【解決手段】モータ駆動制御装置1は、センサレス駆動処理部31と、回転状態判定部32とを有し、センサレスモータ9に駆動電流を供給する3相電圧型インバータ2に対して駆動信号を出力する。センサレス駆動処理部31は、インバータ2のシャント抵抗に印加される電圧に基づいて、速度クローズドループ制御によるセンサレス駆動処理を行う。回転状態判定部32は、駆動信号の非出力時において、モータの誘起電圧に基づいてモータの回転状態を判定する。センサレス駆動処理部31は、回転状態判定部32の判定に基づいて、センサレス駆動処理を開始する。これにより、モータ9の回転状態に応じて、インバータ2に対して適切な駆動信号を出力できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
<1.装置の構成>
まず、モータ制御装置1の構成について、
図1および
図2を参照しつつ、説明する。
図1は、モータ制御装置1の構成を示すブロック図である。
図2は、本実施形態に係るモータ制御装置1のインバータ2および分圧回路12の構成の概略を示す回路図である。
【0012】
モータ制御装置1は、モータ9に駆動電流を供給することにより、モータ9の駆動を制御する装置である。
図1に示すように、モータ制御装置1は、上位コントローラ11、分圧回路12、インバータ2およびマイコン3を有する。
【0013】
上位コントローラ11は、マイコン3へ、モータ9の回転開始・停止等の動作や、モータ9の目標回転速度等の指令信号を入力するための装置である。上位コントローラ11は、ユーザがモータ9の動作や目標回転速度等の指令信号を入力すると、マイコン3の後述する主制御部40に対して回転開始指令信号S111を入力するとともに、マイコン3の後述する速度制御部48に対して目標回転速度指令信号S112を入力する。
【0014】
分圧回路12は、モータ9の3相の各相に印加される電圧を検出する回路である。分圧回路12は、
図2に示すように、3つの入力端子121、接地端子122、3つの第1抵抗R1、3つの第2抵抗R2、3つの出力端子123および3つのツェナーダイオードZDを有する。
【0015】
3つの入力端子121はそれぞれ、モータ9の3相各相の駆動電流入力端子91〜93と接続している。また、各入力端子121と接地端子122との間には、第1抵抗R1および第2抵抗R2が接続されている。そして、第1抵抗R1と第2抵抗R2との間には、それぞれ出力端子123が設けられる。3つの出力端子123は、それぞれマイコン3の誘起電圧入力端子301〜303に接続される。これにより、モータ9に誘起電圧が生じると、第1抵抗R1および第2抵抗R2の抵抗比に従って分圧された各相の誘起電圧S12が、誘起電圧入力端子301〜303へと入力される。
【0016】
各出力端子123と誘起電圧入力端子301〜303との間には、ツェナーダイオードZDのカソード側端部が接続される。ツェナーダイオードZDのアノード側端部は、接地されている。これにより、誘起電圧入力端子301に過電圧が印加されることが防止される。
【0017】
インバータ2は、マイコン3から入力される駆動信号S3に従って、モータ9に駆動電流S2を供給する。インバータ2は、
図2に示すように、電圧源Vdc、6個のスイッチング素子SW1〜SW6、シャント抵抗Rs、および、3個のモータ接続端子21〜23を有する。このインバータ2は、いわゆる3相電圧型インバータである。
【0018】
6つのスイッチング素子SW1〜SW6は、U相に対応するSW1,SW2、V相に対応するSW3,SW4、およびW相に対応するSW5,SW6の3対のスイッチング素子を含む。スイッチング素子SW1〜SW6は、それぞれ、トランジスタおよびダイオードにより構成されている。本実施形態のスイッチング素子SW1〜SW6には、例えば、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が用いられる。なお、スイッチング素子SW1〜SW6には、MOSFET(電界効果トランジスタ)などの他の種類のスイッチング素子が用いられてもよい。
【0019】
スイッチング素子SW1,SW2と、スイッチング素子SW3,SW4と、スイッチング素子SW5,SW6とは、それぞれ、電圧源Vdcと接地点との間に直列に接続される。そして、スイッチング素子SW1,SW2と、スイッチング素子SW3,SW4と、スイッチング素子SW5,SW6とは、互いに並列に接続される。
【0020】
スイッチング素子SW1,SW2、スイッチング素子SW3,SW4、およびスイッチング素子SW5,SW6の接地点側の接続点と、接地点との間には、3相に共通するシャント抵抗Rsが接続される。すなわち、シャント抵抗Rsは、インバータ2の3相に共通のグラウンド・ラインに直列接続される。
【0021】
モータ接続端子21〜23はそれぞれ、U相に対応する2つのスイッチング素子SW1,SW2の間、V相に対応する2つのスイッチング素子SW3,SW4の間、および、V相に対応する2つのスイッチング素子SW5,SW6の間に接続される。
【0022】
モータ9の駆動時には、6つのスイッチング素子SW1〜SW6に、後述するマイコン3の駆動信号生成部53から出力される駆動信号S3が入力される。これにより、各スイッチング素子SW1〜SW6の駆動タイミングが切り替わり、駆動電流S21〜S23がモータ接続端子21〜23からモータ9の駆動電流入力端子91〜93を介してU相、V相、W相の各相へと出力される。
【0023】
上記の構成により、シャント抵抗Rsには、モータ9のU相、V相、W相の相電流が加算されて入力される。これにより、シャント抵抗Rsにシャント電流Isが流れる。シャント抵抗Rsの接地点とは反対側の端部には、シャント電流検出端子24が設けられている。シャント電流検出端子24は、マイコン3のADコンバータ41と接続される。モータ9の駆動時には、シャント電流検出端子24からADコンバータ41へ、シャント抵抗Rsにかかるシャント電圧S24が出力される。
【0024】
マイコン3は、外部から入力される目標回転速度指令信号S112と、シャント電圧S24と、後述する分圧回路12から入力される誘起電圧S12とに基づいて、駆動信号S3を生成する。そして、マイコン3は、生成した駆動信号S3をインバータ2へと出力する。
【0025】
マイコン3は、
図1に示すように、主制御部40、ADコンバータ41、相電流復元部42、Clarke変換部43、D因子フィルタ44、Park変換部45、第1位相速度推定部46、位相セレクタ47、速度制御部48、電流指令セレクタ49、電流制御部50、逆Park変換部51、逆Clarke変換部52、駆動信号生成部53、ADコンバータ54、誘起電圧判定部55、Clarke変換部56、電気角算出部57、第2位相速度推定部58、強制転流指令部59および初期位置推定部60を有する。
【0026】
このマイコン3は、マイクロコントローラにより構成され、モータ駆動装置1においてモータ9の駆動を主に制御するモータ駆動制御装置である。そのため、これらの各部の機能は、マイコン3を構成するマイクロコントローラ内のCPUがプログラムに従って動作することにより、実現される。なお、マイコン3の機能は、マイクロコントローラに代えて、パーソナルコンピュータや、電気回路により実現されてもよい。
【0027】
主制御部40は、マイコン3内の各部の動作を制御する。具体的には、主制御部40は、マイコン3内の各部が出力した信号に基づいて、後述するセンサレス駆動処理部31、回転状態判定部32および強制転流処理部33のいずれを駆動させるかを決定する。また、主制御部40は、後述する位相セレクタ47および電流指令セレクタ49の切替を行う。
【0028】
ADコンバータ41は、シャント電流検出端子24から出力されたシャント電圧S24をアナログデジタル変換し、デジタル値に変換したデジタルシャント電圧S41を、相電流復元部42および初期位置推定部60へと出力する。
【0029】
相電流復元部42は、ADコンバータ41から入力されたデジタルシャント電圧S41に基づいて、復元3相電流S42を算出し、Clarke変換部43へと出力する。復元3相電流S42には、モータ9のU相電流を復元した復元U相電流Iu、モータ9のV相電流を復元した復元V相電流Iv、および、モータ9のW相電流を復元した復元W相電流Iwが含まれる。
【0030】
Clarke変換部43は、復元3相電流S42をαβ固定座標系にClarke変換して固定座標系電流S43を算出し、D因子フィルタ44へと出力する。固定座標系電流S43には、α軸系電流Iαおよびβ軸系電流Iβが含まれる。
【0031】
D因子フィルタ44は、固定座標系電流S43を成形する1次遅れD因子フィルタである。D因子フィルタ44は、固定座標系電流S43に重畳されたリプルノイズを除去して修正固定座標系電流S44を算出し、Park変換部45および第1位相速度推定部46へと出力する。修正固定座標系電流S44には、修正α軸系電流Iα’および修正β軸系電流Iβ’が含まれる。D因子フィルタ44の具体的な構成については、後述する。
【0032】
Park変換部45は、後述する電気角θを用いて、修正固定座標系電流S44をdq同期回転座標系にPark変換して回転座標系電流S45を算出し、電流制御部50へと出力する。回転座標系電流S45には、d軸系電流Idおよびq軸系電流Iqが含まれる。
【0033】
第1位相速度推定部46は、修正固定座標系電流S44と、後述する固定座標系電圧指令値S51とに基づいて、ロータの電気角θ1およびロータの電気角の角速度ω1を算出する。第1位相速度推定部46は、算出した電気角θ1を位相セレクタ47へと出力するとともに、算出した電気角の角速度ω1を速度制御部48およびD因子フィルタ44へと出力する。
【0034】
なお、本実施形態の第1位相速度推定部46は、Clarke変換部43から出力され、D因子フィルタ44により成形された修正固定座標系電流S44と、逆Park変換部51から出力される固定座標系電圧指令値S51とに基づいて、電気角θ1および電気角の角速度ω1を算出するが、本発明はこれに限られない。第1位相速度推定部46は、Park変換部45から出力された回転座標系電流S45と、電流制御部50から出力される回転座標系電圧指令値S50とに基づいて、電気角θ1および電気角の角速度ω1を算出する構成であってもよい。
【0035】
位相セレクタ47は、主制御部40からの選択信号に従って、第1位相速度推定部46から入力された電気角θ1と、後述する強制転流指令部59から入力される電気角θ4とのうち、いずれか1つを選択し、電気角θとしてPark変換部45および逆Park変換部51へと出力する。
【0036】
速度制御部48は、上位コントローラ11から入力された目標回転速度S11と、第1位相速度推定部46から入力された角速度ωとに基づいて、dq同期回転座標系における目標電流値である電流指令値S48を算出し、電流指令セレクタ49へと出力する。電流指令値S48には、d軸系電流指令値Idrefおよびq軸系電流指令値Iqrefが含まれる。
【0037】
電流指令セレクタ49は、主制御部40からの選択信号に従って、速度制御部48から入力された電流指令値S48と、後述する強制転流指令部59から入力される強制転流電流指令S593とのうち、いずれか1つを選択し、電流指令S49として電流制御部50へと出力する。
【0038】
電流制御部50は、電流指令S49と、回転座標系電流S45とに基づいて、回転座標系電圧指令値S50を算出する。そして、電流制御部50は、回転座標系電圧指令値S50を、逆Park変換部51へと出力する。回転座標系電圧指令値S50には、dq同期回転座標系における電圧指令値であるd軸系電圧指令値Vdおよびq軸系電圧指令値Vqが含まれる。
【0039】
センサレス駆動処理において、電流制御部50には電流指令S49として速度制御部48から出力された電流指令値S48が入力される。この場合、電流制御部50は、回転座標系電流S45のd軸系電流Idと、電流指令値S48のd軸系電流指令値Idrefとに基づいてPI制御を行うことにより、d軸系電圧指令値Vdを算出する。また、電流制御部50は、回転座標系電流S45のq軸系電流Iqと、電流指令値S48のq軸系電流指令値Iqrefとに基づいてPI制御を行うことにより、q軸系電圧指令値Vqを算出する。一方、強制転流処理において、電流制御部50には電流指令S49として強制転流指令部59から出力された強制転流電流指令S593が入力される。この場合、電流制御部50は、後述する強制転流電流指令値S593のd軸系強制転流電流指令値Idfrefおよびq軸系Iqfrefに基づいて回転座標系電流S45のd軸系電圧指令値Vdとq軸系電圧指令値Vqとを算出する。
【0040】
逆Park変換部51は、電気角θを用いて、回転座標系電圧指令値S50をαβ固定座標系に逆Park変換して固定座標系電圧指令値S51を算出し、逆Clarke変換部52へと出力する。固定座標系電圧指令値S51には、αβ固定座標系における電圧指令値であるα軸系電圧指令値Vαおよびβ軸系電圧指令値Vβが含まれる。
【0041】
逆Clarke変換部52は、固定座標系電圧指令値S51を3相に逆Clarke変換して相電圧指令値S52を算出し、駆動信号生成部53へと出力する。相電圧指令値S52には、3相に対応する電圧指令値であるVu,Vv,Vwが含まれる。
【0042】
駆動信号生成部53は、相電圧指令値S52に基づいて駆動信号S3を生成し、インバータ2へと出力する。
【0043】
本実施形態では、主制御部40、ADコンバータ41、相電流復元部42、Clarke変換部43、D因子フィルタ44、Park変換部45、第1位相速度推定部46、位相セレクタ47、速度制御部48、電流指令セレクタ49、電流制御部50、逆Park変換部51、逆Clarke変換部52および駆動信号生成部53によって、センサレス駆動処理工程を行うセンサレス駆動処理部31が構成される。上記構成により、このセンサレス駆動処理部31は、インバータ2のシャント抵抗Rsに印加される電圧に基づいて、速度クローズド制御を行う。
【0044】
ADコンバータ54は、分圧回路12から出力された誘起電圧S12をそれぞれアナログデジタル変換し、デジタル値に変換したデジタル誘起電圧S54を、誘起電圧判定部55へと出力する。デジタル誘起電圧S54には、モータ9内に生じた誘起電圧を分圧し、かつ、デジタル化した3相各相のデジタル誘起電圧値Eu,Ev,Ewが含まれる。
【0045】
誘起電圧判定部55は、デジタル誘起電圧S54に基づいて、モータ9の回転状態が第1低速回転状態であるか否かを判断する。具体的には、3相各相のデジタル誘起電圧値Eu,Ev,Ewの振幅値Eiの大きさが、所定の閾値電圧Eth未満である場合に第1低速回転状態であると判断し、主制御部40に判断結果を送信する。一方、振幅値Eiの大きさが閾値電圧Eth以上である場合、ADコンバータ54から入力されたデジタル誘起電圧S54をClarke変換部56へと引き渡す。
【0046】
Clarke変換部56は、デジタル誘起電圧S54をαβ固定座標系にClarke変換して固定座標系誘起電圧S56を算出し、電気角算出部57へと出力する。固定座標系誘起電圧S56には、α軸系誘起電圧Eαおよびβ軸系誘起電圧Eβが含まれる。
【0047】
電気角算出部57は、固定座標系誘起電圧S56に基づいて、サンプリング電気角θ’を算出し、第2位相速度推定部58へと出力する。具体的には、α軸系誘起電圧Eαをβ軸系誘起電圧Eβで除した値をアークタンジェント演算することにより、サンプリング周期毎のサンプリング電気角θ’を算出する。
【0048】
第2位相速度推定部58は、サンプリング電気角θ’に基づいて、ロータの電気角θ2およびロータの電気角の角速度ω2を算出する。第2位相速度推定部58は、算出した電気角θ2および角速度ω2の最終値ω2’を第1位相速度推定部46へと出力する。
【0049】
本実施形態では、主制御部40、ADコンバータ54、誘起電圧判定部55、Clarke変換部56、電気角算出部57および第2位相速度推定部58によって、回転状態判定部32が構成される。主制御部40は、回転開始指令信号S111が入力されるとまず、回転状態判定部32を駆動させる。そして、回転状態判定部32は、角速度ω2に基づいて、次に行う動作を決定する。
【0050】
強制転流指令部59は、強制転流処理を進行する。強制転流指令部59は、主制御部40から強制転流処理開始の指令が入力されると、当該指令に基づいて、インバータ2に対してブレーキ時間Tbの間、ブレーキ指令S591をインバータ2へと出力する。ブレーキ指令S591が入力されている期間、インバータ2はショートブレーキを実施する。これにより、モータ9の回転を制動する。
【0051】
強制転流指令部59は、ブレーキ指令S591の出力が終了すると、駆動信号生成部53に対して、位置推定指令S592を出力する。これにより、駆動信号生成部53は、インバータ2に対して微弱電気信号である微弱パルス信号S53を出力する。なお、微弱パルス信号S53は通常の駆動信号S3と比べて十分小さいため、微弱パルス信号S53がインバータ2に入力された場合であっても、モータ9に回転が生じない。
【0052】
初期位置推定部60は、停止状態のモータ9の電気角θ3を検出する。具体的には、駆動信号生成部53が位置推定指令S592に従ってインバータ2へと微弱パルス信号S53を出力すると、モータ9の電気角に応じたシャント電圧S24がADコンバータ41へと入力される。これにより、モータ9の電気角に応じたデジタルシャント電圧S41が初期位置推定部60へと入力される。初期位置推定部60は、このデジタルシャント電圧S41に基づいてモータの電気角θ3を算出し、第1位相速度推定部46および強制転流指令部59へと出力する。
【0053】
そして、強制転流指令部59は、位置推定指令S592に基づいて初期位置推定部60による電気角θ3の検出が終了すると、続いて、位相セレクタ47に対して強制転流角θ4を出力し、電流指令セレクタ49に対して強制転流電流指令値S593を出力する。強制転流電流指令値S593には、d軸系強制転流電流指令値Idfrefおよびq軸系Iqfrefが含まれる。
【0054】
本実施形態では、主制御部40、ADコンバータ41、電流指令セレクタ49、電流制御部50、逆Park変換部51、逆Clarke変換部52、駆動信号生成部53、強制転流指令部59および初期位置推定部60によって、強制転流処理部33が構成される。
【0055】
<2.マイコンの動作>
<2−1.駆動方法判定処理>
続いて、マイコン3の動作について、図面を参照しつつ説明する。まず、マイコン3が行う駆動方法判定処理について、
図3を参照しつつ説明する。
図3は、モータ9の駆動開始時におけるマイコン3における駆動方法判定処理の流れを示すフローチャートである。本実施形態のモータ制御装置1を用いたモータ9の制御方法では、以下の手順により、モータ9の起動処理を行う。
【0056】
まず、マイコン3の主制御部40に上位コントローラ11から回転開始指令信号S111が入力される(ステップST101)。これにより、主制御部40は駆動方法判定処理を開始する。そして、主制御部40は、時間経過を計測するカウンタをクリアし、経過時間TpをTp=0とする。また、主制御部40は、同時に、回転状態判定部32を駆動させて、分圧回路12を介した誘起電圧S12の取得を開始する(ステップST102)。これにより、ADコンバータ54はサンプリング周期毎に誘起電圧S12をアナログデジタル変換し、デジタル誘起電圧S54を取得する。
【0057】
その後、主制御部40は、カウンタクリアから時間T0が経過したか否か、すなわち、Tp≧T0か否かを判断する(ステップST103)。主制御部40がTp<T0であると判断した場合、マイコン3はステップST103へ戻り待機する。一方、主制御部40がTp≧T0であると判断した場合、主制御部40は、誘起電圧判定部55による誘起電圧S54の電圧値による判定を行う(ステップST104)。
【0058】
ステップST104では、具体的には、所定期間内におけるデジタル誘起電圧S54の3相各相のデジタル誘起電圧Eu,Ev,Ewの振幅値Eiが、閾値電圧Eth以上であるか否かを判断する。振幅値Eiが閾値電圧Eth未満である場合、誘起電圧S54の電圧値が所定の大きさより小さい第1低速回転状態であると判断し、ステップST106へと進む。ステップST106では、インバータ2に対してショートブレーキを行うブレーキ時間Tbを、Tb=T1と設定する。そして、強制転流起動処理へと移行する。
【0059】
ここで、モータ9の回転状態の定義について説明する。本実施形態では、モータ9の回転状態を、第1低速状態、第2低速状態、逆回転状態、正回転状態および高速正回転状態のいずれかに判定する。
【0060】
第1低速状態は、上記の通り、所定期間内におけるデジタル誘起電圧S54の3相各相のデジタル誘起電圧Eu,Ev,Ewの振幅値Eiが、閾値電圧Eth未満である状態である。第2低速状態は、回転状態判定部32により算出されたモータ9の電気角の角速度ω2の絶対値が所定の閾値ωaよりも小さい状態であって、第1低速状態でない場合である。第1低速状態および第2低速状態には、モータ9の回転方向が正方向の場合と、モータ9の回転方向が逆回転の場合と、モータ9が停止状態である場合とが含まれる。
【0061】
逆回転状態は、角速度ω2がω2≦−ωaで表される逆方向の所定の速度範囲に属する状態である。つまり、逆回転状態は、モータ9の回転が逆方向であり、かつ、角速度ω2の絶対値が所定の閾値ωa以上である状態である。
【0062】
正回転状態は、角速度ω2が+ωa≦ω2≦ωbで表される正方向の所定の速度範囲である正回転速度範囲に属する状態である。つまり、正回転状態は、モータ9の回転が正方向であり、かつ、角速度ω2の絶対値が所定の閾値ωa以上かつ所定の閾値ωb以下である状態である。また、高速正回転状態は、角速度ω2がω2>ωbである、すなわち、角速度ω2が正方向かつ正回転速度範囲よりも大きい状態である。つまり、高速正回転状態は、モータ9の回転が正方向であり、かつ、角速度ω2の絶対値が所定の閾値ωbを超える状態である。
【0063】
ステップST104において、振幅値Eiが閾値電圧Eth以上である場合、ステップST105へと進む。主制御部40は、Clarke変換部56、電気角算出部57および第2位相速度推定部58を駆動させて、デジタル誘起電圧S54から固定座標系誘起電圧S56、サンプリング電気角θ’、電気角θ2および電気角の角速度ω2を算出する。そして、モータ9の回転速度を表す角速度ω2の値の属する範囲を判定する(ステップST105)。これにより、モータ9の回転状態を第2低速状態、逆回転状態および正方向回転状態のいずれかに判定する。具体的には、角速度ω2が−ωa<ω2<+ωa、ω2≦−ωa、ω2≧+ωaのいずれの範囲に属するかを判定する。
【0064】
ステップST105において、角速度ω2が−ωa<ω2<+ωaの範囲に属する、すなわちモータ9の回転状態が第2低速状態であると主制御部40が判断すると、ステップST107へと進む。ステップST107では、インバータ2に対してショートブレーキを行うブレーキ時間Tbを、Tb=T2と設定する。そして、強制転流起動処理へと移行する。なお、第2低速状態におけるブレーキ時間T2は、第1低速状態におけるブレーキ時間T1と同一の時間であってもよいし、第1低速状態におけるブレーキ時間T1よりも長くてもよい。
【0065】
このように、本実施形態のマイコン3では、ステップST105に先がけてステップST104を行う。ステップST105における計算量は、ステップST104における計算量よりも大きいため、結果の算出に時間がかかる。そのため、ステップST104で求められる誘起電圧の大きさのみで判断できる場合は、ステップST105における各速度ω2の算出を待つことなく、低速回転であると判断し、強制転流処理へ移行する。これにより、迅速かつスムーズにモータ9を起動できる。
【0066】
一方、ステップST105において、角速度ω2がω2≦−ωaの範囲に属する、すなわちモータ9の回転状態が逆回転状態であると主制御部40が判断すると、ステップST107へと進む。ステップST108では、インバータ2に対してショートブレーキを行うブレーキ時間Tbを、Tb=T3と設定する。そして、強制転流起動処理へと移行する。なお、逆回転状態におけるブレーキ時間T3は、第1低速状態におけるブレーキ時間T1および第2低速状態におけるブレーキ時間T2よりも長い。ただし、第2低速状態におけるブレーキ時間T2および逆回転状態におけるブレーキ時間T3は、角速度ω2が大きくなるにつれて長くなる可変の値であってもよい。
【0067】
このように、回転状態判定部32は、モータ9の回転状態が第1低速状態、第2低速状態または逆回転状態であると判断すると、強制転流処理へと移行する。すなわち、回転状態判定部32は、モータ速度である角速度ω2が正方向かつ正回転速度範囲よりも小さい、または、逆方向であると判断すると、強制転流処理を開始する。
【0068】
また、ステップST105において、角速度ω2がω2≧+ωaの範囲に属する、すなわちモータ9の回転状態が正回転状態または高速正回転状態であると主制御部40が判断すると、ステップST109へと進む。そして、主制御部40は、角速度ω2が所定の閾値ωb以下であるか否かを判断する(ステップST109)。
【0069】
ステップST109において、角速度ω2がωb以下である、すなわちモータ9の回転状態が正回転状態であると判断すると、センサレス駆動処理へと移行するセンサレス駆動移行処理を行う。これにより、迅速かつスムーズにセンサレス駆動処理を開始できる。
【0070】
一方、角速度ω2がωbよりも大きい、すなわちモータ9の回転状態が高速正回転状態であると判断すると、モータ9の駆動開始処理を行うことなく、ステップST102へと戻る。モータ9が所望の回転速度よりも高速で正回転している場合、駆動を開始する必要が無い。そのため、このように待機状態とすることで、無駄な電力消費を抑制できる。
【0071】
このように、主制御部40は、回転開始指令信号S111が入力されると、まず、回転状態判定部32を駆動させて、モータ9の誘起電圧に基づいてモータ9の回転状態を判定する(ステップST103〜ST105,ST109)。
【0072】
そして、回転状態の判定結果に基づいて、強制転流起動処理と、センサレス駆動移行処理とから、起動処理方法を選択する。
【0073】
また、回転状態の判定結果に基づいて、駆動方法判定処理から強制転流起動処理へと移行すると、主制御部40は、後述の強制転流起動処理を実施する。
【0074】
一方、回転状態の判定結果に基づいて、センサレス駆動移行処理を行う場合、初めに、主制御部40は、まず、第2位相速度推定部58の出力する電気角θ2を、第1位相速度推定部46の電気角θ1の初期値に設定する。同時に、主制御部40は、第2位相速度推定部58の出力する電気角の角速度ω2を、第1位相速度推定部46の電気角の角速度θ1の初期値に設定する。
【0075】
その後、第1位相速度推定部46から位相セレクタ47への電気角θ1の入力が開始されると、主制御部40は、位相セレクタ47の出力する電気角θを、第1位相速度推定部46から出力される電気角θ1に設定する。
【0076】
このように、回転状態判定部32によりモータの回転状態を判断することにより、すぐにセンサレス駆動処理へと移行するか、強制転流処理を行ってからセンサレス駆動処理へと移行するかが選択される。これにより、回転状態に応じて適切な起動方法を選択できる。したがって、脱調状態の発生やインバータ電圧の上昇を抑制できる。
【0077】
<2−2.強制転流起動処理>
次に、マイコン3が行う強制転流起動処理について、
図4を参照しつつ説明する。
図4は、マイコン3の強制転流処理部33における強制転流起動処理の流れを示すフローチャートである。
【0078】
まず、強制転流指令部59は、駆動方法判定処理のステップST106〜ST108において設定されたブレーキ時間Tbの期間、ブレーキ指令S591をインバータ2に対して出力する(ステップST201)。これにより、インバータ2は、ブレーキ時間Tbの期間、ショートブレーキを実施する。その結果、モータ9の回転が停止する。
【0079】
続いて、強制転流指令部59は、駆動信号生成部53に対して、位置推定指令S592を出力する。駆動信号生成部53は、位置推定指令S592に従って、インバータ2に対して微弱電気信号である微弱パルス信号S53を出力する。これにより、微弱パルス信号S53に応じた微弱な駆動電流S2がインバータ2からモータ9へ供給され、モータの電気角に応じたシャント電流Isがインバータ2のシャント抵抗Rsに流れる。ADコンバータ41は、このシャント抵抗Rsに印加されるシャント電圧S24を検知し、デジタルシャント電圧S41へと変換し、初期位置推定部60へ出力する。初期位置推定部60は、デジタルシャント電圧S41に基づいてモータ9の電気角θ3を算出する(ステップST202)。主制御部40は、初期位置推定部60で推定された電気角θ3を、第1位相速度推定部46および強制転流指令部59の初期電気角として設定する。
【0080】
その後、強制転流指令部59は、位相セレクタ47に対して強制転流電気角θ4を出力し、電流指令セレクタ49に対して強制転流電流指令値S593を出力する。これにより、電流制御部50が強制転流電流指令値S593に基づいて回転座標系電圧指令値S50を出力し、逆Park変換部51および逆Clarke変換部52を介して相電圧指令値S52が駆動信号生成部53へと入力される。その結果、駆動信号生成部53は、モータ9の回転を開始するために、強制転流用の駆動信号S3をインバータ2に対して出力し、強制転流駆動を開始する(ステップST203)。
【0081】
強制転流駆動が開始されると、主制御部40は、センサレス駆動処理部31の第1位相速度推定部46によるモータ9の電気角の角速度ω1の算出を開始させる。そして、主制御部40は、角速度ω1の値に基づいて、第1位相速度推定部46による速度の推定が成立しているか否かを判断する(ステップST204)。
【0082】
ステップST204において、第1位相速度推定部46による速度の推定が成立しているか否かは、第1位相速度推定部46により算出される角速度ω1の値が所定の閾値以上であるか否かや、第1位相速度推定部46により算出される角速度ω1の値が安定して出力されているか否かに基づいて判断される。ステップST204において、第1位相速度推定部による速度の推定が成立していないと主制御部40が判断すると、ステップST204に戻る。
【0083】
一方、ステップST204において、第1位相速度推定部による速度の推定が成立していると主制御部40が判断すると、強制転流起動処理を終了し、センサレス駆動処理へと移行する。なお、強制転流起動処理からセンサレス駆動処理へと移行すると、主制御部40は、位相セレクタ47の出力する電気角θを強制転流指令部59が出力する強制転流電気角θ4から、第1位相速度推定部46が出力する電気角θ1へと切り替える。また、強制転流起動処理からセンサレス駆動処理へと移行すると、主制御部40は、電流指令セレクタ49が出力する電流指令値S49を、強制転流指令部59が出力する強制転流電流指令値S59から、速度制御部48が出力する電流指令値S48へと切り替える。
【0084】
このように、強制転流処理において、強制転流処理部33は、インバータ2に対してショートブレーキ処理を行った後で、インバータ2に対して強制転流用の駆動信号S3を出力する。したがって、ショートブレーキを行うことで一旦モータを停止させることにより、モータの脱調状態の発生や、インバータ電圧の上昇を発生させることなく、強制転流処理を行うことができる。
【0085】
<2−3.センサレス駆動処理>
続いて、マイコン3が行うセンサレス駆動処理について、
図5を参照しつつ説明する。
図5は、マイコン3のセンサレス駆動処理部31におけるセンサレス駆動処理の流れを示すフローチャートである。
【0086】
まず、マイコン3は、インバータ2のシャント抵抗Rsを流れるシャント電流Isを検出する(ステップST301)。具体的には、インバータ2のシャント電流検出端子24から検出されたシャント電圧S24が、マイコン3に入力される。シャント電圧S24は、ADコンバータ41においてデジタルシャント電圧S41へと変換され、相電流復元部42へと入力される。
【0087】
次に、相電流復元部42において、デジタルシャント電圧S41に基づいて復元3相電流S42、すなわち、復元3相電流Iu,Iv,Iwが算出される(ステップST302)。
【0088】
Clarke変換部43は、復元3相電流Iu,Iv,Iwをαβ固定座標系に変換し、固定座標系電流S43、すなわち、固定座標系電流Iα,Iβを算出する(ステップST303)。そして、D因子フィルタ44は、固定座標系電流Iα,Iβを成形して、修正固定座標系電流S44、すなわち、修正固定座標系電流Iα’,Iβ’を算出する。そして、修正固定座標系電流S44が、Park変換部45および第1位相速度推定部46へと出力される。
【0089】
その後、Park変換部45は、修正固定座標系電流Iα’,Iβ’をdq同期回転座標系に変換し、回転座標系電流S45、すなわち、回転座標系電流Id,Iqを算出する(ステップST304)。また、第1位相速度推定部46では、モータ9の電気角θ1および電気角の角速度ω1が算出される。そして、電気角θ1が位相セレクタ47を介してPark変換部45および逆Park変換部51へと出力される。また、電気角の角速度ω1が速度制御部48へと出力される。
【0090】
そして、上位コントローラ11から入力された目標回転速度指令信号S112と、電気角の角速度ω1とに基づいて、速度制御部48が電流指令値S48を算出する。これにより、d軸系電流指令値Idrefおよびq軸系電流指令値Iqrefが取得される(ステップST305)。なお、ステップST305は、ステップST301〜ST304よりも前に行われてもよいし、ステップST301〜ST304と並行して行われてもよい。
【0091】
続いて、電流制御部50は、回転座標系電流Id,Iqと、電流指令値Idref,Iqrefとに基づいて、電圧指令値S50、すなわち電圧指令値Vd,Vqを算出する(ステップST306)。
【0092】
ステップST306において、電圧指令値Vd,Vqの算出は、PI制御により行われる。PI制御とは、理想値と実測値との差に応じて増幅制御を行う比例制御(P制御)と、理想値と実測値との差の積分値に応じて増幅制御する積分制御(I制御)とを組み合わせて行う制御方法である。これにより、d軸系電圧指令値Vdは、d軸系電流Idとd軸系電流指令値Idrefとの差から求められ、q軸系電圧指令値Vqは、q軸系電流Iqとq軸系電流指令値Iqrefとの差から求められる。
【0093】
なお、電圧指令値Vd,Vqの算出は、PI制御以外の制御方法により行われてもよい。電圧指令値Vd,Vqの算出は、例えば、P制御、PD制御、PID制御などの他の制御方法により行われてもよい。
【0094】
このように、ステップST103においてモータ9の各相を流れる相電流を復元した復元相電流Iu,Iv,Iwをdq同期回転座標系に変換することにより、ステップST306において直流電流とみなすことができる回転座標系電流Id,Iqを用いた制御を行うことができる。したがって、トルク特性を表すq軸系と磁束特性を表すd軸系とによりモータ9の制御を行うことができるため、回転速度とトルクという2つの特性を、複雑な制御方法を用いることなく制御することができる。
【0095】
その後、逆Park変換部51は、電圧指令値Vd,Vqをαβ固定座標系に変換し、固定座標系電圧指令値S51、すなわち、固定座標系電圧指令値Vα,Vβを算出する(ST307)。そして、逆Clarke変換部52が、固定座標系電圧指令値Vα,Vβを3相に変換し、相電圧指令値S52、すなわち、相電圧指令値Vu,Vv,Vwを算出する(ステップST308)。
【0096】
続いて、駆動信号生成部53において、相電圧指令値Vu,Vv,Vwに基づいて、PWM信号である駆動信号S3が生成され、インバータ2へと出力される(ステップST309)。
【0097】
<3.D因子フィルタの構成>
続いて、D因子フィルタ44の構成について、
図6を参照しつつ説明する。
図6は、本実施形態に係るD因子フィルタ44の構成を示すブロック図である。
図7は、D因子フィルタ44のボード線図である。
【0098】
図6に示すD因子フィルタ44は、1次遅れローパスフィルタをベースに2入力2出力のD因子を適応したフィルタである。D因子フィルタ44には、Clarke変換部43から出力された固定座標系電流S43が入力され、成形されてノイズが除去された修正固定座標系電流S44が出力される。ここで、D因子フィルタ44に入力される固定座標系電流S43を、次式に示す2次の列ベクトルで表すものとする。なお、以下の数式において、ラプラス演算子が「s」で表される。
【0100】
また、D因子フィルタ44から出力される修正固定座標系電流S44を、次式に示す2次の列ベクトルで表すものとする。
【0102】
なお、
図6中にJで示す行列は、次式に示す2次の交代行列である。
【0104】
このようなD因子フィルタ44では、出力される修正固定座標系電流S44は、次式に示す値となる。
【0107】
このD因子フィルタ44には、第1位相速度推定部46から出力される角速度ω1が、シフト信号ω0として入力される。これにより、
図7のゲイン線図に示すように、D因子フィルタ44は、シフト信号ω0[rad]を中心に±a0[rad]の帯域を持つバンドパスフィルタとなる。すなわち、D因子フィルタ44は、角速度ω1が変動しても、駆動周波数成分を確実に抽出することができる。
【0108】
また、
図7の位相線図に示すように、位相変移φ[rad]がシフト信号ω0付近において0[rad]となる。すなわち、D因子フィルタ44では、角速度ω1が変動しても、駆動周波数成分を位相遅れなく抽出することができる。
【0109】
本実施形態のセンサレス駆動処理部31は、1シャント方式のセンサレスベクトル制御を行う。このため、3シャント方式の場合と比べて、復元3相電流S42にリプルノイズが重畳される。そのため、固定座標系電流S43にもリプルノイズが重畳される。そこで、固定座標系電流S43に対してこのD因子フィルタ44を用いることにより、遅れ位相のない正弦波に成形できる。
【0110】
なお、1次遅れD因子フィルタは、固定座標系電流S43でなく、復元3相電流S42や回転座標系電流S45に対してフィルタリングを行うものであってもよい。ただし、復元3相電流S42に対してフィルタリングを行う場合、入力および出力が3次の列ベクトルで表される3入力3出力のフィルタとなる。この場合、行列Jは、上記に示す2次の交代行列に代えて、3次の交代行列となる。
【0111】
復元3相電流S42に対してフィルタリングを行うと、2入力2出力の場合と比べて計算量が大きくなるため、固定座標系電流S43または回転座標系電流S45に対してフィルタリングを行うことが好ましい。
【0112】
また、本実施形態では、第1位相速度推定部46が固定座標系の各値に基づいて電気角θ1および角速度ω1を算出している。このため、第1位相速度推定部46に対して固定座標系電流S43をフィルタリングしたものを入力している。
【0113】
<4.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0114】
図8は、一変形例に係るモータ駆動装置1Aにおけるインバータ2Aおよび比較回路12Aの構成を示す回路図である。このモータ駆動装置1Aは、星形結線の3相モータであるモータ9Aを駆動するための装置である。
【0115】
この比較回路12Aは、モータ9Aの3相のうち2相の各相に印加される相電圧を検出する回路である。比較回路12Aは、2つの相入力端子121A、3つの第3抵抗R3、1つの中性点入力端子124Aおよび2つの差動増幅回路125Aを有する。
【0116】
2つの差動増幅回路125Aはそれぞれ、第1端子に入力された電圧値と、第2端子に入力された電圧値との差を増幅させた電圧値をマイコン3Aの誘起電圧入力端子301A,302Aへ出力する。なお、
図8の例では、差動増幅回路125Aにおける増幅率は1以下であるため、マイコン3Aの誘起電圧入力端子301A,302Aに過電圧が印加されることが防止されている。
【0117】
2つの相入力端子121Aはそれぞれ、モータ9Aの3相のうちいずれか2相の各相の駆動電流端子91A,92Aと接続している。相入力端子121Aはそれぞれ、第3抵抗R3を介して差動増幅回路125Aの第1端子に接続されている。中性点入力端子124Aは、モータ9Aの中性点に接続されている。また、中性点入力端子124Aは、第3抵抗R3を介して各差動増幅回路125Aの第2端子に接続されている。
【0118】
これにより、差動増幅回路125Aは、モータ9Aの3相のうち2相について、各相の相電圧に対応する電圧値を誘起電圧入力端子301A,302Aへと出力する。マイコン3Aは、モータ9Aの3相のうち2相の相電圧を取得することにより、残り1相の相電圧を算出する。
【0119】
上記の実施形態では、モータ9の3相各相について、そのコイル端子の電圧が誘起電圧S12としてマイコン3に入力されていた。そのため、誘起電圧判定部55は、各相のコイル端子の電圧である3つの電圧値から線間電圧を算出し、さらに3つの線間電圧から3相の相電圧を算出していた。マイコン3が3つの誘起電圧入力端子301〜303を有していれば、このように、単に3相全てのコイル端子の電圧をマイコン3に入力させることで、3相各相の相電圧を求めることができる。
【0120】
しかしながら、誘起電圧入力端子の数が多い場合、対応するADコンバータの数も多くなる。
図8の例では、回転状態判定処理に用いるマイコン3Aの誘起電圧入力端子の数およびADコンバータの数を少なくできる。
【0121】
図9は、他の変形例に係るモータ駆動装置1Bにおけるインバータ2Bおよび比較回路12Bの構成を示す回路図である。このモータ駆動装置1Bは、三角結線の3相モータ、または、星形結線であって中性点に接続不可能な3相モータであるモータ9Bを駆動するための装置である。
【0122】
この比較回路12Bは、モータ9Bの3相のうち2相の各相に印加される相電圧を検出する回路である。比較回路12Bは、2つの第1相入力端子121B、2つの第4抵抗R4、3つの第2相入力端子126B、3つの第5抵抗R5、仮想中性点出力端子127Bおよび2つの差動増幅回路125Bを有する。2つの差動増幅回路125Bは、
図8の例の差動増幅回路125Aと同様の構成をしている。
【0123】
2つの第1相入力端子121Bはそれぞれ、モータ9Bの3相のうちいずれか2相の各相の駆動電流端子91B,92Bと接続している。第1相入力端子121Bはそれぞれ、第4抵抗R4を介して差動増幅回路125Bの第1端子に接続されている。
【0124】
3つの第2相入力端子126Bはそれぞれ、モータ9Bの3相各相の駆動電流端子91B,92B,93Bと接続している。第2相入力端子126Bはそれぞれ、第5抵抗R5を介して仮想中性点出力端子127Bに接続されている。そして、仮想中性点出力端子127Bは、各差動増幅回路125Bの第2端子に接続されている。
【0125】
差動増幅回路125Bの第2端子には、3相のコイル端子電圧の平均電圧に対応する仮想中性点電圧が入力される。第4抵抗R4と第5抵抗R5との抵抗比を調節することにより、第2端子に入力される仮想中性点電圧を、第1端子に入力されるコイル端子電圧に対応する電圧値とすることができる。これにより、差動増幅回路125Bは、モータ9Bの3相のうち2相について、各相の相電圧に対応する電圧器を誘起電圧入力端子301B,302Bへと出力する。マイコン3Bは、モータ9Bの3相のうち2相の相電圧を取得することにより、残り1相の相電圧を算出する。
【0126】
図9の例のように、仮想中性点電圧を差動増幅回路125Bに入力すれば、中性点から電圧を引き出すことなく、モータ9Bの3相のうち2相の相電圧をマイコン3Bへと入力できる。これにより、回転状態判定処理に用いるマイコン3Bの誘起円圧入力端子の数およびADコンバータの数を少なくできる。
【0127】
また、上記の実施形態のインバータは、シャント抵抗がスイッチング素子のグラウンド側に配置された、いわゆるローサイド検出型であったが、本発明はこの限りではない。本発明のインバータは、シャント抵抗がスイッチング素子の電源側に配置された、いわゆるハイサイド検出型のインバータであってもよい。
【0128】
また、モータ制御装置の各部を実現するための具体的な回路構成については、
図2に示された回路構成と、相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。