【解決手段】担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部とを含むコア・シェル構造を有する電極用触媒であって、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が400ppm以下であり、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が900ppm以下であることを特徴とする。
担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部と、を含むコア・シェル構造を有する電極用触媒であって、
蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が400ppm以下であり、
蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が900ppm以下である、
電極用触媒。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、PEFCの電極用触媒としての触媒活性の向上と寿命の向上の観点からは、触媒に含まれるハロゲン、特に塩素種の含有量を低減することは重要である。
しかしながら、PEFCの電極用触媒としてコア・シェル触媒を採用する場合、塩素種以外に、臭素種についても所定の水準以下に低減しなければ、十分な触媒性能が得られないこと、塩素種よりも臭素種の方が触媒性能の低下に対する影響が大きいこと、を本発明者らは見出した。すなわち、PEFCの電極用触媒としてコア・シェル触媒を採用する場合、上述の従来技術には改善の余地があった。
【0012】
本発明は、かかる技術的事情に鑑みてなされたものであって、塩素種及び臭素種の含有量が所定の水準以下に低減されており、十分な触媒性能を発揮することができる電極用触媒を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(MEA)、及び、燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本件発明者等は、鋭意検討を行った結果、電極用触媒に含まれる蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度を900ppm以下とし、臭素(Br)種の濃度を400ppm以下に低減させることにより、十分な触媒性能を発揮する電極用触媒(後述するコア・シェル触媒)を構成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
より具体的には、本発明は、以下の技術的事項から構成される。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1) 担体と、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部とを含むコア・シェル構造を有する電極用触媒であって、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が400ppm以下であり、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が900ppm以下である、電極用触媒を提供する。
【0015】
本発明の電極用触媒は、当該触媒に含まれる塩素(Cl)種の濃度が900ppm以下であり、臭素(Br)種の濃度が400ppm以下とされているので、電極用触媒としての触媒活性を十分に発揮することができる。
また、電極用触媒は、コア・シェル構造を有しており製造コストの低減にも適している。
【0016】
ここで、本発明において、臭素(Br)種とは、構成成分元素として臭素を含む化学種をいう。具体的には、臭素を含む化学種には、臭素原子(Br)、臭素分子(Br
2)、臭素化物イオン(Br
−)、臭素ラジカル(Br・)、多原子臭素イオン、臭素化合物(X−Br等、ここで、Xは対イオン)が含まれる。
【0017】
また、本発明において、塩素(Cl)種とは、構成成分元素として塩素を含む化学種をいう。具体的には、塩素を含む化学種には、塩素原子(Cl)、塩素分子(Cl
2)、塩素化物イオン(Cl
−)、塩素ラジカル(Cl・)、多原子塩素イオン、塩素化合物(X−Cl等、ここで、Xは対イオン)が含まれる。
【0018】
また、本発明において、臭素(Br)種の濃度及び塩素(Cl)種の濃度は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される。電極用触媒に含まれる臭素(Br)種を蛍光X線(XRF)分析法により、測定された値が臭素(Br)種の濃度である。同様に、電極用触媒に含まれる塩素(Cl)種を蛍光X線(XRF)分析法により、測定した値が塩素(Cl)種の濃度である。
【0019】
なお、臭素(Br)種の濃度及び塩素(Cl)種の濃度は、それぞれ電極用触媒に含まれる臭素元素に換算された臭素原子及び塩素元素に換算された塩素原子の濃度となっている。
【0020】
先に述べたように、コア・シェル触媒においては、塩素(Cl)種以外に、臭素(Br)種にも着目し、不純物として十分に除去することが重要となることを本発明者らは見出した。
塩素と同様にハロゲン元素である臭素は、塩素と同族元素(7B)であり、イオン半径等に代表されるように、その物理的性質も近似している。このため、臭素を含む金属化合物が白金(Pt)、パラジウム(Pd)の塩化物塩の代わりにコア・シェル触媒のコア部及びシェル部の原料として使用される場合がある。また、臭素を含む金属化合物が、コア・シェル触媒の原料として採用される白金(Pt)の塩化物塩を製造するための前駆体として使用される場合もある。更に、製造プロセス中において臭素(Br)種が意図せず混入し、臭素(Br)種が電極触媒に不純物として付着する場合もある。
【0021】
また、本発明者らは、塩素(Cl)種よりも臭素(Br)種の方が触媒性能の低下に対する影響が大きいことを見出しており、この観点から、(1)記載の本発明の電極用触媒においては、
(2)臭素(Br)種の濃度が300ppm以下であることが好ましく、
(3)臭素(Br)種の濃度が200ppm以下であることがより好ましい。
これにより、本発明の効果がより確実に得られるようになる。
【0022】
また、本発明の効果をより確実に得る観点から、塩素(Cl)種の濃度はできる限り低減することが好ましく、具体的には、
(4) 塩素(Cl)種の濃度が900ppm未満であることが好ましく、800ppm以下であることがより好ましく、600ppm以下であることが更に好ましい。
【0023】
さらに、本発明においては、
(5) 塩素(Cl)種の濃度が0ppm以上であってもよい。ここで、本発明において、「塩素(Cl)種の濃度が0ppm」とは、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種が検出されない(未検出)の水準に低減されている状態であることを示す。触媒性能の向上のためには、塩素(Cl)種は完全に除去されることが理想であるが、本発明者らは、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種が検出されない(未検出)の水準にまで低減することにより、触媒性能の向上を十分に図れることを確認した。本発明の場合、蛍光X線(XRF)分析法による塩素(Cl)種の濃度の検出限界は、100ppmである。そのため、「塩素(Cl)種の濃度が0ppm」の場合、塩素(Cl)種が100ppm未満の濃度範囲で含まれている可能性がある。
また、臭素(Br)種の濃度が0ppm以上であってもよい。臭素(Br)種の濃度についても同様に、「臭素(Br)種の濃度が0ppm」とは、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種が検出されない(未検出)の水準に低減されている状態であることを示す。この臭素(Br)種の濃度についても、本発明者らは、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種が検出されない(未検出)の水準にまで低減することにより、触媒性能の向上を十分に図れることを確認した。本発明の場合、蛍光X線(XRF)分析法による臭素(Br)種の濃度の検出限界は、100ppmである。そのため、「臭素(Br)種の濃度が0ppm」の場合、臭素(Br)種が100ppm未満の濃度範囲で含まれている可能性がある。
【0024】
さらに、上述の本発明の電極用触媒(1)〜(5)において、臭素(Br)種の濃度が400ppm以下でありかつ塩素(Cl)種の濃度が900ppm以下に低減されていれば、
(6)塩素(Cl)種の濃度は100ppm以上であってもよい。すなわち、塩素(Cl)種の濃度は100ppm〜900ppmであってもよい。
この場合であっても、本発明の効果を得ることができる。この構成の場合、塩素(Cl)種の濃度を100ppm未満にまで低減させない構成であるため、製造プロセスにおいて塩素を低減するためのコストや手間を低減させることができる。
【0025】
さらに、本発明は、
(7) 前記コア・シェル構造が、前記コア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成されるシェル部とを有する一層構造のシェル部と、を有する構造である、
(1)〜(6)いずれか1に記載の電極用触媒を提供する。
この場合であっても、本発明の効果を得ることができる。上記の構成とすることにより、本発明の電極用触媒は、コア部に使用される白金等の貴金属の含有量を低減できる構成とできる場合があるので、原料コストを削減することが容易にできる。
【0026】
本発明は、この(7)の発明の構成の場合、すなわち、
(8) 前記一層構造のシェル部の場合、
前記シェル部には、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含有されていることが好ましい。
これにより、優れた触媒活性をより容易に得やすくなる。
【0027】
さらに、本発明は、この(8)の発明の構成の場合、すなわち、
(9) 前記一層構造のシェル部の場合、
前記コア部には、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及び、ニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれていることが好ましい。
これにより、本発明の効果がより確実に得られるようになる。また、上記の構成とすることにより、より高い触媒活性とより高い耐久性を得ることができる。
【0028】
また、本発明は、この(8)の発明の構成の場合、すなわち、
(10) 前記一層構造のシェル部の場合、
前記コア部は、貴金属以外の金属元素を主成分とする構成を有していてもよい。
この構成の場合であっても、本発明の効果が得られる。また、この構成とすることにより、貴金属の低減によるコストダウンをより容易に図ることができるようになる。
【0029】
また、本発明は、
(11) 前記一層構造のシェル部の場合、前記担体には、導電性カーボンが含有されており、前記シェル部には、白金(Pt)が含有されており、前記コア部には、パラジウム(Pd)が含有されている、(7)〜(9)の何れか1に記載の電極用触媒を提供する。
これにより、本発明の効果がより確実に得られるようになる。また、上記の構成とすることにより、より高い触媒活性とより高い耐久性を得ることができる。更に、上記構成とすることにより、本発明の電極用触媒は、カーボン担体上に白金が担持された構成の従来の電極用触媒に比較して、白金の含有量を低減できるので、原料コストを削減することが容易にできる。
【0030】
さらに、本発明は、
(12) 前記コア・シェル構造が、前記コア部と、前記コア部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第1シェル部と当該第1シェル部の表面の少なくとも一部を覆うように形成される第2シェル部とを有する二層構造のシェル部と、を有する構造、である、(1)〜(6)いずれか1に記載の電極用触媒を提供する。
これにより、本発明の効果がより確実に得られるようになる。上記の構成とすることにより、本発明の電極用触媒は、コア部に使用される白金等の貴金属の含有量を低減できる構成とできる場合があるので、原料コストを削減することが容易にできる。
【0031】
本発明は、この(12)の発明の構成の場合、すなわち、
(13) 前記二層構造のシェル部の場合、
前記第2シェル部には、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含有されていることが好ましい。
これにより、優れた触媒活性をより容易に得やすくなる。
【0032】
さらに、本発明は、この(13)の発明の構成の場合、すなわち、
(14) 前記二層構造のシェル部の場合、
前記第1シェル部には、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及び、ニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれている、ことが好ましい。
これにより、本発明の効果がより確実に得られるようになる。また、上記の構成とすることにより、より高い触媒活性とより高い耐久性を得ることができる。
【0033】
また、本発明は、この(14)の発明の構成の場合、すなわち、
(15) 前記二層構造のシェル部の場合、
前記コア部は、貴金属以外の金属元素を主成分とする構成を有していることが好ましい。
この構成の場合であっても、本発明の効果が得られる。また、この構成とすることにより、貴金属の低減によるコストダウンをより容易に図ることができるようになる。
【0034】
また、本発明は、
(16) 前記二層構造のシェル部の場合、
前記第1シェル部には、パラジウム(Pd)が含有されており、
前記第2シェル部には、白金(Pt)が含有されている、
(13)〜(15)のうちのいずれか1に記載の電極用触媒を提供する。
これにより、本発明の効果がより確実に得られるようになる。上記の構成とすることにより、より高い触媒活性とより高い耐久性を得ることができる。
【0035】
さらに、本発明は、
(17) (1)〜(16)いずれか1に記載の電極用触媒が含有されている、ガス拡散電極形成用組成物を提供する。
本発明のガス拡散電極形成用組成物によれば、本発明の電極用触媒を含んでいるため、高い触媒活性(分極特性)を有するガス拡散電極を容易に製造することができる。
【0036】
また、本発明は、
(18) (1)〜(16)いずれか1に記載の電極用触媒が含有されている、ガス拡散電極を提供する。
本発明のガス拡散電極によれば、本発明の電極用触媒を含んでいるため、高い触媒活性(分極特性)を得ることができる。
【0037】
さらに、本発明は、
(19) (18)記載のガス拡散電極が含まれている、膜・電極接合体(MEA)を提供する。
本発明の膜・電極接合体(MEA)によれば、本発明のガス拡散電極を含んでいるため、高い電池特性を得ることができる。
【0038】
また、本発明は、
(20) (19)記載の膜・電極接合体(MEA)が含まれていることを特徴とする燃料電池スタックを提供する。
本発明の燃料電池スタックによれば、本発明の膜・電極接合体(MEA)を含んでいるため、高い電池特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、塩素(Cl)種の濃度が900ppm(好ましく900ppm未満)以下であり、臭素(Br)種の濃度が400ppm以下(好ましく300ppm以下、より好ましくは200ppm以下)とされた構成とされているので、十分な触媒活性を有する電極用触媒が提供される。
また、本発明によれば、コア・シェル構造を有しているので、製造コストの低減にも適した電極用触媒が提供される。
更に、本発明によれば、かかる電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(MEA)、燃料電池スタックが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
<電極用触媒>
図1は、本発明の電極用触媒(コア・シェル触媒)の好適な一形態を示す模式断面図である。
図1に示されるように、本発明の電極用触媒1は、担体2と、担体2上に担持された、いわゆる「コア・シェル構造」を有する触媒粒子3を含んでいる。触媒粒子3は、コア部4と、コア部4の表面の少なくとも一部を被覆するように形成されたシェル部5とを備えている。触媒粒子3はコア部4と、コア部4上に形成されるシェル部5とを含む、いわゆる「コア・シェル構造」を有する。
すなわち、電極用触媒1は、担体2に担持された触媒粒子3を有しており、この触媒粒子3は、コア部4を核(コア)とし、シェル部5がシェルとなってコア部4の表面の少なくとも一部を被覆している構造を備えている。
また、コア部4の構成元素(化学組成)と、シェル部5の構成元素(化学組成)は異なる構成となっている。
【0042】
本発明において、電極用触媒1は、触媒粒子3が有しているコア部4の表面の少なくとも一部の上にシェル部5が形成されていればよく、特に限定されるものではない。
例えば、本発明の効果をより確実に得る観点からは、
図1に示すように、電極用触媒1は、シェル部5によってコア部4の表面の略全域が被覆された状態であることが好ましい。
また、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1は、シェル部5によってコア部4の表面の一部が被覆され、コア部4の表面が部分的に露出した状態であってもよい。
すなわち、本発明において、電極用触媒は、コア部の表面の少なくとも一部にシェル部が形成されていればよい。
【0043】
図2は、本発明の電極用触媒(コア・シェル触媒)の別の好適な一形態(電極用触媒1A)を示す模式断面図である。
図2に示されるように、本発明の電極用触媒1Aは、コア部4と、コア部4の表面の一部を被覆するシェル部5a及びコア部4の他の表面の一部を被覆するシェル部5bから構成されている触媒粒子3aを有している。
図2に示された電極用触媒1Aが含んでいる触媒粒子3aにおいて、シェル部5aによっても、シェル部5bによっても被覆されていないコア部4が存在する。このようなコア部4が、コア部露出面4sとなる。
すなわち、
図2に示されるように、本発明の効果を得ることができる範囲において、電極用触媒1Aが含んでいる触媒粒子3aは、コア部4の表面が部分的に露出した状態(例えば、
図2に示されたコア部4の表面の一部である4sが露出した状態)であってもよい。
別の表現をすれば、
図2に示された電極用触媒1Aのように、コア部4の表面の一部にシェル部5a、他の表面の一部にシェル部5bがそれぞれ部分的に形成されていてもよい。
【0044】
図3は、本発明の電極用触媒(コア・シェル触媒)の別の好適な一形態(電極用触媒1B)を示す模式断面図である。
図3に示されるように、本発明の電極用触媒1Bは、コア部4と、コア部4の表面の略全域を被覆するシェル部5から構成されている触媒粒子3を有している。
シェル部5は、第1シェル部6と第2シェル部7とを備えた二層構造であってもよい。すなわち、触媒粒子3は、コア部4とコア部4上に形成されるシェル部5(第1シェル部6及び第2シェル部7)とを含む、いわゆる「コア・シェル構造」を有する。
電極用触媒1Bは、担体2に担持された触媒粒子3を有し、触媒粒子3がコア部4を核(コア)とし、第1シェル部6及び第2シェル部7がシェル部5となってコア部4の表面の略全域が被覆されている構造を有している。
なお、コア部4の構成元素(化学組成)と、第1シェル部6の構成元素(化学組成)と、第2シェル部7の構成元素(化学組成)とは、それぞれ異なる構成となっている。
また、本発明の電極用触媒1Bが備えているシェル部5は、第1シェル部6、第2シェル部7に加えて、さらに別のシェル部を備えているものであってもよい。
本発明の効果をより確実に得る観点からは、
図3に示すように、電極用触媒1Bは、シェル部5によってコア部4の表面の略全域が被覆された状態であることが好ましい。
【0045】
図4は、本発明の電極用触媒(コア・シェル触媒)の別の好適な一形態(電極用触媒1C)を示す模式断面図である。
図4に示されるように、本発明の電極用触媒1Cは、コア部4と、コア部4の表面の一部を被覆するシェル部5a、及びコア部4の他の表面の一部を被覆するシェル部5bから構成されている触媒粒子3aを有している。
シェル部5aは、第1シェル部6aと第2シェル部7aとを備えた二層構造であってもよい。
また、シェル部5bは、第1シェル部6bと第2シェル部7bとを備えた二層構造であってもよい。
すなわち、触媒粒子3aは、コア部4と、コア部4上に形成されるシェル部5a(第1シェル部6a及び第2シェル部7a)と、コア部4上に形成されるシェル部5b(第1シェル部6b及び第2シェル部7b)と、を含む、いわゆる「コア・シェル構造」を有する。
図4に示された触媒粒子3aを構成するシェル部5bにおいて、第2シェル部7bよって被覆されていない第1シェル部6bが存在する。第2シェル部7bよって被覆されていない第1シェル部6bが第1シェル部露出面6sとなる。
図4に示されるように触媒粒子3aを構成するシェル部5aにおいて、第1シェル部6aの略全域が第2シェル部7aによって被覆された状態であることが好ましい。
また、
図4に示されるように本発明の効果を得られる範囲において、触媒粒子3aを構成するシェル部5bにおいて、第1シェル部6bの表面の一部が被覆され、第1シェル部6bの表面が部分的に露出した状態(例えば、
図4に示された第1シェル部6bの表面の一部6sが露出した状態)であってもよい。
【0046】
更に、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1は、担体2上に、「シェル部5によってコア部4の表面の略全域が被覆された状態のコア部4及びシェル部5の複合体」と、「シェル部5によってコア部4の表面の一部が被覆された状態のコア部4及びシェル部5の複合体」とが混在した状態であってもよい。
具体的には、本発明の電極用触媒は、本発明の効果を得られる範囲において、
図1及び2に示した電極用触媒1、1Aと、
図3及び4に示した電極用触媒1B、1Cとが混在した状態であってもよい。
更に、本発明の電極用触媒は、本発明の効果を得られる範囲において、
図4に示されるように同一のコア部4に対し、シェル部5aとシェル部5bとか混在した状態であってもよい。
更に、本発明の電極用触媒は、本発明の効果を得られる範囲において、同一のコア部4に対し、シェル部5aのみが存在する状態であってもよく、同一のコア部4に対し、シェル部5bのみが存在する状態であってもよい(いずれの状態も図示せず)。
また、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1には、担体2上に、上記電極用触媒1、1A、1B、1Cの少なくとも1種に加えて、「コア部4がシェル部5によって被覆されていないコア部のみからなる粒子」が担持された状態が含まれていてもよい(図示せず)。
更に、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1には、上記電極用触媒1、1A、1B、1Cの少なくとも1種に加えて「シェル部5の構成元素のみからなる粒子」がコア部4に接触しない状態で担体2に担持された状態が含まれていてもよい(図示せず)。
また、本発明の効果を得られる範囲において、電極用触媒1には、上記電極用触媒1、1A、1B、1Cの少なくとも1種に加えて「シェル部5に被覆されていないコア部4のみの粒子」と、「シェル部5の構成元素のみからなる粒子」とが、それぞれ独立に担体2に担持された状態が含まれていてもよい。
【0047】
コア部4の平均粒子径は2〜40nmが好ましく、4〜20nmがより好ましく、5〜15nmが特に好ましい。
シェル部5の厚さ(コア部4との接触面から当該シェル部5の外表面までの厚さ)については、電極用触媒の設計思想によって好ましい範囲が適宜設定される。
例えば、シェル部5を構成する金属元素(例えば白金など)の使用量を最小限にすることを意図している場合には、1原子で構成される層(1原子層)であることが好ましく、この場合には、シェル部5の厚さは、当該シェル部5を構成する金属元素が1種類の場合には、この金属元素の1原子の直径(球形近似した場合)の2倍に相当する厚さであることが好ましい。また、当該シェル部5を構成する金属元素が2種類以上の場合には、1原子で構成される層(2種類以上の原子がコア部4の表面に並置されて形成される1原子層)に相当する厚さであることが好ましい。
また、例えば、シェル部5の厚さをより大きくすることにより耐久性の向上を図る場合には、1〜10nmが好ましく、2〜5nmがより好ましい。
【0048】
シェル部5が第1シェル部6と第2シェル部7から構成される二層構造である場合には、第1シェル部6と第2シェル部7の厚さは、本発明の電極用触媒の設計思想によって好ましい範囲が適宜設定される。
例えば、第2シェル部7に含まれる金属元素である白金(Pt)等の貴金属の使用量を最小限にすることを意図している場合には、第2シェル部7は、1原子で構成される層(1原子層)であることが好ましい。この場合には、第2シェル部7の厚さは、当該第2シェル部7を構成する金属元素が1種類の場合には、当該金属元素の1原子の直径(1原子を球形とみなした場合)の約2倍に相当する厚さであることが好ましい。
また、第2シェル部7に含まれる金属元素が2種類以上である場合には、当該第2シェル部7は、1種類以上の原子で構成される層(2種類以上の原子がコア部4の表面方向に並置されて形成される1原子層)に相当する厚さであることが好ましい。例えば、第2シェル部7の厚さをより大きくすることにより、電極用触媒の耐久性を向上させることを図る場合には、当該第2シェル部7の厚さを1.0〜5.0nmとすることが好ましい。電極用触媒の耐久性をさらに向上させることを図る場合には、当該第2シェル部7の厚さを2.0〜10.0nmとすることが好ましい。
なお、本発明において「平均粒子径」とは、電子顕微鏡写真観察による、任意の数の粒子群からなる粒子の直径の平均値のことをいう。
【0049】
担体2は、コア部4とシェル部5とからなる複合体である触媒粒子3を担持することができ、かつ表面積の大きいものであれば特に制限されない。
さらに、担体2は、電極用触媒1を含んだガス拡散電極形成用組成物中で良好な分散性を有し、優れた導電性を有するものであることが好ましい。
【0050】
担体2は、グラッシーカーボン(GC)、ファインカーボン、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、活性炭の粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素系材料や酸化物等のガラス系あるいはセラミックス系材料などから適宜採択することができる。
これらの中で、コア部4との吸着性及び担体2が有するBET比表面積の観点から、炭素系材料が好ましい。
更に、炭素系材料としては、導電性カーボンが好ましく、特に、導電性カーボンとしては、導電性カーボンブラックが好ましい。導電性カーボンブラックとしては、商品名「ケッチェンブラックEC300J」、「ケッチェンブラックEC600」、「カーボンEPC」等(ライオン化学株式会社製)を例示することができる。
【0051】
コア部4を構成する成分は、シェル部5を構成する成分によって被覆できる成分であれば特に限定されない。
図1、2に示された電極用触媒1、1Aのように、シェル部5が上記二層構造ではなく、一層構造のシェル部5の構成を採用する場合には、優れた触媒活性を比較的容易に得る観点からは、コア部4は貴金属を主成分とする構成であることが好ましい。上記電極用触媒1、1Aが有している触媒粒子3、3aを構成するコア部4には、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及びニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれている。
【0052】
パラジウム(Pd)合金は、パラジウム(Pd)と合金を形成することができる他の金属との組み合わせであれば特に制限されるものでない。例えば、パラジウム(Pd)と他の金属との組み合わせである2成分系のパラジウム(Pd)合金、パラジウム(Pd)と2種類以上の他の金属との組み合わせである3成分系以上のパラジウム(Pd)合金であってもよい。具体的には、2成分系のパラジウム(Pd)合金として、金パラジウム(PdAu)、銀パラジウム(PdAg)、銅パラジウム(PdCu)等を例示することができる。3成分系のパラジウム(Pd)合金としては、金銀パラジウム(PdAuAg)等を例示することができる。
【0053】
白金(Pt)合金は、白金(Pt)と合金を形成することができる他の金属との組み合わせである合金であれば、特に制限されるものでない。例えば、白金(Pt)と他の金属との組み合わせである2成分系の白金(Pt)合金、白金(Pt)と2種類以上の他の金属との組み合わせである3成分系以上の白金(Pt)合金であってもよい。具体的には、2成分系の白金(Pt)合金として、ニッケル白金(PtNi)、コバルト白金(PtCo)等を例示することができる。
【0054】
ニッケル(Ni)合金は、ニッケル(Ni)と合金を形成することができる他の金属との組み合わせである合金であれば、特に制限されるものでない。例えば、ニッケル(Ni)と他の金属との組み合わせである2成分系のニッケル(Ni)合金、ニッケル(Ni)と2種類以上の他の金属との組み合わせである3成分系以上のニッケル(Ni)合金であってもよい。具体的には、2成分系のニッケル(Ni)合金として、タングステンニッケル(NiW)等を例示することができる。
【0055】
シェル部5には、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含まれている。白金(Pt)合金は、白金(Pt)と合金を形成することができる他の金属との組み合わせである合金であれば特に制限されるものでない。例えば、白金(Pt)と他の金属との組み合わせである2成分系の白金(Pt)合金、白金(Pt)と2種類以上の他の金属との組み合わせである3成分系以上の白金(Pt)合金であってもよい。具体的には、2成分系の白金(Pt)合金として、ニッケル白金(PtNi)、コバルト白金(PtCo)、白金ルテニウム(PtRu)、白金モリブデン(PtMo)、白金チタン(PtTi)等を例示することができる。なお、シェル部5に一酸化炭素(CO)に対する耐被毒性を持たせるためには、白金ルテニウム(PtRu)合金を使用することが好ましい。
【0056】
また、
図1、2に示された電極用触媒1、1Aのように、シェル部5が上記二層構造ではなく、一層構造のシェル部5の構成を採用する場合、電極用触媒1の製造コストを低減する観点からは、コア部4は、貴金属以外の金属元素を主成分(主成分とは好ましくはコア部4のうちの60wt%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上)とする構成を有していることが好ましい。
具体的には、一層構造のシェル部5の構成を採用する場合、コア部4には、貴金属以外の金属元素を含む金属、その金属の窒化物、その金属の炭化物、その金属の酸化物、その金属を含む合金(その金属を含む固溶体、その金属を含む金属間化合物)、及び、これらの混合物が主成分(主成分は好ましくはコア部4のうちの60wt%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上)として含まれていることが好ましい。
この場合、貴金属以外の金属元素は、Pt、Pd、Au、Ag、Rh、Ir、Ru、及びOs以外の金属元素であることが好ましい。
また、この場合、金属窒化物としては、Ti窒化物、Zr窒化物、Ta窒化物、Nb窒化物、及び、W窒化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
更に、この場合、金属炭化物としては、Ti炭化物、Zr炭化物、Ta炭化物、Nb炭化物、及び、W炭化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、この場合、金属の酸化物としては、Ti酸化物、Zr酸化物、Ta酸化物、Nb酸化物、及び W酸化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0057】
更に、
図3、4に示された電極用触媒1B、1Cのように、シェル部5が第1シェル部6と第2シェル部7から構成される二層構造のシェル部5の構成を採用する場合には、特に、電極用触媒1の製造コストを低減する観点から、コア部4は、貴金属以外の金属元素を主成分(主成分とは好ましくはコア部4のうちの60wt%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上)とする構成を有していることが好ましい。
具体的には、二層構造のシェル部5の構成を採用する場合、コア部4には、貴金属以外の金属元素を含む金属、その金属の窒化物、その金属の炭化物、その金属の酸化物、その金属を含む合金(その金属を含む固溶体、その金属を含む金属間化合物)、及び、これらの混合物が主成分(主成分は好ましくはコア部4のうちの60wt%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上)として含まれていることが好ましい。
この場合、貴金属以外の金属元素は、Pt、Pd、Au、Ag、Rh、Ir、Ru、及びOs以外の金属元素であることが好ましい。
また、この場合、金属窒化物としては、Ti窒化物、Zr窒化物、Ta窒化物、Nb窒化物、及び、W窒化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
更に、この場合、金属炭化物としては、Ti炭化物、Zr炭化物、Ta炭化物、Nb炭化物、及び、W炭化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
また、この場合、金属の酸化物としては、Ti酸化物、Zr酸化物、Ta酸化物、Nb酸化物、及び W酸化物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0058】
シェル部5に含まれる白金(Pt)の担持量は、電極用触媒1の重量に対して5〜30重量%、好ましくは8〜25重量%であることが好ましい。白金(Pt)の担持量が5重量%以上であると、電極用触媒としての触媒活性を十分に発揮できるため好ましく、白金(Pt)の担持量が30重量%以下であると、白金(Pt)の使用量を低減することができ、製造コストの観点から好ましい。
【0059】
シェル部5が第1シェル部6と第2シェル部7から構成される二層構造である場合には、第1シェル部6は、パラジウム(Pd)、パラジウム(Pd)合金、白金(Pt)合金、金(Au)、ニッケル(Ni)、及びニッケル(Ni)合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属が含まれていることが好ましく、パラジウム(Pd)単体が含まれていることがより好ましい。
電極用触媒1B、1Cの触媒活性をより高く、容易に得る観点からは、第1シェル部6は、パラジウム(Pd)単体を主成分(50wt%以上)として構成されていることがより好ましく、パラジウム(Pd)単体のみから構成されていることがより好ましい。
第2シェル部7は、白金(Pt)及び白金(Pt)合金のうちの少なくとも1種の金属が含まれていることが好ましく、白金(Pt)単体が含まれていることがより好ましい。
電極用触媒1B、1Cの触媒活性をより高く、容易に得る観点からは、第2シェル部7は、白金(Pt)単体を主成分(50wt%以上)として構成されていることがより好ましく、白金(Pt)単体のみから構成されていることがより好ましい。
【0060】
(臭素(Br)種の濃度及び塩素(Cl)種の濃度)
電極用触媒1は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度が400ppm以下(0〜400ppm)、好ましく300ppm以下(0〜300ppm)、より好ましくは200ppm以下(0〜200ppm)とされている。更に、電極用触媒1は上記の臭素(Br)種の濃度の条件を満たし、かつ上記分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が900ppm以下(0〜900ppm)とされている。なお、この塩素(Cl)種の濃度は900ppm未満(0ppm以上900ppm未満)であることが好ましく、800ppm以下(0〜800ppm)あることがより好ましく、600ppm以下(0〜600ppm)であることが更に好ましい。
【0061】
電極用触媒1は、上記の塩素(Cl)種の濃度の条件と、臭素(Br)種の濃度の条件を同時に満たすことにより、電極用触媒としての触媒活性を十分に発揮できる。
【0062】
ここで、臭素(Br)種の濃度及び塩素(Cl)種の濃度は、蛍光X線(XRF)分析法により測定される。電極用触媒に含まれる臭素(Br)種を蛍光X線(XRF)分析法により、測定された値が臭素(Br)種の濃度である。同様に、電極用触媒に含まれる塩素(Cl)種を蛍光X線(XRF)分析法により、測定した値が塩素(Cl)種の濃度である。
なお、臭素(Br)種の濃度及び塩素(Cl)種の濃度は、それぞれ電極用触媒に含まれる臭素元素に換算された臭素原子及び塩素元素に換算された塩素原子の濃度となっている。
【0063】
蛍光X線(XRF)分析法は、ある元素Aを含む試料に1次X線を照射し、元素Aの蛍光X線を発生させ、元素Aに関する蛍光X線の強度を測定することにより、試料に含まれる元素Aの定量分析を行う方法である。蛍光X線(XRF)分析法を用いて定量分析を行う場合、理論演算のファンダメンタル・パラメータ法(FP法)を採用してもよい。
FP法は、試料に含まれる元素の種類とその組成がすべて判れば、それぞれの蛍光X線(XRF)の強度を理論的に計算することができるということを利用している。そして、FP法は試料を測定して得られた各元素の蛍光X線(XRF)に一致するような組成を推定する。
【0064】
蛍光X線(XRF)分析法は、エネルギー分散型蛍光X線(XRF)分析装置、走査型蛍光X線(XRF)分析装置、多元素同時型蛍光X線(XRF)分析装置等の汎用蛍光X線(XRF)分析装置を使用することによって実行される。蛍光X線(XRF)分析装置は、ソフトウエアを備えており、当該ソフトウエアにより元素Aの蛍光X線(XRF)の強度と元素Aの濃度との間の関係について実験データ処理を行う。
ソフトウエアは、蛍光X線(XRF)分析法において一般的に採用されているものであれば特に制限されるものではない。
例えば、ソフトウエアとして、FP法を採用した汎用蛍光X線(XRF)分析装置用ソフトウエア「解析ソフト:「UniQuant5」」等を採用することができる。なお、蛍光X線(XRF)分析装置としては、例えば、波長分散型全自動蛍光X線分析装置(商品名:Axios「アクシオス」)(スペクトリス株式会社製)を例示することができる。
【0065】
蛍光X線(XRF)分析法により測定される臭素(Br)種の濃度を400ppm以下とするためには、電極用触媒1の出発原料である金属化合物及び電極用触媒1の各製造工程にて使用される試薬を注意深く選択することが必要となる。具体的には、電極用触媒1の出発原料である金属化合物として、臭素(Br)種を発生しない金属化合物を使用すること、電極用触媒1の製造工程にて使用される試薬として臭素(Br)種を含有しない化合物を採択すること等が挙げられる。
【0066】
上記蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度を900ppm以下とするためには、電極用触媒1の出発原料である金属化合物及び電極用触媒の製造工程にて使用される試薬を注意深く選択することが必要となる。具体的には、電極用触媒1の出発原料である金属化合物として、塩素(Cl)種を発生しない金属化合物を使用すること、電極用触媒1の製造工程にて使用される試薬として塩素(Cl)種を含有しない化合物を採択することが挙げられる。
さらに、後述する塩素低減法を採用することにより、塩素(Cl)種を900ppm以下に低減することができる。
【0067】
<電極用触媒の製造方法>
電極用触媒1の製造方法は、電極用触媒前駆体を製造する工程と、この触媒前駆体について、蛍光X線(XRF)分析法により測定した臭素(Br)種の濃度が400ppm以下であり、塩素(Cl)種の濃度が0〜900ppmである条件を満たすように洗浄する工程とを備えている。
【0068】
(電極用触媒前駆体の製造工程)
電極用触媒1の電極用触媒前駆体は、電極用触媒の触媒成分(コア部4、シェル部5)を担体2に担持させることより製造される。
電極用触媒前駆体の製造方法は、担体2に電極用触媒1の触媒成分を担持させることができる方法であれば、特に制限されるものではない。
例えば、担体2に電極用触媒1の触媒成分を含有する溶液を接触させ、担体2に触媒成分を含浸させる含浸法、電極用触媒1の触媒成分を含有する溶液に還元剤を投入して行う液相還元法、アンダーポテンシャル析出(UPD)法等の電気化学的析出法、化学還元法、吸着水素による還元析出法、合金触媒の表面浸出法、置換めっき法、スパッタリング法、真空蒸着法等を採用した製造方法を例示することができる。
【0069】
(臭素(Br)種の濃度及び塩素(Cl)種の濃度)
次に、蛍光X線(XRF)分析法により測定した臭素(Br)種の濃度が400ppm以下であり、塩素(Cl)種の濃度が0〜900ppmである条件を満たすように電極用触媒前駆体の臭素(Br)種の濃度及び塩素(Cl)種の濃度を調整する。具体的には以下の塩素低減法1〜3を採用する。
【0070】
[塩素低減法1]
第1の工程:塩素(Cl)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が予め設定された塩素(Cl)種の濃度を超える電極用触媒前駆体(I)(例えば、当該予め設定された塩素(Cl)種の濃度が8500ppm又は7600ppmであり、これらの濃度値を超える電極用触媒前駆体)を、超純水に添加して、前記電極用触媒前駆体(I)を超純水に分散させた第1の液を調製する第1の工程と、
第2の工程:超純水を用いて、前記第1の液に含まれる前記電極用触媒前駆体(I)をろ過洗浄して、洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された設定値以下(例えば、10〜100μS/cmの範囲で予め設定される設定値以下)となるまで洗浄を繰り返し、得られた電極用触媒前駆体(II)を超純水に分散させて第2の液を調製する第2の工程と、を含む方法。
【0071】
[塩素低減法2]
第1の工程:超純水と、還元剤と、塩素(Cl)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が予め設定された塩素(Cl)種の濃度を超える電極用触媒前駆体(例えば、当該予め設定された塩素濃度が8500ppm、又は6000ppmであり、これらの濃度値を超える電極用触媒前駆体)と、を含む液を、20℃〜90℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度でかつ予め設定された保持時間で保持する第1の工程と、
第2の工程:前記第1の工程の後に得られた液に超純水を添加して、
前記第1の工程の後に得られた液に含まれる電極用触媒前駆体(I)を超純水に分散させた第1の液を調製する第2の工程と、
第3の工程:超純水を用いて、前記第1の液に含まれる電極用触媒前駆体をろ過洗浄して、
洗浄した後に得られるろ液のJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となるまで洗浄を繰り返し、
前記電気伝導率ρが予め設定された第1の設定値以下となった液に含まれる電極用触媒前駆体を超純水に分散させた第2の液を調製する第3の工程と、
工程4:前記第2の液を乾燥する工程と、
を含む方法。
【0072】
[塩素低減法3]
第1の工程:超純水と、水素を含む気体と、塩素(Cl)種を含む材料を使用して製造されており、蛍光X線(XRF)分析法により測定される塩素(Cl)種の濃度が予め設定された第1の塩素(Cl)種の濃度を超える電極用触媒前駆体と、を含む液を、20〜40℃の範囲で予め設定された少なくとも1段階の設定温度で、かつ予め設定された保持時間で保持する第1の工程を含む方法。
【0073】
なお、塩素低減法1〜3において使用される「超純水」は、以下の一般式(1)で表される比抵抗R(JIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率の逆数)が3.0MΩ・cm以上である水である。また、「超純水」はJISK0557「用水・排水の試験に用いる水」に規定されている「A3」のに相当する水質又はそれ以上の清浄な水質を有していることが好ましい。
【0074】
【数1】
上記一般式(1)において、Rは比抵抗を表し、ρはJIS規格試験法(JIS K0552)により測定される電気伝導率を表す。
【0075】
上記超純水は、上記一般式(1)で表される関係を満たす電気伝導率を有している水であれば、特に限定されない。例えば、上記超純水として、超純水製造装置「Milli-Qシリーズ」(メルク株式会社製)、「Elix UVシリーズ」(日本ミリポア株式会社製)を使用して製造される超純水を挙げることができる。
【0076】
塩素低減法1〜3のいずれかの方法を実施することにより、電極用触媒前駆体に含まれる塩素(Cl)種を低減することができる。そして、蛍光X線(XRF)分析法により測定した臭素(Br)種の濃度が400ppm以下であり、塩素(Cl)種の濃度が0〜900ppmの範囲に調節された電極用触媒1を得ることができる。
【0077】
(蛍光X線(XRF)分析法)
蛍光X線(XRF)分析法は、例えば以下のように実行される。
(1)測定装置
・波長分散型全自動蛍光X線分析装置Axios(アクシオス)(スペクトリス株式会社製)
(2)測定条件
・解析ソフト:「UniQuant5」(FP(four peak method)法を用いた半定量ソフト)
・XRF測定室雰囲気:ヘリウム(常圧)
(3)測定手順
(i)試料を入れた試料容器をXRF試料室に入れる。
(ii)XRF試料室内をヘリウムガスで置換する。
(iii)ヘリウムガス雰囲気(常圧)下、測定条件を、解析ソフト「UniQuant5」を使用するための条件である、「UQ5アプリケーション」に設定し、サンプルの主成分が「カーボン(担体の構成元素)」、サンプルの分析結果の表示形式が「元素」となるよう計算するモードに設定する。
【0078】
<燃料電池スタックの構造>
図5は本発明の電極用触媒を含むガス拡散電極形成用組成物、このガス拡散電極形成用組成物を用いて製造されたガス拡散電極、このガス拡散電極を備えた膜・電極接合体(MEA)、及びこの膜・電極接合体(MEA)を備えた燃料電池スタックの好適な一実施形態を示す模式図である。
図5に示された燃料電池スタックSは、膜・電極接合体(MEA)400を一単位セルとし、この一単位セルを複数積み重ねた構成を有している。
【0079】
更に、燃料電池スタックSは、アノード200aと、カソード200bと、これらの電極の間に配置される電解質膜300と、を備えた膜・電極接合体(MEA)400を有している。
また、燃料電池スタックSは、この膜・電極接合体(MEA)400がセパレータ100a及びセパレータ100bにより挟持された構成を有している。
【0080】
以下、本発明の電極用触媒を含む燃料電池スタックSの部材である、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極200a及びガス拡散電極200b、膜・電極接合体(MEA)400について説明する。
【0081】
<ガス拡散電極形成用組成物>
上記電極用触媒1をいわゆる触媒インク成分として用い、本発明のガス拡散電極形成用組成物とすることができる。本発明のガス拡散電極形成用組成物は、上記電極用触媒が含有されていることを特徴とする。ガス拡散電極形成用組成物は上記電極用触媒とイオノマー溶液を主要成分とする。イオノマー溶液は、水とアルコールと水素イオン伝導性を有する高分子電解質とを含有する。
【0082】
イオノマー溶液中の水とアルコールとの混合比率は、ガス拡散電極形成用組成物を電極に塗布する際に適した粘度を与える比率であればよく、通常、水100重量部に対して、アルコールを0.1〜50.0重量部含有することが好ましい。また、イオノマー溶液に含まれるアルコールは、一価アルコール又は多価アルコールであることが好ましい。一価アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。多価アルコールとしては、二価アルコール又は三価アルコールが挙げられる。二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、4−ブタンジオールを例示することができる。三価アルコールとしては、グリセリンを例示することができる。また、イオノマー溶液に含まれるアルコールは、1種類又は2種類以上のアルコールの組み合わせであってもよい。なお、イオノマー溶液には、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を適宜含有させることもできる。
【0083】
イオノマー溶液は、電極用触媒を分散させるため、ガス拡散電極を構成する部材であるガス拡散層との密着性を高めるためにバインダー成分として、水素イオン導電性を有する高分子電解質を含有する。高分子電解質は、特に制限されるものではないが、公知のスルホン酸基、カルボン酸基を有するパーフルオロカーボン樹脂を例示することができる。容易に入手可能な水素イオン伝導性を有する高分子電解質としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)を例示することができる。
【0084】
ガス拡散電極形成用組成物は、電極用触媒、イオノマー溶液を混合し、粉砕、撹拌することにより作製することができる。ガス拡散電極形成用組成物の作製は、ボールミル、超音波分散機等の粉砕混合機を使用して調製することができる。粉砕混合機を操作する際の粉砕条件及び撹拌条件は、ガス拡散電極形成用組成物の態様に応じて適宜設定することができる。
【0085】
ガス拡散電極形成用組成物に含まれる電極用触媒、水、アルコール、水素イオン伝導性を有する高分子電解質の各組成は、電極用触媒の分散状態が良好であり、かつ電極用触媒をガス拡散電極の触媒層全体に広く行き渡らせることができ、燃料電池が備える発電性能を向上させることができるように設定することが必要である。
【0086】
具体的には、電極用触媒1.0重量部に対し、高分子電解質0.1〜2.0重量部、アルコール0.01〜2.0重量部、水2.0〜20.0重量部とすることが好ましい。さらに好ましくは、電極用触媒1.0重量部に対し高分子電解質0.3〜1.0重量部、アルコール0.1〜2.0重量部、水5.0〜6.0重量部であることが好ましい。各成分の組成が上記範囲内にあるとガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜がガス拡散電極上において、成膜時に広がりすぎないため好ましく、また、ガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜が適度かつ均一な厚さの塗膜を形成することができるため好ましい。
【0087】
なお、高分子電解質の重量は乾燥状態の重量であって高分子電解質溶液中の溶媒を含まない状態の重量であり、水の重量は高分子電解質溶液中に含まれる水を含む重量である。
【0088】
<ガス拡散電極>
本発明のガス拡散電極(200a、200b)は、ガス拡散層220とガス拡散層220の少なくとも一面に積層された電極用触媒層240とを備えている。ガス拡散電極(200a、200b)が備えている電極用触媒層240には、上記電極用触媒が含まれている。なお、本発明のガス拡散電極200は、アノードとして用いることができ、カソードとしても用いることができる。
なお、
図5においては、便宜上、上側のガス拡散電極200をアノード200aとし、下側のガス拡散電極200をカソード200bとする。
【0089】
(電極用触媒層)
電極用触媒層240は、アノード200aにおいて、ガス拡散層220から送られた水素ガスが電極用触媒層240に含まれている電極用触媒1の作用により水素イオンに解離する化学反応が行われる層である。また、電極用触媒層240は、カソード200bにおいて、ガス拡散層220から送られた空気(酸素ガス)とアノードから電解質膜中を移動してきた水素イオンが電極用触媒層240に含まれている電極用触媒1の作用により結合する化学反応が行われる層である。
【0090】
電極用触媒層240は、上記ガス拡散電極形成用組成物を用いて形成されている。電極用触媒層240は、電極用触媒1とガス拡散層220から送られた水素ガス又は空気(酸素ガス)との反応を十分に行わせることができるように大きい表面積を有していることが好ましい。また、電極用触媒層240は、全体に亘って均一な厚みを有するように形成されていることが好ましい。電極用触媒層240の厚みは、適宜調整すればよく、制限されるものではないが、2〜200μmであることが好ましい。
【0091】
(ガス拡散層)
ガス拡散電極200が備えているガス拡散層220は、燃料電池スタックSの外部より、セパレータ100aとガス拡散層220aとの間に形成されているガス流路に導入される水素ガス、セパレータ100bとガス拡散層220bとの間に形成されているガス流路に導入される空気(酸素ガス)をそれぞれの電極用触媒層240に拡散するために設けられている層である。また、ガス拡散層220は、電極用触媒層240をガス拡散電極200に支持して、ガス拡散電極200表面に固定化する役割を有している。ガス拡散層220は、電極用触媒層240に含まれる電極用触媒1と水素ガス、空気(酸素ガス)との接触を高める役割を有している。
【0092】
ガス拡散層220は、ガス拡散層220から供給された水素ガス又は空気(酸素ガス)を良好に通過させて電極用触媒層240に到達させる機能を有している。このため、ガス拡散層220は、ガス拡散層220に存在するミクロ構造である細孔構造が電極用触媒1、カソード200bにおいて生成する水により、塞がれることがないようにするため、撥水性を有していることが好ましい。このため、ガス拡散層220は、ポリエチレンテレフタレート(PTFE)等の撥水成分を有している。
【0093】
ガス拡散層220に用いることができる部材は、特に制限されるものではなく、燃料電池用電極のガス拡散層に用いられている公知の部材を用いることができる。例えば、カーボンペーパー、カーボンペーパーを主原料とし、その任意成分としてカーボン粉末、イオン交換水、バインダーとしてポリエチレンテレフタレートディスパージョンからなる副原料をカーボンペーパーに塗布したものが挙げられる。ガス拡散層の厚みは、燃料電池用セルの大きさ等により適宜設定することができ、特に制限されるものではないが、反応ガスの拡散距離を短くするためには、薄いものが好ましい。一方、塗布ならびに組立工程での機械的強度を有することも併せて求められるので、例えば、通常50〜300μm程度のものが使用される。
【0094】
ガス拡散電極200a、ガス拡散電極200bは、ガス拡散層220、電極用触媒層240との間に中間層(図示せず)を備えていてもよい。上記ガス拡散電極200a、ガス拡散電極200bは、ガス拡散層、中間層及び触媒層を備えた三層構造を有することとなる。
【0095】
(ガス拡散電極の製造方法)
ガス拡散電極の製造方法について説明する。
ガス拡散電極の製造方法は、触媒成分が担体に担持されてなる電極用触媒1と水素イオン伝導性を有する高分子電解質と、水とアルコールとのイオノマー溶液を含有するガス拡散電極形成用組成物をガス拡散層220に塗布する工程と、このガス拡散電極形成用組成物が塗布されたガス拡散層220を乾燥させ、電極用触媒層240を形成させる工程とを備える。
【0096】
ガス拡散電極形成用組成物をガス拡散層220上に塗布する工程において重要なことは、ガス拡散層220上にガス拡散電極形成用組成物を均一に塗布することである。ガス拡散電極形成用組成物を均一に塗布することにより、ガス拡散層220上に均一な厚みを有するガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜が形成される。ガス拡散電極形成用組成物の塗布量は、燃料電池の使用形態により適宜設定することができるが、ガス拡散電極を備えた燃料電池の電池性能の観点から、電極用触媒層240に含まれる白金等の活性金属の量として、0.1〜0.5(mg/cm
2)であることが好ましい。
【0097】
次に、ガス拡散電極形成用組成物がガス拡散層220上に塗布された後、このガス拡散層220に塗布されたガス拡散電極形成用組成物の塗布膜を乾燥させて、ガス拡散層220上に電極用触媒層240を形成させる。ガス拡散電極形成用組成物の塗布膜が形成されたガス拡散層220を加熱することにより、ガス拡散電極形成用組成物に含まれるイオノマー溶液中の水及びアルコールが気化し、ガス拡散電極形成用組成物から消失する。その結果、ガス拡散電極形成用組成物を塗布する工程において、ガス拡散層220上に存在しているガス拡散電極形成用組成物の塗布膜は、電極用触媒と高分子電解質を含む電極用触媒層240となる。
【0098】
<膜・電極接合体(MEA)>
本発明の膜・電極接合体400(Membrane Electrode Assembly:以下、MEAと略する。)は、上記電極用触媒1を用いたガス拡散電極200であるアノード200aとカソード200bとこれらの電極を仕切る電解質300とを備えている。膜・電極接合体(MEA)400は、アノード200a、電解質300及びカソード200bをこの順序により積層した後、圧着することにより製造することができる。
【0099】
<燃料電池スタック>
本発明の燃料電池スタックSは、得られた膜・電極接合体(MEA)400のアノード200aの外側にセパレータ100a(アノード側)を取り付け、カソード200bの外側にそれぞれセパレータ100b(カソード側)を取り付け、一単位セル(単電池)とする。そして、この一単位セル(単電池)を集積させて燃料電池スタックSとする。なお、燃料電池スタックSに周辺機器を取り付け、組み立てることにより、燃料電池システムが完成する。
【実施例】
【0100】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、本発明者らは、実施例及び比較例に示す触媒について、蛍光X線(XRF)分析法ではヨウ素(I)種が検出されないことを確認した。
また、以下の製造方法の各工程の説明において特にことわりない場合には、その工程は室温、空気中で実施した。
【0101】
<電極用触媒の製造>
(実施例1)
本発明の電極用触媒を以下のプロセスにより製造した。なお、実施例において、使用した電極用触媒の原料は、以下の通りである。
・カーボンブラック粉末:商品名「Ketjen Black EC300」(ケッチェンブラックインターナショナル社製)
・テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム
・硝酸パラジウム
・塩化白金酸カリウム
【0102】
[パラジウム担持カーボンの調製]
電極用触媒の担体として、カーボンブラック粉末を用い、水に分散させて、5.0g/Lの分散液を調製した。この分散液に、テトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム水溶液(濃度20質量%)5mLを滴下して混合した。得られた分散液に、ぎ酸ナトリウム水溶液(100g/L)100mLを滴下した後、不溶成分を濾別し、濾別された不溶成分を純水で洗浄し、乾燥することにより、カーボンブラック上にパラジウムが担持されたパラジウム(コア)担持カーボンを得た。
【0103】
[パラジウム(コア)上への銅(Cu)の被覆]
50mMの硫酸銅水溶液を、三電極系電解セルに入れた。この三電極系電解セルに上記で調製したパラジウム担持カーボンを適量加え、攪拌後静置した。静止状態で450mV(対 可逆水素電極)を作用電極に印加し、パラジウム担持カーボンのパラジウム上に銅(Cu)を一様に被覆した。これを銅−パラジウム担持カーボンとする。
【0104】
[パラジウム(コア)上への白金(Pt)の被覆]
銅がパラジウム上に被覆された銅−パラジウム担持カーボンを含む液に、被覆された銅に対して、物質量比で2倍相当の白金(Pt)を含む塩化白金酸カリウム水溶液を滴下することにより、上記銅−パラジウム担持カーボンの銅(Cu)を白金(Pt)に置換した。
【0105】
[洗浄・乾燥]
こうして得られる銅−パラジウム担持カーボンの銅(Cu)が白金(Pt)に置換された白金パラジウム担持カーボンの粒子の粉体をろ過後、乾燥させずにろ液により湿潤した状態で超純水を用いて洗浄し、70℃で乾燥させた。
これにより、本発明の電極用触媒の原料となる電極用触媒前駆体1{白金(Pt)−パラジウム(Pd)担持カーボン(コア部:パラジウム、シェル部:白金)}を得た。
【0106】
電極用触媒前駆体1をギ酸ナトリウム水溶液(0.0028M)に浸し、室温で所定時間保持した。次に、ギ酸ナトリウム水溶液中の電極用触媒前駆体1を超純水でろ過・洗浄した。超純水によるろ過・洗浄を所定回数繰り返した。次に、超純水で洗浄後の電極用触媒を70℃で乾燥させた。これにより、表1に示した白金(Pt)の担持量、パラジウム(Pd)の担持量、塩素(Cl)種の濃度、及び、臭素(Br)種の濃度を有する実施例1の電極用触媒を得た。
【0107】
[担持量の測定]
得られた実施例1の電極用触媒について、白金の担持量(質量%)と、パラジウムの担持量(質量%)を以下の方法で測定した。実施例1の電極用触媒を王水に浸し、金属を溶解させた。次に、王水から不溶成分のカーボンを除去した。次に、カーボンを除いた王水をICP分析した。
ICP分析の結果は、白金担持量が23.8質量%、パラジウム担持量が21.9質量%であった。
【0108】
(実施例2〜3)
電極用触媒前駆体1をギ酸ナトリウム水溶液(0.0028M)に浸す時間及び超純水によるろ過・洗浄の回数を変えた以外は、実施例1と同様にして、表1に示した白金(Pt)の担持量、パラジウム(Pd)の担持量、塩素(Cl)種の濃度、及び、臭素(Br)種の濃度を有する実施例2〜3の電極用触媒を調製した。
得られた実施例2〜3の電極用触媒を、実施例1と同様にICP分析を行い、白金担持量とパラジウム担持量を測定した。
【0109】
(実施例4〜5)
電極用触媒前駆体1を浸すギ酸ナトリウム水溶液の濃度、当該水溶液に浸す時間及び超純水によるろ過・洗浄の回数を変化させた以外は、実施例1と同様にして、表1に示した白金(Pt)の担持量、パラジウム(Pd)の担持量、塩素(Cl)種の濃度、及び、臭素(Br)種の濃度を有する実施例4〜5の電極用触媒を調製した。なお、実施例4において用いたギ酸ナトリウム水溶液の濃度は、0.0025Mであり、実施例5において用いたギ酸ナトリウム水溶液の濃度は、0.0040Mである。
【0110】
(実施例6)
実施例1で用いた電極用触媒前駆体1に換えて白金担持量、パラジウム担持量の異なる電極用触媒前駆体2を採用した。この電極用触媒前駆体2は、実施例1の洗浄・乾燥工程における白金パラジウム担持カーボンの粒子の粉体をろ過後、ろ液により湿潤した状態で超純水を用いて洗浄し、70℃で乾燥させる工程までは電極用触媒前駆体1と同様に作成した。
そして、電極用触媒前駆体2をギ酸ナトリウム水溶液で処理する際に、ギ酸ナトリウム水溶液の濃度を0.010Mとし、当該水溶液に浸す時間及び超純水によるろ過・洗浄の回数を変化させたこと以外は実施例1と同様にして、表1に示した白金(Pt)の担持量、パラジウム(Pd)の担持量、塩素(Cl)種の濃度、及び、臭素(Br)種の濃度を有する実施例6の電極用触媒を調製した。
また、実施例1と同様にICP分析を行い、白金担持量とパラジウム担持量を測定した。
【0111】
(実施例7)
実施例1で用いた電極用触媒前駆体1に換えて白金担持量、パラジウム担持量の異なる電極用触媒前駆体3を採用した。この電極用触媒前駆体3は、実施例1の洗浄・乾燥工程における白金パラジウム担持カーボンの粒子の粉体をろ過後、ろ液により湿潤した状態で超純水を用いて洗浄し、70℃で乾燥させる工程までは電極用触媒前駆体1と同様に作成した。
そして、電極用触媒前駆体3の粉体をギ酸ナトリウム水溶液に代えてシュウ酸水溶液(0.3M)に浸し、90℃で所定時間保持した。次に、シュウ酸水溶液中の粉体を超純水でろ過・洗浄した。次に、超純水で洗浄後の粉体を70℃で乾燥させた。これにより、表1に示した白金(Pt)の担持量、パラジウム(Pd)の担持量、塩素(Cl)種の濃度、及び、臭素(Br)種の濃度を有する実施例7の電極用触媒を得た。
また、実施例1と同様にICP分析を行い、白金担持量とパラジウム担持量を測定した。
【0112】
(実施例8〜9)
実施例1で用いた電極用触媒前駆体1に換えて白金担持量、パラジウム担持量の異なる電極用触媒前駆体4を採用した。この電極用触媒前駆体4は、実施例1の洗浄・乾燥工程における白金パラジウム担持カーボンの粒子の粉体をろ過後、ろ液により湿潤した状態で超純水を用いて洗浄し、70℃で乾燥させる工程までは電極用触媒前駆体1と同様に作成した。
そして、電極用触媒前駆体4をギ酸ナトリウム水溶液で処理する際に、ギ酸ナトリウム水溶液の濃度を0.010Mとし、当該水溶液に浸す時間及び超純水によるろ過・洗浄の回数を変化させたこと以外は実施例1と同様にして、表1に示した白金(Pt)の担持量、パラジウム(Pd)の担持量、塩素(Cl)種の濃度、及び、臭素(Br)種の濃度を有する実施例8〜9の電極用触媒を調製した。
また、実施例1と同様にICP分析を行い、白金担持量とパラジウム担持量を測定した。
【0113】
(比較例1)
実施例1で用いた電極用触媒前駆体1をギ酸ナトリウム水溶液等によりろ過・洗浄することなく、そのまま用い、比較例1の電極用触媒とした。
【0114】
(比較例2)
実施例1で用いた電極用触媒前駆体1に換えて白金担持量、パラジウム担持量の異なる電極用触媒前駆体5を採用した。この電極用触媒前駆体5は、実施例1の洗浄・乾燥工程における白金パラジウム担持カーボンの粒子の粉体をろ過後、ろ液により湿潤した状態で超純水を用いて洗浄し、70℃で乾燥させる工程までは電極用触媒前駆体1と同様に作成した。
そして、得られた電極用触媒前駆体5をギ酸ナトリウム水溶液等によりろ過・洗浄することなく、そのまま用いて比較例2の電極用触媒とした。
以上により、表1に示した白金(Pt)の担持量、パラジウム(Pd)の担持量、塩素(Cl)種の濃度、及び、臭素(Br)種の濃度を有する比較例2の電極用触媒を得た。
また、実施例1と同様にICP分析を行い、白金担持量とパラジウム担持量を測定した。
【0115】
(比較例3)
実施例1で用いた電極用触媒前駆体1に換えて白金担持量、パラジウム担持量の異なる電極用触媒前駆体6を採用した。この電極用触媒前駆体6は、実施例1の洗浄・乾燥工程における白金パラジウム担持カーボンの粒子の粉体をろ過後、ろ液により湿潤した状態で超純水を用いて洗浄し、70℃で乾燥させる工程までは電極用触媒前駆体1と同様に作成した。
そして、得られた電極用触媒前駆体6を、さらにギ酸ナトリウム水溶液(0.01M)に浸し、90℃で所定時間保持した。次に、ギ酸ナトリウム水溶液中の電極用触媒を超純水でろ過・洗浄した。次に、超純水で洗浄後の電極用触媒を70℃で乾燥させた。
これにより、表1に示した白金(Pt)の担持量、パラジウム(Pd)の担持量、塩素(Cl)種の濃度、及び、臭素(Br)種の濃度を有する比較例3の電極用触媒を得た。
また、実施例1と同様にICP分析を行い、白金担持量とパラジウム担持量を測定した。
【0116】
(臭素(Br)種及び塩素(Cl)種の濃度)
実施例1〜9、及び比較例1〜3の電極用触媒の臭素(Br)種及び塩素(Cl)種の濃度を蛍光X線(XRF)分析法により測定した。電極用触媒中の臭素種及び塩素種濃度の測定は、波長分散型蛍光X線測定装置Axios(スペクトリス株式会社製)により測定した。具体的には、以下の手順により行った。
【0117】
電極用触媒の測定用試料を波長分散型蛍光X線測定装置に付属しているXRF試料容器に入れた。電極用触媒の測定用試料を入れたXRF試料容器をXRF試料室に入れ、XRF試料室内をヘリウムガスで置換する。その後、ヘリウムガス雰囲気(常圧)下、蛍光X線測定を行った。
【0118】
ソフトウエアには、波長分散型蛍光X線測定装置用解析ソフト「UniQuant5」を使用した。測定条件を、解析ソフト「UniQuant5」に合わせ、「UQ5アプリケーション」に設定し、電極用触媒の測定用試料の主成分が「カーボン(電極用触媒担体の構成元素)」、サンプルの分析結果の表示形式が「元素」となるよう計算するモードに設定した。測定結果を解析ソフト「UniQuant5」により解析して、臭素(Br)種及び塩素(Cl)種の濃度を算出した。測定結果を表1に示す。
【0119】
<触媒活性の評価(ik)の測定>
実施例1〜9、及び比較例1〜3の電極用触媒の触媒活性を回転ディスク電極法(RDE法)により評価した。電極用触媒の触媒活性の測定は回転ディスク電極法(RDE法)により、以下のように行った。
【0120】
(ガス拡散電極形成用組成物の製造)
実施例1〜9、比較例1〜3の電極用触媒の粉末を約8.0mg秤取り、超純水2.5mLとともにサンプル瓶に入れて超音波を照射しながら混合して電極用触媒のスラリー(懸濁液)を作製した。次に、別の容器に超純水10.0mLと10wt%ナフィオン(登録商標)分散水溶液((株)ワコーケミカル製、商品名「DE1020CS」)20μLを混合して、ナフィオン−超純水溶液を作製した。このナフィオン−超純水溶液2.5mLを電極用触媒のスラリー(懸濁液)が入ったサンプル瓶にゆっくり投入し、室温にて15分間、超音波を照射し、十分に撹拌して、ガス拡散電極形成用組成物とした。
【0121】
(電極用触媒層形成)
図6は、回転ディスク電極法(RDE法)に用いる回転ディスク電極測定装置Dの概略構成を示す模式図である。
図6に示すように、回転ディスク電極測定装置Dは、主として、測定装置用セル10と、参照電極(RE)20と、対極(CE)30と、回転ディスク電極40と、電解液60とから構成されている。
この回転ディスク電極測定装置Dに備えられている回転ディスク電極40の表面に電極用触媒層Xを形成した。そして、回転ディスク電極法により電極用触媒層X中の触媒を評価した。
なお、電解液60として0.1MのHClO
4、参照電極(RE)20としてAg/AgCl飽和電極、対極30としてPt黒付Ptメッシュを備えた回転ディスク電極測定装置D(北斗電工株式会社製 モデルHSV110)を用いた。
【0122】
以下、回転ディスク電極40の表面への電極用触媒層Xの形成方法について説明する。
上記作製したガス拡散電極形成用組成物を10μL分取して、清浄な回転ディスク電極(グラッシーカーボン製、径5.0mmφ、面積19.6mm
2)表面に滴下した。その後、回転ディスク電極の表面全体に、ガス拡散電極形成用組成物を均一、かつ一定の厚みとなるように行き渡らせ、回転ディスク電極の表面にガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜を形成させた。このガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜を温度23℃、湿度50%RHにて、2.5時間乾燥させ、回転ディスク電極40の表面に電極用触媒層Xを形成した。
【0123】
(回転ディスク電極法(RDE法)による測定)
回転ディスク電極法による測定は、回転ディスク電極測定装置内のクリーニング、測定前の電気化学表面積(ECSA)の評価、酸素還元(ORR)電流測定及び測定後の電気化学表面(ECSA)の評価からなる。
【0124】
[クリーニング]
上記回転ディスク電極測定装置D内において、HClO
4電解液60に上記回転ディスク電極40を浸した後、電解液60をアルゴンガスで30分以上パージした。その後、走査電位を85〜1085mV vsRHE、走査速度50mv/secの条件にて20サイクル、電位走査を行った。
【0125】
[測定前の電気化学表面積(ECSA)の評価]
その後、走査電位を50〜1085mV vsRHE、走査速度20mV/secの条件にて3サイクル、電位走査を行った。
【0126】
[酸素還元(ORR)電流測定]
電解液60を酸素ガスで15分以上パージした後、走査電位を135〜1085mV vsRHE、走査速度10mV/secの条件にて10サイクル、回転ディスク電極40の回転速度を1600rpmの条件でサイクリックボルタグラム(CV)測定を行った。電位900mV vsRHEにおける電流値を記録した。さらに、回転ディスク電極40の回転速度をそれぞれ400rpm、625rpm、900rpm、1225rpm、2025rpm、2500rpm、3025rpmに設定して、1サイクルごとに酸素還元(ORR)電流測定を行った。電流測定値を酸素還元電流値(i)とした。
【0127】
[測定後の電気化学表面積(ECSA)の評価]
最後に、走査電位を50〜1085mV vsRHE、走査速度20mV/secの条件にて、3サイクル、サイクリックボルタグラム(CV)測定を行った。
【0128】
(触媒活性の算出)
上記で得られた酸素還元電流値(i)及びサイクリックボルタグラム(CV)から測定された限界電流値(iL)と、下記一般式(2)で表されるNernstの拡散層モデルに基づく物質移動の補正式に基づいて、電極用触媒の触媒活性を算出した。実施例1〜9、及び比較例1〜3の算出結果を表1に示す。
【0129】
【数2】
(上記一般式(2)中、iは、酸素還元電流(ORR電流)測定値、iLは、限界拡散電流測定値、ikは、触媒活性を表す。)
【0130】
【表1】
【0131】
表1によれば、比較例1〜3の電極用触媒と比較し、本発明に係る実施例1〜9の電極用触媒は、きわめて良好な触媒活性を示すことが明らかとなった。