骨動脈における解析結果(血管内皮機能低下)を有効に用いることができる。これに対し、
図14は、糖尿病、桃源病、末梢疾患などの病因を有する被験者の解析結果を示しており、この場合、細い血管すなわち指尖の末梢血管における解析結果(血管内皮機能低下)を有効に用いることができる。
【0067】
<エンドパッド2000との対比>
最後に、本実施形態とエンドパッド2000との対比について、説明する。本実施形態においては、前述したとおり、両指尖及び両手首のプローブ20は、エンドパット2000のプローブが1回限りの使い捨てであるのに対し、複数回使用可能とするために、プローブ内膜に依存性のないLED/受光センサ式を採用し、最適圧力で指尖又は手首を押さえつける構造としている。これにより、ランニングコストが抑制され、半永久的に使用が可能であって安価なプローブを提供でき、コスト低減が図られる。
【0068】
また、エンドパット2000と本実施形態との対比試験を行ったところ、両者の検査結果の間に高い相関が確認できた。具体的には、健常者を被験者として、エンドパット2000と、本実施形態を反映したプロトタイプ機器による同時測定を行い、両者の血管内皮機能評価指数(RHI;Reactive Hyperemia Index)を解析した。その結果、
図15に示すように、相関係数R=0.68(有意確率P<0.05)、推定誤差0.036の十分な相関が得られ、有意性が認められた。すなわち、本プロトタイプ機器が普及型機器として、輸入品のエンドパット2000に代わり得ることが確認された。
【0069】
<本実施形態の変形例>
上述した実施形態は、プローブ20が、検査側の第1指尖F1に装着される第1プローブ21、同じく検査側の第1手首W1に装着される第2プローブ22、対照側の第2指尖F2に装着される第3プローブ23、同じく対照側の第2手首W2に装着される第4プローブ24が含まれる場合すなわち4点測定の場合について説明した。しかし、プローブ20の設定については、その検査目的や被験者の状況などに応じて、4つのプローブ20を装着した4点測定でなくとも、例えば、1つのプローブ20を装着した1点測定や、2つのプローブ20を装着した2点測定などにおいても、測定や解析の構成及び手順について、本発明の要旨を反映させることができる。
【0070】
1点測定としては、例えば、一方の上肢が不自由な被験者の場合、他方の上肢を検査側として、細い血管(末梢血管)のみを測定することで十分であれば、検査側の第1指尖F1に装着される第1プローブ21のみとしたり、太い血管(橈骨動脈)のみを測定することで十分であれば、検査側の第1手首W1に装着される第2プローブ22のみとしたりする場合が挙げられる。
【0071】
2点測定としては、やはり、一方の上肢が不自由な被験者の場合、他方の上肢を検査側として、検査側の第1指尖F1に装着される第1プローブ21と検査側の第1手首W1に装着される第2プローブ22の組合せとする場合が挙げられる。また、両上肢が自由な被験者の場合、細い血管(末梢血管)のみを測定することで十分であれば、検査側の第1指尖F1に装着される第1プローブ21と対照側の第2指尖F2に装着される第3プローブ23の組合せとすればよく、太い血管(橈骨動脈)のみを測定することで十分であれば、検査側の第1手首W1に装着される第2プローブ22と対照側の第2手首W2に装着される第4プローブ24の組合せとすればよい。
【0072】
1点測定や対照側にプローブ20を装着しない2点測定の場合は、脈波の振幅値やリアプノフ指数について、対照側の駆血前後比や検査側/対照側比を算出できないが、そのような場合であっても、検査側における駆血前後比や駆血前後のカオスアトラクターによる対比、既知の心血管疾患ごとの既知のカオスアトラクターとの対比は可能であるので、問題なく本発明の要旨を適用できる。
【0073】
<本実施形態の効果>
本実施形態の効果を整理すると、次のとおりである。
(1)測定時間は、FMDやエンドパット2000の15分から概ね5分に大幅に短縮化できる。
(2)検査側の上腕に巻くカフは、加圧と開放の全自動化、加圧の知能化制御を行い、カフの加圧はコンピュータによって自動監視されて完全駆血できるまで制御され、過加圧や欠加圧が避けられる。
(3)指尖や手首に加える装着圧力を、コンプライアンスの極値点(コンプライアンスの変化がゼロ)における装着圧力を最適圧力として設定、維持して脈波を測定することにより、非NO依存要素の影響を除外できるとともに、最大感度での測定が実現する。すなわち、血管内皮機能を反映したNO(一酸化窒素)による充血反応のみによって測定されので、高精度で血管内皮機能を評価することができる。
(4)FMDとエンドパット2000よりも、血管内皮機能は充血による振幅の変化(検査側/対照側比)によって表され、異常な結果は少なくなる。
(5)測定するたびに指尖や手首に加える装着圧力は最適圧力に設定されることで、測定結果のバラツキの要素を吸収でき、再現性に優れる。
(6)検査側/対照側比とリスクファクター(加齢、血管硬化)との間で得られた逆相関関係を活用できる。
(7)FMDとエンドパット2000の欠点を克服し、安価でプローブを提供でき、コスト低減が図られ、全自動測定と解析でだれでも使いやすく、一般臨床検査に使える医療機器として提供できる。
(8)太い血管と細い血管の両方ともの血管機能の検査でき、更に同時観測による両者の割合を定量化できることにより、広範に血管機能障害の検査が可能となる。
(9)血管ゆらぎによる血管拡張のパターン(複雑な様子)を把握でき、血管機能障害による疾患の病因を見極められる。
【0074】
このように、本発明は、上述した具体的な実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を行ったものも含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。