【課題】発光素子としてレーザダイオード(LD)を搭載した基板を加熱冷却する熱電変換素子(TEC)を駆動するTEC駆動回路に対して起動時の突入電流を防止するとともに、短時間で起動させる
【解決手段】TEC駆動回路は、電源端子と接地端子との間に直列接続され互いに相補的に動作する2つのスイッチを有するスイッチ回路を2組有し、2組のスイッチ回路のそれぞれの中間点に接続した熱電変換素子(TEC)を有している。TEC駆動回路の起動に当たっては、電源投入時に、電源端子への供給電圧を電源電圧より低い暫定供給電圧に設定して2組のスイッチ回路を相補的に駆動し、所定の時間経過後に、供給電圧を電源電圧の電圧に設定する。
電源端子と接地端子との間に直列接続され互いに相補的に動作する2つのスイッチを有するスイッチ回路を2組有し、2組の前記スイッチ回路のそれぞれの中間点に熱電変換素子(TEC)を接続したTEC駆動回路の起動方法であって、
前記TEC駆動回路の電源投入時に、前記電源端子への供給電圧を電源電圧より低い暫定供給電圧に設定して2組の前記スイッチ回路を相補的に駆動し、
所定の時間経過後に、前記電源端子への供給電圧を前記電源電圧に設定するTEC駆動回路の起動方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本願発明の実施形態の詳細)
本発明に係るTEC駆動回路の起動方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内ですべての変更が含まれる。また、以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0011】
図1は、本発明の対象となるホストネットワーク装置と光モジュールとの関係を説明するための図である。光通信に用いられる光モジュール10は、光信号と電気信号を相互に変換するためのものであって光トランシーバとして構成され、光信号を送信する送信用光サブアセンブリ(TOSA:Transmitter Optical Sub-Assembly)、光信号を受信する受信用光サブアセンブリ(ROSA:Receiver Optical Sub-Assembly)を備えている。光モジュール10の一端側には、光信号を送信/受信するための光ファイバケーブルの端部に設けられた光コネクタ40が挿着される光レセプタクル10Bを備えている。また、光モジュール10の他端側には、光モジュール10が用いられるホストネットワーク装置30のホスト回路基板との電気接続のために電気コネクタ10Aを有している。
【0012】
ホストネットワーク装置30は、光モジュール10の電気コネクタ10Aと接続するための電気コネクタ30Aを有しており、電気コネクタ30Aには、電源回路31からの電源ライン32や送受信回路33からの信号ライン34が接続されている。光モジュール10はホストネットワーク装置30に対して活線挿抜される。すなわち、光モジュール10の電気コネクタ10Aをホストネットワーク装置30の電気コネクタ30Aに接続した際に、電源回路31からの出力がオフされることはない。このため、光モジュール10は、電気コネクタ30Aに電源が供給された状態でホストネットワーク装置30に接続され、ホストネットワーク装置30から供給される電力によって起動され、ホストネットワーク装置30から抜かれることによって動作を終了する。
【0013】
図2は、本発明の対象となる光モジュールにおける課題を説明するための回路図である。光モジュール10は、ホストネットワーク装置30に対して活線挿抜されるため、突入電流を制限しながら光モジュール10の内部回路を起動させる必要がある。ここで、光モジュール10内で最も多くの電流を消費するのは、レーザダイオード(LD)を搭載した基板を加熱冷却する熱電変換素子(TEC)を駆動するTEC駆動回路20であり、特に、TECの目標温度と環境温度との差が大きいほどTECの消費電力は増大する。
【0014】
このため、従来の光モジュールは
図2に示すように、例えばFETスイッチやDC/DCコンバータなどを含む電源電圧制御部11を設け、負荷となるTEC駆動回路20に対して、DC/DCコンバータなどの内部電源回路を通じて徐々に負荷電圧を増加させ、突入電流を抑制しながらTEC駆動回路20を起動させている。
【0015】
その具体的な制御は、タイマ13と初期起動時及び定常時の内部制御電圧を記憶した初期値記憶装置14’を有する制御信号生成部12’を設け、起動時に初期値記憶装置14’から制御電圧Vcの暫定的な初期起動値を読み出して電源電圧制御部11に出力し、低い電圧をTEC駆動回路20に与えて突入電流を抑制している。そして、起動からの時間をタイマ13で計測し、一定時間が経過した後、初期値記憶装置14’から定常値を読み出して電源電圧制御部11に出力し、正規の電圧(主に、電源電圧Vcc)をTEC駆動回路20に与えてTEC駆動回路20を定常動作させている。このように、定常時は突入電流の影響がないため、突入電流の抑制制御を行わず、TEC駆動回路20が温度によって大きな電流を必要としても対応できるように高い電圧をTEC駆動回路20に与えている。
【0016】
図3は、
図2に示す回路図の各部の電圧または電流波形を示す図である。
図3では、
図2に示すTEC駆動回路20に流れる負荷電流Itec、TEC駆動回路20への供給電圧Vtec、制御信号生成部12’から電源電圧制御部11に出力される制御電圧Vc、および、ホストネットワーク装置30から光モジュール10に供給される電源電流Iccを示している。なお、
図2に示すVccは、ホストネットワーク装置30に光モジュール10を接続した際に、光モジュール10に印加される電源電圧であり、この電源電圧Vccが、制御信号生成部12からの制御電圧Vcに基づいて電源電圧制御部11によってVtecに変換され、TEC駆動回路20に印加される。
【0017】
図2に示す回路において、起動時に初期値記憶装置14’から読み出される初期起動値は、環境温度、すなわちTEC駆動回路のレーザダイオード(LD)の周囲温度に依存せず一定値である。ここで、起動時にTEC駆動回路20に流れる突入電流が最大となるのは、起動時と定常時のLDの温度差が一番大きくなる低温時の起動においてである。通常、定常時のLD温度はほぼ40℃に設定される。LDを動作させると自己発熱が生じ、LDの温度が上昇する。冷却を行わない場合、自己発熱はLDの接合温度に換算すると80℃前後に達する場合もあるため、冷却は必須である。TEC駆動回路20の消費電流は、温度差(目標温度−環境温度)に依存し、目標温度を低く設定すると、定常時の供給電流が増大する。そのため、定常時のLDの目標温度はほぼ40℃に設定される。
【0018】
この場合、環境温度が目標温度と同じになる状況はなく、環境温度が低いほど温度差(目標温度−環境温度)が大きくなり、その結果TEC駆動回路20の起動時への突入電流が増大する。そのため、起動時が低温の場合に合わせて供給電圧Vtecの初期値を低めに設定して起動し、徐々に供給電圧Vtecを所定の電圧値(Vtec(Fix))に増加することで、突入電流を抑制している。そして、所定の時間Td経過後はTEC駆動回路20への供給電圧Vtecを最大値(Vtec(Max))に設定して電流の変動に対応させている。
【0019】
このような起動方法では、
図3に示すように、起動時に制御電圧VcをVc(Fix)まで徐々に上げていき、Td時間経過後はVc(Max)としている。これによって、TEC駆動回路20への供給電圧Vtecは、起動時にVtec(Fix)まで徐々に上がり、Td時間経過後はVtec(Max)まで上昇する。これに伴い、TEC駆動回路20に流れる負荷電流Itecは、環境温度が低い場合は破線で示すような負荷電流Itec(L)となり、環境温度が高い場合は実線で示すような負荷電流Itec(H)となる。また、電源電流IccはほぼTEC駆動回路20に流れる負荷電流Itecの大きさによって決まるため、負荷電流Itecと類似の電流波形となる。そして、起動時に電源電流Iccが破線で示す所定の上限値(Icc(Max))を超えない値となるように、制御電圧Vcの値が初期値記憶装置14’に記憶されている。
【0020】
図3で示すように、起動時において環境温度が高い場合には、負荷電流Itec(H)は周囲温度が低い場合の負荷電流Itec(L)よりも小さな値となるため、突入電流の抑制を行う必要性は小さく、結果として、負荷電流Itecが不足して、TECが目標温度に収束する時間(
図3において、負荷電流Itecがほぼ一定の値となるまでの時間)が長くなってしまう。このため、環境温度が高い場合に起動時の初期の供給電圧Vtecを、周囲温度が低い場合に合わせて低め(Vtec(Fix))に設定して起動する必要はない。
【0021】
一方、光トランシーバの規格には、ホストネットワーク装置に挿入後所定の時間内に定常状態(正規の動作状態)に達することを要請している。ここで、光トランシーバをホストネットワーク装置に挿入後、最も定常状態になるまでに時間を要するのはTEC駆動回路の起動(所定の目標温度に達するまでの時間)である。
【0022】
本発明の目的は、温度に依存して変化する負荷に対して起動時の突入電流を防止するとともに、短時間で起動させることができるTEC駆動回路の起動方法を提供することであり、そのために、主に環境温度が高温の場合に不足する初期のTEC駆動回路への供給電圧を最適化するために、温度に応じた最適な初期電圧値を設定して、突入電流を上限まで抑制し、かつ、温度に依存することなく起動時間を最短化する供給電圧の制御を行うことにある。このために以下で説明する構成を有している。
【0023】
図4は、本発明の駆動回路の起動方法を説明するための回路図であり、
図5は、本発明の駆動回路の起動方法のフローを説明するための図である。
図4に示した光モジュール10の回路は、
図2に示した光モジュール10の回路に比べて、制御信号生成部12として、タイマ13と、温度センサ15と、取得した温度に対して制御電圧Vcの値を格納した温度−初期電圧テーブル記憶装置14を備えている点が異なっている。電源電圧制御部11およびTEC駆動回路20については、
図4に示した光モジュール10の回路は、
図2に示した光モジュール10の回路と同じである。なお、制御信号生成部12は、CPU,ROM、RAM、メモリを有しており、ROM内に格納された制御信号生成用のプログラムにしたがって動作を行うものである。
【0024】
次に、TEC駆動回路20の起動方法のフローについて説明する。
図5に示すフロー図において、光モジュール10がホストネットワーク装置30に挿入されると、まず、制御信号生成部12はタイマ13の初期時間をセットする(ステップS1)。次に、温度センサ15は周囲温度(環境温度)を計測し、温度値を取得する(ステップS2)。そして、取得した温度値に基づいて、温度−初期電圧テーブル記憶装置14から温度値に応じた制御電圧Vcの初期電圧を読み出す(ステップS3)。
【0025】
ここで、温度−初期電圧テーブル記憶装置14に格納されている温度−初期電圧テーブルについて説明する。
図6は、起動時における目標温度と環境温度との温度差に対する電源投入時の制御電圧の関係をグラフ化した図であり、温度−初期電圧テーブル記憶装置14はこの関係を数値化して記憶しておいてもよく、関数として記憶しておいてもよい。目標温度と環境温度との温度差ΔTに対して制御電圧Vcは、温度差が小さいほど大きな値となるようにしている。例えば、目標温度と環境温度とが同じ場合は、TECに電流を流す必要がないため、制御電圧Vcを最大値(Vc(Max))に設定している。
【0026】
通常、目標温度はほぼ40℃に設定され、起動時の周囲温度はそれよりも低いため、温度差ΔTは正の値を持つことになる。そして、環境温度が低いほど突入電流が大きくなるため、温度差ΔTが大きくなるほど、制御電圧Vcが小さくなるようにしている。制御電圧値Vc1は、制御電圧Vcの最小値であり、温度差が大きい場合でも発生する突入電流の大きさが許容できる制御電圧Vcの値を示している。
【0027】
図5のフロー図に戻り、ステップS3に続いて、読み出した制御電圧Vcの値を暫定的に電源電圧制御部11に出力する(ステップS4)。制御電圧Vcは環境温度に応じて変化するため、電源電圧制御部11から出力されるTEC駆動回路20への供給電圧Vtecも環境温度によって変化することになる。その後、タイマ13が所定時間Tdの計測を終了しタイムアウトになったかどうか判断され(ステップS5)、タイムアウトになった場合、制御信号生成部12は温度−初期電圧テーブル記憶装置14に併せて記憶している定常時における制御電圧の定常値(通常は制御電圧の最大値(Vc(Max)))を読み出し(ステップS6)、電源電圧制御部11へ読み出した制御電圧Vcを出力する。これにより、所定の時間Td経過後は、TEC駆動回路20への供給電圧Vtecへ最大電圧(通常は、電源電圧Vcc)が印加されることになる。
【0028】
ここで、TEC駆動回路20の詳細について説明する。
図7は、熱電変換素子(TEC)を駆動する駆動回路の例を示す図であり、例えばペルチェ素子からなる熱電変換素子(TEC)R1を抵抗として表示している。TEC駆動回路20は、4つの電界効果トランジスタ(FET)からなるスイッチM1〜M4によって構成されたHブリッジ回路を有している。スイッチM1とM3は電源端子aに接続され、供給電圧Vtecが印加される。また、スイッチM2とM4は接地端子bに接続される。スイッチM1とM4とが連動して熱電変換素子R1に図面で右向きの電流を流す。この場合、熱電変換素子R1は冷却動作を行う。また、スイッチM3とM2とが連動して熱電変換素子R1に図面で左向きの電流を流す。この場合、熱電変換素子R1は昇温動作を行う。
【0029】
スイッチM1とM2とが同時にスイッチオンされることはなく、同様に、スイッチM3とM4とが同時にスイッチオンされることはない。このように、TEC駆動回路20は、電源端子と接地端子との間に直列接続され互いに相補的に動作する2つのスイッチを有するスイッチ回路を2組有し、2組の前記スイッチ回路のそれぞれの中間点に熱電変換素子R1が接続されている。
【0030】
通常時においては、それぞれのスイッチM1〜M4はパルス駆動される。目標温度と環境温度との温度差ΔTに変化が生じた場合は、それぞれのスイッチM1〜M4を駆動するパルス信号のデュティー比を変化させることによって、TECを流れる電流の実効値を変化させている。すなわち、各スイッチM1〜M4はほぼ1MHz(周期1μs)のパルス信号で駆動され、温度差ΔTが大きい時には、スイッチのオン時間が1μsに近づき(デュティー100%)、温度差が小さい時にはスイッチのオン時間が0μsに近づく(デュティー0%)。各スイッチM1〜M4がオンオフ動作を行うため、各スイッチM1〜M4に流れる電流もパルス電流となるが、熱電変換素子R1の両端には、コイルL1とコンデンサC1、および、コイルL2とコンデンサC2からなるLC積分回路が接続されているため、熱電変換素子R1にはリップル電流が大きいが直流電流が流れることになる。このように、TEC駆動回路20への電流は、スイッチM1〜M4のスイッチング時間のデュティー比を変えることによってその実効値を変えることが可能である。
【0031】
なお、起動時の突入電流を抑える方法としては、目標温度を漸増する方法も考えられる。これは、目標温度を環境温度に対して大きな突入電流が生じない程度の差をもたらす値に暫定的に設定し、この暫定目標温度を時間とともに最終目標温度に近づける方法である。この場合、光トランシーバの起動時間(TECが最終目標温度になるまでの時間)が環境温度に大きく依存するため好ましくない。そして、暫定目標温度の調整のために、各スイッチM1〜M4のスイッチング時間のデュティー比を変更する場合は、回路構成上も複雑なものとなる。これに対して、本願は、起動時においては、デュティーをほぼ100%に維持した状態で、TEC駆動回路20への供給電圧Vtecの値を調整することによって、突入電流を抑制するとともに起動時間の短縮を図っている。
【0032】
図8は、
図4に示す回路図の各部の電圧または電流波形を示す図である。制御信号生成部12は、環境温度が低いとき、すなわち温度差ΔTが大きいときは、従来通り低めの制御電圧Vc(L)を生成し、この制御電圧Vc(L)に基づいて、電源電圧制御部11はTEC駆動回路20に低めの供給電圧Vtec(L)を印加している。これにより、TEC駆動回路20の起動時には、大きめの負荷電流Itec(L)と電源電流Icc(L)が流れるが、従来通り電源電流Icc(L)を上限値(Icc(max))以内に制限している。
【0033】
環境温度が高いとき、すなわち温度差ΔTが小さいときは、低温起動時よりも高い制御電圧Vc(H)を生成し、この制御電圧Vc(H)に基づいて電源電圧制御部11はTEC駆動回路20に高めの供給電圧Vtec(H)を印加している。これにより、TEC駆動回路20には負荷電流Itec(H)が流れるが、環境温度が高いときは、高い供給電圧Vtec(H)をTEC駆動回路20に加えても、負荷電流Itec(H)は大きな値とならないため、結果として環境温度が高い時の電源電流Icc(H)を上限値(Icc(Max))以内に制限することができる。このため、高温起動時の場合においても、従来の低温起動時の場合と同様に、TEC駆動回路20に突入電流の制限値内まで流すことが可能であり、従来よりも高温起動時におけるTEC駆動回路20への負荷電流Itec(H)を大きくすることによって、TECの温度収束時間を短縮している。
【0034】
そして、所定の時間Td経過後は、TEC駆動回路20への供給電圧Vtecを最大値(Vtec(Max))(電源電圧Vccの値に等しい)に設定することによって、TEC駆動回路20への供給電圧Vtecを一定電圧に保つとともに、目標温度と環境温度との温度差が変化した際に、TEC駆動回路20への電流をスイッチM1〜M4のスイッチング時間のデュティー比を変えるデュティー制御に切り換えている。