特開2017-57158(P2017-57158A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-57158(P2017-57158A)
(43)【公開日】2017年3月23日
(54)【発明の名称】神経突起形成促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/351 20060101AFI20170303BHJP
   A61K 31/202 20060101ALI20170303BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20170303BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170303BHJP
【FI】
   A61K31/351
   A61K31/202
   A61P25/28
   A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-182658(P2015-182658)
(22)【出願日】2015年9月16日
(71)【出願人】
【識別番号】390015004
【氏名又は名称】日本澱粉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100109287
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 泰三
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一浩
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA16
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA05
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA13
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA16
(57)【要約】
【課題】1,5−AGのアルツハイマーや認知症の改善作用あるいはその改善に有効である神経突起形成促進作用。
【解決手段】本発明は、第1に、1,5−アンヒドロ−D−グルシトールを含有することを特徴とする神経突起形成促進剤であり、
第2に、医薬品または食品もしくは飼料の補助剤である神経突起形成促進剤を製造するために、当該神経突起形成促進剤に神経突起形成促進活性物質として含有させるための、1,5−アンヒドロ−D−グルシトールの使用である。
本発明によれば、アルツハイマーや認知症の改善に有効な神経突起促進作用を有する1,5−AGを含有する医薬品、食品、飼料が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5−アンヒドロ−D−グルシトールを含有することを特徴とする神経突起形成促進剤。
【請求項2】
ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸またはリノレン酸をさらに含有する請求項1に記載の神経突起形成促進剤。
【請求項3】
アルツハイマー病または認知症のための請求項1または2に記載の神経突起形成促進剤。
【請求項4】
医薬品または食品もしくは飼料の補助剤である請求項1〜3のいずれかに記載の神経突起形成促進剤。
【請求項5】
医薬品または食品もしくは飼料の補助剤である神経突起形成促進剤を製造するために、当該神経突起形成促進剤に神経突起形成促進活性物質として含有させるための、1,5−アンヒドロ−D−グルシトールの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経突起形成促進剤に関する。さらに詳しくは、1,5−アンヒドロ−D−グルシトールを含有する神経突起促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
1,5−アンヒドロ−D−グルシトール(1,5−AG)はさまざまな動植物例えば哺乳類や食品中に微量ではあるが見いだされる物質である。その量はごく微量ではあるが牛乳では1mlあたり0.6μg、大豆では1gあたり22μg、魚や肉などには1μg/g以下で含まれると報告されている(非特許文献1)。また、1,5−AGは1,5−アンヒドロフルクトース(1,5−AF)を還元することで調製できる。近年になって澱粉から1,5−AFを工業的に生産する方法が開発され、商品として販売されている。また、1,5−AFに微生物を作用させること(特許文献1)や化学的に水素を添加(非特許文献2)させることにより1,5−AGが合成できること、また、結晶化させ高純度の1,5−AGを調製する方法も提案されている(特許文献2)。1,5−AGの生体内での真の機能についてはまだ解明されていないが、膵臓細胞を用いた試験系(非特許文献3)で1,5−AGがインスリン分泌を促進することが見いだされている。さらに2型糖尿病モデルマウスを用いた試験系では1,5−AGが抗炎症作用を示し糖尿病患者に有効な糖である可能性が見出されている(非特許文献4)。さらに、2型糖尿病モデルを用いた試験では抗糖尿病作用も報告されている(非特許文献5)。このように1,5−AGはヒトに対しても重要な物質であり生理機能が期待される物質である。
【0003】
ヒトの血液中には1,5−アンヒドロ−D−グルシトール(1,5−AG)が存在する。正常なヒトの血液中には14〜40μg/ml程度の1,5−AGが含まれ、その量は一定に保たれているが、糖尿病などで血中グルコース量が高くなると、血中の1,5−AG量が下がる。この血中1,5−AG量は直近の血糖値の推移を反映することから、血中グルコース量のように血中1,5−AG量も臨床の場では血糖コントロールの指標に用いられる場合もある(非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−215231号公報
【特許文献2】特開2008−54531号公報
【特許文献3】特開2011−37806号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】リアーゼによるグリコーゲン分解と1,5−アンヒドログルシトール.生化学 69(1997)1361−1372
【非特許文献2】1,5−Anhydro−D−fructose;a versatile chiral building block:biochemistry and chemistry,Carbohydrate Research 337(2002)873−890
【非特許文献3】1,5−anhydoroglucitol stimulates insulin release in insulinoma cell lines.Biochimica Biophysica Acta 1623(2003)p82−87
【非特許文献4】1,5−anhydroglucitol attenuates cytokine releases and protect mice with type 2 diabetes from inflammatory reactions. Int J Immunopathol Pharmacol.23(2010)105−119
【非特許文献5】Protective effects of dietary 1,5−anhydro−D−glucitol as a blood glucose regulator in diabetes and metabolic syndrome. J Argric Food Chem. 23(2013)611−7
【非特許文献6】1,5−アンヒドログルシトール 検査と技術 19(10)861−863,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、1,5−AGがアルツハイマーや認知症の改善作用を有することあるいはその改善に有効である神経突起形成促進作用を有することは未だ知られていない。
本発明者らは、1,5−AGの生理活性作用について鋭意研究しているところ、この度、1,5−AGが優れた神経突起形成促進作用を有することを究明して、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
それ故、本発明は、第1に、1,5−アンヒドロ−D−グルシトールを含有することを特徴とする神経突起形成促進剤である。
また、本発明は、第2に、医薬品または食品もしくは飼料の補助剤である神経突起形成促進剤を製造するために、当該神経突起形成促進剤に神経突起形成促進活性物質として含有させるための、1,5−アンヒドロ−D−グルシトールの使用である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルツハイマーや認知症の改善に有効な神経突起促進作用を有する1,5−AGを含有する医薬品、食品、飼料が提供される。また、当該神経突起形成促進作用は1,5−AGとともにドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸またはリノレン酸を併用することにより、顕著に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】1,5−AGおよび/またはDHAのラット褐色腫由来細胞(PC12細胞)についての神経突起伸長への影響または効果を示す図である。
図2】1,5−AG経口投与によるラット血中1,5−AG量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1,5−AGは微量であるが、多くの植物や動物などに存在することから、様々な食品に含まれている。食品からの1,5−AGの摂取量は成人で一日あたり5−10mg(血中1,5−アンヒドログルシトール値の変化に対する臨床研究、臨床検査 38(1994)485−488、)であると考えられ、ヒトの血液中の1,5−AGには食品から摂取したものも含まれると推測される。一方で、ラット肝細胞質画分の60%硫安沈殿画分をα−1,4−グルカンに作用させることで1,5−AGの前駆体である1,5−AFが生成すること(非特許文献1)から、ヒトの体内の1,5−AGは、食品として摂取したもの以外に、生体内でグリコーゲンから合成されるものも存在すると推測される。ラットに放射能ラベルした1,5−AGを投与し放射活性を測定した研究が報告されている。1,5−AG投与後に放射活性は肝臓、腎臓、筋肉、血漿にほぼ同濃度で分布していること(非特許文献1)から、経口摂取した1,5−AGはさまざまな組織に移行すると考えられる。本発明者らの実験でラットに1,5−AGを水に溶解し1,5−AGとして5g/kgで経口投与した場合、投与前の血中1,5−AG量は1mg/dl以下であったのに対して、2時間後の血中1,5−AG濃度は183mg/dlと投与前の200倍以上に一過的に高まった。この結果より経口摂取した1,5−AGが血中に移行することが分かった。
【0011】
ヒトは通常、上記のとおり、一日あたり食品から5−10mgの1,5−AGを摂取していると推測されている。本発明者らの実験によれば、6名の志願者に20gの1,5−AGを水に溶解したもの(通常の摂取量の2000倍量程度)全量を摂取してもらい、1週間後の血中1,5−AGを測定したところ(この試験はヘルシンキ宣言に則り、倫理委員会の審査を受け、承認された後に実施した)、投与前は6名の平均値が28μg/ml程度であったのに対して、投与後は38μg/mlと有意に高く、1,5−AGの摂取から1週間経過しても過剰摂取した1,5−AGの一部は体内に残っていることが推測された。これらのラットとヒトによる試験の結果は、過剰摂取した1,5−AGはそのほとんどがすぐに体外に排出されるが、必要な1,5−AGは体内に残留すると考えられるというものであった。従って、1,5−AGを経口摂取することで体内に必要な1,5−AG量を増やすことができることが明らかになった。
【0012】
1,5−AGは血中のグルコース濃度が高くなると、尿細管での再吸収がグルコースと競合するので、再吸収が抑制され1,5−AGが尿に排泄され、結果として血中1,5−AG量が下がる(1,5−アンヒドログルシトール、検査と技術 19(1991)861−863)ことになる。しかしながら、血糖値に関係なく血中1,5−AG量が下がる場合がある。例えば、妊婦では胎児に母体の1,5−AGが移行するために母体の1,5−AG濃度が下がると推測されているが(正常および軽度耐糖能異常妊婦における1,5−anhydroglucitol(AG)低値の意義、産婦人科の世界 44(1992)77−82)、その詳細な研究は進んでいない。また、正常なヒトでも血中の1,5−AG量はヒトによってばらつきがある。1,5−AGの体内分布や放射ラベルした1,5−AGの放射活性の分布の試験結果から考えると血中1,5−AGの低い人は、脳組織などの1,5−AG量も低いと考えられる。本発明者らの実施したPC12細胞を用いた1,5−AGの神経突起形成促進作用の試験では培地中の1,5−AG濃度を0、1.6、8、40、200、1000μg/mlとした結果、40や200μg/mlの際に最も強く神経突起形成促進作用を示し、それらより低くても、高くてもその効果は低くなった。40μg/mlは正常な人の中で高い方の1,5−AG血中濃度と一致することから1,5−AGの血中1,5−AG量の最適量があるのかもしれない。
【0013】
先に記載のとおり、ヒトは1日に5−10mgの1,5−AGを食品から摂取していると考えられる。一方、最近、1,5−AGの有効な製造技術が開発され、食品素材や機能性素材として利用することができるようになった。1,5−AGは甘味を示す素材であることから1日あたり最大で50g程度を摂取することが可能である。体内1,5−AG量を増やす方法としては通常の1,5−AGの摂取量の5倍、1,5−AGとしては最低でも50mg以上を摂取することが望ましいと考えられる。
【0014】
さて、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)やリノレン酸はω3の位置に不飽和結合を有する脂肪酸であり、リノレン酸やEPAはヒトの体内でDHAに変換されることから(人間科学研究、文教大学人間科学部 第30号 2008年)、これらはDHAの前駆体として摂取することができる。魚油などに含まれる不飽和脂肪酸の1種であるEPAやリノレン酸は脳内にほとんど存在しないが、DHAは脳や神経に多く存在している。またDHAの経口投与で認知症やアツルハイマーの改善効果があると報告されている(Docosahexaenoic Acid Supplementation and Cognitive Decline in Alzheimer Disease.The journal of the American medical association.304(2010)1903−1911)。このような機能を期待しDHAは乳児用の調整粉乳に添加されたり、健康食品の素材として利用されたりしている。
【0015】
上記した内容から推測しヒトが1,5−AGを経口摂取した場合には脳幹を通過し、脳内にも到達すると考えられる。そこで、本発明者らは1,5−AGの脳への機能を調べる目的で神経関係の動物細胞試験によく利用されるラット褐色腫由来細胞(PC12細胞)を用いて1,5−AGの神経細胞の突起の形成を調べた。PC12細胞の培養には牛血清を用いた。本発明者らの研究で牛の血中1,5−AG量はヒトと比較して極端に少なく1μg/ml以下である。従って、牛血清を用いて試験すれば血清中の1,5−AG濃度を1μg/以下から、ヒトの正常値、14から40μg/ml、さらには40μg/以上に設定した試験が可能である。
【0016】
DHAは神経発達に関係することが報告されていることから1,5−AGとDHAを同時に添加した場合の相乗効果についても調べた。その結果、1,5−AGに神経突起形成の促進作用を見出し、さらにDHAと併用した場合に高い相乗効果が認められた。神経突起の形成促進作用を活かせばアルツハイマーや認知症の予防や改善効果が期待される。この用途としてはカプセル状の機能性食品や食品、さらには医薬品などに利用できる。さらには動物での効果も期待できる。豚、牛、鳥などの家畜飼料、また、犬や猫を代表とするペットフードなどがある。
また、DHAは脳の組織に分布していることからDHAと1,5−AGを併用しなくとも1,5−AGのみの摂取で、神経突起の形成促進効果が得られることも期待できる。特に、血中1,5−AG量が低い、血中濃度が20μg/ml以下の人に1,5−AG摂取は有効である。
【0017】
平成17年および平成18年の厚生労働省が実施した国民健康・栄養調査では日本人のDHAの摂取量は全年齢平均で0.26g/日となっている。一方で複数の試験などの結果を総合して日本人のDHAの推奨摂取量は1g/日となっており、一日あたり0.74gが不足している計算となる。これに対してDHA摂取で推奨しているサプリメントなどの健康食品では1日あたり0.3〜0.4g程度を摂取できる商品が多く販売されている。
上記のとおり、1,5−AGは植物や動物などに微量に含まれていることから、様々な食品に1,5−AGが含まれていると考えられるので、食品からの1,5−AGの摂取量は成人で一日あたり5−10mgであると考えられ、一方で最近、1,5−AGの有効な製造技術が開発され、食品素材や機能性素材として利用することができるようになった。また、1,5−AGは甘味を示す素材であることから1日あたり最大で50g程度を摂取することが可能である。
【0018】
血中1,5−AG量を増やす方法として1,5−AGを最低でも1日あたり50mg以上を摂取することが望ましい。DHAの一般の加工食品からの摂取量を0.1gから1gとし、1,5−AGは50mgから100gとする。1,5−AGが100gを超えると1,5−AGを溶解する水も摂取しなくてはならず、例えば、10%溶液で摂取した場合には一日あたり1Lとなる。従って1,5−AGの摂取量の上限は100g程度となる。この範囲で1,5−AGとDHAの比率を自由に設計することができる。DHA/1,5−AGの比率は0.001〜20の範囲となる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に且つ詳細に説明する。
【0020】
実施例1
神経突起形成促進作用
・試薬
本試験に用いた1,5−AGは日本澱粉工業株式会社にて1,5−アンヒドロフルクトースを酵母で還元し、精製し結晶化させた標品であり、高速液体クロマトグラフィーでその純度は100%を示したものである。結晶1,5−AGを水に溶解し40mg/Mlとした。ドコサヘキサエン酸(DHA)はSigma社製(Cat.No.D2534)を用いた。
・動物細胞
ラット褐色腫由来細胞(PC12細胞、理研細胞バンク、RCB0009,Lot No.51)
・培地
増殖培地:10%ウシ胎児血清(FBS)、10%ウマ血清(HS)、1% Penicillin−streptomycin添加Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DEMEM培地)
試験培地:0.1% FBS、0.1% HS、1ng/mL 神経成長因子(NGF)、1% Penicillin−streptomycin添加DMEM培地
【0021】
・方法
1)PC12の継代培養
PC12細胞は、増殖培地を用いて、T−75フラスコに起眠し、COインキュベーター(5% CO、37℃、湿潤)で培養した。培地交換は2日おきに行い、80%コンフルエントに達した時点で細胞を回収し、継代数2の細胞を本試験に用いた。具体的には、細胞をD−PBS(−)で洗浄した後、0.05% Trypsinを用いて細胞を剥離し、増殖培地を加えてトリプシンを中和した。次に、遠心(180g,5分)して上清を除き、増殖培地を加えて細胞を撹拌し、血球計算盤を用いて細胞数をカウントし、増殖培地を用いて目的濃度(2.0x10個/100μL)に調整した。
2)サンプル調整
陰性対照、1,5−AG(40μg/mL)、DHA(25μM)、1,5−AG(40μg/mL)+DHA(25μM)の4試験群で試験を行った。具体的には、まず、1,5−AGに関しては、40mg/mL 1,5−AG水溶液を試験培地に1/1000量添加して終濃度40μg/mLとし、フィルター滅菌して試験に用いた。次に、DHAに関しては、500mMエタノール溶液を作成し、これを試験培地で1/100、1/200と順次希釈して終濃度25μMとし、フィルター滅菌して試験に用いた。1,5−AG+DHAに関しては、上記で作成した25μM DHA含有試験培地に40mg/mL 1,5−AG水溶液を1/1000量添加し、フィルター滅菌して試験に用いた。陰性対照として水を培地に1/1000量添加し、フィルター滅菌して試験に用いた。なお、DHA添加区でのエタノール終濃度は0.005%と非常に低濃度であるため、溶媒対照区は設定しなかった。
3)本試験細胞培養およびサンプル処理
増殖培地を用いて、PC12細胞を2.0x10個/100μL/ウェルとなるよう調整し、コラーゲンコートした96ウェルプレートに播種してCOインキュベーター(5% CO、37℃、湿潤)内で24時間培養した。培養後、サンプル含有試験培地(100μL)に交換し、COインキュベーターで48時間培養した。培養終了時に位相差顕微鏡で、各ウェル1枚ずつ細胞像を撮影し、神経突起伸長量を測定した。細胞体と同程度以上の神経突起伸長を示した細胞を、神経突起有りと判定した。各n=15で実施した。
【0022】
1.結果
1)DHA濃度の決定
PC12細胞(Lot.51)の生存性と神経突起伸長性に対するDHA濃度の影響を解析した。具体的にはDHA濃度を6.25、12.5、25、50、100μMの5濃度とし、無添加区との間で、細胞生存率(wst−8法)および神経突起伸長率を比較した。各n=3で行った。サンプル処理時間は48時間で行った。その結果、DHA濃度が50μM以上の場合は細胞死が観察された(表−1)。25μMの場合には生細胞数の低下が見られず、神経突起伸長率も有意に増加した(表−2)。そこで、DHA濃度が25μMとして本試験を行うこととした。
2)1,5−AG濃度の決定
PC12細胞の神経突起伸長性に対する1,5−AG濃度の影響を解析した。具体的には1,5−AG濃度は1.6、8、40、200、1000μg/mLとし、無添加区との間で細胞生存率および執権突起伸長率を比較した。細胞生存率はどの1,5−AG濃度でも対照区と差が認められなかった(表−3)。神経突起伸長率では40μg/mLと200μg/mLが最も高かった(表−4)。ヒトの血中1,5−AG量は正常で20−40μg/mLであることから、本試験では1,5−AG濃度は40μg/mLを採用した。
また、対照の試験区の1,5−AG濃度は検出限界が1μg/mlの試験系で検出されなかった。
3)本試験
神経突起伸長率解析結果を図1に示す。まず、1,5−AG単独処理区では、神経突起伸長を示した細胞の割合が8.9%であり、無添加区(6.0%)と比較して有意(P<0.05)に増加した。次にDHA単独処理区に関しては、神経突起伸長を示した細胞の割合が17.3%であり、無添加区と比較して有意(P<0.001)に増加した。次に、1,5−AGとDHAの同時処理区では、神経突起伸長を示した細胞の割合が28.7%と大きく増加し、それぞれの単独処理区と比較して、有意差(P<0.001)が検出された。
2.まとめ
本試験結果により、1,5−AGは神経突起伸長促進作用を持ち、そして、その作用はDHAと相乗的に高まることが示された。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
実施例2 1,5−AG経口摂取後の血中1,5−AG濃度の変化
ラットCrl:CD(SD)11週齢のオスを1週間馴化飼育し12週齢で実験を行った。実験日の前日の夕刻から絶食させ、実験日に体重測定し投与液量を算出した。投与量は1,5−AGとして5g/kgとした。投与液量は20ml/kgとなるように結晶1,5−AGを注射用水で希釈し、強制経口投与した。1,5−AGの投与前と投与後に採血した。採血はヘパリン処理した注射筒を用いて静脈から0.2ml以上採血し、遠心分離(3000rpm、10min,4℃)し、1,5−AG量の測定まで−20℃以下で保存した。採血は投与前、投与後、0.25、0.5、1、2、24時間後とした。また、24時間まで尿を全量、採取した。本試験のラット数は6匹とした。
1,5−AGの測定は血液試料は日本化薬(株)製の動物用1,5−AGキットを用いた。
【0028】
尿試料は高速液体クロマトグラフィーで測定した。カラムはMITSUBISHI MCI GEL CK08S,カラム温度40℃、溶離水は水、流速1ml/min、検出器は示差屈折計で20μlインジェクトし測定した。定量は5%1,5−AGを同様の条件で測定し試料の1,5−AGピークのエリア面積の比率から尿中の1,5−AG量を求めた。このHPLC条件ではグルコースと1,5−AGは殆ど同じ保持時間であり、それらのピークは重なるため、HPLCで求めた1,5−AGが溶出する保持時間のピーク面積から1,5−AGとGlcの合計量を求め、グルコース測定キット(J.K.インターナショナル社輸入の「F−キット グルコース/フルクトース」測定キット)で求めたグルコース量を差し引き1,5−AG量とした。
【0029】
1,5−AG経口投与による血中1,5−AG量の変化を図2に示した。血中1,5−AG量は、投与前は1mg/dl以下であったのに対して、投与0.25hで21.2mg/dlまで上昇し、投与2時間後には183.4mg/dlとなった。一方、24時間後には8.2mg/dlまで下がった。また、24時間で採尿した尿中の1,5−AG量は投与量の約30%となった。これらの結果より、経口投与された1,5−AGはすぐに吸収され、血中に移行するが、すみやかに尿中に排泄されることが分かった。しかしながら、24時間後でも、血中1,5−AG量は投与前の濃度には戻らず、体内に残存していることが分かった。
【0030】
実施例3
DHAとEPAを含有する魚油とビタミンEを含有する植物油の混合油(DHAとして38%w/w、EPAとして8.2%w/wを)335部に対して乳鉢を用いて微粉化した結晶1,5−AGを12.5部を混合して懸濁した。その混合物をゼラチンカプセルに注入した。充填重量は1カプセルあたり350mgとした。
カプセル中の1,5−AGは時間とともに1,5−AG結晶粉末が局在するようになったが、摂取上の問題はない。
このカプセル1粒あたりにDHAが127mg、EPAが27mg、1,5−AGが12mgとなる。一日に4粒摂取する場合でDHAが508mg、EPAが108mg、1,5−AGが48mg摂取できる。
【0031】
実施例4
DHAとEPAを含有する魚油とビタミンEを含有する植物油の混合油(DHAとして38%w/w、EPAとして8.2%w/wを)707部にコーンスターチ1890部、1,5−AGの結晶微粉末を520部を混合し粉末化した。この得られた紛体をハードカプセルに、1カプセルあたり240mg充填した。このカプセル1粒あたりにDHAが20mg、EPAが4mg、1,5−AGが40mgとなる。一日に4粒摂取する場合でDHAが80mg、EPAが16mg、1,5−AGが200mg摂取できる。
【0032】
実施例5
お酢3部に砂糖0.5部と塩0.5部を添加し撹拌した。それに植物油6部と醤油1部を混合し良く撹拌した。それにDHAとEPAを含有する魚油とビタミンEを含有する植物油の混合油(DHAとして38%w/w、EPAとして8.2%w/wを)0.6部、結晶1,5−AGを0.05部添加し良く混合しドレシングを調製した。
このドレッシング10mlにDHAが約230mg、EPAが約50mg、1,5−AGが50mg含まれる。

図1
図2