【実施例1】
【0015】
実施例1に係るメカニカルシールをタンデム型のメカニカルシール装置として用いる例として、
図1から
図9を参照して説明する。
【0016】
主に
図1を参照して、タンデム型のメカニカルシール装置は、二組のメカニカルシール1、21により、機内領域B1と機外領域B3との間の回転軸50を軸封するものである。メカニカルシール1、21の間に形成された中間領域B2には、ハウジング40,43の連通孔41,44を介して外部から、バリア液を流出入可能となっている。機内側のメカニカルシール1は、メイティングリング2、シールリング3、二次シールであるOリング10、スプリング14,14・・、回り止めピン(図示しない)から主に構成されている。機外側のメカニカルシール21は、メイティングリング22、シールリング23、二次シールであるOリング30、スプリング(図示しない)、回り止めピン28,28・・から主に構成されている。
【0017】
タンデム型のメカニカルシール装置を組み込んだ流体機器の運転時には、スリーブ16、スプリングホルダ12、32、シールリング3、23が回転軸50と共に回転する。シールリング3の摺動面4S(
図3)とメイティングリング2の摺動面2S(
図3)による密封作用と、二次シールであるOリング10等による密封作用により、機内領域B1と中間領域B2との間が密封される。また、シールリング23の摺動面とメイティングリング22の摺動面による密封作用と、二次シールであるOリング30等による密封作用により、中間領域B2と機外領域B3との間が密封される。以下、メカニカルシール1、21はほぼ同様の構成であるため、主に、メカニカルシール1について説明する。
【0018】
主に
図2から
図5を参照して、メイティングリング2は、SiC(炭化珪素)により形成され、ノックピン42によりハウジング40に対して回転不能に規制され、かつハウジング40の端面と当接し軸方向に移動不能に規制されて取り付けられている。シールリング3は、カーボンにより形成され、回り止めピン(図示しないがメカニカルシール21の回り止めピン28、28・・と同様である。)によりスプリングホルダ(ガイド部材)12に対して回転不能に規制され、スプリング14,14・・により付勢され、軸方向に移動可能に取り付けられている。なお、メイティングリング2、シールリング3の材質として、SiC、カーボンを例について説明したが、他の材質であってもよい。
【0019】
シールリング3は、メイティングリング2側に突出する環状の摺動凸部4、摺動凸部4の軸方向反対側に設けられた環状の被押圧凸部6、被押圧凸部6側及び内径側に開放する環状溝7、径方向溝(溝)8,8・・・(例えば周方向に均等に5箇所)、上述した回り止めピンが嵌合するスリット9(
図2、スリット29(
図1)と同様の構成。)から主に構成されている。環状溝7は、内周面7Aと、軸に直交する端面7Bとから構成され、平面状の内周面7Aと平面状の端面7Bの角部は断面が略四分円の環状面により接続されている。この断面が略四分円の環状面は必須ではないが、この環状面を有する形状とするとシールリング3の製造が簡単となる。
【0020】
端面7Bには、その内径側から外径側に延びる側面視略半円形状の径方向溝8(
図2)が形成されている。径方向溝8の径方向長さは、端面7Bの径方向長さの略8割である。ここで、径方向溝8の径方向長さは、端面7BにOリング10が押し付けられた状態(
図4)で、径方向溝8の外径側の先端が、領域C1に臨む位置まで延びていることが好ましい。加えて、径方向溝8の形状は、Oリング10が押し付けられて変形しても径方向溝8を塞がない形状とすることが好ましい。なお、領域C1は、Oリング10の外周面と環状溝7とにより形成される空間であり、具体的には、
図4の状態で、Oリング10の外径側部分と内周面7Aとの環状接触部分と、Oリング10の軸方向の膨出頂部と端面7Bとの環状接触部分とを境界とする空間を意味する。なお、Oリング10の軸方向の膨出頂部10T(
図6(a))は、圧縮前の断面が円形のOリング10の場合には径方向厚さ方向の略中心に位置する。
【0021】
シールリング3は、押圧プレート15を介して周方向に複数配置されたスプリング14,14・・により軸方向に付勢されている。スプリングホルダ12は、スプリング14,14・・を保持する保持部が形成されるとともに、スリーブ16に図示しないボルトにより一体に固定されている。また、スリーブ16は図示しないボルトにより回転軸50に一体に固定され、回転軸50とともに回転する。
【0022】
また、スプリングホルダ12には、シールリング3側に環状溝13が形成されており、環状溝7とともにOリング10を保持する環状の保持空間を形成している。環状溝13は、外周面13Aと、軸に直交する平面状の端面13Bとにより形成されている。環状溝7と環状溝13によりOリング10を軸方向に保持するOリング保持室Rが形成されている。
【0023】
ここで、Oリング10は、ゴム材で形成され、かつその自然状態で断面円形に形成され、その直径が内周面7Aと外周面13Aとの距離よりも長く形成されている。Oリング10をOリング保持室Rに保持状態、すなわちシールリング3とスプリングホルダ12との間に装着した状態では、径方向に圧縮変形して、径方向内外でそれぞれ内周面7Aと外周面13Aと環状に接触し、シール面を形成している。また、Oリング10は、機内圧P1とバリア液圧P2の差圧PLにより軸方向に移動可能な程度の接圧でOリング保持室Rに配置されている。なお、Oリング保持室Rは、径方向内外でそれぞれOリング10を密封するシール面を形成し、かつ、上記差圧PLによりOリング10を軸方向に移動可能に保持するものであればよい。また、Oリング10はその断面形状は円形に限らない。
【0024】
次いで、動作について説明する。
図3に示される標準モードでは機内圧P1がバリア液圧P2よりも低圧である「正圧」(P1<P2)により運転されているが、運転状況によっては、
図4に示される機内圧P1がバリア液圧P2よりも高圧である「逆圧」(P1>P2)により運転されることもある。このように、実施例1では機内圧P1とバリア液圧P2の関係が、P1<P2のときを正圧、P1>P2のときを逆圧と呼ぶ。運転状況によらず、メカニカルシール1の摺動面間は離間することなく密封性能を維持することが望ましい。
【0025】
逆圧から正圧に移行する場合、高圧になったバリア液圧P2は径方向溝8を通って領域C1(
図6(a))に作用する。すなわち、高圧のバリア液圧P2がOリング10のメイティングリング2側の側面の内、端面7Bとの接触部分を除く膨出頂部10Tに作用する(
図6(b))。当該バリア液圧P2が作用する面積は狭いため、Oリング10は差圧PLにより、当該端面7Bから離れる軸方向に迅速かつ確実に移動を開始する。その後、Oリング10の一部が当該端面7Bから離れるとさらにOリング10にバリア液圧P2が作用する面積が増え、Oリング10を迅速に移動させ、最終的に
図3に示す正圧の状態となる。したがって、逆圧から正圧に移行した直後、つまり、差圧PLが小さいときからバリア液圧P2による摺動面間を押し付ける所望の力を確保できるため、摺動面間から漏れが発生することを抑制できる。
【0026】
一方、
図14に示す径方向溝を設けない場合(特許文献1に例示される場合。)には、領域C1にバリア液圧P2が作用しておらず、機内圧P1が作用する面積はバリア液圧P2が作用する面積の略2倍であるため、バリア液圧P2が機内圧P1の略2倍になるまでOリング10は移動せず、摺動面間から漏れが発生する虞がある。
【0027】
上述に加え、径方向溝8は径方向に延在しており、逆圧の状態において、径方向溝8がOリング10の径方向に切れ目なく対向している。そのため、逆圧から正圧に移行するときに、径方向溝8内のバリア液の圧力が高まる(短い時間で圧力が急激に高まる)ことにより、Oリング10は径方向溝8に対向する箇所において径方向に切れ目なく圧力を受けるため端面7Bから離れやすい。さらに、周方向に離れた一部の箇所にバリア液が入り込み当該箇所を基点として、複数の箇所にバリア液の圧力が作用し、Oリング10は端面7Bから離れやすく、Oリング10を確実かつ迅速に端面7Bから離すことができる。
また、径方向溝8は周方向に複数設けられているため、Oリング10の膨出頂部10Tの内、端面7Bに接触する箇所が周方向おいて分断される(
図6(b))。そのため、逆圧から正圧に移行するときに、Oリング10を迅速に端面7Bから離すことができる。
【0028】
また、径方向溝8は径方向に延在するため、この溝を設けることによって摺動面を有するシールリング3自体が長くなることや、機械的な強度が低下することがない。シールリング3自体がOリング保持室Rの一部を形成し、その端面7Bに径方向溝8を設けこの形状が溝であるため、構造が単純かつ加工が容易である。セラミックス等により形成されるシールリング3であっても溝を設けても設計の自由度に大きな影響はない。
【0029】
<変形例1>
図7に示されるように、径方向溝8を浅溝(侵入抑制手段)8Aと深溝8Bから構成してもよい。差圧PLが大きい場合であって、Oリング10が端面7Bに押圧されて変形しても、Oリング10が浅溝8Aを塞ぐことがあっても深溝8Bを塞ぐことはなく、領域C1への流路を閉塞することを回避できる。また、深溝8Bは浅溝8Aに幅方向に重畳するように設ければよいが、その幅方向の位置を中央とすると、変形したOリング10がより侵入し難いためより好ましい。
なお、径方向溝8は、浅溝8Aを省略し、深溝8Bのみとしても良い。この場合には、浅溝8AによるOリング10の変形を吸収する作用やバリア液圧がOリング10に広い面積で面する作用はないものの、変形したOリング10が深溝8Bを閉塞し難くなる。
【0030】
<変形例2>
図8に示されるように、径方向溝8の側面視(
図2)の形状として、(a)のごとき略半円のものについて説明したが、(b)のごとき略台形、(c)のごとき略矩形であってもよく、その形状は問わない。(a)や(b)のように、外径側に行くにつれて幅狭となるように形成されている(径方向溝8の断面積が、Oリング保持室Rの入口側よりも奥側が小さく形成されている)ことが好ましい。このような形状であると、逆圧から正圧に切り換わった直後、過渡的に径方向溝8に生じる流れによりいわゆる楔効果により中央及び外径側の圧力が高まり、迅速にOリング10を端面7Bから離間させることができる。
【0031】
<変形例3>
図9に示されるように、径方向溝8の断面(
図3)の形状として、(a)のごとく略矩形のものについて説明したが、(b)のごとき径方向溝8’はその断面が略直角三角形であってもよい。(b)の場合、変形例2の(a)、(b)と同様に楔効果を生じさせることができる。
なお、変形例1から変形例3の構造を組み合わせて採用してもよい。
【実施例4】
【0035】
次に、実施例4について、
図13を参照して説明する。なお、実施例1−3と同一構成で重複する説明を省略する。実施例1−3では、シールリング3が回転軸50と共に回転する例について説明したが、メイティングリングが回転軸と共に回転するものであってもよい。また、実施例1では、シールリング3の一部にOリング10が接する例について説明したが、Oリングはシールリング以外の他の部材のみに接するものであってもよい。
【0036】
メイティングリング52は、回転軸50に固定されたホルダ73に保持固定され、回転軸50と共に回転する構造である。シールリング53は、スプリングホルダ55を介してスプリング64,64・・からメイティングリング52側に付勢力を受けている。スプリングホルダ55とハウジング(ガイド部材)70により形成される空間にOリング60が配置されている。Oリング60は差圧PLにより正圧のときハウジング70の端面に当接し、逆圧のときスプリングホルダ55の端面に当接する。スプリングホルダ55の端面には、径方向外側から内側に延びる径方向溝58が設けられている。
【0037】
このように構成したため、正圧から逆圧に移行したときにも、Oリング60を迅速かつ確実にスプリングホルダ55の端面から離間させて、スプリングホルダ55の端面にバリア液圧P2を作用させて、所望の摺動面を押す力を確保して、摺動面間から漏れが生じる虞はない。
なお、本発明におけるシールリングは、軸方向に移動可能に配置され、摺動面を有し、かつ端面等を備えるものであり、複数の部材によって構成されていてもよい。実施例4の場合には、シールリングは、シールリング53及びスプリングホルダ53により構成されている。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0039】
上述の実施例では、タンデム型のメカニカルシール装置を例に説明したが、ダブル型であっても、シングル型であってもよい。要するに、メカニカルシールにより仕切られる機内側の領域と機外側の領域の流体の圧力の関係が、正圧と逆圧とを生じるものであれば本発明を採用することが可能である。
【0040】
また、周方向の長さ(幅)について、各径方向溝8,8・・の幅は、隣接する径方向溝8,8の距離に比べて十分に短いものについて説明したが、この長さ関係を逆にしてもよい。径方向溝10A、凸部10Bについても同様である。
【0041】
また、径方向溝8,8・・が、周方向に均等に配置される例について説明したが、径方向溝8,8・・を不均等に配置してもよい。このようにすると、メカニカルシールにより仕切られる機内側の領域と機外側の領域の流体の圧力の関係が逆転した直後、過渡的に周方向に不均一にOリング10に液圧が作用するため、一部を基点としてOリング10をより迅速に端面7Bから隔離させることができる。径方向溝10A、凸部10Bについても同様である。