【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2に開示の技術は殊更レースを対象とした技術ではなく、特にレース柄、レースの使用状態を考慮した孔の位置形成が要求される技術に対応できない。
【0007】
さらに、ダメージ加工は、基本的にダメージ以外の加工が完了した最終段階製品に対して施すこととなるため、編成を完了しているレースにダメージ加工を施すと、レース自体が繊細で形状を維持することができず、レース模様が変わり(型崩れする)、柄が乱れ、良好な製品を得ることが難しい。
【0008】
特許文献3,4に示される抜き糸は、編み立てられるレース地を、編み立て方向に沿って分離する技術であり、本願が目的とする孔の形成を目的としたものではない。特許文献5では、つなぎ糸14aを切断することにより、同じく編み立て方向に沿った分離を行う。
しかし、特許文献3、4、5では編機としてラッセル編機を使用している。この場合、先に示したように、客先の要求に従って、柄に対応して、レースに設ける孔の位置、その個数等を変更しようとすると、基本的にラッセル編機では抜き糸の位置を自由に選択できないために、機械自体(例えば、抜き糸に使用する筬の選択、数、筬列上の位置等)を変更する必要が発生し、この機械的な変更だけで月単位の期間を要し、納期が長期となり、多品種、少量生産の今日の需要に対応できない。
【0009】
一方、繊維製品に孔を空ける技術として溶解性の糸を使用する技術は存在するが、この技術では染色前に溶解性の糸を溶解させることとなり、溶解性の糸が溶解するとレース自体が型崩れし、しわがよりレースの美観が崩れる。
【0010】
従って、本発明の目的は、装飾性が高く、任意の位置に自由に孔を設けることができる孔あきレースの製造方法に係り、さらに、染色等の編立て後の編地処理工程を経てもしわ等の問題が発生することがないレース地の製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための、
ボビン糸から成るウェールの隣り合うコース部位を緯糸で適宜連結して地組織を形成し、柄模様を形成する柄糸を多数前記地組織に編み込んで編成するとともに、前記ウェールに沿って延びる幅方向両側端縁を形成するリバーレースの製造方法の特徴手段は、
前記幅方向両側端縁内に位置し、レース地の幅方向で隣り合う一対のウェールである孔形成対象ウェール間に、所定のコース数を隔てて交互に孔形成用渡り糸を編み込むとともに、前記孔形成対象ウェール間において、レース編み立て方向に於ける孔形成対象部位において、前記緯糸を前記孔形成対象ウェールのいずれか一方のウェールに留め、
レース編み立て方向に於ける前記孔形成対象部位以外の部位にのみ、
前記緯糸を前記孔形成対象ウェール間に渡って編み込む緯糸編込み部位を設けるとともに、前記柄糸を前記孔形成対象ウェール間に渡って編み込む柄糸編込み部位を設ける編み立て工程を実行し、
前記編み立て工程で得られるリバーレースを処理する処理工程を実行し、
前記孔形成用渡り糸を編み地から除去する孔形成工程を実行して、孔を有するリバーレース地を得ることにある。
【0012】
本願に係るリバーレース地の製造方法を実施する場合は、基本的に、編み立て工程、処理工程、孔形成工程の順に作業を進める。
編み立て工程においては、予め作成する組織図面に基づいたレースの編み立てを実行する。この工程にあっては、例えばダメージレースとして必要となるレースの孔形成対象ウェール間に孔形成用渡り糸を編み込む。そして、染色等の処理工程を経た後、実質的な最終工程となる孔形成工程で、編み立て段階で編み込んでおいた孔形成用渡り糸を抜く。
ただし、処理工程を省略できる場合は実質的な処理がされることなく作業を進め、あるいは、処理工程で実施する処理がリバーレース地に与える影響が軽度である場合は、編み立て工程、孔形成工程、処理工程の順に作業を進めてもよい。
【0013】
本願に言う孔形成対象ウェールはレース地においてレース地の幅方向で隣接する一対のウェールとなる。従って、孔形成用渡り糸を編み立て後、編地(レース地)から抜き操作すると、孔形成対象部位に関しては、これら一対のウェール間に緯糸も柄糸もないため、編み立て方向で分離することになる。一方、孔形成対象部位とは異なる部位である、緯糸編込み部位、柄糸編込み部位に関しては、当該ウェール間に緯糸若しくは柄糸或いはそれら両方が編み込まれているため、分離することはない。
結果、例えば、
図1に図番2に示すように、編み立て方向に特定のウェール間に渡って延びた孔を形成することができる。
【0014】
本願にあっては、このような孔をレース地の幅方向両側端縁間の任意の位置に任意の数だけ形成できる。さらに、レース地の編み立て方向の任意の位置に任意の長さで形成できる。結果、レース地に形成する柄に合わせて、編み立て方向に延びる本願独特の形態の孔を形成でき、ダメージレースとしての孔有りレースを得ることができるとともに、例えば
図1に示すような独特な意匠のレースを得ることができる。
【0015】
しかも、本願では、編機としてリバーレース機を使用するため、レース地幅方向における孔形成用渡り糸の位置調整を簡単に行える。さらに、孔形成対象部位の特定も容易である。
このような調整はラッセル機でも使用者側で可能だが、ラッセル機の仕様変更を意味することとなるため、変更に一ヶ月程度を要し、実用的でない。また、各レース柄毎に対応して所望の箇所に孔を設けたり、一度サンプルを作成し客先が評価した後、孔の位置、長さをレース地幅方向を含めて変更する等の細かな調整がラッセル機では事実上不可能である。
本願においては、リバーレースを機械的に製造できる機械をリバーレース機と呼んでいる。リバーレースは組紐的な構造を有するため織物である見解もあるが、後述する構造(段落〔0024〕〜〔0031〕)を有するリバーレースを製造できる機械である点において変わりはない。仮に織物との見解に立脚する場合、本願にいうレース地の幅方向は経糸(ボビン糸)の並び方向に該当し、編み立て方向は織りの進行方向となる。
【0016】
さて、前記緯糸編込み部位を形成するに、
前記レース編み立て方向において、緯糸の編込み密度が異なる部位を設けることも好ましい。
【0017】
本願に係るレース地においては、緯糸編込み部位で、緯糸が孔形成対象ウェール間に渡って編み込まれるため、この部位に先に説明したような孔が形成されることはない。しかし、孔形成対象ウェール間が緯糸により繋がれている場合でも、その密度を調整することで、緯糸の密度が高い領域においては編み立て方向にウェールがしっかりと延びるレース部となり、密度が低い領域は比較的緩く接続され、荒いネット(メッシュ)が存在する部分となる。結果、例えば、本願独特の孔形成対象部位の編み立て方向、上下に密な領域を形成すると孔を明確とでき、粗な領域を設け、その先を密とすると、順次、孔から密なレース組織へと移行する構成を実現できる。
【0018】
さらに、
前記編み立て工程を実行するに、
前記緯糸のみを前記孔形成対象ウェール間に編み込む緯糸単独編込み部位を設けるとともに、前記柄糸と前記緯糸との両方を前記孔形成対象ウェール間に編み込む柄糸・緯糸編込み部位を設けることも好ましい構成である。
緯糸単独編込み部位或いは柄糸・緯糸編込み部位を形成することで、ネット単独部位及び柄の乗った部分を形成でき、孔形成対象部位を挟む等して、様々なレース模様を展開できる。
【0019】
さらに、
前記緯糸若しくは前記柄糸として第一繊維及び第二繊維を備え、
前記第一繊維として前記第二繊維より太い繊維が使用され、
レース地の編み立て方向における編み組織に関し、当該方向における領域間の比較で、前記第一繊維の密度が前記第二繊維の密度より高い領域が形成されることが好ましい。
この製造方法を採用する場合は、糸の太さの選択により、例えば、孔形成対象部位を挟む等して、レースの孔が糸により覆われるレース地を見た場合のカバー形態を適切に調整できる。
さらに、このような第一繊維、第二繊維として特定の染料に対して異なった発色性の繊維を選択すれば、色の変化もレース地のカバー形態に合わせて調整できる。
【0020】
以上、これまで説明してきたリバーレース地の製造方法を使用することにより、幅方向両側端縁内に、レース編み立て方向に複数コースに渡ってのびる孔を備えたリバーレース地を、機械的に且つ容易に製造することができた。