【実施例】
【0042】
[1.炭酸カルシウムの配合量の画定]
80重量%亜塩素酸ナトリウムを19.5g(0.17mol)、炭酸カルシウムを0ないし40gまでの7段階とする混合粉末を調製した(試作例11ないし17)。試作例の数分だけ、内容量400mLの樹脂製容器内に水18g(1mol)、無水クエン酸30g(0.16mol)を投入して酸溶液を用意した。酸溶液中に試作例11ないし17の混合粉末を投入して混合した。一つの試作例毎に別の酸溶液を用意して混合した。こうして二酸化塩素ガス等を発生させながら容器内の薬剤が固化するまでの時間を目視判断で確認した。
【0043】
残留物の固化の判断は、反応に供した容器を90°傾けても流動や亀裂が生じない状態とした。また、客観的な固化の指標として固さも測定した。反応開始(薬剤投入から)3時間を経過した後、反応に供した容器を上皿秤に載置した、固化物表面に対しポリエチレン製の棒(直径14mm(約154mm
2)、長さ155mm)を用いて押下し表面が陥没したときの秤が示した重量(g)を読み取った。一つの試作例に付き5回(5箇所)繰り返し、それら5回の各重量の単純平均を求めた。この数値(g)を当該試作例の表面の硬さの量とした。結果は表1である。
【0044】
【表1】
【0045】
〔炭酸カルシウムの配合量の結果と考察〕
表1では、試作例毎の亜塩素酸ナトリウム(1mol換算)に対する炭酸カルシウムの量をモル比により示した。各試作例の固化に要した時間(分)と表面の硬さの量(g/154mm
2)を示した。炭酸カルシウムの配合割合が0.2molより少ない試作例11,12では固化が生じなかった。炭酸カルシウムの配合割合が2molより多い試作例17では薬剤が完全に溶けなかった。そこで、固化が完了した試作例13ないし16を踏まえると、亜塩素酸ナトリウム1molに対する炭酸カルシウムの好ましい配合割合は0.2ないし2molの範囲である。これに、固化までに要した時間、硬さの良好さも加味すると、より好ましい炭酸カルシウムの配合割合は、亜塩素酸ナトリウム1molに対して0.3ないし1.8molの範囲、さらにより好ましい配合割合は亜塩素酸ナトリウム1molに対して0.5ないし1.5molの範囲とすることができる。
【0046】
[2.水液物(水)の配合量の画定]
80重量%亜塩素酸ナトリウムを19.5g(0.17mol)、炭酸カルシウムを10g(0.1mol)とする混合粉末を調製した。同時に、内容量400mLの樹脂製容器内に水を0から72gまでの7段階注入し(試作例21ないし27)、無水クエン酸30g(0.16mol)を投入して酸溶液を用意した。そして、各容器内の酸溶液に、亜塩素酸ナトリウムと炭酸カルシウムの混合粉末を投入して混合した。こうして二酸化塩素ガス等を発生させながら容器内の薬剤が固化するまでの時間を目視判断で確認した。残留物の固化の判断及び硬さの計測は、前述の炭酸カルシウムの配合量の計測による場合と同様とした。当該水液物(水)の配合量の画定に際し、混合後の反応を鋭敏に捉えるため、炭酸カルシウムを減らして試行した。結果は表2である。
【0047】
【表2】
【0048】
〔水液物(水)の配合量の結果と考察〕
表2では、試作例毎の亜塩素酸ナトリウム(1mol換算)に対する水の量をモル比により示した。水の量の配合割合が2molよりも少ない試作例21,22では固化が生じなかった。水の量の配合割合が20molより多い試作例27では水過剰により固化が生じなかった。そこで、固化が完了した試作例23ないし26を踏まえると、亜塩素酸ナトリウム1molに対する水液物(水)の好ましい配合割合は2ないし20molの範囲である。これに、固化までに要した時間、硬さの良好さも加味すると、より好ましい水液物(水)の配合割合は、亜塩素酸ナトリウム1molに対して4ないし18molの範囲、さらにより好ましい配合割合は亜塩素酸ナトリウム1molに対して6ないし15molの範囲とすることができる。
【0049】
[3.増量剤量の影響]
これまでの試行において使用した亜塩素酸ナトリウムは80重量%の成分比率であることから劇物に指定されている。そこで、二酸化塩素ガス発生の性能を落とさずに安全な成分比率の割合にできれば、流通、取り扱い等の利便性は高まる。このことから、増量剤をさらに配合して、固化の影響の良否等を検証した。
【0050】
80重量%亜塩素酸ナトリウムを19.5g(0.17mol)、炭酸カルシウムを10g(0.1mol)とし、ここに無水芒硝(無水硫酸ナトリウム)を0ないし60gまで7段階に量を変えて混入して混合粉末を調製した(試作例31ないし37)。試作例の数分だけ、内容量400mLの樹脂製容器内に水18g(1mol)、無水クエン酸30g(0.16mol)を投入して酸溶液を用意した。そして、各容器内の酸溶液に、試作例31ないし37の混合粉末を投入して混合した。こうして二酸化塩素ガス等を発生させながら容器内の薬剤が固化するまでの時間を目視判断で確認した。残留物の固化の判断及び硬さの計測は、前述の炭酸カルシウムの配合量の計測による場合と同様とした。当該水液物(水)の配合量の画定に際し、混合後の反応を鋭敏に捉えるため、炭酸カルシウムを減らして試行した。結果は表3である。
【0051】
【表3】
【0052】
〔増量剤量の影響の結果と考察〕
表3では、試作例毎の亜塩素酸ナトリウム(1mol換算)に対する増量剤(無水硫酸ナトリウム)の量をモル比により示した。全体的な傾向として、短時間で固化が進むことが明らかとなった。試作例31の無配合から試作例34の辺りまでは良好な固化を得ることができた。しかし、試作例35ないし37に至ると、増量剤(無水硫酸ナトリウム)の量は過剰であったことから、残留物となった。従って、妥当な増量剤の配合割合は、亜塩素酸ナトリウム1molに対して無配合ないし1.4molの範囲、より好ましくは、0.5ないし1.3molの範囲とすることができる。短時間での固化の要因については、増量剤(無水硫酸ナトリウム)と炭酸カルシウムとの反応に伴う石膏(硫酸カルシウム)の生成も理由と勘案する。
【0053】
[4.二酸化塩素ガスの発生試験]
一連の経緯から、二酸化塩素ガスの発生とその後の固化について適正な範囲を見出した発明者は、当該調製に基づくガス発生剤を用い除菌性能を確認した。80重量%亜塩素酸ナトリウム0.41g(0.0036mol)、炭酸カルシウム0.21g(0.0021mol)、無水硫酸ナトリウム0.77g(0.0054mol)を混合してガス発生剤となる混合粉末を調製した。次に、20mLのポリプロピレン製の樹脂容器にて無水クエン酸0.62g(0.0032mol)と水0.37g(0.021mol)を混合した。そして、前記調製の混合粉末を樹脂容器内に投入し、直ちに内容積343Lのポリプロピレン樹脂シートにより密閉された試験ボックス内に設置した。同試験ボックス内に、5.1×10
7(cfu/mL)に調製したE.coli(NBRC3301)の菌液の1mLを注液した滅菌シャーレも静置した。二酸化塩素ガスの曝露時間を3時間とし、途中、表4の経過時間毎にガス検知管を用いて二酸化塩素ガス濃度(ppm)を測定した。二酸化塩素ガス発生の反応開始から3時間経過後、滅菌シャーレを回収しデゾキシコレート寒天培地により35℃、18時間培養した。培養後、生存菌数を測定した。
【0054】
前記の二酸化塩素ガス発生の対照群として、試験ボックス内に二酸化塩素ガスを発生させる器材、薬剤を一切導入せず、菌液を注液した滅菌シャーレのみを静置し、同様にデゾキシコレート寒天培地により35℃、18時間培養した。培養後、生存菌数を測定した。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
〔二酸化塩素ガスの発生試験の結果と考察〕
表4は二酸化塩素ガスの発生から3時間(180分)経過までの二酸化塩素ガス濃度(ppm)の推移である。密閉環境下であるため、終始高いガス濃度が維持されていた。表5の生存菌数の結果より、二酸化塩素ガスの有効性は明白であった。この試験においても、3時間経過後の樹脂容器内では残留物は固化した。よって、二酸化塩素ガスの発生とその残留物の固化は両立し得ることを確認した。
【0058】
[5.二酸化塩素ガスの実証発生試験]
前記「4.二酸化塩素ガスの発生試験」の結果を踏まえ、実際の使用を想定して規模を拡張した。そこで、木造家屋の一部屋(15m
3)を用意し、その窓を段ボールにより覆い遮光し、ガスの漏洩を防ぐため換気扇もフィルムにより覆った。これを二酸化塩素ガスの実証試験環境とした。そこで、80重量%亜塩素酸ナトリウム17.7g(0.16mol)、炭酸カルシウム9.0g(0.09mol)、無水硫酸ナトリウム33.6g(0.24mol)を混合してガス発生剤となる混合粉末を調製した。次に、400mLの樹脂容器にて無水クエン酸27.3g(0.14mol)と水16.4g(0.91mol)を混合した。そして、前記調製の混合粉末を樹脂容器内に投入し、直ちに部屋内に設置した。同部屋内に、5.1×107(cfu/mL)に調製したE.coli(NBRC3301)の菌液の1mLを注液した滅菌シャーレも静置した。二酸化塩素ガスの曝露時間を3時間とし、途中、表6の経過時間毎にガス検知管を用いて二酸化塩素ガス濃度(ppm)を測定した。二酸化塩素ガス発生の反応開始から3時間経過後、滅菌シャーレを回収しデゾキシコレート寒天培地により35℃、18時間培養した。培養後、生存菌数を測定した。
【0059】
前記の二酸化塩素ガス発生の対照群として、部屋内に二酸化塩素ガスを発生させる器材、薬剤を一切導入せず、菌液を注液した滅菌シャーレのみを静置し、同様にデゾキシコレート寒天培地により35℃、18時間培養した。培養後、生存菌数を測定した。
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
〔二酸化塩素ガスの実証発生試験の結果と考察〕
表6は二酸化塩素ガスの発生から3時間(180分)経過までの二酸化塩素ガス濃度(ppm)の推移である。実際の家屋の部屋での実施であるため、時間経過とともにガス濃度の希釈化は進んだ。また、3時間経過後は人体に無害な濃度まで低下し、回収作業が可能であることも確認した。表7の生存菌数の結果より、実際の家屋の部屋でも二酸化塩素ガスの有効性は明白であった。この試験においても、3時間経過後の樹脂容器内では残留物は固化した。当該実証実験によって、二酸化塩素ガスの発生とその残留物の固化は両立し得ることを確認した。
【0063】
[6.増量剤の種類の影響]
増量剤について、さらに次の種類の薬剤の可能性についても検証した。80重量%亜塩素酸ナトリウムを19.5g(0.17mol)、炭酸カルシウムを10g(0.1mol)とし、ここに無水芒硝(無水硫酸ナトリウム)37g(0.26mol)を添加しガス発生剤となる混合粉末を調製した(試作例41)。同様に、80重量%亜塩素酸ナトリウムを19.5g、炭酸カルシウムを10g、塩化ナトリウム37g(0.63mol)を添加しガス発生剤となる混合粉末を調製した(試作例42)。また、80重量%亜塩素酸ナトリウムを19.5g、炭酸カルシウムを10g、塩化カリウム37g(0.49mol)を添加しガス発生剤となる混合粉末を調製した(試作例42)。
【0064】
試作例の数分だけ、内容量400mLの樹脂製容器内に水18g(1mol)、無水クエン酸30g(0.16mol)を投入して酸溶液を用意した。そして、各容器内の酸溶液に、試作例41ないし43の混合粉末を投入して混合した。こうして二酸化塩素ガス等を発生させながら容器内の薬剤が固化するまでの時間を目視判断で確認した。残留物の固化の判断及び硬さの計測は、前述の炭酸カルシウムの配合量の計測による場合と同様とした。混合後の反応を鋭敏に捉えるため、炭酸カルシウムを減らして試行した。結果は表8である。
【0065】
【表8】
【0066】
〔増量剤の種類の影響の結果と考察〕
表8では、試作例毎の亜塩素酸ナトリウム(1mol換算)に対する各増量剤(無水硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム)の量をモル比により示した。いずれの試作例も良好に固化し、しかも表面の硬さを得ることができた。この結果から、試行した中性塩については増量剤として種類の問わず使用可能であることを明らかにした。